(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ステアバイワイヤ制御装置、及びステアバイワイヤ制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241030BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241030BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D113:00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2021112608
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有冨 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】横田 忠治
(72)【発明者】
【氏名】中岫 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】平田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴廣
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-245904(JP,A)
【文献】特開2017-7484(JP,A)
【文献】特開2020-37315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 113/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールを動作させる第1モータと、
前記車両の車輪の操舵動作を制御する第2モータと、
前記第1モータと前記第2モータとを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記車両が自動運転モードに移行する前に、前記第1モータで前記ステアリングホイールに、予め定められた入力トルクを前記第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加え、
前記制御装置は、前記入力トルクを加えて得られた前記ステアリングホイールの挙動についての情報である挙動情報を取得し、
前記制御装置は、前記挙動情報に基づいて、前記ステアリングホイールの制御パラメータを推定する制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断し、
前記挙動情報には、前記ステアリングホイールの回転角の値と前記回転角を時間微分して得られた値のうち、少なくとも1つが含まれる、
ことを特徴とするステアバイワイヤ制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記制御パラメータ推定モードに移行すると判断した場合には、前記挙動情報に基づいて前記ステアリングホイールの慣性モーメントを推定する、
請求項1に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項3】
前記入力トルクは、波形がインパルス状のトルクである、
請求項1に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項4】
前記入力トルクは、波形が正弦波状のトルクである、
請求項1に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記入力トルクを加えて取得した前記挙動情報である今回挙動情報を、前回に前記入力トルクを加えて取得した前記挙動情報である前回挙動情報と比較し、前記今回挙動情報の前記前回挙動情報からの変化量を求め、前記変化量に基づいて前記制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断する、
請求項1に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記変化量の絶対値に基づいて前記制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断する、
請求項5に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記変化量が予め定められた第1閾値より大きい場合には、前記制御パラメータ推定モードに移行する、
請求項5に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記変化量が予め定められた第2閾値以下の場合には、前記制御パラメータ推定モードに移行する、
請求項7に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記変化量が前記第1閾値以下の場合には、前記車両を前記自動運転モードに移行させ、前記変化量が前記第2閾値より大きい場合には、前記車両の運転者からの自動運転の要求を取り消す、
請求項8に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記制御パラメータ推定モードに移行すると判断した場合には、前記変化量に基づいて前記ステアリングホイールの慣性モーメントを推定する、
請求項5に記載のステアバイワイヤ制御装置。
【請求項11】
車両のステアリングホイールを動作させる第1モータと、前記車両の車輪の操舵動作を制御する第2モータとを制御する制御装置に実行され、
前記車両が自動運転モードに移行する前に、前記第1モータで前記ステアリングホイールに、予め定められた入力トルクを前記第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加える工程と、
前記入力トルクを加えて得られた前記ステアリングホイールの挙動についての情報である挙動情報を取得する工程と、
前記挙動情報に基づいて、前記ステアリングホイールの制御パラメータを推定する制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断する工程を有し、
前記挙動情報には、前記ステアリングホイールの回転角の値と前記回転角を時間微分して得られた値のうち、少なくとも1つが含まれる、
ことを特徴とするステアバイワイヤ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される操舵制御装置であるステアバイワイヤ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(以下、「車両」と記載する)の操舵制御装置において、ステアリングホイールに連結したステアリングシャフトが操舵機構から機械的に分離している、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵制御装置が知られている。ステアバイワイヤ方式の操舵制御装置であるステアバイワイヤ制御装置は、ステアリングシャフトの回動角と回動方向等を検出し、これらの検出信号に基づいて操舵用電動アクチュエータの動作量を制御して操舵軸を駆動する。
【0003】
ステアバイワイヤ方式では、ステアリングホイールの操作量と操舵用電動アクチュエータの操舵量との対応関係が機械的な制約を受けずに設定できることから、ステアバイワイヤ制御装置は、車両の速度の高低、旋回半径の長短、及び車両の加減速の有無等の、車両の走行状態に応じた操舵特性の変更に柔軟に対応でき、設計自由度が向上するという利点を有している。更に、ステアバイワイヤ制御装置は、レーンキープ制御をはじめとする自動操舵システムへの展開が容易であるという利点を有する等、従来の操舵制御装置に比べて多くの利点を有している。
【0004】
操舵機構から分離しているステアリングシャフトには、ステアリングホイールに操舵反力トルクを付与するための反力用電動アクチュエータが取り付けられている。ステアリングホイールに適度の操舵反力トルクを加えることにより、車両の運転者は、ステアリングホイールと操舵機構とが機械的に連結されているかのような感覚を持って操舵操作を行うことができる。
【0005】
この種の操舵制御装置を備える車両では、操舵制御装置が自動操舵モード(以下、「アクティブ・ステア・モード」や「自動運転モード」とも記載する)と手動操舵モード(以下、「マニュアル・ステア・モード」や「手動運転モード」とも記載する)とを運転時に切り換えることが想定される。そして一般的には、例えば、操舵制御装置は、運転者がステアリングホイールを把持している場合はマニュアル・ステア・モードを実行し、運転者がステアリングホイールを把持していない場合はアクティブ・ステア・モードを実行する構成を備える。
【0006】
アクティブ・ステア・モードが実行されている場合は、操舵制御装置は、自動操舵システムからの外部操舵指令値に基づいて操舵輪の操舵角を求め、この求められた操舵角になるように操舵用電動アクチュエータを制御して操舵輪を駆動する。この場合、ステアリングホイールは、反力用電動アクチュエータによって操舵輪の操舵角に対応して回転し、ステアリングホイールの回転角と操舵輪の操舵角とが整合するようにしている。
【0007】
なお、自動操舵システムの自動操舵制御としては、道路上に敷設された白線を逸脱しないように走行するレーンキープ制御や、走行路線に沿って走行する自動運転制御等がある。自動操舵システムは、自動操舵制御の実行中に自動操舵制御の継続が困難であると判断した場合には、運転権限を運転者に移譲することができる。また、アクティブ・ステア・モードが実行されている際、運転者が何らかの意図で、自動操舵制御をキャンセルするためにステアリングホイールを操舵した際にも、システムは、速やかにこれを検知し、運転権限を運転者に移譲する必要がある。
【0008】
これらの場合には、自動操舵システムは、運転者がステアリングホイールを把持したり操舵したりしたことを確認したうえで、運転権限を運転者に移譲する必要がある。このため、操舵制御装置においては、運転者がステアリングホイールを把持していることを検知すること(把持検知)と、運転者がステアリングホイールを操舵したことを検知すること(操舵検知)は、重要な課題である。
【0009】
以上で説明した把持検知と操舵検知に関して、運転者が加えたトルク(以下、「ドライバトルク」と記載する)を推定し、推定したドライバトルクの値によって運転者の把持と操舵を検知する手法が知られている。ドライバトルクの推定には、ステアリングホイールの慣性モーメントが用いられる。ステアリングホイールの慣性モーメントは、ドライバトルクの推定精度に直結する重要なパラメータであり、ステアリングホイールの挙動に影響を与える制御パラメータである。このようなステアリングホイールの制御パラメータには、慣性モーメントの他に、摩擦トルクと重力トルクなども含まれる。
【0010】
このような、アクチュエータに取り付けられた負荷の慣性モーメントを推定するという課題は、ステアバイワイヤ制御装置に限定されることなく一般的な課題である。アクチュエータに取り付けられた負荷の慣性モーメントを推定するための従来技術は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の技術では、モータの力と人の力で移動するパワーアシスト型の移動体において、加速度検出部が検出した移動体の加速度と電流センサが検出したモータの電機子電流を用いて移動体の等価慣性モーメントを推定することで、モータに取り付けられた負荷(台車等の移動体)の慣性モーメントを推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の技術では運転者がステアリングホイールを把持していることを考慮できず、特許文献1に記載の技術を操舵制御装置に用いると、運転者がステアリングホイールを把持している場合には、ステアリングホイールの慣性モーメントを精度よく推定できないという懸念がある。
【0013】
また、ステアリングホイールの慣性モーメントを推定する際には、ステアリングホイールをモータのトルクにより動作させる必要がある。このとき、運転者の意図とは独立してステアリングホイールが大きく動作すると、運転者は、不安感や不快感を覚えるという懸念がある。
【0014】
このため、慣性モーメントなどのステアリングホイールの制御パラメータを、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で精度よく推定できるステアバイワイヤ制御装置やステアバイワイヤ方式の制御方法(ステアバイワイヤ制御方法)が望まれている。
【0015】
本発明の目的は、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で、ステアリングホイールの制御パラメータを精度よく推定することができるステアバイワイヤ制御装置とステアバイワイヤ制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によるステアバイワイヤ制御装置は、車両のステアリングホイールを動作させる第1モータと、前記車両の車輪の操舵動作を制御する第2モータと、前記第1モータと前記第2モータとを制御する制御装置とを備える。前記制御装置は、前記車両が自動運転モードに移行する前に、前記第1モータで前記ステアリングホイールに、予め定められた入力トルクを前記第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加える。前記制御装置は、前記入力トルクを加えて得られた前記ステアリングホイールの挙動についての情報である挙動情報を取得する。前記制御装置は、前記挙動情報に基づいて、前記ステアリングホイールの制御パラメータを推定する制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断する。前記挙動情報には、前記ステアリングホイールの回転角の値と前記回転角を時間微分して得られた値のうち、少なくとも1つが含まれる、
本発明によるステアバイワイヤ制御方法は、車両のステアリングホイールを動作させる第1モータと、前記車両の車輪の操舵動作を制御する第2モータとを制御する制御装置に実行され、前記車両が自動運転モードに移行する前に、前記第1モータで前記ステアリングホイールに、予め定められた入力トルクを前記第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加える工程と、前記入力トルクを加えて得られた前記ステアリングホイールの挙動についての情報である挙動情報を取得する工程と、前記挙動情報に基づいて、前記ステアリングホイールの制御パラメータを推定する制御パラメータ推定モードに移行するか否かを判断する工程を有する。前記挙動情報には、前記ステアリングホイールの回転角の値と前記回転角を時間微分して得られた値のうち、少なくとも1つが含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で、ステアリングホイールの制御パラメータを精度よく推定することができるステアバイワイヤ制御装置とステアバイワイヤ制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1によるステアバイワイヤ制御装置の構成を示す図である。
【
図2】操舵機構の軸方向に沿った断面を示す図である。
【
図3】制御装置が反力モータと操舵モータを制御する構成の概略を示す図である。
【
図4】実施例1において、ステアリングホイールの周りのトルクの釣り合いを示す図である。
【
図5】制御装置がステアリングホイールの慣性モーメントの変化を検知する処理のフローチャートを示す図である。
【
図6A】基準トルク(入力トルク)の波形の例を示す図である。
【
図6B】
図6Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイールの回転角の例を示す図である。
【
図6C】
図6Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイールの角速度の例を示す図である。
【
図7A】制御パラメータ推定モードでの基準トルク(入力トルク)の波形の例を示す図である。
【
図7B】
図7Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイールの角加速度の例を示す図である。
【
図8A】実施例2において、ステアリングホイールの周りのトルクの釣り合いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によるステアバイワイヤ制御装置は、車両に搭載される操舵制御装置であり、例えば特許請求の範囲に記載の構成を備える。本発明によるステアバイワイヤ制御方法は、車両に搭載される操舵制御装置に実行され、例えば特許請求の範囲に記載の構成を備える。
【0020】
例えば、本発明によるステアバイワイヤ制御装置は、車両が自動運転モードに移行する前に、ステアリングホイールを動作させる第1モータ(例えば、反力用電動モータ)でステアリングホイールに、予め定められた入力トルクを第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加え、これにより得られたステアリングホイールの挙動情報を取得し、この挙動情報に基づいて、ステアリングホイールの制御パラメータ(例えば、慣性モーメント)を推定するか否かを判断する。
【0021】
このような判断をステアリングホイールの挙動情報に基づいて行うことで、車両の運転者がステアリングホイールから手を放した状態、すなわちドライバトルクがゼロの状態でステアリングホイールの慣性モーメントを推定することができるようになり、慣性モーメントを精度よく推定することができる。
【0022】
また、ステアリングホイールに、第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に入力トルクを加えることで、一方向のみに入力トルクを加えた場合と比較して、ステアリングホイールのより小さな回転動作で同程度の加速度の変化を発生させることができ、運転者の不快感を低減しつつ慣性モーメントの変化を精度よく検知することができる。さらに、第1モータの回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に入力トルクを加えることで、ステアリングホイールを回転動作後に中立点に戻すことができ、ステアリングホイールの位置が中立点からずれて運転者が不安を感じることを防止することができる。
【0023】
本発明によるステアバイワイヤ制御装置とステアバイワイヤ制御方法は、以上のような制御により、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で、ステアリングホイールの制御パラメータを精度よく推定することができ、ステアリングホイールの把持検知と操舵検知を高精度に実現することができる。
【0024】
以下、本発明の実施例によるステアバイワイヤ制御装置とステアバイワイヤ制御方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
以下の実施例では、ステアリングホイールの挙動に影響を与える制御パラメータとして、主に慣性モーメントについて説明する。ステアリングホイールの制御パラメータには摩擦トルクと重力トルクも含まれるが、摩擦トルクと重力トルクについては、実施例2で説明する。
【0026】
なお、本発明は、以下の実施例での形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中での種々の変形や応用も本発明の範囲に含まれる。
【実施例1】
【0027】
本発明の具体的な実施形態例を説明する前に、
図1、2を用いて、ステアバイワイヤ制御装置の一般的な構成について説明する。以下に説明するステアバイワイヤ制御装置では、ステアリングシャフトが操舵軸から分離している構成に対して、ステアリングシャフトの回転角や外乱トルクと操舵輪の操舵角等をセンサ(例えば、回転角センサ、電流センサ、及びラック位置センサ)で検出し、センサの検出信号に基づいて操舵用電動アクチュエータや反力用電動アクチュエータの動作量を制御する。
【0028】
図1は、本発明の実施例1によるステアバイワイヤ制御装置の構成を示す図である。本実施例によるステアバイワイヤ制御装置は、制御装置19と、反力用電動モータ18と、操舵用電動モータ機構21に備えられた操舵用電動モータを備える。
【0029】
操舵輪10は、タイロッド11によって操舵される構成となっている。タイロッド11は、操舵機構16の操舵軸17(ラックバーとも呼ばれる)に連結されている。操舵機構16は、操舵軸17と操舵用電動モータ機構21を備える。
【0030】
ステアリングホイール12は、ステアリングシャフト13に連結されている。ステアリングシャフト13には、必要に応じて操舵操作角センサ等のセンサを設けることができる。
【0031】
ステアリングシャフト13は、操舵軸17に連結されておらず、ステアリングシャフト13の先端に反力用電動モータ18を備える。つまり、ステアリングシャフト13は操舵機構16と機械的に連結していない構成を備え、結果的にステアリングシャフト13と操舵機構16とは互いに分離している。
【0032】
反力用電動モータ18は、制御装置19によって制御され、ステアリングシャフト13に操舵反力トルクを与え、ステアリングホイール12を動作させる反力用電動アクチュエータである。なお、反力用電動アクチュエータは、電動モータ以外の形式の電動アクチュエータであってもよい。以下では、反力用電動モータ18を反力モータ18と記載する。
【0033】
反力モータ18は、ステアリングシャフト13の回転を検出する操舵操作量センサとして、回転角センサ14を備える。回転角センサ14は、反力モータ18の回転角、すなわちステアリングホイール12の回転角を検出する。この操舵操作量センサは、回転角センサ14でなくてもよく、ステアリングシャフト13の回転を検出可能な任意のセンサで構成することができ、例えば、ステアリングシャフト13の操舵操作角を検出する操舵操作角センサであってもよい。
【0034】
また、反力モータ18は、操舵操作量センサである電流センサ15を備える。電流センサ15は、反力モータ18のコイルに流れる電流を検出する。この電流は、例えば外乱トルク(例えば、車両の走行中にステアリングホイール12に加わるトルク)を推定する場合や、車両の運転者がステアリングホイール12を把持しているかどうかを判断する場合に使用することができる。
【0035】
操舵軸17を含む操舵機構16には、操舵用電動モータ機構21が設けられている。操舵用電動モータ機構21は、操舵軸17の操舵動作を制御する。なお、本実施例では、操舵用電動アクチュエータとして電動モータ(後述する操舵用電動モータ35)を使用するために操舵機構16が操舵用電動モータ機構21を備えるが、操舵用電動アクチュエータは、電動モータ以外の形式の電動アクチュエータであってもよい。
【0036】
制御装置19は、反力モータ18と操舵機構16の操舵用電動モータ機構21を制御する。制御装置19は、回転角センサ14が検出したステアリングホイール12の回転角についての信号と、電流センサ15が検出した反力モータ18のコイルに流れる電流についての信号を入力する。なお、制御装置19は、これらの検出信号の他にも、外部センサ20から種々の検出信号を入力する。
【0037】
制御装置19は、入力した回転角と電流の情報に基づいて操舵用電動モータ機構21の制御量を演算し、操舵用電動モータ機構21を制御する。なお、操舵用電動モータ機構21の制御量は、回転角や電流以外のパラメータに基づいて求めることもできる。
【0038】
操舵用電動モータ機構21は、詳細は後述するが、入力プーリからベルトを介して、操舵機構16の出力プーリを回転させ、更に操舵ナットによって、操舵軸17を軸方向にストローク動作させて操舵輪10を操舵する。
【0039】
制御装置19は、入力した回転角と電流の情報、及びラック位置センサ22が検出したラック位置情報等に基づいて反力モータ18の制御量を演算し、反力モータ18を制御する。ラック位置センサ22は、操舵軸17の基準位置(中立位置)からの移動量を検出する。操舵軸17の移動量は、操舵輪10の操舵角(操舵量)と等価の情報である。なお、反力モータ18の制御量は、回転角や電流の情報、及びラック位置情報以外のパラメータに基づいて求めることもできる。
【0040】
制御装置19は、
図1では1つの機能ブロックで示されているが、反力アクチュエータ制御装置と操舵アクチュエータ制御装置を備える。反力アクチュエータ制御装置と操舵アクチュエータ制御装置は、通信線で互いに接続されている。反力アクチュエータ制御装置は、反力モータ18に設けられ、反力用電動アクチュエータ(反力モータ18)を制御する。操舵アクチュエータ制御装置は、操舵用電動モータ機構21に設けられ、操舵用電動アクチュエータ(後述する操舵用電動モータ35)を制御する。なお、反力アクチュエータ制御装置と操舵アクチュエータ制御装置を1つの制御装置19で構成し、1つの制御装置19で反力用電動アクチュエータと操舵用電動アクチュエータを制御することもできる。
【0041】
操舵機構16は、操舵輪10の操舵量を検出する操舵量センサとして、ラック位置センサ22を備える。ラック位置センサ22は、操舵軸17の軸方向のストローク量を検出し、操舵輪10の実際の操舵量(操舵角)を検出して出力する。操舵量センサは、このようなラック位置センサ22でなくてもよく、操舵軸17の位置(操舵量)を検出可能な任意のセンサで構成することができ、例えば、操舵軸17に操舵力を付与する操舵用電動モータ機構21に設けられた回転角センサであってもよい。
【0042】
なお、操舵機構16は、操舵軸17と操舵用電動モータ機構21と減速機構等を備えるが、操舵用電動モータ機構21から操舵輪10へ操舵力を伝達する機構は、これらに限られるものではない。
【0043】
図2は、操舵機構16の軸方向に沿った断面を示す図である。
図2を用いて、操舵機構16の構成について説明する。
【0044】
操舵機構16の各構成要素は、操舵用電動モータ機構21を除いて、ハウジング32に収容されている。ハウジング32は、操舵軸17を軸方向に移動可能に収容する操舵軸収容部30と、操舵軸収容部30の軸方向の中間部に配置され操舵軸17を包囲するように形成された減速機収容部31とから構成される。減速機収容部31には、減速機構33が収容されている。
【0045】
操舵用電動モータ機構21は、操舵用電動モータ35と、操舵用電動モータ35を制御する操舵アクチュエータ制御装置44と、操舵用電動モータ35の出力を操舵軸17に伝達するねじ機構36とを備える。操舵用電動モータ35は、制御装置19によって制御され、車両の操舵輪10の操舵動作を制御する。操舵アクチュエータ制御装置44は、運転者がステアリングホイール12に加えた操舵操作量に応じて、操舵用電動モータ35の回転量と回転速度等を制御する。以下では、操舵用電動モータ35を操舵モータ35と記載する。
【0046】
ねじ機構36は、操舵ナット37と出力プーリ38とを備える。出力プーリ38は、円筒状の部材であって、操舵ナット37に固定されており、操舵ナット37と一体となって回転する。操舵モータ35の駆動軸には、円筒状の入力プーリ39が固定されている。入力プーリ39は、操舵モータ35の駆動軸と一体となって回転する。出力プーリ38と入力プーリ39との間には、ベルト40が巻回されている。減速機構33は、入力プーリ39、出力プーリ38、及びベルト40によって構成されている。
【0047】
操舵ナット37は、操舵軸17を囲む環状であり、操舵軸17に対し回転可能に設けられている。操舵ナット37は、その内周部に螺旋状の溝を備え、この溝がナット側ボールねじ溝を構成している。操舵軸17は、その外周部に螺旋状の溝を備え、この溝が操舵軸側ボールねじ溝17a、17bを構成している。
【0048】
操舵軸17に操舵ナット37が挿入された状態で、ナット側ボールねじ溝と操舵軸側ボールねじ溝17a、17bとによってボール循環溝が構成されている。ボール循環溝の内部には、金属製の複数のボールが充填されており、操舵ナット37が回転するとボール循環溝の内部をボールが移動することにより、操舵ナット37に対して操舵軸17が軸方向(長手方向)に移動して、操舵軸17がストローク動作を行う。
【0049】
操舵機構16が以上のような構成を備え、操舵アクチュエータ制御装置44が操舵モータ35の回転量、回転方向、及び回転速度等を制御して、ステアリングホイール12の操舵操作に合わせて操舵軸17を動作させることで、車両が操縦される。
【0050】
なお、
図2には車両の前輪に搭載された操舵機構16を示しているが、操舵機構16は、車両の後輪にも搭載することができる。したがって、車両の前輪だけではなく、後輪も操舵モータ35によって操舵することができる。
【0051】
図3は、
図1に示す制御装置19が反力モータ18と操舵モータ35を制御する構成の概略を示す図である。既に説明したように、制御装置19は、反力モータ18に設けられた反力アクチュエータ制御装置と、操舵アクチュエータ制御装置44を備える。
図3に示す制御装置19は、反力アクチュエータ制御装置と操舵アクチュエータ制御装置44の両方を示している。
【0052】
ステアリングシャフト13に接続された反力モータ18には、回転角センサ14と電流センサ15が設けられている。反力モータ18は、ステアリングホイール12と機械的に接続されている。回転角センサ14は、反力モータ18の回転角、言い換えればステアリングホイール12の回転角を検出するセンサである。電流センサ15は、反力モータ18のコイルに流れる電流を検出するセンサである。
【0053】
制御装置19は、回転角センサ14が得たステアリングホイール12の回転角の情報と、反力モータ18のトルクの情報から、運転者がステアリングホイール12を把持している状態と把持していない状態とを識別することができる。
【0054】
なお、制御装置19は、運転者がステアリングホイール12を把持している状態と把持していない状態とを識別するのに、電流センサ15からの情報を用いることもできる。例えば、制御装置19は、電流の振動成分を検出して振動成分のピークの変化から、運転者がステアリングホイール12を把持しているか否かを判断することができる。このように、運転者がステアリングホイール12を把持している状態と把持していない状態とを識別するセンサには、システムに適合したセンサを使用することができる。
【0055】
反力モータ18は、ステアリングシャフト13に操舵反力トルクを付与する電動モータであり、モータドライバ23を介して制御装置19に制御される。操舵モータ35は、操舵軸17を動作させる電動モータであり、モータドライバ24を介して制御装置19に制御される。
【0056】
制御装置19は、ラック位置センサ22や回転角センサ14から情報を入力し、入力した情報に基づいて反力モータ18を制御することで、操舵反力トルクをステアリングシャフト13に与えてステアリングホイール12を回転させる。また、制御装置19は、回転角センサ14や電流センサ15から入力した情報や外部操舵指令値の情報に基づいて操舵モータ35を制御することで、操舵モータ35に機械的に接続された操舵軸17を駆動する。
【0057】
制御装置19は、回転角センサ14から反力モータ18の回転角についての情報を入力し、電流センサ15から反力モータ18のコイルに流れる電流についての情報を入力する。更に、制御装置19は、車速センサ25やヨーレートセンサ26等の走行状態センサから、操舵に影響する車両の走行状態についての情報を入力する。また、制御装置19は、ラック位置センサ22から、操舵軸17の移動位置についての情報を入力する。制御装置19は、操舵軸17の移動位置から、操舵輪10の操舵量(操舵角)を導出することができる。
【0058】
ラック位置センサ22は、操舵軸17を覆うハウジング32の途中部分に取り付けられており(
図1、2参照)、操舵軸17の位置を検出することができる。操舵軸17は、タイロッド11に直接的に接続されている。このため、制御装置19は、ラック位置センサ22の位置情報を基に、操舵輪10の操舵角を検出することができる。このように、ラック位置センサ22は、操舵輪10の操舵角を検出する検出器として機能する。
【0059】
また、制御装置19は、外部操舵制御手段としての自動操舵システム27(例えば、先進運転支援システム、ADAS)から外部操舵指令値を入力する。外部操舵指令値は、自動操舵システム27が演算して導出した指令値であり、外部操舵指令情報である。外部操舵指令値は、例えば、レーンキープ制御によって車両が道路上の白線から逸脱した場合や障害物を回避する場合等に、操舵機構16によって操舵輪を操舵させるための指令値である。
【0060】
本実施例によるステアバイワイヤ制御装置は、以上の構成を備え、制御装置19が、運転者がステアリングホイール12を把持していることを検知するために、ドライバトルクを推定する。ドライバトルクを推定するためには、ステアリングホイール12の慣性トルクを求める必要があり、この慣性トルクを求めるためには、ステアリングホイール12の慣性モーメントを求める必要がある。以下では、本実施例によるステアバイワイヤ制御装置が、ステアリングホイール12の慣性モーメントを推定して求める方法の例について説明する。上述したように、慣性モーメントは、ステアリングホイールの挙動に影響を与える制御パラメータである。
【0061】
図4は、ステアリングホイール12の周りのトルクの釣り合いを示す図である。
図4には、ドライバトルクTsとモータトルクTmと慣性トルクTjを示している。ドライバトルクTsは、運転者が加えたトルクである。モータトルクTmは、反力モータ18によるトルクである。慣性トルクTjは、ステアリングホイール12の慣性モーメント(すなわち、ステアリングホイール12とステアリングホイール12に連動して回転する部位の慣性モーメント)によるトルクである。ドライバトルクTsを推定するときには、
図4に示すトルクの釣り合いを考慮する。
【0062】
以下では、一例として、
図4に示すように、ドライバトルクTsが紙面の上方向から見て右回りに加えられ、このドライバトルクTsに対抗するように、紙面の上方向から見て左回りにモータトルクTmが加えられている場合を説明する。
【0063】
図4に示すように、ドライバトルクTsとモータトルクTmと慣性トルクTjの釣り合いは、式(1)で表される。
Ts=Tm-Tj・・・(1)
モータトルクTmは、電流センサ15の電流の情報から得ることができる。慣性トルクTjは、回転角センサ14の回転角の情報から求めることができる。具体的には、モータトルクTmは、電流センサ15が検出した電流値に反力モータ18のトルク定数を乗ずることで求められる。慣性トルクTjは、回転角センサ14が検出した回転角を2回時間微分することで回転角加速度を求め、この回転角加速度にステアリングホイール12の慣性モーメントを乗ずることで求められる。ドライバトルクTsは、このようにして求めたモータトルクTmと慣性トルクTjを式(1)に代入することで、推定することができる。
【0064】
ドライバトルクTsを推定する際には、次の点に注意する必要がある。例えば、ステアリングホイール12にカバー等の付属品が装着された場合や、ステアリングホイール12が交換された場合などには、ステアリングホイール12の実際の慣性モーメントの値は、設計値での慣性モーメントの値と異なる。このため、設計値での慣性モーメントから求められた慣性トルクTjの値は、実際の慣性トルクTjの値と異なる場合がある。このような場合には、ドライバトルクTsの推定誤差が増大する懸念がある。このため、ドライバトルクTsを精度良く推定するためには、ステアリングホイール12の実際の慣性モーメントを精度よく推定する必要がある。
【0065】
本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、制御装置19は、反力モータ18でステアリングホイール12に基準トルクを加え、この基準トルクに対して得られたステアリングホイール12の挙動から、慣性モーメントの変化を検知する。基準トルクは、予め定められた入力トルクであり、予め任意に定められた波形に従って変化する。基準トルクは、任意に定めることができ、ステアリングホイール12の慣性モーメントの変化が検知できる程度の大きさを持つのが好ましい。
【0066】
基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動から慣性モーメントの変化を検知するためには、式(2)に示すようなモータトルクTmと慣性トルクTjが釣り合う状態を作り出す必要がある。
Tm=Tj・・・(2)
式(2)に示す状態は、式(1)からドライバトルクTsがゼロの状態、すなわち運転者がステアリングホイール12に触れていない状態である。式(2)に示す状態で基準トルクを加えて慣性モーメントの変化を検知すれば、運転者の影響で慣性モーメントが変化するのを防ぐことができる。従って、基準トルクは、ドライバトルクTsがゼロの状態で加える必要がある。
【0067】
また、ステアリングホイール12の慣性モーメントは、必ず、車両が自動運転をする自動運転モードに移行する前に推定する必要がある。実際の慣性モーメントの値が設計値での慣性モーメントの値と異なるにもかかわらず、設計値での慣性モーメントの値を基にドライバトルクTsが推定されると、推定されたドライバトルクTsは、実際の値と異なり誤差を含む。そして、この誤差のために、自動操舵システム27が、運転者がステアリングホイール12を把持しているか否かを誤認識すると、車両が危険な状態に陥る可能性がある。
【0068】
これを防ぐため、本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、制御装置19は、車両が自動運転モードに移行する前に、ステアリングホイール12の慣性モーメントに変化があるかないかを調べるために、
図5のフローチャートに示す処理を実行する。
【0069】
図5は、制御装置19がステアリングホイール12の慣性モーメントの変化を検知する処理のフローチャートを示す図である。
図5には、一例として、車両の起動スイッチ(以下、「IGN」と記載する)がオンになったことをトリガーとして、制御装置19が慣性モーメントの変化を検知する処理のフローチャートを示す。なお、制御装置19は、自動運転モードに移行する前に慣性モーメントの変化を検知する処理を実施するのであれば、IGNがオンになったこと以外のことをトリガーとしてもよい。例えば、車両の施錠が解除されたことや、車両への運転者の接近を感知したことなどをトリガーとすることもできる。
【0070】
S10で、制御装置19は、IGNがオンになったことを示す信号が入力されたか否かを判断する。IGNがオンになった場合には、S11の処理を実行する。
【0071】
S11で、制御装置19は、反力モータ18でステアリングホイール12に基準トルク(入力トルク)を加える。後述するように、制御装置19は、基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動についての情報から、どのモード(S19からS21)に移行するかを判断する。
【0072】
S12で、制御装置19は、基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動についての情報(挙動情報)を取得する。この挙動情報には、例えば、ステアリングホイール12の回転角の値と、この回転角を時間微分して得られるステアリングホイール12の角速度の値と角加速度の値と角加加速度の値のうち、少なくとも1つが含まれる。
【0073】
S13で、制御装置19は、S12で取得した挙動情報を記憶する。なお、制御装置19は、挙動情報の初期値として、設計値または製造後の測定値を記憶している。
【0074】
S14で、制御装置19は、挙動情報の変化量を計算して求める。制御装置19は、S12で取得した挙動情報(今回の挙動情報)を、前回にIGNがオンになったときにS13で既に記憶した挙動情報(前回の挙動情報)と比較し、今回の挙動情報の前回の挙動情報からの変化量を計算する。
【0075】
制御装置19は、挙動情報の値が増加する場合と減少する場合の両方を考慮できるように、挙動情報の変化量を絶対値で扱うのが好ましい。今回の挙動情報の前回の挙動情報からの変化量には、正の値(挙動情報の値が増加する場合)と負の値(挙動情報の値が減少する場合)が含まれるからである。すなわち、制御装置19は、挙動情報の変化量の絶対値を挙動情報の変化量とし、以下に説明する処理で挙動情報の変化量と閾値とを比較するときには、挙動情報の変化量の絶対値と閾値との大きさを比較するのが好ましい。
【0076】
S15で、制御装置19は、S14で求めた挙動情報の変化量と、予め定められた閾値Aとの大きさを比較する。閾値Aは、慣性モーメントが変化したか否かを判断するための値である。制御装置19は、変化量が閾値A以下の場合には、慣性モーメントの変化量が所定の範囲内であるので慣性モーメントに変化がないと判断して、S17の処理を実行する。制御装置19は、変化量が閾値Aより大きい場合には、S16の処理を実行する。
【0077】
S17で、制御装置19は、運転者から自動運転の起動要求(自動運転モード、すなわち自動操舵モードへの切り換え要求)があるか否かを判断する。運転者から自動運転の起動要求がある場合には、制御装置19は、S19の処理を実行する。
【0078】
S19で、制御装置19は、自動運転モードに移行して、車両を自動運転モードに移行させる。この場合には、制御装置19は、前回に用いた慣性モーメントの値を用いて、ドライバトルクTsを推定する。
【0079】
S16は、挙動情報の変化量が閾値Aより大きい場合の処理である。S16で、制御装置19は、S14で求めた挙動情報の変化量と、予め定められた閾値Bとの大きさを比較する。閾値Bは、閾値Aよりも大きい値であり、運転者がステアリングホイール12に触れているか否か(すなわち、式(2)を満たすか否か)を判断するための値である。制御装置19は、変化量が閾値B以下の場合には、運転者がステアリングホイール12に触れていないが(すなわち、式(2)を満たしてドライバトルクTsがゼロであるが)、慣性モーメントの変化量が所定の範囲を超えているので、慣性モーメントを推定する必要があると判断して、S20の処理を実行する。制御装置19は、変化量が閾値Bより大きい場合には、S18の処理を実行する。
【0080】
S20で、制御装置19は、挙動情報の変化量が閾値Aより大きく閾値B以下であるので、慣性モーメントが変化しドライバトルクTsがゼロであると判断して、ステアリングホイールの制御パラメータを推定する制御パラメータ推定モードに移行する。制御装置19は、制御パラメータ推定モードでは、後述する方法でステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する。
【0081】
制御装置19は、制御パラメータ推定モードに移行する際にまたは移行した後に、制御パラメータ推定モードに移行することを運転者に通知したり、慣性モーメントが求められるまではステアリングホイール12から手を放すように運転者に指示したりすることができる。制御装置19は、このような通知や指示を、映像、文字、及び音声の少なくとも1つを出力することで行うことができる。
【0082】
S18は、挙動情報の変化量が閾値Aと閾値Bより大きい場合の処理である。この場合には、制御装置19は、運転者がステアリングホイール12に触れている(すなわち、ドライバトルクTsがゼロではない)、または外乱により挙動情報が変化したと判断する。S18で、制御装置19は、運転者から自動運転の起動要求(自動運転モードへの切り換え要求)があるか否かを判断する。運転者から自動運転の起動要求がある場合には、制御装置19は、S21の処理を実行する。
【0083】
S21で、制御装置19は、自動運転取消モードに移行し、運転者からの自動運転の起動要求を取り消す。この場合には、手動運転モードにて運転者が手動で運転するので、制御装置19は、慣性モーメントを推定しなくてもよい。
【0084】
制御装置19は、自動運転取消モードに移行する際にまたは移行した後に、自動運転ができないことを運転者に通知したり、ステアリングホイール12から手を放すように運転者に指示したりすることができる。制御装置19は、このような通知や指示を、映像、文字、及び音声の少なくとも1つを出力することで行うことができる。
【0085】
また、制御装置19は、S21の処理を実行した後で、S11からの処理を実行し直してもよい。
【0086】
制御装置19は、
図5のフローチャートに示す処理を実行することにより、ステアリングホイール12の慣性モーメントの変化量が所定の範囲を超えていて、慣性モーメントの値が設計値での値と異なる場合であって、ドライバトルクTsがゼロである場合には、後述する方法で慣性モーメントを推定するので、ドライバトルクTsを精度良く推定することができる。また、制御装置19は、運転者がステアリングホイール12に触れている場合など、慣性モーメントの変化を正確に検知できない場合には、運転者からの自動運転の起動要求を取り消し、運転者がステアリングホイール12を把持しているのを誤認識することにより車両が危険な状態に陥ることを回避できる。このため、本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、自動運転に移行するときには安全に移行できる。
【0087】
図6Aから
図6Cは、基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動についての情報(挙動情報)の変化量を計算する方法を説明するための図である。
図6Aから
図6Cを用いて、
図5のS14で挙動情報の変化量を計算する方法を具体的に説明する。
【0088】
図6Aは、基準トルク(入力トルク)の波形の例を示す。
図6Aには、一例として、波形がインパルス状の基準トルクを示している。
図6Bは、
図6Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の回転角の例を示す。
図6Cは、
図6Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の角速度の例を示す。
図6Bには、前回の挙動情報(回転角)を実線で示し、今回の挙動情報(回転角)を点線で示し、挙動情報の変化量として、前回と今回の回転角のピーク値(到達角度)の差である到達角度変化量を示している。
図6Cには、前回の挙動情報(角速度)を実線で示し、今回の挙動情報(角速度)を点線で示し、挙動情報の変化量として、前回と今回の角速度のピーク値(到達角速度)の差である到達角速度変化量を示している。
【0089】
例えば、ステアリングホイール12が、前回に挙動情報を取得したときよりも慣性モーメントの小さいステアリングホイール12に交換された場合には、
図6Bと
図6Cに示すように、今回の挙動情報では到達角度や到達角速度が増加すると考えられる。そこで、制御装置19は、
図5のS14で挙動情報の変化量を計算するときには、到達角度変化量や到達角速度変化量を計算する。そして、制御装置19は、計算して求めた変化量を、S15で閾値Aと比較し、S16で閾値Bと比較する。
【0090】
制御装置19は、波形がインパルス状の基準トルク(入力トルク)を、反力モータ18の回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に加える。波形がインパルス状のトルクとは、
図6Aに示すように、正値と負値を持つ矩形状の波形で表されるトルクである。基準トルクがインパルス状であると、正値(反力モータ18の回転方向の正転方向)のトルクと負値(反力モータ18の回転方向の逆転方向)のトルクにより、回転したステアリングホイール12の位置を中立点に戻すことができるとともに、矩形状の波形により、急激に変化するトルクを加えることができるという利点がある。
【0091】
制御装置19は、反力モータ18の回転方向の正転方向と逆転方向の両方向に、急激に変化するトルクを基準トルクとして加えると、一方向のみにトルクを加えた場合と比較して、ステアリングホイール12のより小さな回転動作で同程度の加速度の変化を発生させることができる。このため、制御装置19は、運転者の不快感を低減しつつ慣性モーメントの変化を精度よく検知することができる。さらに、制御装置19は、反力モータ18の回転方向の正転方向と逆転方向とに基準トルクを加えることで、ステアリングホイール12を回転動作後に中立点に戻すことができる。このため、制御装置19は、ステアリングホイール12の位置が中立点からずれて運転者が不安を感じることを防止することができる。
【0092】
図6Bと
図6Cには、慣性モーメントの変化を検知するための挙動情報の例として、回転角と角速度を示している。挙動情報には、角速度を時間微分して得られる角加速度や、角加速度を時間微分して得られる角加加速度を用いてもよい。
【0093】
図7Aと
図7Bは、ステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する方法を説明するための図である。
図7Aと
図7Bを用いて、
図5のS20の制御パラメータ推定モードで、ステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する方法を具体的に説明する。
【0094】
制御装置19は、制御パラメータ推定モードでは、
図5のS11からS14で示した処理と同様に、反力モータ18でステアリングホイール12に基準トルク(入力トルク)を加え、ステアリングホイール12の挙動情報の変化量を計算して求めることで、ステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する。制御装置19は、推定した慣性モーメントを記憶する。
【0095】
図7Aは、制御パラメータ推定モードでの基準トルク(入力トルク)の波形の例を示す。
図7Aには、一例として、波形が正弦波状の基準トルクを示している。
図7Bは、
図7Aに示した基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の角加速度の例を示す。
図7Bには、前回の挙動情報(角加速度)を実線で示し、今回の挙動情報(角加速度)を点線で示し、挙動情報の変化量として、前回と今回の角加速度のピーク値の差である振幅変化量を示している。
【0096】
初めに、制御装置19は、反力モータ18でステアリングホイール12に基準トルクを加える。制御装置19は、制御パラメータ推定モードでは、一例として、
図7Aに示すような波形が正弦波状の基準トルクを加える。基準トルクの波形が正弦波状であると、ステアリングホイール12を滑らかに回転させることができ、運転者に不快感を与えないようにすることができる。
【0097】
制御装置19は、制御パラメータ推定モードでは、ステアリングホイール12の慣性モーメントの変化を検知する処理(
図5)のS11で基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動情報の値よりも大きな挙動情報の値が得られるような基準トルクを、反力モータ18でステアリングホイール12に加えるのが好ましい。制御装置19は、より大きな挙動情報の値(例えば、角加速度のより大きな変化)が得られると、より精度よく慣性モーメントを推定することができる。
【0098】
このため、制御装置19は、制御パラメータ推定モードで基準トルクを加えるときには、運転者にステアリングホイール12が動作することを通知したうえで、
図5のS11で基準トルク(本実施例では波形がインパルス状の基準トルク)を加えたときよりも大きな動作をステアリングホイール12にさせることが好ましい。例えば、制御装置19は、制御パラメータ推定モードでは、
図5のS11で加える基準トルクよりも最大値が大きい基準トルクを加えることが好ましい。
【0099】
次に、制御装置19は、基準トルクを加えて得られたステアリングホイール12の挙動情報(本実施例では角加速度)を取得する。そして、制御装置19は、今回の挙動情報(角加速度)の振幅の、前回の挙動情報(角加速度)の振幅からの変化率を求める。制御装置19は、求めた挙動情報の振幅の変化率の逆数を、前回の慣性モーメントに乗じることで、今回の慣性モーメントを推定することができる。前回の挙動情報と前回の慣性モーメントは、制御装置19が記憶している。なお、制御装置19は、慣性モーメントの初期値として、設計値または製造後の測定値を記憶している。
【0100】
例えば、ステアリングホイール12が、前回に慣性モーメントを推定したときよりも慣性モーメントの小さいステアリングホイール12に交換された場合には、
図7Bに示すように、今回の挙動情報では角加速度の振幅が増加すると考えられる。角加速度に慣性モーメントを乗じたものが慣性トルクTjとなり、ドライバトルクTsがゼロのときには慣性トルクTjが基準トルク(モータトルクTm)と釣り合うことから、制御装置19は、角加速度の振幅が増加した分だけ慣性モーメントが減少したことが分かる。そして、制御装置19は、振幅の変化率(上記の説明では増加率)の逆数を、ステアリングホイール12の交換前の慣性モーメント(前回の慣性モーメント)に乗じることで、ステアリングホイール12の交換後の慣性モーメント(今回の慣性モーメント)を推定することができる。
【0101】
なお、制御パラメータ推定モードでステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する方法では、
図5に示したステアリングホイール12の慣性モーメントの変化を検知する処理におけるS11からS14で示した処理と同様の方法(基準トルクを加え、挙動情報の変化量を計算して求める方法)を実行する。このため、制御装置19は、
図5に示した処理におけるS11からS14の処理と、制御パラメータ推定モードでステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する処理を同時に実施することも可能である。制御装置19は、これらの処理を同時に実施すると、車両の運転者に不安感や不快感をより与えにくく、慣性モーメントを速く推定することができる。
【0102】
但し、より精度良く慣性モーメントを推定するためには、
図5に示した処理におけるS11からS14の処理と、制御パラメータ推定モードでステアリングホイール12の慣性モーメントを推定する処理を別に行い、それぞれの処理に適した基準トルクを加える(例えば、インパルス状の基準トルクと正弦波状の基準トルクをそれぞれ加える)ことが好ましい。
【0103】
本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、制御装置19は、以上説明したように、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で、ステアリングホイール12の慣性モーメントを精度よく推定することができる。このため、本実施例によるステアバイワイヤ制御装置は、ドライバトルクを精度よく推定することができ、運転者がステアリングホイール12を把持していることや、運転者がステアリングホイール12を操舵したことを、精度よく検知することができる。
【実施例2】
【0104】
本発明の実施例2によるステアバイワイヤ制御装置について説明する。本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、制御装置19は、実施例1で説明した慣性モーメントの変化を検知する方法を基にして、ステアリングシャフト13の回転摩擦の変化や、ステアリングホイール12の取り付け角度の変化を検知することができる。これらを検知することにより、例えば、回転摩擦によるステアリングシャフト13の経年劣化の影響や、ステアリングホイール12の取り付け角度の調整の影響を知ることができる。
【0105】
図8Aは、ドライバトルクTsとモータトルクTmと慣性トルクTjに加えて、摩擦トルクTfと重力トルクTgを考慮した場合の、ステアリングホイール12の周りのトルクの釣り合いを示す図である。ドライバトルクTsとモータトルクTmと慣性トルクTjについては、実施例1で説明している。摩擦トルクTfは、ステアリングシャフト13の軸受け部などで発生するトルクである。重力トルクTgは、ステアリングホイール12の重心の位置が変化することで発生するトルクである。摩擦トルクTfと重力トルクTgは、ステアリングホイールの制御パラメータに含まれる。
【0106】
図8Bは、重力トルクTgを説明するための図である。ステアリングホイール12が回転することにより、ステアリングホイール12の重心Gsの位置が変化し、重力トルクTgが発生する。重力トルクTgは、ステアリングホイール12の重心Gsに作用する重力によって発生し、主にステアリングホイール12のチルト方向への取り付け角度が変化すると、変化すると考えられる。
【0107】
本実施例では、制御装置19は、ドライバトルクTsを推定するときには、
図8Aに示すトルクの釣り合いを考慮する。ステアリングホイール12の周りのトルクの釣り合いは、式(3)で表される。
Ts=Tm-Tj-Tf-Tg・・・(3)
本実施例では、制御装置19は、摩擦トルクTfと重力トルクTgを考慮することで、さらに精度が高くドライバトルクTsを推定できる。
【0108】
運転者がステアリングホイール12に触れていない状態では、ドライバトルクTsがゼロであるので、式(3)は式(4)と表される。
Tm=Tj+Tf+Tg・・・(4)
すなわち、ドライバトルクTsがゼロの場合には、モータトルクTmは、慣性トルクTjと摩擦トルクTfと重力トルクTgの和(Tj+Tf+Tg)と釣り合う。従って、実施例1で説明したことを考慮すると、制御装置19は、ステアリングホイール12に基準トルク(入力トルク)を加えることにより、この基準トルクに対して得られたステアリングホイール12の挙動から、慣性モーメントの変化を検知できるだけでなく、摩擦トルクTfと重力トルクTgの変化も検知できる。
【0109】
さらに、制御装置19がステアリングホイール12を一定速度で回転させるような基準トルクを加えた場合には、ステアリングホイール12の角加速度がゼロとなるため、慣性トルクTjがゼロとなり、式(5)のように、モータトルクTmは、摩擦トルクTfと重力トルクTgの和(Tf+Tg)と釣り合う。
Tm=Tf+Tg・・・(5)
従って、制御装置19は、ステアリングホイール12を一定速度で回転させる基準トルクに対して得られたステアリングホイール12の挙動から、摩擦トルクTfと重力トルクTgの変化を検知でき、ステアリングシャフト13の回転摩擦の変化と、ステアリングホイール12の取り付け角度の変化を求めることができる。
【0110】
本実施例によるステアバイワイヤ制御装置では、制御装置19は、車両の運転者に不安感や不快感を与えにくい方法で、ステアリングシャフト13の回転摩擦の変化とステアリングホイール12の取り付け角度の変化を精度よく検知することができる。このため、本実施例によるステアバイワイヤ制御装置は、ドライバトルクを精度よく推定することができ、運転者がステアリングホイール12を把持していることや、運転者がステアリングホイール12を操舵したことを、精度よく検知することができる。
【0111】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0112】
10…操舵輪、11…タイロッド、12…ステアリングホイール、13…ステアリングシャフト、14…回転角センサ、15…電流センサ、16…操舵機構、17…操舵軸、17a、17b…操舵軸側ボールねじ溝、18…反力用電動モータ、19…制御装置、20…外部センサ、21…操舵用電動モータ機構、22…ラック位置センサ、23…モータドライバ、24…モータドライバ、25…車速センサ、26…ヨーレートセンサ、27…自動操舵システム、30…操舵軸収容部、31…減速機収容部、32…ハウジング、33…減速機構、35…操舵用電動モータ、36…ねじ機構、37…操舵ナット、38…出力プーリ、39…入力プーリ、40…ベルト、44…操舵アクチュエータ制御装置。