(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】壁状構造体の構築方法、壁状構造体およびコンクリート型枠
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20241030BHJP
E04B 2/84 20060101ALI20241030BHJP
E04G 9/10 20060101ALI20241030BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
E02D29/02 309
E04B2/84 B
E04G9/10 103Z
E02D17/18 Z
(21)【出願番号】P 2021115429
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-159111(JP,A)
【文献】特開2005-089997(JP,A)
【文献】特開2016-188491(JP,A)
【文献】特開2000-054387(JP,A)
【文献】特開2010-031572(JP,A)
【文献】特開平09-144024(JP,A)
【文献】特開平06-033682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0239782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/18
E02D 27/01
E04B 2/84
E04G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1壁面に対向する第2壁面を備える壁状構造体の構築方法であって、
前記第1壁面に沿って拡がる発泡樹脂製の中間層を形成する中間層形成手順と、 前記中間層との間にコンクリート充填用空間を設けるように第1境界板を設置する第1境界板設置手順と、
前記中間層より高い位置にある前記第1境界板と対向する領域に、前記コンクリート充填用空間に相当する間隔を空けて第1副境界板を設置する第1副境界板手順と、
前記コンクリート充填用空間にコンクリートを充填することにより、前記中間層に沿って前記第2壁面を備える壁体を構築する構築手順と、を備える、
壁状構造体の構築方法。
【請求項2】
第1壁面に対向する第2壁面を備える壁状構造体の構築方法であって、
前記第1壁面に沿って拡がる発泡樹脂製の中間層を形成する中間層形成手順と、
前記中間層との間にコンクリート充填用空間を設けるように第1境界板を設置する第1境界板設置手順と、
前記コンクリート充填用空間にコンクリートを充填することにより、前記中間層に沿って前記第2壁面を備える壁体を構築する構築手順と、を備え、
前記中間層形成手順は、
前記第1壁面と対向するウレタン製の板材である第2境界板を、前記第1壁面との間に発泡樹脂充填用空間を設けて設置する第2境界板設置手順と、
前記発泡樹脂充填用空間に発泡ウレタンである発泡樹脂材料を充填する樹脂充填手順と、を備える、
壁状構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、敷地内外の境界領域に壁状構造体を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周囲よりも土地の低い敷地では、その内外の境界領域における斜面を壁面状に造成するとともに、こうして造成した壁面を板状の部材で区画することにより、周囲からの土砂の崩壊や水の浸入を防ぐようにすることが一般的である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この敷地においてコンクリート製の壁体を備えた壁状構造体を構築する場合は、壁体となる空間をその表裏面側それぞれから挟むようにコンクリート型枠およびその支持部材を設置し、このコンクリート型枠の間にコンクリートを充填することになる。このとき、これらコンクリート型枠および支持部材は、後に除去するものであるにも関わらず、そのための設置スペースを確保しなければならない。そのため、上記壁状構造体を構築する場合には、境界領域の壁面に近接して壁状構造体を構築することができず、境界領域の壁面から壁状構造体までの領域に、コンクリート型枠および支持部材を除去した後の無用な空間が存在する状態となってしまう。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、コンクリート製の壁体を備えた壁状構造体を、壁面に近接させて構築できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る壁状構造体の構築方法は、第1壁面に対向する第2壁面を備える壁状構造体の構築方法であって、前記第1壁面に沿って拡がる発泡樹脂製の中間層を形成する中間層形成手順と、前記中間層との間にコンクリート充填用空間を設けるように第1境界板を設置する第1境界板設置手順と、前記コンクリート充填用空間にコンクリートを充填することにより、前記中間層に沿って前記第2壁面を備える壁体を構築する構築手順と、を備える壁状構造体の構築方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、中間層および第1境界板をコンクリート型枠とし、これらに挟まれたコンクリート充填用空間にコンクリートを充填して硬化させることにより、壁状構造体における壁体として、中間層に沿って第2壁面の拡がるコンクリート製の壁体を構築することができる。
【0008】
ここで、中間層は、壁状構造体の一部を構成するだけでなく、コンクリート型枠の一部としても機能することになるが、第1壁面に支持された状態で形成されていることから、この中間層そのものを支持するための部材は必要なく、これにより第1壁面側に無用なスペースを確保しなくても壁体を構築することができる。こうして、第1壁面に近接させてコンクリート製の壁体を構築できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態における壁状構造体の正面断面図
【
図2】本開示の一実施形態における壁状構造体の正面断面図(要部拡大図)
【
図3】本開示の一実施形態における壁状構造体の平面図(要部拡大図)
【
図4】本開示の一実施形態において壁状構造体を構築する手順を示す正面断面図
【
図5】本開示の一実施形態において壁状構造体を構築する一部手順を示す正面断面図
【
図6】本開示の一実施形態において壁状構造体を構築する一部手順を示す正面断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(1)全体構成
【0011】
壁状構造体1は、
図1~
図3に示すように、板状体10と、中間層20と、壁体30と、を備える。なお、本実施形態では、周囲よりも土地の低い敷地における内外の境界領域100に、この敷地を区画するべく板状体10が設置される構成を例示する。
【0012】
板状体10は、上下方向(
図1および
図2における上下方向)および左右方向(
図3における上下方向)それぞれに沿って拡がる第1壁面11を備えた板状の部材である。本実施形態では、
図3に示すように、平面視で敷地の外側および内側に向けて交互に突出した形状の板状部材であり、敷地の内側に向けて突出した凸部の先端面によって第1壁面11が形成されている(同図一点鎖線参照)。
【0013】
中間層20は、第1壁面11に沿って拡がるように形成された発泡樹脂製の層である。本実施形態では、
図3に示すように、中間層20を形成する発泡樹脂材料(例えばウレタンやウレアなど。以下同様)が、板状体10において敷地の外側に向けて突出した凹部の内部にまで充填されている。
【0014】
壁体30は、中間層20の表裏面のうち、第1壁面11と反対側の面に沿って拡がる第2壁面31を備えたコンクリート製の壁体である。
【0015】
(2)壁状構造体1の構築手順
上述した壁状構造体1を構築するための手順を以下に説明する。
【0016】
本実施形態では、まず、板設置手順が実施される。この板設置手順では、
図4(a)に示すように、第1壁面11を備えた板状体10を設置する。本実施形態において、板設置手順は、敷地における内外の境界領域100を壁状に造成した状態で実施され、こうして形成された壁面と同じ高さとなるように板状体10が設置される。
【0017】
続いて、土台設置手順が実施される。この土台設置手順では、
図4(b)に示すように、境界領域100の地表面に沿って拡がる壁状構造体1の土台110を設置する。
【0018】
続いて、中間層形成手順が実施される。この中間層形成手順では、
図4(b)に示すように、第1壁面11に沿って拡がる中間層20を形成する。本実施形態においては、中間層形成手順として、第1壁面11に沿って発泡樹脂材料を吹き付けて硬化させる吹付手順が備えられている。
【0019】
続いて、第1境界板設置手順が実施される。この第1境界板設置手順では、
図4(c)に示すように、中間層20との間にコンクリート充填用空間200を設けるように第1境界板50を設置する。ここでは、壁体30の厚さに相当する距離だけ、中間層20の表面から離れた位置に、第1壁面11と対向するように第1境界板50を設置することで、中間層20および第1境界板50に挟まれたコンクリート充填用空間200が形成される。
【0020】
なお、本実施形態では、板状体10より高い位置にまで延びる第1境界板50を設置する、つまりその位置にまで延びる壁体30を構築することが想定されている。そのため、板状体10より高い位置にある第1境界板50と対向する領域には、この領域からコンクリート充填用空間200に相当する間隔を空けて第1副境界板51が設置される。この第1副境界板51は、中間層20に沿って上方に拡がる板状部材である。
【0021】
これら第1境界板50および第1副境界板51は、コンクリート充填用空間200を挟んで設置されたコンクリート型枠として機能するものであり、それぞれの板材をコンクリート充填用空間200と反対側から押えて支持する棒状の支持部材53も設置される。こうして、中間層20と第1境界板50および第1副境界板51とによってコンクリート型枠が構築される。
【0022】
そして、構築手順が実施される。この構築手順では、
図4(d)に示すように、コンクリート充填用空間200にコンクリートを充填して硬化させることにより、中間層20に沿って第2壁面31の拡がる壁体30を構築する。本実施形態では、構築手順として、コンクリート充填用空間200に充填したコンクリートの硬化後に、第1境界板50、第1副境界板51および支持部材53を取り除く手順も含まれている。
【0023】
こうして、板状体10、中間層20および壁体30を備えた壁状構造体1が構築される。
【0024】
(3)変形例
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0025】
例えば、上記実施形態では、中間層形成手順が、第1壁面11に沿って発泡樹脂材料を吹き付けて硬化させる吹付手順の備えられている場合を例示した。しかし、中間層形成手順は、これに限らず、種々の手順を備えたものを採用することができる。
【0026】
具体的な例としては、
図5に示すように、中間層形成手順が、第1壁面11と対向する第2境界板60を設ける第2境界板設置手順と、第1壁面11と第2境界板60との間に発泡樹脂材料を充填する樹脂充填手順と、を備えたものとすることが考えられる。
【0027】
この中間層形成手順の備える第2境界板設置手順では、第1壁面11と対向する板状部材である第2境界板60を、第1壁面11との間に発泡樹脂充填用空間300を設けて設置する。ここでは、中間層20の厚さに相当する距離だけ、第1壁面11から離れた位置に第2境界板60を設置することで、第1壁面11および第2境界板60に挟まれた発泡樹脂充填用空間300が形成される。
【0028】
これら板状体10および第2境界板60は、発泡樹脂充填用空間300を挟んで設置された発泡樹脂用の型枠として機能するものであり、第2境界板60を発泡樹脂充填用空間300と反対側から押えて支持する棒状の支持部材61も設置される。こうして、板状体10と第2境界板60とによって発泡樹脂用の型枠が構築される。
【0029】
また、中間層形成手順の備える樹脂充填手順では、発泡樹脂充填用空間300に発泡樹脂材料を充填して硬化させることにより、第1壁面11に沿って拡がる中間層20を形成する。ここでは、樹脂充填手順として、発泡樹脂充填用空間300に充填した発泡樹脂材料の硬化後に、第2境界板60および支持部材61を取り除く手順も含まれている。
【0030】
また、中間層形成手順が第2境界板設置手順と樹脂充填手順とを備えたものである場合には、第2境界板60としてウレタン製のものを用い、かつ、発泡樹脂充填用空間300に充填する発泡樹脂材料として発泡ウレタンを用いるようにしてもよい。
【0031】
(4)作用効果
本実施形態によれば、中間層20および第1境界板50をコンクリート型枠とし、これらに挟まれたコンクリート充填用空間200にコンクリートを充填して硬化させる。これにより、壁状構造体1における壁体として、中間層20に沿って第2壁面31を備えるコンクリート製の壁体30を構築することができる。
【0032】
ここで、中間層20は、壁状構造体1の一部を構成するだけでなく、コンクリート型枠の一部としても機能することになるが、第1壁面11に支持された状態で形成されていることから、この中間層20そのものを支持するための部材は必要ない。これにより第1壁面11側に無用なスペースを確保しなくても壁状構造体1を構築することができる。こうして、第1壁面11に近接させてコンクリート製の壁状構造体1を構築できるようになる。
【0033】
このように、第1壁面11に近接させて壁状構造体1を構築できれば、周囲よりも土地の低い敷地における内外の境界領域100に第1壁面11が形成される場合に、境界領域100の外側からの転落事故や落下物の滞留といった問題も抑制することができる。
【0034】
また、上記手順にて構築された壁状構造体1は、板状体10と壁体30との間に発泡樹脂製の中間層20が介在している。そのため、この中間層20である発泡樹脂材料の性質に応じて、敷地の外側からの圧力変動、振動、雑音や温度が壁体30側へと不必要に伝わってしまうことを抑制できる。
【0035】
また、中間層20である発泡樹脂材料には、例えば防虫などといった特定の機能を有する別の薬液を混ぜて用いることもできるため、これにより壁状構造体1として特定の機能を付与することができる。
【0036】
また、上記手順によれば、敷地の外側までを造成するような大規模な工事を実施することなく、第1壁面11に近接させてコンクリート製の壁状構造体1を構築できる。そのため、敷地の外側に道路が敷設されていたとしても、工事のために道路を通行止めにするといったことも必要なくなる。
【0037】
また、大規模な工事が必要ないことから、敷地の外側に配管などの埋設物が埋設されていたとしても、これら埋設物を避けて工事を実施する、工事により意図せずに埋設物を損傷させてしまう、といった事態を回避することができる。
【0038】
また、板状体10および壁体30は、発泡樹脂製の中間層20と接触している領域が外気に触れなくなるため、この領域の外気による劣化(金属製である場合の錆の発生や水分の侵入による劣化など)を抑制することができる。
【0039】
また、中間層形成手順として、発泡樹脂材料を吹き付けて中間層20を形成する吹付手順が備えられている場合には、発泡樹脂材料を充填するための型枠を設けずに、第1壁面11と第2壁面31との間隔にあわせて任意の厚さで中間層20を形成できる。
【0040】
また、中間層形成手順として、第2境界板60を設ける第2境界板設置手順と、発泡樹脂材料を充填する樹脂充填手順と、が備えられている場合には、第1境界板50を支持するための部材は必要ない。そのため、第1壁面11側に無用なスペースを確保しなくても中間層20を形成することができる。
【0041】
また、中間層形成手順として、第2境界板設置手順と樹脂充填手順とが備えられている場合であって、第2境界板60としてウレタン製のものを用い、充填する発泡樹脂材料として発泡ウレタンを用いる場合には、
図6に示すように、ウレタン製の第2境界板60が発泡ウレタンと一体化して中間層20を形成する(同図の中間層20において、破線より右側の領域がウレタン製の第2境界板60を示す)。そのため、型枠としての第2境界板60を取り除く必要がなくなる。
【0042】
さらにいえば、第2境界板60として十分な硬度のものを用いれば、支持部材61を用いることなく、発泡樹脂充填用空間300へと発泡樹脂材料を充填できるようになる。
【符号の説明】
【0043】
1:壁状構造体、10:板状体、11:第1壁面、20:中間層、30:壁体、31:第2壁面、50:第1境界板、51:第1副境界板、53:支持部材、60:第2境界板、61:支持部材、100:境界領域、110:土台、200:コンクリート充填用空間、300:発泡樹脂充填用空間。