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特許7579221半導体製造装置、半導体装置および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】半導体製造装置、半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/05 20060101AFI20241030BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20241030BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241030BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20241030BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20241030BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01J37/05
H01L21/265 F
H01L21/265 603B
H01L21/265 603C
H01L21/265 T
H01L29/78 301L
H01J37/317 Z
H01J37/20 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021138315
(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公開番号】P2023032280
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴之
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514939(JP,A)
【文献】特開平09-115850(JP,A)
【文献】特開平06-045350(JP,A)
【文献】特開平07-258846(JP,A)
【文献】米国特許第08835879(US,B1)
【文献】特開2002-008579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
H01L 21/265
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搭載可能なステージと、
前記基板へ導入する不純物のビームをイオン成分と中性成分とを分離する分離部と、
前記イオン成分を前記基板へ導入する第1モードと前記中性成分を前記基板へ導入する第2モードとを切り替える制御部とを備える半導体製造装置。
【請求項2】
前記イオン成分を導入する第1位置と前記中性成分を導入する第2位置とに前記ステージを移動させる駆動部をさらに備える、請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記イオン成分を前記基板の表面に対して垂直方向から第1角度だけ傾斜した方向から導入するように前記ステージの傾斜を調整し、前記中性成分を前記基板の表面に対して垂直方向から第2角度だけ傾斜した方向から導入するように前記ステージの傾斜を調整する、請求項2に記載の半導体製造装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1位置と前記第2位置との間の前記ステージの移動、および、前記第1角度と前記第2角度との間のステージの調整を同期して実行する、請求項3に記載の半導体製造装置。
【請求項5】
前記基板を収容可能なチャンバをさらに備え、
前記制御部は、前記チャンバ内の圧力によって前記イオン成分と前記中性成分との濃度を制御する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体製造装置。
【請求項6】
前記分離部は、前記イオン成分と前記中性成分のエネルギーを相違させ、前記イオン成分を第1エネルギーで前記基板へ導入し、前記中性成分を第2エネルギーで前記基板へ導入する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体製造装置。
【請求項7】
基板へ導入する不純物のビームをイオン成分と中性成分とを分離し、前記イオン成分と前記中性成分のエネルギーを相違させる分離部を備えた半導体製造装置を用いた半導体装置の製造方法であって、
前記不純物のビームをイオン成分と中性成分とを分離し、
前記イオン成分を第1エネルギーで前記基板へ導入する第1モードを実行し、
前記中性成分を第2エネルギーで前記基板へ導入する第2モードを実行することを具備する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、半導体製造装置、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の微細化に伴い、不純物拡散層の高精度な制御が求められている。例えば、トランジスタのソース層またはドレイン層を単一の不純物拡散層で構成した場合、不純物拡散層に結晶欠陥が残りやすく、リーク電流が増大する。ソース層またはドレイン層を複数の不純物拡散層で構成した場合、異なる条件で複数のイオン注入工程を繰り返し実行する必要がある。これは、スループットの低下を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-049620号公報
【文献】特開2003-115277号公報
【文献】特許第3356629号(米国特許第6071781号)
【文献】特許第4901094号(米国特許第7351987号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶欠陥が少ない不純物拡散層を短い工程で形成可能な半導体製造装置、半導体装置、半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態による半導体製造装置は、基板を搭載可能なステージを備える。分離部は、基板へ導入する不純物のビームをイオン成分と中性成分とを分離する。制御部は、イオン成分を基板へ導入する第1モードと中性成分を基板へ導入する第2モードとを切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態によるイオン注入装置の構成例を示す概略図。
図2A】本実施形態によるイオン注入方法における電源電圧の一例を示すグラフ。
図2B】本実施形態によるイオン注入方法における電源電圧の一例を示すグラフ。
図2C】本実施形態によるイオン注入方法における電源電圧の一例を示すグラフ。
図3】エネルギーフィルタにおけるイオン成分と中性成分とを示す概念図。
図4】ステージの動作を示す概念図。
図5】イオン成分と中性成分との加速エネルギーの一例を示すグラフ。
図6】第1および第2モードによって形成される拡散層の不純物濃度と深さを示すグラフ。
図7】本実施形態によるトランジスタの構成例を示す断面図。
図8】第1モードのイオン成分の注入によって半導体基板Wに生じたボロン、格子間シリコンおよび空格子の各濃度を示すグラフ。
図9】第1モードのイオン成分および第2モードの中性成分の注入によって半導体基板に生じたボロン、格子間シリコンおよび空格子の各濃度を示すグラフ。
図10】第1および第2モードを実行し、アニール処理後の半導体基板内のボロンの各濃度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。明細書と図面において、既出の図面に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、本実施形態によるイオン注入装置1の構成例を示す概略図である。イオン注入装置1は、チャンバ3と、ステージ5と、イオンソース10と、アナライザ20と、Qレンズ30と、スキャナ40と、パラレルレンズ50と、加減速電極60と、エネルギーフィルタ70と、を備えている。イオン注入装置1は、半導体基板Wに不純物をドーピングする装置であり、例えば、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)等を不純物として注入する。本実施形態では、イオン注入装置1は、一例としてボロンを半導体基板Wに注入するものとして説明する。
【0009】
チャンバ3は、ステージ5、イオンソース10、アナライザ20、Qレンズ30、スキャナ40、パラレルレンズ50、加減速電極60およびエネルギーフィルタ70を収容する。チャンバ3は、図示しない真空ポンプに繋がっており、その内部の圧力を減圧可能に構成されている。チャンバ3には、半導体基板Wの搬送口があり、搬送口から半導体基板Wをチャンバ3内に搬入してステージ5上に搭載する。あるいは、搬送口を介して半導体基板Wをチャンバ3から搬出する。
【0010】
ステージ5は、半導体基板Wを搭載可能である。ステージ5は、半導体基板Wの位置を移動させ、あるいは、半導体基板Wのイオンビーム12に対する傾斜角を変更可能に構成されている。ステージ5には、駆動部80、90が接続されている。駆動部80は、ステージ5の搭載面に対して略平行方向にステージ5を移動させることができるように構成されている。駆動部90は、ステージ5の搭載面をイオンビーム12の入射角に対して傾斜させることができるように構成されている。これにより、ステージ5は、半導体基板Wをチャンバ3内で移動させ、イオンビーム12に対する角度を調整することができる。
【0011】
イオンソース10は、例えば、不純物BFのイオン発生源である。
【0012】
アパーチャ15は、イオンソース10からの不純物ビームを整形する開口部である。
【0013】
アナライザ20は、不純物ビーム中に含まれる不要なイオンを取り除き、所望のイオンビーム12を取り出す。例えば、アナライザ20は、BFのイオンソースから発生した不純物ビーム(B+、F+、BF+、BF+)からB+イオンのイオンビーム12を取り出すために、それ以外のF+、BF+、BF+イオンを除去する。
【0014】
Qレンズ30は、アナライザ20で取り出された所望のイオンビーム(例えば、B+イオン)12を電磁的に整形する電磁レンズである。
【0015】
スキャナ40は、B+イオンを半導体基板W上に走査するためにイオンビーム12の方向を制御する。
【0016】
パラレルレンズ50は、イオンビーム12を収縮または分散させる電磁レンズである。
【0017】
加減速電極60は、イオンビーム12の速度を加速または減速させる。
【0018】
このようなビームライン(15、20、30、40、50、60)を通過したイオンビーム12は、チャンバ3内に残存する気体によって中性化する場合がある。従って、イオンビーム12は、イオンビーム(イオン成分)だけでなく、中性化された中性ビーム(中性成分)を含む。以下、イオンビーム12のうちイオンとして維持されている成分をイオン成分と呼び、イオンが中性化された成分を中性成分とも呼ぶ。
【0019】
エネルギーフィルタ70は、イオンビーム12のうちイオン成分を制御することによって、イオン成分と中性成分とを分離させる。このとき、エネルギーフィルタ70は、イオン成分に加速または減速エネルギーを与えて、イオン成分の注入エネルギーを中性成分の注入エネルギーと相違させる。これにより、エネルギーフィルタ70は、イオン成分と中性成分とを別々に半導体基板Wへ導入することができる。なおかつ、エネルギーフィルタ70は、イオン成分を或るエネルギーで半導体基板Wへ第1深さに導入し、中性成分を他のエネルギーで半導体基板Wへ第2深さに導入することができる。例えば、エネルギーフィルタ70は、ボロンイオン(B+)を減速させて比較的低いエネルギーで半導体基板Wへ注入し、中性化したボロン(B)をそのまま比較的高いエネルギーで半導体基板Wへ注入することができる。これにより、半導体基板Wには、深い位置まで導入されたボロン拡散層と、比較的浅い位置までしか導入されていないボロン拡散層とが形成され得る。即ち、深さの異なる複数の不純物層を半導体基板Wに形成することができる。このとき、ステージ5が半導体基板Wの位置や傾斜を変更することによって、深いボロン拡散層と浅いボロン拡散層を、半導体基板Wの表面上方から見た平面視において同じ位置に形成することができる。
【0020】
制御部100は、イオン注入装置1の各構成要素および電源110~130を制御する。電源110は、イオンビーム12からイオン成分を制御するためにエネルギーフィルタ70に電力を供給する。電源120は、駆動部80に電力を供給し、ステージ5の移動を可能にする。電源130は、駆動部90に電力を供給し、ステージ5の傾斜角度の変更を可能にする。制御部100は、イオン注入装置1の他の構成の動作を制御する。
【0021】
次に、イオン注入装置1を用いたイオン注入方法について説明する。
【0022】
図2A図2Cは、本実施形態によるイオン注入方法における電源110~130の電圧の一例を示すグラフである。縦軸は、各電源110~130の電源電圧を示す。横軸は、時間tを示す。図3は、エネルギーフィルタ70におけるイオン成分12Iと中性成分12Nとを示す概念図である。図4は、ステージ5の動作を示す概念図である。
【0023】
まず、図1のイオンソース10が、例えば、不純物BFのイオンを発生し、不純物ビームを生成する。アパーチャ15が不純物ビームを整形し加速させる。アナライザ20が不純物ビーム中に含まれる不要なイオン(例えば、F+、BF+、BF+)を取り除き、所望のイオンビーム12(例えば、B+)を取り出す。
【0024】
次に、Qレンズ30がイオンビーム12を電磁的に整形し、スキャナ40がこのイオンビームの方向を制御する。
【0025】
次に、パラレルレンズ50がイオンビーム12を収縮または分散させて、加減速電極60がイオンビーム12の速度を加速または減速させる。
【0026】
このようなビームライン(15、20、30、40、50、60)を通過したイオンビーム12は、チャンバ3内に残存する気体によって中性化する場合がある。従って、イオンビーム12は、イオン成分だけでなく中性成分を含む。
【0027】
そこで、図2Aに示すように、t1以降において、電源110が負電圧をエネルギーフィルタ70に印加する。これにより、エネルギーフィルタ70は、イオンビーム12からイオン成分を取り出し、中性成分と分離することができる。
【0028】
例えば、図3に示すように、イオン成分としてのボロンイオン(B+)の進行方向は、エネルギーフィルタ70からの電界によって屈曲する。一方、中性成分としてのボロン粒子(B)の進行方向は、エネルギーフィルタ70からの電界によってほとんど変化しない。これにより、エネルギーフィルタ70は、イオン成分12Iと中性成分12Nとを分離する。
【0029】
ここで、図2Bに示すように、期間t1~t2において、電源120が正電圧を駆動部80に印加し、図2Cに示すように、電源130が正電圧を駆動部90に印加する。これにより、図4に示すように、駆動部80は、イオン成分12Iを半導体基板Wに照射するように、ステージ5を-Z方向へ移動させて、半導体基板Wを位置Ziに配置する。また、駆動部90は、ステージ5を角度θだけ傾斜させて、イオン成分12Iを半導体基板Wの表面に対して垂直方向から角度θだけ傾斜した方向から導入する。角度θは、イオン成分12Iの進行方向に対して略垂直な面を基準としたステージ5の傾斜角である。
【0030】
このとき、スキャナ40がイオンビーム12の方向を制御することによって、イオン成分12Iおよび中性成分12Nのビームを半導体基板Wの全体に走査する。位置Ziにおいてイオン成分12Iを半導体基板Wに注入する処理を、ここでは、第1モードと呼ぶ。
【0031】
次に、図2Bに示すように、期間t3~t4において、電源120が正電圧の供給を停止し、図2Cに示すように、電源130が正電圧の供給を停止する。これにより、図4に示すように、駆動部80は、ステージ5を+Z方向へ移動させて元に戻し、半導体基板Wを位置Znに配置し、中性成分12Nを半導体基板Wに照射する。また、駆動部90は、ステージ5の傾斜をもとに戻し、中性成分12Nが半導体基板Wの表面に対して略垂直方向から入射するようにする。駆動部90は、ステージ5の傾斜を、中性成分12Nが半導体基板Wの表面に対して略垂直方向から入射するようにする。尚、駆動部90は、ステージ5を角度θとは異なる角度φ(図示せず)だけ傾斜させて、中性成分12Nを半導体基板Wの表面に対して垂直方向から角度φだけ傾斜した方向から導入してもよい。角度φは、中性成分12Nの進行方向に対して略垂直な面を基準としたステージ5の傾斜角である。位置Znにおいて中性成分12Nを半導体基板Wに注入する処理を、ここでは、第2モードと呼ぶ。
【0032】
このとき、スキャナ40がイオンビーム12の方向を制御することによって、イオン成分12Iおよび中性成分12Nのビームを半導体基板Wの全体に走査する。
【0033】
制御部100は、第1モードと第2モードとを、t2とt3との間、t4とt5との間、t6とt7との間で切り替える。これにより、駆動部80は、第1モードにおいてイオン成分12Iを導入する位置Ziと第2モードにおいて中性成分12Nを導入する位置Znとの間でステージ5を移動させることができる。駆動部90は、第1モードと第2モード において、ステージ5の傾斜を調整することができる。駆動部80、90は、位置Ziと位置Znとの間のステージ5の移動、および、位置Ziにおけるステージ5の傾斜角度θと位置Znにおけるステージ5の傾斜角度φとの間のステージの調整を同期して実行する。
【0034】
第1モードと第2モードは、同一のチャンバ3内において連続して実行される。従って、深さおよび濃度が異なる複数の不純物層が形成され得る。
【0035】
尚、第1モードと第2モードとの間の遷移期間(例えば、t2~t3、t4~t5)において、イオン注入装置1は、イオンビーム12を連続してステージ5側へ照射してもよい。あるいは、イオン注入装置1は、第1モードの終了後、イオンビーム12の照射を一旦中断して、第2モードの開始時に再開してもよい。また、第1モードと第2モードとの実行順序は特に限定せず、いずれを先に実行してもよい。
【0036】
次に、ステージ5が半導体基板Wを、例えば、90°回転させて、t1~t4の動作をt5~t8において実行する。さらにその後、半導体基板Wを180°、270°回転させて、t1~t4の動作を繰り返し実行する。これにより、半導体基板Wの表面全体にイオン成分12Iおよび中性成分12Nが導入される。
【0037】
ここで、イオン成分12Iと中性成分12Nとの加速エネルギー(keV)について説明する。
【0038】
図5は、イオン成分12Iと中性成分12Nとの加速エネルギーの一例を示すグラフである。縦軸は、加速エネルギー(keV)を示し、横軸は、イオンビーム12、イオン成分12Iまたは中性成分12Nの位置を示す。
【0039】
本実施形態において、イオンソース10には、例えば、約+1.0keVが印加されている。イオンビーム12は、イオンソース10から取り出され、アパーチャ15において、例えば、約-2.0keVで加速される。従って、イオンビーム12の加速エネルギーは、イオンソース10の電位とアパーチャ15の電位との差となり、例えば、約-3.0keVとなる。
【0040】
イオンビーム12がビームライン(20~60)を通過すると、上述の通り、イオンビーム12は、チャンバ3内の気体によってイオン成分12Iと中性成分12Nとの混在状態となる。
【0041】
次に、エネルギーフィルタ70が、イオンビーム12のイオン成分12Iと中性成分12Nとを分離する。このとき、エネルギーフィルタ70は、電源110からの電力供給を受けてイオンビーム12に電界を印加し、イオン成分12Iのみの進行方向を変化させる。中性成分12Nは電気的に中性であるため、電界の影響を受けずに、その進行方向は変化しない。
【0042】
また、エネルギーフィルタ70は、イオン成分12Iと中性成分12Nの加速エネルギーを相違させる。例えば、エネルギーフィルタ70は、イオン成分12Iの加速エネルギーを、例えば、約-2.0keV低下させる。これにより、イオン成分12Iの加速エネルギーは、イオンソース10の電位を基準として、約-1.0keVとなる。一方、中性成分12Nは、電気的に中性であるため、エネルギーフィルタ70からの電界の影響を受けず、例えば、約-3.0keVの加速エネルギーを維持する。
【0043】
このように、エネルギーフィルタ70は、イオンビーム12のイオン成分12Iと中性成分12Nとを分離し、かつ、それらの加速エネルギーを互いに相違させる。これにより、イオン成分12Iは、図4の下側位置Ziに、約-1.0keVの加速エネルギーで進行する。中性成分12Nは、図4の上側位置Znに、約-3.0keVの加速エネルギーで進行する。
【0044】
(第1モード)
第1モードにおいて、ステージ5は、半導体基板Wを位置Ziに位置づけ、角度θだけステージ5を傾斜させる。イオン成分12Iは、半導体基板Wの表面に対して略垂直方向から角度θだけ傾斜した方向から導入される。イオン成分12Iの加速エネルギーは、例えば、約-1keVである。
【0045】
(第2モード)
第2モードにおいて、ステージ5は、半導体基板Wを位置Znに位置づけ、角度φだけステージ5を傾斜させる。中性成分12Nは、半導体基板Wの表面に対して略垂直方向から角度φだけ傾斜した方向から導入される。本実施形態において、角度φはほぼ0°である。従って、中性成分12Nは、半導体基板Wの表面に対して略垂直方向から導入される。中性成分12Nの加速エネルギーは、例えば、約-3keVである。
【0046】
図6は、第1および第2モードによって形成される拡散層の不純物濃度と深さを示すグラフである。縦軸は、不純物(例えば、ボロン)の濃度である。横軸は、半導体基板Wの表面からの深さを示す。第1モードでは、イオン成分12Iの加速エネルギーは、例えば、約-1keVである。従って、イオン成分(例えば、B+)12Iは半導体基板Wの表面から比較的浅い位置に導入される。一方、第2モードでは、中性成分12Nの加速エネルギーは、例えば、約-3keVである。従って、中性成分12N(例えば、B)は半導体基板Wの表面から比較的深い位置まで導入される。
【0047】
イオンビーム12におけるイオン成分12Iと中性成分12Nの濃度は、チャンバ3内の圧力によって変わる。例えば、チャンバ3内の圧力が非常に低く真空に近い場合、イオンビーム12は、チャンバ3内において他の気体とあまり衝突しない。イオンビーム12は、他の気体と衝突することによって中和されて中性成分12Nとなるので、チャンバ3内の圧力が非常に低い場合、イオンビーム12の多くは、イオン成分12Iのまま維持され、中性成分12Nにはあまり変化しない。この場合、イオン成分12Iの濃度が比較的高く、中性成分12Nの濃度は比較的低くなる。
【0048】
一方、チャンバ3内の圧力が比較的高い場合、イオンビーム12の多くは、チャンバ3内において他の気体と衝突する。この場合、イオンビーム12の多くは、中性成分12Nに中和される。従って、中性成分12Nの濃度が比較的高くなり、イオン成分12Iの濃度は比較的低くなる。
【0049】
制御部100は、チャンバ3内の圧力を制御することによってイオン成分12Iと中性成分12Nとの濃度を制御してもよい。これにより、本実施形態によるイオン注入装置1は、第1モードと第2モードで導入される各不純物層を所望の濃度に制御することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態によるイオン注入装置1は、イオン成分12Iを半導体基板Wへ導入する第1モードと中性成分12Nを半導体基板Wへ導入する第2モードとを同一イオン注入工程で連続的に切り替える。第1および第2モードは、同一のイオン注入条件でありながら、互いに異なる加速エネルギーを有するイオン成分12Iと中性成分12Nとを半導体基板Wに注入することができる。エネルギーフィルタ70がイオン成分12Iと中性成分12Nとを分離し、互いに異なる加速エネルギーで半導体基板Wへ注入する。ステージ5が半導体基板Wを移動させ、かつ、イオン成分12Iおよび中性成分12Nの進行方向に対して垂直な面からの傾斜角を変更する。これにより、深さおよび濃度の異なる複数の不純物層からなる拡散層を、一度のイオン注入工程で半導体基板Wに形成することができる。
【0051】
図7は、本実施形態によるトランジスタTrの構成例を示す断面図である。トランジスタTrは、例えば、NAND型フラッシュメモリ等のコントローラに用いられるCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路のトランジスタでよい。トランジスタTrは、半導体基板W上に形成されている。
【0052】
トランジスタTrは、半導体基板Wと、ソース拡散層211、212と、ドレイン拡散層213、214と、ゲート絶縁膜230と、ゲート電極240と、キャップ膜250と、保護膜260と、スペーサ270と、ライナ層280と、層間絶縁膜290と、コンタクト295とを備えている。以下、トランジスタTrは、P型MOSFET(MOS Field Effect Transistor)として説明するが、N型MOSFETであってもよい。
【0053】
半導体基板Wは、例えば、シリコン基板でよい。ゲート電極240が半導体基板Wの表面上にゲート絶縁膜230を介して設けられている。ゲート電極240には、例えば、ドープドポリシリコン、金属等の導電性材料が用いられる。ゲート絶縁膜230には、例えば、シリコン酸化膜、シリコン酸化膜よりも比誘電率の高い高誘電体材料が用いられる。
【0054】
ソース拡散層211、212は、ゲート電極240の一方側に設けられている。ソース拡散層211、212は、深さの異なる複数の不純物層211、212を含む。不純物層211は、第1モードにおいて注入されたイオン成分12Iによって形成された不純物層である。不純物層212は、第2モードにおいて注入された中性成分12Nによって形成された不純物層である。従って、不純物層212は、不純物層211よりも深く形成される。不純物層211、212は、例えば、ボロンを注入して形成された不純物層でよい。
【0055】
また、不純物層211は、半導体基板Wの表面に対して傾斜方向からイオン成分12Iを注入することによって形成されている。一方、不純物層212は、半導体基板Wの表面に対して垂直方向から中性成分12Nを注入することによって形成されている。このため、不純物層211は、不純物層212からゲート電極240の下のチャネル領域CHへ向かって張り出しており、不純物層212よりもチャネル領域CHの近くまで設けられている。
【0056】
ドレイン拡散層213、214は、ゲート電極240の他方側に設けられている。ドレイン拡散層213、214は、深さの異なる複数の不純物層213、214を含む。不純物層213は、第1モードにおいて注入されたイオン成分12Iによって不純物層211と同時にまたは連続して形成された不純物層である。不純物層214は、第2モードにおいて注入された中性成分12Nによって不純物層212と同時にまたは連続して形成された不純物層である。従って、不純物層214は、不純物層213よりも深く形成される。不純物層213、214は、例えば、ボロンを注入して形成された不純物層でよい。
【0057】
また、不純物層213は、半導体基板Wの表面に対して傾斜方向からイオン成分12Iを注入することによって形成されている。一方、不純物層214は、半導体基板Wの表面に対して垂直方向から中性成分12Nを注入することによって形成されている。このため、不純物層213は、不純物層214からゲート電極240の下のチャネル領域CHへ向かって張り出しており、不純物層214よりもチャネル領域CHの近くまで設けられている。
【0058】
尚、ソース拡散層211、212およびドレイン拡散層213、214には、さらにチャネル領域CH側にLDD(Lightly Doped Drain)220が設けられていてもよい。また、本実施形態では、ソース拡散層およびドレイン拡散層は、それぞれ2つの不純物層で構成されているが、3つ以上の不純物層で構成されていてもよい。
【0059】
ゲート電極240の上には、キャップ膜250が設けられている。キャップ膜250は、ゲート電極240を加工する際のハードマスクとして用いられる。キャップ膜250には、例えば、シリコン窒化膜等の絶縁材料が用いられる。
【0060】
ゲート電極240、キャップ膜250を被覆するように、保護膜60が設けられている。保護膜260には、例えば、シリコン酸化膜等の絶縁材料が用いられる。
【0061】
ゲート電極240の両側には、保護膜260を介してスペーサ270が設けられている。スペーサ270には、例えば、シリコン酸化膜等の絶縁材料が用いられる。
【0062】
スペーサ270および保護膜260上を被覆するように、ライナ層280が設けられている。ライナ層280には、例えば、シリコン窒化膜等の絶縁材料が用いられる。ライナ層280は、外部から水素等の有害物質の侵入を抑制する。
【0063】
ライナ層280上には、層間絶縁膜290が設けられている。層間絶縁膜290には、例えば、シリコン酸化膜等の絶縁材料が用いられる。
【0064】
コンタクト295は、層間絶縁膜290およびライナ層280等を貫通してソース拡散層211、212またはドレイン拡散層213、214に接続されている。コンタクト295には、例えば、タングステン、銅等の低抵抗金属が用いられる。
【0065】
このような構成によって、トランジスタTrは、ゲート電極240の電位に応じて、チャネル領域CHを介してソース拡散層211、212とドレイン拡散層213、214との間を電気的に接続または切断する。
【0066】
図8は、第1モードのイオン成分12Iの注入によって半導体基板Wに生じたボロンB1、格子間シリコンSi_int1および空格子V1の各濃度を示すグラフである。図9は、第1モードのイオン成分12Iおよび第2モードの中性成分12Nの注入によって半導体基板Wに生じたボロンB1、B2、格子間シリコンSi_int1、Si_int2および空格子V1、V2の各濃度を示すグラフである。図10は、第1および第2モードを実行し、アニール処理後の半導体基板W内のボロンB1、B2の各濃度を示すグラフである。これらのグラフの縦軸は濃度を示し、横軸は半導体基板Wの表面からの深さXjを示す。
【0067】
図8に示すように、第1モードでは、イオン成分12Iの注入により、ボロンB1が半導体基板Wの表面から深さ位置XB1に注入される。このとき、イオン成分12Iの注入の影響により、空格子V1および格子間シリコンSi_int1が発生する。格子間シリコンSi_int1は、半導体基板Wのシリコン結晶にボロンB1が衝突することによって、結晶結合から切断されたシリコン原子である。空格子V1は、結晶結合から切断されたシリコン原子の後に残る空間である。空格子V1は、半導体基板Wの表面から深さ位置XV1に発生する。格子間シリコンSi_int1は、半導体基板Wの表面から深さ位置XSi1に発生する。
【0068】
空格子V1および格子間シリコンSi_int1は、シリコン結晶にボロンB1が衝突することによって発生するので、XV1<XB1<XSi1となる。空格子V1は、結晶欠陥であるので、少ない方が好ましい。尚、深さ位置XB1、XV1およびXSi1は、それぞれボロンB1、空格子V1および格子間シリコンSi_int1の濃度ピークの位置を示す。
【0069】
図9に示すように、第2モードでは、中性成分12Nの注入により、ボロンB2が半導体基板Wの表面から深さ位置XB2に注入される。このとき、中性成分12Nの注入の影響により、空格子V2および格子間シリコンSi_int2が発生する。格子間シリコンSi_int2は、半導体基板Wのシリコン結晶にボロンB2が衝突することによって、結晶結合から切断されたシリコン原子である。空格子V2は、結晶結合から切断されたシリコン原子の後に残る空間である。例えば、空格子V2は、半導体基板Wの表面から深さ位置XV2に発生する。格子間シリコンSi_int2は、半導体基板Wの表面から深さ位置XSi2に発生する。
【0070】
空格子V2および格子間シリコンSi_int2は、シリコン結晶にボロンB2が衝突することによって発生するので、XV2<XB2<XSi2となる。空格子V2は、結晶欠陥であるので、少ない方が好ましい。尚、深さ位置XB2、XV2およびXSi2は、それぞれボロンB2、空格子V2および格子間シリコンSi_int2の濃度ピークの位置を示す。
【0071】
ここで、空格子V2の深さ位置XV2は、格子間シリコンSi_int1の深さ位置XSi1に近い、あるいは、ほぼ等しい。これにより、アニール処理後、格子間シリコンSi_int1が空格子V2に再配置され、空格子V2および格子間シリコンSi_int1の濃度を低下させることができる。これにより、ソース拡散層211、212およびドレイン拡散層213、214における結晶欠陥(EOR(End-Of-Range)欠陥)を低減させることができる。また、第2モードにおいて中性成分12Nの注入エネルギーは高いため、格子間シリコンSi_int2は広く散乱してその密度が低くなる。これにより、ソース拡散層211、212およびドレイン拡散層213、214における結晶欠陥をさらに低減させることができる。
【0072】
第1および第2モードの実行後、アニール処理を実行する。これにより、図10に示すように、空格子V1、V2および格子間シリコンSi_int1、Si_int2が上述のように減少し、ボロンB1、B2がソース拡散層211、212およびドレイン拡散層213、214を形成する。このとき、空格子V1、V2および格子間シリコンSi_int1、Si_int2が減少し、ボロンB1、B2がソース拡散層211、212およびドレイン拡散層213、214を形成する。
【0073】
このように、本実施形態によるイオン注入装置1およびイオン注入方法は、結晶欠陥の少ない複数の不純物層211、212(または複数の不純物層213、214)からなるソース拡散層(またはドレイン拡散層)を、1シーケンスの短いイオン注入工程で形成することができる。結晶欠陥の少ない複数の不純物層213、214からなるドレイン拡散層は、ドレイン近傍の電界を緩和することができ、リーク電流およびホットキャリアの生成を抑制することができる。
【0074】
また、イオン注入装置1およびイオン注入方法は、複数の濃度プロファイルを有する拡散層を、1シーケンスの不純物注入工程で形成することができる。よって、本実施形態は、スループットを向上させ、生産コストを抑えることができる。
【0075】
また、イオンビーム12におけるイオン成分12Iと中性成分12Nの濃度は、チャンバ3内の圧力の調整によって制御可能である。従って、制御部100は、チャンバ3内の圧力を調整することによってイオン成分12Iと中性成分12Nとの濃度を制御してもよい。例えば、チャンバ3内の圧力を1×10-3(Pa)~1×10-2(Pa)へ10倍にすると、イオンビーム12は、その分増加した粒子との衝突確率が増える。このため、中性成分12Nの量は10倍増加する。これにより、本実施形態は、中性成分12Nの濃度を制御することによって、拡散層の濃度プロファイルを精度良く形成することができる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0077】
1 イオン注入装置、3 チャンバ、5 ステージ、10 イオンソース、20 アナライザ、30 Qレンズ、40 スキャナ、50 パラレルレンズ、60 加減速電極、70 エネルギーフィルタ、80,90 駆動部、100 制御部、110~130 電源、W 半導体基板
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10