(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】後処理システムの制御装置、後処理システム、後処理システムを制御する方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20241030BHJP
F01N 3/18 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
F01N3/08 H
F01N3/18 B
(21)【出願番号】P 2021165891
(22)【出願日】2021-10-08
【審査請求日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020185790
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】池戸 隆人
(72)【発明者】
【氏名】上田 松栄
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 英人
(72)【発明者】
【氏名】増井 健人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和也
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057591(JP,A)
【文献】特開2017-110547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/18
B01D 53/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気が流通する主流路に設けられて前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して
前記有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を含む後処理システムの制御装置であって、
前記主流路の出口における
前記有害物質の濃度を取得する出口濃度取得部と、
数理モデルを用いて、前記触媒に吸着されている添加剤の吸着量としての第1吸着量を推定する第1推定部と、
前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記触媒における添加剤の吸着量を表す第2吸着量と、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する第2推定部と、
前記第2推定部により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記供給部における添加剤の供給を制御する供給制御部と、
を備え
、
前記第2推定部は、前記第1推定部における前回処理で推定された前記第1吸着量と、前記第2推定部における前回処理で推定された前記利得値とから、状態推定理論を用いて、前記第2吸着量と、前記利得値とを推定する、後処理システムの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の後処理システムの制御装置であって、
前記第1推定部は、さらに、
前記数理モデルを用いて、前記触媒における
前記有害物質の浄化率と、前記触媒から流出する添加剤の流出量と、をそれぞれ推定し、
推定した前記有害物質の浄化率を用いて、前記主流路の出口における
前記有害物質の濃度である出口有害物質濃度を推定し、
推定した前記流出量を用いて、前記主流路の出口における添加剤の濃度である出口添加剤濃度を推定する、後処理システムの制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の後処理システムの制御装置であって、
前記第2推定部は、さらに、
前記出口有害物質濃度と、前記出口添加剤濃度とから、前記出口濃度取得部により取得されるであろう前記有害物質の濃度の推定値を求め、
前記状態推定理論において、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を、求めた前記出口濃度取得部の前記推定値で補正する、後処理システムの制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の後処理システムの制御装置であって、
前記第2推定部は、前記状態推定理論として、評価関数として平均二乗誤差を用いた場合に、状態量の平均二乗誤差を最小にする推定値を求めるアルゴリズムを使用する、後処理システムの制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の後処理システムの制御装置であって、
前記第2推定部は、さらに、
前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度と、前記出口濃度取得部の誤差を表す所定値とから、前記出口濃度取得部の観測雑音の分散を求め、
前記状態推定理論において、求めた前記観測雑音の分散を使用して、前記第2吸着量と前記利得値とを推定する、後処理システムの制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の後処理システムの制御装置であって、
前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、
前記第1推定部は、前記複数の触媒全体としての添加剤の吸着量の合計値を前記第1吸着量として推定し、
前記第2推定部は、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記第2吸着量であって、前記複数の触媒全体としての添加剤の吸着量の合計値を表す
前記第2吸着量を推定し、
前記供給制御部は、前記第2推定部により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記複数の触媒に対する添加剤の供給を制御する、後処理システムの制御装置。
【請求項7】
後処理システムであって、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の後処理システムの制御装置と、
排気が流通する主流路に設けられ、前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、
前記触媒に対して
前記有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、
を備える、後処理システム。
【請求項8】
排気が流通する主流路に設けられて前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して
前記有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を含む後処理システムを制御する方法であって、情報処理装置が、
前記主流路の出口における
前記有害物質の濃度を取得する工程と、
数理モデルを用いて、前記触媒に吸着されている添加剤の吸着量としての第1吸着量を推定する
第1推定工程と、
取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記触媒における添加剤の吸着量を表す第2吸着量と、取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する
第2推定工程と、
前記第2推定
工程により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記供給部における添加剤の供給を制御する工程と、
を備え
、
前記第2推定工程では、前記第1推定工程における前回処理で推定された前記第1吸着量と、前記第2推定工程における前回処理で推定された前記利得値とから、状態推定理論を用いて、前記第2吸着量と、前記利得値とを推定する、方法。
【請求項9】
排気が流通する主流路に設けられて前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して
前記有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を含む後処理システムを制御するコンピュータプログラムであって、情報処理装置に、
前記主流路の出口における
前記有害物質の濃度を取得する機能と、
数理モデルを用いて、前記触媒に吸着されている添加剤の吸着量としての第1吸着量を推定する
第1推定機能と、
取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記触媒における添加剤の吸着量を表す第2吸着量と、取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する
第2推定機能と、
前記第2推定
機能により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記供給部における添加剤の供給を制御する機能と、
を実行させ
、
前記第2推定機能は、前記第1推定機能における前回処理で推定された前記第1吸着量と、前記第2推定機能における前回処理で推定された前記利得値とから、状態推定理論を用いて、前記第2吸着量と、前記利得値とを推定する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後処理システムを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等から排出される排気に含まれる有害物質を浄化する技術が知られている。例えば、特許文献1~4には、添加剤としてNH3(アンモニア)を使用し、有害物質としてのNOx(窒素酸化物)を浄化するSCR触媒(選択還元触媒:Selective Catalytic Reduction catalyst)を用いた後処理システムについて開示されている。特許文献1には、SCR触媒の上流側に加水分解触媒を設けることが記載されている。特許文献2には、排気が流通する主流路の出口にNOx検出器を設け、NOx検出器の検出信号を、添加剤量を制御する制御ユニットに入力することが記載されている。特許文献3には、主流路に第1及び第2のガスセンサを設け、第1及び第2のガスセンサの検出信号から、主流路内のNOx濃度を推定することが記載されている。特許文献4には、エンジンに関する情報(周囲湿度、マニホールド圧力、マニホールド温度、燃料消費率、エンジン回転速度)をニューラルネットワーク(NN:Neural Network)に入力し、SCR触媒から排出されるNOx量を予測することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2020-504260号公報
【文献】米国特許第8230677号明細書
【文献】特開2015-81602号公報
【文献】特開2003-328732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SCR触媒を備える後処理システムは、SCR触媒に対して添加剤(NH3)の元となる尿素水を供給する供給部を備えている。この供給部では、ハード的なばらつき(例えば、噴射弁やポンプユニット等の製造誤差)や、経年劣化等に起因して、供給制御部からの指令値通りの添加剤の供給が行えない場合がある。換言すれば、異なる複数の供給部に対して同一の指令値を送信した場合であっても、各供給部におけるハード的なばらつきや劣化度合いに応じて、供給部による添加剤の実際の供給量と、他の供給部による添加剤の実際の供給量とが相違する場合がある。このような場合、SCR触媒において狙い通りの浄化性能が得られず、SCR触媒におけるNOx浄化率が低下する。したがって、供給制御部には、このような「供給部のばらつき」を踏まえた添加剤の供給量の制御が求められていた。しかし、特許文献1~4に記載の技術では、供給部のばらつきについて何ら考慮されていない。
【0005】
また、供給部に対して送信する指令値の決定には、SCR触媒の下流側における排気中のNOx濃度(以降「出口NOx濃度」、「出口有害物質濃度」とも呼ぶ)が用いられる場合がある。この出口NOx濃度を測定するセンサについても、供給部と同様に、ハード的なばらつきや経年劣化等に起因した誤差が生じることがある。このような誤差は、指令値の決定のために算出される状態量(すなわち、SCR触媒のNH3吸着量や、供給部のばらつきを表す利得値)の推定精度低下の要因となる。従って、出口NOx濃度を測定するセンサ誤差に対する、状態量の推定値のロバスト性を向上させることが求められていた。
【0006】
なお、このような課題は、内燃機関からの排気に限らず、有害物質を含む排気を浄化する後処理システムの全般に共通する。また、このような課題は、尿素水を供給する方式に限らず、NH3ガスを供給する方式にも共通する。さらに、このような課題は、添加剤としてNH3を用いるSCR触媒に限らず、添加剤としてリッチスパイク処理により生じるCO(一酸化炭素),H2(水素),HC(炭化水素)を用いるNSR触媒(吸蔵還元触媒:NOx Storage Reduction catalyst)や、添加剤として酸化還元反応により生じるO2(酸素)を使用する三元触媒(Three-Way Catalyst)にも共通する。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、添加剤を用いて排気中の有害物質を浄化する後処理システムにおいて、添加剤を供給する供給部のばらつきを考慮した添加剤の供給を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。排気が流通する主流路に設けられて前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して前記有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を含む後処理システムの制御装置であって、前記主流路の出口における前記有害物質の濃度を取得する出口濃度取得部と、数理モデルを用いて、前記触媒に吸着されている添加剤の吸着量としての第1吸着量を推定する第1推定部と、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記触媒における添加剤の吸着量を表す第2吸着量と、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する第2推定部と、前記第2推定部により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記供給部における添加剤の供給を制御する供給制御部と、を備え、前記第2推定部は、前記第1推定部における前回処理で推定された前記第1吸着量と、前記第2推定部における前回処理で推定された前記利得値とから、状態推定理論を用いて、前記第2吸着量と、前記利得値とを推定する、後処理システムの制御装置。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、排気が流通する主流路に設けられて前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を含む後処理システムの制御装置が提供される。この制御装置は、前記主流路の出口における有害物質の濃度を取得する出口濃度取得部と、数理モデルを用いて、前記触媒に吸着されている添加剤の吸着量としての第1吸着量を推定する第1推定部と、前記第1吸着量と、前記供給部のばらつきを表す利得値とから、状態推定理論を用いて、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記触媒における添加剤の吸着量を表す第2吸着量と、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する第2推定部と、前記第2推定部により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記供給部における添加剤の供給を制御する供給制御部と、を備える。
【0010】
この構成によれば、供給制御部は、第2推定部により推定された第2吸着量と、供給部のばらつきを表す利得値とを用いて、供給部における添加剤の供給を制御するため、後処理システムにおいて、添加剤を供給する供給部のばらつきを考慮した添加剤の供給(例えば、供給量、供給サイクル、濃度等)を可能とできる。この結果、触媒における有害物質の浄化率の低下を抑制できる。また、第1推定部は、数理モデルを用いて第1吸着量を推定するため、数理モデルに対して予め他の触媒や排気管等の影響を織り込んでおくことで、他の触媒や排気管等に関する情報を取得することなく、第1吸着量を高精度に推定できる。さらに、第2推定部は、状態推定理論を用いて第2吸着量と利得値とを推定するため、第1吸着量よりも高精度な第2吸着量を求めることができると共に、実測が困難な状態量(すなわち、供給部のばらつきを表す利得値)を推定できる。
【0011】
(2)上記形態の後処理システムの制御装置において、前記第1推定部は、さらに、前記数理モデルを用いて、前記触媒における有害物質の浄化率と、前記触媒から流出する添加剤の流出量と、をそれぞれ推定し、推定した前記有害物質の浄化率を用いて、前記主流路の出口における有害物質の濃度である出口有害物質濃度を推定し、推定した前記流出量を用いて、前記主流路の出口における添加剤の濃度である出口添加剤濃度を推定してもよい。
この構成によれば、第1推定部は、数理モデルを用いて、触媒における有害物質の浄化率と、触媒から流出する添加剤の流出量とを推定できる。また、第1推定部は、推定された有害物質の浄化率から、主流路の出口における有害物質の濃度である出口有害物質濃度を推定できる。さらに、第1推定部は、推定された添加剤の流出量から、主流路の出口における添加剤の濃度である出口添加剤濃度を推定できる。
【0012】
(3)上記形態の後処理システムの制御装置において、前記第2推定部は、さらに、前記出口有害物質濃度と、前記出口添加剤濃度とから、前記出口濃度取得部により取得されるであろう前記有害物質の濃度の推定値を求め、前記状態推定理論において、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を、求めた前記出口濃度取得部の前記推定値で補正してもよい。
この構成によれば、第2推定部は、出口濃度取得部により取得されるであろう有害物質の濃度の推定値を求め、出口濃度取得部により取得された有害物質の濃度(観測データ)を、求めた推定値で補正する。この結果、供給部による添加剤の供給をより適正化することができ、触媒における有害物質の浄化率をより向上できる。
【0013】
(4)上記形態の後処理システムの制御装置において、前記第2推定部は、前記状態推定理論として、評価関数として平均二乗誤差を用いた場合に、状態量の平均二乗誤差を最小にする推定値を求めるアルゴリズムを使用してもよい。
この構成によれば、第2推定部は、状態推定理論として、評価関数として平均二乗誤差を用いた場合に、状態量の平均二乗誤差を最小にする推定値を求めるアルゴリズムを使用することで、第1吸着量よりも高精度な第2吸着量を求めることができると共に、実測が困難な状態量(すなわち、供給部のばらつきを表す利得値)を推定できる。
【0014】
(5)上記形態の後処理システムの制御装置において、前記第2推定部は、さらに、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度と、前記出口濃度取得部の誤差を表す所定値とから、前記出口濃度取得部の観測雑音の分散を求め、前記状態推定理論において、求めた前記観測雑音の分散を使用して、前記第2吸着量と前記利得値とを推定してもよい。
この構成によれば、第2推定部は、出口濃度取得部により取得された有害物質の濃度(出口NOx濃度、出口有害物質濃度)と、出口濃度取得部の誤差を表す所定値とから、出口濃度取得部の観測雑音の分散を求める。従来では、観測雑音の分散として一定値を用いることが一般的であったところ、本構成によれば、出口濃度取得部の観測雑音の分散を、出口濃度取得部の取得値(観測値)に依存した大きさとできる。また、第2推定部は、このようにして求めた出口濃度取得部の観測雑音の分散を、状態推定理論において使用して第2吸着量と利得値とを推定する。このため、出口濃度取得部の誤差に対する、状態量(第2吸着量と利得値)の推定値のロバスト性を向上させることができる。そして、供給制御部は、第2推定部により推定された第2吸着量と利得値とを用いて、供給部における添加剤の供給を制御するため、触媒における有害物質の浄化率をより一層向上できる。
【0015】
(6)上記形態の後処理システムの制御装置において、前記主流路に同種の複数の前記触媒が設けられている場合に、前記第1推定部は、前記複数の触媒全体としての添加剤の吸着量の合計値を前記第1吸着量として推定し、前記第2推定部は、前記出口濃度取得部により取得された前記有害物質の濃度を考慮した前記第2吸着量であって、前記複数の触媒全体としての添加剤の吸着量の合計値を表す第2吸着量を推定し、前記供給制御部は、前記第2推定部により推定された前記第2吸着量と前記利得値とを用いて、前記複数の触媒に対する添加剤の供給を制御してもよい。
この構成によれば、主流路に同種の複数の触媒が設けられている場合に、第1推定部及び第2推定部は、当該複数の触媒を1つの触媒とみなして第1吸着量及び第2吸着量を推定する。このため、触媒と触媒との間における排気管等の影響を、数理モデルや状態推定理論に予め織り込んでおくことで、排気管等に関する情報を取得することなく、第1吸着量及び第2吸着量を高精度に推定できる。換言すれば、各触媒の吸着量をそれぞれ推定する場合と比較して、センサ等の数を減らすことができるため、後処理システムの部品点数を削減できると共に、第1推定部及び第2推定部の演算負荷を低減でき、処理を高速化できる。また、第1推定部及び第2推定部は、主流路に設けられた複数の触媒が同種の触媒である場合に、これらを1つの触媒とみなして第1吸着量及び第2吸着量を推定する。同種の触媒であれば、第1吸着量及び第2吸着量を左右する触媒の情報項目(例えば、触媒の温度、触媒に吸着されている添加剤の量)に相違がないため、第1推定部及び第2推定部は、第1吸着量及び第2吸着量を精度良く推定することができる。
【0016】
(7)本発明の一形態によれば、後処理システムが提供される。この後処理システムは、上記形態の後処理システムの制御装置と、排気が流通する主流路に設けられ、前記排気中の有害物質を浄化する触媒と、前記触媒に対して有害物質を浄化するための添加剤を供給する供給部と、を備える。
この構成によれば、添加剤を供給する供給部のばらつきを考慮した添加剤の供給が可能であり、かつ、触媒における有害物質の浄化率の低下を抑制することが可能な後処理システムを提供できる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、後処理システムの制御装置、当該制御装置を含む後処理システム、これら装置及びシステムの制御方法、これら装置及びシステムにおいて実行されるコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態としての後処理システムのブロック図である。
【
図3】制御装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】第2実施形態の後処理システムのブロック図である。
【
図5】第2実施形態の制御装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】第3実施形態における後処理システムのブロック図である。
【
図7】第4実施形態の後処理システムのブロック図である。
【
図8】第4実施形態の制御装置による処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】供給部と出口NOx濃度取得部とのばらつきについて説明する図である。
【
図10】後処理システムを用いたシミュレーション結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての後処理システム1のブロック図である。本実施形態の後処理システム1は、制御装置10と、排気浄化装置20とを備える。本実施形態の制御装置10は、後述する処理によって、供給部(尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64)のばらつきを考慮した添加剤の供給を可能とできる。本実施形態の排気浄化装置20は、内燃機関92の排気中における有害物質(窒素酸化物:NOx)を浄化する装置であり、触媒としてSCR触媒(選択還元触媒:Selective Catalytic Reduction catalyst)40を備え、添加剤としてNH
3(アンモニア)を使用する場合を例示する。
【0020】
内燃機関92は、例えば、ディーゼルエンジンや、リーンバーン運転方式のガソリンエンジンである。燃焼状態制御部91は、内燃機関92に対する空気や燃料の噴射を制御することで、内燃機関92内の空燃比をリーン、ストイキ、リッチの各状態へと制御する。燃焼状態制御部91は、例えば、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)により実装される。なお、以下の説明では、排気浄化装置20のうち、内燃機関92に近い側を「上流側」と呼び、内燃機関92に遠い側を「下流側」と呼ぶ。
図1の場合、左側が上流側に相当し、右側が下流側に相当する。なお、排気浄化装置20は、内燃機関92に代えて、有害物質を含む排気を排出する他の装置(例えば、工場、多種の燃焼装置等)に接続されてもよい。
【0021】
排気浄化装置20は、内燃機関92に接続された排気管30と、排気管30上に設けられたSCR触媒40と、尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64とを備える。排気管30は、内燃機関92からの排気が流通する主流路を形成する。内燃機関92からの排気は、排気管30内の主流路を通って、SCR触媒40を通過して外気に放出される。SCR触媒40は、添加剤の供給を受けて、排気中のNOxを浄化する。SCR触媒40は「触媒」に相当する。尿素ポンプユニット62は、内部に添加剤となる尿素水を貯蔵すると共に、尿素ノズル64へと尿素水を送出するポンプを内蔵している。尿素ノズル64は、尿素水の噴射口であり、SCR触媒40の上流側に設けられてSCR触媒40に対して尿素水を供給する。尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64は「供給部」に相当する。尿素ノズル64は「噴射弁」とも呼ばれる。
【0022】
制御装置10は、CPU11と、供給制御部61と、記憶部12と、流量取得部52と、排気温度取得部53と、NOx濃度取得部54と、前端温度取得部56と、温度取得部58と、出口NOx濃度取得部99とを備える。CPU11及び記憶部12と、供給制御部61とは、例えば、ECUにより実装される。
【0023】
CPU11は、ROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することにより、制御装置10の各部を制御する。そのほかCPU11は、第1推定部110及び第2推定部111としても機能する。
【0024】
第1推定部110は、後述する触媒状態推定モデル120を用いて、SCR触媒40に吸着されているNH
3の吸着量を推定する。以降、第1推定部110により推定されたSCR触媒40のNH
3吸着量を「第1吸着量」とも呼ぶ。また、第1推定部110は、
図3の処理において、第1モデル121の推定結果(NOx浄化率)を用いて、排気管30の出口(換言すれば、SCR触媒40の下流側)におけるNOxの濃度である出口NOx濃度を推定する。さらに、第1推定部110は、
図3の処理において、第2モデル122の推定結果(NH
3の流出量)を用いて、排気管30の出口におけるNH
3の濃度である出口NH
3濃度を推定する。なお、出口NOx濃度は「出口有害物質濃度」に相当し、出口NH
3濃度は「出口添加剤濃度」に相当する。
【0025】
第2推定部111は、
図3の処理において、SCR触媒40に吸着されているNH
3の吸着量と、供給部のばらつきを表す利得値と、を推定する。以降、第2推定部111により推定されたSCR触媒40のNH
3吸着量を「第2吸着量」とも呼ぶ。なお、「供給部のばらつきを表す利得値」とは、供給部の中央値からのばらつき度合いを表す値である。供給部のばらつきを表す利得値は、尿素ポンプユニット62や尿素ノズル64の製造誤差(ハード的なばらつき)や、尿素ポンプユニット62や尿素ノズル64の経年劣化に起因して生じる。供給部のばらつきを表す利得値を、以降、単に「利得値」とも呼ぶ。
【0026】
供給制御部61は、尿素ポンプユニット62から供給され、尿素ノズル64から噴射される尿素水の供給(例えば、供給量、供給サイクル、濃度等)を制御することで、添加剤としてのNH3の供給を制御する。ここで、本実施形態の供給制御部61は、第2推定部111により推定された第2吸着量と利得値とに応じた、尿素水の供給(例えば、供給量、供給サイクル、濃度等)を行う。詳細は後述する。
【0027】
流量取得部52は、内燃機関92からの排気の流量を取得する。流量取得部52は、例えば、排気管30に設けられたピトー管式流量計によって測定された測定信号を取得することで実現してもよい。また、流量取得部52は、内燃機関92への吸入空気量信号や、燃料噴射量信号から排気の流量を推定してもよい。排気温度取得部53は、内燃機関92からの排気の温度を測定するセンサである。NOx濃度取得部54は、SCR触媒40へ流入する排気中のNOx濃度を測定するセンサである。
【0028】
前端温度取得部56は、SCR触媒40の入口近傍(前端)における温度を測定するセンサである。温度取得部58は、SCR触媒40の床温を測定するセンサである。出口NOx濃度取得部99は、排気管30の出口(換言すれば、SCR触媒40の下流側)における排気中のNOx濃度を測定するセンサである。出口NOx濃度取得部99は「出口濃度取得部」に相当する。なお、NOx濃度取得部54は、センサによる測定に代えて、内燃機関92の燃焼状態(リーン、ストイキ、リッチ)から排気中のNOx濃度を推定してもよい。
【0029】
なお、流量取得部52と、排気温度取得部53と、NOx濃度取得部54とは、SCR触媒40へと流入する排気の情報を取得する「第2取得部」とも呼ぶ。前端温度取得部56と、温度取得部58とは、SCR触媒40の情報を取得する「第1取得部」とも呼ぶ。
【0030】
記憶部12は、フラッシュメモリ、メモリカード、ハードディスクなどで構成される。記憶部12には、予め触媒状態推定モデル120が記憶されている。触媒状態推定モデル120には、第1モデル121と、第2モデル122と、第3モデル123とが含まれている。
【0031】
第1モデル121は、SCR触媒40における「NOx浄化率」を推定するためのモデルであり、機械学習モデル、具体的にはNN(ニューラルネットワーク:Neural Network)により構成されている。第1モデル121の入力変数には、例えば、以下の項目a1~a3に示すパラメータのうち、少なくとも1つ以上を採用できる。第1モデル121の出力変数は、入力変数が表わす諸条件下における、SCR触媒40のNOx浄化率の推定値である。
(a1)触媒の情報:SCR触媒40の前端の温度と、SCR触媒40の温度と、1時刻前においてSCR触媒40に吸着されているNH3の吸着量と、のうちの少なくとも1つ
(a2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
(a3)添加剤の情報:SCR触媒40に流入するNH3の流入量
【0032】
第2モデル122は、SCR触媒40から流出する「NH3の流出量」を推定するためのモデルであり、機械学習モデル、具体的にはNNにより構成されている。第2モデル122の入力変数には、例えば、以下の項目b1~b3に示すパラメータのうち、少なくとも1つ以上を採用できる。第2モデル122の出力変数は、入力変数が表わす諸条件下において、SCR触媒40から流出するNH3の流出量の推定値である。
(b1)触媒の情報:SCR触媒40の前端の温度と、SCR触媒40の温度と、1時刻前においてSCR触媒40に吸着されているNH3の吸着量(実吸着量)と、SCR触媒40の温度の時間微分値と、SCR触媒40におけるNH3の飽和吸着量に対する吸着量(実吸着量)の比と、のうちの少なくとも1つ
(b2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度と、排気の流量と、排気に含まれるNOxの量と、のうちの少なくとも1つ
(b3)添加剤の情報:SCR触媒40に流入するNH3の流入量
【0033】
なお、第1モデル121及び第2モデル122は、出力変数が推定対象となる物理量と一致するように、入力変数と出力変数との関係をNNに学習させ、NNにおける重み定数等が予め決定されている。なお、第1モデル121及び第2モデル122の学習には、内燃機関92の過渡運転時に取得されたデータを教師データとして用いることが好ましい。
【0034】
図2は、第3モデル123について説明する図である。第3モデル123は、SCR触媒40において、「NOxの浄化反応に寄与しないNH
3量」を推定するためのモデルであり、物理モデルにより構成されている。添加剤としてのNH
3は、特に高温環境下において熱分解や酸化反応によって失われ、SCR触媒40におけるNOxの浄化反応に寄与しないことが知られている。第3モデル123では、これら熱分解及び酸化反応に起因して減少するNH
3の量を、NOxの浄化反応に寄与しない添加剤量として推定する。
図2に示すように、第3モデル123は、アレニウスの式により構成されている。アレニウスの式のうち、頻度因子(A)、活性化エネルギー(E)については予め実験等により求めた値を使用できる。第3モデル123の入力変数には、例えば、以下の項目c1~c3に示すパラメータのうち、少なくとも1つ以上を採用できる。第3モデル123の出力変数Zは、入力変数(ベクトルU)が表わす諸条件下において、SCR触媒40でNOxの浄化反応に寄与しないNH
3量の推定値である。
(c1)触媒の情報:SCR触媒40の前端の温度と、SCR触媒40の温度と、のうちの少なくとも1つ
(c2)排気の情報:内燃機関92からの排気の温度
(c3)添加剤の情報:SCR触媒40に流入するNH
3の流入量
【0035】
触媒状態推定モデル120は、1時刻後においてSCR触媒40に吸着されているNH3吸着量の推定値を求めるためのモデルである。触媒状態推定モデル120は、以下の数式1により構成されている。
【0036】
【0037】
数式1の各値は、以下の項目d1~d5に示す通りである。
(d1)NH3Ad[k+1]:1時刻後においてSCR触媒40に吸着されているNH3吸着量の推定値
(d2)NH3Ad[k]:前回の推定処理の結果得られたNH3吸着量(実吸着量)
(d3)NH3_SCRin[k]:SCR触媒40に流入するNH3の流入量
(d4)NH3_SCRout[k]:第2モデル122によって推定されたSCR触媒40から流出するNH3の流出量
(d5)NOxConv[k]:第1モデル121によって推定されたSCR触媒40のNOx浄化率
(d6)NOx_SCRin[k]:SCR触媒40に流入する排気に含まれるNOxの量
(d7)NH3_thrmlytc[k]:第3モデル123によって推定されたNOxの浄化反応に寄与しないNH3量
【0038】
なお、数式1において、時刻t=kΔtは現在時刻を、時刻t=(k+1)Δtは1時刻後(1単位時間後)を、時刻t=(k-1)Δtは1時刻前(1単位時間前)を意味する。kは整数である。Δtは制御装置10における単位時間(例えば、CPU11の演算周期、上述した各取得部52~58におけるサンプリング周期)である。これらの点は、
図3以降の説明においても同様である。
【0039】
第1推定部110は、第1モデル121を用いてNOx浄化率NOxConv[k]を推定する。同様に、第1推定部110は、第2モデル122を用いてNH3の流出量NH3_SCRout[k]を推定し、第3モデル123を用いてNOxの浄化反応に寄与しないNH3量NH3_thrmlytc[k]を推定する。その後、第1推定部110は、これらの推定結果と、流量取得部52等の取得値とを、触媒状態推定モデル120(数式1)に入力することで、1時刻後においてSCR触媒40に吸着されているNH3吸着量の推定値NH3Ad[k+1]を求める。なお、触媒状態推定モデル120により推定されるNH3吸着量NH3Ad[k],NH3Ad[k+1]は「第1吸着量」に相当する。
【0040】
このように、触媒状態推定モデル120は、数理モデルにより構成されている。触媒状態推定モデル120は、NNモデル(機械学習モデル)である第1モデル121及び第2モデル122による推定結果(NOx浄化率、NH3の流出量)と、物理モデルである第3モデル123による推定結果(NOxの浄化反応に寄与しないNH3量)とを併用し、物理則を用いて、1時刻後(時刻t=(k+1)Δt)においてSCR触媒40に吸着されているNH3吸着量NH3Ad[k+1]を推定するモデルである。このため、触媒状態推定モデル120を用いることで、第1推定部110は、多種多様な要因(例えば、項目a1~a3,b1~b3,c1~c3に列挙した要因)が影響するNH3吸着量NH3Ad[k+1]の推定を、物理則を満たしつつ、高精度、かつ高速に実施できる。
【0041】
また、SCR触媒40のNH3吸着量は、前の時刻のNH3吸着量の影響を受けて変動する(換言すれば、時間履歴の影響を受けて変動する)。触媒状態推定モデル120によれば、第1~第3モデル121,122,123による現在時刻kの推定結果NH3Ad[k]を用いて、次の時刻k+1におけるNH3吸着量NH3Ad[k+1]を推定する。このため、第1推定部110は、前の時刻のSCR触媒40のNH3吸着量を踏まえて、次の時刻におけるNH3吸着量を高精度に推定できる。
【0042】
図3は、制御装置10による処理の手順を示すフローチャートである。
図3に示す処理は、SCR触媒40におけるNH
3吸着量を推定し、供給制御部61によるNH
3の供給を制御する処理である。
図3に示す処理は任意のタイミングで実行可能であり、例えば、内燃機関92の始動後に繰り返し実行される。なお、
図3に示す処理は、後処理システム1の利用者からの要求によって実行されてもよく、後処理システム1を搭載する車両等における他の制御部からの要求によって実行されてもよい。
【0043】
ステップS10において第2推定部111は、処理開始条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、例えば、第2推定部111は、温度取得部58が正常であり、かつ、尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64が正常であり、かつ、NOx濃度取得部54と出口NOx濃度取得部99とが活性状態である場合に、処理の開始条件が成立していると判定できる。開始条件が成立している場合(ステップS10:YES)、第2推定部111は処理をステップS12へ遷移させる。開始条件が成立していない場合(ステップS10:NO)、第2推定部111は開始条件の成立まで待機する。
【0044】
ステップS12において第2推定部111は、流量取得部52から、現在(時刻t=kΔt)の排気管30の内部の流量Q[k]を取得する。ステップS14において第2推定部111は、現在(時刻t=kΔt)のSCR触媒40に流入するNOx量NOx_SCRin[k]を取得する。具体的には、第2推定部111は、NOx濃度取得部54から、SCR触媒40へと流入する排気中の現在のNOx濃度[k]を取得する。次に、第2推定部111は、取得した排気中のNOx濃度[k]と、ステップS12で取得した排気の流量Q[k]とから、NOx量NOx_SCRin[k]を算出する。ステップS16において第2推定部111は、温度取得部58から、現在(時刻t=kΔt)のSCR触媒40の床温T[k]を取得する。
【0045】
ステップS18において第2推定部111は、1時刻前(時刻t=(k-1)Δt)に第1推定部110により実行された推定処理における、触媒状態推定モデル120の入力変数u[k-1]を取得する。具体的には、第2推定部111は、以下に示す、1時刻前の触媒状態推定モデル120の入力変数d2~d7を取得する。
(d2)NH3Ad[k-1]:NH3吸着量(実吸着量)
(d3)NH3_SCRin[k-1]:SCR触媒40に流入するNH3の流入量
(d4)NH3_SCRout[k-1]:第2モデル122によって推定されたNH3の流出量
(d5)NOxConv[k-1]:第1モデル121によって推定されたNOx浄化率
(d6)NOx_SCRin[k-1]:SCR触媒40に流入する排気中のNOx量
(d7)NH3_thrmlytc[k-1]:第3モデル123によって推定されたNOxの浄化反応に寄与しないNH3量
【0046】
ステップS20において第2推定部111は、SCR触媒40に流入するNH3量を取得する。具体的には、第2推定部111は、以下の項目e1,e2に示す各値を取得する。次に、第2推定部111は、以下の項目e3に示す実際の尿素噴射量から、1時刻前(時刻t=(k-1)Δt)における、SCR触媒40に流入するNH3量NH3_SCRin[k-1]を取得する。なお、項目e1の指令値Urea[k-1]は、供給制御部61から取得できる。項目e2の利得値Kinj[k-1]としては、初回処理時は任意の初期値を使用でき、2回目以降の処理時は前回処理で求めた利得値を使用できる。
(e1)供給部に対する1時刻前(時刻t=(k-1)Δt)の尿素噴射量の指令値Urea[k-1]
(e2)供給部のばらつきを表す利得値Kinj[k-1]
(e3)実際の尿素噴射量:Urea[k-1]×Kinj[k-1]
【0047】
以降、第2推定部111は、状態推定理論を用いてNH3吸着量と、供給部のばらつきを表す利得値とを推定する。ここで第2推定部111は、状態推定理論を実現する状態推定器として、拡張カルマンフィルタ(EKF)を使用する場合を例示する。拡張カルマンフィルタは、評価関数として平均二乗誤差を用いた場合に、状態量の平均二乗誤差を最小にする推定値を求めるアルゴリズムである。なお、第2推定部111は、同様の他のアルゴリズム、例えば、アンセンテッドカルマンフィルタ(UKF)、シグマポイントカルマンフィルタ、パーティクルフィルタ等を使用してもよい。
【0048】
ステップS22において第2推定部111は、NH
3吸着量の事前状態推定値を取得する。具体的には、第2推定部111は、数式2に示すベクトルx[k-1]と、ステップS18で取得した入力変数u[k-1]とを、数式3右項に示すモデルf
1(・)に入力し、現在(時刻t=kΔt)における、NH
3吸着量の事前状態推定値x^1 ̄[k](数式3左項)を取得する。なお、第2推定部111は、数式2右項のNH
3吸着量m
ad,NH3として、初回処理時は任意の初期値を使用でき、2回目以降の処理時は、1時刻前に第2推定部111により推定された推定値を使用できる。第2推定部111は、数式2右項の利得値K
injとして、初回処理時は任意の初期値を使用でき、2回目以降の処理時は前回処理(
図3:ステップS24)で求めた利得値を使用できる。
【0049】
【0050】
ステップS24において第2推定部111は、供給部のばらつきを表す利得値の事前状態推定値を取得する。具体的には、第2推定部111は、1時刻前(時刻t=(k-1)Δt)の利得値Kinj[k-1]を、数式4に示すモデルf2(・)に入力し、現在(時刻t=kΔt)における、利得値の事前状態推定値x^2 ̄(数式4左項)を取得する。
【0051】
【0052】
ステップS26において第2推定部111は、f=[f1 f2]Tについての、ヤコビアンF[k-1]と、ヤコビアンH[k]とを取得する。具体的には、第2推定部111は、数式5を用いてヤコビアンF[k-1]を算出する。また、第2推定部111は、数式6を用いてヤコビアンH[k]を算出する。
【0053】
【0054】
ステップS28において第2推定部111は、数式7を用いて、事前誤差共分散行列P ̄[k]を取得する。
【0055】
【0056】
ステップS30において第2推定部111は、数式8を用いて、カルマンゲインG[k]を取得する。
【0057】
【0058】
ステップS32において第2推定部111は、出口NOx濃度取得部99の観測値y[k]を取得する。出口NOx濃度取得部99の観測値は、排気管30の出口(換言すれば、SCR触媒40の下流側)におけるNOx濃度の実測定値である。
【0059】
ステップS34において第2推定部111は、出口NOx濃度取得部99の推定値h(x^ ̄[k])を取得する。具体的には、第2推定部111は、第1推定部110から以下の項目f1,f2に示す各値を取得する。次に、第2推定部111は、取得した値f1,f2を数式9に入力することで、現在(時刻t=kΔt)における、出口NOx濃度取得部99の推定値(数式9左項)を取得する。なお、出口NOx濃度取得部99の推定値h(x^ ̄[k])は、出口NOx濃度取得部99により取得されるであろうNOx濃度の推定値を意味しているため、出口NOx濃度取得部99の実測値とは一致しない場合もある。
【0060】
【0061】
(f1)出口NOx濃度NO^x,DS[k]:排気管30の出口(換言すれば、SCR触媒40の下流側)における、NOx濃度の推定値であり、「出口有害物質濃度」に相当する。第1推定部110が、排気管30の出口におけるNOxの濃度である出口NOx濃度(出口有害物質濃度)を推定する手順について説明する。一般に、NOx浄化率は下記式を用いて算出できる。このため、第1推定部110は、下記式の左項「NOx浄化率」に対して第1モデル121で推定したNOx浄化率を入力し、下記式の右項「入口NOx濃度」に対してNOx濃度取得部54により取得されたNOx濃度を入力することで、出口NOx濃度(出口有害物質濃度)を推定できる。
NOx浄化率 = (入口NOx濃度-出口NOx濃度)/入口NOx濃度×100
【0062】
(f2)出口NH3濃度NH^3,DS[k]:排気管30の出口(換言すれば、SCR触媒40の下流側)における、NH3濃度の推定値であり「出口添加剤濃度」に相当する。第1推定部110が、排気管30の出口におけるNH3の濃度である出口NH3濃度(出口添加剤濃度)を推定する手順について説明する。第1推定部110は、第2モデル122で推定したNH3の流出量と、流量取得部52により取得された排気管30内部の流量Qとを用いて、出口NH3濃度(出口添加剤濃度)を推定できる。なお、第1推定部110は、上述した手段とは異なる手段(例えば、NN、物理モデル、マップ等)を用いて、出口NOx濃度(f1)や、出口NH3濃度(f2)を推定してもよい。
【0063】
ステップS36において第2推定部111は、ステップS22の事前状態推定値x^1 ̄[k]と、ステップS30のカルマンゲインG[k]と、ステップS32の観測値y[k]と、ステップS34の推定値h(x^ ̄[k])と、を数式10に入力することで、状態推定値x^[k]を取得する。
【0064】
【0065】
ここで、数式2で説明したように、x^により表されるベクトルxは、NH3吸着量mad,NH3と、供給部のばらつきを表す利得値Kinjと、を含んでいる。このように、状態推定理論を用いてNH3吸着量mad,NH3を推定するため、第2推定部111は、第1推定部110により推定されたNH3吸着量(第1吸着量)よりも高精度なNH3吸着量mad,NH3を求めることができる。なお、ステップS36で得られたNH3吸着量mad,NH3は、「第2吸着量」に相当する。また、状態推定理論を用いて利得値Kinjを推定するため、第2推定部111は、実測が困難な状態量(すなわち、供給部のばらつきを表す利得値)を推定できる。
【0066】
ステップS38において第2推定部111は、数式11を用いて、事後誤差共分散行列P[k]を取得する。事後誤差共分散行列P[k]は、次回の処理(ステップS28)において使用される。
【0067】
【0068】
ステップS40において第2推定部111は、供給制御部61による制御を実行させる。具体的には、第2推定部111は、供給制御部61に対して、ステップS36で推定したNH3吸着量mad,NH3と、利得値Kinjとを送信する。供給制御部61は、受信したNH3吸着量mad,NH3と、利得値Kinjとを用いて、供給部(尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64)からの添加剤(尿素水)の供給を制御する。例えば、供給制御部61は、NH3吸着量が相対的に大きい場合は、尿素水の供給量の指令値を減少させ、NH3吸着量が相対的に小さい場合は、尿素水の供給量の指令値を増大させる。例えば、供給制御部61は、利得値から、供給部による添加剤の供給性能が相対的に低下していると推定した場合は、尿素水の供給量の指令値を増大させる。また、供給制御部61は、利得値から、供給部による添加剤の供給性能が相対的に上昇していると推定した場合は、尿素水の供給量の指令値を減少させる。なお、供給制御部61は、NH3吸着量と、利得値と、指令値との関係を予め定めた関係式やマップ等を用いて、指令を行ってもよい。また、供給制御部61は、尿素水の供給量に代えて、供給サイクルや、濃度等の指令値を増大または減少させてもよい。その後、供給制御部61は処理をステップS10に遷移させ、制御装置10は、上述した処理を繰り返す。
【0069】
以上のように、第1実施形態の制御装置10によれば、供給制御部61は、第2推定部111により推定されたNH
3吸着量m
ad,NH3(第2吸着量)と、供給部のばらつきを表す利得値K
injとを用いて、供給部における添加剤の供給を制御する(
図3:ステップS40)。このため、後処理システム1において、NH
3(添加剤)を供給する供給部のばらつきを考慮したNH
3の供給(例えば、供給量、供給サイクル、濃度等)を可能とできる。この結果、SCR触媒40におけるNOx(有害物質)の浄化率の低下を抑制できる。また、第1推定部110は、触媒状態推定モデル120(数理モデル)を用いてNH
3吸着量NH
3Ad(第1吸着量)を推定するため、触媒状態推定モデル120に対して予め他の触媒や排気管等の影響を織り込んでおくことで、他の触媒や排気管等に関する情報を取得することなく、NH
3吸着量NH
3Adを高精度に推定できる。さらに、第2推定部111は、拡張カルマンフィルタ(状態推定理論)を用いてNH
3吸着量m
ad,NH3と利得値K
injとを推定するため、出口NOx濃度取得部99により取得されたNOx濃度(ステップS36)を考慮して、NH
3吸着量NH
3Ad(第1吸着量)よりも高精度なNH
3吸着量m
ad,NH3(第2吸着量)を求めることができる。また、出口NOx濃度取得部99により取得されたNOx濃度(ステップS36)を考慮しつつ、実測が困難な状態量(すなわち、供給部のばらつきを表す利得値K
inj)を推定できる。
【0070】
また、第1実施形態の制御装置10によれば、第1推定部110は、第1モデル121及び第2モデル122(数理モデル)を用いて、SCR触媒40におけるNOxの浄化率と、SCR触媒40から流出するNH3の流出量とを推定できる(ステップS34)。また、第1推定部110は、推定されたNOxの浄化率から、主流路の出口におけるNOxの濃度である出口有害物質濃度を推定できる(ステップS34:f1)。さらに、第1推定部110は、推定されたNH3の流出量から、主流路の出口におけるNH3の濃度である出口添加剤濃度を推定できる(ステップS34:f2)。
【0071】
さらに、第1実施形態の制御装置10によれば、第2推定部111は、出口NOx濃度取得部99により取得されるであろうNOxの濃度の推定値を求め(ステップS34)、出口NOx濃度取得部99により取得されたNOxの濃度(観測データ)を、求めた推定値で補正する(ステップS36)。この結果、供給部によるNH3の供給をより適正化することができ、SCR触媒40におけるNOxの浄化率をより向上できる。
【0072】
さらに、第1実施形態の制御装置10によれば、第2推定部111は、状態推定理論として、評価関数として平均二乗誤差を用いた場合に、状態量の平均二乗誤差を最小にする推定値を求めるアルゴリズム(例えば、拡張カルマンフィルタ)を使用することで、NH3吸着量NH3Ad(第1吸着量)よりも高精度なNH3吸着量mad,NH3(第2吸着量)を求めることができると共に、実測が困難な状態量(すなわち、供給部のばらつきを表す利得値Kinj)を推定できる。
【0073】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の後処理システム1aのブロック図である。
図1に示す第1実施形態では、1つのSCR触媒40について第1及び第2吸着量を推定し、供給制御部61を制御した。しかし、第2実施形態の後処理システム1aでは、複数のSCR触媒を搭載し、この複数のSCR触媒全体としての第1及び第2吸着量を推定し、供給制御部61を制御する。後処理システム1aは、制御装置10に代えて制御装置10aを備え、排気浄化装置20に代えて排気浄化装置20aを備える。
【0074】
排気浄化装置20aは、さらに、SCR触媒40の下流側に配置された第2SCR触媒41を備える。以降では区別のために、SCR触媒40を第1SCR触媒40とも呼ぶ。第2SCR触媒41は、第1SCR触媒40と同種の選択還元触媒である。本実施形態において、「同種の触媒」とは、触媒における排気浄化メカニズムが同一又は類似の触媒を意味する。第2SCR触媒41は、第1SCR触媒40において浄化しきれずに排出されたNOx(有害物質)を、第1SCR触媒40において使用しきれずに排出されたNH3(添加剤)によって浄化する。なお、排気浄化装置20aは、尿素ポンプユニット62から、第2SCR触媒41に対して個別に尿素水を供給する尿素ノズルを備える構成でもよい。以降、排気浄化装置20aに搭載された複数の同種の触媒(第1及び第2SCR触媒40,41)を総称して「触媒群CG」とも呼ぶ。なお、第1SCR触媒40を「最上流に位置する触媒」とも呼び、第2SCR触媒41を「最下流に位置する触媒」とも呼ぶ。
【0075】
制御装置10aは、さらに、第2SCR触媒41の床温を測定するセンサからなる第2温度取得部59を備える。また、制御装置10aは、第1推定部110に代えて第1推定部110aを、第2推定部111に代えて第2推定部111aを備え、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120aを備える。なお、制御装置10aは、第2温度取得部59に代えて、下流側の触媒(
図4の例では、第2SCR触媒41)の温度を推定する温度推定部を備えてもよい。温度推定部は、第1温度取得部58により取得された第1SCR触媒40の温度から、予め用意された計算式やマップ等を用いて、第2SCR触媒41の温度を算出する。なお、温度推定部は、内燃機関92からの排気の温度、排気の流量、第1SCR触媒40の反応熱、その他の任意のパラメータを考慮して、第2SCR触媒41の温度を算出してもよい。
【0076】
触媒状態推定モデル120aのうち、第1モデル121aは、触媒群CG全体としてのNOx浄化率を出力するよう構成されている。同様に、第2モデル122aは、触媒群CG全体としてのNH3の流出量を出力するよう構成されている。第3モデル123aは、触媒群CG全体としてのNOxの浄化反応に寄与しないNH3量を出力するよう構成されている。触媒状態推定モデル120aは、触媒群CG全体としてのNH3吸着量を出力するよう構成されている。第1推定部110aは、このような触媒状態推定モデル120aを用いて、触媒群CG全体としてのNH3吸着量合計値を、第1吸着量として推定する。
【0077】
図5は、第2実施形態の制御装置10aによる処理の手順を示すフローチャートである。以降、第1実施形態(
図3)で説明した処理と相違する部分についてのみ説明する。ステップS14aにおいて第2推定部111aは、触媒群CGのうち最上流の触媒(第1SCR触媒40)に流入するNOx量を取得する。詳細は、
図3のステップS14と同様である。ステップS16aにおいて第2推定部111aは、第1温度取得部58から第1SCR触媒40の床温を取得し、第2温度取得部59から第2SCR触媒41の床温を取得する。ステップS20aにおいて第2推定部111aは、触媒群CGのうち最上流の触媒(第1SCR触媒40)に流入するNH
3量を取得する。詳細は、
図3のステップS20と同様である。
【0078】
ステップS22aにおいて第2推定部111aは、NH
3吸着量合計値の事前状態推定値を取得する。ステップS36aにおいて第2推定部111aは、NH
3吸着量合計値と、利得値との事前状態推定値を取得する。
図5の処理では、
図3において「NH
3吸着量」と説明していた箇所を、「NH
3吸着量合計値」に読み替えれば足り、他の処理内容については
図3で説明した第1実施形態と同様である。すなわち、第2実施形態の制御装置10aでは、第1推定部110aが触媒状態推定モデル120aにより推定する第1吸着量(NH
3吸着量NH
3Ad)と、第2推定部111aが
図5の処理により推定する第2吸着量(NH
3吸着量m
ad,NH3)とは、共に、触媒群CG全体としてのNH
3吸着量合計値である。
【0079】
このように、第2実施形態の制御装置10aによれば、排気管30(主流路)に同種の複数の第1及び第2SCR触媒40,41が設けられている場合に、第1推定部110a及び第2推定部111aは、当該複数の触媒40,41を1つの触媒(触媒群CG)とみなして第1吸着量(NH3吸着量NH3Ad)及び第2吸着量(NH3吸着量mad,NH3)を推定する。このため、第1SCR触媒40と第2SCR触媒41との間における排気管30等の影響を、数理モデルや状態推定理論に予め織り込んでおくことで、排気管30等に関する情報を取得することなく、第1吸着量及び第2吸着量を高精度に推定できる。換言すれば、各触媒40,41の吸着量をそれぞれ推定する場合と比較して、センサ等の数を減らすことができるため、後処理システム1aの部品点数を削減できると共に、第1推定部110a及び第2推定部111aの演算負荷を低減でき、処理を高速化できる。また、第1推定部110a及び第2推定部111aは、排気管30に設けられた複数の触媒40,41が同種の触媒である場合に、これらを1つの触媒(触媒群CG)とみなして第1吸着量及び第2吸着量を推定する。同種の触媒であれば、第1吸着量及び第2吸着量を左右する触媒の情報項目(例えば、触媒の温度、触媒に吸着されている添加剤としてのNH3の量)に相違がないため、第1推定部110a及び第2推定部111aは、第1吸着量及び第2吸着量を精度良く推定することができる。
【0080】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態における後処理システム1cのブロック図である。
図1に示す第1実施形態では、SCR触媒を用いた構成について説明したが、第3実施形態の後処理システム1cでは、SCR触媒に代えて三元触媒(Three-Way Catalyst)を用いる。三元触媒は、添加剤として、酸化還元反応により生じるO
2(酸素)を使用することで、排気中のCO,HC,NOx(有害物質)を浄化する。後処理システム1cは、制御装置10に代えて制御装置10cを備え、排気浄化装置20に代えて排気浄化装置20cを備える。
【0081】
排気浄化装置20cは、SCR触媒40に代えて三元触媒80を備え、尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64を備えていない。三元触媒80は、排気中に含まれるCO,HC,NOxをそれぞれ酸化又は還元することで除去し、これら有害物質を浄化する。三元触媒80は、酸素吸蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有し、三元触媒80に流入する排気中の酸素(O2)をため込む(吸蔵する)ことができる。本実施形態において「添加剤」とは、酸化反応に使用されるO2を意味する。なお、本実施形態において、三元触媒80は「触媒」に相当する。
【0082】
制御装置10cは、供給制御部61を備えていない。また、制御装置10cは、NOx濃度取得部54に代えて酸素濃度取得部84を、前端温度取得部56に代えて前端温度取得部86を、温度取得部58に代えて温度取得部88を、出口NOx濃度取得部99に代えて出口有害物質濃度取得部99cを、第1推定部110に代えて第1推定部110cを、第2推定部111に代えて第2推定部111cを、触媒状態推定モデル120に代えて触媒状態推定モデル120cを、それぞれ備えている。
【0083】
酸素濃度取得部84は、内燃機関92からの排気中のO2濃度を取得する。酸素濃度取得部84は、例えば、排気管30に設けられたA/Fセンサによって測定された測定信号を取得することで実現してもよく、酸素センサによって測定された測定信号を取得することで実現してもよい。酸素濃度取得部84は、内燃機関92への吸入空気量信号や、燃料噴射量信号から排気中のO2濃度を推定してもよい。酸素濃度取得部84は、添加剤の情報を取得する「第3取得部」とも呼ぶ。前端温度取得部86は、三元触媒80の入口近傍(前端)における温度を測定するセンサである。温度取得部88は、三元触媒80の床温を測定するセンサである。出口有害物質濃度取得部99cは、排気中に含まれる有害物質であるCO,HC,NOxのうち、少なくともいずれか1つ以上の要素(1つでもよく、複数でもよい)の濃度を取得する。
【0084】
なお、前端温度取得部86と温度取得部88とは、三元触媒80の情報を取得する「第1取得部」とも呼ぶ。なお、本実施形態において、燃焼状態制御部91は「供給制御部」に相当し、内燃機関92は「供給部」に相当し、出口有害物質濃度取得部99cは「出口濃度取得部」に相当する。
【0085】
触媒状態推定モデル120cは、第1実施形態の触媒状態推定モデル120と同様に、機械学習モデルにより構成され、三元触媒80におけるCO,HC,NOxのうち少なくともいずれか1つの浄化率を出力とする第1モデルと、機械学習モデルにより構成され、三元触媒80からのO2の流出量を出力とする第2モデルと、物理モデルにより構成され、CO,HC,NOxの浄化反応に寄与しないO2の量を出力とする第3モデルとを含んでいる。第1推定部110cは、このような触媒状態推定モデル120cを用いて、三元触媒80における添加剤O2の吸着量(第1吸着量)を、例えば、質量保存則、物質収支則、熱収支則、エネルギー収支則等の物理則を用いて求める。
【0086】
第2推定部111cは、三元触媒80における添加剤O
2の吸着量と、内燃機関92のばらつきを表す利得値と、を数式2のベクトルxとして、第1実施形態の
図3と同様の処理を行い、出口有害物質濃度取得部99cの観測値を考慮した添加剤O
2の吸着量(第2吸着量)及び利得値を推定する。また、燃焼状態制御部91は、推定された第2吸着量と利得値とを用いて、内燃機関92内の空燃比をリーン、ストイキ、リッチの各状態へと制御する。このようにすれば、三元触媒80を利用した第3実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0087】
<第4実施形態>
図7は、第4実施形態の後処理システム1dのブロック図である。第4実施形態の後処理システム1dでは、出口NOx濃度を測定するセンサ誤差に対する、状態量の推定値のロバスト性を向上させることが可能な構成について説明する。ここで、「出口NOx濃度を測定するセンサ」とは、出口NOx濃度取得部99(出口濃度取得部)を意味する。また、「状態量」とは、SCR触媒40のNH
3吸着量(第2吸着量)と、供給部のばらつきを表す利得値と、を意味する。第4実施形態の後処理システム1dは、制御装置10に代えて制御装置10dを備える。制御装置10dは、第2推定部111に代えて第2推定部111dを備える。制御装置10dは、
図3で説明した処理に代えて、
図8に示す処理を実行する。
【0088】
図8は、第4実施形態の制御装置10dによる処理の手順を示すフローチャートである。
図8に示す処理は、ステップS30に代えてステップS30dが実行される点を除いて、
図1で説明した第1実施形態と同様である。
【0089】
ステップS30dにおいて、制御装置10dの第2推定部111dは、第1実施形態で説明した数式8と、以下の数式12とを用いて、カルマンゲインG[k]を取得する。具体的には、まず、第2推定部111dは、出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散R=σ2を、数式12を用いて求める。数式12のうち、ykは、現在(時刻t=kΔt)における出口NOx濃度取得部99の観測値y[k]を意味し、θは、出口NOx濃度取得部99の誤差を表す所定値[%]を意味する(以降「観測誤差θ」と呼ぶ)。観測誤差θは、予め定められた値である。観測誤差θには、出口NOx濃度取得部99のセンサ諸元値が使用されてもよく、後処理システム1dの利用者により設定されてもよい。観測誤差θは、出口NOx濃度取得部99のセンサ諸元値を、出口NOx濃度取得部99の劣化程度を表す指標(例えば、出口NOx濃度取得部99の使用年数)により補正した値であってもよい。次に、第2推定部111dは、求めた観測雑音の分散Rを数式8に代入することにより、カルマンゲインG[k]を取得する。
【0090】
【0091】
ここで、出口NOx濃度取得部99の観測誤差θが一定であっても、出口NOx濃度取得部99の観測値y[k]に依存して、分散σの大きさ(広がり)は相違する。そこで、本実施形態では、出口NOx濃度取得部99の観測誤差θが3σと等しいと仮定し、数式12により観測雑音の分散R=σ2を求めている。なお、観測誤差θがnσ(nは任意の正の実数)と等しいと仮定して数式12を変形してもよい。この場合、数式12において「3」を「n」と読み替えればよい。
【0092】
このように、第4実施形態の制御装置10dによれば、第2推定部111dは、出口NOx濃度取得部99(出口濃度取得部)により取得された有害物質の濃度yk(出口NOx濃度、出口有害物質濃度)と、出口NOx濃度取得部99の観測誤差θ(誤差を表す所定値)とから、出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散Rを求める。従来では、観測雑音の分散Rとして一定値を用いることが一般的であったところ、制御装置10dによれば、出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散Rを、出口NOx濃度取得部99の取得値yk(観測値yk)に依存した大きさとできる。また、第2推定部111dは、このようにして求めた出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散Rを、状態推定理論の数式8において使用して、NH3吸着量mad,NH3(第2吸着量)と、利得値Kinjとを推定する。このため、出口NOx濃度取得部99の観測誤差θに対する、状態量(NH3吸着量mad,NH3と利得値Kinj)の推定値のロバスト性を向上させることができる。そして、供給制御部61は、第2推定部111dにより推定されたNH3吸着量mad,NH3と利得値Kinjとを用いて、尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64(供給部)における添加剤の供給を制御するため、SCR触媒40におけるNOx(有害物質)の浄化率をより一層向上できる。
【0093】
図9は、供給部と出口NOx濃度取得部99とのばらつきについて説明する図である。
図10は、後処理システム1dを用いたシミュレーション結果の一例を示す図である。
図9及び
図10を用いて、後処理システム1dの効果例について説明する。後処理システム1dにおいては、供給部(尿素ポンプユニット62及び尿素ノズル64)のばらつきと、出口NOx濃度取得部99のばらつきとが含まれる。供給部のばらつきは、項目e2で説明した利得値K
injで表され、出口NOx濃度取得部99のばらつきは、上述の通り観測誤差θで表される。ばらつきを考慮した利得値K
injと観測誤差θとの組み合わせは、
図9において矩形の破線で囲んだ範囲内に属する。なお、
図9のxは任意の整数である。
【0094】
上述した制御装置10dと、情報処理装置を用いて仮想的に構築した排気浄化装置20と、を組み合わせて後処理システム1dの試験環境を構築した。
図10には、この試験環境を用いて得られたシミュレーション結果を示している。
図10(A)は、
図8の処理で算出された利得値K
injの経時的変化を表す。
図10(B)は、
図8の処理で算出された出口NH
3濃度NH^
3,DSの経時的変化を表す。
図10(C)は、
図8の処理で算出された出口NOx濃度NO^
x,DS(出口NOx濃度の推定値)の経時的変化を表す。
図10(A)~(C)において、実線で示す折れ線V1は、シミュレーションにおいて想定された正解値の遷移を表す。一点鎖線で示す折れ線V2は、出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散Rを「固定値」として処理した場合(換言すれば、数式12を用いた上述の処理を行わなかった場合)における、各値の遷移を表す。破線で示す折れ線V3は、数式12を用いた上述の処理によって出口NOx濃度取得部99の観測雑音の分散Rを求めて処理した場合における、各値の遷移を表す。
【0095】
図10の例では、時刻T1を契機として、観測誤差θと、利得値K
injとに対して、それぞれ+40%の誤差を付与した。
図10(A)~(C)から明らかなように、誤差の付与が開始された時刻T1より後では、観測雑音の分散Rを固定値とした折れ線V2(一点鎖線)は、特に図中において破線丸枠を付した部分において、正解値V1(実線)と乖離している。一方、時刻T1より後においても、観測雑音の分散Rを、出口NOx濃度取得部99の取得値y
kに依存した大きさとした折れ線V3(破線)は、正解値V1に追従し、大きく逸れることはなかった。以上のシミュレーション結果より、第4実施形態の制御装置10dによれば、出口NOx濃度取得部99の観測誤差θに対する、状態量の推定値のロバスト性を向上させることができることがわかった。
【0096】
なお、第4実施形態は、第1実施形態の変形として説明したが、複数のSCR触媒を対象とした第2実施形態や、三元触媒を対象とした第3実施形態においても、同様に適用可能である。また、後述する変形例で説明する構成においても、同様に適用できる。
【0097】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。そのほか、例えば次のような変形も可能である。
【0098】
[変形例1]
上記実施形態では、後処理システムの構成の一例を示した。しかし、後処理システムの構成は種々の変更が可能である。例えば、後処理システムの排気浄化装置には、SCR触媒と、NSR触媒と、三元触媒とのうちの複数の触媒が組み合わせて搭載され、制御装置は、これら複数の触媒それぞれにおいて、添加剤吸着量と、添加剤を供給する供給部のばらつきを表す利得値と、を状態推定理論を用いて推定してもよい。そして、制御装置は、推定された各添加剤供給量と、各利得値とを用いて、各供給部における添加剤の供給量をそれぞれ制御してもよい。また、排気浄化装置は、粒子状物質(PM)を除去する粒子状物質除去フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)や、加水分解触媒等の他の構成を備えてもよい。
【0099】
例えば、触媒の床温を取得する温度取得部は、触媒の前方(入口近傍)又は後方(出口近傍)に設けられてもよい。例えば、流量取得部、NOx濃度取得部、前端温度取得部、温度取得部がそれぞれ取得するとした流量、NOx濃度、前端温度、触媒の温度のうちの少なくともいずれかは、センサによる計測値に代えて、NNやマップ等を用いて得られた推定値であってもよい。
【0100】
[変形例2]
上記実施形態では、制御装置による処理の一例を示した(
図3,
図5,
図8)。しかし、制御装置による処理の内容は種々の変形が可能である。例えば、
図3,
図5,
図8の処理において、ステップS10~S40の実行順序を変更してもよく、ステップS10~S40のうち少なくとも一部の処理が省略されてもよい。例えば、第1推定部は、上述した触媒状態推定モデルとは異なるNN,マップ,物理式等の任意の手段を用いて、第1吸着量を推定してもよい。同様に、第1推定部は、第1モデルとは異なるとは異なるNN,マップ,物理式等の任意の手段を用いて、NOx浄化率を推定してもよい。第1推定部は、第2モデルとは異なるNN,マップ,物理式等の任意の手段を用いて、NH
3の流出量を推定してもよい。第1推定部は、第3モデルとは異なるNN,マップ,物理式等の任意の手段を用いて、NOxの浄化反応に寄与しないNH
3量を推定してもよい。
【0101】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0102】
1,1a,1c,1d…後処理システム
10,10a,10c,10d…制御装置
11…CPU
12…記憶部
20,20a,20c…排気浄化装置
30…排気管
40…SCR触媒、第1SCR触媒
41…第2SCR触媒
52…流量取得部
53…排気温度取得部
54…NOx濃度取得部
56…前端温度取得部
58…温度取得部、第1温度取得部
59…第2温度取得部
61…供給制御部
62…尿素ポンプユニット
64…尿素ノズル
80…三元触媒
84…酸素濃度取得部
86…前端温度取得部
88…温度取得部
91…燃焼状態制御部
92…内燃機関
99…出口NOx濃度取得部
99c…出口有害物質濃度取得部
110,110a,110c…第1推定部
111,111a,111c,111d…第2推定部
120,120a,120c…触媒状態推定モデル
121,121a…第1モデル
122,122a…第2モデル
123,123a…第3モデル