(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】抗炎症性化合物のための構造化された分子ベクター及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07F 9/38 20060101AFI20241030BHJP
A61K 31/662 20060101ALI20241030BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241030BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241030BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241030BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241030BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241030BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241030BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241030BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C07F9/38 C CSP
A61K31/662
A61P1/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P19/02
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021549472
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2020054662
(87)【国際公開番号】W WO2020169822
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】521372183
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ジャン・モネ・サン・テティエンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ボドネック
(72)【発明者】
【氏名】アモール・ベルムゲナイ
(72)【発明者】
【氏名】セレナ・ボドネック
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ベジン
(72)【発明者】
【氏名】ベアトリス・ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトル・ブロ
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-088895(JP,A)
【文献】特開平02-262585(JP,A)
【文献】国際公開第2018/071679(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IIA)の化合物:
R
5-NH-CH
2-CH(R
7)-PO
3
2-(IIA)
[式中、
○ R
5は、
プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、又はその酸素誘導体の1つを表し、
○ R
7は、水素又は(C
1~C
6)アルキル基を表す]、及び
その水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
○ R
5が、ドコサヘキサエン酸である、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表し、
○ R
7が、水素を表す、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R
5が、
- カプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
薬として使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化合物と、許容される医薬賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項6】
炎症性疾患又は認知障害を伴う疾患の中から選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記炎症性疾患が、中枢神経系の炎症性疾患、消化管の炎症性疾患、炎症性関節疾患又は網膜の炎症性疾患である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
てんかん、外傷性脳傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、クローン病、腸症候群、認知症及びハンチントン病からなる群で選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
認知低下を予防するため、又は脳傷害で及び/若しくは外傷性脳傷害で及び/若しくは神経炎症性疾患で及び/若しくは神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるために使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物が、経口経路によって投与される、請求項6から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知の回復及び認知低下の予防、並びに/又は発作重症度及び頻度の減少を可能にする、特に強い抗炎症特性を有する様々な生物学的活性化合物のベクター化合物に関する。本発明は、神経学的、精神及び末梢型障害、並びに、特に炎症性起源を有する障害の処置における、そのような化合物の使用にも関する。本発明は、エタノールアミン、エタノールアミン-ホスホネート及びエタノールアミン-ホスフェート脂肪酸誘導体、並びに同じ治療及び非治療用途におけるそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
それらの多数の長所を考慮すると、オメガ-3脂肪酸型化合物は、健康ドメインにおける重要な市場を代表する。実際に、これらの化合物は、共通項として炎症を有する多数の疾患の予防において活性である。炎症は、関節、心臓血管及び神経学的障害等、多くの疾患又は障害の構成成分である。
【0003】
現在市場で見られるオメガ-3化合物は、脂肪酸ベクターの2つのファミリーに限られており、これはエチル形態及びトリグリセリド形態である。薬理学的側面において、エチル形態は、部分的にはその乏しい生物学的利用能(biodisponibility)及びその乏しい脳の指向性により、比較的非効率的である。トリグリセリド形態は、今日の市場において最新のベクトル化形態であり、効能及び脳の指向性の観点から相反する結果も呈する。
【0004】
故に、新たな種類のオメガ-3脂肪酸ベクターが市場に登場した。これらのグリセロリン脂質型ベクターは、エチル-及びトリグリセリド形態ベクターと比べた場合、より良好な脳への蓄積という利点を有する。しかしながら、これらのグリセロリン脂質形態ベクターは、分子レベルで不純である全オキアミ抽出物のような、全抽出物から概して取得される。加えて、オキアミ抽出物から取得されたこれらのグリセロリン脂質形態の使用は、水産資源の不足の一因となるため、環境及び持続可能な開発の問題を提起する。
【0005】
開発されたオメガ-3脂肪酸のグリセロリン脂質ベクターは、例えば、ホスファチジルセリンベクターである。更なるものは、ドコサヘキサエン酸又はDHAを含む特定のファミリーのオメガ-3脂肪酸のためのリゾホスファチジルコリンを模倣するベクターである(WO2018/162617)。グリセロリン脂質ベースのベクターは、エチル及びトリグリセリド形態ベースのベクターよりも良好な脳の標的化を有するが、これらは、短期送達のみを用いる脂肪酸(例えば、ドコサヘキサエン(docosahexanoic)酸のみ)の一価ベクターであるという不都合を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2018/162617
【文献】WO2004.092414
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Pharm. Sci. 1977、66、2
【文献】Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use、P. Heinrich Stahl及びCamille G. Wermuth編、2002
【文献】Folch J.、Lees M.及びStanley G.H.S.; (1957); A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J. Biol. Chem. 226、497~509
【文献】Digestion of Phospholipids after Secretion of Bile into the Duodenum Changes the Phase Behavior of Bile Components. Woldeamanuel A. Birru.ら、Mol. Pharmaceutics、2014、11、2825~2834
【文献】Loscherら、2011、Seizure 20、359~368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
故に、現今では、炎症及びてんかん発作の症例においてだけではなく、行動及び/又は精神情動(psychoaffective)障害に関連する又はしない認知機能の保全及び/又は回復においても有効な処置を提供するために、脂肪酸のような1つ又は複数の活性化合物の、消化管に沿った急性(短期)及び長期間続く(長期)方式での送達を可能にする新たなベクター化合物を開発する強い必要性がある。また、脂肪酸誘導体の開発も、これらの用途において重要な必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、分子ベクターの新たなファミリー及び新たな活性化合物、とりわけ飽和又は不飽和脂肪酸のエタノールアミン、エタノールアミン-ホスホネート又はエタノールアミン-ホスフェート誘導体を開発してきた。活性化合物は、強い抗炎症活性を有し、発作重症度及び頻度を減少させる、並びに/又は、有意な炎症性成分を持つ神経学的障害で変化しうる認知機能を回復させる若しくは改善することができる。分子ベクターの新たなファミリーは、2つのサブファミリー、すなわちスフィンゴシナプトリポキシン(SSL)及びアミノグリセロホスホシナプトリポキシン(AGPSL)を含む。
【0010】
したがって、本発明は、式(I)の化合物:
【0011】
【0012】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ Aは、
・ 式(A')の基:
【0013】
【0014】
{式中、
- R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
- R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}、又は
・ 式(A")の基:
【0015】
【0016】
{式中、
- R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
- R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}
の中から選択される基を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表す]
及びその水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩に関する。
【0017】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、式(I'):
【0018】
【0019】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
○ R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基、好ましくはメチル基を表す]
を有する。
【0020】
更なる特定の実施形態では、本発明の化合物は、式(I"):
【0021】
【0022】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
○ R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基、好ましくはメチル基を表す]
を有する。
【0023】
好ましい実施形態では、式(I)、(I')及び(I")のR3は、水素ではない。
【0024】
好ましい実施形態では、式(I)、(I')及び(I")のR2'、R2"及びR3は、
○ R2'及びR2"が、独立して、
- 水素、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体を表し、
○ R3が、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表すようなものである。
【0025】
本発明は更に、本明細書で開示される通りのベクターによって送達されうる、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪酸のエタノールアミン、エタノールアミン-ホスホネート若しくはエタノールアミン-ホスフェート誘導体、又はその酸素誘導体の1つに関する。
【0026】
したがって、本発明は、式(II)の化合物:
R5-NH-CH2-CH(R7)-O(n)-R6(II)
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R5は、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、又はその酸素誘導体の1つを表し、
○ R6は、-PO3
2-基であり、
○ R7は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表し、
但し、nが1に等しい場合、R5は、アラキドン酸ではない]、及び
その水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩にも関する。
【0027】
好ましい実施形態では、式(II)の化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R5が、ドコサヘキサエン酸である、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表し、
○ R7が、水素を表す
ようなものである。
【0028】
更なる好ましい実施形態では、R5は、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはカプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表す。
【0029】
本発明の更なる目的は、薬として使用するための、式(I)、(I')、(I")又は(II)の化合物である。
【0030】
本発明の更なる目的は、栄養補助食品としての、式(I)、(I')、(I")又は(II)の化合物の使用である。
【0031】
本発明は更に、式(I)、(I')、(I")又は(II)の少なくとも1つの化合物と、許容される医薬賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。
【0032】
本発明の特定の実施形態は、炎症性疾患又は認知障害を伴う疾患の中から選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、本明細書で開示される通りの医薬組成物である。好ましくは、炎症性疾患は、中枢神経系の炎症性疾患、消化管の炎症性疾患、炎症性関節疾患又は網膜の炎症性疾患である。
【0033】
本発明の更なる特定の実施形態は、てんかん、外傷性脳傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、クローン病、腸症候群、認知症及びハンチントン病からなる群で選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、本明細書で開示される通りの医薬組成物である。
【0034】
本発明の更なる特定の実施形態は、認知低下を予防するため、或いは脳傷害若しくは損傷で及び/又は外傷性脳傷害で及び/又は神経炎症性疾患で及び/又は神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるために使用するための、本明細書で開示される通りの医薬組成物である。
【0035】
本発明の別の目的は、許容される医薬賦形剤と、式(II')の化合物:
R5'-NH-CH2-CH(R7')-O(n)-R6'(II')
[式中、
○ nは、1に等しい整数であり、
○ R5'は、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、又はその酸素誘導体の1つを表し、
○ R6'は、水素であり、
○ R7'は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表す]、及び
その水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩とを含む医薬組成物であって、
認知に関連する疾患又はてんかん、外傷性脳傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、クローン病、腸症候群、認知症及びハンチントン病からなる群で選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、医薬組成物である。
【0036】
本発明の別の目的は、認知低下を予防するため、又は脳傷害で及び/若しくは外傷性脳傷害で及び/若しくは神経炎症性疾患で及び/若しくは神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるために使用するための、許容される医薬賦形剤と上記で定義した通りの式(II')の化合物とを含む医薬組成物である。
【0037】
好ましい実施形態では、R5'は、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはカプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表す。
【0038】
好ましい実施形態によれば、本明細書で開示される通りの医薬組成物は、経口経路によって投与される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】SSL-X化合物の調製のための一般的手順を示す図である。
【
図2】アミノプロピル(LC-NH2)カラム上でのSSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3の分離を示す図である。
【
図3】消化管におけるSSL-X1の加水分解を示す図である。各動物に227μgのSSL-X1を経口で与え、16、21、26、40及び50時間後に糞便を収集した。A:糞便中、様々な時点で測定されたSSL-X1の量。B:投与された分子の分量(Adm)、糞便中、様々な時点で測定された総分量(糞便)、及び加水分解/吸着分量(加水分解/吸着)。SSL-X1中のリン(P)のμgで表現されるこれらの分量は、SSL-X1の分量(加水分解/吸着)が、投与された分量マイナス糞便の合計で蓄積した測定された分量に対応すると推測して算出した。結果は、5回の独立した実験の平均±標準偏差である。
【
図4】処置ラットの腸管に沿ったSSL-X1の時間依存性分布を示す図である。各動物に227μgのSSL-X1を経口で与えた。ラットを、分子の投与後5時間(パネルA)、8時間(パネルB)及び36時間(パネルC)で屠殺した。腸管を取り出し、約10cmごとに切断した。各切片の内容物を収集し、脂質を記述されている通りに抽出し、精製した。各脂質抽出物中におけるSSL-X1の量を、リン決定によって決定した。
【
図5】IL-1βによって活性化したヒトミクログリアにおける炎症マーカーの発現に対するシナプタミドホスホネートの効果を試験するためのプロトコールを示す図である。
【
図6】シナプタミドホスホネート(SYN Pn)が、不死化ヒトミクログリア細胞における炎症促進性マーカーのIL-1β媒介性誘導を低減させることを示す図である。IHMミクログリア細胞を、様々な濃度のSYN Pnにより、IL-1βへの曝露の3時間前に図に示す通りに処置した。炎症マーカー由来のRNAを、IL-1β処置の5時間後に抽出し、RT-qPCRによって定量化した。結果を、(IL-1β-NaCl)±SEM(n=3)の%として表現する。
【
図7】ラットにおけるLPS誘導性神経炎症に対するシナプタミド及びシナプタミドホスホネートのインビボ効果を示す図である。LPSを21日齢の仔に注射した。LPS注射の1分後、動物にシナプタミド(SYN)又はシナプタミドホスホネート(SYN Pn)を2mg/Kgのシナプタミド当量の用量で受けさせた。ラットをLPSの注射の6時間後に屠殺し、海馬及び新皮質を収集した。炎症マーカー転写物の発現レベルをRT-qPCRによって決定した。IL1β:インターロイキン1ベータ;IL6:インターロイキン6;TNFα:TNFアルファ。神経炎症指数(IN)を、海馬及び新皮質において取得されたデータから決定した。CTR:対照ラット。結果を、平均±SEM(n=5)として表現する。
【
図8】ラットにおけるSE誘導性神経炎症に対するSSL-X1ベクターの効果を示す図である。21日齢のラットをSEに供した。SEの発病の1時間後にSSL-X1ベクターを経口で投与した。目的の脳構造(海馬及び腹側辺縁エリア)をSEの24時間後に収集した。インターロイキン6(IL6)、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)及びケモカインMCP1(MCP1)のmRNAレベルを、RT-qPCRによって決定した。CTRL:NaClを投与した対照;SE-NaCl:SEに供し、NaClを投与したラットの群;SE-SSL-X1:SEに供し、ベクターSSL-X1を投与したラットの群;HI:海馬;VLR:腹側辺縁領域。結果を、平均±SEM(n=7-10)として表現する。
【
図9A】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間減衰し、シナプタミドによって救済されることを示す図である。健康なラット(Cont)及びPilo-SE(SE)に供した動物由来の海馬スライスにおけるシータバースト対合プロトコール刺激(TBP、矢印で指し示される)による長期増強(LTP)誘導前後の興奮性シナプス後電位(EPSP)振幅の時間経過まとめ(左)。
【
図9B】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間減衰し、シナプタミドによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、100nMのシナプタミドフリー人工脳脊髄液(ACSF)(SE)又はシナプタミド(SE-SYN)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。
【
図9C】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間減衰し、シナプタミドによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、400nMのシナプタミドフリー人工脳脊髄液(ACSF)(SE)又はシナプタミド(SE-SYN)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。
【
図9D】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間減衰し、シナプタミドによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、NaCl(SE)又はシナプタミド(SE-SYN、2mg/kg;腹腔内)のいずれかを注射したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。
【
図9E】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間で減衰し、シナプタミドによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、2又は10mg/kgのNaCl(SE)又はシナプタミド(SE-SYN)のいずれかを注射(腹腔内)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。シナプタミドを、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日投与した。対照群には、生理食塩水溶液のみを受けさせた。これ以降のすべての図において、まとめデータは平均±SEMとして提示され、括弧内の数字は、細胞の数を指し示し、ヒストグラム(右)は、各条件で記録の最後の5分間の間に測定されたEPSPの平均振幅(±SEM)を示す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図10A】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスフェートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、100nMのシナプタミドホスフェートフリーACSF(SE)又はシナプタミドホスフェート(SE-SYN Ph)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図10B】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスフェートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、400nMのシナプタミドホスフェートフリーACSF(SE)又はシナプタミドホスフェート(SE-SYN Ph)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図10C】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスフェートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、NaCl(SE)又はシナプタミドホスフェート(SE-SYN Ph、5mg/kg;腹腔内)のいずれかを注射したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図10D】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスフェートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、2mg/kgのNaCl(SE)又はシナプタミドホスフェート(SE-SYNPh)のいずれかを注射(腹腔内)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。シナプタミドホスフェートを、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日投与した。対照群には、生理食塩水溶液のみを受けさせた。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図11A】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスホネートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、100nMのシナプタミドホスホネートフリーACSF(SE)又はシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図11B】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスホネートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、400nMのシナプタミドホスホネートフリーACSF(SE)又はシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn)のいずれかで灌流させたラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図11C】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスホネートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、NaCl(SE)又はシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn、5mg/kg;腹腔内)のいずれかを注射したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
【
図11D】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスホネートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、2又は10mg/kgのNaCl(SE)又はシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn)のいずれかを注射(腹腔内)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。
【
図11E】海馬LTPが、Pilo-SE後1から2週間でシナプタミドホスホネートによって救済されることを示す図である。Pilo-SEに供し、10、30及び100mg/kgのシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn)で処置(経口で)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。シナプタミドホスホネートを、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日投与した。対照群には、生理食塩水溶液のみを受けさせた。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図12】シナプタミド又はシナプタミドホスホネート処置が、健康なラットにおいて海馬LTPを改善することを示す図である。
図12A:NaCl(HT)又はシナプタミド(HT-SYN、2mg/kg;腹腔内)のいずれかを注射した健康なラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。
図12B:NaCl(HT)又はシナプタミドホスホネート(HT-SYN Pn、2mg/kg;腹腔内)のいずれかを注射した健康なラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導。シナプタミド又はシナプタミドホスホネートを、7日間毎日投与した(P21~P27)。対照群には、生理食塩水溶液のみを受けさせた。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図13A】完全にキンドリングされたラットにおける発作重症度に対する、5、10及び50mg/kgで腹腔内に投与されたSYN-PNの効果を示す図である。ラットの総集団、n=15。
【
図13B】完全にキンドリングされたラットにおける発作重症度に対する、5、10及び50mg/kgで腹腔内に投与されたSYN-PNの効果を示す図である。発作重症度の減少が5mg/kgのSYN-PNに応答して初めて観察されたラット。結果を、平均±semとして表現する。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;D0と比較した減少の有意性のレベル、反復測定を用いる一元配置分散分析の後のポストホックフィッシャーのLSD検定。
【
図13C】完全にキンドリングされたラットにおける発作重症度に対する、5、10及び50mg/kgで腹腔内に投与されたSYN-PNの効果を示す図である。発作重症度の減少が10mg/kgのSYN-PNに応答して初めて観察されたラット。結果を、平均±semとして表現する。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;D0と比較した減少の有意性のレベル、反復測定を用いる一元配置分散分析の後のポストホックフィッシャーのLSD検定。
【
図13D】完全にキンドリングされたラットにおける発作重症度に対する、5、10及び50mg/kgで腹腔内に投与されたSYN-PNの効果を示す図である。発作重症度の減少が50mg/kgのSYN-PNに応答して初めて観察されたラット。結果を、平均±semとして表現する。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;D0と比較した減少の有意性のレベル、反復測定を用いる一元配置分散分析の後のポストホックフィッシャーのLSD検定。
【
図14】5、10及び50mg/kgに応答してラットにおいて観察された発作重症度に対するSYN-PNの効果を示す図である。結果を、平均±semとして表現する。
【
図15】シナプタミド又はシナプタミドホスホネートによる処置が、てんかんラットの学習能力を有意に増大させたことを示す図である。
図15A:MMW実験中にプラットフォームを位置付けるために必要とされる時間の増大として評価された、てんかん(Epi、n=14)ラットにおける空間学習異常を、対照ラット(Cont、n=15)と比較して示すグラフ。
図15B~
図15C:MWM実験中にプラットフォームを位置付けるために必要とされる時間の減少として評価された、SE後の最初の週の間にシナプタミド(B、Epi-SYN、n=14)又はシナプタミドホスホネート(C、Epi-SYN-PN、n=14)を注射したてんかんラットにおける空間学習の改善を示すグラフ。括弧内の数字は、ラットの数を指し示す。結果は、平均±SEMを表す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図16】100mg/kgのドコサヘキサエン酸の経口投与が、SE後の海馬LTP機能障害を予防しないことを示す図である。Pilo-SEに供し、シナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn;100mg/kg)又はドコサヘキサエン酸(SE-DHA;100mg/kg)のいずれかで処置(経口で)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。シナプタミドホスホネート又はドコサヘキサエン酸を、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日、次いで、1日おきに1回2週間にわたって投与した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図17】SSLX2の経口投与が、SE後の海馬LTP機能障害を予防することを示す図である。
図17A~
図17C:Pilo-SE(SE)に供し、10(A~B)及び30mg/kg(A及びC)のシナプタミドホスホネート(SE-SYN Pn)又はSSLX2(SE-SSLX2)のいずれかで処置(経口で)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。シナプタミドホスホネート及びSSLX2を、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日、次いで、1日おきに1回2週間にわたって投与した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図18】エイコサペンタエン酸エタノールアミンホスホネート及びデカン酸エタノールアミンホスホネートの腹腔内注射が、SE後の海馬LTP機能障害を予防することを示す図である。Pilo-SE(SE)に供し、デカン酸エタノールアミンホスホネート(SE-DEC-EA-Pn;5mg/kg)又はエイコサペンタエン酸エタノールアミンホスホネート(SE-EPA-EA-Pn;5mg/kg)のいずれかを注射(腹腔内)したラット由来の海馬スライスにおけるLTP誘導(左)。デカン酸エタノールアミンホスホネート又はエイコサペンタエン酸エタノールアミンホスホネートを、SEの休止1時間後、次いで、6日間毎日、次いで、1日おきに1回2週間にわたって投与した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図19】完全に扁桃核キンドリングされたラットにおいて処置を停止した後のシナプタミドホスホネートの持続的な抗発作効果を示す図である。すべての完全にキンドリングされたラット(15)は、5mg/kgのシナプタミドホスホネート(n=8/15)から、10mg/kg(n=3/15)から又は50mg/kg(n=4/15)からの発作重症度減少を示した。無地のバーは、3つのサブグループのラットにおいて50mg/kgの急性用量後に観察された発作重症度を指し示す。斜線バーは、5、10又は20mg/kgのシナプタミドホスホネートの4回の日用量後の発作重症度を指し示す。点線バーは、シナプタミドホスホネート処置を停止した後に発作重症度に対して観察された長続きする効果を示す。x軸下には、各条件についての発作フリーラットの数が指し示されている。結果を、サブグループ集団全体(n=8、n=3又はn=4)の平均±SEMとして表現する。
【
図20】シナプタミドホスホネートが、SE後のラットにおける体重減少の回復を容易にすることを示す図である。0日目にラットをピロカルピン誘導性てんかん重積状態に供し、シナプタミドホスホネート(SynPn)を7日間にわたって毎日投与(10mg/Kg、腹腔内)した。動物の体重を毎日測定した。結果を、0日目における動物(10~15匹の動物/群)の体重の百分率として表現する。対照/SE+NaCl間(*:p<0.05、***:p<0.001)及びSE+NaCl/SE+SynPn間(#:p<0.05)の統計的差異。
【
図21】DECA-EA-Pn及びEPA-EA-Pnが、LPS処置に応答してNR8383細胞株における炎症促進性サイトカインIL6-mRNAレベルの誘導を低減させることを示す図である。ラットマクロファージNR8383細胞をLPS(100ng/mL)によって刺激し、LPS後2分未満内に指示された濃度(10、100、500及び1,000nM)のDECA-EA-Pn及びEPA-EA-Pnで処置した。LPS後のIL6-mRNAレベル誘導の見かけのピークの時間である5時間後に細胞を収集した。IL-6 mRNAレベルをRT-qPCRによって定量化した。結果を、LPS単独で処置した細胞において測定されたレベルの平均百分率±SEM(n=3)として表現する(LPS単独と比較:*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001)。
【
図22】てんかん重積状態後のラット海馬における炎症の消散に対するSYN-Pn及びSYNの効果を示す図である。若年性(Juveline)(42日齢)雄スプラーグ・ドーリー系ラットをピロカルピン誘導性てんかん重積状態(Pilo-SE)に供し、SEの発病2時間後にSYN(2mg/kg;n=7)又はSYN-Pn(2mg/kg;n=7)で処置した。未処置ラットには、SYN又はSYN-Pnの代わりにNaCl(n=5)を受けさせた。SEの9時間後、炎症応答のピークで脳を収集した。海馬を顕微解剖し、mRNAレベルをRT-qPCRによって定量化した。データは、IL1β及びTNFα mRNAについての、並びにIL1β及びTNFαの両方を積分した指数についての変動を例証する。結果を、Pilo-SEに供し、NaClで処置したラットにおいて測定された値の平均百分率±SEMとして表現する(Pilo-SE単独と比較:*:p<0.05;**:p<0.01;ANOVA 1、続いて、ポストホックチューキーのHSD検定)。
【発明を実施するための形態】
【0040】
下記の例において本発明者らによって実証される通り、本発明は、重要な構造的柔軟性を有し、それにより、長鎖脂肪酸オメガ-3型等の生物学的活性化合物を送達することを可能にする、ベクターの新たなファミリーを提供する。これらのベクターは、特定の吸収動態及び特定の吸収の腸局在化を呈する。これらは、異なる構造を有する脂肪酸及びそれらの代謝誘導体を送達し、幾つかの異なる分子標的を標的化することができる。より特定すれば、本発明者らは、本発明の式(I)の化合物の加水分解から生じる代謝誘導体が、主要な分子炎症マーカーを阻害することができ、認知低下若しくは欠損を予防する、並びに/又は脳傷害、外傷性脳傷害での及び/若しくは神経炎症性疾患での及び/若しくは神経変性疾患での認知機能を救済する若しくは回復させることができることを実証した。
【0041】
本発明によれば、以下の用語は、下記の定義を有する。
【0042】
用語「アルキル鎖」は、少なくとも2個の炭素原子を含み、より特定すれば、10から24個まで、12から18個まで、12から16個までの炭素原子、好ましくは14個の炭素原子を有する、直鎖又は分枝鎖状の、1つの飽和又は不飽和炭化水素鎖を指す。
【0043】
用語「アルキル」は、飽和又は不飽和、直鎖又は分枝鎖状脂肪族基を指す。用語「(C1~C6)アルキル」は、1から6個までの炭素原子、好ましくは1、2、3、4、5又は6個の炭素原子を有する、アルキル基を指す。好ましい実施形態では、用語「(C1~C6)アルキル」は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル又はヘキシルである。
【0044】
用語「脂肪アシル」は、アシル基によって官能基化されている、特に2から30個までの炭素原子を有する上記で定義した通りの1つのアルキル鎖を指す。用語「脂肪アシル」は、カルボン酸のヒドロキシル基が除去された、対応するカルボン酸も含む。<<脂肪アシル>>又は対応するカルボン酸の例は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸である。好ましい「脂肪アシル」又はその対応するカルボン酸は、カプリン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸(DHA)、より好ましくはドコサヘキサエン酸(DHA)である。
【0045】
1つの脂肪アシルの「酸素誘導体」という用語は、少なくとも1つのヒドロキシル基(-OH)によって置換されている、上記で定義した通りの1つの脂肪アシルを指す。脂肪アシルの酸素誘導体の非限定的な例として、レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンを挙げることができる。
【0046】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の1個の原子に対応する。
【0047】
用語「水和物」は、水和物形態の化合物に対応する。特定の実施形態では、用語「水和物」は、半水和物、一水和物及び多水和物を含む。
【0048】
表現「少なくとも1つの~によって置換されている」は、基がリストの1つ又は幾つかの基によって置換されていることを意味する。
【0049】
「薬理学的に許容される塩」は、必要とされる生物学的活性を有する式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の本発明の化合物の塩を指す。「薬学的塩」は、無機及び有機酸塩を含む。好適な無機酸の代表例は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸等を含む。好適な有機酸の代表例は、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸、桂皮酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸等を含む。薬学的無機又は有機酸付加塩の更なる例は、J. Pharm. Sci. 1977、66、2、並びにHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use、P. Heinrich Stahl及びCamille G. Wermuth編、2002に収載されている薬学的塩を含む。「薬学的塩」は、無機及び有機塩基塩も含む。好適な無機塩基の代表例は、ナトリウム若しくはカリウム塩、カルシウム若しくはマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩を含む。有機塩基との好適な塩の代表例は、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピペリジン、モルホリン又はトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミンとの塩を含む。
【0050】
式(I)の化合物
故に、本発明は、式(I)の化合物:
【0051】
【0052】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ Aは、
・ 式(A')の基:
【0053】
【0054】
{式中、
- R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
- R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}、又は
・ 式(A")の基:
【0055】
【0056】
{式中、
- R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
- R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}
の中から選択される基を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表す]
及びその水和物、又はジアステレオ異性体、及び又は薬理学的に許容される塩に関する。
【0057】
好ましい実施形態では、R3は、水素ではない。
【0058】
故に、好ましくは、本発明は、式(I)の化合物:
【0059】
【0060】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ Aは、
・ 式(A')の基:
【0061】
【0062】
{式中、
- R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
- R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}、又は
・ 式(A")の基:
【0063】
【0064】
{式中、
- R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
- R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す}
の中から選択される基を表し、
○ R3は、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表す]
及びその水和物、又はジアステレオ異性体、及び又は薬理学的に許容される塩に関する。
【0065】
本発明の特定の実施形態によれば、式(I)、(I')又は(I")の化合物は、R2'、R2"及びR3が、独立して、
- 水素、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表すようなものである。
【0066】
別の特定の実施形態によれば、式(I)、(I')又は(I")の化合物は、
○ R2'及びR2"が、独立して、
- 水素、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表し、
○ R3が、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表すようなものである。
【0067】
本発明の更なる特定の実施形態によれば、式(I)、(I')又は(I")の化合物は、R2'、R2"及びR3が、アシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表すようなものである。
【0068】
本明細書において使用される場合、用語「生物学的活性化合物」は、生物学的活性、及びより具体的には、治療活性を有するすべての化合物及びすべての分子を含む。例えば、生物学的活性化合物は、抗炎症性化合物、神経弛緩性、抗精神病性及び抗てんかん性化合物等である。特定の実施形態によれば、生物学的活性化合物は、上述された通り、脂肪アシル又はその酸素化誘導体の1つである。
【0069】
この特定の実施形態によれば、生物学的活性化合物は、1つのアシル基(-C=O)によって分子の残りに結合している。好ましくは、生物学的活性化合物は、ベクターと生物学的活性化合物との間にアミド結合(-NH-CO)を形成するために、カルボニル又はカルボキシル基によって自然に又は化学的に官能基化されている。好ましくは、カルボニル又はカルボキシル基によって官能基化された生物学的活性化合物は、ベクターのアミン基とアミド結合を形成する。
【0070】
本発明によれば、式(I)の化合物は、R4が、水素原子又は(C1~C6)アルキル基を表すようなものである。好ましくは、R4は、水素原子又はメチル基、より好ましくは水素を表す。
【0071】
上記で定義した通りの式(I)の化合物は、基(A)の化学構造に従い、2つのサブファミリー、式(I')のスフィンゴシナプトリポキシン(SSL)及び式(I")のアミノグリセロホスホシナプトリポキシン(AGPSL)に分類されうる。
【0072】
スフィンゴシナプトリポキシン(SSL)
SSLは、Aが、式(A')の基:
【0073】
【0074】
[式中、
- R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
- R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す]
を表す、上記で定義した通りの式(I)の化合物に対応する。
【0075】
故に、本発明の特定の実施形態は、式(I')のSSL化合物:
【0076】
【0077】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R1'は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている、飽和又は不飽和(C1~C24)アルキル鎖を表し、
○ R2'は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物;好ましくは、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基、好ましくはメチル基を表す]
に関する。
【0078】
好ましい実施形態によれば、R1'は、10から20個、12から18個までの炭素原子、優先傾向として12から16個までの炭素原子、更に一層好ましくは14個の炭素原子を含む、飽和又は不飽和アルキル鎖を表し、前記鎖は、ヒドロキシル及びハロゲンの中から選択される少なくとも1つの基によって場合により置換されている。更に一層好ましい実施形態によれば、R1'は、14個の炭素原子を含む飽和アルキル鎖、すなわち、テトラデカニル(tetradecanyl)鎖を表す。
【0079】
更なる好ましい実施形態によれば、R2'及びR3は、独立して、水素又はドコサヘキサエン酸を表す。
【0080】
更なる好ましい実施形態によれば、R4は、水素を表す。
【0081】
特定の実施形態によれば、式(I')の化合物は、nが、0に等しい整数であるようなものである。nが0であるこの実施形態によれば、式(I')の化合物は、R3-NH-CH2-CH(R4)-基のリンとの結合を可能にするホスホネート結合(C-P)を含む。nが0に等しい式(I')のこれらの化合物は、本明細書で開示される通りの化合物SSL-Xに対応する。
【0082】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1'が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、水素を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I')の化合物SSL-X1である。
【0083】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、水素を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I')の化合物SSL-X2である。
【0084】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1'が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、1個の水素を表す、
式(I')の化合物SSL-X3である。
【0085】
式(I')の化合物SSL-Xは、バイオベースのアプローチによって及び/又は全化学合成アプローチによって調製されうる。式(I')のSSL化合物を調製するための一般的手順を、
図1に例証する。
【0086】
バイオベースのアプローチの文脈では、他の海生軟体動物と比較して豊富であり高価ではない生物であるイガイ属ミティラス・ガロプロビンシアリス(Mytilus galloprovincialis)等の海生軟体動物から、セラミドアミノエチルホスホネート(CAEP)が抽出及び精製される。これを達成するために、全脂質をフォルチ法(Folch J.、Lees M.及びStanley G.H.S.; (1957); A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J. Biol. Chem. 226、497~509)に従って抽出及び精製し、次いで、鹸化する。不鹸化画分の精製後、強アルカリ加水分解によって又は酸加水分解によってのいずれかで、CAEPを脱アシル化する。脱アシル化CAEPをその後精製し、適量に分け、定義された分量のドコサヘキサエン酸と反応させて、N-アシル化により化合物SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3を取得する。
【0087】
全化学合成アプローチの文脈では、第一の工程は、例えば無水酢酸を使用してO-アセチル化スフィンゴミエリンを取得する、市販のスフィンゴミエリンのヒドロキシル基のアセチル化である。第二の工程は、O-アセチル化セラミドを取得する、O-アセチル化スフィンゴミエリンの非特異的C型ホスホリパーゼ(クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens))による加水分解であり、次いでこれを精製する。第三の工程は、O-アセチル-セラミド-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートを取得する、O-アセチル化セラミドのモノ塩素化2-フタルイミドホスホン酸によるリン酸化(phosphonylation)である。第四の工程は、O-アセチル化スフィンゴシルホスホエタノールアミン(sphingosylphophonoethanolamine)を取得する、O-アセチル-セラミド-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートのヒドラジン分解であり、次いでこれを精製する。次いで、O-アセチル化スフィンゴシルホスホエタノールアミンを、ある量のDHAと反応させて、N-アシル化、続いて、O-脱アシル化によって、化合物SSL-X1、SSL-X2及びSSLX3を提供する。
【0088】
更なる特定の実施形態によれば、式(I')の化合物は、nが、1に等しい整数であるようなものである。Nが1であるこの実施形態によれば、式(I')の化合物は、R3-NH-CH2-CH(R4)-O-基のリンとの結合を可能にするエステル-リン結合(O-P)を含む。nが1に等しい式(I')のこれらの化合物は、本明細書で開示される通りの化合物SSL-Yに対応する。
【0089】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1'が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、水素を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I')の化合物SSL-Y1である。
【0090】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1'が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、水素を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、1個の水素を表す、
式(I')の化合物SSL-Y2である。
【0091】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1'が、テトラデカニル基を表し、
○ R2'が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I')の化合物SSL-Y3である。
【0092】
化合物SSL-Y1、SSL-Y2及びSSL-Y3は、市販の出発材料としてセラミドホスホリルエタノールアミン(CPEA)から出発し、
図1で例証されているプロセスの脱アシル化、精製、投薬量及びN-アシル化工程を含むプロセスに従う全化学合成アプローチによって、合成されうる。
【0093】
アミノグリセロホスホシナプトリポキシン(AGPSL)
AGPSLは、Aが、式(A")の基:
【0094】
【0095】
[式中、
- R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
- R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表す]
を表す、上記で定義した通りの式(I)の化合物に対応する。
【0096】
故に、本発明の更なる特定の実施形態は、式(I")のAGPSL化合物:
【0097】
【0098】
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R1"は、2から30個までの炭素原子を含む好ましくは飽和の脂肪アシルを表し、
○ R2"は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R3は、水素、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物、好ましくは、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、その酸素誘導体の1つ、又はアシル基によって分子の残りに結合している生物学的活性化合物を表し、
○ R4は、水素又は(C1~C6)アルキル基、好ましくはメチル基を表す]
に関する。
【0099】
好ましい実施形態によれば、R1"は、12から20個までの炭素原子、12から18個までの炭素原子、好ましくは12から16個までの炭素原子、より好ましくは16個の炭素原子を含む、好ましくは飽和の脂肪アシルを表す。更に一層好ましい実施形態によれば、R1"は、パルミチン酸を表す。
【0100】
更なる好ましい実施形態によれば、R2"及びR3は、独立して、水素又はドコサヘキサエン酸を表す。
【0101】
更なる好ましい実施形態によれば、R4は、水素を表す。
【0102】
特定の実施形態によれば、式(I")の化合物は、nが、0に等しい整数であるようなものである。nが0であるこの実施形態によれば、式(I")の化合物は、R3-NH-CH2-CH(R4)-基のリンとの結合を可能にするホスホネート結合(C-P)を含む。nが0に等しい式(I")のこれらの化合物は、本明細書で開示される通りの化合物AGPSL-Xに対応する。
【0103】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、水素を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-X1である。
【0104】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、水素を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-X2である。
【0105】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、0に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、1個の水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-X3である。
【0106】
AGPSL-Xは、全化学合成アプローチによって調製されうる。この文脈では、第一の工程は、ジアシルグリセロール-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートを取得する、2-モノ塩素化フタルイミドホスホン酸を使用する市販のジアシルグリセロールのリン酸化である。第二の工程は、グリセロホスホノエタノールアミンを取得する、ジアシルグリセロール-(2-フタルイミドエチル)ホスホネートのヒドラジン分解であり、次いでこれを精製する。次いで、グリセロホスホノエタノールアミンを、ある量のDHAと反応させて、N-アシル化によって、化合物AGPSL-X2を提供する。AGPSL-X1は、ホスホリパーゼA2によるグリセロホスホノエタノールアミンの脱アシル化によって、及びDHAの存在下での再O-アシル化によって、取得される。AGPSL-X3は、AGPSL-X1のグリセロールのsn-2位における脱アシル化及びDHAの存在下での再O-アシル化によって、取得される。
【0107】
更なる特定の実施形態によれば、式(I")の化合物は、nが1に等しい整数であるようなものである。nが1であるこの実施形態によれば、式(I")の化合物は、R3-NH-CH2-CH(R4)-O-基のリンとの結合を可能にするエステル-リン結合(O-P)を含む。nが1に等しい式(I")のこれらの化合物は、本明細書で開示される通りの化合物AGPSL-Yに対応する。
【0108】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、水素を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-Y1である。
【0109】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、水素を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-Y2である。
【0110】
本発明の好ましい化合物は、
○ nが、1に等しい整数であり、
○ R1"が、パルミチン酸を表し、
○ R2"が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R3が、ドコサヘキサエン酸を表し、
○ R4が、水素を表す、
式(I")の化合物AGPSL-Y3である。
【0111】
AGPSL-Yは、市販のホスファチジルエタノールアミン(phospatidylethanolamine)から出発し、全化学合成アプローチによって調製されうる。AGPSL-Y1は、ホスホリパーゼA2によるグリセロールのsn-2位におけるホスファチジルエタノールアミンの脱アシル化によって、及びDHAの存在下での再O-アシル化によって、取得される。AGPSL-Y2は、ホスホリパーゼA2によるグリセロールのsn-2位におけるホスファチジルエタノールアミンの脱アシル化によって、及びDHAの存在下でのN-アシル化によって、取得される。AGPSL-Y3は、ホスホリパーゼA2によるグリセロールのsn-2位におけるホスファチジルエタノールアミンの脱アシル化によって、並びにドコサヘキサエン酸の存在下でのN-アシル化及びO-アシル化によって、取得される。
【0112】
式(II)の化合物
本発明は更に、式(II)の化合物:
R5-NH-CH2-CH(R7)-O(n)-R6(II)
[式中、
○ nは、0又は1に等しい整数であり、
○ R5は、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、又はその酸素誘導体の1つを表し、
○ R6は、-PO3
2-基であり、
○ R7は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表し、
但し、nが1に等しい場合、R5は、アラキドン酸ではない]、及び
その水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩に関する。
【0113】
本発明の特定の実施形態によれば、式(II)の化合物は、R5が、
- 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはカプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシル、或いは
- レゾルビン、マレシン、ニューロプロテクチン及びニューロプロスタンから選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの酸素誘導体
を表すようなものである。
【0114】
本発明の好ましい実施形態では、式(II)の化合物は、R5が、ドコサヘキサエン酸である、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表すようなものである。
【0115】
本発明によれば、式(II)の化合物は、R7が、水素又は(C1~C6)アルキル基を表すようなものである。好ましくは、R7は、水素原子又はメチル基、より好ましくは水素を表す。
【0116】
上記で定義した通りの式(II)の化合物は、整数nに従い、2つのサブファミリー、脂肪酸のエタノールアミン-ホスホネート誘導体及び脂肪酸のエタノールアミン-ホスフェート誘導体に分類されうる。
【0117】
エタノールアミン-ホスホネート誘導体
特定の実施形態では、式(II)の化合物は、nが0に等しいようなものである。そのような特定の化合物は、本明細書において「脂肪酸のエタノールアミン-ホスホネート誘導体」と呼ばれうる。
【0118】
この特定の実施形態によれば、式(II)の化合物は、下記の式(IIA)
R5-NH-CH2-CH(R7)-PO3
2-(IIA)
[式中、R5及びR7は、上記で定義した通りである]
によって表すこともできる。
【0119】
好ましい実施形態では、式(IIA)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の中から選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表すようなものである。
【0120】
更なる好ましい実施形態では、式(IIA)の化合物は、R7が、水素を表すようなものである。
【0121】
より好ましい実施形態では、式(IIA)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0122】
更に一層好ましい実施形態では、式(IIA)の化合物は、R5が、ドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0123】
エタノールアミン-ホスフェート誘導体
特定の実施形態では、式(II)の化合物は、nが1に等しいようなものである。そのような特定の化合物は、本明細書において「脂肪酸のエタノールアミン-ホスフェート誘導体」と呼ばれうる。
【0124】
この特定の実施形態によれば、式(II)の化合物は、下記の式(IIB)
R5-NH-CH2-CH(R7)-O-PO3
2-(IIB)
[式中、R5及びR7は、上記で定義した通りであり、但し、R5は、アラキドン酸ではない]
によって表すこともできる。
【0125】
更なる特定の実施形態では、式(IIB)の化合物は、R5が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸及びドコサヘキサエン酸、好ましくはカプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群で選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルの中から選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表すようなものである。
【0126】
好ましい実施形態では、式(IIB)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の中から選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表すようなものである。
【0127】
更なる好ましい実施形態では、式(IIB)の化合物は、R7が、水素を表すようなものである。
【0128】
より好ましい実施形態では、式(IIB)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0129】
更に一層好ましい実施形態では、式(IIB)の化合物は、R5が、ドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0130】
エタノールアミン誘導体
本明細書で更に開示されるのは、式(II')の化合物:
R5'-NH-CH2-CH(R7')-O(n)-R6'(II')
[式中、
○ nは、1に等しい整数であり、
○ R5'は、2から30個までの炭素原子を含む飽和若しくは不飽和脂肪アシル、又はその酸素誘導体の1つを表し、
○ R6'は、水素であり、
○ R7'は、水素又は(C1~C6)アルキル基を表す]、及び
その水和物、又はジアステレオ異性体、又は薬理学的に許容される塩である。
【0131】
そのような特定の化合物は、本明細書において「脂肪酸のエタノールアミン誘導体」と呼ばれうる。
【0132】
式(II)の化合物は、下記の式(IIC)
R5-NH-CH2-CH(R7)-OH(IIC)
[式中、R5及びR7は、上記で定義した通りである]
によって表すこともできる。
【0133】
好ましい実施形態では、式(IIC)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の中から選択される、2から30個までの炭素原子を含む飽和又は不飽和脂肪アシルを表すようなものである。
【0134】
更なる好ましい実施形態では、式(IIC)の化合物は、R7が、水素を表すようなものである。
【0135】
より好ましい実施形態では、式(IIC)の化合物は、R5が、カプリン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0136】
更に一層好ましい実施形態では、式(IIC)の化合物は、R5が、ドコサヘキサエン酸を表し、R7が、水素を表すようなものである。
【0137】
用途
上記で開示されている通り、式(I')及び(I")の、並びに式(IIA)及び(IIB)の化合物を含む式(II)の化合物を含む、式(I)の本発明による化合物は、薬物又は薬として使用されうる。式(I')及び(I")の、並びに式(IIA)及び(IIB)の化合物を含む式(II)の化合物を含む、式(I)の本発明による化合物は、炎症性疾患の予防及び/又は処置において使用されうる。式(I')及び(I")の、式(IIA)及び(IIB)の化合物を含む式(II)の、並びに式(II')の化合物を含む、式(I)の本発明による化合物は、認知低下/欠損を予防するため、並びに/又は脳傷害で及び/若しくは外傷性脳傷害で及び/若しくは神経炎症性疾患で及び/若しくは神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるために使用されうる。本発明の更なる特定の実施形態では、本発明による式(I)、(I')、(I")、(II)、(IIA)、(IIB)及び(II')の化合物は、発作を伴う疾患を予防する及び/又は処置するために使用されうる。本発明の更なる特定の実施形態では、本発明による式(I)、(I')、(I")、(II)、(IIA)、(IIB)及び(II')の化合物は、抗てんかん薬として使用されうる。本発明の更なる特定の実施形態では、本発明による式(I)、(I')、(I")、(II)、(IIA)、(IIB)及び(II')の化合物は、非病理学的老化中の認知機能を保護するために使用されうる。本発明の更なる特定の実施形態では、本発明による式(I)、(I')、(I")、(II)、(IIA)、(IIB)及び(II')の化合物は、健康な対象において認知機能を強化するために使用されうる。
【0138】
本明細書において使用される場合、用語「処置」、「処置する」及び「処置すること」は、対象における炎症性疾患又は認知障害等の疾患又は障害の、寛解、防御又は逆転を指す。一実施形態では、用語「処置」、「処置する」及び「処置すること」は、対象における疾患又は障害の進行の阻害又は遅延を指すこともできる。別の実施形態では、これらの用語は、対象における疾患又は障害の発病の遅延を指す。一部の実施形態では、本発明の化合物は、予防的措置として投与される。この文脈では、用語「処置」及び「処置する」は、対象における指定された疾患又は障害を獲得するリスクの低減を指す用語「予防」及び「予防する」に対応しうる。
【0139】
本明細書において使用される場合、用語「認知機能を強化すること/の強化」は、健康な対象における、注意、集中、学習又は記憶等の能力の改善を指す。
【0140】
本明細書において使用される場合、「対象」は、任意の健康な生物、或いは、炎症性疾患及び/若しくは認知障害を伴う疾患及び/若しくは行動障害に罹患する可能性が高い、並びに/又は脳傷害若しくは外傷性脳傷害に供されたことがある可能性が高い、生物に対応する。好ましい実施形態では、対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0141】
特定の作用機序を伴わずに、式(I)の化合物は、抗炎症及び/若しくは抗てんかん特性を有する並びに/又は認知の保護及び修復特性を有する分子を担持する/送達することを可能にする。例えば、式(I)の化合物は、脂肪酸(又はそれらの代謝誘導体)を担持し、それにより、脂肪酸、そのエタノールアミン誘導体、又はそのエタノールアミン-ホスホネート誘導体、又はそのエタノールアミン-ホスフェート誘導体のいずれかをインビボで送達することができる。例として、式(I)の化合物がドコサヘキサエン酸を担持する場合、これらは、DHA及び/又はシナプタミド及び/又はシナプタミドホスホネート及び/又はリン酸化シナプタミドのいずれかをインビボで送達することができる。本明細書において使用される場合、用語「シナプタミド」は、「DHA-エタノールアミン」に対応する。
【0142】
本発明の化合物の抗炎症特性は、それらを有意な神経炎症成分による神経変性疾患の処置において非常に興味深いものにしている。それらの特性により、これらの化合物は、神経変性疾患以外の種々の炎症性疾患の処置においても有効である。
【0143】
したがって、本発明の目的は、薬として使用するための、本明細書で定義される通りの式(I)、(I')、(I")又は(II)の化合物に関する。本発明の更なる目的は、本明細書で定義される通りの式(I)、(I')、(I")又は(II)の本発明の少なくとも1つの化合物と、許容される医薬賦形剤とを含む、医薬組成物である。本明細書で定義される通りの式(II')の本発明の少なくとも1つの化合物と、許容される医薬賦形剤とを含む、医薬組成物も開示される。
【0144】
特定の実施形態によれば、式(I)、(I')、(I")又は(II)の化合物を含む本発明の医薬組成物は、炎症性疾患を予防する及び/又は処置するために使用される。炎症性疾患は、例えば、中枢神経系の炎症性疾患(神経炎症性疾患)、網膜の炎症性疾患、炎症性関節疾患及び消化器系の炎症性疾患を含む。
【0145】
神経炎症性疾患は、脳、脊髄を含む中枢神経系(CNS)及び網膜における炎症を特徴とする。神経炎症性疾患の兆候及び症状は、CNSの患部に応じて変動しうる。CNS又は網膜の炎症は、脳卒中、感覚異常、失明、発話障害、記憶喪失、精神的敏捷性の減少等の限局性障害、並びに集中及び行動における変化を引き起こしうる。
【0146】
CNS炎症は、幻覚、思考のゆがみ、精神錯乱及び気分変動等の精神科的症状も引き起こしうる。CNSにおける炎症の程度及び位置に応じて、てんかん発作及び頭痛が頻発しうる。てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、認知症及びハンチントン病は、神経炎症性疾患の網羅的ではない例である。
【0147】
消化器系の炎症性疾患は、消化管の一部の壁における消化器免疫系の過剰活性を特徴とする。クローン病、潰瘍性大腸炎及び腸症候群は、消化器系の炎症性疾患の網羅的ではない例である。
【0148】
炎症性関節疾患は、関節における炎症を特徴とする。関節炎及びリウマチは、炎症性関節疾患の網羅的ではない例である。
【0149】
更なる特定の実施形態では、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物を含む本発明の医薬組成物は、認知障害を伴う疾患を予防する及び/又は処置するために使用される。認知障害は、記憶、注意及び適応性に特に影響を及ぼす精神障害を意味する。認知障害の原因は、異なる種類の障害の間で変動するが、それらのほとんどは、脳損傷によって引き起こされる。アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、てんかん、せん妄、認知症及び記憶喪失は、認知障害を伴う疾患の網羅的ではない例である。
【0150】
更なる特定の実施形態では、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物を含む本発明の医薬組成物は、発作を伴う疾患を予防する及び/又は処置するために使用される。「発作」は、脳におけるニューロンの過剰な過同期放電によって引き起こされた神経機能の発作性変化によって引き起こされうる。発作を伴う疾患の例は、再発性の非誘発性発作の状態であるてんかん、及び感染症、脳卒中、頭部傷害又は薬物に対する反応等の発作につながる脳の刺激をトリガーする(誘発する)任意の可逆的障害である。小児では、熱が非てんかん発作をトリガーしうる(「熱性発作」とも呼ばれる)。ある特定の精神障害は、心因性非てんかん発作又は擬発作と呼ばれる、発作に似ている症状を引き起こしうる。
【0151】
したがって、本発明は、炎症性疾患、特に中枢神経系の炎症又は神経炎症性疾患、消化管の炎症性疾患、網膜の炎症性疾患、炎症性関節疾患の中から選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、本明細書で定義される通りの式(I)、(I')、(I")又は(II)の化合物を含む医薬組成物に関する。したがって、本発明は更に、認知障害を伴う疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、本明細書で定義される通りの式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物を含む医薬組成物に関する。
【0152】
本発明は、炎症性疾患、特に中枢神経系の炎症若しくは神経炎症性疾患、消化管の炎症性疾患、炎症性関節疾患、網膜の炎症性疾患又は認知障害を伴う疾患の中から選択される疾患を処置するための方法であって、効率的な量の式(I)若しくは(II)の化合物又はそのような化合物を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法にも関わる。
【0153】
本発明は、炎症性疾患、特に中枢神経系の炎症若しくは神経炎症性疾患、消化管の炎症性疾患、炎症性関節疾患、網膜の炎症性疾患又は認知障害を伴う疾患の中から選択される疾患を処置するための医薬組成物を製造するための、式(I)又は(II)の化合物の使用にも関わる。
【0154】
本発明の特定の実施形態では、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物によって予防される及び/又は処置される疾患/障害は、てんかん、外傷性脳傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、クローン病、腸症候群、認知症及びハンチントン病から選択され、好ましくはてんかんである。
【0155】
本発明の目的は、てんかん、外傷性脳傷害、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、クローン病、腸症候群、認知症及びハンチントン病からなる群で選択される疾患を予防する及び/又は処置するために使用するための、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物を含む本明細書で定義される通りの医薬組成物である。本発明の更なる目的は、そのような疾患を処置するための方法であって、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物を含む本明細書で定義される通りの医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法である。本発明の更なる目的は、そのような疾患を予防する及び/又は処置するための医薬組成物を製造するための、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物の使用である。
【0156】
本明細書において使用される場合、「てんかん」は、焦点意識保持発作を伴う、又は焦点意識減損発作を伴う、又は両側性強直間代発作を伴う、又は欠神発作を伴う、又は非定型欠神発作を伴う、又は強直間代発作を伴う、又は脱力発作を伴う、又は間代発作を伴う、又は強直発作を伴う、又はミオクローヌス発作を伴う、又は笑い及び泣き発作を伴う、又は熱性発作を伴う、又は難治性発作を伴うてんかん、並びに、常染色体優性夜間前頭葉てんかん、小児欠神てんかん、中心側頭部に棘波を持つ小児てんかん、別名良性ローランドてんかん、ドーゼ症候群、ドラベ症候群、早期ミオクロニー脳症、遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん、眼瞼ミオクロニーを伴うてんかん(Epilpesy)(ジーボンス症候群)、全身性強直性間代性発作のみを伴うてんかん、ミオクローヌス欠神を伴うてんかん、睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症、前頭葉てんかん、乳児けいれん(ウエスト症候群)及び結節性硬化症複合体、若年性欠神てんかん、若年性ミオクローヌスてんかん、ラフォラ進行性ミオクローヌスてんかん、ランドウ・クレフナー症候群、レノックス・ガストー症候群、大田原症候群、パナイトポーラス症候群、進行性ミオクローヌスてんかん、反射てんかん、側頭葉てんかんを含む、様々なてんかん症候群を含む。
【0157】
本発明の特定の目的は、てんかん発作の重症度及び/又は頻度を減少させる/低減させるために使用するための、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物を含む本明細書で定義される通りの医薬組成物である。本発明の更なる特定の目的は、てんかん発作の重症度及び/又は頻度を減少させる/低減させるための方法であって、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物を含む本明細書で定義される通りの医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法である。本発明の更なる特定の目的は、てんかん発作の重症度及び/又は頻度を減少させる/低減させるための医薬組成物を製造するための、式(I)、(I')、(I")、(II)及び(II')の化合物の使用である。
【0158】
更なる特定の実施形態では、本発明は、認知低下/欠損を予防するため、並びに/又は脳傷害で及び/若しくは外傷性脳傷害で及び/若しくは神経炎症性疾患で及び/若しくは神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるために使用するための、本明細書で定義される通りの医薬組成物に関する。
【0159】
本発明の特定の実施形態は、脳傷害で及び/又は外傷性脳傷害で及び/又は神経炎症性疾患で及び/又は神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるための方法であって、効率的な量の式(I)、(I')、(I")、(II)若しくは(II')の化合物又はそのような化合物を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法に関する。
【0160】
本発明の更なる特定の実施形態は、認知低下を予防するため、又は脳傷害で及び/若しくは外傷性脳傷害で及び/若しくは神経炎症性疾患で及び/若しくは神経変性疾患で変化した認知機能を回復させるための医薬組成物を製造するための、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物の使用に関する。
【0161】
本明細書において使用される場合、「認知機能」は、数ある中でも、実行機能、学習及び記憶、注意及び処理速度、言語を含む知識に関係するすべての精神機能を指す。
【0162】
本明細書において使用される場合、脳傷害は、内部又は外部源から生じる脳の傷害を含む。外部源由来の特定の脳傷害は、頭部傷害又は頭部及び脳傷害を含む頭蓋大脳外傷を指す「外傷性脳傷害」である。臨床的には、外傷性脳傷害の3つの主なカテゴリー:軽度(意識消失も頭蓋骨骨折もない)、中等度(数分間を超える初期の意識消失を伴う又は頭蓋骨骨折を伴う)及び重度(直ちに昏睡を伴い、関連する頭蓋骨骨折を伴わない又は伴う)がある。外傷性脳傷害の多くの後遺症の中で、認知機能障害は、長期機能不全へのその寄与に関連して最も重要でありうる。
【0163】
神経変性疾患は、炎症性成分が病因論に寄与する、遅く不連続な進化を伴う障害性(disabling)慢性疾患である。神経変性疾患は、認知機能の喪失又は変化ももたらす。脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、アレキサンダー病、アルパース病、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、クロイツフェルト(Creutzfeld's)病、ハンチントン病、パーキンソン病、ピック病、進行性核上性麻痺及び筋萎縮性側索硬化症は、神経変性疾患の網羅的ではない例である。
【0164】
更なる特定の実施形態によれば、本発明は、老化中の認知機能を予防する及び/若しくは保全するため、並びに/又は健康な対象において認知機能を強化するための、本明細書で定義される通りの医薬組成物の使用に関する。
【0165】
本発明の特定の実施形態は、老化中の認知機能を保全する及び/又は健康な対象において認知機能を強化するための方法であって、効率的な量の式(I)、(I')、(I")、(II)若しくは(II')の化合物又はそのような化合物を含む医薬組成物を、前記健康な対象に投与する工程を含む、方法に関する。本明細書において使用される場合、「認知機能の保全」は、認知機能の変化のリスクの低減も意味する。
【0166】
本発明によれば、本明細書で定義される通りの医薬組成物は、薬学的に許容される支持体又は担体を含む。「薬学的に許容される支持体」は、少なくとも1つの許容される医薬賦形剤を含有する支持体を含む。「薬学的に許容される賦形剤」は、処置対象に対する有害作用を誘導することなく、所望のガレノス形態の本発明の医薬組成物を製剤化することを可能にする任意の賦形剤を含む。当業者は、意図された投与経路に適応している製剤に従い、薬学的に許容される賦形剤の性質及び割合を選択することができる。
【0167】
本明細書において使用される場合、「有効量」又は「有効用量」は、炎症性疾患又は認知欠損を特徴とする疾患を処置する及び/又は予防するために十分な治療効果を取得することを可能にする、本発明の化合物又は本発明の化合物を含む医薬組成物の量又は分量を決定する。投与量は、患者、病理学、投与モード及び疾患の重症度等に従い、当業者によって適応されうることが理解される。例えば、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の本発明の化合物の有効量は、0.01mg/kgから100mg/kg(BW)の間、0.01mg/kgから50mg/kg(BW)の間、0.01mg/kgから10mg/kg(BW)の間である。特に、式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の本発明の化合物の有効量は、5mg/kg(BW)、10mg/kg(BW)又は50mg/kg(BW)である。この有効量は、1回のみ、又は週に1回、週に2回若しくは週に3回等時折、又は1日に1回若しくは複数回、例えば1日に2若しくは3回等より頻繁に、患者によって摂取されうる。好ましくは、この量は、毎日、すなわち、1日に1回、対象に投与される。
【0168】
好ましい実施形態によれば、本発明の式(I)、(I')、(I")、(II)又は(II')の化合物は、0.01mg/kgから100mg/kg(BW)の間、好ましくは0.01mg/kgから10mg/kg(BW)の間、より好ましくは約5mg/kg(BW)、10mg/kg(BW)又は50mg/kg(BW)の量又は用量で、対象に投与される。特定の態様では、本発明の化合物及び医薬組成物は、週に数日、例を挙げると4、5、6又は7日等、投与されうる。好ましくは、それらは、1日に1回投与される。
【0169】
本発明の医薬組成物の投与経路は、経口又は非経口(皮下、筋肉内、腹腔内、脳室内、静脈内及び/又は皮内を含む)でありうる。好ましくは、投与経路は、非経口、経口又は局所である。非経口注射の文脈では、静脈内注射が好ましい。
【0170】
好ましい実施形態によれば、式(I)の化合物を含む医薬組成物は、経口で投与されるべきである。
【0171】
更なる好ましい実施形態によれば、式(II)又は(II')の化合物を含む医薬組成物は、経口経路によって又は非経口(parental)経路によって投与されるべきである。好ましい非経口経路は、腹腔内経路である。
【0172】
例において記述されている通り、式(I')の化合物に対応するSSLは、遅く長期間続く腸加水分解/吸収を提示し、一方、式(I")の化合物に対応するグリセロリン脂質AGPSLは、腸管中で比較的速く加水分解/吸収される(Digestion of Phospholipids after Secretion of Bile into the Duodenum Changes the Phase Behavior of Bile Components. Woldeamanuel A. Birru.ら、Mol. Pharmaceutics、2014、11、2825~2834)。これらの薬物動態の差異は、多数の潜在的利点を導入し、急性又は慢性様式のいずれかで患者の処置を可能にし、それにより、臨床例に従い治療的介入の多くの可能性を提供する。慢性処置には、式(I')の化合物を含む医薬組成物の経口での投与が好ましい。急性処置には、式(I")の化合物を含む医薬組成物の経口での投与が好ましい。
【0173】
外傷性脳傷害及びてんかん重積状態等の治療上の緊急事態では、本明細書で記述される通りの脂肪酸の代謝誘導体、特に、シナプタミド、シナプタミドホスフェート及びシナプタミドホスホネートのようなドコサヘキサエン酸の代謝誘導体の、静脈内、脳室内又は皮下投与が検討されうる。
【0174】
故に、更なる目的は、外傷性脳傷害及び/又はてんかん重積状態によって変化した認知機能を保護する及び/又は回復させるための、ドコサヘキサエン酸の少なくとも1つの代謝誘導体、特に、シナプタミド、シナプタミドホスフェート及び/又はシナプタミドホスホネートを含む医薬組成物に関わり、ここで、前記医薬組成物は静脈内に投与される。
【0175】
更なる目的は、対象において外傷性脳傷害及び/又はてんかん重積状態によって変化した認知機能を保護する及び/又は回復させるための方法であって、有効量又は用量の、ドコサヘキサエン酸の少なくとも1つの代謝誘導体、特に、シナプタミド、シナプタミドホスフェート及び/若しくはシナプタミドホスホネート又はそれらを含む医薬組成物の、この対象への静脈内投与を含む、方法に関わる。
【0176】
別の目的は、外傷性脳傷害及び/又はてんかん重積状態によって変化した認知機能を保護する及び/又は回復させるための医薬組成物を製造するための、ドコサヘキサエン酸の少なくとも1つの代謝誘導体、特に、シナプタミド、シナプタミドホスフェート及び/又はシナプタミドホスホネートの使用に関わり、ここで、前記医薬組成物は、静脈内に投与される。
【0177】
好ましい実施形態によれば、前記ドコサヘキサエン酸の代謝誘導体の少なくとも1つ、特に、シナプタミド、シナプタミドホスフェート及び/又はシナプタミドホスホネートは、対象に、0.01から10mg/kg(BW)まで、好ましくは0.5から5mg/kg(BW)までの範囲の用量で、より好ましくは約2mg/kg(BW)の用量で、静脈内に投与される。
【0178】
別の実施形態によれば、本明細書で定義される通りの、式(I')及び(I")の化合物を含む式(I)の本発明の化合物、並びに式(IIA)及び(IIB)の化合物を含む式(II)の本発明の化合物は、栄養補助食品として使用されうる。
【0179】
本発明の更なる態様及び利点を、下記の実施例において開示し、これらは、例証的なものとして解釈されるべきであり、本出願の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0180】
(実施例A)
合成
I.1. SSL-X化合物(n=0)の合成
1. バイオベースのアプローチ
SSL-Xの合成は、一部の海洋生物、とりわけイガイ属ミティラス・ガロプロビンシアリス等の二枚貝軟体動物における、セラミドアミノエチルホスホネート(CAEP)の相対存在量を使用して実施した。そうするために、全脂質をフォルチ法(Folch J.、Lees M.及びStanley G.H.S.; (1957); A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J. Biol. Chem. 226、497~509)に従って抽出及び精製した。次いで、脂質を鹸化した。鹸化しなかった脂質画分の精製後、強アルカリ加水分解又は酸性加水分解のいずれかを使用して、CAEPを脱アシル化した。次いで脱アシル化CAEPを精製し、定量化した。次いで、SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3をN-アシル化によって合成した。
図1は、合成手順を例証している。
【0181】
この後、SSLの合成のための詳細な手順について記述する。
【0182】
1.1. 全脂質の抽出及び精製。
全脂質をフォルチ法に従って抽出及び精製する。そうするために、クロロホルム-メタノール(2:1、v/v)混合物中のポリトロン(25mL/組織1g)を使用して組織をホモジナイズする。脂質抽出を、4℃で12時間にわたって進行させる。無灰フィルターを使用して試料を濾過し、相分配を使用して脂質を次の通りに精製する。
【0183】
粗脂質抽出物の第一の洗浄は、0.25% KCl水溶液(m/v)を使用して実施し、これを脂質抽出物に、脂質抽出物体積の4分の1の割合で添加する。相分離後、水性メタノール相を廃棄する。メタノールを有機下相に添加することによって、クロロホルム-メタノールの初期割合を回復させ、第二の洗浄を、第一の洗浄で使用された同じ条件で、脱イオン水を使用して実施する。非脂質汚染物質を含有する上相を廃棄し、ロータリーエバポレーターを使用してクロロホルム下相を乾固させる。無水エタノールを順次添加し、試料を再度乾燥させることによって微量の水を除去し、それをデシケーター内に終夜置く。全脂質の質量を決定し、脂質を、更に使用するまで-30℃においてベンゼン-メタノール(1:1、v/v)の体積で保つ。
【0184】
1.2. 全脂質の鹸化。
トリグリセリド、ステロール-エステル及びグリセロリン脂質等のエステル脂質を除去するために、脂質を弱アルカリメタノリシスに供する。反対に、スフィンゴ脂質(本発明者らの目的の分子を含む)は、鹸化に耐性がある。
【0185】
後者は、0.3MのNaOHを含有するクロロホルム-メタノール(1:1、v/v)の混合物中、室温で1時間にわたって実施する。次いで、(2:1、v/v)のクロロホルム-メタノール比を取得するために、クロロホルムの濃度を調整する。次いで、脱イオン水(クロロホルム-メタノール体積の4分の1)を添加した後、相分配によって非鹸化性脂質画分を精製する。水性上相を廃棄し、クロロホルム下相を蒸発乾固させる。次いで、非鹸化性脂質画分を、ある体積のベンゼン-メタノール(1:1、v/v)に溶解する。
【0186】
1.3. セラミドアミノエチルホスホネートの脱アシル化及びそのリゾ形態の精製。
脱アシル化は、強アルカリ処理又は酸処理のいずれかを使用して実施した。強アルカリ処理は、かき混ぜながら、メタノール中1.5MのKOHを使用し、100℃で24時間にわたって実施した。濃HClの添加によって反応を停止した。
【0187】
酸加水分解は、濃HCl-メタノール(1:5、v/v)を使用し、75℃で6時間にわたって実施した。冷却した後、ヘキサンを使用して2回の液体抽出を実現した。強アルカリ加水分解は、スフィンゴシルアミノエチルホスホネート(SAEP)の形成を可能にしたが、加水分解されていないCAEPの幾つかの痕跡が依然として検出可能である。前駆体及び反応生成物を分離するために、本発明者らは、スフィンゴシルアミノエチルホスホネートを精製するためのクロマトグラフィー手順を開発した。そうするために、本発明者らは、CAEP前駆体と比較した場合にSAEPが追加のアミノ基を表示するという事実を使用した。化合物の分離は、弱カチオン交換LC-WCXカラムを使用して実施した。ヘキサン、メタノール中0.5Mの酢酸、メタノール及び次いでヘキサンを連続的に塗布することにより、カラムを最初に調節した。試料を、クロロホルム-メタノール(9:2.5、v/v)中、カラムに塗布した。加水分解されていないCAEPを、0.1Mの酢酸を含有するクロロホルム-メタノール(9:4、v/v)を用いて、第一の画分中で溶離した。次いで、SAEPを、溶媒系として1Mの酢酸を含有するメタノールを使用し、第二の画分中で溶離した。
【0188】
1.4. N-アシル化による、SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3の合成。
前工程(段落1.3)で生成及び精製したSAEPを、最初に定量化した。この投薬量は、リン決定に基づき、SAEPの各分子はリンの1個の炭素を含有し、故に、SAEP分量の直接決定を可能にする。投薬量は、触媒として1g/Lの四酸化(tetroxide)バナジウムを含有する濃硫酸-濃過塩素酸(2:1、v/v)の混合物中における分子の鉱化後、分光光度的に実現した。無機リンの検出は、アミノナフタレンスルホン酸との反応後に実施した。
【0189】
定量化したら、SAEPをドコサヘキサエン酸(DHA)でN-アシル化した。N-アシル化は、トリエチルアミンの存在下、カップリング剤としてのジエチルホスホリルシアニドを含有するジクロロメタン-ジメチルホルムアミド(3:1、v/v)の混合物中で実施した。暗所で窒素飽和雰囲気中、室温で90分間にわたってかき混ぜながら反応を進行させた。この手順は、DHAのカルボン酸官能基の予備誘導体化なしに反応を可能にした。反応の条件は、反応の開始時に、2:1(モル/モル)よりも低いDHA/SAEPの比を持つ自発的に「劣化した」化学量論比で進行するように確立された。このアプローチでは、カルボン酸基を限定された分量で導入し、SAEPの遊離アミノ基のうちの1つ又は2つのランダムN-アシル化を可能にした。この合成手順は、SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3の同時発生合成を同時にワンポットで可能にした。次いで、ヘキサンで予め調節したアミノプロピル(LC-NH2)カラムを使用して、異なる反応生成物(SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3)を分離及び精製した。幾つかの画分を溶離し、下記の溶媒系を使用してカラムから収集した。F1(
図2には示されて(showed)いない):ヘキサン-酢酸エチル(85:15、v/v);F2:ジイソプロピルエーテル-酢酸(9:5、v/v);F3:アセトン-メタノール(9:1.35、v/v);F4:クロロホルム-メタノール(2:1、v/v);F5:クロロホルム-メタノール-3.6Mの酢酸アンモニウム水溶液(30:60:8、v/v/v)。SAEP:対照SAEP。異なる画分を窒素下で蒸発させ、ある体積のクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)に再懸濁し、TLCに塗布した。クロロホルム-メタノール-エタノール-酢酸エチル-0.25% KCl水溶液(10:4:10:3.6、v/v/v/v/v)を使用して脂質を分離し、炭化によって露わにした。結果を
図2に例証する。
【0190】
2. 化学合成
化合物SSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3は、下記の合成手順に従って合成する:
- O-アセチル化工程は、目的の分子の合成のための塩基性材料としてここで役立つ市販のスフィンゴミエリンのスフィンゴイド塩基によって担持されるヒドロキシル基を中和することを可能にする。このO-アセチル化を、ピリジン及び無水酢酸の存在下、室温で18時間にわたって行う。N-アセチル化現象は、スフィンゴミエリンの2つのアミノ基が置換されているという事実によって防止される。
- 第二の工程は、非特異的C型ホスホリパーゼ(クロストリジウム・パーフリンジェンス)によりO-アセチル化スフィンゴミエリンを加水分解して、O-アセチル化セラミドを放出することである。クロロホルム-メタノール(1:1、v/v)中での単純な相分配及び脱イオン水の添加により、O-アセチル化セラミドを精製する。
- 次いで、精製されたO-アセチル化セラミドを、モノ塩素化2-フタルイミドホスホン酸との反応後にリン酸化する(phosphonylate)。このリン酸化反応は、O-アセチル-セラミド-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートを合成することを可能にする。
- 次の工程は、O-アセチル-セラミド-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートのヒドラジン分解である。これは、O-アセチル-セラミド-(2-フタルイミドエチル)-ホスホネートのN-脱アシル化及びフタロイル基の同時発生放出を可能にする。次いで、このようにして生成されたO-アセチル化スフィンゴシルホスホエタノールアミンを、濾過、90%エタノール及び次いでジイソプロピルエーテル中での連続結晶化によって精製し、続いて、強カチオン交換体アンバーライトIR120Hで処理する。次いで、精製されたO-アセチル化スフィンゴシルホスホエタノールアミンを、前記の項1.4で記述した手順に準拠してN-アシル化する(例えばドコサヘキサエン酸によって)。この手順中に合成されたSSL-X1、SSL-X2及びSSL-X3を、制御されたアルカリメタノリシス(メタノール中0.6NのNaOH、室温で1時間にわたって)によってO-脱アセチル化し、次いで、アミノプロピルカラム上での相分配及び分離によって精製する。
【0191】
I.2. SSL-Y化合物(n=1)の合成
SSL-Y1、SSL-Y2及びSSL-Y3は、前駆体としての市販のセラミドホスホリルエタノールアミン(CPEA)から出発し、同じプロセスに準拠して合成した。合成は、CEAPの合成のためのものと同じ手順に準拠して行った。このために、CPEAを、項1.3で記述した通りに脱アシル化し、スフィンゴシルホスホリルエタノールアミンを、項1.4で記述した通りにN-アシル化した(ドコサヘキサエン酸によって)。
【0192】
I.3. AGPSL-X化合物(n=0)の合成
AGPSL-Xの化学合成のために準拠した手順は、下記の差異がある、SSL-Xの化学合成に使用したものと同じ合成手順に基づく:
【0193】
AGPSL-X2の合成:
- AGPSLの合成に使用した前駆体は、グリセロールのsn-1位がエステル化された商業的起源の1,2-ジアシルグリセロール、好ましくは中鎖飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸)である。第一の合成工程は、1,2-ジアシルグリセロールをモノ塩素化フタルイミドホスホン酸によりリン酸化することからなっていた。このリン酸化反応は、1,2-ジアシルグリセロール(2-フタルイミドエチル)ホスホネートを取得することを可能にした。
- 第二の工程は、1,2-ジアシルグリセロールホスホノエタノールアミンを取得するための後者の化合物のヒドラジン分解からなっていた。1,2-ジアシルグリセロールホスホノエタノールアミンをクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)に溶解し、脱イオン水(クロロホルム-メタノールの総体積の4分の1)の添加後、相分配によって精製した。
- 第三の工程は、非特異的ホスホリパーゼA2(アピス・メリフェラ(Apis millifera)由来のPLA2)を使用して、グリセロールのR2位における1,2-ジアシルグリセロールホスホノエタノールアミンを脱アシル化することからなっていた。反応は、200UホスホリパーゼA2を含有するジエチルエーテル-ホウ酸塩緩衝液(100mM、pH8.9)(1:1、v/v)中、37℃で40分間にわたって撹拌しながら行った。反応の終わりに、ジエチルエーテルを窒素下で蒸発させ、試料をクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)で抽出した。脱イオン水をクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)の4分の1体積で添加することによる相分配によって、脂質を精製した。
- 次いで、PLA2加水分解中に取得された2-リゾ、1-アシルグリセロホスホノエタノールアミンを、アミノプロピルカラム固相抽出による第四の工程で精製した。これは、PLA2の作用下で放出された脂肪酸を排除することを可能にした。
- 精製された2-リゾ、1-アシルグリセロホスホノエタノールアミンをアッセイし(脂質リンアッセイ)、例えばドコサヘキサエン酸によるN-アシル化を、SSL-X2の合成について項1.4で記述した通りに行い、それにより、AGPSL-X2の合成を可能にした。
【0194】
AGPSL-X3の合成:
AGPSL-X3の合成は、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド及び4-(ジメチルアミノ)ピリジンの存在下、AGPSL-X2をO-アシル化することによって実施した。次いで、AGPSL-X3をアミノプロピルカラム上で精製した。
【0195】
AGPSL-X1の合成:
AGPSL-X1の合成は、AGPSL-X2の合成の工程4の間に精製された1-アシル、2-リゾグリセロホスホノエタノールアミンから出発して行った。1-アシル、2-リゾグリセロホスホノエタノールアミンを、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド及び4-(ジメチルアミノ)ピリジン)の存在下、目的の脂肪酸(DHA、...)によってR2位でO-アシル化し、次いで、アミノプロピルカラム上で精製した。
【0196】
I.4. AGPSL-Y化合物(n=1)の合成
AGPSL-Y2の合成:
AGPSL-Yの合成は、商業的起源のホスファチジルエタノールアミン(セファリン)から出発して行った。このホスファチジルエタノールアミンを、非特異的ホスホリパーゼA2(アピス・メリフェラPLA2)を使用して脱アシル化した。反応は、撹拌条件下、200UホスホリパーゼA2を含有するジエチルエーテル-ホウ酸塩緩衝液(100mM、pH8.9)(1:1、v/v)中、37℃で40分間にわたって行った。反応の終わりに、ジエチルエーテルを窒素下で蒸発させ、試料をクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)で抽出した。取得された1-アシル-2-リゾグリセロホスホリルエタノールアミンを、脱イオン水をクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)の体積の4分の1の比率で添加することによる相分配、続いて、LC-NH2カラム上での固相抽出によって精製した。目的の脂肪酸(例えばDHA)によるN-アシル化を、トリエチルアミンの存在下、カップリング剤としてのジエチルホスホリルシアニドを含有するジクロロメタン-ジメチルホルムアミド(3:1、v/v)の混合物中で行った。この反応は、光の非存在下及び飽和窒素雰囲気下、室温で90分間にわたって撹拌しながら行った。次いで、AGPSL-Y2を、濾過、相分配及びアミノプロピルカラム抽出によって精製した。
【0197】
AGPSL-Y3の合成:
次いで、精製されたAGPSL-Y2を、目的の脂肪酸(DHA)によってR2"位でO-アシル化し、次いで、アミノプロピルカラム上での固相抽出によって精製した。
【0198】
AGPSL-Y1の合成:
AGPSL-Y1は、市販のホスファチジルエタノールアミンから、AGPSL-Y2の合成について上述された通りの非特異的ホスホリパーゼA2(アピス・メリフェラPLA2)を使用するO-脱アシル化によって合成した。次いで、取得された1-アシル-2-リゾグリセロホスホリルエタノールアミンを固相抽出によって精製し、次いで、AGPSL-Y1を取得するために目的の脂肪酸によってR2"位でO-アシル化し、これを最後にアミノプロピルカラム上で精製した。
【0199】
I.5. SSL及びAGPSLの腸加水分解によって生じる代謝産物の合成
使用した合成アプローチを、2つの主な工程:ヒドロキシコハク酸イミド化(hydroxysuccinimidation)及びアミノ基転移に分ける。以下の例は、脂肪酸としてのDHAから出発するシナプタミドホスホネートの合成を記述するものである。任意の他のN-アシルエタノールアミンホスホネートの合成のためのプロトコールは、対応する脂肪酸を使用する同様のものである。
【0200】
DHAのヒドロキシコハク酸イミド化工程は、次の通りに行った:DHA(100mg、0.3mmol)及びN-ヒドロキシコハク酸イミド(57.4mg、0.5mmol)を10mlの酢酸エチル中で希釈した。α-トコフェロール(40μM)を添加して、脂肪酸の潜在的な酸化を防止した。酢酸エチル(1mL)中のジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、103mg)の溶液を、先の溶液に添加した。窒素で飽和した反応混合物を、室温で光から保護し、撹拌しながら、少なくとも12時間にわたって放置した。反応を停止させるために、無灰フィルターを使用してDCCを濾過し、濾液を窒素下で結晶化した。より良好な精製を取得するために、取得された材料をエタノールに溶解し、濾過し、再結晶させた。N-ヒドロキシコハク酸イミドDHAエステルの量を、秤量によって決定した:126.3mg。アミノ基転移反応は、次の通りに行った:N-ヒドロキシコハク酸イミドDHAエステル(50mg)をテトラヒドロフラン(10mL)中で希釈した。この溶液を、リン酸化エタノールアミン(23.5mg)又はエタノールアミンホスホネート(21mg)及び重炭酸ナトリウム(14mg)の水性混合物(10mL)に添加した。反応は、光から保護し、窒素飽和雰囲気下、室温で撹拌しながら少なくとも16時間にわたって行った。
【0201】
各溶液をフラスコに移し、次いで、ロタベーパーで蒸発させた。蒸発後、フラスコに50mLのH2Oを吸い上げ、濾紙に通して新たなフラスコ中に濾過した。各フラスコを再度蒸発させた。蒸発させたフラスコに40mLのエタノールを吸い上げ、再度濾過し、次いで20mLのエタノールを吸い上げ、最後にもう一度濾過した。これらの後者のフラスコをロタベーパーで蒸発させ、取得されたリン酸化及びホスホン酸化シナプタミド質量を定量化するために秤量した。フラスコに5mLのエタノールを2回吸い上げ、-80℃で貯蔵した。生成された目的の分子(シナプタミド、シナプタミドホスホネート及びリン酸化シナプタミド)を、逆相液体クロマトグラフィーによって精製した。このようにして合成された分子を、質量分析(HR-ESI/MS)によってモニターした。シナプタミドホスホネート:MS m/z[M+H+]=436.26;リン酸化シナプタミド:MS m/z[M+H+]=452.25
【0202】
(実施例B)
生物学的結果
(実施例B-1)
消化管におけるSSLの代謝運命
材料及び方法
動物
本発明者らの実験に使用したラットは、昼間条件(06:00から18:00までの明期)下で21℃の温度に維持された、認可された動物施設におけるそれらの受け取り時に体重約200gのスプラーグ・ドーリー系雄(Charles River社、Saint Germain sur L'Arbresle、France)であった。ラットを、ケージあたり5個体の群に保ち、水及び食物に自由に(libidum)アクセスさせた。すべての動物試験手順は、法令87/848によってフランスの法律に転置された欧州指令86/609に従った。動物の苦痛及びストレスを最小化するため並びに使用される動物の数を低減させるために、あらゆる努力が為された。動物は、動物施設へのそれらの到着の2週間後に使用した。
【0203】
動物へのSSLの投与
消化管におけるSSLの運命についての研究を、SSL-X1に対して実施した。このために、227μgの脂質リンに対応するSSL-X1のアリコートを、ガラスチューブ中に沈着させた。溶媒を窒素下で蒸発させた。無水エタノールの添加後に第二の蒸発を行った。次いで、625μlのグルコース含有水溶液(0.1gのグルコース/mL)をチューブに添加した。分子を穏やかな音波処理(40W電力で2回の30秒音波処理)によって水溶液に溶解した。マイクロピペットを使用して、分子を動物に経口で投与した。強制飼養による経口投与は必要ではなく、動物は自らに提示された溶液を自発的に飲んだ。
【0204】
ラットにおけるSSLの潜在的な加水分解をインビボで定量化するために、本発明者らは、2つの群の異なる実験を実施した。
【0205】
本発明者らは、初めに、前段落で記述した通りに、分子を5匹のラットに経口で投与した。動物は事前に個々のケージに入れた。この実験の目的は、ラット糞便中におそらく存在する分子を定量化することであった。この目的のために、分子の投与後異なる時間に糞便を採取した。各時間に収集した糞便をプールし、脂質を抽出し、下記の段落で記述する通りに分析した。
【0206】
第二の工程では、本発明者らは、他のラットに分子を投与した。次いで、ラットを、分子の投与の5時間、8時間、24時間及び36時間後に屠殺した。屠殺は、ペントバルビタール(ドレタール(Dolethal)溶液、Vetoquinol社、Lure)の致死(250mg/Kg)腹腔内注射によって達成した。死亡直後、内臓を取り除くために腹膜腔を切開した。
【0207】
幽門領域から肛門部まで腸管全体を取り出した。一式をプラスチック樋に入れて、組織を伸ばした。次いで、後者を10センチメートル程度ずつに切った。盲腸も別個に収集した。大腸を取り出し、2つの等しい部分に分けた。次いで、腸管腔をNaCl 9‰の水溶液ですすぐことによって、各腸切片の内容物を取り出した。各腸切片の内容物を、下記の段落で記述する通りの抽出及び脂質分析のために125mlのフラスコ中に収集した。
【0208】
糞便の脂質分析
糞便からの脂質の抽出及び精製は、次の通りに実施した:
- フォルチの方法に従い、50mLのクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)中で細砕する。4℃で24時間にわたる脂質の抽出。
- 無灰フィルター上でのホモジネートの濾過。
- クロロホルム-メタノール(2:1、v/v)の総体積の1/4に対応するKCl 0.25%(w/v)の水溶液を添加することによる、粗脂質抽出物の第一の洗浄。
- 初期の総体積の1/3に対応するメタノール及びクロロホルム-メタノール(2:1、v/v)の総体積の1/4に対応する脱イオン水を添加することによる、脂質抽出物の第二の洗浄。
- ロータリーエバポレーターを使用する有機相の蒸発。
- 2回分の4mLのベンゼン-メタノール(2:1、v/v)中の全脂質の回収。次いで、定量化のためのSSL-X1分子を単離する/精製するために、脂質抽出物を加工した。簡潔に述べると、脂質抽出物を鹸化及び洗浄した。次いで、鹸化抽出物を10×10cmの薄層クロマトグラフィープレート上に直接沈着させた。試料によって抽出された脂質の量を考慮して、長さ7cmの細片に対して脂質沈着を実施した。セラミドアミノエチルホスホネートのアリコート(10マイクログラムの精製したリン脂質に対応する)も、標準と同じプレート上に並行して沈着させた。
【0209】
次いで、沈着した脂質をジイソプロピルエーテル中で分離した。この溶媒を使用して、セラミドアミノエチルホスホネートからすべての中性脂質を分離した。このシステムにおいて、この分子は沈着したままであるのに対し、中性脂質のすべて(ステロール、鹸化に由来する脂質生成物、胆汁塩)は溶媒先端に移動する。分離後、クロマトグラフィープレートを高温気流下で乾燥させ、プレートをクロロホルム-アセトン-メタノール-酢酸-脱イオン水(50:20:10:15:5、v/v/v/v/v)中で展開した。乾燥させた後、ディットマー及びレスター試薬を使用してプレートを露わにし、移動前にプレート上の試料と並行して沈着させた標準によって、SSL-X1分子の位置を同定した。次いで、SSL-X1のスポットをかみそりの刃で試験管中に擦り落とし、ここで試料の鉱化を実施した。次いで、脂質リンアッセイを実施した。
【0210】
結果
加水分解の定量化-ケージ内で収集された糞便の分析
SSL-X1分子がラット消化管において効率的に加水分解/吸収されたか否かを決定するために、本発明者らは最初に、具体的な量(約227μgのリン/動物)の分子を動物に投与した。次いで、ケージ内に存在するすべての糞便を投与後異なる時間で(16、21、26、40及び50時間で)収集した。これらの異なる時間に糞便中で測定されたSSL-X1の分量を、
図3に示す。
【0211】
腸管においてインサイチュで収集された糞便の分析
ラットの腸管におけるSSL-X1の分布を決定するために、分子の投与後異なる時間で動物を屠殺した。次いで、腸管全体を取り出して、腸管腔の内容物を回収した。内容物の回収は、本発明者らが管全体で実現した切片(長さ約10cm)に対して行った。採取した腸切片のそれぞれの内容物に対して作製された脂質抽出物のそれぞれについて、SSL-X1をアッセイした。
【0212】
図4は、分子の摂取5時間(
図4A)、8時間(
図4B)及び36時間(
図4C)後に屠殺されたラットにおいて取得された結果を示す。セラミドアミノエチルホスホネートは、分析したすべての腸切片において検出/測定された。これらの観察は、SSL-X1の脂肪分解の生理学に関して下記の点を示すことを可能にした。この分子は、結腸に到達することができる。これらの観察は、分子が消化管において加水分解/吸収される場合、セラミドアミノエチルホスホネートの一部は大腸に到達することができることを実証するものである。これは、2つの分子はSSL-X1におけるリン酸エステル結合の非存在によりその構造が異なるが、SSL-X1の腸加水分解が、別のスフィンゴリン脂質であるスフィンゴミエリンで公知であるのと同様の経路をたどることを示唆している。
【0213】
(実施例B-2)
神経炎症に対するSSL及びそれらの代謝誘導体の効果
B.2.1. ヒト起源の活性化ミクログリア細胞株の炎症状態に対するSSL及びAGPSLの代謝産物誘導体の効果。
B.2.1.1. 細胞培養
不死化ヒトミクログリア(IHM;Innoprot社、Derio、Spain)を、I型ヒトコラーゲン(10μL/mL、コーティングマトリックスキット、Innoprot社)でコーティングしたT75フラスコ中、13,000細胞/cm2で播種した。培地は、ヒト脳由来ミクログリアの最適な成長のためにインビトロで配合され、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、1%のミクログリア成長サプリメント及び5%のウシ胎児血清(ミクログリア細胞培地キット、Innoprot社)を含有していた。
【0214】
B.2.1.2. 炎症応答の時間経過
IHMを、1型コラーゲンでコーティングした6ウェルプレート中に播種した(10,000細胞/cm2)。細胞培養が約80%集密になったら、IL-1β(R&D Systems社)を、0.5ng/mL、1.5ng/mL又は3.0ng/mLで培養培地に添加した。t=0で、各ウェルに、1mLの培地のみ(対照)、又は所望の濃度のIL-1βを含有する1mLの培地を受けさせた。t=0時間、t=3時間、t=8時間及びt=24時間で細胞を収穫した。各試験条件を三連として繰り返した。
【0215】
B.2.1.3. 炎症マーカーの発現に対するシナプタミドホスホネートの効果
シナプタミドホスホネートの効果を、
図5で例証されている通りに試験した。IHM細胞を、段落B.2.1.2で言及されている通りに培養し、培養が約80%集密になったら、それらを3つの下記の濃度(10、150又は300nM)のいずれか1つのシナプタミドホスホネートとともに、IL-1βを添加(3ng/mL、t=0時間)する3時間前にインキュベートした。次いで、IL-1βとともに5時間インキュベーション後、RNA抽出のために細胞を収穫した。
【0216】
B.2.1.4. RT-qPCRを使用する目的のmRNAの測定
1. 全RNAの抽出及び精製
トリ試薬(MRC, Inc.社)を製造業者によって推奨される通りに使用して、全RNAを抽出した。その後、Turbo DNA-free(商標)キット(Ambion社)による処置によって、汚染物質ゲノムDNAを試料から取り出した。
【0217】
2. mRNAの較正逆転写(RT)
480ngの精製したRNA抽出物中に含有されていたメッセンジャーRNA(mRNA)を、PrimeScript(登録商標)RT試薬(Ozyme社)を使用して逆転写した。RT工程を正規化するために、合成外部及び非相同ポリ(A)標準RNA(SmRNA;Morales及びBezin、特許WO2004.092414)をRT反応ミックスに添加した(各実験試料中に150,000コピー)。
【0218】
3. 目的のcDNAのqPCR増幅
標的cDNAのPCR増幅は、ロータージーンQシステム(Qiagen社)及びクオンティテクトSYBRグリーンPCRキット(Qiagen社)を使用して実施した。PCR増幅に使用した様々なプライマー対の配列を、Table 1(表1)に収載する。
【0219】
RT工程前はすべての試料中に同数のSmRNAコピーが初めに存在していたことを考慮に入れて、qPCR後に測定されたScDNAコピー数を使用して、各試料についてのRT工程収率を推定した。この収率は、同じ試料から測定された目的の遺伝子すべてについて取得された値を標準化することを可能にした。この正規化方法は、その発現が先験的に不変とみなされる、内部標準、いわゆる「ハウスキーピング遺伝子」に頼ることなく、試料間のRTの効率における変動を考慮に入れることを可能にする。
【0220】
【0221】
B.2.2. リポ多糖(LPS)注射によるインビボでの神経炎症の誘導
最初に、本発明者らは、LPSの注射後に仔において最大神経炎症応答を観察することができる時間を決定した。この目的のために、21日齢のスプラーグ・ドーリー系ラット(Charles River社、St Germain sur l'Arbresle、France)に、1mg/Kgの用量のLPS(Sigma社、参照055:B55)の腹腔内注射を受けさせた。この用量は、文献において通常使用されるものに対応する。次いで、LPSの注射の2、4、6、10及び24時間後に致死用量のペントバルビタール(250mg/Kg、腹腔内)を使用してラットを屠殺し、0.9% NaClの氷冷溶液で経心的に灌流した。海馬(HI)及び新皮質を収集し、液体窒素中で冷凍し、分析まで-80℃で貯蔵した。神経炎症の主要なマーカーの発現レベルの分析は、Table 1(表1)に示すプライマー対を使用して、上述された通りのRT-qPCRによって実施した。これらの予備実験は、実際に、LPSの注射6時間後に脳の炎症のピークが観察されることを本発明者らが決定するのを可能にした。その後、LPS誘導性神経炎症を解消するための任意の処置を受けたラットを、LPSの6時間後に屠殺した。
【0222】
種々の炎症マーカーの遺伝子発現を研究することを狙いとしたすべての研究は、各遺伝子を別個に分析し、とりわけ一部の遺伝子については発現が増大しその他については安定なままである又は減少する場合には、炎症状態の進化に関して結論を構築するのを困難にしている。qPCRは、所与の試料におけるcDNAコピー数を定量化することから、本発明者らは、qPCRによって定量化されたすべての標的cDNAの和である神経炎症指数(NI)を各試料について開発することによって、上記で言及した困難を回避した。しかしながら、このNIの算出において、本発明者らは、基本条件において高~超高レベルで発現される遺伝子のわずかな発現変動により、基本条件において低レベルで発現される遺伝子の大きな発現変動をマスクしないように注意した。この目標に向けて、各ラットについて、各cDNAのコピー数を、検討される個人の集団全体において測定された平均コピー数のパーセントで表現した。各cDNAがパーセントで表現されたら、指数の組成に関与する各転写物のパーセントを加えることにより、指数を算出した。
【0223】
SSL及びAGPSLの加水分解生成物の効果を試験するために、本発明者らは、上述された通り、ラットへのLPSの注射によって神経炎症を誘導した。LPS注射の1分後、動物に、SSL及びAGPSLによって担持される様々な有効成分の1つ1つを、腹腔内注射によって受けさせた。
【0224】
活性化合物(シナプタミド、シナプタミドホスホネート)は、2mg/Kg当量のシナプタミドの用量で投与した。2つの分子の間のモル質量における差異を考慮して、2mg/Kgで投与されるシナプタミドの用量のものと同等の、nMole/Kgで表現される用量を取得するために、シナプタミドホスホネートの用量を調整した。6時間後(神経炎症指数、NIの最適な誘導時間、上記を参照)、動物を屠殺し、組織を取り出し、神経炎症の主要なマーカーの転写物レベルをqPCRによって決定した。
【0225】
B.2.3. ラットにおいててんかん重積状態によって誘導された神経炎症応答に対するSSL-X1の経口投与の効果
材料及び方法
これらの実験では、21日齢のスプラーグ・ドーリー系ラット(ENVIGO社、The NETHERLAND)を、以下で詳細に記述する(§B.3)通りのピロカルピン誘導性てんかん重積状態(SE)に供した。ラットの3つの群を構成した:(i)CTRL-NaCl、すなわち、ラットの他の群において処置が与えられるたびにNaClを受けただけの対照ラット;(ii)SE-NaCl、すなわち、SEに供され、SSL-X1の代わりにNaClを経口で受けたラット;(iii)SE-SSL-X1、すなわち、SEに供され、SEの発病1時間後にSSL-X1ベクター(100mg/Kg)を経口で投与されたラット。ベクターを100μLのNaClに溶解した。それらの疎水性性質により、脂質ベクターの完全溶解まで調製物を乳化した。24時間後、ペントバルビタールの致死注射(250mg/Kg;腹腔内)を使用してラットを屠殺し、脳組織、すなわち海馬(HI)及び腹側辺縁領域(VLR、扁桃核、梨状及び無顆粒島皮質を含む)を収集し、上記で言及した通りに加工した(§B.2.2)。神経炎症の主要なマーカーの発現レベルの分析は、Table 1(表1)に示すプライマー対を使用して、上述された通りのRT-qPCRによって実施した。ラットを屠殺する時間は、SEの発病の7~24時間後に脳の炎症のピークが観察されることを本発明者らが決定するのを可能にした本発明者らの予備実験に基づいて選択された。
【0226】
結果
活性化ミクログリア細胞株によって発現された炎症マーカーに対するシナプタミドホスホネートの効果
結果は、細胞を150nM及び300nMのシナプタミドホスホネートで前処置した場合の、不死化ヒトミクログリアにおけるIL-1β媒介性サイトカイン及びケモカイン遺伝子誘導の劇的な低減を示す(
図6)。
【0227】
リポ多糖(LPS)注射によってインビボで誘導された神経炎症応答に対する、SSL及びAGPSLの2つの代謝産物誘導体であるシナプタミド及びシナプタミドホスホネートの効果
結果は、2mg/Kgの用量で投与された場合に、シナプタミド及びシナプタミドホスホネートが、神経炎症マーカーをコードする転写物のLPS媒介性誘導を部分的に防止することを示す。シナプタミド及びシナプタミドホスホネートが、海馬及び新皮質の両方において測定された神経炎症指数をそれぞれ≒50%及び≒70%だけ低減させたことは、注目に値する(
図7)。
【0228】
ラットにおけるてんかん重積状態への神経炎症応答に対するSSL-X1の経口投与の効果。
図8に提示される結果は、MCP1、IL6及びシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)をコードする転写物が、ラットにおけるピロカルピン誘導性てんかん重積状態(SE)の24時間後に、海馬及び腹側辺縁領域の両方で強く増大することを示す。100mg/Kgの用量でのSSL-X1の経口投与は、SEの発病1時間後に、SEへの神経炎症応答の主要なマーカーのこの強い誘導を部分的に防止した。
【0229】
B.2.4. ラット起源の活性化マクロファージ細胞株におけるIL-6 mRNAのレベルに対するSSL及びAGPSLの代謝産物誘導体の効果
B.2.4.1. 細胞培養、処置及びRT-qPCR
NR8383細胞を、T75フラスコ中、53,000細胞/cm2で播種し、培地は、1%のペニシリン/ストレプトマイシン及び15%のウシ胎児血清で完成させたハムF12K培地で構成されていた。集密に到達したら、それらを100ng/mLの濃度のLPS(Sigma社、参照055:B55)で処置し、その後2分未満で、下記の条件:10、100、500若しくは1,000nMのDECA-EA-Pn、又は10、100、500若しくは1,000ng/mLのEPA-EA-Pnの1つで処置した。細胞を5時間後に収穫し、Table 1(表1)に収載するプライマーを用いて、B.2.1.4のようにIL-6 mRNAのレベルをRT-qPCRによって測定した。
【0230】
B.2.4.2. 結果
先行研究において、本発明者らは、NR8383細胞におけるIL6-mRNAレベルの見かけのピークが、LPS処置(100ng/mL)の5時間後に出現したと決定した。故に、本発明者らは、LPS処置の5時間後のIL-6 mRNAレベルに対するDECA-EA-Pn及びEPA-EA-Pnの効果を試験した(
図21)。結果は、IL-6 mRNAレベルの誘導がDECA-EA-Pn及びEPA-EA-PNによって有意に低減したことを示す。
【0231】
B.2.5. ラットにおけるピロカルピン誘導性てんかん重積状態(Pilo-SE)後の炎症の消散に対するSYN及びSYN-Pnの効果
B.2.5.1. 方法
雄スプラーグ・ドーリー系ラット(Envigo社、The Netherlands)を、42日齢(185g)でPilo-SEに供した。SEは、ピロカルピンの末梢副作用を低減させるために使用した硝酸メチルスコポラミン(1mg/kg、皮下)の投与の30分後に、塩酸(hydrochlorate)ピロカルピン(350mg/kg、腹腔内)によってトリガーした。2時間の継続性SEの後、ラットにジアゼパム(10mg/kg、腹腔内)を投与してSEを停止させ、次いで、300μLのNaCl中のSYN(2mg/kg、腹腔内)、SYN-Pn(2mg/kg、腹腔内)で直ちに処置した。Pilo-SEに供した未処置ラットに、SYN又はSYN-Pnの代わりに300μLのNaCl(腹腔内)を注射した。すべてのラットに、第一の投与の1時間後にジアゼパム(5mg/kg、皮下)の第二の投与を受けさせ、SEの9時間後に屠殺した。脳を収集し、海馬を氷上で顕微解剖し、RNAを抽出し、Table 1(表1)に示すプライマー対を使用して上述された通りにRT-qPCRを実施した。ラットを屠殺する時間は、SEの発病の7~12時間後に脳の炎症のピークが観察されることを本発明者らが決定するのを可能にした本発明者らの予備実験に基づいて選択された。
【0232】
B.2.5.2. 結果
2mg/kgのSYN及びSYN-Pnの両方が、Pilo-SEに応答したIL1βの誘導を低減させた。SYN-Pnは、TNFα-mRNA誘導に対して有意な効果を有していた。上記で説明した通り、指数内のIL1β及びTNFαの両方の変動を積分すると、SYN-Pnは、Pilo-SE後の炎症応答のピークを低減させる際に改善された効果を有していた(
図22)。
【0233】
(実施例B-3)
認知に対するSSL/AGPSL代謝誘導体の効果
I.1. 材料及び方法
動物
この実験では、本発明者らは、雄スプラーグ・ドーリー系ラット(ENVIGO社、Netherlands)を使用した。仔を、14日齢(生後14日(P14))でそれらの乳母とともに受け取り、10匹の群で、食物及び水への自由なアクセスを与えて、プラスチックケージ(405mm×255mm×197mm)内に維持した。すべての動物手順は、クロード・ベルナール・リヨン第1大学の動物実験委員会のガイドラインに従う。
【0234】
ピロカルピン誘導性てんかん重積状態(Pilo-SE)
すべての注射溶液は、滅菌生理食塩水(0.9% w/v)中で調製した。離乳時(生後20日(P20))、スプラーグ・ドーリー系雄ラットの仔に最初に塩化リチウム(127mg/Kg;Sigma-Aldrich社)を腹腔内注射して、てんかん重積状態(SE)をトリガーするために必要とされるピロカルピンの用量を減少させた。硝酸メチルスコポラミン(1mg/Kg;Sigma-Aldrich社)を18時間後に皮下注射して、末梢コリン作動性有害副作用を緩和した。塩酸ピロカルピン(25mg/Kg;Sigma-Aldrich社)を30分後に腹腔内注射して、SEを誘導した。30分の継続性行動SE後、ジアゼパム(Valium(登録商標)、Roche社)を10mg/Kgで腹腔内注射して、生存を促進及び行動発作の休止を開始し、これは、5mg/Kgの用量で90分後に与えられたジアゼパムの第二の皮下注射の後に完全に停止した。ラットを、継続的な観察下、鎮静から回復するまで加熱パッドに載せた。回復後、ラットをP23まで授乳中の母親に戻した。対照ラットのみに生理食塩水注射を受けさせた。次いで、すべてのラットを10匹の群で収容し、次の5日間毎日、次いで、実験終了まで(SE後3週間)週に2回、秤量して、食物摂取を制御した。SE後2日目に体重が増大していなかったラットを、致死用量のドレタール(250mg/Kg;Vetoquinol社、France)で屠殺した。
【0235】
モーリスの水迷路(MWM)試験
空間学習能力を、SE後5週間でモーリスの水迷路(MWM)によって測定した。訓練装置は、黒ガッシュの添加によって不透明になった24℃の水を含有する円形の白いプール(直径120cm)であった。プラットフォーム(直径10cm)を、水面下1cmに沈めた。プールを4つの仮想象限:北、東、南及び西に分けた。プラットフォームを北の象限内に隠した。4つのセッションを実施した(1日1セッションあたり3回の試行を行った)。第一の試行では、ラットを60秒間にわたってプラットフォームに載せた。ラットに90秒間にわたってプラットフォームを捜索させた。ラットが90秒以内にプラットフォームを見つけなかった場合、そちらへ優しく導いた。すべてのラットに15秒間にわたってプラットフォームに残ることを許した。
【0236】
電気生理学
急性スライス調製及びホールセル記録
P28~38において、スプラーグ・ドーリー系ラットにイソフルランで麻酔をかけ、前脳を取り出し、(単位mM):124のNaCl、5のKCl、1.25のNa2HPO4、2のMgSO4、2のCaCl2、26のNaHCO3からなる氷冷標準人工脳脊髄液(ACSF)に入れ、10 D-グルコースを補充し、95% O2及び5% CO2で発泡させた。ビブラトーム(Leica社VT1000S)を使用して海馬横スライスを厚さ350μmの切片に切り、ACSF中、室温で少なくとも1時間にわたってインキュベートした後、記録室に移した。灌流に使用したACSFに、ピクロトキシン(100μM;Sigma-Aldrich社)を補充して、GABA-A受容体をブロックし、したがって、NMDA受容体依存性長期増強(LTP)の誘導を容易にした。赤外線ビデオ顕微鏡及び微分干渉コントラスト光学を使用する、40倍対物レンズが装備されたZeiss社アクシオスコープ2で、CA1錐体細胞を視覚化した。CA1層における錐体ニューロンからのホールセル記録は、(単位mM):120のグルコン酸カリウム、20のKCl、0.2のEGTA、2のMgCl2、10のHEPES、4のNa2ATP、0.3のトリス-GTP及び14mMのホスホクレアチン(pH7.3、KOHで調整)を含有する溶液を充填したパッチ電極で取得した。薬物を、海馬スライスの浴中で塗布した。電極抵抗は、3~5MΩの範囲であった。直列抵抗を継続的にモニターし、20%を超えて変化した場合は、実験を放棄した。
【0237】
ACSFを充填し、イソフレックス刺激単離ユニット(A.M.P.I.社)に接続したキャピラリーガラスピペットを、放線状層に入れて、CA1錐体ニューロンにおいて興奮性シナプス後電位(EPSP)を惹起した。EPSPを記録するために細胞を-70mVで保持し、刺激の強さは、5~8mVの間でEPSPを惹起するように設定した。LTPは、シータバースト対合(TBP)プロトコールによって誘導され、これは、単一の逆伝播活動電位(b-AP)と対になったEPSPからなり、体細胞において測定された通り、b-AP(約15ミリ秒の遅延)がEPSPのピークで起こるようなタイミングで行われた。5対を含有する単一のバーストを100Hzで送達し、10バーストを1スイープあたり5Hzで送達した。3スイープを10秒間隔で合計30バーストにわたって送達した(150のb-AP-EPSP対)。直接体細胞電流注入(1ミリ秒、1~2nA)によってb-APを誘起した。LTPの「ウォッシュアウト」を避けるために、この誘導プロトコールは常にホールセル配置を達成して20分以内に適用した。
【0238】
電気生理学的データ獲得及び分析
EPSPを、ホールセル電流固定(マルチクランプ700B、Molecular Devices社)で記録し、5kHzでフィルタリングし、10kHz(ディジデータ1440A、Molecular Devices社)でデジタル化した。pClamp 10ソフトウェア(Molecular Devices社)を使用して、データを獲得及び分析した。LTP時間経過まとめグラフを生成するために、個々の実験をベースラインに対して正規化し、3つの連続した応答を平均して、1分ビンを生成した。次いで、群内のすべての実験のビンごとの時間経過を平均化して、最終的なグラフを生成した。TBPプロトコールの終了36~40分後の正規化したEPSP振幅に基づき、LTPの規模を算出した。
【0239】
薬物
N-ドコサヘキサエノイルエタノールアミン(シナプタミド、Cayman Chemical社、France)、シナプタミドホスホネート、シナプタミドホスフェート、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸エタノールアミンホスホネート(EPA-EA-Pn)、デカン酸エタノールアミンホスホネート(DECA-EA-Pn)及びSSLX2を、生理食塩水(NaCl 0.9%)に溶解する。インビボ実験のために、薬物を、SEの休止1時間後、次いで6日間毎日、次いで1日おきに1回2週間にわたって、腹腔内又は経口投与した。対照群には生理食塩水のみを受けさせた。エクスビボ実験のために、分子を灌流浴内に添加した。
【0240】
統計的分析
統計的分析は、シグマプロットソフトウェアバージョン12を使用して実施した。対応のあるスチューデントのt検定を使用して、同じ経路におけるデータの有意性を決定した。マン・ホイットニーのU検定を使用して、データ群間の有意性を決定した。MWM検定では、データを、二元反復測定ANOVA、続いて、フィッシャーのLSDポストホック検定によって分析して、幾つかの時点で群間の差異を比較した。
【0241】
結果を、平均±SEMとして表現する。p<0.05の値は、統計学的に有意とみなした。
【0242】
I.2. 結果
広範囲の神経心理学的欠損がてんかん重積状態(SE)の後に起こりうるが、認知機能障害は、てんかんを持つ人々によって報告されている主な一般的な問題であり、とりわけ、側頭葉てんかん(TLE)を持つ患者において及び動物モデルにおいて、記憶欠損が頻繁に報告される。海馬における学習及び記憶形成のプロセスを反映すると考えられているシナプス可塑性の形態であるLTPは、てんかんを持つヒト及びてんかんの動物モデルの両方で海馬ニューロンにおいて有意に破壊されることから、LTPの機能障害は、てんかんにおける学習欠損の根底にある重要な細胞機構とみなされてきた。したがって、ピロカルピン誘導性実験TLEモデルを使用して、海馬LTPに対するシナプタミド、シナプタミドホスフェート及びシナプタミドホスホネートの効果を検査した。
【0243】
シナプタミドはピロカルピン誘導性てんかん重積状態後の海馬LTP欠損を救済する。
シナプスの強さにおける活動依存性変化である海馬LTPは、学習及び記憶の根底にある細胞機構として提案されてきた。本発明者らの最近の研究は、海馬LTPがピロカルピン誘導性てんかん重積状態(Pilo-SE)後に変化することを明らかにした。この研究において、本発明者らは、CA1錐体ニューロン由来のホールセル記録を使用することにより、ピロカルピン誘導性SE(Pilo-SE)の1~2週間後に調製された急性海馬スライスにおいてこれらの結果を確認する。対照の健康な動物から調製されたスライスにおける対照ニューロンは、強固なLTP(
図9A;誘導の36~40分後ベースラインの162.3±5.8%、p<0.001)を呈したが、Pilo-SEに供したラットから調製されたスライスにおいて、LTPは有意に阻害された(
図9A;109.6±6.1%;t=45~50分;p=0.13)。ラットの2群間のLTP振幅における差異は、高度に有意である(p<0.001)。
【0244】
次いで、本発明者らは、シナプタミド灌流がPilo-SE誘導性LTP欠損を逆転させうるか否かを調査した。本発明者らは、シナプタミド浴適用(100nM)が、ACSFのみで灌流させたPilo-SEスライス(p<0.001)と比較してLTP誘導を有意に強化した(
図9B;166.8±12.2%、t=45~50分、p<0.001)ことを示した。同様に、Pilo-SEに供したラットから調製されたスライスの浴における400nMのシナプタミドの適用は、ACSFのみで灌流させたPilo-SEスライス(
図9C;p=0.008)と比較して、LTP誘導を実質的に増大させた(164.2±20.5%;t=45~50分;p=0.014)。興味深いことに、シナプタミド100nM又は400nMで還流させたPilo-SEスライスにおいて測定されたLTP規模は、対照の健康なラットのものと同様であった(
図9B~
図9C、p>0.05)。
【0245】
本発明者らは、次に、シナプタミドのインビボ効果を検査した。したがって、本発明者らは、SE後0日目(SE後1時間)から7日目までの毎日のシナプタミド処置(2mg/Kg;腹腔内)が、Pilo-SEに供したラットにおいてLTP誘導を保護しうるか否かを調査した。対照ラットには、シナプタミドの代わりに生理食塩水を受けさせた。本発明者らは、シナプタミドを注射したラットが、生理食塩水を注射したそれらの対応物(p<0.001)と比較して、海馬CA1ニューロンにおけるLTPの有意な誘導(
図9D;189.7±11.4%、t=45~50分;p<0.001)を呈することを見出した。これらの所見は、てんかん発生中の海馬LTPの機能障害がシナプタミド処置によって救済又は予防されうることを明らかにする。
【0246】
本発明者らは、次に、5及び10mg/Kgのシナプタミドの腹腔内投与が、Pilo-SEに供したラットにおいてLTP誘導を保護しうるか否かを調査した。同様に、本発明者らは、LTP誘導が、Pilo-SEに供し、生理食塩水を注射したラット(
図9E;p<0.01)と比較して、Pilo-SEに供し、5mg/kgのシナプタミドを注射したラットから調製されたスライスにおいて有意に強化された(151.54±7.15%、t=45~50分;p<0.001)ことを実証した。加えて、本発明者らは、Pilo-SEに供したラットの10mg/kgのシナプタミドによる処置は、生理食塩水を注射したPilo-SEラット(
図9E;p<0.001)と比較して、LTP誘導を実質的に増大させた(195.2±8%;t=45~50分;p<0.001)ことを明らかにした。
【0247】
シナプタミドホスフェートはピロカルピン誘導性てんかん重積状態後の海馬LTP欠損を救済する。
本発明者らは、シナプタミドよりも水溶性であるシナプタミド関連化合物、シナプタミドホスフェートを合成した。これまでに、シナプタミドホスフェートは特徴付けされておらず、その生物活性は調査されたことがない。したがって、本発明者らは、Pilo-SE後に与えられた場合の海馬シナプス可塑性に対するシナプタミドホスフェートのインビトロ及びインビボ効果を、シナプタミドのために上記で使用したものと同様のプロトコールを用いて試験した。本発明者らは、シナプタミドのように、Pilo-SEに供したラットから調製されたスライスの浴におけるシナプタミドホスフェート(100nM)の適用は、ACSFのみで灌流させたPilo-SEスライス(
図10A、p=0.007)と比較して、LTP誘導を有意に強化した(144.5±9.39%;t=45~50分;p=0.002)ことを見出した。同様に、LTP誘導は、ACSFのみで灌流させたPilo-SEスライス(
図10B、P=0.046)と比較すると、Pilo-SEに供し、400nMのシナプタミドホスフェートで灌流させた動物から調製されたスライスにおいても逆転した(150.4±15.4%、t=45~50分;p=0.01)。
【0248】
本発明者らは、次に、Pilo-SEに供し、シナプタミドホスフェート(5mg/Kg;腹腔内)を注射したラットから調製されたスライスにおけるLTP規模を評価した。本発明者らは、LTP誘導が、Pilo-SEに供し、生理食塩水を注射したラット(
図10C、p<0.001)と比較して、これらの動物において有意に強化された(162.3±10.8%、t=45~50分;p<0.001)ことを見出した。対照的に、シナプタミドホスフェート処置ラットから取得されたスライス及び健康な対照動物のものにおいてモニターされたLTPの振幅における有意な差異はなく(p=0.494)、Pilo-SE後にLTPを回復させる及び逆転させるシナプタミドとしてのシナプタミドホスフェートの能力を指し示した。
【0249】
本発明者らは、次に、Pilo-SEに供し、2mg/kgのシナプタミドホスフェートを注射(腹腔内)したラットから調製されたスライスにおけるLTP規模を評価した。本発明者らは、2mg/kgでのシナプタミドホスフェート処置が、生理食塩水を注射したPilo-SEラット(p<0.001)と比較して、LTP誘導を顕著に強化した(
図10D、168.9±7.1%;t=45~50分;P<0.001)ことを明らかにした。これらの所見は、てんかん発生中の海馬LTPの機能障害が、シナプタミドホスフェート処置によって救済又は予防されうることを明らかにする。
【0250】
シナプタミドホスホネートはピロカルピン誘導性てんかん重積状態後の海馬LTP欠損を救済する。
本発明者らは、非加水分解性シナプタミド誘導体、シナプタミドホスホネートも合成した。シナプタミドホスフェートのように、シナプタミドホスホネートは特徴付けされておらず、その生物活性は調査されたことがない。したがって、本発明者らは、Pilo-SEに供したラットにおける海馬LTP誘導に対するシナプタミドホスホネートのインビトロ及びインビボ効果を探究した。本発明者らは、LTPが、Pilo-SEに供したラットから調製されたスライスにおいてはブロックされるが、シナプタミドホスホネート(100nM)で灌流させた同じスライスにおけるニューロンが、強固なLTP(
図11A、132.2±5.01%;t=36~40分;p<0.001)を呈することを見出した。LTP規模は、Pilo-SEに供したラットから調製されたスライスを400nMのシナプタミドホスホネートで灌流させた場合、有意に高くなった(159.9±10.7%、t=45~50分;P<0.001)(
図11B)。
【0251】
加えて、本発明者らは、シナプタミドホスホネート処置(5mg/Kg;腹腔内)が、生理食塩水を注射したPilo-SEラット(p<0.001)と比較して、LTP誘導を顕著に強化した(
図11C、162.4±11.9%;t=45~50分;P<0.001)ことを明らかにした。Pilo-SEラットにおいて測定されたLTP規模は、対照の健康なラットのものと同様であった(p=0.726)。つまり、本発明者らのデータは、てんかん発生中の海馬LTPの機能障害が、シナプタミドホスホネート処置によって予防及び救済されうることを明らかにする。
【0252】
本発明者らは、次に、Pilo-SEに供し、2又は10mg/kgのシナプタミドホスホネートを注射(腹腔内)したラットから調製されたスライスにおけるLTP規模を探究した。本発明者らは、2mg/kgのシナプタミドホスホネートを注射したラットが、生理食塩水を注射したそれらの対応物(p<0.001)と比較して、海馬CA1ニューロンにおけるLTPの有意な誘導(
図11D;183.07±9.02%、t=45~50分;p<0.001)を呈したことを実証する。加えて、本発明者らは、LTP誘導が、Pilo-SEに供し、生理食塩水を注射したラット(
図11D、p<0.001)と比較して、10mg/kgのシナプタミドホスホネートを注射したラットから調製されたスライスにおいて有意に強化された(162.78±12.23%、t=45~50分;p<0.001)ことを見出した。
【0253】
本発明者らは、最後に、10、30及び100mg/kgのシナプタミドホスホネートの経口投与も、Pilo-SEに供したラットにおいてLTP誘導を保護しうるか否かを調査した。本発明者らは、LTP誘導が、SEに供し、10mg/kgのシナプタミドホスホネートで処置したラットから調製されたスライスにおいて異常なままであった(
図11E、110.7±4.7%;t=45~50分;p=0.041)ことを明らかにする。実際に、この群のLTP振幅は、健康なラットの海馬スライスにおいて記録されたもの(p<0.001)と高度に異なるが、Pilo-SEに供し、生理食塩水を受けさせたラットのものと同様である(p=0.79)。しかしながら、本発明者らは、30mg/kgのシナプタミドホスホネートによる処置が、生理食塩水を受けさせたPilo-SEラット(p=0.007)と比較して、LTP誘導を顕著に強化した(
図11E、146.16±10%;t=45~50分;P<0.001)ことを明らかにした。本発明者らは、100mg/kgのシナプタミドホスホネートを受けさせたラットが、生理食塩水を注射したそれらの対応物(p<0.001)と比較して、海馬CA1ニューロンにおけるLTPの有意な誘導(
図11E;162.6±9.2%、t=45~50分;p<0.001)を呈することも見出した。これらの所見は、シナプタミドホスホネートの経口投与が、SE後の海馬LTP機能障害を用量依存的に予防することを初めて明らかにする。
【0254】
全体として、これは、てんかんに関連する認知欠損(LTP機能障害)に対するシナプタミド、シナプタミドホスホネート及びシナプタミドホスフェートの保護的役割の最初の実証である。
【0255】
シナプタミド及びシナプタミドホスホネートは健康なラットにおいて海馬LTP誘導を改善する。
本発明者らの次の目標は、シナプタミド又はシナプタミドホスホネート処置が健康なラットにおいて海馬LTP誘導を改善しうるか否かを検査することであった。故に、本発明者らは最初に、シナプタミドを注射した健康なラットから調製されたスライスにおけるLTPの規模を探究した。本発明者らは、シナプタミド(2mg/Kg;腹腔内)を注射したラットが、生理食塩水を注射したそれらの対応物(p<0.01)と比較して、海馬CA1ニューロンにおけるLTPの有意な誘導(
図12A;211.9±15.14%;t=45~50分;p<0.001)を呈することを見出した。加えて、本発明者らは、シナプタミドホスホネート処置が、生理食塩水を注射した対応物(p<0.001)と比較して、健康なラットにおいてLTP誘導を実質的に増大させた(212.11±12.9%;t=45~50分;p<0.001)ことを示した。
【0256】
全体として、これは、海馬LTPを変調することにより、健康な対象において認知機能を改善する際の、シナプタミド及びシナプタミドホスホネートの有益な役割の最初の実証でもある。
【0257】
シナプタミド及びシナプタミドホスホネート処置はてんかんラットにおいて学習欠損の機能障害を予防する。
これらの実験では、本発明者らは、SE後の早期段階におけるシナプタミド及びシナプタミドホスホネート処置によるLTP誘導の保護が、てんかんの発病後(SEの5週間後)の空間学習も保護するか否かを検査した。
図15に指し示す通り、4つの群すべてが、1日目から4日目までのプラットフォームまでの潜時の減少を伴う、4日間の試験中の水迷路性能における改善を実証した。対照の健康なラットは、てんかんラットよりも実質的に良好な性能であった(
図15A、p<0.001)。SE後の最初の週の間のシナプタミドによる処置は、SE後にてんかんを発症したラットにおける空間学習獲得を有意に増大させた(
図15B、p<0.01)。この効果は、生理食塩水を注射したてんかん動物と比較して増大した、シナプタミド処置ラットにおいて試行2及び4日目にプラットフォームを見つけるまでの潜時によって特徴付けられた。加えて、シナプタミドホスホネートによる処置は、生理食塩水を注射したものと比較して、試行2及び4日目にのみ観察されたプラットフォームを見つけるまでの平均潜時を増大させた(
図15C、p<0.05)。故に、これらのデータは、SE後の早期段階におけるシナプタミド又はシナプタミドホスホネートによる処置が、てんかんの発病後の学習欠損を予防することを明らかにした。
【0258】
シナプタミドホスホネートはてんかん重積状態後のラットにおける体重減少の回復を容易にする。
ラットを、0日目にピロカルピン誘導性てんかん重積状態に供し、シナプタミドホスホネート(SynPn)を7日間にわたって毎日投与(10mg/Kg、腹腔内)した。動物の体重を毎日測定した。結果を
図20に記述する。結果を、0日目における動物(10~15匹の動物/群)の体重の百分率として表現する。対照/SE+NaCl間(*:p<0.05、***:p<0.001)及びSE+NaCl/SE+SynPn間(#:p<0.05)の統計的差異。
【0259】
ドコサヘキサエン酸の経口投与はてんかん重積状態後の海馬LTPの機能障害を予防しない。
シナプタミドは、DHAの内因性代謝産物である。しかしながら、シナプタミドホスホネートは、非加水分解性シナプタミド誘導体である。この実験では、本発明者らは、100mg/kgのシナプタミドホスホネートと同等の用量のドコサヘキサエン酸(DHA)の経口投与が、シナプタミドホスホネートのように、Pilo-SEに供したラットにおいてLTP誘導を保護しうるか否かを調査した。本発明者らは、DHAを受けさせたラットが、海馬CA1ニューロンにおけるLTPのわずかな誘導を呈する(
図16;129.5±10.2%、t=45~50分;p=0.011)ことを見出した。しかしながら、これらの動物由来のスライスにおけるEPSP振幅の増強は、Pilo-SEに供し、生理食塩水を受けさせたラットのもの(p=0.214)と比較して、統計学的に有意ではなかった。これらの所見は、シナプタミドホスホネートとは異なり、100mg/kgのDHAの経口投与がPilo-SE後の海馬LTP欠損を救済することができないことを実証した。これらのデータは、シナプタミドホスホネートが、SEに供したラットにおいてLTP誘導を強化する際に、DHAよりも有効(素晴らしい効果)であることも明らかにした。
【0260】
つまり、これらのデータは、シナプタミド及びその関連化合物が、神経学的及び/又は神経変性疾患、特にてんかんに関係する認知機能障害の処置のための新たな可能性を提供することを示唆している。
【0261】
SSLX2の経口投与はてんかん重積状態後の海馬LTPの機能障害を予防する
SSLX2脂質ベクターによって送達されるシナプタミドホスホネートを担持することの利益を決定するために、LTPに対するシナプタミドホスホネートの経口投与効果を、同じ量の活性成分を送達するSSLX2と比較した。本発明者らは、シナプタミドホスホネートの経口投与がSE後の海馬LTP機能障害を用量依存的に予防することを事前に実証した。本発明者らは、次に、SSLX2の経口投与(10及び30mg/kgのシナプタミドホスホネートと同等の用量で投与される)も、Pilo-SEに供したラットにおいてLTP誘導を保護しうるか否かを調査した。本発明者らは、10mg/kgのSSLX2を受けているラットが、海馬CA1ニューロンにおけるLTPのわずかな誘導を呈する(
図17A~
図17B;135.6±9.9%、t=45~50分;p=0.003)ことを実証した。しかしながら、これらの動物由来のスライスにおけるEPSP振幅の増強は、Pilo-SEに供し、生理食塩水を受けさせたラットのもの(p=0.07)又は健康な動物の海馬スライスにおいて記録されたもの(p=0.07)と、統計的に異なるものではなかった。その上、このLTPの量は、同じ用量(10mg/kg)のシナプタミドホスホネートを注射したラット由来のスライスにおいて誘導されるものより大きいが、統計的に異なるものではない(
図17B;P=0.128)。顕著なことに、スライスが30mg/kgのSSLX2を受けさせたPilo-SEに供したラットから調製された場合、LTP規模は有意に高くなった(172.9±6.5%、t=45~50分;P<0.001)(
図17A及び
図17C)。実際に、このLTPの規模は、生理食塩水溶液(
図17C;P<0.001)又は同等の用量のシナプタミドホスホネート(
図17C;P=0.46)のいずれかを受けているPilo-SEラット由来のスライスにおいて記録されたものと比較して、統計学的に有意であった。これらの所見は、シナプタミドホスホネートのように、SSLX2の経口投与がSE後の海馬LTP機能障害を用量依存的に予防することを実証した。これらのデータは、シナプタミドホスホネートがSSLX2形態で送達される場合、SEに供したラットにおけるLTP誘導に対するその効果は、シナプタミドホスホネート単独と比較すると増強されている(素晴らしい効果)ことも明らかにした。
【0262】
エイコサペンタエン酸エタノールアミンホスホネート及びデカン酸エタノールアミンホスホネートはいずれもSE後の海馬LTP機能障害を予防する
SSLX2ベクターは、DHAを含有するシナプタミドホスホネートを送達することができる。これは、R
3位で結合している脂肪酸の同定に従って、他の潜在的シナプタミドホスホネート様活性成分も送達することができる。故に、本発明者らは、DHA(シナプタミドホスホネート中に存在する)の代わりに短鎖/中鎖脂肪酸鎖(デカン酸(C10))又は他の長鎖PUFA(エイコサペンタエン酸(C20:5 w3))を含有するシナプタミドホスホネート様化合物の、海馬LTP誘導に対する潜在的効果を試験した。これらの目標に向けて、本発明者らは、実施例Aの項I.5で開示したプロトコールに従って、デカン酸エタノールアミンホスホネート(DECA-EA-Pn)及びEPAエタノールアミンホスホネート(EPA-EA-Pn)を合成した。これまでに、これらの分子は特徴付けされておらず、その生物活性は調査されたことがない。したがって、本発明者らは、Pilo-SE後に与えられた場合の海馬LTPに対するDECA-EA-Pn及びEPA-EA-Pnの両方のインビボ(腹腔内)効果を、シナプタミドホスホネートのために上記で使用したものと同様のプロトコールを用いて検査した。本発明者らは、Pilo-SEに供し、生理食塩水を注射したラット(
図18、p=0.038)と比較して、DECA-EA-Pn(5mg/kg)を注射したラットから調製されたスライスにおいてLTP誘導が強化された(130.3±7%、t=45~50分;p<0.001)ことを明らかにした。その上、本発明者らは、Pilo-SEに供し、生理食塩水を注射したラット(
図18、p=0.006)と比較して、Pilo-SEに供し、5mg/kgのEPA-EA-Pnを注射したラットから調製されたスライスにおいて、LTP誘導が有意に強化された(154.4±12.1%、t=45~50分;p<0.001)ことも実証した。全体として、これらの所見は、シナプタミドホスホネートのように、SSLX2ベクターによって送達されうるデカン酸エタノールアミンホスホネート又はEPAエタノールアミンホスホネートによる処置も、Pilo-SEに供したラットにおける海馬LTPの機能障害を予防することができることを明らかにした。
【0263】
(実施例B-4)
てんかん発作に対するシナプタミドホスホネート(SYN-PN)の効果
キンドリングモデルは、抗発作薬(ASD)発見プログラムによって現在使用されている慢性てんかんのモデルである(Loscherら、2011、Seizure 20、359~368)。
【0264】
1. 材料及び方法
すべての動物手順は、動物実験を規制している欧州連合のガイドライン(指令2010-63)を順守し、クロード・ベルナール・リヨン第1大学の倫理委員会によって認可されたものである。雄スプラーグ・ドーリー系ラット(Envigo社、France)をこれらの実験において使用した。それらを、日中の照明条件(午前6時から午後6時まで点灯)下、温度制御室(23±1℃)内に収容した。ラットは、実験の開始の15日前に到着した。ラットを、最低限の環境エンリッチメント(巣箱用段ボール素材、木製の齧る(gnowing)棒)を備えた800cm2のプラスチックケージ内に2匹ずつの群で維持し、食物及び水への自由なアクセスを与えた。
【0265】
キンドリング電極の外科的移植のために、体重220~240gのラットにイソフルラン(5%の誘導;2%の維持)を使用して麻酔をかけ、鎮痛薬ブプレノルフィン(0.050mg/kg、筋肉内)で処置した。これらの頭部を脳定位固定装置内に切歯バーを-3.3mmに設定して位置付けた。3本のステンレス鋼宝石商ネジ(jewelers' screw)の留置のために、左頭頂、右前頭及び後頭骨に、扁桃核キンドリングに使用される電極の移植の部位一面に穿頭孔をドリルで開けた。この刺激及び記録電極は、右基底外側扁桃体に狙いを定めたテフロン絶縁双極ステンレス鋼電極からなっていた(ブレグマに対する定位座標:前後、-2.8mm;側面、+4.8mm;背腹、-8.5mm)。頭頂葉皮質及び前頭皮質上に置かれたネジは記録電極として役立ち、小脳上に置かれたネジは接地として役立った。双極の記録及び接地電極を、歯科用アクリルセメントで頭蓋骨に固定されているプラグに接続した。
【0266】
キンドリング電極を介する電気刺激を、手術後1週間の回復期間後に開始し、その日の同じ時間(午前9:00から11:00の間、次いで午後4:00から6:00の間)に実施して、動物間の日内変動を避けた。定電流刺激(500μA、二相性矩形波パルス、50パルス/秒で2秒間にわたって)を、少なくとも5回の完全にキンドリングされた発作(二次的に一般化された段階5の発作)が誘起されるまで、1日に2回送達した。発作重症度を、ラシーンスケールに従って行動的に分類した:段階1、不動性、わずかな顔面クローヌス(閉眼、鼻毛の単収縮、匂いを嗅ぐこと);段階2、より重度の顔面クローヌスを伴う点頭;段階3、一方の前肢のクローヌス;段階4、双方の前肢クローヌスを伴うことが多い後ろ足で立つこと;段階5、平衡感覚の喪失及び落下を伴う強直間代発作。
【0267】
発作重症度に対するSYN-PNの効果を評価するために、SYN-PNを生理食塩水中で調製し、完全にキンドリングされたラットにおける電気刺激の45分前に5、10又は50mg/kgで腹腔内に注射した。簡潔に述べると、最終段階5の発作の次の日、1日目に、ラットにSYN-PNの初回用量(5mg/kg)を受けさせ、45分後に刺激した。D2及びD5に、ラットをSYN-PN注射なしに刺激して、5mg/kg用量の残留効果を評価した。D6に、ラットにSYN-PNの第二回用量(10mg/kg)を受けさせ、45分後に刺激した。次いで、ラットをD7及びD8に刺激して、10mg/kg用量の残留効果を評価した。D9に、ラットにSYN-PNの第三回用量(50mg/kg)を受けさせ、45分後に刺激した。次いで、ラットをD10及びD11に刺激して、50mg/kg用量の残留効果を評価した。最後に、ラットに、1)5mg/kgのSYN-PNの日用量をD12からD15まで受けさせ、D16に刺激し、2)10mg/kgのSYN-PNの日用量をD19からD22まで受けさせ、D23に刺激し、3)20mg/kgのSYN-PNの日用量をD26からD29まで受けさせ、D30に刺激した。その後、処置を停止した。しかしながら、この一連の処置の効果の持続性を評価するために、20mg/kgでの最終処置の7、15、42及び56日後に、ラットを刺激し続けた。
【0268】
2. 結果
D0の前日、含まれるすべてのラット(n=15)は、少なくとも5回の連続した段階5の発作を発症した。ラットの総集団(
図13A)を見ると、ラットはD0に段階4(n=1)又は段階5(n=14)の発作を発症した。
【0269】
D1に、すべてのラットに、刺激される45分前に5mg/kgのSYN-PNを受けさせ、平均発作重症度は19.0±7.9%だけ減少した。興味深いことに、発作重症度における平均減少は、D2では-23.1±8.1%に維持され、次いで、有意性(p=0.019)に到達した。この過渡的効果はD5に失われた。翌日、D6に、ラットにより高用量のSYN-PN(10mg/kg)を受けさせ、45分後にトリガーされた発作の重症度は、D0のものと有意に異なっていなかった。しかしながら、この用量では遅延効果も観察され、翌日及び翌々日、減少はD0と比較して有意(p<0.001)になり、最大で-39.4±11.1%に到達した。D9におけるSYN-PN用量の50mg/kgへの増大は、D10における発作重症度の減少を補強し、D0(p<0.001)と比較して-54.4±9.4%に到達したが、D8と比較して有意ではなかった。最後に、試験されるSYN-PNの最低日用量(5mg/kg)を維持しながら、D12からD14まで刺激を停止し、続いて、D16に、その最低レベルの発作重症度を保った(D0と比較して-42.0±9.2%;p<0.001)。
【0270】
SYN-PN投与の効果の個別検査を、3つの群のラット:5mg/kg(8/15;
図13B)、10mg/kg(3/15;
図13C)又は50mg/kg(4/15;
図13D)に応答したものについて明らかにした。
【0271】
5mg/kg用量に応答したラット(
図13B)について、発作重症度の低減は投与当日に観察された(D0と比較して-36.4±11.7%;p<0.001)が、10mg/kg用量の2日後に最大の低減が観察された(D0と比較して-62.3±12.7%;p<0.001)。意外なことに、5mg/kgのSYN-PNの日用量を維持しながら、D12からD14まで刺激を停止し、続いて、D16に、発作重症度の更に一層大きい低減(D0と比較して-87.0±13.0%;p<0.001)があり、7/8のラットは段階0のままであり、1/8のラットは段階5に戻った。
【0272】
10mg/kg用量に応答したラット(
図13C)について、減少の強度はより可変であり、D0と有意に異ならない観察効果をもたらした。しかしながら、重症度低減は、SYN-PN用量を5mg/kgに4日間にわたって低減させた後、D16であっても維持されていた。
【0273】
50mg/kg用量に応答したラット(
図13D)について、減少の強度は、D0と比較して有意な効果を観察するにはあまりに可変でもあった。しかしながら、発作低減は過渡的なものに過ぎず、SYN-PN用量を5mg/kgに4日間にわたって低減させた後、D16に失われた。
【0274】
いずれの場合も、発作重症度に対する最大効果は、任意の用量のSYN-PNの投与後24から48時間遅延することが観察された。この最大効果を試験された用量のそれぞれの後に3つの群のラットで比較すると、最小用量によって生み出される重症度の減少は、より高用量によって増幅されない(
図14)。
【0275】
連続4日間(D12からD15)にわたる5mg/kgの日用量の効果(
図13)を試験した後、同じ投与プロトコールを使用して、10mg/kg及び次いで20mg/kgの用量の効果を試験した。最後に、処置を停止すると、本発明者らは、発作欠神又は発作重症度に対する保護効果が維持されるか否か、及び、そうだとすれば、それが持続的な長続きする効果であるか否かを検査した。
図19は、3つの群のラットのそれぞれについて、50mg/kgの最終用量で観察された効果(黒色バー)、次いで、5mg/kgの4回の日用量の後、10mg/kgの4回の日用量の後、及び20mg/kgの4回の日用量の後に観察された効果(斜線バー)、並びに最後に、処置を7、15、42及び56日間にわたって停止した後の発作の重症度(点線バー)を示す。x軸の直下に、指示されたセッションにおいて発作がなかったラットの数も収載されている。
【0276】
初回投与から、5mg/kgの用量に応答したラットの群について、日用量を、5から10、次いで20mg/kgに増大させることは、発作の平均重症度を変化させなかった。
【0277】
しかしながら、10mg/kgの用量(4/8)と比較して、5mg/kgの用量(7/8)でより多数のラットに発作がなかったことに留意するのは興味深いことであった。10mg/kgにおけるこのより控えめな効果は、5mg/kgの日用量を試験した際、4/8のラットが依然として50mg/kgの用量の保護効果下にあったという事実によっておそらく説明することができる。実際に、高用量(20mg/kg)では、50mg/kgに応答したラットの群において、発作に対する保護効果が、処置を停止した後最大15日持続しうる(
図19)ことに留意した。
【0278】
この顕著な発作の欠神は、3つの群の動物のうちラットの亜集団において観察された。しかし、更に一層顕著な結果は、処置を停止して15日後の有意な割合のラット(7/15ラット)における発作の欠神である。
【0279】
このように、SYN-PNは有意な割合のラットにおいて疾患修飾薬として現れ、ほぼ2か月間処置を停止した後であっても、それらの発作をなくす。
【配列表】