IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関東電化工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-被覆ジルコニア微粒子及びその製造方法 図1
  • 特許-被覆ジルコニア微粒子及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】被覆ジルコニア微粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20241030BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B35/486
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021567523
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048126
(87)【国際公開番号】W WO2021132315
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019233360
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 徹也
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1562879(CN,A)
【文献】特開平05-208819(JP,A)
【文献】国際公開第2002/066155(WO,A1)
【文献】特開2017-066021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C04B 35/48-35/488
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア微粒子と、該微粒子の表面を被覆する被覆層とを含有する被覆ジルコニア微粒子であって、
被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含み、
前記金属元素は少なくともYを含み、
平均粒子径が3~50nmであり、
比表面積が20~500m/gである、
被覆ジルコニア微粒子。
【請求項2】
被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む化合物を含有し、前記金属元素は少なくともYを含む、請求項1に記載の被覆ジルコニア微粒子。
【請求項3】
被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素の水酸化物、前記金属元素の炭酸塩並びに前記金属元素の酸化物から選ばれる1種以上の化合物を含有し、前記金属元素は少なくともYを含む、請求項1又は2に記載の被覆ジルコニア微粒子。
【請求項4】
被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む化合物を、ジルコニア微粒子のジルコニアに対して3~45mol%含有し、前記金属元素は少なくともYを含む、請求項1~3の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子。
【請求項5】
ジルコニア微粒子を含有する水分散液中で、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素のイオンと、前記イオンと反応して水不溶性化合物を生成する添加剤とを反応させて、ジルコニア微粒子の表面に前記金属元素を含む化合物を析出させて被覆ジルコニア微粒子を得る被覆ジルコニア微粒子の製造方法であって、
前記金属元素は少なくともYを含み、
前記ジルコニア微粒子の平均粒子径が3~50nmであり、
前記ジルコニア微粒子の比表面積が20~500m /gである、
被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記添加剤がアルカリ剤である、請求項5に記載の被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項7】
被覆ジルコニア微粒子を得た後、該被覆ジルコニア微粒子から前記添加剤の除去を行う、請求項5又は6に記載の被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項8】
被覆ジルコニア微粒子を得た後、該被覆ジルコニア微粒子を水洗する、請求項5~7の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項9】
得られた被覆ジルコニア粒子を200℃以下で乾燥する、請求項5~8の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記水分散液と、前記金属元素を含む化合物の水溶液と、前記添加剤とを混合する、請求項5~の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項5~10の何れか1項に記載の方法で被覆ジルコニア微粒子を製造する工程、及び製造された被覆ジルコニア微粒子を焼結する工程、を有するジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項12】
分散媒中に、請求項1~4の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子を分散させる工程を有する被覆ジルコニア微粒子分散液の製造方法。
【請求項13】
分散媒中に、請求項1~4の何れか1項に記載の被覆ジルコニア微粒子を分散させる工程を有するナノコンポジットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆ジルコニア微粒子及びその製造方法に関する。
【0002】
背景技術
ジルコニア(ZrO)は、高屈折率、高強度、強靭性、高耐摩耗性、高潤滑性、高耐食性、高耐酸化性、絶縁性、低熱伝導率、可視光域での高透明性等の多くの優れた特徴を有することから、自動車排ガス用触媒、コンデンサー、粉砕ボール、歯科材料、ガラス添加剤、サーマルバリア、固体電解質、光学材料等の様々な用途に使用されている。
【0003】
ジルコニアは、例えば、微粒子を成形、焼結させて種々の物品の製造に供されるが、単体では高温で正方晶、低温で単斜晶の結晶構造となるため、温度変化による体積膨張と収縮が原因で焼結体に亀裂が入り破壊されやすいといった問題点がある。そのため、一般的にイットリア(Y)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)などの安定化剤をジルコニアに固溶させることで相転移を起こさせないようにする方法がとられている。安定化剤を添加して部分的に安定化させたジルコニアは、部分安定化ジルコニアと呼ばれている。
【0004】
部分安定化ジルコニアは、ジルコニアの製法に準じて、中和法、加水分解法、水熱反応法、アルコキシド法、気相法、噴霧熱分解法等の様々な方法により製造される。
【0005】
特開2008-24555号公報には、水和ジルコニウムゾルに、イットリウム等の化合物を安定化剤として添加して乾燥し、1000~1200℃の範囲で仮焼して、安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの1種以上を含むジルコニア微粉末を製造する方法が開示されている。
【0006】
特開2010-137998号公報には、ジルコニアとイットリアと所定の範囲で含有する部分安定化ジルコニア磁器の製造方法であって、Zrを含む出発原料として水酸化ジルコニウムにイットリア微粒子粉末又はイットリウム塩類を均一分散させた複合物を1100~1400℃の温度域で熱処理を行うことによりジルコニアを得て、これを粉砕して得たセラミック粉末を成形、焼成する方法が開示されている。
【0007】
特開2015-221727号公報には、アルミナを0.05~3質量%含むイットリア濃度2~4モル%の所定のジルコニア焼結体の製造方法であって、2次粒子の平均粒径が0.1~0.4μmであり、該2次粒子の平均粒径/電子顕微鏡で測定される1次粒子の平均粒径の比が1~8、かつ、アルミニウム化合物をアルミナ換算として0.05~3質量%含有するイットリア濃度2~4モル%のジルコニア粉末を成形して1100~1200℃で予備焼結させ、得られた予備焼結体を圧力50~500MPa、温度1150~1250℃で熱間静水圧プレス処理する方法が開示されている。
【0008】
特開2009-227507号公報には、希土類元素イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを含むジルコニア酸性分散液に、炭酸アルカリ溶液を添加して中和沈殿物を生成し、次いで、この中和沈殿物を乾燥し、この乾燥した中和沈殿物を400℃以上かつ600℃以下の温度にて熱処理し、次いで、洗浄し、炭酸アルカリ成分を除去することを特徴とするジルコニア複合微粒子の製造方法が開示されている。
【0009】
特開平5-170442号公報には、ジルコニウム塩の溶液と希土類元素、カルシウムまたはマグネシウムの中から選ばれた1種の塩の溶液をあらかじめ混合しておき、該混合溶液を塩基性溶液または塩基性物質のスラリーの中に添加し、得られたスラリーを80~200℃の温度で加熱処理し、酸を添加後、分離、洗浄する、希土類元素酸化物、カルシアまたはマグネシアが固溶した結晶質ジルコニア系ゾルの製造方法が開示されている。
【0010】
特開2017-154927号公報には、カルボン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子であって、前記酸化ジルコニウムナノ粒子は、イットリウムを含有すると共に、希土類元素以外の遷移金属の少なくとも1種を含有する酸化ジルコニウムナノ粒子が開示されている。
【0011】
発明の概要
特開2008-24555号公報、特開2010-137998号公報、特開2015-221727号公報及び特開2009-227507号公報は、中和法及び/又は加水分解法を利用した方法であるが、固溶させるために高温での焼成が必要であり、粒子成長により粒子形状が不均一で、分散性の悪い粒子となりやすい。
一方、特開平5-170442号公報及び特開2017-154927号公報は、水熱反応法を利用した方法であり、焼成工程を必要としないため、微細な粒子径を得ることができ、数十nmレベルのジルコニア微粒子を得るには有利であると考えられる。しかし、安定化剤としてよく利用されるイットリウム塩は、一般にジルコニウム塩よりも溶解度が小さいため、水熱反応法を利用した方法では、工業スケールでの生産において、ジルコニウムとイットリウムを原子レベルで均一に混合するのは困難であり、イットリアが偏在する傾向にある。また反応に長時間を要するため、生産性の点で課題を残している。
【0012】
本発明は、こうした状況に鑑み、安定なジルコニア微粒子及びその簡便な製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、ジルコニア微粒子と、該微粒子の表面を被覆する被覆層とを含有する被覆ジルコニア微粒子であって、
被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含み、
平均粒子径が3~100nmであり、
比表面積が20~500m/gである、
被覆ジルコニア微粒子に関する。
【0014】
また、本発明は、ジルコニア微粒子を含有する水分散液中で、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素のイオンと、前記イオンと反応して水不溶性化合物を生成する添加剤とを反応させて、ジルコニア微粒子の表面に前記金属元素を含む化合物を析出させて被覆ジルコニア微粒子を得る、被覆ジルコニア微粒子の製造方法に関する。
【0015】
本発明によれば、安定な被覆ジルコニア微粒子及びその簡便な製造方法が提供される。
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、従来のジルコニア微粒子と比べて、焼成工程に付した場合に焼結体の亀裂、破壊が抑制され、高密度化できるという利点を有するため、各種セラミックス材料、歯科材料、コンデンサー、コーティング材料等の用途に好適である。また、本発明の被覆ジルコニア微粒子は、簡易な方法で製造できるため、製造コストの低減が可能であり、工業化規模の生産に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例2で得られた被覆ジルコニア微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)の画像である。
図2図2は、実施例2及び比較例2で得られた被覆ジルコニア微粒子のジルコニウム及びイットリウムの元素分布を示す、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)の画像である。
【0017】
発明を実施するための形態
[被覆ジルコニア微粒子]
本発明は、ジルコニア微粒子と、該微粒子の表面を被覆する被覆層とを含有する被覆ジルコニア微粒子であって、被覆層が、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含み、平均粒子径が3~100nmであり、比表面積が20~500m/gである、被覆ジルコニア微粒子に関する。
【0018】
ジルコニア微粒子の比表面積は、20~500m/gが好ましく、40~200m/gがより好ましく、70~150m/gが更に好ましい。ジルコニア微粒子の比表面積が20m/g以上であると、得られる被覆ジルコニア微粒子の粒子径が適度に抑制されて高密度の焼結体が得やすい。また、被覆層の金属元素による安定化効果が発現しやすくなる傾向にある。ジルコニア微粒子の比表面積が500m/g以下であると、粒子径が適度に大きくなり凝集力が過度に大きくならないため、表面被覆の際に単分散が容易となり、被覆ジルコニア微粒子を用いる際の成型時の充填性も良くなる。
ここで、ジルコニア微粒子の比表面積は、BET比表面積測定装置、例えば、マウンテックス社製全自動BET比表面積測定装置(Macsorb HM Model-1210)を用いて、150℃で脱気した試料について、窒素ガスの吸脱着よりBET法で測定することができる。
【0019】
ジルコニア微粒子の平均粒子径は、3~100nmが好ましく、5~50nmがより好ましく、7~20nmが更に好ましい。本発明では、ジルコニア微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察に基づいて倍率が20万倍のTEM像から、200個以上の任意の粒子の粒子径を計測し、その平均値より求めることができる。
【0020】
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、ジルコニア微粒子の表面に、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む被覆層を有する。
Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属は、ジルコニア微粒子の安定化に寄与する。
希土類元素は、Y(イットリウム)が好ましい。
被覆層は、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素を含む化合物(以下、被覆用化合物ともいう)を含有するものであってよい。
被覆層は、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素の水酸化物、前記金属元素の炭酸塩並びに前記金属元素の酸化物から選ばれる1種以上を含有するものであってよい。
被覆層は、好ましくは、Mg、Ca、Al及びYから選ばれる1種以上の金属元素の水酸化物、前記金属元素の炭酸塩並びに前記金属元素の酸化物から選ばれる1種以上を含有するものであってよい。
被覆層は、Yを含有することが好ましく、水酸化イットリウムなどのイットリウム化合物、更に水酸化物を含有することがより好ましい。
【0021】
前記金属元素を添加することにより、ジルコニア微粒子は、正方晶から単斜晶への相転移が抑制され、強度、耐久性及び寸法精度が向上する。この観点で、前記金属元素の量を調整できる。例えば、本発明では、被覆層中の被覆用化合物の量は、ジルコニア微粒子のジルコニアに対して、好ましくは3~45mol%、より好ましくは5~40mol%、更に好ましくは6~36mol%、より更に好ましくは12~28mol%である。被覆層中の被覆用化合物の量が前記下限値以上であると、高温焼結後の結晶構造中の正方晶率が適度に大きくなり、焼結体の亀裂、破壊の抑制効果が大きく、加えて成形体の作製も容易となる。また、被覆層の前記金属元素の量が前記上限値以下であると、曲げ強度及び破壊靭性が維持でき、加えて、高温焼結後に安定化剤由来の不純物相が生成しにくくなり、焼結体の強度、絶縁性等の特性も良好となる。なお、被覆層中の被覆用化合物の量は、XRF分析法などで測定して求めることができる。また、被覆に用いる化合物の種類及び仕込量、当該化合物を中和する場合は中和剤の種類などを踏まえて、推定される被覆用化合物を特定して計算で求めることができる。
【0022】
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、平均粒子径が3~100nmであり、5~50nmが好ましく、7~20nmがより好ましい。被覆ジルコニア微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察に基づいて倍率が20万倍のTEM像から、200個以上の任意の粒子の粒子径を計測し、その平均値より求める。粒子径を制御することで、該被覆ジルコニア微粒子を含有する組成物の透明性を向上できる。また、低温焼結性に優れる。
【0023】
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、比表面積が20~500m/gであり、40~200m/gが好ましく、70~150m/gがより好ましい。被覆ジルコニア微粒子の比表面積が20m/g以上であると、粒子径が適度に抑制された微粒子となるため、高密度の焼結体が得やすい。また、被覆層の金属元素による安定化効果が発現しやすくなる傾向にある。また、被覆ジルコニア微粒子の比表面積が500m/g以下であると、粒子径が適度に大きくなり凝集力が過度に大きくならないため、成型時の充填性が良くなる。
【0024】
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、各種セラミックス材料、歯科材料、コンデンサー、コーティング材料などに好適に使用することができる。
【0025】
[被覆ジルコニア微粒子の製造方法]
本発明は、ジルコニア微粒子を含有する水分散液中で、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素のイオンと、前記イオンと反応して水不溶性化合物を生成する添加剤とを反応させて、ジルコニア微粒子の表面に前記金属元素を含む化合物(被覆用化合物)を析出させて被覆ジルコニア微粒子を得る、被覆ジルコニア微粒子の製造方法に関する。本発明の製造方法には、本発明の被覆ジルコニア微粒子で述べた事項を適宜適用することができる。本発明の被覆ジルコニア微粒子は、本発明の製造方法で得ることができる。例えば、原料であるジルコニア微粒子や前記金属元素の好ましい態様は、本発明の被覆ジルコニア微粒子で述べたものと同じである。
【0026】
前記添加剤は、例えば、アルカリ剤が挙げられる。アルカリ剤としては、例えば、NaOH、KOH等の水酸化物、NaCO、KCO、炭酸アンモニウム、NaHCO、KHCO等の炭酸塩、アンモニアなどが挙げられる。これらのアルカリ剤は、水溶液、粉末、固体及び結晶を使用することができるが、操作が容易な点で水溶液が好ましい。また、アンモニア水溶液をアルカリ剤として用いることもできる。アルカリ剤を水溶液で用いる場合、濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。
【0027】
本発明では、前記金属元素のイオンは、例えば、ジルコニア微粒子の水分散液に、前記金属元素を含む化合物の水溶液を混合して、前記水分散液中に導入することができる。
本発明では、前記水分散液と、前記金属元素を含む化合物の水溶液と、前記添加剤とを混合して前記イオンと前記添加剤とを反応させることができる。その場合、前記金属元素を含む化合物の水溶液と前記添加剤は、当該化合物と当該添加剤から形成される被覆用化合物の量が、最大理論値で、ジルコニア微粒子のジルコニアに対して、好ましくは3~45mol%、より好ましくは5~40mol%、更に好ましくは6~36mol%、より更に好ましくは12~28mol%となるように用いる。
【0028】
本発明では、被覆ジルコニア微粒子を得た後、該被覆ジルコニア微粒子から前記添加剤の除去を行うことができる。例えば、被覆ジルコニア微粒子を得た後、該被覆ジルコニア微粒子を水洗することができる。
【0029】
本発明では、得られた被覆ジルコニア粒子を乾燥させることができるが、その際の温度は、被覆ジルコニア微粒子が焼結しない温度、例えば、200℃以下とすることができる。
【0030】
本発明では、ジルコニア微粒子を含有する水分散液に、アルカリ剤を添加して均一に混合した後、前記金属元素を含む化合物の水溶液を添加し、中和反応させ、ジルコニア微粒子の粒子表面に金属化合物を均一に被覆させることができる。
また、本発明では、ジルコニア微粒子を含有する水分散液に、前記金属元素を含む化合物の水溶液を添加した後、アルカリ剤を添加し中和反応させ、ジルコニア微粒子の粒子表面に金属化合物を均一に被覆させることができる。
また、本発明では、ジルコニア微粒子を含有する水分散液に、前記金属元素を含む化合物の水溶液とアルカリ剤とを同時に添加し、中和反応させ、ジルコニア微粒子の粒子表面に金属化合物を均一に被覆させることができる。
【0031】
本発明の被覆ジルコニア微粒子の製造方法の一例について説明する。
はじめに、ジルコニア微粒子を水中に均一に分散する。均一にジルコニア微粒子を分散するためには、pH調整を行い、超音波ホモジナイザ、遊星ボールミル、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、湿式ジェットミル、湿式ビーズミル等の分散機により行うことが望ましい。また、メカニカルスターラー等を用いることもできる。
【0032】
このようにして得られたジルコニア微粒子の水分散液と、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素のイオン及び水を含有する組成物とを混合する。前記組成物は、前記金属元素の化合物、例えば塩の水溶液が好ましい。前記金属元素を含む塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物塩等の無機塩が挙げられる。また、金属アルコキシド等の有機化合物を使用することができる。溶解度や入手が容易な点で無機塩が好ましい。該水溶液の濃度は、好ましくは0.001~10mol/L、より好ましくは0.01~5mol/Lである。
【0033】
次いで、ジルコニア微粒子の水分散液と、前記金属元素のイオン及び水を含有する組成物、好ましくは前記金属元素を含む化合物(例えば塩)の水溶液とを混合して得た混合物に、前記イオンと反応して水不溶性化合物を生成する添加剤を混合する。
【0034】
該添加剤としては、前記したアルカリ剤、例えば、アルカリ剤の水溶液が挙げられる。
前記金属元素を含む塩を用いる場合、アルカリ剤は、当該塩の中和度が、例えば、0.8以上となる量で添加する。
アルカリ剤を添加する際の温度は特に限定はないが、例えば100℃以下でよい。
【0035】
本発明では、例えば、ジルコニア微粒子のTEM像の状況から、ジルコニア微粒子の表面を前記金属元素を含む化合物が被覆していることを確認できる。
【0036】
金属化合物で均一に被覆されたジルコニア微粒子を含む水分散液は、適宜、ろ過、水洗、乾燥、解砕などの処理を経て被覆ジルコニア微粒子を得る。一例では、被覆層は、Mg、Ca、Al及び希土類元素の水酸化物又は炭酸塩からなり、非晶質の状態である。また、熱処理を行うことで、被覆層を酸化物の結晶質の状態にしてもよい。
【0037】
本発明の被覆ジルコニア微粒子は、粉末、分散液、ナノコンポジットなどの形態で使用できる。分散液は、水、有機化合物を分散媒とするものが挙げられる。また、ナノコンポジットは、モノマー、オリゴマー、樹脂等の有機化合物中に均一に分散させたナノコンポジットが挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法の一例として、ジルコニア微粒子の水分散液と、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素の水溶性塩の水溶液とを混合して得た混合物に、該混合物のpHが8~13、好ましくはpHが12~13となるようにアルカリ剤を混合して、ジルコニア微粒子の表面に前記金属元素を含む化合物を析出させて被覆ジルコニア微粒子を得る、被覆ジルコニア微粒子の製造方法が挙げられる。この場合、アルカリ剤は、前記水溶性塩の中和度が0.8以上になるように添加することができる。また、本発明では、被覆ジルコニア粒子を、アルカリ剤の検出量が0.01質量%以下となるまで水洗することができる。前記水溶性塩は、20℃の水に対する溶解度が5.0g/水100g以上のものが挙げられる。
【0039】
本発明により、ジルコニア微粒子を含有する水分散液中で、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素のイオンと、前記イオンと反応して水不溶性化合物を生成する添加剤とを反応させる、ジルコニア微粒子の製造方法が提供される。
本発明により、ジルコニア微粒子の水分散液と、Mg、Ca、Al及び希土類元素から選ばれる1種以上の金属元素の水溶性塩の水溶液とを混合して得た混合物に、該混合物のpHが8~13、好ましくはpHが12~13となるようにアルカリ剤を混合する、ジルコニア微粒子の製造方法が提供される。前記水溶液は、前記水溶性塩を0.001~10mol/Lの濃度で含有するものであってよい。また、アルカリ剤は、前記水溶性塩の中和度が0.8以上になるように添加することができる。また、本発明では、被覆ジルコニア粒子を、アルカリ剤の検出量が0.01質量%以下となるまで水洗することができる。前記水溶性塩は、20℃の水に対する溶解度が5.0g/水100g以上のものが挙げられる。
【0040】
本発明により、前記本発明の方法で被覆ジルコニア微粒子を製造する工程、製造された被覆ジルコニア微粒子を焼結する工程、を有するジルコニア焼結体の製造方法が提供される。このジルコニア焼結体の製造方法には、本発明の被覆ジルコニア微粒子及び被覆ジルコニア微粒子の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。被覆ジルコニア微粒子の焼結は、焼結体の用途などを考慮して、公知のジルコニア微粒子の焼結方法に準じて行うことができる。一例として、1300~1600℃で1~15時間焼結する方法が挙げられる。
【0041】
本発明により、分散媒(以下、分散液用分散媒ともいう)中に、本発明の被覆ジルコニア微粒子を分散させる工程を有する被覆ジルコニア微粒子分散液の製造方法が提供される。この被覆ジルコニア微粒子分散液の製造方法には、本発明の被覆ジルコニア微粒子及び被覆ジルコニア微粒子の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0042】
また、本発明により、分散媒(以下、ナノコンポジット用分散媒ともいう)中に、本発明の被覆ジルコニア微粒子を分散させる工程を有するナノコンポジットの製造方法が提供される。このナノコンポジットの製造方法には、本発明の被覆ジルコニア微粒子及び被覆ジルコニア微粒子の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0043】
本発明の被覆ジルコニア微粒子分散液の製造方法及びナノコンポジットの製造方法では、本発明の被覆ジルコニア微粒子を表面処理剤で処理してもよい。表面処理剤として、下記のものを挙げることができるが、これらに限らない。
たとえば、(メタ)アクリロイルオキシ系のシランカップリング剤、ビニル系のシランカップリング剤、エポキシ系のシランカップリング剤、アミノ系のシランカップリング剤、ウレイド系のシランカップリング剤などを使用することができる。
【0044】
(メタ)アクリロイルオキシ系のシランカップリング剤としては、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが例示される。アクリロキシ系のシランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0045】
ビニル系のシランカップリング剤としては、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シランが例示される。
【0046】
エポキシ系のシランカップリング剤としては、ジエトキシ(グリシディルオキシプロピル)メチルシラン、2-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-ブリシドキシプロピルトリエトキシシランが例示される。スチレン系のシランカップリング剤としては、p-スチリルトリメトキシシランが例示される。
【0047】
アミノ系のシランカップリング剤としては、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1、3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0048】
ウレイド系のシランカップリング剤としては、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0049】
更なる他の表面処理剤として、以下のものが挙げられる。クロロプロピル系のシランカップリング剤としては、3-クロロプロピルトリメトキシシランが例示される。メルカプト系のシランカップリング剤としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキンシランが例示される。スルフィド系のシランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイドが例示される。イソシアネート系のシランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが例示される。アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが例示される。
【0050】
本発明で用いる分散液用分散媒は、被覆ジルコニア微粒子を分散させることができるものであれば、特に制限はない。分散液用分散媒としては、例えば、水又は有機化合物を使用することが出来る。
【0051】
水を分散液用分散媒とする場合は、被覆ジルコニア微粒子の分散性の観点から、pHが2~5、又はpHが9~13であることが好ましい。
【0052】
分散液用分散媒としての有機化合物は、有機溶媒として知られている化合物から選択できる。具体的には、好ましくは、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、n-ヘキサン、シクロペンタン、トルエン、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ハイドロフルオロエーテル等を挙げることができる。
【0053】
ナノコンポジット用分散媒は、有機化合物、例えば、モノマー、オリゴマー、樹脂(ポリマー)等の、被覆ジルコニア微粒子を分散させることができるものであれば、特に制限はない。モノマー、オリゴマー、樹脂等としては、例えば、芳香環含有アクリレート、脂環骨格含有アクリレート、単官能アルキル(メタ)アクリレート、多官能アルキル(メタ)アクリレート及びこれらの重合体を使用することが出来る。
【0054】
芳香環含有アクリレートとしては、屈折率が高い観点から、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ2-メチルエチルアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレート、3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-フェニルフェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、フェニルベンジルアクリレート、パラクミルフェノキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0055】
また、脂環骨格含有アクリレートとしては、アッベ数が高く、光学材料として好ましい観点から、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボニルメタクリレート等が挙げられる。
【0056】
また、単官能アルキル(メタ)アクリレートとしては、低粘度である観点から、メチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性アルキル(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
また、多官能アルキル(メタ)アクリレートとしては、硬化物の高度を向上することができる観点から、(i)(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、(ii)グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、リン酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3,4官能(メタ)アクリレート、(iii)前記(i)及び(ii)から選ばれる化合物のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド変性品等が挙げられる。
【0058】
本発明の被覆ジルコニア微粒子分散液の製造方法及びナノコンポジットの製造方法では、分散剤を、必要に応じて用いることができる。分散剤は、例えば、被覆ジルコニア微粒子と親和性を有する基を含む化合物であれば、特に限定されないが、好ましい分散剤としては、カルボン酸、硫酸、スルホン酸或いはリン酸、又はそれらの塩等の酸基を有するアニオン系の分散剤を挙げることができる。これらの中でも好ましくは、リン酸エステル系分散剤である。分散剤の使用量に関しては、特に限定されるものではないが、被覆ジルコニア微粒子に対して、0.1~30質量%が好ましい。
【0059】
実施例
以下、実施例により本発明の被覆ジルコニア微粒子及びその製造方法などについて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
なお、各種機器分析は以下の方法で行った。
(1)X線回折(XRD)
ブルカー・エイエックスエス社製X線回折装置(D8 ADVANCE/V)にて測定し、定性分析、又はリートベルト解析による定量分析した。(正方晶、単斜晶等)
(2)被覆ジルコニア微粒子中における被覆金属化合物量の測定(XRF分析)
ブルカー・エイエックスエス社製蛍光エックス線分析装置(S8 TIGER)を用いて、被覆無機微粒子中の各元素量を定量した。
(3)比表面積(SSA)の測定
150℃にて脱気した被覆ジルコニア微粒子を使用し、マウンテック社製全自動BET比表面積測定装置(Macsorb HM Model-1210)を用いて、窒素ガスの吸脱着よりBET法で比表面積を測定した。
(4)平均粒子径の測定、粒子形状及び均一性評価
日立ハイテクノロジーズ製透過型電子顕微鏡(H-7600)を用いて倍率3万~20万倍で粒子の画像を取得し、200個以上の粒子の長径を計測し、その平均値を求めることにより平均粒子径を測定した。粒子形状はTEM像の観察より評価し、均一性は平均粒子径の測定値より評価した。
(5)表面被覆の均一性評価
日立ハイテクノロジーズ製電界放出形走査電子顕微鏡(SU8220)及びエネルギー分散型X線分析装置(EX-370X-MAX50)を用いて、倍率3000倍で粒子の画像を取得し、EDXマッピングにより、元素分布を観察し評価した。
【0061】
[被覆ジルコニア微粒子の調製]
<実施例1>
平均粒子径10nmのジルコニア微粒子粉体(関東電化工業社製)27.7g(225mmol)に、粉体濃度が20質量%になるよう純水を加え、1時間メカニカルスターラーにて撹拌し、ジルコニア水スラリーを調製した。該スラリーに、1mol/L硝酸イットリウム水溶液を硝酸イットリウム換算で、13.5mmolになるよう滴下混合し、1時間撹拌した。次いで、中和度が0.8以上、かつpH12~13になるよう25質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下混合し、1時間程度撹拌した。得られたスラリーを吸引ろ過し、XRF測定よりNaが未検出となるまで水洗し、その後150℃で、水分1%以下になるまで乾燥させた。得られた固体を乳鉢にて粉砕し、ふるい処理(75μmメッシュ)した。
【0062】
<実施例2~13、比較例1>
実施例1に準拠し、表1に示す配合処方に従い、各種被覆ジルコニアを調製した。なお、実施例6では、単斜晶が主である市販品のジルコニア微粒子を原料として用いた。また、実施例7では、中和を炭酸ナトリウムで行った。また、実施例8は、硝酸イットリウムに代えて塩化カルシウムを用いた。また、一部の実施例では、第2の化合物を用いた。
実施例2の被覆ジルコニア微粒子のTEM像を図1に示した。また、実施例2の被覆ジルコニア微粒子のSEM-EDXマッピング写真を図2に示した。TEM写真より、実施例2で得られた粒子は球状であり、平均粒子径の測定値から、均一性が良いことがわかる。
【0063】
<比較例2>
平均粒子径5~10nmのジルコニア微粒子の粉体(関東電化工業社製)27.7g(225mmol)に、20質量%となるように純水を加え、メカニカルスターラーで1時間撹拌した。得られたジルコニア微粒子を含むスラリーにイットリア(Y)3.1gを加え、1時間撹拌した。得られたスラリーを吸引ろ過し、水洗後、水分が1%以下になるまで150℃で加熱乾燥した。得られた固体を乳鉢で粉砕し、目開き74μmのふるいを通した。比較例2の被覆ジルコニアのSEM-EDXマッピング写真を図2に示した。
【0064】
[被覆ジルコニア微粒子の焼成と結晶構造変化]
実施例1~13、比較例1~2で得られた被覆ジルコニア微粒子の1000℃焼成後の結晶構造を以下の方法で評価した。
被覆ジルコニア微粒子を空気雰囲気下20℃から1000℃まで4時間で加温し、1000℃、3時間で焼成した。得られた粉体の結晶構造をX線回折(XRD)測定により評価した。なお、焼成条件(温度、時間)によって、被覆ジルコニア微粒子の結晶構造等の物性は大きく変わってくる。
【0065】
【表1】
【0066】
※1 mol%はジルコニアに対するmol%であり、原料の種類及び仕込量、中和剤の種類などに基づく被覆用化合物としての量を示した。
※2 ごく微量のHfを含むが、その量も含めた量をZr量として質量%を示した。
【0067】
比較例1に示すように、金属化合物で被覆されていないジルコニア微粒子は、1000℃焼成後の正方晶率0%、すなわち単斜晶率100%であったのに対して、実施例1~13では、正方晶率20%以上の値を示した。
実施例1~3に示すように、被覆用化合物である水酸化イットリウムの含有率を高めることによって、焼成後の正方晶率が高まることがわかる。特に、この焼成条件では、実施例2、3に示すように、水酸化イットリウム換算で12mol%以上含有する場合、焼成後の正方晶率が95%、93%となり、Yがジルコニア結晶格子中に入り込み、正方晶安定化元素として、効果的に作用しているものと推定される。
比較例2に示すように、Yイオンを経由せず、直接イットリアで被覆したところ、正方晶率64%となり、Yイオン水溶液を経由し表面被覆された実施例2と比較すると正方晶率が30%程度低くなる。これは図2のSEM-EDXマッピング写真に示すように、Yの被覆が不均一になったためと考えられ、物性が安定しないことも容易に推定される。また、安定化剤由来の不純物相が生成しているため、焼結体にしたときの強度等の特性低下に影響することが懸念される。
実施例4~10に示すように、安定化剤として作用する金属化合物は、Yだけでなく、Mg、Ca、Alの水酸化物、炭酸塩(炭酸塩の水和物も含む)も用いることができる。また、これら金属化合物を組み合わせることも可能である。
実施例6に示すように、原料微粒子として、単斜晶が主である原料微粒子(粒子径:20nm)を用いた場合においても、1000℃焼成後の結晶構造は、正方晶率95%であり、実施例4と同等の結果を示した。
実施例11に示すように、硝酸イットリウムの仕込量を少なくしても、ジルコニア微粒子の被覆が可能であった。
実施例12及び実施例13に示すように、硝酸イットリウムの仕込量を多くしても、ジルコニア微粒子の被覆が可能であった。実施例12及び実施例13では、イットリアのXRDパターン観測から、固溶されないイットリアも生成しているものと推察された。
【0068】
<実施例14~21、比較例3>
被覆工程で使用するジルコニア微粒子(以下、原料微粒子)のサイズの影響について説明する。粒度分布の広い原料微粒子も使用しているため、ここでは粒子の大きさを比表面積で評価した。
【0069】
実施例2に準拠し、表2に示した比表面積である原料微粒子をそれぞれ使用し、被覆ジルコニア微粒子を得た。原料微粒子は、実施例14で使用した原料微粒子(比表面積:140m/g)を焼成することで、比表面積の大きさを調整した。被覆用化合物は、一律で水酸化イットリウム換算12mol%とした。得られた被覆ジルコニア微粒子を実施例1~13と同様に1000℃で焼成し、結晶構造をXRD測定により評価した。焼成後の正方晶率と原料微粒子の比表面積を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、原料微粒子の比表面積が大きくなるにつれ、正方晶率が高まることがわかる。この焼成条件では、特に実施例14~17、すなわち比表面積が75~140m/gの範囲で、正方晶率がおよそ90%とYが正方晶安定化元素として、より効果的に作用することがわかる。これは、粒子径が小さくなればなるほど、分子レベルでYが均一に固溶された状態になるためと考えられる。
【0072】
<参考例1~4>
被覆ジルコニア微粒子で作製された焼結体の緻密化の程度を評価した。
〔焼結体作製〕
被覆ジルコニア微粒子粉体4gを用いて、一軸加圧機により加圧0.5tにて成形体を作製した。緻密化の評価として、焼結前後の成形体をノギスで計測し、その成形体密度をジルコニア理論密度(6.0g/cm)で除して相対密度(%)を算出した。焼結温度は、200℃で1時間、1000℃で3時間、1200℃で3時間とし、昇温速度は、20℃から1000℃までは4℃/min、1000℃から1200℃までは2℃/minとした。表3に、焼結体の相対密度などを示した。
参考例1では、安定化剤が被覆されていないジルコニア微粒子(比較例1)を、参考例2では、実施例1の被覆ジルコニア微粒子を、参考例3では、実施例4の被覆ジルコニア微粒子を、参考例4では、市販品の部分安定化ジルコニアを用いた。
【0073】
【表3】
【0074】
※1 相対密度(%)=(W/V)/d×100
W:被覆ジルコニア微粒子粉体質量(g)
V:成形体体積(cm
:ジルコニア理論密度(=6.0g/cm
※2 参考例4の市販品の含有率は、(1)はY換算、(2)はAl換算である。
【0075】
参考例1に示すように、安定化剤が被覆されていないジルコニア微粒子は、成形体そのものが作製できなかったのに対して、参考例2のイットリアのみが被覆されたジルコニア微粒子を使用した場合、亀裂・破壊なく焼結体を作製することができた。
参考例3に示すように、水酸化イットリウムだけでなく、水酸化アルミニウムも表面被覆されたジルコニア微粒子を用い焼結体を作製したところ、参考例4に示した市販品よりも緻密化を進行させることができた。
【0076】
実施例22
実施例4で得られた被覆ジルコニア微粒子の粉体100gを、純水500g中に混合し、pH4になるよう酢酸を滴下し混合液を調製した。得られた混合液を分散撹拌機で30分間撹拌し、粗分散を行った。得られた混合液をメディア式湿式分散機にて分散処理した。途中の粒子径を確認しながら、分散処理を行うことにより実施例22の分散液を得た。得られた分散液中の被覆ジルコニア微粒子の分散粒径を、以下の方法で測定した。また、参考例5として、実施例4の被覆ジルコニア微粒子に代えて、被覆を行っていない原料のジルコニア微粒子を用いて同様に製造した分散液についても同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0077】
実施例23
実施例4で得られた被覆ジルコニア微粒子の粉体120g、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503、信越化学工業株式会社製)30.0g、メチルエチルケトン(MEK)250gを混合し、分散撹拌機で30分間撹拌し、粗分散を行った。得られた混合液をメディア式湿式分散機にて分散処理した。途中の粒子径を確認しながら、分散処理を行うことにより実施例23の分散液を得た。得られた分散液中の被覆ジルコニア微粒子の分散粒径を、以下の方法で測定した。また、参考例6として、実施例4の被覆ジルコニア微粒子に代えて、被覆を行っていない原料のジルコニア微粒子を用いて同様に製造した分散液についても同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0078】
<分散液中の被覆ジルコニア微粒子の分散粒径の測定法>
作製1日後(25℃保管)の分散液中の被覆又は未被覆のジルコニア微粒子の分散粒径を、株式会社堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置LB-500を用いて25℃で測定した。結果を表4に示す。本発明の被覆ジルコニア微粒子を用いても、未被覆のジルコニア微粒子と同様に分散状態が良好な分散液を調製できることがわかった。
【0079】
【表4】
図1
図2