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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】金属超微粒子スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20241030BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241030BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241030BHJP
   B22F 9/18 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 M
B01D71/02
B22F9/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022000529
(22)【出願日】2022-01-05
(65)【公開番号】P2023100105
(43)【公開日】2023-07-18
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 嗣雄
(72)【発明者】
【氏名】大澤 聡
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199690(JP,A)
【文献】特開2007-301461(JP,A)
【文献】特開2003-103158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
B22F 1/00
B01D 71/02
B22F 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属超微粒子、第1溶媒及び不純物を含む原液を、前記金属超微粒子を通過させない濾過膜にて濾過することにより、前記第1溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第1濃縮液を得る濃縮工程、
前記第1濃縮液に、50℃~100℃に加温され且つ非水系有機溶媒を含む第2溶媒を加えることにより、前記金属超微粒子を洗浄する精製工程、
を有する金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記濾過膜がセラミック製の濾過膜であり、
前記濃縮工程において、前記濾過膜を有する閉鎖空間内に前記第1濃縮液を残存させ、
前記精製工程において、前記閉鎖空間内に前記第2溶媒を加え、前記第1濃縮液と前記第2溶媒が混在した液を前記濾過膜にて濾過することにより、前記第2溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第2濃縮液を得る、請求項1に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記精製工程の後、前記第2溶媒を第3溶媒に置換する置換工程をさらに有し、
前記精製工程において、前記閉鎖空間内に前記第2濃縮液を残存させ、
前記置換工程において、前記閉鎖空間内に、ターピネオール、4-メチルシクロヘキサノール、イソホロン又はテレピネオールを含む第3溶媒を加え、前記第2濃縮液と前記第3溶媒が混在した液を前記濾過膜にて濾過することにより、前記第3溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第3濃縮液を得る、請求項2に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記原液に含まれる金属超微粒子の平均粒径が、10nm以上200nm以下であり、且つその粒度分布のCV値が20%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記濃縮工程の前に、前記原液を得る合成工程を有し、
前記合成工程が、金属塩と還元性を有する前記第1溶媒とを含む溶液を加熱し、前記金属塩を還元することによって、前記金属超微粒子、前記第1溶媒及び前記不純物を含む前記原液を合成し、前記不純物が、前記金属塩と還元性を有する前記第1溶媒の反応分解物を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記第3濃縮液の、前記金属超微粒子の濃度が、20vol%以上である、請求項に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記金属超微粒子が、ニッケルである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属超微粒子スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粒子スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属超微粒子が、金属インキ、触媒、燃料電池、コンデンサ、磁性材料などの様々な分野で使用されている。
かかる金属超微粒子の合成法は、気相合成法と液相合成法に大別できる。気相合成法は、気相中に導入した金属蒸気から金属超微粒子を生成させる方法であり、液相合成法は、溶液中の金属イオンを還元することにより金属超微粒子スラリーを生成させる方法である。液相合成法としては、例えば、還元剤を使用して金属イオンを還元する方法、電気化学的にカソード電極上で金属イオンを還元する方法などが知られている。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、金属化合物と還元性を有する溶媒と分散剤とを混合した混合溶液を、マイクロ波照射により急速加熱し、金属超微粒子を還元析出させて金属超微粒子を含む第1スラリーとし、この第1スラリーに含有される金属超微粒子を沈降させ、その上澄み液を廃棄して第2スラリーとし、この第2スラリーに溶媒を添加することにより、金属超微粒子スラリーを製造することが開示されている。
また、特許文献3には、COOH基を除く部分の炭素数が1~12のカルボン酸ニッケルおよび1級アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得た後、前記錯化反応液をマイクロ波で加熱してニッケルナノ粒子スラリーを得、前記ニッケルナノ粒子スラリーを静置分離して上澄み液を取り除き、さらにメタノールを用いて洗浄することにより、ニッケルナノ粒子スラリーを得、これを乾燥することにより、ニッケルナノ粒子を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-169557
【文献】特開2008-159498
【文献】WO2011/115213
【発明の概要】
【0004】
上記従来の金属超微粒子スラリーの製造にあっては、液相合成法にて金属超微粒子を含む溶液(金属超微粒子合成時の原液)を得た後、この溶液中の金属超微粒子をその自重によって沈殿させ、上澄み液を除去した後、別の溶媒を加えている。
しかしながら、このような金属超微粒子を沈殿させて上澄み液を除去する方法は、機械的に処理し難い上、その処理作業に長時間を要するため、工業的生産に適さない。
さらに、特許文献2及び3に記載されているように、原液(合成した金属超微粒子を含む溶液)から上澄み液を除去した後、洗浄液(有機溶媒)を加えて洗浄する場合でも、同様に金属超微粒子を沈殿させて洗浄液である上澄み液を除去するという同様の作業を行なうため、工業的生産に適さない。また、このような方法で洗浄すると、洗浄液が比較的多量に必要になる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、比較的短時間で完了でき、また、機械装置類を用いて容易に実施できる金属超微粒子スラリーの製造方法を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、金属超微粒子を洗浄する溶媒の使用量を低減できる金属超微粒子スラリーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属超微粒子スラリーの製造方法は、金属超微粒子、第1溶媒及び不純物を含む原液を、前記金属超微粒子を通過させない濾過膜にて濾過することにより、前記第1溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第1濃縮液を得る濃縮工程、前記第1濃縮液に、50℃~100℃に加温され且つ非水系有機溶媒を含む第2溶媒を加えることにより、前記金属超微粒子を洗浄する精製工程、を有する。
【0007】
本発明の好ましい製造方法は、前記濾過膜がセラミック製の濾過膜であり、前記濃縮工程において、前記濾過膜を有する閉鎖空間内に前記第1濃縮液を残存させ、前記精製工程において、前記閉鎖空間内に前記第2溶媒を加え、前記第1濃縮液と前記第2溶媒が混在した液を前記濾過膜にて濾過することにより、前記第2溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第2濃縮液を得る。
本発明の好ましい製造方法は、前記精製工程の後、前記第2溶媒を第3溶媒に置換する置換工程をさらに有し、前記精製工程において、前記閉鎖空間内に前記第2濃縮液を残存させ、前記置換工程において、前記閉鎖空間内に、ターピネオール、4-メチルシクロヘキサノール、イソホロン又はテレピネオールを含む第3溶媒を加え、前記第2濃縮液と前記第3溶媒が混在した液を前記濾過膜にて濾過することにより、前記第3溶媒中に前記金属超微粒子が高濃度で含まれる第3濃縮液を得る。
本発明の好ましい製造方法は、前記原液に含まれる金属超微粒子の平均粒径が、10nm以上200nm以下であり、且つその粒度分布のCV値が20%以下である。
本発明の好ましい製造方法は、前記濃縮工程の前に、前記原液を得る合成工程を有し、
前記合成工程が、金属塩と還元性を有する前記第1溶媒とを含む溶液を加熱し、前記金属塩を還元することによって、前記金属超微粒子、前記第1溶媒及び前記不純物を含む前記原液を合成し、前記不純物が、前記金属塩と還元性を有する前記第1溶媒の反応分解物を含む
本発明の好ましい製造方法は、前記第3濃縮液の、前記金属超微粒子の濃度が、20vol%以上である。
本発明の好ましい製造方法は、前記金属超微粒子が、ニッケルである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、比較的短時間で完了でき、また、機械装置類を用いて容易に実施できる。本発明の製造方法によれば、単分散性に優れた金属超微粒子スラリーを工業的に比較的安価に製造できる。
本発明の好ましい製造方法では、金属超微粒子を洗浄する第2溶媒の使用量を低減できる。また、本発明の好ましい製造方法では、置換時の第3溶媒の使用量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の製造方法の各工程の概略説明図。
図2】本発明の金属超微粒子スラリーの製造装置の第1例を示す参考図。
図3】本発明の金属超微粒子スラリーの製造装置の第2例を示す参考図。
図4】本発明の金属超微粒子スラリーの製造装置の第3例を示す参考図。
図5】実施例で得られた金属超微粒子スラリーの拡大写真図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、下限値以上上限値以下などの数値範囲が、別個に複数記載されている場合、任意の下限値と任意の上限値を選択し、「任意の下限値以上任意の上限値以下」の数値範囲を設定できるものとする。
【0011】
本発明は、金属超微粒子を含む原液を濾過膜にて濃縮する、金属超微粒子スラリーの濃縮工程を含む。
好ましくは、本発明は、前記濃縮した原液を、溶媒を用いて洗浄し、金属超微粒子を精製する、金属超微粒子スラリーの精製工程を含む。
より好ましくは、本発明は、前記洗浄後に、洗浄に使用した溶媒を他の溶媒に置換する置換工程を含む。
さらに好ましくは、本発明は、前記濃縮工程の前に、金属超微粒子を含む原液を製造する合成工程を含む。
本発明は、上記各工程以外の工程を有していてもよい。
【0012】
上記各工程を1つの製造装置のラインで一連に行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を、1つのラインで行い、且つ残る工程を他の1つ又は2つ以上のラインで行ってもよい。好ましくは、各工程は1つの製造装置で行われる。また、前記各工程の全てを一の実施者が行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を一の実施者が行い、且つ残る工程を他の実施者が行ってもよい。例えば、合成工程を一の実施者が行い、濃縮工程、精製構成及び置換工程を一連に他の実施者が行う場合などが例示できる。
図1は、合成工程、濃縮工程、精製工程、置換工程の概略説明図である。
図1を参照しつつ、本発明の製造方法の各工程について具体的に説明する。
【0013】
[合成工程]
合成工程は、金属超微粒子を含む原液を得る工程である。前記原液は、金属超微粒子、第1溶媒及び不純物を含んでいる。
前記金属超微粒子を含む原液は、例えば、液相合成法によって得られる。液相合成法としては、例えば、従来公知の方法又は本件出願後に公知となった方法を採用できる。
代表的な合成法としては、金属塩と還元性を有する第1溶媒とを含む溶液を加熱し、前記金属塩を還元して金属超微粒子を生成させる。得られた金属超微粒子は、前記第1溶媒中に分散されており、その第1溶媒中には、反応分解物などの不純物が含まれている。
【0014】
前記金属塩としては、例えば、特許文献2に記載されているような、一般式(R-A)-Mで表されるもの、金属アルコキシド(金属イソプロポキシド、金属エトキシドなど)、金属のアセチルアセトン錯塩(金属アセチルアセトネートなど)などの有機金属化合物を例示することができる。これらは1種単独で又は2種以上を併用できる。前記一般式のRは、水素又は炭化水素基、Aは、COO、OSO、SO又はOPO、Mは、金属、nは、金属Mがとり得る価数と同一であり、1以上の整数、をそれぞれ表す。
前記金属Mとしては、例えば、銀、金、白金属(白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム)、銅、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、インジウム、コバルト、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム、マンガン、若しくは、イットリウム、又はこれらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。
1つの好ましい例では、前記一般式の金属Mがニッケルで、前記AがCOOである金属塩を用いることができる。このような金属塩としては、ギ酸ニッケル若しくはその水和物、炭素数1以上12以下のカルボン酸ニッケル若しくはその水和物などが挙げられる。
【0015】
前記第1溶媒は、還元性(還元能)を有している溶媒であれば特に限定されず、例えば、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類など、及びこれら2種以上の混合溶媒などを使用できる。
上記金属Mがニッケルである場合(ニッケル超微粒子を製造する場合)、第1溶媒としては、例えば、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ウラリルアミンなどの1級アミンを用いることが好ましい。
【0016】
必要に応じて、金属塩と還元性を有する第1溶媒とを含む溶液に、表面修飾剤及び/又は分散剤を添加してもよい。表面修飾剤としては、チオールなどの硫黄含有化合物などが挙げられる。前記硫黄含有化合物としては、特に限定されず、例えば、チオール基やスルフィド基(又はジスルフィド基)を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオールなどのアルカンチオール類、メチルベンゼンチオールなどの芳香族チオール類、ジメチルスルフィドなどのスルフィド類などが挙げられる。表面修飾剤などを添加することにより、単分散性に優れた金属超微粒子を得ることができる。また、分散剤としては、高分子分散剤が挙げられる。前記高分子分散剤としては、ポリアミド系、ポリアリルアミン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオキシアルキレン系の分子骨格を有するものなどが挙げられる。また、前記高分子分散剤の中で、分子内に2級又は3級のアミノ基を有する非水系高分子分散剤も好適に用いることができる。
ここで、本明細書において、「単分散性」は、粒径や組成などが略均一であることをいう。単分散性に優れた金属超微粒子は、粒径や組成などが略均一な粒子群からなる複数の金属超微粒子をいう。
【0017】
金属塩と還元性を有する第1溶媒とを含む溶液に、必要に応じて表面修飾剤及び/又は分散剤を添加し、この溶液を加熱することにより、金属塩を還元する。加熱方法は、特に限定されず、従来公知の方法又は本件出願後に公知となった方法を採用でき、例えば、ヒーター、オイルバス、熱風などの外部熱源の熱伝導によって溶液を加熱する方法、マイクロ波などの電磁波、高周波、電子線などを照射することによって溶液を加熱する方法などが挙げられる。これら加熱方法は、1種単独で、又は2種以上併用してもよい。反応速度が向上し、選択的加熱による粒径の揃った粒度分布がシャープな金属超微粒子を生成できることから、少なくともマイクロ波加熱を用いることが好ましい。
上記溶液を加熱することにより、金属超微粒子、第1溶媒及び不純物を含む原液を得ることができる。
【0018】
得られた金属超微粒子の平均粒径は、例えば、10nm以上200nm以下であり、好ましくは、10nm以上100nm以下であり、より好ましくは15nm以上80nm以下である。金属超微粒子の平均粒径は、JIS H 7804:2005に準拠して測定できる。金属超微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いた撮像により画像解析を行ない、その中から任意の少なくとも100個の金属超微粒子の粒径を測定し、その平均値によって求めることができる。
原液中の金属超微粒子は、粒径のバラツキの小さいシャープな粒度分布を有する。金属超微粒子の粒度分布のCV値は、例えば、20%以下であり、好ましくは18%以下である。前記CV値(変動係数)は、次式で求めることができる。
式:CV値(%)=(S2/Dn)×100
ただし、式中、S2は体積基準の粒度分布における標準偏差を示し、Dnは体積基準におけるメディアン径(D50)を示す。
【0019】
原液中の金属超微粒子の濃度は、特に限定されないが、金属濃度が高いほど不純物生成が増加することから、例えば、0.01vol%以上2.0vol%以下であり、好ましくは、0.5vol%以上1.5vol%以下である。
【0020】
[濃縮工程]
濃縮工程は、濾過膜を用いた濾過によって、前記原液から第1溶媒及び不純物を除去し、原液中の金属超微粒子の濃度を高める工程である。濾過膜を用いた濾過による濃縮工程は、機械装置類にて容易に実施でき、また、比較的短時間で完了する。
濾過膜としては、原液中の金属超微粒子を通過させず且つ第1溶媒及び不純物を通過させるものであれば特に制限なく使用できる。濾過膜としては、例えば、限外濾過膜、ナノ濾過膜などを用いることができる。濾過膜の孔径は、例えば、5nm以上金属超微粒子の粒径以下であり、具体的には、7nm以上100nm以下であり、好ましくは8nm以上80nm以下である。前記孔径であれば、目詰まりが生じ難く、金属超微粒子を透過させることなく第1溶媒及び不純物を透過させることができる。
濾過膜の方式は、全量濾過方式でもよく、クロスフロー濾過方式でもよい。全量濾過方式は、動力コストが比較的安いなどというメリットがあり、クロスフロー濾過方式は、濾過膜表面への付着物の堆積が抑制されるなどのメリットがあり、両者を比較考慮して適宜選択すればよい。好ましくは、クロスフロー濾過方式を採用できる。
濾過膜モジュールは、特に限定されず、平膜型、中空糸型、チューブラー型、スパイラル型、モノリス型などの種々の膜モジュールを使用することができる。濾過処理及び濾過膜洗浄が容易であることから、平膜型又は中空糸型を用いることが好ましい。
【0021】
濾過膜の材質は、特に限定されず、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロース、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデンなどの有機膜;セラミックなどの無機膜;有機及び無機のハイブリッド膜;などが挙げられる。前記セラミック膜としては、例えばチタニア、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウムなどのセラミック製が挙げられ、これらの中では、ジルコニア製膜、チタニア製膜又はアルミナ製膜が好ましい。
耐熱性に優れていることから、濾過膜は、セラミックなどの無機膜から構成されていることが好ましく、さらに汎用的であることから、セラミック膜を含んでいることが好ましい。
【0022】
原液の濾過圧力は、特に限定されず、例えば、5kPa以上0.5MPa以下であり、好ましくは50kPa以上0.4MPa以下である。前記範囲の圧力により、比較的短時間で濾過することができ、また、濾過膜の変形などを防止できる。なお、濾過圧力は、膜内外圧力差である。
濾過膜は、内圧式でもよく、外圧式でもよい。逆洗を容易に実施できるなどの観点から、内圧式が好ましい。
濾過膜への原液の濾過速度は、特に限定されず、例えば、0.5kg/hr/m以上3000kg/hr/m以下であり、好ましくは、2kg/hr/m以上2000kg/hr/m以下である。
【0023】
濾過膜を有する閉鎖空間に前記原液を圧入することにより、前記原液が、濾過によって濃縮液と透過液に分離される。なお、濾過する前に、原液に後述する第1溶媒を加えて希釈し、それを濾過してもよい。
本明細書において、原液を濾過して得られる濃縮液を「第1濃縮液」といい、原液を濾過して得られる透過液を「第1透過液」という。第1濃縮液は、金属超微粒子を高濃度で含んでおり、第1透過液は、第1溶媒及び不純物からなる。
具体的には、前記第1濃縮液は、第1溶媒と、金属超微粒子と、不純物と、を含んでいる点で、原液と共通する。しかし、原液中の多くの第1溶媒及び不純物が第1透過液として分離され且つ原液中の金属超微粒子は実質的に濾過膜を通過しないため、第1濃縮液は、原液よりも少量の第1溶媒中に実質的に原液と同量の金属超微粒子が含まれている。金属超微粒子に付着している不純物なども存在するので、第1濃縮液には、原液よりも少量の不純物も含まれている。
【0024】
第1濃縮液中の金属超微粒子の濃度は、特に限定されないが、より高濃度であることが好ましく、例えば、1vol%以上であり、好ましくは、3vol%以上であり、より好ましくは、5vol%以上である。
第1濃縮液中の金属超微粒子の濃度の上限は、理論上、100vol%未満であるが、現実的には全てが金属超微粒子であることはなく、例えば、50vol%以下であり、好ましくは、40vol%以下である。
濾過時間は、濾過対象の量と濾過速度(濾過速度は、濾過膜の単位面積当たりのろ液(透過液)の流出速度)によって設定される。
なお、第1濃縮液中の金属超微粒子の粒径及び粒度分布は、原液中の金属超微粒子と殆ど同じである。
【0025】
原液を濾過していると、濾過膜が目詰まりしてくる場合がある。そのため、必要に応じて、濾過膜を逆洗することが好ましい。逆洗は、従来公知の方法で行えばよい。また、逆洗は、定期的(一定時間毎)に行ってもよく、或いは、ランダムに行ってもよい。逆洗に用いる流体としては、エアー、第1透過液などを用いることができる。
また、原液を濾過している途中で、閉鎖空間から濃縮液を取り出し、これを返送して閉鎖空間に供給される原液に混合しつつ濾過してもよい。
【0026】
前記原液を、濾過膜を有する閉鎖空間に供給し続けると、前記閉鎖空間(閉鎖空間は、容積一定)内の原液の金属超微粒子の濃度が次第に高まっていく結果、金属超微粒子が高濃度で含まれる第1濃縮液が前記閉鎖空間内に残存する。濾過された第1透過液は、タンクなどに送られ、廃棄又は再利用される。
第1濃縮液は、溶媒中に高濃度の金属超微粒子を含む金属超微粒子スラリーであるが、不純物を含んでいるので、通常、このスラリーを精製する。精製工程は、前記閉鎖空間内の第1濃縮液を、一旦、閉鎖空間から取り出し(閉鎖空間から送り出し)、タンクに入れた後に行ってもよい。容易に実施でき、さらに、第2溶媒の使用量を抑制できることから、前記閉鎖空間内に第1濃縮液を残存させたままで、精製工程を行うことが好ましい。
【0027】
[精製工程]
精製工程は、前記第1濃縮液に第2溶媒を加えることにより、第1濃縮液中の不純物を除去する工程(第1濃縮液中の金属超微粒子を洗浄する工程)である。
第2溶媒は、金属超微粒子を浸食せず且つ不純物を溶解洗浄できるものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラデカン、オクタデセン、1-ヘキサデシン、1-テトラデシン、1-オクタデシン、酢酸エチルなどの非水系有機溶媒;エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類;などが挙げられる。
【0028】
精製工程も、濾過膜を用いた濾過を利用することが好ましい。濾過膜を用いた濾過による精製工程は、機械装置類にて容易に実施でき、また、比較的短時間で完了する。
具体的には、前記第1濃縮液に第2溶媒を加え、第1濃縮液と第2溶媒が混在した液を濾過膜にて濾過することにより、その液が濃縮液と透過液に分離される。本明細書において、第1濃縮液と第2溶媒が混在した液を「第2原液」といい、前記第2原液を濾過して得られる濃縮液を「第2濃縮液」といい、前記第2原液を濾過して得られる透過液を「第2透過液」という。
【0029】
精製工程で用いられる濾過膜及びモジュール並びに濾過方式などは、上記[濃縮工程]の欄で説明したようなものが用いられ、好ましくは、濃縮工程で用いた濾過膜と同一(モジュール、濾過方式なども同一)のものが用いられる。
特に、容易に実施でき、第2溶媒の使用量を少なくできることから、閉鎖空間内に第1濃縮液を残存させた状態で当該閉鎖空間内に第2溶媒を供給し、前記第2原液(第1濃縮液と第2溶媒が混在した液)を濾過膜にて濾過することが好ましい。閉鎖空間に前記第2溶媒を圧入することにより、第1濃縮液と第2溶媒が混合され、前記第2原液が閉鎖空間内に生じると共に、金属超微粒子に付着した不純物が第2溶媒によって離されて液中に溶解分散するようになる。この第2原液中の第1溶媒、第2溶媒及び不純物は、濾過膜を透過する(第2透過液となる)。前記第2溶媒を供給し続けると、第2原液中の第1溶媒が次第に第2溶媒に置換されていくと共に、前述のように、第2原液中の不純物が濾過膜を通じて除去されていく。一方、得られる第2濃縮液は、(前述のように置換された)第2溶媒と、金属超微粒子と、を含む。なお、(金属超微粒子は、濾過膜を実質的に透過しないので)第2濃縮液中の金属超微粒子の量は、原液と殆ど変わらない。
【0030】
前記第2原液の濾過圧力は、特に限定されず、例えば、5kPa以上0.5MPa以下であり、好ましくは50kPa以上0.4MPa以下である。前記範囲の圧力により、比較的短時間で濾過することができ、また、濾過膜の変形などを防止できる。
閉鎖空間への第2溶媒の濾過速度は、特に限定されず、例えば、0.5kg/hr/m以上3000kg/hr/m以下であり、好ましくは、2kg/hr/m以上2000kg/hr/m以下である。
第2溶媒は、常温で供給してもよいが、洗浄効果を高めるために、加温した上で供給することが好ましい。加温する場合、第2溶媒の温度は、室温以上であり、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上80℃以下である。濾過膜がセラミック膜である場合、前述のように加温された溶媒を供給しても、濾過膜が変形、破損し難くなるので好ましい。
【0031】
不純物を実質的に除去できるまで第2溶媒を供給する。第2溶媒の供給総量(使用量)は、実質的に不純物を除去できる量以上である。上記のように濾過膜を使用した場合、特に、濾過膜を使用し且つ閉鎖空間に残存した第1濃縮液に第2溶媒を加える方式の場合には、第2溶媒の供給総量を少なくできる。特に、第2溶媒の供給量が濾過液量と同一量で連続的に洗浄する場合には、第2溶媒の供給総量を少なくできる。このように濾過膜を使用し且つ閉鎖空間に残存した第1濃縮液に第2溶媒を加える方式の場合には、比較的少ない第2溶媒で第1濃縮液を良好に洗浄でき、不純物が効果的に除去された第2濃縮液を得ることができる。
第2濃縮液中の金属超微粒子の濃度、粒径及び粒度分布は、第1濃縮液の金属超微粒子の濃度、粒径及び粒度分布と殆ど同じであるので、上記を参照されたい。
【0032】
精製工程においても、必要に応じて、濾過膜を逆洗することが好ましい。逆洗は、従来公知の方法で行えばよく、定期的(一定時間毎)に行ってもよく、或いは、ランダムに行ってもよい。逆洗に用いる流体としては、エアー、第2透過液などを用いることができる。
また、第2原液を濾過している途中で、閉鎖空間から濃縮液を取り出し、これを返送して閉鎖空間に供給される第2溶媒に混合しつつ濾過してもよい。
【0033】
前記第2溶媒の供給が完了すると(不純物の除去が完了すると)、第2濃縮液が閉鎖空間内に残存する。濾過された第2透過液は、タンクなどに送られ、廃棄又は再利用される。
第2濃縮液は、第2溶媒中に高濃度の金属超微粒子を含む金属超微粒子スラリーである。このスラリーは、不純物が除去されているので、そのまま金属超微粒子スラリーとして利用することもできる。また、前記スラリーから第2溶媒を揮発などの手段で除去することにより、単分散性に優れた金属超微粒子そのものを得ることもできる。
金属超微粒子スラリーは、金属インキなどの電子材料として使用されるが、洗浄に適した第2溶媒を含む金属超微粒子スラリーは、電子材料として使用することに適さない。このため、前記金属超微粒子スラリーの第2溶媒を、電子材料などの用途(金属超微粒子スラリーの用途)に適する第3溶媒に置換することが好ましい。
置換工程は、前記閉鎖空間内の第2濃縮液を、一旦、閉鎖空間から取り出し(閉鎖空間から送り出し)、タンクに入れた後に行ってもよい。容易に実施でき、さらに、第3溶媒の使用量を抑制できることから、前記閉鎖空間内に第2濃縮液を残存させたままで、置換工程を行うことが好ましい。
【0034】
[置換工程]
置換工程は、前記第2濃縮液に第3溶媒を加えることにより、第2濃縮液中の第2溶媒を第3溶媒に置換する工程である。
第3溶媒は、金属超微粒子スラリーの用途に応じて適宜設定できる。例えば、金属超微粒子スラリーをコンデンサを製造する際の金属インキとして使用する場合、第3溶媒としては、ターピネオール、4-メチルシクロヘキサノール、イソホロン、テレピネオールなどを用いることができる。例えば、金属超微粒子スラリーをスクリーン印刷として使用する場合、第3溶媒としては、ターピネオールなどを用いることができる。
【0035】
置換工程も、濾過膜を用いた濾過を利用することが好ましい。濾過膜を用いた濾過による置換工程は、機械装置類にて容易に実施でき、また、比較的短時間で完了する。
具体的には、前記第2濃縮液に第3溶媒を加え、第2濃縮液と第3溶媒が混在した液を濾過膜にて濾過することにより、その液が濃縮液と透過液に分離される。本明細書において、第2濃縮液と第3溶媒が混在した液を「第3原液」といい、前記第3原液を濾過して得られる濃縮液を「第3濃縮液」といい、前記第3原液を濾過して得られる透過液を「第3透過液」という。
置換工程で用いられる濾過膜及びモジュール並びに濾過方式などは、上記[濃縮工程]の欄で説明したようなものが用いられ、好ましくは、濃縮工程で用いた濾過膜と同一(モジュール、濾過方式なども同一)のものが用いられる。
特に、容易に実施でき、第3溶媒の使用量を少なくできることから、閉鎖空間内に第2濃縮液を残存させた状態で当該閉鎖空間内に第3溶媒を供給し、前記第3原液(第2濃縮液と第3溶媒が混在した液)を濾過膜にて濾過することが好ましい。閉鎖空間に前記第3溶媒を圧入することにより、第2濃縮液と第3溶媒が混合され、前記第3原液が閉鎖空間内に生じる。この第3原液中の第2溶媒及び第3溶媒は、濾過膜を透過する(第3透過液となる)。前記第3溶媒を供給し続けると、第3原液中の第2溶媒が次第に第3溶媒に置換されていく。一方、得られる第3濃縮液は、(前述のように置換された)第3溶媒と、金属超微粒子と、を含む。なお、(金属超微粒子は、濾過膜を実質的に透過しないので)第3濃縮液中の金属超微粒子の量は、原液と殆ど変わらない。
【0036】
前記第3原液の濾過圧力は、特に限定されず、例えば、0.01MPa以上0.5MPa以下であり、好ましくは0.1MPa以上0.4MPa以下である。前記範囲の圧力により、比較的短時間で濾過することができ、また、濾過膜の変形などを防止できる。
閉鎖空間への第3溶媒の濾過速度は、特に限定されず、例えば3kg/hr/m以上60kg/hr/m以下であり、好ましくは、6kg/hr/m以上30kg/hr/m以下である。
【0037】
第2溶媒が実質的に無くなるまで第3溶媒を供給する。第3溶媒の供給総量(使用量)は、第2溶媒を第3溶媒に置換できる量以上である。上記のように濾過膜を使用した場合、特に、濾過膜を使用し且つ閉鎖空間に残存した第2濃縮液に第3溶媒を加える方式の場合には、第3溶媒の供給総量を少なくできる。第3溶媒の供給総量が、閉鎖空間の容積の10倍以下、好ましくは5倍以下であっても、第3溶媒の供給量及び濾過速度と透過量及び透過速度を一致させることによって、第2濃縮液中の第2溶媒を第3溶媒に置換した、第3濃縮液を得ることができる。
第3濃縮液中の金属超微粒子の濃度、粒径及び粒度分布は、第1濃縮液の金属超微粒子の濃度、粒径及び粒度分布と殆ど同じであるので、上記を参照されたい。
【0038】
置換工程においても、必要に応じて、濾過膜を逆洗することが好ましい。逆洗は、従来公知の方法で行えばよく、定期的(一定時間毎)に行ってもよく、或いは、ランダムに行ってもよい。逆洗に用いる流体としては、エアー、第3透過液などを用いることができる。
また、第3原液を濾過している途中で、閉鎖空間から濃縮液を取り出し、これを返送して閉鎖空間に供給される第3溶媒に混合しつつ濾過してもよい。
【0039】
前記第3溶媒の供給が完了すると(置換が完了すると)、第3濃縮液が閉鎖空間内に残存する。濾過された第3透過液は、タンクなどに送られ、廃棄又は再利用される。
第3濃縮液は、第3溶媒中に高濃度の金属超微粒子を含む金属超微粒子スラリーである。このスラリーは、閉鎖空間から取り出され、金属インキなどとして使用できる。
また、必要に応じて、第3溶媒中に高濃度の金属超微粒子を含む金属超微粒子スラリーから、第2溶媒を揮発などの手段で除去することにより、単分散性に優れた金属超微粒子そのものを得ることもできる。
【0040】
[金属超微粒子スラリーの製造装置]
図2は、金属超微粒子スラリーの製造装置1の第1例を示す参考図である。図2において、太い実線は、各液が通る配管を表し、「P」は、ポンプなどの液の加圧送出機を表し、白抜き矢印は、各液の配管中の流れ方向を示し、細矢印は、濾過膜を通過する透過液の流れ方向を示す。
【0041】
図2を参照して、製造装置1は、金属超微粒子の合成装置2と、金属超微粒子の濃縮、洗浄及び置換を順に行う後処理装置3と、を有する。
前記合成装置2は、反応容器21と、前記反応容器21内に配置された攪拌器22と、前記反応容器21内の液を加熱する加熱器23と、を有する。
後処理装置3は、各液を入れるタンク41乃至45と、濾過膜52Aを含む濾過装置と、前記タンク等と濾過装置との間を繋ぐ配管と、を有する。
【0042】
タンクは、原液(合成装置2で得られた原液)を入れる第1-タンク41と、第2溶媒を入れる第2-タンク42と、第3溶媒を入れる第3-タンク43と、透過液を入れる第4-タンク44と、濃縮液を入れる第5-タンク45と、を含む。
【0043】
前記配管は、濾過装置の閉鎖空間Sに接続された主供給管71と、反応容器21と第1-タンク41との間に設けられ且つ反応容器21内の原液を第1-タンク41に送る供給管72と、第1-タンク41と主供給管71との間に設けられ且つ第1-タンク41内の原液を前記主供給管71を通じて濾過装置の閉鎖空間Sに送る供給管73と、第2-タンク42と主供給管71との間に設けられ且つ第2-タンク42内の第2溶媒を前記主供給管71を通じて濾過装置の閉鎖空間Sに送る供給管74と、第3-タンク43と主供給管71との間に設けられ且つ第3-タンク43内の第3溶媒を前記主供給管71を通じて濾過装置の閉鎖空間Sに送る供給管75と、濾過装置と第4-タンク44との間に設けられ且つ濾過膜を透過した各透過液を第4-タンク44に送る送出管76と、濾過装置と第5-タンク45との間に設けられ且つ濾過装置の閉鎖空間S内の各濃縮液を第5-タンク45に送る送出管77と、第5-タンク45と主供給管71との間に設けられ且つ第5-タンク45内の各濃縮液を前記主供給管71を通じて濾過装置の閉鎖空間Sに送る返送管78と、を有する。
【0044】
配管には、適宜な箇所に、電磁弁などのバルブが設けられている(バルブを2つの△の組み合わせで表している)。バルブを開くことにより、液を合成装置2からタンク41へ、或いは、タンク41,42,43,45から濾過装置へ、或いは、濾過装置からタンク44,45へと送出できる。バルブを閉じることにより、配管を通じた液の送出ができないようになっている。
なお、特に図示しないが、各タンク41乃至45(又は配管)に、温度計、圧力計、流量計などの従来公知の各種計測機器を具備させてもよい。
濾過装置は、液密構造のチャンバー51と、前記チャンバー51の室内に配置された濾過膜52Aと、を有する。前記チャンバー51内には、濾過膜52Aによって閉鎖空間Sが形成されている。
濾過装置の閉鎖空間Sの容積は、適宜設定できる。
【0045】
濾過装置は、平板ディスク状の濾過膜52Aを有する。この濾過膜52Aは、内部に透過液が流れ込む空洞62を有する。前記ディスク状の濾過膜52Aは、中空状の軸部材53に固定されている。好ましくは、前記濾過膜52Aの略中心が前記軸部材53に固定されている。軸部材53の中空部532は閉塞されており、前記中空部532と濾過膜52Aの空洞62が連通して、1つの空間を画成(形成)している。前記軸部材53は、その軸周り方向に回転可能となるように、ベアリング54を介してチャンバー51及びキャップ部55に軸支されている。この軸部材53には、モーターなどの駆動機56がベルトなどを介して連結されており、前記駆動機56によって軸部材53が回転する。軸部材53の回転に同期して、それに固定された濾過膜52Aも周方向に回転する。濾過装置の閉鎖空間Sは、チャンバー51と濾過膜52Aとによって画成(形成)されている。閉鎖空間Sに、便宜上、無数のドットを付している。また、チャンバー51には、前記閉鎖空間Sに連通した導入口511と排出口512が形成されている。前記導入口511には、主供給管71が液密的に接続されており、前記排出口512には、送出管77が液密的に接続されている。また、軸部材53には、前記空洞62に連通する排出口513が形成されており、前記排出口513には、送出管76が液密的に接続されている。なお、図示例では、キャップ部55に排出口513が形成されている。
なお、濾過装置は、濾過膜52Aの目詰まりを解消するため、従来公知の逆洗機構を有していてもよい(図示せず)。
【0046】
図2に示すような製造装置1は、本発明の方法を実施するために使用できる。具体的には、反応容器21に、金属塩及び第1溶媒(さらに、必要に応じて表面修飾剤及び/又は分散剤)を入れ、攪拌器22で混合しながら、加熱器23で溶液を加熱する(合成工程)。加熱方式は、上述のように、マイクロ波を用いることが好ましい。反応完了後、反応容器21内の原液(金属超微粒子、第1溶媒及び不純物)は、供給管72を通じて第1-タンク41に送られる。
次に、第1-タンク41の原液を供給管73及び主供給管71を通じて導入口511から閉鎖空間S内に加圧しながら供給する。原液などの液の供給は、例えば、配管に配置された加圧送出機(ポンプなど)を用いて実施できる。なお、加圧送出機は配管途中に設けられている場合に限定されない。
原液を閉鎖空間S内に圧入することにより、第1溶媒及び不純物(第1透過液)が濾過膜52Aを通過し、空洞62及び中空部532から排出口513を通じて第4-タンク44へと送出される。一方、閉鎖空間S内には、濃縮液が滞留し、金属超微粒子の濃度が所望の濃度(例えば、20vol%以上)になるまで原液を供給する。必要に応じて、逆洗により、濾過膜52Aの目詰まりを解消する。また、必要に応じて、前記濃縮中に、閉鎖空間Sに生じる濃縮液を第5-タンク45に送り出し、返送管78を通じてその濃縮液を主供給管71に返送してもよい。返送された濃縮液は、主供給管71に供給される第1溶媒と混合され、その混合液が閉鎖空間S内の濃縮液に混合されながら濾過膜52Aにて濾過される。
このようにして、金属超微粒子を高濃度で含む第1濃縮液を閉鎖空間S内に得ることができる(濃縮工程)。なお、原液を濾過する際の圧力、濾過膜の種類などの諸条件は、上記[濃縮工程]に記載の通りである。
【0047】
第1濃縮液を閉鎖空間S内から取り出すことなく、続いて、第2-タンク42の第2溶媒を導入口511から前記閉鎖空間S内に加圧しながら供給する。第2溶媒を閉鎖空間S内に圧入することにより、第1溶媒、第2溶媒及び不純物(第2透過液)が濾過膜52Aを通過し、同様に第4-タンク44へと送出される。一方、閉鎖空間S内においては、第1濃縮液の第1溶媒が第2溶媒に置換されていくと共に、不純物が減っていく。必要に応じて、逆洗してもよい。また、必要に応じて、前記濃縮液を第5-タンク45に送り出し、返送管78を通じてその濃縮液を主供給管71に返送し、第2溶媒と共に閉鎖空間S内に圧入し、濾過してもよい。
第2溶媒による洗浄を完了することにより、金属超微粒子を高濃度で含む第2濃縮液を閉鎖空間S内に得ることができる(精製工程)。なお、第2原液を濾過する際の圧力などの諸条件は、上記[精製工程]に記載の通りである。
さらに、第2濃縮液を閉鎖空間S内から取り出すことなく、続いて、第3-タンク43の第3溶媒を導入口511から前記閉鎖空間S内に加圧しながら供給する。第3溶媒を閉鎖空間S内に圧入することにより、第2溶媒及び第3溶媒(第3透過液)が濾過膜52Aを通過して第4-タンク44へと送出される。一方、閉鎖空間S内においては、第2濃縮液の第2溶媒が第3溶媒に置換されていく。必要に応じて、逆洗してもよい。また、必要に応じて、前記濃縮液を第5-タンク45に送り出し、返送管78を通じてその濃縮液を主供給管71に返送し、第3溶媒と共に閉鎖空間S内に圧入し、濾過してもよい。
第3溶媒による置換を完了することにより、金属超微粒子を高濃度で含む第3濃縮液を閉鎖空間S内に得ることができる(置換工程)。なお、第3原液を濾過する際の圧力などの諸条件は、上記[置換工程]に記載の通りである。
【0048】
最後に、閉鎖空間Sに残存する第3濃縮液を排出口512から第5-タンク45に送出することにより、単分散性に優れた金属超微粒子を高濃度で含み且つ使用用途に適した金属超微粒子スラリーを得ることができる。
なお、上記第1濃縮液、第2濃縮液及び第3濃縮液を得る際に、濾過膜52Aを回転させてせん断力を加えながら各原液を濾過してもよい。このようにせん断力を加えることにより、高濃度に濾過できる。さらに、濾過膜52Aを回転させながら濾過することにより、濾過ケーキが生じ難く、低粘度で連続的に濾過を行なうことができ、処理時間を短縮化できる。濾過膜52Aの回転速度は、適宜設定でき、例えば、50回転/分以上10000回転/分以下である。
【0049】
図3は、金属超微粒子スラリーの製造装置1の第2例を示す参考図である。図3の太い実線、「P」、白抜き矢印及び細矢印は、図2と同様な意味である。
図3の製造装置1は、濾過装置を除いて、図2の製造装置1と同様である。図3の製造装置1に関して、図2の装置と異なる構成について説明し、図2と同様な構成は、その説明を省略し、用語及び符号を援用する。
図3の濾過装置は、濾過膜52Bがチューブラー型である点で図2と異なっている。チューブラー型の濾過膜52Bの両端部には、キャップ部材57,58が取り付けられている。キャップ部材57,58は、例えば、チャンバー51に固定されている。キャップ部材57には、チャンバー51に形成された導入口511及び閉鎖空間Sのそれぞれに連通する連通路が形成されており、キャップ部材58には、チャンバー51に形成された排出口512及び閉鎖空間Sのそれぞれに連通する連通路が形成されている。また、チャンバー51には、空洞62に連通する排出口513が形成されている。
【0050】
このチューブラー型の濾過膜52Bの閉鎖空間Sは、そのチューブ内に形成されている。すなわち、図2の濾過装置の閉鎖空間Sはチャンバー51と濾過膜52Aとによって画成(形成)されているが、図3の濾過装置の閉鎖空間Sは、実質的に濾過膜52Bのみによって画成(形成)されている。一方、図3の空洞62(透過液が流れる空洞)は、チャンバー51と濾過膜52Bとによって画成(形成)されている。
図3の濾過装置も、上記と同様にして各工程毎に閉鎖空間S内に原液や第2溶媒などを圧入することにより、単分散性に優れた金属超微粒子を高濃度で含み且つ使用用途に適した金属超微粒子スラリーを得ることができる。
【0051】
図4は、金属超微粒子スラリーの製造装置1の濾過装置の第3例を示す参考図である。
図2及び図3に示す濾過装置は、チャンバー51内に1つの濾過膜が設けられているが、図4に示すように、チャンバー51内に複数の濾過膜52Aが設けられていてもよい。なお、特に図示しないが、チューブラー型などのディスク状以外の濾過膜についても、複数設けられていてもよい。
【0052】
[金属超微粒子スラリーの用途]
本発明の金属超微粒子スラリーは、金属インキ、触媒、燃料電池、コンデンサ、磁性材料などの様々な分野で使用することができる。例えば、Ni、Co、Moなどの微粒子は、石油精製の脱硫触媒や水素化触媒として使用でき、Cuなどは水性ガス反応やシフト反応触媒として使用できる。貴金属超微粒子も触媒として様々な分野で使用でき、代表例として自動車排ガス処理用の三元触媒として広く使用できる。Ag超微粒子やCu超微粒子は、電気回路の配線の印刷用ペーストの導電性フィラーとして使用できる。また、貴金属超微粒子やNi超微粒子は、積層セラミックコンデンサー用途などにも使用できる。
【実施例
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0054】
[測定方法]
<粘度>
金属超微粒子スラリーの粘度は、常温常圧下(20℃、1気圧)で、粘度計(東機産業株式会社製、製品名「BII型粘度計」)を用いて測定した。
<平均粒径及び粒度分布>
微粒子の粒径は、JIS H 7804:2005に準拠し、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、製品名「SU8600」)及び透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、製品名「HT7800」)を用いた画像により画像解析を行ない、100個の金属超微粒子の粒径を測定して平均値を求めた。
CV値(%)は、前記電子顕微鏡の写真画像の粒子をノギスを用いて計測し、その計測値の粒度分布に基づき、式:CV値(%)=(S2/Dn)×100から決定した。式中、S2は体積基準の粒度分布における標準偏差を示し、Dnは体積基準におけるメディアン径(D50)を示す。
【0055】
[実施例1]
<金属超微粒子の合成>
常温常圧下(20℃、1気圧)で、オレイルアミン酢酸ニッケル錯体2000g(Ni:164g)が2wt%で溶解されたオクタノール溶液100L(Lはリットル)に、10nmの銅-ニッケル金属微粒子が1wt%で分散されたシード溶液を790gを添加した。この溶液に対して、出力6Kwのマイクロ波照射装置を用いて185℃で60分加熱することにより、平均粒径60nmでCV値12%のニッケル超微粒子が分散したスラリーを得た。このスラリーにドデカンチオールをニッケル粒子の重量に対して10wt%を添加して180℃で1時間加熱し、ニッケル超微粒子の有機表面処理を行った。
<濃縮工程>
この表面処理したスラリーにキシレン100Lを添加した。このキシレン添加した溶液(原液)を、図3に示すような濾過装置(株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製、製品名「7M4-2P型」)を用いて濾過し、第1濃縮液を得た。濾過装置は、チューブラー型の濾過膜を有し、その濾過膜は、平均細孔径50nmのチタニア製セラミック限外膜であった。原液の濾過圧力は、約0.1MPaで、濾過膜への原液の濾過速度は、約13kg/hr/mであった。
<精製工程>
前記濾過を完了後、濾過膜のチューブ内(閉鎖空間内)に第1濃縮液を残したままで、そこに60℃に加熱したキシレンを供給し、キシレンと共に第1濃縮液を濾過し、第2濃縮液を得た。キシレンの濾過圧力は、約0.1MPaで、濾過膜へのキシレンの濾過速度は、約13kg/hr/mであり、キシレンの供給量は、前記原液の濾過で得られた透過液の15%(体積基準)とした。
<置換工程>
前記濾過を完了後、濾過膜のチューブ内(閉鎖空間内)に第2濃縮液を残したままで、そこに室温(20℃)のターピネオールを供給し、ターピネオールと共に第2濃縮液を濾過し、第3濃縮液を得た。ターピネオールの濾過圧力は、約0.2MPaで、濾過膜へのターピネオールの濾過速度は、約4kg/hr/mであり、ターピネオールの供給量は、約30Lとした。
この第3濃縮液を濾過膜のチューブ内から取り出すことにより、微粒子濃度が35vol%の金属超微粒子スラリーを得た。
濃縮工程開始から置換工程完了までに要した時間は、約7.5時間であった。
【0056】
図5は、実施例1で得られた金属超微粒子スラリーを5万倍に拡大した画像である。
金属超微粒子スラリーの粘度は、100cpsであった。
前記金属超微粒子スラリー中のニッケル超微粒子の平均粒径は、60nmであり、金属超微粒子スラリーのCV値は、約15%であった。また、200nm以上の粗大な微粒子は測定されなかった。
【0057】
[比較例1]
<金属超微粒子の合成>
常温常圧下(20℃、1気圧)で、オレイルアミンニッケル錯体7000g(Ni:574g)が7wt%で溶解されたオクタノール溶液100Lに、出力6Kwのマイクロ波照射装置を用いて190℃で10分加熱することにより、平均粒径30nmでCV値30%のニッケル超微粒子が分散したスラリーを得た。このスラリーにドデカンチオールをニッケル粒子の重量に対して10wt%を添加して180℃で1時間加熱し、ニッケル超微粒子の有機表面処理を行った。
<精製工程>
この表面処理したスラリーに室温のキシレン100Lを添加した。このキシレン添加溶液を平板磁石を用いて凝集沈降を行い、デカンテーションすることによって、前記溶液を80wt%まで濃縮した。デカンテーションによって分離除去した量と同量のキシレンを添加し、同様に、平板磁石による凝集沈降及びデカンテーションを行う操作を、合計3回繰り返した。
<置換工程>
前記キシレンで洗浄し且つ濃縮したスラリーに、室温のターピネオールを2L添加した。このターピネオール添加溶液を平板磁石を用いて凝集沈降を行い、デカンテーションすることによって、80wt%まで濃縮した。デカンテーションによって分離除去した量と同量のターピネオールを添加し、同様に、平板磁石による凝集沈降及びデカンテーションを行う操作を、合計3回繰り返した。
このようにして、微粒子濃度が80vol%の金属超微粒子スラリーを得た。
精製工程開始から置換工程完了までに要した時間は、約24時間であった。
【0058】
金属超微粒子スラリーの粘度は、145cpsであった。
また、前記金属超微粒子スラリー中のニッケル超微粒子の平均粒径は、30nmであり、金属超微粒子スラリーのCV値は、約40%であった。また、200nm以上の粗大な微粒子が、微粒子全体に対して数%測定された。
【0059】
[比較例2]
常温常圧下で、オレイルアミンニッケル錯体500g(Ni:41g)が0.5wt%で溶解されたオクタノール溶液100Lに、出力6Kwのマイクロ波照射装置を用いて190℃で100分加熱することにより、平均粒径110nmでCV値30%のニッケル超微粒子が分散したスラリーを得た。
<精製工程>
このスラリーに室温のキシレン100Lを添加した。このキシレン添加溶液を平板磁石で凝集沈降を行い、デカンテーションすることによって、前記溶液を80wt%まで濃縮した。デカンテーションによって分離除去した量と同量のキシレンを添加し、同様に、平板磁石による凝集沈降及びデカンテーションを行う操作を、合計3回繰り返した。
<置換工程>
前記キシレンで洗浄し且つ濃縮したスラリーに、室温のターピネオールを2L添加した。このターピネオール添加溶液を平板磁石を用いて凝集沈降を行い、デカンテーションすることによって、80wt%まで濃縮した。デカンテーションによって分離除去した量と同量のターピネオールを添加し、同様に、平板磁石による凝集沈降及びデカンテーションを行う操作を、合計3回繰り返した。
このようにして、微粒子濃度が80vol%の金属超微粒子スラリーを得た。
精製工程開始から置換工程完了までに要した時間は、約24時間であった。
【0060】
金属超微粒子スラリーの粘度は、94cpsであった。
また、前記金属超微粒子スラリー中のニッケル超微粒子の平均粒径は、110nmであり、金属超微粒子スラリーのCV値は、約50%であった。また、200nm以上の粗大な微粒子が、微粒子全体に対して数%測定された。
【0061】
表1は、実施例及び比較例の結果を纏めたものである。表1中、置換効率は、金属超微粒子スラリーの不純物残留率が1vol%以下になるときの、金属超微粒子スラリー1Lに対するキシレン(洗浄液)のNL量(ノルマルリットル量)であり、置換効率=NL/1Lから算出される。
実施例1のように、原液を濾過して濃縮することにより、非常に短時間で作業が終了し、また、粗大粒子を実質的に含まず且つ単分散性に優れた金属超微粒子スラリーを得ることができる。
【0062】
【表1】
【符号の説明】
【0063】
1 製造装置
52A,52B 濾過膜
S 閉鎖空間
図1
図2
図3
図4
図5