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  • 特許-めっき素材及びめっき前処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】めっき素材及びめっき前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20241030BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20241030BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C23C18/31 A
C23C18/18
C23C18/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022098321
(22)【出願日】2022-06-17
(65)【公開番号】P2023184266
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 里佳
(72)【発明者】
【氏名】本江 聡子
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2022-0053857(KR,A)
【文献】国際公開第2019/167854(WO,A1)
【文献】特開2022-098980(JP,A)
【文献】特開2012-211364(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0292721(US,A1)
【文献】特開2022-1673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
D06M 10/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、前記繊維を被覆する金属めっきと、めっき用触媒金属であるパラジウムと、を備えためっき素材であって、
前記繊維は、炭素単体を有しない主原料と、前記主原料に含有された炭素単体とを有し、全体に対する炭素単体の重量割合が0.1%以上3.0%以下であり、
前記パラジウムは、前記繊維の内部および繊維表面に存在した状態となっている
ことを特徴とするめっき素材。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン又はポリアリレートにより構成される繊維と、前記繊維を被覆する金属めっきと、めっき用触媒金属であるパラジウムと、を備えためっき素材であって、
前記繊維は、炭素単体を有しない主原料と、前記主原料に含有された炭素単体とを有し
前記パラジウムは、前記繊維の内部および繊維表面に存在した状態となっている
ことを特徴とするめっき素材。
【請求項3】
炭素単体を有しない主原料と前記主原料に含有された炭素単体とを有する原材料から繊維を作成する第1工程と、
前記第1工程において得られた前記繊維を処理槽内に投入し、当該繊維をパラジウムの有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する第2工程と、を備え、
前記第1工程では、全体に対する炭素単体の重量割合が0.1%以上3.0%以下となる繊維が作成される
ことを特徴とするめっき前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき素材及びめっき前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維等の基材に対して金属めっきを施しためっき素材が提案されている。また、このようなめっき素材を得るために、めっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に基材を浸漬して基材表面に有機金属錯体を付着させるめっき前処理方法についても提案されている(例えば特許文献1~3)。このめっき前処理方法によれば、基材表面に有機金属錯体が付着することで、後の無電解めっき工程等において基材に金属めっきを施すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-56287号公報
【文献】特開2010-70826号公報
【文献】特開2010-106316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1~3に記載のめっき前処理方法の後に無電解めっきを行った場合において、決してめっき析出性が高いものではなかった。このため、めっき処理に多くの時間が掛かることとなり、製造に時間が掛かってしまうことから高コスト化を招いてしまうものであった。また、めっき析出性が高いものでないことから、基材がめっき液に長時間浸されてしまい、基材強度が低下する懸念もあった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高コスト化及び基材強度の低下について防止を図ることができるめっき素材、及び、めっき前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るめっき素材は、繊維と、前記繊維を被覆する金属めっきと、めっき用触媒金属であるパラジウムと、を備えためっき素材であって、前記繊維は、炭素単体を有しない主原料と、前記主原料に含有された炭素単体とを有し、全体に対する炭素単体の重量割合が0.1%以上3.0%以下であり、前記パラジウムは、前記繊維の内部および繊維表面に存在した状態となっているまたは、本発明に係るめっき素材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン又はポリアリレートにより構成される繊維と、前記繊維を被覆する金属めっきと、めっき用触媒金属であるパラジウムと、を備えためっき素材であって、前記繊維は、炭素単体を有しない主原料と、前記主原料に含有された炭素単体とを有し、前記パラジウムは、前記繊維の内部および繊維表面に存在した状態となっている。
【0007】
また、本発明に係るめっき前処理方法は、炭素単体を有しない主原料と前記主原料に含有された炭素単体とを有する原材料から繊維を作成する第1工程と、前記第1工程において得られた前記繊維を処理槽内に投入し、当該繊維をパラジウムの有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中に浸漬する第2工程と、を備え、前記第1工程では、全体に対する炭素単体の重量割合が0.1%以上3.0%以下となる繊維が作成される
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高コスト化及び基材強度の低下について防止を図ることができるめっき素材、及び、めっき前処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るめっき素材の一例であるめっき繊維を示す断面図である。
図2図1に示した繊維(めっき前の状態)の一部拡大図であって、透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示している。
図3】比較例に係る繊維の一部拡大図であって、透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示している。
図4】本実施形態に係るめっき繊維の製造方法を示す工程図である。
図5】実施例及び比較例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るめっき素材の一例であるめっき繊維を示す断面図である。図1に示すめっき繊維(めっき素材)1は、繊維(基材)10と、繊維10を被覆する金属めっき20とを備えて構成されている。
【0012】
繊維10は、主原料11と、主原料11に含有されたカーボン12とを有して構成されている。主原料11は、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)樹脂等のカーボン12を含有しないものである。この繊維10は、主原料11に対してカーボン12を練り込んだ樹脂から製造される。これにより、主原料11にカーボン12が内在した状態の繊維10が得られることとなる。なお、カーボン12の含有量は、繊維10の全体に対して0.1%以上3.0%以下が好ましく、0.6%以上2.0%以下がより好ましい。また、主原料11は、PET樹脂に限らず、ポリプロピレン、ナイロン、及びポリアリレート等によって構成されていてもよい。
【0013】
金属めっき20は、繊維10に対して形成された導電性の金属によるめっきであって、例えば化学反応を利用した無電解めっき処理によって形成されている。この金属めっき20は、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト及びインジウムからなる群より選択される1種以上の金属によって構成されている。
【0014】
また、めっき繊維1は、化学反応により上記の金属めっき20を析出させるためのめっき用触媒金属としてパラジウムを有している。このパラジウムは、パラジウムの有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に繊維10を浸漬させることで、図1に示すように、繊維10の表面及び表面付近に付着した状態となる。さらに、本実施形態においてパラジウムは、図1に示すように、繊維10を構成するカーボン12の周辺にも凝集している。
【0015】
図2は、図1に示した繊維10(めっき前の状態)の一部拡大図であって、透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示している。なお、図2において小さな黒点はパラジウムを示している。図2においてはPET樹脂を主原料11とし、これにカーボン12が練り込まれた繊維10の内部を示している。図2に示すように、繊維10にはカーボン12が分散した状態となっている。
【0016】
ここで、本件発明者らは、パラジウムがカーボン12の付近に凝集する性質があることを見出した。このため、図2に示すように、パラジウムは繊維10の内部に存在するカーボン12の付近に凝集している。すなわち、本実施形態においてパラジウムは、繊維10の表面のみならず繊維10の内部にも行き渡った状態となる。この結果、繊維10には多くのパラジウムが付着等することとなり、後の無電解めっき処理においては、繊維10に対して金属めっき20が析出し易くなる。
【0017】
図3は、比較例に係る繊維の一部拡大図であって、透過電子顕微鏡(TEM)による写真を示している。図3に示す繊維はカーボン12を含有していない。このため、比較例では、パラジウム(図3においては白点)が繊維表面近傍に分散して存在することがわかる。
【0018】
図4は、本実施形態に係るめっき繊維1の製造方法を示す工程図である。なお、図4に示すステップS1~S3は、めっき前処理方法を示している。
【0019】
まず、繊維製造工程が行われる(S1:第1工程)。繊維製造工程においては、カーボン12を有しない主原料11と、主原料11に対して含有されたカーボン12とを有する原材料から繊維10が製造される。
【0020】
次いで、浸漬工程が行われる(S2:第2工程)。浸漬工程では、処理槽(不図示)内に繊維10の束が投入され、当該繊維10の束がパラジウムの有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に浸漬させられる。この工程により、パラジウムの有機金属錯体が繊維10の表面付近に付着すると共に、繊維10の内部のカーボン12の周辺に凝集することとなる。
【0021】
その後、無電解めっき工程が行われる(S3)。無電解めっき工程では、還元工程を経た繊維10が無電解めっき槽に連続的に供給され、化学反応を利用してパラジウムの周辺に金属めっき20が析出することとなる。以上により、めっき繊維1が得られることとなる。
【0022】
次に、実施例及び比較例を説明する。図5は、実施例及び比較例を示す図表である。
【0023】
実施例に係るめっき繊維は、カーボン含有量を0.1%以上3.0%以内で様々な値となるように製造された複数種の繊維に対して、浸漬工程、還元工程及び無電解めっき工程を経て製造したものである。また、比較例1に係るめっき繊維は、カーボン含有量を0%とした繊維(実施例の主原料のみで製造された繊維)に対して、浸漬工程、還元工程及び無電解めっき工程を経て製造したものである。比較例2に係るめっき繊維は、炭素繊維(カーボン含有量100%)に対して、浸漬工程、還元工程及び無電解めっき工程を経て製造したものである。
【0024】
なお、浸漬工程における条件は、処理槽内にめっき素材1を投入し、めっき用触媒金属の有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体中(例えば超臨界二酸化炭素中)に浸漬させる。今回は、130℃、15MPaの条件で超臨界二酸化炭素中に30分浸漬させた。さらに、無電解めっき工程は、一般的な無電解銅めっき方法であるホルマリン浴にて実施した(銅濃度:2.5g/L、NaOH濃度:8.0g/L、ホルマリン濃度:3.0g/L)。
【0025】
このような実施例及び比較例1,2に係るめっき繊維の製造過程(無電解めっき工程)におけるめっき析出性、及び、製造後における外観(仕上り)とめっき物性について評価をした。
【0026】
まず、めっき析出性について実施例では30秒程度でめっき反応が起こり、めっき反応が早い結果となった。これに対して、比較例1では10分経ってもめっき反応が始まらず、めっき反応が非常に遅い結果となった。また、比較例2では、めっき液に浸した直後からめっき反応が起こり、めっき反応が非常に早い結果となった。
【0027】
以上より、めっき析出性については、実施例及び比較例2において良好となり、比較例1において良好とはいえなかった。
【0028】
また、外観について確認したところ、実施例及び比較例2では繊維(基材)の全体にめっきが施され、全体的に金属光沢がある仕上りとなった。これに対して比較例1ではめっきの色目が悪く、且つめっきが疎らであった。よって、外観については、実施例及び比較例2において良好となり、比較例1において良好とはいえなかった。
【0029】
さらに、めっき物性(めっき繊維としての性能)を確認したところ、実施例では繊維(基材)物性の低下が確認されず、且つ、めっき剥がれも確認できずめっき密着性も良好であった。これに対して、比較例1ではめっき液へ浸す時間が長く繊維(基材)強度の低下を招くと共に、めっきが疎らなため導電体としての使用が困難であった。また、比較例2ではめっき反応が早過ぎであり、めっき反応に伴う水素が大量に析出してめっき密着性を若干低下させることとなった。特に、めっき槽に炭素繊維を連続的に供給して巻き取る時に一部めっきが脱落した。さらに、炭素繊維の束の間(繊維間)に過剰にめっきが析出してしまい、後工程で過剰に析出した金属めっきが脱落することもあった。よって、脱落した金属めっきによる短絡等を招く可能性があるものとなった。
【0030】
以上より、カーボン含有率については、少なくとも0.1%以上3.0%以下とすると良好であることが確認された。
【0031】
このようにして、本実施形態に係るめっき繊維1及びめっき前処理方法によれば、繊維10は、主原料11と主原料11に含有されたカーボン12とを有している。ここで、本件発明者らは、パラジウムの有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に繊維10を浸漬させる際に、パラジウムの有機金属錯体がカーボン12に付着し易いことを見出した。このため、カーボン12を有しない主原料11に対してカーボン12を含有させておくことで、パラジウムを繊維10の内部のカーボン12付近に凝集させることができる。そして、パラジウムが繊維10の内部まで凝集することから、繊維10に付着等したパラジウムの量が多くなり、金属めっきを設ける後工程において多くの時間が掛かることもなく、また、繊維10がめっき液に長時間浸されてしまい、繊維強度が低下することも抑制される。従って、高コスト化及び繊維強度の低下について防止を図ることができるめっき繊維1を提供することができる。
【0032】
なお、パラジウムがカーボン12付近に凝集することから、金属めっき20は繊維10の内部等にも形成され易くなる。この結果、金属めっき20については密着性も良好になり易い傾向にある。
【0033】
また、全体に対するカーボン12の重量割合が0.1%以上であるため、めっき液に浸す時間を効率的に短縮することができる。また、カーボン12の重量割合が3.0%以下であるため、カーボン12が多すぎることによるめっき脱落の防止を図ることができる。
【0034】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、周知及び公知の技術を組み合わせてもよい。
【0035】
例えば、上記実施形態においては繊維10に金属めっき20を施すめっき繊維1について説明したが、金属めっき20を施す対象は繊維10に限らず、他の基材であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 :めっき繊維(めっき素材)
10 :繊維(基材)
11 :主原料
12 :カーボン
20 :金属めっき
図1
図2
図3
図4
図5