(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】遺伝学的に修飾された非ヒト動物およびその使用法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20241030BHJP
C12N 15/873 20100101ALI20241030BHJP
A01K 67/027 20240101ALI20241030BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20241030BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241030BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/873 Z
A01K67/027
C12N15/19
C12N15/12
C12N15/24 ZNA
(21)【出願番号】P 2022111649
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2020165884の分割
【原出願日】2013-11-05
【審査請求日】2022-08-09
(32)【優先日】2012-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】503469393
【氏名又は名称】イエール ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】512089900
【氏名又は名称】インスティテュート フォー リサーチ イン バイオメディシン (アイアールビー)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】フラベル リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ストロウィッグ ティル
(72)【発明者】
【氏名】マンツ マルクス ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ボルソッティ チアラ
(72)【発明者】
【氏名】ドダプカル マダブ
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー アンドリュー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンズ ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンコポーロス ジョージ ディー.
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/002727(WO,A1)
【文献】特表2003-508038(JP,A)
【文献】Blood,1994年,Vol.83, No.9,p.2570-2579,doi:10.1182/blood.V83.9.2570.2570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/24
C12N 15/873
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス胚性幹(ES)細胞のゲノムに組み込まれたヒトIL-6をコードする核酸配列であって、該ヒトIL-6をコードする核酸が、マウスIL-6遺伝子座においてマウスIL-6プロモーターに機能的に連結された、前記核酸配列と;
(i)SIRPαプロモーターに機能的に連結された、ヒトSIRPαをコードする核酸、
(ii)M-CSFプロモーターに機能的に連結された、ヒトM-CSFをコードする核酸、
(iii)IL-3プロモーターに機能的に連結された、ヒトIL-3をコードする核酸、
(iv)GM-CSFプロモーターに機能的に連結された、ヒトGM-CSFをコードする核酸、および
(v)TPOプロモーターに機能的に連結された、ヒトTPOをコードする核酸
からなる群より選択される、少なくとも1種の付加的な核酸と
を含む、ES細胞。
【請求項2】
(i)前記ヒトSIRPαをコードする核酸、
(ii)前記ヒトM-CSFをコードする核酸、
(iii)前記ヒトIL-3をコードする核酸、
(iv)前記ヒトGM-CSFをコードする核酸、および
(v)前記ヒトTPOをコードする核酸
を含む、請求項1に記載のマウスES細胞。
【請求項3】
ヒトM-CSFをコードする核酸が、マウスM-CSF遺伝子座においてマウスM-CSFプロモーターに機能的に連結され、ヒトIL-3をコードする核酸が、マウスIL-3遺伝子座においてマウスIL-3プロモーターに機能的に連結され、ヒトGM-CSFをコードする核酸が、マウスGM-CSF遺伝子座においてマウスGM-CSFプロモーターに機能的に連結され、かつヒトTPOをコードする核酸が、マウスTPO遺伝子座においてマウスTPOプロモーターに機能的に連結された、請求項2に記載のマウスES細胞。
【請求項4】
Rag2
-/-IL2rg
-/-である、請求項1に記載のマウスES細胞。
【請求項5】
Rag2
-/-IL2rg
-/-である、請求項2に記載のマウスES細胞。
【請求項6】
Rag2
-/-IL2rg
-/-である、請求項3に記載のマウスES細胞。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のマウスES細胞を含む、マウス胚。
【請求項8】
請求項7に記載のマウス胚から遺伝学的に修飾されたマウスを作製する工程
を含む、遺伝学的に修飾されたマウスを作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府によって後援された研究または開発に関する記述
本発明は、National Institutes of Health(NIH)によって授与されたグラント番号5R01CA156689-04の下で、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.§119(e)に準じて、2012年11月5日出願の米国仮特許出願第61/722,437号の出願日に基づく優先権を主張するものであり、その全開示が参照によって本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
生物医学的研究の目標は、ヒト生理学についてのよりよい理解を獲得し、ヒト疾患を防止するか、処置するか、または治癒させるために、この知識を使用することである。ヒト対象における実験法に対する実務上および倫理上の障壁のため、多くの研究が、マウスのような小動物モデルにおいて実施されている。従って、これらのヒト疾患の動物モデルが必要とされている。
【0004】
例えば、米国内で、毎年およそ20,000人の患者が、抗体分泌高分化B細胞のほぼ不治の悪性疾患である多発性骨髄腫(MM)を有すると新たに診断される(Hideshima et al.,2007,Nat Rev Cancer.7:585-98(非特許文献1);Kuehl and Bergsagel,2002,Nat Rev Cancer.2:175-87(非特許文献2))。MMは、悪性形質細胞の骨髄(BM)への浸潤を特徴とし、臨床徴候には、骨疾患、高カルシウム血症、血球減少、腎機能障害、および末梢神経障害が含まれる(Hideshima et al.,2007,Nat Rev Cancer.7:585-98(非特許文献1);Kuehl and Bergsagel,2002,Nat Rev Cancer.2:175-87(非特許文献2))。50歳を超える者のおよそ3%に影響を与える良性単クローン性γグロブリン血症(MGUS)と呼ばれる前癌状態が、大部分の症例において、MMに先行する(Landgren et al.,2009,Blood 113:5412-7(非特許文献3))。核型の変化およびIgH転座を含む、複雑な不均一な遺伝学的異常が、MM細胞の特徴である(Kuehl and Bergsagel,2002,Nat Rev Cancer.2:175-87(非特許文献2);Zhan et al.,2006,Blood 108:2020-8(非特許文献4))。MGUSにおいて増幅される形質細胞クローンは、骨髄腫形質細胞に類似している遺伝子および表現型のプロファイルを有すると考えられる(Chng et al.,2005,Blood 106:2156-61(非特許文献5);Fonseca et al.,2002,Blood 100:1417-24(非特許文献6);Kaufmann et al.,2004,Leukemia.18:1879-82(非特許文献7))。サイクリンD遺伝子における変異が、MMを発症させることが示唆されているが、他の因子の可能性のある寄与は、決定的には証明されていない(Bergsagel et al.,2005,Blood 106:296-303(非特許文献8))。にもかかわらず、遺伝性の遺伝子改変は、MM細胞の挙動の唯一の決定因子ではない。むしろ、薬物に対する耐性およびサイトカインに対する異常な生物学的応答は、微小環境との相互作用によって強く影響を受けるため、それが、新規治療薬を開発する機会を与える。
【0005】
他の多くの腫瘍と同様に、MMは、支持的な環境を生み出す非悪性間質細胞と強く相互作用する不均一な細胞集団を特徴とする(De Raeve and Vanderkerken,2005,Histol Histopathol.20:1227-50(非特許文献9);Dhodapkar,2009,Am J Hematol.84:395-6(非特許文献10))。MM細胞のためのBM微小環境は、多様な細胞外マトリックス(ECM)、ならびに造血系起源および非造血系起源の両方の細胞成分からなる。BMは、正常な造血のための防御された環境を提供するが、ECMタンパク質および補助細胞とのMM細胞の相互作用が、MM病原において重大な役割を果たす(De Raeve and Vanderkerken,2005,Histol Histopathol.20:1227-50(非特許文献9);Dhodapkar,2009,Am J Hematol.84:395-6(非特許文献10);Hideshima et al.,2007,Nat Rev Cancer.7:585-98(非特許文献1))。間質細胞、骨髄系細胞、破骨細胞、および骨芽細胞は、MM細胞の遊走、生存、および増殖を媒介するシグナル経路を活性化する、インターロイキン6(IL-6)、B細胞活性化因子(BAFF)、繊維芽細胞増殖因子、および間質細胞由来因子1aのような増殖因子を産生する。特に、間質細胞、破骨細胞、および骨髄系細胞によって産生されるIL-6は、初期段階において、MMの病原のための重大な因子であるようである(De Raeve and Vanderkerken,2005,Histol Histopathol.20:1227-50(非特許文献9))。同様に、MM細胞との相互作用によって、破骨細胞および樹状細胞は、抗アポトーシスシグナルを提供するBAFFおよび/または増殖誘導リガンド(APRIL)を産生し、それらも薬物耐性を増加させる(De Raeve and Vanderkerken,2005,Histol Histopathol.20:1227-50(非特許文献9);Kukreja et al.,2006,J Exp Med.203:1859-65(非特許文献11))。
【0006】
癌の病原における主要なイベント(悪性細胞の調節されない増殖、生存、および蔓延)は、微小環境ニッチに存在する支持的な細胞型および可溶性因子の特定の組み合わせに依る。マウスモデルは、ヒトにおける悪性形質転換および疾患の推進力の重大な局面の特徴決定において重要な役割を果たす。しかしながら、それらがヒト疾患の遺伝学的複雑性および臨床病理学的特徴を表すことは稀である。免疫低下マウスへのヒト腫瘍の異種移植は広範に利用されているが、信頼性のある生着は、典型的には、高悪性度の腫瘍または細胞株によってのみ実現可能であった。
【0007】
ヒト腫瘍細胞を増殖させるために現在利用可能な最良のモデルは、B細胞、T細胞、およびNK細胞を欠く重症免疫不全マウスである。MMのケースにおいて、これらのマウスへの初代骨髄腫細胞の生着は成功していないが、初代骨髄腫細胞は、免疫低下マウスへの同時移植によって、ヒト胎児骨片に生着することができる(Yaccoby et al.,1998,Blood 92:2908-13(非特許文献12))。このモデルにおいて、MM細胞は、ヒト骨には見出されるが、マウス骨または末梢には検出されず、このことは、高度の残余の異種拒絶(xenorejection)およびヒトBM微小環境の必要性を証明している(Yaccoby et al.,1998,Blood 92:2908-13(非特許文献12);Yaccoby and Epstein,1999,Blood 94:3576-82(非特許文献13))。NOD/Scid/γc-/-マウスが数種のMM細胞株の生着を可能にすることが最近証明され、MMのインビボモデルとしての可能性が判明した(Dewan et al.,2004,Cancer Sci.95:564-8(非特許文献14);Miyakawa et al.,2004,Biochem Biophys Res Commun.313:258-62(非特許文献15))。しかしながら、低い異種拒絶を有するそれらのマウスモデルですら、種の壁を超えないが、形質転換細胞の増殖および生存を支持するために不可欠である多数の因子のため、制限された増殖環境を有する(Manz,2007)。腫瘍とその環境との間の複雑な病原性インタープレイを探究することを可能にするインビボモデルは、新たな薬物および治療を設計するために不可欠であろう。
【0008】
従って、初代ヒト造血器腫瘍細胞を含むヒト造血細胞をマウスにおいて確実に増殖させ研究するためのヒト化非ヒト動物および方法を開発する必要性は、未だ満たされていない。本発明は、当技術分野におけるこれらの満たされていない必要性を解決する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Hideshima et al.,2007,Nat Rev Cancer.7:585-98
【文献】Kuehl and Bergsagel,2002,Nat Rev Cancer.2:175-87
【文献】Landgren et al.,2009,Blood 113:5412-7
【文献】Zhan et al.,2006,Blood 108:2020-8
【文献】Chng et al.,2005,Blood 106:2156-61
【文献】Fonseca et al.,2002,Blood 100:1417-24
【文献】Kaufmann et al.,2004,Leukemia.18:1879-82
【文献】Bergsagel et al.,2005,Blood 106:296-303
【文献】De Raeve and Vanderkerken,2005,Histol Histopathol.20:1227-50
【文献】Dhodapkar,2009,Am J Hematol.84:395-6
【文献】Kukreja et al.,2006,J Exp Med.203:1859-65
【文献】Yaccoby et al.,1998,Blood 92:2908-13
【文献】Yaccoby and Epstein,1999,Blood 94:3576-82
【文献】Dewan et al.,2004,Cancer Sci.95:564-8
【文献】Miyakawa et al.,2004,Biochem Biophys Res Commun.313:258-62
【発明の概要】
【0010】
ヒト造血細胞の発達、機能、または疾患をモデル化するために使用され得る、遺伝学的に修飾された非ヒト動物が提供される。遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含む。いくつかの場合において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒトM-CSF、ヒトIL-3、ヒトGM-CSF、ヒトSIRPa、またはヒトTPOのうちの少なくとも1種も発現する。いくつかの場合において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、免疫不全である。いくつかのそのような場合において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、健常なまたは疾患を有するヒト造血細胞を生着させられる。ヒト造血細胞の発達、機能、および/または疾患のモデル化において本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物を使用する方法、ならびに本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物の作製および/または本発明の方法の実施において有用な試薬およびそのキットも、提供される。
【0011】
本発明の様々な局面において、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含むゲノムを含み、IL-6プロモーターの制御調節下でヒトIL-6ポリペプチドを発現する、遺伝学的に修飾された非ヒト動物が提供される。いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、動物のネイティブIL-6を発現しない。
【0012】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、げっ歯類である。いくつかの態様において、非ヒト動物はマウスである。いくつかのそのような態様において、ヒトIL-6をコードする核酸が機能的に連結されるIL-6プロモーターは、マウスIL-6プロモーターであり、ヒトIL-6遺伝子は、マウスIL-6遺伝子座においてマウスIL-6プロモーターに機能的に連結される。
【0013】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、SIRPaプロモーターの調節下でヒトSIRPaをコードする核酸;M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸(その場合、動物はヒトM-CSFを発現する);IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸(その場合、動物はヒトIL-3を発現する);GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸(その場合、動物はヒトGM-CSFを発現する);およびTPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸(その場合、動物はヒトTPOを発現する)より選択される1種または複数種の付加的な核酸をさらに含む。いくつかの態様において、プロモーターは、その遺伝子のためのヒトプロモーターである。他の態様において、プロモーターは、その遺伝子のための非ヒト動物プロモーターである。いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、動物の対応するネイティブタンパク質を発現する。他の態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、動物の対応するネイティブタンパク質を発現しない。
【0014】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物免疫系について免疫不全である。いくつかのそのような態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、組換え活性化遺伝子(RAG)を発現しない。いくつかのそのような態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、IL2受容体γ鎖(IL2rgまたは「γc」)を発現しない。いくつかのそのような態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、RAG(例えば、RAG1、RAG2)またはIL2rgのいずれも発現しない。
【0015】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾され生着させられた非ヒト動物が形成されるよう、免疫不全の、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒト造血細胞を生着させられる。一つの態様において、ヒト造血細胞は、ヒト臍帯血細胞、ヒト胎児肝細胞、およびヒト造血細胞株の細胞より選択される。一つの態様において、ヒト造血細胞はCD34+前駆細胞である。一つの態様において、ヒト造血細胞は癌細胞である。ある種の態様において、癌細胞はヒト多発性骨髄腫細胞である。
【0016】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾され生着させられた動物は、CD34+細胞、造血幹細胞、造血細胞、骨髄系前駆細胞、骨髄系細胞、樹状細胞、単球、顆粒球、好中球、マスト細胞、胸腺細胞、T細胞、B細胞、形質細胞、血小板、およびそれらの組み合わせより選択されるヒト細胞を生じる。一つの態様において、ヒト細胞は、生着後1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目、4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。
【0017】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾され生着させられた動物は、ヒト造血幹細胞・前駆細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、ヒトT細胞、ヒトB細胞、ヒト形質細胞、およびヒト血小板を含むヒト血液リンパ系を生じる。一つの態様において、ヒト血液リンパ系は、生着後4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。
【0018】
本発明のいくつかの局面において、ヒト造血細胞を生着させられた非ヒト動物を生成する方法が提供される。いくつかの態様において、ヒト免疫細胞の発達および機能の動物モデルを生成する方法が提供される。ある種の態様において、ヒトB細胞の発達および機能の動物モデルを生成する方法が提供される。
【0019】
いくつかの態様において、方法には、免疫不全であり、かつIL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物へ、ヒト造血細胞の集団を移植する工程が含まれる。いくつかの態様において、動物はネイティブIL-6を発現しない。いくつかの態様において、IL-6プロモーターは、非ヒト動物IL-6プロモーターであり、ヒトIL-6遺伝子は、非ヒト動物IL-6遺伝子座において非ヒト動物IL-6プロモーターに機能的に連結される。いくつかの態様において、非ヒト動物はげっ歯類である。いくつかのそのような態様において、非ヒト動物はマウスである。そのため、いくつかの態様において、ヒトIL-6をコードする核酸が機能的に連結されるIL-6プロモーターは、マウスIL-6プロモーターであり、ヒトIL-6遺伝子は、マウスIL-6遺伝子座においてマウスIL-6プロモーターに機能的に連結される。
【0020】
いくつかの態様において、移植される造血細胞の集団は、CD34+細胞を含む。いくつかの態様において、移植される造血細胞の集団は、癌細胞を含む。いくつかの態様において、移植される癌細胞の集団は、多発性骨髄腫細胞を含む。いくつかの態様において、移植は、大腿骨内注射および/または脛骨内注射を含む。
【0021】
いくつかの態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾された動物は、SIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸;M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸;IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸;GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸;およびTPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸からなる群より選択される少なくとも1種の付加的なヒト核酸を発現する。
【0022】
本発明のいくつかの局面において、本明細書に記載されたまたは当技術分野において公知の方法に従って調製された、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を発現する、生着させられた遺伝学的に修飾された非ヒト動物が提供される。いくつかの態様において、生着させられた遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒトB細胞の発達および分化の動物モデルである。
【0023】
様々な態様において、本開示のヒト造血細胞を生着させられた、遺伝学的に修飾された非ヒト動物の使用を包含する方法が提供される。これらの方法には、例えば、造血細胞および免疫細胞の増殖および分化のインビボ評価の方法、ヒト造血系のインビボ評価の方法、癌細胞のインビボ評価の方法、免疫応答のインビボ査定の方法、ワクチンおよび予防接種計画のインビボ評価の方法、癌細胞の増殖または生存をモジュレートする薬剤の効果の試験における使用の方法、癌の処置のインビボ評価の方法、ならびにヒト抗体を含む免疫メディエーターのインビボの作製および収集、ならびに造血細胞および免疫細胞の機能をモジュレートする薬剤の効果の試験における使用の方法が含まれる。例えば、いくつかの態様において、造血器癌を処置する能力について候補薬剤をスクリーニングする方法が提供される。いくつかの態様において、方法には、ヒト造血器癌細胞が生着している本開示の遺伝学的に修飾された非ヒト動物を、候補薬剤と接触させる工程、ならびに接触させられた生着させられた遺伝学的に修飾された非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞の生存率および/または増殖速度を、候補薬剤と接触させられていない同様に生着させられた遺伝学的に修飾された非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞と比較する工程を含む。本法において、接触させられた生着させられた非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞の生存率および/または増殖速度の減少は、その候補薬剤が造血器癌を処置するであろうことを示す。これらおよびその他の方法は、本明細書中の開示から当業者には明白であろう。
[本発明1001]
IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸、ならびに
(i)非ヒト動物のゲノムにランダムに組み込まれた、SIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸;
(ii)M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸;
(iii)IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸;
(iv)GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸;および
(v)TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸:
からなる群より選択される少なくとも1種の付加的な核酸
を含む、遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1002]
IL-6プロモーターが非ヒト動物IL-6プロモーターであり、ヒトIL-6をコードする核酸が非ヒト動物IL-6遺伝子座において非ヒト動物IL-6プロモーターに機能的に連結されている、本発明1001の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1003]
ヒトM-CSFをコードする核酸が非ヒト動物M-CSF遺伝子座にあり、ヒトIL-3をコードする核酸が非ヒト動物IL-3遺伝子座にあり、ヒトGM-CSFをコードする核酸が非ヒト動物GM-CSF遺伝子座にあり、ヒトTPOをコードする核酸が非ヒト動物TPO遺伝子座にある、本発明1001の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1004]
免疫不全である、本発明1001の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1005]
組換え活性化遺伝子(RAG)を発現しない、本発明1004の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1006]
IL2受容体γ鎖を発現しない(γ鎖-/-)、本発明1004の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1007]
RAG2を発現せず、かつIL2rgを発現しない、本発明1004の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1008]
ヒト造血細胞の生着をさらに含む、本発明1001の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1009]
ヒト造血細胞がCD34+細胞である、本発明1008の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1010]
ヒト造血細胞が多発性骨髄腫細胞である、本発明1008の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1011]
マウスである、本発明1001の遺伝学的に修飾された非ヒト動物。
[本発明1012]
免疫不全であり、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含み、ヒトIL-6を発現しかつ非ヒト動物IL-6を発現しない遺伝学的に修飾された非ヒト動物へ、ヒト造血細胞の集団を移植する工程
を含む、ヒトB細胞の発達および機能の動物モデルを生成する方法。
[本発明1013]
IL-6プロモーターが非ヒト動物IL-6プロモーターであり、ヒトIL-6をコードする核酸が非ヒト動物IL-6遺伝子座において非ヒト動物IL-6プロモーターに機能的に連結されている、本発明1012の方法。
[本発明1014]
移植される造血細胞の集団がCD34+細胞を含む、本発明1012の方法。
[本発明1015]
移植される造血細胞の集団が多発性骨髄腫細胞を含む、本発明1012の方法。
[本発明1016]
移植する工程が、大腿骨内注射および/または脛骨内注射を含む、本発明1012の方法。
[本発明1017]
動物が、非ヒト動物のゲノムにランダムに組み込まれた、SIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸をさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1018]
免疫不全の、遺伝学的に修飾された動物が、
(i)M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸;
(ii)IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸;
(iii)GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸;および
(iv)TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸:
からなる群より選択される少なくとも1種の付加的なヒト核酸を発現する、本発明1017の方法。
[本発明1019]
動物がマウスである、本発明1012~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
本発明1012~1019のいずれかの方法に従って調製された、生着させられた非ヒト動物。
[本発明1021]
ヒト造血器癌細胞が生着している本発明1020の遺伝学的に修飾された非ヒト動物を、候補薬剤と接触させる工程、および
該接触させられた非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞の生存率および/または増殖速度を、ヒト造血器癌細胞を生着させられているが候補薬剤と接触させられていない本発明1020の遺伝学的に修飾された非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞の生存率および/または増殖速度と比較する工程
を含む、造血器癌を処置する能力について候補薬剤をスクリーニングする方法であって、該接触させられた非ヒト動物におけるヒト造血器癌細胞の生存率および/または増殖速度の減少が、その候補薬剤が造血器癌を処置するであろうことを示す、方法。
[本発明1022]
造血器癌が多発性骨髄腫である、本発明1021の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と共に参照された時、よりよく理解されるであろう。一般的な実務に従い、図面の様々な特色は、一定の縮尺ではないことが強調される。反対に、様々な特色の寸法が、明確のため、任意で拡大または縮小されている。本発明を例示する目的のため、現在好ましい態様が図面に示される。しかしながら、本発明は、図面に示された態様の正確な配置および手段に限定されないことが、理解されるべきである。図面には以下の図が含まれる。
【0025】
【
図1】ヒトIL-6ノックインマウスにおけるINA-6細胞の生着を証明する実験の結果を示すグラフのセットである。5×10
6個のINA-6細胞を静脈内移植された、示された遺伝子型のマウスにおいて、可溶性IL-6Rレベルを測定した。Nは、各群の移植されたマウスの数を示す。
【
図2】
図2A~2Fを含む
図2は、INA-6細胞の静脈内生着後の大腿骨の組織学的分析を示す画像のセットである。5×10
6個のINA-6細胞の静脈内生着から8週後、Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+マウスを屠殺した。大腿骨を10%ホルマリンで固定し、脱灰した。10μMの切片を、トルイジンブルーによって染色するか、またはLeica共焦点顕微鏡を使用してGFP発現について直接分析した。
【
図3】INA-6細胞の静脈内生着後の肺の分析を示す画像およびグラフのセットである。5×10
6個の静脈内注射されたINA-6細胞の生着から8週後、Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+マウスを屠殺した。肺組織を10%ホルマリンで固定し、10μMの切片を、Leica共焦点顕微鏡を使用してGFP発現について直接分析した。画像(左)は、切片の10倍(上)および63倍(下)の拡大像を示す。グラフ(右)は、示された組織において測定され、マウスhprt発現に対して標準化されたヒトIl6遺伝子発現を示す。
【
図4】ヒトIL-6ノックインマウスにおけるINA-6細胞の生着を証明する実験の結果を示すグラフのセットである。5×10
5個のINA-6細胞を大腿骨内に移植された、示された遺伝子型のマウスにおいて、可溶性IL-6Rレベルを測定した。各線は、個々のマウスを示す。
【
図5】INA-6細胞の大腿骨内生着後の大腿骨の組織学的分析を示す画像のセットである。5×10
5個の大腿骨内注射されたINA-6細胞の生着から4~6週後、Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+マウスを屠殺した。大腿骨を10%ホルマリンで固定し、脱灰した。10μMの切片を、トルイジンブルーによって染色した。
【
図6】INA-6移植後のマウス大腿骨のμCT分析の結果を示す画像およびグラフのセットである。5×10
5個の大腿骨内注射されたINA-6細胞の生着から4週後、Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+マウスおよび対照マウスを屠殺した。大腿骨を70%エタノールで固定し、マウスμCTを使用して分析した。骨体積と組織体積との間の比を計算するため、海綿骨体積および組織体積を定量化した。
*:スチューデントt検定によってp<0.01。
【
図7】抗骨髄腫薬による処置後のマウス大腿骨のμCT分析の結果を示すグラフである。Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+に、5×10
5個の大腿骨内注射されたINA-6細胞を生着させ、隔週で、それぞれVelcade(登録商標)またはZometa(登録商標)によって処置した。4週後、マウスを屠殺し、大腿骨をμCT分析のため70%エタノールで固定した。骨体積と組織体積との間の比を計算するため、海綿骨体積および組織体積を定量化した。
【
図8】Rag2
-/-Il2rg
nullhSIRPa
+Tpo
h/hMcsf
h/hIl3/Gmcsf
h/hIl6
h/hマウスにおける初代細胞生着のFACS分析の結果を示すグラフのセットである。マウスに、1.5×10
6個の大腿骨内注射されたCD3枯渇骨髄細胞を移植し、12週後に屠殺した。注射された大腿骨、これに付随する(collateral)肢、および脾臓から、単一細胞懸濁物を生成した。細胞を、mCD45、hCD19、hCD38、およびhCD138について染色した。FACSプロットは、mCD45-陰性細胞に対するゲーティング後のイベントを示す。数は、CD38+CD138+細胞の頻度を示す。
【
図9】フローサイトメトリーによって決定された、生着させられたマウスにおける血中のヒト造血(hCD45+)細胞の百分率を査定した実験の結果を示す。水平のバーは、それぞれの平均頻度を示す。
【
図10】フローサイトメトリーによって決定された、生着させられたマウスにおける血中のB細胞(CD19+)、T細胞(CD3+)、および骨髄系細胞(CD33+)のhCD45の百分率を査定した実験の結果を示す。2%より高いhCD45百分率を有するマウスのみが示される。
【
図11】
図11Aおよび11Bを含む
図11は、20週生着マウスのBM、脾臓、および胸腺におけるヒトCD45+細胞の百分率(A)および数(B)を査定した実験の結果を示す。バーは、各群4/5匹のマウスの平均値±SEMを表す。
【
図12】
図12Aおよび12Bを含む
図12は、ヒト細胞を査定したFACS実験の結果を示す。(A)フローサイトメトリーによって異なるB細胞集団を分離するために使用されたゲーティング戦略を示す図。(B)20週齢マウスにおけるヒトCD45+CD19+細胞の内の異なるB細胞サブセットの百分率。バーは、各群4/5匹のマウスの平均値±SEMを表す。
【
図13】
図13Aおよび13Bを含む
図13は、ヒト細胞を査定したFACS実験の結果を示す。(A)ヒト胎児肝臓(FL)および20週齢マウスにおけるCD5+B細胞の代表的なフローサイトメトリー分析。四半分内の数は、細胞の百分率を示す。プロットは全てヒトCD45+細胞に対してゲーティングされる。(B)20週生着マウスのBMおよび脾臓におけるヒトB細胞上のCD5の百分率。バーは、各群4/5匹のマウスの平均値±SEMを表す。
【
図14】ヒト細胞を査定したFACS実験の結果を示す。(A)ヒト胎児肝臓(FL)および20週齢マウスにおけるCD27+B細胞の代表的なフローサイトメトリー分析。四半分内の数は、細胞の百分率を示す。プロットは全てヒトCD45+細胞に対してゲーティングされたものである。(B)20週生着マウスのBMおよび脾臓におけるヒトB細胞上のCD27の百分率。バーは、各群4/5匹のマウスの平均値±SEMを表す。
【
図15】12週齢(A)および20週齢(B)のマウスの血漿試料における全ヒトIgMレベルおよび全ヒトIgGレベルを査定した実験の結果を示す。水平のバーは、それぞれの幾何平均を示す。2%未満のPBヒト生着を有するマウスは、分析から除外された。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
ヒト造血細胞の発達、機能、または疾患をモデル化するために使用され得る遺伝学的に修飾された非ヒト動物が、提供される。遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含む。いくつかの態様において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒトM-CSF、ヒトIL-3、ヒトGM-CSF、ヒトSIRPa、またはヒトTPOのうちの少なくとも1種も発現する。本発明は、本明細書に記載された遺伝学的に修飾された非ヒト動物を生成する方法および使用する方法にも関する。いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、マウスである。いくつかの態様において、本明細書に記載された遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、正常細胞もしくは腫瘍性細胞またはそれらの組み合わせを含む、ヒト造血細胞を生着させられる。いくつかの態様において、本明細書に記載された遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒト多発性骨髄腫(MM)細胞を生着させられる。様々な態様において、本発明のヒト造血細胞を生着させられた遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、造血細胞および免疫細胞の増殖および分化のインビボ評価、ヒト造血系のインビボ評価、癌細胞のインビボ評価、免疫応答のインビボ査定、ワクチンおよび予防接種計画のインビボ評価、癌細胞の増殖または生存をモジュレートする薬剤の効果の試験における使用、癌の処置のインビボ評価、ならびにヒト抗体を含む免疫メディエーターのインビボの作製および収集、ならびに造血細胞および免疫細胞の機能をモジュレートする薬剤の効果の試験における使用のために有用である。
【0027】
本発明のこれらおよびその他の目的、利点、および特色は、以下により完全に記載される組成物および方法の詳細を参照することによって、当業者に明白になるであろう。
【0028】
定義
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。そのような用語は、J.Sambrook and D.W.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press;3rd Ed.,2001;F.M.Ausubel,Ed.,Short Protocols in Molecular Biology,Current Protocols;5th Ed.,2002;B.Alberts et al.,Molecular Biology of the Cell,4th Ed.,Garland,2002;D.L.Nelson and M.M.Cox,Lehninger Principles of Biochemistry,4th Ed.,W.H.Freeman & Company,2004;およびHerdewijn,P.(Ed.),Oligonucleotide Synthesis:Methods and Applications,Methods in Molecular Biology,Humana Press,2004を例示的に含む様々な標準的な参考書に見出され、定義され、文脈中に使用されている。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である任意の方法および材料を、本発明の実施または試行において使用することができるが、好ましい方法および材料が記載される。
【0029】
本明細書において使用されるように、以下の用語の各々は、このセクションにおいてそれに関連している意味を有する。
【0030】
冠詞「一つ(a)」および「一つ(an)」は、その冠詞の文法上の目的語の一つまたは複数(即ち少なくとも一つ)をさすために本明細書において使用される。例えば、「要素」とは、一つの要素または複数の要素を意味する。
【0031】
「約」とは、本明細書において使用されるように、量、時間的長さ等のような測定可能な値をさす時、指定された値からの±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味するが、それは、そのような変動が開示された方法を実施するのに適切であるためである。
【0032】
「異常な」という用語には、生物、組織、細胞、またはそれらの成分に関して使用される時、「正常な」(期待される)それぞれの特徴を示す生物、組織、細胞、またはそれらの成分と、少なくとも一つの観察可能または検出可能な特徴(例えば、齢、処理、時刻等)が異なる生物、組織、細胞、またはそれらの成分をさす。ある細胞型または組織型について正常であるかまたは期待される特徴が、異なる細胞型または組織型については異常であり得る。
【0033】
「抗体」という用語には、本明細書において使用されるように、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子が含まれる。抗体は、天然起源または組換え起源に由来する完全免疫グロブリンであってもよいし、完全免疫グロブリンの免疫反応性部分であってもよい。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ(intrabodies)」)、Fv、Fab、およびF(ab)2、ならびに単鎖抗体(scFv)、ラクダ科抗体のような重鎖抗体、およびヒト化抗体を含む多様な形態で存在し得る(Harlow et al.,1999,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY;Harlow et al.,1989,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York;Houston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Bird et al.,1988,Science 242:423-426)。
【0034】
「構成性」発現には、細胞の大部分のまたは全ての生理学的条件の下で、生存細胞において遺伝子産物が産生される状態が含まれる。
【0035】
遺伝子の「コード領域」には、遺伝子の転写によって産生されるmRNA分子のコード領域に対して、それぞれ、相同であるかまたは相補的である、遺伝子のコード鎖のヌクレオチド残基および遺伝子の非コード鎖のヌクレオチドが含まれる。mRNA分子の「コード領域」には、mRNA分子の翻訳の間にトランスファーRNA分子のアンチコドン領域と対合するか、または終止コドンをコードする、mRNA分子のヌクレオチド残基も含まれる。従って、コード領域には、mRNA分子によってコードされた成熟タンパク質に存在しないアミノ酸残基(例えば、タンパク質輸出シグナル配列内のアミノ酸残基)のためのコドンを構成するヌクレオチド残基が含まれ得る。
【0036】
「疾患」には、動物がホメオスタシスを維持することができず、疾患が寛解しない場合には、動物の健康が悪化し続ける動物の健康の状態が含まれる。
【0037】
対照的に、動物における「障害」には、動物がホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康の状態が、障害が存在しない場合より不都合である健康の状態が含まれる。未処置のままにされた場合、障害は、必ずしも、動物の健康の状態のさらなる減少を引き起こさない。
【0038】
疾患または障害は、疾患または障害の症状の重症度、そのような症状を患者が経験する頻度、または両方が低下する場合、「緩和される」。
【0039】
化合物の「有効量」または「治療的に有効な量」には、化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分な化合物の量が含まれる。送達媒体の「有効量」には、効果的に化合物に結合するかまたは化合物を送達するのに十分な量が含まれる。
【0040】
「コードする」には、定義されたヌクレオチドの配列(即ち、rRNA、tRNA、およびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれか、ならびにそれらに起因する生物学的特性を有する、生物学的過程における他の重合体および高分子の合成のための鋳型として役立つ、遺伝子、cDNA、またはmRNAのようなポリヌクレオチドの特異的なヌクレオチドの配列の固有の特性が含まれる。従って、例えば、遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞またはその他の生物学的系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はそのタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、一般的に配列表に提供されるコード鎖、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質またはその他の産物をコードすると呼ばれ得る。
【0041】
本明細書において使用されるように、「内在性」には、生物、細胞、組織、もしくは系に由来するか、または生物、細胞、組織、もしくは系の内部で産生された任意の材料が含まれる。
【0042】
本明細書において使用されるように、「外来性」という用語には、生物、細胞、組織、もしくは系の外部から導入されたか、または生物、細胞、組織、もしくは系の外部で産生された任意の材料が含まれる。
【0043】
「発現構築物」および「発現カセット」という用語には、本明細書において使用されるように、所望の核酸ヒトコード配列を含有しており、機能的に連結されたコード配列の発現のために必要であるかまたは望ましい1種または複数種の制御要素を含有している二本鎖組換えDNA分子が含まれる。
【0044】
本明細書において使用されるように、「断片」という用語には、核酸またはポリペプチドに適用されるように、より大きい核酸またはポリペプチドの部分配列が含まれる。核酸の「断片」は、少なくとも約15ヌクレオチド長;例えば、少なくとも約50ヌクレオチド~約100ヌクレオチド;少なくとも約100~約500ヌクレオチド、少なくとも約500~約1000ヌクレオチド、少なくとも約1000ヌクレオチド~約1500ヌクレオチド;または約1500ヌクレオチド~約2500ヌクレオチド;または約2500ヌクレオチド(および中間の任意の整数値)であり得る。ポリペプチドの「断片」は、少なくとも約15ヌクレオチド長;例えば、少なくとも約50アミノ酸~約100アミノ酸;少なくとも約100~約500アミノ酸、少なくとも約500~約1000アミノ酸、少なくとも約1000アミノ酸~約1500アミノ酸;または少なくとも約1500アミノ酸~約2500アミノ酸;または約2500アミノ酸(および中間の任意の整数値)であり得る。
【0045】
本明細書において使用されるように、「遺伝子」および「組換え遺伝子」という用語には、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸分子が含まれる。そのような天然の対立遺伝子の変動は、典型的には、所定の遺伝子のヌクレオチド配列の1~5%の変動をもたらし得る。代替対立遺伝子は、多数の異なる個体において関心対象の遺伝子を配列決定することによって同定され得る。これは、多様な個体において同一の遺伝子座を同定するためのハイブリダイゼーションプローブを使用することによって、容易に実施され得る。天然の対立遺伝子の変動の結果であり、機能的活性を改変しない、そのようなヌクレオチドの変動およびその結果としてのアミノ酸の多形または変動は、全て、本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0046】
「相同」には、本明細書において使用されるように、2種の重合体分子の間、例えば、2種の核酸分子、例えば、2種のDNA分子もしくは2種のRNA分子の間、または2種のポリペプチド分子の間のサブユニット配列類似性が含まれる。2種の分子の両方において、あるサブユニット位置が同一の単量体サブユニットによって占有されている時、例えば、2種のDNA分子の各々において、ある位置がアデニンによって占有されている場合、それらはその位置において相同である。2種の配列の間の相同性は、一致するかまたは相同である位置の数の一次関数であり、例えば、2種の化合物の配列内の位置の半分(例えば、10サブユニット長の重合体においては5個の位置)が相同である場合、それらの2種の配列は50%相同であり、位置の90%、例えば、10個のうちの9個が一致するかまたは相同である場合、それらの2種の配列は90%の相同性を共有している。例えば、DNA配列5'-ATTGCC-3'および5'-TATGGC-3'は、50%の相同性を共有している。
【0047】
「ヒト造血幹細胞・前駆細胞」および「ヒトHSPC」という用語には、本明細書において使用されるように、ヒトの自己再生性の多能性の造血幹細胞および造血前駆細胞が含まれる。
【0048】
「誘導可能な」発現には、細胞におけるシグナルの存在に応答して、生存細胞において遺伝子産物が産生される状態が含まれる。
【0049】
本明細書において使用されるように、「説明材料」には、本明細書に記された様々な疾患または障害の緩和を達成するための、キット内の本発明の化合物、組成物、ベクター、または送達系の有用性を通知するために使用され得る、出版物、記録、図表、またはその他の表現媒体が含まれる。任意でまたはあるいは、説明材料は、哺乳動物の細胞または組織における疾患または障害を緩和する一つまたは複数の方法を記載することができる。本発明のキットの説明材料は、例えば、本発明の同定された化合物、組成物、ベクター、もしくは送達系を含有している容器に添付されるか、または同定された化合物、組成物、ベクター、もしくは送達系を含有している容器と共に出荷され得る。あるいは、説明材料は、説明材料および化合物が受取人によって協力的に使用されることを意図して、容器とは別に出荷されてもよい。
【0050】
「核酸」という用語には、一本鎖、二本鎖、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドを含む任意の形態の、複数個のヌクレオチドを有するRNA分子またはDNA分子が含まれる。「ヌクレオチド配列」という用語には、核酸の一本鎖型のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序が含まれる。
【0051】
「機能的に連結された」という用語には、本明細書において使用されるように、第2のポリヌクレオチドと機能的な関係にあるポリヌクレオチド、例えば、2種のポリヌクレオチドのうちの少なくとも1種が特徴的な生理学的効果を他方に対して及ぼすことができるような様式で、核酸部分内に配置された2種のポリヌクレオチドを含む一本鎖または二本鎖の核酸部分が含まれる。例えば、遺伝子のコード領域に機能的に連結されたプロモーターは、コード領域の転写を促進することができる。好ましくは、所望のタンパク質をコードする核酸がプロモーター/制御配列をさらに含む時、プロモーター/制御配列は、細胞における所望のタンパク質を発現させるよう、所望のタンパク質をコードする配列の5'末端に位置付けられる。所望のタンパク質をコードする核酸およびそのプロモーター/制御配列は、合わせて、「トランスジーン」を構成する。
【0052】
「ポリヌクレオチド」という用語には、本明細書において使用されるように、ヌクレオチドの鎖が含まれる。さらに、核酸はヌクレオチドの重合体である。従って、核酸およびポリヌクレオチドは、本明細書において使用されるように、交換可能である。当業者は、核酸が単量体「ヌクレオチド」へ加水分解され得るポリヌクレオチドであるという一般知識を有している。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドへ加水分解され得る。本明細書において使用されるように、ポリヌクレオチドには、組換え手段、即ち、通常のクローニングテクノロジーおよびPCR等を使用した、組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング、ならびに合成手段を含むが、これらに限定されない、当技術分野において入手可能な任意の手段によって入手される全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書において使用されるように、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、交換可能に使用され、ペプチド結合によって共有結合的に連結されたアミノ酸残基から構成された化合物を含む。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2個のアミノ酸を含有していなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数は限定されない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互に接合された2個以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において使用されるように、その用語には、当技術分野において、例えば、ペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーとも一般的に呼ばれる短鎖、ならびに多くの型が存在する、より長い鎖の両方が含まれる。「ポリペプチド」には、とりわけ、例えば、生物学的活性を有する断片、実質的に相同のポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾型ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせが含まれる。「ペプチド」という用語は、典型的には、短いポリペプチドをさす。「タンパク質」という用語は、典型的には、大きいポリペプチドをさす。
【0054】
「子孫」という用語には、本明細書において使用されるように、後代または派生物が含まれ、親細胞に由来する分化したまたは未分化の後代細胞が含まれる。一つの使用法において、子孫という用語には、親と遺伝学的に同一である後代細胞が含まれる。別の使用において、子孫という用語には、親と遺伝学的にかつ表現型的に同一である後代細胞が含まれる。さらに別の使用法において、子孫という用語には、親細胞から分化した後代細胞が含まれる。
【0055】
「プロモーター」という用語には、本明細書において使用されるように、所望の分子をコードする核酸配列のような、転写される核酸配列に、機能的に連結されるDNA配列が含まれる。プロモーターは、一般に、転写される核酸配列の上流に位置付けられ、RNAポリメラーゼおよびその他の転写因子による特異的な結合のための部位を提供する。具体的な態様において、プロモーターは、一般に、所望の分子を産生するために転写される核酸配列の上流に位置し、RNAポリメラーゼおよびその他の転写因子による特異的な結合のための部位を提供する。
【0056】
範囲:この開示の全体にわたって、本発明の様々な局面が、範囲フォーマットで提示され得る。範囲フォーマットでの記載は、便宜および簡潔のためのものに過ぎず、本発明の範囲に対する柔軟性を欠く限定として解釈されるべきでないことが理解されるべきである。従って、範囲の記載は、全ての可能な部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等のような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは範囲の幅にかかわらず当てはまる。
【0057】
「組換えポリペプチド」には、組換えポリヌクレオチドの発現によって産生されたものが含まれる。
【0058】
「制御要素」という用語には、本明細書において使用されるように、核酸配列の発現のいくつかの局面を調節するヌクレオチド配列が含まれる。例示的な制御要素には、例示的に、核酸配列の複製、転写、転写後プロセシングに寄与する、エンハンサー、配列内リボソーム進入部位(IRES)、イントロン;複製開始点、ポリアデニル化シグナル(pA)、プロモーター、エンハンサー、転写終結配列、および上流制御ドメインが含まれる。当業者は、ルーチンの実験法のみを用いて、これらおよびその他の制御要素を選択し、発現構築物において使用することができる。発現構築物は、周知の方法論を使用して、組換えまたは合成によって生成され得る。
【0059】
「特異的に結合する」という用語には、抗体に関して本明細書において使用されるように、特異的な抗原を認識するが、試料中の他の分子は実質的に認識せず結合しない抗体が含まれる。例えば、ある種に由来する抗原に特異的に結合する抗体は、一つまたは複数の種に由来するその抗原にも結合することができる。しかし、そのような異種間交差反応性は、それ自体、抗体の特異的としての分類を改変しない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗体は、抗原の異なる対立遺伝子型にも結合し得る。しかしながら、そのような交差反応性は、それ自体、抗体の特異的としての分類を改変しない。
【0060】
いくつかの場合において、「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質、またはペプチドの、第2の化学種との相互作用に関して、相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存性であること;例えば、抗体がタンパク質全体ではなく特異的なタンパク質構造を認識しそれに結合することを意味するために使用され得る。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識された「A」および抗体を含有している反応において、エピトープAを含有している分子(または遊離の未標識のA)の存在は、抗体に結合する標識されたAの量を低下させると考えられる。
【0061】
「合成抗体」という用語には、本明細書において使用されるように、例えば、本明細書に記載されるようなバクテリオファージによって発現された抗体のような、組換えDNAテクノロジーを使用して生成された抗体が含まれる。その用語は、当技術分野において入手可能であり周知であるDNAまたはアミノ酸配列の合成テクノロジーを使用して入手された、抗体をコードし、抗体タンパク質を発現するDNA分子、または抗体を指定するアミノ酸配列の合成によって生成された抗体も意味するものと解釈されるべきである。
【0062】
「バリアント」という用語には、本明細書において使用されるように、それぞれ参照核酸配列または参照ペプチド配列とは配列が異なるが、参照分子の本質的な生物学的特性を保持している核酸配列またはペプチド配列が含まれる。核酸バリアントの配列の変化は、参照核酸によってコードされたペプチドのアミノ酸配列を改変しない場合もあるし、またはアミノ酸の置換、付加、欠失、融合、および短縮をもたらす場合もある。ペプチドバリアントの配列の変化は、典型的には、限定されているかまたは保存的であるため、参照ペプチドおよびバリアントの配列は、全体的によく類似しており、多くの領域において、同一である。バリアントペプチドおよび参照ペプチドは、1個または複数個の置換、付加、欠失の任意の組み合わせによってアミノ酸配列が異なっていてよい。核酸またはペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントのような天然に存在するものであってもよいし、または天然に存在することは公知でないバリアントであってもよい。核酸およびペプチドの天然に存在しないバリアントは、変異誘発技術または直接合成によって作製され得る。
【0063】
「遺伝学的に修飾された」という用語には、その生殖細胞が外来性のヒト核酸またはヒト核酸配列を含む動物が含まれる。非限定的な例として、遺伝学的に修飾された動物は、ヒト核酸配列を含む限り、トランスジェニック動物またはノックイン動物であり得る。
【0064】
本明細書において使用されるように、「トランスジェニック動物」という用語には、動物のゲノムに組み込まれた外来性ヒト核酸配列を含む動物が含まれる。
【0065】
本明細書において使用されるように、「ノックイン(knock-in/knock in/knockin)」には、非ヒト動物ゲノムの特定の染色体遺伝子座を標的化し、その標的化された遺伝子座へ関心対象の核酸を挿入する遺伝学的修飾が含まれる。いくつかの場合において、遺伝学的修飾は、非ヒト動物の染色体遺伝子座にコードされた遺伝情報を、異なるDNA配列に置換する。
【0066】
遺伝学的に修飾された非ヒト動物
本発明のいくつかの局面において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物が、提供される。ヒトIL-6(hIL6)とは、例えば、Genbankアクセッション番号NM_000600.3およびNP_000591.1に記載されている配列を有する184アミノ酸タンパク質を意味する。ヒトIL-6は、例えば、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、繊維芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、および骨髄腫細胞によって産生される分泌型タンパク質である。IL-6は、結合サブユニット(IL-6R)およびシグナル伝達サブユニット(gp130)を含む細胞表面ヘテロ二量体受容体複合体を通して作用する。gp130は、IL-11、IL-27、LIFの受容体のような他の受容体の共通の成分であるが、IL-6Rは、ヘパトサイト、単球、活性化B細胞、休止T細胞、および骨髄腫細胞株に主に制限されている。IL-6は、造血、免疫応答、および急性期反応において中心的な役割を果たし、B細胞の抗体分泌細胞(ASC)への最終成熟のため、特に、T依存性(TD)抗体応答における胚中心反応における形質芽細胞の増大のため、重要な因子であることが示されている。IL-6は、インビトロのT細胞増殖およびインビボの細胞傷害性T細胞(CTL)の生成のために必要とされ、それらをIL-2に対してより応答性にする。
【0067】
本発明のいくつかの局面において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ヒトM-CSF、ヒトIL-3、ヒトGM-CSF、ヒトTPO、およびヒトSIRPaより選択される少なくとも1種の付加的なヒトタンパク質、またはそれらの任意の組み合わせも発現する。換言すると、ヒトIL-6を発現する非ヒト動物は、hM-CSF、hIL-3、hGM-CSF、hTPO、およびhSIRPaより選択されるヒトタンパク質のうちの1種、2種、3種、4種、または5種全てを発現し得る。本発明の非ヒト動物を設計することができる、または本発明の非ヒト動物を生成することができる、hM-CSF、hIL-3、hGM-CSF、hTPO、および/またはhSIRPaを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、当技術分野において周知であり、例えば、ヒトM-CSFを発現するノックインマウスを開示している米国出願US 2013/0042330およびRathinam et al.2011,Blood 118:3119-28;ヒトIL-3およびヒトGM-CSFを発現するノックインマウスを開示している米国特許第8,541,646号およびWillinger et al.2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2390-2395;ヒトTPOを発現するノックインマウスを開示している米国特許第8,541,646号およびRongvaux et al.2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2378-83;ならびにヒトSirpaを発現するトランスジェニックマウスを開示しているPCT出願WO 2012/040207およびStrowig et al.2011,Proc Natl Acad Sci USA 108(32):13218-13223(これらの全開示が参照によって本明細書に組み入れられる)にさらに詳細に記述されている。
【0068】
様々な態様において、ヒトタンパク質をコードする核酸は、核酸のmRNAへの転写およびmRNAのヒトタンパク質への翻訳を可能にする様式で、1種または複数種の制御配列に機能的に連結される。「制御配列」という用語は、当技術分野において認識されており、プロモーター、エンハンサー、およびその他の発現調節要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むものとする。そのような制御配列は、当業者に公知であり、1990,Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Califに記載されている。一つの態様において、ヒト核酸は、ヒト核酸のネイティブ制御要素によって発現される。別の態様において、ヒト核酸は、非ヒト宿主動物の対応する核酸のネイティブ制御要素によって発現される。
【0069】
従って、いくつかの態様において、ヒトIL-6をコードする核酸は、非ヒト動物のIL-6プロモーターに機能的に連結される。他の態様において、ヒトIL-6をコードする核酸は、ヒトIL-6プロモーターに機能的に連結される。別の例として、いくつかの態様において、ヒトM-CSFをコードする核酸は、動物のM-CSFプロモーターに機能的に連結される。他の態様において、ヒトM-CSFをコードする核酸は、ヒトM-CSFプロモーターに機能的に連結される。第3の例として、いくつかの態様において、ヒトIL-3をコードする核酸は、動物のIL-3プロモーターに機能的に連結される。他の態様において、ヒトIL-3をコードする核酸は、ヒトIL-3プロモーターに機能的に連結される。第4の例として、いくつかの態様において、ヒトGM-CSFをコードする核酸は、動物のGM-CSFプロモーターに機能的に連結される。他の態様において、ヒトGM-CSFをコードする核酸は、ヒトGM-CSFプロモーターに機能的に連結される。第5の例として、いくつかの態様において、ヒトTPOをコードする核酸は、動物のTPOプロモーターに機能的に連結される。他の態様において、ヒトTPOをコードする核酸は、ヒトTPOプロモーターに機能的に連結される。
【0070】
本発明の遺伝学的に修飾された動物には、プロモーターから少なくとも1種のヒト核酸を発現する遺伝学的に修飾された動物が含まれることを、当業者は理解するであろう。本発明において有用な偏在性に発現されるプロモーターの非限定的な例には、DNA pol IIプロモーター、PGKプロモーター、ユビキチンプロモーター、アルブミンプロモーター、グロビンプロモーター、オボアルブミンプロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、レトロウイルスLTRおよびレンチウイルスLTR、βアクチンプロモーター、ROSA26プロモーター、熱ショックタンパク質70(Hsp70)プロモーター、伸長因子1α(EF1)プロモーターをコードするEF-1α遺伝子、真核生物開始因子4A(eIF-4A1)プロモーター、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)プロモーター、ならびにCMV(サイトメガロウイルス)プロモーターが含まれるが、これらに限定されない。本発明において有用なプロモーターおよびエンハンサーの発現系には、誘導可能な発現系および/または組織特異的な発現系も含まれる。本発明の組成物および方法の発現構築物において有用な組織特異的プロモーターの非限定的な例には、IL-6プロモーター、M-CSFプロモーター、IL-3プロモーター、GM-CSFプロモーター、SIRPAプロモーター、TPOプロモーター、IFN-βプロモーター、ウィスコットアルドリッチ症候群タンパク質(WASP)プロモーター、CD45(リンパ球共通抗原とも呼ばれる)プロモーター、Flt-1プロモーター、エンドグリン(CD105)プロモーター、およびICAM-2(細胞内接着分子2)プロモーターのような、造血系において発現される遺伝子のプロモーターが含まれる。本発明の組成物および方法において有用なこれらおよびその他のプロモーターは、Abboudら(2003,J.Histochem & Cytochem.51:941-949)、Schorppら(1996,NAR 24:1787-1788)、McBurneyら(1994,Devel.Dynamics,200:278-293)、およびMajumderら(1996,Blood 87:3203-3211)に例示されるように、当技術分野において公知である。プロモーターが含まれることに加えて、エンハンサー要素またはイントロン配列のような1種または複数種の付加的な制御要素が、本発明の様々な態様において含まれる。本発明の組成物および方法において有用なエンハンサーの例には、サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサー要素およびSV40エンハンサー要素が含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物および方法において有用なイントロン配列の例には、βグロビンイントロンまたはジェネリックイントロンが含まれるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの態様において有用な他の付加的な制御要素には、転写終結配列およびmRNAポリアデニル化(pA)配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
天然に存在するヒトの核酸配列およびアミノ酸配列に加えて、ヒト核酸およびヒトアミノ酸という用語には、ヒトの核酸配列およびアミノ酸配列のバリアントが同様に包含されることも、当業者は認識するであろう。本明細書において使用されるように、「バリアント」という用語は、対応する野生型ヒトと比較して各々1個または複数個の変異を含有している、ヒトの単離された天然に存在する遺伝子変異体またはヒトの組換えによって調製された変動のいずれかを定義する。例えば、そのような変異は、1個または複数個のアミノ酸の置換、付加、および/または欠失であり得る。「バリアント」という用語には、非ヒトオルソログも含まれる。いくつかの態様において、本発明のバリアントポリペプチドは、野生型ヒトポリペプチドとの少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する。
【0072】
2種の配列の間の同一性パーセントは、本明細書中の他の箇所に記載されるような技術を使用して決定される。部位特異的変異誘発およびPCRによって媒介される変異誘発のような標準的な分子生物学技術を使用して、変異を導入することができる。当業者は、ヒトタンパク質の機能的特性を改変することなく、1個または複数個のアミノ酸変異を導入し得ることを認識するであろう。
【0073】
ヒトタンパク質バリアントを作製するため、ヒトタンパク質において保存的アミノ酸置換を作製することができる。保存的アミノ酸置換は、当技術分野において認識されている、あるアミノ酸の、類似した特徴を有する別のアミノ酸への置換である。例えば、各アミノ酸は、以下の特徴のうちの一つまたは複数を有していると記載され得る:正の電荷を有する、負の電荷を有する、脂肪族、芳香族、極性、疎水性、および親水性。保存的置換は、指定された構造的または機能的な特徴を有するあるアミノ酸の、同一の特徴を有する別のアミノ酸への置換である。酸性アミノ酸には、アスパラギン酸、グルタミン酸が含まれ;塩基性アミノ酸には、ヒスチジン、リジン、アルギニンが含まれ;脂肪族アミノ酸には、イソロイシン、ロイシン、およびバリンが含まれ;芳香族アミノ酸には、フェニルアラニン、グリシン、チロシン、およびトリプトファンが含まれ;極性アミノ酸には、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、およびチロシンが含まれ;疎水性アミノ酸には、アラニン、システイン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、バリン、およびトリプトファンが含まれ;保存的置換には、各群内のアミノ酸同士の置換が含まれる。アミノ酸は、相対的なサイズに関しても記載され得、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グリシン、アスパラギン、プロリン、トレオニン、セリン、バリンは、全て、典型的には、小さいと見なされる。
【0074】
ヒトバリアントには、合成のアミノ酸類似体、アミノ酸誘導体、および/または非標準アミノ酸が含まれ得、例示的には、αアミノ酪酸、シトルリン、カナバニン、シアノアラニン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジヒドロキシ-フェニルアラニン、ジエンコル酸、ホモアルギニン、ヒドロキシプロリン、ノルロイシン、ノルバリン、3-ホスホセリン、ホモセリン、5-ヒドロキシトリプトファン、1-メチルヒスチジン、メチルヒスチジン、およびオルニチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0075】
ヒトバリアントは、野生型ヒトをコードする核酸との高度の同一性を有する核酸によってコードされる。ヒトバリアントをコードする核酸の相補鎖は、高ストリンジェンシー条件下で、野生型ヒトをコードする核酸と特異的にハイブリダイズする。ヒトバリアントをコードする核酸は、周知の方法論を使用して、単離されてもよいし、または組換えもしくは合成によって生成されてもよい。
【0076】
いくつかの態様において、ヒト核酸配列を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物核酸配列も発現する。例えば、より詳細に以下に記載されるように、ある種の態様において、例えば、動物が、対応する非ヒト動物タンパク質をコードする非ヒト動物遺伝子座以外の遺伝子座に、外来性のヒト核酸配列を含むよう、ヒト核酸配列を、非ヒト動物のゲノムへランダムに組み込む。他の態様において、ヒト核酸配列を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物核酸配列を発現しない。例えば、より詳細に以下に記載されるように、ある種の態様において、対応する非ヒト動物タンパク質をコードするゲノム材料に取って代わるよう、ヒトタンパク質をコードする核酸を動物へ導入し、その動物において、対応する非ヒト動物遺伝子を無効にし、対応する非ヒト動物タンパク質を欠損させる。換言すると、非ヒト動物は、ヒト遺伝子について「ノックイン」となる。
【0077】
従って、いくつかの態様において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物IL-6も発現する。他の態様において、ヒトIL-6を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物IL-6を発現しない。第2の例として、いくつかの態様において、ヒトM-CSFを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物M-CSFも発現する。他の態様において、ヒトM-CSFを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物M-CSFを発現しない。第3の例として、いくつかの態様において、ヒトIL-3を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物IL-3も発現する。他の態様において、ヒトIL-3を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物IL-3を発現しない。第4の例として、いくつかの態様において、ヒトGM-CSFを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物GM-CSFも発現する。他の態様において、ヒトGM-CSFを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物GM-CSFを発現しない。第5の例として、いくつかの態様において、ヒトTPOを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物TPOも発現する。他の態様において、ヒトTPOを発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、非ヒト動物TPOを発現しない。
【0078】
いくつかの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、免疫不全である。「免疫不全」とは、非ヒト動物において、そのネイティブ免疫系の一つまたは複数の局面が欠損していること、例えば、動物において、機能性の宿主免疫細胞のうちの一つまたは複数の型が欠損していること、例えば、非ヒトB細胞の数および/または機能、非ヒトT細胞の数および/または機能、非ヒトNK細胞の数および/または機能等が欠損していることを意味する。
【0079】
一例として、免疫不全動物は、重症複合免疫不全(SCID)を有していてよい。SCIDとは、T細胞の欠如およびB細胞機能の不足を特徴とする状態をさす。SCIDの例には、IL2RG遺伝子のγ鎖遺伝子変異または喪失およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)を特徴とするX連鎖SCID;ならびにJak3遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)、ADA遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(-)、IL-7Rα鎖変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)、CD3δまたはεの変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)、RAG1/RAG2変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)、アルテミス(Artemis)遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)、CD45遺伝子変異およびリンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)、ならびにPrkdcscid変異(Bosmaら(1989,Immunogenetics 29:54-56)およびリンパ球表現型T(-)B(-)、リンパ球減少症、および低グロブリン血症を特徴とする常染色体劣性SCIDが含まれる。そのため、いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された免疫不全非ヒト動物は、IL2受容体γ鎖欠損、ADA遺伝子変異、IL7R変異、CD3変異、RAG1および/またはRAG2の変異、アルテミス変異、CD45変異、ならびにPrkdc変異より選択される1種または複数種の欠損を有する。
【0080】
本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6コード配列を含むよう遺伝学的に修飾された任意の非ヒト哺乳動物、例えば、実験動物、飼育動物、家畜等、例えば、マウス、げっ歯類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、非ヒト霊長類等のような種;例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、および当技術分野において公知であるようなその他のトランスジェニック動物種、具体的には、哺乳動物種であり得る。ある種の態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、マウス、ラット、またはウサギである。
【0081】
一つの態様において、非ヒト動物は哺乳動物である。いくつかのそのような態様において、非ヒト動物は、例えば、ドビネズミ上科(Dipodoidea)またはネズミ上科(Muroidea)の小型哺乳動物である。一つの態様において、遺伝学的に修飾された動物は、げっ歯類である。一つの態様において、げっ歯類は、マウス、ラット、およびハムスターより選択される。一つの態様において、げっ歯類は、ネズミ上科より選択される。一つの態様において、遺伝学的に修飾された動物は、ヨルマウス科(Calomyscidae)(例えば、カンガルーハムスター(mouse-like hamsters))、キヌゲネズミ科(Cricetidae)(例えば、ハムスター、新世界ラット、新世界マウス(New World rats and mice)、ハタネズミ)、ネズミ科(Muridae)(典型的な(true)マウスおよびラット、スナネズミ、トゲマウス(spiny mice)、タテガミネズミ(crested rats))、アシナガマウス科(Nesomyidae)(キノボリマウス(climbing mice)、イワマウス(rock mice)、オネズミ(with-tailed rats)、マダガスカルラット、マダガスカルマウス(Malagasy rats and mice))、トゲヤマネ科(Platacanthomyidae)(例えば、トゲヤマネ(spiny dormice))、ならびにメクラネズミ科(Spalacidae)(例えば、デバネズミ(mole rates)、タケネズミ(bamboo rats)、およびモグラネズミ(zokors))より選択された科に由来する。具体的な態様において、遺伝学的に修飾されたげっ歯類は、典型的なマウスおよびラット(ネズミ科)、スナネズミ、トゲマウス、ならびにタテガミネズミより選択される。一つの態様において、遺伝学的に修飾されたマウスは、ネズミ科のメンバーに由来する。
【0082】
一つの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、ラットである。一つのそのような態様において、ラットは、ウィスター(Wistar)ラット、LEA系統、スプラーグドーリー(Sprague Dawley)系統、フィッシャー(Fischer)系統、F344、F6、およびダークアグーチ(Dark Agouti)より選択される。別の態様において、ラット系統は、ウィスター、LEA、スプラーグドーリー、フィッシャー、F344、F6、およびダークアグーチからなる群より選択される2種以上の系統の混合型である。
【0083】
別の態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、マウス、例えば、C57BL系統のマウス(例えば、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、C57BL/Ola等);129系統のマウス(例えば、129P1、129P2、129P3,129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2);BALB系統のマウス;例えば、BALB/c等である。例えば、Festing et al.(1999)Mammalian Genome 10:836を参照し、Auerbach et al(2000)Establishment and Chimera Analysis of 129/SvEv- and C57BL/6-Derived Mouse Embryonic Stem Cell Linesも参照すること。具体的な態様において、遺伝学的に修飾されたマウスは、前述の129系統および前述のC57BL/6系統の混合型である。別の具体的な態様において、マウスは、前述の129系統の混合型または前述のBL/6系統の混合型である。具体的な態様において、混合型の129系統は、129S6(129/SvEvTac)系統である。さらに別の態様において、マウスは、BALB系統および別の前述の系統の混合型である。
【0084】
従って、例えば、いくつかの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、(例えば、IL2受容体γ鎖欠損(即ち、γc
-/-)および/またはRAG欠損のため)B細胞の数および/もしくは機能ならびに/またはT細胞の数および/もしくは機能ならびに/またはNK細胞の数および/もしくは機能が欠損しており、ヒト核酸、例えば、その対応するプロモーター、例えば、M-CSFプロモーター、IL-3プロモーター、GM-CSFプロモーター、TPOプロモーター、またはSIRPaプロモーターにそれぞれ機能的に連結されたヒトIL-6、hM-CSF、hIL-3、hGM-CSF、hTPO、および/またはhSIRPaをコードする核酸を含むゲノムを有しており、かつコードされたヒトタンパク質を発現する免疫不全マウスである。
【0085】
ある種の具体的な態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、マウスIL-6遺伝子座においてIL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸、および非ヒト動物のゲノムへランダムに組み込まれたヒトSIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸を含む免疫不全マウス(即ち、マウスはマウスSIRPaを発現する)、即ち、免疫不全hIL-6,hSirpaマウス、例えば、Rag2-/-IL2rg-/-IL-6h/+hSIRPa+マウスまたはRag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hhSIRPa+マウスである。いくつかのそのような態様において、マウスは、M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸、IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸、GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸、およびTPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸をさらに含む。即ち、免疫不全のhIL-6,hSirpa,hM-CSF,hIL-3,hGM-CSF,hTPOマウス、例えば、Rag2-/-IL2rg-/-IL-6h/+M-CSFh/+IL-3h/+GM-CSFh/+TPOh/+hSIRPa+マウス、Rag2-/-IL2rg-/-IL-6h/+M-CSFh/hIL-3h/hGM-CSFh/hTPOh/hhSIRPa+マウス。
【0086】
ある種の具体的な態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含み、マウスIL-6が欠損しており、非ヒト動物のゲノムへランダムに組み込まれたヒトSIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸を含み(即ち、マウスはまだマウスSIRPaを発現する)、M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸を含み、マウスM-CSFが欠損しており、IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸を含み、マウスIL-3が欠損しており、GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸を含み、マウスGM-CSFが欠損しており、TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸を含み、マウスTPOが欠損している免疫不全マウス、即ち、Rag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hM-CSFh/hIL-3h/hGM-CSFh/hTPOh/h,hSIRPa+マウスである。
【0087】
遺伝学的に修飾された非ヒト動物を作製する方法
本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、例えば、当技術分野において公知であるかまたは本明細書に記載されるような、遺伝学的に修飾された動物の生成のための任意の便利な方法を使用して生成され得る。
【0088】
例えば、関心対象のヒトタンパク質、例えば、IL-6、hM-CSF、hIL-3、hGM-CSF、hTPO、またはhSIRPaをコードする核酸を、宿主細胞のゲノムへの挿入および非ヒト宿主細胞におけるヒトタンパク質の発現のために適当な形態で、組換えベクターへ組み入れることができる。様々な態様において、組換えベクターは、上記のように、核酸のmRNAへの転写およびmRNAのヒトタンパク質への翻訳を可能にする様式で、ヒトタンパク質をコードする核酸に機能的に連結された1種または複数種の制御配列を含む。ベクターの設計は、例えば、当技術分野において公知であるような、トランスフェクトされるべき宿主細胞の選択、発現されるべきヒトタンパク質の量、および/またはコード核酸がいかにして非ヒト宿主のゲノムへ組み込まれるかのような因子に依り得ることが理解されるであろう。
【0089】
次いで、ヒト遺伝子を発現する遺伝学的に修飾された動物を作製するため、ヒト核酸配列を動物細胞へ導入するために、様々な方法のいずれかを使用することができる。そのような技術は、当技術分野において周知であり、卵母細胞の前核微量注入、胚性幹細胞の形質転換、相同組換え、およびノックイン技術を含むが、これらに限定されない。使用され得る遺伝学的に修飾された動物を生成する方法には、SundbergおよびIchiki(2006,Genetically Engineered Mice Handbook,CRC Press)、Hofkerおよびvan Deursen(2002,Genetically modified Mouse Methods and Protocols,Humana Press)、Joyner(2000,Gene Targeting:A Practical Approach,Oxford University Press)、Turksen(2002,Embryonic stem cells:Methods and Protocols in Methods Mol Biol.,Humana Press)、Meyerら(2010,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 107:15022-15026)、ならびにGibson(2004,A Primer Of Genome Science 2nd ed.Sunderland,Massachusetts:Sinauer)、米国特許第6,586,251号、Rathinamら(2011,Blood 118:3119-28)、Willingerら(2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2390-2395)、Rongvauxら(2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2378-83)、ならびにValenzuelaら(2003,Nat Biot 21:652-659)に記載されたものが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
例えば、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、例えば、微量注入によって、ヒトタンパク質をコードする核酸を卵母細胞へ導入し、卵母細胞を雌養育動物において発達させることによって作製され得る。好ましい態様において、ヒト核酸配列を含む構築物は、受精卵母細胞へ注入される。過排卵雌から、交配の翌日に、受精卵母細胞を収集し、発現構築物を注入することができる。注入された卵母細胞を、一晩培養するか、または交尾後0.5日の偽妊娠雌の卵管へ直接移入する。過排卵、卵母細胞の採集、発現構築物注入、および胚移入のための方法は、当技術分野において公知であり、Manipulating the Mouse Embryo(2002,A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されている。DNA分析(例えば、PCR、サザンブロット、DNA配列決定等)またはタンパク質分析(例えば、ELISA、ウエスタンブロット等)によって、導入された核酸の存在について、派生動物を評価することができる。そのような方法は、典型的には、注射された核酸配列(この場合、関心対象のヒトタンパク質をコードする核酸を含む構築物)の卵母細胞のゲノムへの、従って、非ヒト動物への、ランダムな、即ち、対応するタンパク質を発現する宿主動物の遺伝子座以外の遺伝子座における組込みをもたらす。
【0091】
別の例として、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、およびリポフェクション等のような周知の方法を使用して、ヒトタンパク質をコードする核酸を含む構築物を、幹細胞(ES細胞またはiPS細胞)へトランスフェクトすることができる。DNA分析(例えば、PCR、サザンブロット、DNA配列決定等)またはタンパク質分析(例えば、ELISA、ウエスタンブロット等)によって、導入された核酸の存在について、細胞を評価することができる。次いで、発現構築物が組み入れられたと決定された細胞を、着床前胚へ微量注入することができる。本発明の組成物および方法のために有用な当技術分野において公知の方法の詳細な説明については、Nagyら(2002,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Nagyら(1990,Development 110:815-821)、米国特許第7,576,259号、米国特許第7,659,442号、米国特許第7,294,754号、およびKrausら(2010,Genesis 48:394-399)を参照すること。そのような方法は、典型的には、トランスフェクトされた核酸配列(この場合、関心対象のヒトタンパク質をコードする核酸を含む構築物)の幹細胞のゲノムへの、従って、ヒト動物への標的特異的な組込みにおいて使用される。しばしば、そのような方法は、宿主ゲノム材料、例えば、対応する宿主タンパク質をコードするゲノム材料の、関心対象のヒトタンパク質をコードする核酸への置換をもたらす。
【0092】
遺伝学的に修飾された樹立動物は、遺伝学的修飾を保持する付加的な動物を育種するために使用され得る。本開示のヒトタンパク質をコードする核酸を保持する遺伝学的に修飾された動物は、さらに、他の遺伝学的修飾を保持する他の遺伝学的に修飾された動物と交雑されてもよいし、またはノックアウト動物、例えば、その遺伝子のうちの1種もしくは複数種を発現しないノックアウト動物と交雑されてもよい。
【0093】
いくつかの態様において、遺伝学的に修飾された免疫不全動物は、プロモーターに機能的に連結されたヒトポリペプチドをコードする核酸を含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する。様々な態様において、遺伝学的に修飾された免疫不全非ヒト動物は、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルに機能的に連結されており、さらにイントロンを含有している、少なくとも1種のヒトポリペプチドをコードする核酸を含む発現カセットを含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する。
【0094】
上述のように、いくつかの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物は、免疫不全動物である。免疫不全であり、1種または複数種のヒトサイトカイン、例えば、IL-6、M-CSF、IL-3、GM-CSF、TPO、および/またはSIRPaを含む、遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、同様に、例えば、当技術分野において公知であるかもしくは本明細書に記載されるような、遺伝学的に修飾された動物の生成のための任意の便利な方法、例えば、発現構築物の着床前胚へのDNA注入を使用して、または、例えば、本明細書中の前記および実施例においてさらに詳細に記載されるような、例えば、ホモ接合性である時に免疫不全をもたらすであろう変異SCID遺伝子対立遺伝子を含む胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞のような幹細胞の使用によって、生成され得る。次いで、例えば、本明細書に記載され当技術分野において公知である方法を使用して、修飾された卵母細胞またはES細胞を有するマウスを生成し、所望の遺伝学的修飾を含む免疫不全マウスを作製するために交配する。別の例として、遺伝学的に修飾された非ヒト動物を、非免疫不全背景において生成し、ホモ接合性である時に免疫不全をもたらすであろう変異SCID遺伝子対立遺伝子を含む動物と交配し、その子孫を交配して、少なくとも1種の関心対象のヒトタンパク質を発現する免疫不全動物を作製することができる。
【0095】
本発明の様々な態様は、実質的に全ての細胞にヒト核酸を含む遺伝学的に修飾された動物、および全てではなく一部の細胞にヒト核酸を含む遺伝学的に修飾された動物を提供する。いくつかの場合、例えば、標的特異的な組換えにおいては、ヒト核酸の1コピーが、遺伝学的に修飾された動物のゲノムへ組み込まれるであろう。他の場合、例えば、ランダム組込みにおいては、互いに隣接しているかまたは離れているヒト核酸の複数コピーが、遺伝学的に修飾された動物のゲノムへ組み込まれ得る。
【0096】
従って、いくつかの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物プロモーターに機能的に連結されたヒトポリペプチドをコードする核酸を含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する免疫不全動物であり得る。換言すると、本発明の遺伝学的に修飾された免疫不全非ヒト動物は、対応する非ヒトプロモーターおよびポリアデニル化シグナルに機能的に連結された、少なくとも1種のヒトポリペプチドをコードする核酸を含む発現カセットを含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する。
【0097】
利用可能性
本発明の様々な態様において提供される遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、造血細胞の増殖および分化のモデルとしての使用、ヒト造血系のインビボ評価、癌細胞のインビボ評価、免疫応答のインビボ研究、ワクチンおよび予防接種計画のインビボ評価、癌細胞の増殖または生存をモジュレートする薬剤の効果の試験における使用、癌の処置のインビボ評価、抗体のような免疫メディエーターのインビボの作製および収集、ならびに造血細胞および免疫細胞の機能に影響を与える薬剤の効果の試験における使用のような様々な用途を有している。
【0098】
この目標に向けて、いくつかの場合において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物(「宿主」)は、少なくとも1種のヒト造血細胞を生着させられる。いくつかの態様において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物(「宿主」)へヒト造血細胞を生着させる工程を含む、ヒト造血系の研究のための動物モデルを作製する方法が、提供される。ある種の態様において、本明細書に開示された遺伝学的に修飾された非ヒト動物へヒト造血細胞を生着させる方法が、提供される。
【0099】
いくつかの具体的な場合において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、少なくとも1種のヒト多発性骨髄腫細胞を生着させられる。いくつかのそのような態様において、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物へヒト多発性骨髄腫細胞を生着させる工程を含む、癌研究のための動物モデルを作製する方法が、提供される。いくつかのそのような態様において、本発明は、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物へヒト多発性骨髄腫細胞を生着させる方法である。本発明の組成物および方法において有用な生着させられるヒト多発性骨髄腫細胞には、任意のヒト多発性骨髄腫細胞が含まれる。
【0100】
本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物の生着において有用なヒト造血細胞には、任意の便利なヒト造血細胞が含まれる。本発明において有用なヒト造血細胞の非限定的な例には、HSC、HSPC、LIC(leukemia initiating cells)、および任意の系統の高分化造血細胞を含む、任意の分化段階にある任意の系統の造血細胞が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの場合において、ヒト造血細胞は、初代細胞である。ここで、「初代細胞」、「初代細胞株」、および「初代培養物」とは、急性に単離された細胞、または対象から入手され、培養物の限られた回数の継代、即ち、分割の間、インビトロで増殖させられた細胞培養物を含むよう、本明細書において交換可能に使用される。例えば、初代培養物は、0回、1回、2回、4回、5回、10回、または15回、ただしクライシス期を超えない回数、継代されていてもよい培養物である。他の態様において、ヒト造血細胞は、細胞株に由来する、即ち、細胞は、不死化された培養物に由来し、例えば、約15回より多く継代されたものである。いくつかの場合において、生着させられる造血細胞は、健常細胞を含む。他の場合において、生着させられる造血細胞は、疾患を有する造血細胞、例えば、癌性造血細胞、例えば、癌性エフェクターB細胞、即ち、多発性骨髄腫細胞を含む。いくつかの場合において、生着させられる造血細胞は、健常細胞および疾患を有する細胞の両方、例えば、健常B細胞および癌性エフェクターB細胞、健常T細胞および癌性エフェクターB細胞等を含む。
【0101】
造血細胞、即ち、初代細胞、それから生成された細胞株等は、骨髄、末梢血、肝臓、胎児肝臓、または臍帯血を含むが、これらに限定されない、ヒトドナーの任意の組織または位置に由来し得る。そのような造血細胞は、健常ドナー、および白血病を含む癌のような疾患を有するドナーを含む、任意のヒトドナーから単離され得る。本発明の遺伝学的に修飾された動物における造血細胞の生着は、生着させられた動物におけるヒト造血細胞の存在によって特徴付けられる。具体的な態様において、本発明の遺伝学的に修飾された動物における造血細胞の生着は、適切な対照動物と比較した、造血細胞が提供された生着させられた動物における分化ヒト造血細胞の存在によって特徴付けられる。
【0102】
ヒト造血細胞の単離、ヒト造血細胞の宿主動物への投与、およびその生着を査定する方法は、当技術分野において周知である。宿主動物への投与のための、正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含む造血細胞は、以下に限定されないが、臍帯血、骨髄、末梢血、サイトカインまたは化学療法によって動員された末梢血、および胎児肝臓のような、造血細胞を含有している任意の組織から入手され得る。ヒト造血細胞を単離し、ヒト造血細胞を宿主動物へ投与し、宿主動物におけるヒト造血細胞の生着を査定する例示的な方法は、本明細書、ならびにPearsonら(2008,Curr.Protoc.Immunol.81:1-15)、Itoら(2002,Blood 100:3175-3182)、Traggiaiら(2004,Science 304:104-107)、Ishikawaら(2005,Blood 106:1565-1573)、Shultzら(2005,J.Immunol.174:6477-6489)、およびHolyoakeら(1999,Exp Hematol.27:1418-27)に記載されている。
【0103】
本発明のいくつかの態様において、特定の造血細胞集団(例えば、HSC、HSPC、LIC、CD34+、CD34-、系統特異的マーカー、癌細胞マーカー等)が濃縮された細胞の集団を入手するため、正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含むヒト造血細胞を最初の起源材料から単離する。単離された造血細胞は、純粋な集団であってもよいし、またはそうでなくてもよい。一つの態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞においては、特定のマーカーを有する細胞が枯渇している。別の態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞は、マーカーについての選択によって濃縮されている。いくつかの態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞は、選択された細胞が細胞の約1~100%を構成する細胞集団であるが、ある種の態様においては、選択された細胞が全細胞の1%未満を構成する細胞集団も使用することができる。一つの態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞においては、CD34のような特定のマーカーを有する細胞が枯渇している。別の態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞は、CD34のようなマーカーについての選択によって濃縮されている。いくつかの態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞は、CD34+細胞が細胞の約1~100%を構成する細胞集団であるが、ある種の態様においては、CD34+細胞が全細胞の1%未満を構成する細胞集団も使用することができる。ある種の態様において、本発明の組成物および方法において有用な造血細胞は、CD34+細胞が全細胞の約1~3%を占めるT細胞枯渇細胞集団、CD34+細胞が全細胞の約50%を占める系統枯渇細胞集団、またはCD34+細胞が全細胞の約90%を占めるCD34+陽性の選択された細胞集団である。
【0104】
少なくとも1種のヒト遺伝子を発現する遺伝学的に修飾された非ヒト動物におけるヒト造血系および/または免疫系の生成に関して、投与される造血細胞の数は、限定的に考慮されない。従って、非限定的な例として、投与される造血細胞の数は、約1×103~約1×107個の範囲であり得るが、様々な態様において、より多数またはより少数が使用されてもよい。別の非限定的な例として、レシピエントがマウスである時、投与されるHSPCの数は、約3×103~約1×106 CD34+細胞の範囲であり得るが、様々な態様において、より多数またはより少数が使用されてもよい。レシピエントの他の種について、投与される必要のある細胞の数は、ルーチンの実験法のみを使用して決定され得る。
【0105】
例えば、一つの態様において、遺伝学的に修飾され生着させられたマウスが形成されるよう、遺伝学的に修飾され処理されたマウスに、ヒト造血細胞またはヒト造血幹細胞(HPSC)を生着させる。一つの態様において、造血細胞は、ヒト臍帯血細胞およびヒト胎児肝細胞より選択される。一つの態様において、生着は、約1~2×105個のヒトCD34+細胞による。
【0106】
いくつかの場合において、造血細胞(例えば、正常または腫瘍性)の投与の前に、前処理、例えば、一般にγ線もしくはX線を使用する高周波電磁放射線のレシピエント動物への致死線量未満の照射、またはブスルファンもしくはナイトロジェンマスタードのような放射線様薬物による処理のいずれかが行われ得る。前処理は、宿主造血細胞の数を低下させ、ヒト造血細胞の生着のための適切な微小環境要因を作製し、かつ/またはヒト造血細胞の生着のための微小環境ニッチを作製すると考えられる。前処理のための標準的な方法は、本明細書およびJ.Hayakawa et al,2009,Stem Cells,27(1):175-182に記載されているように、当技術分野において公知である。一つの態様において、遺伝学的に修飾されたマウスは、マウスに存在する可能性のある内在性の造血細胞を排除するために処理される。一つの態様において、処理は、遺伝学的に修飾されたマウスに照射する工程を含む。具体的な態様において、遺伝学的に修飾された新生仔マウスに致死線量未満を照射する。具体的な態様において、新生仔は、4時間間隔で、200cGyを2回照射される。
【0107】
造血細胞(例えば、正常または腫瘍性)は、以下に限定されないが、静脈内、肝臓内、腹腔内、大腿骨内、および/または脛骨内のような、様々な経路を介した投与によって、新生動物または成体動物へ投与され得る。免疫不全動物へヒト造血細胞を提供する工程を含み、造血細胞の投与前に動物に照射する工程を含むかまたは含まない、正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含むヒト造血細胞の免疫不全動物への生着のための方法が、本発明の態様によって提供される。本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物へ正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含むヒト造血細胞を提供する工程を含み、造血細胞の投与前にブスルファンまたはナイトロジェンマスタードのような放射線様薬物を動物へ投与する工程を含むかまたは含まない、ヒト造血細胞の免疫不全動物への生着のための方法が、本発明の態様によって提供される。
【0108】
正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含むヒト造血細胞の、本発明の遺伝学的に修飾された動物への生着は、以下に限定されないが、造血細胞の投与後の1回または複数回の時点での、ヒト造血細胞が投与された動物における細胞のフローサイトメトリー分析のような、様々な方法のいずれかによって査定され得る。
【0109】
一般に、遺伝学的に修飾された非ヒト動物に存在する正常細胞および腫瘍性細胞のいずれかまたはそれらの組み合わせを含むヒト造血細胞の数(または百分率)が、投与されたヒト造血細胞の寿命を超えた時点で、非ヒト動物へ投与されたヒト細胞の数(または百分率)より大きい時、生着が成功したと見なすことができる。投与された造血細胞の子孫の検出は、例えば、レシピエント動物におけるヒトDNAの検出によって、または、例えば、ヒトCD45、ヒトCD34、もしくはsIL-6Rのようなヒト細胞マーカーの検出によるような、完全ヒト造血細胞の検出によって達成され得る。最初のレシピエントから第二のレシピエントへのヒト造血細胞の連続移入、および第二のレシピエントにおけるヒト造血細胞の生着は、第一のレシピエントにおける生着のさらなるオプションの試験である。生着は、ヒト造血細胞の投与後1~4ヶ月目の血液、脾臓、または骨髄における0.05%以上のヒトCD45+細胞として、フローサイトメトリーによって検出され得る。例えば、Watanabe(1997,Bone Marrow Transplantation 19:1175-1181)に記載されたように、幹細胞を動員するため、サイトカイン(例えば、GM-CSF)を使用することができる。
【0110】
一つの態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾され生着させられた動物は、CD34+細胞、造血幹細胞、造血細胞、骨髄系前駆細胞、骨髄系細胞、樹状細胞、単球、顆粒球、好中球、マスト細胞、胸腺細胞、T細胞、B細胞、血小板、およびそれらの組み合わせより選択されるヒト細胞を生じる。一つの態様において、ヒト細胞は、生着後4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。
【0111】
一つの態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾され生着させられた動物は、ヒト造血幹細胞・前駆細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、ヒトT細胞、ヒトB細胞、およびヒト血小板を含むヒト血液リンパ系を生じる。一つの態様において、ヒト血液リンパ系は、生着後4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。
【0112】
一つの態様において、免疫不全の、遺伝学的に修飾され生着させられた動物は、癌性ヒト造血細胞、例えば、腫瘍性形質(エフェクターB)細胞を含むヒト血液リンパ系を生じる。一つの態様において、癌性ヒト造血細胞は、生着後4週目、6週目、8週目、12週目、または12週目以降に存在する。ある種の態様において、癌性ヒト造血細胞は、生着後2週目、4週目、6週目、8週目、12週目、または12週目以降に存在する。
【0113】
ヒト造血細胞の生着後、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物は、当技術分野において多くの用途を有する。例えば、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、末梢血中のヒト造血細胞の機能を研究するために有用である。実施例2において証明されるように、免疫不全であり、IL-6マウス遺伝子座においてIL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含む遺伝学的に修飾されたマウス(例えば、Rag2-/-IL2rgnullIL-6h/hマウス、Rag2-/-IL2rgnullIL-6h/hhSIRPa+マウス、およびRag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hM-CSFh/hIL-3h/hGM-CSFh/hTPOh/h,hSIRPa+)は、ヒトIL-6を発現しない免疫不全マウス、即ち、Rag2-/-IL2rgnullマウスより良好に、ヒト造血細胞、例えば、CD34+前駆細胞の末梢血および脾臓への生着を支持する。さらに、これらの遺伝学的に修飾されたマウスは、ヒトIL-6を発現しない免疫不全マウスより効率的に、ヒト造血細胞の分化を促進する。例えば、これらの遺伝学的に修飾されたマウスは、CD5+B細胞およびCD27+B細胞の分化をより良好に促進する。CD5は、B-1細胞と呼ばれる、IgM分泌B細胞のサブセットに見出されるタンパク質であり、B細胞受容体からの活性化シグナルを和らげるよう機能するため、B-1細胞は、(細菌タンパク質のような)極めて強力な刺激によってのみ活性化され得、正常組織タンパク質によっては活性化され得ない。CD27は、記憶B細胞のマーカーである。さらに、これらの遺伝学的に修飾されたマウスは、ヒトIL-6を発現しない免疫不全マウスより高機能性のヒト造血細胞の発達を支持する。例えば、B細胞は、ヒトIL-6を発現しない免疫不全マウスより急速に、これらの遺伝学的に修飾されたマウスにおいて、IgG分泌形質細胞へ分化する。そのため、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、造血細胞の発達および機能、より具体的には、Bリンパ球の分化および機能の研究において有用である。
【0114】
別の例として、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、造血器癌を研究するために有用である。下記実施例1において証明されるように、免疫不全であり、マウスIL-6遺伝子座においてIL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含む遺伝学的に修飾されたマウス、例えば、Rag2-/-IL2rgnullIL-6h/hマウス、Rag2-/-IL2rgnullIL-6h/hhSIRPa+マウス、およびRag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hM-CSFh/hIL-3h/hGM-CSFh/hTPOh/h,hSIRPa+には、初代ヒト多発性骨髄腫細胞およびヒト多発性骨髄腫細胞株の細胞が生着するが、ヒトIL-6を発現しない免疫不全マウス、即ち、Rag2-/-IL2rgnullマウスには生着しない。遺伝学的に修飾された宿主によるヒトSIRPaの発現は、観察される生着の速度および程度をさらに改善する。さらに、本明細書に開示された、これらの免疫不全の、遺伝学的に修飾されたマウスの骨への直接の多発性骨髄腫細胞の生着は、例えば、μCTスキャンによって定量化されるように、ヒト多発性骨髄腫に典型的に関連した骨病理、例えば、骨破壊および骨吸収を再現する。
【0115】
そのため、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、造血器癌を処置するであろうものを同定するための候補薬剤のスクリーニングにおいて有用である。「処置」、「処置する」等の用語は、一般に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果の入手を含むよう、本明細書において使用される。効果は、疾患もしくはその症状の完全なもしくは部分的な防止という点で予防的であってもよいし、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害効果の部分的なもしくは完全な治癒という点で治療的であってもよい。「処置」には、本明細書において使用されるように、哺乳動物における疾患の任意の処置が含まれ、以下のことが含まれる:(a)疾患の素因を有し得るが、まだそれを有していると診断されていない対象において疾患の発生を防止すること;(b)疾患を阻害すること、即ち、その発症を阻止すること;または(c)疾患を軽減すること、即ち、疾患の退行を引き起こすこと。造血器癌のための治療薬として重要な候補薬剤には、癌の発症の前、途中、または後に投与され得るものが含まれる。処置によって患者の望ましくない臨床症状が安定するかまたは低下する、進行中の疾患の処置は、特に重要である。「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、診断、処置、または治療が望まれる任意の哺乳動物対象、具体的には、ヒトを含む。
【0116】
別の例として、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、ヒト病原体、即ち、ヒトを感染させる病原体;ヒト病原体による感染に対するヒト免疫系の応答;ならびにヒト病原体による感染の防御および/または処置における薬剤の有効性を研究するために有用である。病原体は、ウイルス、真菌、細菌等であり得る。ウイルス性病原体の非限定的な例には、ヒトまたはブタまたはトリのインフルエンザウイルスが含まれる。細菌性病原体の非限定的な例には、ミコバクテリウム、例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis/M.tuberculosis)、および腸内細菌、例えば、チフス菌(Salmonella typhi/S.typhi)が含まれる。チフス菌によってマウスを感染させ、感染を査定する方法の例は、例えば、公開された米国出願第2011/0200982号に見出され得、その開示は、参照によって本明細書に組み入れられる。結核菌によってマウスを感染させ、感染を査定する方法の例は、例えば、公開された米国出願第2011/0200982号に見出され得、その開示は、参照によって本明細書に組み入れられる。野生型マウスを感染させないか、または野生型マウスを感染させるが、感染マウスが病原体に応答してヒトが開始する免疫応答をモデル化しない、ヒト病原体の他の例は、当業者に周知であろう。病原体感染のそのようなマウスモデルは、研究において、例えば、ヒト感染の進行をよりよく理解するため有用である。感染のそのようなマウスモデルは、薬物発見においても、例えば、感染を防御するかまたは処置する候補薬剤を同定するため有用である。
【0117】
本開示の生着させられた遺伝学的に修飾されたマウスは、例えば、新規治療薬を同定し、かつ/または免疫系の発達および機能の分子基礎についてのよりよい理解を開発するため、例えば、健常状態または疾患状態における、例えば、癌細胞としての、病原体感染中の、例えば、造血細胞の発達および/または活性、例えば、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球等の活性をモジュレートする(即ち、促進するかまたは抑制する)ことができる薬剤を同定するため;造血細胞、例えば、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球等、およびそれらの前駆細胞に対して毒性である薬剤を同定するため;造血細胞、例えば、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球等、およびそれらの前駆細胞に対する毒性薬剤の毒性効果を防止するか、和らげる、もしくは逆転させる薬剤を同定するため、インビボでの所望の活性について候補薬剤をスクリーニングするために有用な系も提供する。さらに別の例として、本開示の生着させられた遺伝学的に修飾された動物は、個体の薬剤に対する応答性を予測するための、例えば、薬剤、例えば、治療剤に対する個体の免疫系の応答性をスクリーニングするためのインビボのプラットフォームを提供することによって、疾患治療に対する個体の応答性を予測するために有用な系を提供する。
【0118】
生物学的活性を有する薬剤についてのスクリーニングアッセイにおいて、本開示のヒト造血細胞を生着させられた遺伝学的に修飾されたマウス、例えば、生着させられたRag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hhSIRPa+マウス、生着させられたRag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hM-CSFh/hIL-3h/hGM-CSFh/hTPOh/h,hSIRPa+マウス等を、関心対象の候補薬剤と接触させ、1種または複数種のアウトプットパラメータをモニタリングすることによって候補薬剤の効果を査定する。これらのアウトプットパラメータは、当技術分野において周知の方法によって、細胞の生存率、例えば、造血細胞の総数もしくは特定の造血細胞型の細胞の数、または細胞のアポトーシス状態、例えば、DNA断片化の量、細胞小疱形成の量、細胞表面上のホスファチジルセリンの量等を反映し得る。あるいはまたはさらに、アウトプットパラメータは、細胞の分化能、例えば、分化細胞および分化細胞型の割合を反映し得る。あるいはまたはさらに、アウトプットパラメータは、細胞の機能、例えば、細胞によって産生されたサイトカインおよびケモカイン、細胞によって産生された抗体(例えば、量または型)、チャレンジの部位へホーミングし血管外遊出する細胞の能力、インビトロまたはインビボで他の細胞の活性をモジュレートする、即ち、促進するかまたは抑制する細胞の能力等を反映してもよい。他のアウトプットパラメータは、疾患を有する造血細胞によって誘導された傷害、例えば、多発性骨髄腫細胞によって誘導された骨破壊および骨吸収の程度を反映し得る。さらに他のパラメータは、動物における感染、例えば、病原体感染に対する薬剤の効果、例えば、実施されている研究に関連する、マウスにおける病原体の力価、マウスにおける肉芽腫の存在等を反映し得る。
【0119】
パラメータは、ハイスループット系において望ましいように、細胞の定量可能な成分、特に、正確に測定することが可能な成分である。パラメータは、細胞表面決定因子、受容体、タンパク質もしくはその立体構造的修飾もしくは翻訳後修飾、脂質、炭水化物、有機もしくは無機の分子、核酸、例えば、mRNA、DNA等を含む細胞成分もしくは細胞産物、またはそのような細胞成分に由来する一部、またはそれらの組み合わせであり得る。大部分のパラメータは定量的リードアウトを提供すると考えられるが、いくつかの場合においては、半定量的または定性的な結果が許容されると考えられる。リードアウトには、単一の決定値が含まれてもよいし、または平均値、中央値、もしくは分散等が含まれてもよい。特徴的に、多数の同一アッセイから、各パラメータについて、一連のパラメータリードアウト値が入手されると考えられる。可変性があることが予想され、単一の値を提供するために使用された一般的な統計法と共に標準的な統計法を使用して、テストパラメータのセットの各々についての一連の値が入手されると考えられる。
【0120】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、多数の化学的クラス、主として有機分子を包含する公知および未知の化合物が含まれ、有機金属分子、無機分子、遺伝子配列、ワクチン、抗生物質または抗菌特性を有すると推測されるその他の薬剤、ペプチド、ポリペプチド、抗体、ヒトにおいて使用するために認可された医薬品である薬剤等が含まれ得る。本発明の重要な局面は、例えば、毒性試験等を含む候補薬物の評価である。
【0121】
候補薬剤には、構造的相互作用、具体的には、水素結合のために必要な官能基、典型的には、少なくとも1個のアミン基、カルボニル基、水酸基、またはカルボキシル基を含み、多くの場合、少なくとも2個の官能性化学基を含む有機分子が含まれる。候補薬剤は、しばしば、上記の官能基のうちの1種または複数種によって置換された環式炭素構造もしくは複素環式構造および/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造的類似体、または組み合わせを含む生体分子の中にも見出される。薬理活性を有する薬物、遺伝学的活性を有する分子等が含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモン、またはホルモンアンタゴニスト等が含まれる。本発明のために適当な薬学的薬剤の例は、"The Pharmacological Basis of Therapeutics,"Goodman and Gilman,McGraw-Hill,New York,N.Y.,(1996),Ninth editionに記載されたものである。毒素ならびに生物兵器剤および化学兵器剤も含まれる。例えば、Somani,S.M.(Ed.),"Chemical Warfare Agents,"Academic Press,New York,1992)を参照のこと。
【0122】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、核酸、例えば、siRNA、shRNA、アンチセンス分子、もしくはmiRNAをコードする核酸、またはポリペプチドをコードする核酸も含まれる。標的細胞へ核酸を移入するために有用な多くのベクターが入手可能である。ベクターは、エピソームとして、例えば、プラスミド、ミニサークルDNA、サイトメガロウイルスもしくはアデノウイルス等のようなウイルス由来ベクターとして維持されてもよいし、または相同組換えもしくはランダム組込みを通して、標的細胞ゲノムへ組み込まれてもよい(例えば、MMLV、HIV-1、ALV等のようなレトロウイルス由来ベクター)。ベクターは、本発明の細胞へ直接提供され得る。換言すると、ベクターが細胞によって取り込まれるよう、多能性細胞が、関心対象の核酸を含むベクターと接触させられる。
【0123】
電気穿孔、塩化カルシウムトランスフェクション、およびリポフェクションのような、細胞、例えば、培養細胞またはマウス体内の細胞を、核酸ベクターと接触させる方法は、当技術分野において周知である。あるいは、関心対象の核酸はウイルスを介して細胞へ提供され得る。換言すると、細胞は、関心対象の核酸を含むウイルス粒子と接触させられる。レトロウイルス、例えば、レンチウイルスは、本発明の方法にとって特に適当である。一般に使用されるレトロウイルスベクターは、「欠陥を有する」、即ち、生産的な感染のために必要とされるウイルスタンパク質を産生することができない。その代わり、ベクターの複製は、パッケージング細胞株における増殖を必要とする。関心対象の核酸を含むウイルス粒子を生成するため、その核酸を含むレトロウイルス核酸は、パッケージング細胞株によってウイルスカプシドへパッケージングされる。異なるパッケージング細胞株は、カプシドへ組み入れられる異なるエンベロープタンパク質を提供し、このエンベロープタンパク質が、細胞のためのウイルス粒子の特異性を決定する。エンベロープタンパク質には、同種指向性、両指向性、および異種指向性という少なくとも三つの型がある。同種指向性エンベロープタンパク質によってパッケージングされるレトロウイルス、例えば、MMLVは、大部分のマウスおよびラットの細胞型を感染させることができ、BOSC23のような同種指向性パッケージング細胞株を使用することによって生成される(Pear et al.(1993)P.N.A.S.90:8392-8396)。両指向性エンベロープタンパク質を保持するレトロウイルス、例えば、4070A(Danos et al(前記))は、ヒト、イヌ、およびマウスを含む大部分の哺乳動物細胞型を感染させることができ、PA12(Miller et al.(1985)Mol.Cell.Biol.5:431-437);PA317(Miller et al.(1986)Mol.Cell.Biol.6:2895-2902);GRIP(Danos et al.(1988)PNAS 85:6460-6464)のような両指向性パッケージング細胞株を使用することによって生成される。異種指向性エンベロープタンパク質、例えば、AKR envによってパッケージングされるレトロウイルスは、マウス細胞以外の大部分の哺乳動物細胞型を感染させることができる。関心対象の細胞、いくつかの場合においては、生着させられた細胞、いくつかの場合においては、宿主、即ち、遺伝学的に修飾された動物の細胞が、パッケージングされたウイルス粒子によって標的とされることを確実にするため、適切なパッケージング細胞株が使用され得る。
【0124】
関心対象の核酸を本発明の細胞へ提供するために使用されるベクターは、典型的には、関心対象の核酸の発現、即ち、転写を活性化させるために適当なプロモーターを含むと考えられる。これには、遍在性に作用するプロモーター、例えば、CMV-βアクチンプロモーター、または特定の細胞集団において活性であるか、もしくはテトラサイクリンのような薬物の存在に応答するプロモーターのような誘導可能プロモーターが含まれ得る。転写活性化とは、転写が、標的細胞における基底レベルより少なくとも約10倍、少なくとも約100倍、より一般的には、少なくとも約1000倍増加するであろうことを意味する。さらに、本発明の細胞へ再プログラム因子を提供するために使用されるベクターは、例えば、Cre/Loxのようなリコンビナーゼ系を使用して、後に除去されなければならないか、または、例えば、ヘルペスウイルスTK、bcl-xs等のような選択毒性を可能にする遺伝子を含めることによってそれらを発現する細胞が破壊されなければならない遺伝子を含み得る。
【0125】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、ポリペプチドも含まれる。そのようなポリペプチドは、任意で、産物の可溶性を増加させるポリペプチドドメインと融合されてもよい。ドメインは、明確なプロテアーゼ切断部位、例えば、TEVプロテアーゼによって切断されるTEV配列を通して、ポリペプチドに連結され得る。リンカーは、1個または複数個のフレキシブルな配列、例えば、1~10個のグリシン残基を含んでいてもよい。いくつかの態様において、融合タンパク質の切断は、産物の可溶性を維持する緩衝液において、例えば、0.5~2M尿素の存在下、可溶性を増加させるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドの存在下等で実施される。関心対象のドメインには、エンドソーム溶解ドメイン、例えば、インフルエンザHAドメイン;および産生を補助するその他のポリペプチド、例えば、IF2ドメイン、GSTドメイン、GRPEドメイン等が含まれる。さらにまたはあるいは、そのようなポリペプチドは、改善された安定性のために製剤化され得る。例えば、ペプチドはPEG化され得、その場合、ポリエチレンオキシ基は、血流中での増強された寿命を提供する。ポリペプチドは、追加の機能性を提供するため、例えば、インビボの安定性を増加させるため、別のポリペプチドに融合されてもよい。一般に、そのような融合パートナーは、例えば、融合物として存在する時にポリペプチドのインビボ血漿中半減期を延長することができる安定血漿タンパク質であり、具体的には、そのような安定血漿タンパク質は、免疫グロブリン定常ドメインである。同一または異なるポリペプチド鎖が、組み立てられた多鎖ポリペプチドを形成するよう通常ジスルフィド結合および/または非共有結合している多量体形態、例えば、免疫グロブリンまたはリポタンパク質として安定血漿タンパク質が通常見出されるほとんどのケースにおいて、ポリペプチドを含有している本明細書中の融合物も、安定血漿タンパク質前駆体と実質的に同一の構造を有する多量体として作製され、利用されるであろう。これらの多量体は、それらが含むポリペプチド薬剤に関して均質であろう。または、それらは複数種のポリペプチド薬剤を含有していてもよい。
【0126】
候補ポリペプチド薬剤は、真核細胞から産生されてもよいし、または原核細胞によって産生されてもよい。それを、アンフォールド、例えば、熱変性、DTT還元等によってさらに加工してもよく、当技術分野において公知の方法を使用して、さらにリフォールドしてもよい。一次配列を改変しない関心対象の修飾には、ポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アシル化、アセチル化、カルボキシル化、アミド化等が含まれる。グリコシル化の修飾、例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル酵素のようなグリコシル化に影響を与える酵素へポリペプチドを曝すことによって、例えば、合成およびプロセシングの間、またはさらなるプロセシング工程においてポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによって作製されたものも含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有する配列も、包含される。ポリペプチドは、タンパク質分解に対する抵抗性を改善するか、または溶解特性を最適化するか、または治療剤としてより適当なものにするため、通常の分子生物学的技術および合成化学を使用して修飾されていてもよい。そのようなポリペプチドの類似体には、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸または天然には存在しない合成アミノ酸を含有しているものが含まれる。D-アミノ酸は、アミノ酸残基のいくつかまたは全部の代わりに用いられ得る。
【0127】
候補ポリペプチド薬剤は、当技術分野において公知であるような従来の方法を使用して、インビトロ合成によって調製され得る。様々な市販の合成装置、例えば、Applied Biosystems,Inc.、Beckman等による自動合成装置が利用可能である。合成装置を使用することによって、天然に存在するアミノ酸を、非天然アミノ酸に置換することができる。特定の配列および調製の様式は、利便性、経済性、必要とされる純度等によって決定されると考えられる。あるいは、候補ポリペプチド薬剤は、従来の組換え合成の方法に従って単離され精製されてもよい。発現宿主の溶解物を調製し、HPLC、排除クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィ、またはその他の精製技術を使用して、溶解物を精製することができる。大部分の場合、使用される組成物は、産物の調製およびその精製の方法に関連した汚染物質に関係して、少なくとも20重量%、より一般的には、少なくとも約75重量%、好ましくは、少なくとも約95重量%、治療目的の場合には、一般的に少なくとも約99.5重量%の所望の生成物を含むと考えられる。一般的には、百分率は全タンパク質に基づくと考えられる。
【0128】
いくつかのケースにおいて、スクリーニングされる候補ポリペプチド薬剤は、抗体である。「抗体」または「抗体部分」という用語には、エピトープに適合し、それを認識する特別な形を有する分子構造を含有しており、1個または複数個の非共有結合性の結合相互作用が、分子構造とエピトープとの間の複合体を安定化する、任意のポリペプチド鎖が含まれるものとする。所定の構造とその特異的なエピトープとの特異的または選択的な適合は、「鍵と鍵穴」適合と時に呼ばれる。原型抗体分子は免疫グロブリンであり、全ての起源、例えば、ヒト、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、他の哺乳動物、ニワトリ、その他のトリ等に由来する全ての型の免疫グロブリン、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD等が、「抗体」であると見なされる。本発明において利用される抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであり得る。抗体は、典型的には、細胞が培養された培地中に提供される。抗体の産生およびスクリーニングは、より詳細に以下に記述される。
【0129】
候補薬剤は、合成または天然の化合物のライブラリーを含む多様な起源から入手され得る。例えば、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む多数の手段が、生体分子を含む多様な有機化合物のランダム合成および特異的合成のために利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが、入手可能であるか、または容易に作製される。さらに、天然のまたは合成的に作製されたライブラリーおよび化合物が、従来の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を通して容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリーを作製するために使用され得る。既知の薬理学的薬剤を、構造的類似体を作製するため、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような特異的なまたはランダムな化学的修飾に供することができる。
【0130】
候補薬剤は、時に、薬剤を欠く試料と共に、少なくとも1個、一般的には、複数個の試料へ薬剤を投与することによって、生物学的活性についてスクリーニングされる。薬剤に応答したパラメータの変化を測定し、参照培養物、例えば、薬剤の存在下および非存在下での培養物、他の薬剤によって入手された培養物等との比較によって結果を評価する。毒性薬剤の効果を防止するか、和らげるか、または逆転させるであろう候補薬剤を同定するためにスクリーニングが実施される場合において、スクリーニングは、典型的には、毒性薬剤の存在下で実施され、その場合、毒性薬剤は、決定されるべき結果にとって最も適切な時点で添加される。例えば、候補薬剤の防御/防止能力が試験されるケースにおいて、候補薬剤は、毒性薬剤の前に、候補薬剤と同時に、または候補薬剤による処理の後に添加され得る。別の例として、毒性薬剤の効果を逆転させる候補薬剤の能力が試験されるケースにおいて、候補薬剤は、毒性薬剤による処理の後に添加され得る。上述のように、いくつかの場合において、「試料」とは、細胞が生着している遺伝学的に修飾された非ヒト動物であり、例えば、候補薬剤は、ヒト造血細胞が生着している、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含む免疫不全動物、例えば、マウスへ提供される。いくつかの場合において、試料は、生着させられるべきヒト造血細胞であり、即ち、候補薬剤は、免疫不全の、遺伝学的に修飾された動物への生着より前に細胞へ提供される。
【0131】
生着させられた遺伝学的に修飾された動物へ候補薬剤が直接投与される場合、薬剤は、ペプチド、低分子、および核酸のマウスへの投与のための当技術分野において周知の多数の方法のいずれかによって投与され得る。例えば、薬剤は、経口的に、粘膜に、局所的に、皮内に、または注射、例えば、腹腔内注射、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、もしくは頭蓋内注射等によって投与され得る。薬剤は、緩衝液で投与されてもよいし、または、例えば、適切な薬学的に許容される媒体との組み合わせによって、多様な製剤のいずれかへ組み入れられてもよい。「薬学的に許容される媒体」とは、ヒトのような哺乳動物において使用するため、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、またはU.S.Pharmacopeiaもしくはその他の一般に認識されている薬局方にリストされている媒体であり得る。「媒体」という用語は、哺乳動物への投与のために本発明の化合物を製剤化するための希釈剤、佐剤、賦形剤、または担体をさす。そのような薬学的媒体は、脂質、例えば、リポソーム、例えば、リポソームデンドリマー;水、および落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等のような石油、動物、植物、または合成起源のものを含む油、生理食塩水のような液体;アラビアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイダルシリカ、尿素等であり得る。さらに、助剤、安定剤、濃化剤、滑沢剤、および着色剤が使用されてもよい。薬学的組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐薬、注射、吸入剤、ゲル、マイクロスフェア、およびエアロゾルのような、固体、半固体、液体、または気体の形態で調製物へ製剤化され得る。薬剤は、投与後に全身性であってもよいし、または局部投与、壁内投与の使用、もしくは植え込みの部位に活性用量を保持するよう作用するインプラントの使用によって局所性であってもよい。活性薬剤は、即時活性のために製剤化されてもよいし、または徐放のために製剤化されてもよい。いくつかの状態、具体的には、中枢神経系状態のためには、脳血液関門(BBB)を通過する薬剤を製剤化することが必要であり得る。脳血液関門(BBB)を通した薬物送達のための1種の戦略は、マンニトールもしくはロイコトリエンのような浸透圧性の手段によって、またはブラジキニンのような血管作用物質の使用によって生化学的に、BBBを破壊することを要する。組成物が血管内注射によって投与される時、BBB破壊剤は、薬剤と同時投与され得る。BBBを通り抜ける他の戦略は、カベオリン1によって媒介される経細胞輸送、グルコースおよびアミノ酸の担体のような担体によって媒介されるトランスポーター、インスリンまたはトランスフェリンのための受容体によって媒介される経細胞輸送、ならびにp-糖タンパク質のような能動的な排出トランスポーターを含む、内在性の輸送系の使用を要し得る。血管の内皮壁を横切る輸送を容易にするため、能動輸送部分を、本発明において使用するための治療用化合物にコンジュゲートしてもよい。あるいは、BBB後への薬剤の薬物送達は、局所送達、例えば、くも膜下腔内送達、例えば、オマヤ(Ommaya)レザバーを通したもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国特許第5,222,982号および第5385582号を参照のこと);例えば、硝子体内または頭蓋内への、例えば、注射器による、ボーラス注射によるもの;例えば、カニューレ挿入による、例えば、対流による、連続注入によるもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国出願第20070254842号を参照のこと);または薬剤が可逆的に付着した装置の植え込みによるもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国出願第20080081064号および第20090196903号を参照のこと)であり得る。
【0132】
生着前に細胞へ薬剤を提供する場合、便利には、培養細胞の培地へ、溶液または易溶性の形態で薬剤を添加することができる。断続的または連続的な流れとしてフロースルー系を通して薬剤を添加してもよいし、あるいは単回でまたは漸増的に化合物のボーラスを静止溶液へ添加してもよい。フロースルー系においては、2種の液が使用され、一方は生理学的に中性の溶液であり、他方は試験化合物が添加された同一の溶液である。第1の液を、細胞上に通し、続いて第2の液を通す。単一溶液法においては、試験化合物のボーラスを、細胞の周囲の培地の体積へ添加する。培養培地の成分の全体濃度は、ボーラスの添加によって、またはフロースルー法における2種の溶液の間に有意に変化するべきでない。
【0133】
様々な濃度に対する差異的な応答を入手するため、異なる薬剤濃度を用いた複数のアッセイを平行に実行することができる。当技術分野において公知であるように、薬剤の有効濃度の決定は、典型的には、1:10または他の対数スケールの希釈に起因する一連の濃度を使用する。必要であれば、第2の希釈系列によって、濃度をさらに精密にすることができる。典型的には、これらの濃度のうちの一つは、陰性対照として役立ち、即ち、ゼロ濃度、または薬剤の検出のレベル未満、または表現型の検出可能な変化を与えない薬剤の濃度もしくはそれ未満である。
【0134】
生着させられた遺伝学的に修飾された動物における候補薬剤に対する細胞の応答の分析は、薬剤による処理の後の任意の時点で実施され得る。例えば、細胞は、候補薬剤との接触から1日後、2日後、または3日後、時には、4日後、5日後、または6日後、時には、8日後、9日後、または10日後、時には、14日後、時には、21日後、時には、28日後、時には、1ヶ月以上後、例えば、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後、またはそれ以降に分析され得る。いくつかの態様において、分析は、多数の時点での分析を含む。分析のための時点の選択は、当業者によって容易に理解されるように、実施される分析の型に基づくと考えられる。
【0135】
分析は、細胞生存率、細胞増殖、細胞同一性、細胞形態学、および細胞機能を測定するための、本明細書に記載されたまたは当技術分野において公知のパラメータのいずれかの測定を含み得、具体的には、免疫細胞の細胞に関連するものであり得る。例えば、造血細胞の総数または特定の造血細胞型の細胞の数を決定するため、フローサイトメトリーを使用することができる。組織化学または免疫組織化学、例えば、DNA断片化を測定するための末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)または細胞表面上のホスファチジルセリンに結合するアネキシン(Annexin)Vを検出するための免疫組織化学を、細胞のアポトーシス状態を決定するために実施することができる。例えば、薬剤の存在下での造血細胞の分化能を決定するため、分化細胞および分化細胞型の割合を査定するためにも、フローサイトメトリーを利用することができる。例えば、生着させられた細胞の機能を査定するため、癌性形質細胞の生存等を査定するため、生着させられた遺伝学的に修飾されたマウスにおいて発現されたサイトカイン、ケモカイン、免疫グロブリン等のレベルを決定するためには、ELISA、ウエスタン、およびノーザンブロットを実施することができる。疾患を有する造血細胞によって誘導された傷害、例えば、多発性骨髄腫細胞によって誘導された骨破壊および骨吸収の程度を決定するためには、μCTスキャンを実施することができる。免疫細胞の機能を試験するインビボアッセイ、ならびに糖尿病、自己免疫疾患、移植片対宿主病、AMD等のような関心対象の特定の疾患または障害に関連するアッセイも、実施することができる。例えば、Current Protocols in Immunology(Richard Coico,ed.John Wiley & Sons,Inc.2012)およびImmunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press 1997)(これらの開示は参照によって本明細書に組み入れられる)を参照すること。
【0136】
従って、例えば、ヒト多発性骨髄腫細胞が生着しているヒト化IL-6マウス、例えば、Rag2-/-IL2rg-/-IL-6h/hマウスへ薬剤を投与する工程;薬剤の存在下で経時的に多発性骨髄腫細胞の生存率および/または増殖能力のパラメータを測定する工程;ならびにその測定を、薬剤に曝されていない生着させられたヒト化IL-6マウスからの測定と比較する工程を含む、多発性骨髄腫に対する薬剤の効果を決定する方法が提供される。単回投与または選択された期間での2回以上の薬剤の投与の後、少なくとも20%、30%、40%、またはそれ以上、いくつかの場合において、50%、60%、70%、またはそれ以上、例えば、80%、90%、または100%、即ち、検出不可能な量にまで、マウスの血液または組織における多発性骨髄腫細胞の増殖を低下させかつ/または多発性骨髄腫細胞の数を低下させる場合、その薬剤は、抗癌性であると決定される。具体的な態様において、薬物または薬物の組み合わせの投与は、多発性骨髄腫細胞の生着から少なくとも1週後、10日後、2週後、3週後、または4週後である。
【0137】
本発明のマウスについての使用の他の例は、本明細書中の他の箇所に提供される。本開示に記載された遺伝学的に修飾され生着させられたマウスの付加的な適用は、本開示を参照することによって、当業者に明白になるであろう。
【0138】
ヒト抗体作製
本明細書中の他の箇所に記載されるように、生着させられた免疫不全動物からのヒトモノクローナル抗体の作製のために有用な組成物および方法も、提供される。様々な態様において、方法は、免疫系を移植された非ヒト動物(生着させられた動物)を生成するため、免疫不全動物をヒト造血細胞と接触させる工程、その後、生着させられた動物を抗原と接触させる工程、抗原に対するヒト抗体を産生するヒト細胞を、生着させられた動物から収集する工程、および抗体産生細胞から抗体を単離する工程を含む。
【0139】
様々な態様において、本発明は、形質転換法(例えば、EBV)または細胞融合法(例えば、ハイブリドーマ)によって抗体産生細胞(例えば、ヒトB細胞)を確立する工程を含む方法を含む。好ましくは、抗体産生細胞は、少なくとも約50回の継代の間、適当な細胞培養条件の下で維持され得る。
【0140】
様々な態様において、生着させられた動物は、非ヒト哺乳動物である。いくつかの態様において、生着させられた動物は、マウス、ラット、またはウサギである。
【0141】
本発明の様々な態様において、ヒト造血細胞は、ヒト胎児肝臓、骨髄、臍帯血、末梢血、または脾臓の試料から入手されたCD34+細胞である。
【0142】
様々な態様において、抗原は、ペプチド、ポリペプチド、MHC/ペプチド複合体、DNA、生ウイルス、死ウイルスもしくはその一部、生細菌、死細菌もしくはその一部、または癌細胞もしくはその一部のうちの少なくとも1種である。
【0143】
いくつかの態様において、生着させられた動物は、動物がヒト造血細胞と接触させられてから1~5ヶ月後に抗原と接触させられる。いくつかの態様において、生着させられた動物は、1回のみ、抗原と接触させられ、他の態様において、生着させられた動物は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、またはそれ以上、抗原と接触させられる。
【0144】
一つの態様において、生着させられた動物から収集されるヒト抗体産生細胞は、B細胞である。様々な態様において、動物から収集されるヒト抗体産生細胞は、CD19、CD20、CD22、およびCD27のうちの少なくとも1種をその表面上に発現する。動物から、免疫系の適当な細胞成分を除去することによって、本発明のヒト抗体産生細胞を回収することができる。様々な態様において、脾臓、リンパ節、末梢血、骨髄、またはそれらの一部のうちの少なくとも一つを除去することによって、生着させられた動物から抗体産生細胞が除去される。
【0145】
様々な態様において、本発明の方法は、適当な融合パートナーを使用した従来のハイブリドーマテクノロジーを利用する。様々な態様において、融合パートナーは、以下のものからなる群より選択される少なくとも1種の細胞である:MOPC21、P3X63AG8、SP2/0、NS-1、P3.X63AG8.653、F0、S194/5.XXO.BU-1、FOX-NY、SP2/0-Ag14、MEG-01、HEL、UT-7、M07e、MEG-A2、およびDAMI、ならびにこれらの細胞に由来する細胞株。
【0146】
本発明の生着させられた動物から抗体を単離する方法は、当技術分野において周知である。抗体産生細胞、細胞産生抗体が培養されている培地、および/または生着させられた動物の腹水からの抗体の単離は、当技術分野において公知の方法に従って、例えば、クロマトグラフィおよび透析によって実施され得る。他の様々な態様において、抗体は、イムノアフィニティ精製、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインA/G精製、イオン交換クロマトグラフィ、およびゲルろ過のうちの1種または複数種を使用して単離され得る。そのような方法は、Nau(1989,Optimization of monoclonal antibody purification,In:Techniques in Protein Chemistry,Hugli,T.(ed.),Academic Press,New York)およびColiganら(2005,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,Inc.)に記載されている。
【0147】
抗原は、当技術分野において公知の適当な手段によって、生着させられた動物へ投与され得る。様々な態様において、抗原は、脾臓内、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、および皮下のうちの少なくとも1種によって、生着させられた動物へ投与され得る。いくつかの態様において、抗原は、単独で投与され、他の態様において、抗原は、適切な免疫調整剤またはアジュバントと組み合わせて投与される。本発明の方法において有用なアジュバントの例には、完全フロイントアジュバント(CFA)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、およびミョウバン(Al3(OH)4)が含まれるが、これらに限定されない。
【0148】
試薬およびキット
上記の方法のうちの一つまたは複数を実施するための試薬およびそのキットも、提供される。本発明の試薬およびそのキットは、大いに変動し得る。いくつかの態様において、試薬またはキットは、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物の生成および/または維持において使用するための1種または複数種の試薬を含むと考えられる。例えば、キットは、IL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸およびSIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸を含む免疫不全マウス;またはIL-6プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-6をコードする核酸を含み、M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFをコードする核酸;IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3をコードする核酸;GM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFをコードする核酸;TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOをコードする核酸;および/もしくはSIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaをコードする核酸をさらに含むマウスを含み得る。キットは、そのようなマウスを育種するための試薬、例えば、ヒトIL-6遺伝子、ヒトM-CSF遺伝子、ヒトIL-3遺伝子、ヒトGM-CSF遺伝子、ヒトSIRPa遺伝子、および/またはヒトTPO遺伝子についての遺伝子型決定プライマー、PCR緩衝液、MgCl2溶液等を含み得る。
【0149】
いくつかの態様において、試薬またはキットは、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物への生着において使用するための1種または複数種の試薬、例えば、本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物へ移植するためのヒト造血細胞、ヒト造血前駆細胞の濃縮集団、造血細胞株、腫瘍性造血細胞株等、または本発明の遺伝学的に修飾された非ヒト動物への移植のための造血細胞の集団、ヒト由来の造血細胞の濃縮集団、造血細胞株、腫瘍性造血細胞株等を調製するための試薬を含むと考えられる。
【0150】
いくつかの態様において、試薬またはキットは、例えば、候補薬剤の存在下/非存在下で、造血細胞の生存率および/もしくは機能を決定するための試薬、例えば、異なる型の造血細胞によって発現されるマーカーに特異的な1種もしくは複数種の抗体、または特定のサイトカイン、ケモカインを検出するための試薬等を含むと考えられる。他の試薬には、培養培地、培養物補助剤、基質組成物等が含まれ得る。
【0151】
上記の成分に加えて、本発明のキットは、本発明の方法を実施するための説明書をさらに含むと考えられる。これらの説明書は、多様な形態で本発明のキット内に存在し得、そのうちの一つまたは複数がキット内に存在し得る。これらの説明書が存在し得る一つの形態は、適当な媒体または基質の上に印刷された情報、例えば、情報が印刷された紙として存在するもの、キットのパッケージング内に存在するもの、パッケージインサート内に存在するもの等である。さらに別の手段は、情報が記録されたコンピュータによって読取り可能な媒体、例えば、ディスク、CD等であろう。さらに別の存在し得る手段は、隔たったサイトの情報にアクセスするため、インターネットを介して使用され得るウェブサイトアドレスである。任意の便利な手段が、キット内に存在し得る。
【実施例】
【0152】
実験例
以下の実験例を参照することによって、さらに詳細に、本発明を説明する。これらの例は、例示を目的として提供されるに過ぎず、特記しない限り、限定的なものではない。従って、本発明は、決して、以下の例に限定されると解釈されるべきではなく、本明細書中に提供された教示の結果として明白になるであろう全ての任意の変動を包含するものと解釈されるべきである。
【0153】
さらなる説明なしに、当業者は、上記の説明および以下の例示的な例を使用して、本発明の化合物を作製し、利用し、特許請求の範囲に記載された方法を実施することができると考えられる。従って、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を具体的に指摘するものであって、決して、開示の残りを限定するものと解釈されてはならない。
【0154】
実施例1:サイトカイン遺伝子の遺伝学的ヒト化はマウスへのヒト多発性骨髄腫細胞の生着を可能にする
本明細書に記載されたデータは、本明細書に記載された、遺伝学的に修飾された非ヒト動物が、多発性骨髄腫の新規インビボ動物モデルを表すことを証明する。
【0155】
材料および方法
マウス マウスIL-6遺伝子座の6.8kbを、ヒトIL-6遺伝子の3'非翻訳領域を含むエクソン1~5を含有している4.8kbのヒトIL-6遺伝子配列に置換することによって、ヒト化IL-6ノックインマウスを生成した。
【0156】
簡単に説明すると、単一の標的化工程でマウスをヒトIL-6遺伝子に置換するための標的指向構築物を、VELOCIGENE(登録商標)遺伝子工学テクノロジー(Valenzuela et al.(2003)High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis,Nature Biotech,21(6):652-659を参照のこと)を使用して構築した。マウスおよびヒトのIL-6 DNAを、それぞれ、細菌人工染色体(BAC)RPCI-23クローン368C3およびBAC CTDクローン2369M23から入手した。簡単に説明すると、3'下流配列の16ヌクレオチドおよびloxPが導入されたneo選択カセットと共に、エクソン1内のATGからエクソン5へ及ぶ4.8kbのヒトIL-6配列(ゲノム座標:NCBIh37.1:ch7:22,766,882~22,771,637)に隣接するマウスIL-6の上流および下流の相同性アームを含有している、ギャップ修復クローニングによって生成された、NotIによって直鎖化された標的指向構築物を、Rag2+/-IL2rgY/-ES細胞へ電気穿孔した。RAG2遺伝子およびIL2rg遺伝子のノックアウトが作製された親ES細胞株は、市販のV17 ES細胞(BALB/cxl29ヘテロ接合体)であった。薬物選択カセットを除去するため、一過性Cre発現ベクターを用いて、正確に標的化されたES細胞を電気穿孔することができる。
【0157】
欠失のために標的化されたマウスIl6遺伝子内の配列に特異的な2種のTaqMan(商標)定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって、ネイティブ未修飾Il6遺伝子のコピー数を決定する、ネイティブ対立遺伝子喪失(loss-of-native-allele/LONA)アッセイ(Valenzuela et al.2003)により、正確に標的化されたES細胞クローンを同定した。qPCRアッセイは、(5'から3'へ書かれた)以下のプライマー-プローブセットを含んでいた:
上流順方向プライマー:
上流逆方向プライマー:
上流プローブ:
下流順方向プライマー:
下流逆方向プライマー:
下流プローブ:
。ここで、FAMとは、5-カルボキシフルオレセイン蛍光プローブをさし、BHQとは、ブラックホール消光剤型の蛍光消光剤をさす(Biosearch Technologies)。標的化ベクターを取り込んだES細胞クローンから精製され、ゲノムに組み入れられたDNAを、384穴PCRプレート(MicroAmp(商標)Optical 384-Well Reaction Plate,Life Technologies)において、製造業者の提案に従って、TaqMan(商標)Gene Expression Master Mix(Life Technologies)と組み合わせ、PCRの途中で蛍光データを収集し、閾値サイクル(Ct)(蓄積された蛍光が予め設定された閾値に到達する時のPCRサイクル数)を決定するApplied Biosystems Prism 7900HTにおいてサイクリングした。上流および下流のIl6特異的なqPCRならびに非標的参照遺伝子のための2種のqPCRを、各DNA試料について実行した。各Il6特異的qPCRと各参照遺伝子qPCRとの間のCt値の差(ΔCt)を計算し、次いで、アッセイされた各ΔCtと全ての試料についての中央ΔCtとの間の差を、各試料についてのΔΔCt値を入手するために計算した。各試料中のIL-6遺伝子のコピー数を、以下の式から計算した:コピー数=2・2
-ΔΔCt。ネイティブコピーのうちの1個を喪失した、正確に標的化されたクローンは、1に等しいIL-6遺伝子コピー数を有すると考えられる。ヒト化された対立遺伝子において、ヒトIL-6遺伝子配列が、欠失したマウスIl-6遺伝子配列に取って代わったことの確認を、(5'から3'へ書かれた)以下のプライマー-プローブセットを含むTaqMan(商標)qPCRアッセイによって確認した:
ヒト順方向プライマー:
ヒト逆方向プライマー:
およびヒトプローブ:
。
【0158】
マウス遺伝子座とhIL-6遺伝子を含有している配列との上流ジャンクションは、
内にあるよう設計されている。ここで、ヒト遺伝子の最初のヌクレオチドの前の最後のマウスヌクレオチドは、CCGCT内の「T」であり、ヒト配列の最初のヌクレオチドは、ATGAA内の最初の「A」である。hIL-6遺伝子を含有している配列とマウス遺伝子座との下流ジャンクションは、
内にあるよう設計されている。ここで、ヒト配列の最後のヌクレオチドはTCACG内の最後の「G」であり、マウス配列の最初のヌクレオチドは、CTCCC内の最初の「C」であり;下流ジャンクション領域は、loxPが導入されたユビキチンプロモーターによって作動するneoカセットの除去のため、3'末にloxP部位も含有していた(その最初が示される)。neoカセットとマウスIL-6遺伝子座とのジャンクションは、
内にあるよう設計されている。ここで、AGCTCの最後の「C」が、neoカセットの最後のヌクレオチドであり;カセットの後のマウスゲノムの最初のヌクレオチドは、CTAAG内の最初の「C」である。
【0159】
hIL-6を含み、Rag2およびIl2rgを欠くマウスを生成するため、正確に標的化されたES細胞を同定し、当技術分野において公知の技術を使用して、着床前胚へ導入する。
【0160】
次いで、ヒト化されたIL-6 KIマウスを、Rag2およびIl2rgを欠き、hIL-6を発現するマウスを生成するため、戻し交配し、ヒトSIRPaトランスジーンを発現するマウス(Strowig et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(32):13218-13223)と交配して、Rag2およびIl2rgが欠損しておりhIL-6およびhSIRPaの両方を発現するマウス(Rag2-/-Il2rgnullIl6h/hhSIRPa+)を生成した。さらに、Rag2-/-,IL-2rgY/-,hIL-6 KIマウスを、ヒトTPO(Rongvaux et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2378-2383)、ヒトIL-3およびヒトGM-CSF(Willinger et al,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2390-2395)、ならびにヒトM-CSF(Rathinam et al,2011,Blood,118(11):3119-3128)を発現し、hSIRPa(Strowig et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(32):13218-13223)も発現するマウスと交配して、これらのヒトタンパク質の組み合わせを発現するマウス(Rag2-/-Il2rgnullhSIRPa+Tpoh/hMcsfh/hIl3/Gmcsfh/hIl6h/h)を生成した。
【0161】
細胞株および初代細胞 多発性骨髄腫細胞株INA-6(Burger et al.,2001,Hematol J,2(1):42-53)を、37℃および5%CO2で、標準的なインキュベータ内で、20%FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン、および2.5ng/ml hIL-6が補足されたRPMI1640培地において維持した。
【0162】
患者からインフォームドコンセントを入手した後、多発性骨髄腫患者由来の初代細胞を骨髄吸引物から単離した。単核細胞をFicoll密度勾配遠心法によって精製し、その後、異なる細胞サブセットを磁気細胞分取(Magnetic-activated cell sorting)(MACS(登録商標))によって単離した。T細胞枯渇集団を入手するため、抗CD3ミクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用したAutoMACS系でのネガティブ選択によって、CD3+細胞を枯渇させた。CD138+細胞を入手するため、抗CD138ミクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用したAutoMACS(登録商標)系でのポジティブ選択によって、CD138+細胞を単離した。MACS(登録商標)選択後の細胞の純度をフローサイトメトリーによって分析した。
【0163】
細胞の移植 INA6細胞の大腿骨内移植のため、Rag2-/-Il2rgnullIl6h/hhSIRPa+マウスに、X線源から200radを2回照射した。次いで、示された量の細胞を、レシピエントマウスの大腿骨へ移植した。簡単に説明すると、ケタミン/キシラジンを使用してマウスに麻酔をかけ、26ゲージ針を使用して大腿骨膝蓋面を穿孔した。次いで、細胞を、20μlの容量で、27ゲージ針を使用して徐々に注射した。患者由来の初代細胞の移植のためには、Rag2-/-Il2rgnullhSIRPa+Tpoh/hMcsfh/hIl3/Gmcsfh/hIl6h/hマウスに、X線源から150radを2回照射し、上記のように、移植を実施した。
【0164】
ELISA ヒト可溶性IL-6R(R&D Systems)、ヒトIgκ、およびIgλ(Bethyl Laboratories)の濃度を測定するため、市販のELISAキットを使用した。製造業者の指示に従って、これらのタンパク質の検出を実施した。
【0165】
μCT 大腿骨形態計測は、コーンビームマイクロフォーカスX線コンピュータ断層撮影(μCT40;ScancoMedicalAG)を使用して定量化された。連続断層像を取得し、3D画像を再構成し、パラメータを決定するために使用した。海綿骨形態計測は、骨体積分率、骨梁幅、骨梁数、および骨梁間隔を測定することによって特徴決定された。皮質測定には、平均皮質幅、皮質骨の断面積、骨膜下断面積、および骨髄面積が含まれた。
【0166】
組織学 標準的な手法に従って、大腿骨を軟部組織から取り除き、10%緩衝ホルマリンで固定し、脱水し、メタクリル酸メチルで包埋した後、切片化し、トルイジンブルーで染色した。
【0167】
結果
ヒト化IL-6遺伝子を有するマウスにおける多発性骨髄腫細胞株の生着 ヒトのSIRPαおよびIL-6を発現するマウスが多発性骨髄腫(MM)細胞株のために適当な宿主であるか否かを評価するため、ヒトIL-6依存性MM細胞株(INA6-gfp)を利用した。scid-huマウスの異種移植系において移植された時、INA6-gfp細胞株は、ヒト微小環境、即ち、ヒト胎児骨チップへの高い依存性を示す(Epstein et al.,2005,Methods Mol Med,113:183-190)。具体的には、INA-6細胞は、scid-huマウスにおいてヒト骨移植片にのみ生着することができ、このことは、初代MM細胞に類似しているヒト骨髄微小環境に対する依存性を示唆している(Tassone et al.,2005,Blood,106(2):713-716)。
【0168】
従って、骨髄腫細胞の増殖を可能にするIL-6ヒト化の可能性を直接試験するため、INA-6細胞を、(i)Rag2
-/-Il2rg
nullマウス、(ii)Rag2
-/-Il2rg
nullhSIRPa+マウス、(iii)Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hマウス、および(iv)Rag2
-/-Il2rg
nullIl6
h/hhSIRPa+マウスへ静脈内移植した。血中にINA-6細胞によって分泌されたsIL-6Rタンパク質を測定することによって、生着を分析した。生着は、ヒトIL-6を発現するマウスにおいてのみ検出され(
図1)、INA-6細胞がヒトIL-6を発現するマウスに実際に生着し得ることが証明された。次に、生着させられたマウスにおける(GFPを発現するよう修飾された)INA-6細胞の位置を、蛍光顕微鏡使用によって調査した。骨髄にはGFP+細胞がほとんど検出されなかったが(
図2)、生着させられたマウスの肺には、増加した数のGFP+細胞が検出された(
図3)。
【0169】
ヒトIl6遺伝子発現の分析は、最高レベルのヒトIl6遺伝子発現が肺に見出されることを明らかにし(
図3)、従って、肺におけるINA-6細胞の存在と相関していた。要約すると、本明細書に開示されたデータは、ヒトIL6、またはヒトIL6およびヒトSIRPaを発現するよう遺伝学的に修飾されたマウスへの静脈注射(i.v.)後に、INA-6細胞の生着が成功したことを証明しており、遺伝学的ヒト化が、マウスにおけるヒトMM細胞の増殖制限を克服し得ることを示唆している。
【0170】
図3のデータは、INA-6細胞が骨髄へ効率的にホーミングせず、むしろ非生理学的部位において増殖し得ることを示唆している。従って、次に、天然微小環境における腫瘍細胞株の移植が、ヒトMMに典型的に関連している病理を再現し得るか否かを調査した。そのために、INA6細胞の骨内注射を試験した。これは、MM患者において見られる病理の局面である骨破壊および骨吸収を著しくもたらした(
図4~6)。具体的には、海綿骨量の喪失が、μCTによって定量化された組織学によって観察された。さらに、肺のような末梢部位への限定された転移のみが観察され、そのことから、この病理に干渉する新規薬物を調査するため、このモデルをさらに探究することができるという結論が得られた。この結論を試験するため、INA-6を生着させられたマウスを、多発性骨髄腫患者を処置するために一般に使用されている2種の薬物ZometaまたはVelcadeによって処置した。μCTによって定量化されたように、INA-6細胞を注射されたマウスのZometaによる処置は、未処置マウスと比較して、骨吸収を著しく低下させることができた(
図7)。
【0171】
本明細書に開示されたデータは、Il6遺伝子のヒト化が、典型的にはヒト微小環境を必要とする多発性骨髄腫細胞株の生着を可能にすることを証明している。生着は、骨喪失を含む、患者において観察される数種の病理学的症状を再現する。さらに、これらの症状は、認可された薬物を使用して処置され得、このことは、新薬を試験するためのこのモデルの有用性を強調している。
【0172】
サイトカイン遺伝子の遺伝学的ヒト化は、患者由来の初代多発性骨髄腫細胞の生着を可能にする 次に、遺伝学的にヒト化されたマウスへの初代MM細胞の移植を調査するための実験を実施した。トロンボポエチン、IL-3、GM-CSF、およびM-CSFを含む複数のサイトカイン、ならびにマクロファージの阻害受容体SIRPaのヒト化が、免疫不全マウスにおけるヒト造血細胞の改善された生着をもたらすことが以前に証明された(Strowig et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(32):13218-13223;Rathinam et al,2011,Blood,118(11):3119-3128;Rongvaux et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2378-2383;Willinger et al,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2390-2395)。具体的には、IL-3およびGM-CSFならびにM-CSFのヒト化が、MM病理の特定の局面にとって重要であることが証明されている骨髄系細胞の生着を改善した。hSIRPaのトランスジェニック発現は、ヒト細胞生着を改善するが、SIRPa-CD47軸も腫瘍形成に関与することが最近示された。Rag2
-/-Il2rg
nullhSIRPa
+Tpo
h/hMcsf
h/hIl3/Gmcsf
h/hIl6
h/hマウスを生成するため、以前に生成されたヒト化マウスを、ヒトIL-6ノックインマウスと組み合わせた。ヒト細胞生着を支持するこの系統の能力を評価するため、MM患者由来のCD3枯渇骨髄細胞をマウスの骨髄へ注射した。CD138+CD38+CD19-細胞として同定される骨髄腫細胞が、高い頻度で、注射された骨に検出されたが、付随する骨には細胞がほとんど検出されなかった(
図8)。
【0173】
これらの結果は、本明細書に記載された遺伝学的にヒト化されたマウスが、初代ヒトMM細胞の生着をインビボで支持することを示唆する。本データは、IL-6、TPO、IL-3、GM-CSF、および/またはM-CSFをコードするサイトカイン遺伝子のヒト化が、典型的には移植の成功のためにヒト微小環境を必要とする、患者由来の初代多発性骨髄腫細胞の生着を可能にすることを証明している。
【0174】
実施例2:IL-6遺伝子の遺伝学的ヒト化はヒト造血細胞のマウスへの生着を可能にする
材料および方法
マウス 上記のように、ヒト化IL-6 KIマウスを生成した。まず、キメラマウスをBALB/cマウスと交雑し、次いで、ホモ接合的にhIL-6を有する派生動物を入手するため、戻し交配した。同一の混合BALB/c×129背景を有するマウスを、対照として使用した。
【0175】
新生仔マウス(生後1日以内)に、4時間間隔で、致死線量未満の150cGyのX線を2回照射した。照射から4時間後に、30ゲージ針(Hamilton Company,NV,USA)を使用することによって、1~2×105個のCD34+胎児肝(FL)細胞を含む20μlのPBSを、マウスの肝臓へ注射した。マウスを3週齢で離乳させた。特定病原体除去条件下でマウスを維持し、Yale Institutional Animal Care and Use Committeeプロトコルを遵守して、全ての実験を実施した。
【0176】
ヒトおよびマウスの血液学的細胞集団の分析 移植後の種々の時点で、イソフルラン麻酔下で、マウスの後眼窩叢から採血した。血漿試料を収集し、さらなるIg測定のため、-20℃で保管した。塩化アンモニウム(ACK)溶解緩衝液を使用することによって、2回、赤血球を溶解し、残りのPBMCを、FACS緩衝液(5%FBSおよび5mM EDTAが補足されたPBS)に再懸濁させた。
【0177】
マウスを屠殺し、骨髄(BM)、胸腺、および脾臓から細胞の単一細胞懸濁物を入手した。次いで、製造業者の指示に従って、マウスおよびヒトの細胞表面抗原に対する蛍光色素によって標識されたmAbによって、試料を染色した。以下の抗ヒトmAbを使用した:CD45(HI30)、CD19(HIB19)、CD3(UCHT1)、CD4(RPA-T4)、CD8(HIT8a)、CD20(2H7)、CD5(UCHT2)、CD27(O323)、CD24(ML5)、CD10(HI10a)(全て、Biolegend,CA,USA);BD BiosciencesからのCD33(WM53)、CD38(HIT2)、IgM(G20-127)、CD138(MI15)、およびMiltenyi BiotecからのCD34(AC136)。マウス細胞を抗マウスCD45 Ab(30-F11、Biolegend)によって染色した。LSRII(BD Biosciences)サイトメーターで試料を取得し、FlowJo(Treestar,OR,USA)ソフトウェアで分析した。
【0178】
ヒト免疫グロブリンの測定 ELISAによって、マウスから収集された血漿において、全免疫グロブリン(Ig)を測定した。96穴プレート(Nunc,NY,USA)を、20μg/ml精製ヤギ抗ヒトIgMおよびIgG(Southern Biotechnology,AL,USA)によって4℃で一晩コーティングした。洗浄し、PBS 1%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)によってブロッキングした後、試料の適切な希釈物を、室温(RT)で2時間添加した。プレートを洗浄し、アイソタイプ特異的な二次ビオチン化抗体(Southern Biotechnology)と共にRTで1時間インキュベートした後、ストレプトアビジン-HRP(Pierce Protein Research Products,IL,USA)と共にインキュベートした。最後の洗浄の後、TMB基質溶液、その後、停止溶液(いずれも、Pierce Protein Research Products)を使用して、酵素活性を決定した。吸光度を450nmで測定した。Bethyl(TX,USA)からのヒト血清の試料を、参照として使用した。
【0179】
統計分析 幾何平均としてプロットされたAbレベルを除き、全てのデータを平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表した。ノンパラメトリックなマンホイットニーのU検定を、2つの群の間の統計的有意性を決定するために使用した。p値が0.05未満である時、差を有意と見なした。
【0180】
結果
ヒトCD34
+
細胞を移植されたRAG2
-/-
γ
c
-/-
マウスにおける末梢血生着 IL6h/hマウスは、IL6m/mマウスと比較した時、分析の間を通して、より高い末梢血(PB)生着を示し、それらの生着は経時的に増加した(
図9)。試験されたいずれの時点においても、2つのマウス群の間に、ヒト細胞の組成の主要な差は存在しなかった(
図10)。両方の群において、B細胞およびT細胞の百分率は、8週目および16~20週目には類似していたが、11~15週目には、T細胞(IL6m/mにおいて16.86±3.14、IL6h/hにおいて30.26±6.23)より高いB細胞(IL6m/mにおいて69.23±3.97、IL6h/hにおいて55.91±4.86)の百分率が存在した。骨髄系CD33
+細胞は、ヒト細胞の微量成分を表し、それらの百分率は経時的に減少した。
【0181】
ヒトCD34
+
細胞によって再構成されたRAG2
-/-
γ
c
-/-
マウスの器官細胞生着および組成 ヒト起源の細胞は、BM、脾臓、および胸腺のような血液リンパ器官に見出された(
図11A)。興味深いことに、IL6h/hマウスの脾臓は、IL6m/mマウスよりも高いヒト生着を示した(61.75%±10.87対23.56%±5.2)。これらのデータは、ヒト細胞の絶対数の倍増によって確認された(14.21×10
6±1.38対7.26×10
6±0.66)(
図11B)。
【0182】
ヒトCD34
+
を生着させられたRAG2
-/-
γ
c
-/-
マウスにおけるB細胞成熟 CD24、CD38、および表面IgM抗体の組み合わせの使用に基づく、
図12Aに例示されたゲーティング戦略を使用して、生着させられたマウスのBMおよび脾臓において、ヒトB細胞の成熟段階を研究した。この戦略は、移行期B細胞サブセットの存在を精査するために特に有用である。BMにおいて、主なコンパートメントは、プロ/プレB細胞からなり(
図12B)、IL6m/mマウスとIL6h/hマウスとの間に差は存在しなかった(それぞれ76.04%±9.09および79.07%±3.43)。両方の群の脾臓が、いくつかの成熟B細胞(およそ20%)を含有していたが、さらに高い百分率で未熟/移行期細胞(27.13%±8.99および36.45%±5.12)を含有していた。
【0183】
脾臓におけるB細胞の有意な百分率が、CD5
+であった(
図13B)。このマーカーは、ヒトのBMおよび末梢B細胞には一般的に発現されないが、FL B細胞には低い百分率で見出される(
図13A)。
【0184】
IL6h/hマウスは、IL6m/mマウスと比較された時、脾臓におけるCD27
+B細胞の百分率の急増を示したが(24.73%±8.94対9.46%±2.32)、BMにはCD27
+細胞がほとんど見出されなかった(
図14Aおよび14B)。
【0185】
ヒトCD34
+
を生着させられたRAG2
-/-
γ
c
-/-
マウスにおける抗体産生 生着させられたマウスにB細胞が見出されたため、次いで、ヒト細胞移植後12週目および20週目に収集された血漿において、ヒトIgMおよびヒトIgGの濃度を測定した。IL6m/mマウスおよびIL6h/hマウスの両方が、ヒトIgMおよびヒトIgGを分泌した(
図15)。
【0186】
一般に、IL6m/mマウスと比較して、抗体分泌IL6h/hマウスのより高い百分率が存在し、前者のマウスは、より低レベルのIgMレベル(12週目に14.69μg/ml対33.66μg/ml、20週目に18.25μg/ml対190.2μg/ml)、増加したIgGのレベル(12週目に243μg/ml対49.6μg/ml、20週目に553.6μg/ml対297.2μg/ml)を示した(
図15A)。IL6m/mマウスにおいては、IgMおよびIgGの両方の平均レベルが、経時的に上昇した(
図15B)。反対に、IL6h/hマウスにおいては、血清Igが一定のままであった。
【0187】
本明細書中に引用された全ての特許、特許出願、および出版物の開示は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。具体的な態様に関して本発明が開示されたが、本発明の他の態様および変動が、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることは、明白である。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような態様および等価な変動を含むと解釈されるものとする。
【0188】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
YALE UNIVERSITY
INSTITUTE FOR RESEARCH IN BIOMEDICINE(IRB)
<120> GENETICALLY MODIFIED NON-HUMAN ANIMALS AND METHODS OF USE THEREOF
<150> US 61/722,437
<151> 2012-11-05
<160> 12
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 1
ttgccggttt tcccttttct c 21
<210> 2
<211> 19
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 2
agggaaggcc gtggttgtc 19
<210> 3
<211> 26
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 3
ccagcatcag tcccaagaag gcaact 26
<210> 4
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 4
tcagagtgtg ggcgaacaaa g 21
<210> 5
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 5
gtggcaaaag cagccttagc 20
<210> 6
<211> 28
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 6
tcattccagg cccttcttat tgcatctg 28
<210> 7
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 7
ccccactcca ctggaatttg 20
<210> 8
<211> 21
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 8
gttcaaccac agccaggaaa g 21
<210> 9
<211> 27
<212> DNA
<213> Artificial sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 9
agctacaact cattggcatc ctggcaa 27
<210> 10
<211> 197
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 10
aattagagag ttgactccta ataaatatga gactggggat gtctgtagct cattctgctc 60
tggagcccac caagaacgat agtcaattcc agaaaccgct atgaactcct tctccacaag 120
taagtgcagg aaatccttag ccctggaact gccagcggcg gtcgagccct gtgtgaggga 180
ggggtgtgtg gcccagg 197
<210> 11
<211> 151
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 11
ttttaaagaa atatttatat tgtatttata taatgtataa atggttttta taccaataaa 60
tggcatttta aaaaattcag caactttgag tgtgtcacgc tcccgggctc gataactata 120
acggtcctaa ggtagcgact cgagataact t 151
<210> 12
<211> 128
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> synthetic polynucleotide
<400> 12
tatacgaagt tatcctaggt tggagctcct aagttacatc caaacatcct cccccaaatc 60
aataattaag cactttttat gacatgtaaa gttaaataag aagtgaaagc tgcagatggt 120
gagtgaga 128
【配列表】