(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】心臓用装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
A61B8/08
(21)【出願番号】P 2022506681
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 FR2020051396
(87)【国際公開番号】W WO2021019186
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-20
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505026125
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・アン・アンフォルマティック・エ・オン・オトマティック
(73)【特許権者】
【識別番号】595166088
【氏名又は名称】アンスティテュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャペル,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】モアロー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】タンター,ミカエル
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504435(JP,A)
【文献】特開平10-005226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0150598(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0183344(US,A1)
【文献】特表2005-520592(JP,A)
【文献】特表2012-528614(JP,A)
【文献】特表2017-520349(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343424(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
A61B 1/00 - 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓用装置であって、
少なくとも1つの波を送信するように配置された送信器(10)と、前記送信器(10)からの波によって引き起こされるせん断波を測定するように配置されたプローブ(12)と、心電図信号における心収縮期を検出するように配置された検出器(14)と、少なくとも1つの心周期において、患者の心臓に向けて複数の方向に前記波が送信されることによって引き起こされる複数の前記せん断波の伝播速度を決定し、心収縮期において、前記検出器(14)を用いて前記伝播速度が最大となるものを決定し、その結果から前記心臓の活性応力(160)を導出するように配置された推定器(16)と、を備える、
心臓用装置。
【請求項2】
前記推定器(16)によって決定された心室壁厚、心室腔半径および前記活性応力(160)から、心室内圧(220)を決定するように配置された計算器(22)をさらに備える、
請求項1に記載の心臓用装置。
【請求項3】
前記心臓の少なくとも1つの画像に基づいて、前記心室壁厚および前記心室腔半径を決定するように配置された画像分析器(20)をさらに備える、
請求項2に記載の心臓用装置。
【請求項4】
前記画像分析器(20)は、前記せん断波の撮像から導出された前記心臓の少なくとも1つの画像に基づいて、前記心室壁厚および前記心室腔半径を決定するように配置される、
請求項3に記載の心臓用装置。
【請求項5】
前記プローブ(12)によって測定された少なくとも1つの前記せん断波からせん断波画像を提供するように配置された撮像器(24)をさらに備える、
請求項4に記載の心臓用装置。
【請求項6】
前記送信器(10)からの前記少なくとも1つの波は、圧縮超音波である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の心臓用装置。
【請求項7】
前記送信器(10)および前記プローブ(12)は、前記プローブがそれを中心に回転することができる伝播方向を定義するプローブ方向を有する2次元エコー用プローブに実装され、前記推定器(16)は、前記プローブ(12)によって実施された3つの同一平面上および非同一線の方向についての測定に基づいて、最大伝播速度を決定するように配置される、
請求項1~6のいずれか1項に記載の心臓用装置。
【請求項8】
前記送信器(10)および前記プローブ(12)は、3次元超音波用プローブに実装される、
請求項1~6のいずれか1項に記載の心臓用装置。
【請求項9】
前記3次元超音波用プローブは、3次元エコー用プローブである、
請求項8に記載の心臓用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓測定の分野に関し、より詳細には、非侵襲的心臓測定の分野に関する。心臓測定は、患者の心臓でとられる、特に機械的パラメータを含む物理的パラメータの測定を包含する。
【背景技術】
【0002】
近年の撮像技術、特に超音波や磁気共鳴による撮像技術の進歩により、in situの方法でなければ測定できなかったパラメータにアクセスすることが可能になった。このようなin situの方法では、手術やカテーテル法によって心臓に接近する必要がある。そのため、これらの方法は、侵襲的で制約が多い。また、厳しい規制のある適切な施設でのみこれらを実施することができる。
【0003】
一方、非侵襲的な測定は、より容易に実施することができる。しかしながら、これらの測定では、有用なまたは容易に利用できるパラメータをすべて測定できるわけではない。例えば、橈骨動脈の血圧の測定値を得るための既知の方法は、例えば、リストバンド、指センサまたはスマートウォッチを介した、患者の皮膚の近くに配置されたセンサを使用する。しかしながら、橈骨動脈の血圧と心臓内の例えば中心血圧などの物理的パラメータとの間の関連は、不正確で間接的なものである。
【0004】
別の既知の測定方法として、磁気共鳴や超音波による心臓エラストグラフィを用いた測定方法もある。この技術は、非侵襲的であり、心臓組織の推定硬さを測定するために使用される。推定硬さは、心拍の間に変化するパラメータであり、測定される部位に依存する。この推定硬さは、理論的には弾性係数、心圧、組織応力などの他の有用な心臓パラメータに関連付けることができる。しかしながら、この測定値とこれらの心臓パラメータとの間には直接的な関係はない。推定硬さと心圧との間には既に相関関係が観測されているが、これは個人によって大きく異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、有用な心臓パラメータを非侵襲的にアクセスする方法は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような状況を改善するものである。この目的のために、本発明は、少なくとも1つの波を送信するように配置された送信器と、送信器からの波によって引き起こされるせん断波を測定するように配置されたプローブと、心電図信号における心収縮期を検出するように配置された検出器と、少なくとも1つの心周期において、患者の心臓に向けて複数の方向に波が送信されることによって引き起こされる複数のせん断波の伝播速度を決定し、心収縮期において、検出器を用いて伝播速度が最大となるものを決定し、その結果から心臓の活性応力を導出するように配置された推定器と、を備える心臓用装置を提供する。
【0007】
当該装置は、心臓組織内の活性応力に直接アクセスできるという利点を有する。活性応力とは、単位面積あたりの力を意味する。この活性応力により、多数の有用な心臓パラメータに直接且つ非侵襲的にアクセスすることができる。例えば、心室内圧は、活性応力から導出することができる。また、活性応力の測定から心臓の病変を検出することができる。これにより、例えば、心筋梗塞の後遺症を観測することができる。
【0008】
様々な代替実施形態において、当該装置は、1つまたは複数の以下の特徴を有することができる。
・ 心臓用装置は、推定器によって決定された心室壁厚、心室腔半径および活性応力から、心室内圧を決定するように配置された計算器を備える。
・ 心臓用装置は、心臓の少なくとも1つの画像に基づいて、心室壁厚および心室腔半径を決定するように配置された画像分析器を備える。
・ 心臓の少なくとも1つの画像は、せん断波の撮像から導出される。
・ 心臓用装置は、プローブによって測定された少なくとも1つのせん断波からせん断波画像を提供するように配置された撮像器をさらに備える。
・ 送信器からの少なくとも1つの波は、圧縮超音波である。
・ 送信器およびプローブは、プローブがそれを中心に回転可能な伝播方向を定義するプローブ方向を有する2次元エコー用プローブに実装され、推定器は、プローブによって実施された3つの同一平面上および非同一線の方向についての測定に基づいて、最大伝播速度を決定するように配置される。
・ 送信器およびプローブは、3次元超音波用プローブに実装される。
・ 3次元超音波用プローブは、3次元エコー用プローブである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して記載する以下の詳細な説明からより明確になるであろう。
【
図2】心室内圧を測定する状態にある、
図1に示す心臓用装置の模式図である。
【
図3】
図2に示す心臓用装置の別の構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面には、本発明の特定の性質の要素が本質的に含まれる。したがって、これらは、本発明をよりよく理解するのに役立つだけでなく、その定義にも適宜貢献することができる。
【0011】
本明細書の説明の後に、数式を含む付記Aがある。この付記は、本明細書の不可欠な部分を構成する。
【0012】
【0013】
本発明による心臓用装置1は、メモリ2と、送信器10と、プローブ12と、を備える。
【0014】
メモリ2は、デジタルデータを受信するのに適した、例えばハードドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)、任意の形態のフラッシュドライブ、ランダムアクセスメモリ、磁気ドライブ、クラウドストレージまたはローカル分散ストレージなどの任意のタイプのデータストレージであり得る。メモリ2に格納されたデータは、心臓用装置1がそのタスクを実施した後に消去することができ、または保存することができる。心臓用装置によって計算されたデータは、メモリ2またはそれに類似する任意のタイプのメモリに格納することができる。
【0015】
超音波を用いて異方性(例えば線維性)媒体を非侵襲的に観測するための技術が開発されてきた。例えば、特許出願PCT/FR2015/050058号は、超音波の伝播を観測することによる、異方性媒体内の機械的特性の測定に関する。
【0016】
この場合の送信器10は、超音波を送信することができる装置である。例えば心臓6の壁などの線維性組織4に向けて送信器10によって送信された超音波が線維性組織に入ると、それに反応して、この線維性組織内で、超音波の送信方向と直交する平面内でせん断波が伝播する。この伝播は、特許出願PCT/FR2015/050058号に記載されるように、高速で送信された圧縮超音波を介して、プローブ12によって観測される。
【0017】
心臓用装置1は、検出器14と、推定器16と、をさらに備える。検出器14は、観測された心臓が心収縮期にある瞬間、すなわち、心臓が収縮している瞬間を決定する。推定器16は、送信器10、プローブ12および検出器14からデータを受信できるように、これらに接続される。推定器16は、これらのデータから1つまたは複数の物理的パラメータ、特に心臓組織における活性応力160を導出することができる。
【0018】
伝播の測定を実施するために、心臓6が観測対象である患者の皮膚に送信器10とプローブ12を接触させて、それらを心臓に向ける。送信器10とプローブ12が協働することで、心臓組織内のせん断波の伝播を観測することができる。
【0019】
送信器10は、心臓6に向かう送信方向に短時間の集束超音波ビームを発生させる。このビームは、心臓に到達すると、音響放射圧の影響を受けて心臓組織4に変位を生じさせる。この変位は、送信方向に実質的に直交する伝播方向に心臓組織4内を伝播するせん断波の形態をとる。
【0020】
プローブ12は、せん断波の伝播を観測する。このために、プローブ12は、心臓6に向けて、圧縮波の形態で超音波を高速で送信する。この超音波は、せん断波の影響を受けて変形する心臓組織4によって反響する。この反響した波がプローブ12によって検出されることにより、心臓組織4の変位を観測することができる。プローブ12は、300Hz超、あるいは500Hz超の速度で超音波を送信する。個々のせん断波の伝播測定は、数ミリ秒程度で実施することができる。したがって、プローブ12は、心臓組織4内のせん断波の伝播を、1秒間に数百回、高精度で観測することができる。また、プローブ12は、せん断波の伝播速度を決定する。さらに、プローブ12は、決定したせん断波の伝播速度とその伝播方向とを関連付けることができる。
【0021】
送信器10とプローブ12とを協働させるために、ユーザおよび/またはコントローラによって送信器10とプローブ12を制御することができる。ここで説明する実施例において、送信器10とプローブ12は、互いに通信するように互いに接続されている。
【0022】
本出願人は、線維性心臓組織内のせん断波が組織線維の方向と接する方向に伝播するときに、この波の伝播速度が最大になることを観察した。したがって、異なる伝播方向で複数の伝播速度を測定することにより、線維性組織内の線維の方向、およびこれらの線維に沿ったせん断波の伝播速度を決定することができる。
【0023】
より詳細には、線維に沿ったせん断波の伝播を決定する課題は、付記Aに記載の式(1)の形式にまとめることができる。これは、クリストッフェルの式とも呼ばれる。この式において、第1項はクリストッフェルのマトリックスMとも呼ばれ、rは心臓組織の密度、Fは波の偏極ベクトル、Vは平面波の伝播速度を表す。
【0024】
本出願人は、その研究の過程で、心収縮期の間、線維性心筋媒体の応力テンソルにおいて活性張力項が支配的であることを発見した。これにより、付記Aに記載の式(1)のクリストッフェルのマトリックスMを、式(2)の一般形式に再定式化することができた。ここで、n1は波の伝播方向と線維の方向とがなす角度の余弦、s1Dは活性応力を表す。この式において、マトリックスMは、第1のベクトルが線維方向である基準フレームで表される。本出願人は、s1D*n1
2に等しいテンソル(マトリックスMの対角線の第2項および第3項)における線維直交偏極項に着目し、付記Aに記載の式(1)にフィードバックすることにより、付記Aに記載の式(3)を導き出した。本出願人は、次に、n1が1に等しい場合に対応する付記Aに記載の式(4)の形式で表現される最大伝播速度、心臓組織の密度および活性応力の関係を確立した。
【0025】
この場合の密度rは、実質的に1,060kg/m3に等しい。心臓組織内の水の割合が高いため、密度rは、個人間のばらつきが少ない。その結果、本出願人の発明は、ヒトの活性応力の測定に用いることができる。
【0026】
活性応力160を決定するために、まず、心収縮期を特定する必要がある。この目的のために、検出器14は、心電図信号140に基づいて心収縮期を決定する。この場合の心電図信号140は、心臓用装置1に組み込まれた心電計142から送信される。代替的に、心電図信号140は、心臓用装置1の外部の機器から発信され、メモリ2に格納され得る。この代替実施形態は図に示していない。
【0027】
心収縮期は、200ミリ秒~400ミリ秒の間継続する。送信器10およびプローブ12によって実施される測定の持続時間が数ミリ秒程度であることを考慮すると、単一の心収縮期の間に、多数の伝播速度測定を実施することができる。
【0028】
この場合の推定器16は、コンピュータのプロセッサによって実行されるプログラムである。代替的に、専用のプロセッサによって別の方法で実現することも可能である。「プロセッサ」という用語は、本明細書に記載のデータ処理動作に適合した任意のプロセッサを意味する。このようなプロセッサは、パーソナルコンピュータ用のマイクロプロセッサ、FPGAまたはSoC(System-on-Chip)タイプの専用チップ、グリッド上のコンピューティング資源、マイクロコントローラ、または後述する動作を実施するために必要な計算力を提供するのに適した他の任意の形態で、既知の方法で作製することができる。また、これらの1つまたは複数の要素は、ASICなどの特殊な電子回路の形態で作製することもできる。また、電子回路とプロセッサとの組み合わせを考慮することもできる。
【0029】
推定器16は、プローブ12によって決定された伝播速度のセットを受信する。伝播速度の各々は、そのせん断波の伝播方向と関連付けられている。推定器16は、検出器14から心収縮期を示す情報を受信する。推定器16は、伝播速度のセットに基づいて、心収縮期の間のせん断波の最大伝播速度を決定する。
【0030】
そのために、ユーザまたは外部のコントローラは、複数の伝播速度の測定を実施できるように、送信器10によって送信された波の送信方向を制御する。推定器16は、これらに基づいて、心臓組織4内のせん断波の最大伝播速度、すなわち心臓組織4の線維の方向を決定する。
【0031】
このために、推定器16は、心臓の壁に接する平面内に分布する複数の伝播方向における複数の伝播速度の測定を実施し、測定した伝播速度のうち最も大きいものを抽出することができる。この複数の伝播方向は、例えば、その角度分布が実質的に均等であるように選択することができる。さらに、推定器16は、式(3)を用いて、送信器10によって送信された波の同一平面上および非同一線の伝播方向から導出した少なくとも3つの伝播速度の測定値から正弦波を補間し、心臓組織4内のせん断波の最大伝播速度を導出することができる。
【0032】
最大伝播速度を決定した後に、推定器16は、付記Aに記載の式(4)に従って、活性応力160を導出する。
【0033】
本発明の第1の実施形態において、送信器10とプローブ12は、2次元エコー用プローブに実装される。超音波は、送信器10によって送信され、心臓組織に集束される。プローブ12は、非常に高速で非集束波を送信して、平面内のせん断波伝播を画像化する。プローブ主軸を中心にこの平面を実質的に回転させることで、超音波は、このプローブ主軸を中心とする円錐または円錐の一部を走査する。これにより、ユーザは、2次元エコー用プローブを手動で回転させて、少なくとも3つの伝播方向における複数の伝播速度の測定値を得ることができる。伝播方向の測定は、手動、自動、またはガイド付きで行うことができる。したがって、数秒で、簡単な取り扱い操作を介して、せん断波の最大伝播速度を上述したように決定することができる。プローブが安価であり、ほとんどの医療施設で入手可能であるため、送信器10およびプローブ12を2次元エコー用プローブで使用できることは非常に有利である。より一般的には、本実施形態において、心臓用装置1全体を従来の2次元エコー装置に実装することができる。
【0034】
第2の実施形態において、送信器10とプローブ12は、3次元エコー用プローブに実装される。本構成において、送信器10は、ゼロではない立体角で、例えばプローブ主軸を中心とした円錐を走査しながら、複数の伝播方向に超音波を送信する。この場合、3次元エコー用プローブを移動または回転させることなく、最大伝播速度の測定値を得ることができる。これにより、活性応力の決定が、より確実に、より早く、より正確に行うことができる。さらに、この場合の心臓用装置1は、従来の3次元エコー装置に実装することができるという利点も有する。
【0035】
第3の実施形態において、心臓用装置1は、エコー装置とは異なる、特許出願PCT/FR2015/050058に記載のタイプの独立型の器具に実装される。この特殊な器具は、3次元エコー用プローブとほぼ同等の伝播測定を実現しながら、より単純な設計で安価に提供され得る。送信器10とプローブ12は、独立型の器具を移動または回転させることなく、最大伝播速度の測定を実施するように配置される。送信器10とプローブ12とを含む独立型の器具の部分は、肋間の距離よりも小さい大きさを有することができる。大きさを小さくすることで、プローブ12によって実施される測定の精度を高めることができる。このタイプの独立型の器具に心臓用装置1を実装することで、その製造を簡略化することができる。さらに、本構成において、心臓用装置1は、別個の従来の医療器具と連動させることができ、その医療器具に、特に決定された活性応力160などのデータを送信することができる。
【0036】
【0037】
本出願人は、心臓の活性応力から心室内圧を決定する方法を発見した。このために、本出願人は、厚さdおよび半径Rを有する実質的に球形の心室腔の静的平衡における機械的挙動をモデル化した。e=d/Rとした圧力pの下で、本出願人は、付記Aに記載の式(5)を導き出した。この式(5)は、活性応力160、厚さdおよび半径Rと内圧220とを関連付けている。ここで、acorは、補正因子を表す。厚さdおよび半径Rは、心室腔の幾何学的データである。
【0038】
ここで説明する実施形態において、心臓用装置1は、計算器22を備える。計算器22は、推定器16からの活性応力160と、幾何学的データ202とを受信する。計算器22は、活性応力160および幾何学的データ202に基づいて、付記Aに記載の式(5)を用いて心室内圧を決定する。
【0039】
任意選択で、心臓用装置1は、幾何学的データ202を生成するための画像分析器20を備えることができる。
【0040】
画像分析器20は、観測された心臓の心室腔から画像データ200を取得する。画像分析器20は、そこから心室腔の幾何学的データ202を導出する。画像分析器20は、心室腔の少なくとも心室壁厚dおよび心室腔半径Rを決定する。
【0041】
画像データ200は、超音波(エコー法)、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影法(CT)、放射能法(核医学)または他の任意の非侵襲的な心臓撮像法を用いた心臓撮像法から提供され得る。画像データは、メモリ2に格納することができる。ここで説明する実施例において、画像データ200は、サードパーティの機器から提供される。
【0042】
幾何学的データ202(および適切な場合には画像データ200)は、メモリ2に格納される。
【0043】
第1(および第2)の実施形態において、画像分析器20は、2次元(および3次元)エコー用プローブに接続され、プローブが必要な画像データを画像分析器20に提供する。また、第3の実施形態において、心臓用装置1は、必要な画像データを画像分析器20に提供する。画像分析器20は、機械学習法を用いて、またはアルゴリズムを介して、画像データを分析することができる。画像分析器20は、例えば、画像データ内の形状を認識して幾何学的データを導出することができるように、ニューラルネットワーク、特に畳み込みニューラルネットワークを備えることができる。
【0044】
心臓のエコー画像を用いて、心臓の内壁(心内膜)と外壁(心外膜)の輪郭を決定することで、心室壁厚dおよび心室腔半径Rの測定を実施することができる。この場合の区分けは、手動であってもよく、自動であってもよい。
【0045】
代替的に、時間/運動(TM)エコー用プローブから、時間の関数としてエコーラインを表す画像を得ることができる。この画像は、可視化された心臓の壁を提供する。これを手動または自動で区分けして、心室壁厚dおよび心室腔半径Rを計算することができる。
【0046】
心室腔を球形に近似すると、式(5)は、補正因子acorを含む。この補正因子は、例えば、デジタルシミュレーションによって事前に決定することができ、または患者のグループに対して測定され得る。代替的に、幾何学的形状の分析または画像分析が可能な心臓用装置1の構成要素によって、この補正因子をその場で決定することができる。この分析は、例えば、画像データ200から画像分析器20によって実施され得る。ここで説明する実施例において、補正因子を、0.6~1の範囲で変化させることができ、好ましくは、0.75~0.95の範囲で変化させることができ、さらに好ましくは0.9に設定することができる。本出願人は、個人間の補正因子のばらつきを約10%と推定した。このばらつきは、既知の非侵襲的な圧力測定のばらつきよりもはるかに小さい。したがって、計算器22および画像分析器20を用いることで、従来の方法よりも著しく正確な、心室内圧220の非侵襲的な測定を提供することができる。
【0047】
心臓用装置1による心室内圧pの非侵襲的な測定により、安価な機器を用いて、単純な医療行為を介して複数の病状を診断することができる。例えば、2次元エコー用プローブに実装された心臓用装置1を用いて心室内圧を測定することで、心不全を検出することができる。また、この非侵襲的な圧力測定は、心臓再同期療法にも利用することができる。
【0048】
画像分析器20および計算器22は、コンピュータの1つまたは複数のプロセッサによって実行されるプログラムである。代替的に、専用のプロセッサを用いて、または別の機械で実装することもできる。
【0049】
【0050】
本実施形態において、心臓用装置1は、画像データを生成するための撮像器24を備える。心臓用装置1がエコー装置に実装されたときに、撮像器24は、エコー装置のうち、1回または複数回のエコー検査を実施する部分を備える。
【0051】
以上、心室内圧を測定するための活性応力の使用について説明した。また、心筋梗塞の後遺症を収縮率、すなわち活性応力の最大値から観測することができる。この収縮率の測定は、収縮サイクル全体にわたって実施することができる。収縮率が正常値よりも低い箇所は、心筋梗塞の影響を受けた部位であることを示している。
[付記A]
【0052】