(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】被分析物の濃度を測定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20241030BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20241030BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/359
(21)【出願番号】P 2022534193
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020084552
(87)【国際公開番号】W WO2021110877
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-11-24
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519416451
【氏名又は名称】ブロリス センサー テクノロジー,ユーエイビー
【氏名又は名称原語表記】BROLIS SENSOR TECHNOLOGY,UAB
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】シモニーテ,イーヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィズバラス,アウグスティナス
(72)【発明者】
【氏名】ブシウナス,タダス
(72)【発明者】
【氏名】ミアソジェドヴァス,アルナス
(72)【発明者】
【氏名】スプレンゲル,ステファン,ハインツ
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0179367(US,A1)
【文献】国際公開第2018/215388(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
A61B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析物の濃度を測定するためにセンサーを較正するための方法であって:
ハイブリッドIII-V族/IV族半導体オンチップフォトニックシステム(SoC)を使用して、被分析物を有する対象物から複数の生スペクトルを収集し;
複数の生スペクトルをそのそれぞれのスペクトル形状に応じてクラスタのセットへと分割し、各々のクラスタは生スペクトルのグループを含み
、
複数の生スペクトルをそのそれぞれのスペクトル形状に応じて分割することは:
複数の生スペクトルの各々に対して大域散乱補正(GSC)を適用して、複数の大域補正スペクトルを取得し;
複数の大域補正スペクトルを:(A)クラスタの特定の数、または(B)クラスタのセントロイドから大域補正スペクトルまでの特定の最大距離、または(C)クラスタの特定の数、およびクラスタのセントロイドから大域補正スペクトルまでの特定の最大距離の両方にしたがってクラスタ化し;そして
各々のクラスタ内において、そのクラスタに属する大域補正スペクトルに対応する生スペクトルのそれぞれを、そのクラスタについて指定することを含み;および
各々のクラスタ内において:
クラスタに属する生スペクトルの各々に対してそれぞれの局所散乱補正(LSC)を適用して、局所補正スペクトルのグループを取得し;そして
局所補正スペクトルおよびクラスタに属する生スペクトルのグループに対応する被分析物濃度の絶対基準値を使用して、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルを導出することを含
み、
特定のクラスタについてクラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルを導出することは:
予備処理パラメータの複数の候補セットの各々を評価することを含み、特定の候補セットを評価することは:
特定の候補セットを使用して、特定のクラスタに属する局所補正スペクトルの各々を予備処理し;
特定のクラスタに属する生スペクトルのグループに対応する被分析物濃度の絶対基準値を使用して、予備処理された局所補正スペクトルに対して多変数回帰較正を適用することにより、較正ベクトルの候補を導出し;そして
交差検証を介して較正ベクトルの候補についての対応する精度測定値を計算することを含み;そして
最大の精度測定値に関連する候補セットおよび対応する較正ベクトルの候補を、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルとしてそれぞれ指定することを含む方法。
【請求項2】
対象物は組織を含み;そして
被分析物は:血中グルコース、血中乳酸、エタノール、尿素、クレアチニン、トロポニン、コレステロール、アルブミン、グロブリン、ケトン-アセトン、アセテート、ヒドロキシブチレート、コラーゲン、ケラチン、または水分の少なくとも1つを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
クラスタ化は:k-平均クラスタリング、アフィニティプロパゲーション、または凝集型クラスタリングの少なくとも1つを含む、請求項
1の方法。
【請求項4】
SoCにGSC基準スペクトルを記憶することをさらに含む、請求項
1の方法。
【請求項5】
大域散乱補正は、大域乗法的散乱補正、大域標準正規変量(SNV)補正、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、または大域平均センタリングおよび正規化補正を含む、請求項
1の方法。
【請求項6】
局所または大域散乱補正は、粒子径差補正または経路長差補正を含み、各々の補正はクベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
1の方法。
【請求項7】
各々のクラスタについてSoCに:(i)対応するLSC基準スペクトル、(ii)対応する較正ベクトル、および(iii)クラスタセントロイドを記憶することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項8】
各々のクラスタについてSoCに:(iv)クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットを記憶することをさらに含む、請求項
7の方法。
【請求項9】
各々のクラスタについてSoCに予備処理パラメータの最適化セットを記憶することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項10】
局所散乱補正は、局所乗法的散乱補正、局所標準正規化(SNV)補正、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、または局所平均センタリングおよび正規化補正を含む、請求項1の方法。
【請求項11】
複数の生スペクトルのそれぞれのスペクトル形状を決定することは:
選択された被分析物の基準スペクトルに基づき、複数の生スペクトルに対して線形変換および基線補正を適用することによって複数の生スペクトルを予備処理することを含む、請求項1の方法。
【請求項12】
予備処理は、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれらの組み合わせを含む、請求項
11の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
この出願は、2019年12月6日に出願された「被分析物の濃度を測定するためのシステムおよび方法」と題する米国仮特許出願第62/944,644号の優先権および利益を主張するものであり、その全内容はここでの参照によって本願に取り入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明の実施形態は、目標とする生物学的物質から、目標物質とIII-V/IV半導体フォトニックセンサーとの間の光学的通信によってデータを獲得する方法、および物質内部の目標分子の絶対濃度レベルを取得するためのデータ処理方法に関する。本発明は、可変波長における波長吸収の分光的検出によって、血中のグルコース、尿素、乳酸、クレアチニン、エタノール、およびその他の構成分子を経皮的に検出およびモニタリングするのに適用可能であるが、これらに限定されるものではない。ここに記載する技術は、製造技術並びに大きさ、重量、電力、およびコスト条件といった面で家電の技術的プラットフォームと相性が良く、ウェアラブルヘルスケアデバイスの技術にとっての有用性に関して極めて重要な利点をもたらす。この技術は、現在では非侵襲的な検出解決策が存在しない、糖尿病のような慢性疾患に苦しむ人々によって利用されてよい。さらにまた、現在では治療現場での解決策しか存在しない、生命に関わる生理学的マーカーを非侵襲的かつ継続的にモニタリングするための、新規な手法が提供される。
【0003】
背景
近赤外線分光分析を使用した血中グルコースの測定といった、被分析物の分光的な非侵襲的測定のための多くの技術は、ハロゲンランプのような広帯域の光源を採用している。そうした光源から発せられる電磁放射線(EMR)、並びに分析対象である媒体から受信される(例えば、媒体によって拡散的に反射され、または媒体を通って伝播されて)電磁放射線は、多数の波長成分を有している。媒体から受信されたEMRの成分は典型的には、回折技術を使用して分離され、スペクトルが得られる。広帯域光源と回折機構を有する分光計は、典型的には大きく複雑な構造であり、現場や家庭での使用には面倒であり、或いは非実用的である。
【0004】
オンチップフォトニックシステム(P-SoC)は、家電市場、自動車、家庭用医療機器、その他といった大量生産用途について必要な、究極的な寸法低減の可能性を提供する。P-SoCの概念は、一般的なフォトニックシステムの全部または殆どの機能を組み合わせ、それらの機能を単一のチップアセンブリ内で実現することを可能にする。それは典型的には、III-V半導体またはIII-V半導体とIV族半導体の組み合わせに基づいて、モノリシックなフォトニック集積回路(PIC)として実現可能である。最初の取り組みは、すべての能動的および受動的な光学部品が同一のウエーハ内部で実現されることを可能にし、完全にモノリシックなデバイスとすることである。これは、すべての光源および検出器が本来的に導波管と整列され、組み立て工程を全く必要としないことから、理想的である。しかしながら、吸収性の高さや導波管における光の閉じ込めの低さといったIII-V材料固有の性質、さらには曲げ損失を低減させるための導波管の大きな曲げ半径は、多数回のエピタキシャル成長を必要とする複雑な技術と相俟って、家電のような非常に大きな市場に対するスケーリングの可能性を制限することになる、というのは、そのような市場ではチップ毎のコストが非常に低いことが要求されるからである。妥協点としてIII-V/IVのハイブリッドP-SoCがもたらしている解決策は、発光機能はIII-V半導体チップ内部で実現し、そして光のルーティング、フィルタリングおよび他の機能はIV族半導体チップ内部で実現するというものである。EMRに基づく光の検出は、III-V族半導体チップまたはIV族半導体チップいずれかの内部で実現可能である。ハイブリッドによる取り組みは、例えばCMOSのようなIV族半導体製造技術は比類のないスケーリング可能性をもたらすことから、大量生産市場にとって有益であろうことが判明している。しかしながら、P-SoCを用いた被分析物の測定のための技術は一般に知られていない。
【0005】
概要
III-V半導体チップとIV族半導体フォトニック集積回路とのハイブリッド集積は、世界最高の組み合わせをもたらす可能性があり、そこでは光検出および光発生機能は究極的な効率、性能、コストおよび収率のためにIII-V半導体の直接的なバンドギャップ内で実現され、これに対して光のフィルタリング、ルーティング、ロッキング、フィードバック制御といった受動的機能は、例えばシリコンオンインシュレータ、またはシリコンオンシリコンナイトライド、或いは窒化ケイ素上のシリコンまたは絶縁体上のシリコンといった、IV族半導体内部のフォトニック集積回路(PIC)の内部で実現される。種々の実施形態において、波長掃引レーザをベースとし、集積化発光波長可変(スウィーピング)、並びに波長シフト追跡および絶対波長較正機能を備えたオンチップフォトニックシステムは、生物体のような生物学的対象物から、関連データを遠隔的に取得するするために用いられている。いくつかの異なる実施形態において、取得されたデータは次いで処理されて、濃度レベルおよび/または時間の関数としての濃度レベル(傾向)のような、生物分子に特異な絶対値が提供される。ハイブリッドIII-V/IV半導体プラットフォームと取得データのオンチップ処理技術との組み合わせは、例えば重要な生理学的パラメータをリアルタイムでモニタリングするためのスマートウォッチといった、ウェアラブルデバイスプラットフォームのための新たな機会をもたらす。
【0006】
オンチップフォトニックセンサーシステムとの組み合わせにおいて、データを取得および処理し、被分析物(例えば、生物学的物質内部の構成分子)の較正された濃度レベルをリアルタイムで提供するための技術が記述される。生物学的物質は、血液、間質液、組織または物質の組み合わせであってよい。オンチップフォトニックセンサーシステム(SoC)アセンブリは、III-V半導体およびIV族半導体のハイブリッドアセンブリを含んでおり、ここでIII-V半導体素子は光学的利得および検出機能をもたらし、そして光学的フィードバック、光ルーティング、フィルタリング、ロッキングおよびその他の受動的機能は、IV族半導体のフォトニック集積回路内で提供されている。
【0007】
使用時には、アセンブリは生物学的物質と光学的通信状態にあり、センサーは物質から遠隔にあってよく(インビボの場合)、または物質内部に埋設されていてよい(インプラント)。センサーは目標物質と光学的通信を介して相互作用する、すなわちセンサーからの光は物質と相互作用し、光信号は光と分子の相互作用に基づいて変調され、この相互作用は分子特異なものである。相互作用の後、信号は拡散反射または伝播によって、センサーのチップにより収集される。
【0008】
こうしたフォトニックセンサーが生物体について直接の経皮的測定を行い、または生物体に埋設されているような、実用的な筋書きにおいては、センサーによって収集された生信号は、全血および/または組織といった典型的な生物学的物質の複雑な性質に基づいて、非常に複雑である。本明細書に記述される種々のデータ分析技術は、ハードウェア(例えば、Soc)と組み合わせて、複雑な生物学的物質の殆どから、較正された濃度レベル値を取得するために使用可能である。これは特に、糖尿病、腎不全または肝不全といった慢性疾患、および敗血症のような急性臨床事案に苦しむ患者、並びにアスリートおよび一般大衆のフィットネスレベルやダイエットのモニタリングの両者にとって、グルコース、乳酸、尿素、エタノール、血清アルブミン、クレアチニン、およびその他といった重要な代謝物質の経皮的/埋設モニタリングを行うために重要である。
【0009】
斯くして1つの実施態様においては、媒体中の被分析物の濃度を測定するためのセンサーを較正するための方法が提供される。この方法は、III-V族/IV族ハイブリッド半導体オンチップフォトニックシステム(SoC)を使用して、被分析物を有する対象物(例えば、媒体または試料)から、幾つもの生スペクトルを収集することを含んでいる。この方法はまた、生スペクトルをそのそれぞれのスペクトル形状に応じてクラスタのセット(組)へと分割することを含んでおり、ここでクラスタの各々は、生スペクトルのグループを含んでいる。この方法はさらに各々のクラスタ内において:(i)そのクラスタに属する生スペクトルの各々に対してそれぞれに局所拡散補正(LSC)を適用して局所補正スペクトルのグループを得ること;および(ii)クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルを導出することを含んでいる。最適化された予備処理パラメータのセットおよび較正ベクトルは、局所補正スペクトルおよびそのクラスタに属する生スペクトルのグループに対応する絶対標準被分析物濃度値を使用して導出される。
【0010】
いくつかの実施形態においては、特定のクラスタについて、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルを導出することは:(i)予備処理パラメータの幾つもの候補セットの各々をそれぞれ評価することを含み、ここで特定の候補セットを評価することは:(A)特定のクラスタに属する局所補正スペクトルの各々をその特定の候補セットを使用して予備処理し;(B)予備処理された局所補正スペクトルに対して、その特定のクラスタに属する生スペクトルのグループに対応する絶対標準被分析物濃度値を用いて多変数回帰較正を適用することにより較正ベクトルの候補を導出し;そして(C)交差検証を介して較正ベクトルの候補について対応する測定精度を計算することを含んでいる。その後、最大の測定精度に関連する候補セットおよび対応する較正ベクトルの候補が、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットおよびクラスタ特異な較正ベクトルとしてそれぞれ指定される。
【0011】
クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットは、a)フィルタリングの次数、b)平滑化に使用されるフィルタの種類または性質、c)基線除去に使用される導関数の次数その他といった、データ処理パラメータのセットを含んでいてよい。最適化されたパラメータのセットがメモリに記憶されてよく、後に検出モードにおいてデータを予備処理するために使用されてよい。
【0012】
対象物は組織を含んでいてよく、そして被分析物は特に、血中グルコース、血中乳酸、エタノール、クレアチニン、ケラチン、コラーゲン、尿素、血清アルブミン、グロブリン、トロポニン、アセトン、アセテート、ヒドロキシブチレート、コレステロール、アルブミン、グロブリン、ケトン-アセトン、または水分を含んでいてよい。
【0013】
いくつかの実施形態においては、生スペクトルをそのそれぞれのスペクトル形状に応じて分割するステップは、生スペクトルの各々に対して大域散乱補正(GSC)を適用し、幾つかの大域補正スペクトルを得ることを含んでいる。分割ステップはまた:(A)特定数のクラスタ、(B)クラスタのセントロイド(重心)からの大域補正スペクトルの特定の最大距離、または(C)特定数のクラスタおよびクラスタのセントロイドからの大域補正スペクトルの特定の最大距離の両者に応じて、幾つかの大域補正スペクトルをクラスタ化することを含んでいてよい。分割ステップはさらに、各々のクラスタ内において、そのクラスタに属する大域補正スペクトルに対応するそれぞれの生スペクトルをそのクラスタに指定することを含んでいてよい。クラスタ化は、k-平均クラスタリング、アフィニティプロパゲーション、または凝集型クラスタリングを含んでいてよい。
【0014】
いくつかの実施形態においては、この方法はさらに、大域散乱補正の一部として発生されたGSC基準スペクトルをSoCに記憶することを含んでいる。大域散乱補正は、大域乗法的散乱補正、大域標準正規変量(SNV)補正、大域平均センタリングおよび正規化補正、クベルカ-ムンク(K-M)補正、サンダーソン補正、またはこれらの組み合わせとして実施されてよい。局所および/または大域散乱補正は、粒子径差の補正および/または経路長差の補正を取り入れていてよく、またK-M補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれらの組み合わせを用いていてよい。いくつかの実施形態においては、この方法はクラスタの各々について、SoCに:(i)対応するLSC基準スペクトル、および/または(ii)対応する較正ベクトル、(iii)クラスタセントロイド、および/または(iv)各クラスタについて最適化された予備処理パラメータのセットを記憶することを含んでよい。局所散乱補正もまた、局所乗法的散乱補正、または局所標準正規変量(SNV)補正、局所平均センタリングおよび正規化補正、K-M補正、サンダーソン補正、または上述の補正技術の組み合わせとして実施されて、線形化効果を達成してよい。大域および局所散乱補正は、適切に選ばれたならば、光散乱に対する粒子径の差の影響を考慮に入れ、並びに組織における光路長の差の補正を考慮に入れることを可能にし、例えば生スペクトルを線形化して、線形なベール-ランバート吸収則、並びに多変数部分最小二乗法を含めて線形回帰技術の両者が適用可能であるようにする。
【0015】
いくつかの実施形態においては、幾つかの生スペクトルのそれぞれのスペクトル形状を決定することは、選択された被分析物の基準スペクトルに基づく線形変換および基線補正を生スペクトルに適用することにより、生スペクトルを予備処理することを含んでいる。こうした予備処理には、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれらの任意の2つまたは3つ全部の組み合わせが含まれてよい。
【0016】
別の実施態様においては、被分析物の濃度を測定するための方法が提供され、そこではこの方法は、ハイブリッドIII-V族/IV族半導体オンチップフォトニックシステム(SoC)を使用して、被分析物を有する対象物(例えば、媒体または試料)から生スペクトルを取得し、そして幾つものスペクトルのクラスタから生スペクトルが属するクラスタを識別することを含んでおり、そこにおいてクラスタは、生スペクトルのスペクトル形状に基づいて識別される。この方法はまた、生スペクトルに対して局所散乱補正(LSC)を適用して局所補正スペクトルを得、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットを用いて局所補正スペクトルを予備処理し、そして予備処理された局所補正スペクトルにクラスタ特異な較正ベクトルを乗算して、被分析物についての対応する較正された濃度値を得ることを含んでいる。
【0017】
いくつかの実施形態においては、生スペクトルを取得することは、SoCから対象物へと幾つかの異なる波長に可変の電磁放射線(EMR)を差し向け、異なる波長のそれぞれにおいて、対象物から受信したEMRの強度をSoCを使用して測定し、そして強度を吸光度値に変換して、生スペクトルが吸光スペクトルを含むようにすることを含んでいる。幾つかの異なる波長は、1000-3500nmの範囲または1900-2500nmの範囲から選択されてよい。
【0018】
いくつかの実施形態においては、スペクトルの複数のクラスタは、SoCを使用して先に収集したスペクトルに対応するものであり、そしてクラスタの各々はそれぞれのLSC基準、それぞれのクラスタセントロイド、および/またはそれぞれの較正ベクトルを介して表されてよく、ここで各々のクラスタについてのそれぞれのLSC基準、それぞれのクラスタセントロイド、およびそれぞれの較正ベクトルは、SoCに記憶されていてよい。スペクトルの幾つかのクラスタから生スペクトルが属するクラスタを識別することは、大域散乱補正(GSC)基準を使用して大域補正スペクトルを導出することを含んでいてよい。生スペクトルが属するクラスタを識別することはまた、幾つかのクラスタの各々の内部において、大域補正スペクトルをそれぞれのLSC基準と比較してそのクラスタに対応する距離を取得し、そして対応する距離が最小であるクラスタを選択することを含んでいてよい。
【0019】
大域散乱補正は、大域乗法的散乱補正、大域標準正規変量(SNV)補正、大域平均センタリングおよび正規化補正、K-M補正、サンダーソン補正、またはこれらの組み合わせとして実施されてよい。局所および/または大域散乱補正は、粒子径差の補正および/または経路長差の補正を取り入れていてよい。局所散乱補正は、局所乗法的散乱補正、または局所標準正規変量(SNV)補正、または局所平均センタリングおよび正規化補正、K-M補正、サンダーソン補正、またはこれらの組み合わせとして実施されてよい。LSCおよびGSCは、組織/対象物での散乱および吸収を考慮に入れ、ベール-ランバート則に基づく吸光法のような線形吸光技術に基づくさらなるデータ処理を容易にするために、生スペクトルに対して線形化変換を行うことを含んでいてよく、そこではスペクトルは個別の成分に分解され、および/またはPLS線形回帰または他の類似技術を用いてさらに処理される。
【0020】
いくつかの実施形態においては、生スペクトルのスペクトル形状を決定することは、選択された被分析物の基準スペクトルに基づく線形変換および基線補正を生スペクトルに適用することによって、生スペクトルを予備処理することを含んでいる。この予備処理は、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれらの任意の2つまたは3つ全部の組み合わせを含んでいてよい。
【0021】
別の実施態様においては、被分析物の濃度を測定するためのシステムは、被分析物を含む対象物(例えば、媒体または試料)から生スペクトルを取得するためのハイブリッドIII-V族/IV族半導体オンチップフォトニックシステム(SoC)、および処理ユニットを含んでおり、この処理ユニットはプロセッサとメモリを含んでいて、被分析物の濃度を測定し、情報を記憶し、といった所定の動作を行うように構成されている。具体的には、処理ユニットは、ハイブリッドIII-V族/IV族半導体オンチップフォトニックシステム(SoC)を使用して、被分析物を有する対象物から生スペクトルを取得し、そして生スペクトルのスペクトル形状に基づいて、スペクトルの幾つものクラスタから生スペクトルが属するクラスタを識別するように構成されている。処理ユニットはまた、クラスタ特異な局所散乱補正(LSC)を生スペクトルに対して適用して、局所補正スペクトルを得るように構成されている。処理ユニットはさらに、クラスタ特異な最適化された予備処理パラメータのセットを使用して局所補正スペクトルを予備処理し、そして予備処理された局所補正スペクトルにクラスタ特異な較正ベクトルを乗算して被分析物の較正された濃度値を得るように構成されている。
【0022】
いくつかの実施形態においては、生スペクトルを取得するために、SoCは、対象物に対して幾つかの波長に可変の電磁放射線(EMR)を差し向け、各々の波長において対象物から受信したEMRの強度を測定するように構成されている。処理ユニットは、強度を吸光度値に変換するようにプログラムされており、かくして生スペクトルは吸光度スペクトルを含み、または吸光度スペクトルとして表される。SoCは、1900-2500nmの範囲または1000-3500nmの範囲の波長においてEMRを発するように構成されてよい。
【0023】
スペクトルの幾つかのクラスタは、SoCを使用して事前に収集されたスペクトルに対応していてよい。クラスタの各々は、それぞれのLSC基準およびそれぞれの較正ベクトルを介して表されてよい。SoCは、クラスタの各々について、それぞれのLSC基準およびそれぞれの較正ベクトル、並びに大域散乱補正基準(大域散乱補正ベクトルとも呼ばれる)を記憶するためのメモリを含んでいてよい。SoCのメモリはまた、各々のクラスタについて、対応する予備処理パラメータの最適化されたセットを記憶していてよい。
【0024】
いくつかの実施形態においては、スペクトルの幾つかのクラスタの中から生スペクトルの属するクラスタを識別するため、プロセッサは、メモリに記憶された大域散乱補正(GSC)基準を使用して大域補正スペクトルを導出するようにプログラムされている。プロセッサはまた、各々のクラスタ内において、(i)大域補正スペクトルをそれぞれのLSC基準と比較してそのクラスタに対応する距離を取得し、そして(ii)対応する距離が最小であるクラスタを選択するようにプログラムされていてよい。大域散乱補正は、大域乗法的散乱補正、または大域標準正規変量(SNV)補正、または大域平均センタリングおよび正規化補正を含んでいてよい。同様に局所散乱補正は、局所乗法的散乱補正、または局所標準正規変量(SNV)補正、または局所平均センタリングおよび正規化補正を含んでいてよい。局所および/または大域散乱補正は、粒子径差の補正および/または経路長差の補正のための線形化変換を取り込んでいてよい。
【0025】
いくつかの実施形態においては、SoCは、SoCによって発せられた放射線の波長のシフトを追跡するための波長シフトトラッカー、および/またはSoCによって発せられた放射線の絶対波長を追跡するための波長トラッカー、および/またはチップの温度を測定するための温度センサー、および/または波長掃引の間にSoCによって発せられたEMRの強度をモニターまたは測定して出力曲線を得るためのSoC出力電力モニターを含んでいる。
【0026】
いくつかの実施形態においては、幾つかの生スペクトルのそれぞれのスペクトル形状を決定するために、プロセッサは、選択された被分析物の基準スペクトルに基づく線形変換および基線補正を生スペクトルに対して適用して、生スペクトルを予備処理するよう構成されている。この予備処理を行うために、プロセッサは、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正、またはこれら補正技術の任意の2つまたは3つ全部の組み合わせを適用するように構成されていてよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図面の簡単な説明
図1は、本発明の実施形態にしたがい対象物の遠隔測定を行うために用いられるフォトニックSoCの概略的なブロック図であり;
図2は、本発明の実施形態にしたがい検出実験を行うために用いられるフォトニックセンサーシステムの単純化された概略図であり;
図3は、本発明の実施形態にしたがいセンサーのための較正アルゴリズムを生成するために
図1および
図2に示されたハードウェアと組み合わせて使用されるアルゴリズムの単純化された概略的なブロック図であり;
図4aは、大域MSCベクトルを太く示した、子ブタからの多量のセットの蓄積した生吸光スペクトルのグラフであり、そして
図4bは本発明の実施形態にしたがい基線補正(MSC)を行った後、クラスタ化手順の前におけるスペクトルのグラフであり;
図5は、
図4bからの基線補正スペクトルのグラフであり、k平均アルゴリズムを使用して6つの異なるクラスタへとクラスタ化されており(定義によればN=6)、グラフ内では各々のクラスタ内でのセントロイドへの最大距離が示されている;
図6は、本発明の実施形態にしたがい個別の較正モデルを構成するためのアルゴリズムの概要を示すブロック図であり;
図7aは、MSC基線補正を適用する前の1つのクラスタ内における対象物-子ブタ-から収集された生スペクトルのグラフである。太くした黒のスペクトルは計算された局所MSC基準であり、そして
図7bは、基線補正(MSC)の後の同じクラスタ内のスペクトルのグラフであり;
図8は、子ブタについて経皮散乱検出ジオメトリを使用してグルコース分子について得られた個別の構成要素濃度較正ベクトルのグラフであり;
図9は、本発明の実施形態にしたがいハイブリッドIII-V/IV半導体フォトニックセンサーSoCと共に使用される検出アルゴリズムの概略的なブロック図であり;
図10は、鎮静状態の子ブタについて本発明の実施形態のデータ処理方法を使用するオンチップフォトニックセンサーシステムの経皮血中グルコース検出性能のグラフであり;
図11は、鎮静状態の子ブタについて本発明の実施形態のデータ処理方法を使用するオンチップフォトニックセンサーシステムの経皮血中乳酸検出性能のグラフであり;そして
図12は、鎮静状態の子ブタについて本発明の実施形態のデータ処理方法を使用するオンチップフォトニックセンサーシステムの経皮血中エタノール検出性能のグラフである。
図13は、エタノールの分析に際しての経皮組織スペクトルに対するクベルカ-ムンク予備処理の効果を示すグラフである。
図14aは、観察信号をクベルカ-ムンク補正を使用して予備処理することなしに、ベール-ランバートモデルを使用して分解した観察信号を示している。
図14bは、クベルカ-ムンク補正を使用して観察信号を予備処理した後の、同じベール-ランバートモデルを使用して分解した、同じ経皮観察経皮信号を示している。
【0028】
詳細な説明
光学的遠隔測定(リモートセンシング)は、広範囲の用途について開発の進んだ技術である。測定(検出)は測距の1形態として、すなわち飛行時間または周波数変調された連続波(FMCW)技術によって距離を測定することにより行うことが可能であり、或いはまた測定は分光測定により、対象物内の1つまたはより多くの分子の存在または不存在を遠隔的に検出し、識別し、そして定量するために行うことができる。
【0029】
本明細書において、分光測定という用語は、ハイブリッドIII-V/IV半導体オンチップフォトニックシステム(P-SoC)を設置することを指しており、これは波長可変レーザ放射線を発生し、遠隔の目標対象物と通信する。波長の変化および絶対値は掃引ごとにモニタリングおよび考慮され、かくしてSoCが絶対波長および波長シフト、並びに出力スペクトルに関して自動較正されるようにする。
【0030】
光は対象物に衝突し、散乱基質、内容物その他といった、対象物個々の特異性に依存した光路長によって規定される所定の深さまで貫通する。例えば、生物対象物について経皮検出実験を行うために1900-2500nmのスペクトル範囲にある波長可変レーザ放射線を使用する場合、光は皮膚表面から約1mm下側まで貫通し、そこで組織、血液、および間質液によって散乱されて部分的に吸収される。こうした吸収は分子特異であり、各々の構成分子は光のスペクトルを固有のスペクトル吸収シグネチャで変性する。対象物と相互作用を行った後に、伝播され、散乱され、または反射された光は、光検出器によって収集および検出される。
【0031】
本発明の実施形態を説明する概略的なブロック図を
図1に示す。ここではオンチップフォトニックシステムはハイブリッドIII-V/IV半導体チップ1および制御および信号処理電子機器2を含んでおり、これらがフォトニックセンサーチップのハードウェア部分を形成する。オンチップフォトニックセンサーは、生物体、単離物質、その他であってよい対象物3と光学的通信状態にある。この構成内において、オンチップフォトニックシステムは対象物から遠隔にある。
【0032】
図示の実施形態においては、ハイブリッドIII-V/IV半導体チップ1はハイブリッドIII-V/IV外部キャビティレーザ100を含んでおり、これは光路10を介して波長掃引レーザ放射線を発生する。このビームの一部は経路11を介して分割され、経路11経由で波長シフトトラッカー120に供給され、光路14経由で絶対波長基準130に、光路17経由でレーザ出力曲線モニタリングブロック140に、そして光路19経由で出力部に供給される。チップ1はまた、チップの温度を検出するための温度センサ110を含んでいてよく、これは次いで、絶対波長基準較正のために使用することができる。
【0033】
波長シフトトラッカー120は、マッハ-ツェンダ、ミケルソン、ファブリ-ペローその他のような、任意の種類の不平衡干渉計であることができる。不平衡干渉計は光路12を介して、トラッカー120の出力においてビート信号をもたらし、そして光検出器(PD)ブロック121は発振信号を登録するが、ここで発振期間は干渉計内部の光路差と波長に依存している。光路差は設計によって規定され、また既知のパラメータである。波長のシフト値はかくして、任意の所与の時点における波長の絶対値が知られていれば、抽出可能である。これは光路15を介してモニタリング光検出器131に結合された絶対波長基準ブロック130によって提供される。絶対波長基準は、分布ブラッグ型回折格子(DBR)、マイクロリング共振器(MRR)、分布帰還型回折格子(DFB)、またはハイブリッドレーザ100の掃引によってカバーされるスペクトル範囲内に一義的な特徴的伝播または反射特性を有する任意の他の光学キャビティ構造であることができる。このようにして、光検出器ブロック121および131は協働的に、掃引の間の任意の所与の時点における絶対波長値および波長シフト値に関する情報を提供する。
【0034】
トラッキング波長のシフトおよび絶対波長値は多くの場合、システムの影響を対象物に関連する影響から切り離すために必要である。例えば、発光波長はシステム側において非線形な仕方で変化する場合があり、したがって絶対波長のシフトおよび値の情報についての正確な知識がなけれは、時間領域から波長(または周波数領域)への信号変換を行うことは困難となりうる。別の実施態様は、収集したスペクトルが対象物側における変化-温度に基づく水分の移動のような-に基づいて、または他の強い基線寄与因子に基づいて変化することである。システムの出力を常時知っているのでなければ、対象物から収集したスペクトルがシステムの出力において変化することに基づいてシフトした場合であろうと、対象物内部の変化によって影響された場合であろうと、切り離しを行うことは不可能である。したがって、波長のシフトおよび絶対波長の情報のトラッキング(追跡)を掃引毎に行うことは、収集されたスペクトルに対するシステムに特有の変調を、有用な信号である対象物に特有の変調からから切り離すことを可能にする。
【0035】
実際の場合には、グルコース、乳酸、エタノールその他といった目標分子は、経皮検出の場合には主要タンパク質(コラーゲン、アルブミン、ケラチン)および水といった主たる基線寄与因子と比較して、非常に小さな濃度を有している。これらの主たる寄与因子は目標分子と比較して、10000倍またはそれ以上に強い信号をもたらし、かくして温度の影響に起因する水分の移動における僅かな変化が導く可能性がある基線の変化は、気付かなかったとすれば、グルコースに起因すると考えられる何らかの有用な信号を消し去ってしまう。したがって、波長のシフトおよび絶対値を掃引毎にトラッキングする性能は、掃引毎の基線の変化をトラッキングすることに対するアクセスを可能にする。
【0036】
波長のシフトは掃引の間にビート信号としてモニタリングされてよく、これに対して絶対値は掃引毎に一回測定され、そして波長のシフトおよび絶対波長の両者からの情報は、掃引が完了した直後に記録情報を較正するために使用される。波長のシフトの決定についての精度は、波長シフトトラッカー内部における光路差といったシステムの設計に依存しており、波長シフトトラッカーは次いでビート信号をもたらす。現実的な場合の状況においては、これは対象物内部の目標分子種の吸収特性の精緻さに依存している。対象物が生物学的物質であり分子が液相を示す場合には、非常に広範なスペクトルシグネチャによって特徴付けられ、波長シフトトラッカーは0.1nmから数nm、典型的な値では3-5nmの精度を有することができる。
【0037】
気体の検出の場合には、関心事となる吸収線の幅は100MHzの範囲にあり、波長のシフトトラッキングはより良好な解像度を有するように設計される必要があり、また絶対波長基準は十分に高い解像度の絶対波長をもたらすように設計される必要がある。実際的な場合には、これは非常に良好な精度で達成可能である。例えば、典型的なIV族半導体製造技術は160nmまたは7nmまでもの微細なノードサイズに依拠したものであるが、これは典型的な発光波長と比較して3桁大きい。一回の掃引時間の長さはシステムのアーキテクチャによって規定され、波長可変機構が可変要素の機械的な動作によって行われる場合の数分から、波長可変動作が電子的に行われる場合の数マイクロ秒まで継続しうる。ハイブリッドIII-V/IVセンサーチップについての実際的な場合では、実際の現実的なシステム設計および用途の条件に応じて、掃引速度は数十HzからMHzの範囲にまでわたることができる。
【0038】
センサーの設計およびスペクトル帯域幅の範囲条件に応じて、単一の掃引は数10から数100の個別波長を含むことができる。グルコース検出のための典型的な実際例では、精確な予測を行うために大体100またはそれ以上の個別波長が必要である。既存の最新技術の幅広い可変波長(掃引波長)のレーザの構想に基づけば、バーニアフィルターを相制御と組み合わせて作動させた場合には、掃引は殆ど連続的であることができる。いくつかの実施形態においては、発光波長の絶対値は特定の範囲内、例えば1000から3000nm、1900nmから2500nm等で可変である。かくして、特定の時点における可変発光波長の値は、1898nm、1905nm等であってよい。これに対応する波長のシフトは、1nm、2nm、10nm等であることができる。
【0039】
関心事の媒体から受信したEMRは、光検出器121および131の内部で光学領域から電気信号へと変換され、光検出器からの電気信号は導電路13および16を介して、駆動および制御電子回路ブロック2、並びにその中のアナログデジタル変換器(ADC)および増幅器ブロック210に接続された導電路30へと経路指定される。ここで、フォトニックチップからのアナログ信号は増幅され、デジタル化される。デジタル化された信号はCPU220に供給され、これは信号のフィルタリング、平均化、および他の処理を行う。CPU220は、較正モデルを有するメモリブロックを含んでいる。この較正モデルは収集データに対して適用されて較正された濃度レベル値が取り出され、これは次いで出力ポート、例えばディスプレイ240へと導電路39を介して供給される。CPU220の別の機能は、ドライバおよびデジタルアナログ変換器(DAC)ブロック230へと導電路38を介して制御信号を提供することであり、このブロックは次いで制御および駆動信号をSoCへと導電路40を介して提供する。センサーシステムの全体は、電気バス31、32、33、34、35、36を介して電源200によって給電されている。
【0040】
図1のセンサーシステムの単純化されたバージョンが
図2に提示されており、そこではアナログデジタル変換器(ADC)ブロック210、波長シフトトラッカー光検出器ブロック121、絶対波長基準光検出器131、レーザ出力曲線光検出器140、信号光検出器150およびCPU220といった幾つかの内部ブロックが、明確化のために個々に強調されている。
【0041】
現場で用いられた場合、オンチップフォトニックセンサー1は可変波長の信号を遠隔の対象物3へと光路20を介して送信する。この信号の強度Iは、周波数ω(または波長)および時間tの任意の関数として表すことができる:
I=f(ω,t) (1)
【0042】
この光は対象物3と相互作用し、対象物内で数多くの散乱および吸収事象を経る。散乱され拡散的に反射された光の一部分は、光路21を介して信号光検出器150に収集される。この光信号の強度を周波数および時間の関数I’によって表すことができる:
I’=f’(ω,t) (2)
【0043】
この信号は対象物との相互作用に起因して変調され、対象物特異な情報、例えば構成要素の濃度レベルを担持している。この後者は吸光度Aとして評価可能であり、これは個々の吸光度Aiの線形な重ね合わせとして表すことができる:
A=-ln(I’/I)=ΣiAi=Σiε(ω)icil=ε(ω)1c1l+ε(ω)2c2l+(ω)3c3l+・・・ (3)
【0044】
式中、ε(ω)iは個別の構成要素iの周波数依存性のモル吸収率、ciは個別の構成要素iのモル濃度、そしてlは対象物内の有効光路長である。
【0045】
対象物が生物体である実際的な場合においては、個別の吸光度の寄与分は、例えば:1-ケラチン、2-グルコース、3-乳酸、4-尿素、5-コラーゲン等といった、異なる構成要素による寄与分として表すことができる。これは、複雑な行列を構成要素へと分解する方法をもたらし、かくして検出の可能性を提供する。データを収集および処理して較正された濃度値を導出する手順は、
図3、
図6および
図9にブロック図の形で示している。
【0046】
検出を行うための基本的な作動方法は、最初に較正アルゴリズムをハードウェアと組み合わせて使用して較正モデルを生成し、それをCPUのメモリに記憶することを含んでいる。このモデルは汎用と考えることができ、使用中に修正を行う必要性なしに、現場において各センサーについて採用することができる。次の工程は、次いで
図9によるアルゴリズムを、ハードウェアおよびシステムメモリまたはCPU内に記憶された較正モデルと組み合わせて使用することである。
【0047】
本発明の実施形態によれば、検出構成において用いられた場合に、オンチップフォトニックシステムは幾つかの出力チャンネルをもたらし、これらは光検出器121を介した波長のシフト値、光検出器131を介した絶対波長基準値、レーザ出力曲線モニタリングブロック140を介したレーザ強度曲線、および/または信号光検出器150を介した対象物特異な情報を含む反射信号といった、フォトニックチップの状態に関する情報を含んでいる。これらの電気信号は、制御および信号処理電子回路ブロック2へと経路指定される。そこにおいて信号は、アナログデジタル変換器および増幅器ブロック210へと供給される。
【0048】
被分析物の測定のためのシステム較正
フォトニックSoC1から受信した取得アナログ信号を処理するためのアルゴリズムは、最初にADCおよび増幅器ブロック210において、受信信号を増幅しデジタル化することによって開始される。この段階において信号は、まだ時間領域の信号として処理される。こうして増幅されデジタル化された信号は次いで中央処理ユニット(CPU)220へと供給され、そこにおいて対象物特異な信号22は、導電路13を介して受信した波長のシフトおよび導電路16を介して受信した絶対波長較正の情報を使用して処理されて時間領域から周波数領域へと変換され、導電路18を介して受信したレーザ出力曲線に関して正規化される。この手順は最初に信号を時間領域で得ることを可能にし、またシステム関連の非線形性に対処して主として対象物特異なデータを担持する信号をさらに処理するものであり、
図3において工程2210として示されている。
【0049】
複数のスペクトルが収集され、平均化され、フィルタリングされてノズルが低減される。例えば
図4Aにおいて、個々の曲線の各々は平均化されたスペクトルを表している。その後、補正された強度が工程2220内で式(3)によって吸光度へと変換され、多数の生吸光スペクトルが工程2230で示されるようにして蓄積される。生スペクトルは典型的には、組織の異なる生理機能(例えば、異なる散乱粒子径等を有する異なる組織試料による)、光路長差に基づく強度、および/または粒子径差に起因して、多種多様のスペクトル形状を有している。散乱効果を補正するために、工程2240で乗法的散乱補正(MSC)が生吸光データに対して適用され、そして大域MSC基準ファイル(または平均スペクトル)が工程2250内で抽出され(
図4aのグラフのほぼ中央において太線で示されている)、次いでシステムメモリに記憶される。この大域MSCスペクトルは後に、全く同じ基線補正手順に基づいて、生データを正しいクラスタに割り当てるために使用される。そして、工程2240内で基線補正された(例えばMSCの後)すべてのデータ(
図4b参照)は、次に工程2260において、スペクトル形状の類似性に基づいてクラスタへとグループ化される。標準正規化(SNV)補正、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、または平均センタリングおよび正規化補正のような他の種類の散乱補正技術を、乗法的散乱補正の代替として適用してよい。
【0050】
図5を参照すると、
図4bの基線補正されたスペクトルが、k-平均化アルゴリズムを使用して、6つの異なるクラスタにクラスタ化されている(定義によればN=6)。各々のクラスタ内でのセントロイドまでの最大距離は、グラフ内に示されている。
【0051】
例示したように、大域MSC補正データは、生スペクトルを各々のクラスタに割り当てるためにだけ使用されている。かくして割り当てられたクラスタは、生の、すなわち未処理データを含んでいる。クラスタ化は、幾つもの仕方で行うことができる。2つの可能な方法が
図3に示されている。最初の方法、すなわち工程2270においては、スペクトルはスペクトル形状の類似性に基づいて、固定され画定された数Nのクラスタにグループ化される。この手法の欠点は、σをクラスタセントロイドのアレイとし、kをクラスタの数としたときに、誤差すなわちスペクトルから割り当てられたクラスタセントロイドまでの距離σ
kが、異なるクラスタ間で大きく変動しうることである(
図5参照)。工程2275として示した、より良好な可能性のある方法においては、クラスタ化は任意のスペクトルからクラスタセントロイドまでの最大距離を規定することによって行われるが、結果としてクラスタの数は任意となり、この数は実際的な場合には大きくなる可能性がある。かくして、2276として示した中間的な方法が使用されてよく、そこではクラスタの数Nとクラスタセントロイドまでの最大許容距離の両者が規定される。こうした場合、規定された数のクラスタ内でセントロイドまでの距離の規準に合致するスペクトルは異常値とみなされ、データ分析には使用されない。クラスタの所定数は任意の大きいものであってよく、実際的な場合には被分析物および検出ジオメトリに応じて10-50であってよい。クラスタセントロイドのセットはCPUメモリに記憶され、検出機能が後にGS補正されたスペクトルを割り当てるために使用される。
【0052】
クラスタ化が完了したならば、各々のクラスタ内の個々の較正モデルが工程2280において生成される。個々の較正モデルは較正された濃度レベル値を各クラスタ内でスペクトル毎に、前述のように絶対標準により測定されたところによって割り当てる。較正モデルのこのセットは次いで、工程2300においてMSC基準ベクトルに次いでCPUメモリに記憶される。
【0053】
個別の較正モデルを構成するためのアルゴリズム2280が
図6に示されている。
図7aおよび
図7bも併せて参照すると、本発明の実施形態によれば、各々のクラスタ内に個別の較正モデルを構築するための工程2280は、クラスタ内で生スペクトルに対して散乱補正(例えばMSC)を適用することによって開始される。これは各々のクラスタについて個別の、局所MSC基準をもたらし、CPUメモリに記憶される(
図7aの太線参照)。この局所基準は、検出モードにおいて取得した生データを処理するために使用される。標準正規化(SNV)補正、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、または平均センタリングおよび正規化補正のような他の種類の散乱補正技術を、乗法的散乱補正の代替として適用してよい。
【0054】
工程2281からの局所基準は次いで、部分的最小二乗(PLS)モデルを各クラスタ内に構築するために使用され、ノイズフィルタリングパラメータ、導関数(微分)の次数、PLS潜在ベクトルの数といった最適なモデルパラメータが、工程2282内で交差検証法を使用して得られる。このタスクはデータ予備処理パラメータの最適なセットを工程2283においてもたらし、これは次いで生スペクトルを含んでいるすべてのクラスタに対して適用されて、個別の較正モデルが工程2284で構築される。換言すれば、各々のクラスタ内において、生スペクトルは局所散乱補正基準を使用して修正される。このことは、すべてのデータが同じパラメータのセットで同じ仕方で取り扱われることを確実にする。較正モデルは次いで、選択された基準技術(絶対基準とも呼ばれる)によって測定された、関心事の被分析物(単数または複数)の較正された濃度レベル(単数または複数)を、局所補正されたスペクトルの各々に対して割り当てる。較正モデルは、特定の波長におけるスペクトルにより表される吸光度を、被分析物の濃度レベルにマッピングする。
図8を参照すると、得られた個別の較正ベクトルは次いでCPUメモリに記憶される。較正ベクトルは、多変数回帰較正の出力である。クラスタ内のすべてのスペクトルを使用したモデルのトレーニングの後に、各々の波長において、局所補正され予備処理された吸光スペクトル値についての重みが決定される。予測においては、予備処理された吸光度はi番目の波長値毎に対応する重みが乗算され、次いですべての波長にわたって加算を行うことによって、予測濃度は:
c=w
1A
1+w
2A
2+・・・+w
nA
nとして得られ、式中nはスペクトルにおける波長の数である。幾つかの場合については、試料が比較的単純な散乱行列に関連している場合、そして試料がより少ない構成要素を含んでいる場合には、クベルカ-ムンク補正、MSC、サンダーソン補正、またはこれらの組み合わせを使用して、試料から得られたスペクトルデータを単純に予備処理して散乱の非線形効果を補正することにより、そして次いで基線を除去して関心事の構成要素のスペクトルを得ることにより、妥当な濃度予測を得ることができる。特に生物体の組織のようなより複雑な試料について、より高い精度を求めるためには、PLSまたはそれに類するもののような多変数線形回帰と組み合わせて、散乱補正(または線形化変換)を使用してよい。
【0055】
一般に較正に際しては、EMRが試料(媒体とも呼ばれる)に対して差し向けられ、そこではEMRがある波長範囲にわたって掃引される。これに応答してEMRが試料から受信され、そこでは受信されたEMRは試料によって拡散的に反射され、または試料を通って伝播される。受信されたEMRは異なる波長成分を有し、生吸収スペクトル(生スペクトルとも呼ばれる)に変換される。幾つもの生スペクトルを得るために、このプロセスは数回にわたって繰り返されてよく、それらは次いで平均化されて、平均化生スペクトルが得られる。以下の説明においては、簡単化のために「平均化」という用語は省略する。こうした生スペクトルはXraw
iで表してよく、ここで添字iはそれぞれの平均化した生試料を示し、1からMの範囲にわたることができるが、ここでMは50、100、2000、10000またはそれ以上といった任意の数であることができる。上記のプロセスは異なる時点で繰り返され、そこでは試料中の被分析物濃度は異なる時点で異なっていてよく、また試料の異なる領域または異なる試料が使用されてよく、そこでは試料の異なる領域または異なる試料において、被分析物の濃度は異なっていてよい。
【0056】
次いで散乱補正(MSC、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正等)が生スペクトルXraw
iに対して適用され、XG
refと示される大域基準および大域補正スペクトルXGC
iとが得られる。大域基準XG
refはメモリに記憶される。クラスタ化が次いで、大域補正スペクトルXGC
iを使用して行われ、N個のクラスタが識別される。このNという数(例えば4、5、6、10等)は、クラスタ化動作のために指定してもよく、または代替的には、クラスタ化それ自体が最適なNを決定してもよい。XGC
iの各々について、対応するクラスタCk、k∈[1,N]が識別され、その後に対応する生スペクトルXraw
iが同じクラスタに指定される。クラスタ化の後、クラスタの最適数、クラスタセントロイド、およびクラスタセントロイドまでの最大許容距離がメモリに記憶されて、検出機能に使用される。
【0057】
生スペクトルのすべてがそれぞれのクラスタに対して指定されたならば、各々のクラスタ内で上記のプロセスが繰り返される。具体的には、特定のクラスタk内で散乱補正が生スペクトルXraw
iに対して適用されて局所基準XLk
refが得られ、メモリに記憶される。クラスタk内で散乱補正を生スペクトルXrawk
iに対して局所的に適用することにより、クラスタkについての局所補正スペクトルXLCk
iが生成される。このプロセスはすべてのクラスタに対して繰り返され、各々のk∈[1,N]について、それぞれの局所基準XLk
refおよび局所補正スペクトルXLCk
iが得られる。
【0058】
繰り返しになるが、異なる生スペクトルXraw
iには異なるレベルの被分析物濃度が対応していてよい。Ciとして示されるこうした濃度レベルは試料から、選択された絶対標準技術を使用して得られる。最後に、多変数線形回帰較正を介して、各々のクラスタkについて較正ベクトルVkが生成される。較正ベクトルVk、局所基準XLk
ref、および較正ベクトルを生成するために使用されたデータ予備処理セットは、各クラスタについて、SoCのメモリモジュールに記憶されてよい。データ予備処理セットは、較正ベクトルが、吸光度、n次の導関数で処理された吸光度、フィルタリングの次数、クベルカ-ムンク補正、サンダーソン補正、乗法的散乱補正その他を用いて得られたか否かを規定する。これは、検出のためにセンサーが用いられる場合に、すべての生データが正確に同じ仕方で処理されることを確実にするために必要である。大域基準XG
refもまた、SoCのメモリモジュールに記憶されてよい。
【0059】
最適なデータ予備処理セットを得るための1つの例示的なプロセスは次の通りである:
【0060】
クラスタ内において、局所補正されたスペクトルに対し、選択されたフィルタおよびその程度(例えば、サビツキーゴーレイ法、フーリエ変換フィルタ、パーセンタイル、移動平均)でもって、信号の平滑化(ノイズフィルタリング)を繰り返して適用する。加えて、1次または2次の微分的基線除去を適用してもよい。
【0061】
局所補正され予備処理されたスペクトルおよび対応する濃度をランダムに分割してトレーニング用およびテスト用のセットとする。
【0062】
多変数回帰較正アルゴリズムをトレーニング用セットに適用し、モデルが訓練された後に、テスト用セットを使用して濃度を予測し、予測の精度を評価する。
【0063】
交差検証と呼ばれるプロセスにおいて、ステップ2および3を何回か繰り返し(例えばn回の繰り返し)、現在のデータ予備処理セットについての平均予測精度を得る。
【0064】
ステップ1-4は、ステップ1で選択された異なるパラメータのセットを用いて繰り返してよい。最適なパラメータのセットは、最高の平均予測精度という結果を得たセットである。
【0065】
多変数回帰アルゴリズムは、予測因子と応答変数との間の関係をモデル化する。かくして、較正スペクトル行列Χ∈Rdは予測因子とみなしてよく、ここでdは波長の数であり、そして被分析物濃度ベクトルY∈Rは応答とみなされる。スペクトル行列のi番目の行の各々は局所補正され予備処理されたスペクトル(例えば、局所補正された吸光スペクトルに適用されるサビツキーゴーレイフィルタおよび2次導関数)に対応し、そして応答ベクトルのi番目の行の各々は絶対標準で測定された被分析物の濃度に対応する。予測因子と応答との間の関係が決定されたならば、局所補正され予備処理された新たなスペクトルに基づいて、被分析物の濃度の未知の値を予測することができる。多変数回帰は、部分最小二乗回帰およびその修正版、多重線形回帰、サポートベクトル回帰、人口ニューラルネットワーク、および/または主成分回帰を含んでいてよい。
【0066】
検出または被分析物の測定
図9を参照すると、メモリに記憶された個別の較正ベクトル、大域MSC基準、および局所MSCベクトルが、検出アルゴリズムによって、ハイブリッドフォトニックSoCの検出機能を実行することを可能にする。特に、現場で採用されたならば、ハイブリッドIII-V/IVフォトニックSoCは、散乱反射信号を収集し、これは次いで絶対波長基準、波長のシフト値およびレーザ出力曲線信号と共に、ADC+増幅器セクション210内で増幅されデジタル化される。そしてこの時間領域の信号は工程2210内において、周波数領域に変換され、絶対波長、波長のシフト、チップ温度およびレーザ出力曲線に関して平均化され較正される。次に、反射された強度は工程2220において吸光度に変換される。
【0067】
次に工程2221において、クラスタ化手順を開始するために、CPUメモリから取り出した大域散乱補正GSC基準を使用して、収集された吸光スペクトルは基線補正を受ける。収集されたスペクトルをクラスタ化するために、クラスタセントロイドおよびクラスタセントロイドまでの最大許容距離がCPUメモリから提供され、これに応じてデータは工程2223において分類される。提示されたクラスタセントロイドまでの距離が最大許容距離を超える場合には、CPUはエラーメッセージを発してユーザにセンサーの位置を調節するように指示し、工程2224で誤差が最大許容値を超えなくなるまでデータ収集を再スタートする。基線補正後の収集されたデータが有するクラスタセントロイドまでの距離が、工程2225において許容範囲内である場合には、収集された対応する生スペクトルは、工程2226において、セントロイドまでの距離が最小であるクラスタに割り当てられる。
【0068】
次に工程2227において、新たに割り当てられたクラスタ内で生スペクトルは、CPUメモリからの局所散乱補正基準を使用して基線補正され、そのデータはデータ予測工程2229に適するように工程2228においてCPUメモリからのデータ処理セットを使用して予備処理されるが、そこではデータは多変数回帰較正によって得られたCPUメモリからの個別の較正ベクトルVkで乗算される。スペクトルの行ベクトルに回帰重みの列ベクトルを乗算すると、被分析物の濃度について単一の値が得られる。異なる被分析物の各々は、異なる較正ベクトルを、したがって異なる重み、すなわち特定の被分析物について異なる波長特異性を有することになる。例えば、2100nmというのは乳酸およびグルコースの両者に関連がありうるが、しかし重みは異なることになる。被分析物の濃度はc=w1*A1+w2*A2+・・・+wn*Anである。ここでwnはn番目の波長における較正重みであり、Anはn番目の波長において局所補正され予備処理された吸光度である。そして出力は、関心事の被分析物の較正された濃度レベルである。
【0069】
一般に、検出プロセスは較正プロセスと同様の仕方で開始される。具体的には、EMRが試料(媒体とも呼ばれる)に対して差し向けられ、この試料から被分析物の濃度が決定される。EMRはある範囲の波長にわたって掃引される。これに応じてEMRが試料から受信され、そこでは受信されたEMRは試料により拡散的に反射されまたは試料を通って伝播される。受信されたEMRは異なる波長成分を有し、生吸収スペクトル(生スペクトルとも呼ばれる)に変換される。幾つもの生スペクトルを得るために、このプロセスは数回にわたって繰り返されてよく、それらは次いで平均化されて、Yrawと示される平均化生スペクトルが得られる。ここでも以下の説明において、簡単化のために「平均化」という用語は省略する。
【0070】
次いで、XG
refと示される大域基準(較正プロセス中に生成された)を使用して、散乱補正が生スペクトルYrawに対して適用され、大域補正スペクトルYGCが得られる。次いでクラスタ化が、メモリからのクラスタセントロイド値σkおよびセントロイド値までの距離を使用して行われる。そのクラスタはCkと表してよく、ここでk∈[1,N]であり、ここにおいて数Nはクラスタ化動作のために指定されたものであるか、または代替的には、較正プロセスの一部としてクラスタ化を実行する間に決定されたものである。対応する生スペクトルYrawが次いで、同じクラスタCkに対して指定される。
【0071】
その後、XLc
refと示される対応する局所基準を使用して、選択されたクラスタCk内で、生スペクトルYrawに対して散乱補正が再度適用される。クラスタCk内で、生スペクトルYrawに対して散乱補正およびデータ予備処理パラメータのセットを局所的に適用することにより、局所補正され予備処理されたスペクトルYLCが生成される。このスペクトルYLCの吸光値および選択されたクラスタCkについての較正ベクトルVkを使用することにより、関心事の被分析物についての濃度レベルが予測される。被分析物濃度の幾つかの予測を得るために、このプロセスの全体は数回繰り返してよく、平均化された被分析物予測濃度がもたらされる。
【0072】
本発明の実施形態にしたがう、子ブタでの3つの異なる被分析物、すなわち血中グルコース、血中乳酸および血中エタノールについての、経皮センサー性能の例を
図10から
図12に示す。ここでは、すべての実験について、約40kgの雌ブタを8時間の長さにわたって鎮静化し、緩衝された被分析物溶液であるグルコース溶液を静脈に注射してブタの血中被分析物レベルを上昇させた。
図10のグルコースの場合には、血中グルコースレベルは緩衝されたグルコース溶液を注入することによって上昇され、血中グルコースレベルを低下させるためにはインシュリンが投与された。
図11の乳酸の場合には、血中乳酸レベルは静脈注射によって上昇され、また緩衝された乳酸の投与を中止してブタが乳酸レベルを自然に解消できるようにすることによって低下された。エタノールの場合には、血中エタノール濃度はこの場合も緩衝されたエタノール溶液を静脈注射することによって上昇され、また投与を中止して生体がエタノールを自然に解消できるようにすることによって低下された。すべての場合について、III-V/IVセンサーは、鎮静化したブタの腹部においてブタの皮膚と接触状態にあった。センサーは40Hz(毎秒40掃引または毎秒40スペクトル)の周波数でブタをサンプリングしていた。6分毎にブタの動脈から血液試料を採取し、絶対標準として臨床分析機で分析した。本願で説明する実施形態においては、臨床的な絶対標準として、血中グルコースの較正については2台のAbaxis Piccolo Xpress分析機を使用し、乳酸の較正についてはEKF Biosen Cライン分析機を使用し、血中エタノールの較正についてはAgilent 8860ガスクロマトグラフを使用した。収集したスペクトルは次いで絶対標準で測定した較正グルコース濃度レベルに割り当てられ、データは本発明の実施形態において説明した手順にしたがって処理された。
【0073】
図10において、データポイント1002は較正モデルを形成するために使用したデータポイントを表し、そして赤のデータポイント1004は、調査対象の特定のブタについてそのモデルを使用した複数の予測を表している。この場合において、モデルと較正は、同じブタから取得したデータを使用している。ブタの血中グルコースレベルは日中の期間の間に上下動され、較正データは絶対標準を使用して6分毎に測定した。2つの較正ポイントの間に収集された光学スペクトルは補間され、絶対グルコース濃度値が割り当てられた。
【0074】
代表的な結果は、75mg/dl(4.16mmol/l)から400mg/dl(22.2mmol/l)までのグルコース濃度レベルの幅広いダイナミックレンジにわたり、全範囲において決定係数が97.2%、予測の平均平方二乗誤差(RMSEP)が14.7mg/dl(または0.8mmol/l)、そして平均絶対的相対的偏差が6.7%という優れたセンサー性能を示した。
【0075】
図11においては、緑のデータポイント1006は較正モデルを形成するのに使用されたデータポイントを表し、赤のデータポイント1008は調査対象の特定のブタについてそのモデルを使用した複数の予測を表している。この場合において、モデルと較正は、同じブタから取得したデータを使用している。代表的な結果は、1mmol/lから15mmol/lの濃度レベルの範囲における経皮血中乳酸検出について、決定係数が92.4%、RMSEPが0.954mmol/lであったことを示している。
【0076】
図12においては、緑のデータポイント1010は較正モデルを形成するのに使用されたデータポイントを表し、赤のデータポイント1012は調査対象の特定のブタについてそのモデルを使用した複数の予測を表している。この場合において、モデルと較正は、同じブタから取得したデータを使用している。代表的な結果は、0.2‰から4.2‰の濃度レベルの範囲における経皮血中エタノール検出について、決定係数が96.4%、RMSEPが0.217‰であったことを示している。
【0077】
図13および
図14においては、データ処理/補正の効果が強調されている。
図13においては、拡散反射に基づき、浸透させたブタ耳から収集した典型的な実験的生吸収スペクトル1300が示されている。このスペクトルは、組織-皮膚、その構成要素(コラーゲン、水分その他)およびこの場合には具体的に2%のエタノール水溶液である浸透溶液からの信号を含んでいる。この実験においては、エタノールが関心事の被分析物である。この溶液は耳の動脈に注入され、戻りは静脈から集められた。センサーは耳の皮膚表面に取り付けられ、組織および浸透溶液の拡散反射が収集される。
【0078】
拡散反射が非線形の性質であることから、データの予備処理において重要な1つの工程は、収集したスペクトルを線形化し拡散補正を行うことがあるが、これは正しく適用された場合には、データのさらなる処理、例えばベール-ランバートの吸光度に基づく分析が可能になり、そこでは線形化され補正されたスペクトルが個々の成分に分解される。この後段階での分析は、他の線形回帰技術と組み合わせて実行されてよく、関心事の構成要素/被分析物の濃度レベルの較正された値が得られる。
【0079】
図13においては、生スペクトル1300を分解するためにクベルカ-ムンク線形化が行われており、そして選択した被分析物の基準スペクトルとも呼ばれる、較正された伝播測定から得られた純エタノールの吸収スペクトル1400を使用することにより、観察された経皮スペクトル1500中で、エタノールを単離/分解することができる。追加の処理を行っていないためノイズが多いものの、単離されたスペクトル1500は、3つのエタノール特異なピークを示している。
【0080】
単離されたスペクトルのさらなる処理は、
図14aおよび
図14bに示すようにして行うことができる。ここでは、0.1%から2%の範囲にわたる異なる濃度のエタノールの24時間の浸透サイクルが行われた。動脈入口および静脈出口の対照フローキュベットを使用して浸透溶液の濃度およびその安定性をモニタリングし、基準キュベット信号1600として示した。検出は、拡散反射ジオメトリに基づいて、経皮的に行われた。
【0081】
図14aにおいては、線形化変換/補正を何ら行うことなしに、ベール-ランバートモデルに対するフィッティング(近似)のために-ln(x)を適用することにより、得られた生スペクトル1300が直接処理されている。フィッティングのために使用された成分は、水分、皮膚、エタノール、脂肪、傾き、経路長、およびオフセットを含んでおり、そのためスペクトルは水分、皮膚、脂肪、エタノール、傾き、経路長およびオフセットに分解された。得られた近似物は参照キュベット測定値、すなわち基準キュベット信号1600と比較された。看取されるように、エタノールのトレース1700aは基準となる傾向1600といくらか相関しているが、殆どは不確定であり、検出の用途にとって信頼できる読取り値をもたらすものではない。
【0082】
図14bにおいては、同じ拡散反射スペクトルが、線形化および散乱補正のためにクベルカ-ムンク補正を使用して処理されており、続いてベール-ランバート近似(個々の成分への分解およびフィッティング)が行われている。この場合には、抽出された経皮エタノールのトレース1700bは、急激な上昇/降下プロファイルを含めて、0.1%から2%の範囲全体にわたって基準キュベット信号1600と良好に合致している。
【0083】
ここに記載した本発明の実施形態は単に例示的であることを意図しており、数多くの変形例および修正例が、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の範囲内にあることが意図されている。