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特許7579356COVID-19の治療または予防用ペプチド
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  • 特許-COVID-19の治療または予防用ペプチド 図1
  • 特許-COVID-19の治療または予防用ペプチド 図2
  • 特許-COVID-19の治療または予防用ペプチド 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】COVID-19の治療または予防用ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20241030BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241030BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20241030BHJP
   C07K 7/54 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61K38/12
A61K45/00
A61P31/14
C07K7/64 ZNA
C07K7/54
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022567567
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020075428
(87)【国際公開番号】W WO2021223894
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】20173713.7
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)Lisa Vienna:″SOLNATIDE has been approved for the treatment of COVID-19 patients suffering from pulmonary oedema and acute respiratory distress syndrome by the Italian Medicines Agency and the Ethics Committee of the National Institute for Infectious Diseases″ ウェブサイトの掲載日:2020年4月28日 ウェブサイトのアドレス: https://www.lisavienna.at/news/solnatide-has-been-approved-for-the-treatment-of-covid-19-patients-suffering-from-pulmonary-oedema-a/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (2)Biocom Ag:″COVID-19:Solnatide approved for compassionate use-European Biotechnology″ ウェブサイトの掲載日:2020年4月8日 ウェブサイトのアドレス:https://european-biotechnology.com/up-to-date/latest-news/news/covid-19-solnatide-approved-for-compassionate-use.html
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (3)RTDS-VEREIN ZUR FORDERUNG DER KOMMUNIKATION UND VERMITTLUNG VON FORSCHUNG,TECHNOLOGIE UND INNOVATION(RTDS VEREIN,ENGL.RTDS ASSOCIATION):″Exploration of safety,tolerability and clinical efficacy of solnatide IMP in patients infected with the 2019 new coronavirus Fact Sheet″ ウェブサイトの掲載日:2020年4月1日 ウェブサイトのアドレス:https://cordis.europa.eu/project/id/101003595/en?format=pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (4)Biocom Ag:″COVID-19:Apepticos Leitkandidat Solnatide erhalt Zulassung-transkript″ ウェブサイトの掲載日:2020年4月7日 ウェブサイトのアドレス:https://transkript.de/news/covid-19-apepticos-leitkandidat-solnatide-erhaelt-zulassung.html
(73)【特許権者】
【識別番号】511214668
【氏名又は名称】アペプティコ・フォルシュング・ウント・エントヴィックルング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】APEPTICO FORSCHUNG UND ENTWICKLUNG GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ベルンハルト
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519188(JP,A)
【文献】特表2014-501718(JP,A)
【文献】特表2017-510633(JP,A)
【文献】特表2008-509107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07K
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
COVID-19を有するか、またはCOVID-19を発症する危険性のある患者における、COVID-19の予防または治療用医薬組成物であって、TNF受容体結合活性を示さず、アミノ酸配列 CGQRETPEGAEAKPWYC からなり、環化されるペプチドを含む、医薬組成物。
【請求項2】
患者が、酸素療法を受けていたか、受けているか、または受ける危険性がある、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
患者が、非侵襲的陽圧換気を含む非侵襲的換気、または機械的換気によって、換気されていたか、換気されているか、または換気される危険性がある、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
患者が、COVID-19の管理のために、ICUを含む、病院にいる患者、またはICUを含む、病院に入院する危険性がある、請求項1~3のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
ペプチドが、経口吸入を含む、吸入によるか、または気管内吸入によって患者に投与される、請求項1~4のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項6】
ペプチドが、10mg~500mg、50mg~400mg、75mg~350mg、100mg~300mg、125mg~175mg、に150mg~250mgまたは175mg~225mgの1日用量で患者に投与される;および/または
ペプチドが、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間または少なくとも7日間で患者に投与される、請求項1~5のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項7】
患者がさらに、抗ウイルス薬;クロロキン;抗インターロイキン-6受容体抗体;インターフェロンベータならびにアンギオテンシン-変換酵素2からなる群から選択される少なくとも1つの化合物による治療を受けていたか、受けているか、または受けようとしている、請求項1~6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項8】
抗ウイルス薬がレムデシビル、ファビピラビル、ロピナビル、リトナビル、リバビリン、タリバビリン、ウメフェノビル、アマンタジン、カモスタットおよびTMC-310911からなる群から選択され;クロロキンがヒドロキシクロロキンおよびクロロキンからなる群から選択され;抗インターロイキン-6受容体抗体がサリルマブおよびトシリズマブからなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
患者が、COVID-19を発症する危険性がある医療従事者であり、および/または患者がSARS-CoV-2に感染した別の個人と濃厚接触したことがあるか、または濃厚接触しているか、または濃厚接触する可能性がある、請求項1~8のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項10】
WHOスコアリングスキームによる重症度スコア4のCOVID-19を有する患者が重症度スコアは5または6であるCOVID-1に悪化する危険性を軽減するため、あるいはWHOスコアリングスキームによる重症度スコア6のCOVID-19を有する患者が重症度スコア7または8のCOVID-19に悪化する危険性を軽減するための、、請求項1~8のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項11】
WHOスコアリング方式による患者のCOVID-19の重症度スコアを、6または7から4または5に低下させるための、請求項1~8のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項12】
ペプチドがC残基を介してまたはC残基間のジスルフィド結合によって環化される、請求項1~11のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項13】
患者が、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または少なくとも12のシーケンシャル臓器不全評価(SOFA)スコアを有する、請求項1~12のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項14】
患者の臓器機能を増加させるため、または患者のSOFAスコアを減少させるための、請求項1~13のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項15】
患者が、最大50、最大45、最大40、または35mL/cm H2Oである肺コンプライアンスを有する、請求項1~14のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項16】
患者の肺コンプライアンスを増加させるための、請求項1~15のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項17】
肺コンプライアンスが、動的肺コンプライアンスである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
患者が、37.5℃以上、または38℃以上の体温を有する、請求項1~17のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項19】
患者の体温を下げるための、請求項1~18のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項20】
患者の死亡の危険性を低減するための、請求項1~19のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、コロナウイルス病2019(COVID-19)の予防または治療のためのペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症である。たとえば、Rodriguez-Morales et al.、2020、PubMed unique identifier (PMID) 32179124、Jiang et al.、2020、PMID 32133578、およびTay et al.、2020、PMID 32346093を参照。COVID-19は、2020年にパンデミックになった。
【0003】
COVID-19の最も一般的な症状は、発熱、空咳、疲労感である。その他、あまり一般的ではない症状として、うずきおよび痛み、鼻づまり、頭痛、結膜炎、のどの痛み、下痢、味覚および嗅覚の喪失、または皮膚の発疹、または手足の指の変色などがある。
【0004】
重要なことは、COVID-19が肺に影響を及ぼし、肺炎を引き起こす可能性があることである。重症例では、COVID-19は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に急速に進行し、呼吸不全、敗血症性ショック、または多臓器不全を引き起こす可能性がある。COVID-19に関連するその他の合併症には、敗血症、異常な凝固、心臓、腎臓、肝臓の損傷などがある。
【0005】
いくつかの薬学的介入が提案されており、現在臨床試験が行われている。その中には、レムデシビル、ファビピラビル、ロピナビル、リトナビル、リバビリン、タリバビリン、ウメフェノビル、アマンタジン、カモスタット、TMC-310911などの抗ウイルス薬;ヒドロキシクロロキンおよびクロロキンなどのクロロキン;サリルマブおよびトシリズマブなどの抗インターロイキン-6受容体抗体;インターフェロン-ベータならびにアンギオテンシン変換酵素2などがある。2020年5月1日、米国FDAは、重症のCOVID-19で入院している患者に対するレムデシビルの緊急使用許可を発行した。これは、大規模な臨床試験の結果により、回復期間の短縮が示唆されたためである。これらの介入はいずれも、重症および進行したCOVID-19の患者に有効であることは示されていない。
【0006】
さらに、対症療法が知られている:COVID-19の深刻な影響を受けた患者は、通常、集中治療室(ICU)の環境で、酸素療法、機械的換気、腎代替療法(RRT)または体外膜酸素療法(ECMO)を受けることがある。
世界保健機関(WHO)によると、疾患の重症度は、以下の表1に示すように0~8でスコア付けすることができる。
【0007】
表1-COVID-19の重症度に対するWHOのスコアリング
【表1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、COVID-19に対する安全で効果的な薬剤介入が切実に必要とされている。したがって、本発明の目的は、COVID-19、特に重症のCOVID-19(たとえば、重症度スコアが4を超えるもの)の薬学的予防または治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、患者のCOVID-19の予防または治療における使用のためのペプチドであって、7~17個のアミノ酸からなり、六量体TX1EX2X3Eを含み、X1、X2およびX3が任意の天然または非天然アミノ酸であり得、TNF受容体結合活性を示さない、ペプチドに関する。このようなペプチドは、本明細書においてTIPペプチドと呼ばれる。
【0010】
本発明はまた、
7~17個のアミノ酸からなり、六量体TX1EX2X3Eを含み、X1、X2およびX3が任意の天然または非天然アミノ酸であり得、TNF受容体結合活性を示さないペプチドを含む薬学的に許容される製剤を得ること;および
COVID-19を有するか、またはCOVID-19を発症する危険性のある患者に有効量の製剤を投与すること;
を含む、COVID-19の発症を遅らせる方法またはCOVID-19を治療する方法を提供し、好ましくは、ペプチドは、本明細書に記載されるようにさらに定義されるか、または使用される。
【0011】
TIPペプチド、すなわちAP301またはソルナチド(シクロ-CGQRETPEGAEAKPWYC;CGQRETPEGAEAKPWYCは、配列番号:1である)は、オーストリアとイタリアでCOVID-19患者の治療のための例外的使用の認可を受けている。臨床試験は、現在進行中である(以下の実施例のセクションを参照)。
【0012】
TIPペプチドは、ヒト腫瘍壊死因子(TNF)レクチン様ドメイン(TIPドメイン)を含むペプチドである。TIPドメインは、たとえば、van der Goot et al、1999、PMID 10571070によって取り上げられている。本明細書で使用する場合、TIPペプチドは、六量体TX1EX2X3Eを含む7~17個のアミノ酸からなり、ここで、X1、X2およびX3が任意の天然または非天然アミノ酸であり得、ペプチドはTNF特異的炎症活性を示さず(Hribar et al、1999、PMID 10540321; Elia et al、2003、PMID 12842853)、環化されうる。Tzotzos et al、2013、PMID 23313096によって報告されたように、AP301またはソルナチド(シクロ-CGQRETPEGAEAKPWYC;CGQRETPEGAEAKPWYCは、配列番号:1である)などのTIPペプチドの生物学的活性は、アミロライド感受性上皮ナトリウムチャネル(ENaC)の活性化を含む。
【0013】
COVID-19とは無関係であるが、TIPペプチドは、たとえば、欧州特許 EP 1 247 531 B1およびEP 1 264 599 B1から、浮腫、特に肺浮腫の治療に使用することが知られている。このようなペプチドは、微小血管障害および大血管障害、心筋梗塞、微小血管性心臓透過性亢進、脳卒中、神経障害、網膜症、腎症または糖尿病性足病などの糖尿病患者の血管合併症の治療および予防に使用することも知られている(EP 2 582 385 B1)。さらに、このようなペプチドは、内皮層および/または上皮層の損傷によって引き起こされる透過性亢進の低下による浮腫の予防で知られている(EP 2 403 519 B1、WO 2010/099556 A1としても公開)。さらに、そのようなペプチドは、肺型の高山病の治療および予防における使用が知られている (WO 2014/001177 A1)。このようなペプチドは、ウイルスノイラミニダーゼの阻害剤と一緒に投与した場合のインフルエンザの治療または予防おける使用も知られている(WO 2012/065201 A1)。最後に、WO 2015/140125 A2は、TIPペプチドの乾燥粉末製剤に関する。
【0014】
本発明で使用するためのペプチドは、酸素療法または換気の前、後、またはその最中の患者に特に適している。したがって、好ましい実施形態では、患者は、酸素療法(たとえば、マスクまたは鼻プロングによる)を受けていたか、受けているか、または受ける危険性がある。したがって、別の好ましい実施形態では、患者は、非侵襲的換気、好ましくは非侵襲的陽圧換気、または機械的換気などによって、換気されていたか、換気されているか、または換気される危険性がある。
【0015】
特に好ましい実施形態では、ペプチドは、COVID-19の管理のために、病院にいる、好ましくはICUにいる患者、または病院に入院する、好ましくはICUに入院する危険性がある患者に使用するためのものである。
【0016】
肺におけるその有益な効果をさらに高めるために、ペプチドは、好ましくは吸入によって、好ましくは経口吸入によるか、または気管内吸入によって患者に投与される。
【0017】
ペプチドは、乾燥粉末吸入器を介して(薬学的組成物で)投与され得る。本発明で使用することができるこのような粉末吸入器の例は、米国特許第4,995,385号および第4,069,819号に記載されている;既存製品は、SPINHALER(登録商標)、ROTAHALER(登録商標)、FLOWCAPS(登録商標)、INHALATOR(登録商標)、DISKHALER(登録商標)およびAEROLIZER(登録商標)である。ペプチドの特に好ましい乾燥粉末製剤は、WO 2015/140125 A2に開示されている。
【0018】
あるいは、ペプチドは、典型的には、ネブライザーのスイッチが入っているか、または呼吸によって作動している限り連続的に、ネブライザーを介して(薬学的組成物で)投与され得る。そのようなネブライザーの例としては、Aeroneb(登録商標)およびPari(登録商標)などの既存製品がある。文献US 9,364,618 B2にも、たとえば、ネブライザーが開示されている。
【0019】
最後に、ペプチド(医薬組成物中)は定量吸入器を介して投与され得る。定量吸入器は、通常、患者による自己投与のために、医薬組成物の所定の用量をエアロゾル化する(すなわち、定義された用量でエアロゾルの比較的短いバーストを生成する)デバイスである。定量吸入器は、たとえば、US 6,260,549 B1に開示されている。
【0020】
もちろん、ペプチドは、たとえば、静脈内などの他の方法で投与することもできる。
【0021】
特別な好ましさによれば、ペプチドは、10mg~500mg、好ましくは50mg~400mg、より好ましくは75mg~350mg、さらにより好ましくは100mg~300mg、さらになおより好ましくは125mg~175mg、特に150mg~250mgまたはさらに好ましくは175mg~225mgの1日用量で患者に投与される。
【0022】
有効性をさらに高めるために、ペプチドが、少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間、さらにより好ましくは少なくとも4日間、さらになおより好ましくは少なくとも5日間、特に少なくとも6日間、またはさらに好ましくは少なくとも7日間、患者に投与されるのが好ましい。
【0023】
ペプチドは、他の薬剤と一緒に、または単独で投与することができる。好ましい実施形態では、患者はさらに、レムデシビル、ファビピラビル、ロピナビル、リトナビル、リバビリン、タリバビリン、ウメフェノビル、アマンタジン、カモスタットおよびTMC-310911などの抗ウイルス薬;ヒドロキシクロロキンおよびクロロキンなどのクロロキン;サリルマブ、トシリズマブなどの抗インターロイキン-6受容体抗体;インターフェロンベータならびにアンギオテンシン-変換酵素2からなる群から選択される少なくとも1つの化合物による治療を受けていたか、受けているか、または受けようとしている。
【0024】
本明細書に開示されるペプチドは、特にCOVID-19患者を治療する医療関係者など、SARS-CoV-2感染の危険性が高い患者の予防にも適している。したがって、本発明の好ましい実施形態では、患者は、COVID-19を発症する危険性があり、好ましくは患者は、医療従事者であり、および/または患者は、SARS-CoV-2に感染した別の個人と濃厚接触したことがあるか、または濃厚接触しているか、または濃厚接触する可能性がある。特にそのような患者には、乾燥粉末吸入器または定量吸入器によるペプチドの投与が特に適している。本明細書において、「濃厚接触」とは、約2メートル以内で最短10分間の接触と定義される。
【0025】
さらに好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、患者がWHOスコアリング方式による重症度スコアは5または6であるCOVID-19(上記の表1を参照)に悪化する危険性を軽減するためのものであり、患者がWHOスコアリングスキームによる重症度スコア4のCOVID-19であるのが好ましく、あるいは患者がWHOスコアリング方式による重症度スコア7または8のCOVID-19に悪化する危険性を軽減するためのものであり、患者がWHOスコアリングスキームによる重症度スコア6のCOVID-19であるのが好ましい。
【0026】
さらに別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、WHOスコアリング方式(上記の表1を参照)による患者のCOVID-19の重症度スコアを、特に6または7から4または5に低下させるためのものである。
【0027】
シーケンシャル(または敗血症)臓器不全評価スコア(SOFAスコア)を使用して、ICU滞在中の患者の状態を追跡し、患者の臓器機能の程度または不全率を判断することができる。スコアは、呼吸器系、心血管系、肝臓系、凝固系、腎系および神経系の6つの異なるスコアに基づく(Vincent、J-L.、et al. "The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessmentを参照) score to describe organ dysfunction/failure." (1996):707-710.、PMID 8844239を参照)。SOFAスコアが低いほど、生命を脅かす臓器不全の数が減少し、患者の生存率が高くなる。本発明は、COVID-19患者のSOFAスコアを下げるのに非常に適していることが判明した(実施例2を参照)。したがって、(治療される)患者が、少なくとも8、好ましくは少なくとも9、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも11、特に少なくとも12のSOFAスコアを有するのが好ましい。さらなる好ましい実施形態において、本発明は、患者の臓器機能を増加させるため、または患者のSOFAスコアを減少させるためのものである。
【0028】
肺コンプライアンスは、肺の伸縮能力(弾性組織の伸張性)の尺度である。コンプライアンスが低いと肺が硬くなっていることを示し、コンプライアンスが高いと肺がより健康で弾力性があることを示す。本発明は、COVID-19患者の肺コンプライアンスを高めるのに非常に適していることが判明した(実施例2を参照)。したがって、好ましくは、(治療される)患者の動的肺コンプライアンス(Cdynとも呼ばれ、mL/cm H2Oで測定される)は、最大50、好ましくは最大45、より好ましくは最大40、さらに好ましくは最大35である。さらに好ましい実施形態では、本発明は、患者の肺コンプライアンス、特に動的肺コンプライアンスを増加させるためのものである。
【0029】
正常なヒトの体温(正常体温(normothermia)、正常体温(euthermia))は、ヒトに見られる典型的な温度範囲である。通常のヒトの体温範囲は、通常36.5~37.5℃とされている。体温は、患者の全身状態の一般的な尺度である。本発明は、COVID-19患者の体温を下げるのに非常に適していることが判明した(実施例2を参照)。したがって、患者(治療対象)の体温が37.5℃以上、特に38℃以上であることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、本発明は、患者の体温を下げるためのものである。
【0030】
また、本発明が、死亡の危険性の低減に特に適していることも判明した(実施例2を参照)。したがって、さらに好ましい実施形態では、本発明は、患者の死亡の危険性を低減するためのものである。
【0031】
本発明に従って使用するためのペプチドは、たとえば、以下の特許文献から、それ自体既知である:EP 1 264 599 Bl、US 2007/299003 A1、WO 94/18325 A1、WO 00/09149 A1、WO 2006/013183 A1およびWO 2008/148545 A1。
【0032】
好ましくは、本発明に従って使用されるペプチドは、潜在的な炭水化物結合モチーフであり(Marquardt et al、2007、PMID 17918767)、生物活性を高める可能性がある、アミノ酸六量体TPEGAE(配列番号:2)を含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、元のTNF-αコンフォメーションを可能な限り保持するために、本発明に従って使用するためのペプチドは環状であり(または環状化される)(Elia et al、2003、PMID 12842853)、これは、より高い生物活性につながる可能性がある。Marquard et al., 2007, PMID 17918767によれば、生物活性にとって重要な炭水化物結合にはペプチド環化が必須ではない可能性があるため、これはオプション機能である。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、アミノ酸六量体TPEGAE(配列番号:2)を含む。好ましくは、ペプチドは、環状であり、以下からなる群から選択される連続アミノ酸の配列を含む:
- QRETPEGAEAKPWY (配列番号:3)
- PKDTPEGAELKPWY (配列番号:4)
- CGQRETPEGAEAKPWYC (配列番号:1)
- CGPKDTPEGAELKPWYC (配列番号:5)および
- 六量体TPEGAE(配列番号:2)を含む少なくとも7つのアミノ酸のフラグメント。このようなペプチドまたはそのフラグメントは、たとえば、WO 2014/001177に示されているような生物学的活性を有することができる。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態では、ペプチドは、単一の活性剤として投与される。
【0036】
特に好ましい実施形態において、本発明によるペプチドは、ペプチドAP301またはソルナチド(CGQRETPEGAEAKPWYC、配列番号:1)であり、ここで、ソルナチドは、好ましくはC残基間のジスルフィド結合によって、C残基を介して環化される。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明で使用するためのペプチドは、医薬組成物に製剤され得る。「医薬組成物」という表現は、個体、特に哺乳動物、特にヒトへの投与(特に吸入による投与)のために薬学的に許容される、少なくとも1つの活性剤(すなわち、ペプチド)、および好ましくは1つ以上の賦形剤を含む任意の組成物を示す。適切な賦形剤は当業者に知られており、たとえば、水(特に注射用水)、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、緩衝液、ハンク液、ベシクル形成化合物(たとえば、脂質)、固定油、オレイン酸エチル、生理食塩水中の5%デキストロース、等張性と化学的安定性を高める物質、塩化ベンザルコニウムなどの緩衝剤と防腐剤。本発明による医薬組成物は、液体であるか、または滅菌水、脱イオン水もしくは蒸留水、または滅菌等張リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの液体にすぐに溶解することができる。好ましくは、1000μg(乾燥重量)のそのような組成物は、0.1~990μg、好ましくは1~900μg、より好ましくは10~200μgのペプチド、および場合により1~500μg、好ましくは1~100μg、より好ましくは5~15μgの(緩衝)塩(好ましくは、最終容量で等張緩衝液を生成するため)、および任意に0.1~999.9μg、好ましくは100~999.9μg、より好ましくは200~999μgの他の賦形剤を含むか、またはそれらからなる。好ましくは、100mgのそのような乾燥組成物を滅菌脱イオン/蒸留水または滅菌等張リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解して、0.1~100ml、好ましくは0.5~20ml、より好ましくは1~10mlの最終容量を得る。ただし、投与量と投与方法は、通常、治療を受ける個人によって異なる。一般に、ペプチドは、1μg/kgから10mg/kgの間、より好ましくは10μg/kgから5mg/kgの間、最も好ましくは0.1から2mg/kgの間の用量で投与され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「TNF受容体結合活性を有しない」または「TNF受容体結合活性を示さない」本発明によるペプチドは、患者の治療の成功に有害なTNF特異的炎症活性を引き起こすのに十分なTNF受容体結合活性を有する/示さないペプチドを意味するものとする。
【0039】
特に、「患者の治療の成功に有害なTNF特異的炎症活性」とは、次のことを意味する場合がある:前記ペプチドの添加が新鮮なヒト全血からの炎症誘発性マーカーであるインターロイキン-6(IL-6)の放出をもたらすかどうかを評価するために実施された、ヒト全血サンプル中の前記ペプチドのエクスビボ安全性薬理学的研究では、該血液サンプルに10mg/mlの濃度までペプチドを添加すると、0.5pg/ml未満のIL-6が放出される(EP 2 582 385 A1、実施例2参照)。
【0040】
本明細書において、(ペプチドの)「有効量」という用語は、意図された治療効果または予防効果を引き起こす、たとえば、疾患または状態のさらなる悪化を抑える、そのような悪化を治療する、または治癒を促進する、または疾患もしくは状態を治癒するのに十分に有効な量である。通常、有効量は平均的な患者に対して処方される。しかしながら、実際に有効な量(または用量)は、以下を含む群から選択される1つまたは複数に応じて処方され得る;患者の年齢、体重、一般的な健康状態;疾患または状態の重症度および進行。
【0041】
本発明は、以下の実施例および図面においてさらに説明されるが、それらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、ソルナチドで1日2回7日間治療を受けたCOVID-19患者の逐次臓器不全評価(SOFA)スコアの平均を示す。
図2図2は、ソルナチドで1日2回7日間治療を受けたCOVID-19患者の動的肺コンプライアンスの平均値(mL/cm H2O)を示す。
図3図3は、ソルナチドで1日2回7日間治療を受けたCOVID-19患者の平均体温(℃)を示す。
【実施例1】
【0043】
COVID-19患者における臨床試験
2020年4月11日、ソルナチドの「COV-2-SOLNATIDE-20」臨床試験が、人工呼吸器を装着したCOVID-19患者を対象に開始された(欧州連合医薬品規制当局の臨床試験データベース-EudraCT番号2020-001244-26)。
【0044】
これは第II相、無作為化、プラセボ対照、二重盲検のパイロット試験である。各患者の治療期間は最大7日間、試験期間は最大28日間である。約40人の患者が、1:1の比率で、プラセボ群または1日あたり200mgのソルナチド群に無作為に割り付けられる。
【0045】
投与はAeroneb(登録商標)ネブライザーによる気管内吸入による。ソルナチドは、再構成用の粉末として製剤され、注射用に水で再構成される。
【0046】
ソルナチド群:12時間ごとに100mgのソルナチドをそれぞれ注射用水で再構成し、14回肺に投与し、二重盲検とした。プラセボ群:12時間ごとに14回のプラセボ(注射用水)を肺投与した。
【0047】
エンドポイントには以下が含まれる:28日以内の人工呼吸器のない日(人工呼吸器のない日、VFD)、28日目までの抜管までの時間、28日目までの全死因死亡、表1のWHO採点方式によるスコア変化(無作為化後14日目と28日目に評価)、28日目までの入院日数および28日目までのICU日数。
【0048】
本発明のペプチドがこれらのエンドポイントの少なくとも1つに関して改善をもたらすことは非常に信ぴょう性がある。
【実施例2】
【0049】
深刻な健康状態の地域社会患者が、検査のために地元の病院に入院した。これらの患者の一部において、COVID-19は、鼻咽頭スワブとリアルタイムRT-PCRによるSARS-CoV-2の陽性検査によって確認された。
【0050】
病状の悪化に伴い、重症のCOVID-19患者は、病院のICUに入院した。患者の半数は、標準的な救命救急治療と生命維持に加えて、1日2回、7日間経口吸入されたソルナチドで治療された。
【0051】
並行して、同等の生命を脅かす状態の重篤なCOVID-19患者の別のコホートが病院のICUで治療を受けた。これらの患者は、標準的な救命救急治療と生命維持に加えて、プラセボのみで治療された。
【0052】
7日間の観察期間中に、COVID-19の重症度を反映する患者中心の臨床パラメータが記録された。
【0053】
7日間の観察期間中に、COVID-19の重症度を反映する患者中心の臨床パラメータが記録された。
【0054】
SOFAスコアは、集中治療室(ICU)に滞在中の患者の状態を追跡し、患者の臓器機能の程度または不全率を判断するために使用された。
【0055】
図1は、ソルナチドを1日2回7日間投与されたCOVID-19患者の平均SOFAスコアを示す。平均SOFAスコアは、治療期間中に12から8に減少した。
【0056】
対照的に、ソルナチド治療を受けていない重症のCOVID-19患者のSOFAスコアは、同じ期間で減少しなかった。
【0057】
図2は、ソルナチドで1日2回7日間治療を受けたCOVID-19患者の動的肺コンプライアンスの平均値を示す。平均動的肺コンプライアンスは、治療期間中に約35mL/cm H2Oから50mL/cm H2Oに増加した。
【0058】
対照的に、ソルナチド治療を受けていない重症のCOVID-19患者の動的肺コンプライアンスは、同じ期間で40mL/cm H2O未満のままであった。
【0059】
図3は、ソルナチドで1日2回7日間治療を受けたCOVID-19患者の平均体温を示す。平均体温は、治療開始時に上昇したが、7日間の治療期間中に低下した。
【0060】
対照的に、ソルナチド治療を受けていない重症のCOVID-19患者の体温は、常に38℃を超えていた。
【0061】
科学文献から、重症のCOVID-19患者の死亡率は、ICUで治療を受けた患者の50%に達するが知られている(Tzotzos et al. Incidence of ARDS and outcomes in hospitalized patients with COVID-19. Critical Care (2020) 24:516; PMID 32825837)。現在の観察では、ソルナチドで治療された重症のCOVID-19患者は、COVID-19症状の発症後28日以内に死亡しなかった。対照的に、同等の重症のCOVID-19患者で構成される比較コホートでは、3人の患者が28日以内に死亡した。
図1
図2
図3
【配列表】
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