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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両のパワーユニット
(51)【国際特許分類】
   F01P 5/06 20060101AFI20241030BHJP
   F16H 9/12 20060101ALI20241030BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20241030BHJP
【FI】
F01P5/06 501
F16H9/12 Z
F16H57/04 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023036172
(22)【出願日】2023-03-09
(65)【公開番号】P2024127189
(43)【公開日】2024-09-20
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 豪
(72)【発明者】
【氏名】岡安 貴
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 寿光
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-36489(JP,U)
【文献】特開平7-156854(JP,A)
【文献】実開昭61-162528(JP,U)
【文献】実開昭64-14419(JP,U)
【文献】特開2002-19671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/00
B60K 11/06
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(23、40、41、323、340)と、前記ケーシング(23、40、41、323、340)に収容されたクランク軸(32)と、前記クランク軸(32)から伝達される駆動力を変速して駆動輪(15)に伝達するベルト式無段変速機(43)と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニットにおいて、
前記ケーシング(23、40、41、323、340)は、前記クランク軸(32)が収容されるクランク室(35)と、前記ベルト式無段変速機(43)が収容される変速機室(42)と、を備え、
前記クランク室(35)と前記変速機室(42)との間には、空気層を形成する空気層スペース(100、300)が設けられ、
前記空気層スペース(100、300)に導風する導風機構(110、210)を備え、
前記導風機構(210)は、前記空気層スペース(100、300)に接続されるダクト(270)を備え、
前記ダクト(270)は、前記空気層スペース(100、300)より車幅外方に延びる
ことを特徴とする鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項2】
ケーシング(23、40、41、323、340)と、前記ケーシング(23、40、41、323、340)に収容されたクランク軸(32)と、前記クランク軸(32)から伝達される駆動力を変速して駆動輪(15)に伝達するベルト式無段変速機(43)と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニットにおいて、
前記ケーシング(23、40、41、323、340)は、前記クランク軸(32)が収容されるクランク室(35)と、前記ベルト式無段変速機(43)が収容される変速機室(42)と、を備え、
前記クランク室(35)と前記変速機室(42)との間には、空気層を形成する空気層スペース(100、300)が設けられ、
前記空気層スペース(100、300)に導風する導風機構(110、210)を備え、
前記空気層スペース(100、300)には、車幅方向に延びる複数のウイング(96、396)が設けられる
ことを特徴とする鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項3】
前記クランク室(35)と前記変速機室(42)との間に設けられる空気層形成部材(90)を備え、
前記空気層スペース(100、300)は、前記ケーシング(23、40、41、323、340)と、前記空気層形成部材(90)と、によって囲まれた空間によって形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項4】
前記空気層スペース(100、300)は、前面開口(70)と、前記前面開口(70)と車幅方向で占める位置が重なる後面開口(80)と、を備え、
前記前面開口(70)には、前記導風機構(110、210)によって導風される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項5】
前記ケーシング(23、323)に支持されたシリンダー部(24)を備え、
前記導風機構(110)は、前記シリンダー部(24)を冷却する冷却ファン(51)と、前記冷却ファン(51)からの冷却風を前記空気層スペース(100、300)の前方に導風する導風カバー(53)と、を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項6】
前記空気層スペース(100、300)には、排風口(80、380)が形成され、
前記排風口(80、380)は、前記駆動輪(15)に対向する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
【請求項7】
前記ベルト式無段変速機(43)は、前記クランク軸(32)の軸方向一端部に設けられる駆動プーリー(43a)と、前記クランク軸(32)に平行に軸支される従動軸(43b)に設けられる従動プーリー(43c)と、前記駆動プーリー(43a)と前記従動プーリー(43c)との間に掛け渡されるVベルト(43d)と、を備え、
前記駆動プーリー(43a)は、前記クランク軸(32)に固定された固定シーブ(120)と、前記固定シーブ(120)に対向して配置され前記クランク軸(32)の軸方向に移動自在に支持された可動シーブ(121)と、を有し、
前記固定シーブ(120)の背面は、フィンが形成されない平坦面(120a)である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両のパワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する燃費向上に関する研究開発が行われている。燃費に関連する技術として、特許文献1には、Vベルト式無段変速機を備えた鞍乗り型車両のパワーユニットに関する開示がある。特許文献1では、駆動プーリーの側方に送風ファンを有し、駆動プーリーの背面に冷却風を導入して、変速機室内に冷却風を導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4293796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃費向上に関する本技術においては、Vベルトは環境温度に応じた耐久性を要するものであるため、環境温度をできるだけ下げることが望まれる。しかしながら、変速機室は隣接するクランク室からの熱影響を受けやすい。このため、それを変速機室内に冷却風を導入することのみによって、Vベルトの環境温度を下げようとする構成であると、変速機室に大量に冷却風を導風する必要が生じ易い。よって、これに伴い、変速機室への埃等の侵入を防ぐために、大量の導風に応じたラビリンス構造を設ける必要などが生じて、構造が複雑化してしまうことが課題である。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡便な構成で変速機室の温度を低減させることのできる鞍乗り型車両のパワーユニットを提供することを目的とする。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様の鞍乗り型車両のパワーユニットは、ケーシングと、前記ケーシングに収容されたクランク軸と、前記クランク軸から伝達される駆動力を変速して駆動輪に伝達するベルト式無段変速機と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニットにおいて、前記ケーシングは、前記クランク軸が収容されるクランク室と、前記ベルト式無段変速機が収容される変速機室と、を備え、前記クランク室と前記変速機室との間には、空気層を形成する空気層スペースが設けられ、前記空気層スペースに導風する導風機構を備え、前記導風機構は、前記空気層スペースに接続されるダクトを備え、前記ダクトは、前記空気層スペースより車幅外方に延びることを特徴とする。
第2の態様の鞍乗り型車両のパワーユニットは、ケーシングと、前記ケーシングに収容されたクランク軸と、前記クランク軸から伝達される駆動力を変速して駆動輪に伝達するベルト式無段変速機と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニットにおいて、前記ケーシングは、前記クランク軸が収容されるクランク室と、前記ベルト式無段変速機が収容される変速機室と、を備え、前記クランク室と前記変速機室との間には、空気層を形成する空気層スペースが設けられ、前記空気層スペースに導風する導風機構を備え、前記空気層スペースには、車幅方向に延びる複数のウイングが設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
簡便な構成で変速機室の温度を低減させることのできる鞍乗り型車両のパワーユニットを提供することができる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両の側面図である。
図2】第1の実施の形態に係るパワーユニットの断面図である。
図3】第1の実施の形態に係るパワーユニットを左前方から見た斜視図である。
図4】第2の実施の形態に係るパワーユニットの断面図である。
図5】第3の実施の形態に係るパワーユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号LHは車体左方を示す。
【0009】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る鞍乗り型車両10の側面図である。
鞍乗り型車両10は、車体フレーム11と、車体フレーム11に支持されるパワーユニット12と、前輪13を操舵自在に支持するフロントフォーク14と、後輪15を支持するスイングアーム16と、乗員用のシート17とを備える車両である。
鞍乗り型車両10は、乗員がシート17に跨るようにして着座する車両である。シート17は、車体フレーム11の後部の上方に設けられる。
【0010】
車体フレーム11は、車体フレーム11の前端部に設けられるヘッドパイプ18と、ヘッドパイプ18の後方に位置するフロントフレーム19と、フロントフレーム19の後方に位置するリアフレーム20とを備える。フロントフレーム19の前端部は、ヘッドパイプ18に接続される。
シート17は、リアフレーム20に支持される。
【0011】
フロントフォーク14は、ヘッドパイプ18によって左右に操舵自在に支持される。前輪13は、フロントフォーク14の下端部に設けられる車軸13aに支持される。乗員が把持する操舵用のハンドル21は、フロントフォーク14の上端部に取り付けられる。
【0012】
スイングアーム16は、車体フレーム11に支持されるピボット軸22に支持される。ピボット軸22は、車幅方向に水平に延びる軸である。スイングアーム16の前端部には、ピボット軸22が挿通される。スイングアーム16は、ピボット軸22を中心に上下に揺動する。
後輪15は、スイングアーム16の後端部に設けられる車軸15aに支持される。
【0013】
パワーユニット12は、前輪13と後輪15との間に配置され、車体フレーム11に支持される。
パワーユニット12は、内燃機関である。パワーユニット12は、クランクケース23と、往復運動するピストンを収容するシリンダー部24とを備える。シリンダー部24の排気ポートには、排気装置25が接続される。
パワーユニット12の出力は、パワーユニット12と後輪15とを接続する駆動力伝達部材によって後輪15に伝達される。
【0014】
また、鞍乗り型車両10は、前輪13を上方から覆うフロントフェンダー26と、後輪15を上方から覆うリアフェンダー27と、乗員が足を載せるステップ28と、パワーユニット12が使用する燃料を蓄える燃料タンク29とを備える。
フロントフェンダー26は、フロントフォーク14に取り付けられる。リアフェンダー27及びステップ28は、シート17よりも下方に設けられる。燃料タンク29は、車体フレーム11に支持される。
【0015】
第1の実施の形態の鞍乗り型車両10は、スクーター型の鞍乗り型車両である。鞍乗り型車両10は、シート17に着座する乗員が足を乗せる低床のステップ28、いわゆる、ステップフロアを有する。また、鞍乗り型車両10のパワーユニット12は、車体フレーム11の後部に支持されるユニットスイングエンジンである。パワーユニット12は、エンジン本体30とスイングアーム16とが一体に設けられている。駆動輪である後輪15は、車両後部に配置されるパワーユニット12に軸支される。パワーユニット12は、車両側面視で、シート17の真下に位置する。
【0016】
エンジン本体30は、クランクケース(ケーシング、第1のケーシング部)23と、クランクケース23から前方へ延びるシリンダー部24とを備える。シリンダー部24は、図2に示すように、クランクケース23側から順に、シリンダー24a、シリンダーヘッド24b、及びヘッドカバー24cを備える。エンジン本体30は、シリンダー部24のシリンダー軸線24dが略水平に車両前後方向へ延びる水平エンジンである。詳細には、シリンダー部24は、車両側面視でやや前上がりに車両前方へ略水平に延びる。
【0017】
図1に示すように、リアフレーム20は、クランクケース23の前方で後上がりに延びる左右一対のフレーム立ち上がり部20aを備える。左右のフレーム立ち上がり部20aの間の空間に、クランクケース23から前方に延びたシリンダー部24が位置する。
パワーユニット12は、パワーユニット12の上方に設けられるリンク機構31を介し、フレーム立ち上がり部20aのピボット軸22に揺動自在に支持される。
【0018】
図2は、第1の実施の形態に係るパワーユニット12の断面図である。図2は、シリンダーヘッド24bの動弁装置のカム軸39、クランクピン38、クランク軸32、ベルト式無段変速機43、及び減速機構45の各軸の軸線を通る断面を上方側から見た図である。
クランクケース23は、左右方向(車幅方向)に延びるクランク軸(駆動軸)32を支持する。クランクケース23には、クランク軸32を収容するクランク室35が形成される。クランク室35には、クランク軸32に直交する支持壁35a,35bが左右一対設けられる。支持壁35a,35bには、ベアリングを介し、クランク軸32が回転可能に支持される。
【0019】
クランク軸32には、コンロッド37及びクランクピン38を介し、ピストン36が、連結される。ピストン36は、シリンダー24a内をシリンダー軸線24dの軸方向に往復する。
【0020】
クランク軸32のコンロッド37よりも左側(車幅方向一側)には、駆動スプロケット61が取り付けられている。駆動スプロケット61には、カムチェーン62が巻き掛けられている。カムチェーン62は、シリンダー部24の左側に形成されたカムチェーン室66を通って、動弁装置のカム軸39の従動スプロケット63に巻き掛けられている。カムチェーン室66は、クランクケース23、シリンダー24a、及びシリンダーヘッド24bに跨って設けられ、シリンダー部24の軸方向に延在する。
【0021】
動弁装置のカム軸39は、クランク軸32と平行である。動弁装置は、シリンダーヘッド24bに設けられる。カムチェーン62により、クランク軸32の回転が、動弁装置のカム軸39に伝達される。カム軸39はクランク軸32が2回転する毎に1回転する。
【0022】
駆動スプロケット61の左側において、クランクケース23の開口23bには、略環板状のセパレータ67が開口23bを塞ぐように配置される。セパレータ67は、ボルト68でクランクケース23に固定される。セパレータ67の外周部には、クランクケース23との間をシールするシール部材69aが装着される。セパレータ67の内周部には、セパレータ67とクランク軸32との間を密閉するオイルシール69bが装着される。本実施の形態では、セパレータ67の左面には、クランク軸32の軸方向に延伸する筒部67aが形成される。筒部67aには、クランク軸32が挿通される。筒部67aは、クランク軸32から離間した状態でクランク軸32を外周側から包囲する。
【0023】
クランクケース23は、クランク室35における左側の側部から後方に延びる変速機ケース部(ケーシング、第2のケーシング部)40を一体に備える。変速機ケース部40は、クランク室35の側方の部分から後輪15の左側方まで延びる。
変速機ケース部40は、車幅方向の外側面が開放したケース状に形成される。変速機ケース部40の外側面の開放部は、変速機ケース部40の外側面に取り付けられるケースカバー(ケーシング、第3のケーシング部)41によって塞がれる。
【0024】
変速機ケース部40とケースカバー41とによって、中空の変速機室42が構成される。変速機室42内には、左側の支持壁35aおよびセパレータ67を貫通して、クランク軸32の一端部(車幅方向一端部、軸方向一端部)32aが位置する。
変速機室42には、クランク軸32の回転を変速して後輪15側に伝達するベルト式無段変速機43と、遠心式のクラッチ機構44と、複数のギヤで構成される減速機構45とが設けられる。
【0025】
ベルト式無段変速機43は、クランク軸32の一端部32aに設けられる駆動プーリー43aと、変速機ケース部40の後部に設けられる出力軸(従動軸)43bと、出力軸43bに支持される従動プーリー43cと、駆動プーリー43aと従動プーリー43cとを接続するVベルト43dとを備える。
駆動プーリー43aは、クランク軸32に固定された固定シーブ120と、固定シーブに対向して配置されクランク軸32の軸方向に移動自在に支持された可動シーブ121とを有する。
【0026】
クラッチ機構44は、出力軸43b上に設けられる。出力軸43bは、減速機構45を介し後輪15の車軸15aに接続される。
クランク軸32の駆動力は、ベルト式無段変速機43、クラッチ機構44、及び減速機構45を介し、後輪15の車軸15aに伝達される。
【0027】
クランク軸32の他端部(車幅方向他端部、軸方向他端部)32bは、右側の支持壁35bを貫通してクランクケース23の外側方に延びる。クランク軸32の他端部32bには、クランク軸32と一体に回転するフライホイール47が固定される。フライホイール47の内側には、クランク軸32の回転によって発電する発電機48が設けられる。発電機48は、フライホイール47の内周に固定される磁石48aと、磁石48aに対しフライホイール47の径方向内側に配置されるコイル48bとを備える。コイル48bは、クランクケース23に固定される。
【0028】
パワーユニット12は、エンジン本体30に向けて送風してエンジン本体30を空冷する送風装置50を備える。
送風装置50は、クランク軸32と、クランク軸32に固定され、クランク軸32と一体に回転する冷却ファン51と、冷却ファン51を外側から覆うファンカバー52と、シリンダー部24を覆うシリンダー部カバー53とを備える。
【0029】
シリンダー部カバー53は、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bをシリンダー軸線24dの周囲から囲うように設けられる。シリンダー部カバー53は、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bを略全周に亘って覆う。本実施の形態のシリンダー部カバー53は、クランクケース23の左側前面を覆っており、ケースカバー41との境界近傍まで延在している。シリンダー部カバー53は、固定部材94でクランクケース23の左側前面に固定される。
【0030】
シリンダー部カバー53とシリンダー部24との間に形成される空間は、冷却ファン51によって送られる気流が通る風路54である。風路54内において、シリンダー24aの外面には、冷却フィン49が設けられる。
ファンカバー52は、クランクケース23における車幅方向の外側面部23aに取り付けられ、外側面部23a及び冷却ファン51を車幅方向外側から覆う。ファンカバー52の前縁部は、シリンダー部カバー53の後縁部に接続され、ファンカバー52の内側の空間は、風路54に連通する。
【0031】
冷却ファン51は、フライホイール47の車幅方向外側の側面に締結される。すなわち、冷却ファン51は、フライホイール47を介し、クランク軸32の軸方向の端部に固定される。
冷却ファン51は、クランク軸32と一体に回転することで、矢印A1で示すように、ファンカバー52を通じて外側から空気を吸い込み、ファンカバー52の内側に吸い込んだ空気を、矢印A2で示すように、冷却ファン51の径方向外側に吹き出す。
冷却ファン51が吹き出す気流は、矢印A3で示すように、風路54を通ってシリンダー24a及びシリンダーヘッド24bの周囲に到達し、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bを冷却する。
すなわち、エンジン本体30は、クランク軸32が駆動する冷却ファン51の送風によってエンジン本体30を強制的に空冷する強制空冷式である。
【0032】
図2に示すように、本実施の形態のパワーユニット12は、クランク室35と変速機室42との間に空気層スペース100を備える。
具体的には、クランクケース23の前面には、前面開口(第1の開口)70が形成される。前面開口70は、車幅方向において、シリンダー部24と駆動プーリー43aとの間に形成される。換言すれば、前面開口70は、シリンダー部24よりも左側であって、駆動プーリー43aよりも右側に形成される。ここで、前面開口70は、車体側面視で駆動プーリー43aと重なる位置になくてもよく、駆動プーリー43aの前端よりも車両前方に形成されてもよい。前面開口70は、上内周縁71(図3参照)と、下内周縁72と、左内周縁73と、右内周縁74と、を有する。上内周縁71と、下内周縁72と、左内周縁73と、右内周縁74と、の囲み形状により、前面開口70が形成される。
【0033】
クランクケース23の後面には後面開口(第2の開口、排風口)80が形成される。後面開口80は、前後方向において、前面開口70の後方に形成される。後面開口80が車幅方向において占める位置は、前面開口70が車幅方向において占める位置と、車幅方向において重複する。これにより、前面開口70と後面開口80との間を前後方向に直線状に結び易くなっている。このため、前面開口70から流入した空気を後面開口80から速やかに流出させ易くできる。後面開口80は、上内周縁(不図示)と、下内周縁82と、左内周縁83と、右内周縁84と、を有する。上内周縁と、下内周縁82と、左内周縁83と、右内周縁84と、の囲み形状により、後面開口80が形成される。
後面開口80は、後輪15に対向している。後面開口80の右内周縁84は、後輪15の左端15bよりも右側に位置する。後面開口80の左内周縁83は、後輪15の左端15bよりも左側に位置する。
【0034】
本実施の形態のクランクケース23内には、前面開口70と後面開口80とに跨るように、変速機室42側に金属製の空気層形成部材90が配置される。なお、本実施の形態では、空気層形成部材90は金属製の構成を例示するが、空気層形成部材90は金属製に限られるものでなく、樹脂で形成されるものでもよい。
【0035】
空気層形成部材90は、クランクケース23の内部に配置されてクランクケース23の内部を区画する。空気層形成部材90は、湾曲板状に形成される。空気層形成部材90は、クランクケース23の内面形状に応じた外周形状を有する区画壁部90bと、区画壁部90bの前端から左方に延びる被固定部90cと、区画壁部90bの後端から後方に延びる被固定部90dと、を有する。区画壁部90bには、セパレータ67の筒部67aの左端(先端)が嵌合されて筒部67aの内部のクランク軸32が挿通される孔部90aが形成される。
【0036】
空気層形成部材90は、クランク軸32が孔部90aに挿通され、被固定部90c、90dが、固定部材94、95によってクランクケース23に固定される。固定部材94、95は、例えばボルトである。これにより、空気層形成部材90がクランク軸32の軸方向に移動不能に固定される。
【0037】
ここで、空気層形成部材90の区画壁部90bは、前面開口70から後面開口80に延在する。前側の被固定部90cは、前面開口70の左内周縁73よりも左側でクランクケース23の内面に固定される。後側の被固定部90dは、後面開口80の左内周縁83よりも左側でクランクケース23の内面に固定される。これにより、前面開口70から後面開口80に渡って、クランクケース23と空気層形成部材90とセパレータ67とで囲まれた空間が形成される。ここで、セパレータ67はクランクケース23の開口23bを塞ぐ部材であり、クランクケース23の壁面形状を構成している部材でもある。よって、セパレータ67をクランクケース23の一部形状とみなせば、前面開口70から後面開口80に渡って、クランクケース23と空気層形成部材90とで囲まれた空間が形成されると換言できる。よって、以下では、クランクケース23という場合には、基本的には、クランクケース23にはセパレータ67が含まれた意味で説明する。
【0038】
クランクケース23により囲まれた空間により、本実施の形態のクランク室35が形成される。 空気層形成部材90、クランクケース23の変速機ケース部40、および、ケースカバー41により囲まれた空間により、本実施の形態の変速機室42が形成される。
空気層形成部材90、および、クランクケース23により囲まれた空間により、空気層を形成する本実施の形態の空気層スペース100が形成される。
よって、クランク室35と変速機室42とが空気層スペース100により分断される。これにより、クランク室35の高熱が変速機室42に伝わりづらくなっている。
【0039】
図3は、第1の実施の形態に係るパワーユニット12を左前方から見た斜視図である。図3では、シリンダー部カバー53は省略している。
空気層スペース100には、ウイング96が配置される。本実施の形態では、空気層形成部材90に、ウイング96が形成されている。ウイング96は、区画壁部90bの右面に形成されている。ウイング96は上下方向に間隔を空けて複数形成されている。ウイング96は、上下方向に厚みを有し前後方向に延びる。ウイング96の右端は、空気層形成部材90の装着時にクランクケース23の左面に当接可能に形成されている。
【0040】
空気層スペース100の前面開口70は、シリンダー部カバー53で前方から覆われており、シリンダー部カバー53内の冷却風が導風可能に構成される。冷却ファン51と、シリンダー部24を覆うシリンダー部カバー(導風カバー)53などを備える送風装置50により、本実施の形態の導風機構110が構成される。
【0041】
本実施の形態では、クランク軸32が回転して冷却ファン51が回転すると、矢印A1で示すように、ファンカバー52内に外部から冷却風が取り込まれ、シリンダー部カバー53内の風路54に冷却風が流れる。冷却風は、シリンダー部カバー53によって導風され、シリンダー部24を冷却しながら空気層スペース100に導風される。
【0042】
冷却風は、矢印A4で示すように、前面開口70を通じて空気層スペース100に導風されると、空気層スペース100を通過して、矢印A5で示すように、後面開口80から排風される。冷却風は、空気層スペース100を通過する際に、空気層形成部材90から伝熱され、空気層形成部材90を冷却しながら、空気層スペース100を通過する。よって、空気層形成部材90が冷却されるために、変速機室42が冷却される。特に、本実施の形態では、空気層形成部材90にウイング96が設けられているため、空気層形成部材90の冷却風との接触面積が増大して空気層形成部材90が冷却され易くなっており、変速機室42が冷却され易くなっている。また、昇温して排風された冷却風は、後輪15に当たるため、後輪15を温め易くなっている。
【0043】
一般に、Vベルトは、温度環境が高温になるほど耐久性が低下する。このため、クランク室35と変速機室42との間が空気層スペース100で分断されていない場合には、Vベルトは、駆動時の摩擦で高温化する上に、エンジン本体30からの受熱で変速機室42が高温化し易い。このため、ベルトの交換間隔を確保するためには、Vベルトは、硬くて分厚く形成される。
【0044】
これに対して、本実施の形態では、クランク室35と変速機室42とが空気層スペース100で分断されているため、クランク室35の高熱が、変速機室42に伝わりづらくなっている。その上、空気層スペース100を通過する冷却風により変速機室42が冷却されるため、変速機室42が高温になることが抑制される。よって、本実施の形態では、変速機室42の温度環境を、Vベルト43dの耐久性を向上させ易い温度環境にし易いため、Vベルト43dの交換間隔を確保しながら、Vベルト43dを、より柔らかく薄くできる。したがって、本実施の形態では、Vベルト43dを軽量化できてVベルト43dの摩擦抵抗などを抑制し易く、燃費向上が期待できる。
【0045】
また、本実施の形態では、ケースカバー41には、変速機室42内に走行風を取り込む開口が形成されていない。よって、変速機室42内に、埃などが進入することを防止できる。また、走行風を、変速機室42内に冷却風として取り込む必要がないために、駆動プーリー43aの固定シーブ120の冷却フィンを省略可能である。すなわち、固定シーブ120の背面(左面)を、凹凸のない滑らかな平坦面120aにできる。よって、固定シーブ120による変速機室42内の空気の乱れを抑制し易く、固定シーブ120が受ける空気抵抗を抑制できて燃費効率を上げられると共に、固定シーブ120の物品形状を簡素化し易くなっている。
【0046】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、鞍乗り型車両10のパワーユニット12は、クランクケース23、変速機ケース部40、および、ケースカバー41と、クランクケース23に収容されたクランク軸32と、クランク軸32から伝達される駆動力を変速して後輪15に伝達するベルト式無段変速機43と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニット12において、クランクケース23、変速機ケース部40、および、ケースカバー41は、クランク軸32が収容されるクランク室35と、ベルト式無段変速機43が収容される変速機室42と、を備え、クランク室35と変速機室42との間には、空気層を形成する空気層スペース100が設けられ、空気層スペース100に導風する導風機構110を備える。
この構成によれば、クランク室35と変速機室42との間の空気層スペース100に導風することにより、変速機室42に直接冷却風を導入しなくても変速機室42を低温化できる。よって、簡便な構成で変速機室42の温度を低減させることができる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0047】
本実施の形態では、クランクケース23に支持されたシリンダー部24を備え、導風機構110は、シリンダー部24を冷却する冷却ファン51と、冷却ファン51からの冷却風を空気層スペース100の前方に導風するシリンダー部カバー53と、を備える。
この構成によれば、シリンダー部24を冷却する冷却ファン51を利用することで、冷却風導入の特別な機構を設けることなく、空気層スペース100に冷却風を導風することができる。
【0048】
また、本実施の形態では、空気層スペース100には、車幅方向に延びる複数のウイング96が設けられる。
この構成によれば、冷却風を空気層スペース100に積極的に導入できる上に、冷却風との接触面積を増やすことで、冷却性能を向上させることができる。
【0049】
また、本実施の形態では、空気層スペース100には、後面開口80が形成され、後面開口80は、後輪15に対向する。
この構成によれば、クランク室35および変速機室42から受熱した空気層スペース100からの排風により、後輪15を温めることができる。
【0050】
また、本実施の形態では、ベルト式無段変速機43は、クランク軸32の軸方向一端部に設けられる駆動プーリー43aと、クランク軸32に平行に軸支される出力軸43bに設けられる従動プーリー43cと、駆動プーリー43aと従動プーリー43cとの間に掛け渡されるVベルト43dと、を備え、駆動プーリー43aは、クランク軸32に固定された固定シーブ120と、固定シーブ120に対向して配置されクランク軸32の軸方向に移動自在に支持された可動シーブ121と、を有し、固定シーブ120の背面は、フィンが形成されない平坦面120aである。
この構成によれば、空気抵抗を増加させることのないシーブ形状としても、変速機室42を冷却できる。
【0051】
[第2の実施の形態]
本発明を適用した第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0052】
図4は、第2の実施の形態に係るパワーユニット212の断面図である。図4は、第1の実施の形態の図2に対応する。
第2の実施の形態のパワーユニット212では、前面開口70に導風するダクト270が設けられる点が、第1の実施の形態とは異なる。
【0053】
詳細には、第2の実施の形態に係るシリンダー部カバー53には、空気層スペース100の前面開口70の前方に対応して、孔状に形成されたダクト後部支持部253aが形成されている。ダクト後部支持部253aには、ダクト270が差し込まれた状態で支持される。
【0054】
ダクト270は、前後方向に延びる中空状の部材である。ダクト270は、前端に流入口271を備え、後端に流出口272を備える。ダクト270は、流入口271が流出口272よりも車幅方向外側に配置されるように湾曲して延びている。ダクト270は、流出口272が前面開口70に接続された状態で、ダクト後部支持部253aに支持される。ダクト270は、流入口271側の前端部がシリンダー部24の左側で、シリンダー部カバー53のダクト前部支持部253bに支持される。これにより、流入口271には、シリンダー部24に邪魔されずに走行風が流入され易くなっている。
シリンダー部カバー53とダクト270とにより、第2の実施の形態の導風機構210が構成される。
【0055】
本実施の形態では、鞍乗り型車両10の走行時には、ダクト270の流入口271から矢印A21で示すように、走行風が取り込まれる。走行風は、ダクト270に沿って流れ、矢印A22で示すように、前面開口70を通じて空気層スペース100に導風され、矢印A23で示すように、後面開口80から排風される。よって、本実施の形態でも、空気層スペース100を、冷却風としての走行風が流れるため、変速機室42が冷却される。
【0056】
以上説明したように、本発明を適用した第2の実施の形態によれば、鞍乗り型車両10のパワーユニット212は、空気層スペース100に導風する導風機構210を備えている。よって、第2の実施の形態でも、簡便な構成で変速機室42の温度を低減させることができる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0057】
特に、本実施の形態では、導風機構210は、空気層スペース100に接続されるダクト270を備え、ダクト270は、空気層スペース100より車幅外方に延びる。
この構成によれば、走行風を効果的に空気層スペース100に導風することができ、簡便な構成で変速機室42の温度を低減させることができる。
【0058】
[第3の実施の形態]
本発明を適用した第3の実施の形態について説明する。この第3の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0059】
図5は、第3の実施の形態に係るパワーユニット312の断面図である。図5は、第1の実施の形態の図2に対応する。
第3の実施の形態のパワーユニット312では、クランク室35が形成されるクランクケース(ケーシング、第1のケーシング部)323と、変速機室42が形成される変速機ケース340(ケーシング、第2のケーシング部)とが別体である点が、第1の実施の形態とは異なる。
【0060】
第3の実施の形態に係るクランクケース323では、第1の実施の形態におけるクランクケース23に対して、左後部の変速機ケース部40が省略されている。クランクケース323の左後端部323cは、後輪15の前方で後輪15の左端15bよりも右側に位置する。第3の実施の形態のクランクケース323には、前面開口70および後面開口80は形成されていない。
【0061】
第3の実施の形態に係る変速機ケース340は、いわば、第1の実施の形態の変速機ケース部40と空気層形成部材90とが一体形成された構造である。よって、変速機ケース340では、第1の実施の形態の変速機ケース部40に対して、空気層形成部材90を固定するためだけの固定部材95やその固定部が省略される。また、変速機ケース340には、セパレータ67の筒部67aおよびクランク軸32の一端部32aが挿通される孔部340aが形成されると共に、シリンダー部カバー53の固定部材94が固定される。
【0062】
変速機ケース340は、クランクケース323にボルトオンされる。すなわち、変速機ケース340には、クランク軸32の外周側、すなわち、駆動プーリー41aの可動シーブ121の外周側には、複数の固定孔340bが形成される。固定孔340bは、クランク軸32の周方向に間隔を空けて、例えば、4つ形成される。固定孔340bに対応して、変速機ケース340には、右外表面から右方向に突き出る円筒状の突き当て部340cが形成される。突き当て部340cがクランクケース323の左面に当接される。この状態で、固定孔340bには、ボルト301が挿通され、挿通されたボルト301がクランクケース323に締結される。これにより、変速機ケース340が、クランクケース323にボルト留めされ、クランクケース323にボルトオンされる。
【0063】
ここで、クランクケース323と変速機ケース340とは、突き当て部340cにより車幅方向に所定距離だけ離間される。これにより、クランクケース323と変速機ケース340との間には、空気が進入可能な空気層スペース300が形成される。したがって、第3の実施の形態においても、パワーユニット312では、クランク室35と変速機室42とが空気層スペース300により分断される。なお、変速機ケース340には、ウイング96に対応してウイング396が形成されており、ウイング396が空気層スペース300に配置される。空気層スペース300には、空気層スペース300の前端部370を通じて、導風機構110によって冷却風が導風される。空気層スペース300からは、空気層スペース300の後端部(排風口)380を通じて、冷却風が排風される。クランクケース323の左後端部323cが、後輪15よりも前方で後輪15の左端15bよりも右側に位置するので、本実施の形態においても、空気層スペース300の後端部380は、後輪15に対向する。
【0064】
以上説明したように、本発明を適用した第3の実施の形態によれば、鞍乗り型車両10のパワーユニット312は、クランク室35と変速機室42との間には、空気層を形成する空気層スペース300が設けられ、空気層スペース300に導風する導風機構110を備える。よって、第3の実施の形態でも、簡便な構成で変速機室42の温度を低減させることができる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0065】
[他の実施の形態]
上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
【0066】
上記実施の形態では、変速機室42を冷却し易いために、ウイング96、396は空気層形成部材90や変速機ケース340に設けられることが望ましいが、クランクケース23、323に設けられてもよい。
【0067】
上記実施の形態では、送風装置50はエンジン本体30を冷却する冷却装置を利用して、空気層スペース100、300に冷却風を導風する構成を説明したが、空気層スペース100、300専用の送風装置を設けてもよい。
【0068】
上記実施の形態では、ケースカバー41に変速機室42内に走行風を取り込む開口が形成されない構成を例示したが、ケースカバー41に変速機室42内に走行風を取り込む開口が形成されてもよい。ケースカバー41に変速機室42内に走行風を取り込む開口が形成される場合には、変速機室42内に、クランク室35の高温に影響されない状態で冷却風を取り込むことができるので、簡便な構成でクランク室35の冷却効果を高めることができる。
【0069】
上記第3の実施の形態では、導風機構110により空気層スペース300に導風する構成を説明したが、空気層スペース300に接続され且つ空気層スペース300より車幅外方に延びるダクト270を設けてもよい。すなわち、第2の実施の形態のように、導風機構210により、空気層スペース300に導風する構成でもよい。
【0070】
上記第3の実施の形態では、クランクケース323が開口23bを有し、開口23bを塞ぐセパレータ67を介してクランク軸32が支持される構成を説明したが、開口23bはクランク軸32の外径に対応する大きさの孔でもよく、クランクケース323が、例えばオイルシールを介してクランク軸32を支持する構成でもよい。すなわち、セパレータ67が省略され、セパレータ67と一体のクランクケース323の形状でもよい。
【0071】
上記実施の形態では、鞍乗り型車両10として前輪13と後輪15とを有する自動二輪車を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、前輪または後輪を2つ備えた3輪の鞍乗り型車両や4輪以上を備えた鞍乗り型車両に適用可能である。
【0072】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0073】
(構成1)ケーシングと、前記ケーシングに収容されたクランク軸と、前記クランク軸から伝達される駆動力を変速して駆動輪に伝達するベルト式無段変速機と、を備える鞍乗り型車両のパワーユニットにおいて、前記ケーシングは、前記クランク軸が収容されるクランク室と、前記ベルト式無段変速機が収容される変速機室と、を備え、前記クランク室と前記変速機室との間には、空気層を形成する空気層スペースが設けられ、前記空気層スペースに導風する導風機構を備えることを特徴とする鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、クランク室と変速機室との間の空気層スペースに導風することにより、変速機室に直接冷却風を導入することなく変速機室を低温化できる。よって、簡便な構成で変速機室の温度を低減させることができる。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0074】
(構成2)前記ケーシングに支持されたシリンダー部を備え、前記導風機構は、前記シリンダー部を冷却する冷却ファンと、前記冷却ファンからの冷却風を前記空気層スペースの前方に導風する導風カバーと、を備えることを特徴とする構成1に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、シリンダー部を冷却する冷却ファンを利用することで、冷却風導入の特別な機構を設けることなく、空気層スペースに冷却風を導風することができる。
【0075】
(構成3)前記導風機構は、前記空気層スペースに接続されるダクトを備え、前記ダクトは、前記空気層スペースより車幅外方に延びることを特徴とする構成1に記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、走行風を効果的に空気層スペースに導風することができ、簡便な構成で変速機室の温度を低減させることができる。
【0076】
(構成4)前記空気層スペースには、車幅方向に延びる複数のウイングが設けられることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、冷却風を空気層スペースに積極的に導入できる上に、冷却風との接触面積を増やすことで、冷却性能を向上させることができる。
【0077】
(構成5)前記空気層スペースには、排風口が形成され、前記排風口は、前記駆動輪に対向することを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、クランク室および変速機室から受熱した空気層スペースからの排風により、駆動輪を温めることができる。
【0078】
(構成6)前記ベルト式無段変速機は、前記クランク軸の軸方向一端部に設けられる駆動プーリーと、前記クランク軸に平行に軸支される従動軸に設けられる従動プーリーと、前記駆動プーリーと前記従動プーリーとの間に掛け渡されるVベルトと、を備え、前記駆動プーリーは、前記クランク軸に固定された固定シーブと、前記固定シーブに対向して配置され前記クランク軸の軸方向に移動自在に支持された可動シーブと、を有し、前記固定シーブの背面は、フィンが形成されない平坦面であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載の鞍乗り型車両のパワーユニット。
この構成によれば、空気抵抗を増加させることのないシーブ形状としても、変速機室を冷却できる。
【符号の説明】
【0079】
10 鞍乗り型車両
12 パワーユニット(鞍乗り型車両のパワーユニット)
15 後輪(駆動輪)
23 クランクケース(ケーシング)
32 クランク軸
35 クランク室
40 変速機ケース部(ケーシング)
41 ケースカバー(ケーシング)
42 変速機室
43 ベルト式無段変速機
43a 駆動プーリー
43a1 固定シーブ
43a2 可動シーブ
43b 出力軸(従動軸)
43c 従動プーリー
43d Vベルト
51 冷却ファン
53 シリンダー部カバー(導風カバー)
80 後面開口(排風口)
96 ウイング
100 空気層スペース
110 導風機構
120 固定シーブ
120a 平坦面
121 可動シーブ
210 導風機構
212 パワーユニット(鞍乗り型車両のパワーユニット)
270 ダクト
300 空気層スペース
312 パワーユニット(鞍乗り型車両のパワーユニット)
323 クランクケース(ケーシング)
340 変速機ケース(ケーシング)
380 後端部(排風口)
396 ウイング
図1
図2
図3
図4
図5