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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】スリットノズルおよび基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20241030BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241030BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B05C5/02
H01L21/304 643Z
B05C11/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023037156
(22)【出願日】2023-03-10
(65)【公開番号】P2024128267
(43)【公開日】2024-09-24
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】柏野 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】塩田 明仁
(72)【発明者】
【氏名】竹市 祐実
【審査官】谷口 東虎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-52171(JP,A)
【文献】特開2008-12826(JP,A)
【文献】特開2007-76211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
H01L 21/304
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液を下方に向かって吐出するためのスリット状の吐出口が延設された先端部を有し、前記吐出口から前記処理液を吐出した後で前記先端部に当接しつつ前記吐出口の延設方向に相対移動するスクレーパにより前記先端部から前記処理液が掻き取られるスリットノズルであって、
前記先端部は、撥液処理が施された表面処理領域を有し、
前記表面処理領域の下方端が、前記スリットノズルに対する前記スクレーパの相対移動により前記スクレーパの上方端が描く当接軌跡と一致する、または前記当接軌跡よりも下方に位置するとともに、
前記表面処理領域の上方端が前記当接軌跡よりも上方に位置する
ことを特徴とするスリットノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のスリットノズルであって、
前記先端部を有するノズル基材を有し、
前記表面処理領域は、少なくとも前記スクレーパ当接する領域に相当する前記ノズル基材の表面に対してシリコン系有機化合物またはフッ素シリコン系有機化合物で表面処理された領域である、スリットノズル。
【請求項3】
処理液を下方に向かって吐出するためのスリット状の吐出口が延設された先端部を有するスリットノズルと、
前記スリットノズルの前記先端部に当接するスクレーパと、

前記スクレーパを前記先端部に当接させつつ前記スリットノズルに対して前記スクレーパを前記吐出口の延設方向に相対移動させる移動機構と、
を備え、
前記先端部は、撥液処理が施された表面処理領域を有し、
前記表面処理領域の下方端が、前記スリットノズルに対する前記スクレーパの相対移動により前記スクレーパの上方端が描く当接軌跡と一致する、または前記当接軌跡よりも下方に位置するとともに、
前記表面処理領域の上方端が前記当接軌跡よりも上方に位置する
ことを特徴とする基板処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の基板処理装置であって、
前記スクレーパは全体的にフッ素含有ゴムで構成されるのに対し、
前記スリットノズルは、前記先端部を有するノズル基材と、少なくとも前記スクレーパ当接する領域に相当する前記ノズル基材の表面に対してシリコン系有機化合物またはフッ素シリコン系有機化合物で表面処理された表面処理領域とを有する、基板処理装置。
【請求項5】
請求項3に記載の基板処理装置であって、
前記スリットノズルに前記処理液を供給して前記吐出口から前記処理液を吐出させる処理液供給部と、
前記吐出口から前記処理液が吐出された前記スリットノズルの前記先端部に前記スクレーパを当接させつつ前記スクレーパの相対移動により前記先端部から前記処理液を掻き取る掻取処理が繰り返されるように、前記処理液供給部と前記移動機構を制御する制御部と、
を備える、基板処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の基板処理装置であって、
前記先端部を洗浄する洗浄部を備え、
前記制御部は、前記掻取処理が複数回繰り返された後で、前記先端部が洗浄されるように、前記洗浄部を制御する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スリット状の吐出口から処理液を吐出するスリットノズル、およびスリットノズルの先端部から処理液を掻き取る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板に対してレジスト液などの処理液を供給するために、例えば特許文献1に記載されているようにスリット状の吐出口を有するスリットノズルが一般的に用いられる。ここで、基板としては、ウェーハレベルパッケージ(WLP:Wafer
Level Packaging)やパネルレベルパッケージ(PLP:Panel Level Packaging)といった製造形態で製造される半導体パッケージ用の基板、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板や有機EL表示装置等のFPD(Flat
Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用ガラス基板、太陽電池用基板、等が含まれる。
【0003】
スリットノズルでは、処理液がスリットノズルの先端部に付着することがある。付着物が乾燥して硬化して基板に落下すると、基板を汚染してしまう。そこで、特許文献1に記載の装置では、スリットノズルから基板に処理液を供給する前に、スリットノズルの先端部の側面に付着した処理液をスクレーパにより掻き取っている。
【0004】
上記スクレーパによる掻取処理は、スリットノズルの先端部に対してスクレーパを下方側から当接させたまま当該スクレーパをスリットノズルに対して相対移動させる処理である。この掻取処理を行った後に、スリットノズルの先端部において、スクレーパの軌跡に処理液痕が残っていた。例えば処理液としてレジスト液を使用した時には、レジスト痕が残る。このレジスト痕はスクレーパで掻き取るたびに蓄積される。上記特許文献1に記載の基板処理装置では、定期的にスリットノズルの先端部を洗浄液に浸漬させた状態で超音波振動を先端部に加えることでレジスト痕を除去している(超音波洗浄処理)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-37092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記掻取動作によりレジスト痕が発生するのを抑制することによって、超音波洗浄処理の頻度を低減させることができる。しかしながら、従来においては、レジスト痕の発生や量を減少させるための有効な手段が提供されておらず、改善の余地があった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、処理液が付着したスリットノズルの先端部に対してスクレーパを当接させつつ相対移動させた際に、当該先端部での処理液痕の発生や量を抑制することができるスリットノズルおよび基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の態様は、処理液を下方に向かって吐出するためのスリット状の吐出口が延設された先端部を有し、吐出口から処理液を吐出した後で先端部に当接しつつ吐出口の延設方向に相対移動するスクレーパにより先端部から処理液が掻き取られるスリットノズルであって、先端部は、撥液処理が施された表面処理領域を有し、表面処理領域の下方端が、スリットノズルに対するスクレーパの相対移動によりスクレーパの上方端が描く当接軌跡と一致する、または当接軌跡よりも下方に位置するとともに、表面処理領域の上方端が当接軌跡よりも上方に位置することを特徴としている。
【0009】
また、この発明の第2の態様は、基板処理装置であって、処理液を下方に向かって吐出するためのスリット状の吐出口が延設された先端部を有するスリットノズルと、スリットノズルの先端部に当接するスクレーパと、
スクレーパを先端部に当接させつつスリットノズルに対してスクレーパを吐出口の延設方向に相対移動させる移動機構と、 を備え、先端部は、撥液処理が施された表面処理領域を有し、表面処理領域の下方端が、スリットノズルに対するスクレーパの相対移動によりスクレーパの上方端が描く当接軌跡と一致する、または当接軌跡よりも下方に位置するとともに、表面処理領域の上方端が当接軌跡よりも上方に位置することを特徴としている。
【0010】
このように構成された発明では、スリットノズルに対するスクレーパの相対移動によりスクレーパの上方端が描く当接軌跡と重なるように表面処理領域が設けられている。この表面処理領域は、スリットノズルの先端部に撥液処理を施した領域である。表面処理領域の下方端は当接軌跡と一致する、または当接軌跡よりも下方に位置するとともに、上方端が当接軌跡よりも上方に位置している。したがって、撥液作用により当接軌跡に沿って処理液が残存しない、あるいは残存しても処理液の残量は従来よりも大幅に少なくなる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、処理液が付着したスリットノズルの先端部に対してスクレーパを当接させつつ相対移動させた際に、当該先端部での処理液痕の発生や量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るスリットノズルの第1実施形態を装備する基板処理装置を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す基板処理装置を模式的に示す側面図である。
図3図1に示す基板処理装置の各部の配置を概略的に示す上面図である。
図4】掻取動作によりノズル洗浄を実行する洗浄ユニットの構成を模式的に示す図である。
図5】本発明に係るスリットノズルの第1実施形態を示す斜視図である。
図6図5に示すスリットノズルに対するスクレーパによる掻取動作の一例を模式的に示す図である。
図7】本発明に係るスリットノズルの第2実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係るスリットノズルの第1実施形態を装備する基板処理装置を模式的に示す斜視図である。また、図2図1に示す基板処理装置を模式的に示す側面図である。さらに、図3図1に示す基板処理装置の各部の配置を概略的に示す上面図である。なお、図1図2図3および以降の各図にはそれらの方向関係を明確にするためZ方向を上下方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付するとともに、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。また、図2および図3では、ノズル支持体等の一部の構成を省略している。
【0014】
基板処理装置1は、例えばスリットノズル2を用いて基板3の表面31に処理液を塗布するスリットコータと呼ばれる塗布装置である。処理液は、顔料を含むカラーレジスト液などである。また、基板3は平面視で矩形状を有するガラス基板である。なお、本明細書中で、「基板3の表面31」とは基板3の両主面のうち処理液が塗布される側の主面を意味する。
【0015】
基板処理装置1は、基板3を水平姿勢で吸着保持可能なステージ4と、ステージ4に保持される基板3にスリットノズル2を用いて基板処理の一例である塗布処理を施す塗布処理部5と、スリットノズル2に対してメンテナンス処理を施すノズルメンテナンスユニット6と、これら各部を制御する制御部100とを備える。
【0016】
ステージ4は略直方体の形状を有する花崗岩等の石材で構成されており、その上面(+Z側)のうち(+X)方向側には、略水平な平坦面に加工されて基板3を保持する保持面41を有する。保持面41には図示しない多数の真空吸着口が分散して形成されている。これらの真空吸着口により基板3が吸着されることで、塗布処理の際に基板3が所定の位置に水平に保持される。なお、基板3の保持態様はこれに限定されるものではなく、例えば機械的に基板3を保持するように構成してもよい。また、ステージ4において保持面41が占有する領域より(-X)方向側にはノズル調整領域RAが設けられており、このノズル調整領域RAにノズルメンテナンスユニット6が配置されている。
【0017】
スリットノズル2はY方向に延設されている。また、XZ断面において先端部21(リップ部と称することもある)は下方へ先細りの形状を有する。そして、当該先端部21においてスリット状の吐出口23がY方向に延設されており、図示省略の処理液供給機構から圧送されてくる処理液が上記吐出口23から下方に吐出される。これによって、処理液が基板3の表面31に供給され、基板3の表面31に処理液が塗布される。
【0018】
塗布処理部5は、スリットノズル2を支持するノズル支持体51を有する。このノズル支持体51は、ステージ4の上方でY方向に平行に延設された支持部材51aと、支持部材51aをY方向の両側から支持して支持部材51aを昇降させる2つの昇降機構51bとを有する。支持部材51aは、カーボンファイバ補強樹脂等で構成され、矩形の断面を有する棒部材である。この支持部材51aの下面はスリットノズル2の装着箇所510となっており、支持部材51aは装着箇所510にスリットノズル2を着脱可能に支持する。なお、スリットノズル2を支持部材51aの装着箇所510に着脱するための機構としては、ラッチあるいはネジ等の種々の締結機構を適宜用いることができる。
【0019】
2つの昇降機構51bは支持部材51aの長手方向の両端部に連結されており、それぞれACサーボモータおよび及びボールネジ等を有する。これらの昇降機構51bにより、支持部材51aおよびそれに固定されたスリットノズル2が上下方向(Z方向)に昇降され、スリットノズル2の下端で開口する吐出口23と基板3との間隔、すなわち、基板3に対する吐出口23の相対的な高さが調整される。なお、支持部材51aの上下方向の位置は、例えば、図示を省略しているが、昇降機構51bの側面に設けられたスケール部と、当該スケール部に対向してスリットノズル2の側面等に設けられた検出センサとで構成されるリニアエンコーダにより検出できる。
【0020】
このように構成されたノズル支持体51は、図1に示すように、ステージ4の左右両端部をY方向に沿って掛け渡された、保持面41を跨ぐ架橋構造を有している。塗布処理部5は、このノズル支持体51をX方向に移動させるスリットノズル移動部53を有する。スリットノズル移動部53は、架橋構造体としてのノズル支持体51とこれに支持されたスリットノズル2とを、ステージ4上に保持される基板3に対してX方向に沿って相対移動させる相対移動手段として機能する。具体的には、スリットノズル移動部53は、±Y側のそれぞれにおいて、スリットノズル2の移動をX方向に案内するガイドレール52と、駆動源であるリニアモータ54と、スリットノズル2の吐出口23の位置を検出するためのリニアエンコーダ55とを有する。
【0021】
2つのガイドレール52はそれぞれ、ステージ4のY方向の両端部に設けられ、ノズル調整領域RAおよび保持面41が設けられた区間を含むようにX方向に延設されている。そして、2つのガイドレール52がそれぞれ、2個の昇降機構51bの移動を方向に案内する。また、2つのリニアモータ54はそれぞれ、ステージ4の両側に設けられ、固定子54aと移動子54bとを有するACコアレスリニアモータである。固定子54aは、ステージ4のY方向の側面にX方向に沿って設けられている。一方、移動子54bは、昇降機構51bの外側に固設されている。2個のリニアモータ54はそれぞれ、これら固定子54aと移動子54bとの間に生じる磁力によって、2個の昇降機構51bをX方向に駆動する。
【0022】
また、各リニアエンコーダ55はそれぞれ、スケール部55aと検出部55bとを有している。スケール部55aはステージ4に固設されたリニアモータ54の固定子54aの下部にX方向に沿って設けられている。一方、検出部55bは、昇降機構51bに固設されたリニアモータ54の移動子54bのさらに外側に固設され、スケール部55aに対向配置される。リニアエンコーダ55は、スケール部55aと検出部55bとの相対的な位置関係に基づいて、X方向におけるスリットノズル2の吐出口23の位置を検出する。
【0023】
このように構成されたスリットノズル移動部53は、ノズル支持体51をX方向に駆動することで、ノズル調整領域RAの上方とステージ4上に保持される基板3の上方との間でスリットノズル2を移動させることができる。そして、基板処理装置1は、スリットノズル2の吐出口23から処理液を吐出しながらスリットノズル2を基板3に対して相対移動させることで、基板3の表面31に塗布層を形成する。なお、基板3の各辺の端部から所定の幅の領域(額縁状の領域)は、処理液の塗布対象とならない非塗布領域となっている。したがって、基板3のうち、この非塗布領域を除いた矩形領域が、処理液を塗布すべき塗布領域RTとなっている(図3)。このため、スリットノズル2の移動区間のうち基板3の塗布領域RTの上方区間を移動する吐出口23から処理液が吐出される。
【0024】
また、基板処理装置1と外部搬送機構との基板3の受渡し期間(基板3の搬入・搬出期間)等のステージ4上で塗布処理が行われない期間には、スリットノズル2は、基板3の保持面41から(-X)方向側に外れたノズル調整領域RAに待避する(図1に示す状態)。そして、ノズル調整領域RAに位置するスリットノズル2に対して、ノズルメンテナンスユニット6が各種のメンテナンスを実行する。
【0025】
ノズルメンテナンスユニット6は、図2に示すように、保持面41の占有する領域より(-X)方向側(同図の右手側)のノズル調整領域RAに設けられており、スリットノズル2をノズル洗浄して、スリットノズル2に付着した付着物を除去する機能を有している。ここで、除去対象となる付着物としては、スリットノズル2に付着しうる種々の物質が挙げられる。例えば、この付着物は処理液自体および処理液の溶質が乾燥・固化した固化材料などを含む。
【0026】
ノズルメンテナンスユニット6は、2種類の洗浄ユニット7、8を備えている。洗浄ユニット7では、スクレーパがスリットノズル2の先端部21(リップ部)の外面に当接しながら、当該外面に沿ってY方向に沿って移動する。これにより、スクレーパはスリットノズル2の先端部21に付着した処理液などを掻き取って除去する(掻取動作)。この除去された処理液はリンス液と一緒に洗浄ユニット7に設けられる回収部に回収される。
【0027】
図4は掻取動作によりノズル洗浄を実行する洗浄ユニットの構成を模式的に示す図である。洗浄ユニット7は、付着物除去部71と、ノズル洗浄移動部72と、回収部73と、を備えている。
【0028】
付着物除去部71は、同図に示すように、スプレッダ711およびスクレーパ712の2種類のノズル洗浄部材と、スプレッダ711およびスクレーパ712をスリットノズル2の先端部21に向けた状態で支持する支持部材713とを有する。これらのうち、スプレッダ711は、スリットノズル2から少量、吐出され、スリットノズル2の先端部21に付着した処理液をスリットノズル2の先端部21に塗り広げる機能を担い、スクレーパ712はスプレッダ711の移動方向Yの下流側でスリットノズル2の先端部21から処理液を除去する液切り機能を担う。これによって、スリットノズル2の先端部21の付着物(処理液)を除去することができる。つまり、乾燥して固化した処理液等の付着物が先端部21の傾斜面に付着している場合、スプレッダ711により塗り広げられた処理液が付着物をある程度溶解し、この溶解物(付着物)を含む処理液がスクレーパ712によって除去される。このように本実施形態では、スクレーパ712がスリットノズル2の先端部21に付着する処理液を除去する機能を有している。
【0029】
支持部材713には、ノズル洗浄移動部72が接続されている。このノズル洗浄移動部72は、制御部100からの移動指令に応じて支持部材713を吐出口23の延設方向Yに往復移動させる。これによりスプレッダ711およびスクレーパ712が図4に示す移動範囲MRでX方向に往復移動する。この移動範囲MRは、スリットノズル2の先端部21の下方で、かつ先端部21のY方向サイズよりも若干広いサイズを有している。ノズル洗浄移動部72により付着物除去部71が(+Y)方向側から(-Y)方向側に移動する際には、同図の1点鎖線で示すように、スリットノズル2が洗浄ユニット7の洗浄位置に位置している。つまり、上記スクレーパ712がスリットノズル2の先端部21に当接した状態で、付着物除去部71が(+Y)方向側から(-Y)方向側に移動する。これによりスリットノズル2の先端部21の洗浄処理が実行される。一方、洗浄処理が完了し、スリットノズル2が洗浄ユニット7の洗浄位置から離間した状態で、付着物除去部71が(-Y)方向側から(+Y)方向側に移動する。このように、ノズル洗浄移動部72が本発明の「移動機構」として機能する。
【0030】
洗浄処理によりスリットノズル2の先端部21から除去された処理液やリンス液など(以下において、これらを総称して適宜「除去された処理液」という)、付着物除去部71を経由して下方に流れる。この処理液を回収するために、本実施形態では、回収部73が設けられている。回収部73は上方に開口したボックス形状を有する構造体で構成されている。これにより、付着物除去部71を経由して落下してくる、除去された処理液が回収部73で回収される。
【0031】
この回収部73の(-Y)方向部位の鉛直下方、かつ移動範囲MRの(+X)方向側に排出部74が配置されている。この排出部74は、図4に示すように、洗浄待機状態の回収部73に向けて開口したボックス形状の受取部材741と、受取部材741の底面から基板処理装置1の外部に延設される配管742とを有している。排出部74では、受取部材741が回収部73から排出される塗布液を受け止め、配管742を介して装置外部に設けられた排液処理装置(図示省略)に排出する。
【0032】
このようにスクレーパ712によりスリットノズル2の先端部21から処理液が除去されるが、基板処理装置1では、当該掻取動作を含む塗布前処理を実行した後で塗布処理が実行される。また、塗布済の基板3に代えて、新たな基板3がステージ4に保持されると、塗布前処理と塗布処理とが制御部100からの指令に応じて実行される。このように掻取動作は繰り返して実行され、処理液痕が蓄積される。そこで、もう一方の洗浄ユニット8が設けられている。
【0033】
もう一方の洗浄ユニット8は、上記洗浄ユニット7によっては除去しきれなかった残留付着物、つまり蓄積された処理液痕を洗浄液と超音波振動とを利用してスリットノズル2から除去するための装置である。この洗浄ユニット8では、スリットノズル2の先端部21を洗浄するための洗浄液が洗浄槽81に貯留されている。そして、掻取動作の累積回数が一定値に到達すると、上記繰り返し作業を一時的に中断し、スリットノズル2に対する超音波洗浄処理が実行される。つまり、スリットノズル2の先端部21を洗浄槽81に浸漬した状態で洗浄液を介して超音波振動が先端部21に加えられることで、処理液痕が除去される。
【0034】
この超音波洗浄処理は、基板処理装置1のタクトを悪化させる主要因のひとつになる。したがって、超音波洗浄処理の頻度を低減させることが望まれる。この頻度は処理液痕の蓄積状況に応じて変動する。したがって、スクレーパ712による掻取動作により生じる処理液痕の発生や量を抑制することが、上記頻度を低減させる上で効果的である。そこで、本願発明者は、上記掻取動作におけるスリットノズル2での処理液の残留挙動を検証し、スリットノズルに対するスクレーパの相対移動によりスクレーパの上方端が描く当接軌跡(次に説明する図5中の符号CT)と重なるように、スリットノズルの先端部の表面に撥液処理された表面処理領域を設けることが処理液痕の抑制に有益であることを見出した。以下、図5および図6を参照しつつ本願発明者による検証内容および当該検証に基づくスリットノズル2への表面処理について詳述する。
【0035】
図5は本発明に係るスリットノズルの第1実施形態を示す斜視図である。図6図5に示すスリットノズルに対するスクレーパによる掻取動作の一例を模式的に示す図である。本実施形態のスリットノズル2が従来周知のノズルと大きく異なる点は、先端部21の一部に撥液処理を施すことで上記接触角条件を満足させていることであり、その他の構成は基本的に同一である。なお、図5および図6においては、撥液処理が施された表面処理領域とスクレーパ712との接触状況を明確にするためにスリットノズル2およびスクレーパ712の寸法を実際とは異ならせて示している。また、撥液処理された領域を明示するために、図5において当該領域にドットを参考的に付している。
【0036】
このスリットノズル2は、ステンレス鋼を加工した一対のノズル基材を組み合わせて構成されている。各ノズル基材では、先端部21と、先端部21から上方、つまり(+Z)方向に延びるノズル本体部22とが一体的に形成されている。先端部21は、図6に示すように、その長手方向であるY方向からの側面視において先細りの凸形状を有し、その先端(下端)に設けられた先端面211と、先端面211の(+X)側に形成されるリップ側面212aと、(-X)側に形成されるリップ側面212bとを有している。以下の説明では、リップ側面212aとリップ側面212bとを区別しないときは、単にリップ側面212と呼ぶ。
【0037】
先端面211には、図5に示すように、Y方向に延びる長尺スリット状の開口部である吐出口23がY方向に延設されている。そして、吐出口23を下方に向けた姿勢で、ノズル本体部22がノズル支持体51(図1)によって固定支持される。このため、スリットノズル2に対して処理液Lが図外の処理液供給機構から圧送されると、ノズル本体部22の内部に形成される内部流路を経由して吐出口23に送液され、吐出口23から(-Z)方向に吐出される。スリットノズル2の吐出口23から処理液Lを吐出しつつ、図2に示すようにスリットノズル2をX方向に移動させることで、基板3に対する供給動作が実行される。これにより、基板3の表面31に処理液Lが塗布される。このとき、スリットノズル2の吐出口23の周囲部分、つまり先端部21に処理液Lが付着することがある。付着した処理液Lが、乾燥して残渣となり、これを放置すると、良好な吐出の妨げや、基板3に形成される処理液Lの膜の汚れの原因になる。
【0038】
そこで、上記したようにスクレーパ712が設けられている。スクレーパ712は、フッ素含有ゴムなどの弾性体で形成されている。スクレーパ712の上方端部には、略V字型の溝であるV字溝712aが形成されている。V字溝712aは、スリットノズル2の先端部21に対応した形状をしており、リップ側面212aに応じた傾斜を持った内側面712bと、リップ側面212bに応じた傾斜を持った内側面712cとを有する。このように構成されたスクレーパ712は、その上端面を上下方向Zにおける高さ位置Paに位置させた状態で配置されている。そして、スリットノズル2が上方から下降してくると、図6に示すように、スリットノズル2の先端部21がスクレーパ712のV字溝712aに入り込む。そして、リップ側面212a、212bの一部がそれぞれ内側面712b、712cと当接する。このときのスリットノズル2の各部の高さ位置は図5に示す通りである。つまり、上下方向Zにおいて、先端面211は位置P0に位置し、スクレーパ712の上方端と当接する当接部位は位置Paに位置し、撥液処理された領域(次に詳述する表面処理領域SA)の下方端および上方端はそれぞれ位置P1、P2に位置しており、これらの位置P0、Pa、P1、P2は、上下方向Zにおいて、次の不等式、
P0<P1<Pa<P2
で示す関係を有している。
【0039】
スリットノズル2の先端部21とスクレーパ712とを当接させたまま、スクレーパ712をY方向に移動させることで、スリットノズル2の先端部21から付着物が掻き取られる(掻取動作)。このとき、スクレーパ712の上方端712d、712eはそれぞれY方向に延びる当接軌跡を描く。図5では、(+X)方向側の当接軌跡CT、つまり上方端712dの軌跡のみが図示されているが、(-X)方向側にも同様の当接軌跡が存在する。従来技術では、スリットノズル2の先端部21において、当接軌跡CTに沿って処理液痕が生じていた。
【0040】
そこで、本実施形態では、図5および図6に示すように、当接軌跡CTに対応してスリットノズル2の先端部21の表面に撥液処理が表面処理として施され、先端部21の表面において処理液Lを撥液可能となっている。本実施形態では、スリットノズル2はステンレス鋼で形成されているが、スリットノズル2の表面のうち以下の3つの領域に対し、シリコン系有機化合物により表面処理が施されている。すなわち、それら3つの領域は、図5においてドットを付した、
・先端部21のリップ側面212a、212bのうちスクレーパ712と当接するノズル側当接領域CAnと、
・先端部21のリップ側面212a、212bのうちノズル側当接領域CAnよりも上方のリップ上方領域UAと、
・ノズル本体部22の下方露出領域BAと、
である。一方、フッ素含有ゴム製スクレーパ712の表面に対しては、特段の表面処理を施していない。
【0041】
このようにスリットノズル2の先端部21の表面のうち当接軌跡CTに対応する領域に撥液処理を施した表面処理領域SA(=ノズル側当接領域CAn+リップ上方領域UA)が形成されている。より詳しくは、表面処理領域SAの下方端DEは当接軌跡CTよりも下方に位置するとともに、上方端は当接軌跡CTよりも上方に位置しており、側方からスリットノズル2の先端部21およびスクレーパ712の上端部を見ると、当接軌跡CTが表面処理領域SAと重なっている。このため、撥液作用により当接軌跡CTに沿って処理液が残存しない、あるいは残存しても処理液の残量は従来よりも大幅に少なくなる。
【0042】
また、当接軌跡CTに沿って処理液がスリットノズル2側に残存したとしても、この処理液は表面処理領域SAに位置している。このため、残存した処理液が高さ位置Paに留まっておくことは難しく、しかも次に説明するように重力の影響により先端部21の傾斜面に沿って移動し易い。このため、掻取処理後にスリットノズル2側で当接軌跡CT上に残留していた処理液は先細り形状の先端部21の表面に沿って下方に移動し易く、当接軌跡CTよりも下方に付着することが多い。したがって、次の掻取処理によってスクレーパ712により掻き取られ、スリットノズル2の先端部21から確実に除去される。したがって、先の超音波洗浄処理と次の超音波洗浄処理との間で掻取処理を含む塗布前処理および塗布処理を繰り返して行う基板処理装置1では、上記撥液処理を施したことにより、1回の掻取処理によって掻き取れなかった処理液をそれ以降の掻取処理により除去することができる。
【0043】
さらに、表面処理領域SAを当接軌跡CTと重なるように設けたことによる作用効果は接触角の観点からも説明することができる。すなわち、本実施形態では、表面処理領域SAに対してスクレーパ712の上端部が当接して処理液の掻取作業を実施している。ここで、接触角を調べると、図6の部分拡大図に示すように、ノズル側当接領域CAnに対する処理液Lの接触角θnは、スクレーパ712の表面のうち先端部21に当接するスクレーパ側当接領域CAsに対する処理液Lの接触角θsよりも大きくなる(接触角条件)。例えば黒色の色素を含むカラーレジスト液を処理液Lとして用いたときの接触角θn、θsを計測したところ、接触角θn、θsはそれぞれ42.8゜、29、4゜であった。また、シリコン系有機化合物の代わりに、フッ素シリコン系化合物による表面処理により撥液性を発揮させた場合、黒色の色素を含むカラーレジスト液を処理液Lとして用いたときの接触角θnを計測したところ、接触角θnは63.9゜であった。なお、参考のために、スリットノズル2を構成するステンレス鋼に対するカラーレジスト液の接触角を計測したところ、6.4゜であった。
【0044】
上記したように、本実施形態によれば、上記接触角条件が満足されることで、処理液Lの大部分はスクレーパ712側に移動する。より詳しくは、先端部21に付着した処理液Lをスクレーパ712により掻き取っているとき、図6の部分拡大図に示すように、矢印方向Yへのスクレーパ712の移動に伴ってスクレーパ712と先端部21との間に位置する処理液Lの移動先はスクレーパ712および先端部21に分かれる。その際に、スクレーパ側の接触角θsが小さく、スクレーパ712に対して処理液の濡れ性が良好である。その結果、スクレーパ712側に流動する処理液が多くなり、当接軌跡CT上に処理液が残存しない、あるいは残存しても処理液の残量は従来よりも大幅に少なくなる。
【0045】
これらによって、掻取動作により処理液痕(処理液としてカラーレジスト液を用いる場合には、レジスト痕)の発生や量を抑制することができる。その結果、洗浄ユニット8による超音波洗浄処理の頻度を低減させることができ、基板処理装置1のタクトを向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記したように表面処理領域SAの下方端DEは当接軌跡CTよりも下方であるものの、図5および図6に示すように、吐出口23およびその近傍領域に達していない。つまり、吐出口23およびその近傍領域では、撥液処理が施されておらず、スリットノズル2の構成材料、つまりステンレス鋼の表面が露出している。つまり、吐出口23およびその近傍領域は塗布処理に適した表面状態に維持されている。この表面状態は、例えば塗布処理の開始時に処理液のビードを形成するのに好適である。その結果、塗布処理を円滑に行うことが可能となっている。このような作用効果を達成するためには、先端面211から下方端DEまでの距離は数mm程度に設定するのが望ましいが、当該距離は処理液の種類に対応して決定するのが望ましい。
【0047】
さらに、ノズル本体部22の下方露出領域BAにも撥液処理を施しているため、塗布処理時に処理液が基板3から飛び跳ね、下方露出領域BAに付着するのを抑制することができる。
【0048】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、表面処理領域SAは、上方端が下方露出領域BAに繋がるとともに下方端DEが当接軌跡CTよりも下方に位置するように、設けられている。この表面処理領域SAの形状や範囲はこれに限定されるものではなく、例えば図7に示すように、下方端DEが当接軌跡CTと一致してもよい(第2実施形態)。また、図示を省略するが、上下方向Zにおいて、上方端が位置P1、P2の中間に位置してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、下方露出領域BAに対して撥液処理を施しているが、これは処理液痕の発生および量の低減と直接関係していない。したがって、当該撥液処理を省略してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、スリットノズル2から少量吐出された処理液をスプレッダ711により先端部21に塗り広げているが、この処理液吐出が不要な場合もある。例えばリンス液供給部、超音波洗浄やノズルクリーナなどによりスリットノズル2の先端部21が洗浄液やリンス液などにより濡れている場合がそれである。この場合、処理液吐出なしのまま、スプレッダ711により塗り広げられた洗浄液などが付着物をある程度溶解し、この溶解物(付着物)を含む処理液がスクレーパ712によって除去される。
【0051】
また、上記実施形態では、スプレッダ711およびスクレーパ712を有する付着物除去部71によりノズル洗浄を行う基板処理装置1に本発明を適用しているが、スクレーパ712のみを有する基板処理装置に対しても本発明を適用することができる。
【0052】
また、上記実施形態では、基板3をステージ4で保持した状態でスリットノズル2から処理液を供給する基板処理装置1に本発明を適用しているが、基板を浮上して搬送しながら当該基板にスリットノズルから処理液を供給する浮上搬送式の基板処理装置に対しても本発明を適用することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、スクレーパ712を含む付着物除去部71がスリットノズル2に対してY方向に移動しているが、スリットノズル2がY方向に移動することで掻取動作を実行してもよい。つまり、本発明は、スクレーパ712がスリットノズル2に対して吐出口23の延設方向Yに相対移動する基板処理装置に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明は、スリット状の吐出口から処理液を吐出するスリットノズル、およびスリットノズルの先端部から処理液を掻き取る基板処理技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…基板処理装置
2…スリットノズル
3…基板
8…洗浄ユニット(洗浄部)
21…(スリットノズルの)先端部
23…吐出口
72…ノズル洗浄移動部(移動機構)
100…制御部
712…スクレーパ
CT…当接軌跡
DE…(表面処理領域の)下方端
L…処理液
SA…表面処理領域
Y…延設方向
Z…上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7