(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】膜閉塞物質の分析方法及び分析装置、並びに分離膜の薬注制御方法及び薬注制御装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/00 20060101AFI20241030BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20241030BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241030BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B01D65/00
B01D65/06
C02F1/44 A
C02F1/44 C
C02F1/44 D
G01N21/27 B
(21)【出願番号】P 2023518644
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016068
(87)【国際公開番号】W WO2022234751
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021078659
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】木田 卓
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇規
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-166463(JP,A)
【文献】特開2012-106237(JP,A)
【文献】特開2019-155257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0096438(US,A1)
【文献】特開2016-107235(JP,A)
【文献】特表2019-505779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験水が通水された監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を可視光分光光度計で測定し、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて膜の閉塞物質を特定し、
前記膜の閉塞物質を特定する工程は、
未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜の閉塞物質である想定物質の前記反射強度を測定し、
前記未使用膜及び前記想定物質における前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、
前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度を測定し、
前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいとき、前記被監視膜が閉塞していると判定し、
前記被監視膜における、前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、
前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜の閉塞物質を特定する、膜閉塞物質の分析方法。
【請求項2】
400nm~800nmの可視光領域のうち、4つ以上の波長光の前記反射強度に基づいて前記膜の閉塞物質を特定する、請求項1に記載の膜閉塞物質の分析方法。
【請求項3】
前記可視光領域のうち、400nm~450nm、450nm~500nm、600nm~700nm及び700nm~800nmの各領域でそれぞれ測定した、少なくとも1つ以上の波長光の前記反射強度に基づいて前記膜の閉塞物質を特定する、請求項2に記載の膜閉塞物質の分析方法。
【請求項4】
試験水が通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を測定する可視光分光光度計と、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて膜の閉塞物質を特定する演算装置と、
を有し、
前記演算装置は、
前記可視光分光光度計で測定された未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜の閉塞物質である想定物質の前記反射強度から、前記未使用膜及び前記想定物質における、前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記可視光分光光度計で測定された前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度に基づき、前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいときに前記被監視膜が閉塞していると判定し、前記被監視膜における前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜の閉塞物質を特定する膜閉塞物質の分析装置。
【請求項5】
前記演算装置は、
400nm~800nmの可視光領域のうち、4つ以上の波長光の前記反射強度に基づいて前記膜の閉塞物質を特定する、請求項4に記載の膜閉塞物質の分析装置。
【請求項6】
前記演算装置は、
前記可視光領域のうち、400nm~450nm、450nm~500nm、600nm~700nm及び700nm~800nmの各領域でそれぞれ測定した、少なくとも1つ以上の波長光の前記反射強度に基づいて前記膜の閉塞物質を特定する、請求項5に記載の膜閉塞物質の分析装置。
【請求項7】
被処理水を分離膜により透過水と濃縮水とに分離し、
前記濃縮水の一部を試験水として監視用分離膜に通水し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した
前記可視光の反射強度を可視光分光光度計で測定し、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて前記分離膜を閉塞させる膜閉塞物質を特定し、
前記膜閉塞物質を特定する工程は、
未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜閉塞物質である想定物質の前記反射強度を測定し、
前記未使用膜及び前記想定物質における前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、
前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度を測定し、
前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいとき、前記被監視膜が閉塞していると判定し、
前記被監視膜における、前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、
前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜閉塞物質を特定し、
特定された
前記膜閉塞物質を溶解除去する薬液、または特定された
前記膜閉塞物質による膜閉塞を抑制する薬液を、前記分離膜の通水ラインに薬注する、分離膜の薬注制御方法。
【請求項8】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜を備えた膜分離装置と、
前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した
前記可視光の反射強度を測定する可視光分光光度計と、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて前記分離膜を閉塞させる膜閉塞物質を特定する演算装置と、
特定された
前記膜閉塞物質を溶解除去する薬液、または特定された
前記膜閉塞物質による膜閉塞を抑制する薬液を、前記分離膜の通水ラインに薬注する制御装置と、
を有し、
前記演算装置は、
前記可視光分光光度計で測定された未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜閉塞物質である想定物質の前記反射強度から、前記未使用膜及び前記想定物質における、前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記可視光分光光度計で測定された前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度に基づき、前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいときに前記被監視膜が閉塞していると判定し、前記被監視膜における前記
可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜閉塞物質を特定する分離膜の薬注制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を閉塞させる膜閉塞物質の分析方法及び分析装置、並びに分離膜の薬注制御方法及び薬注制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜を用いて被処理水を処理する水処理システムでは、被処理水に含まれる膜閉塞物質によって分離膜が徐々に閉塞することが知られている。分離膜の閉塞が進行すると水処理の効率が低下するため、一般的には酸やアルカリ等の洗浄薬液を用いて膜閉塞物質を溶解除去し、分離膜を初期状態へと回復させる。洗浄薬液を用いた分離膜の洗浄条件(洗浄薬液の種類、濃度、洗浄流速、水温等)は、膜閉塞の進行度や膜閉塞物質の種類等に応じて決定される。
【0003】
膜閉塞の進行度や膜閉塞物質の種類等は、例えば、水処理システムの運転を停止して閉塞した分離膜を取り外す、あるいは未使用の分離膜に交換し、閉塞した分離膜を分析することで判定する方法が考えられる。しかしながら、そのような方法は、分離膜の取り外し、洗浄後の再組み込み、あるいは分離膜の交換等の手間が発生すると共に、分析結果が得られるまでに時間を要するという課題がある。そこで、膜閉塞の進行度を推定するための技術や膜閉塞物質の種類を特定するための技術が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、分離膜で分離された濃縮水の一部を監視用分離膜へ送水し、監視用分離膜における濃縮水の透過量の絶対値またはその変化率、監視用分離膜の透過前後における濃縮水の差圧の絶対値またはその変化率等に基づいて、分離膜の膜閉塞の進行度を推定する技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、分離膜を備える膜分離装置を透明な樹脂等で構成し、該分離膜の膜面をカラーセンサで経時的に観測することで、該膜面に付着する膜閉塞物質の種類を特定することが記載されている。
【0006】
上述した特許文献1は、膜閉塞の進行度を推定するための技術を提案したものであり、分離膜の膜面に付着した膜閉塞物質の種類を特定するものではない。したがって、特許文献1に記載された技術は、膜閉塞物質の種類に応じて適切な薬液を選択することができないという課題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載された水処理システムでは、カラーセンサで観測された膜面の色から膜閉塞物質を特定するため、判別可能な膜閉塞物質の種類が限定されてしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-130823号公報
【文献】特開2019-166463号公報
【発明の開示】
【0009】
本発明は上述したような背景技術が有する課題を解決するためになされたものであり、より多くの膜閉塞物質の種類の特定が可能な膜閉塞物質の分析方法及び分析装置、並びに該分析方法及び分析装置を用いる分離膜の薬注制御方法及び薬注制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため本発明の膜閉塞物質の分析方法は、試験水が通水された監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を可視光分光光度計で測定し、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて膜の閉塞物質を特定し、
前記膜の閉塞物質を特定する工程は、
未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜の閉塞物質である想定物質の前記反射強度を測定し、
前記未使用膜及び前記想定物質における前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、
前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度を測定し、
前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいとき、前記被監視膜が閉塞していると判定し、
前記被監視膜における、前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、
前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜の閉塞物質を特定する方法である。
【0011】
本発明の膜閉塞物質の分析装置は、試験水が通水される監視用分離膜と、
前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を測定する可視光分光光度計と、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて膜の閉塞物質を特定する演算装置と、
を有し、
前記演算装置は、
前記可視光分光光度計で測定された未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜の閉塞物質である想定物質の前記反射強度から、前記未使用膜及び前記想定物質における、前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記可視光分光光度計で測定された前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度に基づき、前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいときに前記被監視膜が閉塞していると判定し、前記被監視膜における前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜の閉塞物質を特定する。
【0012】
本発明の分離膜の薬注制御方法は、被処理水を分離膜により透過水と濃縮水とに分離し、
前記濃縮水の一部を試験水として監視用分離膜に通水し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜に可視光を照射し、
前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を可視光分光光度計で測定し、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて前記分離膜を閉塞させる膜閉塞物質を特定し、
前記膜閉塞物質を特定する工程は、
未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜閉塞物質である想定物質の前記反射強度を測定し、
前記未使用膜及び前記想定物質における前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、
前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度を測定し、
前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいとき、前記被監視膜が閉塞していると判定し、
前記被監視膜における、前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、
前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜閉塞物質を特定し、
特定された前記膜閉塞物質を溶解除去する薬液、または特定された前記膜閉塞物質による膜閉塞を抑制する薬液を、前記分離膜の通水ラインに薬注する方法である。
【0013】
本発明の分離膜の薬注制御装置は、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する分離膜を備えた膜分離装置と、
前記濃縮水の一部が試験水として通水される監視用分離膜と、
前記試験水が通水された前記監視用分離膜に可視光を照射し、前記監視用分離膜で反射した前記可視光の反射強度を測定する可視光分光光度計と、
測定した前記可視光の前記反射強度に基づいて前記分離膜を閉塞させる膜閉塞物質を特定する演算装置と、
特定された前記膜閉塞物質を溶解除去する薬液、または特定された前記膜閉塞物質による膜閉塞を抑制する薬液を、前記分離膜の通水ラインに薬注する制御装置と、
を有し、
前記演算装置は、
前記可視光分光光度計で測定された未使用の前記監視用分離膜である未使用膜及び想定される前記膜閉塞物質である想定物質の前記反射強度から、前記未使用膜及び前記想定物質における、前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第1の傾きをそれぞれ算出し、前記未使用膜及び前記想定物質の前記第1の傾きと、400~450nmまたは700~800nmの波長光における前記未使用膜の前記反射強度とを保存し、
前記可視光分光光度計で測定された前記試験水が通水された前記監視用分離膜である被監視膜の前記可視光の前記反射強度に基づき、前記400~450nmまたは700~800nmの波長光における、前記被監視膜の前記反射強度が前記未使用膜の前記反射強度よりも小さいときに前記被監視膜が閉塞していると判定し、前記被監視膜における前記可視光の波長光の差に対する前記反射強度の差である第2の傾きを算出し、前記第1の傾きと前記第2の傾きとを比較することで、前記被監視膜を閉塞させている前記膜閉塞物質を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の分離膜の薬注制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示した分析装置の一構成例を示す側断面図である。
【
図3】本発明の分離膜の薬注制御装置の変形例を示すブロック図である。
【
図4】膜閉塞物質のスペクトルの変化の一例を示すグラフである。
【
図5】膜閉塞物質のスペクトルの変化の一例を示すグラフである。
【
図6】
図4及び5で示した想定物質のスペクトルデータの一例を示す表である。
【
図7】
図4及び5で示したスペクトルデータから求めた、実施例の膜閉塞物質の分析方法で用いるパラメータを示す表である。
【
図8】実施例の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図4及び5で示したスペクトルデータから求めた、比較例の膜閉塞物質の分析方法で用いるパラメータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明について図面を用いて説明する。
【0016】
本発明において、「膜閉塞」が生じているとは、膜面の少なくとも一部に膜閉塞物質が付着している状態を意味し、膜閉塞の進行度を限定するものではない。膜閉塞がどの程度進行したら分離膜の洗浄を開始するかは、水処理の目的、被処理水の種類、被処理水の含有成分、透過水の純度等に応じて設定すればよい。本発明が適用可能な分離膜としては、例えば、逆浸透膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、正浸透膜、脱気膜、脱炭酸膜等がある。
【0017】
図1は、本発明の分離膜の薬注制御装置の一構成例を示すブロック図であり、
図2は、
図1に示した分析装置の一構成例を示す側断面図である。
図3は、本発明の分離膜の薬注制御装置の変形例を示すブロック図である。
図1~
図3で示す本発明の分離膜の薬注制御装置は、分離膜を用いて被処理水を処理する水処理システムの一部を構成するものである。
【0018】
図1で示すように、本発明の分離膜の薬注制御装置は、被処理水を貯留する原水タンク1と、原水タンク1から供給される被処理水を濃縮水と透過水とに分離する分離膜を備えた膜分離装置2と、膜分離装置2で分離された濃縮水の一部が試験水として供給される、分離膜に付着した膜閉塞物質の種類を特定するための分析装置3と、分離膜を洗浄するための洗浄薬液等を貯留する薬液タンク4と、分離膜の薬注制御装置全体の動作を制御する制御装置5とを有する。
図1では、分離膜の薬注制御装置が1つの薬液タンク4を備える構成例を示しているが、分離膜の薬注制御装置は、複数の薬液タンク4を有する構成であってもよい。その場合、複数の薬液タンク4には、それぞれ異なる種類の薬液を貯留してもよい。
【0019】
図1で示す分離膜の薬注制御装置は、上記の構成に加えて、原水タンク1から膜分離装置2に被処理水を供給するための原水ポンプ11と、薬液タンク4から水処理システムに薬液を注入するための薬注ポンプ12と、膜分離装置2で分離された濃縮水を外部へ排水するための通水ラインに配置される複数のバルブ13とを備えている。分離膜の薬注制御装置が複数の薬液タンク4を有する場合、該分離膜の薬注制御装置は、薬液タンク4の数に応じて複数の薬注ポンプ12を備えていてもよい。
図1では、複数のバルブ13として、膜分離装置2と分析装置3との間の通水ラインに配置される第1のバルブ13Aと、分析装置3と原水タンク1との間の通水ラインに配置される第2のバルブ13Bと、分析装置3へ送水されない膜分離装置2で分離された濃縮水を外部へ排水するための第3のバルブ13Cとを備える構成例を示している。第2のバルブ13Bは、薬液の注入(薬注)時に、膜分離装置2で分離された濃縮水の通水ラインを介して該薬液を原水タンク1へ戻すために設けられている。第2のバルブ13Bは、通常運転時に、濃縮水を原水タンク1へ戻すために用いられることもある。本発明の分離膜の薬注制御装置は、濃縮水または薬液を原水タンク1に戻す構成である必要はない。複数のバルブ13は、分離膜の薬注制御装置の構成や動作に応じて適宜備えていればよい。同様に、複数のポンプは、原水ポンプ11及び薬注ポンプ12に限定されるものではなく、分離膜の薬注制御装置の構成や動作に応じて適宜備えていればよい。
【0020】
原水タンク1に貯留された被処理水は、原水ポンプ11によって膜分離装置2へ供給される。膜分離装置2は、被処理水を、分離膜を透過する物質を含む透過水と、該分離膜を透過しない物質を含む濃縮水とに分離する。透過水は、処理水として排出される。または、透過水は、さらに別の膜分離装置あるいはイオン交換装置等で処理されて処理水として排出される。濃縮水は、排水として放流される。または、濃縮水は、さらに別の膜分離装置、あるいは生物処理装置、固液分離装置等で処理されて排出される。
【0021】
図1で示すように、薬液タンク4に貯留された薬液は、膜分離装置2が備える分離膜の通水ラインに薬注される。薬液は、例えば、原水タンク1に注入されてもよく、原水ポンプ11と膜分離装置2との間の被処理水の通水ラインに注入されてもよく、膜分離装置2と分析装置3との間の濃縮水の通水ラインに注入されてもよい。薬液タンク4に貯留される薬液は、被処理水の種類、被処理水の含有成分等に基づいて、発生が予想される膜閉塞物質の種類や性状等に応じて選定される。薬液の種類としては、膜閉塞物質を溶解除去して分離膜を洗浄するために用いられる酸性薬液、アルカリ性薬液、界面活性剤等がある。薬液には、膜閉塞物質による膜閉塞を抑制する(膜閉塞を遅らせる)ために用いるスライムコントロール剤、スケール分散剤等を用いてもよい。
【0022】
制御装置5は、原水ポンプ11、薬注ポンプ12及び複数のバルブ13をそれぞれ制御することで本発明の分離膜の薬注制御装置全体の動作を制御する。また、制御装置5は、分析装置3の分析結果に基づいて、薬液タンク4に貯留された薬液を分離膜の通水ラインに注入する。分離膜の薬注制御装置が複数の薬液タンク4を有する場合、制御装置5は、分析装置3で特定された膜閉塞物質の種類に応じて、複数の薬液タンク4で貯留された複数種類の薬液から選択した薬液を分離膜の通水ラインに注入してもよい。分離膜の通水ラインに対する薬注時、制御装置5は、上記第1のバルブ13A及び第2のバルブ13Bを開き、第3のバルブ13Cを閉じることで、薬液を循環させてもよい。制御装置5は、例えば、周知のPLC(Programmable Logic Controller)で実現できる。制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置、I/Oインタフェース、通信装置等を備えた周知の情報処理装置(コンピュータ)で実現してもよい。
【0023】
図1及び
図2で示すように、分析装置3は、原水室31、透過水室32、監視用分離膜33、可視光分光光度計34及び演算装置35を備え、監視用分離膜33が原水室31と透過水室32とを隔てるように設けられた構成である。原水室31、透過水室32及び監視用分離膜33は、監視用セル30を構成する。
【0024】
監視用分離膜33は、膜分離装置2で分離された濃縮水の一部が試験水として供給され、該試験水をさらに濃縮水と透過水とに分離する。監視用分離膜33には、膜分離装置2が備える分離膜と同じ種類の分離膜を用いることが好ましい。さらに、監視用分離膜33には、膜分離装置2が備える分離膜と製造メーカが同じ膜を用いることがより好ましい。
【0025】
原水室31は、上記試験水が供給され、監視用分離膜33を透過しない物質を含む濃縮水を排出する。監視用分離膜33を透過した物質を含む透過水は透過水室32から排出される。原水室31及び透過水室32は、可視光を透過させる部材でそれぞれ構成され、監視用分離膜33の膜面と対向する原水室31の外壁面に可視光分光光度計34が配置される。原水室31及び透過水室32は、可視光を透過させる部材であれば、どのような部材で構成してもよく、例えば、アクリル板、ガラス板、石英、プラスチック等を用いて構成すればよい。原水室31及び透過水室32は、個別に形成されていてもよく、一体的に形成されていてもよい。
【0026】
可視光分光光度計34は、可視光を照射する照明部と可視光の波長毎の反射強度を測定する測定部とを備え、照明部から監視用分離膜33の膜面に可視光を照射し、該膜面で反射した可視光の波長毎の反射強度を測定部でそれぞれ測定する。可視光分光光度計34の測定部は、400~800nmの可視光領域のうち、少なくとも4つ以上の波長光の反射強度を測定できればよい。例えば、測定部は、波長光400~450nm、450~500nm、600~700nm、700~800nmの領域から、それぞれ少なくとも1つ以上の波長光の反射強度を測定すればよい。照明部は、可視光領域の波長光を照射できればよく、周知のどのような構成でもよい。可視光分光光度計34は、予め設定された所定の周期毎に監視用分離膜33の膜面で反射した可視光の反射強度を測定し、その測定データを演算装置35へ送信する。
【0027】
演算装置35は、可視光分光光度計34から反射強度の測定データを受信すると、該測定データに基づいて監視用分離膜33の膜面に付着した物質の種類を推定し、推定した物質を分離膜の膜閉塞物質として制御装置5へ通知する。このとき、演算装置35は、監視用分離膜33の膜閉塞の進行度を推定し、その推定結果も併せて制御装置5へ送信してもよい。演算装置35または制御装置5は、膜閉塞物質の推定結果や膜閉塞の進行度の推定結果等を、ディスプレイ装置等の出力装置を用いて、本発明の分離膜の薬注制御装置を含む水処理システムの管理者等に通知してもよい。
【0028】
なお、
図1及び2で示す分離膜の薬注制御装置は、膜分離装置2で分離された濃縮水の一部を試験水として監視用セル30に供給する構成例を示している。本発明の分離膜の薬注制御装置は、
図3で示すように、原水タンク1に貯留された被処理水の一部を試験水として監視用セル30に供給する構成としてもよい。その場合、第1のバルブ13Aは、例えば、
図3で示すように原水ポンプ11と分析装置3との間の通水ラインに移動させてもよい。
【0029】
本発明では、水処理システムの目的、被処理水の種類、被処理水の含有成分等に基づいて、分離膜で発生が予想される(想定される)1つあるいは複数の膜閉塞物質(以下、想定物質と称す)を選出し、該想定物質毎の可視光における反射強度のデータ(スペクトルデータ)を予め測定する。また、未使用の監視用分離膜(=分離膜、以下、未使用膜と称す)の可視光における反射強度のデータも予め測定する。そして、それらのスペクトルデータから算出された、未使用膜及び想定物質毎の波長光の差に対する反射強度の差である傾き(第1の傾き)及び特定の波長光における反射強度の値を演算装置35の記憶装置でそれぞれ保存しておく。
【0030】
演算装置35は、予め測定された未使用膜及び想定物質の波長光毎の反射強度のデータと、水処理システムが運転されることで、試験水が通水された監視用分離膜(以下、被監視膜と称す)の波長光毎の反射強度のデータとを比較することで膜閉塞物質を特定する。より具体的には、演算装置35は、未使用膜及び想定物質に関して、可視光領域における4つ以上の波長光毎の反射強度のデータをそれぞれ測定し、それらの測定データから求めた、未使用膜及び想定物質毎の反射強度や上記傾きを保存しておく。また、未使用膜及び想定物質毎の反射強度や傾きに基づいて設定された、膜閉塞物質を判別するための判別条件をそれぞれ保存しておく。そして、可視光分光光度計34で被監視膜の波長光毎の反射強度が測定されると、該判別条件を用いて被監視膜の測定データから膜閉塞物質を特定する。
【0031】
なお、膜閉塞の進行度を推定する場合、演算装置35は、例えば、上記特許文献1に記載された、監視用分離膜33における濃縮水の透過量の絶対値またはその変化率、監視用分離膜33の透過前後における濃縮水の差圧の絶対値またはその変化率等に基づいて、分離膜の膜閉塞の進行度を推定する方法を用いればよい。
【0032】
反射強度の測定には、可視光領域のうち、400~450nmまたは700~800nmの波長光を必ず含めるようにすることが望ましい。発明者らは、分離膜(監視用分離膜33)の膜面に膜閉塞物質が付着している場合、これらの波長光域における反射強度が、未使用膜のそれよりも低下することを実験等で確認している。したがって、400~450nmまたは700~800nmの波長光を反射強度の測定に含めることで、被監視膜で膜閉塞が生じているか否かを判別できる。
【0033】
演算装置35は、例えば、CPU、記憶装置、I/Oインタフェース、通信装置等を備えた情報処理装置(コンピュータ)で実現すればよい。制御装置5が情報処理装置(コンピュータ)で実現されている場合、演算装置35の機能は制御装置5で実現してもよい。その場合、可視光分光光度計34は、波長光毎の反射強度の測定データを制御装置5へ送信すればよい。可視光分光光度計34と演算装置35(または制御装置5)との通信手段、並びに演算装置35と制御装置5との通信手段は、周知の有線通信手段または無線通信手段のどちらを用いてもよく、その通信規格も周知のどのような規格を用いてもよい。
【0034】
上述したように、制御装置5は、分析装置3で特定された膜閉塞物質に基づいて、薬液タンク4に貯留された薬液を分離膜の通水ラインに注入する。例えば、膜閉塞物質がカルシウムスケールであると特定された場合は酸性薬液を注入し、膜閉塞物質がシリカやバイオファウリングであると特定された場合はアルカリ性薬液を注入する。このように膜閉塞物質の種類に応じて適切な洗浄薬液を用いて分離膜を洗浄すれば、該分離膜の機能を回復させることができる。制御装置5は、薬液を注入する前に、純水等を用いて本発明の分離膜の薬注制御装置が備える各通水ラインをそれぞれフラッシングしてもよい。
【0035】
また、制御装置5は、分離膜の膜閉塞の発生を抑制する(遅らせる)ことを目的とする薬液を分離膜の通水ラインに注入してもよい。例えば、膜閉塞物質がバイオファウリングによるスライムであると特定された場合はスライムコントロール剤を薬注し、膜閉塞物質がフッ化カルシウム(CaF2)やシリカ等の無機物であると特定された場合はスケール分散剤を薬注すればよい。膜閉塞物質が炭酸カルシウム(CaCO3)のようにpHを制御することで膜閉塞の発生を抑制できる物質であれば、酸性薬液やアルカリ性薬液を注入することで膜閉塞の発生を抑制してもよい。
【0036】
このように水処理システムの稼働時に適切な薬液を注入して分離膜の閉塞を抑制すれば、水処理システムを比較的長い期間にわたって安定して運転することができる。また、膜閉塞物質の発生が抑制されていることが確認された場合は、スライムコントロール剤やスケール分散剤等の注入量を低減することで、水処理システムのランニングコストを低減することも可能である。
【0037】
本発明によれば、未使用膜及び想定物質に関して、可視光領域における4つ以上の波長光毎の反射強度のデータをそれぞれ測定し、それらの測定データから求めた未使用膜及び想定物質毎の反射強度や上記傾きを保存しておく。また、未使用膜及び想定物質毎の反射強度や傾きに基づいて予め設定された、膜閉塞物質を判別するための判別条件をそれぞれ保存しておく。そして、可視光分光光度計34で被監視膜の波長光毎の反射強度のデータが測定されると、該判別条件を用いて被監視膜の測定データから膜閉塞物質を特定する。そのため、より多くの膜閉塞物質の種類の特定が可能になる。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0039】
図4及び5は、想定物質のスペクトルの変化の一例を示すグラフである。
【0040】
本実施例では、上記想定物質を意図的に付着させた複数の分離膜(=監視用分離膜33、以下、閉塞膜と称す)と上記未使用膜とを用意し、可視光分光光度計34を用いて未使用膜及び閉塞膜の波長光毎の反射強度をそれぞれ測定した。可視光分光光度計34には、測定波長範囲が400~1000nmのハイパースペクトルカメラ(RESONON社製、Pika L)を用いた。
【0041】
閉塞膜には、炭酸カルシウム(CaCO3)、フッ化カルシウム(CaF2)、シリカ(SiO2)を付着させた分離膜、並びにバイオファウリングさせた分離膜をそれぞれ用意した。そして、稼働ステージ上に未使用膜及び複数の閉塞膜をそれぞれ配置し、未使用膜及び閉塞膜に可視光を照射し、それぞれの膜面で反射した波長光毎の反射強度を上記ハイパースペクトルカメラで測定した。
【0042】
なお、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、シリカを付着させた閉塞膜については、未使用膜と共に波長光450~600nmの範囲で反射強度を測定した。
図4のグラフはこれらの分離膜の波長光毎の反射強度(スペクトル)を示している。また、バイオファウリングさせた閉塞膜については、未使用膜と共に波長光400~1000nmの範囲で反射強度を測定した。
図5のグラフはこれらの分離膜の波長光毎の反射強度(スペクトル)を示している。ここでは、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、シリカを付着させた閉塞膜と、バイオファウリングさせた閉塞膜とで波長光の測定範囲を変えているが、波長光の測定範囲は、未使用膜と想定物質毎のスペクトルが識別できるように設定すればよく、未使用膜及び想定物質の性状に応じて400~800nmの可視光領域内で適宜設定すればよい。
【0043】
次に、上記未使用膜及び閉塞膜の反射強度の測定データ(スペクトルデータ)に基づいて、膜閉塞物質を特定するための分析方法について説明する。
【0044】
図6は、
図4及び5で示した想定物質のスペクトルデータの一例を示す表であり、
図7は、
図4及び5で示したスペクトルデータから求めた、実施例の膜閉塞物質の分析方法で用いるパラメータを示す表である。
【0045】
図6は、
図4及び5で示した未使用膜及び閉塞膜の反射強度の測定データ(スペクトルデータ)のうち、400nm、450nm、600nm、700nm、800nmの5点の波長光の測定データを抜き出して示している。
【0046】
図7は、
図4及び5で示した未使用膜及び閉塞膜の反射強度の測定データから算出した、未使用膜及び想定物質に関する、波長光400及び450nmにおける反射強度の合計値、波長光400及び450nmにおける傾き、波長光600及び800nmにおける傾きをそれぞれ示している。
【0047】
上述したように、被監視膜で膜閉塞が生じているか否かは、波長光400~450nmまたは700~800nmにおける未使用膜の反射強度と被監視膜の反射強度とを比較すればよい。但し、1つの波長光の反射強度だけでは差が小さく、判別し難い可能性もある。そこで、本実施例では、
図7で示す2つの波長光400及び450nmの反射強度の合計値を用いて、被監視膜で膜閉塞が生じているか否かを判定する。
【0048】
未使用膜及び想定物質における傾き(第1の傾き)は、波長光の差に対する該波長光の反射強度の差、すなわち2つの波長光の反射強度の差を該波長光の差で除算することで求めればよい。例えば、波長光600及び800nmにおける傾きは、以下の式で求めればよい。
【0049】
傾き(600nm、800nm)
=(反射強度800nm-反射強度600nm)/(800nm-600nm)
次に、本実施例の膜閉塞物質の分析方法について、フローチャートを用いて説明する。
【0050】
図8は、実施例の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、演算装置35は、未使用膜及び想定物質毎の反射強度の測定データから算出された、反射強度の合計値及び傾きの値をそれぞれ保存しているものとする(
図7参照)。また、演算装置35は、膜閉塞物質を特定するための判別条件をそれぞれ保存しているものとする。判別条件としては、後述するように、例えば波長光600及び800nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの2倍以上であるか、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの1.5倍以上であるか、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの0.5倍以下であるか等がある。判別条件は、これらに限定されるものではなく、被監視膜に付着した物質(膜閉塞物質)が判別できるように、未使用膜及び想定物質毎の各波長光における傾き(第1の傾き)に基づいて予め設定しておけばよい。
【0051】
図8で示すように、演算装置35は、可視光分光光度計34から被監視膜の反射強度の測定データを受信すると、波長光400及び450nmにおける被監視膜の反射強度の合計値を算出し(ステップS1)、被監視膜で膜閉塞が生じているか否かを判定する(ステップS2)。上述したように、演算装置35は、波長光400及び450nmにおける被監視膜の反射強度の合計値が、未使用膜の反射強度の合計値よりも小さい場合に、被監視膜で膜閉塞が生じていると判定すればよい。
【0052】
被監視膜で膜閉塞が生じていないと判定した場合、演算装置35は、ステップS1に戻ってステップS1からの処理を繰り返す。一方、被監視膜で膜閉塞が生じていると判定した場合、演算装置35は、ステップS3の処理に移行して、波長光600及び800nmにおける被監視膜の傾きを算出する。
【0053】
続いて、演算装置35は、波長光600及び800nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きよりも大きいか(例えば、2倍以上であるか)否かを判定する(ステップS4)。
【0054】
波長光600及び800nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの2倍以上である場合、
図7で示すように膜閉塞物質はバイオファウリングである可能性が高い。この場合、演算装置35は、制御装置5に膜閉塞物質がバイオファウリングである旨を通知するための情報を送信し(ステップS5)、ステップS1の処理に戻ってステップS1からの処理を繰り返す。
【0055】
制御装置5は、演算装置35から膜閉塞物質がバイオファウリングである旨が通知されると、分離膜を洗浄する場合は、アルカリ性薬液を注入して分離膜(監視用分離膜33)を洗浄する。また、膜閉塞の発生を抑制する場合は、スライムコントロール剤の薬注量を増加させる。
【0056】
一方、ステップS4において、波長光600及び800nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの2倍よりも小さい場合、
図7で示すように膜閉塞物質は炭酸カルシウム、シリカまたはフッ化カルシウムである可能性が高い。この場合、演算装置35は、ステップS6の処理に移行して、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きを算出する。
【0057】
続いて、演算装置35は、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きよりも大きいか(例えば、1.5倍以上であるか)否かを判定する(ステップS7)。
【0058】
波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの1.5倍以上である場合、
図7で示すように膜閉塞物質は炭酸カルシウムである可能性が高い。この場合、演算装置35は、制御装置5に膜閉塞物質が炭酸カルシウムである旨を通知するための情報を送信し(ステップS8)、ステップS1の処理に戻ってステップS1からの処理を繰り返す。
【0059】
制御装置5は、演算装置35から膜閉塞物質が炭酸カルシウムである旨が通知されると、分離膜を洗浄する場合は、酸性薬液を注入して分離膜(監視用分離膜)を洗浄する。また、膜閉塞の発生を抑制する場合は、酸性薬液またはアルカリ性薬液を注入してpHを制御することで膜閉塞の発生を抑制する。
【0060】
ステップS7において、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの1.5倍よりも小さい場合、
図7で示すように膜閉塞物質はシリカまたはフッ化カルシウムである可能性が高い。この場合、演算装置35は、ステップS9の処理に移行して、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きよりも小さいか(例えば、0.5倍以下)否かを判定する。
【0061】
波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの0.5倍以下である場合、
図7で示すように膜閉塞物質はシリカである可能性が高い。この場合、演算装置35は、制御装置5に膜閉塞物質がシリカである旨を通知するための情報を送信し(ステップS10)、ステップS1の処理に戻ってステップS1からの処理を繰り返す。
【0062】
制御装置5は、演算装置35から膜閉塞物質がシリカである旨が通知されると、分離膜を洗浄する場合は、アルカリ性薬液を注入して分離膜(監視用分離膜33)を洗浄する。また、膜閉塞の発生を抑制する場合は、スケール分散剤の薬注量を増加させる。制御装置5は、酸性薬液またはアルカリ性薬液を注入してpHを制御することで膜閉塞の発生を抑制してもよい。
【0063】
一方、波長光400及び450nmにおける被監視膜の傾きが未使用膜の傾きの0.5倍よりも大きい場合、
図7で示すように膜閉塞物質はフッ化カルシウムである可能性が高い。この場合、演算装置35は、制御装置5に膜閉塞物質がフッ化カルシウムである旨を通知する情報を送信し(ステップS11)、ステップS1の処理に戻ってステップS1からの処理を繰り返す。
【0064】
制御装置5は、演算装置35から膜閉塞物質がフッ化カルシウムである旨が通知されると、分離膜を洗浄する場合は、酸性薬液を注入して分離膜(監視用分離膜)を洗浄する。また、膜閉塞の発生を抑制する場合は、スケール分散剤の薬注量を増加させる。制御装置5は、酸性薬液またはアルカリ性薬液を注入してpHを制御することで膜閉塞の発生を抑制してもよい。
【0065】
本実施例では、上記想定物質が、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、シリカ及びバイオファウリングである場合の膜閉塞物質を特定するための一例を示した。想定物質が上記以外にも考えられる場合、それらの物質毎に予め4つ以上の波長光毎の反射強度を測定し、
図7で示したように物質毎の反射強度の合計値や特定の波長光における傾きを求めて膜閉塞物質の特定に用いればよい。例えば、想定物質として、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、金属錯体等が考えられる場合、予めそれらの物質の可視光における4つ以上の波長光の反射強度を測定し、
図7で示したように物質毎の反射強度の合計値や特定の波長光における傾きを求めて、膜閉塞物質の特定に用いればよい。
【比較例】
【0066】
本比較例では、上記実施例で示した膜閉塞物質の特定方法と上記特許文献2が示す膜閉塞物質の特定方法とを比較した結果について説明する。
【0067】
図9は、
図4及び5で示したスペクトルデータから求めた、比較例の膜閉塞物質の分析方法で用いるパラメータを示す表である。
【0068】
図9は、特許文献2で用いるカラーセンサで測定可能な光の三原色である赤(R:波長光466nm)、緑(G:波長光532nm)、青(B:波長光630nm)における、上記実施例で示した想定物質毎の測定データから求めた傾きをそれぞれ示している。
【0069】
図9で示すように、波長光466nm、532nm、630nmにおける未使用膜及び想定物質毎の傾きを比較すると、未使用膜とフッ化カルシウムとでは、それぞれの傾きがほぼ等しいことが分かる。また、炭酸カルシウム、シリカ及びバイオファウリングについても、それぞれの傾きがほぼ等しいことが分かる。
【0070】
したがって、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、シリカ及びバイオファウリングが想定物質として考えられる場合、特許文献2で示す膜閉塞物質の特定方法では、未使用膜とフッ化カルシウムとを識別することが困難であり、炭酸カルシウム、シリカ及びバイオファウリングを識別することが困難である。すなわち、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、シリカ及びバイオファウリングが想定物質として考えられる場合、特許文献2が示す膜閉塞物質の特定方法では膜閉塞物質を特定できないことが分かる。
【0071】
それに対して、本発明では、上記実施例で示したように、これらの物質を判別することが可能であり、特定した膜閉塞物質に基づいて適切な薬液を選択することで、分離膜を洗浄できる、または膜閉塞の発生を抑制できる。
【0072】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されものではない。本願発明の構成や詳細には本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更が可能である。