(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】無線端末
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/40 20060101AFI20241030BHJP
H04M 1/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01Q1/40
H04M1/02 C
(21)【出願番号】P 2023520724
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018439
(87)【国際公開番号】W WO2022239238
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 杰
(72)【発明者】
【氏名】篠島 貴裕
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179947(JP,A)
【文献】特開2012-206321(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090417(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/40
H04M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電率の第1樹脂で形成された筐体と、
前記第1樹脂内に埋め込まれた、前記第1の誘電率よりも低い第2の誘電率の第2樹脂と、
前記第2樹脂内に埋め込まれ
ることで、前記第1樹脂とは非接触に配置されるアンテナと、を備える、
無線端末。
【請求項2】
前記第1樹脂は、前記第2樹脂よりもガラス含有率が高い、
請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
前記第2樹脂の表面にはプライマーが塗布される、
請求項1または2に記載の無線端末。
【請求項4】
前記第1樹脂はポリブチレンテレフタレートであり、
前記第2樹脂はポリカーボネートである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信が広く利用されている。このような無線通信を行うスマートフォン等の無線端末では、アンテナについて工夫されたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1では、射出形成によって製造される携帯電話用内臓アンテナに関し、プリント基板等との電気的接続が高い信頼度となる携帯電話用アンテナが記載されている。例えば、特許文献2では、金属製成型品に対して比較的簡便に樹脂板を接合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-151931号公報
【文献】特開2008-105325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属製のアンテナを樹脂で形成された筐体の一部に露出させる無線端末が利用されている。筐体の一部にアンテナを露出させると、金属製のアンテナが無線端末の外観上目立つことで無線端末の美観が損なわれる虞がある。そこで、無線端末の筐体に対して何層にも重ねて塗装が行われることで美観を保つことが行われる。このような塗装にかかる手間とコストは増大していた。
【0006】
無線端末の外観においてアンテナが目立つことを抑制するため、樹脂内にアンテナを埋め込むことが考えられる。しかしながら、強度の高い樹脂は誘電率が高くなることから、強度の高い樹脂内にアンテナを埋め込むとアンテナの電波放射特性が低下する恐れがある。一方で、誘電率の低い樹脂は強度が低くなることから、誘電率の低い樹脂内にアンテナを埋め込むと、アンテナの電波放射特性の低下は抑制される一方で、無線端末の強度が低下する恐れがある。
【0007】
開示の技術の1つの側面は、アンテナの性能向上を図り、筐体の強度低下を抑制するとともに、筐体の外面にアンテナが目立たない様にすることができる無線端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術の1つの側面は、次のような無線端末によって例示される。本無線端末は、第1の誘電率の第1樹脂で形成された筐体と、上記第1樹脂内に埋め込まれた、上記第1の誘電率よりも低い第2の誘電率の第2樹脂と、上記第2樹脂内に埋め込まれたアンテナと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本無線端末は、アンテナの性能向上を図り、筐体の強度低下を抑制するとともに、筐体の外面にアンテナが目立たない様にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るスマートフォンの構成を例示する図である。
【
図3】
図3は、シミュレーションで用いた構造を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、第1シミュレーションの結果を示す図である。
【
図5】
図5は、第2シミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図6は、スマートフォンの筐体の製造方法の一例を示す第1の図である。
【
図7】
図7は、スマートフォンの筐体の製造方法の一例を示す第2の図である。
【
図8】
図8は、スマートフォンの筐体の製造方法の一例を示す第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係る無線端末は、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係る無線端末は、本無線端末は、第1の誘電率の第1樹脂で形成された筐体と、上記第1樹脂内に埋め込まれた、上記第1の誘電率よりも低い第2の誘電率の第2樹脂と、上記第2樹脂内に埋め込まれたアンテナと、を備える。
【0012】
上記無線端末であれば、上記第2樹脂内にアンテナが埋め込まれていることにより、無線端末の外観においてアンテナが目立つことがない。そのため、アンテナが目立たないように塗装を何層も重ねる手間やコストが低減される。また、上記無線端末では、誘電率の高い第1樹脂とアンテナとの間に誘電率の低い第2樹脂が配置されることになる。このような配置により、誘電率の高い第1樹脂とアンテナとの距離を遠ざけることができるため、アンテナの電波放射特性の低下が抑制される。また、第1樹脂と第2樹脂とが積層されることで、無線端末の筐体の強度低下を抑制することができる。
【0013】
以下、図面を参照して上記無線端末をスマートフォンに適用した実施形態についてさらに説明する。
図1及び
図2は、実施形態に係るスマートフォン100の構成を例示する図である。
図1は、スマートフォン100の厚さ方向における断面図が例示される。また、
図2は、
図1のA-A線断面図が例示される。スマートフォン100は、基板110、アンテナ130、第1樹脂層140及び第2樹脂層150を備える。
【0014】
第1樹脂層140は、スマートフォン100の筐体を形成する。第1樹脂層140は、例えば、ガラス含有率が40%程の樹脂(GF40)である。第1樹脂層140としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートを挙げることができる。
【0015】
第2樹脂層150は、第1樹脂層140内に埋め込まれるように配置される。第2樹脂層150は、例えば、ガラス含有率が10%程度の樹脂(GF10)である。第2樹脂層150としては、例えば、ポリカーボネートを使用することができる。
【0016】
第1樹脂層140は、第2樹脂層150よりもガラス含有率が高い。そのため、第1樹脂層140は、第2樹脂層150よりも剛性が高くなる。また、樹脂におけるガラス含有率は、誘電率と相関関係がある。そのため、ガラス含有率が第2樹脂層150よりも高い第1樹脂層140は、第2樹脂層150よりも高い誘電率を有する。また、ガラス含有率が第1樹脂層140よりも低い第2樹脂層150は、第1樹脂層140よりも低い誘電率を有する。
【0017】
基板110は、第1樹脂層140によって形成される筐体内に配置される。基板110上には、各種電子部品が搭載される。基板110には給電点が設けられる。アンテナ130は、給電点から給電を受けて電波を出射する金属製のアンテナである。スマートフォン100は、アンテナ130を用いて無線通信を行うことができる。
【0018】
アンテナ130は、第2樹脂層150内に埋め込まれる。例えば、アンテナ130は、金型のリブにアンテナ130を固定して配置した上でのインサート成型によって、第2樹脂層150内に埋め込まれる。なお、
図1では、スマートフォン100の左右夫々に1つのアンテナ130が配置されているが、アンテナ130の数はこれに限定されない。
【0019】
図1及び
図2を参照すると理解できるように、アンテナ130は、第2樹脂層150の外面に露出する部分はない。そのため、第2樹脂層150の外面を覆う第1樹脂層140はアンテナ130と接触することはない。そして、金属と樹脂とを密着させる場合よりも、樹脂同士を密着させる方が密着性がよい。そのため、スマートフォン100では、第2樹脂層150の外面にアンテナ130を露出させる場合よりも、第1樹脂層140と第2樹脂層150とを強固に密着させることができる。
【0020】
ここで、
図2に示すように、第2樹脂層150の外面を第1樹脂層140で覆う際には、第2樹脂層150の表面にプライマー210を塗布してもよい。プライマー210が第2樹脂層150の表面に塗布されることで、第1樹脂層140と第2樹脂層150とをより強固に密着させることができる。
【0021】
(シミュレーション)
ここで、本実施形態に係るスマートフォン100による電波放射特性を検証するためシミュレーションを行ったので、本シミュレーションについて説明する。
図3は、シミュレーションで用いた構造を模式的に示す図である。
図3(A)は、本実施形態と比較するために用意した比較例に係る構造である。
図3(A)では、アンテナ130の周囲を囲むように厚さ2mmの第1樹脂層140が設けられる。
図3(B)では、本実施形態のシミュレーションのために用意した構造である。
図3(B)では、アンテナ130の周囲を囲むように厚さ1mmの第2樹脂層150が配置され、第2樹脂層150を囲むように厚さ1mmの第1樹脂層140が配置される。すなわち、
図3(B)では、アンテナ130と第1樹脂層140との間に第2樹脂層150が介在する。
【0022】
図4は、第1シミュレーションの結果を示す図である。第1シミュレーションでは、
図3(A)及び
図3(B)に示した夫々の構造について電波放射特性の調査を行った。
図4において、「比較例(GF40)」は、
図3(A)の構造に対応し、「本実施形態(GF40/GF10)」は
図3(B)の構造に対応する。また、
図4において、「比較例(GF10)は、
図3(A)の構造において、第1樹脂層140としてガラス含有率10%のGF10を採用した場合を例示する。
図4において、伝送損失係数は、例えば、以下の式(1)によって算出することができる。
【数1】
【0023】
上記式(1)において、αは誘電体(第1樹脂層140、第2樹脂層150)の伝送損失、Κは比例定数、fはアンテナ130が送出する電波の周波数、ε
rは比誘電率、tanδは誘電正接である。
図4を参照すると理解できるように、本実施形態に係るスマートフォン100では、比較例よりもアンテナ130の電波放射特性を1dB程度改善できていることが理解できる。
【0024】
続いて、
図3に例示した構造において、第1樹脂層140及び第2樹脂層150の厚さを変動させたときの電波放射特性の減衰量(dB)についてシミュレーションを行った(第2シミュレーション)。
図5は、第2シミュレーション結果を示す図である。
図5を参照すると理解できるように、誘電率の高い第1樹脂層140の厚さの方が誘電率の低い第2樹脂層150よりも相対的に薄いほど、アンテナ130の電波放射特性の減衰量が低くなることが理解できる。また、第1樹脂層140及び第2樹脂層150全体におけるガラス含有率が低いほど、第1樹脂層140及び第2樹脂層150全体の誘電率が低くなることが理解できる。
【0025】
続いて、このようなスマートフォン100の筐体を製造する製造方法について説明する。
図6から
図8は、スマートフォン100の筐体の製造方法の一例を示す図である。以下、
図6から
図8を参照して、スマートフォン100の筐体の製造方法について説明する。
【0026】
第1工程では、基板110とアンテナ130とが用意される(
図6)。
図6(A)は第1工程の状態を平面視した図であり、
図6(B)は
図6(A)のB-B線断面図である。第2工程では、アンテナ130を埋め込むように第2樹脂層150が配置される(
図7)。
図7(A)は第2工程を終えた状態を平面視した図であり、
図7(B)は
図7(A)のC-C線断面図である。第2工程によって、アンテナ130は、第2樹脂層150内に埋め込まれる。第3工程では、第2樹脂層150の表面にプライマー210が塗布されてから、第2樹脂層150を埋め込むように第1樹脂層140が配置される(
図8)。
図8(A)は第3工程の状態を平面視した図であり、
図8(B)は
図8(A)のD-D線断面図である。第3工程によって、第2樹脂層150は、第1樹脂層140内に埋め込まれる。
【0027】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、アンテナ130が第2樹脂層150の外面に露出しないため、第1樹脂層140を第2樹脂層150の外面に設ける場合に、樹脂同士で密着させることができる。そのため、本実施形態によれば、アンテナ130を露出させた状態で第2樹脂層150を設ける場合と比較して、より強固に第1樹脂層140と第2樹脂層150とを密着させることができる。さらに、本実施形態では、第2樹脂層150の表面にプライマー210が塗布されることで、第1樹脂層140と第2樹脂層150とを密着をさらに強固なものとすることができる。
【0028】
また、物体の強度を示すヤング率は厚さの二乗に比例する。本実施形態では、このような密着性の高い第1樹脂層140と第2樹脂層150とを積層することでスマートフォン100の筐体を厚く形成し、スマートフォン100の筐体をより強固なものとすることができる。
【0029】
本実施形態では、誘電率の高い第1樹脂層140とアンテナ130との間に、第1樹脂層140よりも誘電率の低い第2樹脂層150が介在する。そのため、誘電率の高い第1樹脂層140をアンテナ130から離して配置することができる。このように第1樹脂層140が配置されることで、本実施形態に係るスマートフォン100では、アンテナ130の電波放射特性の低下が抑制される。
【0030】
スマートフォン100の筐体の外面にアンテナ130が露出する場合、アンテナ130を目立たなくするために、塗装を何層も重ねて施すことになり、その手間とコストは高いものとなる。本実施形態では、アンテナ130が第2樹脂層150内に埋め込まれる。そのため、スマートフォン100の外見においてアンテナ130が目立つことはない。そのため、このような塗装にかかる手間やコストを低減することができる。例えば、樹脂製の筐体の一部に金属製のアンテナを露出させた場合、アンテナと樹脂との接合部分が目立たないように10層程度の塗装が行われた。しかしながら、本実施形態によれば、例えば、3層程度の塗装で十分となる。
【0031】
<変形例>
本実施形態では、第1樹脂層140としてガラス含有率が40%程のポリブチレンテレフタレートが採用され、第2樹脂層150としてガラス含有率が10%程度のポリカーボネートが採用された。しかしながら、第1樹脂層140及び第2樹脂層150は、このような組み合わせに限定されるわけではない。例えば、第1樹脂層140としてガラス含有率が40%程度のポリカーボネートが採用され、第2樹脂層150としてガラス含有率が10%程度のポリカーボネートが採用されてもよい。また、例えば、第1樹脂層140としてガラス含有率が40%程度のポリブチレンテレフタレートが採用され、第2樹脂層150としてガラス含有率が10%程度のポリブチレンテレフタレートが採用されてもよい。また、第1樹脂層140及び第2樹脂層150として、ポリカーボネート及びポリブチレンテレフタレート以外の樹脂が採用されてもよい。
【0032】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0033】
100・・スマートフォン
110・・基板
130・・アンテナ
140・・第1樹脂層
150・・第2樹脂層
210・・プライマー