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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】CDPコリン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241030BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/185
A61P17/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024013256
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】石松 弓子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 重良
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-301880(JP,A)
【文献】特開2010-013373(JP,A)
【文献】特開2001-097842(JP,A)
【文献】特開2023-143753(JP,A)
【文献】特開2001-131045(JP,A)
【文献】特開2002-068993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0165923(US,A1)
【文献】特開2009-256272(JP,A)
【文献】特開2011-042644(JP,A)
【文献】特開平11-116493(JP,A)
【文献】特開2004-075661(JP,A)
【文献】特開2006-022050(JP,A)
【文献】特開2001-139489(JP,A)
【文献】特開平08-023995(JP,A)
【文献】特開2003-095913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0255523(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0161917(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0252289(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第115844746(CN,A)
【文献】Reservoir Prebiotic Skin Fortifying Beauty Mist(ID: 10450684),Mintel GNPD [online],2023年01月,[検索日;2024年3月4日], https://www.gnpd.com,成分、商品説明、訴求内容
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-33/29
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンデンエキスを含む、CDPコリン産生促進剤。
【請求項2】
前記CDPコリン産生促進剤が、ケラチノサイトにおけるCDPコリン産生を促進する、請求項1に記載のCDPコリン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
CDPコリンの産生促進の技術分野に関する。CDPコリンの産生を促進することで、表皮再生が促進され、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の向上などの作用を発揮することができる。
【背景技術】
【0002】
CDPコリンは、ヌクレオチドの一つであるシチジン二リン酸(CDP)にリン酸エステル結合を介してコリンが結合した物質である。CDPコリンは、ホスファチジルコリンの生合成経路における中間体の一つであり、またスフィンゴミエリン生合成の中間体の一つでもある。CDPコリンは認知機能の改善作用を有すること、神経保護作用を有することが報告されている(特許文献1:特開2023-011800号公報、特許文献2:特開2022-107631号公報)、国内では医療用医薬品として、また海外ではサプリメントとしても販売されている。また、CDPコリンは、血管内皮細胞に作用し、タイトジャンクション因子であるZO-1及びオクルーディンの発現に影響することが報告されている(非特許文献1:PLoS One. 2013)。
【0003】
セイヨウシナノキから得られるリンデンエキスは、エラスターゼ活性阻害、ヒアルロニダーゼ活性阻害、コラゲナーゼ活性阻害、SOD様作用、DPPHラジカル消去作用、PGE2産生抑制、MMP1活性阻害、AGEs生成抑制、エストロゲン様作用などの様々な効能を発揮することが知られている。これらの活性は主に真皮層に作用するものであり、たるみの改善、コラーゲン産生促進、美白などの様々な効能を目的に化粧料に配合される他、ハーブティーやサプリメントなどの食品としても用いられている。一方、表皮細胞への効果についての報告は少なく、創傷治癒に対する効果も不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2023-011800号公報
【文献】特開2022-107631号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ma X, et al. Plops One. 2013. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0082604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表皮再生を促進する成分を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、培養ケラチノサイトに対してCDPコリンを添加することにより、タイトジャンクション関連タンパク質の発現が増大し、またスクラッチアッセイにおいてケラチノサイトの遊走を促進することすることを見出した。このようにCDPコリンによる、表皮再生効果に着目し、CDPコリンの体内での産生を促進することで、表皮に対し作用する成分をスクリーニングしたところ、驚くべきことに、リンデンエキスが、ケラチノサイトにおいてCDPコリンの産生を増大することを見出し、本発明に至った。
そこで、本発明は以下に関する:
[1] リンデンエキスを含む、CDPコリン産生促進剤。
[2] 前記CDPコリン産生促進剤が、ケラチノサイトにおけるCDPコリン産生を促進する、項目1に記載のCDPコリン産生促進剤。
[3] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、表皮再生促進剤。
[4] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、ケラチノサイトの遊走促進剤。
[5] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、創傷治癒の促進剤。
[6] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、ケラチノサイトの細胞膜の増強剤。
[7] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、皮膚バリア機能促進剤。
[8] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンが配合された、経皮又は経口投与用の組成物。
[9] 化粧用組成物又は医薬組成物である、項目8に記載の組成物。
[10] 項目1に記載のCDPコリン産生促進剤を含む食品。
[11]創口を有する対象の創傷部にリンデンエキスを含むCDPコリン産生促進剤を適用することを含む、創傷治癒方法。
[12]肌荒れを含む対象に、リンデンエキスを含むCDPコリン産生促進剤を適用することを含む、美容方法。
[13]創傷治癒において使用するための、リンデンエキス。
[14]CDPコリンの産生を促進することを介して、創傷が治癒される、項目13に記載のリンデンエキス。
[15]CDPコリンの産生が促進され、それにより表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、ケラチノサイトの細胞膜の増強、又は皮膚バリア機能の改善される、項目14に記載のリンデンエキス。
[16]創傷治癒において使用するための、CDPコリン。
[17]表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、ケラチノサイトの細胞膜の増強、又は皮膚バリア機能の改善を介して、創傷が治癒される、項目16に記載のCDPコリン。
[18]CDPコリン産生促進剤を製造のための、リンデンエキスの使用。
[19]表皮再生促進剤、ケラチノサイト遊走促進剤、又は創傷治癒の促進剤の製造のための、リンデンエキス又はCDPコリンの使用。
【発明の効果】
【0008】
リンデンエキスは、CDPコリンの産生を促進する。CDPコリンの産生促進を介して、表皮再生、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、リンデンエキスを添加して培養したケラチノサイトをメタボローム解析に供した結果である。対照(リンデンエキス未添加)群と比較して、産生量が増大した代謝物を黒字で記載し、産生量が低下した代謝物を赤字で示した(A)。縦軸はリンデンエキス添加群と対照群の産生量のT検定による有意差検定のP値のマイナス常用対数値を表し、横軸はリンデンエキス添加群の対照群に対する産生量の変化比率の2を底とする対数値を表す。CDPコリンに着目し、産生量の変化をグラフ化して示した(B)。縦軸は内部標準物質に対するCDPコリンの相対面積値を表す。
図2図2は、CDPコリンを添加して(0.05%、及び0.1%)ケラチノサイトを培養した場合のクローディン(A)、オクルーディン(B)、ZO-1(C)の発現変化を示す。
図3図3は、低酸素条件(酸素1%)で、CDPコリンを未添加(Control)及び添加して(citicoline)培養されたケラチノサイトにおけるオクルーディンタンパク質の局在を示す蛍光免疫染色写真(A)、及び蛍光免疫染色写真から定量化した結果を示すグラフ(B)である。
図4図4は、低酸素条件(酸素1%)で、CDPコリンを未添加(Control)及び添加して(citicoline)培養されたケラチノサイトにおけるスクラッチアッセイの写真(A)及び細胞密度の変化を示すグラフ(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、リンデンエキスを含む、CDPコリン産生促進剤に関する。CDPコリンは、ケラチノサイトで産生促進されると、表皮再生、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善に寄与する。
【0011】
CDPコリンは、以下の式:
【化1】
で表される化合物であり、シチコリン(citicoline)とも呼ばれる。CDPコリンは任意の細胞において産生され、ホスファチジルコリンやスフィンゴミエリンの産生に寄与する。ホスファチジルコリンは細胞膜の主な構成成分であり、また神経細胞では、神経伝達物質であるアセチルコリンの元となる。CDPコリンの産生量が増大することで、細胞膜におけるホスファチジルコリン及び/又はスフィンゴミエリンの量が増大する。スフィンゴミエリンはラフト領域の形成に関わると考えられており、これらのリン脂質が増大することで脂質二重膜の安定性が増大する。これにより、本発明は、CDPコリンを含む、細胞膜の増強剤に関していてもよい。
【0012】
CDPコリン産生促進剤は、適用された際に、任意の細胞、特にケラチノサイトにおいてCDPコリンの産生を促進する成分をいう。ケラチノサイトにおいて、CDPコリンの産生が促進することにより、表皮再生、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善に寄与する。
【0013】
皮膚は創傷を受けると、まず出血が生じる。時間経過と共に、血液が凝固し瘡蓋を生じる。瘡蓋の内部では、創傷部周囲のケラチノサイトが増殖し、遊走することで傷口をふさぐと共に、角層分化を生じ、分化と共にタイトジャンクションを形成する。タイトジャンクションを形成することで、皮膚バリア機能が向上し、表皮が再生される。
【0014】
ケラチノサイトは、通常、基底層において分裂を繰り返しており、分裂した細胞が、表層へと移動する際に分化し、有棘層、顆粒層、角質層を形成する。一方、皮膚に傷害が生じた場合、受傷部周辺のケラチノサイト及びその前駆細胞である表皮幹細胞は、受傷部位に遊走を開始する。遊走は、一例として、低酸素状態により誘導され、瘡蓋等で外の空気と遮断された内部のケラチノサイトが遊走を促進する。ケラチノサイトの遊走能は培養細胞において、スクラッチアッセイを行うことで測定することができる。スクラッチアッセイは、コンフルエントに培養したディッシュ表面の一部領域の細胞を掻きとったのちに、かかる領域へ遊走してきた細胞に基づき遊走能を決定する手法である。CDPコリンを添加した培養物では、遊走能が高いことが示された(図4A及びB)。これにより、本発明は、CDPコリンを含む、ケラチノサイトにおけるケラチノサイトの遊走促進剤、創傷治癒促進剤又は表皮再生促進剤に関していてもよい。
【0015】
タイトジャンクションは、角層の顆粒層の細胞同士で形成され、タイトジャンクションが形成されることで、皮膚バリア機能を発揮する。これにより、皮膚内部の成分や水分が失われるのを妨げるとともに、皮膚外部からのアレルゲンや病原体の侵入を防ぐことができる。タイトジャンクションに関わるタイトジャンクション因子として、クローディン、オクルーディン、ZOファミリータンパク質(ZO-1~ZO-3)などが知られている。これらのタンパク質の発現が増大することで、タイトジャンクションがより強固になり、皮膚バリア機能が亢進する。また、タイトジャンクションはケラチノサイトのみならず、上皮細胞系、例えば腸管上皮細胞、血管内皮細胞などでも形成される。CDPコリンは、低酸素下において血管内皮細胞におけるタイトジャンクション因子の発現を亢進することが知られている(非特許文献1)。本発明者らにより、CDPコリンは、低酸素下においてケラチノサイトにおけるタイトジャンクション因子の発現を亢進することが示されており(図2A~C)、また、低酸素条件で培養したケラチノサイトにおいて、CDPコリンにより細胞膜に局在するオクルーディンの発現が亢進することが示されている(図3A及びB)。これにより、本発明は、CDPコリンを含む、ケラチノサイトにおけるタイトジャンクション形成促進剤、又は皮膚バリア機能亢進剤ともいうことができる。
【0016】
リンデンエキスは、シナノキ科シナノキ(Tillia)属に属する植物から抽出されたエキスである。シナノキ科シナノキ属に属する植物としては、アメリカボダイジュ(T. americana L.)、ナツボダイジュ(T. platyphyllos Scop.)、フユボダイジュ(T. cordata Mill.)、及びその交配種、例えばセイヨウシナノキ(Tilia × europaea)などが挙げられる。リンデンエキスは、西洋菩提樹抽出液、フユボダイジュエキスともいうこともある。これらの植物エキスは、植物体、特に芽、葉、花、枝、幹、根、実、及び種からなる群から選ばれる少なくとも1の部位を、植物エキス製造のための一般的な方法により得ることができる。一例として、花又は新芽をそのまま又は乾燥させて抽出溶媒とともに常温又は加熱して浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水性溶媒、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、あるいは有機溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、溶媒として水とアルコール、例えば1,3-ブチレングリコールの混合溶媒が使用される。上記溶媒で抽出して得られた抽出物をそのまま、あるいは例えば凍結乾燥などにより濃縮したエキスを使用でき、また必要であれば吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD-2)のカラムにて吸着させた後、所望の溶媒で溶出し、さらに濃縮したものも使用することができる。リンデンエキスは、市販のものを使用することもできる。より具体的に、水、アルコール又はそれらの混合溶液で抽出することで調製することができる。アルコールとしては、エタノール、プロピレングリコール、又はブチレングリコールが用いられる。より好ましくは、水とアルコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。より好ましくは水と1,3‐ブチレングリコールの混合物が用いられる。リンデンエキスは、化粧料に、0.005%~0.1%の濃度で配合され、0.01%~0.05%がより好ましい。
【0017】
リンデンエキスは、培養ケラチノサイトにおいて、CDPコリンの産生を促進することができ(図1A及びB)、それにより、リンデンエキスはCDPコリンの産生促進剤として使用することができる。さらに、CDPコリンは、ケラチノサイトにおいてクローディン、オクルーディン、ZO-1の発現を促進することができ(図2A~C、図3A及びB)、さらにスクラッチアッセイにおいて、ケラチノサイトの遊走を促進する(図4A及びB)。したがって、リンデンエキスは、CDPコリンの産生を介した作用を発揮することもできる。これにより、本発明は、リンデンエキスを含む表皮再生促進剤、ケラチノサイトの遊走促進剤、創傷治癒促進剤、細胞膜の増強剤、皮膚バリア機能の改善剤に関していてもよい。
【0018】
本発明のCDPコリンの産生促進剤、表皮再生促進剤、ケラチノサイトの遊走促進剤、創傷治癒促進剤、細胞膜の増強剤、皮膚バリア機能の改善剤は、それぞれ化粧料、医薬品又は医薬部外品に配合されてもよく、また、食品、例えばサプリメントなどの栄養補助食品、機能性表示食品に配合されてもよい。食品は、食品組成物ということもでき、肌荒れ、創傷、掻き傷、皮膚バリア機能低下に悩む対象に投与されうる。これらの薬剤は、経口、又は非経口、例えば経皮投与されてもよい。経皮投与される場合、皮膚外用剤に剤形することができる。皮膚外用剤は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水-油二層分離状、水-油-粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。皮膚外用剤に剤形される場合には、皮膚外用剤に通常用いられる基剤、及び賦形剤、例えば保存剤、乳化剤、pH調整剤などが用いられてもよい。また、創傷部を覆う貼布剤として剤形してもよい。化粧料に配合する場合、化粧水、乳液、美容液、クリーム、ローション、パック、エッセンス、ジェル等の顔用又は体用の化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料、さらには浴用剤などに配合することができる。本発明の成分を含む化粧品、医薬品及び医薬部外品を用いることにより、細胞、特にケラチノサイトにおいてCDPコリンの産生促進を介して、表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒促進、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮することができる。
【0019】
本発明のCDPコリン産生促進剤、表皮再生促進剤、ケラチノサイトの遊走促進剤、創傷治癒促進剤、細胞膜の増強剤、及び皮膚バリア機能の改善剤は、それぞれ所望の効果、例えば皮膚バリア機能改善、皮膚再生能促進を発揮させる観点で任意に濃度を選択することができる。皮膚外用剤として配合する観点からは、本発明に係るエキスは、0.0005%~0.5%で配合することができる。効果を十分に発揮させる観点から、好ましくは0.001%以上で配合でき、さらに好ましくは0.005%以上で配合することができる。強いにおいを避ける観点から、好ましくは0.1%以下で配合することができ、さらに好ましくは0.05%以下で配合することができる。
【0020】
本発明のさらに別の態様では、本発明はCDPコリンの産生促進を介して、表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒促進、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善するための方法に関していてもよい。より具体的に、本発明の方法は、本発明に係るCDPコリンを含む組成物、又はリンデンエキスを含む組成物を対象の皮膚に適用する工程を含む方法にも関する。かかる方法は、治療方法であってもよいし、非治療的な美容方法であってもよい。このような対象は、表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒促進、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の改善を望む対象であり、一例として肌荒れ又は皮膚炎症、掻き傷に悩まされる対象に投与されうる。
【0021】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。 以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0022】
実施例1:メタボローム解析
ヒト上皮細胞用増殖培地(CELLnTEC社)に播種されたヒトケラチノサイト(クラボウ)の培養物にリンデンエキス(香栄興業株式会社)を0.1%添加して6時間培養した。培養後培地を除去し、メタノール溶液を添加して攪拌し、さらに、Milli-Q 水を加えて撹拌し、遠心分離(2,300×g、4℃、5分)を行った。限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMC PLHCC,HMT,遠心式フィルターユニット5kDa)により限外ろ過処理を実施後、ろ液を乾固させ、再びMilli-Q 水に溶解して測定に供した。1試料あたり1.26×106の細胞を用い、N=5でメタボローム測定を実施した。
【0023】
代謝物の検出
キャピラリー電気泳動(Agilent CE system)と質量分析計(MS)を組み合わせたCE-MSシステムにより陽イオン性代謝物質及び陰イオン性代謝物質を網羅的に検出した。検出されたピークから自動積分ソフトウェアを用いてシグナル/ノイズ(S/N)比が3以上のピークを自動抽出し、質量電荷比(m/z)、ピーク面積値、泳動時間 (Migration time: MT) を得た。シグナル/ノイズ (S/N) 比が3以上のピークを自動抽出し、質量電荷比(m/z)、ピーク面積値、泳動時間 (Migration time: MT) を得た。 m/z とMT の値をもとにHMT代謝物質ライブラリに登録された全物質との照合、検索を行い、代謝物を同定した。結果を図1(A)に示す。リンデンエキスの添加により産生量が増大した成分を黒文字で記載し、産生量が減少した成分を灰色の文字で記載した。CDPコリンに着目し、産生量の変化を示した(図1(B))。
【0024】
実施例2:CDP-コリンの添加による影響
ヒト上皮細胞用増殖培地(CELLnTEC社)に播種後、ヒト上皮細胞用分化培地(CELLnTEC社)中で培養されたヒトケラチノサイト(クラボウ)の培養物にCDPコリン(Sigma-Aldrich、最終濃度0.1mM)を添加して1%酸素濃度で24時間培養後、トータルRNAを抽出し、AffinityScript QPCR cDNA Synthesis Kit(Agilent Technologies)を用いてcDNAを調製した。qPCRは、LightCycler(登録商標)FastStart DNA MasterPLUS SYBR Green I及びLightCycler(Roche Molecular Systems,Inc、Pleasanton)を用いた。クラウディン、オクルーディン、ZO-1の遺伝子発現を、下記のプライマーを用いて測定し、添付の説明書に従って、GAPDHを標準としてΔCt法により数値化した。結果を図2に示す。
【表1】
【0025】
細胞免疫染色
ヒト上皮細胞用培地(CELLnTEC社)に播種後、ヒト上皮細胞用分化培地(CELLnTEC社)中で培養されたヒトケラチノサイト(クラボウ)にCDPコリン(最終濃度0.1mM)を添加して1%酸素濃度で24時間培養後、メタノール固定した。4%スキムミルクでブロッキングした後、抗オクルディンモノクローナル抗体(Invitrogen)と4℃で一晩反応させ、最後にAlexa Fluor 594標識抗マウスIgG抗体(Invitrogen)と反応させて、共焦点顕微鏡LSM880(Leica)により検出した。得られた画像の蛍光強度について、ImageJ画像解析ソフトウェアを用いて定量した。結果を図3(A)及び(B)に示す。
【0026】
スクラッチアッセイ
Incucyte(登録商標)96―Well Scratch Wound Cell Migration and Invasion Assaysモジュール(Sartorius)の説明書に従って行った。ヒトケラチノサイトを Incucyte(登録商標) Imagelock 96-Well Plate (Sartorius)上でコンフルエントになるまで培養後、Incucyte(登録商標) 96-Well Woundmaker Tool(Sartorius)を用いて、一定の幅で細胞を掻き取ってウェル上に溝を作成し、CDPコリン(最終濃度0.1mM)を添加して1%酸素濃度で36時間培養し、ウェル上の細胞のない領域が埋められる様子をインキュサイトライブセル解析システムにより解析した。結果を図4(A)に示す。スクラッチ箇所における細胞密度を計算してしました(図4(B))。
【要約】
【課題】表皮再生を促進する成分を取得することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、CDPコリンが、表皮再生促進、ケラチノサイトの遊走促進、創傷治癒、細胞膜の増強、皮膚バリア機能の向上といった作用を発揮することを見出し、CDPコリン産生促進剤、又はCDPコリンを含む、表皮再生促進剤、ケラチノサイトの遊走促進剤、創傷治癒の促進剤、ケラチノサイトの細胞膜の増強剤、又は皮膚バリア機能促進剤を提供する。また、CDPコリン産生促進剤として、リンデンエキスを提供する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
【配列表】
0007579469000001.xml