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  • 特許-CXCL9発現促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】CXCL9発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241030BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/82
A61P17/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024013756
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080409(JP,A)
【文献】特表2015-502406(JP,A)
【文献】特表2020-514395(JP,A)
【文献】特開2022-153335(JP,A)
【文献】国際公開第2020/091070(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0054695(KR,A)
【文献】J.C People, South Korea,Camellia Firming & Lifting Mask,MintelGNPD [online],2022年06月,Internet<URL:https://portal.mintel.com>,ID#9693288, [検索日:2021.06.25], 表題部分,成分,商品説明
【文献】Shiseido Fitit, Japan,Special Gel Cream A Oil In Y,MintelGNPD [online],2021年12月,Internet<URL:https://portal.mintel.com>,ID#9259686, [検索日:2021.06.25], 表題部分,成分,商品詳細
【文献】Richmond, Jillian M. et al.,Journal of Investigative Dermatology,July 2023, Vol.143, No.7,pp.1138-1146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ種子エキス、ツバキ種子発酵エキス、又はこれらの混合物を含む、CXCL9発現促進剤であって、ケラチノサイトにおいてCXCL9発現を促進する、前記CXCL9発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化細胞の除去に関与する細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球(CD4CTL)を誘因するCXCL9の発現を促進する成分の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫を司るT細胞はCD4陽性T細胞と、CD8陽性T細胞とに大別される。CD4陽性T細胞は抗体を分泌するB細胞の働きを助けるヘルパーT細胞と呼ばれており、CD8陽性T細胞は強力な細胞傷害活性によりウイルス感染細胞、がん細胞及び老化細胞を殺傷するキラーT細胞と呼ばれており、これらの免疫細胞を増強する方法が開示されている(特許文献1:特表2021-534829号公報)。一方、CD4陽性T細胞の中にも、細胞傷害活性を有するT細胞が存在し、このようなCD4陽性T細胞は細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球(CD4CTL)と呼ばれている。細胞傷害性CD4陽性細胞は、CD8陽性T細胞が発現する遺伝子群を発現していることが報告されており、CD8陽性T細胞と同様に、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を殺傷することができ、高い抗腫瘍効果を発揮することが報告されている。
【0003】
一方、細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球が、皮膚の老化細胞に作用してアポトーシスを誘導することが報告された。細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球が、老化細胞を特異的に排除することで、組織の恒常性が維持されると考えられている。老化細胞では、潜伏していたサイトメガロウイルスが増加しており、細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球は、細胞内で増加したサイトメガロウイルスの影響で産生される膜タンパク質を目印として、老化細胞を認識し、アポトーシスを誘導することが報告された(非特許文献1:Cell 2023)。また同文献では、細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球を、老化した皮膚に誘因するのに、CXCL9の発現が重要であることが突き止められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-534829号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cell (2023)186, 1417-1431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚において老化細胞の除去を促進することにより、健常な皮膚を維持し、皮膚の老化を改善する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、細胞傷害性CD4陽性細胞による老化細胞を除去するシステムに着目して、皮膚の老化を改善する製品の開発について研究を行った。その中で、細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因に重要な役割を果たすCXCL9に着目し、CXCL9の発現を促進する成分についてスクリーニングを行ったところ、驚くべきことに皮膚においてCXCL9の発現を促進する成分として、ツバキエキスを見出し本発明に至った。
そこで、本発明は以下に関する:
[1-1] ツバキエキスを含む、CXCL9発現促進剤。
[1-2] CXCL9発現促進剤の製造のためのツバキエキスの使用。
[1-3] CXCL9発現促進を介して老化の抑制において使用するためのツバキエキス。
[1-4] 老化細胞の割合増大を患う対象において、ツバキエキスを投与することを含む、CXCL9発現抑制方法。
[2] 前記ツバキエキスが、ツバキの種子、花、葉、及び根からなる群から選ばれる部分から抽出されたエキスである、項目1-1~1-4のいずれか一項に記載の発明。
[3] 前記ツバキエキスが、ツバキ種子エキス又はツバキ種子発酵エキスである、項目2に記載の発明。
[4] 皮膚外用剤である、項目1-1~1-4、及び2~3のいずれか一項に記載の発明。
[5] ケラチノサイトにおいてCXCL9発現を促進する、項目1-1~1-4、及び2~4のいずれか一項に記載の発明。
[6] 項目1-1~1-2、及びこれらに従属する項目2~5のいずれか一項に記載のCXCL9発現促進剤を適用することを含む、美容方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により選択されたツバキエキスは、皮膚細胞においてCXCL9の発現を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは、候補成分としてツバキ種子エキス、ツバキ種子発酵エキス、及びそれらの混合物を適用した場合の、ケラチノサイトにおけるCXCL9の発現変化を示すウエスタンブロッティングの結果を示す。図1Bは、β-アクチンに対するCXCL9の相対発現量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1の態様は、ツバキエキスを含むCXCL9の発現促進剤に関する。CXCL9の発現促進剤は、食品、化粧料、又は医薬品として用いることができ、老化細胞の除去を介して抗老化作用を発揮することができる。また、CXCL9の発現促進剤は、CXCR3発現細胞、特に細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因に基づく任意の作用を発揮することが可能である。
【0011】
CXCL9は、CXCケモカインファミリーに属するケモカインの一種であり、細胞遊走を誘導する。CXCL9は、単球の他、上皮細胞や血管内皮細胞で発現され、そして細胞外に分泌される。CXCL9は、T細胞が発現するケモカイン受容体であるCXCR3のリガンドとして作用し、CXCR3を発現する細胞の遊走に関わる。CXCL9は、インターフェロンγにより誘導されることも知られており、主に炎症時に発現が増加し、感染箇所や炎症箇所へのリンパ球の誘因に寄与する。さらに、抗菌作用や線維芽細胞に対してコラーゲン産生を促す作用も知られている。
【0012】
本発明において、CXCL9の発現の促進は、CXCL9のタンパク質量及び/又はmRNA量により決定することができる。CXCL9に特異的に結合する抗体等を用いた免疫学的手法により、細胞内及び/又は分泌されたCXCL9タンパク質量を決定することができる。また、一例として、PCRを利用することで、mRNA量を測定することもできる。定量的PCRや、リアルタイムPCRを行うことで、mRNA量を測定することができる。
【0013】
CXCL9の発現促進剤は、CXCL9の分泌促進剤と言い換えることもできる。CXCL9の発現及び分泌により、CXCL9が誘導する作用の全て又は一部を増強することができる。一例として、CXCR3発現細胞を誘因することができる。CXCR3発現細胞としては、CD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞、NK細胞、NKT細胞、末梢血B細胞の一部などが挙げられ、なかでも老化細胞を傷害する観点からは細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球が特に注目される。したがって、CXCL9の発現促進剤は、CXCR3発現細胞、特に細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因促進剤、老化細胞の傷害促進剤ともいうことができる。また、CXCL9の発現促進剤は、細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因を介して、ウイルス感染細胞及び/又は癌細胞の部分的な除去することもでき、ウイルス感染の治療又は予防剤、又は癌治療又は予防剤ということもできる。
【0014】
CXCL9の発現促進剤は、CXCL9を発現する細胞であれば任意の細胞に対し作用することができる。CXCL9を発現する細胞としては、ケラチノサイト、単球、血管内皮細胞が挙げられるが、特に経皮的に作用させる観点から、ケラチノサイトに対して作用させることが好ましい。経皮的に適用されたCXCL9発現促進剤は、表皮の角質層、顆粒層、有棘層に浸透し、基底層に存在するケラチノサイトに作用することができる。ケラチノサイトに作用することで分泌されたCXCL9は基底膜を通過し、真皮層に浸透することで、真皮層にCXCR3発現細胞を誘因する。したがって、CXCL9の発現促進剤は、CXCR3発現細胞、特に細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因剤ともいうことができる。CXCL9の発現促進剤を経皮的に作用させることで、細胞傷害性CD4陽性細胞を皮膚、特に真皮層に誘因することができる。
【0015】
CXCR3発現細胞の中で、特に細胞傷害性CD4陽性細胞は、老化細胞を認識してアポトーシスを誘導することができる。老化細胞としては、真皮層に存在する老化した真皮線維芽細胞が特に挙げられる。老化した真皮線維芽細胞は、遅い分裂速度及び間質成分の低い産生能力などにより、シワの発生原因となる。また、老化した真皮線維芽細胞は、IGFBP7などの老化因子を分泌していることが知られており、近隣の細胞に対しても悪影響を及ぼし得る。老化細胞では、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)活性化に伴い、HLA-II及びHCMV-糖タンパク質Bを高発現する。細胞傷害性CD4陽性細胞が高発現されたHLA-II依存的に、アポトーシスの誘導を介して老化細胞を特異的に除去することができる。したがって、CXCL9の発現促進剤は、老化細胞除去剤ともいうことができる。CXCL9の発現促進剤は、老化細胞の除去を介して、皮膚トラブルの改善作用を有しうる。特に老化した真皮線維芽細胞は、シミ、シワの原因となることから、老化した真皮線維芽細胞を除去し、若い真皮線維芽細胞の増殖を促すことで、老化の予防又は改善することができる。老化としては、特に皮膚老化、真皮線維芽細胞の老化、シワ、はりの改善などが挙げられる。したがって、CXCL9の発現促進剤は、老化改善剤、特に皮膚老化の改善剤、シミ、シワ又ははり改善剤ともいうことができる。
【0016】
本発明に係るCXCL9の発現促進剤の投与経路は任意の投与経路であってよく、経口、経皮、皮下、筋中、静脈内、動脈内、口腔、経粘膜投与が使用される。皮膚に作用させる観点から、経皮投与又は皮下投与が特に好ましい。経皮投与又は皮下投与されたCXCL9の発現促進剤は、ケラチノサイトに作用してCXCL9の分泌を促進し、分泌されたCXCL9は真皮層に浸透し、細胞傷害性CD4陽性Tリンパ球の真皮層への誘因を促進することで作用を発揮することができる。
【0017】
本発明に係るCXCL9の発現促進剤を投与する対象は、老化細胞が増加している対象又は皮膚でのCXCL9の発現が低下している対象である。このような対象では、老化細胞の増加に伴う症状を有する。より具体的に、かかる対象は、皮膚老化細胞の増加に伴う症状を患っており、特にシミ、シワやはりなどの皮膚老化を患う対象である。皮膚老化細胞、特に老化した真皮線維芽細胞の量又は割合は、本技術分野の周知な方法により、特定されてもよい。皮膚試料から、HLA-II及び/又はHCMV-糖タンパク質Bを高発現する真皮線維芽細胞の割合を決定することで、皮膚老化細胞が増加していることを決定することができる。皮膚老化細胞が増加している対象を特定したうえで、かかる対象に、本発明に係るCXCL9の発現促進剤を投与することが望ましい。
【0018】
本発明の更なる態様では、CXCL9促進剤を適用することを含む美容方法に関してもよい。かかる美容方法では、CXCL9促進剤は、皮膚老化細胞に伴う症状、例えば皮膚老化、シワ、はりの低下を有する対象の皮膚に適用される。皮膚に適用されることで、皮膚老化細胞の除去が可能になり、皮膚老化細胞が若い細胞に置き換えられることで、皮膚老化細胞に伴う症状を改善することができる。本発明に係る美容方法は、美容サロンなどで非医療従事者によって施術されるものであり、治療行為には当たらず、非治療行為ともいうことができる。
【0019】
本発明の更なる態様では、本発明は、ケラチノサイトにおいて本発明に係るCXCL9の発現を指標としたCXCL9発現促進剤又は皮膚老化抑制剤のスクリーニング方法にも関する。本発明のスクリーニング方法は、より具体的に以下の:
候補成分を含む培地でケラチノサイトを含む培養物を培養する工程、
培養後のケラチノサイトにおいてCXCL9の発現を測定する工程、及び
測定されたCXCL9発現量を、対照のCXCL9発現と比較する工程
を含む。CXCL9の発現量が亢進した場合に、候補成分をCXCL9発現量の発現促進剤としてスクリーニングすることができる。
対照のCXCL9発現は、候補成分を含まない点でのみ異なる工程で培養されたケラチノサイトにおけるCXCL9の発現を使用することができる。対照群は、予め実験が行われて対照群のCXCL9発現に基づいて閾値を設定してもよいし、並行して培養及び測定工程が行われてもよい。CXCL9発現量は、培養ケラチノサイトにおけるCXCL9のタンパク質量又はmRNA量であってもよく、それぞれ免疫学的手法又は定量的PCR等の本技術分野に周知の手法を用いて測定することができる。
【0020】
本発明のスクリーニング方法に用いる候補成分は、化粧品素材、食品素材、医薬品素材などの任意のライブラリーを使用することができる。かかるライブラリーとしては、化合物ライブラリー、エキスライブラリーなどを使用してもよい。各ライブラリーに含まれる化合物及びエキスは、市販の化合物及びエキスを使用してもよいし、合成された化合物及び調製されたエキスを使用してもよい。
【0021】
本明細書に記載される植物のエキスは常法により得ることができ、例えばその起源となる植物を抽出溶媒とともに常温又は加熱して浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水性溶媒、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、あるいは有機溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、溶媒として水とアルコール、例えば1,3-ブチレングリコールの混合溶媒が使用される。上記溶媒で抽出して得られた抽出物をそのまま、あるいは例えば凍結乾燥などにより濃縮したエキスを使用でき、また必要であれば吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD-2)のカラムにて吸着させた後、所望の溶媒で溶出し、さらに濃縮したものも使用することができる。植物抽出物は、化粧品原料として市販されている抽出物を用いることもでき、市販の抽出物を所定の濃度にて配合することができる。
【0022】
ツバキエキスとは、ツバキ科(Theaceae)ツバキ属(Camellia)に属する植物の植物体から得られたエキスである。特にツバキ又はヤブツバキ(Camellia japonica)の種子から得られたエキスである。ツバキは日本原産であるが、日本列島に広く分布する他、朝鮮半島、中国、台湾にも分布する。ツバキの植物体は、木、葉、茎、花、種子、根などの任意の部分が使用されてもよいが、特にツバキ種子から抽出されうる。ツバキ種子そのものから抽出されてもよいし、ツバキ油を絞った残渣に対して、さらに溶媒抽出を行うことで製造することもできる。抽出前に乾燥処理及び/又は粉末化処理が行われてもよい。また、ツバキ種子を微生物により発酵させてからエキスを得てもよい。ツバキ油を搾った残渣を、例えば、国菌に認定されている4種の麹菌のいずれかを用いて培養することで、ツバキ種子発酵物を得ることができる。かかる麹菌としては、和名を黄麹菌と称するアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、黄麹菌(オリゼー群)に分類されるアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae) と黄麹菌の白色変異株、及び(3)黒麹菌に分類されるアスペルギルス・リュキュエンシス(Aspergillus luchuensis(Aspergillus luchuensis var. awamori))及び黒麹菌の白色変異株である白麹菌(アスペルギルス・リュキュエンシス mut. カワチ(Aspergillus luchuensis mut. kawachii(Aspergillus kawachii))が挙げられる。ツバキ種子エキスおよびツバキ発酵種子エキスは、日本化粧品工業会が定めた化粧品の全成分表示に用いる表示名称及びINCI名(化粧品原料国際命名法)による国際的表示名称では、それぞれ表示名/INCI名:ツバキ種子エキス/CAMELLIA JAPONICA SEED EX TRACT 、表示名/INCI名:アスペルギルス/ツバキ種子発酵エキス/ASPERGILLUS/CAMELLIA JAPONICA SEED FERМENT EXTRACT FILTRATEで表される。溶媒抽出は、水、アルコール又はそれらの混合溶液を用いて抽出することで調製することができる。アルコールとしては、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、又はブチレングリコールが用いられる。より好ましくは、水とアルコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。より好ましくは水と混合されるアルコールとして、1,3-ブチレングリコールが使用されうる。ツバキ種子エキス又はツバキ種子発酵エキスは、0.001%~1%の濃度で配合され、0.01%~0.1%がより好ましい。ツバキ種子エキスとツバキ種子発酵エキスは任意の割合で混合して配合してもよい。一例として、ツバキ種子エキスとツバキ種子発酵エキスは、1:99から99:1、好ましくは1:2~2:1、さらに好ましくは1:1で混合されてもよい。ツバキエキスは、CXCL9発現を促進する。
【0023】
本発明のCXCL9発現促進剤は、所望の効果、すなわち皮膚老化予防又はシワ改善などを引き起こす観点で任意に濃度及び剤形を選択することができる。CXCL9発現促進剤であるツバキエキスは、食品、化粧料、医薬品又は医薬部外品に配合することができる。食品に配合する場合は、例えばサプリメントや栄養ドリンクなどの栄養補助食品、又は機能性表示食品に配合されてもよい。化粧料に配合する場合、化粧水、乳液、美容液、クリーム、ローション、パック、エッセンス、ジェル等の顔用又は体用の化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料、さらには浴用剤などに配合することができる。医薬品に配合する場合、経口、又は非経口、例えば経皮投与されてもよい。経皮投与される場合、皮膚外用剤に剤形することができる。CXCL9発現促進剤を含む化粧品、食品、医薬品及び医薬部外品を用いることにより、CXCL9の発現促進を介して老化細胞を除去し、ひいては老化の抑制作用を発揮する。CXCL9発現促進剤は、本発明の食品、化粧品又は医薬品として、長期間にわたり投与することができる。抗老化作用をもたらす観点から、数日以上、1週間以上、2週間以上、1か月以上、3か月以上、又は半年以上にわたり投与されてもよい。上限は特に限定されないが、数年以下、例えば1年以下であってもよい。
【0024】
皮膚外用剤として配合する観点からは、ツバキ種子エキス又はツバキ種子発酵エキスは、CXCL9発現促進剤として0.001%~1%で配合することができる。効果を十分に発揮させる観点から、皮膚外用剤として、好ましくは0.01%以上で配合でき、さらに好ましくは0.1%以上で配合することができる。安全性の観点から、好ましくは1%以下で配合することができ、さらに好ましくは0.1%以下で配合することができる。
【0025】
皮膚外用剤は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水-油二層分離状、水-油-粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。皮膚外用剤に剤形される場合には、皮膚外用剤に通常用いられる基剤、及び賦形剤、例えば保存剤、乳化剤、pH調整剤などが用いられてもよい。
【0026】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0027】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0028】
実施例1:ヒト皮膚ケラチノサイトの培養
ヒト皮膚ケラチノサイト(クラボウ)を、5×10細胞の濃度で、6―ウェルプレートに播種し、KGM培地を用いて5%CO雰囲気下37℃で2日培養を行った。
候補成分として、ツバキ種子エキス(油化産業)0.01%及びツバキ発酵種子エキスを0.1%となるように培地に添加し、37℃で24時間培養を行った。 エキスを含まない点でのみ異なる対照群も同様に培養を行った。
培養後に、細胞を回収し、回収した細胞について、PBSで洗浄後、SDS-PAGEにより、分離し、ゲルをPVDFメンブレンに転写後、1次抗体として、抗CXCL9抗体(Cell Signaling Technology)及び抗βアクチン抗体(Santa Cruz)を用いた。2次抗体としてAP標識抗体(Thermo Fisher Scientific)を用いて、ウエスタンブロッティングを行った。結果を図1に示す。ツバキ種子エキス0.01%及びツバキ発酵種子エキスを0.1%添加した場合に、それぞれCXCL9の発現が亢進した。
【要約】
【課題】皮膚において老化細胞の除去を促進することにより、健常な皮膚を維持し、皮膚の老化を改善する手法を提供することを目的とする。
【解決手段】細胞傷害性CD4陽性細胞による老化細胞を除去するシステムに着目して、皮膚の老化を改善する製品の開発について研究を行った。その中で、細胞傷害性CD4陽性細胞の誘因に重要な役割を果たすCXCL9に着目し、CXCL9の発現を促進する成分についてスクリーニングを行ったところ、驚くべきことに皮膚においてCXCL9の発現を促進する成分として、ツバキエキスを見出し、ツバキエキスを含むCXCL9発現促進剤を提供する。
【選択図】 図1
図1