(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】端子
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20241030BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20241030BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20241030BHJP
H01H 1/04 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/50
C25D7/00 J
H01R13/03 D
H01H1/04 E
(21)【出願番号】P 2024024522
(22)【出願日】2024-02-21
【審査請求日】2024-02-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第7323979(JP,B1)
【文献】特開2018-144080(JP,A)
【文献】特開2002-298963(JP,A)
【文献】特表2020-534695(JP,A)
【文献】特開2018-115361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01H 1/04
H01L 21/60
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にめっき層が形成されてなる端子であって、
前記めっき層はCuを含み、かつ、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有し、
前記めっき層は、前記基材から前記端子表面に向かって基材金属およびSnの濃度が変化する濃度勾配を有
し、
前記めっき層の表面のビッカース硬さが10(Hv)以上500(Hv)以下の範囲である、
端子。
【請求項2】
前記基材は、前記基材とめっき層との接点から前記基材の内部に向かって0.1μm~10μmの範囲にSnの拡散層を有する、請求項1に記載の端子。
【請求項3】
前記めっき層の組成が、
Cu 5~85質量%、
Cr 0.001~1質量%、
Ni 0.01~5質量%、
残部がSnである(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
請求項1に記載の端子。
【請求項4】
前記金属間化合物結晶の組成が、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Cr 0.001~3質量%、
Ni 0.01~6.5質量%
である、請求項1に記載の端子。
【請求項5】
基材の表面にめっき層が形成されてなるバンプであって、
前記めっき層はCuを含み、かつ、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有し、
前記めっき層は、前記基材から前記バンプ表面に向かって基材金属およびSnの濃度が変化する濃度勾配を有
し、
前記めっき層の表面のビッカース硬さが10(Hv)以上500(Hv)以下の範囲である、
バンプ。
【請求項6】
前記めっき層は、前記基材から前記
バンプ表面に向かって0.1μm~10μmの範囲に基材金属の拡散層を有する、請求項
5に記載のバンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品接続部及び接合端子等に好適な端子に関する。
【背景技術】
【0002】
銀めっき、錫めっき皮膜のような貴金属、単一金属のめっき被膜は、導電率が高いことから、電子機器のコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子に幅広く使用されている。しかし、このような貴金属、単一金属を使用した端子は、高温環境下での動作時において、耐久性に課題があった。
【0003】
なお下記特許文献1には、銅又は銅合金からなる基材の表面に錫-銅金属間化合物が分散した錫めっき層が形成されていることを特徴とする錫-銅金属間化合物分散錫接触端子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温環境下での動作時において、耐久性に優れる端子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材の表面にめっき層が形成されてなる端子であって、前記めっき層はCuを含み、かつ、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有し、前記めっき層は、前記基材から前記端子表面に向かって基材金属およびSnの濃度が変化する濃度勾配を有する、端子を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温環境下での動作時において、耐久性に優れる端子を提供することができる。また本発明の端子は、耐衝撃性、耐摩耗性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られた本発明の電解めっき用電極をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした断面の光学映像である。
【
図2】得られた実施例1の電解めっき用電極の断面SEM像である。
【
図3A】実施例1で得られた接触端子のEDSによる元素マッピング分析の測定箇所を説明するためのめっき層の断面図である。
【
図3B】
図3Aにおける領域001のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3C】
図3Aにおける領域002のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3D】
図3Aにおける領域003のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3E】
図3Aにおける領域004のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3F】
図3Aにおける領域005のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図3G】
図3Aにおける領域006のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。
【
図4】本発明の金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を説明するための図である。
【
図5】実施例1の接触端子の180度折り曲げ試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図6】実施例1の接触端子の表面亀裂試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図7】実施例1の耐熱性の試験結果を示す顕微鏡写真である。
【
図8】比較例1の接触端子の180度折り曲げ試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図9】比較例1の表面亀裂試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【
図10】比較例1の耐熱性試験の結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
先に、本明細書における用語法は、特に説明がない場合であっても、以下による。
(1)金属というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、金属間化合物結晶を含むことがある。
(2)ある単体の金属元素に言及する場合、完全に純粋に当該金属元素のみからなる物質だけを意味するものではなく、微かな他の物質を含む場合もあわせて意味する。すなわち、当該金属元素の性質にほとんど影響を与えない微量の不純物を含むものを除外する意味ではないことは勿論、たとえば、母相という場合、Snの結晶中の原子の一部が他の元素(たとえば、Cu)に置き換わっているものを除外する意味ではない。例えば、前記他の物質または他の元素は、当該金属元素の性質にほとんど影響を与えない条件において、下記端子中、0~0.1質量%含まれる場合がある。
(3)エンドタキシャル接合とは、金属・合金となる物質中(本発明では母相)に金属間化合物結晶が析出し、この析出の最中にSn-Cu合金と金属間化合物結晶とが結晶格子レベルで接合し、結晶粒、結晶層を構成することを意味している。エンドタキシャルという用語は公知であり、例えばNature Chemisry 3(2): 160-6、2011年の160頁左欄最終パラグラフに記載がある。
【0010】
本発明の端子は、基材の表面にめっき層が形成されてなる端子であって、前記めっき層は、Cuを含み、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有するものである。
【0011】
前記めっき層を設けるためのめっき浴には、次の電解めっき用電極が適用される。以下、前記電解めっき用電極を「本発明の電解めっき用電極」と言うことがある。
【0012】
本発明の電解めっき用電極は、Snと、Sn-Cu合金と、を含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶を有する構造を有し、前記構造の組成が、好ましくは
Cu 5~85質量%、
Cr 0.001~1質量%、
Ni 0.01~5質量%、
残部がSnであり(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)、
前記母相中に前記金属間化合物結晶が包含されて存在する。
前記母相の組成はCu5質量%以下、Ni1質量%以下、Cr1質量%以下、残部がSnである(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)のが好ましい。
【0013】
図1は、下記実施例1で得られた本発明の電解めっき用電極をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした断面の光学映像である。
【0014】
本発明の電解めっき用電極は、可溶性電極であることができ、次の方法により製造することができる。
まず、下記で説明する金属粒子(以下、本発明の金属粒子と呼ぶことがある)を製造する。
続いて、得られた本発明の金属粒子を真空下、高周波誘導加熱することにより溶融させ、これを窒素ガス雰囲気中、大気圧下で鋳型鋳込みを行い、冷却固化させ、圧延シートとし、これを必要に応じて複数枚積層させること(以下、バルクと呼ぶことがある)により電解めっき用電極が得られる。
【0015】
本発明の金属粒子は、例えばCu8質量%、Cr1質量%、Ni1質量%および残部がSnからなる組成の原材料から製造することができる。例えば、該原材料を溶融し、これを窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させることにより得られる。
【0016】
本発明の金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を
図4を参照して説明する。粒状化室1は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋2を有する。蓋2の中心部には垂直にノズル3が挿入され、ノズル3の直下には皿形回転ディスク4が設けられている。符号5は皿形回転ディスク4を上下に移動可能に支持する機構である。また粒状化室1のコーン部分の下端には生成した粒子の排出管6が接続されている。ノズル3の上部は粒状化する金属を溶融する溶解炉7に接続されている。混合ガスタンク8で所定の成分に調整された雰囲気ガスは配管9及び配管10により粒状化室1内部及び電気炉7上部にそれぞれ供給される。粒状化室1内の圧力は弁11及び排気装置12、電気炉7内の圧力は弁13及び排気装置14によりそれぞれ制御される。ノズル3から皿形回転ディスク4上に供給された溶融金属は皿形回転ディスク4による遠心力で微細な液滴状になって飛散し、減圧下で冷却されて固体粒子になる。生成した固体粒子は排出管6から自動フィルター15に供給され分別される。符号16は微粒子回収装置である。
【0017】
溶融金属を高温溶解から冷却固化させる過程は、本発明の金属粒子を形成するために重要である。
例えば次のような条件が挙げられる。
溶解炉7における金属の溶融温度を800℃~1000℃に設定し、その温度を保持したまま、ノズル3から皿型回転ディスク4上に溶融金属を供給する。
皿形回転ディスク4として、内径35mm、回転体厚さ5mmの皿形ディスクを用い、毎分8万~10万回転とする。
粒状化室1として、9×10-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15~50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10-1Pa以下とする。
【0018】
以上のようにして本発明の金属粒子が得られる。本発明の金属粒子の粒子径は、およそ5μmであるが、本発明の金属粒子の粒子径は、例えば好適には1μm~50μmの範囲である。
【0019】
続いて、得られた本発明の金属粒子を真空下、高周波誘導加熱することにより溶融させ、これを窒素ガス雰囲気中、大気圧下で鋳型鋳込みを行い、冷却固化させ、圧延シートとし、これを必要に応じて複数枚積層させることによってバルクが得られる。
前記高周波誘導加熱および冷却固化条件は、本発明の電解めっき用電極を形成するために重要である。
例えば次のような条件が挙げられる。
高周波誘導加熱:9×10-2Pa程度まで減圧可能な性能を有する真空槽内に高周波溶解用るつぼを設置し、該るつぼに本発明の金属粒子を導入し、前記減圧度程度まで減圧したまま本発明の金属粒子に対し高周波誘導加熱を行い、加熱温度を800℃~1000℃にして本発明の金属粒子を溶解させ、その温度を5分~15分保持する。
冷却固化:続いて、15~50℃の窒素ガスを槽内に流しつつ、大気圧下で前記加熱温度を約400℃以上に設定し、鋳型鋳込みを行い、30℃以下で冷却固化させる。
【0020】
本発明の電解めっき用電極は、例えばその組成が好ましくは、
Cu 5~85質量%、
Cr 0.001~1質量%、
Ni 0.01~5質量%、
残部がSnである(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)。
前記組成は、本発明の金属粒子と同じである。
【0021】
また、電解めっき用電極における母相の組成は、Cu5質量%以下(例えば0.1~5質量%)、Ni1質量%以下(例えば0.01~1質量%)、Cr1質量%以下(例えば0.01~1質量%)、残部がSnであることができる。
前記母相の組成は、本発明の金属粒子と同じである。
【0022】
また、本発明の電解めっき用電極における金属間化合物結晶の組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Cr 0.001~3質量%、
Ni 0.01~6.5質量%
であることが好ましい。
また、本発明の電解めっき用電極における金属間化合物結晶の割合は、電解めっき用電極全体に対し、例えば20~60質量%であり、30~40質量%が好ましい。
前記金属間化合物結晶は、前記母相中に包含されて存在する。
【0023】
本発明の電解めっき用電極における前記母相および金属間化合物結晶の組成および割合は、前記電解めっき用電極の製造条件に従うことにより満たすことができる。なお、圧延シート化およびバルク化を行っても、本発明の電解めっき用電極の構造が維持されることを本発明者らは確認している。
【0024】
本発明の電解めっき用電極は、前記母相および前記金属間化合物結晶の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることが好ましい。上述のように、エンドタキシャル接合とは、金属・合金となる物質中(本発明では母相)に金属間化合物結晶が析出し、この析出の最中にSn-Cu合金と金属間化合物結晶とが結晶格子レベルで接合し、結晶粒を構成するものである。エンドタキシャル接合の形成により、金属間化合物結晶の脆さの課題を解決できるとともに、Snの結晶構造の変化による機械的強度の低下も抑制でき、耐久性に優れた接触端子を提供できる。
本発明の電解めっき用電極のエンドタキシャル接合は、前記電解めっき用電極の製造条件にしたがって形成することができる。
【0025】
また、エンドタキシャル接合は、前記母相におけるSn-Cu合金と金属間化合物結晶との接合面の全体を100%としたとき、30%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。前記エンドタキシャル接合の割合は、例えば次のようにして算出できる。
電解めっき用電極の断面を電子顕微鏡写真撮影し、Sn-Cu合金と金属間化合物結晶との接合面を任意に50か所サンプリングする。続いて、その接合面を画像解析し、下記実施例で示すようなエンドタキシャル接合が、サンプリングした接合面に対してどの程度存在するのかを調べる。
【0026】
また、本発明の電解めっき用電極は、前記めっき層を形成する電解めっき用電極(陽極)として有用である。本発明の電解めっき用電極は、めっき浴中に電解めっき用電極に含まれる金属間化合物結晶がナノサイズ(1μm以下)で分散し、荷電を伴って母相とともに基材表面上にめっきされ、めっき層を形成する。形成されためっき層は、Sn-Cu合金からなる母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散し、前記母相および前記金属間化合物結晶の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなる構造を有するのが好ましい。また、基材との間でエピタキシャル接合しているのが好ましい。
【0027】
前記めっき層を設けるためのめっき浴は、本発明の電解めっき用電極を備えてなること以外に、例えば次の組成を有することができる。
硫酸銅 180~250g/L
硫酸第一錫 30~ 50g/L
硫酸 80~120g/L
各添加剤等(付着抑制材、界面錯形成作用材、皮膜形成材、電界拡散消耗形成材)
【0028】
前記のめっき浴の成分例示に加え、必要に応じて公知の分散剤、光沢剤、酸化防止剤等を適宜添加できる。例えばポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどの分散剤、クレゾールスルホン酸、アセトアルデヒド、アセチルアセトンなどの光沢剤、ホルマリン、カテコール、ヒドロキノンなどの酸化防止剤等を挙げることができる。
【0029】
めっき温度は、例えば30℃以下であり、15~20℃が好適である。
【0030】
電流密度は、例えば1~10A/dm2の範囲で適宜調整される。
【0031】
前記めっき層の組成およびめっき層に含まれる金属間化合物結晶の組成は、本発明の電解めっき用電極と同様である。すなわち、例えば
前記めっき層の組成は、
Cu 5~85質量%、
Cr 0.001~1質量%、
Ni 0.01~5質量%、
残部がSnである(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)。
また、金属間化合物結晶の組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Cr 0.001~3質量%、
Ni 0.01~6.5質量%
である。
また、前記めっき層に含まれる金属間化合物結晶の量は、例えば20~60質量%である。母相の組成も本発明の電解めっき用電極の組成と同様である。すなわち、母相の組成はCu5質量%以下、Ni1質量%以下、Cr1質量%以下、残部がSnである(ただし、不可避不純物0.1質量%以下で含み得る)。
前記めっき層全体、母相および金属間化合物の前記組成および構造は、本発明の電解めっき用電極を用いた前記めっき条件により形成可能である。
【0032】
めっき後の基材は、続いて加熱処理される。加熱処理条件としては、不活性ガス雰囲気内にて例えば温度200℃~220℃であり、加熱時間は例えば60分~120分時間程度である。とくにこの加熱処理条件によって、めっき層が、基材から端子表面に向かってCuおよびSnの濃度が変化する濃度勾配を有するようになる。
【0033】
以上の操作により、基材に含まれる金属(基材金属)がめっき層に拡散し、また母相に含まれるSnが移動し、基材から端子表面に向かって基材金属およびSnの濃度が変化する濃度勾配を有するようになる。めっき層の厚さとしては、例えば2μm~10μmである。また、前記基材とめっき層との接点から前記基材の内部に向かって0.1μm~10μmの範囲にSnの拡散層を有するようになる。以下、基材金属がCuである場合を例に取り説明する。
めっき層の組成は具体的には基材表面から端子表面に向かって、Cu濃度が高くSn濃度が低い第1の領域と、前記第1の領域よりもCu濃度が低くSn濃度が高い第2の領域とがこの順に少なくとも設けられることが好ましい(組成条件1)。また前記Snの拡散層は、前記基材とめっき層接点から前記基材の内部に向かってSn濃度が減少する濃度勾配を有することが好ましい。このようなSn濃度の濃度勾配を有することにより、基材の縦割り現象が起こりにくく、また、Snの剥離・耐熱・耐圧・耐薬品効果・耐圧効果、が発揮される。
さらに具体的には次の表に示されるように、基材表面から端子表面に向かって、Cu濃度およびSn濃度の濃度勾配がめっき層に形成されることが好ましい。なお、下記表における第1の領域および第2の領域以外の範囲は、上記組成条件1が満たされるように任意の値を取り得る。
【0034】
【0035】
なお基材としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金またはステンレスが挙げられ、これらは、公知の材料の中からとくに制限なく選択できる。例えば、銅合金としては黄銅、燐青銅等が挙げられる。
また、本発明をマイクロバンプとして使用する場合には、半導体基板としてSi、SicまたはGaNを用い、その下地層としてTi/Cuめっきを施すことが好適である。
また本発明は別の実施形態としてバンプを提供するものである。本発明のバンプは、上記本発明の端子と同様の組成を有する。すなわち、本発明のバンプは、基材の表面にめっき層が形成されてなり、前記めっき層は、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有し、前記めっき層は、前記基材から前記バンプ表面に向かってCuおよびSnの濃度が変化する濃度勾配を有する。本発明のバンプのめっき層の詳細は、上記本発明の端子のめっき層と同様であり、またバンプ表面のめっき層の形成方法も上記本発明の端子と同様のなので詳しい説明は省略する。
【0036】
本発明の端子およびバンプは、めっき層の濃度勾配を上記のように調整することによって、とくにCuがめっき層の端子表面側にも拡散していくことによって、めっき層の表面のビッカース硬さを10(Hv)以上500(Hv)以下の範囲とすることができる。このような硬度を有することにより、打撃耐久性、摩耗耐久性等を向上できるというメリットがある。前記硬度の範囲は150~400Hvがさらに好ましい。
なおビッカース硬さは、JIS Z 2244-1:2020に準拠して測定される。
【0037】
なお、めっき層の下地には、チタン、ニッケル又はニッケル合金層を形成することもでき、耐熱性をさらに高めることができる。ニッケル合金としては、鉄、錫、亜鉛、銅、コバルト、リン、銀、ボロンなどの1、2種類を含むものが使用できる。この下地層の厚さは、例えば0.1μm~1.5μm程度が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
実施例1
原材料としてCu8質量%、Cr1質量%、Ni1質量%および残部がSnからなる組成の原材料を用い、
図4に示す製造装置により、直径約3~50μmの金属粒子1を製造した。
その際、以下の条件を採用した。
溶解炉7に溶融るつぼを設置し、その中に上記原材料を入れ、900℃で溶融し、その温度を保持したまま、ノズル3から皿型回転ディスク4上に溶融金属を供給した。
皿形回転ディスク4として、直径35mm、回転盤厚さ3~5mmの皿形ディスクを用い、毎分8万~10万回転とした。
粒状化室1として、9×10
-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15~50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10
-1Pa以下とした。
得られた金属粉末1を用い、本発明の電解めっき用電極を作製した。
その際、以下の条件を採用した。
高周波誘導加熱:9×10
-2Pa程度まで減圧可能な性能を有する真空槽内に高周波溶解用るつぼを設置し、該るつぼに上記本発明の金属粒子1を導入し、上記減圧度程度まで減圧したまま上記本発明の金属粒子1に対し高周波誘導加熱を行い、加熱温度を900℃にして上記本発明の金属粒子1を溶解させ、その温度を5分保持した。
冷却固化:続いて、15~50℃の窒素ガスを槽内に10分間流しつつ、大気圧下で原材料の加熱温度を約400℃に設定し、鋳型鋳込みを行い、室温で冷却固化させた。
得られた材料を用い、圧延シート化し、150℃に加熱された裁断機に投入し、1cm~3cm角に裁断し、実施例1の電解めっき用電極を得て、下記のメッキ浴に設置した。
【0039】
得られた実施例1の電解めっき用電極は、前記
図1に示すような断面を有していた。また、
図2は、得られた実施例1の電解めっき用電極の断面SEM像であり、SnとSn-Cu合金とを含む母相(淡色)中にSn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶(濃色)が包含されて存在していることが確認された。
また、上記電解めっき用電極の1断面のEDSによる元素マッピング分析を行ったところ、その組成はCu8質量%、Cr1質量%、Ni1質量%、残部Snであることが判明した。
また、実施例1の電解めっき用電極は母相中に金属間化合物結晶が包含されて存在し、前記母相および前記金属間化合物結晶の少なくとも1部が、エンドタキシャル接合してなることが分かった。
なお、電解めっき用電極は、その組成が、
Cu 5~85質量%、
Cr 0.001~1質量%、
Ni 0.01~5質量%、
残部がSnであった。
また、金属間化合物結晶及びエンドタキシャル接合部分を含む組成は、
Sn 50~70質量%、
Cu 30~50質量%、
Cr 0.001~3質量%、
Ni 0.01~6.5質量%
であることが判明した。
また、上記電解めっき用電極における金属間化合物結晶は、30~35質量%を占めていた。
【0040】
(接触端子の調製)
基材(陰極)として、燐青銅または黄銅板(厚さ0.30mm)を用いた。
次の条件で該基材に対し、電解めっき用電極として本発明の電解めっき用電極を用い、電解めっきを行い、めっき板金を得た。
【0041】
めっき浴組成組成(水1リットルに対する濃度):
硫酸銅 180~250g/L
硫酸第一錫 30~ 50g/L
硫酸 80~120g/L
また、公知の参照電極を用い、添加剤を適量加えた。
【0042】
めっき温度:70℃
電流密度:3A/dm2
めっき後の基材の加熱処理温度:200℃
めっき後の基材の加熱処理時間:300秒(窒素雰囲気下)
【0043】
得られた接触端子の組成は、前記本発明の電解めっき用電極の組成と同じであった。
【0044】
得られた接触端子に対し、次の条件で加熱を行った。
加熱温度:217℃
加熱時間:60分
【0045】
また、前記接触端子のめっき層を分解し、基材から接触端子表面に向かう方向におけるCuおよびSnの濃度をEDSにより測定したところ、
図3に示す結果が得られた。
図3Aは、EDS分析を行っためっき層および基材の断面の写真であり、基材側の番号001~002と、基材表面から端子側に向かって番号003~006が付されている。
図3B~Gは、実施例1で得られた接触端子のEDSによる元素マッピング分析の結果を示す図である。とくに第1の領域(
図3における領域003)および第2の領域(
図3における領域006)を含め、各領域のるCuおよびSnの濃度は下記表2の通りである。
【0046】
【0047】
なお、前記CuおよびSnの濃度測定装置は、次の通りである。
測定機器名:JSM-IT300HR
メーカー名:日本電子株式会社
測定モード:ANALYTICAL SCANNING ELECTRON,MICROSCOPE
【0048】
上記実施例1で得られた接触端子の耐久性を次の実験により調べた。
<耐久性の実験方法>
(180℃折り曲げ試験)
基材として黄銅板を用いた接触端子を、180度折り曲げ試験に供し、めっき層のクラックの有無を観察した。なお、めっき層の厚さは5μmである。
図5は実施例1の接触端子の180度折り曲げ試験の結果を示す顕微鏡写真である(aは接触端子全体写真であり、bは折り曲げ部の拡大写真である)。その結果、本実施例1の接触端子のめっき層にはクラックが観察されなかった。
(表面亀裂試験)
得られた接触端子の裏面からポンチ打ちを行い、表面亀裂試験を行った。
図6は実施例1の接触端子の表面亀裂試験の結果を示す顕微鏡写真である。その結果、本実施例1の接触端子のめっき層にはポンチ打ちによる表面亀裂は確認されなかった。
(耐熱性試験)
得られた接触端子を230℃の温度下で500時間静置し、めっき層の表面の状態を顕微鏡観察した。
図7は、実施例1の耐熱性の試験結果を示す顕微鏡写真である。本実施例1の接触端子のめっき層は、耐熱性試験前後で変化は見られなかった。
【0049】
比較例1
実施例1において、上記電解めっき用電極を錫金属に変更したこと以外は、実施例1を繰り返し、上記180℃折り曲げ試験、表面亀裂試験および耐熱性試験を行った。
図8は比較例1の接触端子の180度折り曲げ試験の結果を示す顕微鏡写真である(aは接触端子全体写真であり、bは折り曲げ部の拡大写真である)。その結果、180度折り曲げ試験では、めっき層にクラックが発生し、まためっき層と母材との剥がれが発生した。
図9は、比較例1の表面亀裂試験の結果を示す顕微鏡写真である。その結果、比較例1の接触端子のめっき層にはポンチ打ちによる表面亀裂が確認された。
図10は、比較例1の耐熱性試験の結果を示す顕微鏡写真である。その結果、比較例1の接触端子のめっき層には250℃の温度下で500時間静置するという加熱条件下で部分溶解が発生することが確認された。
【0050】
比較例2
実施例1において、得られた接触端子に対する加熱温度を190℃に変更したこと以外は、実施例1を繰り返し、上記180度折り曲げ試験、表面亀裂試験および耐熱性試験を行った。
その結果、180度折り曲げ試験では、めっき層にクラックが発生し、まためっき層と母材との剥がれが発生した。また、表面亀裂試験では、接触端子のめっき層にはポンチ打ちによる表面亀裂が確認された。また、耐熱性試験では、接触端子のめっき層には250℃の温度下で500時間静置するという加熱条件下で部分溶解が発生することが確認された。
なお、めっき層は、基材から端子表面に向かって基材金属およびSnの濃度が変化する濃度勾配を有するものではなかった。
【0051】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【符号の説明】
【0052】
1 粒状化室
2 蓋
3 ノズル
4 皿形回転ディスク
5 回転ディスク支持機構
6 粒子排出管
7 溶解炉
8 混合ガスタンク
9 配管
10 配管
11 弁
12 排気装置
13 弁
14 排気装置
15 自動フィルター
16 微粒子回収装置
【要約】
【課題】銀めっき、錫めっき皮膜のような貴金属、単一金属のめっき被膜は、導電率が高いことから、電子機器のコネクタ、スイッチ、リレーなどの接点や端子部品に幅広く使用されている。しかし、このような貴金属、単一金属を使用した端子は、高温環境下での動作時において、耐久性に課題があった。
【解決手段】基材の表面にめっき層が形成されてなる端子であって、前記めっき層は、SnとSn-Cu合金とを含む母相中に、Sn、Cu、CrおよびNiを含む金属間化合物結晶が分散した構造を有し、前記めっき層は、前記基材から前記端子表面に向かってCuおよびSnの濃度が変化する濃度勾配を有する端子によって上記課題を解決した。
【選択図】
図1