(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】立体造形用樹脂粉末、立体造形物及び立体造形物の作製方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20241031BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241031BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241031BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241031BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2021514156
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016368
(87)【国際公開番号】W WO2020213586
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019077902
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398018962
【氏名又は名称】株式会社アスペクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正
(72)【発明者】
【氏名】木村 友星
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/041839(WO,A1)
【文献】特開2019-001154(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107304270(CN,A)
【文献】国際公開第2018/077854(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068899(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/153
B33Y 70/00
B33Y 80/00
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形用樹脂粉末であって、
エチレン・プロピレン共重合体粒子を含有し、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径が、5~200μmの範囲内であり、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子における、エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))が、
0.01~0.025の範囲内であり、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の重量平均分子量が、26万~33万の範囲内であり、かつ、
メルトフローレート(MFR)が、230℃において、3~40g/10minの範囲内である立体造形用樹脂粉末。
【請求項2】
融点が、100~160℃の範囲内であり、かつ、
下記式(1)の関係を満たす請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
式(1):(融点温度-再結晶化温度)≧10℃
【請求項3】
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在する請求項1又は請求項2に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在する請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
立体造形用樹脂粉末を用いて形成された立体造形物であって、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末の焼結体又は溶融体である立体造形物。
【請求項6】
立体造形用樹脂粉末を用いる立体造形物の作製方法であって、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末を用いて、粉末床溶融結合法により立体造形物を作製する立体造形物の作製方法。
【請求項7】
前記立体造形用樹脂粉末の薄層を形成する工程と、
前記形成された薄層にレーザー光を選択的に照射して、前記立体造形用樹脂粉末に含まれる樹脂粒子が焼結又は溶融結合してなる造形物層を形成する工程と、
前記薄層を形成する工程と、前記造形物層を形成する工程と、をこの順に複数回繰り返し、前記造形物層を積層する工程と、を備える請求項6に記載の立体造形物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂粉末、立体造形物及び立体造形物の作製方法に関し、特に、ポリプロピレン樹脂を使用し、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた立体造形用樹脂粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に作製できる様々な方法が開発されている。立体造形物を作製する方法の一つとして、粉末床溶融結合法(PBF法:Powder
Bed Fusion)が知られている。粉末床溶融結合法は、造形精度が高く、かつ、積層された層間の接着強度が高いという特徴を有する。そのため、粉末床溶融結合法は、最終製品の形状又は性質を確認するための試作品の作製のみならず、最終製品の製造にも用いることが可能である。
【0003】
粉末床溶融結合法では、樹脂材料又は金属材料の粒子を含む粉末材料を平らに敷き詰めて薄膜を形成し、薄膜上の所望の位置にレーザーを照射して、粉末材料に含まれる粒子を選択的に焼結又は溶融させて結合させる(以下、焼結又は溶融によって粒子が結合することを単に「溶融結合」ともいう。)ことで、立体造形物を厚さ方向に微分割した層(以下、単に「造形物層」ともいう。)の一つを形成する。こうして形成された層の上に、さらに粉末材料を敷き詰め、レーザーを照射して粉末材料に含まれる粒子を選択的に溶融結合させることで、次の造形物層を形成する。この手順を繰り返して、造形物層を積み上げていくことで、所望の形状の立体造形物が作製される。
【0004】
上記粉末材料に含まれる粒子には、取り扱いの容易さや応用される対象の広さなどの観点から、ポリアミドなどの樹脂材料が用いられることがある。
特に、ポリアミド12は、ポリアミドの中でも比較的低い融点を有し、熱収縮率が小さい点や吸水性がポリアミドの中でも低い点から好適に用いることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、近年では、試作用途の他に、造形物を最終製品として使用する需要が増えてきており、特に樹脂の破断伸びに特徴があるポリプロピレン樹脂を使用したいという要望が増えてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ポリプロピレン樹脂を使用し、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた立体造形用樹脂粉末、立体造形物及び立体造形物の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、エチレン・プロピレン共重合体粒子で、体積平均粒径、エチレン含有モル比率及びメルトフローレートを特定範囲に規定することで、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた、ポリプロピレン樹脂を用いた立体造形用樹脂粉末等を提供することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.立体造形用樹脂粉末であって、
エチレン・プロピレン共重合体粒子を含有し、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径が、5~200μmの範囲内であり、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子における、エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))が、0.01~0.025の範囲内であり、
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の重量平均分子量が、26万~33万の範囲内であり、かつ、
メルトフローレート(MFR)が、230℃において、3~40g/10minの範囲内である立体造形用樹脂粉末。
【0010】
2.融点が、100~160℃の範囲内であり、かつ、
下記式(1)の関係を満たす第1項に記載の立体造形用樹脂粉末。
式(1):(融点温度-再結晶化温度)≧10℃
【0011】
3.前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在する第1項又は第2項に記載の立体造形用樹脂粉末。
【0012】
4.前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在する第1項から第3項までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末。
【0013】
5.立体造形用樹脂粉末を用いて形成された立体造形物であって、
第1項から第4項までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末の焼結体又は溶融体である立体造形物。
【0014】
6.立体造形用樹脂粉末を用いる立体造形物の作製方法であって、
第1項から第4項までのいずれか一項に記載の立体造形用樹脂粉末を用いて、粉末床溶融結合法により立体造形物を作製する立体造形物の作製方法。
【0015】
7.前記立体造形用樹脂粉末の薄層を形成する工程と、
前記形成された薄層にレーザー光を選択的に照射して、前記立体造形用樹脂粉末に含まれる樹脂粒子が焼結又は溶融結合してなる造形物層を形成する工程と、
前記薄層を形成する工程と、前記造形物層を形成する工程と、をこの順に複数回繰り返し、前記造形物層を積層する工程と、を備える第6項に記載の立体造形物の作製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、ポリプロピレン樹脂を使用し、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた立体造形用樹脂粉末、立体造形物及び立体造形物の作製方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
一般に、結晶性樹脂は結晶部分が大きくなればなるほど、結晶界面にかかる力が大きくなり脆くなる。そのため、強度も保ちつつ、靭性を上げるためには、結晶を微細化し界面を増やすことで力を分散させる必要があるが、単にポリプロピレン樹脂を粉末化しても、所望する微細化が困難で、十分な強度や靭性を得ることができないことが分かった。
そこで、この問題を解決すべく、検討する過程において、プロピレン重合体にエチレンを共重合させることで、所望の強度や靭性を得ることを見いだした。
すなわち、本発明の立体造形用樹脂粉末では、エチレン・プロピレン共重合体粒子を含有させ、当該エチレン・プロピレン共重合体粒子におけるエチレン含有モル比率や、体積平均粒径及びメルトフローレートを特定範囲とすることで、結晶を微細化することができ、その結果、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた、ポリプロピレン樹脂を用いた立体造形用樹脂粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における立体造形装置の構成を概略的に示す側面図
【
図2】本発明の一実施形態における立体造形装置の制御系の主要部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の立体造形用樹脂粉末は、エチレン・プロピレン共重合体粒子を含有し、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径が、5~200μmの範囲内であり、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子における、エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))が、0.001~0.04の範囲内であり、かつ、メルトフローレート(MFR)が、230℃において、3~40g/10minの範囲内である。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0019】
本発明の実施態様としては、融点が、100~160℃の範囲内であり、かつ、式(1)((融点温度-再結晶化温度)≧10℃)の関係を満たすことが、粉末積層造形法で造形物のゆがみを抑制するために必要な温度範囲である。
【0020】
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在することが、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子間に、当該個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子が配置され、結晶をより微細化することができ、強度を保ちつつ靭性を上げることができる点で好ましい。
【0021】
また、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在することが、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子間に、当該個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子が配置され、結晶をより微細化することができ、強度を保ちつつ靭性を上げることができる点で好ましい。
【0022】
本発明の立体造形物は、前記立体造形用樹脂粉末を用いて形成された立体造形物であって、前記立体造形用樹脂粉末の焼結体又は溶融体である。これにより、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた、実質的にポリプロピレン樹脂を用いた立体造形物を得ることができる。
【0023】
本発明の立体造形物の作製方法は、前記立体造形用樹脂粉末を用いて、粉末床溶融結合法により立体造形物を作製する。
また、本発明の立体造形物の作製方法は、前記立体造形用樹脂粉末の薄層を形成する工程と、前記形成された薄層にレーザー光を選択的に照射して、前記立体造形用樹脂粉末に含まれる樹脂粒子が焼結又は溶融結合してなる造形物層を形成する工程と、前記薄層を形成する工程と、前記造形物層を形成する工程と、をこの順に複数回繰り返し、前記造形物層を積層する工程と、を備えることが好ましい。これにより、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた、実質的にポリプロピレン樹脂を用いた立体造形物を得ることができ、また、造形精度も高く、かつ積層された層間の接着強度も高い立体造形物とすることができる。
【0024】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0025】
[本発明の立体造形用樹脂粉末]
本発明の立体造形用樹脂粉末は、エチレン・プロピレン共重合体粒子を含有し、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径が、5~200μmの範囲内であり、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子における、エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))が、0.001~0.04の範囲内であり、かつ、メルトフローレート(MFR)が、230℃において、3~40g/10minの範囲内である。なお、本発明の立体造形用樹脂粉末には、本発明の効果を阻害しない範囲内において他種の樹脂粒子を含んでもよい。
【0026】
[エチレン・プロピレン共重合体粒子]
<体積平均粒径>
本発明に係るエチレン・プロピレン共重合体粒子(以下、共重合体粒子ともいう。)の体積平均粒径は、5~200μmの範囲内である。より好ましくは、20~100μmの範囲内である。
【0027】
(測定法)
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径(Mv)は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて、粉末ごとの粒子屈折率を使用し、溶媒は使用せず乾式(大気)法にて測定した。粒子屈折率は、1.5と設定した。測定手順としては、粒子0.1gを界面活性剤(エマールE-27C 花王社製)0.2gと水30mL加え、10分超音波分散を行った。
【0028】
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径は、例えば、エチレン・プロピレン共重合体粒子を、機械的粉砕法又は湿式粉砕法などの粉砕法による粉砕処理や、粒子球形化処理を行うことにより調整することができる。
【0029】
<エチレン含有モル比率>
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子における、エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))は、0.001~0.04の範囲内であり、より好ましくは0.05~0.03の範囲内である。
前記エチレン含有モル比率を前記範囲内とするための手段としては、後述するが、共重合体粒子の合成時における、気相重合器内のガス組成(エチレン含有モル比率)を調整することにより制御することができる。
【0030】
(測定法)
前記共重合体粒子中のエチレン含有モル比率を測定する方法としては、前記共重合体粒子である試料100mgを重ベンゼンと重o-ジクロロベンゼンの混合液(重ベンゼン/重o-ジクロロベンゼン=3/1)に入れて、120℃で溶解させた後、120℃で13C-NMR測定(定量モード)を行う。
測定装置:JEOL ECZ400
測定周波数:13C 100MHz
パルス条件:X_90_width = 11.76μs
積算回数:1024回
【0031】
<メルトフローレート>
本発明の立体造形用樹脂粉末のメルトフローレート(MFR)が、230℃において3~40g/10minの範囲内であり、より好ましくは5~35g/10minの範囲内である。
【0032】
(測定法)
前記メルトフローレートは、JIS K7210 A法に準拠して、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した値である。
【0033】
メルトフローレートを前記範囲内とするための手段としては、前記エチレン含有モル比率と前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の重量平均分子量(Mw)とで制御することができる。
前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の重量平均分子量としては、30~40万の範囲内が好ましく、30~35万の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により、ポリスチレン(PS)換算分子量分布から算出した。
分析方法の条件としては、下記のとおりである。
装置:Agilent製 PL-GPS220
カラム:Agilent PLgel Olexis×2本+Guard
溶解液:o-ジクロロベンゼン
温度:145℃
濃度:0.1wt/vol%
流速:1.0mL/min
前処理:熱時ろ過(孔径0.5μmフィルター)
溶解性:完全溶解
検出器:示差屈折計(RI)
【0035】
<融点>
本発明に係る立体造形用樹脂粉末の融点は、100~160℃の範囲内であり、かつ、下記式(1)の関係を満たすことが、粉末積層造形方式において必須である。
式(1):(融点温度-再結晶化温度)≧10℃
前記融点は、120~150℃の範囲内であることがより好ましい。また、(融点温度-再結晶化温度)≧15℃であることがより好ましい。
【0036】
(測定法)
前記融点及び前記再結晶化温度は、下記のとおりに測定した。
ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温させて、吸熱ピークを測定した。融点は、吸熱ピーク温度である。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、再結晶ピークを測定した。再結晶化温度は、発熱ピーク温度である。
【0037】
<個数平均粒径>
本発明の立体造形用樹脂粉末は、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在することが好ましい。すなわち、個数平均粒径(Mn)を有する粒子数をM1とし、前記個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子数をM2とした場合、M1/M2が0.5以下であることが好ましい。
また、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子が、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数に対して同数以上存在することが好ましい。すなわち、個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子数をM3とした場合、M1/M3が0.5以下であることが好ましい。
これにより、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子間に、当該個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍又は0.41倍の平均粒径を有する粒子が配置され、結晶をより微細化することができ、強度を保ちつつ靭性を上げることができる。
【0038】
(測定法)
前記共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて、粉末ごとの粒子屈折率を使用し、溶媒は使用せず乾式(大気)法にて測定した。粒子屈折率は、1.5と設定した。
【0039】
[立体造形用樹脂粉末の作製]
本発明の立体造形用樹脂粉末は、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子を合成した後、当該エチレン・プロピレン共重合体粒子を、機械的粉砕法又は湿式粉砕法などの粉砕法による粉砕処理や、粒子球形化処理を行うことにより作製することができる。
【0040】
<エチレン・プロピレン共重合体の合成>
本発明の立体造形用樹脂粉末に含有されるエチレン・プロピレン共重合体は、例えば、下記の固体状チタン触媒成分(I)と有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合用触媒にて、プロピレンを重合し、さらにプロピレンとエチレンを共重合させることにより合成することができる。
以下、触媒成分(I)及び(II)と重合方法について説明する。
【0041】
(固体状チタン触媒成分(I))
固体状チタン触媒成分(I)は、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び必要に応じて電子供与体を含むことが好ましい。この固体状チタン触媒成分(I)は公知の固体状チタン触媒成分を制限無く用いることができる。
固体状チタン触媒成分(I)の製造方法の例を以下に示す。
【0042】
本発明に係る固体状チタン触媒成分(I)の調製には、マグネシウム化合物及びチタン化合物が用いられることが好ましい。
前記マグネシウム化合物としては、具体的には、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、フェノキシ塩化マグネシウム等のアルコキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウム等のアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウム等のアリーロキシマグネシウム;ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウムのカルボン酸塩等の公知のマグネシウム化合物を挙げることができる。
【0043】
これらのマグネシウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのマグネシウム化合物は、他の金属との錯化合物、複化合物又は他の金属化合物との混合物であってもよい。
【0044】
これらの中ではハロゲンを含有するマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン化マグネシウム、特に塩化マグネシウムが好ましく用いられる。他に、エトキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウムも好ましく用いられる。また、該マグネシウム化合物は、他の物質から誘導されたもの、例えば、グリニャール試薬のような有機マグネシウム化合物とハロゲン化チタンやハロゲン化ケイ素、ハロゲン化アルコール等とを接触させて得られるものであってもよい。
【0045】
前記チタン化合物としては、例えば、下記式で示される4価のチタン化合物を挙げることができる。
Ti(OR)gX4-g
[式中、Rは炭化水素基を表す。Xはハロゲン原子を表し、gは0≦g≦4である。]
【0046】
より具体的には、TiCl4、TiBr4等のテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(O-n-C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(O-isoC4H9)Br3等のトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2等のジハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(O-n-C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Br等のモノハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(OC4H9)4、Ti(O-2-エチルヘキシル)4等のテトラアルコキシチタン等を挙げることができる。
【0047】
これらの中で好ましいものは、テトラハロゲン化チタンであり、特に四塩化チタンが好ましい。これらのチタン化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記のマグネシウム化合物及びチタン化合物としては、例えば、特開昭57-63310号公報、特開平5-170843号公報等に詳細に記載されている化合物も挙げることができる。
【0049】
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)の調製の好ましい具体例としては、下記(P-1)~(P-4)の方法を挙げることができる。
(P-1):マグネシウム化合物及びアルコール等の電子供与体成分(a)からなる固体状付加物と、後述する電子供与体成分(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させる方法。
(P-2):マグネシウム化合物及び電子供与体成分(a)からなる固体状付加物と、電子供与体成分(b)と、液状状態のチタン化合物とを、複数回に分けて接触させる方法。
(P-3):マグネシウム化合物及び電子供与体成分(a)からなる固体状付加物と、電子供与体成分(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させ、かつ複数回に分けて接触させる方法。
(P-4):マグネシウム化合物及び電子供与体成分(a)からなる液状状態のマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、電子供与体成分(b)とを接触させる方法。
【0050】
好ましい反応温度は、-30~150℃、より好ましくは-25~130℃、さらに好ましくは-25~120℃の範囲である。
また、上記の固体状チタン触媒成分の製造には、必要に応じて公知の媒体の存在下に行うこともできる。上記の媒体としては、やや極性を有するトルエン等の芳香族炭化水素やヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の公知の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素化合物が挙げられるが、これらの中では脂肪族炭化水素が好ましい例として挙げられる。
【0051】
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物の形成に用いられる電子供与体成分(a)としては、室温~300℃程度の温度範囲で上記のマグネシウム化合物を可溶化できる公知の化合物が好ましく、例えば、アルコール、アルデヒド、アミン、カルボン酸及びこれらの混合物等が好ましい。これらの化合物としては、例えば、特開昭57-63310号公報、特開平5-170843号公報に詳細に記載されている化合物を挙げることができる。
【0052】
上記のマグネシウム化合物可溶化能を有するアルコールとして、より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、2-メチルペンタノール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール等の脂肪族アルコール;シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等の脂環族アルコール;ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール等の芳香族アルコール;n-ブチルセルソルブ等のアルコキシ基を有する脂肪族アルコール等を挙げることができる。
【0053】
カルボン酸としては、カプリル酸、2-エチルヘキサノイック酸等の炭素数7以上の有機カルボン酸類を挙げることができる。アルデヒドとしては、カプリックアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド等の炭素数7以上のアルデヒド類を挙げることができる。
【0054】
アミンとしては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の炭素数6以上のアミン類を挙げることができる。
【0055】
上記の電子供与体成分(a)としては、上記のアルコール類が好ましく、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、デカノール等が好ましい。
【0056】
得られる固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物のマグネシウムと電子供与体成分(a)との組成比は、用いる化合物の種類によって異なるので一概には規定できないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム1モルに対して、電子供与体成分(a)は、好ましくは2モル以上、より好ましくは2.3モル以上、さらに好ましくは2.7モル以上、5モル以下の範囲である。
【0057】
本発明に用いられる固体状チタン触媒成分(I)に必要に応じて用いられる電子供与体の特に好ましい例としては、芳香族カルボン酸エステル及び/又は複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「電子供与体成分(b)」ともいう。)が挙げられる。
【0058】
この電子供与体成分(b)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、例えば、特開平5-170843号公報や特開2001-354714号公報等に記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0059】
この芳香族カルボン酸エステルとしては、具体的には安息香酸エステルやトルイル酸エステル等の芳香族カルボン酸モノエステルの他、フタル酸エステル類等の芳香族多価カルボン酸エステルが挙げられる。これらの中でも芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n-ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、フタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0060】
また、ポリエーテル化合物としては、より具体的には以下の式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0061】
【0062】
上記式(1)において、mは1≦m≦10の整数、より好ましくは3≦m≦10の整数であり、R11~R36は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素、水素、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、硫黄、リン、ホウ素及びケイ素から選択される少なくとも1種の元素を有する置換基である。
【0063】
mが2以上である場合、複数個存在するR11及びR12は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。任意のR11~R36、好ましくはR11及びR12は共同してベンゼン環以外の環を形成していてもよい。
【0064】
このような化合物の一部の具体例としては、2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-クミル-1,3-ジメトキシプロパン等の1置換ジアルコキシプロパン類;2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2-メチル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジエトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジブトキシプロパン、2,2-ジ-s-ブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジネオペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-シクロヘキシルメチル-1,3-ジメトキシプロパン等の2置換ジアルコキシプロパン類;2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、2,3-ジシクロヘキシル-1,4-ジエトキシブタン、2,3-ジイソプロピル-1,4-ジエトキシブタン、2,4-ジフェニル-1,5-ジメトキシペンタン、2,5-ジフェニル-1,5-ジメトキシヘキサン、2,4-ジイソプロピル-1,5-ジメトキシペンタン、2,4-ジイソブチル-1,5-ジメトキシペンタン、2,4-ジイソアミル-1,5-ジメトキシペンタン等のジアルコキシアルカン類;2-メチル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-エトキシメチル-1,3-ジエトキシプロパン、2-シクロヘキシル-2-メトキシメチル-1,3-ジメトキシプロパン等のトリアルコキシアルカン類等を例示することができる。
【0065】
これらのうち、1,3-ジエーテル類が好ましく、特に、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジイソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ジシクロヘキシル-1,3-ジメトキシプロパン、2,2-ビス(シクロヘキシルメチル)1,3-ジメトキシプロパンが好ましい。
【0066】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明で用いられる固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2~100、好ましくは4~90であり、電子供与体成分(a)や電子供与体成分(b)は、電子供与体成分(a)/チタン原子(モル比)は0~100、好ましくは0~10であり、電子供与体成分(b)/チタン原子(モル比)は0~100、好ましくは0~10である。
【0068】
マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2~100、好ましくは4~50である。
【0069】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、電子供与体成分(b)を使用する以外は、例えば、EP585869A1(欧州特許出願公開第0585869号明細書)や特開平5-170843号公報等に記載の条件を好ましく用いることができる。
【0070】
次に、周期表の第1族、第2族及び第13族から選ばれる金属元素を含む有機金属化合物触媒成分(II)について説明する。
【0071】
(有機金属化合物触媒成分(II))
有機金属化合物触媒成分(II)としては、第13族金属を含む化合物、例えば、有機アルミニウム化合物、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物等を用いることができる。これらの中でも有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0072】
有機金属化合物触媒成分(II)としては具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物触媒成分を好ましい例として挙げることができる。
【0073】
本発明の目的を損なわない限り、上記電子供与体成分(a)や電子供与体成分(b)の他、公知の電子供与体成分(c)を組み合わせて用いてもよい。
このような電子供与体成分(c)として好ましくは、有機ケイ素化合物が挙げられる。この有機ケイ素化合物としては、例えば下記式で表される化合物を例示できる。
RnSi(OR′)4-n
[式中、R及びR′は炭化水素基を表す。nは0<n<4の整数である。]
【0074】
上記式で示される有機ケイ素化合物としては、具体的には、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシラン等が用いられる。
【0075】
このうちビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが好ましく用いられる。
【0076】
また、国際公開第2004/016662号パンフレットに記載されている下記式で表されるシラン化合物も前記有機ケイ素化合物の好ましい例である。
Si(ORa)3(NRbRc)
【0077】
式中、Raは、炭素数1~6の炭化水素基であり、Raとしては、炭素数1~6の不飽和又は飽和脂肪族炭化水素基等が挙げられ、特に好ましくは炭素数2~6の炭化水素基が挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0078】
Rbは、炭素数1~12の炭化水素基又は水素であり、Rbとしては、炭素数1~12の不飽和又は飽和脂肪族炭化水素基又は水素等が挙げられる。具体例としては水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0079】
Rcは、炭素数1~12の炭化水素基であり、Rcとしては、炭素数1~12の不飽和又は飽和脂肪族炭化水素基又は水素等が挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0080】
上記式で表される化合物の具体例としては、ジメチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリn-プロポキシシラン、ジn-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルn-プロピルアミノトリエトキシシラン、t-ブチルアミノトリエトキシシラン、エチルn-プロピルアミノトリエトキシシラン、エチルiso-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルエチルアミノトリエトキシシランが挙げられる。
【0081】
また、有機ケイ素化合物の他の例としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
RNSi(ORa)3
式中、RNは、環状アミノ基を表す。当該環状アミノ基として、例えば、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基、1,2,3,4-テトラヒドロキノリノ基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリノ基、オクタメチレンイミノ基等が挙げられる。
【0082】
上記式で表される化合物として具体的には、(パーヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4-テトラヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、(1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、オクタメチレンイミノトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの有機ケイ素化合物は、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0083】
エチレン・プロピレン共重合体は、上述したオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンを重合し、次いで、プロピレンとエチレンを共重合させるか、又は予備重合させて得られる予備重合触媒の存在下で、プロピレンを重合し、次いで、プロピレンとエチレンの共重合を行うこと等の方法で合成することができる。
【0084】
予備重合は、オレフィン重合用触媒1g当り通常0.1~1000g、好ましくは0.3~500g、特に好ましくは1~200gの量でオレフィンを予備重合させることにより行われる。
予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりも高い濃度の触媒を用いることができる。
予備重合における固体状チタン触媒成分(I)の濃度は、液状媒体1リットル当り、チタン原子換算で、通常約0.001~200ミリモル、好ましくは約0.01~50ミリモル、特に好ましくは0.1~20ミリモルの範囲である。
【0085】
予備重合における有機金属化合物触媒成分(II)の量は、固体状チタン触媒成分(I)1g当り通常0.1~1000g、好ましくは0.3~500gの重合体が生成するような量であればよく、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常約0.1~300モル、好ましくは約0.5~100モル、特に好ましくは1~50モルの量である。
【0086】
予備重合では、必要に応じて前記電子供与体成分等を用いることもでき、この際これらの成分は、前記固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常0.1~50モル、好ましくは0.5~30モル、さらに好ましくは1~10モルの量で用いられる。
【0087】
予備重合は、不活性炭化水素媒体にオレフィン及び上記の触媒成分を加え、温和な条件下に行うことができる。
この場合、用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;又はこれらの混合物等を挙げることができる。
これらの不活性炭化水素媒体のうち、特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。このように、不活性炭化水素媒体を用いる場合、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
【0088】
一方、オレフィン自体を溶媒として予備重合を行うこともでき、また、実質的に溶媒のない状態で予備重合することもできる。この場合には、予備重合を連続的に行うのが好ましい。
【0089】
予備重合で使用されるオレフィンは、後述する本重合で使用されるオレフィンと同一であっても、異なっていてもよいが、プロピレンであることが好ましい。
予備重合の際の温度は、通常-20~+100℃であり、好ましくは-20~+80℃、さらに好ましくは0~+40℃の範囲である。
【0090】
次に、予備重合を経由した後に、又は予備重合を経由することなく実施される本重合について説明する。
本重合は、プロピレン重合体成分を製造する工程及びエチレン・プロピレン共重合体ゴム成分を製造する工程に分けられる。
予備重合及び本重合は、バルク重合法、溶解重合、懸濁重合等の液相重合法又は気相重合法のいずれにおいても実施できる。プロピレン重合体成分を製造する工程として好ましいのは、バルク重合や懸濁重合等の液相重合又は気相重合法である。また、プロピレン・エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程として好ましいのは、バルク重合や懸濁重合等の液相重合又は気相重合法であり、より好ましいのは、気相重合法である。
【0091】
本重合がスラリー重合の反応形態を採る場合、反応溶媒としては、上述の予備重合時に用いられる不活性炭化水素を用いることもできるし、反応温度・圧力において液体であるオレフィンを用いることもできる。
【0092】
本重合において、固体状チタン触媒成分(I)は、重合容積1リットル当りチタン原子に換算して、通常は約0.0001~0.5ミリモル、好ましくは約0.005~0.1ミリモルの量で用いられる。また、有機金属化合物触媒成分(II)は、重合系中の予備重合触媒成分中のチタン原子1モルに対し、通常約1~2000モル、好ましくは約5~500モルとなるような量で用いられる。前記電子供与体成分は、使用される場合であれば、有機金属化合物触媒成分(II)1モルに対して、0.001~50モル、好ましくは0.01~30モル、特に好ましくは0.05~20モルの量で用いられる。
【0093】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節する(下げる)ことができ、メルトフローレートの大きい重合体が得られる。分子量を調整するために必要な水素量は、使用する製造プロセスの種類、重合温度、圧力によって異なるため、適宜調整すればよい。
プロピレン重合体成分を製造する工程では、重合温度、水素量を調整してMFRを調整できる。また、エチレン・プロピレン共重合体ゴム成分を製造する工程においても、重合温度、圧力、水素量を調整して、極限粘度を調整することができる。
【0094】
本重合において、オレフィンの重合温度は、通常、約0~200℃、好ましくは約30~100℃、より好ましくは50~90℃である。圧力(ゲージ圧)は、通常、常圧~100kgf/cm 2(9.8MPa)、好ましくは約2~50kgf/cm 2(0.20~4.9MPa)に設定される。
エチレン・プロピレン共重合体の製造方法においては、重合を、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに反応器の形状は、管状型、槽型のいずれも使用できる。さらに重合を、反応条件を変えて二段以上に分けて行うこともできる。この場合、管状と槽型を組み合わせることができる。
【0095】
また、本発明に係るエチレン・プロピレン共重合体を得るために、ガス組成のエチレン含有モル比率(「エチレン/(エチレン+プロピレン)」)を制御している。
前記エチレン含有モル比率(エチレン/(エチレン+プロピレン))は、0.001~0.04、好ましくは0.005~0.035、より好ましくは0.07~0.03の範囲内で制御して用いることが好ましい。
【0096】
前記で得られたエチレン・プロピレン共重合体粒子を、機械的粉砕法又は湿式粉砕法などの粉砕法による粉砕処理や、粒子球形化処理を行うことにより立体造形用樹脂粉末を作製する。このような処理により、エチレン・プロピレン共重合体粒子の体積平均粒径を5~200μmの範囲内の立体造形用樹脂粉末を作製することができる。
【0097】
<機械的粉砕法>
機械的粉砕法では、作製したエチレン・プロピレン共重合体粒子を機械的に粉砕して、目的の平均粒径を有する粒子を作製する。機械的粉砕法によれば、以下の方法で粒子を作製することができる。
エチレン・プロピレン共重合体粒子は、凍結させてから粉砕してもよいし、常温のままで粉砕してもよい。機械的粉砕法は、熱可塑性樹脂を粉砕するための公知の装置によって行うことができる。このような装置の例には、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル、インペラーミル、カッターミル、ピンミル及び2軸クラッシャーなどが含まれる。
【0098】
なお、機械的粉砕法では、粉砕時にエチレン・プロピレン共重合体粒子から発せられる摩擦熱によって、エチレン・プロピレン共重合体粒子同士が融着し、所望の粒径の粒子が得られない場合がある。そのため、液体窒素等を用いてエチレン・プロピレン共重合体粒子を冷却し、かつ脆化させたうえで、破砕することが好ましい。
機械的粉砕法によれば、エチレン・プロピレン共重合体粒子に対する溶媒の量、又は粉砕の方法もしくは速度などを適宜調節することで、作製される粒子の平均粒径を所望の範囲(体積平均粒径5~200μm)に調整することができる。
【0099】
粉砕による所望の粒径は、装置の運転時間で決まり、5~45時間の範囲内であることが好ましい。
具体的には、エチレン・プロピレン共重合体粒子を液体窒素で-150℃程度に冷却して、上記粉砕装置により体積平均粒径5~200μmの範囲内となるように粉砕することが好ましい。
【0100】
<湿式粉砕法>
湿式粉砕法では、エチレン・プロピレン共重合体粒子を溶剤に加熱撹拌して溶解させ、その溶解で得た樹脂溶液を撹拌しながら冷却し、その冷却で得た樹脂スラリーを撹拌しながら真空乾燥することで粉砕して、目的の平均粒径を有する粒子を作製する。具体的には、特開平3-12428号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0101】
<粒子球形化処理>
粒子球形化処理としては、機械的衝撃力を加える手段があり、例えばクリプトロンシステム(川崎重工社製)や、ターボミル(ターボ工業社製)等の機械衝撃式粉砕機を用いる方法が挙げられる。
また、メカノフージョンシステム(ホソカワミクロン社製)やハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)等の装置のように、高速回転する羽根によりエチレン・ポリプロピレン共重合体粒子をケーシングの内側に遠心力により押しつけ、圧縮力、摩擦力等の力によりエチレン・ポリプロピレン共重合体粒子に機械的衝撃力を加える方法が挙げられる。
【0102】
<その他の材料>
本発明の立体造形用樹脂粉末は、後述するレーザー照射による溶融結合及び薄層を形成するときの前記エチレン・プロピレン共重合体粒子の密な充填を顕著に妨げず、立体造形物の精度を顕著に低下させない範囲において、レーザー吸収材やフローエージェントなどの、その他の材料をさらに含有してもよい。
【0103】
(レーザー吸収剤)
レーザーの光エネルギーをより効率的に熱エネルギーに変換する観点から、立体造形用樹脂粉末は、レーザー吸収剤をさらに含んでもよい。レーザー吸収剤は、使用する波長のレーザーを吸収して熱を発する材料であればよい。このようなレーザー吸収剤の例には、カーボン粉末、ナイロン樹脂粉末、顔料及び染料が含まれる。これらのレーザー吸収剤は、一種類のみ用いても、二種類を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
レーザー吸収剤の量は、前記共重合体粒子の溶融及び結合が容易になる範囲で適宜設定することができ、例えば、立体造形用樹脂粉末の全質量に対して、0質量%より多く3質量%未満とすることができる。
【0105】
(フローエージェント)
立体造形用樹脂粉末の流動性をより向上させ、立体造形物の作製時における立体造形用粉末の取り扱いを容易にする観点から、立体造形用樹脂粉末は、フローエージェントをさらに含んでもよい。
フローエージェントは、摩擦係数が小さく、自己潤滑性を有する材料であればよい。このようなフローエージェントの例には、二酸化ケイ素及び窒化ホウ素が含まれる。これらのフローエージェントは、一種類のみ用いても、二種類を組み合わせて用いてもよい。上記立体造形用樹脂粉末は、フローエージェントによって流動性が高まっても、前記共重合体粒子が帯電しにくく、薄膜を形成するときに共重合体粒子をさらに密に充填させることができる。
【0106】
フローエージェントの量は、立体造形用樹脂粉末の流動性がより向上し、かつ、前記共重合体粒子の溶融結合が十分に生じる範囲で適宜設定することができ、例えば、立体造形用樹脂粉末の全質量に対して、0質量%より多く2質量%未満とすることができる。
【0107】
本発明の立体造形用樹脂粉末は、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子を合成し、必要に応じて当該共重合体粒子以外の材料と撹拌及び混合して、製造することができる。
【0108】
[立体造形物]
本発明の立体造形物は、立体造形用樹脂粉末を用いて形成された立体造形物であって、前記立体造形用樹脂粉末の焼結体又は溶融体である。
また、本発明の立体造形物は、前記した立体造形用樹脂粉末を用いて、後述する粉末床溶融結合法(PBF法)により作製することができる。
【0109】
[立体造形物の作製方法]
本発明の立体造形物の作製方法は、前記立体造形用樹脂粉末を用いる他は、通常の粉末床溶融結合法と同様に行うことができる。
具体的に、本発明の立体造形物の作製方法は、(1)前記立体造形用樹脂粉末の薄層を形成する工程と、(2)予備加熱された薄層にレーザー光を選択的に照射して、前記立体造形用樹脂粉末に含まれるエチレン・プロピレン共重合体粒子が溶融結合してなる造形物層を形成する工程と、(3)工程(1)及び工程(2)をこの順に複数回繰り返し、前記造形物層を積層する工程、とを含む。
工程(2)により、立体造形物を構成する造形物層の一つが形成され、さらに工程(3)で工程(1)及び工程(2)を繰り返し行うことで、立体造形物の次の層が積層されていき、最終的な立体造形物が作製される。本発明の立体造形物の作製方法は、(4)形成された立体造形用樹脂粉末の薄層を予備加熱する工程を、少なくとも工程(2)よりも以前にさらに含んでいてもよい。
【0110】
<立体造形用樹脂粉末からなる薄層を形成する工程(工程(1))>
本工程では、前記立体造形用樹脂粉末の薄層を形成する。例えば、粉末供給部から供給された上記立体造形用樹脂粉末を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている立体造形用樹脂粉末又はすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。
【0111】
薄層の厚さは、造形物層の厚さに準じて設定できる。薄層の厚さは、作製しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01~0.30mmの範囲内である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、次の層を形成するためのレーザー照射によって下の層の前記共重合体粒子が溶融結合したり、下の層の造形層が再溶融したりすることを防ぐことができる。薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、レーザーのエネルギーを薄層の下部まで伝導させて、薄層を構成する立体造形用樹脂粉末に含まれる前記共重合体粒子を、厚さ方向の全体にわたって十分に溶融結合させることができる。
上記観点からは、薄層の厚さは0.01~0.10mmの範囲内であることがより好ましい。また、薄層の厚さ方向の全体にわたってより十分に前記共重合体粒子を溶融結合させ、積層間の割れをより生じにくくする観点からは、薄層の厚さは、後述するレーザーのビームスポット径との差が0.10mm以内になるよう設定することが好ましい。
【0112】
<エチレン・プロピレン共重合体粒子が溶融結合してなる造形物層を形成する工程(工程(2))>
本工程では、形成された薄層のうち、造形物層を形成すべき位置にレーザーを選択的に照射し、照射された位置の前記共重合体粒子を溶融結合させる。これにより、隣接する共重合体粒子が溶融し合って溶融結合体を形成し、造形物層となる。このとき、レーザーのエネルギーを受け取った共重合体粒子は、すでに形成された層とも溶融結合するため、隣り合う層間の接着も生じる。
【0113】
レーザーの波長は、前記共重合体粒子の構成分子の振動、回転等に必要なエネルギーに相当する波長が吸収する範囲内で設定すればよい。このとき、レーザーの波長と、吸収率が最も高くなる波長との差が小さくなるようにすることが好ましいが、樹脂は様々な波長域の光を吸収し得るので、CO2レーザー等の波長帯域の広いレーザーを用いることが好ましい。例えば、レーザーの波長は、0.8~12μmの範囲内であることが好ましい。
【0114】
例えば、レーザーの出力時のパワーは、後述するレーザーの走査速度において、上記共重合体粒子が十分に溶融結合する範囲内で設定すればよく、具体的には、10~100Wの範囲内とすることができる。レーザーのエネルギーを低くして、製造コストを低くし、かつ、製造装置の構成を簡易なものにする観点からは、レーザーの出力時のパワーは60W以下であることが好ましく、40W以下であることがより好ましい。
【0115】
レーザーの走査速度は、作製コストを高めず、かつ、装置構成を過剰に複雑にしない範囲内で設定すればよい。具体的には、20000mm/秒の範囲内とすることが好ましく、1000~18000mm/秒の範囲内とすることがより好ましく、2000~15000mm/秒の範囲内とすることがさらに好ましく、3~80mm/秒の範囲内とすることがさらに好ましく、3~50mm/秒の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0116】
レーザーのビーム径は、作製しようとする立体造形物の精度に応じて適宜設定することができる。
【0117】
<形成された立体造形用樹脂粉末の薄層を積層する工程(工程(3))>
本工程では、工程(1)及び工程(2)を繰り返して、工程(2)によって形成される造形物層を積層する。造形物層を積層していくことで、所望の立体造形物が作製される。
【0118】
<形成された立体造形用樹脂粉末の薄層を予備加熱する工程(工程(4))>
本工程では、工程(2)よりも以前に、立体造形用樹脂粉末による薄層を予備加熱する。例えば、ヒーター等により、薄層の表面の温度(待機温度)を前記共重合体粒子の融点よりも15℃以下、好ましくは5℃以下に加熱することができる。
【0119】
<その他>
溶融結合中の共重合体粒子の酸化等による、立体造形物の強度の低下を防ぐ観点からは、少なくとも工程(2)は減圧下又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。減圧するときの圧力は10-2Pa以下であることが好ましく、10-3Pa以下であることがより好ましい。
本発明で使用することができる不活性ガスの例には、窒素ガス及び希ガスが含まれる。これらの不活性ガスのうち、入手の容易さの観点からは、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス又はアルゴン(Ar)ガスが好ましい。
作製工程を簡略化する観点からは、工程(1)~工程(3)のすべて(工程(4)を含むときは、工程(1)~工程(4)のすべて)を減圧下又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0120】
<立体造形装置>
本発明に係る立体造形装置は、前記立体造形用樹脂粉末を用いる他は、粉末床溶融結合法による立体造形物の作製を行う公知の装置と同様の構成とし得る。
具体的には、前記立体造形装置100は、その構成を概略的に示す側面図である
図1に記載のように、開口内に位置する造形ステージ110、前記エチレン・プロピレン共重合体粒子を含む立体造形用樹脂粉末の薄膜を上記造形ステージ上に形成する薄膜形成部120、薄膜にレーザーを照射して、上記共重合体粒子が溶融結合してなる造形物層を形成するレーザー照射部130、及び鉛直方向の位置を可変に造形ステージ110を支持するステージ支持部140、上記各部を支持するベース145を備える。
【0121】
立体造形装置100は、その制御系の主要部を示す
図2に記載のように、薄膜形成部120、レーザー照射部130及びステージ支持部140を制御して、上記造形物層を繰り返し形成させて積層させる制御部150、各種情報を表示するための表示部160、ユーザーからの指示を受け付けるためのポインティングデバイス等を含む操作部170、制御部150が実行する制御プログラムを含む各種の情報を記憶する記憶部180、ならびに外部機器との間で立体造形データ等の各種情報を送受信するためのインターフェース等を含むデータ入力部190を備えてもよい。立体造形装置100には、立体造形用のデータを生成するためのコンピューター装置200が接続されてもよい。
【0122】
造形ステージ110には、薄膜形成部120による薄層の形成及びレーザー照射部130によるレーザーの照射によって造形材層が形成され、この造形材層が積層されることにより、立体造形物が造形される。
【0123】
薄膜形成部120は、例えば、造形ステージ110が昇降する開口の縁部と水平方向にほぼ同一平面上にその縁部がある開口、開口から鉛直方向下方に延在する粉末材料収納部、及び粉末材料収納部の底部に設けられ開口内を昇降する供給ピストンを備える粉末供給部121、ならびに供給された粉末材料を造形ステージ110上に平らに敷き詰めて、粉末材料の薄層を形成するリコータ122aを備えた構成とすることができる。
【0124】
なお、粉末供給部121は、造形ステージ110に対して鉛直方向上方に設けられた粉末材料収納部、及びノズルを備えて、上記造形ステージと水平方向に同一の平面上に、立体造形用樹脂粉末を吐出する構成としてもよい。
【0125】
レーザー照射部130は、レーザー光源131及びガルバノミラー132aを含む。レーザー照射部130は、レーザーの焦点距離を薄層の表面にあわせるためのレンズ(不図示)を備えていてもよい。 レーザー光源131は、上記波長のレーザーを、上記出力で出射する光源であればよい。レーザー光源131の例には、YAGレーザー光源、ファイバレーザー光源及びCO2レーザー光源が含まれる。ガルバノミラー132aは、レーザー光源131から出射されたレーザーを反射してレーザーをX方向に走査するXミラー及びY方向に走査するYミラーから構成されてもよい。
【0126】
ステージ支持部140は、造形ステージ110を、その鉛直方向の位置を可変に支持する。すなわち、造形ステージ110は、ステージ支持部140によって鉛直方向に精密に移動可能に構成されている。ステージ支持部140としては種々の構成を採用できるが、例えば、造形ステージ110を保持する保持部材と、この保持部材を鉛直方向に案内するガイド部材と、ガイド部材に設けられたねじ孔に係合するボールねじ等で構成することができる。
【0127】
制御部150は、立体造形物の造形動作中、立体造形装置100全体の動作を制御する。
【0128】
また、制御部150は、中央処理装置等のハードウェアプロセッサを含んでおり、例えばデータ入力部190がコンピューター装置200から取得した立体造形データを、造形材層の積層方向について薄く切った複数のスライスデータに変換するよう構成されてもよい。スライスデータは、立体造形物を造形するための各造形材層の造形データである。スライスデータの厚さ、すなわち造形材層の厚さは、造形材層の一層分の厚さに応じた距離(積層ピッチ)と一致する。
【0129】
表示部160は、例えば液晶ディスプレイ、モニターとすることができる。
【0130】
操作部170は、例えばキーボードやマウスなどのポインティングデバイスを含むものとすることができ、テンキー、実行キー、スタートキー等の各種操作キーを備えてもよい。
【0131】
記憶部180は、例えばROM、RAM、磁気ディスク、HDD、SSD等の各種の記憶媒体を含むものとすることができる。
【0132】
立体造形装置100は、制御部150の制御を受けて、装置内を減圧する、減圧ポンプなどの減圧部(不図示)、又は、制御部150の制御を受けて、不活性ガスを装置内に供給する、不活性ガス供給部(不図示)を備えていてもよい。また、立体造形装置100は、制御部150の制御を受けて、装置内、特には立体造形用樹脂粉末による薄層の上面を加熱するヒーター(不図示)を備えていてもよい。
【0133】
<立体造形装置100を用いた立体造形の例>
制御部150は、データ入力部190がコンピューター装置200から取得した立体造形データを、造形材層の積層方向について薄く切った複数のスライスデータに変換する。その後、制御部150は、立体造形装置100における以下の動作の制御を行う。
【0134】
粉末供給部121は、制御部150から出力された供給情報に従って、モーター及び駆動機構(いずれも不図示)を駆動し、供給ピストンを鉛直方向上方(図中矢印方向)に移動させ、上記造形ステージと水平方向同一平面上に、立体造形用樹脂粉末を押し出す。
【0135】
その後、リコータ駆動部122は、制御部150から出力された薄膜形成情報に従って水平方向(図中矢印方向)にリコータ122aを移動して、立体造形用樹脂粉末を造形ステージ110に運搬し、かつ、薄層の厚さが造形物層の1層分の厚さとなるように粉末材料を押圧する。
【0136】
その後、レーザー照射部130は、制御部150から出力されたレーザー照射情報に従って、薄膜上の、各スライスデータにおける立体造形物を構成する領域に適合して、レーザー光源131からレーザーを出射し、ガルバノミラー駆動部132によりガルバノミラー132aを駆動してレーザーを走査する。レーザーの照射によって立体造形用樹脂粉末に含まれる前記エチレン・プロピレン共重合体粒子が溶融結合し、造形物層が形成される。
【0137】
その後、ステージ支持部140は、制御部150から出力された位置制御情報に従って、モーター及び駆動機構(いずれも不図示)を駆動し、造形ステージ110を、積層ピッチだけ鉛直方向下方(図中矢印方向)に移動する。
【0138】
表示部160は、必要に応じて、制御部150の制御を受けて、ユーザーに認識させるべき各種の情報やメッセージを表示する。操作部170は、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、その入力操作に応じた操作信号を制御部150に出力する。例えば、形成される仮想の立体造形物を表示部160に表示して所望の形状が形成されるか否かを確認し、所望の形状が形成されない場合は、操作部170から修正を加えてもよい。
【0139】
制御部150は、必要に応じて、記憶部180へのデータの格納又は記憶部180からのデータの引き出しを行う。
これらの動作を繰り返すことで、造形物層が積層され、立体造形物が作製される。
【実施例】
【0140】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0141】
[立体造形用樹脂粉末1の作製]
<エチレン・プロピレン共重合体粒子1の合成>
(1)固体状チタン触媒成分の調製
無水塩化マグネシウム952g、デカン4420mL及び2-エチルヘキシルアルコール3906gを、130℃で2時間加熱して均一溶液とした。この溶液中に無水フタル酸213gを添加し、130℃にてさらに1時間撹拌混合を行って無水フタル酸を溶解した。
このようにして得られた均一溶液を23℃まで冷却した後、この均一溶液の750mLを、-20℃に保持した四塩化チタン2000mL中に1時間にわたって滴下した。滴下後、得られた混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)52.2gを添加し、これより2時間撹拌しながら同温度に保持した。
次いで、熱時濾過にて固体部を採取し、この固体部を2750mLの四塩化チタンに再懸濁した後、再び110℃で2時間加熱した。加熱終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、110℃のデカン及びヘキサンを用いて、洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなるまで洗浄した。
上記のように調製された固体状チタン触媒成分はヘキサンスラリーとして保存したが、このうち一部を乾燥して触媒組成を調べた。固体状チタン触媒成分は、チタンを2質量%、塩素を57質量%、マグネシウムを21質量%及びDIBPを20質量%の量で含有していた。
【0142】
(2)前重合触媒の製造
前記固体状チタン触媒成分87.5g、トリエチルアルミニウム99.8mL、ジエチルアミノトリエトキシシラン28.4mL、ヘプタン12.5Lを内容量20Lの撹拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15~20℃に保ちプロピレンを875g挿入し、100分間撹拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去及びヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で0.7g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0143】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を123NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.30g/時間、トリエチルアルミニウム2.1mL/時間、ジエチルアミノトリエトキシシラン0.88mL/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70℃であり、圧力は3.3MPa/Gであった。
得られたスラリーは内容量100Lの撹拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が3.3mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にポリプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン・プロピレン共重合を行った。
ここで、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.01(エチレン含有モル比率)、水素/エチレン=0.10(モル比率)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力1.2MPa/Gで重合を行った後、80℃で真空乾燥を行い、エチレン・プロピレン共重合体粒子1を得た。
【0144】
<機械的粉砕処理>
前記で得られたエチレン・プロピレン共重合体粒子1を、液体窒素で-150℃程度に冷却し、粉砕機(リンレックスミル)により体積平均粒径が80μmになるまで粉砕した。
【0145】
<粒子球形化処理>
前記粉砕後、粒子球形化処理を行った。具体的には、ハイブリダイゼーションによりエチレン・プロピレン共重合体粒子1に機械的衝撃力を加えて、球形化し、エチレン・プロピレン共重合体粒子1を含有した立体造形用樹脂粉末1を得た。
【0146】
得られた立体造形用樹脂粉末1について、エチレン・プロピレン共重合体粒子1の体積平均粒径、エチレン含有モル比率、メルトフローレート及び重量平均分子量(Mw)を測定したところ、体積平均粒径80μm、エチレン含有モル比率が0.01、メルトフローレートが30g/10min、重量平均分子量(Mw)が280000であった。
また、エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)を測定し、当該個数平均粒径(Mn)に対して0.15倍の平均粒径を有する粒子数(M2)と、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数(M1)の割合(M1/M2)を算出した。さらに、エチレン・プロピレン共重合体粒子の個数平均粒径(Mn)に対して0.41倍の平均粒径を有する粒子数(M3)と、前記個数平均粒径(Mn)を有する粒子数(M1)の割合(M1/M3)を算出し、下記表に示した。
なお、前記体積平均粒径、エチレン含有モル比率、メルトフローレート、重量平均分子量(Mw)及び個数平均粒径(Mn)は前記した方法で測定した。また、以下で作製した立体造形用樹脂粉末2~9についても同様にして測定した。なお、個数平均粒径(Mn)については、前記粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)における、濃度指数(Diffraction Volume)を0.8に設定した。
さらに、得られた立体造形用樹脂粉末1について、前記した方法で融点を測定し、(融点温度-再結晶化温度)の数値を算出し、下記表に示した。
【0147】
[立体造形用樹脂粉末2~9の作製]
前記立体造形用樹脂粉末1の作製において、前記機械的粉砕処理における体積平均粒径が下記表に示すとおりとなるように粉砕し、かつ、前記気相重合器内のエチレン含有モル比率を下記表に示すとおりとした以外は同様にして立体造形用樹脂粉末2~9を作製した。
なお、立体造形用樹脂粉末2は、前記立体造形用樹脂粉末1の作製における、重合温度70℃を80℃に変更した。
また、立体造形用樹脂粉末2~9についても、前記立体造形用樹脂粉末1と同様に、体積平均粒径、エチレン含有モル比率、メルトフローレート及び重量平均分子量(Mw)、融点等を測定し、下記表に示した。
【0148】
[立体造形物1~9の作製]
立体造形装置(アスペクト社製(RaFaEl300))により、造形ステージ上に所
定のリコート速度(160mm/s)で、作製した各立体造形用樹脂粉末を敷き詰め、厚さ0.1mmの薄層を形成した。この薄層に、以下の条件で、CO2レーザー波長用ガルバノメータスキャナを搭載したCO2レーザーから縦300mm×横300mmの範囲にレーザー光を照射して、造形物層を作製した。その後、当該造形物層上に前記立体造形用樹脂粉末をさらに敷き詰め、レーザー光を照射し、造形物層を積層した。これらの工程を繰り返し、立体造形物(造形物層の積層体)1~9を作製した。
・レーザー光の出射条件
レーザー出力 :30W
レーザー光の波長 :10.6μm
ビーム径 :薄層表面で300μm
・レーザー光の走査条件
走査速度 :10000mm/sec
ライン数 :1ライン
【0149】
[評価]
<造形可否>
前記「立体造形物の作製」により立体造形物が得られたか否かを確認した。
【0150】
<破断伸び>
破断伸びの測定は、得られた立体造形物について、テンシロン万能材料試験機RTC-1250(株式会社A&D製)で測定した。測定条件は、以下のように設定し、破断距離を破断伸びとし、降伏点の有無で評価した。(降伏点までに破壊された場合は降伏点無しとする。)
引張試験用試験片:JIS K7161に準拠した形状
引張速度:50mm/s
チャック間距離:115mm
標点間距離:100mm
【0151】
<引張弾性率>
引張弾性率の測定は、得られた立体造形物について、テンシロン万能材料試験機RTC-1250(株式会社A&D製)で測定した。測定条件は、以下のように設定した。また、引張弾性率は、ひずみ0.05~0.25%間の線形回帰によって求めた。なお、比較例1の引張弾性率(1450Mpa)に対して80%以上の値(すなわち、1160Mpa以上の値)を示した場合に実用上問題ないとした。
引張試験用試験片:JIS K7161に準拠した形状
引張速度:1mm/s
チャック間距離:115mm
標点間距離:100mm
【0152】
【0153】
上記結果から明らかなとおり、本発明の立体造形用樹脂粉末は、比較例の立体造形用樹脂粉末に比べて、立体造形物の作製可能で、引張弾性率及び破断伸びの点でも良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を使用し、引張強度が良好であるとともに破断伸びに優れた立体造形用樹脂粉末、立体造形物及び立体造形物の作製方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0155】
100 立体造形装置
110 造形ステージ
120 薄膜形成部
121 粉末供給部
122 リコータ駆動部
122a リコータ
130 レーザー照射部
131 レーザー光源
132 ガルバノミラー駆動部
132a ガルバノミラー
140 ステージ支持部
145 ベース
150 制御部
160 表示部
170 操作部
180 記憶部
190 データ入力部
200 コンピューター装置