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特許7579497流動床反応器での水蒸気分解反応の実施方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】流動床反応器での水蒸気分解反応の実施方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/42 20060101AFI20241031BHJP
   C01B 3/30 20060101ALI20241031BHJP
   C10G 9/32 20060101ALI20241031BHJP
   C10G 15/08 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 8/26 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 8/32 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 8/28 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01J8/42
C01B3/30
C10G9/32
C10G15/08
B01J8/26
B01J8/32
B01J8/24 311
B01J8/28
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022570479
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2021071011
(87)【国際公開番号】W WO2022023346
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】20315364.8
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522178393
【氏名又は名称】トタルエナジーズ・ワンテック
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ベリヤソフ,グレブ
(72)【発明者】
【氏名】ネステレンコ,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】ベルメイレン ワルター
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特公昭43-026162(JP,B1)
【文献】特公昭37-004017(JP,B1)
【文献】特公昭37-004018(JP,B1)
【文献】特公昭37-001876(JP,B1)
【文献】英国特許出願公告第01262166(GB,A)
【文献】特開昭50-026763(JP,A)
【文献】米国特許第02982622(US,A)
【文献】英国特許出願公告第00883579(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 8/42
C01B 3/30
C10G 9/32
C10G 15/08
B01J 8/26
B01J 8/32
B01J 8/24
B01J 8/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)~c):
a)少なくとも2つの電極と粒子を収容した流動床とを含む少なくとも1つの流動床反応器を用意する工程と、
b)上記流動床に流体流を上向きに通過させることによって流動床中の粒子を流動状態にして流動床を得る工程と、
c)流動床を700℃~1000℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料の水蒸気分解反応を行う工程と、
を含む、少なくとも2個の炭素を有する炭化水素の水蒸気分解反応を行う方法であって、
流動床中の粒子の全重量に対して上記粒子の少なくとも10重量%が導電性粒子であり、この導電性粒子は800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、流動床を加熱する工程c)は流動層に電流を流すことによって行い、流動床の空隙率を0.5~0.8の範囲にし、ASTM D451311に従った篩分け法で決定される流動床の粒子の平均粒径を5~300μmの範囲にし、流動床中の導電性粒子はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の複合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数から成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
流動床中の導電性粒子の全重量に対して流動床中の導電性粒子の50重量%以上かつ100重量%以下がグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物から選択される1種または複数である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応の分解生成物を回収する工程d)をさらに含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
流動床の導電性粒子が1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であるか、または、それを含む請求項1~3のいずれか一項に記載のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
流動床の導電性粒子が炭化ケイ素、二珪化モリブデンまたはこれらの混合物から選択される1種以上の非金属抵抗体であるか、または、それを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
流動床の導電性粒子が炭化ケイ素からなる非金属抵抗体と炭化ケイ素とは異なる導電性粒子との混合物から成る請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
流動床の導電性粒子が流動床の導電性粒子の全重量に対して10重量%~99重量%の炭化ケイ素を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
炭化ケイ素とは異なる導電性粒子がグラファイトおよび/またはカーボンブラックであるか、または、1つ以上の低原子価カチオンがドープされた1つ以上の混合酸化物であるか、または、1つ以上の低原子価カチオンがドープされた1つ以上の混合硫化物であるか、それを含む請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
上記導電性粒子が、1つ以上の低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換された立方蛍石構造を有する1つ以上の酸化物からなる群から選択される1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物であるか、または、それを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記の1つ以上の低原子価カチオンが、Sm、Gd、Y、Sc、Yb、Mg、Ca、La、Dy、ErおよびEuからなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記混合酸化物が、三価カチオンAおよびBを有し、A位が1種以上の低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され、B位にNi、Ga、Co、Cr、Mn、Sc、Feの少なくとも1つおよび/またはそれらの混合物を含む1種以上のABO3-ペロブスカイト、二価カチオンAと四価カチオンBとを有し、B位が1つ以上の低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され、または、B位が異なるB元素との混合物である1種以上のABO3-ペロブスカイト、および、三価カチオンAおよび四価カチオンBを有し、A位が1種以上の低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され、B位にSn、ZrおよびTiの少なくとも1つを含む1種以上のA2B2O7-パイロクロアからなる群から選択される請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
上記の1種以上の低原子価カチオンがそれぞれCa、SrおよびMg; Mg、Sc、Y、NdおよびYb;またはCaおよびMgからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流動床の上記導電性粒子が1種以上の金属合金または1種以上の超イオン伝導体であるか、または、それらを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
上記の1種以上の超イオン伝導体がLiAlSiO4、Li10GeP212、Li3.6Si10.60.44、ナトリウム超イオン伝導体およびナトリウムベータアルミナからなる群から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
炭化水素原料が、エタン、液化石油ガス、ナフサ、軽油および全原油からなる群から選択される請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
分解生成物がエチレン、プロピレン、ベンゼン、水素、トルエン、キシレンおよび1,3ブタジエンの中の1種または複数を含む請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程b)で供給される流体流が炭化水素原料を含む請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
流動床反応器内で蒸気分解反応を行う前に、流動床反応器をガス流で予熱する工程を含み、このガス流が不活性ガス流であり、その温度が500℃1200℃である請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程a)で用意した少なくとも1つの流動床反応器加熱帯域と反応帯域とを有し、工程b)で供給する流体流が加熱帯域に供給され且つ希釈ガスを含み、工程c)で流動床を700℃~1000℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料の水蒸気分解反応を行い、さらに以下:
1)少なくとも1つの流動床の加熱帯域に電流を流すことによってその流動層を700℃~1000℃の範囲の温度に加熱し、
2)上記加熱帯域から加熱された粒子を上記反応帯域に輸送し、
3)反応帯域で、炭化水素原料と任意成分の希釈ガスとを含む流体流を流動床を通して上向きに通過させることで加熱された粒子を流動状態にして流動床を作り、炭化水素原料に対して水蒸気分解反応を行う、
のサブ工程を含
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
上記サブ工程の3)で上記流動層を700℃~1000℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料に対して水蒸気分解反応を行い、さらに、反応帯域から上記粒子を回収し、加熱帯域にリサイクルするサブ工程を含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法で水蒸気分解反応を行うための設備であって、この設備は少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)を有し、この流動床反応器は、
- 少なくとも2つの電極(13)と、
- 反応容器(3)と、
- 少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)中に流動化ガスおよび/または炭化水素原料を導入するための1種以上の流体ノズル(21;23)と、
- 粒子を収容したベッド(25)と、
を有し、
上記ベッド(25)の粒子の総重量に対してベッド(25)の少なくとも10重量%の粒子が導電性粒で、この導電性粒子は800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し且つグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物および/またはこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であり、ベッド(25)の空隙率は0.5~0.8の範囲であり、ASTM D451311に従った篩分け法で決定されるベッド粒子の平均粒径は5~300μmの範囲である、
ことを特徴とする設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気分解反応を流動床反応器中で外部加熱装置を必要とせずに実施する流動床反応器中で水蒸気分解反応を行う方法に関するものである。本発明の目的は化石炭素系燃料の加熱装置の使用の代替に寄与することにある。本発明は化学工業の電気化(electrification)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気候変動と進行中のエネルギー転換とによって化学品製造およびリサイクルプロセスでは化石炭素をベースとする燃料を環境に優しい脱炭素エネルギー源に置き換えることが義務付けられている。天然ガスを価値のある化学物質に変換するには多くの場合800℃以上、さらには1000℃までの高温が必要であり、大抵の場合、反応は吸熱性である。従って、必要なエネルギーは高く、一般に焼成加熱反応器が使用され、環境に優しいものではない。こうした(過酷な)反応条件に課せられる負担を軽減するための研究が多数行われている。
【0003】
[非特許文献1]Asensio J. M. et al.の研究(Angew .Chem. Int. Ed., 2019, 58, 1-6)には、高温で行われる反応のエネルギー効率を改善するための加熱剤として磁性ナノ粒子を使用することが記載され、反応器壁を加熱せずに熱を直接かつ均質に媒体に伝達することができる。これはケトンの水素化脱酸素に適用されるが、このシステムが到達する温度は280℃までの比較的低温であり、反応は発熱性である。
【0004】
[非特許文献2]Wismann S.T et al.の研究(Science, 2019, 364, 756-759)では、従来の焚き反応器が電気抵抗加熱反応器に置き換えられている。直径6mmのFeCrAI合金管をベースにした130μmのニッケル含浸ウォッシュコートを塗布した実験室規模の反応器を使用して水蒸気メタン改質が行われている。熱源とチューブの壁が一体であるので熱の損失を最小限に抑え、蒸気メタン改質プロセスをより効率的かつ経済的に実施できるが、この種の反応器では温度は最大800℃である。
【0005】
[非特許文献3]Maler≡ochd-Fjeld H. et al.の研究(Nat. Energy, 2017, 2, 923-931) では、外径1cmのペロブスカイト誘導体からなるセラミック管が電解質として使用されている。この電解質に電圧を印加し、電流を流すことによってメタンおよび蒸気から水素が選択的に抽出できる。反応に必要な触媒を提供するためにペロブスカイト誘導体にはニッケルナノ粒子が補充される。
【0006】
[非特許文献4]Varsano F. et al.の研究,Energy, 2019, 44, 21037-21044) では、触媒不均一プロセスの電磁誘導加熱が使用されており、プロセスの強化、エネルギー効率、反応のセットアップの簡素化および無線周波数の使用による安全性の問題に関していくつかの利点が示されている。連続流固定床反応器の熱媒体として内径1cmの反応器でNi80Co60ペレットを使用し、温度は850℃から900℃に達する。
【0007】
[特許文献1](米国特許第2,982,622号明細書)には水素および高品質のコークスの製造方法が記載されている。この方法では反応ゾーン内の不活性固体粒を比較的高密度の塊にして細長い反応ゾーンを通って下向きに通過させ、反応ゾーンで不活性固体粒の少なくとも一部に実質的な電気火花放電を引き起こさずに電流に対する抵抗によって固体の温度を1800~3000Fに上昇させるのに十分な0.1~1000ボルト/インチの電圧を印加し、加熱された固体は反応帯域から下方に抜き出し、引き出された固体との熱交換によって炭化水素供給物を予熱し、予熱された炭化水素供給物を上向きに移動するガス状流の形態で反応帯域に上向きに導入して炭化水素供給物を上記加熱された固体と接触させ、水素と固体上に析出する炭素途から成る実質的な部分を軽質蒸気に変換し、反応帯域から抜き出された高温蒸気を加熱ゾーン内の不活性固体と熱交換し、上記反応帯域から抜き出され且つ加熱ゾーンに供給する固形物と予め熱交換された固体の少なくとも一部を加熱ゾーンへ固形物として循環させ、上記反応帯域から抜き出された固形物の少なくとも一部を生成物として回収し、反応帯域の上部から水素ガス及び軽質蒸気を回収する。
【0008】
[特許文献2](米国特許第3259565号明細書)は炭化水素を変換して低沸点炭化水素と流動化可能サイズよりも大きいサイズの固体コークス粒子を生成するプロセスを記載している。この方法ではコークス凝集体をコークス粒子の高温流動層に通し、炭化水素油供給物を流動床に導入して炭化水素油を分解し、分解された蒸気生成物を塔頭上へ送り、流動床からコークス凝集体を取り出し、それを引き抜された分解蒸気生成物と向流接触で熱交換器ゾーンに通して分解蒸気生成物を冷却し、コークス凝集物を加熱してコークス凝集体上で分解蒸気生成物から高沸点炭化水素を凝縮、堆積させ、得られた分解蒸気生成物を生成物として抜き出し、処理されたコークス凝集体を熱交換帯域を通って複数回再循環させて炭化水素を堆積させ、高温流動コークス床を通って堆積した高沸点炭化水素をコークス化し且つコークス凝集体のサイズを大きくし、サイズが大きくなったコークス凝集体を製品としてシステムから引き出す。
【0009】
[特許文献3](英国特許第GB1262166号公報)には加熱ガスから熱伝達を介して流動床を加熱する間接加熱で流動床中の重質炭化水素を分解してエチレンを製造する方法が記載されている。
【0010】
【文献】(米国特許第US3948645号明細書)には流動床が主としてコークス~成る、エネルギーの少なくとも一部が電気誘導的に生成される、流動床~成る反応器で熱を必要とするプロセスを実行するための方法が記載されている。
【0011】
上記の例は、気候への影響を減らすという観点からでの化石資源を貴重な化学物質に変換する分野におけるプロセスを示している。しかし、これ裸のプロセスは実験室規模に限定され、大型規模での開発ではなかった。
【0012】
この点に関して[特許文献5](カナダ国特許第CA573348号公報)に記載のシャウィニガンプロセス(Shawinigan process)には、高温耐性シリカガラスで作られコークスおよび/または石油コークスなどの導電性炭素粒子を含む流動床の反応器で使用してアンモニアから青酸を製造する方法が記載されている。このプロセスの原理は電気を使用して導電性炭素粒子を加熱し、アンモニアを青酸に変換するのに十分な温度に流動床を維持し、流動層から出てくるガスから回収する点にある。反応管の内径は3.4cmである。このような導電性炭素粒子を使用することで要求された反応を行うのに十分な1300℃~1600℃の範囲の温度に達することができる。
【0013】
[特許文献6](米国特許出願第US2017/0158516号明細書)には工業レベルで粒状多結晶シリコンを製造するための炭化ケイ素製の流動床反応器が記載されている。流動床反応器は反応管の外壁と反応容器の内壁との間の中間ジャケット内に設置された加熱装置を用いて加熱される。この中間ジャケットは断熱材を含み、不活性ガスで充填またはフラッシュされる。反応管の主元素としてSiC含有量98重量%の焼結炭化ケイ素(SSiC)を使用し、高純度SiC被膜を化学蒸着法で堆積させることで反応管を腐食させずに1200℃までの高温に加熱できる。また、反応管の主要素としてシリコン化炭化ケイ素(SiSiC)を使用し、コーティング層の堆積などの表面処理を行わないと反応管が腐食することもわかっている。
【0014】
一方、[非特許文献5]Goldberger W. M. et al. (Chem. Eng. Progress, 1965, 61 (2), 63-67)はグラファイトで作られ流動床反応器に関するもので、炭化水素の水素化分解、有機物の熱分解、元素状リンの製造、酸化ジルコニウムの塩素化などの反応で仕様できる。反応温度は約4400℃までの温度が可能である。しかし、長期的な観点から、流動床反応器の設計に使用されるグラファイト材料がそのような過酷な反応条件に耐えられるかどうかは定かではない。事実、[非特許文献6]Uda T. et al. の研究(Fusion Engineering and Design, 1995, 29, 238-246)では、蒸気と例えば1000℃から1600℃の間の高温を伴う条件下ではグラファイトが腐食することが示されている。また、[非特許文献7]Qiao M-X. et al. の研究(Chem. Eng. J., 2018, 344, 410-418)に示されているように、グラファイトは炭素酸化反応の影響を受け易く、電極としての役目に特に影響を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Asensio J. M. et al., entitled "Hydrodeoxygenation using magnetic induction: high-temperature heterogeneous catalysis in solution" (Angew. Chem. Int. Ed., 2019, 58, 1-6)
【文献】Wismann S.T. et al., entitled "Electrified methane reforming: A compact approach to greener industrial hydrogen production" (Science, 2019, 364, 756-759)
【文献】Maler≡ochd-Fjeld H. et al., entitled "Thermo-electrochemical production of compressed hydrogen from methane with near-zero energy loss" (Nat. Energy, 2017, 2, 923-931),
【文献】Varsano F. et al., entitled "Dry reforming of methane powered by magnetic induction" (Int. J. of Hydrogen Energy, 2019, 44, 21037-21044)
【文献】Goldberger W. M. et al., entitled "The electrothermal fluidized bed" (Chem. Eng. Progress, 1965, 61 (2), 63-67
【文献】Uda T. et al., entitled "Experiments on high temperature graphite and steam reactions under loss of coolant accident conditions", (Fusion Engineering and Design, 1995, 29, 238-246),
【文献】Qiao M-X. et al., entitled "Corrosion of graphite electrode in electrochemical advanced oxidation processes: degradation protocol and environmental application", (Chem. Eng. J., 2018, 344, 410-418),
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許第US2982622号明細書
【文献】米国特許第US3259565号明細書
【文献】英国特許第GB1262166号公報
【文献】米国特許第US3948645号明細書
【文献】カナダ国特許第CA573348号公報
【文献】米国特許出願第US2017/0158516号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、大型規模化に関する従来技術の1つまたは複数の課題を解決し、化学工業などの工業に適用可能な解決策を提供することにある。本発明の目的は、流動床反応器での化石炭素系燃料の加熱装置の使用の代替に寄与することにある。本発明は炭化水素を水素、エチレン、プロピレン、ブタジエンおよび単環芳香族化合物へ吸熱水蒸気分解する方法の解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明第1の観点から、本発明は以下の工程:
a)少なくとも2つの電極と粒子を含むベッドとを有する少なくとも1つの流動床反応器を用意供する工程と、
b)流動床に流体流を上向きに通過させることによって流動床の粒子を流動状態にして流動床を得る工程と、
c)流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料に対して水蒸気分解反応を行う工程と、
を含む、少なくとも2個の炭素を有する炭化水素の水蒸気分解反応を行う方法であって、
流動床の粒子の総重量に対して粒子の少なくとも10重量%が導電性粒子であり且つ800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、流動層を加熱する工程c)が流動層に電流を流すことによって行われ、流動床の導電性粒子はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数から成るか、これらを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0019】
驚くことに、炭化ケイ素、混合酸化物および/または混合硫化物(これらの混合酸化物および/または混合硫化物はイオン性または混合された導体すなわち1種以上の低原子価カチオンがドープされたものである)等の導電性粒子を帯電された1つ以上の流動床反応器中で使用することで、外部加熱装置を必要とせずに、500℃~1200℃の範囲の温度を必要とする炭化水素の水蒸気分解反応を行うのに十分な温度を維持することが可能になった。流動床粒子の少なくとも10重量%の導電性粒子を使用することで電圧印加時の熱損失を最小限に抑えることができ、ジュール効果によって、全てではないにしても、ほとんどの電気エネルギーが反応器媒体の加熱に使用する熱に変換される。
【0020】
上記の流体流はガス流および/または気化流(vaporized stream)にすることができる。
【0021】
本発明方法は、反応分解生成物を回収する工程d)をさらに含むのが有利である。このステップd)はステップc)の後に実行される。
【0022】
好ましい実施形態では、体積熱発生率(volumetric heat generation rate)は流動層1m3当たり0.1MW以上、より好ましくは1MW/m3以上、特に3MW/m3以上にする。
【0023】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの流動床反応器には加熱手段が無い。例えば、少なくとも1つの流動床反応器は容器から成り、容器の周囲または内部に位置する加熱手段を欠いている。例えば、少なくとも1つの流動床反応器はオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を有しない。例えば、全ての流動床反応器がオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を有していない。
【0024】
導電性粒子の含有量は、例えば、流動床の粒子の総重量に対して10重量%~100重量%の範囲、好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%であり、さらにより好ましくは25重量%~80重量%であり、最も好ましくは30重量%~75重量%である。
【0025】
ベッドの粒子の総重量に対する導電性粒子の含有量は、例えば、ベッドの総重量に対して少なくとも12重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%、または少なくとも40重量%、または少なくとも50重量%、または少なくとも60重量%である。
【0026】
導電性粒子は、例えば、800℃で0.005~400オーム.cm(Ohm.cm)の範囲、好ましくは800℃で0.01~300オーム.cmの範囲、より好ましくは800℃で0.05~150オーム.cmの範囲、最も好ましくは800℃で0.1~100オーム.cmの範囲の抵抗率(resistivity)を有する。
【0027】
導電性粒子は、例えば、800℃で少なくとも0.005オーム.cm、好ましくは800℃で少なくとも0.01オーム.cm、より好ましくは800℃で0.05オーム.cm以上、さらに好ましくは800℃で少なくとも0.1オーム.cm、最も好ましくは800℃で少なくとも0.5オーム.cmの抵抗率を有する。
【0028】
導電性粒子は、例えば、800℃で最大400オーム.cm、好ましくは800℃で最大300オーム.cmは、より好ましくは800℃で200Ω.cm以下゛さらに好ましくは800℃で最大150オーム.cm、最も好ましくは800℃で最大100オームの抵抗率を有する。ベッド粒子の導電性粒子の総重量に対する導電性粒子の含有量と所定の抵抗率の導電性粒子の選択が流動床が到達する温度に影響する。従って、目標温度が達成されない場合、当業者は、粒子ベッドの密度、ベッドの粒子の総重量に対する導電性粒子の含有量を増加させ、および/または、より低い抵抗率を有する導電性粒子を選択することで流動床による到達温度を増加させることができる。
【0029】
例えば、粒子ベッドの密度は空隙率(void fraction)として表される。空隙率またはベッド空隙率は、粒子間の空隙の体積をベッドの総体積で割ったものである。初期の流動化速度では、空隙率は通常0.4~0.5である。空隙率は高速流動層では最大0.98まで増加し、底部では約0.5に低下し、ベッド上部では0.9よりも高くなる。空隙率は流動化ガスの線速度によって制御でき、上部で回収されて流動層の下部に送り返される固体粒子をリサイクルすることで減少させることができ、それによってベッドからの随伴固体粒子を補償することができる。
【0030】
空隙率VFは、粒子ベッド内の空隙の体積分率として定義され、次の式(1)に従って決定される:
【0031】
この式で、Vtはベッドの総容積であり、次式で決定され:
Vt=AH (2)
(ここで、Aは流動層の断面積、Hは流動層の高さである)、
Vpは、流動層内の粒子の総体積である。
【0032】
ベッドの空隙率は、例えば、0.5~0.8の範囲、好ましくは0.5~0.7の範囲、より好ましくは0.5~0.6の範囲である。粒子ベッドの密度を増加させるためには空隙率を減少させる。
【0033】
ベッド粒子は、例えば、ASTM D4513-11に従って篩分けによって決定される平均粒径が5~300μmの範囲の有し、好ましくは10~200μmの範囲であり、より好ましくは20~200μmまたは30~150pmの範囲である。
【0034】
ASTM D4513-11に準じた篩分け方法を使用するのが好ましい。粒子の平均サイズが20μm未満の場合、平均サイズの決定はASTM D4464-15に準拠したレーザー光散乱によっても行うこともできる。
【0035】
例えば、ベッドの導電性粒子のASTM D4513-11に従った篩分け方法によって決定される平均粒径は5~300μmの範囲、好ましくは10~200μmの範囲、より好ましくは30~150μmの範囲である。
【0036】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%はグラファイト(graphite)、カーボンブラック( carbon black)、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体(non-metallic resistors)、1種以上の金属炭化物(metallic carbides)、1種以上の遷移金属窒化物(transition metal nitrides)、1種以上の金属リン化物(metallic phosphides)、1種以上の超イオン伝導体(superionic conductors)、1種以上のリン酸塩電解質(phosphate electrolytes)、1種以上の低原子価陽イオンをドープされている1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物(mixed sulphides)およびこれらの任意の混合物の中から選ばれる1種または複数である。上記比率は好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0037】
好ましくは、ベッドの導電性粒子はグラファイト(graphite)、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価陽イオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であり、その含有率はベッドの導電性粒子の全重量に対して好ましくは50重量%~100重量%であり、好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0038】
好ましくは、ベッドの導電性粒子はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物、およびこれらの任意の混合物の中から選ばれ、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0039】
好ましくは、ベッドの導電性粒子は1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物、およびこれらの任意の混合物の中から選ばれ、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは、60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%で、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0040】
ベッドの導電性粒子は、例えば、石油コークス、カーボンブラック、コークスまたはこれらの混合物から選択される1種以上の炭素含有粒子を含まない。
例えば、ベッドの導電性粒子はグラファイト、石油コークス、カーボンブラック、コークスまたはそれらの混合物から選択される1種以上の炭素含有粒子を含まない。例えば、ベッドの導電性粒子はグラファイトおよび/またはカーボンブラックを含まない。例えば、ベッドの導電性粒子は石油コークスおよび/またはコークスを含まない。
【0041】
あるいは、ベッドの導電性粒子はグラファイトと、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数とであるか、または、それらを含み、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0042】
あるいは、ベッドの導電性粒子は1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗
(ただし、この非金属抵抗体は炭化ケイ素ではない)、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物および/または1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上混合硫化物およびそれらの任意の混合物から選択される1種または複数であり、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは、60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0043】
例えば、ベッドの導電性粒子は1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物から選択される1種または複数であるか、これらを含み、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは60重量%~100重量%より好ましくは70重量%~100重量%さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0044】
例えば、ベッドの導電性粒子はグラファイトと、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物、およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数からなるか、またはそれらを含み、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0045】
例えば、ベッドの導電性粒子は1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であるか、またはこれらを含み、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは、、60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0046】
例えば、ベッドの導電性粒子は、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であるか、これらを含み、その含有量はベッドの導電性粒子の全重量に対して50重量%~100重量%、好ましくは、60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0047】
上記の1種以上の「金属合金」は、例えば、Ni-Cr、Fe-Ni-Cr、Fe-Ni-Alまたはこれらの混合物から選択される。好ましくは、上記金属合金が少なくともクロムを含む場合、上記のクロム含有量はクロムを含む上記金属合金の全モル含有量の少なくとも少なくとも15モル%、より好ましくは少なくとも20モル%、さらにより好ましくは少なくとも25モル%、最も好ましくは少なくとも30モル%である。有利には、上記金属合金中の鉄含有量は上記金属合金の全モル含有量に対して最大2.0%、好ましくは最大1.5モル%、より好ましくは最大1.0モル%、さらにより好ましくは0.5モル%以下である。
【0048】
「非金属抵抗体」は、例えば、炭化ケイ素(SiC)、二ケイ化モリブデン(MoSi2)、ニッケルシリサイド(NiSi)、ナトリウムシリシダ(Na2Si)、マグネシウムシリシダ(Mg2Si)、白金シリシダ(PtSi)、チタンシリシダ(TiSi2)、タングステンシリシダ(WSi2)またはこれらの混合物であり、好ましくは炭化ケイ素である。
【0049】
上記の1種以上の「金属炭化物」は、例えば、炭化鉄(Fe3C)、炭化モリブデン(MoCとMO2Cの混合物等)から選択される。
【0050】
上記の1種以上の「遷移金属窒化物」は、例えば、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タングステン(W2N、WNおよびWN2の混合物等)、窒化バナジウム(VN)、窒化タンタル(TaN)および/または窒化ニオブ(NbN)から選択される。
【0051】
上記の1種以上の「金属リン化物」は、例えば、リン化銅(Cu3P)、リン化インジウム(InP)、リン化ガリウム(GaP)、リン化ナトリウムNa3P)、リン化アルミニウム(AlP)、リン化亜鉛(Zn32)および/またはリン化カルシウム(Ca32))から選択される。。
【0052】
上記の1種以上の「超イオン伝導体」は、例えば、LiAlSiO4、Li10GeP2Si2、Li36Si0.6044、ナトリウム超イオン伝導体(NaSICON)、例えば、Na3Zr2PSi212、またはナトリウムベータアルミナ、例えば、NaAl1117、Na1.6Al1117.3および/またはNa1.76Li0.38Al10.8217から選択される。
【0053】
上記の1種以上の「リン酸塩電解質」は、例えば、LiPO4またはLaPO4.から選択される。
【0054】
上記の1種以上の「混合酸化物」は、例えば、1種以上の低原子価カチオンがドープされたイオン性または混合導体である。この混合酸化物は1種以上の低原子価カチオンがドープされた立方晶蛍石構造を有する酸化物、ペロブスカイト、パイロクロアから選択するのが有利である。
【0055】
上記の1種以上の「混合硫化物」は、例えば、1種以上の低原子価カチオンがドープされたイオン性または混合導体である。
【0056】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素である非金属抵抗体であるか、または、それを含む。
【0057】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素である非金属抵抗体と、炭化ケイ素とは異なる導電性粒子との混合物であるか、またはこれらを含む。ベッド中に炭化ケイ素とは異なる導電性粒子が存在するか否かは任意である。室温での炭化ケイ素の抵抗率は高すぎ、ベッドの加熱を開始できないことが分かっているので、ベッドを加熱するための出発材料として存在することができる。あるいは、炭化ケイ素とは異なる導電性粒子を存在させることで反応器に反応開始の規定時間に熱を供給することができる。
【0058】
炭化ケイ素は、例えば、焼結炭化ケイ素、窒化結合炭化ケイ素、再結晶炭化ケイ素、反応結合炭化ケイ素およびこれらの任意の混合物から選択される。炭化ケイ素材料の種類はスチームクラッキングの反応熱を供給するのに必要な必要な加熱電力に応じて選択される。
【0059】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素である非金属抵抗体と、炭化ケイ素とは異なる導電性粒子との混合物であるか、または、これらを含み、ベッドの導電性粒子はベッドの導電性の総重量に対して10重量%~99重量%、好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%、さらにより好ましくは25重量%~80重量%、最も好ましくは30重量%~75重量%の炭化ケイ素を含む。
【0060】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素である非金属抵抗体と、炭化ケイ素とは異なる導電性粒子との混合物であるか、または、これらを含み、炭化ケイ素とは異なる上記導電性粒子はグラファイトおよび/または1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物および/または1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物である。、
【0061】
ベッドの導電性粒子は、例えば、1種以上のイオン伝導体の混合酸化物すなわち1種以上の低原子価カチオンがドープされた混合酸化物であるか、または、これらを含み、混合酸化物は以下から選択される:
- 1種以上の低原子価カチオン、好ましくはSm、Gd、Y、Sc、Yb、Mg、Ca、La、Dy、Er、Euから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換された立方晶蛍石構造(cubic fluorite structure)を有する1種以上の酸化物、および/または
- A位が少なくとも部分的に1種以上の低原子価陽イオン、好ましくはCa、SrまたはMgから優先的に選択される低原子価陽イオンで置換され且つB位に少なくとも1種のNi、Ga、Co、Cr、Mn、Sc、Feおよび/またはこれらの混合物を有する三価カチオンAとBを有する1種以上のABO3-ペロブスカイト(perovskites)、および/または
- B位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはマグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)またはイッテルビウム(Yb)から選択される低原子価カチオンまたは異なるB元素の混合物で少なくとも部分的に置換された二価カチオンAと四価カチオンBとを有する1種以上のABO3-ペロブスカイト、および/または
- A位が低原子価カチオン、好ましくはCaまたはMgから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され、B位にSn、ZrおよびTiの中の少なくとも1つを有する三価カチオンAと四価カチオンBとを有する1種以上のA227パイロクロア(pyrochlores)。
【0062】
1種または複数の混合硫化物の例は下記である:
- 1種以上の低原子価カチオン、好ましくはSm、Gd、Y、Sc、Yb、Mg、Ca、La、Dy、Er、Euから優先的に選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換された立方晶蛍石構造を有する1種以上の硫化物、および/または
- A位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはCa、SrまたはMgから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され且つB位にNi、Ga、Co、Cr、Mn、Sc、Feの少なくとも1つおよび/またはそれらの混合物を有する三価カチオンAとBの1種以上のABS3構造、および/または、
- B位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはMg、Sc、Y、NdもしくはYbから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換されているか、B位が異なるB元素の混合物で置換された二価カチオンAと四価カチオンBとを有する1種以上のABS3構造、
- A位が1種以上の低原子価カチオン、CaまたはMgから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換され且つB位にSn、ZrおよびTiの中の少なくとも1つを有するA三価カチオンとB四価カチオンの1種以上のA227構造。
【0063】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた立方晶蛍石構造を有する上記の1種以上の混合酸化物における置換度は、立方晶蛍石構造を有する1種以上の酸化物中に存在する原子の総数に対して1~15原子%、好ましくは3~12原子%、より好ましくは5~10原子%であるのが好ましい。
【0064】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた上記の1種以上の混合酸化物における置換度は、三価カチオンAとBを有する11種または複数のABO3-ペロブスカイト中、または、二価カチオンAと四価カチオンBを有する上記の1種または複数のABO3-ペロブスカイト中、または、上記の三価カチオンAと四価カチオンBとを有する上記の1種または複数のA227-ピロクロア中のそれぞれに存在する原子の総数に対して1~50原子%、、好ましくは3~20原子%、より好ましくは5~15原子%の間であるのが好ましい。
【0065】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた立方晶蛍石構造を有する上記の1種以上の混合硫化物における置換度は、立方晶蛍石構造を有する1種または複数の酸化物中に存在する原子の総数に対して1~15原子%、好ましくは3~12原子%、より好ましくは5~10原子%であるのが好ましい。
【0066】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた上記の1種以上の混合硫化物における置換度は、三価カチオンAとBを有する1種以上のABS3構造中または二価カチオンAと四価カチオンBとを有する上記の1種または複数のABS3構造中または三価カチオンAと四価カチオンBとを有する上記の1種以上のA227構造中のそれぞれに存在する原子の総数に対して1~50原子%、好ましくは3~20原子%、より好ましくは5~15原子%であるのが好ましい。
【0067】
ベッドの導電性粒子は、例えば、1種以上の金属合金であるかまたはそれを含み、この1種以上の金属合金はNi-Cr、Fe-Ni-Cr、Fe-Ni-Alまたはこれらの混合物から選択されるのが好ましい。
【0068】
金属合金が少なくともクロムを含む場合、クロム含有量は少なくともクロムを含む上記金属合金の全モル含有量の少なくとも15モル%、より好ましくは少なくとも20モル%、さらにより好ましくは少なくとも25モル%、最も好ましくは少なくとも30モル%であるのが好ましい。金属合金中の鉄含有量は上記金属合金の全モル含有量に対して最大で2.0%、好ましくは最大で1.5モル%、より好ましくは最大で1.0モル%、さらにより好ましくは0.5モル%以下であるのが有利である。
【0069】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素である非金属抵抗体と炭化ケイ素とは異なる粒子との混合物であるか、これらを含み、上記の炭化ケイ素とは異なる粒子はグラファイトであるか、グラファイトを含むのが好ましく、このグラファイト粒子のASTM D4513-11に従った篩分けで決定した平均粒径は5~300μmの範囲、より好ましくは10~200μmの範囲、最も好ましくは30~150μmの範囲である。
【0070】
水蒸気分解反応は、例えば、550℃~1200℃、好ましくは600℃~1100℃、より好ましくは650℃~1050℃、最も好ましくは700℃~1000℃の範囲の温度で行われる。
【0071】
上記水蒸気分解反応は、例えば、0.01MPa~1.0MPaの範囲、好ましくは0.1MPa~0.5MPaの間の圧力で行われる。
【0072】
一つの実施形態では、本発明方法は、流動床反応器中で水蒸気分解反応を行う前に流動床反応器をガス流で予熱する工程を含み、このガス流は不活性ガスの流れであり、および/または、500℃と1200℃の間の温度を有するのが好ましい。この実施形態はベッドの粒子がグラファイトの場合および/または電気抵抗材料の室温での抵抗率が高すぎてベッドの電気加熱を開始することができない場合に重要である。
【0073】
炭化水素流の水蒸気分解は、例えば、希釈流の存在下で行われ、反応流の重量時空間速度(weight hourly space velocity)は0.1h-1~100h-1、好ましくは1.0h-~50h-1、より好ましくは1.5h-~10h-1、さらに好ましくは2.0h-~6.0h-1の間であるのが好ましい。この重量時空間速度は流動層内の固体粒子材料の質量に対する反応流の質量流量の比として定義される。
【0074】
本発明方法での炭化水素原料はエタン、液化石油ガス、ナフサ、軽油および/または全原油から選択される。
【0075】
ステップb)で供給される流体流は、例えば、炭化水素供給原料(hydrocarbon feedstock)を含む。
【0076】
液化石油ガス(LPG)は主としてプロパンとブタンを含む。石油ナフサまたはナフサは沸点が15℃~200℃の石油の炭化水素留分として定義される。これは直鎖および分岐パラフィン(単分岐および多分岐)、環状パラフィンおよび炭素数5~約11個の炭素原子を有する芳香族化合物の複雑な混合物である。軽ナフサの沸点範囲は15~90℃で、C5~C6の炭化水素を含み、重質ナフサの沸点範囲は90~200℃で、C7~約C11の炭化水素を含む。軽油の沸点範囲は約200~350℃で、本質的に直鎖および分岐パラフィン、環状パラフィンおよび芳香族化合物(モノ芳香族、ナフト芳香族およびポリ芳香族を含む)を含むC10~C22炭化水素を含む。沸点が300℃を超える重質軽油(軽油、真空軽油、残留物、真空残余物等)および本質的に直鎖および分岐パラフィン、環状パラフィン、芳香族化合物(モノ、ナフト、ポリ芳香族を含む)を含むC20+炭化水素は常圧蒸留または真空蒸留ユニットから得られる。
【0077】
本工程で得られる分解生成物は特に、エチレン、プロピレンおよびベンゼンの中の1種以上、場合によって水素、トルエン、キシレンおよび1,3-ブタジエンを含む。
【0078】
好ましい実施形態では、反応器の出口温度は800~1200℃、好ましくは820~1100℃、より好ましくは830~950℃、さらに好ましくは840℃~900℃の範囲にすることができる。
【0079】
好ましい実施形態では、温度が500~1200℃の間である反応器の流動床セクションにおける炭化水素供給原料の滞留時間は0.005~0.5秒の範囲、好ましくは0.01~0.4秒の範囲であり得る。
【0080】
好ましい実施形態では、炭化水素原料に対して行う水蒸気分解反応を希釈水蒸気の存在下で行う。上記定義したクラッキング製品は水蒸気の比率を炭化水素原料1kg当たり0.1~1.0kgの水蒸気、好ましくは炭化水素原料1kg当たり0.25~0.7kgの水蒸気、より好ましくは炭化水素原料1kg当たり0.35~0.6kgの水蒸気にして得られる。
【0081】
好ましい実施形態では、反応器出口圧力は0.050~0.250MPa、好ましくは0.070~0.200MPa、より好ましくは約0.15MPaの範囲にすることができる。運転圧力を下げると軽質オレフィンの収率が高くなり、コークの生成が減少する。可能最低圧力にすることで(i)分解ガス圧縮機の吸引時に反応器の出力圧力を大気圧にできるだけ近づけることができ、(ii)蒸気で希釈することで炭化水素の分圧を低下させることができる(これはコークス形成の減少に実質的な影響を与える)
【0082】
熱分解炉からの排出物には未反応の原料、所望のオレフィン(主にエチレンとプロピレン)、水素、メタン、C4混合物(主にイソブチレンとブタジエン)、熱分解ガソリン(C6~C8芳香族化合物)、エタン、プロパン、ジオレフィン(アセチレン、メチルアセチレン、プロパジエン)および燃料油の温度範囲で沸騰するより重質炭化水素(熱分解燃料油)が含まれる。この分解ガスは330~520℃に急速に急冷して熱分解反応を停止し、連続反応を最小限に抑え、並列トランスファーラインの熱交換器(TLE)で高圧蒸気を生成し、ガス中の顕熱を回収する。ガス原料をベースにしたプラントではTLE急冷ガス流は直接水急冷塔に流れ、そこでガスは再循環冷水でさらに冷却される。液体原料をベースにしたプラントでは、水急冷塔の前に分留装置があり、分解ガスから燃料油留分を凝縮して分離する。いずれのタイプのプラントでも、分解ガス中の希釈蒸気と重質ガソリンの大部分は35~40℃の水急冷塔で凝縮される。その後、水急冷ガスは4段階または5段階で約2.5MPa~3.5MPaに圧縮される。圧縮段階で凝縮水と軽質ガソリンが除去され、分解ガスが苛性溶液または再生アミン溶液で洗浄され、次いで、苛性溶液で洗浄されて酸性ガス(CO2、H2S、SO2)が除去される。圧縮された分解ガスは乾燥剤で乾燥され、プロピレンとエチレンの冷媒で極低温に冷却された後に製品分別(フロントエンド脱メタン化、フロントエンド脱プロパン化またはフロントエンド脱エタノール化)が行われる。
【0083】
流動層を加熱する工程は、例えば、流動層に最大300V、好ましくは最大200V、より好ましくは最大150V、さらにより好ましくは最大120V、最も好ましくは最大100V、さらに最も好ましくは最大90Vの電圧の電流を流すことで行われる。
【0084】
上記プロセスは、例えば、流動床反応器で水蒸気分解反応を行う前に流動床反応器をガス流で予熱する工程を含む。このガス流は不活性ガスの流れであり、および/または、500℃~1200℃の間の温度を有するのが好ましい。
【0085】
上記工程a)の少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、加熱ゾーンと反応帯域とを含み、上記工程b)の流体流はこの加熱ゾーンに供給され且つ希釈ガスを含み、流動床を500℃~1200℃の温度に加熱して炭化水素原料の水蒸気分解反応を行う工程c)は以下のサブ工程を含む:
1)少なくとも1つの流動層の加熱ゾーンに電流を流して流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱し、
2)加熱された粒子を加熱ゾーンから反応ゾーンに輸送し、
3)反応ゾーンで、炭化水素供給原料と任意成分の希釈剤ガスとを含む流体流を反応ゾーンのベッドを通過させて上方へ送って加熱された粒子を流動状態にして炭化水素原料に対して水蒸気分解反応を行い、
3)必要に応じて、反応ゾーンから粒子を回収し、それらを加熱ゾーンにリサイクルする。
【0086】
流体流はガス流および/または蒸発流(vaporized stream)にすることができる。
【0087】
工程c)で炭化水素供給原料に対して水蒸気分解反応が行われる。これは炭化水素供給原料が供給されることを意味する。
【0088】
加熱ゾーンと反応ゾーンとが混在している(すなわち同一ゾーン)場合、ステップb)で供給する流体流を例えば、炭化水素供給原料にすることができる。
【0089】
加熱ゾーンと反応ゾーンとが別々のゾーンである場合には、加熱ゾーンにステップb)で供給される流体流は炭化水素供給原料を含まない。例えば、加熱ゾーンである少なくとも1つの流動床反応器と、反応帯域である少なくとも1つの流動床反応器とを有するプロセスでは、加熱ゾーンに供給される流体流は炭化水素供給原料を含まず、反応帯域にステップb)で供給される流体流に炭化水素供給原料が含まれまる。
【0090】
炭化水素供給原料は反応帯域に供給され、加熱ゾーンが反応ゾーンと分離している場合には、炭化水素供給原料は加熱ゾーンに供給されないということは理解できよう。また、上記のように反応帯域において推奨される水蒸気対炭化水素比に達するように、反応帯域に炭化水素供給原料に加えて水蒸気を供給することができるということも理解できよう。
【0091】
本発明の第2の態様によって、本発明は本発明の第1の態様による蒸気分解反応を実行するための設備を提供する。この設備は、以下を有する少なくとも1つの流動床反応器を有する:
1)少なくとも2つの電極(好ましくは、一方の電極が沈下した中心電極であるか、または2つの電極が沈下した電極である)と、
2)反応容器と、
3)少なくとも1つの流動床反応器内に流動化ガスおよび/または炭化水素原料を導入するための1種以上の流体ノズルと、
4)粒子を含むベッド。
この設置の特徴は、ベッドの粒子の全重量に対してベッドの粒子の少なくとも10重量%が導電性で且つ800℃の温度で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の複合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物野中から選択される1種または複数である点にある。
【0092】
少なくとも1つの流動床反応器は加熱手段を欠いている(有しない)のが有利である。例えば、少なくとも1つの流動床反応器は反応器容器の周囲または内部に位置する加熱手段を有していない。例えば、全ての流動床反応器は加熱手段を欠いている。流動床反応器の少なくとも1つが「加熱手段」を欠いている(有していない)とは「古典的な」加熱手段、例えば、オーブン、ガスバーナー、ホットプレートなどを有していないことを意味する。これは流動床反応器自体の少なくとも2つの電極以外に加熱手段はないことを意味する。例えば、少なくとも1つの流動床反応器はオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を欠いている。例えば、全ての流動床反応器がオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を有していない。
【0093】
一つの好ましい実施形態では、少なくとも2つの電極と粒子を収容したベッドとを有する少なくとも1つの流動床反応器が充填物を欠いている。
【0094】
流動化ガスは、例えば、1種以上の希釈ガスである。
【0095】
少なくとも1つの反応器容器の内径は、例えば、少なくとも100cm、好ましくは少なくとも200cm、より好ましくは少なくとも300cmである。
【0096】
反応器容器は耐食性材料で作られた反応器壁を有するのが好ましく、反応器壁材料はニッケル(Ni)、SiAlONセラミックス、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、正方晶多結晶ジルコニア(TZP)および/または正方晶ジルコニア多結晶(TPZ)から成るのが有利である
【0097】
上記電極の1つは反応器容器またはガス分配装置であり、および/または、少なくとも2つの電極はステンレス鋼材料またはニッケル-クロム合金もしくはニッケル-クロム-鉄合金で作られているのが好ましい。
【0098】
少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、加熱ゾーンと反応ゾーンとを有し、炭化水素供給原料を反応ゾーンに供給するための1つ以上の流体ノズルとベッド粒子を反応ゾーンから加熱ゾーンへ戻すための任意手段を含むのが好ましい。
【0099】
本発明の設備は、例えば、互いに接続された少なくとも2つの流動床反応器を有し、少なくとも2つの流動床反応器の少なくとも1つの反応器は加熱ゾーンであり、少なくとも2つの流動床反応器の少なくとも別の反応器は反応帯域であるのが好ましい。本発明設備は、炭化水素供給原料を反応帯域である少なくとも1つの流動床反応器へ注入するように配置された1つ以上の流体ノズルを備え、必要に応じてベッドの粒子を加熱ゾーンから反応ゾーンへ輸送する手段と、必要に応じて粒子を反応ゾーンから加熱ゾーンへ輸送する手段を有するのが好ましい。この構成は所定の一つの粒子ベッドを少なくとも2つの流動床反応器で共通である場合に重要である。
【0100】
少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、単一の流動床反応器で、加熱ゾーンは流動床反応器の下部にあり、反応ゾーンは流動床反応器の上部にある。本発明の設備は2つのゾーンの間に炭化水素原料を注入するための1つ以上の流体ノズルを含むのが好ましい。ボトムゾーンでの加熱に最適な条件とトップゾーンでのメタン変換の最適条件を達成するために加熱ゾーンと反応ゾーンの直径を異ならせることができる。粒子は随伴(entrainment)によって加熱ゾーンから反応ゾーンに移動させることができ、逆に、重力によって反応ゾーンから加熱ゾーンに戻すこともできる。必要な場合には上部加熱ゾーンから粒子を収集し、別の移送ラインによって下部加熱ゾーンへ戻すこともできる。
【0101】
少なくとも1つの流動層は、例えば、一つの外側ゾーンと一つの内側ゾーンとの少なくとも2つの側部ゾーン(lateral zones)を有し、外側ゾーンが内側ゾーンを囲み、外側ゾーンが加熱ゾーンで、内側ゾーンが反応ゾーンであるのが好ましい。あまり好ましくない構成では外側ゾーンが反応ゾーンで、内側ゾーンが加熱ゾーンである。本発明設備は炭化水素供給原料を反応帯域に注入する1つ以上の流体ノズルを備えるのが好ましい。
【0102】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選ばれる1種または複数である。この比率は好ましくは60重量%~100重量%であり、より好ましくは70重量%~100重量%であり、さらにより好ましくは80重量%~100重量%であり、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0103】
本発明の第3の態様から、本発明は第1の態様による少なくとも2つの炭素を有する炭化水素の水蒸気分解方法を実行する、少なくとも1つの流動床反応器における粒子を収容したベッドの使用を提供する。この使用の特徴はベッドの粒子の総重量に対して少なくとも10重量%のベッドの粒子が導電性であり、800℃の温度で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、上記導電体が1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン性物質、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物野中から選ばれる1種または複数から成るか、これらを含む点にある。
【0104】
上記の使用には、例えば、第1の反応器において粒子を含むベッドを500℃~1200℃の範囲の温度に加熱すること、加熱された粒子ベッドを第1の反応器から第2の反応器に輸送すること、炭化水素供給原料を第2の反応器に供給することを含み、好ましくは、少なくとも第2の反応器は流動床反応器であり、および/または、少なくとも第2の反応器は加熱手段を欠いており、より好ましくは、第1反応器および第2反応器は流動床反応器であり、および/または、第1および第2反応器は加熱手段を欠いている。例えば、第2の反応器は電極を欠いている。
【0105】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%がグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選ばれる1種または複数であり、上記比率は好ましくは60重量%~100重量%;より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0106】
本発明の第4の態様によって、本発明は、設備が第2の態様によるものであるという点を特徴とする、水蒸気分解反応を実行するために少なくとも1つの流動床反応器を含む設備の使用を提供する。この設備の使用は第1の態様の方法において水蒸気分解反応を行うために少なくとも1つの流動床反応器の使用であるのが好ましい。
【0107】
本発明の特定の特徴、構造、特性または実施形態は各実施形態において当業者に明らかなように、任意に組み合わせることができ。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1】従来技術を示す図。
図2】加熱ゾーンと反応ゾーンが同じである1つの反応器を示す図。
図3】加熱ゾーンと反応ゾーンが上下に配置された1つの反応器を示す図。
図4】加熱ゾーンと反応ゾーンが互いに横方向に配置されている1つの反応器を示す図。
図5】2つの反応器を備えた設備を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下、本発明の開示のための定義を記載する:
本明細書で使用される用語「含む」、「有する」および「から成る」は「のみ含む」、「のみを有する」または「のみから成る」、「のみから構成される」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、列挙されていない追加の要素または方法、ステップを排除しない。用語「含む」、「有する」および「から成る」には「から構成される」という用語も含まれる。
【0110】
限界値(endpoints)による数値範囲には全ての整数と、必要に応じて、その範囲内に含まれる分数が含まれる(例えば、1~5は、例えば、元素の数を参照する場合には1、2、3、4、5を含み、例えば、測定値を参照する場合には1.5、2、2.75、3.80を含むことができる)。限界値を記載した場合、限界値の値自体も含まれる(例えば1.0~5.0には1.0と5.0の両方が含まれる)。本明細書に記載の任意の数値範囲はそこに包含される全ての部分範囲を含む。
【0111】
従来のスチームクラッカーは複雑な産業施設であり、3つの主要なゾーンに分けることができ、その各々には非常に下記の特殊な機能を備えたいくつかのタイプの機器がある。
(i)クラッキング炉、クエンチ交換器およびクエンチループ、ホット分離トレインのカラムを含むホットゾーン、
(ii)分解ガス圧縮機、精製・分離カラム、乾燥機を含む圧縮ゾーン、
(iii)コールドボックス、脱メタニザー、上記コールド分離トレインの分留カラム、上記C2およびC3コンバータ、上記ガソリン水力安定化反応器を含むコールドゾーン。
【0112】
従来の蒸気分解は管状反応器中で直火ヒーター(炉)の行われる。種々の容器サイズと構成、例えば、コイル状チューブ、U-チューブ、直管のブレイアウトを使用できる。チューブの直径は2.5cm~25cmの範囲で、各炉は廃熱が回収される対流ゾーンと分解が実施される放射ゾーンとで構成されている。
【0113】
本発明は、少なくとも2つの炭素を有する炭化水素の水蒸気分解反応を行う方法を提供する。この本発明方法は以下の工程を含む:
a)少なくとも2つの電極と粒子を収容したベッドとを有する少なくとも1つの流動床反応器を用意する工程と、
b)上記ベッドに流体流を上向きに通過させることで上記ベッドの粒子を流動状態にして流動床を得る工程と、
c)流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱して、炭化水素原料の水蒸気分解反応を行う工程と、
d)必要に応じて行う反応の分解生成物を回収する工程。
【0114】
この方法の特徴は、ベッドの粒子の総重量に対して粒子の少なくとも10重量%が導電性であり、800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、流動層を加熱する工程c)が流動層に電流を流すことによって行われ、ベッドの導電性粒子がグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物野中から選ばれる1種または複数~成るか、または、これらを含む点にある。
【0115】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%、好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%がグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物野中から選ばれる1種または複数から成るか、これらを含むる。
【0116】
上記流体流はガス流および/または蒸気流にすることができる。
【0117】
流動層を加熱する工程は、例えば、流動層に最大300V、好ましくは最大200V、より好ましくは最大150V、さらにより好ましくは最大120V、最も好ましくは最大100V、さらに最も好ましくは最大90Vの電圧の電流を流すことによって行われる。
【0118】
流動床反応器内の固体粒子材料を一般に分配器として知られる多孔質プレート、多孔板、ノズルまたは煙突を備えたプレートによって支持する。次に、分配装置を通って上記流体を上向きに供給し、固体粒子材料間の空隙を通って移動させる。流体速度が低い時は流体が材料内の空隙を通過する間、固体は沈降したままで、充填床反応器として知られる状態にある。流体速度を増加させるにつれて粒子状固体は固体に対する流体の力が固体粒子材料の重量を相殺するのに十分な段階に達する。この段階は初期流動化として知られ、最小流動化速度で発生する。この最小速度を超えると反応器床の内容物は膨張し始め、流動化する。運転条件と固相の特性とに応じて反応器において様々な流動レジームが観察できる。このベッドの膨張を達成するのに必要な最小流動速度は粒子のサイズ、形状、多孔性および密度ならびに上昇流体の密度および粘度に依存する。
【0119】
[非特許文献8](P.R. Gunjal, V.V. Ranade)には、平均粒子に基づいた流動化の4つの異なるカテゴリを流動化レジームを決定するGeldartによって区別されていることが記載されている。
1)タイプA、気泡流動化(aeratable fluidization)(流動化し易い中サイズ、中密度粒子;通常30-100μm、密度~1500kg/m3の粒子);
2)タイプB、砂状流動化(sand-like fluidization)(流動化が困難な重い粒子;通常100~800μmの粒子、1500~4000kg/m3の密度);
3)タイプC、凝集性流動化(cohesive fluidization)(典型的な粉末状固体粒子の流動化;粒子間または凝集力が優勢な微細の粒子(~20μm);
4)タイプD、噴出性流動化(spoutable fluidization)(高密度およびより大きな粒子~1~4mm、高密度および噴出可能)。
【文献】P.R. Gunjal, V.V. Ranade, in Industrial Catalytic Processes for Fine and Specialty Chemicals, (2016)
【0120】
流動化は、均質流動化と不均一流動化の2つのレジームに大別できる(Fluid Bed Technology in Materials Processing, 1999 by CRC Press)。均質流動化または粒子流動化では、粒子は明確な空隙なしに均一に流動化される。不均一流動化またはバブリング流動化(bubbling fluidization)では、固体を含まない気泡がはっきりと観察可能である。これらの空隙は気液流において気泡のように振る舞い、媒体中で上昇しながらサイズと形状が変化しながら、周囲の均質媒体と気体を交換する。粒子流動化ではベッドは多量の粒子の動きでスムーズに膨張し、ベッド表面は明確に定義される。粒子流動化は、ゲルダート-A(Geldart-A)タイプの粒子についてのみ観察される。バブリング流動化レジームは、区別可能な気泡が分配器から成長し、他の気泡と合体し、最終的にベッドの表面で破裂する可能性がある均質流動化よりもはるかに高い速度で観察される。これらの気泡は固体と気体の混合を強め、気泡サイズは流動化速度の上昇とともにさらに大きくなる傾向がある。気泡の直径が反応器の直径まで増加すると、スラッギングレジーム(slugging regime)が観察される。乱流レジームでは泡は成長し、ベッドの拡大とともに崩壊し始める。これらの条件下では、ベッドの上面はもはや区別できない。高速流動化または空気圧流動化では、粒子はベッドから輸送され、反応器にリサイクルする必要がある。明瞭なベッド表面は観察されない。
【0121】
流動床反応器には以下の利点がある。
均一な粒子混合:
固体粒子材料の固有の流体のような挙動によって流動層には充填層のような混合不良がない。半径方向および軸方向の濃度勾配をなくすことで反応効率と品質に不可欠な流体と固体の接触を改善できる。
均一な温度勾配:
多くの化学反応では、熱の追加または削除が必要であるが、流動化状態では反応ベッド内の局所的なホットスポットまたはコールドスポットが回避できる。
【0122】
反応器を連続運転する能力
流動床の性質上、反応器の生成物は連続的に取出すことができ、新しい反応物を反応容器に導入することができる。化学反応の連続運転に加えて、流動性固体粒子材料であるため、流動床は連続的または所定頻度で固体材料を抜き出したり、連続的または所定頻度で新しい新鮮な固体材料を追加できる。電気を熱に変換するのに十分な抵抗率を有する導電性材料(抵抗体)に電流を流すことによって熱を生成することができる。電気抵抗率(resistivity、比電気抵抗または体積抵抗率とも呼ばれ、形状やサイズに依存しない固有特性)とその逆の電気伝導率は電流にどれだけ強く抵抗または伝導するかを定量化する材料の基本的特性である。(電気抵抗率のSI単位はオーム-メートル(Ω-m)であり、導電率(conductivity)はシーメンス/メートル(S/m)である)。
【0123】
十分な抵抗率を有する導電性粒子状固体の固定ベッドに電気が通されると、ベッドは電流の流れに対する抵抗を示す。この抵抗は固体の性質、ベッド内の粒子間結合の性質、ベッドの空隙率、ベッドの高さ、電極の形状などの多くのパラメータに依存する。同じ固定ベッドを通過ガスで流動化させるとベッドの抵抗が増加する。導電性粒子によって与えられる抵抗でベッド内で熱が発生し、ベッドを等温条件に維持することができる(電熱流動床または電気流体反応器と呼ばれる)。多くの高温反応で電気流体反応器は反応中にインサイチュー加熱(in situ heating)を提供し、吸熱反応の操作に特に有用であり、従って、外部加熱または熱伝達が不要で、エネルギーが節約できる。固体微粒子材料の少なくとも一部が導電性であることは前提条件であるが、非導電性の固体微粒子を混合することができ、それでも十分な発熱をさせることができる。このような非導電性または非常に高い抵抗率の固体は化学変換において触媒的役割を果たすことができる。
【0124】
ベッド材料の特性が電熱流動床炉の抵抗を決定する。電荷抵抗タイプの発熱であるため粒子の比抵抗率がベッド抵抗に影響する。粒子のサイズ、形状、組成、およびサイズ分布もベッド抵抗の大きさに影響する。また、ベッドが流動化すると粒子間に生じる空隙によってベッド抵抗が増大する。ベッドの総抵抗は電極接触抵抗(すなわち、電極とベッドと間の抵抗)とベッド抵抗の2つの成分の合計である。大きな接触抵抗が電極近くで広範囲の局所加熱を引き起こすが、ベッドの残りの部分はかなり冷たいままである。接触抵抗を決定するのは次の要因である:電流密度、流動化速度、ベッド材料の種類、電極サイズおよび電極に使用される材料の種類。電極組成物は鉄、鋳鉄または他の鋼合金のような金属、銅または銅ベースの合金、ニッケルまたはニッケルベースの合金または高融点金属、金属間化合物またはZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの合金またはセラミック様炭化物、窒化物または炭素ベースのグラファイトなどであるのが有利である。ベッド材料と電極との接触面積は電極の沈下度合い(submergence)と流動層内の粒子状物質の量に応じて調整できる。従って、これらの変数を調整することで電気抵抗と電力レベルを操作できる。流動床と比較して電極の過熱を防止するために電極の抵抗率(従って、ジュール加熱)は流動床の粒子状材料の抵抗率よりも低くするのが有利である。好ましい実施形態では、より冷たい流体を電極の内側または外側に通過させることによって電極を冷却することができる。そうした流体は加熱で気化する任意の液体、ガス流にすることができ、または、流動床に入る前に低温の供給原料の一部で電極を最初に冷却することができる。
【0125】
ベッド抵抗をオームの法則によって予測できる
流動層における電流移動のメカニズムは低動作電圧で導電性粒子の連続チェーンに沿った電流によって起こると考えられる。高電圧では導電性粒子のチェーンと電極とベッドの間のアーク放電と、ガスをイオン化する可能性のある粒子から粒子へのアーク放電との組み合わせによって電流移動が発生し、それによってベッド抵抗が低下する。ベッド内のアーク放電は原則として、電気的効率と熱的効率を低下させるため望ましくない。ガス速度はベッド抵抗に強く影響し、ガス流量が増加すると沈降ベッドからの抵抗が急激に増加する。初期流動化速度の近くで極大が起こり、その後、速度が高くなると減少する。スラッギングを開始するのに十分なガス流量で抵抗は再び増加する。平均粒径と形状が抵抗に影響し、粒子間の接触点に影響を与える。一般に、ベッドの抵抗率は沈降ベッド(グラファイトの場合は、例えば20オーム.cm)から初期の流動化(グラファイトの場合は60オーム.cm)まで2~5倍に増加し、10~40倍に増加し、沈降ベッドから初期流動化速度の2倍(グラファイトの場合、300オーム.cm)増加する。導電性粒子に非導電性またはそれ以下の導電性粒子を添加することができる。導電性固体の割合が小さい場合、電極間の導電性固体のチェーンの結合が切断されるためベッドの抵抗率が増加する。非導電性固体画分の比率が小さい場合、それは導電性固体間の間隙または空隙を埋め、従って、ベッドの抵抗を増加させる。
【0126】
一般に、所望の高発熱を得るためには低電圧で大電流にするのが好ましい。電源はACまたはDCのいずれかである。電熱流動床に印加される電圧は、通常、100V未満で十分な加熱電力に達する。電熱流動床は、次の3つの方法で制御できる。
1.ガス流量の調整:
ベッドの導電率はベッド内のボイドまたは気泡の程度に依存するため、ガス流量に変化があると電力レベルが変化する。従って、流動化ガス流量を調整することで温度を制御できる。最適性能を得るのに必要な流量は最小流動化速度をわずかに超える速度に対応する。
2.電極沈下度の調整:
ベッドの導電率は導電性粒子と電極との接触面積に依存するため、ベッド内の電極浸漬レベル(electrode immersion level)を変えることによって電力レベルを制御することもできる:電流が流れるために利用可能な電極の表面積は電極の沈下度(submergence)とともに増加し、全体的な抵抗の減少につながる。
3.印加電圧の調整:
上記2つの方法を使用して電力レベルを変更することは印加電圧を上げるよりも手頃な価格または経済的である。しかし、電熱流動層では3つの変数を使用して生成される加熱電力を制御できる。
【0127】
反応器の壁は一般にグラファイト、セラミック(SiCなど)、高融点金属または合金で作られ、これらは用途が広く、工業的に重要な多くの高温反応と互換性がある。反応雰囲気は中性または還元型に制限されることがよくある。酸化雰囲気は炭素材料を燃焼させ、金属や合金の上に非導電性の金属酸化物層を形成する可能性がある。壁および/または分配プレート自体を反応器の電極として機能させることができる。流動固体はグラファイトまたはその他の任意の高融点の導電性粒子にすることができる。通常ベッドに浸される他の電極はグラファイトまたは高融点金属、金属間化合物または合金にすることができる。
【0128】
導電性粒子および/または触媒粒子を、供給原料炭化水素がほとんどまたは実質的に存在せず、希釈ガスのみが存在する反応器の別のゾーンで加熱することで必要な反応熱を発生させるのが有利である。その利点は導電性粒子のベッドに電流を流すことで熱を発生する流動化の適切条件を最適化でき、反応器の他のゾーンのために炭化水素変換中の最適反応条件を選択できることにある。これら最適空隙率と線速度の条件は加熱目的と化学変換目的で異なる場合がある。
【0129】
本発明の一つの実施形態では、本発明設備は、直列に配置された2つのゾーンすなわち加熱ゾーンである第1ゾーンと反応ゾーンである第2ゾーンとを有する。導電性粒子および触媒粒子は第1ゾーンから第2ゾーンへ、または、その逆に連続的に移動または輸送される。第1と第2のゾーンを一つの流動床の異なる部分とすることができ、また、互いに接続された別々の流動床反応器内に配置することもできる。
【0130】
上記実施形態で少なくとも2つの炭素を有する炭化水素の水蒸気分解反応を行う工程は以下の工程を含む:
a)少なくとも2つの電極と粒子を収容したベッドとを有する少なくとも1つの流動床反応器を用意する工程と、
b)上記ベッド中に流動流を上方に通過させることによって粒子を流動状態にして流動床を得る工程と、
c)流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料の水蒸気分解反応を行う工程と、
d)必要に応じて行う、反応の分解生成物を回収する工程。
ここで、ベッドの粒子の全重量に対して粒子の少なくとも10重量%は導電性粒子であり、800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、1種以上の金属合金、1種以上を含むか、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の複合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物、および/または、これらの任意の混合物の中から選択される一種または複数であり、ステップa)で用意される少なくとも1つの流動床反応器は加熱ゾーンおよび反応ゾーンを含み、ステップb)で供給される流体流は加熱ゾーンに供給され、希釈ガスを含み、流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱して炭化水素原料の水蒸気分解反応を行うステップc)は以下のサブステップを含む:
1)少なくとも1つの流動層の加熱ゾーンに電流を流すことによって流動床を500℃~1200℃の範囲の温度に加熱する工程と、
2)加熱粒子を上記加熱ゾーから上記反応ゾーンへ輸送する工程と、
3)反応ゾーンにおいて、炭化水素原料と任意成分の希釈ガスとを含む流体流を反応ゾーンのベッドの上方へ通過させることで流動床を形成し、加熱粒子を流動状態にして炭化水素原料に対して吸熱水蒸気分解反応を行う工程と、
4)必要に応じて行う、反応ゾーンから粒子を回収し、それを加熱ゾーンにリサイクルする工程。
【0131】
じの希釈ガスは、例えば、水蒸気、水素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、窒素およびメタンから選択される1種または2種以上にすることができる。
【0132】
上記の流体流はガス流および/または気化流(vaporized stream)にすることができる。
【0133】
上記の少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、互いに接続された少なくとも2つの流動床反応器であり、この少なくとも2つの流動床反応器の少なくとも1つが加熱ゾーンで、少なくとも2つの流動床反応器の別の少なくとも一つは反応ゾーンである。加熱ゾーンである少なくとも1つの流動床反応器は粒子を加熱ゾーンから反応ゾーンへ輸送するための重力または空気輸送手段を有するのが好ましく、および/または、本発明設備は反応ゾーンである少なくとも1つの流動床反応器に炭化水素供給原料を注入するように配置された手段を有するのが好ましい。本発明設備では、加熱ゾーンである少なくとも1つの流動床反応器へ炭化水素原料を注入する手段を欠いている。
【0134】
少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、単一の流動床反応器であり、加熱ゾーンがその流動床反応器の下部であり、反応ゾーンがその流動床反応器の上部である。本発明設備は炭化水素原料および/または希釈剤を2つのゾーンの間に注入する手段を含むのが好ましい。加熱ゾーンと反応ゾーンの直径を異なるものにして、ボトムゾーンでの加熱に最適な条件とトップゾーンでの炭化水素転化の最適条件を達成することができる。粒子は随伴によって加熱ゾーンから反応ゾーンに移動でき、逆に反応ゾーンから重力によって加熱ゾーンに戻ることができる。オプションでは、粒子を上部加熱ゾーンから収集し、別の移送ラインによって下部加熱ゾーンへ戻すこともできる。
【0135】
工程c)では炭化水素供給原料に対して水蒸気分解反応が行われる。これは炭化水素供給原料が供給されることを意味する。炭化水素供給原料は反応ゾーンに供給され、加熱ゾーンが反応ゾーンから分離されている時には少なくとも2つの炭素を有する炭化水素供給原料が加熱ゾーンには供給しないのが好ましい。反応ゾーンに供給される炭化水素供給原料に加えて、反応ゾーンにスチーム(蒸気)を供給して、反応ゾーン内の推奨蒸気対メタン比に到達させることができるということは理解できよう。加熱ゾーンと反応ゾーンが混在している場合(すなわち同じゾーンの場合)にはステップb)で供給される流体流が炭化水素供給原料を含む。
【0136】
本発明の特定実施形態では、高温粒子材料と供給原料である熱源との間の距離が大母に短くなる。その理由は微粒子のサイズが小さく、蒸気流動流中で微粒子が混合されるためである。これと比べて2.5~25cmの内径を有する典型的なスチームクラッカーコイルでは同じ温度勾配にするために熱が移動しなければならない距離ははるかに長い。
【0137】
粒子を収容したベッド
水蒸気分解反応を実施するのに必要な温度を達成するために、ベッドの粒子の全重量に対して粒子の少なくとも10重量%は導電性であり、800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cm抵抗率を有し、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の複合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数であるか、これらを含む。
【0138】
例えば、ベッドの導電性粒子の全重量に対するベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物野中から選択される1種または複数であり、上記の比率は好ましくは60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0139】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の総重量に対するベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%、好ましくは、60重量%~95重量%、より好ましくは70重量%~90重量%、さらに好ましくは75重量%~85重量%はグラファイトおよび/またはカーボンブラックを含まない。
【0140】
導電性粒子の含有量は、例えば、ベッドの粒子の総重量に対して10重量%~100重量%、好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%、さらにより好ましくは25重量%~80重量%、最も好ましくは30重量%~75重量%である。
【0141】
ベッドの粒子の総重量に対する導電性粒子の含有量は、例えば、ベッドの総重量に対して少なくとも12重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%であるか、または少なくとも40重量%、または少なくとも50重量%、または少なくとも60重量%である。
【0142】
導電性粒子は、例えば、800℃で0.005~400オーム.cm、好ましくは800℃で0.01~300オーム.cm、より好ましくは800℃で0.05~150オーム.cm、最も好ましくは800℃で0.1~100オーム.cmの範囲の抵抗率を有する。
【0143】
導電性粒子は、例えば、800℃で少なくとも0.005オーム.cm、好ましくは800℃で少なくとも0.01オーム.cmは、より好ましくは800℃で少なくとも0.05オーム.cm、さらに好ましくは800℃で少なくとも0.1オーム.cm、最も好ましくは800℃で少なくとも0.5オーム.cmの抵抗率を有する。
【0144】
導電性粒子は、例えば、800℃で最大で400オーム.cm、好ましくは最大で800℃で300オームcm、より好ましくは800℃で最大で200オーム.cm、さらに好ましくは800℃で最大で150オーム.cm、最も好ましくは800℃で最大で100オーム.cmの抵抗率を有する。
【0145】
ベッドの粒子は、例えば、ASTM D4513-11に従った篩分けによって決定される平均粒径が5~300pmの範囲、好ましくは10~200pmの範囲、より好ましくは30~150pmの範囲である。
【0146】
ベッドの導電性粒子は、例えば、ASTM D4513-11に従った篩分けによって決定される平均粒径が5~300μmの範囲、好ましくは10~200μmの範囲、より好ましくは30~150μmの範囲である。
【0147】
電気抵抗はオーム計を用いた4プローブDC法によって測定される。高密度化されたパワーサンプルを円筒形のペレットに成形し、それをプローブ電極間に配置する。抵抗率は測定された抵抗値Rから既知の式ρ=RxA/Lを用いて決定される。ここでLはプローブ電極間距離で、一般に数ミリメートルであり、Aは電極面積である。
【0148】
ベッドの導電性粒子は、電子伝導性、イオン性または混合電子-イオン伝導性を示すことができる。多くの耐火化合物のイオン結合によって拡散を可能が可能になり、従って、電界と適切な温度条件の影響下でイオン伝導が可能になる。
【0149】
電気伝導率sは、電流密度jと電界Eとの比例定数であり、次式で与えられる:
σ=j/E=Σci×Ziq×μi
ここで、ciはi番目の電荷キャリアのキャリア密度(数/cm3)、μiは移動度(cm2/Vs)、Ziqは電荷(q=1.6×1019C)である。金属、半導体、絶縁体の間のσの多くの桁違いの違いは一般にμではなくcの違いに起因する。一方、電子伝導体対イオン伝導体の高い導電率は、一般に電子対イオン種のはるかに高い移動度によるものである。
【0150】
抵抗加熱に使用できる最も一般的な材料は以下の9つのグループに細分される:
(1)1200~1400℃の温度用の金属合金、
(2)炭化ケイ素(SiC)、二珪化モリブデン(MoSh)、ニッケル珪化物(NiSi)、ナトリウム珪化物(NaSi)、マグネシウム珪化物(Mg2Si)、白金珪化物(PtSi)、チタン珪化物(TiSi2)、タングステン珪化物(WSi2)などの非金属抵抗体(1600~1900℃)、
(3)侏儒の最適温度を有する1種以上の低原子価陽イオンがドープされた混合酸化物および/または混合硫化物、
(4)2000℃までのグラファイト、
(5)金属炭化物、
(6)遷移金属窒化物、
(7)金属リン化物、
(8)超イオン伝導体、
(9)リン酸塩電解質。
【0151】
第1グループの1150~1250℃の温度用の金属合金はFe含有量が低い(0.5~2.0%)Ni-Cr合金、好ましくはNi-Cr合金(80%Ni、20%Cr)および(70%Ni、30%Cr)で構成できる。Crの含有量を増やすと材料の高温での耐酸化性が高くなる。第2のグループは3つの成分を有する金属合金で、例えば、Fe-Ni-Cr合金は酸化雰囲気での最高運転温度が1050~1150℃であるが、一般に還元雰囲気で使用でき、Fe-Cr-Al(化学組成:15~30%Cr、2~6%Al、残部Fe)はCrとAlの酸化物の表層によって腐食から保護し、酸化雰囲気で1300~1400℃で使用できる。非金属抵抗体としての炭化ケイ素は広範囲の抵抗率を示すことができ、その合成方法や化学量論的な炭化ケイ素になる不純物、例えば、アルミニウム、鉄、酸化物、窒素、余分な炭素、シリコンなどの存在量によって制御できる。一般に、炭化ケイ素は低温で高い抵抗率を有するが、500~1200℃の範囲で良好な抵抗率を有する。別の実施形態では、非金属抵抗体は炭化ケイ素を欠くことができ、および/または、二珪化モリブデン(MoSi2)、ニッケルシリサイド(珪化物)(NiSi)、ナトリウムシリサイド(Na2Si)、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)、白金シリサイド(PtSi)、チタンシリサイド(TiSi2)、タングステンシリサイド(WSi2)またはこれらの混合物を含むことができる。
【0152】
グラファイトの抵抗値はかなり低く、約600℃まで負の温度係数を有し、その後抵抗率が上昇し始める。
【0153】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた混合酸化物および/または混合硫化物の多くは一般に低温で抵抗率が高すぎ、高温ではイオン伝導体または混合導体になる。酸化物または硫化物は以下の環境下、すなわち、固体中のイオン伝導が原子欠陥の生成および運動の観点で記述され、特に、空孔および格子間の形成および移動度が温度に対して正に依存する場合には、加熱目的に十分な導体にすることができる。このような混合酸化物または硫化物は1種以上の低原子価カチオンがドープされたイオン性または混合導体である。酸化物中のイオン欠陥の形成メカニズムとしては以下の3つが知られている:(1)熱誘発性の固有イオン乱れ(intrinsic ionic disorder)(ショットキー欠陥および非化学量論に起因するフレンケル欠陥ペアー)、(2)レドックス誘発欠陥(Redox-induced defects)および(3)不純物誘発欠陥。最初の2つの欠陥カテゴリは統計熱力学から予測され、後者は電気的中性を満たすたすように形成される。後者の場合、ホストカチオンを低原子価カチオンに置き換えることによって高い電荷キャリヤー密度を誘導することができる。1種以上の低原子価カチオンによる置換によく適したものは蛍石、パイロクロア(pyrochlore)構造またはペロブスカイト(perovskite)構造を有する混合酸化物および/または混合硫化物である。
【0154】
いくつかの副格子無秩序(sublattice disordered)酸化物または硫化物は温度上昇で高いイオン輸送能力を有する。これらはLiAlSiO4、Li10GeP2Si2、Li3.6Si0.60.44、一般式:Na1+xZr2PSix12を有するNaSiCON(ナトリウム(Na)スーパーイオン伝導体、Super Ionic CONductor)(0<x<3)、例えば、Na3Zr2PSi212(x=2)またはナトリウムベースのアルミナ、例えば、NaAl1117、Na1.6Al1117.3および/またはNa1.76Li0.38Al10.6217のような超イオン伝導体である。
【0155】
本質的に絶縁性の固体中に高濃度のイオン性キャリアが誘導され、高欠陥性固体が生成する。その結果、ベッドの導電性粒子は1種以上の低原子価カチオンがドープされたイオン性または混合された伝導体である1種または複数の混合酸化物に成るか、それを含み、および/または、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上のイオン性または混合された1種または複数の混合導体である混合硫化物から成るか、それを含む。
混合酸化物は少なくとも部分的に1種以上の低原子価カチオン、好ましくはSm、Gd、Y、Sc、Yb、Mg、Ca、La、Dy、Er、Euの中から選択される低原子価カチオンで置換された立方晶蛍石構造を有する1種または複数の酸化物、および/または、A位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはCa、SrまたはMgから選択され、B位がNi、Ga、Co、Cr、Mn、Sc、Feおよび/またはこれらの混合物の少なくとも1つを有する1種または複数の三価カチオンA、BのABO3-ペロブスカイト、および/または、1種以上の低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換された二価カチオンAと四価カチオンBのABO3-ペロブスカイト、好ましくはB位がMg、Sc、Y、NdまたはYbから選択されるか、または、B位が異なるB元素の混合物で少なくとも部分的置換されたものか、および/または、A位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはCaまたはMgから選択される低原子価カチオンで置換され、B位にSn、ZrおよびTiの少なくとも1つを有する1種または複数の三価カチオンAと四価カチオンBのA227-パイロクロアから選択するのが好ましい。
【0156】
上記の1種または複数の混合硫化物は、1種以上の低原子価カチオン、好ましくはSm、Gd、Y、Sc、Yb、Yb、Mg、Ca、La、Dy、Er、Euから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換された立方晶蛍石構造を有する1種または複数の硫化物、および/または、A位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはCa、SrまたはMgから選択される低原子価カチオン少なくとも部分的に置換され、B位にNi、Ga、Co、Cr、Mn、Sc、Feおよび/またはそれらの混合物のうちの少なくとも1つを有する三価カチオンA、Bの1種または複数のABS3構造、および/または、B位が1種以上の低原子価カチオン、好ましくはMg、Sc、Y、NdまたはYbから選択される低原子価カチオンで少なくとも部分的に置換されか、B位に異なるB元素の混合物で少なくとも部分的に置換された二価カチオンAと四価カチオンBの1種または複数のABS3構造、および/または、A位が1種以上の低原子価陽イオン、好ましくはCaまたはMgから選択される低原子価陽イオンで少なくとも部分的に置換され、B位にSn、ZrおよびTiの少なくとも1つを有する三価カチオンAと四価カチオンBの1種または複数のA227構造から選択するのが好ましい。
【0157】
上記の1種以上の低原子価陽イオンがドープされる立方晶蛍石構造を有する1種または複数の混合酸化物における置換度は,立方晶蛍石構造を有する1種または複数の酸化物または硫化物、1種または複数の三価カチオンA、BのABO3-ペロブスカイト、二価カチオンAと四価カチオンBのABO3-ペロブスカイトまたは三価カチオンAと四価カチオンBのA227-パイロクロアのそれぞれの中に存在する原子の総数に対して1~15原子%、好ましくは3~12原子%、より好ましくは5~10原子%であるのが好ましい。
【0158】
1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種または複数の混合酸化物における置換度は、1種または複数の三価カチオンA、BのABO3-ペロブスカイト、二価カチオンAと四価カチオンBのABO3-ペロブスカイトまたは三価カチオンAと四価カチオンBのA227-パイロクロアのそれぞれの中に存在する原子の総数に対して1~50原子%、好ましくは3~20原子%、より好ましくは5~15原子%であるのが好ましい。
【0159】
上記の1種以上の低原子価カチオンがドープされた立方晶蛍石構造を有する1種または複数の混合硫化物における置換度は、三価カチオンA、Bの1種または複数のABS3構造、二価陽イオンAと四価の陽イオンBの1種または複数のABS3構造、三価カチオンAと四価のカチオンBの1種または複数のA227構造のそれぞれの構造中に存在する原子の総数に対して1~15原子%、好ましくは3~12原子%、より好ましくは5~10原子%である。
【0160】
上記の1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種または複数の混合硫化物における置換度は、三価カチオンA、Bの1種または複数のABS3構造、
二価陽イオンAと四価陽イオンBの1種または複数のABS3構造、三価カチオンAと四価カチオンBの1種または複数のA227構造のそれぞれの構造中に存在する原子の総数に対して1~50原子%、好ましくは3~20原子%、より好ましくは5~15原子%である。
【0161】
上記の立方晶蛍石構造を有する1種または複数の酸化物、三価カチオンA、Bの1種または複数のABO3-ペロブスカイト、二価カチオンAと四価の陽イオンBの1種または複数のABO3-ペロブスカイトまたは三価カチオンAとの四価カチオンBとを有する1種または複数のA227-パイロクロア、1種または複数の立方晶蛍石構造を有する硫化物、三価カチオンA、Bの1種または複数のABS3構造、、二価カチオンAと四価陽イオンBの1種または複数のABS3構造、少なくとも一部が置換されている三価陽イオンAと四価陽イオンBの1種または複数のA227構造は高原子価陽イオンである同一の元素でありあることを意味し、低原子価当量で還元することができ、例えば、Ti(IV)をTi(lll)に還元でき、および/または、Co(lll)をCo(ll)に還元でき、および/または、Fe(lll)をFe(ll)に還元でき、および/または、Cu(ll)をCu(l)に還元できる。
【0162】
導電性粒子としてLiPO4またはLaPCO4などのリン酸塩電解質を使用することもできる。
【0163】
導電性粒子として金属炭化物、遷移金属窒化物、金属リン化物を選択することもできる。金属炭化物は、例えば、炭化鉄(Fe3C)、炭化モリブデン(MoCとMo2Cの混合物など)から選択される。1種または複数の遷移金属窒化物は、例えば、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化タングステン(W2N、WNおよびWN2)、窒化バナジウム(VN)、窒化タンタル(TaN)および/または窒化ニオブ(NbN)から選択される。1種または複数の金属リン化物は、例えば、リン化銅(CU3P)、リン化インジウム(InP)、リン化ガリウム(GaP)、リン化ナトリウムNa3P)、リン化アルミニウム(AlP)、リン化亜鉛(Zn32)および/またはリン化カルシウム(Ca32)から選択される。
【0164】
本発明の好ましい実施形態では、高温で低い抵抗率しか示さない導電性粒子は、電気による抵抗加熱によって追い越されるまでの十分に高い温度に達する前に外部手段によって加熱することができ、または、抵抗率が十分に低い固体と低温で混合して、結果として混合物の抵抗率が流動床を所望の反応温度に加熱できるようにすることができる。
【0165】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素にするか、それを含む。例えば、ベッドの導電性粒子の総重量に対して導電性粒子の少なくとも10重量%は炭化ケイ素粒子で、800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有する。
【0166】
ベッドの導電性粒子が炭化ケイ素であるか、それを含む実施態様では、流動床反応器で吸熱反応を行う前にガス流で流動床反応器を予備加熱する工程を実施するのが当業者には有利である。このガス流は不活性ガスすなわち窒素、アルゴン、ヘリウム、メタン、二酸化炭素、水素またはスチームの流れであるのが有利である。ガス流の温度は少なくとも500℃または少なくとも550℃または少なくとも600℃または少なくとも650℃または少なくとも700℃または少なくとも750℃または少なくとも800℃または少なくとも850℃または少なくとも900℃にすることができる。ガス流の温度は500℃~900℃の間、例えば、600℃~800℃の間または650℃~750℃の間にすることができる。不活性ガスのガス流を流動化ガスとして用いることもできる。不活性ガスのガス流の予熱は従来の手段、例えば、電気エネルギーを使用しておこなうことができる。ベッドの予熱に使用するガス流の温度は反応温度に達する必要はない。
【0167】
炭化ケイ素の周囲温度での抵抗率は当然高いので、流動床反応器は加熱手段を欠いているのが好ましいが、反応の開始を容易にするために、外部手段によって流動床を加熱するのが有用である。ベッドが所望の温度で加熱された後には高温ガス流の使用は必要ない。
【0168】
しかし、一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子は炭化ケイ素粒子と炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子との混合物から成るか、それを含む。
【0169】
炭化珪素粒子とは異なる導電性粒子がベッド中に存在する場合にも予備加熱工程を用いることができる。例えば、ベッドの粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子中の炭化ケイ素の含有量が80重量%を超える場合、例えば、85重量%以上、例えば、90重量%以上、例えば、95重量%以上、例えば、98重量%以上、例えば、99重量%以上の場合に予備加熱工程を用いることができる。予備加熱工程を用いることができる。しかし、ベッド中の炭化珪素粒子の含有量がある程度あれば予備加熱工程を使用することができる。
【0170】
ベッドの導電性粒子が炭化ケイ素粒子と炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子との混合物であるか、それを含む実施態様では、ベッドの導電性粒子はベッドの導電性粒子の総重量に対して10重量%~99重量%、;好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%、さらにより好ましくは25重量%~80重量%、最も好ましくは30重量%~75重量%の炭化ケイ素粒子を含むことができる。
【0171】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素粒子と炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子との混合物であるか、またはそれを含み、ベッドの導電性粒子はベッドの導電性粒子の総重量に対して少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、さらにより好ましくは少なくとも70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%の炭化ケイ素粒子を含む。
【0172】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子はベッドの導電性粒子の全重量に対して炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子を10重量%~90重量%、好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%、さらにより好ましくは25重量%~80重量%、最も好ましくは30重量%~75重量%の比率で含む。
【0173】
しかし、混合物中の炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子の含有量は低く保つことは重要である。従って、一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子は炭化ケイ素粒子と炭化ケイ素粒子とは異なる導電性粒子の混合物を含むか、または、それらを含み、ベッドの導電性粒子はベッドの導電性粒子の総重量に対して炭化ケイ素とは異なる導電性粒子を1重量%~20重量%、好ましくは、2重量%~15重量%、より好ましくは3重量%~10重量%で、さらにより好ましくは4重量%~8重量%の比率で含む。
【0174】
ベッドの導電性粒子は、例えば、炭化ケイ素粒子と炭化ケイ素粒子とは異なる粒子との混合物であるか、または、それを含み、炭化ケイ素粒子とは異なる粒子はグラファイト粒子であるか、またはそれを含む。
【0175】
従って、一つの実施形態では、導電性粒子は炭化ケイ素粒子とグラファイト粒子との組み合わせである。この導電性粒子は流動床反応器を電気化(electrification)した時に、流動化によって加熱され、反応器内の温度を上昇させ、および/または、維持するのに寄与する。グラファイトのジュール加熱によって反応物および/または流動床反応器内に存在する他の粒子の加熱を加速させることができる。
【0176】
グラファイトは、例えば、鱗片状黒鉛(flake graphite)にすることができる。グラファイトのASTM D4513-11に従った篩分けによって求めた平均粒径は1~400μmの範囲であるのが好ましく、好ましくは5~300μmの範囲、より好ましくは10~200μmの範囲、最も好ましくは30~150μmの範囲である。
【0177】
ベッド中にグラファイト粒子を存在させることで本発明方法を予熱工程有り、または無しで適用でき、好ましくは予熱工程なしで実行できる。事実、グラファイト粒子は流動床反応器の電気化時に加熱され、流動化によって反応器内の所望の温度の上昇および/または維持に寄与することができる。
【0178】
炭化ケイ素粒子
炭化ケイ素は、例えば、焼結炭化ケイ素、窒化結合炭化ケイ素(nitride-bounded silicon carbide)、再結晶炭化ケイ素、反応結合炭化ケイ素(reaction bonded silicon carbide)およびこれらの任意の混合物の中から選択される。
【0179】
焼結SiC(SSiC)は1重量%未満の焼結助剤(典型的にはホウ素)を含有する自己焼結材料である。
【0180】
再結晶炭化ケイ素(RSiC)は添加剤なしの蒸発-凝縮プロセスで焼結された高純度SiC材料である。
【0181】
窒化物結合炭化ケイ素(NBSC)は、微細なシリコン粉末に炭化ケイ素粒子を添加するか、最少量の鉱物添加剤の存在下で窒素炉中で焼結することによって製造される。窒化中に形成される窒化珪素相(S134)によって炭化珪素が結合される。
【0182】
反応結合炭化ケイ素(RBSC)はシリコーン化炭化ケイ素またはSiSiCとしても知られ、多孔質炭素またはグラファイトと溶融シリカとの化学反応で製造される炭化ケイ素の一種である。珪素が炭素と化学反応して炭化ケイ素が作られ、炭化ケイ素粒子を結合する。余分なシリコンが本体内の残りの細孔を埋め、高密度のSiC-Si複合材料を生成させる。シリコンの痕跡量が残っているため反応結合炭化ケイ素はシリコン化炭化ケイ素と呼ばれることがある。このプロセスには反応結合、反応焼結、自己結合または溶融浸透に種々のものが知られている。
【0183】
一般に、高純度SiC粒子は1000オーム.cmを超える抵抗率を有し、焼結、反応結合物および窒化結合物は反応結合および窒化物結合はSiC相中の不純物に応じて100~1000程度の抵抗率を示すことができる。バルクの多結晶SiCセラミックスの電気抵抗率は焼結添加剤や熱処理条件によって幅広い抵抗率を示す(非特許文献9)。高純度のSiCポリタイプはバンドギャップエネルギーが大きいため高い電気抵抗率(>106Q.cm)を有する。しかし、SiCの電気抵抗率は不純物のドーピングの影響を受ける。NとPはn型ドーパントとして作用してSiCの抵抗率を低下させるが、Al、B、GaおよびScはp型ドーパントとして機能する。Be、OおよびVがドープされたSiCは非常に高い絶縁性がある。NはSiCの電気伝導率を向上させるための最も効率的なドーパントと考えられている。(抵抗率を下げるための)SiCのNドーピングの場合、Y23およびY23-REM23(REMは希土類金属=Sm、Gd、Lu)がNドナーを含む導電性SiC粒子を効率的に成長させるための焼結添加剤として使用されている。SiC粒子へのNドーピングは窒化物(AIN、BN、S134、TiNおよびZrN)または窒化物とRe23との組合せ(AlN-REM23)(REM=Sc,Nd,Eu,Gd,HoおよびEr)またはT1N-Y23)の添加で促進される。
【文献】Journal of the European Ceramic Society, Volume 35, Issue 15, December 2015, Pages 4137; Ceramics International, Volume 46, Issue 4, March 2020, Pages 5454)
【0184】
設備(installation)
「底部」および「上部」という用語は設備または流動床反応器の一般的な向きに関連して理解されるべきである。従って、「下」は垂直軸に沿って「上」よりも地面に近い高さを意味する。異なる図において同じ参考文献は同一または類似の要素を示す。
【0185】
図1]は従来技術の流動床反応器1を示し、反応器容器3と、流動化ガスおよび炭化水素原料を導入するための底部流体ノズル5と、オプション要素の材料充填のための入口7と、オプション要素の材料排出のための出口9と、ガス排出口11と、ベッド15と有している。[図1]の流動床反応器1では化石燃料を燃焼させて供給原料を予熱することによって熱が供給される。例えば反応器に流動化ガスおよび炭化水素供給原料を供給するラインの所に配置された加熱手段17を使用して化石燃料を燃焼させる。
【0186】
以下、[図2]~[図5]を参照して本発明の設置を説明する。簡単にするために流動床反応器で使用される内部装置、例えば、当業者に公知の気泡ブレーカー、偏向装置(deflectors)、粒子終端装置(particle termination devices)、サイクロン、セラミック壁コーティング、熱電対などは図示していない。
【0187】
図2]は第1の実施形態の設置を示し、加熱ゾーンと反応ゾーンが同じである流動床反応器19を備えている。この流動床反応器19は反応器容器3と、流動化ガスおよび炭化水素原料を導入するための底部流体ノズル21と、オプションの材料充填用の入口7と、オプションの材料排出用の排出口9と、ガス排出口11とを有している。[図1]の流動床反応器1にはベッド25中に沈められた2つの電極13が示されている。
【0188】
図3]は別の実施形態を示し、少なくとも1つの流動床反応器19が加熱ゾーン27と反応ゾーン29とを有し、加熱ゾーン27が下部ゾーンであり、反応ゾーン29が加熱ゾーン27の上部にある。1つ以上の流体ノズル23が分配器33から反応ゾーンに炭化水素供給原料を供給する。[図3]に示すように、1つまたは複数の流体ノズル23を分配器33に接続して炭化水素原料をベッド25内に分配することができる。
【0189】
図4]はさらに別の実施形態を示し、少なくとも1つの流動床反応器18が少なくとも2つの側部ゾーン(lateral zones)を含む設備を示し、外側ゾーンが加熱ゾーン27で、内側ゾーンが反応ゾーン29である。ベッド25の加熱された粒子は1つ以上の開口部41によって外側ゾーンから内側ゾーンへ移送され、炭化水素供給原料および/またはスチームと混合される。反応ゾーンの終わりに粒子は反応生成物から分離され、加熱ゾーンへ移される。
【0190】
図5]に示す設備は、互いに接続された少なくとも2つの流動床反応器(37、39)を有し、少なくとも1つの流動床反応器は加熱ゾーン27であり、1つの少なくとも1つの流動床反応器は反応ゾーン29である。
【0191】
本発明は水蒸気分解反応を行うプロセスで使用される設備を提供する。この設備は少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)を有し、この流動床反応器は、
1)少なくとも2つの電極13と、
2)反応容器3と、
3)少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)内に流動化ガスおよび/または炭化水素原料を導入するための1種つ以上の流体ノズル(21、23)と、
4)粒子を含むベッド25と、
を有し、ベッド25の粒子の全重量に対してベッドの粒子の少なくとも10重量%は導電性であり、800℃で0.001オーム.cm~500オーム.cmの範囲の抵抗率を有し、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、グラファイト、カーボンブラック、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の中から選択される1種または複数から成るか、これらを含む。
【0192】
一つの実施形態では、ベッドの導電性粒子の全重量に対してベッドの導電性粒子の50重量%~100重量%はグラファイト、カーボンブラック、1種以上の金属合金、1種以上の非金属抵抗体、1種以上の金属炭化物、1種以上の遷移金属窒化物、1種以上の金属リン化物、1種以上の超イオン伝導体、1種以上のリン酸塩電解質、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合酸化物、1種以上の低原子価カチオンがドープされた1種以上の混合硫化物およびこれらの任意の混合物の名から選択される1種または複数であり、上記比率は好ましくは、60重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、さらにより好ましくは80重量%~100重量%、最も好ましくは90重量%~100重量%である。
【0193】
1つの電極は、例えば水没した中心電極であるか、または少なくとも1つの反応器(18、19、37)の反応器容器3内に沈められた2つの電極13である。
【0194】
流動化ガスは、例えば1種または複数の希釈ガスである。
【0195】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)には加熱手段が無い。例えば、少なくとも1つの流動床反応器がオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を欠いている。例えば、全ての流動床反応器がオーブン、ガスバーナー、ホットプレートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される加熱手段を欠いている。好ましい実施形態では、少なくとも2つの電極と粒子を含むベッドとを有する少なくとも1つの流動床反応器が充填物(packing)を欠いている。
【0196】
反応容器3は、例えば、少なくとも100cmまたは少なくとも200cmまたは少なくとも400cmの内径を有している。このような大きな直径にすることで工業的規模、例えば、0.1h-1~100h-1、好ましくは1.0h-1~50h-1、より好ましくは1.5h-1~10h-1、さらに好ましくは2.0h-1~6.0h-1の重量時空間速度(weight hourly space velocity)で反応流の化学反応を実行することができる。重量時空間速度は流動層内の固体粒子材料の質量に対する反応流の質量流量の比として定義される。
【0197】
少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37)は少なくとも2つの電極13を有する。例えば、一つの電極を流動床反応器の外壁と電気的に接続し、一つの追加の電極を流動床25中に沈められるか、両方の電極13を流動床25中に沈めることができる。少なくとも2つの電極13は電気的に接続され、図示しない電源に接続できる。少なくとも2つの電極13はグラファイトからなるのが有利である。電極13が粒子ベッド25よりも導電性が高いのが有利である。
【0198】
少なくとも1つの電極13は、例えば、グラファイトからなるか、またはグラファイトを含み、好ましくは2つの全ての電極13または全部がグラファイトからなる。電極の1つは、例えば反応器容器であり、従って、反応器は2つの電極を有し、その1つは水中中心電極であり、もう1つは反応器容器3である。
【0199】
少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、少なくとも1つの電極を冷却するように配置された少なくとも1つの冷却装置を備えている。
【0200】
流動床反応器の使用時には、最大で300V、好ましくは最大で250V、より好ましくは最大で200V、さらにより好ましくは最大で150V、最も好ましくは最大で100V、さらに最も好ましくは最大で90Vまたは最大で80Vの電位が印加される。
【0201】
電流のパワーは調整できるので反応器床内の温度を調整するのは簡単である。
【0202】
反応容器3はグラファイトにすることができる。一つの実施形態では、反応容器3を炭化ケイ素または炭化ケイ素とグラファイトの混合物である電気抵抗性材料で作ることができる。
【0203】
反応器容器3は耐食性材料である材料で作られた反応器壁を有するのが好ましく、この反応器壁の材料はニッケル(Ni)、SiAlONセラミックス、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、正方晶多結晶ジルコニア(TZP)および/または正方晶ジルコニア多結晶(TPZ)であるのが有利である。SiAlONセラミックスは珪素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)、窒素(N)の元素をベースにしたセラミックである。これは窒化ケイ素(Si3N4)の固溶体であり、Si-N結合は部分的にAl-NおよびAl-O結合に置換されている。
【0204】
反応容器3は、例えば、炭化ケイ素とグラファイトとの混合物の電気抵抗材料で作られる。この反応容器3の電気抵抗材料は電気抵抗性材料の全重量に対して10重量%~99重量%、好ましくは15重量%~95重量%、より好ましくは20重量%~90重量%、さらにより好ましくは25重量%~80重量%、最も好ましくは30重量%~75重量%の炭化ケイ素を含む。
【0205】
例えば、反応容器3は、炭化ケイ素とグラファイトとの混合物である電気抵抗材料からなる。
【0206】
反応槽3は、例えば、導電性ではない。反応槽3は、例えばセラミックス製である。
【0207】
少なくとも1つの流動床反応器(18、19、37、39)は、例えば、加熱ゾーン27および反応ゾーン29と、分配器31から少なくとも加熱ゾーンに流動化ガスを供給する1つ以上の流体ノズル21と、分配器33から反応ゾーンに炭化水素供給原料を供給する1つ以上の流体ノズル23と、オプションの粒子を加熱ゾーン27から反応ゾーン29に輸送する手段41と、オプションの反応ゾーン29から加熱ゾーン27に粒子を輸送する任意の手段35とを有している。
【0208】
図3]に示すように、少なくとも1つの流動床反応器は、例えば、単一の流動床反応器19であり、加熱ゾーン27は流動床反応器19の下部であり、反応帯域29は流動床反応器19の上部であり、本発明設備は2つのゾーン(27、29)の間または反応ゾーン29内に炭化水素供給原料を注入するための1つ以上の流体ノズル23を備えるのが好ましい。流動床反応器19はオプションの材料搬入のための入口7と、オプションの材料排出のための出口9と、ガス排出口11とをさらに有するのが好ましい。流動床反応器19は加熱手段を欠いているのが好ましい。電極13は、例えば、流動床反応器19の底部すなわち加熱ゾーン27に配置される。例えば、流動床反応器19の上部すなわち反応帯域29は電極を欠いている。流動床反応器19はオプションの粒子を反応帯域29から加熱ゾーン27へ戻す手段35、例えば、流動床反応器19の上部と下部との間に配置されたラインを有する。
【0209】
図4]に示すように、本発明設備は、例えば、互いに接続された少なくとも2つの側部流動層ゾーン(27、29)を有し、その少なくとも1つの流動層ゾーン27は加熱ゾーンであり、少なくとも1つの流動層ゾーン29は反応ゾーンである。加熱ゾーン27は、例えば、反応ゾーン29を取り囲んでいる。本発明設備は分配器33によって炭化水素供給原料および/または蒸気を少なくとも1つの反応帯域29に注入するように配置された1つ以上の流体ノズル23を備えているのが好ましい。流動層ゾーン(27、29)はオプションの材料をローディングのための入口7とガス排出口11をさらに備えているのが好ましい。加熱ゾーン27である少なくとも1つの流動床ゾーンおよび/または反応ゾーン29である少なくとも1つの流動層ゾーンは加熱手段を欠いているのが好ましい。反応帯域29である少なくとも1つの流動層ゾーンはオプションの材料排出のための出口9を有する。1つまたは複数の流体ノズル21が分配器31から少なくとも加熱ゾーンに流動化ガスを供給する。加熱された粒子は1つまたは複数の導入装置41によって加熱ゾーン27から反応ゾーン29に輸送され、分離された粒子はダウンカマーを含む1つまたは複数の手段35によって反応ゾーン29から加熱ゾーン27に輸送される。
加熱帯域27用の流動化ガスは不活性希釈剤、例えば、水蒸気、水素、二酸化炭素、メタン、アルゴン、ヘリウムと窒素の中から選択される1種または複数にすることができる。このような構成の場合には加熱ゾーン用の流動化ガスは粒子上に堆積したコークスを燃焼させるための空気または酸素を含むことができる。
【0210】
図5]に示すように、設備は、例えば、互いに接続された少なくとも2つの流動床反応器(37、39)を含み、その流動床反応器37の少なくとも1つのは加熱ゾーン27であり、少なくとも1つの流動床反応器39は反応ゾーン29である。この設備は炭化水素供給原料および/または蒸気を反応帯域29である少なくとも1つの流動床反応器39へ注入するように配置された1つ以上の流体ノズル23を備えているのが好ましい。流動床反応器(37、39)はオプションとして材料供給用の入口7とガス排出口11とをさらに備えている。加熱ゾーン27である少なくとも1つの流動床反応器37および/または反応ゾーン29である少なくとも1つの流動床反応器39は加熱手段を欠いているのが好ましい。例えば、反応帯域29である少なくとも1つの流動床反応器39はオプションの材料排出用の出口9を有する。加熱された粒子は必要に応じて導入装置41を用いて加熱ゾーン27から反応ゾーン29に輸送され、反応ゾーンの後に分離された粒子はデバイス35を用いて反応ゾーンから加熱ゾーンに戻される。加熱ゾーン用の流動化ガスとしては不活性希釈剤、例えば、水蒸気、水素、二酸化炭素、メタン、アルゴン、ヘリウム、窒素から選ばれる1種または複数を用いることがでる。この構成では、加熱ゾーン用の流動化ガスは粒子から堆積したコークスを燃焼させるために空気または酸素を含むこともできる。
【0211】
加熱ゾーン27である少なくとも1つの流動床反応器37は、例えば、少なくとも2つの電極13を備え、それに対して反応ゾーン29である少なくとも1つの流動床反応器39には電極が無い。
【0212】
少なくとも2つの流動床反応器(37、39)は、例えば、粒子を加熱ゾーン27から反応ゾーン29に輸送するのに適した手段41、例えば、1つまたは複数のラインによって互いに接続されている。
【0213】
少なくとも2つの流動床反応器(37、39)は、例えば、粒子を反応ゾーン29から加熱ゾーン27に戻すのに適した手段35、例えば、1つまたは複数のラインによって互いに接続されている。
【0214】
スチームクラッキング反応
一つの実施形態では、水蒸気分解(スチームクラッキング)反応は触媒組成物を必要としない。例えば、水蒸気分解反応は500℃~1200℃、好ましくは700℃~1000℃の範囲の温度で行われる。例えば、水蒸気分解反応は、0.1MPa~1.0MPa、好ましくは0.1MPa~0.5MPaの間の圧力で行われる。
【0215】
水蒸気分解反応は反応流の存在下で0.1h-1~100h-1、好ましくは1.1.0h-1~50h-1、より好ましくは1.5h-1~10h-1、さらに好ましくは2.0h-1~6.0h-1の反応流の重量時空間速度で行われる。
【0216】
温度が500~1200℃である反応器の流動床セクションでの炭化水素供給原料の滞留時間は0.005~1.0秒、好ましくは0.01~0.6秒、より好ましくは0.1~0.3秒の範囲であるのか有利である。このような短い滞留時間は二次反応を回避し、従って、コークスの形成および堆積を防止するのに有利である。
図1
図2
図3
図4
図5