(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】硬質皮膜が被覆された被覆部材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20241031BHJP
B23B 27/14 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C23C14/06 F
B23B27/14 A
(21)【出願番号】P 2019144892
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】龍田 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179709(WO,A1)
【文献】特開2008-297171(JP,A)
【文献】特開2006-037158(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235750(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に
中間層を有することなく、硬質皮膜が被覆された被覆部材であって、
前記硬質皮膜は実質的に水素を含まないDLC皮膜であって、前記基材側から
皮膜表面側に向かってsp
3結合/(sp
2結合+sp
3結合)で定義されるsp
3比率が
線形的かつ周期的に増減していること、
前記sp
3比率の極大値の平均値が0.7~0.9であること、
前記sp
3比率の極小値の平均値が0.4~0.6であること、
前記極大値の平均値と前記極小値の平均値との差が0.2~0.5であること、
前記基材の表面の算術表面粗さをR
a1、前記硬質皮膜の表面の算術表面粗さをR
a2としたとき、R
a2とR
a1の差R
a2-R
a1が10nm以下であること、
を特徴とする被覆部材。
【請求項2】
前記周期の平均値が15~500nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆部材。
【請求項3】
前記硬質皮膜の厚さが350~2000nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜に対して高い密着性と平滑性が要求される切削工具、摺動部材、金型、自動車部品等の用途に、特に、切削工具の用途に、好適なDLC皮膜を含む硬質皮膜を被覆された部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DLC(Diamond-Like Carbon)皮膜は、ダイヤモンド構造(sp3構造)とグラファイト構造(sp2構造)とが混在するアモルファス炭素皮膜であって、高硬度で優れた耐摩耗性を有しているため、切削工具、摺動部材、金型、自動車部品等の皮膜として広く用いられている。
【0003】
DLC皮膜は、特に金属材料との親和性が乏しく、また、非常に高い圧縮応力を有するために基材との密着性が悪く剥離しやすいという問題がある。そのため、中間層を設けることによって密着性を改善することが検討されている。しかし、中間層を用いた場合、複数の原料を使用するために製造工程が煩雑になる他、また中間層によりDLC皮膜と基材の界面の密着性のみを強化しても、そもそもDLC皮膜の高い圧縮応力が緩和できなければ、厚膜化した際に膜が剥離する可能性がある。そこで、この圧縮応力を緩和すべく、硬いDLC皮膜と軟らかいDLC皮膜を交互に積層した構造とすることが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、断面を明視野TEM像により観察したとき、相対的に白で示される白色の硬質炭素層(軟質層)と、黒で示される黒色の硬質炭素層(硬質相)とが厚み方向に交互に積層されて1μmを超え、50μm以下の総膜厚を有しており、前記白色の硬質炭素層は、厚み方向に扇状に成長した領域を有していることを特徴とするDLC皮皮膜が記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、基材の摺動面側に形成された金属中間層と、該金属中間層上に形成され、第1の炭素膜と第2の炭素膜とが交互に積層されてなる積層炭素膜と、該積層炭素膜上に形成された硬質炭素膜と、を有し、前記第1の炭素膜の透過型電子顕微鏡の明視野観察における像が、前記第2の炭素膜の透過型電子顕微鏡の明視野観察における像よりも明るく、前記第1の炭素膜の厚さをT1、前記第2の炭素膜の厚さをT2として、T2が10nm超え1000nm以下であり、T1/T2が0.010以上0.60以下であることを特徴とするDLC皮膜が記載されている。
【0006】
さらに、例えば、特許文献3には、硬度の異なる2種類の層が複数層積層(但し、2層のみ積層される場合を除く)された積層皮膜であり、前記2種類の層の硬度差は500~1700HVで、硬度の高い層が硬度の低い層の厚さと同一又はそれ以上の厚さを有し、皮膜全体の厚さが5.0μm以上であるDLC皮膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6273563号公報
【文献】特開2017-53435号公報
【文献】特許第5977322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載されたDLC皮膜は、膜内に扇形の析出物があるために膜が平滑でないという問題がある。また、特許文献2、3では、硬質DLC皮膜と軟質DLC皮膜との界面で膜が剥離する恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は前記課題を解決し、中間層を有することなく、切削工具、摺動部材、金型、自動車部品等に求められている平滑さを有し、基材に対する密着性を高めたDLC皮膜を被覆した部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、切削工具、摺動部材、金型、自動車部品等に求められている平滑なDLC皮膜の密着性を高めるために鋭意検討を行った。
その結果、実質的に水素を含有せず、基材側から表面側に向かってsp3比率が連続的かつ周期的に増減しているDLC皮膜を成膜することにより、平滑さを有し、圧縮応力を緩和して耐剥離性を高め、厚膜でかつ硬度が高く、耐摩耗性に優れる硬質皮膜を得ることができるという新規な知見を得た。
【0011】
すなわち、本発明はこの知見に基づくものであって、以下のとおりのものである。
「(1)基材の上に中間層を有することなく、硬質皮膜が被覆された被覆部材であって、
前記硬質被膜は実質的に水素を含まないDLC皮膜であって、前記基材側から皮膜表面側に向かってsp3結合/(sp2結合+sp3結合)で定義されるsp3比率が線形的かつ周期的に増減していること、
前記sp3比率の極大値の平均値が0.7~0.9であること、
前記sp3比率の極小値の平均値が0.4~0.6であること、
前記極大値の平均値と前記極小値の平均値との差が0.2~0.5であること、
を特徴とする被覆部材。
(2)前記周期の平均値が15~500nmであることを特徴とする前記(1)に記載の被覆部材。
(3)前記硬質皮膜の厚さが350~2000nmであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の被覆部材。」
【発明の効果】
【0012】
本発明の硬質皮膜が被覆された被覆部材は、平滑であって、高い密着性と耐摩耗性を有しているから、より高い加工能率と工具寿命を持つ切削工具、長寿命の摺動部材、金型、自動車部品等を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】DLC皮膜及びグラファイトのπ*、σ*ピークの位置を示す模式図である。
【
図2】硬質皮膜のsp
3比率が連続的かつ周期的(周期数は2)に増減しているDLC皮膜であることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の硬質皮膜について、より詳細に説明をする。なお、本明細書、特許請求の範囲において、数値範囲を「X~Y」のように表現する場合、その範囲は上限および下限の数値を含む(すなわち、X以上Y以下)ものとし、Xに単位の記載がなくYにのみ単位の記載がなされているときは、Xの単位はYの単位と同じである。
【0015】
1.基材
基材は被覆部材の用途に応じて選択されるものであって、特に限定されず、鋼、超硬合金、Ti系合金、Al系合金、Cu系合金、セラミックス、樹脂材料が例示できる。鋼としては、構造用炭素鋼・合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼などがあげられる。
【0016】
2.硬質皮膜
硬質皮膜は、実質的に水素を含まず、基材から表面側に向かって、後述するsp3結合/(sp2結合+sp3結合)で表されるsp3比率が連続的かつ周期的に増減するDLC皮膜である。
特許請求の範囲及び本明細書の記載において、sp
3
比率が「周期的に増減する」とは、sp
3
比率が「それぞれ半分の周期で最大値から最小値へ減少し、最小値から最大値へ増加する」または「それぞれ半分の周期で最小値から最大値へ増加し、最大値から最小値へ減少する」という変化を1回以上繰り返すことをいう。
【0017】
(1)sp
3比率
sp
3比率であるsp
3結合/(sp
2結合+sp
3結合)は、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:ELLS)を用いて基材と硬質皮膜の界面部分から硬質皮膜の表面までライン分析を行いsp
2結合由来のピークの積分強度、sp
3結合由来のピークの積分強度を測定して、算出する。
炭素系材料のEELSスペクトルに関しては、
図1に示すように、285eV付近にsp
2結合に由来する1s→π*のピーク、290~300eV付近にかけてsp
2結合とsp
3結合に由来する1s→σ*の双方が重なったピークが観測される。このため、sp
3結合に由来する1s→σ*のみの強度を取り出すために、sp
2結合のみで構成される材料であるグラファイトを基準試料として用いる。
285eV付近に見られるグラファイトのピークの積分強度をG
π*、DLCのピークの積分強度をD
π*、290~300eV付近にかけて見られるグラファイトのピークの積分強度をG
σ*、DLCのピークの積分強度をD
σ*とすると、sp
3比率は次の式で算出することができる。
sp
3比率=1-(D
π*/D
σ*)/(G
π*/G
σ*)
【0018】
(2)sp3比率の連続的かつ周期的な変化
硬質皮膜において、その厚さ方向にsp3比率は連続的かつ周期的に増減している。ここで、連続的かつ周期的に増減するとは、sp3比率の増加領域と減少領域が交互に存在することをいう。そして、このsp3比率の増減の変化をグラフに描き、その変化の平均した直線を算出し、この直線がsp3比率の増減の変化のグラフを横断する領域ごとに極大値と極小値を求める。ここで、この直線は、直線と繰り返し変化を示す曲線に囲まれた領域の面積が直線の上側と下側とで等しくなるように引いたものである。なお、sp3比率は所定の間隔で測定される不連続の測定点の集合であるため、前記極大値および極小値は、数学で定義されるものではなく、増加から減少に転じる測定点の値を極大値、減少から増加に転じる測定点の値を極小値としている。
【0019】
そして、この極大値の平均が0.7~0.9、極小値の平均が0.4~0.6であることが好ましい。その理由は、以下のとおりである。
極大値の平均を0.7~0.9とする理由は、sp3比率が0.7未満の場合、十分な膜の強度が得られず、外力が加わった際に膜が破損する可能性があるほか、耐溶着性が悪くなり、一方、0.9を超える場合、応力が高く、付着強度が低下するためである。
極小値の平均を0.4~0.6とする理由は、0.4未満の場合、十分な膜の強度が得られず、外力が加わった際に膜が破損する可能性があり、一方、0.6を超える場合、膜全体が硬くなってしまい、応力緩和効果や衝撃緩和効果が得られなくなるためである。
【0020】
ここで、極大値の平均と極小値の平均との差は、0.2~0.5であることが好ましい。その理由は、極大値の平均と極小値の平均との差が0.2未満である場合、十分な応力緩和効果が得られず、付着強度が低下してしまい、一方、0.5を超える場合、膜内にsp3比率の低い部分が存在するため、外力が加わった際に膜が破損する可能性があるためである。
【0021】
また、sp3比率の増減の周期の平均は15~500nmであることが好ましい。その理由は、15nm未満であると、明確な周期構造が形成されず、耐摩耗性および耐溶着性が低い硬質皮膜となるためであり、一方、500nmを超えると、十分な応力緩和効果および衝撃緩和効果が得られなくなるためである。
ここで、前記周期とは、隣接する極大値同士、極小値同士の間隔である。
【0022】
(3)硬質皮膜の膜厚
硬質皮膜の厚さは、用途に依存するところはあるが、350~2000nmであることが好ましい。その理由は、この範囲にあると十分な応力緩和効果、衝撃緩和効果および耐剥離効果が得られやすいためである。
【0023】
(4)明視野TEM像
硬質皮膜は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて薄膜化したものを、明視野の透過型電子顕微鏡(Trasmission Electron Microscope:TEM)で観察すると、sp
3比率が低い部分は白色に、高い部分は黒色となる。そのため、本発明の基材側から表面側に向かってsp
3比率が連続的かつ周期的に増減している硬質皮膜は、
図2に模式的に示すような明視野TEM像では白色部分と黒色部分が周期的に存在することが視認できる。
【0024】
(5)硬質皮膜の押し込み硬さ
硬質皮膜の押し込み硬さ、すなわち、ナノインデンテーション硬さは、50~80GPaが望ましい。その理由は、硬さを考慮しなければならない切削工具として用いた場合に、50GPa未満であると十分な耐摩耗性および耐溶着性が得られなくなるためであり、一方、80GPaを超えると、高い圧縮応力により皮膜が剥離してしまう恐れがあるためである。
なお、ナノインデンテーション硬さとは、ステージ上に置かれた試料にダイヤモンド圧子を押し込み、荷重-変位曲線を得て試料の持つ抵抗力からナノメートルスケールで硬さを求めるものである。
【0025】
(6)硬質皮膜の表面粗さ
硬質皮膜の表面粗さは用途に依存するところがあるが、一例を挙げるならば、基材表面の算術表面粗さをRa1、硬質皮膜表面の算術表面粗さをRa2としたとき、Ra2とRa1の差Ra2-Ra1は10nm以下であることが好ましい。その理由は、Ra2-Ra1が10nmを超えると、外力が加わった際に膜が破損する恐れがあるほか、工具や金型用として用いた場合に、相手材の凝着が生じる恐れがあるためである。
【0026】
3.製造方法
硬質皮膜は、例えば、PVD法(AIP:Arc Ion Plating)を用い、硬質皮膜の成膜開始時の基材に印加するバイアス電圧を-100Vとし、半分の周期に相当する時間でバイアス電圧が-500~0Vの間の-100V近傍を除く任意の電圧とし、さらに、同じ時間で再び前記-100Vに戻し、この操作を1回以上繰り返すことにより製造することができる。あるいは、硬質皮膜の成膜開始時の基材に印加するバイアス電圧を-500~0Vの間の-100V近傍を除く任意の電圧とし、半分の周期に相当する時間でバイアス電圧を-100Vとし、さらに同じ時間で再び前記-500~0Vの間の-100V近傍を除く任意の電圧に戻し、この操作を1回以上繰り返すことによっても製造することができる。なお、電圧の変化の態様は、線形(変化率を一定)にするなど、sp3比率の増減の周期的な変化を与えるものであれば制約がない。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の被覆部材を切削工具として用いた実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0028】
1.基材
本実施例では、基材として、WC超硬合金を使用した。
【0029】
2.硬質皮膜の成膜
グラファイトをターゲットとしたAIPの一種であるFAD(Filterd Arc Deposition)により、超硬チップ(ISO規格のSNGN120408)に硬質皮膜を成膜した。バイアス電圧の変化を表1に示す。すなわち、同表のバイアス範囲の欄の左側に記載されているバイアス電圧を成膜開始時のバイアス電圧とし、前記欄の右側に記載されているバイアス電圧まで1周期の成膜時間の半分の時間(バイアス昇降速度)で変化させ、再び、同じ時間(同じバイアス昇降速度)で前記成膜開始時のバイアス電圧にし、この操作を所定回数(バイアス昇降を行った回数)繰り返した。バイアス電圧は、線形(変化率を一定)に変化させた。
得られた本発明被覆部材(本発明例)1~9の積層数、硬質皮膜(DLC皮膜)のsp3比率の極小値・極大値の平均、平均周期、厚さを、本実施例では以下のように求め、結果を表2に示す。
【0030】
硬質皮膜のsp3比率の極小値・極大値の平均は、次のようにして求めた。すなわち、EELSを用い、ビームスポット1nm、1nmステップで基材と硬質皮膜の界面部分から硬質皮膜の表面までライン分析を行い、このライン分析の結果を行い、このライン分析の結果を点状に表したグラフを作成し、該グラフ上の各点をもとに補完処理を行うことなく、減少から増加に転じる極小値の平均値、増加から減少に転じる極大値の平均値を求めた。
硬質皮膜の厚さに関しては、TEM(倍率50000倍)において、基材表面に水平な方向長さが1μmを超える観察視野における膜の断面積を、基材表面に水平な方向長さで割ることによって求めた。
また、周期数に関しては、EELSのライン分析で得られたsp3比率の極大値および極小値を数え、両者のうちの少ない方を周期数とした。平均周期は、前記の方法で求めた硬質皮膜の厚さを、周期数で割ることによって求めた。
【0031】
また、硬質皮膜および基材の算術表面粗さに関しては、触針探査計を用いて、以下の測定条件で硬質皮膜表面の任意の箇所を測定し得られた値の平均値を算出することで求めた。
測定回数:3回
触針半径:2μm
測定長さ:1mm
測定速度:0.1mm/s
【0032】
本実施例において、ナノインデンテーション硬さは、以下の測定条件で硬質皮膜表面の任意の箇所を測定し得られた値の平均値を算出することで求めた。
測定点:20点
圧子形状:バーコビッチ(稜間角115°)
押込み荷重:0.98mN
押込み時間:10秒
保持時間:1秒
除荷時間:10秒
【0033】
比較のために、硬質皮膜の成膜条件を調整して本発明で規定する事項を満足しない比較被覆部材(比較例)1~5を成膜した。これら比較例1~5についても、本発明例1~9と同様に、硬質皮膜のsp3比率の極大値と極小値のそれぞれの平均、厚さ、算術表面粗さ、および、ナノインデンテーション硬さを求め、結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
次に、本発明および比較例の被覆部材に対して、超硬チップ(ISO規格のSNGN120408)を使用して以下の切削試験を行い、溶着面積と剥離の有無を調べた。結果を表3に示す。
【0037】
湿式切削試験
切削方式:旋削加工
被削材:アルミニウム合金(A6063)
切削速度:1000m/分
送り:0.4mm
切り込み深さ:1mm
切削試験時間:10秒
【0038】
【0039】
表3から明らかなように、本発明で規定する事項を満足する硬質皮膜を有する実施例1~9の被覆部材は、平滑であって、密着性に優れ、さらに、耐溶着性にも優れることから摩擦特性も良いといえ、より高い加工能率と長い工具寿命を持つ切削工具として使用できる。また、この被覆部材は、摺動部材、金型、自動車部品等とすることができることは明らかである。
一方、本発明で規定する事項を満足していない硬質皮膜を有する比較例1~5の被覆部材は、高い加工能率と工具寿命を持つ切削工具としての用途に供することは難しく、また、摺動部材、金型、自動車部品の用途に供することも困難であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の被覆部材は、高い加工能率と長い工具寿命を持つ切削工具、摺動部材、金型、自動車部品の用途に供することができ、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。