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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】浴槽装置
(51)【国際特許分類】
   A47K 3/20 20060101AFI20241031BHJP
   A61H 33/00 20060101ALI20241031BHJP
   A47K 3/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A47K3/20
A61H33/00 A
A47K3/00 Z
A47K3/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021001802
(22)【出願日】2021-01-08
(65)【公開番号】P2022107101
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】東 賢輔
(72)【発明者】
【氏名】市川 由有
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】坪井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】宇野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】榎 将剛
(72)【発明者】
【氏名】神出 真緒
(72)【発明者】
【氏名】石井 悠和
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-062557(JP,A)
【文献】特開2007-313150(JP,A)
【文献】特開2003-225276(JP,A)
【文献】特開2002-291834(JP,A)
【文献】特開2017-194212(JP,A)
【文献】特開2000-126057(JP,A)
【文献】特開平08-228947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/00、3/02-4/00
F24H 15/196
A61H 33/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置であって、
湯水を貯留するための浴槽本体と、
入浴中の入浴者の身体温度を検出又は推定する身体温度検出部と、
この身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度に基づいて、温感刺激モード又は涼感刺激モードを選択する制御部と、
この制御部によって温感刺激モードが選択された場合には、上記浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも高い温感刺激を入浴者に与え、涼感刺激モードが選択された場合には、上記浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置と、
を有することを特徴とする浴槽装置。
【請求項2】
上記制御部は、上記身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度の上昇が所定の第1温度増分以上である場合には、涼感刺激モードを選択し、上記身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度の上昇が所定の第2温度増分以下である場合には、温感刺激モードを選択する請求項1記載の浴槽装置。
【請求項3】
上記身体温度検出部は、上記浴槽本体に設けられた電極により、入浴者の心電信号を取得するように構成され、取得された心電信号に基づいて入浴者の身体温度を推定する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【請求項4】
さらに、入浴者が上記浴槽本体の中に入った後の経過時間を検出する計時部と、上記浴槽本体内に貯留されている湯水の温度を検出する浴槽温度センサと、を有し、上記身体温度検出部は、上記計時部によって検出された経過時間、及び上記浴槽温度センサによって検出された湯水の温度に基づいて入浴者の身体温度を推定する請求項1乃至3の何れか1項に記載の浴槽装置。
【請求項5】
さらに、入浴者の操作に基づいて涼感刺激モード又は温感刺激モードを設定可能なモード設定操作部を有し、上記身体温度検出部は、入浴者が上記モード設定操作部を操作した時点における入浴者の身体温度を検出又は推定し、上記制御部は、検出又は推定された身体温度に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードの設定条件を補正した補正設定条件を決定し、この補正設定条件に基づいて涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択する請求項1乃至4の何れか1項に記載の浴槽装置。
【請求項6】
さらに、上記補正設定条件を記憶する記憶装置と、入浴者を識別する入浴者識別装置と、を有し、上記制御部は、上記入浴者識別装置によって識別された入浴者について記憶された補正設定条件に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択する請求項5記載の浴槽装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽装置に関し、特に、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入浴者の安全な入浴のために、入浴により上昇する入浴者の体温を推定し、入浴者がのぼせたり、体調を崩したりするのを防止する浴槽システムが、従来から知られている。特開2005-58299号公報(特許文献1)には、入浴者の心拍波形を検出する心拍波形検出手段と、心拍波形の変化に基づいて入浴者の体温が上昇したか否かを判定する体温判別手段とを備えた浴室システムが記載されている。この浴室システムにおいては、入浴者の体温が上昇したことが判定された場合に、浴室内に送風を行ったり、浴槽内の湯水に冷水を加えたりすることにより、入浴者の体温を低下させている。
【0003】
一方、特開2018-121851号公報(特許文献2)には、加温ヒータを備えた浴槽装置が記載されている。この浴槽装置においては、加温ヒータから与える熱量を調整することにより、入浴者の体内温度及び温感を快適な範囲に収まるようにして、長時間快適な入浴ができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-58299号公報
【文献】特開2018-121851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献1記載の発明においては入浴者の安全を確保する事ができ、特許文献2記載の発明においては入浴者に快適さを与えることができる。しかしながら、特許文献2記載の発明では、熱くも寒くもなく、不快でない快適性である消極的快適性(Comfort)を与えることはできるが、入浴者に与える刺激温度が体温の程度に応じて変化することにより入浴者が心地よく感じる快適性である積極的快適性(Pleasantness)を与えることはできない。これに対して、本件発明者らは、入浴により上昇する入浴者の体温を利用して、積極的快適性を追及した入浴体験を入浴者に提供することを試みた。
【0006】
本件発明者らは鋭意研究を重ね、入浴者に与える刺激温度が適切な体温でなければ理想的な積極的快適性を与えることができないことが明らかとなった。例えば、入浴者の体温が十分に上昇していない状態において、入浴者の体温を急峻に低下させるような刺激温度を与えた場合、入浴者が快適さを感じることなく、むしろ強い不快感を与えてしまう。また、特許文献2記載の発明においては、加温部により入浴者に温感刺激を与えているものの、体内温度に応じて快適な温感範囲に熱量を調整するのみである。即ち、特許文献2記載の発明においては、加温部により入浴者に温感刺激を与えているものの、入浴者の体温状態に応じて急峻な刺激温度変化を与えることによる積極的快適性を与えるには至っていない。
【0007】
本発明は、この技術課題を解決するために為されたものであり、入浴者の身体温度に基づいて適切な温感刺激又は涼感刺激を入浴者に与えることにより、入浴者に積極的快適さを与えることができる浴槽装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置であって、湯水を貯留するための浴槽本体と、入浴者の身体温度を検出又は推定する身体温度検出部と、この身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度に基づいて、温感刺激モード又は涼感刺激モードを選択する制御部と、この制御部によって温感刺激モードが選択された場合には、浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも高い温感刺激を入浴者に与え、涼感刺激モードが選択された場合には、浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置と、を有することを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明においては、身体温度検出部により、入浴者の身体温度が検出又は推定され、制御部は、入浴者の身体温度に基づいて、温感刺激モード又は涼感刺激モードを選択する。温冷熱装置は、温感刺激モードが選択された場合には、浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも高い温感刺激を入浴者に与え、涼感刺激モードが選択された場合には、浴槽本体に貯留された湯水の温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える。ここで、温感刺激とは、入浴者が快適に温感を感じる熱刺激であり、涼感刺激とは、入浴者が快適に涼しいと感じる熱刺激であることが好ましい。
【0010】
このように構成された本発明によれば、温感刺激モードが選択された場合に、浴槽内の湯水温度よりも高い温感刺激が与えられ、涼感刺激モードが選択された場合に、湯水温度よりも低い涼感刺激が与えられるので、入浴者に積極的快適さを与えることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、制御部は、身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度の上昇が所定の第1温度増分以上である場合には、涼感刺激モードを選択し、身体温度検出部によって検出又は推定された入浴者の身体温度の上昇が所定の第2温度増分以下である場合には、温感刺激モードを選択する。
【0012】
このように構成された本発明によれば、身体温度の上昇が第1温度増分以上である場合には涼感刺激モードが選択され、身体温度の上昇が第2温度増分以下である場合には温感刺激モードが選択されるので、入浴者が涼感刺激を欲しているか、温感刺激を欲しているかを適切に判断することができ、入浴者に積極的快適さを与えることができる。ここで、身体温度の上昇とは、入浴開始時、または平時の身体温度に基いた身体温度の変化を指す。
【0013】
本発明において、好ましくは、身体温度検出部は、浴槽本体に設けられた電極により、入浴者の心電信号を取得するように構成され、取得された心電信号に基づいて入浴者の身体温度を推定する。
【0014】
このように構成された本発明によれば、浴槽本体に設けた電極により取得された心電信号に基づいて入浴者の身体温度が推定されるので、入浴者に負担をかけることなく、浴槽本体内の湯水に浸かった入浴者の身体温度を適正に推定することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、さらに、入浴者が浴槽本体の中に入った後の経過時間を検出する計時部と、浴槽本体内に貯留されている湯水の温度を検出する浴槽温度センサと、を有し、身体温度検出部は、計時部によって検出された経過時間、及び浴槽温度センサによって検出された湯水の温度に基づいて入浴者の身体温度を推定する。
【0016】
このように構成された本発明によれば、身体温度検出部が、計時部によって検出された経過時間、及び浴槽温度センサによって検出された湯水の温度に基づいて入浴者の身体温度を推定するので、計時部及び浴槽温度センサにより、簡便に入浴者の身体温度を推定することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、入浴者の操作に基づいて涼感刺激モード又は温感刺激モードを設定可能なモード設定操作部を有し、身体温度検出部は、入浴者がモード設定操作部を操作した時点における入浴者の身体温度を検出又は推定し、制御部は、検出又は推定された身体温度に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードの設定条件を補正した補正設定条件を決定し、この補正設定条件に基づいて涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択する。
【0018】
このように構成された本発明によれば、入浴者が操作により涼感刺激モード又は温感刺激モードを設定した時点における入浴者の身体温度に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードの設定条件が補正されるので、入浴者の好みに沿ったより良い涼感刺激又は温感刺激を与えることができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、補正設定条件を記憶する記憶装置と、入浴者を識別する入浴者識別装置と、を有し、制御部は、入浴者識別装置によって識別された入浴者について記憶された補正設定条件に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択する。
【0020】
このように構成された本発明によれば、入浴者識別装置によって識別された入浴者について記憶された補正設定条件に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードが選択されるので、浴槽装置を使用する個々の入浴者の好みに沿った涼感刺激又は温感刺激を与えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の浴槽装置によれば、入浴者の身体温度に基づいて適切な温感刺激又は涼感刺激を入浴者に与えることにより、入浴者に積極的快適さを与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態による浴槽装置を設置した浴室全体を示す斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態による浴槽装置における吐水装置への湯水の供給系統を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている電極の構造を示す断面図である。
図4】本発明の第1実施形態による浴槽装置の電極及び各温度センサにより取得された信号の処理を示すブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態による浴槽装置の作用を示すフローチャートである。
図6】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、吐水装置からの吐水が開始された場合における吐水温度の変化を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、入浴者の身体温度の推定、及び温感刺激又は涼感刺激の選択手順を示すフローチャートである。
図8】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、負電極及び正電極により取得された心電波形の一例を示す図である。
図9】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、平時心拍数推定の一例を示す図である。
図10】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、入浴中における入浴者の心拍数及び深部体温の変化の一例を示す図である。
図11】本発明の第1実施形態による浴槽装置において、涼感刺激を与えるべき基準の補正を説明する図である。
図12】本発明の第2実施形態による浴槽装置の全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による浴槽装置を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による浴槽装置を設置した浴室全体を示す斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態による浴槽装置における吐水装置への湯水の供給系統を示す図である。図3は、本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている電極の構造を示す断面図である。図4は、本発明の第1実施形態による浴槽装置の電極及び各温度センサにより取得された信号の処理を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の第1実施形態の浴槽装置1は、浴槽本体2と、この浴槽本体2に取り付けられた負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cと、電極によって取得された信号を処理する制御部6と、を有し、浴室R内に設置される。さらに、浴槽装置1は、浴槽本体2の上縁に設けられた温冷熱装置である吐水装置8と、浴槽本体2内の湯水を吐水装置8及び浴槽吐水口9aから吐出させる循環装置9と、を有する。また、浴室Rの壁面には、リモコン6aが取り付けられており、このリモコン6aにより、浴槽装置1の吐水装置8や、循環装置9を操作できるようになっている。さらに、本実施形態において、浴槽装置1は、浴室Rの一側に、壁面に接するように配置されている。
【0025】
本実施形態の浴槽装置1は、入浴者が吐水装置8を作動させることにより、浴槽本体2内に貯留されている湯水よりも温度の高い湯水又は温度の低い湯水が吐水装置8から吐出され、入浴者に温感又は涼感を与えることができるように構成されている。また、本実施形態において、浴槽装置1は、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cによって取得された心電信号に基づいて入浴者の身体温度又は身体温度の変化を推定し、これに基づいて温感又は涼感を選択して、吐水装置8から吐出させる湯水の温度を設定するように構成されている。
【0026】
浴槽本体2は、平面視において略長方形の箱形に形成され、内部に湯水を貯留するように構成されている。本実施形態においては、浴槽本体2は、その1つの長辺、及びその両側の2つの短辺全体が、浴室Rの内壁面に接するように配置されている。また、浴槽本体2の一方の短辺を構成する内壁面は、入浴者が寄りかかるように形成された第1の内壁面である背もたれ面2aとして構成されている。また、浴室Rの内壁面に接していない側の浴槽本体2の長辺には、エプロン2bが着脱可能に取り付けられている。
【0027】
吐水装置8は、浴槽本体2の背もたれ面2aの上部に設けられ、浴槽本体2の内方に向けて湯水を吐出するように構成されている。本実施形態において、吐水装置8は、背もたれ面2a上縁に沿って延びる扁平で幅広な吐水口8aを備えており、背もたれ面2aに寄りかかった入浴者の首、肩、背中に向けて湯水を吐出するように構成されている。また、吐水装置8は、循環装置9によって浴槽取水口9bから引き込まれた湯水の一部を吐水口8aから吐出させるように構成されている。このため、浴槽本体2内の湯水は、循環装置9によって吸い込まれ、吐水口8aから吐出されて浴槽本体2内に流入するように循環する。さらに、循環装置9によって浴槽取水口9bから引き込まれた湯水の一部は、浴槽本体2の背もたれ面2aに設けられた浴槽吐水口9aからも吐出される。
【0028】
また、本実施形態において、吐水装置8の吐水口8aは扁平で幅広に形成されているため、吐水口8aから吐出された湯水は、幅の広い帯状の水膜となって吐出され、浴槽本体2内に貯留された湯水の水面において、背もたれ面2aから離れた位置に着水する。さらに、本実施形態において、吐水装置8はポンプ(図示せず)による加圧強度を、「強」、「中」、「弱」の3段階に切り替え可能に構成されている。
【0029】
負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内に貯留された湯水を介して入浴者の心電信号を検出するために、浴槽本体2に取り付けられた一組の電極である。入浴者の心電信号は、これらの負電極4aと正電極4bの間の電位差の信号として取得される。負電極4a及び正電極4bからなる一組の電極は、何れも浴槽本体2の短辺を構成する背もたれ面2a上に配置されている。また、基準電極4cは、負電極4a及び正電極4bによって検出される電位の基準電位を取得するための電極であり、この電極も浴槽本体2の背もたれ面2a上に配置されている。
【0030】
また、負電極4a及び正電極4bは、背もたれ面2aの水平方向(幅方向)の中心線の左右に、中心線に対して左右対称の位置に配置されている。即ち、負電極4a及び正電極4bは、背もたれ面2a上に中心線から左右方向に夫々離間して配置されており、本実施形態においては、負電極4aと正電極4bは、水平方向に約380mm離間して配置されている。さらに、負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内の水面よりも下側に位置するように、浴槽本体2の底面から約300mmの高さ位置に夫々配置されている。負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内の水面よりも下側であり、基準電極4cよりも上側の高さ位置に取り付けることができる。
【0031】
一方、基準電極4cは、背もたれ面2aの中心線上に、負電極4a及び正電極4bよりも下方に配置されている。本実施形態において、基準電極4cは、浴槽本体2内の水面よりも下側に位置するように、浴槽本体2の底面から約150mmの高さ位置に配置されている。また、基準電極4cは、必ずしも備えられていなくても良く、省略することもできる。
【0032】
次に、図2を参照して、吐水装置8への湯水の供給系統を説明する。
まず、図2に示すように、循環装置9は、浴槽本体2の内壁面に設けられた浴槽取水口9bから浴槽本体2内の湯水を吸い込み、吐水装置8の吐水口8aから浴槽本体2内に湯水を吐出させるように構成されている。また、浴槽取水口9bから吸い込まれた湯水の一部は、浴槽本体2の背もたれ面2aに設けられた浴槽吐水口9aから吐出される。具体的には、循環装置9は、浴槽取水口9bから湯水を吸い込み、吐水口8a及び浴槽吐水口9aから吐出させるポンプにより構成されている。
【0033】
一方、吐水装置8に対しては、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水を供給する高温湯水供給管40a、及び浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも低い温度の水を供給する低温湯水供給管40bからも湯水及び水が供給される。即ち、浴槽取水口9bから吸い込まれ、循環装置9によって加圧された湯水、高温湯水供給管40aから供給された湯水、及び低温湯水供給管40bから供給された水は、何れも混合室44に導かれ、ここで混合されて吐水装置8の吐水口8aから吐出される。なお、容積の大きな特別な混合室を設けることなく、高温湯水供給管40aからの湯水と、低温湯水供給管40bからの水を管路内で合流させ、混合させることもできる。
【0034】
また、高温湯水供給管40a、低温湯水供給管40bは、夫々、高温側リニアバルブ42a、低温側リニアバルブ42bを介して混合室44に接続され、各供給管から混合室44に流入する湯水又は水の量を制御できるようになっている。さらに、本実施形態においては、高温湯水供給管40aに対しては、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水が、給湯器52から供給される。即ち、上水道54から供給された水道水は、分岐部54aにおいて分岐され、一方が給湯器52に供給され、他方は低温湯水供給管40bに直接流入する。給湯器52に供給された水道水は、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度に加熱され、高温湯水供給管40aに供給される。
【0035】
これにより、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水を吐出させる場合には、高温側リニアバルブ42aが開かれ、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と高温湯水供給管40aから供給された湯水が混合室44において混合され、吐水装置8から吐出される。一方、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも低い温度の湯水を吐出させる場合には、低温側リニアバルブ42bが開かれ、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と低温湯水供給管40bから供給された水道水が混合室44において混合され、吐水装置8から吐出される。
【0036】
さらに、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度は、浴槽本体2に取り付けられた浴槽温度センサ46によって検出される。また、吐水装置8から吐出すべき湯水の温度は、吐水装置8に取り付けられた吐水温度センサ48によって検出される。さらに、高温湯水供給管40aから流入する湯水の温度は、高温側温度センサ50aによって検出され、低温湯水供給管から流入する水の温度は、低温側温度センサ50bによって検出される。なお、高温側温度センサ50a及び低温側温度センサ50bは、省略することもできる。なお、各湯水及び水の温度について、検出するとしているが、各センサから得られたデータに基づき、各湯水及び水の温度を推定しても良い。
【0037】
これらの温度センサによって検出された温度は制御部6に送られ、制御部6は、これらの検出温度に基づいて、高温側リニアバルブ42a及び低温側リニアバルブ42bの開度を制御し、所要の温度の湯水を吐水装置8から吐出させる。即ち、制御部6は、吐水温度センサ48によって検出される温度が所要の温度となるように、高温側リニアバルブ42a及び低温側リニアバルブ42bの開度を制御する。制御部6による制御の詳細については後述する。
【0038】
次に、図3を参照して、各電極の構造を説明する。
なお、ここでは、負電極4aの構造を説明するが、本実施形態においては、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cは、何れも同一の構造を有する。
【0039】
図3に示すように、負電極4aは、電極部10と、前面パッキン12aと、背面パッキン12bと、フランジ14と、防湿チューブ16と、接続端子18と、固定ネジ20と、導線22と、シース24と、を有する。負電極4aは、浴槽本体2の背もたれ面2aの表面に露出するように取り付けられ、負電極4aと背もたれ面2aとの間の水密性がパッキンにより確保されている。
【0040】
電極部10は、導電金属製の部品であり、円板状に形成された円板部10aと、この円板部10aの背面から垂直に突出する軸部10bから構成されている。円板部10aは薄い円板状の部分であり、この円板部10aの前面が、背もたれ面2aの表面に露出し、電位を検出するように構成されている。即ち、本実施形態においては、円板部10aは、直径約15mm、厚さ約2.5mmに形成されており、この円板部10a全体が背もたれ面2aの表面上に配置されている。軸部10bは、円板部10aの背面中央から直角に延びる丸棒状の部分であり、背もたれ面2aに形成された貫通穴を通って、背もたれ面2aの裏側に突出している。また、軸部10bの中間部には雄ネジ山が形成され、先端部には接続端子18を固定するための固定部が形成されている。
【0041】
前面パッキン12aは、ゴム製の円板状の部材であり、中央には、電極部10の軸部10bを通すための円形穴が形成されている。前面パッキン12aは、電極部10の円板部10aとほぼ同一の直径を有し、円板部10aの背面側に配置される。負電極4aが背もたれ面2aに取り付けられた状態では、前面パッキン12aが、円板部10aの背面と背もたれ面2aの表面の間に挟まれ、背もたれ面2aと負電極4aの間の水密性が確保されている。
【0042】
背面パッキン12bは、ゴム製の円板状の部材であり、中央には、電極部10の軸部10bを通すための円形穴が形成されている。背面パッキン12bは、前面パッキン12aよりも大きい、フランジ14の大径部とほぼ同一の直径を有し、背もたれ面2aの背面側に配置される。負電極4aが背もたれ面2aに取り付けられた状態では、背面パッキン12bが、背もたれ面2aの背面とフランジ14の端面の間に挟まれ、背もたれ面2aの裏側の表面と負電極4aの間の水密性が確保されている。なお、前面パッキン12a及び背面パッキン12bは、樹脂製であっても良い。
【0043】
フランジ14は、大径部及び小径部からなる段付きの円柱状の部材であり、中心には、電極部10の軸部10bを貫通させるための雌ネジ山が形成されている。フランジ14の大径部は、背面パッキン12bとほぼ同一の直径に形成され、小径部は、大径部の背面側に形成されている。フランジ14を貫通するように形成された雌ネジ山と、電極部10の軸部10bに形成された雄ネジ山を螺合させ、締め付けることによって、フランジ14の大径部側の端面により、背面パッキン12bが背もたれ面2aの背面に押し付けられ、水密性が確保される。
【0044】
防湿チューブ16は、ゴム製の細長いチューブであり、電極部10の軸部10b先端や、接続端子18、導線22等を覆うように配置される。防湿チューブ16の先端には、フランジ14の小径部が嵌め込まれ、防湿チューブ16内への湿気の侵入が防止される。なお、防湿チューブ16は、樹脂製であっても良い。
【0045】
接続端子18は導電金属製の部品であり、導線22の先端に圧着接続されている。接続端子18の先端部には、固定ネジ20を通すための穴が設けられており、この穴を通った固定ネジ20を、電極部10の軸部10b先端に設けられた雌ネジに螺合させることにより、接続端子18を電極部10に固定することができる。これにより、電極部10と導線22を、着脱自在に電気的に接続することができる。
【0046】
導線22は、電極部10と制御部6(図1)を電気的に接続するための導電線であり、負電極4aから制御部6まで延びている。また、導線22には、絶縁材料製のシース24が被せられ、導線22の電気絶縁性が確保されている。本実施形態においては、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cから夫々延びる導線22が制御部6に接続され、心電信号が制御部6に入力される。
【0047】
次に、図4を参照して、制御部6の構成を説明する。
制御部6は、各電極、及び各温度センサが接続される電気回路であり、浴槽本体2の背もたれ面2aの背面側に配置されている。負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cによって取得された心電信号は制御部6に入力され、これに基づいて入浴者の身体温度が推定される。また、浴槽温度センサ46、吐水温度センサ48、高温側温度センサ50a、及び低温側温度センサ50bによって検出された温度も制御部6に入力される。制御部6は、推定された入浴者の身体温度に基づいて吐水装置8から吐出させる湯水の温度を設定し、各温度センサの検出温度に基づいて、吐出させる湯水の温度を制御するように構成されている。
【0048】
具体的には、制御部6は、循環装置9、高温側リニアバルブ42a、及び低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、吐水装置8から吐出される湯水の温度が設定温度になるように制御する。このように、制御部6は、吐水温度センサ48によって検出される温度が所定温度となるように、高温湯水供給管40a又は低温湯水供給管40bから湯水又は水を流入させることにより、浴槽温度センサ46によって検出された温度よりも高い温度又は低い温度の湯水を、吐水装置8から吐出させるように構成されている。
【0049】
さらに、図4に示すように、制御部6は、差動増幅回路26と、フィルタ回路28と、増幅回路30と、A/Dコンバータ32と、を有し、これらの回路が筐体6bの中に内蔵されている。さらに、制御部6には、入浴者の身体温度を推定する身体温度検出部34と、各温度センサから入力された検出信号及び推定された身体温度に基づいて、吐水温度を設定する吐水温度設定部36と、設定温度の湯水が吐水装置8から吐出されるように、制御信号を出力する制御信号出力部38と、が内蔵されている。具体的には、身体温度検出部34、吐水温度設定部36、及び制御信号出力部38は、マイクロプロセッサ、メモリ、これらを作動させるソフトウェア、インターフェイス回路(以上図示せず)等から構成されている。
【0050】
ここで、各電極から延びる導線22や、これらの導線22が接続される制御部6は、何れも、浴槽本体2の背もたれ面2aの裏側の空間に収容されている。図1に示すように、背もたれ面2aの裏側の空間は、浴槽本体2のエプロン2bを取り外すことにより、浴室Rの洗い場側からアクセスすることができる。このため、浴槽本体2のエプロン2bを取り外すだけで、各電極や制御部6の調整、修理等のメンテナンスを容易に行うことができる。即ち、負電極4a、正電極4b、基準電極4c、及び制御部6を、アクセスしやすい空間に集約的に配置することにより、メンテナンス性を高めることができる。
【0051】
図4に示すように、差動増幅回路26は、負電極4a及び正電極4bから夫々延びる導線22が接続される増幅回路であり、負電極4aと正電極4bの間の差電圧を増幅するように構成されている。
フィルタ回路28は、差動増幅回路26によって増幅された差電圧が入力され、ハムなどの不要な周波数帯域の成分を除去し、必要な周波数帯域の信号成分を通過させるように構成されている。
増幅回路30は、フィルタ回路28によって、ハムなどの不要な周波数帯域成分が除去された信号が入力され、入力された信号を増幅するように構成されている。また、基準電極4cから延びる導線22は、差動増幅回路26、フィルタ回路28、及び増幅回路30のグラウンドに接続される。
【0052】
A/Dコンバータ32は、増幅回路30によって増幅されたアナログ信号を、ディジタル信号に変換するように構成されている。
身体温度検出部34は、負電極4a及び正電極4bによって検出され、A/Dコンバータ32によってディジタル信号に変換された入浴者の心電信号に基づいて、入浴者の身体温度を推定するように構成されている。心電信号に基づいて入浴者の身体温度を推定する方法については後述する。なお、本実施形態においては、入浴者の身体温度として、入浴者の深部体温が身体温度検出部34により推定される。ここで、深部体温とは、入浴者の身体の内部の温度を意味し、通常、舌下温、直腸温、鼓膜温等が深部体温として測定される。しかしながら、入浴者の深部体温と湯水に浸かっていない部分の皮膚温度等との間には一定の相関関係が存在するので、入浴者の皮膚温度を身体温度として本発明を構成することもできる。
【0053】
吐水温度設定部36は、まず、身体温度検出部34によって推定された入浴者の身体温度に基づいて、入浴者に温感を与えるべきか、涼感を与えるべきかを判断するように構成されている。入浴者に温感を与える場合には、吐水温度として浴槽温度センサ46によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度が吐水温度設定部36により設定される。一方、入浴者に涼感を与える場合には、吐水温度として浴槽温度センサ46によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度が吐水温度設定部36により設定される。
【0054】
制御信号出力部38は、吐水温度センサ48によって検出される吐水温度が、吐水温度設定部36によって設定された設定温度になるように、循環装置9、高温側リニアバルブ42a、及び低温側リニアバルブ42bを制御するように構成されている。即ち、浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度の湯水を吐出させる場合には、低温側リニアバルブ42bを閉弁させ、高温側リニアバルブ42aを開弁させる。これにより、浴槽取水口9bから吸い込まれた湯水と、高温湯水供給管40aから供給された湯水が混合室44で混合され、浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度の湯水が、吐水装置8から吐水される。一方、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度の湯水を吐出させる場合には、高温側リニアバルブ42aを閉弁させ、低温側リニアバルブ42bを開弁させる。これにより、浴槽取水口9bから吸い込まれた湯水と、低温湯水供給管40bから供給された水道水が混合室44で混合され、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度の湯水が、吐水装置8から吐水される。
【0055】
また、浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度の湯水を吐出させる場合には、浴槽温度センサ46、吐水温度センサ48、及び高温側温度センサ50aの検出温度に基づいて、循環装置9により循環される湯水の流量、及び高温側リニアバルブ42aの開度が、制御信号出力部38により設定される。一方、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度の湯水を吐出させる場合には、浴槽温度センサ46、吐水温度センサ48、及び低温側温度センサ50bの検出温度に基づいて、循環装置9により循環される湯水の流量、及び低温側リニアバルブ42bの開度が、制御信号出力部38により設定される。
【0056】
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第1実施形態による浴槽装置1の作用を説明する。
図5は、本発明の第1実施形態による浴槽装置1の作用を示すフローチャートである。図6は、本発明の第1実施形態による浴槽装置1において、吐水装置8からの吐水が開始された場合における吐水温度の変化を示す図である。
【0057】
図5に示すフローチャートは、制御部6による制御を示すフローであり、浴槽装置1の作動中において、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS1においては、入浴者によりリモコン6aが操作されたか否かが判断される。即ち、吐水装置8を作動させるための操作が、入浴者により為されたか否かが判断され、操作があった場合にはステップS2に進み、操作されていない場合には図5に示すフローチャートの1回の処理を終了する。
【0058】
次に、ステップS2においては、各温度センサからの検出信号が制御部6に読み込まれる。具体的には、浴槽本体2内に貯留されている湯水の温度が浴槽温度センサ46から読み込まれ、高温湯水供給管40aに供給されている湯水の温度が高温側温度センサ50aから読み込まれ、低温湯水供給管40bに供給されている水道水の温度が低温側温度センサ50bから読み込まれる。また、負電極4aと、正電極4bの間の電位差の信号が、入浴者の心電信号として、制御部6に読み込まれる。
【0059】
次いで、ステップS3においては、負電極4a及び正電極4bによって取得された心電信号に基づいて、制御部6の身体温度検出部34により入浴者の体温が推定される。ステップS3における身体温度の推定については後述する。
【0060】
さらに、ステップS4においては、吐水装置8から吐出させるべき湯水に対して、制御部6の吐水温度設定部36により、温感刺激モード又は涼感刺激モードが設定されているか否かが判断される。即ち、ステップS3において推定された入浴者の体温に基づいて、入浴者が温感を与えられることを欲していると判断された場合には、入浴者に温感を与えるために、吐水温度設定部36により温感刺激モードが自動的に設定される。一方、ステップS3において推定された入浴者の体温に基づいて、入浴者が涼感を欲していると判断された場合には、入浴者に涼感を与えるために、吐水温度設定部36により涼感刺激モードが自動的に設定される。温感刺激モード又は涼感刺激モードが設定されている場合にはステップS5に進み、何れのモードも設定されていない場合にはステップS8に進む。ステップS8において、制御部6の制御信号出力部38は、循環装置9に制御信号を送り、浴槽本体2内の湯水を、そのまま吐水装置8の吐水口8aから吐出させて、図5に示すフローチャートの1回の処理を終了する。なお、推定された入浴者の体温に基づく温感刺激モード又は涼感刺激モードの設定については後述する。
【0061】
ここで、温感刺激モードにおいては、浴槽温度センサ46によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度の湯水が吐出され、涼感刺激モードにおいては、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度の湯水が吐出される。後述するように、本実施形態においては、温感刺激モードが設定されている場合には、浴槽温度センサ46によって検出された温度よりも高い吐水温度が設定され、涼感刺激モードが設定されている場合には、浴槽温度センサ46によって検出された温度よりも低い吐水温度が設定される。好ましくは、温感刺激モードにおいて、浴槽本体2内の湯水の温度よりも相対温度が約2℃以上高い温度、かつ絶対温度が45℃以下に吐水温度を設定し、涼感刺激モードにおいて、浴槽本体2内の湯水の温度よりも相対温度が約2℃以上低い温度、かつ絶対温度が水道水の温度以上高い吐水温度を設定する。
【0062】
さらに、ステップS5においては、設定されたモードが温感刺激モードであるか否かが判断され、温感刺激モードである場合にはステップS6に進み、温感刺激モードでない(涼感刺激モードである)場合にはステップS7に進む。
【0063】
ステップS6において、制御部6の制御信号出力部38は、循環装置9及び高温側リニアバルブ42aに制御信号を送り、浴槽本体2内の湯水よりも温度の高い湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させて、図5に示すフローチャートの1回の処理を終了する。即ち、制御信号出力部38は、吐水温度センサ48によって検出される吐水温度が、温感刺激モードとして設定されている吐水温度となるように、循環装置9及び高温側リニアバルブ42aを制御する。
【0064】
まず、制御信号出力部38は、循環装置9を作動させることにより、浴槽本体2内の湯水を浴槽取水口9bから吸い込み、吸い込んだ湯水の一部を浴槽吐水口9aから吐出させ、残りの湯水を混合室44に送り込む。さらに、制御信号出力部38は、高温側リニアバルブ42aに制御信号を送り、これを開弁させることにより、高温湯水供給管40aから供給された湯水を、混合室44に流入させる。ここで、高温湯水供給管40aから供給される湯水は、給湯器52により、浴槽本体2内に貯留されている湯水よりも高い温度に加熱されている。このため、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と、高温湯水供給管40aから供給された湯水を混合室44で混合することにより、浴槽本体2内の湯水よりも温度の高い湯水を、吐水装置8から吐出させることができる。
【0065】
また、高温湯水供給管40aから供給される湯水の温度は、高温側温度センサ50aにより検出されており、循環装置9により混合室44に流入される湯水の温度及び流量も既知である。このため、制御信号出力部38は、混合室44で混合された後の湯水を所定の温度にするために必要な、高温湯水供給管40aからの湯水の流入量を予め計算することが可能であり、これに基づいて高温側リニアバルブ42aの開度を制御する。このように、高温湯水供給管40aから供給される湯水の温度を高温側温度センサ50aによって検出することにより、吐水口8aから実際に吐出される湯水の温度を速やかに目標温度に一致させることができる。
【0066】
一方、ステップS5において、涼感刺激モードが設定されていた場合には、ステップS7に進む。ステップS7において、制御部6の制御信号出力部38は、循環装置9及び低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、浴槽本体2内の湯水よりも温度の低い湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させて、図5に示すフローチャートの1回の処理を終了する。即ち、制御信号出力部38は、吐水温度センサ48によって検出される吐水温度が、涼感刺激モードとして設定されている吐水温度となるように、循環装置9及び低温側リニアバルブ42bを制御する。
【0067】
まず、制御信号出力部38は、循環装置9を作動させることにより、浴槽取水口9bから吸い込んだ湯水の一部を浴槽吐水口9aから吐出させ、残りの湯水を混合室44に送り込む。さらに、制御信号出力部38は、低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、これを開弁させることにより、低温湯水供給管40bから供給された水を、混合室44に流入させる。ここで、低温湯水供給管40bには上水道に直接接続されているため、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と、低温湯水供給管40bから供給された水道水を混合することにより、浴槽本体2内の湯水よりも温度の低い湯水を、吐水装置8から吐出させることができる。
【0068】
また、低温湯水供給管40bから供給される湯水の温度は、低温側温度センサ50bにより検出されているので、制御信号出力部38は、混合室44で混合された後の湯水を所定の温度にするために必要な、低温湯水供給管40bからの水道水の流入量を予め計算して低温側リニアバルブ42bの開度を制御する。このように、低温湯水供給管40bから供給される湯水の温度を低温側温度センサ50bによって検出することにより、吐水口8aから実際に吐出される湯水の温度を速やかに目標温度に一致させることができる。
【0069】
また、図6に示すように、制御信号出力部38は、ステップS6、S7において、吐水装置8の吐水口8aから吐出させる湯水の目標温度を、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度から、所定の勾配で上昇又は下降させるように構成されている。即ち、制御信号出力部38は、ステップS6において、高温側リニアバルブ42aの開度を、所定の遷移時間Tの間にゼロから所定の開度まで少しずつ増大させ、図6の実線に示すように、吐水口8aから吐出される湯水の温度を温感刺激モードとして設定されている所定温度まで上昇させる。即ち、高温側リニアバルブ42aの開度をゼロから少しずつ増大させることにより、高温湯水供給管40aから混合室44に流入する高温の湯水の流量を増大させ、吐出される湯水の温度を浴槽本体2内の湯水の温度から少しずつ上昇させる。
【0070】
同様に、制御信号出力部38は、ステップS7において、低温側リニアバルブ42bの開度を、所定の遷移時間Tの間にゼロから所定の開度まで少しずつ増大させ、図6の破線に示すように、吐水口8aから吐出される湯水の温度を涼感刺激モードとして設定されている所定温度まで低下させる。即ち、低温側リニアバルブ42bの開度をゼロから少しずつ増大させることにより、低温湯水供給管40bから混合室44に流入する水道水の流量を増大させ、吐出される湯水の温度を浴槽本体2内の湯水の温度から少しずつ低下させる。このように、本実施形態においては、吐水装置8からの湯水の吐出温度が、浴槽本体2内の湯水の温度から、所定の勾配で上昇又は下降されるので、吐水温度を急激に変化させることにより、入浴者に不快な温感・冷感を感じさせるのを防止することができる。なお、本実施形態において、遷移時間Tは約2Secに設定されており、これにより入浴者に心地良い温感刺激又は涼感刺激を与えることができる。好ましくは、吐水温度の変化が約1℃/Sec~約2℃/Secになるように遷移時間Tを設定する。或いは、遷移時間Tは設定しなくても良い(遷移時間T=0)。
【0071】
吐水装置8の吐水口8aから吐出された湯水は、入浴者の首、肩、背中に直接当たり、温感刺激又は涼感刺激が入浴者に与えられる。また、入浴開始後、ある程度時間が経過すると、入浴者の皮膚温は浴槽本体2内の湯水の温度とほぼ等しくなるが、吐水装置8から吐出される湯水は、浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度又は低い温度に設定されているため、入浴者に確実に温感刺激又は涼感刺激を与えることができる。
【0072】
ここで、吐水口8aから吐出された湯水と入浴者の皮膚の間で流れる熱流束は、湯水と皮膚の間の温度差に比例する。この湯水と皮膚の間の熱流束を規定する比例定数kは、空気と皮膚の間の熱流束を規定する比例定数よりも数百倍大きく、湯水と皮膚の間の熱伝達率は極めて大きくなり、入浴者に速やかに熱を与え、又は入浴者から熱を奪うことができる。また、湯水を入浴者に当てることにより、入浴者は全身が湯水で包容され、固体を介して熱を伝える場合に比べ効果的に入浴者に温感刺激又は涼感刺激を与えることができる。本実施形態においては、温度刺激を与える媒体として湯水を使用しているが、これに限られず、例えば、比例定数kを大きくするために流速を大きくした空気媒体や、形状を人体に合わせた固体媒体を用いて温度刺激を与えることもできる。
【0073】
さらに、人体の首、肩、背中には、温度受容器や血管が集まっており、そこに吐水口8aからの湯水を当てることにより、温冷感や温度変化を効果的に入浴者に与えることができる。また、浴槽本体2の内壁面に設けた浴槽吐水口9aから吐出させた場合、吐出された湯水は入浴者に当たるまでに浴槽内の湯水の温度に近くなるのに対し、浴槽本体2上方の吐水装置8から吐出された湯水は、ほぼ吐出された温度で入浴者に当たる。このため、吐水装置8からの吐水により、入浴者に効果的に温度刺激を与えることができる。
【0074】
さらに、本実施形態においては、吐水装置8からの吐水と同時に、浴槽吐水口9aからも湯水を吐出させているので、吐水装置8から吐出された湯水が、浴槽本体2内で攪拌、対流され、吐水装置8からの湯水による温度変化を入浴者の身体全体に波及させることができる。また、変形例として、循環装置9と浴槽吐水口9aとの間に、リモコン6aからの制御信号に基づいて開閉可能な開閉弁(図示せず)を設けておき、浴槽吐水口9aからの湯水の吐出の有無を切り替えられるように本発明を構成することもできる。
【0075】
次に、図7乃至図11を参照して、入浴者の身体温度の推定、及び温感刺激モード又は涼感刺激モードの選択の手順を説明する。
図7は、入浴者の身体温度の推定、及び温感刺激モード又は涼感刺激モードの選択手順を示すフローチャートである。図8は、負電極4a及び正電極4bにより取得された心電波形の一例を示す図である。図9は、平時心拍数推定の一例を示す図である。図10は、入浴中における入浴者の心拍数及び深部体温の変化の一例を示す図である。図11は、涼感刺激を与えるべき基準の補正を説明する図である。
【0076】
図7に示すフローチャートによる処理は浴槽装置1の作動中において、制御部6により、所定の時間間隔で繰り返し実行される。なお、本実施形態において、温感刺激モード及び涼感刺激モードは、リモコン6aに設けられたモード設定操作部(図示せず)を操作することにより、手動で設定することもできる。図7のフローチャートは、温感刺激モード又は涼感刺激モードを自動的に設定するための処理を示すものである。
まず、図7のステップS11においては、浴室Rに入室しようとしている者があるか否かが判断される。入浴者がある場合にはステップS12に進み、入浴者がない場合には、図7に示すフローチャートの1回の処理を終了する。
【0077】
次に、ステップS12においては、入浴者が識別される。例えば、住宅に備えられた浴槽装置1の場合には、リモコン6aに予め家人を登録しておき、入浴者が入浴した際に、入浴者が誰であるかをリモコン6a上で選択することにより、浴槽装置1は入浴者を識別することができる。この場合、リモコン6aは、入浴者識別装置として機能する。或いは、浴室Rに備えられた画像センサ(図示せず)等、種々のセンサを入浴者識別装置として使用して自動的に入浴者を識別するように本発明を構成することもできる。また、入浴者が所持しているスマートフォンと通信することにより、浴室Rに隣接した脱衣場に誰が入室したかを識別するように本発明を構成しても良い。
【0078】
さらに、ステップS13においては、制御部6に内蔵された身体温度検出部34により、浴槽装置1の浴槽本体2の中に入った入浴者の心電信号が取得される。即ち、入浴者の心電信号は、浴槽本体2の背もたれ面2aに配置された負電極4a及び正電極4bにより、浴槽本体2内に貯留された湯水を介して電位差の信号として取得される。図8は、このようにして取得された心電信号の一例を示している。
【0079】
次いで、ステップS14においては、ステップS13において取得された心電信号から、入浴者の平時心拍数が取得される。即ち、入浴者の心拍は、心電波形において、振幅の大きいインパルス状のR波として検出され、単位時間当たりのR波の数をカウントすることにより、入浴者の心拍数を取得することができる。また、本実施形態において、身体温度検出部34は、入浴者が浴槽本体2の中に入った直後の1~3分間における心拍数の最小値を、入浴者の平時心拍数として取得し、記憶する。
【0080】
図10は、入浴者の深部体温に対する心拍数の変化の一例を示す。まず、心拍数等のバイタル指標は、入浴動作により一時的に上昇することはあるものの、平時よりも大きく低下することはないため、入浴直後の所定期間における最小値を平時心拍数とすることができる。本実施形態においては、入浴者が浴槽本体2の中に入った後、所定時間経過後の心拍数を、入浴者の平時心拍数として採用している。或いは、入浴直後の所定期間における心拍数の平均値を、平時心拍数とすることもできる。また、変形例として、図9に示すように、ステップS12において識別された特定の入浴者に対して、過去数日間に取得された心拍数の平均を、その入浴者の平時心拍数とすることもできる。また、平時心拍数として、ウェアラブル端末等の外部装置から取得した心拍数を利用することもできる。
【0081】
さらに、図7のステップS15においては、浴槽温度センサ46によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度が取得される。
次いで、ステップS16においては、入浴者の心拍数の変化が取得される。即ち、入浴直後のステップS14において取得された平時心拍数からの入浴者の心拍数の変化が取得される。一般に、入浴者が浴槽本体2の湯水の中に浸かると、体温が上昇すると共に、心拍数も上昇する。ステップS16においては、この心拍数の変化分が身体温度検出部34によって取得される。
【0082】
通常、入浴者の深部体温は、入浴を開始した後、少しずつ上昇する。この入浴開始後の入浴者の深部体温の変化は、図10に一例を示すように、入浴者の心拍数変化と強い相関があることが知られており、入浴者の心拍数の変化に基づいて、入浴者の深部体温の変化を推定することができる。本実施形態において、身体温度検出部34は、入浴者の心拍数の変化に基づいて、入浴者の深部体温の変化を推定している。一例として、平時心拍数が70回/分の入浴者の心拍数が、入浴開始後80回/分まで上昇した場合には、入浴者の深部体温は0.4℃程度上昇しているものと推定することができる。
【0083】
また、図9に示した変形例においては、或る入浴者の過去5日間に検出された平時心拍数の平均が62回/分であり、当日検出された心拍数が70回/分となっている。このような場合に、身体温度検出部34は、入浴者の心拍数が、平時心拍数よりも8回/分だけ上昇したと判断し、この心拍数の増加に基づいて入浴者の深部体温の上昇を推定することもできる。
【0084】
さらに、別の変形例として、入浴者が浴槽本体2の中に入った後の経過時間及び浴槽温度センサ46によって検出された湯水の温度に基づいて入浴者の身体温度を推定するように本発明を構成することもできる。具体的には、リモコン6aの内部に、入浴者が浴槽本体2の中に入った後の経過時間を検出する計時部(図示せず)を設けておく。さらに、身体温度検出部34は、計時部によって検出された経過時間と、浴槽温度センサ46によって検出された湯水の温度に基づいて入浴者の深部体温を推定する。即ち、浴槽本体2内の湯水の温度、及び入浴者が湯水に浸かった経過時間と、入浴者の深部体温の上昇との間には強い相関があるため、湯水の温度及び経過時間から、入浴者の深部体温の上昇を推定することができる。この変形例によれば、計時部(図示せず)を設けることにより、簡便に入浴者の身体温度の上昇を推定することができる。
【0085】
なお、本実施形態において、身体温度検出部34は、入浴者の心拍数の変化に基づいて、入浴者の深部体温の変化を推定しているが、入浴者の体温を直接測定するように本発明を構成することもできる。例えば、サーモグラフ(図示せず)により入浴者を撮像し、サーモグラフの検出信号に基づいて、入浴者の入浴直後の体温、及び入浴後の体温を測定して、入浴者の体温の変化を検出することもできる。また、サーモグラフにより検出される体温は、入浴者の体表温度であるが、体表温度と深部体温には所定の関係が知られているため、検出された体表温から深部体温を推定することができる。或いは、入浴者が体温計を装着しながら入浴することで、入浴者の体温を測定するように本発明を構成することもできる。
【0086】
次に、図7のステップS17においては、入浴者がリモコン6aにより、吐水装置8を始動させる操作を行ったか否かが判断される。始動操作が行われた場合にはステップS18に進み、行われていない場合にはステップS15に戻る。以後、入浴者による吐水装置8の始動操作が行われるまでステップS15→S16→S17→S15の処理が繰り返され、浴槽本体2内の湯水の温度、及び入浴者の心拍数の変化(体温変化)が監視される。
【0087】
入浴者により吐水装置8の始動操作が行われると、ステップS18が実行される。ステップS18においては、ステップS15において取得された浴槽内湯水温、及び推定された入浴者の体温変化に基づいて、所定の温感刺激条件、又は涼感刺激条件が成立しているか否かが判断される。温感刺激条件及び涼感刺激条件が何れも成立していない場合には、フローチャートにおける処理はステップS15に戻り、浴槽本体2内の湯水の温度、及び入浴者の心拍数の変化(体温変化)の監視が継続され、温感刺激モード及び涼感刺激モードの設定は行われない。
【0088】
一方、ステップS18において、所定の温感刺激条件、又は涼感刺激条件が成立していると判断された場合にはステップS19に進み、ステップS19においては、成立した条件が涼感刺激であるか否かが判断される。成立した条件が涼感刺激である場合にはステップS20に進み、涼感刺激でない場合(温感刺激である場合)にはステップS20に進む。
【0089】
例えば、浴槽温度センサ46によって測定された浴槽本体2内の湯水の温度が38℃以上であり、入浴開始後、所定時間経過した入浴者の体温の上昇が所定の第1温度増分以上である場合には、比較的温度の高い湯水に長時間浸かって、入浴者の身体が十分に温まっていると考えられる。本実施形態においては、第1温度増分として0.6℃が設定され、入浴者の体温の上昇が0.6℃以上である場合に、ステップS18において涼感刺激条件が成立していると判断される。涼感刺激条件が成立した場合には、ステップS20において、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度の湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させる涼感刺激モードが設定される。本実施例では一例として、第1温度増分を0.6℃と設定したが、その限りではなく、適宜設定することができる。具体的には、入浴者が感じる快適な温冷感とその際の体温の関係を取得したデータベースにより、第1温度増分として設定することができる。また、ここでいう所定時間とは、入浴開始から心拍が落ち着くまで、または浴槽内の湯水の揺れが落ち着くまでの時間をいい、例えば、入浴者が浴槽本体の中に入った直後の1~3分間に設定しても良い。
【0090】
涼感刺激モードが設定された場合には、図5に示すフローチャートのステップS7における処理が実行される。即ち、制御部6は、低温側リニアバルブ42bに信号を送り、循環装置9によって循環させている湯水に低温湯水供給管40bから供給された水道水を混合させ、吐水装置8の吐水口8aから吐出させる湯水の温度を約34℃まで低下させる。この場合には、浴槽本体2内の湯水の温度が入浴者の深部体温よりも高く、吐水口8aから吐出される湯水の温度は、深部体温よりも低い温度となる。これにより、入浴者に、心地よい涼しさを感じさせることができる。好ましくは、入浴者に涼感刺激を与える場合には、浴槽本体2内の湯水の温度よりも2℃以上低い温度の湯水を吐水口8aから吐出させる。このように、入浴者の体温が上昇している状況において涼感刺激を与えることにより、入浴者に積極的な快適さが与えられる。
【0091】
また、図9により説明したように、入浴者の平時における心拍数が記憶されており、入浴者の心拍数が、入浴開始直後から平時心拍数よりも高い状態が継続している場合には、運動したことや、気温が高いことにより、入浴者が暑さを感じながら入浴を開始したことが想定される。このような場合にも、ステップS18において、所定の涼感刺激条件が成立していると判断され、ステップS20において、涼感刺激モードが設定される。
【0092】
一方、浴槽温度センサ46によって測定された浴槽本体2内の湯水の温度が37℃以下であり、入浴開始後、所定時間経過しても入浴者の体温が殆ど上昇していない場合には、入浴者は、比較的温度の低い湯水に寒さを感じながら入浴していることが想定される。本実施形態においては、入浴者の体温の上昇が第2温度増分である0.3℃以下である場合に、ステップS18において温感刺激条件が成立していると判断される。温感刺激条件が成立した場合には、ステップS21において、浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度の湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させる温感刺激モードが設定される。本実施例では一例として、第2温度増分を0.3℃と設定したが、その限りではなく、適宜設定することができる。具体的には、入浴者が感じる快適な温冷感とその際の体温の関係を取得したデータベースにより、第2温度増分として設定することができる。
【0093】
温感刺激モードが設定された場合には、図5に示すフローチャートのステップS6における処理が実行される。即ち、制御部6は、高温側リニアバルブ42aに信号を送り、循環装置9によって循環させている湯水に高温湯水供給管40aから供給された湯水を混合させ、吐水装置8の吐水口8aから吐出させる湯水の温度を約39℃まで上昇させる。この場合には、浴槽本体2内の湯水の温度が入浴者の深部体温よりも低いか、僅かに高い程度であり、吐水口8aから吐出される湯水の温度は、深部体温及び浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度となる。これにより、入浴者に、心地よい暖かさを感じさせることができる。好ましくは、入浴者に温感刺激を与える場合には、浴槽本体2内の湯水の温度よりも2℃以上高い温度の湯水を吐水口8aから吐出させる。このように、入浴者後に入浴者の体温が上昇せず、入浴者が寒さを感じている状況において温感刺激を与えることにより、入浴者に積極的な快適さが与えられる。
【0094】
また、変形例として、図11に示すように、或る入浴者の過去の操作履歴に基づいて、涼感刺激条件又は温感刺激条件を補正することもできる。上述したように、本実施形態の浴槽装置1は、入浴者がモード設定操作部(図示せず)を操作することにより、吐水装置8による涼感刺激モード及び温感刺激モードを選択することができるように構成されている。この入浴者による手動操作に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードの設定条件が制御部6により補正される。即ち、身体温度検出部34は、入浴者がモード設定操作部(図示せず)を操作した時点における入浴者の身体温度を推定する。制御部6は、推定された身体温度に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードの設定条件を補正した補正設定条件を決定し、この補正設定条件に基づいて涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択するように構成されている。この補正設定条件は、制御部6に内蔵された記憶装置(図示せず)に記憶される。制御部6は、入浴者識別装置(図示せず)によって識別された入浴者について記憶された補正設定条件に基づいて、涼感刺激モード又は温感刺激モードを選択するように構成されている。
【0095】
図11に示す例においては、或る入浴者の平時の心拍数が、入浴開始時における過去5日間の平均から62回/分として記憶されている。ここで、図11に示すように、本実施形態の浴槽装置1のデフォルトの仕様では、入浴者の心拍数が入浴開始時の心拍数よりも10回/分増加する身体温度に達したとき、自動的に涼感刺激モードが設定されるように構成されている。一方、この入浴者は、過去5日間において、入浴開始時の心拍数よりも平均15回/分上昇する身体温度に達したとき、手動で涼感刺激を開始させる操作を行っている。この身体温度に基づいて涼感刺激モードの設定条件が補正される。例えば、入浴者が運動をした後、入浴を開始し、入浴開始時の心拍数が平時よりも多い70回/分であったとする。この場合、デフォルトの設定においては、その入浴者の入浴開始時の心拍数が10回/分上昇し、80回/分に到達したとき自動的に涼感刺激モードが設定される。これに対し、補正された設定条件では、その入浴者の心拍数が平時の心拍数よりも15回/分上昇した77回/分まで上昇したとき、涼感刺激モードが設定されるように、涼感刺激モードの設定条件を補正した補正設定条件が決定される。このように、入浴者による過去の手動操作に基づいて、涼感刺激モード及び/又は温感刺激モードの設定条件を補正することができ、個々の入浴者の当日の体調や、好みに合った涼感刺激又は温感刺激を与えることができる。
【0096】
本発明の第1実施形態の浴槽装置1によれば、温感刺激モードが選択された場合に、浴槽内の湯水温度よりも高い温感刺激が与えられ、涼感刺激モードが選択された場合に、湯水温度よりも低い涼感刺激が与えられるので、入浴者に積極的快適さを与えることができる。
【0097】
また、本実施形態の浴槽装置1によれば、身体温度の上昇が第1温度増分以上である場合には涼感刺激モードが選択され(図7のステップS19→S20)、身体温度の上昇が第2温度増分以下である場合には温感刺激モードが選択される(図7のステップS19→S21)ので、入浴者が涼感刺激を欲しているか、温感刺激を欲しているかを適切に判断することができ、入浴者に積極的快適さを与えることができる。
【0098】
さらに、本実施形態の浴槽装置1によれば、浴槽本体2に設けた負電極4a、正電極4bにより取得された心電信号(図8)に基づいて入浴者の身体温度が推定されるので、入浴者に負担をかけることなく、浴槽本体2内の湯水に浸かった入浴者の身体温度を適正に推定することができる。
【0099】
次に、図12を参照して、本発明の第2実施形態による浴槽装置を説明する。
本実施形態の浴槽装置は、入浴者に涼感刺激及び温感刺激を与えるための温冷熱装置が、加熱/冷却器により構成されている点が、上述した本発明の第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本実施形態の、第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。図12は、本発明の第2実施形態による浴槽装置の全体構成を示す断面図である。
【0100】
図12に示すように、本実施形態の浴槽装置100は、浴槽本体102と、入浴者の心電信号を取得するための電極104(1つのみ図示)と、制御部106と、入浴者に涼感刺激及び温感刺激を与える第1、第2加熱/冷却器108a、108bと、浴槽本体102内の湯水の温度を検出する浴槽温度センサ110と、を有する。
【0101】
浴槽本体102は、湯水を貯留し、入浴者が内部で湯水に浸かることができるように構成されている。
電極104は、浴槽本体102の背もたれ面に設けられ、浴槽本体102内の入浴者の心電信号を、湯水を介して検出するように構成されている。なお、図12には、電極104を1つのみ示しているが、電極104は、負電極、正電極、基準電極からなり、入浴者の心電信号を取得する構成は、第1実施形態と同一である。
浴槽温度センサ110は、浴槽本体102の内壁面に設けられ、浴槽本体102内に貯留されている湯水の温度を検出するように構成されている。
【0102】
制御部106は、浴槽温度センサ110による検出信号、電極104による検出信号に基づいて、第1、第2加熱/冷却器108a、108bを制御して、入浴者に涼感刺激又は温感刺激を与えるように構成されている。具体的には、制御部106は、マイクロプロセッサ、インターフェイス回路、メモリ、及びこれらを作動させるためのソフトウェア等(以上、図示せず)から構成されている。
【0103】
また、制御部106には、浴室の壁面に取り付けられたリモコン106aが接続されており、浴槽本体2内の入浴者がリモコン106aを操作することにより、浴槽装置100の種々の機能を作動させることができるようになっている。即ち、入浴者がリモコン106aを操作することにより、浴槽本体2内の湯水の湯張りや、追い焚き、涼感刺激又は温感刺激等の機能を作動させることができる。
【0104】
第1加熱/冷却器108aは、浴槽本体2の背もたれ面の上部に設けられており、浴槽本体2の背もたれ面に寄りかかる入浴者の首や肩に当たるようになっている。第2加熱/冷却器108bは、浴槽本体2の背もたれ面の、第1加熱/冷却器108aよりも下側に設けられており、浴槽本体2の背もたれ面に寄りかかる入浴者の背中に当たるようになっている。本実施形態においては、第1加熱/冷却器108a、及び第2加熱/冷却器108bには、ペルチェ素子が内蔵されており、制御部106からペルチェ素子に電流を供給することにより、入浴者の身体に当たる表面が加熱又は冷却されるようになっている。
【0105】
本実施形態においては、入浴者がリモコン106aのモード設定操作部(図示せず)を操作することにより、第1、第2加熱/冷却器108a、108bに電流が供給され、手動で涼感刺激又は温感刺激が与えられるようになっている。涼感刺激モードが選択された場合には、第1、第2加熱/冷却器108a、108bの表面は、浴槽温度センサ110によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い温度に冷却され、入浴者に涼感刺激が与えられる。温感刺激モードが選択された場合には、第1、第2加熱/冷却器108a、108bの表面は、浴槽温度センサ110によって検出された浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い温度に加熱され、入浴者に温感刺激が与えられる。
【0106】
さらに、モード設定操作部を「自動」にセットしておくことにより、入浴者の身体温度に基づいて、温感刺激モード又は涼感刺激モードが自動的に選択され、入浴者に涼感刺激又は温感刺激が与えられる。入浴者の身体温度の推定、及び温感刺激モード及び涼感刺激モードの設定条件については、上述した第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0107】
また、本実施形態においては、第1、第2加熱/冷却器108a、108bに、ペルチェ素子を使用した温冷熱装置が採用されていた。これに対して、変形例として、第1、第2加熱/冷却器108a、108bに熱交換器(図示せず)を採用することもできる。この熱交換器に、浴槽本体2内の湯水の温度よりも低い湯水、又は浴槽本体2内の湯水の温度よりも高い湯水を流すことにより、熱交換器が冷却又は加熱されるように本発明を構成することもできる。このように、入浴者に涼感刺激及び温感刺激を与えることができる任意の装置を温冷熱装置として使用することができる。
【0108】
また、上述した本発明の第1実施形態に備えられていた構成、及び第1実施形態の変形例の構成を、適宜、本発明の第2実施形態の浴槽装置に組み合わせて、本発明を構成することもできる。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 浴槽装置
2 浴槽本体
2a 背もたれ面
2b エプロン
2c 側壁面
2d 側壁面
4a 負電極
4b 正電極
4c 基準電極
6 制御部
6a リモコン
6b 筐体
8 吐水装置(温冷熱装置)
8a 吐水口
9 循環装置
9a 浴槽吐水口
9b 浴槽取水口
10 電極部
10a 円板部
10b 軸部
12a 前面パッキン
12b 背面パッキン
14 フランジ
16 防湿チューブ
18 接続端子
20 固定ネジ
22 導線
24 シース
26 差動増幅回路
28 フィルタ回路
30 増幅回路
32 A/Dコンバータ
34 身体温度検出部
36 吐水温度設定部
38 制御信号出力部
40a 高温湯水供給管
40b 低温湯水供給管
42a 高温側リニアバルブ
42b 低温側リニアバルブ
44 混合室
46 浴槽温度センサ
48 吐水温度センサ
50a 高温側温度センサ
50b 低温側温度センサ
52 給湯器
54 上水道
54a 分岐部
100 浴槽装置
102 浴槽本体
104 電極
106 制御部
106a リモコン
108a 第1加熱/冷却器(温冷熱装置)
108b 第2加熱/冷却器(温冷熱装置)
110 浴槽温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12