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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
H01J37/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022037332
(22)【出願日】2022-03-10
(65)【公開番号】P2023132162
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2024-01-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業/半導体製造装置の高度化に向けた開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 裕章
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0075266(US,A1)
【文献】特開2014-183040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/08
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化ガスが導入される内部空間を有する長尺状のプラズマ生成容器と、前記内部空間に前記イオン化ガスを電離させる電子を供給する電子供給手段と、前記内部空間を通過する磁場を形成する磁場形成手段とを備え、前記内部空間から、前記プラズマ生成容器の長手方向に沿った一の側壁に形成されたイオン引出口を通じてイオンビームを前記長手方向と交差する所定の引出方向に引き出すよう構成されたイオン源であって、
前記内部空間には、前記電子供給手段から前記電子が供給される電子供給領域と、前記イオンビームが引き出されるイオン引出領域とが前記長手方向に沿って順に設定されており、
前記磁場形成手段が、
前記内部空間を通過する磁束を変化させ得るとともに、
前記イオン引出領域の磁束密度が前記電子供給領域の磁束密度より小さくなるように前記磁場を調整し、前記イオン引出領域の少なくとも一部の領域において、前記長手方向における磁束密度が最大となる領域が前記イオン引出口に向かって湾曲するように前記磁場を形成し得るよう構成されており、
前記内部空間は、
前記イオン引出領域における前記長手方向及び前記引出方向に直交する幅方向の寸法が、前記電子供給領域における前記幅方向の寸法より大きく、
前記イオン引出領域における前記引出方向の寸法と、前記電子供給領域における前記引出方向の寸法とが同一になるように形成されているイオン源。
【請求項2】
前記磁場形成手段が、前記プラズマ生成容器を挟むように配置された一対の電磁石を備え、
前記電磁石がそれぞれ、印加される電流が独立して制御される少なくとも二つのコイルを有している請求項記載のイオン源。
【請求項3】
前記磁場形成手段が、前記電磁石の前記引出方向の前方側に配置された磁気シールドを備える請求項に記載のイオン源。
【請求項4】
前記内部空間を形成する前記プラズマ生成容器の内壁面がカーボン材により形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン源。
【請求項5】
イオン化ガスが導入される内部空間を有する長尺状のプラズマ生成容器と、前記内部空間に前記イオン化ガスを電離させる電子を供給する電子供給手段と、前記内部空間を通過する磁場を形成する磁場形成手段とを備え、前記内部空間から、前記プラズマ生成容器の長手方向に沿った一の側壁に形成されたイオン引出口を通じてイオンビームを前記長手方向と交差する所定の引出方向に引き出すよう構成されたイオン源であって、
前記内部空間には、前記電子供給手段から前記電子が供給される電子供給領域と、前記イオンビームが引き出されるイオン引出領域とが前記長手方向に沿って順に設定されており、
前記磁場形成手段が、
前記内部空間を通過する磁束を変化させ得るとともに、
前記イオン引出領域の磁束密度が前記電子供給領域の磁束密度より小さくなるように前記磁場を調整し、前記イオン引出領域の少なくとも一部の領域において、前記長手方向における磁束密度が最大となる領域が前記イオン引出口に向かって湾曲するように前記磁場を形成し得るよう構成されており、
前記電子供給領域を形成する前記プラズマ生成容器の側壁と、前記イオン引出領域を形成する前記プラズマ生成容器の側壁の少なくとも一部とが別部材により形成されるとともに、熱の移動を抑制する断熱部材を介して互いに接続されているイオン源
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ生成容器内に磁場が形成される電子衝撃型のイオン源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン源としては、特許文献1に示されたイオン源がある。このイオン源は、イオン化ガスが導入されるプラズマ生成容器と、プラズマ生成容器内に電子を供給する電子供給手段と、電子供給手段からの電子を捕捉する磁場をプラズマ生成容器内に形成する電磁石とを備える。このイオン源は、プラズマ生成容器内に供給されたイオン化ガスと電子からプラズマを生成し、そのプラズマに含まれるイオンをプラズマ生成容器に形成したイオン引出口からイオンビームとして引き出すように構成されている。プラズマ生成容器内で生成したプラズマ中のイオンは、プラズマ生成容器内に形成された磁場に捕捉され、電子と同様に磁場に捕捉され、磁場に沿って移動しながら旋回運動する。このとき、イオンの質量が大きいほどイオンの旋回半径は大きくなる。
【0003】
この特許文献1に開示されたイオン源は、磁気シールド等を用いることによって、プラズマ生成容器内に形成する磁場の磁束密度が最も大きくなる位置である磁場中心位置を引出方向にシフトさせている。例えば、磁場中心位置をプラズマ生成容器のイオンビームを引き出す側と反対側の後方壁面に近づけるようにシフトさせると、旋回半径の大きいイオン、つまり比較的質量の大きいイオンがプラズマ生成容器の内壁面に衝突して消失する割合が大きくなる。その結果、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビームでは、比較的質量の小さいイオンが含まれる比率が大きくなる。反対に、磁場中心位置をプラズマ生成容器のイオンビームを引き出す側にシフトさせると、旋回半径の大きいイオン、つまり比較的質量の大きいイオンがプラズマ生成容器の後方壁面に衝突して消失する割合が小さくなる。その結果、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビームでは、比較的質量の大きいイオンが含まれる比率が大きくなる。
このようにして、このイオン源は、引き出されるイオンビームに含まれるイオン種の構成比率を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-186104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のイオン源では、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビーム中の比較的質量の小さいイオン種の割合を大きくしたい場合は、磁束密度が大きい位置をイオン引出口から遠ざかるように移動させている。しかしながら、磁束密度が大きい領域ほど生成するプラズマ密度が大きくなることから、この場合には、プラズマ密度が大きい領域がイオン引出口から遠ざかることになり、その結果、イオンがプラズマ生成容器から引き出され難くなる、つまり、イオンビームの引出効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、イオンビームの引出効率の低下を抑制しつつ、イオンビーム中の所望のイオン種の構成比率を変化させることができるイオン源を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るイオン源は、イオン化ガスが導入される内部空間を有する長尺状のプラズマ生成容器と、前記内部空間に前記イオン化ガスを電離させる電子を供給する電子供給手段と、前記内部空間を通過する磁場を形成する磁場形成手段とを備え、前記内部空間から、前記プラズマ生成容器の長手方向に沿った一の側壁に形成されたイオン引出口を通じてイオンビームを前記長手方向と交差する所定の引出方向に引き出すよう構成されたイオン源であって、前記内部空間には、前記電子供給手段から前記電子が供給される電子供給領域と、前記イオンビームが引き出されるイオン引出領域とが前記長手方向に沿って順に設定されており、前記磁場形成手段が、前記内部空間を通過する磁束を変化させ得るとともに、前記イオン引出領域の磁束密度が前記電子供給領域の磁束密度より小さくなるように前記磁場を調整し、前記イオン引出領域の少なくとも一部の領域において、前記長手方向における磁束密度が最大となる領域が前記イオン引出口に向かって湾曲するように前記磁場を形成し得るよう構成されていることを特徴とする。
【0008】
このようなイオン源であれば、磁場形成手段が、前記内部空間を通過する磁束を変化させ得ることから、磁束を変化させることによってイオンビームに含まれるイオン種の比率を変更することができる。例えば、磁場形成手段が内部空間を通過する磁束を多くした場合、内部空間内の磁束密度が大きくなることから、相対的に質量の小さいイオンが磁場に強く捕捉され、プラズマ生成容器から引き出され難くなる。したがって、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビームでは、相対的に質量の大きいイオンが含まれる比率が大きくなる。
反対に、磁場形成手段が内部空間を通過する磁束を少なくした場合、内部空間内の磁束密度が小さくなることから、相対的に質量の小さいイオンが磁場に捕捉される力が弱くなり、プラズマ生成容器から引き出され易くなる。したがって、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビームでは、相対的に質量の小さいイオンが含まれる比率が大きくなる。
さらに、本発明のイオン源においては、イオン引出領域の磁束密度が電子供給領域の磁束密度より小さくなるように磁場を調整し、イオン引出領域の少なくとも一部の領域において、長手方向における磁束密度が最大となる領域が前記イオン引出口に向かって湾曲するように磁場を形成する。これにより、プラズマ密度が大きい領域が常にイオン引出口の近傍に形成されることになる。したがって、相対的に質量の小さいイオンの比率を大きくする場合であっても、プラズマ密度が大きい領域がイオン引出口の近傍に形成されることになるから、従来と異なり、イオンビームの引出効率の低下が抑制される。
【0009】
前記イオン源の具体的態様としては、前記内部空間において、前記電子供給領域が前記長手方向に沿った両端部に設定され、前記イオン引出領域が前記長手方向に沿った中央部に設定されているものが挙げられる。
【0010】
また前記イオン源は、前記内部空間が、前記引出方向から視て、前記長手方向に直交する前記イオン引出領域の幅寸法が前記電子供給領域の幅寸法よりも大きくなるように形成されている構成であってもよい。
前記イオン源は、磁場形成手段がイオン引出領域の磁束密度が電子供給領域の磁束密度より小さくなるように磁場を形成する。したがって、相対的に質量の小さいイオンの比率を高めたい場合、すなわち、プラズマ生成容器内の磁束を少なくした場合、相対的に質量の大きいイオンの旋回半径がさらに大きくなり、プラズマ生成容器内の内壁面に衝突して消滅しやすくなる。このとき、使用するイオン化ガスによっては、生成したイオンが内壁面に衝突した箇所に絶縁物が形成されていき、やがて放電等の不具合が生じることになる。これに対し、上記構成によれば、内部空間においてイオンビームが引き出されるイオン引出領域の幅を電子供給領域の幅よりも大きくしているので、相対的に質量が大きく回転半径も大きいプラズマ中のイオンが内部空間を形成する内壁面へ衝突する確率を抑えることができる。これにより、内部空間を形成する内壁面における絶縁物の形成が抑制されることから、イオンビームが安定して引き出される。
つまり、この構成では、内部空間において、その全体の幅寸法を同様に広げるのではなく、相対的に磁場が弱くイオンが内壁面に衝突して絶縁物が形成されやすいイオン供給領域の幅が局所的に広げられている。そのため、内壁面に衝突するイオンを減らして絶縁物の形成を抑制しながらも、プラズマ生成容器の大型化を抑え、イオン源自体の負荷の増大を抑えることができる。
【0011】
また前記イオン源は、前記磁場形成手段が、前記プラズマ生成容器を挟むように配置された一対の電磁石を備え、前記電磁石がそれぞれ、印加される電流が独立して制御される少なくとも二つのコイルを有している。
この構成によれば、プラズマ生成容器内に形成される磁場は、各コイルが生成する磁場を合成したものとなり、各コイルに印加される電流を個別に設定することによって、プラズマ生成容器の内部空間を通過する磁束、プラズマ生成容器内に形成される磁場の形状、及び磁束密度を細密に調整することができる。
【0012】
また前記イオン源は、前記磁場形成手段が、前記電磁石の前記引出方向の前方側に配置された磁気シールドを備える構成であってもよい。
この構成によれば、磁気シールドが配置されない場合と比較して、プラズマ生成容器内の磁場が透磁率の高い磁気シールドに引き寄せられるようにして、磁場が引出方向に沿ってさらに膨出した形状となる。したがって、プラズマ密度が大きい領域をイオンビーム引出口に近づけられることによってイオンビームがより引き出され易くなることから、イオンビームの引出効率が向上する。さらに、磁気シールドが外部磁場を遮蔽することによって、プラズマ生成容器内に及ぼす外部磁場の影響が緩和され、プラズマ生成容器内に所望する磁場を形成することが容易になる。
【0013】
また前記イオン源は、前記内部空間を形成する前記プラズマ生成容器の内壁面がカーボン材により形成されているのが好ましい。
このようにすれば、プラズマ生成容器の内壁面を、アルミニウム等の金属材よりも熱伝導率が低く、耐熱温度が高いカーボン材で形成することにより、プラズマ生成中に高温化された内壁面の温度を高温に保持できる。これによりプラズマ生成容器の内壁面における絶縁物の生成又は付着をより効果的に抑制できる。
【0014】
また前記イオン源は、前記電子供給領域を形成する前記プラズマ生成容器の側壁と、前記イオン引出領域を形成する前記プラズマ生成容器の側壁の少なくとも一部とが別部材により形成されるとともに、熱の移動を抑制する断熱部材を介して互いに接続されているのが好ましい。
このような構成であれば、生成したプラズマにより加熱されて高温となるイオン引出領域の側壁から電子供給領域を形成する側壁への熱の移動を抑制でき、プラズマ生成中におけるイオン引出領域を形成する内壁面の温度を高温に保持することができる。その結果、プラズマ生成容器の内壁面における絶縁物の生成又は付着をより効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、イオンビームの引出効率の低下を抑制しつつ、イオンビーム中の所望のイオン種の構成比率を変化させることができるイオン源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のイオン源を備えるイオン注入装置の構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態のイオン源の構成を示す模式的に示す斜視図である。
図3】同実施形態のイオン源を引出方向から視た平面図である。
図4】同実施形態のイオン源を幅方向から視た断面図である。
図5】同実施形態のイオン源を長手方向から視た断面図である。
図6】同実施形態のプラズマ生成容器及び蓋の構成を模式的に示す分解斜視図である。
図7】同実施形態のプラズマ生成容器の構成を引出方向から視た平面図である。
図8】他の実施形態のプラズマ生成容器の構成を模式的に示す斜視図である。
図9】他の施形態のプラズマ生成容器の構成を引出方向から視た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のイオン源は、例えば、半導体製造工程やフラッットパネルディスプレイ製造工程で使用されるイオン注入装置やイオンドーピング装置等のイオンビーム照射装置に用いられるものである。以下に、本発明に係るイオン源を備えるイオン注入装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態のイオン注入装置400は、図1に示すように、ターゲットである基板Wに、イオンビームIBを照射してイオン注入をするためのものである。具体的にこのイオン注入装置400は、所定の引出方向にイオンビームIBが引き出されるイオン源100と、イオン源100の下流側に設けられ、イオン源100から引き出されたイオンビームIBの質量分析を行う質量分析部200と、基板Wが設置される処理室300とを備えている。本実施形態のイオン注入装置400では、イオン源100からは図1の紙面の表裏方向である幅が、それに直交する方向の厚さよりも十分に大きいリボン状のイオンビームが引き出される。
【0019】
質量分析部200は、質量分析磁石210と分析スリット220とを有している。質量分析磁石210は、イオンビームIBをその厚さ方向に曲げて所望のイオンを選別して導出するものである。分析スリット220は、質量分析磁石210の下流側に設けられており、質量分析磁石210と協働することにより、上記した所望のイオンを選別して通過させるものである。
【0020】
処理室300において、基板Wはその処理面をイオンビームIBに向けて基板駆動装置310により保持されている。この基板駆動装置310は、基板Wを保持するとともに、基板Wに入射するイオンビームIBの厚さに沿う方向に機械的に往復駆動するよう構成されている。イオン注入装置400は、この基板駆動装置310による基板Wの往復駆動と、リボン状をなすイオンビームIBの照射とによって、基板Wの全面にイオンビームIBを入射させてイオン注入を行うことができる。
【0021】
以下、イオン源100の構成について詳細に説明する。なお、各図では本発明の実施形態のイオン源100の要部のみが記されており、各種の部材を省略して記している。
【0022】
具体的にこのイオン源100は、図1図5に示すように、イオン化ガスが導入されてプラズマを生成するためのプラズマ生成容器1と、プラズマ生成容器1内に磁場を形成する磁場形成手段2と、プラズマ生成容器1内にイオン化ガスを電離させるための電子を放出する電子供給手段3と、プラズマ生成容器1からイオンビームIBを引き出す引出電極系4と、プラズマ生成容器1にイオン化ガスを導入するガス源5とを備えている。このイオン源100は、磁場形成手段2が形成する磁場の強さを変更することによりプラズマ生成容器1内を通過する磁束を変更し、これによって、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBに含まれるイオン種の比率を変更するように構成されている。
【0023】
プラズマ生成容器1は、例えば直方体形状等をなす長尺状の容器である。図6及び図7に示すように、このプラズマ生成容器1の内壁面により、イオン化ガスが導入されてプラズマを生成するための内部空間1sが形成されている。この内部空間1sはプラズマ生成容器1の長手方向に沿って延びるように形成された概略直方体形状をなす長尺状の空間である。長手方向に平行なプラズマ生成容器1の一つの側壁11a(以下、前側壁という)には、内部空間1sからイオンビームIBを引き出すための開口であるイオン引出口1Hが形成されている。イオン引出口1Hは、内部空間1sと同様に、長手方向に沿って延びるように前側壁11aに形成されている。本実施形態においては、この前側壁11aはイオンビームIBの引出方向に直交するように形成されている。以下において、引出方向及び長手方向に直交する方向を幅方向という。なお長尺状とは、引出方向から視て、互いに直交する2つの軸方向において、一方の軸方向の長さ(すなわち長手方向の長さ)が、他方の軸方向の長さ(すなわち幅方向の長さ)よりも長くなるように形成された任意の形状を意味し、直方体形状に限らない。
【0024】
図5及び図6に示すように、プラズマ生成容器1の前側壁11aには、イオン引出口1Hを覆うように蓋7が取り付けられている。蓋7には、蓋7の幅方向中央に長手方向に沿って開口する蓋開口部7aが形成されている。本実施形態のイオン源100において、イオンビームIBは、蓋開口部7aを通じてイオン引出口1Hからプラズマ生成容器1の外部に引き出される。なお、図2及び図3では、蓋7の図示は省略されている。
【0025】
この内部空間1sは、長手方向に沿って互いに対向する一対の内壁面と、幅方向に沿って互いに対向する一対の内壁面とによって囲まれて形成されている。そしてこの内部空間1sには、電子供給手段3から電子が供給される電子供給領域Saと、イオン引出口1Hを通じてイオンビームIBが引き出されるイオン引出領域Sbとが長手方向に沿って順に設定されている。より具体的には、内部空間1sにおける長手方向に沿った両端部に電子供給領域Saが設定され、中央部にイオン引出領域Sbが設定されている。なお、イオン引出領域Sbは、内部空間1sにおいて主として(大部分の)イオンビームIBが引き出される領域であり、内部空間1sにおけるイオン引出領域Sb以外の領域からイオンビームIBが引き出されることを阻害するものではない。すなわち、イオン引出領域Sbから主としてイオンビームIBが引き出されていれば、電子供給領域SaからもイオンビームIBが引き出されていてもよい。
【0026】
前側壁11aに対向するプラズマ生成容器1の側壁11b(以下、後側壁)には、ガス源5に連通し、内部空間1sにイオン化ガスを導入するための複数のガス導入孔1gが形成されている。このガス導入孔1gから、BFガスやPHガス等のイオン化ガスが導入される。
【0027】
磁場形成手段2は、プラズマ生成容器1の内部空間1sに磁場を形成するための一対の電磁石21を備えている。この一対の電磁石21は、プラズマ生成容器1の外部に設けられ、プラズマ生成容器1を挟むように配置されている。より詳細には、図3に示すように、一対の電磁石21は、引出方向から視て、その幅方向の両側から対をなすようにして内部空間1sを挟むように設けられている。各電磁石21は、それぞれ印加される電流が独立して制御される三つのコイル21a、21b、21cを有している。
【0028】
具体的に三つのコイル21a、21b、21cは、長手方向に沿って上方からこの順に並べられており、鉄心等の磁性材料から成るコア部材21zに巻かれるようにして形成されている。また、三つのコイル21a、21b、21cは、プラズマ生成容器1の前側壁11aと交差する長手方向に沿った一対の側壁11c、11d(以下、右側壁及び左側壁)それぞれの外面に対向するとともに、長手方向に沿って略等間隔に並べて設けられている。
【0029】
磁場形成手段2は、各電磁石21のコイル21a、コイル21b、コイル21cに通電する電流値をそれぞれ変更することにより、各電磁石21が生成する磁場の強さを変更し、それによって、内部空間1sを通過する磁束を変更できるように構成されている。以降、コイル21aを上部コイル21a、コイル21bを中央コイル21b、コイル21cを下部コイル21cとも称するものとする。
【0030】
磁場形成手段2はまた、電磁石21の引出方向の前方側に配置された磁気シールド22を更に備えている。磁気シールド22は、後述するように、プラズマ生成容器1の内部空間1sに形成される磁場形状を引出方向に膨出させる働きをする。磁気シールド22はさらに、プラズマ生成容器1の内部空間1sに作用する外部磁場、特に、質量分析部200からの漏れ磁場を遮蔽しており、内部空間1sに形成される磁場の調整を容易にしている。より詳細には、この磁気シールド22は、プラズマ生成容器1、複数の電磁石21及び引出電極系4よりも引出方向の前方側であって、これらと質量分析部200との間に設けられている。具体的にこの磁気シールド22は、例えば鉄やパーマロイ等の高い透磁率を有する磁性材料により形成された板状をなすものである。磁気シールド22において、プラズマ生成容器1のイオン引出口1Hと蓋7を介して対向する部分には、その厚み方向に沿って貫通する磁気シールド開口部22aが設けられている。蓋開口部7aを通じてイオン引出口1Hから引き出されたイオンビームIBは、磁気シールド22の磁気シールド開口部22aを通過した後、質量分析部200に導入される。
【0031】
このような磁場形成手段2により内部空間1sに形成される磁場について説明する。内部空間1sには、引出方向から視ると、一対の電磁石21が形成する磁場によって、長手方向に略平行で、且つ長手方向の上方に向かう磁場が形成されている。図3には、内部空間1sを引出方向から視た場合における、長手方向に沿った各位置における磁束密度が最大となる位置を結ぶ線である最大磁束密度線MPが示されている。つまり、最大磁束密度線MPの近傍が、長手方向に沿った各位置における磁束密度が最大となる領域であり、生成するプラズマのプラズマ密度が大きい領域となる。なお、最大磁束密度線MP上の各位置における磁束密度は互いに同一というわけではない。ここでは、最大磁束密度線MP上において、電子供給領域Saにおける磁束密度よりも、イオン引出領域Sbにおける磁束密度の方が小さくなっている。
【0032】
また、磁場形成手段2は、イオン引出領域Sbにおける磁束密度が電子供給領域Saにおける磁束密度より小さくなるように磁場を調整している。具体的は、磁場形成手段2は、上部コイル21a及び下部コイル21cを通電する電流値が、中央コイル21bを通電する電流値よりも大きくなるように、一対の電磁石21を制御する。すると、一対の電磁石21が内部空間1s内に形成する合成磁場の形状は、幅方向から視て、引出方向の前方側に膨出する形状となる。なお、本実施形態においては、磁気シールド22が配置されていることによって、磁場が引出方向の前方側により顕著に膨出する磁場形状となる。より詳細には、図4に示すように幅方向から視ると、内部空間1sの磁場は、電子供給領域Saからイオン引出領域Sbに向かうにつれて最大磁束密度線MPが引出方向の前方側に膨出する弓なり形状をなすように形成されている。本実施形態においては、内部空間1s内に形成される磁場は、最大磁束密度線MPがイオン引出領域Sbにおいて最もイオン引出口1Hに近づくように膨出するよう形状とされている。つまり内部空間1sにおいては、イオン引出領域Sbにおける磁場が、全体的に電子供給領域Saよりも相対的に磁束密度は小さいが、長手方向における磁束密度が大きい領域がイオン引出口1Hに近づく形状となっている。
【0033】
電子供給手段3は、プラズマ生成容器1の内部空間1sに放出した電子によってイオン化ガスを電離させてプラズマを生成するためのものである。電子供給手段3は、例えばフィラメント、板状カソードにフィラメントを組み合わせた構造物、又は所定エネルギーで加速された電子を供給する電子銃等である。この電子供給手段3は、プラズマ生成容器1の長手方向に対向する一対の側壁11e、11f(以下、上側壁、下側壁)を貫通して内部空間1sに挿入して設けられている。これにより電子供給手段3は、長手方向に沿った両端部に設定された電子供給領域Saに電子を供給するように構成されている。本実施形態のイオン源100では、電子供給手段3は、加熱されて電子を放出するフィラメントと、当該フィラメントから放出された電子によって加熱されることによって電子供給領域Saに電子を放出するカソードとを備える構成とされている。
【0034】
引出電極系4は、プラズマ生成容器1との間に電位差を与えることでイオンビームIBを加速して引き出すものである。この引出電極系4は、プラズマ生成容器1のイオン引出口1H近傍であって、長手方向において内部空間1sのイオン引出領域Sbに対応する位置に設けられている。なお、図2図5では引出電極系4の図示を省略している。
【0035】
このように構成したイオン源100では、電子供給手段3から供給された電子と、生成したプラズマ中のイオンは、内部空間1sに形成された磁場中でローレンツ力を受けて、長手方向に沿った軸を回転中心として円運動を行う。この円運動の回転半径(ラーモア半径)は、質量が大きいイオン程大きくなり、質量が小さいイオン程小さくなる。また各イオンの円運動の回転半径は、内部空間1sにおける磁束密度が大きいほど小さくなり、磁束密度が小さいほど大きくなる。
【0036】
そしてこのイオン源100では、磁場形成手段2によって、一対の電磁石21に通電させる電流値を変化させる、つまり、一対の電磁石21が形成する磁場の強さを変化させることによって、内部空間1sを通過する磁束の量を変化させることができる。これによって、イオン源100は、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBに含まれるイオン種の比率を変更することができる。
【0037】
例えば、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBにおいて、相対的に質量の大きいイオンが含まれる比率を大きくしたい場合には、磁場形成手段2によって内部空間1sを通過する磁束を多くすればよい。この場合、内部空間1s内の磁束密度が大きくなることから、相対的に質量の小さいイオンが磁場に捕捉され易くなり、プラズマ生成容器1から引き出され難くなる。したがって、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBでは、相対的に質量の大きいイオンが含まれる比率が大きくなる。
【0038】
反対に、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBにおいて、相対的に質量の小さいイオンが含まれる比率を大きくした場合には、磁場形成手段2によって内部空間1sを通過する磁束を少なくすればよい。この場合、内部空間1s内の磁束密度が小さくなることから、相対的に質量の小さいイオンが磁場に捕捉され難くなり、プラズマ生成容器1から引き出され易くなる。したがって、プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBでは、相対的に質量の小さいイオンが含まれる比率が大きくなる。
【0039】
なお、原料ガスにBFガスを使用する場合、例えばBやFが相対的に質量の小さいイオンであり、BF、BF2+が相対的に質量の大きいイオンとなる。また、原料ガスにPHガスを使用する場合、例えばPが相対的に質量の小さいイオンであり、P2+が相対的に質量の大きいイオンとなる。
【0040】
本実施形態のイオン源100においては、イオン引出領域Sbにおける磁束密度が電子供給領域Saにおける磁束密度より小さくなるように磁場を調整し、イオン引出領域Sbの少なくとも一部の領域において、長手方向における磁束密度が最大となる領域がイオン引出口1Hに向かって湾曲するように磁場を常に形成している。つまり、プラズマ密度が大きい領域が常にイオン引出口1Hの近傍に常に形成されることになる。したがって、相対的に質量の小さいイオンの比率を大きくする場合であっても、プラズマ密度が大きい領域がイオン引出口1Hの近傍に形成されることになるから、従来と異なり、イオンビームIBの引出効率が低下することが抑制される。
【0041】
そして本実施形態のイオン源100では、プラズマ生成容器1は、図7に示すように、内部空間1sにおけるイオン引出領域Sbの幅寸法が電子供給領域Saの幅寸法よりも大きくなるように構成されている。
【0042】
具体的にこのプラズマ生成容器1では、長手方向に沿った中央部における右側壁11c及び左側壁11dの厚みが、長手方向に沿った両端部における右側壁11c及び左側壁11dの厚みよりも小さくなっている。これにより内部空間1sを形成する右側壁11c及び左側壁11dのそれぞれの内壁面間の距離は、電子供給領域Saよりもイオン引出領域Sbの方が長くなっている。また、電子供給領域Saとイオン引出領域Sbのどちらにおいても、右側壁11c及び左側壁11dのそれぞれの内壁面は長手方向及び引出方向に対して略平行となるように形成されている。さらに本実施形態では、電子供給領域Saにおける内部空間1sの幅寸法は長手方向の位置によらず略一定であり、イオン引出領域Sbにおける内部空間1sの幅寸法も長手方向の位置によらず略一定となっている。このようにして、内部空間1sは、イオン引出領域Sbにおいてのみ幅寸法が局所的に広くなるように形成されている。
【0043】
また本実施形態のプラズマ生成容器1では、内部空間1sを形成する側壁11a~11fの内壁面がカーボン材により形成されている。例えばプラズマ生成容器1はその全体がカーボン材により形成されていてもよく、各側壁11a~11fの内壁面のみがカーボン材により被覆されていてもよい。
【0044】
このように構成した本実施形態のイオン源100によれば、内部空間1sにおいてイオンビームIBが引き出されるイオン引出領域Sbの幅を電子供給領域Saの幅よりも大きくしているので、相対的に質量が大きく回転半径も大きいプラズマ中のイオンが内部空間1sを形成する内壁面へ衝突する確率を抑えることができる。
【0045】
プラズマ生成容器1から引き出されるイオンビームIBにおいて、相対的に質量の小さいイオンの比率を高めたい場合は、プラズマ生成容器1内の磁束を少なくする。このとき、仮に、電子供給路領域Saとイオン引出領域Sbの幅寸法が同一であるとすると、相対的に質量の大きいイオンの旋回半径がさらに大きくなるため、プラズマ生成容器1内の内壁面に衝突して消滅しやすくなる。このとき、イオン化ガスにBF等のフッ素を含むガスや、酸素を含むガスを使用する場合等、使用するイオン化ガスによっては、生成したイオンがプラズマ生成容器1の内壁面に衝突した箇所に絶縁物が形成されていき、やがて放電等の不具合が生じることになる。これに対し、本実施形態のイオン源100では、イオン引出領域Sbの幅寸法を電子供給路領域Saの幅寸法よりも大きくすることによって、プラズマ生成容器1内の磁束を少なくした場合であっても相対的に質量の大きいイオンが内壁面に衝突することを抑制している。したがって、イオン源100は、内部空間1sを形成する内壁面における絶縁物の形成を抑制し、イオンビームIBの引出効率を向上できる。また、イオン源100においても、経時的に絶縁物が生成していくことで最終的には清掃等のメンテナンスが必要となることが想定されるが、絶縁物の生成が抑制されることでイオン源100を長期間に亘って稼働させることができるようになる。
【0046】
電子供給領域Saでは電子供給手段3を構成するカソードに近いため、プラズマ生成容器1の電子供給領域Saを形成する領域の温度が、プラズマ生成容器1のイオン引出領域Sbを形成する領域より高くなりやすい。また、電子供給領域Saはイオン引出領域Sbより磁束密度が大きいことから、電子供給領域Saにおけるプラズマ密度はイオン引出領域Sbにおけるプラズマ密度より大きくなる。したがって、プラズマ生成容器1の電子供給領域Saを形成する領域の内壁は熱負荷やイオンスパッタによって損耗されすい。そのため、プラズマ生成容器1の電子供給領域Saを形成する領域は、イオン引出領域Sbを形成する領域よりも厚みを持たせる事が望ましい。仮に、イオンの衝突を抑制させるため、内壁の厚みをもたせたまま、幅寸法を単に広げた場合、プラズマ生成容器1は大型化するため、部材費も上がり、イオン源100自体の負荷も増大してしまう。
【0047】
これに対して本実施形態のイオン源100では、内部空間1s全体の幅寸法を広げるのではなく、相対的に磁場が弱くイオンが内壁面に衝突しやすいイオン引出領域Sbの幅だけを局所的に広げるようにしているので、内壁面に衝突するイオンを減らして絶縁物の形成を抑えながらも、プラズマ生成容器1の大型化を抑え、イオン源100の負荷の過度な増大を抑えることができる。
【0048】
さらにプラズマ生成容器1の内壁面がカーボン材で形成されているので、アルミニウム等の金属材で形成する場合に比べて、プラズマ生成中における内壁面の温度を高温に保持することができる。これにより絶縁物の生成又は付着をより効果的に抑制でき、イオンビームIBの引出効率をより向上できる。
【0049】
また、プラズマ生成容器1の内壁面をカーボン材により形成する場合、カーボン材に形成される絶縁物に対しては水素クリーニングやPHクリーニングによる洗浄が有効でないという問題がある。そのため、イオン引出領域Sbの幅を電子供給領域Saの幅よりも大きくすることにより内壁面へのイオンの衝突を抑制して絶縁物の形成を抑制できるという本実施形態のイオン源100の効果は、プラズマ生成容器1の内壁面をカーボン材により形成する態様において特に顕著になる。
【0050】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば前記実施形態のイオン源100では、内部空間1sを形成するプラズマ生成容器1の右側壁11c及び左側壁11dは、電子供給領域Saとイオン引出領域Sbとで互いに同一の部材により構成されていたがこれに限らない。他の実施形態のイオン源100では、内部空間1sを形成するプラズマ生成容器1の右側壁11c及び左側壁11dは、電子供給領域Saとイオン引出領域Sbとで異なる部材により構成されていてもよい。例えば他の実施形態では、図8及び図9に示すように、プラズマ生成容器1の右側壁11c及び左側壁11dは、イオン引出領域Sbに対応する長手方向に沿った中央部に幅方向(厚さ方向)に貫通する開口部11hが形成されていてよい。そして、この開口部11hを塞ぐように幅方向に沿った外側から壁板部材12が取り付けられていてもよい。
【0051】
そしてこの壁板部材12と、右側壁11c及び左側壁11dとは、断熱部材13を介して互いに接続されていてよい。この断熱部材13は、壁板部材12から右側壁11c及び左側壁11dへの熱の移動を抑制するためのものである。断熱部材13は、例えば壁板部材12の内向き面とプラズマ生成容器1の側壁11c、11dの外壁面との間に気密に挟まれた板状の部材である。この断熱部材13は、プラズマ生成容器1の側壁11c、11dを構成する部材、及び壁板部材12よりも熱伝導性が低い材料により構成されているのが好ましい。断熱部材13は、例えばセラミックにより形成できる。また、この断熱部材13と壁板部材12との接触面積は、壁板部材12の内向き面と側壁11c、11dの外壁面の対向面積よりも小さいのが好ましい。同様に、断熱部材13と側壁11c、11dとの接触面積も、壁板部材12の内向き面と側壁11c、11dの外壁面の対向面積よりも小さいのが好ましい。またこの場合、イオン引出領域Sbを形成する板部材12の厚みを、電子供給領域Saを形成する右側壁11c及び左側壁11dの厚みと略同一としてもよい。
【0052】
また前記実施形態のプラズマ生成容器1は、内部空間1sを形成する各側壁11a~11fの全ての内壁面がカーボン材により形成されていたがこれに限らない。他の実施形態のイオン源100のプラズマ生成容器1では、内部空間1sを形成する各側壁11a~11fの内壁面のうち、イオン引出領域Sbを形成する内壁面のみがカーボン材により形成されていてもよい。また他の実施形態のプラズマ生成容器1では、内部空間1sを形成する各側壁11a~11fの内壁面が、カーボン材ではなくアルミニウム等の金属材により構成されていてもよい。
【0053】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
IB ・・・イオンビーム
100・・・イオン源
1 ・・・プラズマ生成容器
11a ・・・前側壁
1s ・・・内部空間
Sa ・・・電子供給領域
Sb ・・・イオン引出領域
1H ・・・イオン引出口
2 ・・・磁場形成手段

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9