(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法、パワーコンディショナ及びマイクログリッド
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20241031BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20241031BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241031BHJP
H02J 3/46 20060101ALI20241031BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H02J3/00 130
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/38 130
H02J3/46
H02J7/35 K
(21)【出願番号】P 2023206786
(22)【出願日】2023-12-07
(62)【分割の表示】P 2019185021の分割
【原出願日】2019-10-08
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌央
(72)【発明者】
【氏名】本郷 真一
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-171674(JP,A)
【文献】特開2012-100504(JP,A)
【文献】特開2012-222908(JP,A)
【文献】特開2012-228103(JP,A)
【文献】特開2014-180130(JP,A)
【文献】特開2014-236541(JP,A)
【文献】特開2016-025792(JP,A)
【文献】特開2016-119745(JP,A)
【文献】特開2017-017792(JP,A)
【文献】特開2018-166379(JP,A)
【文献】特開2018-182847(JP,A)
【文献】特表2015-520599(JP,A)
【文献】特表2019-527023(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102104251(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0225614(US,A1)
【文献】国際公開第2017/217466(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 7/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統と連系し、蓄電装置を備えたマイクログリッドの評価装置であって、
前記蓄電装置の使用制限期間と前記マイクログリッドの電気料金と、に基づいて、前記マイクログリッドのエネルギー利用効率を評価する、評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率の評価において、前記蓄電装置の使用制限期間を前記マイクログリッドの電気料金よりも優先する、評価装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の評価装置であって、
前記蓄電装置の使用制限期間は充電制限期間と放電制限期間である、評価装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の評価装置であって、
前記蓄電装置の充電状態を、前記マイクログリッドの受電電力目標値を変数として、前記マイクログリッドの需給予測に基づいて推定し、
前記マイクログリッドの受電電力目標値を変数とした前記蓄電装置の充電状態の推定結果に基づいて、前記蓄電装置の使用制限期間と前記マイクログリッドの電気料金を計算する、評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載の評価装置であって、
前記マイクログリッドの各受電電力目標値に対する前記蓄電装置の使用制限期間と前記マイクログリッドの電気料金の計算結果を比較することにより、前記マイクログリッドのエネルギー利用効率を最適化する、マイクログリッドの受電電力目標値を決定する、評価装置。
【請求項6】
電力系統と連系し、蓄電装置を備えたマイクログリッドの評価方法であって、
前記蓄電装置の使用制限期間と、前記マイクログリッドの電気料金と、に基づいて、前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率を評価する、評価方法。
【請求項7】
パワーコンディショナあって、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の評価装置と、
分散型電源及び前記蓄電装置と接続され、電力系統と連系するインバータと、を備える、パワーコンディショナ。
【請求項8】
マイクログリッドであって、
分散型電源と、
蓄電装置と、
請求項7に記載のパワーコンディショナと、を備えた、マイクログリッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクログリッドのエネルギー管理に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料に対する依存の低減や環境問題の観点から、太陽光発電(PV:Photovoltaic)システムに代表される分散型電源の導入が進められている。PVシステムは太陽光発電パネルで発電された電力を、電力制御装置のインバータ回路を用いて、直流から交流に変換して出力している。
【0003】
下記特許文献1は、電力貯蔵型太陽光発電システムにおいて、分散型電源の発電電力と電力貯蔵手段からの電力の両方の出力時に、受電電力検出手段によって検出された受電電力が所定の電力を下回らないように、第2の電力変換手段を制御する技術を開示している。これにより、電力貯蔵手段からの電力が電力系統に逆潮流することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力系統と連系したマイクログリッドにおいて、エネルギーを効率的に運用するための手法を提案することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電力系統と連系するマイクログリッドのエネルギー管理装置であって、前記マイクログリッドは、蓄電装置を備え、前記エネルギー管理装置は、前記マイクログリッドの受電電力の上下限と前記蓄電装置の出力電力の上下限を制約条件として、前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化する前記マイクログリッドの受電電力の目標値を、前記マイクログリッドにおける電力の需給予測に基づいて算出する。エネルギーの利用効率は、エネルギーを効率的に使用出来ているかどうかを意味しており、エネルギーの利用効率が高いほど、省エネルギー効果が高い。
【0007】
この技術は、マイクログリッドのエネルギー管理方法に適用することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
マイクログリッドにおいて、エネルギーを効率的に運用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】発電電力の予測値と消費電力の予測値の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
電力系統と連系し、蓄電装置を備えたマイクログリッドのエネルギー管理装置は、前記マイクログリッドの受電電力の上下限と前記蓄電装置の出力電力の上下限を制約条件として、前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化する前記マイクログリッドの受電電力の目標値を、前記マイクログリッドにおける電力の需給予測に基づいて算出する。
【0011】
この構成では、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化する受電電力の目標値を算出することが出来る。マイクログリッドの受電電力を、算出した目標値に追従させることにより、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化することができる。
【0012】
目的関数を用いて、前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率を評価してもよい。目的関数を用いることで、エネルギーの利用効率を数値化して客観的に評価することが可能となる。
【0013】
前記目的関数は、前記蓄電装置の使用制限期間を評価する関数であってもよい。この構成では、蓄電装置の利用効率の観点から、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。
【0014】
前記目的関数は、前記マイクログリッドの電気料金を評価する関数であってもよい。この構成では、マイクログリッドの電気料金の観点から、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。
【0015】
前記目的関数は、前記蓄電装置の使用制限期間を評価する項と前記マイクログリッドの電気料金を評価する項とを、重みを付けて加算する関数であってもよい。この構成では、蓄電装置の利用効率の観点とマイクログリッドの電気料金の観点の2つの観点から、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。また、重みの付け方により、2つの観点に優劣を付けることが出来る。
【0016】
前記制約条件に、前記マイクログリッドの受電電力の変化幅の条件を加えてもよい。この構成では、目標値の候補が、受電電力の変化幅に絞られる。そのため、最適解を得るために必要な演算が少なくなり、演算の高速化が可能となる。また、受電電力の変化を変化幅に抑えることが出来るので、電力系統への影響が小さく電気の品質維持に有効である。
【0017】
前記目標値の予測対象期間を複数の区間に分割し、分割した各区間について、前記マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化する受電電力の目標値を算出してもよい。予測対象期間を複数の区間に分割することで、全区間を対象に演算を行う場合に比べて、最適解を得るために必要な演算が少なくなるため、演算の高速化が可能となる。
【0018】
前記区間は、前記需給予測の周期よりも長くてもよい。この構成では、複数サイクルの需要予測を加味して、受電電力の目標値を決定することが出来る。
【0019】
<実施形態1>
1.マイクログリッドS1の説明
マイクログリッドSは、電力系統1に連系する小規模電力系統であり、分散型電源、蓄電装置、負荷を少なくとも備える。電力系統1は、電力事業者のものでもよいし、大型パワーコンディショナの自立運転出力で成り立っている独立した電力系統でもよい。
【0020】
図1は、マイクログリッドS1のブロック図である。マイクログリッドS1は、分散型電源である太陽光発電パネル10と、蓄電装置である蓄電池15と、電力制御装置であるパワーコンディショナ20と、負荷Lから構成されている。
【0021】
パワーコンディショナ20は、第1電力変換器である第1コンバータ回路21と、第2電力変換器である第2コンバータ回路23と、DCリンク部25と、双方向インバータ回路31と、リレー37と、制御装置50と、直流電圧検出部27と、出力電流検出部33と、出力電圧検出部35と、を備えている。
【0022】
第1コンバータ回路21には、太陽光発電パネル10が接続されている。第1コンバータ回路21は、DC/DCコンバータであり、太陽光発電パネル10の出力電圧(直流)を昇圧して出力する。第1コンバータ回路21はチョッパでもよい。
【0023】
第2コンバータ回路23には、蓄電池15が接続されている。蓄電池15は、例えば、二次電池である。第2コンバータ回路23は、蓄電池15の放電と充電を行う双方向のDC/DCコンバータである。第2コンバータ回路23は双方向チョッパでもよい。
【0024】
太陽光発電パネル10と蓄電池15は、第1コンバータ回路21と第2コンバータ回路23を介して、DCリンク部25に対して並列に接続されている。
【0025】
DCリンク部25は、コンバータ回路の接続点24と双方向インバータ回路31の間に位置している。DCリンク部25には、電解コンデンサC1が設けられている。電解コンデンサC1は、DCリンク部25の電圧Vdcを安定させるために設けられている。
【0026】
直流電圧検出部27は、DCリンク部25の電圧Vdcを検出する。直流電圧検出部27により検出されたDCリンク部25の電圧Vdcは、制御装置50に対して入力される。
【0027】
双方向インバータ回路31は、DCをACに変換する逆変換(インバータ)と、ACをDCに変換する順変換(コンバータ)を選択的に行う、双方向の変換回路である。双方向インバータ回路31は、DCリンク部25に接続されており、逆変換動作時には、DCリンク部25より入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。詳細には、双方向インバータ回路31には、太陽光発電パネル10の発電によりDCリンク部25において基準値より増加した電圧分に相当する電力が入力される。従って、基準値より増加した電圧分に相当する電力が、直流から交流に変換され、双方向インバータ回路31から出力される。
【0028】
蓄電池15は、第2コンバータ回路23を介して、太陽光発電パネル10の余剰電力を蓄電することが出来る。蓄電池15は、太陽光発電パネル10の発電電力が不足している場合、第2コンバータ回路23を介して、放電して発電電力の不足を補うことが出来る。
【0029】
双方向インバータ回路31は、リレー37を介して、系統電源2を交流電源とする電力系統1に接続されている。
【0030】
リレー37は、電力系統1との連系用として設置されている。リレー37を閉じることで、マイクログリッドS1を電力系統1に連系させることが出来る。
【0031】
出力電流検出部33は、双方向インバータ回路31の出力電流Iinvを検出する。出力電圧検出部35は、双方向インバータ回路31の出力側に位置しており、双方向インバータ回路31の出力電圧Vinvを検出する。
【0032】
出力電流検出部33により検出された双方向インバータ回路31の出力電流Iinvと、出力電圧検出部35により検出された双方向インバータ回路31の出力電圧Vinvは、制御装置50に対して入力される。制御装置50は、双方向インバータ回路31の出力電流Iinvと出力電圧Vinvとに基づいて、双方向インバータ回路31の出力電力(有効電力)Pinvを算出する。出力電力Pinvは、逆変換時を「正」とし、順変換時を「負」とする。
【0033】
双方向インバータ回路31と電力系統1とを接続する電力線(幹線)5には、分岐線4を介して、需要設備である負荷Lが接続されている。負荷Lに対して、パワーコンディショナ20と電力系統1の双方から電力を供給することが出来る。
【0034】
受電点3は、電力系統1による電力の供給地点であり、
図1に示すように、電力系統1と構内(マイクログリッドS1)との境界部分である。
【0035】
電力系統1には、受電点3の電力検出用の計器として、外部トランスデューサ等の外部計測器40が設けられている。
【0036】
外部計測器40は、受電電流検出部41と、系統電圧検出部43とを有している。外部計測器40は受電点3に対応して設置されており、受電電流検出部41は、受電点3の受電電流を検出する。系統電圧検出部43は電力系統1の系統電圧を検出する。
【0037】
外部計測器40は、受電電流と系統電圧とに基づいて、受電電力(有効電力)PRCVを算出する。外部計測器40により検出された受電電力PRCVは、制御装置50に対して入力される。受電電力PRCVは、電力潮流(以下、単に潮流とする)の状態判定に使用することが出来る。外部計測器40は、受電点3の受電電力PRCVを計測する計測器である。
【0038】
受電電力P
RCVは、順潮流(
図1:電力系統1からマイクログリッドS1に向かう電気の潮流)を「正」とし、逆潮流(
図2:マイクログリッドS1から電力系統1に向かう電気の潮流)を「負」とする。
【0039】
制御装置50は、演算部であるCPU51と記憶部であるメモリ53を有する。メモリ53には、マイクログリッドS1の電力の需給予測を行うプログラムや、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率を最適化する受電電力PRCVの目標値を算出するプログラムが記憶されている。また、需給予測を行うために必要なデータや、エネルギーの利用効率を最適化する受電電力PRCVの目標値を算出するために必要なデータが記憶されている。CPU51は、マイクログリッドS1の電力の需給予測に基づいて、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率を最適化する受電電力PRCVの目標値を算出する。また、マイクログリッドS1の受電電力PRCVが目標値に追従するようにマイクログリッドS1の電力制御を行う。
制御装置50はエネルギー管理装置の一例である。
【0040】
制御装置50は、双方向インバータ回路31に指令を与えることで、順変換動作、逆変換動作の切り換えを制御できる。また、双方向インバータ回路31の出力、つまり出力電力Pinvを制御できる。出力電力Pinvは、出力電流Iinvの調整により制御できる。
【0041】
制御装置50は、第1コンバータ回路21の入り切りにより、DCリンク部25に対する太陽光発電パネル10の接続/非接続を制御できる。また、第2コンバータ回路23の入り切りにより、DCリンク部25に対する蓄電池15の接続/非接続を制御できる。制御装置50は、第2コンバータ回路23を介して、蓄電池15の充電と放電の切り換えを制御できる。また、第2コンバータ回路23を介して、蓄電池15の出力電力を制御できる。出力電力は、例えば、電流量を調整することで、制御することが出来る。
【0042】
2.マイクログリッドの電力の需給予測
制御装置50は、マイクログリッドS1の電力の需給予測を行う。具体的には、マイクログリッドS1における電気の供給量(分散型電源の発電電力)[kW]と、マイクログリッドS1における電気の需要量[kW]とを予測する。
【0043】
マイクログリッドS1は、分散型電源として、太陽光発電パネル10を有しているので、太陽光発電パネル10の発電電力が、マイクログリッドS1の電気の供給量である。また、マイクログリッドS1は、負荷Lを有しているので、負荷Lの消費電力PLOADが電気の需要量である。
【0044】
太陽光発電パネル10の発電電力PPVは、
図3に示すように、日射量Xと相関性がある。発電電力PPVの予測値は、ネットワークNWを介して、予測データ提供所70から入手することが出来る。予測データ提供所70は、パワーコンディショナ20のサプライヤによる提供所でも
よいし、発電事業者の提供所でもよい。太陽光発電パネル10の発電電力PPVは、双方向インバータ回路31により交流に変換される。変換効率ηは、直流DCを交流ACに変換する時のインバータ回路31の変換効率である。
【0045】
負荷Lの消費電力PLOADは、過去のデータから予測することができる。例えば、数日間の消費電力PLOADのデータを統計的に処理することで翌日の消費電力を予測することが出来る。
【0046】
負荷Lの消費電力PLOADは、受電点3の受電電力PRCVと双方向インバータ回路31の出力電力Pinvとから求めることが出来る。順潮流(PRCV>0)の場合、負荷Lの消費電力PLOADは出力電力Pinvと受電電力PRCVの合計である。また、逆潮流(PRCV<0)の場合、負荷Lの消費電力PLOADは出力電力Pinvと受電電力PRCVの差である。
【0047】
PLOAD=Pinv+PRCV (A)
PLOAD=Pinv-PRCV (B)
【0048】
図4は、マイクログリッドS1の電力の需給予測結果を示すグラフである。破線は、マイクログリッドS1の発電電力の予測値であり、実線はマイクログリッドS1の消費電力の予測値である。この例では、予測対象期間Tを1日として、電力の需給予測を1時間ごとに行っており、予測値は、1時間ごとに値が変化するステップ状の波形である。マイクログリッドS1の電力の需給予測は、制御装置50で行ってもよいし、別の装置で予測したデータを入手してもよい。
【0049】
3.電力の需給予測に基づく受電電力目標値の最適化
図5は、マイクログリッドS1の簡易的なブロック図である。制御装置50のCPU51は、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率を最適化する受電電力P
RCVの目標値(以下、受電電力の目標値P
RCVreft)を、マイクログリッドS1の電力の需給予測(
図4)に基づいて、算出する。
【0050】
数式1は、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率を評価するための目的関数である。
【数1】
目的関数Fの第1項と第2項は、蓄電池15の使用制限期間を評価する項である。第3項と第4項は、マイクログリッドS1の電気料金を評価する項である。
【0051】
使用制限期間には、充電制限期間TMAXと放電制限期間TMINの2つの期間がある。充電制限期間TMAXは、充電が制限される期間であり、例えば、蓄電池15の充電状態SOCが使用範囲の上限(満充電の場合)に位置する場合である。また、放電制限期間TMINは、放電が制限される期間であり、例えば、蓄電池15の充電状態SOCが使用範囲の下限に位置する場である。
【0052】
この例では、k1>k2>k3>k4であり、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率の評価において、蓄電池15の使用制限期間の評価が優先される。また、k1=k2、k3=k4でもよい。
【0053】
また、受電電力目標値PRCVreftを最適化する演算を行うにあたり、制約条件として、受電電力目標値PRCVreftの上限及び下限(数式2)と、蓄電池15の出力電力[kW]の上限及び下限(数式3)の2つの条件がある。
【0054】
【0055】
【0056】
充電状態SOCは蓄電池15の定格容量に対する充電量の比率である。目的関数Fを計算するには蓄電池15の充電状態SOCの推定が必要である。以下に、蓄電池15の充電状態SOCと、受電電力PRCVtの推定値のシミュレート方法を説明する。
【0057】
時間断面tにおける充電制限期間TMAXと放電制限期間TMINの算出方法について説明する。
<STEP1>
数式4と数式5から、時間断面tにおける蓄電池15の暫定出力電力予測値PBATtmp tを算出する。
【0058】
【0059】
<STEP2>
数式6~数式9より、時間断面tにおける蓄電池15の暫定充電状態予測値SOC
tmp tを算出する。
(a)t=0の場合
【数6】
【数7】
【0060】
【0061】
<STEP3>
時間断面tにおけるの上下限逸脱有無を判定し、蓄電池15の充電状態予測値SOC
t、蓄電池の出力電力P
BAT t、充電制限期間T
MAX、放電制限期間T
MINを決定する。
(a)SOC
tmpt≧SOCMAXの場合
【数10】
【数11】
【0062】
(b)SOC
tmpt≦SOCMINの場合
【数12】
【数13】
【0063】
(c)SOCMIN<SOC
tmpt<SOCMAXの場合
【数14】
【数15】
【0064】
次に、数式16、17より、蓄電池15の充電量予測値Wh
BATtの初期値(t=0の場合)を求めることが出来る。
【数16】
【数17】
【0065】
次に、数式18より各時間断面(t≠0の場合)について、蓄電池15の充電量予測値Wh
BATtを求めることが出来る。また、数式19より、蓄電池15の充電状態SOCの予測値SOC
tを求めることが出来る。
【数18】
【数19】
【0066】
時間断面tにおける受電電力予測値P
RCVは、数式20、21より、算出することが出来る。
【数20】
【数21】
【0067】
予測対象期間Tにおける受電電力ピーク予測値P
PEAKは、数式22より、算出することが出来る。
【数22】
【0068】
【0069】
数式4~19より、発電電力予測値PPVtと負荷Lの消費電力予測値PLOADtに対して、受電電力目標値PRCVreftが決まれば、蓄電池15の充電状態SOCtを推定することができる。
【0070】
制御装置50は、各時間断面tにおいて、受電電力目標値PRCVreftを変数として、蓄電池15の充電状態SOCtを推定し、その結果から、目的関数Fの4つの項を計算する。
【0071】
このような演算を、予測対象期間Tについて実行(予測対象期間Tが1日で、演算周期が1時間の場合、24サイクル分実行)する。そして、受電電力目標値PRCVreftの組み合わせのパターンについて、目的関数Fの値を比較することで、目的関数Fを最小とする受電電力目標値の組み合わせ、つまり、予測対象期間Tについて、各時間断面tの受電電力目標値PRCVreftを決定することが出来る。
【0072】
図6、7は、横軸を時間[h]、左縦軸を電力[kW]、右縦軸を充電状態[%]としたグラフである。Y1(太線)は受電電力[kW]の推移、Y2は発電電力[kW]の推移を示す。Y3は負荷の消費電力[kW]の推移、Y4は蓄電池の出力電力[kW]の推移、Y5(破線)は蓄電池15の充電状態[%]の推移を示す。
【0073】
図6は、受電電力目標値P
RCVreftを経験則で決定した場合、
図7は、受電電力目標値P
RCVreftを目的関数Fに基づいて決定した場合である。
【0074】
受電電力目標値P
RCVreftを経験則で決めた場合(
図6)、16時~18時の時間帯において、蓄電池15の充電状態SOCが100[%]付近を維持している。そのため、16時~18時の時間帯、蓄電池15は、充電の受け入れを制限する必要がある。
【0075】
受電電力目標値P
RCVreftを目的関数Fに基づいて決定した場合(
図7)、蓄電池15の充電状態SOCは、SOC上限線Lim1(SOC=100[%])と、SOC下限線Lim2(SOC=10[%])に対して、余裕を持って推移しており、常に充電と放電の双方が可能な状態である。つまり、受電電力目標値P
RCVreftを、経験則から決めた場合と比較すると、16時~18時の時間帯(A部)について、充電状態SOCが低く抑えられており、この時間帯の充電が制限されない点が改善されている。
【0076】
4.マイクログリッドの電力制御
制御装置50のCPU51は、マイクログリッドS1の受電電力PRCVが、目的関数Fを用いて算出した受電電力目標値PRCVreftに追従するように、マイクログリッドS1の電力制御を行う。
【0077】
例えば、受電点3は順潮流、インバータ回路31は逆変換動作時において、受電電力PRCVの計測値が受電電力目標値PRCVreftより低い場合、蓄電池15の出力電力を絞ることにより、受電電力PRCVの計測値と受電電力目標値PRCVreftとの差を小さくする。受電電力PRCVの計測値が受電電力目標値PRCVreftより高い場合、蓄電池15の出力電力を増加することにより、受電電力PRCVの計測値と受電電力目標値PRCVreftとの差を小さくする。
【0078】
以上のように、受電電力PRCVの計測値と目標値との差に応じて、蓄電池15の出力調整を行うことにより、マイクログリッドS1の受電電力PRCVを、目的関数Fを用いた算出した受電電力目標値PRCVreftに追従させることが出来る。
【0079】
4.効果
蓄電池15は、マイクログリッドS1の余剰電力を充電し、電力の不足時に放電することで、電力の不足を補う。蓄電池15の使用が制限される場合、余剰電力を貯めることが出来ずエネルギーのロスになることから、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率は低下する。
【0080】
この構成では、目的関数Fに基づいて受電電力目標値PRCVreftの最適値を求めることで、蓄電池15の使用制限期間を最小とすることが出来る。そのため、蓄電池15の利用効率の観点から、マイクログリッドS1のエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。
【0081】
また、蓄電池15の使用制限期間が最小であれば、DR(デマンドレスポンス)にも、機動的に対応することが可能となる。つまり、蓄電池15の充電状態SOCが、上下限に対し余裕を持つことで、上げDRと、下げDRのどちらにも対応することが出来る。
【0082】
上げDRは、電気の需要を増加する要求である。蓄電池15を充電して負荷として用いることで、上げDRに対処することが出来る。下げDRは、電気の供給を増加する要求である。蓄電池15を放電して電源として用いることで、下げDRに対処することが出来る。
【0083】
<実施形態2>
受電電力目標値PRCVreftの最適値を決定するには、予測対象期間Tの各時間断面tのそれぞれについて、受電電力目標値PRCVreftの候補数分だけ、蓄電池15の充電状態SOCなどを推定し、目的関数Fの各項を計算する必要がある。例えば、予測対象期間Tが1日で、時間断面数が24の場合、受電電力目標値PRCVreftを0~10[kW]の範囲で、1[kW]刻みで変化させた場合、受電電力目標値PRCVreftの総候補数は、1124=9.85×1024個であり、総候補数に比例して、演算負荷は大きくなる。
【0084】
実施形態2では、以下の2つの方法を用いることで、演算負荷を小さくする。
(A)受電電力目標値の変化幅の制約
(B)予測対象期間Tの分割
【0085】
(A)について説明する。
受電電力PRCVの変化は、電力系統1の電力品質に影響を及ぼす可能性があるため、変化幅は極力小さいほうが望ましい。そこで、数式23に示すように、時間断面t当たりの受電電力目標値PRCVreftの変化幅に、制約を設ける。
【0086】
【0087】
図8A、
図8Bは、受電電力目標値P
RCVreftの候補の組み合わせを示す図である。
図8Aは受電電力目標値P
RCVreftの変化幅に制約を設けない場合であり、
図8Bは、受電電力目標値P
RCVreftの変化幅の最大値を±2[kW]とした場合である。
【0088】
時間断面t当たりの受電電力目標値P
RCVreftの候補数は、受電電力目標値P
RCVreftの変化幅に制約を設けない場合(
図8Aの場合)、「11」である。一方、受電電力目標値P
RCVreftの変化幅の最大値を±2[kW]とした場合(
図8Bの場合)、「4」である。
【0089】
このように受電電力目標値PRCVreftの変化幅に制約を設けることで、時間断面t当たりの受電電力目標値PRCVreftの候補数を削減することが出来、演算負荷を大幅に削減することが出来る。また、電力系統1への影響を小さくすることが出来、電気の品質維持が可能となる。
【0090】
(B)について説明する。
予測対象期間Tを複数の区間ΔTに分割する。そして、分割した各区間ΔTを、1つの予測対象期間として、目的関数Fを用いて、各時間断面tの受電電力目標値PRCVreftの最適値を決定する。
【0091】
例えば、予測対象期間Tが1日の場合、
図9に示すように、ΔT1~ΔT4の4つの区間ΔTに分割する。そして、各区間ΔTを1つ予測対象期間として、目的関数Fを用いて、受電電力目標値P
RCVreftを最適化する演算を行う。
【0092】
この場合、全予測対象期間Tの受電電力目標値PRCVreftは、最適値として決定された各区間ΔTの各時間断面tの受電電力目標値PRCVreftを、時系列に従って繋ぎ合わせたものとなる。
【0093】
予測対象区間Tの分割により、全予測対象期間Tの受電電力目標値PRCVreftを、複数回に分けて計算することになる。そのため、1回当たりの受電電力目標値PRCVreftの候補の組み合わせが減少するため、演算負荷を大幅に削減することが出来る。
【0094】
予測対象期間Tの分割数Nは、3分割など4以外でも勿論よい。また、各区分ΔTの時間断面数は、同じでも
よいし、同じでなくてもよい。各区間ΔTは需給予測の周期よりも長くすることが好ましい。
図9の例では、ΔT=6時間、需給予測の周期=1時間である。
【0095】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0096】
(1)実施形態1では、マイクログリッドS1の一例として、ライン状の電力線(幹線)5を持つグリッドを示したが、サークル状の電力線(幹線)をもつグリッドでもよい。
図10に示す、マイクログリッドS2は、サークル状をした電力線100を有している。電力線100には、太陽光発電パネル110と風力発電機120が電力変換器115、125を介して接続されている。また、電力線100には、負荷130と、蓄電池140がそれぞれ接続されている。マイクログリッドS2の電力線100は、連系線105を介して、電力系統1に接続されている。
【0097】
マイクログリッドS2は、制御装置150を有している。制御装置150は、マイクログリッドS2の需給予測に基づいて、マイクログリッドS2のエネルギーの利用効率を最適化する受電電力目標値PRCVreftを算出する。制御装置150は、受電点3の受電電力が、算出した受電電力目標値PRCVreftに追従するように、マイクログリッドS2の電力制御を行う。具体的には、受電点3に設けられた計器160の出力に基づいて、受電点3の受電電力PRCVをモニタする。そして、制御装置150は、受電電力目標値PRCVreftに対して差がある場合、電力変換器145を介して、蓄電池140を充電又は放電することにより、その差を小さくする。このようにすることで、受電電力PRCVを、算出した目標値PRCVreftに追従させることができ、マイクログリッドS2のエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。制御装置150は、本発明の「エネルギー管理装置」の一例である。
【0098】
また、マイクログリッドS2は、分散型電源として、太陽光発電パネル10と風力発電機120を有している。マイクログリッドS2の需給予測を行う場合、マイクログリッドS2の電力の供給量は、各分散型電源の発電電力の合計値にすればよい。また、負荷が複数ある場合、マイクログリッドS2の電力の需要量は、負荷の合計値にすればよい。尚、分散型電源は、需要地に隣接して分散配置される小規模な発電設備全般の総称である。分散型電源は、太陽光発電パネル10や風力発電機120以外に、例えば、バイオマス発電装置などでもよい。分散型電源は、再生可能エネルギーを利用した電源でもよいし、化石燃料を利用した電源でもよい。
【0099】
(2)実施形態1では、目的関数Fを、第1項から第4項の4つの項から構成し、それら4つの項に重み係数k1~k4を乗じて加算する関数とした。実施形態1では、重み係数の大小関係を、k1>k2>k3>k4としたが、k3>k4>k1>k2でもよい。重み係数の大小関係を逆転させることで、マイクログリッドの電気料金を優先して評価することが出来るので、電気料金の観点から、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化することが出来る。また、目的関数Fは、蓄電池15の使用制限期間を評価する第1項と第2項だけでもよいし、マイクログリッドの電気料金を評価する第3項、第4項だけでもよい。また、目的関数Fは、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化する関数であれば、それ以外の関数でもよい。
【0100】
(3)実施形態1では、受電電力目標値PRCVreftの最適値を求める演算を、パワーコンディショナ20の制御装置50で行った。演算主体は、パワーコンディショナ20に限らず、パワーコンディショナ20とは別に設けられた演算装置でもよい。演算装置は、エネルギー管理装置の一例である。
【0101】
(4)実施形態1では、受電電力目標値PRCVreftの最適値を、目的関数を利用して算出したが、例えば、AIを利用して算出してもよい。マイクログリッドの受電電力の上下限と蓄電装置の出力電力の上下限を制約条件として、マイクログリッドのエネルギーの利用効率を最適化するマイクログリッドの受電電力の目標値を、マイクログリッドにおける電力の需給予測に基づいて算出するものであれば、どのような方法でもよい。また、実施形態1では、蓄電装置として蓄電池を例示したが、蓄電装置はキャパシタなどでもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 電力系統
2 系統電源
3 受電点
10 太陽光発電パネル(本発明の「分散型電源」の一例)
15 蓄電装置
20 パワーコンディショナ
21 第1コンバータ回路
23 第2コンバータ回路
31 インバータ回路
40 外部計測器
50 制御装置(本発明の「エネルギー管理装置」の一例)
S1、S2 マイクログリッド