(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水田作業機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A01C11/02 311T
(21)【出願番号】P 2022077585
(22)【出願日】2022-05-10
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】東 靖之
(72)【発明者】
【氏名】足立 憲司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 真司
(72)【発明者】
【氏名】福山 尚尋
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幹大
(72)【発明者】
【氏名】金野 晃大
(72)【発明者】
【氏名】森本 宏
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 直人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 礼
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-104288(JP,A)
【文献】特開2009-022210(JP,A)
【文献】特開2014-065348(JP,A)
【文献】特開2011-030473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/00-11/02
A01B 27/00-31/00
A01B 35/00-49/06
A01D 41/00-41/16,47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置と農作業を行う作業機を有する水田作業機であって、
前記走行装置の動力源としてのエンジンと、
前記エンジンから出力される回転動力を前記走行装置に伝達する伝達機構と、
前記作業機を駆動する作業用電動モータと、
前記伝達機構から回転動力の一部を分配する動力分配手段と、
前記動力分配手段により分配された回転動力を受けて発電する発電機とを備え、
前記エンジンの作動時に前記発電機により発電された電力は、前記作業用電動モータに電力を供給するバッテリーに蓄電されるよう構成され、
前記走行装置は、左右一対の前輪と、左右一対の後輪を含んで構成され、
前記伝達機構は、前記エンジンから出力される回転動力を受けて変速する静油圧式無段変速装置と、
前記静油圧式無段変速装置から出力される回転動力を変速するとともに、前記左右一対の前輪と前記左右一対の後輪に伝動する後輪駆動軸とに伝達する前側ギアケースと、
左右一対の後輪ギアケースとを備え、
前記後輪駆動軸は、左右一対の後輪駆動軸であって、左側の後輪に伝動する左側後輪駆動軸と、右側の後輪に伝動する右側後輪駆動軸とを備え、
前記左右一対の後輪ギアケースは、前記左側後輪駆動軸から回転動力を受けて左側の後輪に伝達する左側後輪ギアケースと、前記右側後輪駆動軸から回転動力を受けて右側の後輪に伝達する右側後輪ギアケースとを備え、
前記バッテリーは、単一のバッテリーケース内に収容され、
前記動力分配手段は、前記左右一対の後輪ギアケースから前記左右一対の後輪に伝達される回転動力の一部を前記発電機に分配し、
前記発電機は、左右一対の発電機であって、左側の後輪に伝達される回転動力の一部が分配される左側発電機と、右側の後輪に伝達される回転動力の一部が分配される右側発電機とを備えるとともに、前記動力分配手段により分配された回転動力を受けて発電した電力を前記バッテリーに蓄電するよう構成されたことを特徴とす
る水田作業機。
【請求項2】
前記左右一対の発電機は、それぞれ、発電機としての機能と電動機としての機能を備えたモータジェネレータにより構成され、前記バッテリーから電力が供給されたときに、前記動力分配手段、及び前記一対の前記後輪ギアケースを通じて、一対の前記後輪に回転動力を伝達するよう構成されたことを特徴とする請求項
1に記載の水田作業機。
【請求項3】
前記作業機は、圃場に苗を植え付ける苗植付部により構成され、
前記苗植付部は、苗マットが載置される苗タンクと、前記苗タンクの下端部に位置する苗を圃場に植え付ける植付装置と、前記苗タンクに載置された苗マットを前記苗タンクの下端部へ搬送する苗送りベルトとを備え、
前記作業用電動モータの駆動により、前記苗タンク、前記植付装置、及び前記苗送りベルトが駆動されるよう構成されたことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の水田作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田で農作業が可能な田植機、コンバイン、トラクタ等の水田作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機体の動力源としてエンジンを備えた水田作業機が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンから出力される回転動力を、静油圧式無段変速装置(いわゆるHST)等の変速機構により変速した後、前輪及び後輪を含む走行装置と、苗植付部により構成された作業機とに伝達する水田作業機(田植機)が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の水田作業機の場合、エンジンを動力源として、走行装置と作業機の両方を駆動するため、エンジンの燃料消費と排気ガスの排出量が大きくなってしまうという問題がある。
【0005】
この問題に対し、特許文献2には、コンバインとして構成された水田作業機において、走行装置や作業機の動力源として、エンジンに代えて、又はエンジンとともに、電動モータを搭載する旨が記載されている。電動モータを動力源として用いることで、エンジンの燃料消費と排気ガスの排出量をなくし、又は抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-030945号公報
【文献】特開2022-000724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された発明のように、電動モータを走行装置又は/及び作業機の動力源として用いる場合、電動モータに電力を供給するバッテリーに、作業者が都度充電を行うことが必要となり、作業負担が増大する。
【0008】
そこで、本発明は、燃料消費と排気ガスの排出量を抑えつつ、電動モータに電力を供給するバッテリーに作業者が充電を行う手間が削減されるように構成された水田作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のかかる目的は、
走行装置と農作業を行う作業機を有する水田作業機であって、
前記走行装置の動力源としてのエンジンと、
前記エンジンから出力される回転動力を前記走行装置に伝達する伝達機構と、
前記作業機を駆動する作業用電動モータと、
前記伝達機構から回転動力の一部を分配する動力分配手段と、
前記動力分配手段により分配された回転動力を受けて発電する発電機とを備え、
前記エンジンの作動時に前記発電機により発電された電力は、前記作業用電動モータに電力を供給するバッテリーに蓄電されるよう構成されたことを特徴とする水田作業機によって達成される。
【0010】
本発明によれば、農作業を行う作業機が作業用電動モータにより駆動されるよう構成されているから、エンジンの出力を下げることができ、燃料消費と排気ガスの排出量を抑えることができる。
【0011】
加えて、本発明によれば、エンジンから出力される回転動力を走行装置に伝達する伝達機構から、動力分配手段により動力の一部を発電機に分配し、この発電機により発電された電力が、作業用電動モータに電力を供給するバッテリーに蓄電されるよう構成されているから、作業者がバッテリーに充電を行う手間が削減される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態においては、
前記走行装置は、左右一対の前輪と、左右一対の後輪を含んで構成され、
前記伝達機構は、前記エンジンから出力される回転動力を受けて変速する静油圧式無段変速装置と、
前記静油圧式無段変速装置から出力される回転動力を変速するとともに、前記左右一対の前輪と前記左右一対の後輪に伝動する後輪駆動軸とに伝達する前側ギアケースと、
左右一対の後輪ギアケースとを備え、
前記後輪駆動軸は、左右一対の後輪駆動軸であって、左側の後輪に伝動する左側後輪駆動軸と、右側の後輪に伝動する右側後輪駆動軸とを備え、
前記左右一対の後輪ギアケースは、前記左側後輪駆動軸から回転動力を受けて左側の後輪に伝達する左側後輪ギアケースと、前記右側後輪駆動軸から回転動力を受けて右側の後輪に伝達する右側後輪ギアケースとを備え、
前記バッテリーは、単一のバッテリーケース内に収容され、
前記動力分配手段は、前記左右一対の後輪ギアケースから前記左右一対の後輪に伝達される回転動力の一部を前記発電機に分配し、
前記発電機は、左右一対の発電機であって、左側の後輪に伝達される回転動力の一部が分配される左側発電機と、右側の後輪に伝達される回転動力の一部が分配される右側発電機とを備えるとともに、前記動力分配手段により分配された回転動力を受けて発電した電力を前記バッテリーに蓄電するよう構成されている。
【0013】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、静油圧式無段変速装置及び前側ギアケースにより変速された動力を、一対の後輪駆動軸を通じて一対の後輪ギアケースに伝達し、その後、一対の後輪ギアケースから左右一対の後輪に伝達するとともに、動力分配手段によって一対の発電機に分配するよう構成されているから、一対の発電機で効果的に発電を行い、大きな電力を得ることができる。
【0014】
加えて、本発明のこの好ましい実施形態によれば、一対の発電機により発電された電力が、単一のバッテリーケース内に収容されたバッテリーに蓄電されるよう構成されているから、一対の発電機により発電された電力を1つにまとめることができ、作業用電動モータの電力源を、複数のバッテリーケースの間で切り換える機構と制御が不要となる。
【0015】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記左右一対の発電機は、それぞれ、発電機としての機能と電動機としての機能を備えたモータジェネレータにより構成され、前記バッテリーから電力が供給されたときに、前記動力分配手段、及び前記左右一対の後輪ギアケースを通じて、前記左右一対の後輪に回転動力を伝達するよう構成されている。
【0016】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、発電された電力が蓄電されたバッテリーから、モータジェネレータにより構成された発電機に電力が供給されたときに、一対の後輪に回転動力が伝達されるよう構成されているから、EV走行が可能となる。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、
前記作業機は、圃場に苗を植え付ける苗植付部により構成され、
前記苗植付部は、苗マットが載置される苗タンクと、前記苗タンクの下端部に位置する苗を圃場に植え付ける植付装置と、前記苗タンクに載置された苗マットを前記苗タンクの下端部へ搬送する苗送りベルトとを備え、
前記作業用電動モータの駆動により、前記苗タンク、前記植付装置、及び前記苗送りベルトが駆動されるよう構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料消費と排気ガスの排出量を抑えつつ、電動モータに電力を供給するバッテリーに作業者が充電を行う手間が削減されるように構成された水田作業機を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる水田作業機の略左側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示された水田作業機における動力の流れを示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1に示されたエンジンの近傍の模式的平面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示されたエンジンの回転数とトルク量との関係を模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図4に示された第2モータジェネレータと第2、第3バッテリーとの間の電流の流れを示す模式図である。
【
図7】
図7は、
図1に示されたエンジンの回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の他の好ましい実施形態に係る水田作業機のエンジンを示す略斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明のさらに他の好ましい実施形態に係る水田作業機のエンジンを示す略斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9に示されたエンジンの種々のギヤを露出させた状態を示す略正面図である。
【
図11】
図11は、
図9に示されたエンジンを始動する際のモータ回転数と時間との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、トラクタにより構成されたさらに他の好ましい実施形態に係る水田作業機のエンジンにかかる負荷と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施形態につき、詳細に説明を加える。
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施形態にかかる水田作業機1の略左側面図であり、
図2は、
図1に示された水田作業機1の略平面図である。
【0022】
また、
図3は、
図1に示された水田作業機1における動力の流れを示すブロック図であり、動力の流れがグレー色の矢印で示されている。
【0023】
本明細書においては、
図1及び
図2に矢印で示されるように、水田作業機1の進行方向を「前」、その反対側を「後」といい、水田作業機1の進行方向である前方に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
【0024】
水田作業機1は、走行車体2と、走行車体2の後部に取り付けられた苗植付部63と、圃場に肥料を供給する施肥装置26と、
図3に示される動力機構と、機体全体を制御する制御部87を備えている。本実施形態においては、水田作業機1は田植機として構成されている。
【0025】
走行車体2は、車体2の幅方向における略中央部に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、水田作業機1の幅方向に延びる後部フレーム6と、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10と、メインフレーム3の上方に配置されたフロアステップ60と、フロアステップ60の上方に設けられた操縦席48と、機体を操縦する操縦部49と、走行装置としての左右一対の前輪8および左右一対の後輪9を備えている。以下において、一対の前輪8及び一対の後輪9を「走行車輪」ともいう。
【0026】
操縦部49は、走行車体2の前後進と車速を変更する主変速レバー35と、走行車体2の走行を停止させるブレーキペダル81(
図2参照)と、左右一対の前輪8を操舵するステアリングホイール56を含む操舵機構28と、ブレーキペダル81に連結されたSSレバー79と、後に詳述するグリーンモードスイッチ23(
図2参照)を備えている。
【0027】
操舵機構28は、ステアリングホイール56の他、ステアリングポスト83に収容されたステアリングシャフト、ピットマンアーム及びタイロッド(図示せず)を備えている。
【0028】
動力機構は、操縦席48の下方に設けられたエンジン7と、エンジン7から出力される回転動力を左右一対の前輪8および後輪9に伝達する伝達機構15と、この伝達機構から分配される動力により発電を行う左右一対の第1モータジェネレータ33と、本発明の「作業機」の一例である苗植付部63を駆動する電動モータ18と、この電動モータ18に電力を供給する第1バッテリー17を備えている。電動モータ18は、本発明の「作業用電動モータ」に相当する。
【0029】
伝達機構15は、
図1に示されるフロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4と、ベルト式動力伝達機構4により伝達された回転動力を変速する静油圧式無段変速機(以下、「HST」という。)25と、HST25から出力された動力を変速した後、走行車輪8,9に出力するフロントギアケース30と、フロントギアケース30の左右に配置された左右一対の前輪ファイナルケース13と、フロントギアケース30の左後方と右後方に配置された左右一対の後輪ギアケース51と、フロントギアケース30から一対の後輪ギアケース51へ動力を伝達する左右一対の後輪伝動軸14を備えている。フロントギアケース30は、本発明の「前側ギアケース」に相当する。
【0030】
エンジン7から出力された回転動力は、ベルト式動力伝達機構4を介してHST25に伝達された後に、HST25内で、主変速レバー35の操作位置に応じた速度に変速されて、フロントギアケース30に伝達される。フロントギアケース30はメインフレーム3の前部に固定されている。
【0031】
フロントギアケース30に伝達された回転動力は、フロントギアケース30の内部で、副変速レバー36の操作位置に応じて変速される。その後、回転動力の一部は一対の前輪ファイナルケース13へ出力され、前輪ファイナルケース13から、操向方向を変更可能な前輪支持部及び前輪車軸31を通じて一対の前輪8に伝動される他、プロペラシャフトで構成される一対の後輪伝動軸14と、一対の後輪ギアケース51、及び後輪車軸82を通じて一対の後輪9に伝動される。その結果、走行車体2が前進又は後進する。
【0032】
ここで、左右の後輪伝動軸14を通じて左右の後輪ギアケース51に伝達される回転動力の一部は、左右一対の動力分配手段32により分配され、一対の第1モータジェネレータ33へ伝達される(
図3参照)。
【0033】
その結果、一対の第1モータジェネレータ33の回転子が回転されることにより発電が行われる。一対の第1モータジェネレータ33は、本発明の「発電機」の例であるが、発電機としてモータジェネレータを用いることは必ずしも必要でない。
【0034】
動力分配手段32は、例えば、ベルト式の動力分配機構として、以下のように構成することができる。すなわち、まず、各後輪伝動軸14の下流側の部分(各後輪伝動軸14の後部であり、後輪ギアケース51内に位置する部分)に、後輪伝動軸14と一体的に回転するよう第1プーリを取付ける。また、第1モータジェネレータ33への入力軸と一体的に回転するよう第2プーリを当該入力軸に取付ける。そして第1プーリと第2プーリとに亘って無端状のベルトを巻き掛けることにより、エンジン7の作動時に、後輪伝動軸14の回転に伴い、第1、第2プーリ、ベルト、及び第1モータジェネレータ33への入力軸が回転される。なお、動力分配手段32は他の分配機構により構成されてもよい。
【0035】
一方、左右の第1モータジェネレータ33により発電された電力は、電動モータ18に電力を供給する第1バッテリー17に蓄電される。このように、エンジン7の作動時に、自動的に第1バッテリー17に充電が行われるため、作業者が第1バッテリー17に充電する手間が削減される。第1バッテリー17は単一のバッテリーケース(筐体)17a(
図3参照)に収容されている。なお、第1バッテリー17が有するバッテリーセルとバッテリーモジュールの数は各々1つでも複数でもよい。また、第1モータジェネレータ33による充電に加え、家庭用充電器等を用いて第1バッテリー17に充電できるよう構成してもよい。これにより、万一、第1バッテリー17のバッテリー残量が低下した場合に、作業が滞る事態を防止できる。
【0036】
本実施形態においては、フロントギアケース30内と、各後輪ギアケース51内に、動力伝達を断接するクラッチが設けられている。そして、フロントギアケース30内のクラッチが遮断された場合、一対の後輪伝動軸14の回転が停止し、一対の第1モータジェネレータ33による発電は停止される。これに対し、後輪ギアケース51内に設けられたクラッチは、後輪9への動力伝達路において、動力分配手段32よりも下流側に配置されている。このため、後輪ギアケース51内のクラッチが遮断された場合でも、一対の第1モータジェネレータ33による発電を継続できる。なお、後輪ギアケース51内のクラッチは、例えば旋回時に、旋回内側の後輪9への動力伝達を遮断することを目的として遮断される。これにより、水田作業機1がスムーズ且つ小回りに旋回を行うことができる。
【0037】
電動モータ18の駆動のオンオフは、主変速レバー35に設けられた植付入切スイッチ19(
図1参照)が操作されることにより切り換えられる。電動モータ18がDCモータにより構成される場合、例えば、植付入切スイッチ19の操作信号に基づき、制御部87がドライバ回路を介して電動モータ18への電力供給を断接し、駆動のオンオフを切り換えるよう構成することができる。
【0038】
一方、電動モータ18がACモータにより構成される場合、例えば、第1バッテリー17と電動モータ18との間にインバータを介装することで、植付入切スイッチ19の操作信号が制御部87に送られた際に、制御部87から出力される制御信号に基づき、第1バッテリー17から電動モータ18への電力供給をインバータで断接して電動モータ18のオンオフを切り換えることができる。この場合、第1バッテリー17から供給される直流電流をインバータにより交流に変換するとともに、電動モータ18へ供給される電力の周波数を、制御部87から出力される制御信号に基づきインバータで調整することで、モータ回転数を変更できる。
【0039】
水田作業機1が走行車輪8,9の回転駆動により走行しつつ、電動モータ18が駆動される間、第1バッテリー17は、放電と充電とが同時に行われる、いわゆるパススルーの状態にある。
【0040】
第1バッテリー17から供給される電力により電動モータ18が駆動されると、
図1に示される植付伝動軸59が回転され、以下にようにして、苗植付部63により圃場に苗が植え付けられる。
【0041】
苗植付部63は、
図1に示されるように、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を載置する苗タンク65と、苗タンク65の後方かつ下方に設けられた複数の植付装置64と、苗タンク65上の各条に配置された苗送りベルト72を備えている。複数の植付装置64は水田作業機1の幅方向に並べて配置され、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備えている(
図2参照)。
【0042】
電動モータ18の駆動により植付伝動軸59が回転されると、
図2に示される植付伝動部71を通じて、各植付装置64及び各苗送りベルト72に伝動される。その結果、各植付装置64において、前側の植付具69と後ろ側の植付具69とが、
図1に示される駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に苗タンク65の下端部に設けられた苗取出口70から苗を取出し、圃場に植え付ける植付動作を行う。同時に、各苗送りベルト72が駆動されて、苗タンク65に載置された苗マットが下方、すなわち、苗タンク65の下端部へ搬送される。また、植付伝動軸59の回転に伴い、横送り機構により苗タンク63が植付装置64の植付動作に連動して左右に往復運動するよう構成されている。これにより、各苗取出口70に、次に植付具69により植え付けられる苗が各苗取出口70に供給される。なお、植付伝動軸59の回転により苗タンク63を横送りする(左右に往復運動する)構成は、特開2008-182926号公報等に詳述されており、公知技術である。
【0043】
本実施形態においては、
図2に示されるように、計4列の植付具69が左右方向に並べて設けられた4条植えの構成であり、したがって、水田作業機1が圃場に苗を植え付けつつ、直進走行すると、圃場に4条の苗列が形成される。
【0044】
以上のように、本実施形態においては、第1バッテリー17から供給される電力により電動モータ18を駆動し、苗植付部63を作動させるよう構成されている。このため、エンジンにより走行装置と作業機の両方を駆動する場合に比して、エンジン7の出力を下げることができ、エンジン7の燃料消費と排気ガスの排出量を低く抑えることができる。
【0045】
さらに、エンジン7から出力される回転動力を走行車輪8,9に伝達する伝達機構15から動力を第1モータジェネレータ33に分配して発電し、第1バッテリー17に蓄電するよう構成されているから、作業者が第1バッテリー17に充電を行う手間を削減できる。
【0046】
一方、本実施形態においては、電動モータ18が駆動される間に、施肥装置26へ伝動する施肥伝動機構21(
図1参照)に動力が伝達されるよう、植付伝動軸59から施肥伝動機構21に動力分配手段が延ばされている。植付入切スイッチ19が操作され、電動モータ18が駆動されると、この動力分配手段及び施肥伝動機構21を通じて施肥装置26に回転動力が伝達される。その結果、施肥装置26の施肥ホッパ26aから施肥ホース26bを通じて圃場に肥料が供給される。この動力分配手段は、例えば動力分配手段32と同様に、ベルト式の伝達機構により構成することができる。
【0047】
苗植付部63は、
図1に示されるように、昇降リンク装置5により上下に回動可能に走行車体2の後部に取り付けられている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85及び左右一対の下部リンクアーム86を備えている。
【0048】
上部リンクアーム85及び下部リンクアーム86の前側の端部は、車体2のリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端部は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
【0049】
制御部87によって電子油圧バルブが制御されて、
図1に示される昇降油圧シリンダ12が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が後ろ上がりに回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇される。苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置する。
【0050】
これに対して、制御部87により電子油圧バルブが制御されて、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が後ろ下がりに回動され、苗植付部63が、苗の植付けが可能な作業位置(
図1参照)まで下降される。
【0051】
図4は、
図1に示されたエンジン7の近傍の模式的平面図である。
【0052】
本実施形態においては、エンジン7においてクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するタイミングギア7aに、油圧ポンプ39を回転駆動する第1PTOギア37と、エンジン7の回転をアシストする第2モータジェネレータ34(の回転子)を回転駆動する第2PTOギア38が連結されている。
【0053】
このように、第2モータジェネレータ34を第2PTOギア38に取付けることにより、既存の水田作業機のエンジンまわりの構成を大きく変更することなく、エンジン7の回転をアシストする第2モータジェネレータ34を機体に搭載することができる。なお、第1、第2PTOギア37,38はエンジン7の左右に配置されており、油圧ポンプ39と第2モータジェネレータ34をエンジン7の左右任意の側に取付けることができる。
【0054】
図4に示される「7b」は、エンジン7のシリンダーブロックを示す符号であり、「7c」は、シリンダーブロック7c内の各シリンダーを示す符号であり、「7d」はタイミングギアケースを示す符号である。
【0055】
第2モータジェネレータ34は、エンジン7から出力される回転動力を第2PTOギア38を介して受け、回生駆動により発電を行い、後に詳述するバッテリー42,43(
図6参照)に充電する。そして、アクセル開度が一定にも拘わらずエンジン7の回転数が規定数以上低下した場合に、制御部87の制御に基づき、当該バッテリー42,43に蓄電された電力を用いて、エンジン7の回転を、第2モータジェネレータ34の駆動により一時的にアシストするよう構成されている。しかしながら、エンジン回転数が低下したときに第2モータジェネレータ34によりアシストすることは必ずしも必要でない。
【0056】
図5は、
図1に示されたエンジン7の回転数とトルク量との関係を模式的に示すグラフである。
【0057】
従来の水田作業機は、急旋回(換言すれば小回りに旋回)したときに、エンジン7の回転数が大きく低下してしまうという問題があった。この問題を解決すべく、モータジェネレータによりエンジンの回転をアシストするよう構成することは可能であるが、常時、エンジンの回転を大きくアシストする場合、バッテリーの消費が大きくなってしまう。
【0058】
このような状況に照らして、制御部87は、エンジン7の回転数が規定数以上低下した場合に、ステアリングホイール56の切れ角を検出するステアリングセンサの検出信号に基づき、ステアリングホイール56の切れ角量に応じて、切れ角量が大きいほど、第2モータジェネレータ34によるアシスト量を大きく制御する。換言すれば、制御部87は、ステアリングホイール56の切れ角量が小さいほど、第2モータジェネレータ34によるアシスト量を小さく制御する。
【0059】
これにより、水田作業機1の急旋回時に、第2モータジェネレータ34によりエンジン7の回転をアシストしつつ、バッテリーの消費を抑えることができる。本実施形態に係る水田作業機1は、第2モータジェネレータ34により発電した電力を蓄電し、第2モータジェネレータ34の駆動時(エンジンアシスト時)に第2モータジェネレータ34に電力を供給するバッテリーとして、以下に述べる第2、第3バッテリー42,43を備えている。
【0060】
図6は、
図4に示された第2モータジェネレータ34と第2、第3バッテリー42,43との間の電流の流れを示す模式図である。
【0061】
本実施形態にかかるエンジン7は、ディーゼルエンジンとして構成され、排気ガス中の有害物質を除去するDPF(Diesel Particulate Filter)40が設けられている。
【0062】
制御部87は、図示しないバッテリー管理部に制御信号を送ることにより、第2モータジェネレータ34の電力源、電力供給先を、第2バッテリー42と第3バッテリー43との間で切り換えるよう構成されている。
【0063】
具体的には、一方のバッテリー残量が基準値以下の低残量状態となると、制御部87は、高負荷によりエンジン7の回転数が低下したときに、他方のバッテリーを第2モータジェネレータ34の電力源として使用し、エンジン7をアシストする。
【0064】
また、エンジン7への負荷が低いために排気温度が低く、DPF40のパッシブ(受動的)再生が実施できない場合(例えば苗補給のための停車時等)、制御部87は、バッテリー残量が低下した側のバッテリー42又は43に積極的に(選択的に)充電する。
【0065】
これにより、充電負荷を高めて排気ガスの温度を上昇させることができ、DPF40内の再生(スートの燃焼)を効率的に行うことができる。また、エンジン7への負荷も平準化されるため、燃費を向上できる。
【0066】
ここで、エンジンをアシストするモータジェネレータから充電されるバッテリーが1つのみである場合には、このバッテリー残量が満量のときに充電を行うことができないという問題がある。これに対し、本実施形態においては、モータジェネレータからの電力の供給先として第2、第3バッテリー42,43が設けられているため、このような事態を抑制できる。第2バッテリー42と第3バッテリー43は、互いに別のバッテリーケース(筐体)内に収容されている。なお、バッテリー残量が低下した側のバッテリー42又は43に充電するのに代えて、又は充電するのに加えて、第2モータジェネレータ34を駆動させてエンジン7にかかる負荷を上げるよう構成することも可能である。これにより、DPF40の再生を短時間で完了できる。
【0067】
さらに、制御部87は、DPF40内にスートが基準値以上溜まった際に実施されるDPFアクティブ再生運転時において、バッテリー残量が低下した側のバッテリー42又は43を積極的に(換言すれば、選択的に)充電するよう構成されている。
【0068】
これにより、充電負荷を高めて排気ガスの温度を上昇させることができ、DPF40内の再生(スートの燃焼)を効率的に行うことができる。また、エンジン7への負荷も平準化されるため、燃費を向上できる。
【0069】
一方で、水田作業機がコンバインとして構成された場合には、モミの排出時や手こぎ作業時等、エンジンへの負荷が低いために排気温度が低く、DPF40のパッシブ再生が実施できない場合、制御部は、バッテリー残量が低下した側のバッテリーを選択して充電するよう構成することが望ましい。
【0070】
図7は、
図1に示されたエンジン7の回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【0071】
本実施形態に係るエンジン7は、
図2に示されるグリーンモードスイッチ23が押圧操作される度に、通常のトルクカーブを描く通常モードと、通常のトルクカーブよりもトルクを小さくしたトルクカーブを描くグリーンモードとの間で切り換え可能に構成されている。そして、グリーンモードに設定された状態で、エンジン7の回転数が規定値未満となると、制御部87は、第2モータジェネレータ34を駆動し、エンジン7の回転をアシストする。
【0072】
一般的に、トルクを小さくしたトルクカーブを描くグリーンモードにおいては、低燃費を実現できる反面で、エンジン出力が下がってしまうという問題がある。これに対して、本実施形態においては、第2モータジェネレータ34の駆動によりエンジン7のトルクをアシストできるため、低燃費を実現しながらも、力強い出力を行うことができる。
【0073】
さらに、本実施形態においては、グリーンモードに設定された状態で、第2、第3バッテリー42,43の出力電圧から計測されるバッテリー残量が、第1の所定値未満となった場合、グリーンモードから通常モードに自動的に移動される。その後、第2、第3バッテリー42,43の一方の残量が第1の所定値より大きい第2の所定値以上となった時点で、グリーンモードに自動的に移行(復帰)する。これにより、グリーンモードを継続することができるとともに、バッテリー残量が少なくなったときに、作業者によるグリーンモードスイッチ23の切換え操作が不要となり、利便性が高い。
【0074】
なお、
図4ないし
図7に係る構成は、作業用の電動モータ18によらずに、エンジンから伝達される動力により苗植付部を駆動する構成とした場合にも適用することができる。加えて、
図7に係る上記グリーンモードの構成は、第2モータジェネレータ34への給電元(電力源)として、単一のバッテリーケースに収容された第2バッテリーのみを備える構成とした場合にも適用できる。この場合には、第2バッテリー42の残量が第1の所定値未満となった場合にグリーンモードから通常モードに自動的に移動され、その後、バッテリー残量が第2の所定値以上となった時点でグリーンモードに自動的に移行(復帰)するよう構成することが好ましい。
<本実施形態の技術的意義>
図1ないし
図7に係る本実施形態によれば、苗の植付け作業を行う苗植付部63が電動モータ18により駆動されるよう構成されているから、エンジン7の出力を下げることができ、燃料消費と排気ガスの排出量を抑えることができる。
【0075】
さらに、本実施形態によれば、エンジン7から出力される回転動力を走行車輪8,9に伝達する伝達機構15のうちの一対の後輪ギアケース51から、動力の一部を動力分配手段32により一対の第1モータジェネレータ33(発電機の一例)に分配し、この第1モータジェネレータ33により発電された電力が、電動モータ18に電力を供給する第1バッテリー17に蓄電されるよう構成されているから、作業者が第1バッテリー17に充電を行う手間を削減できる。なお、左側の第1モータジェネレータ33は、本発明の「左側発電機」の一例であり、右側の第1モータジェネレータ33は、本発明の「右側発電機」の一例である。
【0076】
加えて、本実施形態によれば、HST25及びフロントギアケース30により変速された動力を、一対の後輪駆動軸14(左側(の)後輪駆動軸14と右側(の)後輪駆動軸14)を通じて一対の後輪ギアケース51に伝達し、その後、一対の後輪ギアケース51から左右の後輪9に伝達するとともに、動力分配手段32によって一対の第1モータジェネレータ33に分配するよう構成されているから、一対の第1モータジェネレータ33で効果的に発電を行い、大きな電力を得ることができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、一対の第1モータジェネレータ33により発電された電力が、単一のバッテリーケース17a内に収容された第1バッテリー17に蓄電されるよう構成されているから、一対の第1モータジェネレータ33により発電された電力を1つにまとめることができ、電動モータ18の電力源を、複数のバッテリーケースの間で切り換える機構と制御が不要となる。
【0078】
一方、
図8は、本発明の他の好ましい実施形態に係る水田作業機1のエンジン7を示す略斜視図である。本実施形態においては、以下に述べる点を除き、
図1ないし
図7に示された前記実施形態に係る水田作業機1と同様に構成されており、したがって同様の効果を得ることができる。
【0079】
本実施形態に係るエンジン7のアシスト用の第2モータジェネレータ34は、エンジン7のクランクシャフトに接続されたクランクプーリ7eに組み付けられている。このため、第2モータジェネレータ34は、クランクプーリ7eの回転に伴い回生駆動されることにより発電を行うとともに、アクセル開度が一定にも拘わらずエンジン7の回転数が規定数以上低下した場合に、制御部87の制御信号に基づき駆動し、クランクプーリ7eの回転をアシストする。
【0080】
このように、回生駆動時にクランクプーリ7eから出力を取り出すよう構成することで、第2モータジェネレータ34の配置が容易となる。
【0081】
また、従来の作業機においては、ジェネレータ部にモータジェネレータを組み付け、エンジンのアシスト時にモータジェネレータを駆動し、モータジェネレータの出力をエンジンのタイミングベルトに伝達するのが一般的である。しかしながら、この場合、ベルトに動力伝達を行うため、伝動効率が低いとともに、タイミングベルトへの負荷が高く、タイミングベルトの寿命が短くなってしまうという問題がある。
【0082】
これに対し、本実施形態においては、アシスト用の第2モータジェネレータ34の駆動時に、クランクプーリ7eに出力を伝えるよう構成されている。このため、第2モータジェネレータ34の動力を効率よくエンジン7側へ伝達できるとともに、タイミングベルト7fへの負荷をなくし、長寿命化することができる。
【0083】
また、クランクプーリ7eから第2モータジェネレータ34へ異常な高負荷が掛かった場合には、第2モータジェネレータ34とクランクプーリ7eとの接続部が破断することで、第2モータジェネレータ34の破損を防止できる。
【0084】
なお、
図8に係る構成は、作業用の電動モータ18によらずに、エンジンから伝達される動力により苗植付部を駆動する構成とした場合にも適用することができる。
【0085】
一方、
図9は、本発明のさらに他の好ましい実施形態に係る水田作業機1のエンジン7を示す略斜視図であり、
図9(a)は、エンジン7においてギヤケース7gが取り付けられた状態を示す略斜視図であり、
図9(b)は、エンジン7においてギヤケース7gが取り外された状態を示す略斜視図である。
【0086】
また、
図10は、
図9に示されたエンジン7の種々のギヤを露出させた状態を示す略正面図である。
【0087】
本実施形態においては、以下に述べる点を除き、
図1ないし
図7に示された実施形態に係る水田作業機1と同様に構成されており、したがって同様の効果を得ることができる。
【0088】
本実施形態に係るエンジン7のアシスト用の第2モータジェネレータ34は、エンジン7の高圧ポンプ7hの下方であって、サイドタップ7iよりも上方の位置に配置され、フロントプレート7jに固定されている。この位置は、従来の水田作業機において、ハイドロポンプを組付けし、ギヤ駆動で動力を伝達していた部分である。また、第2モータジェネレータ34により発電を行うことができ、従来のモータ機能を有しない発電機が不要となる。このため、従来の水田作業機においてモータ機能を有しない発電機が組み付けられていたエンジン7の部分には、ベルトテンショナー(テンションプーリ)7sが組み付けられている。このように構成することにより、従来と同様の部品構成にて対応することが可能になる(換言すれば、部品を共用できる)。
【0089】
第2モータジェネレータ34から出力された動力は、アクセル開度が一定にも拘わらずエンジン7の回転数が規定数以上低下したときに、バルブを駆動するギヤトレイン7kでエンジン7側に伝達される。換言すれば、第2モータジェネレータ34によって、ギヤトレイン7kを駆動するよう構成されている。
【0090】
このように、第2モータジェネレータ34からの動力伝達をギヤ駆動とすることにより、
図8に示された実施形態と同様に、第2モータジェネレータ34の動力を効率よくエンジン7側へ伝達できるとともに、タイミングベルト7fを長寿命化することができる。加えて、従来の水田作業機へ、大きな形状変更を伴わずに、エンジンをアシストすることを目的としてモータジェネレータを配置することが可能になる。
【0091】
さらに、ギヤトレイン7kをバランサ駆動用と共用することで、第2モータジェネレータ34をコンパクトに配置することができる。なお、第2モータジェネレータ34に代えて、発電機能を有しないモータを組み付けすることも可能である。この場合にも、エンジン出力をモータによりアシストできる。
【0092】
本実施形態においては、エンジン7に異常燃焼(オーバーラン)が発生した場合に、第2モータジェネレータ34のトルクにより減速が行われる。
【0093】
図10に示されるように、アイドルギヤ7mのギヤ直径はクランクギヤ7nの3倍以上の大きさとすることが好ましく、モータジェネレータギヤ7oは高圧ポンプギヤ7qよりも下方に配置されることが好ましく、モータジェネレータギヤ7oはクランクギヤ7nよりも上方に配置することが好ましく、モータジェネレータギヤ7oは高圧ポンプ7hよりもエンジン7の幅方向において外側に配置されることが好ましく、モータジェネレータギヤ7oはカムギヤ7pの反対側の側面に配置されることが好ましい。なお、
図10に示される「7r」は、オイルポンプギヤを示す符号である。
【0094】
また、本実施形態においては、DPF40がエンジン7の上側に横置きに配置されているとともに、断熱材付きのブリーザASSYをリヤプレートの後端部よりも後ろ寄りに配置されている。
【0095】
図11は、
図9に示されたエンジン7を始動する際のモータ回転数と時間との関係を示すグラフであり、エンジン7が始動されるまでの時間におけるスタータモータと第2モータジェネレータ34の駆動のオンオフのタイムチャートも示されている。
【0096】
本実施形態に係る水田作業機1は、エンジン7をアシストする第2モータジェネレータ34に加え、エンジン7を始動させるスターターモータを備えている。そして、スターターモータが駆動され、停止した時点で、エンジン7の回転数が、所定値未満であり、回転数が十分に上昇していないと認められる場合、制御部87は、エンジン7の回転数が所定値以上となり、十分に上昇したと認められるまでの間の第2モータジェネレータ34を駆動するよう構成されている。これにより、第2モータジェネレータ34によりエンジン7の始動をアシストできるため、特に、低温時に、スターターモータの停止後、エンジンストールしてしまうことや始動のもたつきを防止でき、エンジン7をスムーズに始動させることができる。
【0097】
なお、
図9ないし
図11に係る構成は、作業用の電動モータ18によらずに、エンジンから伝達される動力により苗植付部を駆動する構成とした場合にも適用することができる。
【0098】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0099】
例えば、
図1ないし
図11に示された各実施形態においては、第1モータジェネレータ33は発電機としてのみに用いられているが、発電機としての機能と電動機としての機能を備える第1モータジェネレータ33を用いて、例えば非走行時に、苗植付部63や施肥装置26等の作業機を駆動できるよう構成してもよい。この場合、モータジェネレータ33は、本発明の「発電機」と「作業用電動モータ」を兼ねることとなる。さらに、第1モータジェネレータ33を駆動し、ベルト式の動力伝達機構等により構成される動力分配手段32に(逆に)動力を伝達し、後輪ギアケース51、及び後輪車軸82を介して、走行車輪8,9を回転駆動するよう構成してもよい。この場合には、エンジン7を作動させることなく、モータジェネレータ33の駆動により、後輪駆動で水田作業機1をEV走行させることができ、排気ガスの排出を防止できる。加えて、燃料残量がなくなったことによりエンジン7がストップしてしまった場合でも、走行を継続できる。なお、この場合、フロントギアケース30内でクラッチを切ることにより、フロントギアケース30とHST25との間の動力伝達を遮断してもよく、一対の前輪8への動力伝達を遮断してもよい。
【0100】
また、
図1ないし
図11に示された各実施形態にかかる水田作業機1は、動力分配手段により分配された回転動力を受けて発電する「発電機」として、第1モータジェネレータ33が用いられているが、電動機としての機能を有しない発電機により発電を行うよう構成してもよい。
【0101】
さらに、
図1ないし
図11に示された各実施形態にかかる水田作業機1の走行装置は前輪8及び後輪9を含んで構成されているが、クローラ等を含んで構成されてもよい。
【0102】
加えて、
図1ないし
図11に示された各実施形態においては、HST25で変速した回転動力を、さらにフロントギアケース30内で副変速レバー36の操作位置に応じた速度に変速した後、一対の後輪伝動軸及び一対の後輪ギアケース51を通じて左右の後輪9に伝達するよう構成されているが、たとえば、HSTから変速済みの動力を受けたフロントギアケース(さらに内部で変速)から単一のプロペラシャフトにより左右の後輪の間の近傍まで電動した後、左右の後輪の間に配置したディファレンシャル機構を介して、左右の後輪に伝動するよう構成してもよい。
【0103】
この場合には、単一のプロペラシャフトや、ディファレンシャル機構から左右に延びる後輪車軸などに、ベルト式等の動力分配手段を配置し、ジェネレータ(発電機)やモータジェネレータに動力を分配することで、エンジンから伝達される動力で発電を行い、作業用の電動モータを駆動して農作業を行うことができる。
【0104】
さらに、
図1ないし
図11に示された各実施形態においては、左右の後輪ギアケース51から動力を第1モータジェネレータ33に分配するよう構成されているが、例えばフロントギアケース30から前輪8へ伝達されるまでの動力伝達路や、HST25からフロントギアケース30までの動力伝達路等に、モータジェネレータ又は電動機としての機能を有しない発電機への動力分配手段を配置してもよい。
【0105】
また、
図1ないし
図11に示された各実施形態においては、水田作業機1は田植機として構成されているが、本発明に係る水田作業機は、コンバインやトラクタ等により構成されてもよい。
【0106】
例えば、水田作業機をコンバインにより構成する場合、エンジン回転数が規定数以上にわたって低下したときに、第2モータジェネレータによりエンジンをアシストすることが好ましいが、エンジン回転数が規定数以上低下し、且つ、刈脱部が駆動中であることを条件として、第2モータジェネレータによる動力アシスト量を増加させることがより好ましい。これにより、刈り取り作業時の回転低下を軽減し、作業性を向上できるとともに、アシスト量の増加を刈取り作業中に限定することで、バッテリーの消費を抑制できる。
【0107】
また、エンジン回転数が規定数以上低下したときに、第2モータジェネレータによりエンジンをアシストするとき、グレンタンク内のモミ量が多ければ多いほど、第2モータジェネレータによるアシスト量を大きくすることが好ましい。一般的に、急旋回時で、特に、モミ量が多い場合に、エンジン回転数が大きく低下することがあるが、このように構成することにより、回転数の低下を低減できるとともに、モミ量が少ないときに、バッテリーの消費を抑制できる。
【0108】
さらに、水田作業機をトラクタにより構成する場合、エンジン回転数が規定数以上にわたって低下したときに、第2モータジェネレータによりエンジンをアシストすることが好ましいが、エンジン回転数が規定数以上低下し、且つ、牽引モードが選択されていることを条件として、第2モータジェネレータによる動力アシスト量を増加させることがより好ましい。牽引作業中は、トラクタに大きな負荷が掛かるため、エンジン回転数が低下しやすいが、第2モータジェネレータによりアシストすることで、作業性を向上できる。加えて、第2モータジェネレータによるアシスト量の増加を牽引作業中に限定することにより、バッテリーの消費を抑制できる。
【0109】
加えて、水田作業機をトラクタにより構成する場合、エンジンのアクセル開度が一定にも拘わらず、エンジン回転数が規定数以上低下する場合に、第2モータジェネレータによりエンジン回転をアシストすることが好ましい。このように、エンジン回転数が低下する場合にのみ、モータアシストを行うことにより、早期にバッテリー残量がなくなるのを防止できる。
【0110】
また、水田作業機をトラクタにより構成する場合、作業機昇降レバーが下げ位置へ移動した後の所定時間の間に、エンジン回転数が規定数以上低下したことを条件として、第2モータジェネレータによる動力アシスト量を増加させることが好ましい。これにより、作業機が接地した際のエンジン回転数の低下を軽減し、作業性を向上できるとともに、アシスト量の増加を接地時に限定することで、バッテリーの消費を抑制できる。
【0111】
さらに、水田作業機をトラクタにより構成する場合、
図12に示すように、作業機としてのロータリーを昇降するロータリー昇降スイッチの「下げ」操作に連動して、ロータリーの接地(耕耘開始)から数秒間にわたって、第2モータジェネレータによりエンジン回転をアシストすることが好ましい。PTOを下げてロータリーが接地した直後の耕耘開始時はエンジンへの負荷が大きいため、このように構成することにより、耕耘特性の悪化、エンジンストールを防止できる。
【0112】
ここで、第2モータジェネレータによるエンジン回転のアシスト時間は、第2モータジェネレータに電力を供給するバッテリー残量が多いほど長くし、バッテリー残量が短いほど短くするよう構成することがより好ましい。このように構成することによって、早期にバッテリー残量がなくなることを効果的に防止できる。
【0113】
なお、コンバイン及びトラクタについてのこれらの動力アシストについては、第2モータジェネレータに代えて、発電機能を有しないモータにより行われるよう構成してもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 水田作業機
2 走行車体
3 メインフレーム
4 ベルト式動力伝達機構
5 昇降リンク装置
6 後部フレーム
7 エンジン
8 前輪
9 後輪
10 リンクベースフレーム
11 上下リンクアーム
12 昇降油圧シリンダ
13 前輪ファイナルケース
14 後輪伝動軸
15 動力伝達機構
17 バッテリー
18 電動モータ
19 植付入切スイッチ
21 施肥伝動機構
23 グリーンモードスイッチ
24 副変速レバー
25 HST
26 施肥装置
27 植付クラッチモータ
28 操舵機構
30 ミッションケース
31 前輪車軸
32 動力分配手段
33 第1モータジェネレータ
34 第2モータジェネレータ
35 主変速レバー
36 副変速レバー
37 第1PTOギア
38 第2PTOギア
39 油圧ポンプ
40 DPF
42 第2バッテリー
43 第3バッテリー
45 切換アーム回動軸
47 フロントカバー
48 操縦席
49 操縦部
51 後輪ギアケース
56 ステアリングホイール
59 植付伝動軸
60 フロアステップ
63 苗植付部
64 植付装置
65 苗タンク
67 駆動軸
69 植付具
70 苗取出口
71 植付伝動部
72 苗送りベルト
79 SSレバー
81 ブレーキペダル
82 後輪車軸
83 ステアリングポスト
85 上部リンクアーム
86 下部リンクアーム
87 制御部