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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】粒体を製造する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20241031BHJP
   B01J 2/00 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C01G23/00 B
B01J2/00 A
B01J19/00 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020134057
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030220
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520084881
【氏名又は名称】京都フュージョニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 啓祐
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110372384(CN,A)
【文献】特表2002-529352(JP,A)
【文献】特表2003-536231(JP,A)
【文献】特表2014-516000(JP,A)
【文献】特開2007-185572(JP,A)
【文献】特開2021-134115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0067626(US,A1)
【文献】特表2002-535236(JP,A)
【文献】特開2001-137685(JP,A)
【文献】特開2000-262889(JP,A)
【文献】特表2021-519863(JP,A)
【文献】特開2005-089219(JP,A)
【文献】特開2021-134106(JP,A)
【文献】GU, D. et al.,Balling phenomena during direct laser sintering of multi-component Cu-based metal powder,Journal of Alloys and Compounds,2007年,432,163-166
【文献】Gu, D. D. et al.,Development and characterization of direct laser sintering multicomponent Cu based metal powder,Powder Metallurgy,2006年,49, 3,258-264
【文献】LIU, H. et al.,Effect of scanning speed on the solidification process of Al2O3/GdAlO3/ZrO2 eutectic ceramics in a single track by selective laser melting,Ceramics International,2019年,45, 14,17252-17257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
B01J 20/00-20/28
20/30-20/34
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
B01J 41/02
B01J 41/10
C09C 1/22
C01G 51/00
C01G 53/00
C01G 23/00
B01J 2/00
19/00
C01D 1/00
C01G 25/00
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に載置された、Li O、Li TiO 、Li SiO 、Li ZrO 、Li CO のいずれか一種以上の単体または混合物を含む原料粉末に、YAGレーザーの光線を照射して、前記原料粉末を結着させることを特徴とする、前記原料粉末の粒体を製造する方法。
【請求項2】
前記原料粉末の位置と、前記原料粉末に対して照射される前記光線の照射位置とを相対的に移動させながら、前記光線を照射することを特徴とする、請求項1に記載の粒体を製造する方法。
【請求項3】
混合された複数の種類の前記原料粉末に前記光線を照射して、前記複数の種類の前記原料粉末を化学反応させて、当該化学反応により生成される化合物を結着させた粒体を製造することを特徴とする、請求項1または2に記載の粒体を製造する方法。
【請求項4】
前記光線のエネルギーを変化させて、前記粒体のサイズを変化させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の粒体を製造する方法。
【請求項5】
Li O、Li TiO 、Li SiO 、Li ZrO 、Li CO のいずれか一種以上の単体または混合物を含む原料粉末を載置する支持体と、
前記原料粉末を結着させるための、YAGレーザーの光線を照射する光源と、
を備えることを特徴とする、前記原料粉末の粒体を製造する装置。
【請求項6】
前記原料粉末の位置と、前記原料粉末に対して照射される前記光線の照射位置とを相対的に移動させる移動機構をさらに備えることを特徴とする、請求項に記載の粒体を製造する装置。
【請求項7】
前記支持体は、混合された複数の種類の前記原料粉末を載置し、
前記光源は、前記複数の種類の前記原料粉末を化学反応させて、当該化学反応により生成される化合物を結着させた粒体を製造するための前記光線を照射することを特徴とする、請求項またはに記載の粒体を製造する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒体を製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナやジルコニア等のセラミック球は、耐熱部品、耐摩耗部品、ベアリング部品および粉砕用部品(ボールミルと呼ばれている)として産業利用されている。また、リチウムシリケートやリチウムジルコネート等のリチウムセラミックス球は、火力発電所のCO吸収材として開発が進められており、リチウムタイタネートのリチウムセラミックス微小球は、核融合反応に用いるトリチウムを増殖させるための機能材料として使用されている。従来、このような球形の粒子または粒体(以下、これらを単に粒体またはペブルと呼ぶ)を製造する方法として、例えばエマルジョン法、溶融方式およびレーザー溶融法が知られている。
【0003】
非特許文献1には、試料スラリーの液滴を有機溶媒中に落下させてゲル球を製造する、エマルジョン法による方法が開示されている。非特許文献2には、白金の坩堝内においてセラミックの粉末を高温で溶融し、溶融物を大気中に落下し冷却させることにより球形の粒体を製造する、溶融方式による方法が開示されている。非特許文献3には、レーザーを用いた積層造形により微小球を製造する、レーザー溶融法による方法が開示されている。特許文献1には、レーザー・ビーム中に原料粉末を供給して、原料粉末を溶融することにより、球形の粒体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-125843号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Hoshino et al., “Pebble fabrication and tritium release properties of an advanced tritium breeder”, Fusion Engineering and Design, Volumes 109-111, Part B, 1 November 2016, Pages 1114-1118
【文献】R. Knitter et al., “Fabrication of modified lithium orthosilicate pebbles by addition of titania”, Journal of Nuclear Materials, Volume 442, Issues 1-3, Supplement 1, November 2013, Pages S433-S436
【文献】Q. Zhou et al., “Fabrication of Li2TiO3 pebbles by a selective laser sintering process”, Fusion Engineering and Design, Volume 100, November 2015, Pages 166-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
球形の粒体の産業利用が進むにつれ、このような粒体の大量製造に適した簡略化された方法が求められている。しかしながら、非特許文献1の方法では、原料を約24時間混合したのち、原料のゲル球を約6時間以上乾燥した後に、電気炉で数時間の熱処理を行う。非特許文献1の方法は製造工程が多く、大量製造には向いていない。直径が約1mm以下の微小な球を製造することもできない。
【0007】
非特許文献2の方法では、高価な大型の白金の坩堝を使用するため、コストが増大する。非特許文献2の方法では、得られる粒体の直径も約0.25mm~約1.25mmに広く分布しており、粒体のサイズを制御することが困難である。このことから歩留まりが低く、大量製造には向いていない。
【0008】
非特許文献3の方法では、1つの球にレーザーを複数回照射して積層造形し、積層造形した未焼結(green)の球を冷間等方圧加圧法(Cold Isostatic Pressing: CIP)で加圧した後、電気炉で数時間の焼結を行う。非特許文献3の方法は製造工程が多く、大量製造には向いていない。直径が約1mm以下の微小な球を製造することもできない。
【0009】
特許文献1の方法では、原料粉末をノズルから吐出して自由落下させ、水平方向に照射されるレーザーの集光ビーム中を横切る間に原料粉末を溶融させる。特許文献1の方法では、原料粉末の粒が細かいと、原料粉末が自由落下する際に原料粉末の凝集が生じるため、溶融する前の原料粉末の粒径が増大する傾向にある。これにより、原料粉末がレーザーの集光ビーム中を横切る時間にばらつきが生じ、得られる粒体のサイズを制御することが困難である。このことから、特許文献1の方法では、直径が約1μm~約200μmの大小様々な粒体が製造され、歩留まりが低い。
【0010】
本発明は、粒体を大量に製造するための簡略化された方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
支持体に載置された原料粉末に光線を照射して、前記原料粉末を結着させることを特徴とする、前記原料粉末の粒体を製造する方法。
(項2)
前記原料粉末の位置と、前記原料粉末に対して照射される前記光線の照射位置とを相対的に移動させながら、前記光線を照射することを特徴とする、項1に記載の粒体を製造する方法。
(項3)
混合された複数の種類の前記原料粉末に前記光線を照射して、前記複数の種類の前記原料粉末を化学反応させて、当該化学反応により生成される化合物を結着させた粒体を製造することを特徴とする、項1または2に記載の粒体を製造する方法。
(項4)
前記光線のエネルギーを変化させて、前記粒体のサイズを変化させることを特徴とする、項1から3のいずれか一項に記載の粒体を製造する方法。
(項5)
前記原料粉末は、LiO、LiTiO、LiSiOおよびLiZrOのリチウム化合物の単体あるいは混合組成を含むことを特徴とする、項1から4のいずれか一項に記載の粒体を製造する方法。
(項6)
原料粉末を載置する支持体と、
前記原料粉末を結着させるための光線を照射する光源と、
を備えることを特徴とする、前記原料粉末の粒体を製造する装置。
(項7)
前記原料粉末の位置と、前記原料粉末に対して照射される前記光線の照射位置とを相対的に移動させる移動機構をさらに備えることを特徴とする、項6に記載の粒体を製造する装置。
(項8)
前記支持体は、混合された複数の種類の前記原料粉末を載置し、
前記光源は、前記複数の種類の前記原料粉末を化学反応させて、当該化学反応により生成される化合物を結着させた粒体を製造するための前記光線を照射することを特徴とする、項6または7に記載の粒体を製造する装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、粒体を大量に製造するための簡略化された方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る粒体製造装置の模式的な構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法の手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法において光線の照射位置の移動を平面視で説明するための模式的な図である。
図4】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の外観を示す写真である。
図5】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の電子顕微鏡写真である。
図6】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の直径の分布を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の粉末をX線回折測定した結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
[装置の構成]
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る粒体製造装置の模式的な構成を示す図である。
【0016】
本発明の一実施形態に係る粒体製造装置10は、原料粉末9を載置する支持体1と、原料粉末9を結着させるための光線3を照射する光源2とを備える。本実施形態では、支持体1および原料粉末9は大気中に常圧(大気圧)下で設置されている。他の実施形態では、支持体1および原料粉末9は、大気圧未満の減圧下または大気圧より高い加圧下の雰囲気に設置されてもよい。原料粉末9の周囲の雰囲気も大気に限らず、種々のガス雰囲気であってもよい。
【0017】
原料粉末9は、本実施形態ではリチウムタイタネート(LiTiO)であり、粒体製造装置10はリチウムセラミックスの粒体を製造する。他の実施形態では、原料粉末9は、酸化リチウム(LiO)、リチウムタイタネート(LiTiO)、リチウムシリケート(LiSiO)およびリチウムジルコネート(LiZrO)のリチウム化合物の単体あるいは混合組成を含むことができる。他の実施形態では、原料粉末9は、光線3の照射により反応する複数の種類の原料物質とすることができる。
【0018】
支持体1は、本実施形態では、平面視の略中央に窪みを有する概ねプレート状の載置台(stage)であり、原料粉末9を概ね平らに載置する。他の実施形態では、支持体1は、例えばベルトコンベアのように、後述する移動機構6と一体化されていてもよい。
【0019】
光源2は、本実施形態ではレーザー光源である。本実施形態では、レーザー光すなわち光線3は、原料粉末9にパルス状に照射される。光源2には、種々の波長の光線3を出力する種々の光源を用いることができる。例示的には、光源2には、波長が1.06μmの赤外光をパルス状にまたは連続的に照射する、公知のNd:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザーを用いることができる。他の実施形態では、光源2にはCOレーザーを用いることができる。本実施形態では、光源2の出力は1パルスあたり約30Jである。例示的には、光線3のパルス幅(パルスの照射時間)は約3ミリ秒であり、これにより原料粉末9の突沸や飛散を低減することができる。
【0020】
本実施形態では、光源2から照射される光線3は、光学系4を通じて原料粉末9に照射される。例示する光学系4は、ミラー41および集光レンズ42を備えており、支持体1上に載置された原料粉末9に光線3を集光させる。他の実施形態では、光学系4を省略することができ、光源2から照射される光線3を直接的に原料粉末9に照射することができる。
【0021】
コントローラ5は、光源2の動作を制御する。本実施形態では、コントローラ5は、制御線51を介して光源2の動作を制御し、制御線52を介して後述する移動機構6の動作を制御する。例示的には、コントローラ5には、CPUおよびメモリを備えるコンピュータを用いることができ、制御線51,52の接続には、例えばGP-IB(IEEE488)およびUSB等の種々のインターフェースを用いることができる。コントローラ5と光源2および移動機構6との間の接続は、図示するように制御線51,52を用いた有線接続であってもよいし、他の実施形態では、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線接続であってもよい。
【0022】
本実施形態では、支持体1の下方には移動機構6が設けられている。例示する移動機構6は、直交する2軸(図示するX軸およびY軸)のそれぞれの方向に位置を変更することができる。移動機構6を駆動することにより、光線3の照射位置31を支持体1上で移動させることができ、原料粉末9に対する光線3の照射位置31を移動させることができる。他の実施形態では、原料粉末9側の位置を固定して、光源2および光学系4側を移動させることにより、原料粉末9に対する光線3の照射位置31を移動させてもよい。
[製造方法]
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法の手順を示すフローチャートである。図2を参照して説明する粒体製造方法の以下の手順は、オペレータ(ユーザ)が粒体製造装置10を用いて行ってもよいし、粒体製造装置10が自律的に行ってもよい。
【0024】
ステップS1において、支持体1に載置された原料粉末9に光線3を照射して、原料粉末9を結着させる。光線3を原料粉末9に照射すると、原料粉末9の溶融体または焼結体は、支持体1に載置された原料粉末9の層から僅かに浮遊し、概ね球形の原料粉末9の粒体が製造される。以下において説明するように、原料粉末9の結着とは、原料粉末9の溶融と原料粉末9の焼結との両方の概念を含む意味である。
【0025】
例えば光線3が十分な熱量を有しており、光線3が有する熱量により原料粉末9の温度が融点以上の温度に上昇する場合には、原料粉末9に光線3を照射すると原料粉末9は溶融する。光線3の照射により、原料粉末9の溶融体は、支持体1に載置された原料粉末9の層から僅かに浮遊する。溶融体は、浮遊している間に液相の表面張力によって概ね球形に成形され、その後僅かに自由落下している間に、大気または特定のガス雰囲気において自然冷却されることにより、概ね球形の粒体となる。
【0026】
光線3が有する熱量が十分ではなく、原料粉末9の温度上昇が融点未満の温度である場合には、原料粉末9に光線3を照射すると原料粉末9は焼結する。溶融体と同様に、原料粉末9の焼結体は、光線3の照射により、支持体1に載置された原料粉末9の層から僅かに浮遊する。焼結体は、浮遊している間に概ね球形に成形され、その後僅かに自由落下している間に、大気または特定のガス雰囲気において自然冷却されることにより、概ね球形の粒体となる。
【0027】
他の実施形態では、混合された複数の種類の原料粉末9に光線3を照射して、複数の種類の原料粉末9を化学反応させて、当該化学反応により生成される化合物を結着させた粒体を製造することができる。このような複数の種類の原料粉末9としては、例えば炭酸リチウム(LiCO)と酸化チタン(TiO)とを例示することができる。すなわち、他の実施形態では、炭酸リチウムの粉末と酸化チタンの粉末とが混合されている原料粉末9に光線3を照射して、これら複数の種類の原料粉末9を化学反応させて、当該化学反応により生成されるリチウムタイタネート(LiTiO)を結着させた粒体を製造することができる。
【0028】
なお、本実施形態および他の実施形態において、結着される粒体のサイズは、照射する光線3のエネルギーを変化させることにより変化させることができる。また、照射する光線3のエネルギーを変化させることにより、製造される粒体90の密度も変化させることができる。例えば、上記した他の実施形態では、LiCO + TiO → LiTiO + CO で表される化学反応により、リチウムタイタネート(LiTiO)と二酸化炭素ガス(CO)とが発生し、これにより、製造される粒体90の密度が変化する。
【0029】
ステップS2において、粒体の製造を終了する(ステップS2においてYes)場合には、一連の工程を完了する。終了しない(ステップS2においてNo)場合には、引き続きステップS3の工程を行う。
【0030】
粒体の製造を終了するか否かの判定は、粒体製造装置10のオペレータ(ユーザ)が行ってもよいし、コントローラ5が自律的に行ってもよい。オペレータが終了の判定を行う場合、オペレータはコントローラ5を操作して、光源2および移動機構6の動作を停止させる。コントローラ5が終了の判定を行う場合、終了の判定は、例えばステップS1の工程を実行する回数の値をコントローラ5のメモリに予め記録しておき、予め記録しておいたこの値に基づいてコントローラ5が終了の判定を行う。コントローラ5は、判定結果に基づいて、光源2および移動機構6の動作を停止させる。
【0031】
ステップS3において、原料粉末9に対する光線3の照射位置を移動させる。これにより、原料粉末9の位置と、原料粉末9に対して照射される光線3の照射位置とは相対的に移動する。図3は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法において光線の照射位置の移動を平面視で説明するための模式的な図である。
【0032】
本実施形態では、移動機構6を駆動することにより、図示するX軸およびY軸のそれぞれの方向に、原料粉末9に対する光線3の照射位置31を移動させる。ステップS1において光線3を原料粉末9にパルス状に照射している場合、光線3の照射位置31は、例えば光線3をパルス状に1回照射する度に、図中に示す矢印1つ分ずつ移動する。図示する態様では、光線3の照射位置31は、アルファベットのS字が連続するようにジグザクに移動する。
【0033】
他の実施形態では、光線3の照射位置31は一方向に移動させてもよい。または例えばターンテーブルを用いて移動機構6を構成することにより、原料粉末9に対する光線3の照射位置31を周方向に環状に移動させてもよい。
【0034】
ステップS3の工程を行った後は、引き続き一連の工程をステップS1から繰り返し行うことにより、原料粉末9の複数の粒体を連続して製造することができる。本実施形態に係る粒体製造方法おいて例示する各種の条件および製造される粒体の性能を表1に示す。
【表1】
【0035】
図4は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の外観を示す写真であり、図5は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の電子顕微鏡写真である。図6は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の直径の分布を示すグラフである。
【0036】
図4図6に示すように、例示的には、製造される原料粉末9の粒体90のサイズは、直径が約0.4mm~約1mmである。粒体90のサイズは、光源2の出力を変更することにより、または光線3のパルス幅を変更することにより、すなわち光線3のエネルギーを変化させることにより制御することができる。図5の電子顕微鏡写真に示すように、粒体90は概ね球形であり真球度は高く、粒体90の表面も概ね平滑となっている。図6のグラフに示すように、本実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体90の直径は、約780μmを中心として±120μmの範囲内に総数の約63.2%が分布しており、粒体90の直径の標準偏差は約120μm未満となっている。直径が約700μm~約800μmにかけて、縦軸が常用対数で表されているグラフの傾きが急上昇していることから、この範囲内に直径の分布の中心値が存在していることがわかる。
【0037】
従来の特許文献1の方法では、原料粉末が落下する際に原料粉末の分散や凝集が生じるため、得られる粒体のサイズを制御することが困難となっている。このような、原料粉末が落下する際に生じる原料粉末の分散や凝集は、原料粉末の種類、原料粉末の粒径の大きさ、粉末の粒径分布に起因すると考えられる。また、従来の特許文献1の方法では、第3図を参照すると、レーザーの出力を増大させると得られる粒体の平均直径は増大するが、サイズの不均一性は改善されていない。
【0038】
これに対し、本実施形態に係る粒体製造方法によると、原料粉末9は支持体1に載置されている。光線3の照射により原料粉末9が原料粉末9の層から浮遊する時間は僅かであり、自由落下する時間も僅かであることから、得られる粒体90のサイズは、光源2の出力を制御することにより、または光線3のパルス幅を制御することにより制御することができる。本実施形態に係る粒体製造方法では、原料粉末9は支持体1に載置されており、従来の特許文献1の方法とは異なり、光線3が原料粉末9に照射される前に原料粉末9が落下することはなく、光線3が原料粉末9に照射される前に原料粉末の分散や凝集は生じない。図6のグラフにも示すように、得られる粒体のサイズのばらつきについても、従来の特許文献1の方法と比較して、サイズの不均一性は改善されている。
【0039】
図7は、本発明の一実施形態に係る粒体製造方法により製造された粒体の粉末をX線回折測定した結果のグラフである。グラフ中、原料粉末9から製造された粒体90の粉末についての測定データを実線で示し、比較対象とする、原料粉末9そのものについての測定データを破線で示す。グラフの縦軸はX線の回折強度を示し、グラフの横軸はX線の回折角度を示す。
【0040】
原料粉末9へ光線3を照射することにより原料粉末9が溶融し、溶融によって粒体90の非晶質化が懸念されるところ、実線で示される測定データと破線で示される測定データとを比較すると、回折のピーク位置は概ね一致している。これにより、本実施形態に係る粒体製造方法により原料粉末9から製造された粒体90は、元の原料粉末9の結晶構造(具体的には、β-LiTiO:単斜型)を維持しており、非晶質化していないことがわかる。
[効果]
【0041】
以上、本発明の粒体製造方法および粒体製造装置によると、粒体を大量に製造するための簡略化された方法および装置を提供することができる。
【0042】
本発明の粒体製造方法によると、原料粉末9へ光線3を照射するという1つの工程により粒体90を製造することができることから、粒体の製造工程を大幅に簡略化することができる。製造される粒体90のサイズはばらつきが少なく歩留まりが高い。このことから、本発明の粒体製造方法は、粒体の大量製造に適している。
【0043】
また、製造される粒体90の結晶構造は元の原料粉末9の結晶構造を維持している。このことから、本発明の粒体製造方法が粒体の結晶構造へ与える影響は、極めて軽微または無視できる程度である。
【0044】
また、本発明の粒体製造方法および粒体製造装置は、核融合炉においてトリチウム増殖材として使用するリチウムタイタネートの微小球の製造に特に適している。
【0045】
本発明の粒体製造方法において、原料粉末9にリチウムタイタネートを用いると、真球度が高いリチウムタイタネートの微小球を製造することができる。リチウムタイタネートの微小球は、核融合炉においてトリチウム増殖材として使用されており、リチウムタイタネートの微小球の真球度が向上すると、トリチウム増殖材の機械的強度が増大し、核融合炉運転中の熱応力によって生じる増殖材の破壊を防ぐことができる。
【0046】
また、リチウムタイタネートの微小球の真球度が向上すると、核融合炉においてプラズマの周囲を覆うブランケット内にリチウムタイタネートと共に充填される中性子増倍材(例えば、ベリリウムの微小球)とのサイズの整合性が向上し、ブランケット内におけるトリチウム増殖材および中性子増倍材の充填率が向上する。例示的には、ブランケット内に充填されるベリリウム微小球とリチウムタイタネート微小球との直径の比率は、約5:1~約10:1である。
[その他の形態]
【0047】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0048】
原料粉末9はリチウムセラミックスに制限されず、原料粉末9を結着させることができる限り、原料粉末9にはアルミナ(AL)やジルコニア(ZrO)等の種々のセラミックスを用いることができる。また、原料粉末9はセラミックスに制限されず、原料粉末9を結着させることができる限り、原料粉末9には種々の金属や有機物を用いることができる。
【0049】
光線3は原料粉末9を結着することができればよく、原料粉末9に照射される光線3はパルス状である必要はなく、光線3は連続的に照射されてもよい。この場合、例えば光線3を原料粉末9に連続的に照射しながら光線3を走査(scan)して、原料粉末9を結着させればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 支持体
2 光源
3 光線
4 光学系
5 コントローラ
6 移動機構
9 原料粉末
10 粒体製造装置
31 照射位置
41 ミラー
42 集光レンズ
51,52 制御線
90 粒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7