(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】マイクログリッドの運用システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20241031BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20241031BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
H02J7/34 B
H02J7/34 J
(21)【出願番号】P 2020193616
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(73)【特許権者】
【識別番号】506162976
【氏名又は名称】餘利野 直人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】餘利野 直人
(72)【発明者】
【氏名】網本 和也
(72)【発明者】
【氏名】間屋口 信博
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-125290(JP,A)
【文献】特開2018-107991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42-10/48
H02J3/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02J13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の需要家が交流線を介して互いに接続されたマイクログリッドの運用システムにおいて、
前記マイクログリッドは、商用電力系統と接続された接続状態と、前記商用電力系統と切り離された非接続状態とに切り替える開閉器を介して前記商用電力系統に接続されており、
個別ユニットが需要家毎に設けられ、
前記個別ユニットには、
前記交流線を介して供給される電力を消費する負荷設備を有し、
前記交流線を介して供給される電力を蓄電する蓄電設備を有しない個別ユニットと、前記負荷設備、前記蓄電設備及び前記
蓄電設備の充放電制御を行う制御部を有する個別ユニットとが混在しており、
前記制御部は、前記開閉器が非接続状態とされて前記マイクログリッドが前記商用電力系統と切り離された場合、前記マイクログリッド内において、前記個別ユニットが現在出力している電力値から予め設定されている前記個別ユニットの出力電力の計画値を減算することによって前記計画値からの偏差を算出するとともに、前記個別ユニットの現在周波数から、前記蓄電設備の蓄電状態に応じて決定される目標周波数を減算した値に等価容量を乗じて電力の充放電目標値を算出し、前記偏差と前記充放電目標値とを合わせた値が0となるように、前記蓄電設備を充放電させる独立マイクログリッド運用制御を行うように構成されていることを特徴とするマイクログリッドの運用システム。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクログリッドの運用システムにおいて、
前記目標周波数は、前記蓄電設備の蓄電量が多ければ多いほ
ど高く設定することを特徴とするマイクログリッドの運用システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクログリッドの運用システムにおいて、
前記蓄電設備の蓄電容量が多ければ多いほど前記等価容量を大きく設定することを特徴とするマイクログリッドの運用システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のマイクログリッドの運用システムにおいて、
前記独立マイクログリッド運用制御時に放電する前記蓄電設備の放電許容量の設定が可能であることを特徴とするマイクログリッドの運用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の需要家が交流線で接続された小規模なエネルギーネットワークであるマイクログリッドの運用システムに関し、特に、需要家の蓄電設備を活用してマイクログリッドを運用する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力会社等によって運用される大規模な商用電力系統では、負荷による総消費電力と発電機による発電量とが一致するように運用されている。例えば複数の需要家による総消費電力が発電量よりも多くなって総消費電力と発電量に差が生じた場合、電力系統内のフライホイール効果によって周波数の変化がゆっくりと起こり、その周波数の変化を抑制する方向に発電所の出力を制御している。
【0003】
一方、近年、例えば自然災害等による突然の電力喪失時にも電力を安定して供給したいという要求が高まっており、この要求を満たすシステムとして、大規模な商用電力系統とは別に運用可能なマイクログリッドが注目されている。
【0004】
マイクログリッドはいわゆる小規模系統とも呼ばれており、その運用システムの例としては、例えば特許文献1、2に開示されているシステムが知られている。特許文献1のシステムでは、電力系統に異常が発生した場合、マイクログリッドを電力系統から切り離してエンジン発電機を目標電圧となるように自立運転させ、周波数及び電圧を固定した電圧制御モードに移行する。電圧制御モードへの切替動作時には通信ネットワークが利用されている。
【0005】
また、特許文献2のシステムでは、マイクログリッド内の負荷(電力を消費する機器や設備)が負荷接続/遮断手段を介してマイクログリッドに接続されている。負荷接続/遮断手段は、無線LAN等の通信ネットワークが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-207574号公報
【文献】特開2020-28198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、これまで系統運用や系統安定化に際して蓄電池運用技術が研究されてきたが、近年、蓄電設備を持つ需要家も増加していることから、需要家の蓄電設備の効果的な利用技術が求められている。特に、自然災害が発生した場合を想定すると、上記のマイクログリッドを商用電力系統から切り離して自立的に運用する技術が重要である。このため、マイクログリッドを構成している需要家の蓄電設備を効果的に利用してマイクログリッドの安定的な運用を実現したいという要求があった。
【0008】
この点、特許文献1では、エンジン発電機を制御するにあたって通信ネットワークを利用しており、また、特許文献2では、マイクログリッド内の負荷接続/遮断手段を制御するにあたって通信ネットワークを利用している。
【0009】
ところが、通信ネットワークの構築が困難な場合があったり、自然災害時には通信ネットワーク自体に異常が発生する場合も想定されるので、通信ネットワークを利用しなくてもマイクログリッドを安定的に運用できるシステムが望まれていた。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、商用電力系統から切り離されたマイクログリッドの需要家の蓄電設備を、通信ネットワークを用いることなく効果的に利用してマイクログリッドを安定的に運用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示では、需要家の蓄電設備を活用して小規模系統(マイクログリッド)を構築するとともに、構築したマイクログリッドを運用する技術を対象とする。マイクログリッドは、複数のエネルギー貯蔵型分散電源と、負荷設備を持つ単相交流や三相交流の系統とすることができる。
【0012】
上記目的を達成するための手段は、複数の需要家が交流線を介して互いに接続されたマイクログリッドの運用システムを前提とする。交流線とは3相交流や単相交流の低圧・高圧配電線や、基幹系統の送電線、その他に自営線なども含まれる。このマイクログリッドは、商用電力系統と接続された接続状態と、前記商用電力系統と切り離された非接続状態とに切り替える開閉器を介して前記商用電力系統に接続されている。前記交流線を介して供給される電力を消費する負荷設備と、前記交流線を介して供給される電力を蓄電する蓄電設備と、前記蓄電設備の充放電制御を行う制御部とを有する個別ユニットが需要家毎に設けられている。前記個別ユニットには、前記負荷設備を有し、前記蓄電設備を有しない個別ユニットと、前記負荷設備、前記蓄電設備及び前記制御部を有する個別ユニットとが混在している。
【0013】
前記制御部は、前記開閉器が非接続状態とされて前記マイクログリッドが前記商用電力系統と切り離された場合、前記マイクログリッド内において、前記個別ユニットが現在出力している電力値から予め設定されている前記個別ユニットの出力電力の計画値を減算することによって前記計画値からの偏差を算出するとともに、前記個別ユニットの現在周波数から、前記蓄電設備の蓄電状態に応じて決定される目標周波数を減算した値に等価容量を乗じて電力の充放電目標値を算出し、前記偏差と前記充放電目標値とを合わせた値が0となるように、前記蓄電設備の充放電制御を行うように構成されている。
【0014】
例えば個別ユニットの蓄電設備の蓄電量が多ければ多いほど目標周波数を高くする一方、蓄電量が少なければ少ないほど目標周波数を低くすることができる。マイクログリッドが商用電力系統から切り離されると、蓄電量の多い蓄電設備を有する個別ユニットは蓄電設備の電力を他の個別ユニットへ出力することができる。このとき、個別ユニットが現在出力している電力値と、個別ユニットの出力電力の計画値との差を求めることで、計画値からの偏差を算出できる。
【0015】
また、個別ユニットの現在周波数は、交流線を介して接続されている他の個別ユニットを含むマイクログリッド内の周波数と同じになるため、マイクログリッド全体の消費電力が供給電力を上回れば周波数が低くなっていく。この個別ユニットの現在周波数から、蓄電設備の蓄電状態に応じて決定される目標周波数を減算した値に等価容量を乗じることで、蓄電設備の充放電目標値を算出することができる。
【0016】
そして、前記偏差と充放電目標値とを合わせた値が0となるように充放電制御を行うことで、例えば、現在周波数が低く、かつ、ある個別ユニットの蓄電量が十分に多い場合には、その個別ユニットの蓄電設備から放電してマイクログリッド内の他の個別ユニットに供給することで、マイクログリッド内の周波数を高めることができる。この放電量は、蓄電設備の蓄電状態に応じて変化し、蓄電量が多ければ多いほど放電量が多くなり、反対に蓄電量が少なければ少ないほど放電量が少なくなる。
【0017】
つまり、マイクログリッド全体の周波数の協調管理をしながら、蓄電設備の放電量を個別ユニット毎に管理してマイクログリッド内の電力需要を満たすことができる。この充放電制御は、交流線で接続されていれば実施可能であるため、通信ネットワークは不要である。
【0018】
また、等価容量は個別ユニット毎に変えてもよい。例えば、蓄電設備の蓄電容量が多ければ多いほど等価容量を大きくすることができる。
【0019】
また、独立マイクログリッド運用制御時に放電する蓄電設備の放電許容量の設定が可能であってもよい。例えば、個別ユニットの蓄電設備の放電許容量が設定されていないと、蓄電設備の蓄電量が無くなるまで放電してしまうおそれがある。個別ユニットの蓄電設備の蓄電量が無くなってしまうと、その個別ユニットでは負荷設備を使用することができなくなるが、本構成のように、放電許容量を設定しておけば、蓄電量が無くなる事態を回避でき、負荷設備の使用が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、交流線によって接続された個別ユニットの蓄電設備の充放電を当該個別ユニット毎に制御することで、商用電力系統から切り離されたマイクログリッドを、通信ネットワークを用いることなく安定的に運用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るマイクログリッドの構成を示す概略図である。
【
図4】個別ユニットの出力条件を説明する図である。
【
図6】独立マイクログリッド内での管理用発電機による蓄電設備の管理方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るマイクログリッド1の構成を示す概略図である。マイクログリッド1は、交流線2によって商用電力系統3と接続されている。商用電力系統3は、例えば電力会社によって運用されている大規模な電力系統であり、複数の発電所から電力の供給が可能になっている。マイクログリッド1は、商用電力系統3に対して系統連系開閉器4を介して接続されている。系統連系開閉器4を閉じるとマイクログリッド1を商用電力系統3に接続した接続状態になる一方、系統連系開閉器4を開くとマイクログリッド1を商用電力系統3から切り離した非接続状態になる。
【0024】
マイクログリッド1は、複数の需要家5、5、…が交流線2で接続された小規模なエネルギーネットワークである。マイクログリッド1は、複数のエネルギー貯蔵型分散電源と、負荷設備を持つ単相交流や三相交流の系統とすることができるが、これに限られるものではなく、従来から周知の小規模な電力供給系統であってもよい。エネルギー貯蔵型分散電源とは、エネルギーの貯蔵が可能な発電設備であり、その例としては、蓄電池等からなる蓄電設備や、燃料貯蔵型発電機等を挙げることができる。また、本実施形態が対象とするマイクログリッド1は、商用電力系統3側が停電した時などの非常時に交流線2の一部を切り離した際、その切り離された部分系統であってもよいし、常時は商用電力系統3に連系している需要家側のネットワークであってもよいし、その他、様々な目的で構築される小規模ネットワークであってもよい。本実施形態が対象とするマイクログリッド1は、例えば自然災害等による突然の電力喪失時にも電力を安定して供給することが可能なシステムとして、大規模な商用電力系統3とは別に運用可能なネットワークであってもよい。マイクログリッド1は、商用電力系統3の末端に設けられるネットワークであってもよい。マイクログリッド1は、それ自体が相互に連系して独立に運用可能な商用・電力系統である大規模電力系統そのものであってもよい。
【0025】
マイクログリッド1は、管理用発電機6を備えていてもよい。管理用発電機6は本発明に必須なものではないので、省略することもできる。管理用発電機6を備えている場合、管理用発電機6は、開閉器7を介して交流線2に接続されている。開閉器7を閉じることで管理用発電機6を交流線2に接続した接続状態にすることができる一方、開閉器7を開くことで管理用発電機6を交流線2から切り離した非接続状態にすることができる。また、図示しないが、マイクログリッド1は、各種分散電源を備えていてもよく、この場合も管理用発電機6と同様に開閉器を介して交流線2に接続することができる。
【0026】
マイクログリッド1を構成している各需要家5は分散して存在している。需要家5毎に個別ユニットY(
図2に示す)が設けられている。1つの個別ユニットYは、1つの家庭、1つの工場または1つの事務所等に存在している。つまり、マイクログリッド1を構成している需要家5の数と同じ数だけ個別ユニットYが存在している。
【0027】
個別ユニットYは、交流線2を介して供給される電力を消費する負荷設備10と、交流線2を介して供給される電力を蓄電する蓄電設備11と、蓄電設備11の充放電制御を行う制御部12と、インバータ13とを有しているユニットの他に、負荷設備10を有し、蓄電設備11及び制御部12を有していないユニットがあり、両ユニットはマイクログリッド1内で混在している。
【0028】
蓄電設備11とインバータ13は、例えば水力エネルギーを貯蔵するダムと揚水発電所の発電機の組み合わせであってもよいし、背後に蓄エネルギー設備を有する通常の発電・電動機の組み合わせであってもよい。負荷設備10は、電力を消費する家電製品や電気機器等であり、屋内配線を介して個別ユニットY内の交流線14に接続される。蓄電設備11の典型的な例は蓄電池である。蓄電容量は特に限定されるものではなく、例えば一般家庭に普及している比較的小容量のものであってもよいし、各種工場等に設置されている比較的大容量のものであってもよい。また、電気自動車を保有している需要家5の場合、電気自動車が負荷設備10になる場合と、電気自動車の蓄電池が蓄電設備11になる場合とがある。個別ユニットYは、例えば太陽光発電装置(図示せず)を有していてもよい。
【0029】
個別ユニットYは、インバータ13も有している。インバータ13は、蓄電設備11と個別ユニットY内の交流線14との間に介在している。インバータ13により、個別ユニットY内の交流線14から供給される交流電流を所定電圧の直流電流に変換して蓄電設備11に供給するとともに、蓄電設備11から放電される直流電流を所定電圧の交流電流に変換して個別ユニットY内の交流線14に供給することができる。
【0030】
個別ユニットYは、第1開閉器S1と、第2開閉器S2とを有している。第1開閉器S1は、個別ユニットY内の交流線14とマイクログリッド1の交流線2との間に介在しており、負荷設備10よりもマイクログリッド1の交流線2に近い部分に設けられている。第1開閉器S1を閉じることで個別ユニットY内の交流線14とマイクログリッド1の交流線2とを接続した接続状態にすることができる一方、第1開閉器S1を開くことで個別ユニットY内の交流線14とマイクログリッド1の交流線2とを切り離した非接続状態にすることができる。
【0031】
第2開閉器S2は、インバータ13と、負荷設備10との間に設けられている。第2開閉器S2を閉じることでインバータ13と個別ユニットY内の交流線14とを接続した接続状態にすることができる一方、第2開閉器S2を開くことでインバータ13と個別ユニットY内の交流線14とを切り離した非接続状態にすることができる。
【0032】
蓄電設備11を持った需要家5を発電需要家と呼ぶこともできる。蓄電設備11は電力を外部に供給することができるからである。発電需要家5は、最低限、蓄電設備11を持ち、通常は負荷設備10も持っているが、さらに再生可能エネルギーを利用した発電設備を持っていてもよい。また、発電需要家5は、最小単位として単相交流で接続する1家庭を想定することができるが、蓄電設備11だけで負荷を持たないものや三相交流を受電する工場等であってもよい。尚、蓄電設備11を持たない需要家5がマイクログリッド1に含まれていてもよい。蓄電設備11を持たない需要家5は、電力を消費するだけの需要家になる。
【0033】
これまで系統運用や系統安定化に対して蓄電池運用技術が研究されてきたが、上述したような発電需要家5も増加していることから、発電需要家5が持っている蓄電設備11の効果的な利用技術が求められていた。特に、自然災害等を想定すると、マイクログリッド1を商用電力系統3から切り離して自立的に運用することが求められていた。本実施形態は、マイクログリッド1を構成している発電需要家5が持っている蓄電設備11の効果的な利用を可能にするものである。商用電力系統3から切り離したマイクログリッド1を独立マイクログリッドと呼ぶことができる。尚、商用電力系統3から切り離していないマイクログリッド1は、一般的な電力供給網による電力供給と同様に電力が供給される。
【0034】
この実施形態のマイクログリッド1の運用システム100は、発電需要家5が持っている蓄電設備11を活用して、独立マイクログリッド1の信頼性を維持することが可能なシステムである。すなわち、本運用システム100は、蓄電設備11を備えた不特定多数のインバータユニット群を、通信ネットワークを用いることなく同期連系させ、これらが相互に、自動的に協調しながらマイクログリッド1の電力供給能力及び供給信頼度を最大限に保つことができるシステムである。
【0035】
発電需要家5の個別ユニットYは、マイクログリッド1を構築できる安定な同期運転機能(安定な定常運転、秒レベルの安定化技術)を備えているのが好ましい。このような機能を実現可能なインバータとして、例えば3相GFMインバータ(Grid-Formingインバータ)やこれを単相用に改修した単相同期化力インバータを挙げることができる。この3相GFMインバータや単相同期化力インバータは、大規模電源として使用される同期発電機の特性をインバータ上に実装したものであり、自分自身で安定性を維持する能力を持っている。このため、任意の台数で単相マイクログリッド1を安定運用することができる。また、大電源への接続も自由であるという利点もある。単相同期化力インバータは、従来から周知であるため、詳細な説明は省略するが、例えば特開2017-127141号公報等に開示されているものを用いることができる。
【0036】
尚、単相同期化力インバータ以外の一般的な発電機や従来型インバータを用いても本実施形態の運用は可能である。また、安定な同期運転機能を備えている各種従来型の回転型発電機であっても本実施形態の運用は可能である。
【0037】
(各個別ユニットのインバータ制御)
個別ユニットYの制御部12は次のような制御を行う。すなわち、制御部12は、個別ユニットYが現在出力している電力値から、予め設定されている個別ユニットYの出力電力の計画値を減算することによって計画値からの偏差を算出する。さらに、制御部12は、個別ユニットYの現在周波数から、蓄電設備11の蓄電状態に応じて決定される目標周波数を減算した値に等価容量を乗じて電力の充放電目標値を算出する。そして、制御部12は、算出した偏差と充放電目標値とを合わせた値が0となるように、蓄電設備11を放電させる独立マイクログリッド運用制御を行う。
【0038】
以下、具体的に制御部12が行う処理について説明する。まず、制御の基本となる計算式(1)について説明する。
【0039】
BCEi=ΔPi+Ki(fi-fRi) (W) … 式(1)
【0040】
式(1)において、BCEiは、各個別ユニットY(i)の蓄電池制御誤差(Battery Control Error)であり、単位はW(ワット)である。式(1)において、ΔPiは、上記偏差であり、以下の式(2)で算出できる。また、式(1)において、Kiはゲインである。また、式(1)において、fiは個別ユニットY(i)の現在周波数(Hz)である。また、式(1)において、fRiは個別ユニットY(i)の目標周波数(Hz)である。
【0041】
ΔPi=Pi-Pschi (W) … 式(2)
【0042】
式(2)において、Piは個別ユニットY(i)が現在出力している電力値(現在出力値)であり、単位はWである。また、式(2)において、Pschiは個別ユニットY(i)の出力電力の計画値(計画出力値)であり、単位はWである。各電力値や周波数は、従来から周知の手法によって取得することができ、例えば、制御部12が有するセンサ等で計測して取得することができる他、制御部12とは別に設けられたセンサによって検出し、その検出値を制御部12に入力するようにして取得してもよい。
【0043】
ここで、個別ユニットY(i)の現在出力値Piの計測点としては、個別ユニットY内の交流線14と、マイクログリッド1の交流線2との接続部分(
図2に符号P1で示す)とすることができる。これは、マイクログリッド1への寄与は、個別ユニットYの計画出力値(売電または契約電力量)からの偏差量とするのが自然であると考えられるためである。ただし、現在出力値Piの計測点は上述した部分に限られるものではなく、蓄電設備11の直接の有効電力出力が得られる部分(
図2に符号P2で示す)であってもよいし、交流線2における計測または推定計算が可能な任意の点であってもよい。
【0044】
この実施形態では、各個別ユニットYの蓄電設備11の蓄電状態に基づき、個別ユニットYの毎に異なる目標周波数fRiを設定する点に特徴がある。この特徴を示す式として、式(3)を示す。
【0045】
fRi=funci(SOCi) (Hz) … 式(3)
【0046】
式(3)において、SOCiは個別ユニットY(i)のSOCである。SOCは、蓄電設備11の内部状態、即ち、蓄電設備11の蓄電状態を示す値である。また、式(3)において、funciは個別ユニットYのSOC共有関数である。
【0047】
SOC共有関数について説明すると、SOCi=1は蓄電設備11が満充電状態であることを意味し、SOCi=0は蓄電設備11が空状態であることを意味する。ただし、各個別ユニットYは、事前の協議等に基づいて非常時にマイクログリッド1に供給する電力量を限定してもよいものとすることができる。この場合、SOCi=0は蓄電設備11が空状態ではなく、若干の蓄電量を残してマイクログリッド1に供給する際の下限値とすることができる。この下限値は、特に限定されるものではないが、例を挙げると、蓄電設備11の総蓄電量の20%以下、10%以下といった値に設定できる。つまり、独立マイクログリッド運用制御時に放電する蓄電設備11の放電許容量の設定を個別ユニットY毎に行うことが可能である。
【0048】
また、SOCi=1は、個別ユニットYの蓄電設備11が満充電状態にあることを意味するが、各個別ユニットYの蓄電設備11の蓄電容量に関しても個別ユニットY毎に異なっていてもよい。すなわち、複数の個別ユニットY間でSOCiの値が同じであったとしても、蓄電設備11の蓄電容量が異なっていれば、マイクログリッド1に供給可能な電力量に差が生じるが、このような場合も本実施形態では許容される。言い換えると、SOC共有関数は、事前に取り決めた非常時の提供用蓄電容量をマイクログリッド1内で公平に共有するためのものである。このため、SOC共有関数は、全ての個別ユニットYで同一(func1=func2=・・=funci=・・・=func)とし、個別ユニットYの蓄電設備11の蓄電容量(Wh)から定まる等価容量(W)をKiの値として設定することが望ましい。ただし、ここではSOC共有関数も個々の事情に応じて個別ユニットY毎に設定してもよい。
【0049】
SOC共有関数は以下の条件式1、2を満たすように設定する。
【0050】
条件式1 SOC管理上下限: 0<SOCi<1
【0051】
「0」は個別ユニットYの蓄電設備11が空状態を示し、「1」は別ユニットYの蓄電設備11が満充電状態を示す。
【0052】
条件式2 fL3<fRi(SOCi)<fH3
【0053】
ただし、fRi(0)=fL3、fRi(1)=fH3とする。また、fRiはSOCに関する増加関数とする。
【0054】
SOC共有関数の具体的な形状はマイクログリッド1内での協議に基づく取り決め事項とすることができるが、以下の式(4)を満たすものであってもよい。
【0055】
fRi(SOCi)=fL3+SOCi×(fH3-fL3) …式(4)
【0056】
式(4)の特性の例を
図3のグラフに示す。
図3のグラフの横軸は、蓄電設備11の蓄電状態を示しており、原点はSOC=0であり、右へ行くほど蓄電量が多くなる。
図3のグラフの縦軸は、運用周波数(Hz)を示しており、上へ行くほど高くなっている。fL3からfH3までの範囲が管理周波数である。各個別ユニットYは、自身の蓄電設備11のSOCに応じて、管理周波数内で個々に目標周波数fRiを変化させる。
【0057】
以上説明したように、各個別ユニットYは、式(1)の蓄電池制御誤差BCEiをリアルタイムで監視しながら、インバータ13への制御指令値にフィードバックし、以下の式(5)を制御目標として、個別分散的にインバータ出力制御を実行する。
【0058】
BCEi=0 … 式(5)
【0059】
(SOC協調制御)
本運用システム100では、上述した制御手法を採用することで、発電需要家5が持っている蓄電設備11をマイクログリッド1内の複数の需要家5で共有することが可能になる。以下、蓄電設備11の共有メカニズムについて説明する。
【0060】
上述したように、本運用システム100は、蓄電設備11を持っている全ての個別ユニットYで、蓄電池制御誤差BCEを監視しながら、上記式(5)を制御目標として負帰還させる方式である。ここで、全ての個別ユニットYで上記式(5)の制御目標が達成された状況を想定する。一般に系統内の周波数は振動成分を排除するとマイクログリッド1内で同一となるので、次式(6)が成り立つ。
【0061】
f1=f2=…=fn=f … 式(6)
【0062】
したがって、式(1)、式(4)、式(5)及び式(6)より以下が成り立つ。
【0063】
ΔPi=(Pi-PRi)=Ki(fRi-f)
=Ki(fL3-f+SOCi×(fH3-fL3)) … 式(7)
【0064】
式(7)の左辺のΔPiはインバータの現在出力値から計画出力値を差し引いた個別ユニットY(i)の増分出力である。ΔPiはインバータの自動制御によるもので、蓄電設備11の運用において計画値よりも放電量を増加させることによる増分電力に相当する。また、fは全ての個別ユニットYにおいて制御目標の式(5)が達成された際の周波数の平衡点である。
【0065】
平衡点fは後述するように別途積極的に制御することも可能である。しかし、積極的な制御を実施せず、全てのインバータに提案制御のみ実施する場合には、提案制御と負荷特性で決まる値となる。すなわち、このときのfは式(7)よりマイクログリッド1内の蓄電設備11のSOCに依存して決まる。
【0066】
式(7)のΔPiはSOCiと周波数fとの関数である。まず、計画値通り、追加的な充電も放電もされないΔPi=0となるSOCiの値を式(7)より求めると以下となる。
【0067】
SOCi*=(f-fL3)/(fH3-fL3) … 式(8)
【0068】
式(8)は、本運用システム100における個別ユニットY(i)の平衡状態を示している。上述したように、全ての個別ユニットYでSOC*が同一値になる。このとき式(8)のfを式(7)に代入すると次式が得られる。
【0069】
ΔPi=Ki(SOCi-SOC*)×(fH3-fL3) … 式(9)
【0070】
本運用システム100では、各個別ユニットYにおいて、上記SOC*を境として充電状態(ΔPi<0)あるいは放電状態(ΔPi>0)が維持される。すなわち、以下の条件式で表される。
【0071】
0<SOCi<SOC*のとき:ΔPi<0 充電状態
SOC*<SOCi<1のとき:ΔPi>0 放電状態
【0072】
そして、この制御は全ての個別ユニットYにおいて以下が満たされるまで継続する。
【0073】
SOCi=SOC* … 式(10)
【0074】
これは、全ての個別ユニットYで充放電条件が一致し、マイクログリッド1内で公平な分担で充放電を実施できることを意味している。言い換えれば、各個別ユニットYで共通のfを観測することで、本運用システム100においては管理周波数範囲内で全ての個別ユニットYのSOCを同一値に管理しながら、マイクログリッド1の安定運用を実現できる。そして、この特性を利用して、マイクログリッド1内の全体の蓄電状態も式(8)を用いて運用周波数fより推定できる。つまり、制御残差による誤差があるが、管理周波数の下限値付近にある場合には蓄電設備11群は完全な放電状態、管理周波数の上限値付近にある場合には蓄電設備11群は満充電状態にあると推定できる。
【0075】
図4は、式(7)に基づく充放電条件を示すものである。上述したようにマイクログリッド1内で共通のSOC共有関数を選定すれば、全ての個別ユニットYで共通の規準で周波数制御に寄与する制御形態を構築することができる。各個別ユニットYではSOC残量に基づいて、充電または放電制御が実施される。この制御によれば全ての個別ユニットYでSOC残量がゼロのなるまでマイクログリッド1の安定運用が維持されることになる。
【0076】
(制御回路の構成例)
次に、上述した制御を実現可能な制御回路(
図2の制御部12に相当する)の構成例について説明するが、本発明はこの構成例に限定されるものではなく、上述した制御を実現可能な回路構成であればよい。
【0077】
制御部12の具体的な制御回路を
図5に示す。制御部12は、演算部20、コントローラ21及び指定回路22を含んでいるが、これら以外の回路を含んでいてもよい。制御部12を構成している演算部20、コントローラ21及び指定回路22のうち、演算部20は本運用システム100においてBCEiを算出して制御対象とする点に特徴があり、一方、コントローラ21及び指定回路22は様々なものが考えられるので、本例の構成以外のものを用いることもできる。
【0078】
演算部20は、式(1)から式(4)及び条件式1、2に基づくBCEiの計算部分である。また、コントローラ21は、式(5)を実現するためにBCEiからΔPsを生成する部分である。また、指定回路22は、計画出力値Pschにコントローラ21の出力ΔPsを減じて発電機に指令する回路である。
【0079】
ここで、コントローラ21は、BCEiを安定的にゼロ付近に制御するものであればどのような構成であってもよい。
図5では、最も簡単な例を示しており、コントローラ21の構成としてPI制御(比例・積分制御)を用いている。
図5に示すように、BCEiを核とする本運用システム100を実現することが可能である。
【0080】
(実際の運用モード)
図1に示すようなマイクログリッド1は、どのような状況においても安定な運用が求められる。一般論としては、大型電源に接続する運用においては、特に通信ネットワークを用いなくとも、既存の方法論でシステムを安定に維持できる。一方、商用電力系統3から切り離した独立マイクログリッド1で複数の発電機を協調運用するためには、上記特許文献1、2に示すような既存の手法では通信ネットワークが不可欠であったが、上述したように本運用システム100によれば、通信ネットワークを用いることなく、独立マイクログリッド1を安定運用することができる。ただし、マイクログリッド1は、商用電力系統3に接続された状態で運用されている平常モード、商用電力系統3から切り離されて協調運用される独立マイクログリッド協調運用モード、及び、単独運用モードの少なくとも3つの運用モードがあり、運用モードが突然切り替わったとしても、マイクログリッド1を安定運用することが望まれる。以下、各運用モードを説明した後、運用モードの切替について説明する。
【0081】
(1)平常モード
図1においてマイクログリッド1が商用電力系統3に連系して運用されている状態を平常モードと定義する。平常モードは従来型の電力系統運用形態であり、電力供給の信頼性(供給信頼度)は大系統側(商用電力系統3側)で担保されるので、マイクログリッド1内で特別な制御は不要である。つまり、平常モード時には、蓄電設備11の運用はマイクログリッド1の信頼度に大きく影響しない。
(2)独立マイクログリッド協調運用モード(協調モード)
マイクログリッド1が商用電力系統3から切り離されて独立運用されている状態を独立マイクログリッド協調運用モードと定義する。この独立マイクログリッド協調運用モードでは、供給信頼度は独立マイクログリッド1の蓄電設備11の運用方法に依存することになるので、上述した本運用システム100の制御手法が適用される。
(3)単独運用モード(単独モード)
マイクログリッド1から解列して、需要家5の自分自身の負荷設備10だけに電力を供給する状態を単独運用モードと定義する。
【0082】
(運用周波数を利用した運用モードの協調移行方式)
平常モード時のマイクログリッド1では通信による情報共有と制御を実施できるが、例えば大規模な自然災害が発生した時のような非常時には、通信ネットワークに頼らない方法での高信頼かつ円滑な自立的運用が望まれる。以下、平常モードと協調モードの円滑な切替方式と運用方法について説明する。具体的には、協調モード時における制御手法の周波数制御特性を活用して、通信ネットワークに頼らずに運用周波数を監視・制御しながら、マイクログリッド1全体を管理する方式である。尚、単独モードに関しては個別ユニットY間の協調は不要であるため、ここでは言及しない。
【0083】
表1に運用モードの切替方法の概要を示す。
【0084】
【0085】
表1の第1列には運転状態を記載しており、第2列以降には、各運転モードにおける周波数運用の考え方、及び運転モードの切替に関する取り決め事項等を記載している。以下、表1に基づいて運用モードの切替方法の詳細を説明する。
【0086】
平常モードにおいては、マイクログリッド1が商用電力系統3に接続されているので、周波数管理は商用電力系統3側で実施されるので、公称周波数(50Hzまたは60Hz)付近の狭い周波数帯域(例えば周波数偏差が0.2Hz以内)で運用される。このとき各個別ユニットYではBCEとして後述する式(11)を設定しておく。これにより、各個別ユニットYで周波数制御は実施されず、マイクログリッド1内の周波数管理は商用電力系統3側に委ねられる。
【0087】
平常モードから協調モードへの切替は、周波数逸脱を利用する。すなわち、平常モードで運用中のマイクログリッド1は周波数制御を実施していないため、マイクログリッド1と商用電力系統3との間にある系統連系開閉器4を開くと、マイクログリッド1内の周波数が変動して予め設定されている上限値または下限値を逸脱する。よって、各個別ユニットYでは、制御部12が周波数逸脱を検出してBCE制御を式(11)から式(1)に切り替える。これにより、平常モードから協調モードへの移行が短時間で完了する。
【0088】
協調モードでは、平常モードより広い許容範囲の周波数帯域で運用する。式(1)をBCEとして用いる協調モードにおいては、SOCが運用周波数の関数となり、周波数の低下状況から、マイクログリッド1の運用限界までの余裕を監視することができる。また、別途、管理用発電機6の周波数制御により、マイクログリッド1内のSOCを管理できる。この詳細については後述する。
【0089】
協調モードから平常モードへの切替は、各個別ユニットYにおいて協調モードで運用中に周波数逸脱が検出された際に実施する。すなわち、制御部12は、各個別ユニットYの周波数を継続して検出しておき、検出された周波数が運用周波数を逸脱したか否かを判定し、各個別ユニットYの周波数が運用周波数を逸脱したと判定した場合に、協調モードから平常モードへ短時間で切り替える。この周波数逸脱を起こすため、マイクログリッド1の管理者は管理用発電機6を用いてマイクログリッド1内の周波数制御を実施する。商用電力系統3とマイクログリッド1とを連系させる際には、マイクログリッド1内の周波数を運用周波数の下限値より下へ逸脱させるべく、管理用発電機6に大きな電力を消費させる。管理用発電機6が大きな電力を消費するとマイクログリッド1内の周波数が低下し、運用周波数の下限値から逸脱するので、これをきっかけとしてマイクログリッド1の運用モードを協調モードから平常モードへ切り替える。その後、マイクログリッド1内の周波数を商用電力系統3の周波数に合わせ、位相制御を行い、系統連系開閉器4を閉じて同期投入を完了する。尚、管理用発電機6としては、需要家5のうち、1つを宛てることもできる。
【0090】
協調モードにおいては、全ての個別ユニットYの蓄電設備11が周波数特性を利用した協調制御を行っている。したがって、協調モードにおいてマイクログリッド1内の周波数を上昇させるためには、管理用発電機6から周波数上昇に見合う電力供給が必要になる。そして特にマイクログリッド1内の周波数が低下している状況で周波数を上昇させようとすると、多大な電力の供給が必要になり、困難な場合がある。しかし、一般にこのような状況でも周波数を更に低下させることは電力を消費すればよいので容易である。そこで、管理者は商用電力系統3と連系する際には、上述したように管理用発電機6を用いて一時的に周波数を低下させる制御を実施する。そして、各需要家5側では、協調モードにおいて周波数が下限値を逸脱した際に、自身の運用モードを協調モードから平常モードへ切り替える。
【0091】
蓄電設備11が平常モードに切り替わると、式(1)に基づく周波数制御が停止する。すなわち、平常モードにおいては、管理者が管理用発電機6を用いて容易に周波数を調整することができるようになる。よって、管理者はマイクログリッド1内の周波数を商用電力系統3の周波数と同じになるように制御し、系統連系開閉器4を操作して同期投入を完了させることができる。尚、運用モードの切替に際しては、マイクログリッド1内での電力の需給バランスを維持するため、切替の前後でインバータ出力を同一の値に保つ必要がある。
【0092】
(様々な運用モードにおけるインバータ制御方法)
次に、各運用モードにおいて推奨される具体的なインバータ制御方式について説明する。制御対象はインバータだけでなく、通常の発電機であってもよい。協調モードの制御方式については上述しているので、以下、その他の運用モードでの制御方式について説明する。
【0093】
まず、平常モードにおけるインバータ制御方式について説明する。平常モードでは商用電力系統3が周波数管理を実施しているが、管理用発電機6が周波数制御を実施してもよい。このような運用の際には、周波数変動に対して、定常的には応答しない制御方法が好ましい場合がある。よって、式(1)に代えて次式(11)を用いた制御を推奨することができる。
【0094】
BCEi=ΔPi (W) … 式(11)
【0095】
ただし、BCEi:個別ユニットiの蓄電池制御誤差(W)
ΔPi=Pi-Pschi:計画出力値からの偏差
【0096】
これは式(1)において次の取り扱いを行うことに相当する。すなわち、式(1)の第2項に関し、Ki=0とおいて周波数変動に対して応答させないこと、及び、第1項のみを考慮し、計画通りの出力を維持する設定を行う。
【0097】
式(11)から明らかなように、運用モードを変更しても制御構造そのものには影響を与えずに運用可能である。すなわち、運用モードの切替がなされた場合には、単に式(1)を式(11)に置き換え、そのまま制御を実施することで対応できる。尚、運用モードの切替については上述したとおりである。
【0098】
次に、単独モードにおけるインバータ制御方式について説明する。以上の説明では、いずれの場合も需要家5がマイクログリッド1に接続されている状態を前提としていた。すなわち、
図1における第1開閉器S1と第2開閉器S2がともに閉じている状態である。しかしながら、各個別ユニットYは、第2開閉器S2を閉じたまま、第1開閉器S1を開いてマイクログリッド1から解列して、自身の蓄電設備11や太陽光発電装置などから自分自身の負荷設備10だけに単相交流電力を供給することができる。
【0099】
これが単独モードであり、単独モードでは、単相同期化力インバータは単独で周波数一定(50Hzまたは60Hz)の交流電力を供給する。この場合、単相同期化力インバータにおいては、式(1)に代えて次式を用いることで、同期発電機と同じ特性で周波数制御を実施できる。
【0100】
尚、本実施形態では、単相同期化力インバータを用いる場合について説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、通常の同期発電機、GFMインバータなどの任意の発電機やインバータを制御対象とすることができる。同期発電機は、3相のものであり、例えば、自家発電で用いるものから発電所のものまで様々な発電機を対象とすることができる。インバータも3相や単相の様々なインバータを対象とすることができる。つまり、基本的に従来の同期発電機と同じ特性があれば本発明は様々なものに適用できる。
【0101】
BCEi=Ki(fi-fR) (W) … 式(12)
Ki:ゲイン
fi:個別ユニットiの現在周波数(Hz)
fR:周波数目標値(Hz)
【0102】
式(12)は、従来の定周波数制御(FFC方式)に相当する制御方式であり、周波数目標値を維持することだけを目的とする方式である。式(12)を単相同期化力インバータに適用すれば、単独モードから平常モード、独立マイクログリッド協調運用モードへの移行において、定式化上の一貫性を保持することができ、制御機器の設計において有利である。単独運用モードにおいては、蓄電設備11の共通を考慮する必要はないので、周波数目標値fRは定数として設定すればよい。
【0103】
(管理用発電機を用いた周波数管理制御)
マイクログリッド1の管理用発電機6は、どのようなインバータあるいは発電機であってもよいが、エネルギー貯蔵が可能なものを用いることができる。管理用発電機6としては、例えば、燃料を備蓄できる従来型のディーゼル発電機、蓄電設備を備える従来型のインバータ(CVCF:定電圧、定周波数インバータ)、調整池を持つ小水力発電所等を挙げることができる。
【0104】
マイクログリッド1内のこのような管理用発電機6が存在しない場合は、個別ユニットYの1つを管理用発電機6として使用してもよい。以下では、これを「管理用ユニット」と呼ぶことにする。管理用発電機6の用途としては以下が挙げられる。
【0105】
(1)マイクログリッド1の系統連系
以上説明では、協調モードから平常モードに移行する際、即ち系統連系を行う際を除いて、管理用発電機6は全く不要である。しかし、マイクログリッド1を商用電力系統3に連系させる際には、管理用発電機6はどうしても必要である。すなわち、系統連系開閉器を閉じるための同期条件が満たされるよう、管理用発電機6を用いてマイクログリッド1側の周波数、位相、電圧値を制御する必要がある。
(2)周波数一定制御
この周波数一定制御は、管理用発電機6を除く全ての個別ユニットYを平常モードで運転し、管理用発電機6が周波数を一定に維持する制御である。この場合、マイクログリッド1は、商用電力系統3から切り離されるが、周波数は系統連系時と同一の値に維持される。管理用ユニットを設ける場合、管理用ユニットは単独モードで運転する。
(3)周波数管理による蓄電設備制御
この制御は、SOC管理のための制御方法(協調モードの制御方法)の特性を利用して、マイクログリッド1内の全ての蓄電設備11のSOCを一括管理する制御である。この制御を周波数管理SOC制御法と呼ぶことにする。以下、周波数管理SOC制御法の詳細について説明する。
【0106】
例えば管理用発電機6がマイクログリッド1に存在しない場合に、上述したようにマイクログリッド1内に分散して存在する蓄電設備11群が協調して、自立的に蓄電設備11のSOC管理を実施することで、マイクログリッド1の信頼性を高めることができる。この場合、蓄電設備11群のSOCは、マイクログリッド1の周波数の関数として定常状態が決まる。そこで、ここでは、このような特性を持つマイクログリッド1において、管理用発電機6を積極的に用いて、全ての蓄電設備11のSOC管理を行う方法について説明する。
【0107】
上記式(8)は、全ての個別ユニットYの蓄電設備11が協調モードで運転する際のマイクログリッド1の周波数定常値と、各蓄電設備11のSOCとの関係を示している。
【0108】
いま、式(8)の周波数fが管理用発電機6によって制御できるものとすると、周波数fを制御することで、各蓄電設備11のSOCを一括して制御できることになる。式(8)を変形すると次式が得られる。
【0109】
f=fL3+(fH3-fL3)×SOC* … 式(13)
【0110】
式(13)に基づけば、マイクログリッド1内の全ての蓄電設備11は周波数fの制御により、式(13)のSOC*の値(定常値)に収束することになる。以上をまとめると、管理用発電機6の周波数制御目標を次式のように設定することで、マイクログリッド1内の全ての蓄電設備11のSOC管理が可能になる。
【0111】
fR=fL3+(fH3-fL3)×SOC* … 式(14)
fR:目標周波数設定値(Hz)
SOC*:マイクログリッド内の蓄電設備にSOC管理目標値
【0112】
図6は、独立マイクログリッド1内での管理用発電機6による蓄電設備の管理方法を説明する概略図である。この図に示すように、管理者は自信が管理するエネルギー資源(発電燃料や蓄電池)の残存量を確認しながら、周波数を調整してマイクログリッド1内の全ての蓄電設備11に対してエネルギーの授受を行い、全体に分散している蓄電設備11の残存量を管理する。管理用発電機の制御方法は、式(14)を目標値とする周波数制御であればよく、例えば従来のFFC制御方式を採用してよい。
【0113】
尚、通常のCVCFインバータを管理用に用いて、式(14)の周波数値を直接指定して運転してもよい。あるいは、管理用ユニットを使用して実施してもよい。
【0114】
(管理用ユニットを用いた周波数管理SOC制御方法)
個別ユニットYの1つを管理用ユニットとして使用する場合、FFC方式の一例として各ユニットは以下の運用モードで運用することができる。
【0115】
(1)管理用ユニット:単独モードで運用し、式(12)のfRとして式(14)の値を指定する。
(2)その他の個別ユニット:協調モードで運用する。
【0116】
尚、相互接続したインバータがそれぞれに周波数を指定して運転しようとすると、システムは不安定となる。これは同一の周波数を指定して運転する場合でも、周波数の指定値に微妙な誤差が発生してしまうためである。すなわち、本運用システム100では、管理用発電機6あるいは管理用ユニットは1台に限定してFFC方式を採用するのが好ましい。
【0117】
また管理用発電機が複数台ある場合は、等価的に1台の発電機として一括して複数台を制御する方式に基づくFFC方式や、等価的に1台の発電機として算出した制御量を複数台で分担するFFC方式を採用するのが好ましい。
【0118】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、通信ネットワークを用いることなく、商用電力系統3から切り離されたマイクログリッド1全体の周波数の協調管理をしながら、蓄電設備11の放電量を個別ユニットY毎に管理してマイクログリッド1内の電力需要を満たすことができる。
【0119】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上説明したように、本発明に係るマイクログリッドの運用システムは、例えば複数の需要家が交流線によって接続された小規模系統で利用することができる。また、一般の電力系統において、エネルギー備蓄や貯蔵を伴う発電機群と負荷群を含む任意の部分システムで利用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 マイクログリッド
2 交流線
3 商用電力系統
4 系統連系開閉器
5 需要家
6 管理用発電機
10 負荷設備
11 蓄電設備
12 制御部
Y 個別ユニット