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  • 特許-植物成長促進組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】植物成長促進組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/42 20090101AFI20241031BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20241031BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A01N65/42
A01P21/00
A01G7/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023110942
(22)【出願日】2023-07-05
【審査請求日】2023-12-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521233231
【氏名又は名称】株式会社AGRI SMILE
(73)【特許権者】
【識別番号】503453440
【氏名又は名称】きたみらい農業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 寛子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 楽生
(72)【発明者】
【氏名】林 大祐
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 明夫
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-077203(JP,A)
【文献】特開平11-158019(JP,A)
【文献】牧浩之 他,タマネギ炭化物のコマツナ栽培に対する施用効果,日本土壌肥料学雑誌,2004年,75巻、4号,439-444
【文献】澤正樹 他,タマネギ廃棄物の処理に関する研究 第2報 堆肥化の方法と処理堆肥の施用効果,兵庫県農業総合センター研究報告,1981年,29号,25-28
【文献】CHOROLQUE, A. et al.,Biological control of soil-borne phytopathogenic fungi through onion waste composting: implications for circular economy perspective,International Journal of Environmental Science and Technology,2021年07月29日,URL:https://doi.org/10.1007/s13762-021-03561-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含み、
温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、および病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用組成物。
【請求項2】
茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、および分蘖の促進からなる群から選択される1種以上の植物成長促進作用を有する、請求項1記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物。
【請求項3】
ストレス応答系の遺伝子を活性化させる、請求項1または2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する、非生物的ストレス耐性向上方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物の使用量が0.001~1質量%である、請求項記載の非生物的ストレス耐性向上方法。
【請求項6】
タマネギエキスまたはタマネギ粉末は、農場や選別場若しくは工場から排出されるタマネギの1部位以上から抽出したタマネギエキスまたはタマネギ粉末である、請求項記載の非生物的ストレス耐性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物成長促進組成物および植物成長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人口が爆発的に増加していることもあり、食物となる植物を十分な供給量で生産していくことは世界的な課題となっている。また、緑地の減少等による土地の砂漠化等も問題となっており、加えて、世界的な温暖化現象に基づく地表の温度の上昇等も問題となり、植物を生育する上での環境上の問題点も増えつつある。すなわち、植物における地球環境要因に基づく過度のストレスは、植物の生育上問題となることが多い。
【0003】
そこで従来よりも効率的な収穫を約束してくれる技術が求められており、バイオスティミュラントは、植物に対する非生物的ストレスを制御することにより気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術として注目されている。
【0004】
特許文献1には、ステビアを含有する植物気孔開口促進剤について開示されており、ステビアにより植物気孔の開口を人為的に促進することで、熱ストレス耐性を向上させること等が報告されている。
特許文献2には、酵母細胞壁分解物を含む、エチレンおよび/またはジャスモン酸シグナル伝達系を活性化させる遺伝子の活性化用組成物について開示されており、酵母細胞壁分解物を植物に与えることにより、植物体の抗菌性や病害予防に関与する植物ディフェンシン遺伝子の発現を活性化させることが報告されている。
特許文献3には、メタノール資化性細菌の細胞壁含有物を穀物類の栽培用植物体に接種することで、穀物類の収量を増加させる方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6741262号
【文献】特許4931388号
【文献】特開2019-180361号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、これまで各種資材を用いて植物の非生物的ストレス耐性向上や収量増加に関する研究がなされているが、タマネギエキスまたはタマネギ粉末を用いた例については報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、独自に開発した高精度のスクリーニング法を用いることで、種々の資材の中でもタマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上が植物成長促進の有効成分になることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
タマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含む植物成長促進組成物。
[2]
茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、および分蘖の促進からなる群から選択される1種以上の植物成長促進作用を有する、上記[1]記載の植物成長促進組成物。
[3]
非生物的ストレス耐性向上作用を有する、上記[1]又は[2]に記載の植物成長促進組成物。
[4]
温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、上記[3]記載の植物成長促進組成物。
[5]
ストレス応答系の遺伝子を活性化させる、上記[3]記載の植物成長促進組成物。
[6]
タマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含む植物成長促進組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する、植物成長促進方法。
[7]
培養液に対する前記植物成長促進組成物の使用量が0.001~1質量%である、上記[6]記載の植物成長促進方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を含有した組成物を植物に適用することで、従来の資材と比べてより安全・安価に植物の成長を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タマネギエキスまたはタマネギ粉末を添加していない場合と、タマネギ粉末を含む植物成長促進組成物を0.36g(実施例1)添加した場合のイネの根張りの向上を観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
<植物成長促進組成物>
本実施形態における植物成長促進組成物は、タマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含む。タマネギは、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)ネギ属(Allium)の植物である。具体的にはAllium cepaが挙げられる。タマネギの品種及び産地等は特に限定されず、例えば、黄タマネギ、白タマネギ、紫タマネギ(赤玉タマネギ)、サラダタマネギ・サラダオニオン、ペコロス、パールオニオン、ルビーオニオン、葉タマネギ、エシャロットなどが挙げられ、より具体的には、北早生3号、SN-1、SN-3、SN-3A、オホーツク222、オホーツク1号、オホーツク333、北もみじ2000、スーパー北もみじ、H235、北はやて2号、バレットベア、アローベア、パワーウルフ、ブラウンベア、コディアック、イコル、ベガス、早次郎、さらり、カロエワン、えぞまる、さらさらゴールド、クエルゴールド、くれない、R-5、レッドアイアーリー、レッドアイII、レッドアイ、レッドワン、雪景色2、雪景色、ホワイト
1号、北早生1号、ペコロス22スーパー、ペコロスFオホーツク、北見黄、札幌黄、空知黄、OPP-5、OMP-3、OSP-3、CS3-12、トヨヒラ、七宝早生7号、ソニック、ターザン、ターボ、うずしお、アドバンス、アンサー、ネオアース、パワー、ケルたま、もみじ等の品種が挙げられる。
【0013】
本実施形態においてタマネギエキスとは、タマネギから特定の成分を抽出して濃縮したものであり、抽出に用いる部位は特に限定されず、例えば、葉身、葉鞘(葉柄)、球(鱗葉、貯蔵葉、可食部)、皮(保護葉)、芯、茎(花茎・花球抽台)、根等が挙げられ、単独でも組み合わせて用いても良い。タマネギエキスは、例えば、後述する<植物成長促進組成物の調製方法>に記載した方法により得ることができる。また、タマネギ粉末とは、タマネギやタマネギエキスを乾燥させて粉砕したものであり、特に限定されることはない。
【0014】
本実施形態における植物成長促進組成物は、植物成長促進作用を有する組成物であり、ここで、植物成長促進作用とは、例えば、茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、又は分蘖の促進などの生育の促進作用が挙げられる。
【0015】
植物成長促進作用が見られる場合とは、より具体的には、例えば、本実施形態の植物成長促進組成物を使用する場合と使用しない場合とを比較して、現物重量増加量(%)又は乾燥重量増加量(%)が増大することをいう。植物成長促進組成物を使用する場合における、現物重量増加量(%)又は乾燥重量増加量(%)は、本実施形態の植物成長促進組成物を使用しない場合と比較して好ましく10%以上、より好ましくは20%、さらに好ましくは30%以上に増大すればよい。植物成長促進作用がある場合とは、植物成長促進組成物の使用なしには全く生育が認められない場合に、植物成長促進組成物の使用により生育が認められるようになる場合を含む。なお、上記数値は植物成長促進組成物を適用した植物全体の平均値としての値である。
【0016】
その他、植物成長促進作用には、以下のような植物の活性を向上させる作用も包含される。
1)根の伸長、根の活着率の向上
2)栄養吸収効率の増大
3)花芽の誘導、開花の促進、結実量の増大
4)糖分など成分の蓄積
5)節水効果の増大
6)カルス化の誘導効果
7)植物体のサイズの向上、中でも、地上部及び地下部の伸長又は肥大
8)傷の修復
すなわち、本実施形態の植物成長促進組成物は、茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、又は分蘖の促進のような生育の促進効果に加えて、上記1)~8)のような作用を有していてもよい。
【0017】
本実施形態における植物成長促進組成物は、非生物的ストレス耐性向上作用を有していてもよい。すなわち、植物が受ける種々の非生物的(環境)ストレス全般に対して耐性を付与するものであってもよい。ここで、非生物的ストレスとしては、例えば、高温ストレス、低温ストレス等の温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、酸化ストレス等、pHストレス、浸透圧ストレス等の塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態において、「非生物的ストレス耐性」とは、環境ストレスを被る生育条件下であっても、生育不能(枯死)、生育不良(例えば、植物体の白化若しくは黄化、根長の減少若しくは葉数の減少)、生育速度の低下、又は植物体重量若しくは作物収量の減少のような望ましくない影響を実質的に受けることなく、正常に生育できる形質を意味する。本実施形態の植物成長促進組成物によって植物の非生物的ストレス耐性を向上させることにより、通常の植物では生育に望ましくない影響を受ける外部環境においても、植物を正常に生育させることができる。
【0019】
本実施形態における植物成長促進組成物の温度ストレス耐性付与効果としては、例えば、35℃~55℃の高温条件や0℃~10℃の低温条件において正常な生育を促す効果が挙げられる。また、塩ストレス付与効果としては、塩化ナトリウム0.1~3.0質量%存在下において正常な生育を可能とする。乾燥ストレス耐性付与効果としては、相対湿度10~40%においても正常な生育を可能とする。
【0020】
本実施形態において植物の非生物的ストレス耐性は、例えば、以下の手段によって評価することができる。塩ストレス耐性の有無は、対象となる植物を、適当な濃度で塩を添加した培地又は土壌中で、該植物にとって好適な状態の生育温度及び生育期間の条件で生育させ、その表現型を評価することにより確認することができる。乾燥ストレス耐性の有無は、対象となる植物を、該植物にとって乾燥状態の生育温度、生育湿度及び生育期間の条件で生育させ、その表現型を評価することにより確認することができる。また、低温ストレス耐性の有無は、対象となる植物を、凍らない程度の低温で馴化させた後、その後、該植物にとって好適な状態の生育温度及び生育期間の条件で生育させ、その表現型を評価することにより確認することができる。
【0021】
本実施形態における植物成長促進組成物が非生物的ストレス耐性向上作用を有する場合、ストレス応答系の遺伝子を活性化させるものであってもよい。ストレス応答系の遺伝子としては、特に限定されず、温度ストレスや乾燥ストレスへの応答指標として一般的に知られている遺伝子が挙げられる。
【0022】
本実施形態における植物成長促進組成物は、タマネギエキスまたはタマネギ粉末を単独で含んでもよく、タマネギエキスとタマネギ粉末の両方を含んでもよく、1種以上の農業上許容される成分と組み合わせて含んでもよい。農業上許容される成分としては、特に限定されることはないが、例えば、溶媒、担体、賦形剤、結合剤、溶解補助剤、安定剤、増粘剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、油性液、緩衝剤、殺菌剤、不凍剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、及びさらなる活性成分等を挙げることができる。農業上許容される担体としては、水、ケロセン若しくはディーゼル油のような鉱油画分、植物若しくは動物由来の油、環状若しくは芳香族炭化水素(例えばパラフィン、テトラヒドロナフタレン、アルキル化ナフタレン類若しくはそれらの誘導体、又はアルキル化ベンゼン類若しくはそれらの誘導体)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はシクロヘキサノール)、ケトン(例えばシクロヘキサノン)、若しくはアミン(例えばN-メチルピロリドン)、又はこれらの混合物のような農業上許容される液体担体が好ましい。
【0023】
本実施形態における植物成長促進組成物が1種以上のさらなる活性成分を含有する場合、さらなる活性成分としては、本技術分野で公知の様々な環境ストレス耐性向上活性を有する化合物を適用することができる。植物成長促進組成物がこのような1種以上のさらなる活性成分を含有することにより、植物の非生物的ストレス耐性をさらに向上させることができる傾向にある。
【0024】
本実施形態における植物成長促進組成物は、農薬や肥料等の従来公知の農業資材と併せて用いることができ、農業資材としては、放線菌等の細菌類や酵母等の微生物由来成分を使用することが好ましい。
【0025】
本実施形態における植物成長促進組成物は、農業化学製剤又は農薬として、植物の生育を促進するために使用することができる。植物成長促進組成物は、例えば、固体(例えば粉末若しくは粒状物)、液体(例えば溶液若しくは懸濁液)のような任意の形態であってよく、溶液又は懸濁液のような液体の形態で使用することが好ましい。溶液として用いる場合、液体の状態であってもよく、施用する際に、用時調整した液体として用いてもよい。
【0026】
本実施形態の植物成長促進組成物の剤形は、特に限定されず、本技術分野で通常使用される、乳剤、水和剤、液剤、水溶剤、粉剤、粉末剤、ペースト剤又は粒剤等の剤形に製剤することができる。
【0027】
本実施形態において、植物成長促進組成物の適用対象となる植物は、特に限定されるものではなく、例えば、被子植物及び裸子植物が挙げられる。対象となる植物としては、例えば、キク及びガーベラのようなキク科植物、ジャガイモ、トマト及びナスのようなナス科植物、ナタネ及びアブラナのようなアブラナ科植物、イネ、トウモロコシ、コムギ、サトウキビ及びオオムギのようなイネ科植物、ダイズのようなマメ科植物、ニンジンのようなセリ科植物、バジル、ミント及びローズマリーのようなシソ科植物、アサガオのようなヒルガオ科植物、ポプラのようなヤナギ科植物、トウゴマ、キャッサバ及びジャトロファのようなトウダイグサ科植物、サツマイモのようなヒルガオ科植物、オレンジ及びレモンのようなミカン科植物、サクラ及びバラのようなバラ科植物、コチョウランのようなラン科植物、トルコキキョウのようなリンドウ科植物、シクラメンのようなサクラソウ科植物、パンジーのようなスミレ科植物、ユリのようなユリ科植物、テンサイのようなヒユ科植物、ブドウのようなブドウ科植物、スギ及びヒノキなどのヒノキ科植物、オリーブ及びキンモクセイなどのモクセイ科植物、並びにアカマツのようなマツ科植物等が挙げられる。
【0028】
対象となる植物としては、植物の全体(すなわち完全な植物体)だけでなく、植物の組織若しくは器官(例えば、切り花、又は根茎、塊根、球茎若しくはランナー等の栄養繁殖器官)、培養細胞及び/又はカルス等の植物の部分であってもよい。
【0029】
本実施形態における植物成長促進組成物は、植物の発芽前又は発芽後を含む任意の生育段階にある植物の全体又はその部分(例えば、種子、幼苗又は成熟植物の全体又はその部分)に施用することができる。
【0030】
<植物成長促進組成物の調製方法>
植物成長促進組成物の調製方法としては、例えば、タマネギエキスまたはタマネギ粉末を得た後、必要に応じて上述した農業上許容される成分と混合することにより得ることができる。
タマネギエキスの取得方法は特に限定されず、一般的な植物エキスを抽出するための方法を用いることができる。具体的には、例えば、タマネギの鱗茎部を破砕した後、夾雑物を除去することでタマネギ果汁を得る工程と、前記工程で得られたタマネギ果汁を濃縮してタマネギ濃縮液を得る工程と、前記工程で得られたタマネギ濃縮液を分画することで、特定の成分を含むタマネギエキスを得る工程を含む方法により取得することができる。また、タマネギエキスの取得工程においては、熱水抽出や各種溶媒を用いた溶媒抽出をエキスの抽出方法として用いることができる。熱水抽出としては、例えば、タマネギを細断後、タマネギに加水し、60~100℃で可溶性成分を抽出する方法が挙げられる。溶媒抽出としては、例えば、タマネギを温度-15℃~-25℃で細胞膜が破壊されるに十分な時間処理した後、水又はアルコール系溶媒で抽出する方法が挙げられる。
タマネギ粉末の取得方法は特に限定されず、タマネギやタマネギエキスの新鮮物や凍結物を熱風乾燥や風乾、乾熱乾燥、減圧乾燥などの手法により乾燥させた後、粉末状に破砕することにより取得することができる。
【0031】
(破砕・除去工程)
タマネギの破砕は、タマネギ新鮮物やタマネギ乾物を用いて、例えばミキサーにより行うことができる。タマネギの破砕の際は、ミキサーなどの処理を容易にするために適量の水を加えても良い。粉砕されたタマネギは濾布、濾紙などを用いて濾過することで夾雑物が取り除かれたタマネギ果汁を得る。濾過を行う際には、水やアルコール等の抽出溶媒をあらかじめ加えてもよい。また、濾過に代えて、遠心分離機で上清を取得する方法で夾雑物を取り除いてもよい。
【0032】
(濃縮工程)
得られたタマネギ果汁はロータリーエバポレータなどを用いて濃縮することでタマネギ濃縮液を得ることができる。濃縮は、遠心エバポレータや凍結乾燥により行ってもよい。濃縮する際の濃縮率は、好ましくは3~30倍であり、より好ましくは4~20倍である。濃縮率が5倍以上であると、植物成長促進組成物の植物への添加量が少なくなるためハンドリング性が向上し、運搬コストが削減される傾向にあり、30倍以下であると、植物成長促進組成物中の沈殿物が少なく取扱いが容易となる傾向にある。
なお、植物成長促進組成物の調製においては、タマネギ果汁の濃縮は必須ではなく、得られたタマネギ果汁をそのまま以下の分画工程に供してもよい。
【0033】
(分画工程)
得られたタマネギ濃縮液はカラムなどを通して分画することで、特定の成分を含むタマネギエキスを得ることができる。分画工程では、例えば、カラムを通すことで親水性画分と疎水性画分が得られるが、このうち親水性画分をタマネギエキスとして用いることが好ましい。また、タマネギ濃縮液は、カラムなどにより分画する前に、オートクレーブなどにより熱処理が施されてもよい。
【0034】
分画工程で得られたタマネギエキスは、必要に応じて更に精製処理や高活性画分の分離処理に供してもよい。精製処理としては、例えば、濾過、吸着(イオン交換樹脂カラム、活性炭カラム等)等による処理が挙げられる。また、高活性画分の分離処理としては、ゲル濾過、吸着処理、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、HPLC等の処理が挙げられる。
【0035】
<植物成長促進方法>
本実施形態における植物成長促進方法は、上述したタマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含む組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用することで、植物の成長を促進させる方法である。当該方法においては、植物成長促進組成物を、発芽前又は発芽後を含む任意の生育段階にある植物又はその部分(例えば、種子、幼苗又は成熟植物体)に施用することができる。また、植物自体だけでなく、植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用することができる。生育段階にある植物又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に植物成長促進組成物を施用することにより、植物の成長を促進させることができる。
【0036】
植物成長促進組成物を植物に施用する回数としては、1回であってもよいし、複数回であってもよい。また、施用時期が複数の場合における、各施用時期における施用の回数としても、1回であってもよいし、複数回であってもよい。
【0037】
植物成長促進組成物を植物に施用する手段としては、例えば、添加、噴霧、塗布、浸漬などが挙げられる。これらは、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0038】
植物成長促進組成物を植物に施用する量としては、植物が生育する培養液に施用する場合、培養液に対する植物成長促進組成物の使用量は好ましくは0.001~1質量%である。植物成長促進組成物の使用量が上記範囲内であると、十分な植物成長促進効果が得られる傾向にある。
【0039】
なお、上記の使用量は上述したタマネギ果汁の濃縮率によって好適な数値範囲は変動するが、上記使用量は濃縮率3~30倍である場合の好適な数値範囲である。
【実施例
【0040】
本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
【0041】
(根部重量の測定方法)
イネの色と形から根部を特定し、特定された根部の重量を微量天秤で瓶量した。
【0042】
[実施例1]
246.5gのタマネギ鱗茎部を1~10mm間隔でスライスした後、100gの水を加えミキサーで破砕した。濾布、濾紙を用いた濾過によって夾雑物を取り除いた。得られた濾液をロータリーエバポレータで約10倍濃縮することでタマネギエキスを得た。
上記で得られたタマネギエキスを分画・熱処理した画分を含む溶液を飢餓状態のイネの生育する培養液900mLに0.36g添加(0.04質量%)し、イネに与える影響を調査した。その結果、タマネギエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が58.5%増加しており、イネの根張りの向上効果が見られた(図1参照)。
なお、ここでの飢餓状態とは、以下の表1に示す栄養成分未満の状態であることを指す。
【0043】
【表1】
【要約】
【課題】従来の資材と比べてより安全・安価に植物の成長を促進させることができる植物成長促進組成物を提供すること。
【解決手段】タマネギエキスおよびタマネギ粉末からなる群から選択される1種以上を有効成分として含む植物成長促進組成物。
【選択図】なし
図1