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特許7579550新規なMXeneナノシートからなる粒子材料、その粒子材料を含有する分散液、及びその製造方法
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  • 特許-新規なMXeneナノシートからなる粒子材料、その粒子材料を含有する分散液、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】新規なMXeneナノシートからなる粒子材料、その粒子材料を含有する分散液、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20241031BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20241031BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20241031BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20241031BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241031BHJP
   H01M 4/58 20100101ALN20241031BHJP
【FI】
C01G23/00 C
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/46
H01G11/86
H01M4/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023520702
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018297
(87)【国際公開番号】W WO2022239210
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁俊
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
(72)【発明者】
【氏名】前野 達也
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0162130(US,A1)
【文献】国際公開第2020/136864(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/136865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
H01G 11/26
H01G 11/30
H01G 11/46
H01G 11/86
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚さ1.0~3.5nm、平均大きさ1.5~2.0μmであり、(002)面の層間距離が1.350nm~1.400nmであるTi3Ala(CxN1-x2、x=0.97~0.70、aが0.02超、で構成されるMXeneナノシートを有する粒子材料。
【請求項2】
水中pH6からpH8におけるゼーター電位が-29.0mVから-34.0mVの範囲である請求項1に記載の粒子材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子材料と、
前記粒子材料を0.1質量%~0.4質量%で分散し、ジメチルスルホキシドを50質量%以上含有する分散媒と、
を有する分散液。
【請求項4】
10μm~300μmのビーズを用いたビーズミルにおいて、水を50質量%以上含有する分散媒と、粒子濃度10mg/mL~20mg/mLで前記分散媒に分散されたMXeneとの混合物に対して処理することで、前記MXeneを剥離して剥離物を形成する剥離工程を有するMXeneナノシートからなる粒子材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の粒子材料の製造方法における前記剥離工程と、
前記剥離工程後に含有する水をジメチルスルホキシドに置換してジメチルスルホキシド中に前記粒子材料を分散させた分散液とする工程と、
を有する分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なMXeneナノシートからなる粒子材料、その粒子材料を含有する分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から層状化合物であるTi3AlC2などのMAX相セラミックス粉末から酸処理によりAlを除去して得られるMXene層状化合物からなる粒子材料(本明細書では適宜「MXene粒子材料」と称したり、「MXeneナノシート」と称したり、「層状化合物粒子材料」と称したり、単に「粒子材料」と称したりすることがある。)が知られている(特許文献1、2、3、4)。これらのMXene層状化合物は、Al層が除去された空隙層にNaイオンやLiイオンが貯蔵/脱離可能であることから二次電池(蓄電池)やキャパシターの負極活物質材料、また導電性が優れていることから電磁波シールド薄膜や導電薄膜などへの応用が期待されている。
【0003】
MAX相セラミックスは層状化合物であり、一般式はMn+1AXnと表される。式中のMは遷移金属(Ti、Sc、Cr、Zr、Nbなど)、AはAグループ元素、XはCか、[C(1.0-x)x(0<x≦1.0)]、nは1から3、で構成されている。
【0004】
その中、AをAlとした時、M-Xとの結合よりもM-Aの結合が弱いため、酸処理で選択的にAl層が除去される。本発明者らは、微小サイズのビーズを用いたビーズミルにより薄膜化して、MXeneナノシートを調製する方法を提案している(特許文献5、6)。
【0005】
特許文献5、6の方法によれば、エタノール、又はイソプロパノール(IPA)中で10μm~300μmのビーズによるビーズミル処理で剥離することにより、厚みの平均値 3.5 nm~20 nm、大きさの平均値 0.05 μm~0.3μmであるMXene粒子材料が、遠心分離による未剥離部分を除去することなく得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-63171号公報
【文献】特開2017-76739号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0294546号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0088429号明細書
【文献】特許第6564553号公報
【文献】特許第6564552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献5、6の方法でも十分に薄く且つ大きな粒子が得られてはいるものの、更に薄く(例えば単層レベルまで)剥離することや、更に大きなナノシート状の粒子材料を得ることを目指して本発明者らは更なる検討を行った。薄くて大きなナノシート状の粒子材料を基板に積層かつ稠密に並べれば極めて薄い導電薄膜や電磁波シールド薄膜を作製可能となる。例えば金属のメッキや金属粒子インクを用いた薄膜は粒状であるため、電磁波などの侵入に対しその隙間から電磁波が侵入してしまう。本発明の粒子材料で、C軸に配向、積層された、稠密な薄膜を作製すると、C軸方向から電磁波が侵入することになり、確実に電磁波がMXeneを通過することになるため、有効な電磁波シールド薄膜となりうる。この場合、金属のメッキあるいは金属粒子インクを用いた薄膜の上にMXene薄膜を形成させてもよい。あるいは金属粒子を分散させた有機物フィルムの上にMXene薄膜を形成させてもよい。
【0008】
また、得られたMXene単層レベルまで剥離したナノシート粒子材料は、そのままでは酸化されやすいため、工業的に応用するためには長寿命化を図ることが望まれた。
【0009】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、新規なMXeneナノシートからなる粒子材料、その粒子材料を含有する分散液、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の粒子材料は、平均厚さ1.0~3.5nm、平均大きさ1.5~2.0μmであり、(002)面の層間距離が1.350nm~1.400nmであるTi3Ala(CxN1-x2、x=0.97~0.70、aが0.02超、で構成されるMXeneナノシート材料を有する粒子材料である。
【0011】
上記課題を解決する本発明の分散液は、前述の粒子材料と、前記粒子材料を0.1質量%~0.4質量%で分散し、ジメチルスルホキシド(DMSO)を50質量%以上含有する分散媒とを有する分散液である。ジメチルスルホキシド(DMSO)を100質量%含有することがより好ましい。
【0012】
上記課題を解決する本発明の粒子材料の製造方法は、10μm~300μmのビーズを用いたビーズミルにおいて、水を50質量%以上含有する分散媒と、粒子濃度10.0mg/mL~20.0mg/mLで前記分散媒に分散されたMXeneとの混合物に対して層間に微小ビーズを衝突させることで、前記MXeneを剥離して剥離物を形成する剥離工程を有するMXeneナノシートからなる粒子材料の製造方法である。特に前記分散媒は、水を80質量%以上含有することが好ましい。水を100質量%含有することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粒子材料は、上記構成を有することにより厚みが小さく大きなMXeneからなる粒子材料を提供する。更に、本発明の分散液は、上記構成を有することにより、非常に安定した状態でMXeneからなる粒子材料を保持することができる。本発明の粒子材料の製造方法は、上記構成を有することにより、厚みが小さく大きなMXeneからなる粒子材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、2及び比較例1の剥離物のAFM像である。
図2】各実施例及び比較例の剥離物のSEM写真である。
図3】実施例1及び2、比較例1及び3のXRDプロファイルである。
図4】実施例1、2、比較例1の剥離物をスピンコートして形成して得られた薄膜の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、(a)~(c)では上からスピンコートの数が1回、2回、3回、4回、5回である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粒子材料及びその製造方法並びに分散液について実施形態に基づいて以下に詳細に説明を行う。本実施形態の粒子材料は、厚みが小さく大きさが大きいMXeneからなる粒子材料であり、導電性を示すなどの電気的特性に優れている。粒子材料の厚みが小さく、大きいことから、C軸配向、積層させた稠密で且つ導電性の薄膜を形成することができる。得られる薄膜は、導電薄膜、電磁波シールド薄膜などとして応用可能である。基板に金属のメッキをした上、あるいは金属粒子インクで作製した薄膜の上に、あるいは金属粒子を分散させた有機物フィルムの上に、MXene薄膜を形成させることもできる。
(粒子材料)
本実施形態の粒子材料は、電磁波シールド薄膜や導電薄膜材料などへの応用のために大きくて薄片化されたMXeneからなる粒子材料である。MXeneを薄片化した粒子材料は、粉末状層状化合物であるMXeneを剥離することにより得られる。
【0016】
本明細書において、あるパラメータに上限値と下限値をそれぞれ複数設定した場合には特に制限しない限りはそれらの上限値と下限値とを任意に組み合わせることができる。本実施形態の粒子材料は、板状、葉状、薄片状、シート状などである。総称してシート状と呼ぶ。
【0017】
本実施形態の粒子材料は、チタン3層と炭素2層から成る層状化合物、あるいは炭素の一部を窒素に置き換えた層状化合物であるMXeneである。組成式Ti3Ala(CxN1-x2により表されるMXeneからなる粒子材料である。ここで、x=0.97~0.70、aが0.02超である。aの上限としては0.05であることが好ましい。(以下 適宜「MXene」と称する)。また、これらの元素以外にもO、OH、ハロゲン基を表面官能基として有することができる。
【0018】
粒子材料を構成するMXeneは、層状化合物の層の積層方向を「厚み」とし、その厚みと直交する方向を「シートの拡がり方向」とし、この方向で測定した値が本実施形態の粒子材料の大きさである。
【0019】
MXeneの厚みは、親水化したSiウエハーにMXeneを滴下しAFM分析で測定できる。平均厚さが1.0~3.5nmであり、特に1.50~2.00nmであることが好ましい。平均厚さは、ランダムに選択された100個の粒子について測定した値の平均値として算出する。ナノシートの大きさは、親水化したSiウエハーにMXeneを滴下しSEM観察することにより測定できる。ナノシートの拡がり方向の平均の大きさが1.5~2.0μmであり、特に1.50~1.70μmであることが好ましい。厚みと直交する方向における最大値を「長辺」最小値を「短辺」とした場合に、ランダムに選択された100個の粒子についてSEMにより測定した、[(長辺+短辺)/2]の平均値を拡がり方向の平均の大きさとする。
【0020】
MXeneの(002)面の層間距離はX線回折分析で測定することができ、1.350nm~1.400nmであることが好ましい。1.350nmから1.370nmであることがさらに好ましい。
【0021】
MXeneの水中pH6からpH8におけるゼーター電位は、-29.0mVから-34.0mVの範囲であることが好ましい。
(粒子材料の製造方法)
本実施形態の粒子材料の製造方法は、剥離工程とその他必要な工程とを有する。
・剥離工程
剥離工程は、層状のTi3Ala(CxN1-x2 、x=0.97~0.70、aが0.02超である MXeneに対して分散媒中において微小ビーズを層間に衝突させることにより剥離させてシート状の剥離物を得る工程である。得られた剥離物は、分散媒に懸濁した剥離物懸濁液になる。この剥離物懸濁液をそのまま混合工程に供したり、分散媒を除去して混合工程に供したりできる。材料となる層状のMXeneを得る方法としては特に限定しないが、以下の方法が例示できる。
【0022】
Ti3Ala(CxN1-x2 、x=0.97~0.70、aが0.02超である MXeneはTi3層のMAX相セラミックス粉末からなる原料を酸処理してAl層を一部溶解して得られる。MXeneを製造する方法の一例を前処理工程として後述する。剥離工程に供される原料は、前述の粒子材料を構成する材料と同じ組成のものが採用できる。剥離工程では組成は概ね変化しない。
【0023】
この粒子材料を酸処理によってAlの一部を溶解し、MXeneとし、そのMXeneを用いて、水を主成分とする溶媒中に混合して混合物とした後、10μmから300μmのビーズを用いて高速回転を行うビーズミル処理する剥離工程によりシート状のMXeneの剥離物が懸濁する剥離物懸濁液が得られる。
【0024】
剥離工程を行う分散媒は、水を50質量%以上含有する以外は特に限定しないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、アセトンなのケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを含有することもできる。特に水の含有量の下限値としては、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、100質量%が挙げられる。
【0025】
剥離工程を行う混合物中のMXeneの濃度は特に限定しないが、10.0mg/mL~20.0mg/mL程度にすることができる。混合液の液性については特に限定しないが、pHを6.0~8.0程度にすることができる。
【0026】
剥離工程における具体的なビーズミル処理について説明する。遠心分離で微小なビーズとスラリー状の混合物を分級する機構を具備したビーズミルで剥離することが可能となる。ビーズミル処理により剥離した剥離物は、剥離前の混合物から遠心分離により随時分離でき、最終的には全てのMXeneを剥離物にすることもできる。
【0027】
例えばビーズの大きさの下限は、10μm、15μm、20μm、30μm、40μm、上限を300μm、200μm、100μmにすることができる。10μm以上であるとビーズとスラリーの分級が容易である。300μm以下のビーズを用いると粒子材料のサイズを小さくするよりも、剥離を優先して進行させることができる。これらの下限及び上限は任意に組み合わせて採用することができる。ビーズの大きさが適正な範囲であると付与するエネルギーが大きくでき、且つ、剥離を優先して進行できるため、50μm~100μmのビーズを採用することが最も好ましい。
【0028】
ビーズの材質は特に限定しないが、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素などのセラミックスが採用できる。特に破壊靭性が大きい部分安定化ジルコニアが好ましい。一方、300μm超のビーズを用いる微小サイズの隙間でビーズとスラリーを分級させる一般的に用いられるビーズミルによると、粒子材料のサイズを小さくすることが、剥離に優先して進行する。また、300μm超のビーズやボールを用いた遊星ボールミルなどのボールミルによっても、粒子材料のサイズを小さくすることが剥離に優先する。結果として、一部しか剥離させることができず、一部の剥離したMXeneを分級採取する必要が生じ、産業に利用可能な剥離したMXene粒子材料を得ることができない。特に遊星ボールミルを用いると、表面酸化が進行しMXeneには適さず、検討もされていないのが実際である。一方、従来からMXeneの剥離手法として用いられている溶媒に超音波を照射する方法については、溶媒に超音波を照射するとキャビテーションが発生し、その圧壊により粉体どうしが衝突するメカニズムで層状化合物を構成する層の剥離が進行する。しかしながら、キャビテーションの発生が起きやすい水を用いたとしても、剥離が進行するのはほんの一部のみである。遠心分離による分級によって一部のMXeneナノシートの一部を採取する方法で作製されており、産業で利用できるレベルとは言えなかった。
【0029】
剥離工程における周速は、6m/sec~12m/secの周速が採用できる。8m/sec~10m/secの周速が好ましい。6m/sec以上であると剥離効率が良く、12m/sec以下であると付与する過大なエネルギー付与が抑制され、得られる粒子材料の温度上昇が抑制できるため、得られる粒子材料の表面における酸化の進行が抑制でき、電気抵抗を低くできる。スラリー送り速度は100mL/分から300mL/分が採用できる。スラリー粒子濃度は20.0mg/mL~10.0mg/mLが採用できる。17.0mg/mL~10.0mg/mLとするとより好ましい。15.0mg/mL~10.0mg/mLとすると更に好ましい。
【0030】
20.0mg/mL以下の条件によると剥離が充分に進行でき、遠心分離などで分級することにより薄片状の粒子材料を選択する必要が低くなるため好ましい。さらに、スラリーの液中粒子径を小さく保つことが可能になる。10.0mg/mL以上にすると剥離の効率が良くなる。
【0031】
スラリー温度は35℃以下の温度範囲が好ましい。35℃以下にすると表面酸化が抑制でき、粒子材料の電気抵抗を低く保つことができる。
【0032】
ビーズの充填量は40体積%~80体積%が採用できる。40体積%以上にすると剥離の効率が良くなり、80体積%以下にするとビーズとスラリーの分級が容易となる。目的の薄片状の粒子を多く含む粒子材料が製造されたかどうかは、SEM、TEMなどの観察によって判断できる。特に粒子材料の厚みについてはAFM分析することによって判断できる。剥離工程で得られた粒子材料は、必要に応じて遠心分離などの方法によって分級して使用することも可能である。剥離工程における最適な条件については、装置の大きさによって変化するので、これらの数値は限定されるものではない。
【0033】
ビーズミル処理によりMXeneが全て剥離物になるようにすることが好ましい。MXeneが全て剥離物になる条件で剥離工程を完了すると、剥離していないMXeneを除去することなくそのまま用いることが可能になる。剥離物以外のMXeneを除去する場合には、遠心分離、濾過などにより分離することができる。
【0034】
炭素サイトの一部を窒素に置き換えたMXene は水中でOH基が吸着しやすくなり層間の結合力が弱まる。そのため置き換える窒素量を変えることにより、得られるMXeneの厚さと大きさを制御できる。Ti3Ala(CxN1-x2 、x=0.97~0.70、aが0.02超とすることにより、薄くて大きなナノシートが得られる。Xについて、0.85~0.70とすることがさらに好ましい。0.80から0.70とするとさらに好ましい。いずれもaは0.02超である。
【0035】
前処理工程に供する原料は、Ti3Ala(CxN1-x2 、x=0.97~0.70、aが1.00で表される組成を有するMAX相セラミックス粉末である。さらに、Alを除去する量は酸性物質により酸処理されて製造されるMAX相セラミックス粉末中のAlの量(xに相当)が0.02超になる程度に残存するように調節する。なお、Alを全部除去することも可能であり、その場合にはAlを除去する以上にまで酸処理を進めないことが好ましい。
【0036】
除去されるAlの量は、酸性物質(酸水溶液など)と接触する時間(長くすると除去される量が増加する)、酸性物質の濃度(濃度が高い方が除去される量が増加する)、酸性物質の量(酸性物質の絶対量が多い方が除去され得る量を多くできる)、接触させる温度(温度が高い方が除去される量が増加する)を変化させることで調節できる。
【0037】
層状化合物であるMAX相セラミックス粉末(A元素がAl)に対して、酸処理を行うことによりAlの一部を除去して粒子材料を構成する空隙層を有する層状化合物とする。Al層の一部を除去するための酸としてはフッ酸と塩酸との組み合わせた酸性物質を採用する。フッ酸と塩酸との組み合わせを実現するためにはフッ酸の塩(KF、LiFなど)と塩酸とを混合してフッ酸と塩酸との混合物を得ることが好ましい。
【0038】
特に酸性物質としてはこれらの酸の水溶液を採用する。フッ化塩が完全に解離したと仮定した時に形成されるフッ酸と塩酸との混合濃度としては特に限定しない。フッ酸の濃度としては下限が1.7mol/L、2.0mol/L、2.3mol/L、上限が2.5mol/L、2.6mol/L、2.7mol/L程度にすることができる。塩酸の濃度としては下限が2.0mol/L、3.0mol/L、4.0mol/L、上限が13.0mol/L、14.0mol/L、15.0mol/L程度にすることができる。
【0039】
フッ化塩が完全に解離したと仮定した時に形成されるフッ酸と塩酸との混合比(モル比)についても特に限定しないが、フッ酸の下限として、1:13、1:12、1:11、上限として1:5、1:6、1:7程度を採用することができる。ここで示したフッ酸及び塩酸濃度、混合比についてはそれぞれ任意に組み合わせて採用することができる。酸処理温度については、10℃から30℃が好ましい。10℃から20℃がさらに好ましい。
【0040】
得られたMXeneナノシート粒子材料について、水中pH6からpH8のゼーター電位を測定した。Ti3Ala(CxN1-x2 において、X=0.97で-29.0mV、X=0.95で-31.5mV、X=0.90で-32.1mV、X=0.85で-32.4mV、X=0.75で-33.1mV、X=0.70でー34.0mVであった。一方、X=1.00でー28.9mV、X=0.65でー34.5mVであった。水中pH6からpH8のゼーター電位は全てマイナスであり、水中における酸処理、及び水中で微小サイズのビーズミル処理で「OHやハロゲンなどの親水性官能基が吸着し、ゼーター電位の絶対値が大きいことは、より多くの親水性官能基が吸着したことを意味する。あまりにゼーター電位の絶対値が大きくなると付与する物理的作用力で粉々に粉砕してしまう。ゼーター電位の絶対値の大きさを29.0から34.0とすることにより薄くて大きなMXeneナノシートが形成されることが分かった。
【0041】
MXeneナノシートの化学組成については、Ti、Al、C、Nのatom%を用いて、Tiを3とした時のAl、C、N量を算出した。化学分析は、試料を白金皿にはかりとり、硝酸+硫酸+フッ化水素酸を加えて、加熱(120℃程度)して溶解後、さらに高温(300℃)で加熱して硝酸とフッ化水素酸を飛ばして試料溶液(硫酸)を作製し、作製した試料溶液を適宜希釈してICPで定量分析を行った。

(分散液)
本実施形態の分散液は、本実施形態の粒子材料を分散媒中に分散させたものである。分散液中に分散された粒子材料は、酸化されやすいMXeneであり、通常は安定的に存在できないが、本実施形態では長期間安定して存在できる。そのために分散液の状態で長期間保存することが可能になり、MXeneの応用分野を飛躍的に広げることが可能になる。この分散液を適正な基材上に塗布して乾燥することで、基材上にMXeneからなる導電薄膜、及び電磁波シールド薄膜を形成することが可能になる。その他、MXeneを利用する場合に応用することが可能である。
【0042】
分散媒としてはジメチルスルホキシドを50質量%以上含有するものであり、特に含有量の下限値としては、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、95質量%、100質量%が挙げられ、ジメチルスルホキシドの含有量が多い方が好ましく、特にジメチルスルホキシド以外の分散媒を含有しないことが好ましい。ジメチルスルホキシド以外に含有可能な分散媒の組成としては、特に限定しないが、親水性の性質をもつものが含有されていることが好ましい。例えばエタノール、及びイソプロピルアルコールを含有することができる。ジメチルスルホキシドの含有量は分散媒全体の質量を基準として50質量%以上にすることができ、80質量%以上、90質量%以上にすることが好ましい。100質量%とすることがさらに好ましい。例えば水を含有しないことができる。水の含有量は分散媒全体の質量を基準として5質量%以下にすることができ、2質量%以下、1質量%以下にすることが好ましい。水が共存するとMXeneナノシート粒子材料の表面酸化が進行し導電性が劣化する。本実施形態の分散液中の粒子材料の濃度は、を0.1質量%~0.4質量%である。
【実施例
【0043】
本発明の粒子材料及びその製造方法、並びに分散液について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。
(実施例1)
・前処理工程
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)11.7g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)0.6g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gをイソプロパノール(IPA)中で12時間 ボールミル混合し、エバポレータでIPAを除去して均一混合された乾燥粉末を得た。
【0044】
黒鉛抵抗炉を用いてAr気流中1450℃、2h(昇温速度10℃/分)の条件で、均一混合された乾燥粉末をアルミナるつぼに入れて焼成しMAX相セラミックスとしてのTi3Al(C0.950.052を得た。得られたTi3Al(C0.950.052について乳鉢と乳棒を用いて粗粉砕した後、IPA中で5mmのジルコニアボールを用いたボールミル粉砕を24時間行った。その後、0.5mmのジルコニアボールを用いた遊星ボールミル粉砕(200rpm、15分を3回)行い、懸濁液を得た。懸濁液に対してエバポレータでIPAを除去して約3μmに粉砕されたTi3Al(C0.950.052粉末を得た。
【0045】
300mLの濃HClにLiFを18gを入れた酸水溶液を準備し、氷で冷やしながら10gのTi3Al(C0.950.052粉末を入れて、20℃から30℃に制御された環境下で、24時間、マグネチックスターラーで撹拌することで、Alをエッチングして除去し、Ti3Al0.02(C0.950.052 MXeneからなる粒子材料を得た。エッチング後、pH6程度になるまで水洗し、最後に水をエタノールに置換した。この操作により、粒子材料は、エタノール中に懸濁されたMXeneの懸濁液を得た。
【0046】
原料懸濁液中の粒子濃度を測定し、MXeneの粒子濃度が15.0mg/mLになるように水を添加することで、分散媒としての水中に分散したMXene(原料懸濁液)を得た。
・剥離工程
この原料懸濁液に対して、ZrO2ビーズ径50μmのビーズミルをスラリー送入速度150mL/min、ZrO2ビーズ充填量80%の条件で処理を行うことで、MXeneからなる剥離物を生成した。この処理を3回繰り返すことにより、原料懸濁液中に含まれるMXeneからなる粒子材料は、概ね全て剥離物になり、その剥離物を含む剥離物懸濁液を得た。
【0047】
得られた剥離物懸濁液について、ピラニア処理(H2SO4:H22=3体積部:1体積部の混合液に浸漬)したSi基板上に滴下し、AFM分析を行った。AFM像を図1に示す。剥離した剥離物(ナノシート)を無作為に100個抜き取り、AFMにより測定した厚さの平均値を求め表1に示す。さらにSEM観察の結果を図2に示す。剥離物を無作為に100個抜き取り、SEM写真より縦(厚み方向に直交する方向での最大径)と横(縦方向及び厚み方向に直交する方向)の寸法を測定し、その平均値をその剥離物の大きさと定義し、100個の剥離物の大きさの平均値を表1に示す。
【0048】
前処理工程で用いたTi3Al(C0.950.052の粉末Aと、剥離物(MXeneのナノシート)とのそれぞれについて、XRD測定し、図3に示す。それぞれのXRDプロファイルから(002)面の層間距離を表2に示す。
【0049】
剥離物懸濁液(15.0 mg/ml)を37000G(17000rpm)、30分間遠心沈降させ、上澄みを廃棄した後、ジメチルスルホキシド(DMSO)を沈降物1.25gあたり5.0g添加し、振とう機にて140rpm、振幅45mm、1.5h撹拌することで懸濁させた。これらの操作を3回繰り返して分散媒を全てDMSOに置換してDMSOサスペンジョンを得た。
【0050】
得られたDMSOサスペンジョンについて、2400G(3500rpm)で遠心分離し、上澄みを採取する(上澄みをDMSO colloidsと名付ける)。DMSO colloids 2滴にエタノールを1滴滴下しspin coatのサンプルとする。ピラニア処理したガラス板(25×25×0.7mm)を基板とし、20μL滴下して、4000rpm、1分の条件でスピンコートを行い、膜を作製した。
【0051】
膜厚制御のためスピンコートによる薄膜作製を繰り返す時は、自然乾燥した後、同様にspin coatによる膜作製を必要な膜厚になるまで行った。UV-vis測定した結果を図4に示す。200℃ 24h真空乾燥した後、表面電気抵抗を測定した結果を表3に示す。
(実施例2)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)9.2g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)3.2g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いた以外、実施例1と同様に剥離物を調製した。図1にAFM像、表1に平均厚さと平均大きさ、表2に層間距離、図2にSEM像、図3に得られたTi3Al(C0.75N0.252粉末、Ti3 Al0.02(C0.75N0.252 MXeneのXRDプロファイル、図4にUV-visの結果、表3に表面電気抵抗値を示す。
(比較例1)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)12.3g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いた以外、実施例1と同様に剥離物としてのTi3Al0.02C2 MXene ナノシートを作製した。図1にAFM像、表1に平均厚さと平均大きさ、表2に層間距離、図2にSEM像、図3に得られたTi3AlC2粉末、Ti3Al0.02C2 MXeneのXRDプロファイル、表3に表面電気抵抗値を示す。
(比較例2)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)4.4g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)4.6g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)7.1g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)4.0gを出発原料に用いた以外、実施例1と同様に剥離物としてのTi3Al0.02(C0.5 N0.52 MXene ナノシートを作製した。図2にSEM像、図3に得られたTi3Al(C0.5N0.52粉末、Ti3Al0.02(C0.5 N0.52 MXeneのXRD プロファイルを示す。
(比較例3)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)12.3g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いて比較例2と同様にTi3AlC2粉末を作製し、剥離工程を行う際の分散媒としてエタノールを用いた以外、比較例2と同様に剥離物としてのTi3Al0.02C2 MXene ナノシートを作製した。図1にAFM像、表1に平均厚さと平均大きさ、表2に層間距離、図2にSEM像、図3に得られたTi3AlC2粉末、Ti3Al0.02C2 MXeneのXRD プロファイルを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例2については粒子が粉砕されてシート状にならず、シートの平均厚さ及び平均大きさが測定できなかった。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
(結果)
xが0.97~0.7の範囲内に入っている実施例1及び2は、xが1である比較例1及び3と比べて平均厚さが薄く、平均大きさが大きくなることが分かった。また、xが0.5である比較例2では剥離工程で粉砕が進行して微細な粒子しか生成できなかった。Cサイトの一部をNにより置き換えると、親水性官能基が吸着しやすくなり、層間の結合力が弱まり、剥離しやすくなるため好ましいが、余りにNにて置き換えすぎると層間の結合力が弱まり、剥離と同時に容易に粉砕が著しく進行し微細な粉末となった。また、実施例1及び2は、比較例1よりも光線透過性に優れることが分かった。
【0057】
剥離工程を行う際の分散媒をエタノールのみとした比較例3では、平均厚さが大きく平均大きさが小さくなり、十分に剥離させることができなかった。更に(002)面の層間距離も小さかった。このように水を含有しない分散媒を用いて剥離工程を行うよりも水を含有する分散媒を用いる方が、薄くて大きなナノシートを得る上で、微小ビーズを用いたビーズミルによる手法で剥離させる際に、好ましいことが分かった。
【0058】
MXeneの剥離は超音波照射で行い、剥離した一部のMXeneナノシートを遠心分離で採取する手法で得ていたが、産業に利用できるレベルとは言えなかった。溶媒に超音波を照射するとキャビテーションが発生し、その圧壊により、粉体どうしが衝突するメカニズムで層状化合物を構成する層の剥離が進行する。しかしながら、キャビテーションの発生が起きやすい水を用いたとしても剥離が進行するのは一部のみである。さらに遊星ボールミルによる手法によると剥離よりも粉砕が優先され、表面酸化が進行するためMXeneについては検討もされていないのが現状であった。
MXeneの炭素サイトの一部を窒素に置き換えると、親水性官能基がより吸着することにより層間の結合力が弱まり、微小ビーズを用いたビーズミルでMXeneの層間に選択的に物理的作用力を付与することにより、遠心分離で分級することなく、平均厚さが薄くて平均大きさが大きなMXeneナノシートを得ることに成功した。MXeneナノシートを産業で利用できるレベルに至ったと言える。
【0059】
剥離工程において、MXene粒子濃度を10mg/mL以上にすることで、剥離工程の効率が高くなり、20mg/mL以下にすることでMXeneを未剥離物の残存が抑制できて剥離物にすることが容易になった。
【0060】
剥離工程において水を用いて平均厚さが小さい剥離物を得られるようになったが、そのままでは酸化によるMXeneの劣化が観察されたが、実施例のように分散媒をDMSOにて置換することにより酸化が抑制できることが明らかになった。なお、分散液中の濃度を0.4質量%以下にすることで効果的に凝集を抑制することができることが分かった。
図1
図2
図3
図4