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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】光学測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20241031BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/27 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020143536
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038847
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝就
(72)【発明者】
【氏名】児玉 周太朗
(72)【発明者】
【氏名】大田 愛美
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100915(JP,A)
【文献】特表2015-512711(JP,A)
【文献】Jianglei DI et al.,“Dual-wavelength common-path digital holographic microscopy for quantitative phase imaging based on lateral shearing interferometry”,Applied Optics,2016年09月10日,Vol. 55, No. 26,PP.7287-7293
【文献】“平成30年度 超小型マルチスペクトルデジタルホログラフィック顕微鏡”,[2024年5月21日検索],2018年,インターネット<URL:https://hojo.keirin-autorace.or.jp/shinsei/document/list/kikai/h30/pdf/30-165koho.pdf?200803>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G02B 6/12- 6/14
G02F 1/29- 7/00
G02B 5/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられ、被写体を透過した光によって生じる画像を記録する記録光学と、
記録した画像を処理する画像処理部と、
を備え
前記記録光学部では、特定の波長を有する光源で発光された光が導波路によって複数光に分けられ被写体を透過し第1の光と第2の光によって被写体表面に形成された干渉縞画像を記録
前記画像処理では、記録した干渉縞画像に対して演算処理を行い、被写体内の情報を数値化し、
前記導波路は、
前記光源から発せられた光が前記第1の光として分岐されて導波される1本の導波路からなる第1の導波部と、
前記光源から発せられた光が前記第2の光として分岐された後に前記第2の光を複数の分波光に分波する分波素子と、前記複数の分波光のうちの1つ以上の分波光を出射するスイッチング素子と、前記1つ以上の分波光の位相をシフトさせる位相シフタと、を有する第2の導波路と、
を有する、
光学測定装置。
【請求項2】
前記第1の光は前記被写体を透過し、前記第2の光は前記被写体の内部の観察対象物を透過する、
請求項1に記載の光学測定装置。
【請求項3】
前記記録光学は、前記干渉縞画像を記録する撮像部を有する
請求項1又は請求項2に記載の光学測定装置。
【請求項4】
前記画像処理は、前記記録光学で記録された1枚の干渉縞画像から画像処理と光波伝搬計算により被写体内の振幅情報と位相情報を数値化する
請求項1に記載の光学測定装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記記録光学で記録した複数の干渉縞画像によりノイズを除去する画像処理と光波伝搬計算により振幅情報と位相情報を数値化する、
請求項1に記載の光学測定装置。
【請求項6】
前記位相シフタは前記1つ以上の分波光の各々が導波される導波路に設けられた熱源を有し
前記熱源で生じる熱光学効果によって前記分波光の位相を変調させる
請求項1、請求項3及び請求項4の何れか一項に記載の光学測定装置。
【請求項7】
前記光源で発光された特定の波長の光を複数光に分ける光導波路を針状に形成した針状導波路を備え
前記針状導波路は、前記被写体の内部に差し込まれる
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の光学測定装置。
【請求項8】
前記画像処理部は、前記干渉縞画像に含まれる物体像の他に重畳されている不要像を除去した複素振幅分布を取得し、
前記記録光学部では、取得した前記複素振幅分布に基づく位相差が前記位相シフタに加えられ、相対位相差が互いに異なる複数の干渉縞画像が記録される、
請求項1又は請求項6に記載の光学測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路を使った光学測定装置に係り、特に生体系の観察や解析を容易に且つ高精度に行う光学測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において生体皮膚下の血管や細胞のイメージング技術は分子機構の解明や治療薬の開発に大きく貢献している。例えば血管イメージングは既存の血管から新しい血管が伸びる血管新生(血管増生)を観察する際に必要とされる。この血管新生は炎症や低栄養状態、癌などの病的状態において活発に起こるため、これらの疾患の治療において非常に重要である(非特許文献1参照)。これらのイメージング技術として様々な手法が提案されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら一般的に知られている二光子励起顕微鏡は適切な蛍光プローブでの標識付けの準備、組織切片の摘出や高価な装置など簡易的な計測に不向きであった。
【0003】
そこで測定対象物に対して非侵襲・非破壊・非染色で簡易な計測方法が求められていた。非侵襲・非破壊・非染色な評価指標の1つとして定量位相情報(厚みや屈折率)があり、細胞増殖や活性度、癌細胞か否かなどと相関性が高いことが知られており、様々な研究が行われている。中でもデジタルホログラフィック顕微鏡(Digital Holographic Microscopy : DHM)は,微小物体の定量位相計測が可能な技術の一種である(非特許文献3参照)。DHMは光源から発せられた光を物体に照射する物体光と、物体に照射しない基準の光となる参照に分け、撮像素子上に形成される干渉縞を電気信号として記録する。この干渉縞は参照光に対して物体を透過した分の強度と位相の変調が起きているため、物体の情報が記録される干渉縞の強度情報として記録される。その後、この干渉縞に対して計算機上で画像処理と光波伝搬計算を行うことで物体の複素振幅情報の再構成の計算を行えるため定量位相計測が可能である。
【0004】
しかし一般的なDHMも拡大用の対物レンズや光軸調整用のミラーなどの光学素子によって装置の大型化や複雑な光学系調整が問題であった。また、生体細胞を摘出する必要がある。DHMで高分解能かつ広視野な顕微計測を行うための物体光と参照光を同軸上で入射させるインライン型は、再構成像に重なる-1次光や0次光の像を除去するために位相シフトによって複数枚の干渉縞画像を記録する必要があり高速イメージングは困難であった(非特許文献4参照)。またオフアクシス型では再生像の重なりを分離できるが物体光と参照光に適切な角度関係が必要であり、撮像素子で記録できる空間周波数を最大限使用できていない(非特許文献5参照)。さらに1次光らの分離に必要とされる角度では記録される干渉縞が細かい状態となってしまうため、散乱などの外的要因による影響を受けやすい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】P. Carmeliet, and R. K. Jain, “Angiogenesis in cancer and other diseases,” Nature 407, 249-257(2000).
【0006】
【文献】H. Takahashi, K. Kato, K. Ueyama, M. Kobayashi, G. Baik, Y. Yukawa, J. Suehiro, and Y. Matsunaga, “Visualizing dynamics of angiogenic sprouting from a three-dimensional microvasculature model using stage-top optical coherence tomography,” Sci Rep 7, 42426 (2017).
【0007】
【文献】I. Yamaguchi, and T. Zhang, “Phase-Shifting Digital Holography,” Opt. Lett. 22(16), 1268-1270 (1997).
【0008】
【文献】N. Pavillon, C. S. Seelamantula, J. Kuehn, M. Unser, and C. Depeursinge, “Suppression of the zero-order term in off-axis digital holography through nonlinear filtering,” Appl. Opt. 48, H186-H195 (2009).
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-31262
【0010】
【文献】特開2017-49069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術では生体組織下の細胞や血管を観察する際には多くの場合表面の皮膚を剥ぐ、さらには生体内部からの摘出が必要となり、観察の準備に時間を要していた。また摘出を必要としない場合でも蛍光プローブなどで標識付けが必要となり、共焦点顕微鏡や二光子顕微鏡のような計測装置では装置が大型化になると同時に計測時間が長く、扱いが難しい等の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、光導波路を用いたデジタルホログラフィック顕微鏡と結像光学系を利用することで複雑な光学系が簡略化されると同時に装置の小型化が可能である。
【0013】
さらに、生体組織上に形成された干渉縞を結像光学系によって記録することで生体組織下の細胞や血管に標識付けを必要とせずに生体の特徴を簡易的に計測できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による光学測定装置は小型の光導波路を使って生体組織の透過光を干渉縞として記録することが出来るため、この干渉縞に対して計算機上で画像処理と光波伝搬計算を行うことで生体組織内の振幅、位相情報を高精度に取得することが可能である。このため、生体観察の用途として簡易な血管検査や生体内の癌細胞の検査(正常細胞と癌細胞の識別)、生体組織の3次元生体認証等の用途に関して有効である。
【0015】
また、光導波路を含めた光学系の多くを1チップ化することができ、超小型の光学系を構築することが可能となる。従って小型で且つ低コスト化も可能であることから医療用や生体観察用だけではなく、例えば生体認証用途にも応用可能となり、ATMや防犯用途等にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例に係る光学測定装置を含む全体システム構成の一例を示す図。
図2】実施例に係る光学測定装置のソフトウェア構成図。
図3】実施例に係る光学測定装置の主要技術である光導波路の一例を示す図。
図4】実施例に係る光学測定装置の主要技術である光導波路の別の例を示す図。
図5】実施例に係る光学測定装置の別の光導波路を使った構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付けてその重複説明は省略する。以下の実施形態においては、本発明に係る光学測定装置を例に挙げて説明する。
【0018】
図1は本発明の実施形態の光学測定装置1を含む全体構成の一例を示した図である。図1の光学測定装置1では観察対象である生体組織6は光を透過する形の例を示しているが、これに限ることはなく、反射型でも良い。
【0019】
この光学測定装置1は記録光学機能(記録光学部)2と分離処理機能(画像処理部)12とシステム制御機能(画像処理部)16の3つの機能要素から構成されている。以下各機能について詳細に記載する。
【0020】
記録光学機能2では例えば特定の波長を有する光を放射する光源3から照射された光が光導波路4で第一の光7と第二の光8に分波される。この光導波路4は屈折率の異なるコアとクラッドから成り、入射した光は導波路内を全反射しながら伝搬する。一般的なミラーなどを用いた空間光学系と比較して光学系がコンパクトになり、複雑なアライメント作業を必要としない利点がある。位相シフト機能5は分波された第一の光7または第二の光8の波長の位相をシフトさせる機能を有するもので、例えばピエゾ素子を使って光路長を変えることで位相をシフトさせる、或いはヒーターと温度センサを使って波長の位相を変化させることを可能にする機能部材である。光源3は特定の波長を有しているが、一定の波長でなく、波長の可変機能を有していても良い。第一の7と第二の光8に分波された光は生体組織6に入射するが、光導波路から出射された光は球面波となり、前記2つの光は生体組織6を透過して表面上に干渉縞9を形成する。この干渉縞9を、レンズ10を通して撮像素子11で光強度分布として記録する。
【0021】
ここで、例えば第一の光7が血管や細胞組織等の生体組織の観察対象物6aを通過し、第二の光8はそのまま生体組織6を通過するとそこで形成される生体表面上の干渉縞は生体組織の観察対象物6aの影響を受けた干渉縞となり撮像素子11を通して画像として分離処理機能12に記録される。実際に記録される画像は分離処理機能内の一時メモリ(図示せず)やRAM19等で記録する。このとき第一の光7、あるいは第二の光8の一方に熱源を加えて光の位相差を加えると干渉縞に位相差が生じ、相対位相差が異なる複数の干渉縞を記録することで、画像処理上で再生像に重なるノイズを除去できる。と同時に複数の位相差の干渉縞からホログラムを形成し、画像処理13を施して光波伝搬計算14を行って生体組織6の内部の血管や細胞の情報を再構成して画像表示処理15を使って画像化する。
【0022】
上記第一の光7と第二の光8はそれぞれ参照光と物体光となるが、どちらかが参照光、どちらかが物体光とすれば良い、また、参照光となる導波路上位相シフト機能5が有る必要があるが、例えば第一の光7と第二の光8の導波路上のそれぞれに位相シフト機能5を付加し、選択させても良い。これら詳しい処理の方法については後述する。
【0023】
上述の一連の処理を制御するのがシステム制御機能16でありコントローラ17、ROM18、RAM19、外部メモリ20で構成されている。コントローラ17は記録光学機能2内の各部材の電源のON/OFFや細かな各種設定値の設定や制御、分離処理機能12へのコマンドセットや制御も行う。ROM18にはシステムのソフトウェアや初期値等を記録されている。RAM19はコントローラ17や分離処理機能12で一時的に記録されたデータや設定値を記録するためのものである。外部メモリ20はROM18やRAM19に保存仕切れないものや以前のデータ等を保持しておくためのメモリである。あるいはソフトウェアのアップデータ等の保存や新たな設定値の保存等にも利用できる。画像表示処理15で生成された画像データは表示部21で表示される。これらデータ等はシステムバス22でデータは送受信される。図1では表示されていないが、前記データはネットワークを介して外部へ送受信しても良い。
【0024】
図2は本実施例の光学測定装置1のソフトウェア構成図であり、コントローラ17、ROM18、RAM19、及び外部メモリ20、システムバス22からなる。コントローラ17は、所定のプログラムに従って光学測定装置1全体を制御するマイクロプロセッサユニットである。システムバス22はコントローラ17と光学測定装置1内の各部との間でデータ送受信を行うためのデータ通信路である。ROM(Read Only Memory)18は、オペレーティングシステムなどの基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムが格納されたメモリであり、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュROMのような書き換え可能なROMが用いられ、ROM18に格納されたプログラムを更新することにより、基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムのバージョンアップや機能拡張が可能である。
【0025】
RAM(Random Access Memory)19は基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラム実行時のワークエリアとなる。具体的には、例えばROM18に格納された基本動作プログラム18aはRAM19に展開され、更にコントローラ17が前記展開された基本動作プログラムを実行することにより、基本動作実行部19aを構成する。以下では、説明を簡単にするために、コントローラ17がROM18に格納された基本動作プログラム18aをRAM19に展開して実行することにより各部の制御を行う処理を、基本動作実行部19aが各部の制御を行うものとして記述する。なお、その他のアプリケーションプログラムに関しても同様の記述を行うものとする。
【0026】
撮像処理実行部19bは撮像素子11に対し撮影の指示、停止等を行うのと共に入力された撮像素子からの電気信号を元に撮像画像の再生処理を行う。画像処理実行部19c前記再生処理を行った撮像画像に対して様々なソフトウェアの処理で輝度や色彩等の補正や画像をより鮮明にするためのエッジ処理や画質改善処理を行う。光伝搬計算実行部19dについての詳細は後述するが、記録光学機能2で得られた干渉縞画像に対し様々な光伝搬計算を行いそれによって新たな詳細の対象物体の画像やプロファイル等を作成する計算を行う処理である。各種部材の設定値実行部19eは記録光学機能2の位相シフト機能5、光源の波長設定3等の様々な設定値の変更を行う処理であり、これにより変更された設定値での画像や干渉縞等の取得を可能とする。例えば光源3である波長で設定されて得られた干渉縞に対し、λ/4だけシフトさせた時の干渉縞が必要な場合にはこの部分の処理により位相シフト機能5の設定を行う。画像表示実行部19fは前記計算等により再構成された画像や初期の物体画像等を表示するためのソフトウェアである。上記ソフトウェアは全てがソフトウェアとして記載されているがこれに限ることはなく、例えば高速化するために一部をハードウェア化されていても良い。
【0027】
コントローラ17は光学測定装置1全体の制御を行うアルゴリズムが組み込まれている。本実施例の光学測定装置1の動作は、図2に示したように、主として外部メモリ20に記憶された撮像処理プログラム20bと、画像処理プログラム20cと、光伝搬計算プログラム20dと、各種部材の設定プログラム20e、画像表示プログラム20fがRAM19に展開され、コントローラ17により実行される撮像処理実行部19bと、画像処理実行部19cと、光伝搬計算実行部19d、各種部材の設定値実行部19e、画像表示実行部19fによって制御されるものとする。前述の撮像処理実行部19bと、画像処理実行部19cと、光伝搬計算実行部19d、各種部材の設定値実行部19e、画像表示実行部19fはその一部または全部の動作をハードウェアで実現する各ハードウェアブロックで行っても良い。ROM18及びRAM19はコントローラ17と一体構成であっても良い。また、ROM18は、図2に示したような独立構成とはせず、外部メモリ20内の一部記憶領域を使用しても良い。また、RAM19は、各種アプリケーションプログラム実行時に、必要に応じてデータを一時的に保持する一時記憶領域を備えるものとする。
【0028】
外部メモリ20は撮像素子11で撮影されている画像を一時的に蓄えても良い。また、光学測定装置1の各動作設定値や光学測定装置1の位置情報や各種情報、光学測定装置1が撮影した画像や情報等の一部または全部のデータ、その他プログラムを格納している。外部メモリ20の一部領域を以ってROM18の機能の全部または一部を代替しても良い。また、外部メモリ20は、光学測定装置1に電源が供給されていない状態であっても記憶している情報を保持する必要がある。したがって、例えばフラッシュROMやSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disc Drive)等のデバイスが用いられる。
【0029】
次に本発明の光導波路4の一例について図3を使って説明する。図1では光源1から光導波路4へ入ると第一の光7と第二の光8に分波され、それぞれ光導波路4を通過した後に生体組織に入射されている図を示しているが、これに限ることはなく、例えば図3に示す様に分波素子4a、スイッチング素子4b、位相シフタ5aで構成された光導波路4により、入射端で入射される光を分波素子4a、スイッチング素子4b、位相シフタ5aを通して2つの光、すなわち第一の光7と第二の光8にして出射端より出射されれば良い。具体的には図3では分波素子4aで5つの光に分波された光がスイッチング素子4b、位相シフタ5aを通った後に(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の5つの導波路となっているが、コントローラ17により選択された2つの光が出射端より出射される。
【0030】
上記の位相シフタ5aは図1で説明した位相シフト機能5の一例である。具体的には、入射端から所定の波長の光が入射し、分波素子4aで入射光を分波している(図3の例では5つに分波されている)。次にスイッチング素子4bを用いて使用する導波路を選択し、干渉させる2光(第一の光7と第二の光8)だけを通す。次に選択した光路の一方に位相シフタで位相変調を行い、出射端より出てきた第一の光7と第二の光8を干渉させる。スイッチング素子4bと位相シフタ5aをコントローラ17で制御することで、使用する2光の導波路を自由に変えられる。これによってたまたま透過性が悪い生体組織の観察対象物6aが光を遮っても、異なる選択された光同士((A)、(B)、(C)、(D)、(E)の5つの導波路の内、2つを選択)で干渉縞を生成することが可能となる。また、異なった位置に存在する生体組織の観察対象物6aや異なった角度からのイメージングも光学測定装置1を動かす必要なく見ることが可能となる。
【0031】
図3では分波素子4aで5つの光に分波される例を示しているが、これに限ることはなく、分波される光の数は設計事項であり幾つに設定しても良い。また、図3では(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の5つの導波路の2つが選択されてその一方を第一の光7他方を第二の光8としていたが、これに限ることはなく、図4で示す様に、入射端で2つの光に分波され、その一方はそのまま入射光の波長のまま出射されいわゆる物体光として生体組織6に入射され、2つに分波された一方がスイッチング素子4b、位相シフタ5aを通って出射端から出射しても良い。この場合には第二の光8はいわゆる参照光となる。この場合には位相シフタ5aは予め複数の位相をシフトできる状態に設定しておき、スイッチング素子4aのスイッチングと同時に光の位相を変えて出射させることが可能になるようにする事で高速に測定可能になる。
【0032】
次に本発明の光学測定装置1の位相シフト機能5を使ってノイズ除去を行う方法について式を使って説明する。特定の波長を有する光源3から出射された光は光導波路4に入射し、分波される。光導波路4で分波された光は上記の説明では第一の光7と第二の光8としていたがここでは説明を簡単にするために、一方の光が生体組織6を透過する物体光であり、もう一方の光を基準の光となる参照光とする。これら2つの光が異なる導波路を通って出射される。光導波路4から出射された光は球面波となり、生体組織を透過して表面上に干渉縞を形成する。この干渉縞をレンズと撮像素子によって光強度分布として記録する。
【0033】
上記撮像素子11で記録した干渉縞画像I(x,y;θ)は所望する物体像の他に非回折光や共役像(0, -1次光)の情報を含んでいる。すなわち求めたい物体像の他に重畳した不要像の情報が含んでいる。いわゆるノイズである。そこで、下記の(1)式を計算することによって物体像に重畳する不要像を除去した複素振幅分布U(x)を取得する。このとき参照光側に熱源を加えて干渉縞に位相差を与える事で、相対位相差が異なる干渉縞を記録することになり、画像処理上で再生像に重なるノイズを除去できる。
【0034】
本発明では4段階位相シフトの例を示す。4段階位相シフトは参照光の位相をπ/2ずつ位相シフトさせ、ずらした干渉縞画像を4枚取得する。撮像素子で記録した干渉縞画像をI(x,y;θ)とすると4段階位相シフトを用いた物体光の複素振幅分布U(x)は(1)式で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
位相変調を与える方式としてピエゾ素子や空間変調器を用いた方法もあるが、本発明では熱源を用いて熱を与えることによる屈折率勾配を用いた熱光学効果を利用した方法について記載する。ピエゾ素子や空間変調器を使う方法もあるが、熱源と温度センサを用いる方法であれば例えば薄膜プロセスで作成することも可能であり、光導波路を用いた利点であるコンパクトな光学系を維持したままノイズ除去ができる。
【0037】
(1)式において簡単化のために定数項は省略し1次元で記述するが、位相シフト後の複素振幅分布U(x)を用いることで(2)式の様なフレネル・キルヒホッフの回折式から物体の複素振幅分布が計算で求めることが出来る。ここで、λは光波の波長、Zは伝搬距離、Fはフーリエ変換演算を表す。(2)式を光伝搬計算14で行うことにより、目的の物体光のみを再生することが可能となる。
【0038】
【数2】
【0039】
さらに、ここで得られる物体の空間分解能はNA = nsinθ ≒ nD / 2zoの関係より、物体から干渉縞面までの距離zoと記録する干渉縞のサイズDによって決定される。空間分解能δxはレイリーの空間分解能式より(3)式のように表せる。
【0040】
【数3】
【0041】
NAの値を決めるのは設計事項であるが、NAは0.2程度で実現できるので波長632.8 nmでの分解能としては1.8 ~ 1.9 μm程度と計算できる。従って、生体組織内での毛細血管の太さは5~20 μm(平均 7 μm)であり、十分にイメージングできる分解能を有している。
【0042】
上記で説明した本発明の光学測定装置1では、例えば廉価なレーザーダイオードで作られた光源3、薄膜プロセスを使って非常に小型化且つ低コスト化が可能な光導波路4とレンズ10、撮像素子11の記録光学機能2と、コントローラ17を含めたシステム制御機能16、主にソフトウェアで構成された分離処理機能12とで構成されているため非常に小型且つ低コストで構成することが出来るため、例えば銀行のATMや入室管理に利用される生体認証装置にも応用可能である。
【0043】
次に本発明の光学測定装置1の別の応用例として針型プローブを使った光学測定装置1について図5を使って説明する。生体組織6には非常に厚いものや、光が透過しにくいものもある。このような生体組織の場合でも内部の状態を観察したい場合には光導波路の形状を針状に形成して直接、又は光導波路を注射針のような金属製の針で覆うことで生体組織6に刺し、内部の血管や細胞の情報を再構成する方法がある。ここで光導波路は針状光導波路23とする。針状光導波路23を通過した第一の光7と第二の光8は生体組織6の中を進み、生体組織6の表面に干渉縞を形成し、これをレンズ10及び撮像素子11で捉えて分離処理機能12で画像処理13、光波伝搬計算14を行い生体組織6の内部の情報を再構築して画像表示15させて実際に画面表示させる。
【0044】
この針状光導波路23のサイズは薄膜プロセスで製造できるため、100 μm程度と非常に小さいサイズで設計可能である。医療分野で人体への皮下注射としてよく使用される注射針の太さが0.6 mm程度であるので、金属製の針で覆う場合でも十分なサイズである。
【0045】
上記では針状の光導波路についての記載であったがこれに限ることはなく、フレキシブルな光導波路でも良い。この場合生体組織内には非常に細くフレキシブルなプローブ状の光導波路を生体組織6内に挿入することとなる。
【符号の説明】
【0046】
1:光学測定装置、2:記録光学機能、3:光源、4:光導波路、4a:分波素子、4b:スイッチング素子、5:位相シフト機能、5a:位相シフタ、6:生体組織、6a:生体組織の観察対象物、7:第一の光、8:第二の光、9:干渉縞、10:レンズ、11:撮像素子、12:分離処理機能、13:画像処理、14:光伝搬計算、15:画像表示処理、16:システム制御機能、17:コントローラ、18:R O M、19:R A M、20:外部メモリ、21:表示部、22:システムバス、23:針状光導波路
図1
図2
図3
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図5