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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】標的核酸断片の検出方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20241031BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241031BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20241031BHJP
   C12N 11/00 20060101ALI20241031BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241031BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241031BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/34
C12N11/00
C12M1/34 E
G01N37/00 102
G01N21/64 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021529209
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2020026371
(87)【国際公開番号】W WO2021002476
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019125564
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(さきがけネットワーク)「1分子機能カウンティングから紐解く高次生命科学」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 力也
(72)【発明者】
【氏名】濡木 理
(72)【発明者】
【氏名】西増 弘志
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0362644(US,A1)
【文献】国際公開第2015/115635(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098301(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/104058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
G01N 37/00
C12Q 1/68
C12N 11/00
C12Q 1/00-3/00
G01N 21/00
C12M 1/300-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸断片の検出方法であって、
前記試料を、前記標的核酸断片に相補的なgRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、及び、基質核酸断片と接触させる工程であって、
前記CRISPR/Casファミリータンパク質は、前記gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであり、
前記基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものであり、
前記接触を10aL~100pLの容積を有する反応空間内で行い、その結果、前記試料中に前記標的核酸断片が存在した場合に前記3者複合体が形成されて前記基質核酸断片が切断され、前記蛍光物質が前記消光物質から離れる工程と、
前記蛍光物質に前記励起光を照射し、前記蛍光を検出する工程と、
を含み、前記蛍光が検出されたことが、前記試料中に前記標的核酸断片が存在することを示し、
前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、Cas12タンパク質又はCas13タンパク質である、方法。
【請求項2】
前記標的核酸断片が、前記反応空間1つあたりに0個又は1個導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応空間が基板上に形成されたウェルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、前記ウェルの内表面に固定されている、請求項に記載の方法。
【請求項5】
容積が10aL~100pLであるウェルが表面に形成された基板と、
標的核酸断片に相補的なgRNAと、
CRISPR/Casファミリータンパク質と、
基質核酸断片と、を含み、
前記CRISPR/Casファミリータンパク質は、前記gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであり、
前記基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものであり、
前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、Cas12タンパク質又はCas13タンパク質である
前記標的核酸断片の検出用キット。
【請求項6】
前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、前記ウェルの内表面に固定されている、請求項に記載のキット。
【請求項7】
前記gRNAが、前記ウェルの内表面に固定されている、請求項5又は6に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸断片の検出方法及びキットに関する。本願は、2019年7月4日に、日本に出願された特願2019-125564号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
試料中の標的核酸断片を高感度に検出する技術が求められている。例えば、血液中には、細胞死によって細胞から放出された遊離DNA(cell-free DNA、cfDNA)が存在することが知られている。癌患者のcfDNAの中には癌細胞由来のDNAである血中腫瘍DNA(circulating tumor DNA、ctDNA)も含まれている。
【0003】
また、被験者の咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液等の試料中に、感染症の原因ウイルスが存在するか否かを試験する需要がある。
【0004】
また、様々な細胞がエクソソームと呼ばれる膜小胞を分泌し、唾液、血液、尿、羊水、悪性腹水等の生体試料や、培養細胞の上清中には、エクソソームが含まれていることが知られている。エクソソームには、それを分泌した細胞に由来する様々なタンパク質、脂質、microRNA、DNA等が含まれている。
【0005】
近年、cfDNAや、エクソソーム等の膜小胞中のmicroRNA、DNA等を検出し、癌やその他の様々な疾患の早期発見、抗癌剤の効果予測、病気の素因診断、遺伝性疾患の診断等に応用する研究が行われている。試料中の標的核酸断片を高感度に検出する技術は、一例として、このような分野に適用することができる。
【0006】
ところで、原核生物において発見された獲得免疫機構はCRISPR/Casシステムと呼ばれており、近年ゲノム編集に応用されている。CRISPR/Casタンパク質には複数のファミリーが存在する。CRISPR/Casタンパク質ファミリーのうち、Cas12、Cas13は、crRNA及び標的核酸と3者複合体を形成し、標的核酸を切断すると、周囲のDNA又はRNAを切断する活性を発現することが明らかにされている。例えば、非特許文献1~3には、Cas12、Cas13のこのような活性を利用して、標的核酸断片を高感度に検出する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Gootenberg J. S., et al., Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2c2., Science, 356 (6336), 438-442, 2017.
【文献】Gootenberg J. S., et al., Multiplexed and portable nucleic acid detection platform with Cas13, Cas12a, and Csm6., Science, 360 (6387), 439-444, 2018.
【文献】Chen J. S., et al., CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single-stranded DNase activity., Science, 360 (6387), 436-439, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1~3に記載された方法では、標的核酸断片を増幅する工程を必要とする。そこで、本発明は、標的核酸断片を増幅しなくても高感度に検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]試料中の標的核酸断片の検出方法であって、前記試料を、前記標的核酸断片に相補的なgRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、及び、基質核酸断片と接触させる工程であって、前記CRISPR/Casファミリータンパク質は、前記gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであり、前記基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものであり、前記接触を10aL~100pLの容積を有する反応空間内で行い、その結果、前記試料中に前記標的核酸断片が存在した場合に前記3者複合体が形成されて前記基質核酸断片が切断され、前記蛍光物質が前記消光物質から離れる工程と、前記蛍光物質に前記励起光を照射し、前記蛍光を検出する工程と、を含み、前記蛍光が検出されたことが、前記試料中に前記標的核酸断片が存在することを示す、方法。
[2]前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、Cas12タンパク質又はCas13タンパク質である、[1]に記載の方法。
[3]前記標的核酸断片が、前記反応空間1つあたりに0個又は1個導入される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記反応空間が基板上に形成されたウェルである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、前記ウェルの内表面に固定されている、[4]に記載の方法。
[6]容積が10aL~100pLであるウェルが表面に形成された基板と、標的核酸断片に相補的なgRNAと、CRISPR/Casファミリータンパク質と、基質核酸断片と、を含み、前記CRISPR/Casファミリータンパク質は、前記gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであり、前記基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものである、前記標的核酸断片の検出用キット。
[7]前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、Cas12タンパク質又はCas13タンパク質である、[6]に記載のキット。
[8]前記CRISPR/Casファミリータンパク質が、前記ウェルの内表面に固定されている、[6]又は[7]に記載のキット。
[9]前記gRNAが、前記ウェルの内表面に固定されている、[6]~[8]のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、標的核酸断片を増幅しなくても高感度に検出することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)及び(b)は、標的核酸断片の検出方法を説明する模式図である。
図2】(a)は、流体デバイスの一例を示す上面図である。(b)は、(a)のb-b’線における矢視断面図である。
図3】(a)~(c)は、本実施形態の方法を実施する手順の一例を説明する模式断面図である。
図4】(a)~(d)は、ウェルの内表面にCRISPR/Casファミリータンパク質を固定する方法を説明する模式図である。
図5】(a)~(f)はウェルアレイの形成の各工程を説明する模式断面図である。
図6】(a)~(c)は、実験例1の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。(d)は、実験例1の結果を示すグラフである。
図7】(a)~(c)は、実験例2の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。(d)は、実験例2の結果を示すグラフである。
図8】(a)及び(b)は、実験例3の結果を示すグラフである。
図9】(a)~(d)は、実験例4の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。
図10】(a)及び(b)は、実験例4の結果を示すグラフである。
図11】実験例4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
[標的核酸断片の検出方法]
1実施形態において、本発明は、試料中の標的核酸断片の検出方法であって、試料を、標的核酸断片に相補的なgRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、及び、基質核酸断片と接触させる工程と、基質核酸断片に励起光を照射し、蛍光を検出する工程と、を含み、蛍光が検出されたことが、前記試料中に前記標的核酸断片が存在することを示す、方法を提供する。
【0014】
本実施形態の方法において、CRISPR/Casファミリータンパク質は、gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものである。また、基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、上記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものである。また、試料、gRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質及び基質核酸断片の接触は10aL~100pLの容積を有する反応空間内で行う。
【0015】
この結果、試料中に標的核酸断片が存在した場合に上記3者複合体が形成されて基質核酸断片が切断され、蛍光物質が消光物質から離れる。そして、励起光を照射すると蛍光が検出される。
【0016】
図1(a)及び(b)は、本実施形態の方法を説明する模式図である。図1(a)及び(b)では、CRISPR/Casファミリータンパク質がCas12aタンパク質である場合を例に説明する。
【0017】
まず、図1(a)に示すように、Cas12aタンパク質110と、gRNA120とを接触させると、これらは結合し、2者複合体130を形成する。gRNA120は、一部に標的核酸断片140と相補的な塩基配列を有している。
【0018】
続いて、2者複合体130に試料中の標的核酸断片140が接触すると、Cas12aタンパク質110、gRNA120、標的核酸断片140が3者複合体100を形成する。この段階では、Cas12aタンパク質110は、ヌクレアーゼ活性を発現していないため、基質核酸断片150は切断されない。図1(a)及び(b)の例では、基質核酸断片150は、蛍光物質F及び消光物質Qで標識された1本鎖DNA断片である。基質核酸断片150に励起光を照射しても蛍光は発生しない。
【0019】
3者複合体100が形成されると、Cas12aタンパク質110が、標的核酸断片140の標的部位を切断する。図1(a)では、標的核酸断片140の標的部位を矢頭で示す。図1(b)は、標的核酸断片140の標的部位が切断された3者複合体100’を示す模式図である。図1(b)に示すように、3者複合体100’はヌクレアーゼ活性を発現する。そして、3者複合体100’の周囲に存在する基質核酸断片150を切断する。この結果、基質核酸断片150の蛍光物質Fが消光物質Qから離れる。消光物質Qから離れた蛍光物質Fは、励起光の照射により蛍光を発する。
【0020】
続いて、上記蛍光物質Fに励起光を照射し、蛍光を検出する。蛍光が検出された場合、試料中に標的核酸断片140が存在していたと判断することができる。
【0021】
本実施形態の方法において、試料、gRNA120、CRISPR/Casファミリータンパク質110、基質核酸断片150は、どのような順序で混合して接触させてもよい。
【0022】
例えば、まず、gRNA120及びCRISPR/Casファミリータンパク質110を接触させて、予め2者複合体130を形成させた後に、試料を接触させてもよい。この場合、試料中に標的核酸断片140が存在する場合には、2者複合体130に標的核酸断片140が結合し、3者複合体100が形成される。その後、基質核酸断片150を接触させてもよい。
【0023】
あるいは、2者複合体130を形成した後に、標的核酸断片140及び基質核酸断片150を同時に接触させてもよい。
【0024】
あるいは、gRNA120、CRISPR/Casファミリータンパク質110、試料を同時に接触させてもよい。この場合においても、試料中に標的核酸断片140が存在する場合、最終的には3者複合体100が形成される。その後、基質核酸断片150を接触させてもよい。
【0025】
あるいは、試料、gRNA120、CRISPR/Casファミリータンパク質110、基質核酸断片150を同時に接触させてもよい。この場合においても、試料中に標的核酸断片140が存在する場合、最終的には3者複合体100が形成され、3者複合体100において、標的核酸断片140の標的部位が切断されると、3者複合体100’に変換され、ヌクレアーゼ活性を発現し、基質核酸断片150が切断される。
【0026】
(試料)
試料としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、唾液、血液、尿、羊水、悪性腹水、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液等の生体試料や、培養細胞の上清等が挙げられる。
【0027】
(標的核酸断片)
試料中の標的核酸断片としては、例えば、上述した、cfDNA、ctDNA、microRNA、エクソソーム由来のDNA等が挙げられる。例えば、癌遺伝子のホットスポット領域を含む核酸断片を標的核酸断片とすることにより、試料中に含まれる癌遺伝子の変異を検出することもできる。
【0028】
CRISPR/Casファミリータンパク質がCas12タンパク質である場合、標的核酸断片として二本鎖DNA断片を検出することができる。また、CRISPR/Casファミリータンパク質がCas13タンパク質である場合、標的核酸断片として一本鎖RNA断片又は一本鎖DNA断片を検出することができる。
【0029】
(gRNA)
本実施形態の方法において、ガイドRNA(gRNA)は、使用するCRISPR/Casファミリータンパク質に用いることができるものであれば特に限定されず、CRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)との複合体であってもよいし、tracrRNAとcrRNAを組み合わせた単一のgRNA(sgRNA)であってもよいし、crRNAのみであってもよい。
【0030】
使用するCRISPR/Casファミリータンパク質がCas12aタンパク質である場合、crRNAは、例えば、次の塩基配列とすることができる。まず、標的塩基配列からプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を除いた塩基配列をスペーサー塩基配列とする。続いて、スペーサー塩基配列の3’末端に、スキャフォールド配列を連結した塩基配列を設計し、その相補鎖をcrRNAの塩基配列とする。
【0031】
例えば、標的塩基配列からPAM配列を除いた塩基配列が「5'-GCCAAGCGCACCTAATTTCC-3'」(配列番号1)である場合、Cas12aタンパク質用のcrRNAの塩基配列は「5'-AAUUUCUACUAAGUGUAGAUGGAAAUUAGGUGCGCUUGGC-3'」(配列番号2)とすることができる。
【0032】
使用するCRISPR/Casファミリータンパク質がCas13aタンパク質である場合、crRNAは、例えば、次の塩基配列とすることができる。まず、標的塩基配列に相補的な塩基配列の3’末端に、スキャフォールド配列を連結した塩基配列を設計し、その相補鎖をcrRNAの塩基配列とする。
【0033】
例えば、標的塩基配列が「5'-AUGGAUUACUUGGUAGAACAGCAAUCUA-3'」(配列番号3)である場合、Cas13aタンパク質用のcrRNAの塩基配列は「5'-GAUUUAGACUACCCCAAAAACGAAGGGGACUAAAACUAGAUUGCUGUUCUACCAAGUAAUCCAU-3'」(配列番号4)とすることができる。
【0034】
標的塩基配列は、標的核酸断片の塩基配列の部分塩基配列である。標的塩基配列は、1種類の標的核酸断片中に少なくとも1種類設定する。1種類の標的核酸断片中に複数種類の標的塩基配列を設定することにより、1分子の標的核酸断片上に複数分子の3者複合体を形成することができる。
【0035】
すなわち、1種類の標的核酸断片に対して複数種類のgRNAを使用することにより、1分子の標的核酸断片上に形成される3者複合体の分子数を増加させることができる。この結果、標的核酸断片1分子あたりの、ヌクレアーゼ活性を発現する3者複合体の分子数を増加させることが可能になり、標的核酸断片の検出感度を更に上昇させることができる。
【0036】
したがって、1実施形態において、本発明は、上述した標的核酸断片の検出方法において、検出感度を上昇させる方法であって、複数種類のgRNAを用いることにより、1分子の標的核酸断片上に複数分子の3者複合体を形成する工程を含む方法を提供する。
【0037】
(CRISPR/Casファミリータンパク質)
本実施形態の方法において、CRISPR/Casファミリータンパク質としては、gRNA及び標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであれば用いることができる。上述したように、より正確には、3者複合体を形成し、CRISPR/Casファミリータンパク質が標的核酸断片を切断した後に、ヌクレアーゼ活性を発現する。
【0038】
このようなCRISPR/Casファミリータンパク質としては、Cas12タンパク質、Cas13タンパク質等が挙げられる。本明細書において、Cas12タンパク質、Cas13タンパク質は、Cas12タンパク質、Cas13タンパク質、これらのタンパク質のオルソログ、これらのタンパク質の改変体等であってもよい。
【0039】
本実施形態の方法に用いることができるより具体的なCRISPR/Casファミリータンパク質としては、例えば、Lachnospiraceae bacterium ND2006由来のCas12aタンパク質(LbCas12a、UniProtKBアクセッション番号:A0A182DWE3)、Acidaminococcus sp.由来のCas12aタンパク質(AsCas12a、UniProtKBアクセッション番号:U2UMQ6)、Francisella tularensis subsp. novicida由来のCas12aタンパク質(FnCas12a、UniProtKBアクセッション番号:A0Q7Q2)、Alicyclobacillus acidoterrestris由来のCas12bタンパク質(AaCas12b、UniProtKBアクセッション番号:T0D7A2)、Leptotrichia wadei由来のCas13aタンパク質(LwaCas13a、NCBIアクセッション番号:WP_021746774.1)、Lachnospiraceae bacterium NK4A179由来のCas13aタンパク質(LbaCas13a、NCBIアクセッション番号:WP_022785443.1)、Leptotrichia buccalis C-1013-b由来のCas13aタンパク質(LbuCas13a、NCBIアクセッション番号:WP_015770004.1)、Bergeyella zoohelcum由来のCas13bタンパク質(BzoCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_002664492)、Prevotella intermedia由来のCas13bタンパク質(PinCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_036860899)、Prevotella buccae由来のCas13bタンパク質(PbuCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_004343973)、Alistipes sp. ZOR0009由来のCas13bタンパク質(AspCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_047447901)、Prevotella sp. MA2016由来のCas13bタンパク質(PsmCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_036929175)、Riemerella anatipestifer由来のCas13bタンパク質(RanCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_004919755)、Prevotella aurantiaca由来のCas13bタンパク質(PauCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_025000926)、Prevotella saccharolytica由来のCas13bタンパク質(PsaCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_051522484)、Prevotella intermedia由来のCas13bタンパク質(Pin2Cas13b、NCBIアクセッション番号:WP_061868553)、Capnocytophaga canimorsus由来のCas13bタンパク質(CcaCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_013997271)、Porphyromonas gulae由来のCas13bタンパク質(PguCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_039434803)、Prevotella sp. P5-125由来のCas13bタンパク質(PspCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_044065294)、Porphyromonas gingivalis由来のCas13bタンパク質(PigCas13b、NCBIアクセッション番号:WP_053444417)、Prevotella intermedia由来のCas13bタンパク質(Pin3Cas13b、NCBIアクセッション番号:WP_050955369)、Enterococcus italicus由来のCsm6タンパク質(EiCsm6、NCBIアクセッション番号:WP_007208953.1)、Lactobacillus salivarius由来のCsm6タンパク質(LsCsm6、NCBIアクセッション番号:WP_081509150.1)、Thermus thermophilus由来のCsm6タンパク質(TtCsm6、NCBIアクセッション番号:WP_011229148.1)等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の方法において、CRISPR/Casファミリータンパク質は、上述したCasファミリータンパク質の変異体であってもよい。変異体としては、例えば、3者複合体を形成した後のヌクレアーゼ活性が上昇した変異体等を用いることができる。
【0041】
(基質核酸断片)
基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものである。
【0042】
基質核酸断片は、使用するCRISPR/Casファミリータンパク質の基質特異性に応じて適宜選択すればよい。例えば、Cas12タンパク質は、1本鎖DNAを基質として切断する。そこで、Cas12タンパク質を用いる場合には、基質核酸断片として、1本鎖DNAを使用するとよい。また、Cas13タンパク質は、1本鎖RNAを基質として切断する。そこで、Cas13タンパク質を用いる場合には、基質核酸断片として、1本鎖RNAを使用するとよい。
【0043】
蛍光物質及び消光物質の組み合わせは、互いに近接させた場合に蛍光物質の蛍光を消光させることができる組み合わせのものを用いる。例えば、蛍光物質として、FAM、HEX等を用いる場合には、消光物質としてIowa Black FQ(IDT社)やTAMRA等を用いることができる。
【0044】
ところで、Cas13タンパク質の種類により、切断する1本鎖RNAの塩基配列に特異性が存在することが知られている。具体的には、例えば、LwaCas13aタンパク質、CcaCas13bタンパク質、LbaCas13aタンパク質、PsmCas13bタンパク質は、それぞれ、基質核酸断片中のAU、UC、AC、GAの塩基配列を認識して切断することが報告されている。
【0045】
そこで、本実施形態の方法において、例えば、CRISPR/Casファミリータンパク質として、LwaCas13aタンパク質、CcaCas13bタンパク質、LbaCas13aタンパク質、PsmCas13bタンパク質を用い、gRNAとして、各CRISPR/Casファミリータンパク質にそれぞれ異なるgRNAを結合させ、基質核酸断片として、AU、UC、AC、GAの塩基配列を含む1本鎖RNAを用い、更に、各基質核酸断片を互いに識別可能な異なる蛍光色素で標識することにより、1つの反応空間で4種類の標的核酸断片を検出することができる。すなわち、多色検出を行うことができる。
【0046】
(反応空間)
標的物質を精度よく検出する手法として、多数の微小な反応空間内で酵素反応を行う技術が検討されている。これらの手法はデジタル計測と呼ばれている。デジタル計測では、試料を極めて多数の微小な反応空間に分割してシグナルを検出する。
【0047】
そして、各反応空間からの信号を2値化し、標的物質が存在するか否かのみを判別して、標的物質の分子数を計測する。デジタル計測によれば、従来のELISAやリアルタイムPCR法等と比較して、検出感度及び定量性を格段に向上させることができる。
【0048】
本実施形態の方法は、デジタル計測により行う。より具体的には、試料、CRISPR/Casファミリータンパク質、gRNA、基質核酸断片の接触を微小な反応空間に分割して行う。反応空間1つあたりの容積は10aL~100pLであり、例えば10aL~10pLであってもよく、例えば10aL~1pLであってもよく、例えば10aL~100fLであってもよく、例えば10aL~10fLであってもよい。反応空間が上記の範囲であることにより、標的核酸断片を増幅しなくても、その存在を高感度に検出することが可能になる。
【0049】
本実施形態の方法を、標的核酸断片が、反応空間1つあたりに0個又は1個導入される条件で行うことにより、デジタル計測を行うことができる。つまり、シグナルが検出された反応空間の個数を、試料中の標的核酸断片の分子数と対応させることができる。
【0050】
反応空間は、例えば液滴であってもよい。あるいは、反応空間は、基板上に形成されたウェルであってもよい。図2(a)は、ウェル1つあたりの容積が10aL~100pLであるウェルが表面に形成された基板を備えた流体デバイスの一例を示す上面図である。図2(b)は、図2(a)のb-b’線における矢視断面図である。
【0051】
図2(a)及び(b)に示すように、流体デバイス200は、容積が10aL~100pLであるウェル211が表面に形成された基板210と、スペーサー220と、液体導入口231を形成した蓋部材230とを有している。ウェル211は複数存在し、ウェルアレイ212を形成している。基板210と蓋部材230との間の空間は、試料、gRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、基質核酸断片等を流す流路として機能する。
【0052】
ウェルは、容積が上述した範囲内である限り、その形状には特に制限はなく、例えば、円筒形、複数の面により構成される多面体(例えば、直方体、六角柱、八角柱等)等であってもよい。
【0053】
流体デバイス200では、同形同大の複数のウェル211がウェルアレイ212を形成している。同形同大とは、デジタル計測を行うために要求される程度に同一の形状で同一の容量であればよく、製造上の誤差程度のばらつきであれば許容される。
【0054】
図3(a)~(c)は、流体デバイス200を用いて本実施形態の方法を実施する手順の一例を説明する模式断面図である。まず、試料、gRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質を混合し、3者複合体を形成させる。続いて、3者複合体と基質核酸断片を混合してアッセイ溶液310を調製し、直ちに流体デバイス200の液体導入口231から導入する。その結果、図3(a)に示すように、ウェル211の内部及び基板210と蓋部材230との間の空間が、アッセイ溶液310で満たされる。
【0055】
続いて、図3(b)に示すように、液体導入口231から封止剤320を導入する。図3(b)の例では、封止剤320として、脂質321を含有する有機溶媒を用いている。脂質321としては、大豆や大腸菌等に由来する天然脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)等の人工脂質を用いることができる。有機溶媒としては、ヘキサデカンやクロロホルムを用いることができる。封止剤320が導入されると、ウェル211の内部にアッセイ溶液310が満たされた状態で、ウェル211の開口部が第1脂質膜322により封止される。第1脂質膜322を構成する各脂質321の親水基は、ウェル211側に向いている。この結果、各ウェル211は独立した反応空間となる。この状態でウェルアレイ212に励起光を照射して蛍光を測定してもよい。
【0056】
また、第1脂質膜322に更に脂質膜を積層し、脂質二重膜を形成することもできる。この場合、図3(c)に示すように、液体導入口231から脂質二重膜324を形成するための膜形成用水溶液330を導入する。膜形成用水溶液330の組成としては、例えば、10mMのpH緩衝液(pH5~9)、10mMの塩化ナトリウム水溶液等を用いることができる。膜形成用水溶液330を導入すると、第1脂質膜322に第2脂質膜323が積層され、脂質二重膜324が形成される。この結果、各ウェル211は独立した反応空間となる。この状態でウェルアレイ212に励起光を照射して蛍光を測定してもよい。
【0057】
ウェル211の開口部が脂質二重膜324で封入されている場合、脂質小胞を脂質二重膜324に融合させることができる。例えば、エクソソームを脂質二重膜324に融合させることにより、エクソソームの内容物をウェル211の内部に放出させることができる。
【0058】
そこで、例えば、ウェル211に、まず、gRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、基質核酸断片を封入してウェル211の開口部を脂質二重膜324で封止しておき、その後、試料としてエクソソームを脂質二重膜324に接触させてもよい。
【0059】
その結果、脂質二重膜324にエクソソームが融合し、エクソソームの内容物がウェル211の内部に放出される。エクソソームの内容物に、標的核酸断片が存在していた場合、ウェル211の内部で3者複合体が形成され、基質核酸断片が切断され、励起光の照射により蛍光が検出される。
【0060】
図4(a)に示すように、本実施形態の方法において、ウェル211の内表面にCRISPR/Casファミリータンパク質110を予め固定していてもよい。ここで、図4(b)に示すように、CRISPR/Casファミリータンパク質110は、gRNA120と結合し、2者複合体130を形成していてもよい。その結果、試料を接触させた場合に3者複合体100がウェル211の内部に存在する可能性を向上させることができ、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0061】
CRISPR/Casファミリータンパク質をウェル211の内表面に固定する方法としては、物理的吸着、化学リンカーを用いてウェル211の内表面に存在する官能基とCRISPR/Casファミリータンパク質の表面に存在する官能基とを共有結合させる方法等が挙げられる。官能基としては、水酸基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。あるいは、例えば、アジド基とアルキン基とを用いたクリック反応等を利用してCRISPR/Casファミリータンパク質をウェル211の内表面に固定してもよい。
【0062】
[標的核酸断片の検出用キット]
1実施形態において、本発明は、容積が10aL~100pLであるウェルが表面に形成された基板と、標的核酸断片に相補的なgRNAと、CRISPR/Casファミリータンパク質と、基質核酸断片と、を含み、前記CRISPR/Casファミリータンパク質は、前記gRNA及び前記標的核酸断片と3者複合体を形成した後にヌクレアーゼ活性を発現するものであり、前記基質核酸断片は、蛍光物質及び消光物質で標識されており、前記3者複合体のヌクレアーゼ活性により切断されて前記蛍光物質が前記消光物質から離れると、励起光の照射により蛍光を発するものである、前記標的核酸断片の検出用キットを提供する。本実施形態のキットを用いることにより、上述した標的核酸断片の検出方法を好適に実施することができる。
【0063】
本実施形態のキットにおいて、容積が10aL~100pLであるウェルが表面に形成された基板、標的核酸断片、gRNA、CRISPR/Casファミリータンパク質、基質核酸断片については、上述したものと同様である。
【0064】
本実施形態のキットにおいて、CRISPR/Casファミリータンパク質は、Cas12タンパク質又はCas13タンパク質であってもよい。具体的なCas12タンパク質又はCas13タンパク質については上述したものと同様である。
【0065】
図4(a)に示すように、本実施形態のキットにおいて、CRISPR/Casファミリータンパク質110は、ウェル211の内表面に固定されていてもよい。ここで、図4(b)に示すように、CRISPR/Casファミリータンパク質110は、gRNA120と結合し、2者複合体130を形成していてもよい。その結果、試料を接触させた場合に3者複合体100がウェル211の内部に存在する可能性を向上させることができ、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0066】
CRISPR/Casファミリータンパク質のウェルの内表面への固定方法は上述したものと同様である。
【0067】
あるいは、図4(c)に示すように、本実施形態のキットにおいて、gRNA120が、ウェル211の内表面に固定されていてもよい。ここで、gRNA120には、リンカーとして機能する付加的な配列が付加されていてもよい。
【0068】
この結果、図4(d)に示すように、CRISPR/Casファミリータンパク質110をウェル211に導入すると、CRISPR/Casファミリータンパク質110は、gRNA120と結合して2者複合体130を形成し、ウェル211の内表面に固定される。
【0069】
タンパク質を固定したウェルと比較して、gRNAを固定したウェルの方が保存が容易である場合がある。
【実施例
【0070】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[材料及び方法]
(Cas12aタンパク質の調製)
Lachnospiraceae bacterium ND2006 Cas12a(LbCas12a)の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)株にトランスフェクションして発現させた。発現ベクターは、N末端に、10×Hisタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)及びTEVプロテアーゼ切断部位を有するpETベースのベクターであった。発現したCas12aタンパク質はNi-NTA樹脂を用いて精製した。続いて、TEVプロテアーゼを4℃、一晩反応させた後、MBPTrap HPカラム(GEヘルスケア社)及びこれに接続したHiTrap Heparin HPカラム(GEヘルスケア社)を用いてカチオン交換クロマトグラフィーを行い、更にSuperdex 200カラム(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。
【0072】
(Cas13aタンパク質の調製)
Leptotrichia wadei Cas13a(LwCas13a)の発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)株にトランスフェクションして発現させた。発現ベクターは、N末端に、10×Hisタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)及びTEVプロテアーゼ切断部位を有するpETベースのベクターであった。発現したCas13aタンパク質はNi-NTA樹脂を用いて精製した。続いて、TEVプロテアーゼを4℃、一晩反応させた後、MBPTrap HPカラム(GEヘルスケア社)及びこれに接続したHiTrap Heparin HPカラム(GEヘルスケア社)を用いてカチオン交換クロマトグラフィーを行い、更にSuperdex 200カラム(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。
【0073】
(標的核酸断片の調製)
標的核酸断片(二本鎖DNA断片)は外注(IDT社)によりそれぞれ化学合成した、一本鎖DNA断片(配列番号5)及びこれに相補的な一本鎖DNA断片をアニーリングして調整した。標的核酸断片(一本鎖RNA断片、配列番号6)は外注(IDT社)により化学合成した。
【0074】
(gRNAの調製)
T7プロモーター配列、20塩基の標的配列及びスキャフォールド配列を含むオーバーラッピングプライマーを鋳型としたPCR増幅により、gRNA(crRNA)をコードするDNA断片を調製した。続いて、得られたDNA断片をインビトロ転写反応に供しcrRNAを調製した。Cas12aタンパク質用のgRNA(crRNA)の塩基配列を配列番号2に示し、Cas13aタンパク質用のgRNA(crRNA)の塩基配列を配列番号4に示す。
【0075】
(基質核酸断片の調製)
基質核酸断片(一本鎖DNA断片)は外注(IDT社)により化学合成した。基質核酸断片の5’末端を蛍光物質であるFAMで標識し、3’末端を消光物質であるIowa Black FQ(IDT社)で標識した。化学合成した基質核酸断片(一本鎖DNA断片)の塩基配列は「5'-(FAM)TTATT(IABkFQ)-3'」(ここで、「IABkFQ」はIowa Black FQを示す。)であった。
【0076】
基質核酸断片(一本鎖RNA断片)は外注(IDT社)により化学合成した。基質核酸断片の5’末端を蛍光物質であるFAMで標識し、3’末端を消光物質であるIowa Black FQ(IDT社)で標識した。化学合成した基質核酸断片(一本鎖RNA断片)の塩基配列は「5'-(FAM)UUUUU(IABkFQ)-3'」(ここで、「IABkFQ」はIowa Black FQを示す。)であった。
【0077】
(ウェルアレイの作製)
図5(a)~(f)はウェルアレイの形成の各工程を説明する模式断面図である。まず、図5(a)に示すように、ガラス基板210を10Mの水酸化カリウム溶液に24時間程度浸し、表面にヒドロキシル基を形成させた。
【0078】
続いて、図5(b)に示すように、ガラス基板210の表面に、フッ素樹脂(CYTOP、AGC株式会社製)をスピンコートして膜520を形成した。スピンコートの条件は、2000rps(revolution per second)で30秒とした。この条件では、膜520の膜厚が約500nmとなる。
【0079】
続いて、180℃のホットプレートで1時間ベークして、膜520(CYTOP)のシラノール基とガラス表面のヒドロキシル基とを脱水縮合することにより、膜520をガラス基板510の表面に密着させた。
【0080】
続いて、図5(c)に示すように、膜520の表面にレジスト(AZ-4903、AZ Electronic Materials社製)を4000rpsで60秒スピンコートし、レジスト膜530を形成した。
【0081】
続いて、ガラス基板210を110℃のホットプレートで1時間ベークして、レジスト膜530内の有機溶媒を蒸発させることにより、レジスト膜530を膜520の表面に密着させた。
【0082】
続いて、図5(d)に示すように、ウェルアレイのパターンのマスクを用いて、露光機(SAN-EI製)で250W、7秒間紫外線を照射してレジスト膜530を露光した。続いて現像液(AZ developer、AZ Electronic Materials社製)に5分間浸して現像した。この結果、ウェルを形成する部分のレジスト膜530が除去された。
【0083】
続いて、図5(e)に示すように、レジスト膜530でマスクされた膜520を、Reactice ion etching装置(Samco社製)を用いて、O 50sccm、圧力10Pa、出力50Wの条件で30分間ドライエッチングすることにより、膜520にウェル211を形成した。
【0084】
続いて、図5(f)に示すように、ガラス基板210をアセトンに浸し、イソプロパノールで洗浄した後に純水で洗浄することにより、レジスト膜530を除去し、ウェル211のアレイを得た。ウェルアレイ212は、直径4μm、深さ500nmの円柱状のウェル211が1cmに1,000,000個並んだ形状であった。ウェルアレイ212の1ウェルあたりの容積は6fLであった。
【0085】
(流体デバイスの作製)
図2(a)及び(b)に示すように、上述のようにして作製したウェル211が表面に形成された基板210に、スペーサー220を配置し、更に、液体導入口231を形成したガラス板230を載せ、流体デバイスを作製した。この結果、ウェルアレイ212とガラス板230との間の空間が流路である流体デバイス200が形成された。
【0086】
[実験例1]
(3者複合体の濃度依存性の検討)
上述した、Cas12aタンパク質、gRNA(配列番号2)及び標的核酸断片を、Cas12aタンパク質の終濃度が200nMとなり、gRNAの終濃度が250nMとなり、標的核酸断片の終濃度が200nMとなるように、下記表1に示す組成のバッファーAに混合し、37℃で30分間静置し、3者複合体を形成させた。以下、この溶液を3者複合体溶液という。
【0087】
【表1】
【0088】
また、下記表2に示す組成のバッファーBに、終濃度が5μMとなるように基質核酸断片を溶解した溶液を調製した。
【0089】
【表2】
【0090】
上述した流体デバイスを5個用意した。続いて、上述した3者複合体溶液と、基質核酸断片の溶液を混合し、3者複合体の終濃度が、それぞれ、266pM、133pM、67pM、34pM、17pMであるアッセイ溶液を調製し、直ちに各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、各アッセイ溶液が各ウェルアレイの各ウェルに導入された。
【0091】
続いて、封止剤(「FC-40」、シグマ社)を各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液が導入されたウェルが封止剤で封止され、各ウェルがそれぞれ独立した反応空間となった。数分後、蛍光顕微鏡で各流体デバイスのウェルアレイを観察した。
【0092】
図6(a)は3者複合体の終濃度が17pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図6(b)は3者複合体の終濃度が67pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図6(c)は3者複合体の終濃度が133pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。また、図6(d)は、各アッセイ溶液を導入したウェルアレイの写真に基づいて、蛍光が検出されたウェルの割合を算出した結果を示すグラフである。
【0093】
その結果、3者複合体の濃度依存的に蛍光が検出されたウェルの割合が上昇したことが明らかとなった。
【0094】
[実験例2]
(標的核酸断片の濃度依存性の検討)
上述した、Cas12aタンパク質、gRNA(配列番号2)及び標的核酸断片を、Cas12aタンパク質の終濃度が200nMとなり、gRNAの終濃度が250nMとなり、標的核酸断片の終濃度が、それぞれ、4000pM、400pM、40pM、4pM、0.4pMとなるように、上記表1に示す組成のバッファーAに混合し、37℃で30分間静置し、3者複合体を形成させた。以下、この溶液を3者複合体溶液という。
【0095】
上述した流体デバイスを5個用意した。また、上記表2に示す組成のバッファーBに、終濃度5μMとなるように基質核酸断片を溶解した溶液を調製した。
【0096】
続いて、上述した3者複合体溶液と、基質核酸断片の溶液を混合したアッセイ溶液をそれぞれ調製し、直ちに各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液がウェルアレイの各ウェルに導入された。
【0097】
続いて、封止剤(「FC-40」、シグマ社)を各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液が導入されたウェルが封止剤で封止され、各ウェルがそれぞれ独立した反応空間となった。数分後、蛍光顕微鏡で各流体デバイスのウェルアレイを観察した。
【0098】
図7(a)は標的核酸断片の終濃度が4pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図7(b)は標的核酸断片の終濃度が40pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図7(c)は標的核酸断片の終濃度が400pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。また、図7(d)は、各アッセイ溶液を導入したウェルアレイの写真に基づいて、蛍光が検出されたウェルの割合を算出した結果を示すグラフである。
【0099】
その結果、標的核酸断片の濃度依存的に蛍光が検出されたウェルの割合が上昇したことが明らかとなった。
【0100】
[実験例3]
(Cas13aを用いた検討1)
上述した、Cas13aタンパク質、gRNA(配列番号4)及び標的核酸断片を、Cas13aタンパク質の終濃度が200nMとなり、gRNAの終濃度が250nMとなり、標的核酸断片の終濃度が200nMとなるように、上記表1に示す組成のバッファーAに混合し、37℃で30分間静置し、3者複合体を形成させた。
【0101】
また、上記表2に示す組成のバッファーBに、終濃度が2、5、10μMとなるように基質核酸断片を溶解した溶液をそれぞれ調製した。
【0102】
上述した流体デバイスを4個用意した。続いて、上述した3者複合体溶液と、基質核酸断片の溶液を混合し、3者複合体の終濃度が30pMであり、基質核酸断片の終濃度が2、5、10μMであるアッセイ溶液をそれぞれ調製し、直ちに各流体デバイスの液体導入口から導入した。また、比較のために標的核酸断片を含まないアッセイ溶液も調製して流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、各アッセイ溶液が各ウェルアレイの各ウェルに導入された。
【0103】
続いて、封止剤(「ヘキサデカン」、シグマ社)を各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液が導入されたウェルが封止剤で封止され、各ウェルがそれぞれ独立した反応空間となった。続いて、各流体デバイスのウェルアレイを経時的に蛍光顕微鏡で観察した。
【0104】
図8(a)は、各アッセイ溶液の蛍光が検出されたウェルについて、蛍光強度の経時変化をまとめたグラフである。横軸は時間(秒)であり、縦軸は蛍光強度である。図8(a)中、「w/o tgRNA」は標的核酸断片を含まないアッセイ溶液の結果であることを示し、「w/ tgRNA」は標的核酸断片を含むアッセイ溶液の結果であることを示し、「FAM-Q」は基質核酸断片を示す。その結果、約2分間で蛍光強度の上昇が飽和することが明らかとなった。
【0105】
図8(b)は、図8(a)に基づいて、基質核酸断片の濃度と蛍光強度の上昇速度との関係を示すグラフである。横軸は基質核酸断片の濃度(μM)を示し、縦軸は蛍光強度の上昇速度(ΔI/s)を示す。その結果、蛍光強度の上昇速度が基質核酸断片の濃度に比例することが明らかとなった。
【0106】
[実験例4]
(Cas13aを用いた検討2)
上述した、Cas13aタンパク質、gRNA(配列番号4)及び標的核酸断片を、Cas13aタンパク質の終濃度が200nMとなり、gRNAの終濃度が250nMとなり、標的核酸断片の終濃度が、それぞれ、30pM、3pM、0.3pM、0pMとなるように、上記表1に示す組成のバッファーAに混合し、37℃で30分間静置し、3者複合体を形成させた。以下、この溶液を3者複合体溶液という。
【0107】
上述した流体デバイスを4個用意した。また、上記表2に示す組成のバッファーBに、終濃度5μMとなるように基質核酸断片を溶解した溶液を調製した。
【0108】
続いて、上述した3者複合体溶液と、基質核酸断片の溶液を混合したアッセイ溶液をそれぞれ調製し、直ちに各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液がウェルアレイの各ウェルに導入された。
【0109】
続いて、封止剤(「ヘキサデカン」、シグマ社)を各流体デバイスの液体導入口から導入した。この結果、アッセイ溶液が導入されたウェルが封止剤で封止され、各ウェルがそれぞれ独立した反応空間となった。数分後、蛍光顕微鏡で各流体デバイスのウェルアレイを観察した。
【0110】
図9(a)は標的核酸断片の終濃度が0pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図9(b)は標的核酸断片の終濃度が0.3pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。図9(c)は標的核酸断片の終濃度が3pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。また、図9(d)は標的核酸断片の終濃度が30pMであるアッセイ溶液の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。スケールバーは50μmである。
【0111】
図10(a)は、各アッセイ溶液を導入したウェルアレイの写真に基づいて、所定の蛍光強度(相対値)を示したウェルの数を示す代表的なグラフである。図10(b)は、標的核酸断片の終濃度が、それぞれ、30pM、3pM、0.3pM、0pMであるアッセイ溶液についての図10(a)と同様のグラフおいて、図10(a)における点線で囲んだ領域に相当する領域を拡大して並べたグラフである。
【0112】
その結果、標的核酸断片の濃度依存的に蛍光が検出されたウェルの割合が上昇したことが明らかとなった。
【0113】
図11は、蛍光が検出されたウェルの個数と標的核酸断片の終濃度の関係を示すグラフである。縦軸は蛍光が検出されたウェルの個数を示し、横軸は標的核酸断片の終濃度を示す。図11中、実線の丸は流体デバイスを用いた結果であることを示し、破線の丸は同様の実験をプレートリーダーを用いて行った結果であることを示す。図11中、左上のグラフは拡大図を示す。プレートリーダーを用いた実験では、流体デバイスの代わりに384ウェルプレートを使用した。その結果、流体デバイスを用いた場合の検出感度が56fMであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、標的核酸断片を増幅しなくても高感度に検出することができる技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
【配列表】
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