(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】照明方法及び照明光分光分布決定システム
(51)【国際特許分類】
H05B 45/20 20200101AFI20241031BHJP
H05B 47/155 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
H05B45/20
H05B47/155
(21)【出願番号】P 2022509969
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010532
(87)【国際公開番号】W WO2021193222
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】石井 通友
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰介
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246961(JP,A)
【文献】特開平05-036380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 45/20
H05B 47/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象及び背景の照明方法であって、
該観察対象及び該背景を、平均演色評価数が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であって、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する第1の光源で照射した状態で、該観察対象について波長と分光放射輝度との関係を求め、該観察対象の波長に関する分光放射輝度の極大値に対応する波長から一つまたは複数の代表波長を定めるステップと、
該観察対象及び該背景を、該第1の光源で照射した状態で、該背景について波長と分光放射輝度との関係を求め、該背景の波長に関する分光放射輝度の極大値または極小値に対応する波長から一つまたは複数の対比波長を定めるステップと、
該代表波長及び該対比波長の光で該観察対象及び該背景を照射するステップと、を含む照明方法。
【請求項2】
該代表波長及び該対比波長を求める前に、該代表波長及び該対比波長の使用禁止波長域を定め、該使用禁止波長域外で該代表波長及び該対比波長を定める請求項
1に記載の照明方法。
【請求項3】
平均演色評価数が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であり、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する第1の光源と、
分光放射輝度計と、
該分光放射輝度計に接続されたプロセッサと、を含み、請求項
1の方法にしたがって代表波長及び対比波長を定めるように構成された照明光分光分布決定システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の照明光分光分布決定システムと、決定された照明光を照射する第2の光源とを備えた照明システム。
【請求項5】
該第2の光源が該第1の光源と複数のフィルタからなる請求項
4に記載の照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察対象の視認性を向上させる照明方法及び照明光分光分布決定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における診断、製造業における製品検査などの際に対象に照明光を照射して観察が行われる。この場合に観察対象の視認性を向上させる照明光を選択するのが望ましい。従来、観察対象の視認性を向上させる照明光の選択は個々の観察者が主観に基づいて試行錯誤を繰り返しながら実施していた。
【0003】
特許文献1は、照明の分光分布特性および色材の分光反射特性の制御に基づく照明光の効率的利用方法及び当該方法を利用した照明システムを開示している。しかし、特許文献1は、観察対象の視認性を向上させる照明光の決定について開示していない。
【0004】
このように、観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させる照明方法及び照明光分光分布決定システムは従来開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させる照明方法及び照明光分光分布決定システムに対するニーズがある。本発明の課題は、観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させる照明方法及び照明光分光分布決定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の照明方法は、観察対象及び背景の照明方法であって、等色関数を定め、該等色関数からxy色度図を求めるステップと、該観察対象及び該背景を、平均演色評価数が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であって、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する第1の光源で照射した状態で、該観察対象について波長と分光放射輝度との関係を求め、該観察対象の波長に関する分光放射輝度の極大値に対応する波長から一つまたは複数の代表波長を定めるステップと、該代表波長及び該xy色度図から該観察対象及び該背景のコントラスト比を増加させるように該代表波長の対比波長を定めるステップと、該代表波長及び該対比波長の光で該観察対象及び該背景を照射するステップと、を含む。
【0008】
本態様の照明方法によれば、該代表波長及び該xy色度図から該観察対象及び該背景のコントラスト比を増加させるように該代表波長の対比波長を定めるので観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させることができる。
【0009】
本発明の第1の態様の第1の実施形態の照明方法においては、該対比波長を求める前に、該対比波長の使用禁止波長域を定め、該使用禁止波長域外で該対比波長を定める。
【0010】
本実施形態の照明方法によれば、対比波長の使用禁止波長域を定めることによって画像に対する観察者の色の好みを反映させることができる。
【0011】
本発明の第1の態様の第2の実施形態の照明方法においては、該対比波長を求めるステップにおいて、該代表波長が一つの波長であり、該xy色度図において該代表波長と補色関係にある波長に最も近い波長を該対比波長とする。
【0012】
本実施形態の照明方法によれば、xy色度図において代表波長と補色関係にある波長を対比波長とすることによって該観察対象及び該背景のコントラスト比を増加させることができる。
【0013】
本発明の第1の態様の第3の実施形態の照明方法においては、該対比波長を求めるステップにおいて、該代表波長が複数の波長であり、該xy色度図において該複数の代表波長を表す複数の点からの色差の和が最大となる点に対応する波長を該対比波長とする。
【0014】
本実施形態の照明方法によれば、xy色度図において複数の代表波長を表す複数の点からの色差の和が最大となる点に対応する波長を対比波長とすることによって該観察対象及び該背景のコントラスト比を増加させることができる。
【0015】
本発明の第1の態様の第4の実施形態の照明方法においては、該対比波長を求めるステップにおいて、該代表波長が複数の波長であり、該xy色度図において該複数の代表波長の平均波長と補色関係にある波長に最も近い波長を該対比波長とする。
【0016】
本実施形態の照明方法によれば、xy色度図において複数の代表波長の平均波長と補色関係にある波長に最も近い波長を対比波長とすることによって該観察対象及び該背景のコントラスト比を増加させることができる。
【0017】
本発明の第2の態様の照明方法は、観察対象及び背景の照明方法であって、該観察対象及び該背景を、平均演色評価数が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であって、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する第1の光源で照射した状態で、該観察対象について波長と分光放射輝度との関係を求め、該観察対象の波長に関する分光放射輝度の極大値に対応する波長から一つまたは複数の代表波長を定めるステップと、該観察対象及び該背景を、該第1の光源で照射した状態で、該背景について波長と分光放射輝度との関係を求め、該背景の波長に関する分光放射輝度の極大値または極小値に対応する波長から一つまたは複数の対比波長を定めるステップと、該代表波長及び該対比波長の光で該観察対象及び該背景を照射するステップと、を含む。
【0018】
本態様の照明方法によれば、観察対象及び背景を、第1の光源で照射した状態で、背景について波長と分光放射輝度との関係を求め、観察対象の波長に関する分光放射輝度の極大値に対応する波長から一つまたは複数の代表波長を定め、観察対象及び背景を、第1の光源で照射した状態で、背景について波長と分光放射輝度との関係を求め、背景の波長に関する分光放射輝度の極大値または極小値に対応する波長から一つまたは複数の対比波長を定め、該代表波長及び該対比波長の光で観察対象及び該背景を照射する。したがって、観察対象及び背景のコントラスト比を増加させるように該代表波長の対比波長を定め、観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させることができる。
【0019】
本発明の第2の態様の第1の実施形態の照明方法においては、該代表波長及び該対比波長を求める前に、該代表波長及び該対比波長の使用禁止波長域を定め、該使用禁止波長域外で該代表波長及び該対比波長を定める。
【0020】
本実施形態の照明方法によれば、使用禁止帯域を定めることにより代表波長及び対比波長を定めるのが容易となる。また、使用禁止帯域によって観察者の嗜好を反映させることができる。
【0021】
本発明の第3の態様の照明光分光分布決定システムは、平均演色評価数が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であり、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する第1の光源と、分光放射輝度計と、該分光放射輝度計に接続されたプロセッサと、を含み、第1または第2の態様の方法にしたがって代表波長及び対比波長を定めるように構成されている。
【0022】
本態様の照明光分光分布決定システムによれば、観察対象及び背景のコントラスト比を増加させるように照明光を決定することができる。
【0023】
本発明の第4の態様の照明システムは、第3の態様の照明光分光分布決定システムと、決定された照明光を照射する第2の光源とを備えている。
【0024】
本態様の照明システムによれば、観察者の主観及び試行錯誤に頼ることなく観察対象の視認性を向上させることができる。
【0025】
本発明の第4の態様の第1の実施形態の照明システムにおいては、該第2の光源が該第1の光源と複数のフィルタからなる。
【0026】
第1の光源を利用することにより簡素な照明システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の照明方法を実施するための照明システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の照明方法を説明するための流れ図である。
【
図3】等色関数から定めたxy色度図を示す図である。
【
図4】フィルタを付けていないキセノン光源の分光放射照度の相対値を示す図である。
【
図5】観察対象及び背景はフィルタを付けていないキセノン光源によって照射された観察対象及び背景を示す画像である。
【
図6】フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図7】フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図8】
図2のステップS1040を説明するための流れ図である。
【
図9】代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図10】代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図11】代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、観察対象及び背景を示す画像である。
【
図12】フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図13】フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【
図14】フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、観察対象及び背景を示す画像である。
【
図15】等色関数から定めたxy色度図を示す図である。
【
図16】二波長を代表値とした場合の
図2のステップS1040を説明するための流れ図である。
【
図17】等色関数から定めたxy色度図を示す図である。
【
図18】第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図19】第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図20】観察対象及び背景を第1の光源で照射した場合の画像を示す。
【
図21】本発明の第1の態様の他の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
【
図22】本発明の第2の態様の照明方法を説明するための流れ図である。
【
図23】第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図24】第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図25】本発明の第2の態様の照明方法の第1の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
【
図26】第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図27】第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図28】本発明の第2の態様の照明方法の第2の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
【
図29】第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図30】第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
【
図31】本発明の第2の態様の照明方法の第3の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の照明方法を実施するための照明システム100の構成を示す図である。照明システム100は、光源部110と2次元分光放射輝度計120とプロセッサ130とを含む。光源部110は、複数のフィルタ交換式光源111と、ライトガイド113と、投光部115とを含む。複数のフィルタ交換式光源111によって複数の所望の波長の照明光が生成され、ライトガイド113を経由して投光部115へ送られ、投光部115からの照明光によって対象200が照射される。一般的に使用される光源は、平均演色評価数(Ra)が40以上であり、色温度が3000Kから10000Kの範囲であって、380ナノメータから780ナノメータの波長範囲において連続スペクトルを有する光を射出する光源である。上記の性質を備えた光源を第1の光源と呼称する。第1の光源は、たとえば、キセノン光源、メタルハライドランプ、水銀灯、ハロゲンランプ、白色LED(発光ダイオード)などである。フィルタ交換式光源111は第1の光源と交換可能なフィルタとを組み合わせたものである。一例として、複数のフィルタは、特定の波長の光を通過させるフィルタであり、特定の波長の間隔は10ナノメータである。このように複数のフィルタ交換式光源111のフィルタを適切に選択することによって、光源部110はスペクトル可変光源として機能する。対象200は観察対象及び背景である。2次元分光放射輝度計120は、後に説明する所定の条件で対象200の分光放射輝度を測定する。測定された対象200の分光放射輝度はプロセッサ130へ送られ、プロセッサ130によって観察対象と背景とのコントラストを強調し観察者の視認性を向上させる照明光が定められる。このようにして定められた照明光が複数のフィルタ交換式光源111によって実現される。このようにして実現された、視認性を向上させる照明光の光源を第2の光源と呼称する。一般的に、第2の光源は第1の光源とフィルタとを組み合わせたものの他に、第1の光源と独立した光源であってもよい。
【0029】
本発明の照明光分光分布決定システムは第2の光源を決定するために使用され、第1の光源、分光放射輝度計120、及びプロセッサ130からなる。照明システム100は、上記の照明光分光分布決定システムと上記の第2の光源とを組み合わせたものである。
【0030】
以下の説明おいて、第1の光源はキセノン光源する。
【0031】
図2は本発明の第1の態様の照明方法を説明するための流れ図である。
【0032】
図2のステップS1010において観察者またはマシンビジョンなどのカメラのカラーセンサに応じた等色関数を定める。
【0033】
まず、観察者の等色関数を定める場合について説明する。太陽光や白色LED光など一般的な白色光の下では観察者の色の感じ方の個人差は無視できるが、条件等色で光色を調整した照明光の下では観察者の色の感じ方の個人差は無視できない。そこで、観察者に固有の視認性を向上させるには観察者ごとに等色関数を求めるのが望ましい。しかし、観察者に固有の視認性を無視し、観察対象と背景とのコントラストを強調することによって標準的な観察者の視認性を向上させる場合には本ステップを省略して標準の等色関数を使用してもよい。
【0034】
つぎに、カメラのカラーセンサの等色関数を定める場合について説明する。カメラのカラーセンサの等色関数は存在しないのでカメラのカラーセンサの等色関数を求める必要がある。
【0035】
等色関数は等色実験によって定める。等色実験においては、単一波長の光を生成する光源及び原刺激のRGB光を組み合わせた光を生成する光源を準備する。上記の二台の光源として二組の光源部110を使用してもよい。上記の二台の光源によって、単一波長の光及び原刺激のRGB光を組み合わせた光で白いスクリーンの隣接する二領域を別々に照射し、カメラが取り込んだ画像データに基づいて上記の二領域の色が等色と判断されるようにRGB光の光量を調整する。このようにして単一波長ごとに条件等色の値が決定され等色関数が定義される。
【0036】
図2のステップS1020においてステップS1010で求めた等色関数または標準の等色関数からxy色度図を求める。刺激値をX、Y及びZで表すと、色度値(x、y)は以下の式で表せる。
【数1】
上記の式の刺激値に波長ごとの等色関数の値を代入してx、yを求めることによってxy色度図が定まる。
【0037】
図3は等色関数から定めたxy色度図を示す図である。xy色度図の使用方法については後で説明する。
【0038】
図2のステップS1030において観察対象の分光データ(分光放射輝度データ)を求め、分光データから観察対象の代表波長を定める。
【0039】
観察対象の分光データを求めるために観察対象及び背景を、フィルタを付けていないキセノン光源(第1の光源)によって照射した状態で観察対象の分光データ(分光放射輝度データ)を求める。
【0040】
図4はフィルタを付けていないキセノン光源の分光放射照度の相対値を示す図である。
図7の横軸は波長を示し、単位はナノメータである。
図5の縦軸は分光放射照度の相対値を示す。
【0041】
図5はフィルタを付けていないキセノン光源によって照射された観察対象及び背景を示す画像である。画像は縦方向及び横方向に5分割され、25の区画に分けられている。
図5において1と番号を付した区画を含む濃い色の領域が観察対象の領域であり、
図5において25と番号を付した区画を含む薄い色の領域が背景の領域である。
【0042】
図6は、フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。グラフの横軸は波長を示し、単位はナノメータである。グラフの縦軸は輝度を示し、単位はワット毎ステラジアン毎平方メートル毎ナノメートルである。
【0043】
図6に示す観察対象の分光放射輝度から観察対象の代表波長を定める。代表波長は分光放射輝度の極大値に対応する波長から選択してもよい。
図6の分光放射輝度の極大値に対応する波長は470ナノメータと720ナノメータである。上記の2波長のいずれかまたは両方を代表波長としてもよい。本実施例では470ナノメータを観察対象の代表波長とする。
【0044】
図2のステップS1040において代表波長及びxy色度図から代表波長の対比波長を求める。
【0045】
図7は、フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。グラフの横軸は波長を示し、単位はナノメータである。グラフの縦軸は輝度を示し、単位はワット毎ステラジアン毎平方メートル毎ナノメートルである。
図7において、フラフの実線は背景の区画の分光放射輝度を示し、破線は観察対象の区画の分光放射輝度を示す。観察対象の区画の分光放射輝度は
図6に示したものと同じである。
【0046】
仮に、背景が無色、または無彩色(白~灰色)の場合、観察対象と背景とのコントラストを最大にする照明光分光分布は代表波長の光と、代表波長に対応する色と補色の関係の色に対応する波長の光と、の積で決定される。そこで、観察対象と背景とのコントラストを強調するために対比波長として代表波長に対応する色と補色の関係の色に対応する波長を選択することが考えられる。
【0047】
他方、照明方法を使用する観察者が背景の色を調整したい場合も考えられる。一例として使用者が背景の赤みを少なくしたい場合には570ナノメータ以上を使用波長禁止域Dとしてもよい。
【0048】
図8は
図2のステップS1040を説明するための流れ図である。
【0049】
図8のステップS2010において
図3に示すxy色度図においてスペクトル軌跡上の代表波長470ナノメータに対応する点Aを定める。ここで、スペクトル軌跡とはxy色度図の外周の曲線である。
【0050】
図8のステップS2020において
図3に示すxy色度図において点Aと白色点Wを結ぶ直線AWを定める。
【0051】
図8のステップS2030においてxy色度図において直線AWとスペクトル軌跡との交点Bを定める。点Bは代表波長の色と補色関係の色に対応する点である。また、点Bは代表波長470ナノメータに対応する点Aからの色差が最大の点である。
【0052】
図8のステップS2040において
図3に示すxy色度図において対比波長の使用禁止波長域に対応する領域Zを定める。
【0053】
図8のステップS2050において
図3に示すxy色度図において、領域Zの外側のスペクトル軌跡上の点を点Cとして、直線ABと直線ACとのなす角度θを最小とする点Cを求め、点Cに対応する波長を対比波長とする。点Cに対応する波長は使用禁止波長域Zに含まれず、代表波長と補色関係の波長に最も近い波長である。ここで、本実施例においてフィルタの波長の間隔は10ナノメータであるので、対比波長は560ナノメータとする。
【0054】
なお、
図8のステップS2010-S202050を実施する際に、スペクトル軌跡を陰関数カーブフィッティングによって表現したものを使用してもよい。
【0055】
図2のステップS1050において代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光を組み合わせた第2の光源で観察対象及び背景を照射する。
【0056】
図9は、代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
図9のグラフの横軸は波長を示し、単位はナノメータである。
図9の縦軸は分光放射輝度を示し、単位はワット毎ステラジアン毎平方メートル毎ナノメートルである。後で説明する
図10、
図12及び
図13のグラフの横軸及び縦軸についても同様である。
【0057】
図10は、代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【0058】
図11は、代表波長(470ナノメータ)及び対比波長(560ナノメータ)の光で照射された、観察対象及び背景を示す画像である。
図11において「front」は観察対象の領域を示し、「back」は背景の領域を示す。
【0059】
図12は、フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において1と番号を付した観察対象の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【0060】
図13は、フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、
図5において25と番号を付した背景の区画の分光放射輝度を示すグラフである。
【0061】
図14は、フィルタを付けていないキセノン光源によって照射された、観察対象及び背景を示す画像である。
図14において「front」は観察対象の領域を示し、「back」は背景の領域を示す。
【0062】
本発明の照明方法による
図11の画像における観察対象及び背景のJISに基づくコントラスト比は、従来の照明方法による
図14の画像における観察対象及び背景のJISに基づくコントラスト比と比較して32.8%向上している。このように本発明の照明方法によって観察対象と背景とのコントラストを強調した観察に適した画像を提供することができる。
【0063】
一般的に照射される面が均等拡散反射面である場合に、面の分光放射輝度は、その面への分光放射照度とその面の分光反射率との積である。したがって、対象の分光反射率を考慮して分光照度を定めることにより該対象の視認性を向上させることができる。
【0064】
つぎに、他の実施例として、
図6の分光放射輝度のもう一つの極大値720ナノメータを代表値とした場合の対比波長の求め方を
図8の流れ図にしたがって説明する。
【0065】
図15は等色関数から定めたxy色度図を示す図である。
【0066】
図8のステップS2010において
図15に示すxy色度図においてスペクトル軌跡上の代表波長720ナノメータに対応する点Aを定める。
【0067】
図8のステップS2020においてxy色度図において点Aと白色点Wを結ぶ直線AWを定める。
【0068】
図8のステップS2030においてxy色度図において直線AWとスペクトル軌跡との交点Bを定める。点Bは代表波長と補色関係の波長に対応する点である。
【0069】
本実施例では、対比波長の使用禁止波長域に対応する領域Zを定めないので点Bに対応する波長を対比波長とする。対比波長は490ナノメータである。
【0070】
つぎに、さらに他の実施例として、
図6の分光放射輝度の二つの極大値に対応する二波長470ナノメータ及び720ナノメータを代表値とした場合の対比波長の求め方を説明する。
【0071】
図16は二波長を代表値とした場合の
図2のステップS1040を説明するための流れ図である。
【0072】
図17は等色関数から定めたxy色度図を示す図である。
【0073】
本実施例では、
図17に示すxy色度図において分光放射輝度の二つの極大値に対応するスペクトル軌跡の二波長を表す点の間の区間が白色点を取り囲んでいる。すなわち、白色点からスペクトル軌跡の二波長を表す点の間の区間を見込む角度が180度より大きい。
【0074】
図16のステップS3010において
図17のxy色度図において代表波長720ナノメータ及び470ナノメータにそれぞれ対応する点A及び点A’を定める。
【0075】
図16のステップS3020において
図17のxy色度図において点Aと白色点Wを結ぶ直線AW及び点A’と白色点Wを結ぶ直線A’Wを定める。
【0076】
図16のS3030において
図17のxy色度図において直線AWとスペクトル軌跡との交点P及び直線A’Wとスペクトル軌跡との交点P’を定める。スペクトル軌跡の点P及び点P’に間の区間に両方の波長に対して視認性を向上させる波長に対応する点が存在する。
【0077】
図16のS3040において
図17のxy色度図においてスペクトル軌跡上で点P及び点P’の間を移動する点をCとし、線分PCの長さと線分P’Cの長さとの和を最大とする点Cを点Bとして、点Bに対応する波長を対比波長とする。点Bに対応する波長は515ナノメータである。ここで、点Bは点Aからの色差と点A’からの色差との和が最大となる点にほぼ相当する。本実施例においてフィルタの波長の間隔は10ナノメータであるので、対比波長は520ナノメータとする。
【0078】
代表波長として三以上の波長を選択する場合も同様の手順で対比波長を定めることができる。
【0079】
スペクトル軌跡の複数の波長を表す複数の点の座標間距離が0.1以下の場合には、該複数の波長の平均値を代表波長として
図8に示した流れ図にしたがって対比波長を定めてもほぼ同様の結果が得られる。
【0080】
本発明の第1の態様の照明方法の他の実施例について説明する。
【0081】
図18は、第1の光源(フィルタを付けていないキセノン光源)で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
図18の横軸は波長を示し、
図18の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0082】
図18において、
図2のステップS1030にしたがって、
図18の分光反射輝度の極大値から代表波長を550ナノメータと定める。つぎに、
図2のステップS1040及び
図8の流れ図にしたがって、背景の対比波長を430ナノメータと定める。なお、使用禁止波長帯域は、670ナノメータ―780ナノメータとした。
【0083】
図19は、第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
図19の横軸は波長を示し、
図19の縦軸は分光放射輝度を示す。
図19の分光放射輝度分布は、本実施例では使用されないが参考のために示した。
【0084】
図18及び
図19において、代表波長、対比波長及び使用禁止波長帯域を示した。
【0085】
図20は、観察対象及び背景を第1の光源で照射した場合の画像を示す。この場合に観察対象は葉であり背景は土である。
【0086】
図21は、本発明の第1の態様の他の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
図21の画像を
図20の画像と比較すると背景に対する観察対象のコントラストが増加している。
【0087】
つぎに、本発明の第2の態様の照明方法について説明する。
【0088】
図22は、本発明の第2の態様の照明方法を説明するための流れ図である。
【0089】
図22のステップS4010において、観察対象及び背景を第1の光源で照射する。
【0090】
図22のステップS4020において、観察対象及び背景の分光放射輝度分布を求める。
【0091】
図22のステップS4030において、観察対象及び背景の分光放射輝度分布を考慮して、使用禁止波長帯域を定める。使用禁止波長帯域は、一例として観察対象及び背景の分光放射輝度分布が類似の形状を有する領域としてもよい。
【0092】
図22のステップS4040において、観察対象の分光放射輝度分布から代表波長を定める。
【0093】
図22のステップS4050において、背景の分光放射輝度分布から対比波長を定める。
【0094】
図22のステップS4060において、観察対象及び背景を上記の代表波長及び上記の対比波長の光を射出する第2の光源で照射する。
【0095】
本発明の第2の態様の照明方法の第1の実施例について説明する。
【0096】
図23は、第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
図23の横軸は波長を示し、
図23の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0097】
図24は第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
図24の横軸は波長を示し、
図24の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0098】
図22のステップS4030にしたがって、観察対象及び背景の分光放射輝度分布を考慮して、使用禁止波長帯域を定める。本実施例において、使用禁止波長帯域は、670ナノメータ―780ナノメータとした。
【0099】
図22のステップS4040にしたがって、観察対象の分光放射輝度分布から代表波長を定める。代表波長は、使用禁止波長帯域以外において観察対象の分光放射輝度分布の最大値を示す波長である550ナノメータとした。一般的に、代表波長は、使用禁止波長帯域以外において観察対象の分光放射輝度分布の極大値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0100】
図22のステップS4050にしたがって、背景の分光放射輝度分布から対比波長を定める。対比波長は、使用禁止波長帯域以外において背景の分光放射輝度分布の最大値を示す波長である660ナノメータとした。一般的に、対比波長は、使用禁止波長帯域以外において背景の分光放射輝度分布の極大値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0101】
図23及び
図24において、代表波長、対比波長及び使用禁止波長帯域を示した。
【0102】
図25は、本発明の第2の態様の照明方法の第1の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
図25の画像を第1の光源で照射した場合の
図20の画像と比較すると背景に対する観察対象のコントラストが増加している。
【0103】
本発明の第2の態様の照明方法の第2の実施例について説明する。
【0104】
図26は、第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
図26の横軸は波長を示し、
図26の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0105】
図27は第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
図27の横軸は波長を示し、
図27の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0106】
図22のステップS4030にしたがって、観察対象及び背景の分光放射輝度分布を考慮して、使用禁止波長帯域を定める。本実施例において、使用禁止波長帯域は、670ナノメータ―780ナノメータとした。
【0107】
図22のステップS4040にしたがって、観察対象の分光放射輝度分布から代表波長を定める。代表波長は、使用禁止波長帯域以外において観察対象の分光放射輝度分布の最大値を示す波長である550ナノメータとした。一般的に、代表波長は、使用禁止波長帯域以外において観察対象の分光放射輝度分布の極大値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0108】
図22のステップS4050にしたがって、背景の分光放射輝度分布から対比波長を定める。対比波長は、使用禁止波長帯域以外において分光放射輝度分布の最小値を示す波長である430ナノメータとした。一般的に、対比波長は、使用禁止波長帯域以外において背景の分光放射輝度分布の極小値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0109】
図26及び
図27において、代表波長、対比波長及び使用禁止波長帯域を示した。
【0110】
図28は、本発明の第2の態様の照明方法の第2の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
図28の画像を
図20の画像と比較すると背景の土に対して観察対象の葉の色のみが強調されている。
【0111】
本発明の第2の態様の照明方法の第3の実施例について説明する。
【0112】
図29は、第1の光源で照射した場合の観察対象の分光放射輝度分布を示す図である。
図29の横軸は波長を示し、
図29の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0113】
図30は第1の光源で照射した場合の背景の分光放射輝度分布を示す図である。
図30の横軸は波長を示し、
図30の縦軸は分光放射輝度を示す。
【0114】
図22のステップS4030にしたがって、観察対象及び背景の分光放射輝度分布を考慮して、使用禁止波長帯域を定める。本実施例において、使用禁止波長帯域は、670ナノメータ―780ナノメータとした。
【0115】
図22のステップS4040にしたがって、観察対象の分光放射輝度分布から代表波長を定める。代表波長は、使用禁止波長帯域以外において分光放射輝度分布の最小値を示す波長である430ナノメータとした。一般的に、代表波長は、使用禁止波長帯域以外において観察対象の分光放射輝度分布の極小値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0116】
図22のステップS4050にしたがって、背景の分光放射輝度分布から対比波長を定める。対比波長は、使用禁止波長帯域以外において分光放射輝度分布の最大値を示す波長である660ナノメータとした。一般的に、対比波長は、使用禁止波長帯域以外において背景の分光放射輝度分布の極大値を示す全ての複数の波長から全部または一部を選択してもよい。または、上記の全ての複数の波長の全部または一部の平均値としてもよい。
【0117】
図29及び
図30において、代表波長、対比波長及び使用禁止波長帯域を示した。
【0118】
図31は、本発明の第2の態様の照明方法の第3の実施例において、観察対象及び背景を代表波長及び対比波長の光を射出する第2の光源で照射した場合の画像を示す。
図31の画像を
図20の画像と比較すると観察対象の葉に対して背景の土の色のみが強調されている。
【0119】
なお、第3の実施例は、第2の実施例の「観察対象」である葉と「背景」である土とを入れ替えたものであり、第3の実施例において「観察対象」を土とし「背景」を葉とすれば、第3の実施例の照明方法は実質的に第2の実施例の照明方法と同じである。
【0120】
観察対象及び背景の分光放射輝度分布の性質、並びに観察の目的に応じて、上記の実施態様から照明方法を決定することができる。実施態様の照明方法を実施した後に最も好ましい照明方法を決定してもよい。