(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】アレルギー性皮膚炎改善用経口剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/685 20060101AFI20241031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241031BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20241031BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20241031BHJP
A61K 35/655 20150101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/685
A61P17/00
A61P37/08
A61K35/618
A61K35/57
A61K35/655
(21)【出願番号】P 2023100591
(22)【出願日】2023-06-20
(62)【分割の表示】P 2021022051の分割
【原出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】本庄 雅則
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263384(JP,A)
【文献】国際公開第2011/083853(WO,A1)
【文献】特表2018-510910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A61K 35/00 ~ 35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマローゲンを含有することを特徴とするアレルギー性皮膚炎改善用経口剤。
【請求項2】
前記プラズマローゲンを経口剤全体の0.1質量%から10質量%含有することを特徴とする請求項1記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤。
【請求項3】
前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤。
【請求項4】
前記動物組織が、貝類、ホヤ及び鳥類から選ばれる動物の組織であることを特徴とする請求項3記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤。
【請求項5】
前記動物組織が、ホタテ類の組織であることを特徴とする請求項3または請求項4記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマローゲンを含むアレルギー性皮膚炎改善用経口剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性皮膚炎はアレルギー性炎症によって発症する湿疹皮膚炎を意味し、その代表的疾患として遅延型のアレルギー炎症である接触皮膚炎や即時性と遅延型のアレルギー炎症であるアトピー性皮膚炎などが知られている。いずれの皮膚炎もアレルゲンの侵入に対して局所的に産生されるIgEと肥満細胞が関連する。とくに、IgEは肥満細胞に結合し脱顆粒によってかゆみの伝達物質であるヒスタミンを放出する。さらに、炎症部位で脱顆粒した肥満細胞は回復し、再度顆粒を貯えて再び脱顆粒する。このような、肥満細胞の脱顆粒は、即時性のかゆみの誘導のみならず、かゆみと掻破の悪循環をもたらす原因でもある(非特許文献1)。
【0003】
アレルギー性皮膚炎の治療の中心は抗原回避をはじめとした生活環境確保と抗炎症剤の薬物療法による長期的な対処療法が主となっている。そのため、患者の発症予防・重症化予防によるQOL改善が掲げられ(非特許文献2)、患者が継続的に医療を受けられるよう、また自己管理が可能となるように方策を講じることが望まれている。このような状況において既存の薬による治療効果が見られない一部患者に対するIgEと肥満細胞の結合を阻害する抗IgE抗体による治療介入が確立されている。
【0004】
一方、プラズマローゲンは、エーテル型リン脂質の一種でビニルエーテル結合を有する。ヒトにおいては、神経、心血管、免疫系などに多く存在することが知られている。これまでにプラズマローゲンの機能として抗中枢神経系炎症作用を有することが知られている(特許文献1)。さらに、プラズマローゲンが脂肪肝の改善に対して優れた効果を発揮すること(特許文献2)、プラズマローゲンを経口投与した患者において、軽度アルツハイマー病の記憶機能を改善することが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
また、「エーテル型リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質含量が高くプラズマローゲン含量が極めて少ない、すなわち、エーテル型リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質含量比が高い天然物であること、更には、組織を分離することなく生体そのものを直接抽出源とすることができ、資源量が豊富であり、入手が容易であることに加え、更にはアスタキサンチンを含有することから保存安定性が良好である皮膚炎改善・予防剤を得ることが可能である(特許文献3の第0012段落)」との理由から特に好ましいとされたオキアミから抽出した1-アルキルエーテル型リン脂質は、経口投与によって「血液中においてIgE濃度を低下させることが可能であり、皮膚炎の症状を改善させることができる(特許文献3の第0037段落)」ことで「皮膚炎、特にはアトピー性皮膚炎を効果的に予防又は治療できる医薬組成物並びに皮膚炎の予防又は改善用飲食品組成物(特許文献3の第0001段落)」として報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再表2012/03947
【文献】特願2020-063818
【文献】特許6755530
【非特許文献】
【0007】
【文献】医学界新聞 第2498号2002年
【文献】厚労省平成31年 免疫アレルギー疾患10か年戦略(http://www.mhlw.go.jp/newinfo/kobetu/kenkou/ryumachi/index.html))
【文献】Fujino T et al, Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Poral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer’s Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randamized, Doulble-blind, Placebo-controlled Trial” EBiomedicine, [17] (2017) 199-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、プラズマローゲンの多様な薬理作用が報告されているが、プラズマローゲンは、水に溶解しないために、皮膚角質層を介して皮膚の表皮及び真皮へ送出させることが難しく、アレルギー性皮膚炎に対する経皮投与の検討がなされていない。
【0009】
本発明の課題は、プラズマローゲンの新たな用途としてアレルギー性皮膚炎改善用経口剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、プラズマローゲンが皮膚角質層を介して皮膚の表皮から真皮まで浸透し、真皮に存在する肥満細胞の数を減少させることを見出し、さらに研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1] プラズマローゲンを含有することを特徴とするアレルギー性皮膚炎改善用経口剤である。
[2] 前記プラズマローゲンを経口剤全体の0.1質量%から10質量%含有することを特徴とする上記[1]記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤である。
[3] 前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[1]または[2]記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤である。
[4] 前記動物組織が、貝類、ホヤ及び鳥類から選ばれる動物の組織であることを特徴とする上記[3]記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤である。
[5] 前記動物組織が、ホタテ類の組織であることを特徴とする上記[3]または[4]記載のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアレルギー性皮膚炎改善用経口剤は、優れたアレルギー性皮膚炎の改善効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、アレルギー性皮膚炎改善用組成物用のプラズマローゲンのHPLCによる分離法と精製プラズマローゲンのチャートを示す。(実施例1)
【
図2】
図2は、プラズマローゲン含有皮膚塗布剤とコントロール塗布剤を皮膚に塗布したマウスの真皮における肥満細胞の数を示す。(実施例2)
【
図3】
図3は、NC/Ngaマウスにコントロール飼料とプラズマローゲンを含む飼料を与えたマウスの真皮における肥満細胞の数を示す。(比較例1)
【
図4】
図4は、実施例3においてアトピー性皮膚炎に対するプラズマローゲン含有軟膏の効果を示す。
図4中、A)は白色ワセリンを塗布したマウス、B)はプラズマローゲン含有軟膏を塗布したマウスの皮膚の典型的な結果を示す。(実施例3)
【
図5】
図5は、実施例3で行ったアトピー性皮膚炎の発赤・出血に対するプラズマローゲン含有軟膏の効果を示す。(実施例3)
【
図6】
図6は、実施例3において痂皮形成・乾燥に対するプラズマローゲン含有軟膏の効果を示す。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアレルギー性皮膚炎改善用組成物は、プラズマローゲンを含有することを特徴とする。
本発明におけるアレルギー性皮膚炎とは、アレルゲンの侵入を原因とするアレルギー性炎症によって発症する湿疹皮膚炎を意味し、接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎を含む。アレルギー性皮膚炎改善とは、湿疹皮膚炎を回復する概念である。本発明のアレルギー性皮膚炎改善用組成物は、皮膚におけるアレルゲンの侵入に起因するかゆみの発生を予防することができる。すなわち、湿疹皮膚炎予防組成物としても用いることができる。
【0015】
プラズマローゲンは、グリセロール骨格の1位(sn-1位)にビニルエーテル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質のサブクラスであり、多くの哺乳類の組織を構成する細胞の細胞膜に高濃度に存在する。
【0016】
本発明に用いるプラズマローゲンは、一般にプラズマローゲンに分類されるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲン、イノシトール型プラズマローゲン、セリン型プラズマローゲンを挙げることができる。これらの中でも、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲンが好ましく、エタノールアミン型プラズマローゲンが特に好ましい。
【0017】
本発明のプラズマローゲンは、動物組織から抽出することができる。動物組織としては、プラズマローゲンを含むものであれば特に制限されるものではなく、貝類、ホヤ、ナマコ、サケ、サンマ、カツオなどの水産動物や、鳥類等を挙げることができる。これらの中でも、貝類、ホヤ、鳥類が好ましく、貝類が特に好ましい。用いる部位としては、食用部位(可食部位)が好ましい。これらの動物組織は、切断物であってもよいが、より効率的にプラズマローゲンを抽出できることから、粉砕物を用いることが好ましい。
【0018】
貝類としては、ホタテ類、ムールガイ、アワビ等の食用の二枚貝や巻貝を例示することができ、ホタテ類が特に好ましい。ホタテ類は、イタヤガイ科に属する食用の二枚貝であり、例えば、Mizuhopecten属、Pecten属に属するものを挙げることができる。具体的には、日本で採取されるホタテガイ(学名:Mizuhopectenyessoensis)や、ヨーロッパで採取されるヨーロッパホタテ(学名:Pectenmaximus(Linnaeus))等を挙げることができる。食用部位としては、貝柱、ひも(外套膜、生殖幕、懸垂膜)等を挙げることができる。
【0019】
ホヤは、マボヤ科に属する食用の脊索動物であり、マボヤ属、アカボヤ属に属するものを挙げることができる。具体的には、マボヤ(学名:Halocynthia roretzi)や、アカボヤ(学名:Halocynthia aurantium)等を挙げることができる。食用部位としては、身の部分(筋膜体)を挙げることができる。
【0020】
鳥類は、食用の鳥類であれば特に制限されるものではなく、例えば、鶏、烏骨鶏、鴨等を挙げることができる。食用部位としては、プラズマローゲンを豊富に含むムネ肉が好ましい。
【0021】
プラズマローゲンの抽出は、水、有機溶媒、含水有機溶媒を用いて行うことができ、酵素処理を併用することが好ましい。例えば、エタノール抽出法や、ヘキサン抽出法を挙げることができ、ヘキサン抽出法が好ましい。
【0022】
ヘキサン抽出法としては、ヘキサンを用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、再表2009-154309号公報、再表2008-146942号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0023】
エタノール抽出法としては、エタノール(含水エタノールを含む)を用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、特開2019-140919号公報、特開2018-130130号公報、再表2012-039472号公報、特開2010-065167号公報、特開2010-063406号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0024】
本発明の組成物は、例えば、医薬品(医薬部外品を含む)や、皮膚外用剤などの所定機関より効能の表示が認められた化粧品成分として用いることができる。
【0025】
本発明の組成物は、皮膚外用剤や注射剤として使用することができる。皮膚外用剤としては、具体的に、皮膚に塗布して用いるものであれば、特に制限はなく、その形態としては、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、ローション剤、乳液剤、パック剤、湿布剤等の皮膚外用剤を挙げることができる。
【0026】
本発明の組成物におけるプラズマローゲンの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。その形態にもよるが、例えば、プラズマローゲンが、乾燥質量換算で、本発明の組成物全体の0.1質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。組成物全体が10質量%以上であっても、効果を損なうものではないが、コスト面などから実用性に乏しい。
【0027】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分以外の他の成分を添加して、公知の方法によって製造することができる。本発明の成分以外の他の成分としては、例えば、その他の薬剤、ビタミン、ミネラル、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、動物性油、植物性油を挙げることができる。また、皮膚塗布剤に適用される水、低級アルコール類、皮膜剤、保湿剤、紫外線吸収剤、殺菌、防腐剤、pH調整剤などを含有させることができる。
【0028】
プラズマローゲンの用途開発研究として、マウスの皮膚にプラズマローゲン含有皮膚塗布剤を塗布した。塗布部の皮膚を採取し、皮膚切片の肥満細胞をトルイジンブルー溶液で染色し、真皮における肥満細胞数の変化を比較した。その結果、プラズマローゲン含有皮膚塗布剤の塗布によって真皮における肥満細胞数の顕著な減少が認められた。このことは、肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミンの放出を原因とするアトピー性皮膚炎を含むアレルギー性皮膚炎に対し、従来のヒスタミンのH1受容体結合を阻害し、かゆみを抑制する抗ヒスタミン薬とは異なり、プラズマローゲンは、肥満細胞を病変部から排除し、かゆみと掻破の悪循環を遮断することが期待できる。加えて、抗ヒスタミン薬では抑制できない肥満細胞の酵素であるトリプターゼが誘発する掻痒に対する効果も期待できる。そこで詳細に検討することにした。
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は下記の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
[アレルギー性皮膚炎改善用プラズマローゲンの調製]
アレルギー性皮膚炎改善用のプラズマローゲンは、ホタテガイとトリ胸肉の各々からヘキサンを用いて抽出する例えば、再表2016/181491号公報を用いて調製した。ホタテガイからプラズマローゲンを抽出する主な工程を以下に示す。
1. ホタテガイにコクラーゼP(三菱ケミカルフーズ株式会社製)とホスホリパーゼA1(PLA1) (三菱ケミカルフーズ株式会社製)を加えて、1時間分解した。
2. 次に、ヘキサン/イソプロパノールを加えて攪拌し、静置後上澄みを吸引濾過した。
3. 濾液に硫酸ナトリウム水溶液を加えてよく混和した。
4. 上層をロータリーエバポレーターで乾固した。
5. これに4℃に冷却したアセトン40mLを加え混和した。
6. 遠心分離機を用いて3000rpm, 10 min, 4℃の条件で分離した。
7. 上清を捨て、沈殿物を回収した。
8. デシケータで一晩乾燥した。
特許第5430566号公報に倣い
図1Aに示す移動相溶媒を用いてHPLCで分離し、
図1Cに示すようにエタノールアミン型プラズマローゲンのみを分取した。なお、
図1Bは上記の1から8までの工程で抽出した画分における脂質組成を示す。
【0031】
トリ胸肉から抽出したプラズマローゲンは、前記[アレルギー性皮膚炎改善用プラズマローゲンの調製]に記す8工程のうち5を除く7つの工程を経て調製した。得られた抽出画分は、再表2016/181491号公報にも記載されているとおりエタノールアミン型とコリン型の2種のプラズマローゲン、及びコレステロールを含む組成であった。
【実施例2】
【0032】
[プラズマローゲン含有皮膚塗布剤の効果]
プラズマローゲン含有皮膚塗布剤は、ホタテガイから抽出したプラズマローゲン51mg、トリ胸肉から抽出した画分5mg(プラズマローゲン含量9.1質量%)を3.64mlのエタノールで溶解後、1.56mlの蒸留水を添加し、プラズマローゲン溶解液5.2mlとして調製した。コントロール塗布剤は、プラズマローゲンを溶解させずにプラズマローゲン含有皮膚塗布剤と同様に調製した。
【0033】
7週齢雄C3Hマウスをケービーティーオリエンタル株式会社から購入し、8週齢で背側皮膚の体毛を動物用電気バリカンで剃毛の後、除毛クリームで除毛し、ランダムにプラズマローゲン含有皮膚塗布剤対象群 (n=5)及び70%エタノールのみを塗布したコントロール塗布剤対象群(n=5)に群分けした。剃毛後48時間後より塗布を開始した。塗布剤は20μl/cm2 除毛部とし、5回/週の頻度で4週間継続した。飼育中、飼料と飲水は自由摂取とした。
【0034】
試験後、各群のマウスを深麻酔下において安楽死を施し、塗布部の皮膚を採取した。直ちに常法に従ってパラフォルム溶液にて化学固定の後、パラフィン切片を作成した。各群のマウス5匹からランダムに計20枚の非連続切片を抽出し、皮膚切片の肥満細胞をトルイジンブルー溶液(pH4.1)で染色した。
【0035】
コントロール塗布剤対象群とプラズマローゲン含有皮膚塗布剤対象群のマウス背部の皮膚における肥満細胞の数を皮膚1mm X 1mmに換算した結果を
図2に示す。この結果、プラズマローゲン含有皮膚塗布剤対象群はコントロール塗布剤対象群と比較して、皮膚における肥満細胞の数が統計的に有意な(p<0.05、スチューデントのt検定)減少変化であった。したがって、エタノールに溶解したプラズマローゲンは、皮膚表面への塗布によって表皮内を浸透し、かつ下層の真皮へと到達し、真皮の肥満細胞数を減少させることを初めて明確に示した。
【比較例1】
【0036】
[真皮の肥満細胞分布に対するプラズマローゲンの経口摂取効果]
経口摂取用プラズマローゲンは、ホタテガイから前記[アレルギー性皮膚炎改善用プラズマローゲンの調製]に記す8までの工程で調製した。
【0037】
6週齢雄のNc/Ngaマウスをケービーティーオリエンタル株式会社から購入し、2群に分け、片方の群にのみ0.1%重量のプラズマローゲンを含む飼料を与えプラズマローゲンを経口摂取させ12週間飼育した。次いで、実施例2に記す方法で背部のアトピー性皮膚炎発症部の皮膚切片を作製し、真皮における肥満細胞の分布を検討した。なお飼育中、飼料と飲水は自由摂取とした。
【0038】
図3に示すように、真皮における肥満細胞の数に関してプラズマローゲンを経口摂取したマウス(4匹)と摂取しなかったマウス(3匹)の間で差を見出すことはできなかった。
【実施例3】
【0039】
[アトピー性皮膚炎に対するプラズマローゲン含有軟膏の効果]
そこで、プラズマローゲン含有軟膏のアトピー性皮膚炎に対する効果をアトピー性皮膚炎モデルマウス実験系で検証した。
【0040】
軟膏用プラズマローゲンは、ホタテガイから前記[アレルギー性皮膚炎改善用プラズマローゲンの調製]に記す8までの工程で調製した。
プラズマローゲン含有軟膏は、抽出したプラズマローゲンをエタノールに溶解し、基材である白色ワセリンに40℃以下で加温混合した。エタノールは窒素ガスを吹き付け除去し、プラズマローゲンを5%含む軟膏を調製した。軟膏は4℃に保管した。
【0041】
ヒョウダニ属であるアトピー性皮膚炎のアレルゲンとなるコナヒョウダニ(Dematophagoides farina:Df)由来成分によるアトピー性皮膚炎マウスモデル実験を用いてプラズマローゲン含有軟膏のアトピー性皮膚炎に対する効果を検証した。なお、飼育中、飼料と飲水は自由摂取とした。
【0042】
6週齢雄のNc/Ngaマウスをケービーティーオリエンタル株式会社から購入し、7週齢で背側皮膚の体毛を動物用電気バリカンで剃毛の後、除毛クリームで除毛し、ランダムに表1に示す3群(各8個体)に群分けした。コナヒョウダニ由来成分は2回/週の頻度で3週間塗布した。初回は、除毛後にコナヒョウダニ由来成分(商品名:ビオスタAD、株式会社ビオスタ製)を100mg塗布した。2回目以降は除毛部に150μlの4%ドデシル硫酸ナトリウムを均一に塗布し、自然乾燥の後にコナヒョウダニ由来成分を100mg塗布した。
【0043】
【0044】
図4Aと
図4BはB群とC群のマウスの実験過程における皮膚状態の典型的な結果である。コナヒョウダニ由来成分を3週間塗布したB群とC群のマウス背側皮膚は、局所的に発赤し、角質の剥離が認められた。
【0045】
次に、コナヒョウダニ由来成分を塗布しなかったA群、及びB群とC群の全てのマウスに対し、アトピー性皮膚炎に特徴的な症状である発赤・出血及び痂皮形成・乾燥を目視で判別した。発赤・出血に対しては表2に示す状態を指標に、痂皮形成・乾燥に対しては表3に示す状態を指標に判断した。各マウスの状態は、症状なしを0点とし、重症を3点とする4段階で点数化した。
【0046】
【0047】
【0048】
図5は、各群8匹のマウスのアトピー性皮膚炎発症部の発赤・出血の程度を表2に基づいて点数化した平均値のグラフである。コナヒョウダニ由来成分の塗布完了時におけるB及びC群のマウス背側皮膚の発赤・出血の症状は、塗布しなかったA群と比較して重症化し、それぞれ統計的に有意な(††p<0.01と†p<0.05)変化であった。
【0049】
図6は、各群8匹のマウスのアトピー性皮膚炎発症部の痂皮形成・乾燥の程度を表3に基づいて点数化した平均値を示す。コナヒョウダニ由来成分の塗布完了時におけるB及びC群の痂皮形成・乾燥の症状は、塗布しなかったA群と比較して重症化し、いずれの群も統計的に有意な(††p<0.01)の変化であった。これらの結果からコナヒョウダニ由来成分によるアトピー性皮膚炎マウスモデルは確立されたことが分かり、プラズマローゲン軟膏による症状の回復を検証することが可能となった。
【0050】
プラズマローゲン含有軟膏のアトピー性皮膚炎に対する効果を検証するため、アトピー性皮膚炎を発症させたC群のマウスに対し1回につき耳かき2杯のプラズマローゲン含有軟膏を5回/週の頻度で4週間塗布した。アトピー性皮膚炎を発症させたB群のマウスには白色ワセリンを同じ頻度で塗布した。なお、各塗布時に毛が生えている場合は皮膚に刺激を与えないように注意を払いバリカンなどで毛刈りを行った。さらに、1週間毎にデジタルカメラで皮膚症状を撮影した。
【0051】
図4は、白色ワセリンを塗布したB群とプラズマローゲン含有軟膏を塗布したC群のマウスの塗布開始後3及び4週間後の皮膚の典型的な症状を示す。
図4Aに示すように、白色ワセリンを塗布したB群のマウスの背側皮膚では発赤や角質の剥離が継続して認められた。しかしながら、
図4Bに示すように、C群のマウスの背側皮膚で認められていた発赤や角質の剥離の症状は、プラズマローゲン含有軟膏の塗布後に軽減された。
【0052】
次いで、A、B、C群の全てのマウスを目視で観察し、上記の表2と表3に基づき背側皮膚の発赤・出血及び痂皮形成・乾燥の程度を1週間毎に0から3の4段階で点数化した。
【0053】
その結果を
図5に示す。白色ワセリン塗布対象群であるB群と比較してC群のプラズマローゲン含有軟膏塗布対象群の背側皮膚における発赤・出血の程度は、プラズマローゲン含有軟膏塗布の1および2週間後においては、統計的に有意な(*p<0.05)改善変化が認められた。また、
図6に示すように、痂皮形成・乾燥の程度もC群は、B群と比較して統計的に有意な(*p<0.05)回復が認められた。
【0054】
以上の結果は、プラズマローゲンの経皮吸収は、真皮の肥満細胞数を減少させ肥満細胞からのヒスタミンの放出を原因とするかゆみと掻破によって増悪されるアレルギー性皮膚炎の悪循環を遮断することが分る。