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特許7579610高周波四重極線形加速器、中性子源システム及び高周波四重極線形加速器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】高周波四重極線形加速器、中性子源システム及び高周波四重極線形加速器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 9/00 20060101AFI20241031BHJP
   H05H 3/06 20060101ALI20241031BHJP
   H05H 7/08 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
H05H9/00 B
H05H3/06
H05H7/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023550496
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2022033355
(87)【国際公開番号】W WO2023053858
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021160864
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】池田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】若林 泰生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 訓裕
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-86494(JP,A)
【文献】特開2011-86498(JP,A)
【文献】特開平6-290900(JP,A)
【文献】実開平1-96700(JP,U)
【文献】実開平1-73800(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 9/00
H05H 3/06
H05H 7/08
H05H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された筒状筐体部と、
前記筒状筐体部の開口部に外側から軸中心に向けて挿入され、該開口部に着脱可能に夫々取り付けられ、相互に対向するように配置される複数の第1ベイン電極と、
を備える、
高周波四重極線形加速器。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波四重極線形加速器であって、
前記筒状筐体部は、外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された複数の筒状部材を同軸状に連結して構成されており、
前記第1ベイン電極は、夫々、前記筒状部材の開口部に外側から軸中心に向けて挿入され、該開口部に着脱可能に取り付けられ、相互に対向するように配置される、
高周波四重極線形加速器。
【請求項3】
請求項2に記載の高周波四重極線形加速器であって、
前記各筒状部材は、中心部に貫通孔が形成された接続フランジを介して同軸状に連結されており、
前記接続フランジの貫通孔内には、互に対向する2対の第2ベイン電極が着脱可能に夫々設けられており、
該第2ベイン電極は、隣接する前記第1ベイン電極間に配置され、該第1ベイン電極を接続する、
高周波四重極線形加速器。
【請求項4】
請求項2又は3記載の高周波四重極線形加速器であって、
中心部に貫通孔が形成された前端エンドプレートが、前記筒状筐体部の前端を塞ぐにように、該前端に着脱可能に設けられ、
中心部に貫通孔が形成された後端エンドプレートが、前記筒状部材の後端を塞ぐように、該後端に着脱可能に設けられている、
高周波四重極線形加速器。
【請求項5】
イオンを生成するイオン源と、
前記イオン源により生成されたイオンを加速させる、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の高周波四重極線形加速器と、
内部に中性子発生標的材を含み、前記高周波四重極線形加速器により加速したイオンが前記中性子発生標的材と衝突し、核反応により中性子を発生するターゲットステーションと、
を備える、
中性子源システム。
【請求項6】
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された筒状筐体部を形成するステップと、
第1ベイン電極を、前記筒状筐体部の開口部に外側から軸中心に向けて挿入し、該開口部に着脱可能に夫々取り付け、相互に対向するように配置するステップと、
を含む、
高周波四重極線形加速器の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の高周波四重極線形加速器の製造方法であって、
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された複数の筒状部材を夫々形成し、該形成した複数の筒状部材を同軸状に連結することで、前記筒状筐体部を構成し、
前記第1ベイン電極を、夫々、前記筒状部材の開口部に外側から軸中心に向けて挿入し、該開口部に着脱可能に取り付け、相互に対向するように配置する、
高周波四重極線形加速器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波四重極線形加速器、中性子源システム及び高周波四重極線形加速器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンまたは電子などの荷電粒子を加速するための高周波四重極線形加速器が知られている(例えば、特許文献1参照)。高周波四重極線形加速器は、4つの電極と、筒状部と、を備えている。各電極は、筒状部と一体的に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5317062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、一部の電極が放射化や損傷した場合にその電極の交換が必要となるが、上記高周波四重極線形加速器では、電極と筒状部が一体的に成形されている。このため、電極だけなく筒状部も同時に交換することになり、また、放射化や故障以外の例えば加速エネルギーを調整する際も、電極だけなく筒状部も同時に調整が必要となりメンテナンス性が低い。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、メンテナンス性を向上させた高周波四重極線形加速器、中性子源システム及び高周波四重極線形加速器の製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された筒状筐体部と、
前記筒状筐体部の開口部に外側から軸中心に向けて挿入され、該開口部に着脱可能に夫々取り付けられ、相互に対向するように配置される複数の第1ベイン電極と、
を備える、
高周波四重極線形加速器
である。
この一態様において、
前記筒状筐体部は、外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された複数の筒状部材を同軸状に連結して構成されており、
前記第1ベイン電極は、夫々、前記筒状部材の開口部に外側から軸中心に向けて挿入され、該開口部に着脱可能に取り付けられ、相互に対向するように配置されてもよい。
この一態様において、
前記各筒状部材は、中心部に貫通孔が形成された接続フランジを介して同軸状に連結されており、
前記接続フランジの貫通孔内には、互に対向する2対の第2ベイン電極が着脱可能に夫々設けられており、
該第2ベイン電極は、隣接する前記第1ベイン電極間に配置され、該第1ベイン電極を接続してもよい。
この一態様において、
中心部に貫通孔が形成された前端エンドプレートが、前記筒状筐体部の前端を塞ぐにように、該前端に着脱可能に設けられ、
中心部に貫通孔が形成された後端エンドプレートが、前記筒状部材の後端を塞ぐように、該後端に着脱可能に設けられていてもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
イオンを生成するイオン源と、
前記イオン源により生成されたイオンを加速させる、上記記載の高周波四重極線形加速器と、
内部に中性子発生標的材を含み、前記高周波四重極線形加速器により加速したイオンが前記中性子発生標的材と衝突し、核反応により中性子を発生するターゲットステーションと、
を備える、
中性子源システム
であってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された筒状筐体部を形成するステップと、
第1ベイン電極を、前記筒状筐体部の開口部に外側から軸中心に向けて挿入し、該開口部に着脱可能に夫々取り付け、相互に対向するように配置するステップと、
を含む、
高周波四重極線形加速器の製造方法
であってもよい。
この一態様において、
外周面において軸方向へ延びる2対の開口部が互いに対向するように夫々形成された複数の筒状部材を夫々形成し、該形成した複数の筒状部材を同軸状に連結することで、前記筒状筐体部を構成し、
前記第1ベイン電極を、夫々、前記筒状部材の開口部に外側から軸中心に向けて挿入し、該開口部に着脱可能に取り付け、相互に対向するように配置してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メンテナンス性を向上させた高周波四重極線形加速器、中性子源システム及び高周波四重極線形加速器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る中性子源システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す斜視図である。
図3】本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す分解斜視図である。
図4】本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す斜視図である。
図5】本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す分解斜視図である。
図6】各筒状部材を接続する接続フランジの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態1
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、例として、本実施形態に係る小型の中性子源システムの概略的な構成を示すブロック図である。本実施形態に係る高周波四重極線形加速器(RFQ:Radio Frequency Quadrupole)3は、図1に示す如く、中性子源システム1に用いられる粒子加速器として構成されている。本実施形態に係る中性子源システム1は、イオン源2と、高周波四重極線形加速器3と、ターゲットステーション4と、を備えている。
【0010】
イオン源2には、例えば、真空ポンプやマグネトロンなどが設けられている。イオン源2は、マイクロ波イオン源として構成されていてもよい。イオン源2は、例えば、固体またはガスを電離してプラズマを生成し、電界によりイオンを引き出すことでイオン(例えば、水素イオンの陽子H)を生成する。
【0011】
高周波四重極線形加速器3は、高周波型の直線加速器である。高周波四重極線形加速器3は、高周波電場でイオンビームの集束と加速を同時に行うことができる。高周波四重極線形加速器3は、イオン源2直後の低エネルギーイオンビームの加速に適している。
【0012】
高周波四重極線形加速器3は、対向する4個の電極に高周波を印加して四重極電場を発生させることで、イオン源2で生成されたイオンを集束及び加速させる。高周波四重極線形加速器3は、イオンを、例えば、2.49MeVまで加速させることができる。なお、高周波四重極線形加速器3の後段に、更にイオンを集束及び加速させるDTL(Drift Tube Linac)が設けられていても良い。また、高周波四重極線形加速器3は、サイクロトロンやシンクロトロンなどのインジェクター(前段加速器)として使用されてもよいし、中大型の中性子源システムに使用されてもよい。
【0013】
ターゲットステーション4は、内部にリチウムLiやベリリウムBeなどの中性子発生標的材を含む。なお、例えば、2.49MeV程度の低い陽子線エネルギーの場合、中性子発生標的材として、リチウムLiを用いるのが好ましい。これにより、後述の中性子発生量を増加させることができる。
【0014】
高周波四重極線形加速器3により加速したイオンは、ターゲットステーション4内の中性子発生標的材と衝突し、核反応により中性子を発生させる。そして、ターゲットステーション4は、発生した中性子を中性子ビームとして出射する。この中性子ビームを用いて、例えば、非破壊検査などを行うことができる。なお、中性子発生標的材までの距離は任意に設定してもよい。
【0015】
図2は、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す分解斜視図である。本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3は、筒状筐体部31と、4つの第1ベイン電極32と、前端及び後端エンドプレート33、34と、を備えている。
【0016】
筒状筐体部31は、略円筒状の筒部311と、筒部311の前端及び後端に夫々接続された円環状のフランジ部312と、を有している。筒部311とフランジ部312とは一体的に成形されている。
【0017】
筒部311の外周面には、軸方向へ延びる2対の開口部313が90°の位相差で互いに対向するように夫々形成されている。開口部313は、略矩形状に形成されている。筒状筐体部31は、例えば、剛性の高い鉄を基材としている。筒状筐体部31の加速空洞内は、例えば、電気伝導性の高い銅メッキが施されている。なお、筒状筐体部31は、無酸素銅の削り出しで作られていてもよい。筒状筐体部31の内部は真空状態にされる。筒部311の外周面に真空ポート、カプラーポート、ピックアップポートなどが設けられていてもよい。
【0018】
第1ベイン電極32は、筒状筐体部31の開口部313に外側から軸中心に向けて挿入されている。第1ベイン電極32は、先端側に形成され断面が略三角形状の電極部321と、後端側に形成され、筒状筐体部31の開口部313に嵌合する嵌合部322と、で構成されている。電極部321及び嵌合部322は、一体的に形成されている。第1ベイン電極32の嵌合部322は、筒状筐体部31の開口部313の嵌合し、例えば、ボルトなどにより開口部313に着脱可能に取り付けられている。各対の第1ベイン電極32は、相互に対向するように配置される。
【0019】
第1ベイン電極32の電極部321の先端部は、長手方向に波形状に形成されている。なお、図3において、第1ベイン電極32の電極部321の先端部の波形状は、簡略化されている。第1ベイン電極32は、ビーム加速軸に沿って直交するように対向して配置される。さらに、相対向する第1ベイン電極32は山と山、谷と谷とが向かい合い、互いに90度隔てた隣合う第1ベイン電極32の山と谷とが隣合うように配置されている。
【0020】
これら4枚の第1ベイン電極32において、一方の対向する一対の第1ベイン電極32と他方の対向する一対の第1ベイン電極32とは、互いの符号が異なるように高周波電力が与えられる。筒状筐体部31と第1ベイン電極32とは、高周波空洞共振器を形作っている。この共振器の共振周波数に等しい周波数の高周波電力が筒状筐体部31と第1ベイン電極32に供給されると、第1ベイン電極32に高周波電圧が発生する。
【0021】
このとき、第1ベイン電極32間で囲まれた中心部にイオンビームを入射させると、イオンビームは高周波四重極電場によって集束されるとともに加速されて、高エネルギーのイオンビームとして筒状筐体部31から出射されることになる。
【0022】
筒状筐体部31の前端には、前端エンドプレート33が筒状筐体部31の前端を塞ぐように設けられている。前端エンドプレート33は、ボルトなどにより、筒状筐体部31の前端に着脱可能に設けられている。前端エンドプレート33は略円形状の板状部材であり、中心部に貫通孔331が形成されている。上述の筒状筐体部31内の高周波四重極電場によって加速されたイオンビームは、前端エンドプレート33の貫通孔331から出射される。
【0023】
筒状筐体部31の後端には、後端エンドプレート34が筒状筐体部31の後端を塞ぐように設けられている。後端エンドプレート34は、ボルトなどにより、筒状筐体部31の後端に着脱可能に設けられている。後端エンドプレート34は略円形状の板状部材であり、中心部に貫通孔が形成されている。
【0024】
前端エンドプレート33及び後端エンドプレート34の少なくとも一方は、筒状筐体部31と一体的に形成されていてもよい。なお、筒状筐体部31の前端及び後端に、上述の如く、前端及び後端エンドプレート33、34を別体として着脱可能に設けることで、筒状筐体部31の前端及び後端への他の部材の接続性を良好することができる。
【0025】
ところで、第1ベイン電極の一部が放射化や損傷した場合にその第1ベイン電極の交換が必要となるが、従来の高周波四重極線形加速器では、第1ベイン電極と筒状筐体部が一体的に成形されている。このため、第1ベイン電極だけなく筒状筐体部も同時に交換することになり、手間がかかりメンテナンス性が低い。
【0026】
これに対し、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3において、上述の如く、各第1ベイン電極32は、筒状筐体部31の開口部313に外側から軸中心に向けて挿入され、開口部313に着脱可能に夫々取り付けられ、相互に対向するように配置される。
【0027】
これにより、例えば、各第1ベイン電極32のうちの一部あるいは全部が放射化や損傷し、交換が必要になった場合でも、その放射化や損傷した第1ベイン電極32のみを筒状筐体部31の開口部313から容易に取外し、新たな第1ベイン電極32を取り付けることができる。
【0028】
また、各第1ベイン電極32は、筒状筐体部31の開口部313に外側から軸中心に向けて挿入されている。これにより、交換が必要な第1ベイン電極32に外側から容易にアクセスして取り外し、さらに、新たな第1ベイン電極32を取り付けることができる。従って、高周波四重極線形加速器3のメンテナンス性を向上させることができる。
【0029】
さらに、筒状筐体部31の前端及び後端には、上述の如く、前端及び後端エンドプレート33、34が着脱可能に夫々設けられていてもよい。これにより、例えば、前端又は後端エンドプレート33、34が放射化や損傷し、交換が必要になった場合に、その放射化や損傷した前端又は後端エンドプレート33、34のみを筒状筐体部31から容易に取外し、新たな前端又は後端エンドプレート33、34を取り付けることができる。従って、高周波四重極線形加速器3のメンテナンス性をより向上させることができる。
【0030】
続いて、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の製造方法について説明する。
まず、筒状筐体部31と、4つの第1ベイン電極32と、前端及び後端エンドプレート33、34と、を夫々製作する。筒状筐体部31は、例えば、鉄などの母材を工作機械により削り出し、表面に銅メッキをすることで製作される。
【0031】
次に、各第1ベイン電極32を、筒状筐体部31の開口部313に外側から軸中心に向けて挿入し、開口部313に夫々嵌合させ、相互に対向するように配置する。そして、各第1ベイン電極32を、筒状筐体部31の開口部313にボルトなどにより連結し固定する。
【0032】
筒状筐体部31の前端及び後端に、前端及び後端エンドプレート33、34をボルトなどにより夫々連結する。なお、第1ベイン電極32よりも先に前端及び後端エンドプレート33、34を筒状筐体部31に連結してもよい。
【0033】
以上、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3は、外周面において軸方向へ延びる2対の開口部313が互いに対向するように夫々形成された筒状筐体部31と、筒状筐体部31の開口部313に外側から軸中心に向けて挿入され、開口部313に着脱可能に夫々嵌合し、相互に対向するように配置される複数の第1ベイン電極32と、を備えている。
【0034】
これにより、交換が必要になった第1ベイン電極32のみを筒状筐体部31の開口部313から容易に取外し、新たな第1ベイン電極32を取り付けることができる。さらに、交換が必要な第1ベイン電極32に外側から容易にアクセスして取り外し、さらに、新たな第1ベイン電極32を取り付けることができる。従って、高周波四重極線形加速器3のメンテナンス性を向上させることができる。
【0035】
また、従来、(1)ロウ付けの際に加速空洞本体の温度上昇に伴い歪んでしまう、(2)ロウ付けの条件が適切でないと接合不良が発生して修復が困難になるリスクがある、(3)真空ろう付け炉の大きさに合わせて加速空洞本体を長手方向に分割しないといけない、などの問題が生じていた。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3においては、上述の如く、各部材がボルトなどのネジで連結されているため、上記(1)-(3)の問題は生じ得ない。
【0037】
さらに、従来、(4)一体物の製作には数m規模の大きな母材を使用することになり、その加工には大型工作機械が必要であることから、製作コストが高くなる、(5)ビーム軸付近の電極が荷電粒子や放射線等により損傷を受けた場合、構造上その損傷した箇所のみの交換は不可能であり、加速空洞全てを交換することになってしまう、(6)加速空洞本体の全長は工作機械の大きさに制限されてしまう、などの問題が生じていた。
【0038】
これに対し、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3においては、上述の如く、上記(4)-(6)の問題も生じ得ない。
【0039】
本実施形態に係る高周波四重極線形加速器3においては、(1)主な製作工程が機械加工とボルト締めによる組立のみのため、製作コストが抑えられ、加速空洞本体の全長や長手方向に分割する間隔を制限なく設けることが容易に可能である、(2)加速空洞本体の分解・再組立が容易であることからメンテナンス性が高い。
【0040】
例えば、
・周波数調整のための内部電極(ベーン)の加工(削り、研磨)が容易であるため、あとからの調整が容易である。高効率加速を実現する電場分布調整を可能とする。
・冷却が特に必要な入射・出射部分への冷却機能も(フランジに取り付けるなど)後付けで可能である。
・母材に関しては、銅からの削りだし、鉄母材への銅メッキなど、必要に応じて自由度がある。
・本実施形態に係るボルト締めだと、修正加工が簡便なため、ベーン間距離が小さい加速空洞でも調整しやすいので、高い周波数300MMHz以上の高周波四重極線形加速器を作りやすい。この利点としては、プロトン加速用としてよく使われるため、上述の如く、応用がしやすい。
【0041】
実施形態2
図4は、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す斜視図である。図5は、本実施形態に係る高周波四重極線形加速器の構成を示す分解斜視図である。
【0042】
本実施形態において、上記筒状筐体部は、複数の筒状部材51を同軸状に連結して構成されていてもよい。例えば、図4に示す如く、上記筒状筐体部は、3つの筒状部材51を同軸状に連結して構成されていてもよい。筒状部材51は、図5に示す如く、外周面において軸方向へ延びる2対の開口部511が90°の位相差で互いに対向するように夫々形成されている。
【0043】
第1ベイン電極53は、夫々、筒状部材51の開口部511に外側から軸中心に向けて挿入され、開口部511に着脱可能に嵌合し、相互に対向するように配置される。
【0044】
図6は、各筒状部材を接続する接続フランジの構成を示す斜視図である。各筒状部材51は、接続フランジ54を介して同軸状に連結されている。接続フランジ54は、中心部に貫通孔541が形成された略円環状の板状部材である。各筒状部材51および接続フランジ54は、ボルトなどにより連結されている。
【0045】
貫通孔541の断面は、例えば、略8角形状に形成されている。接続フランジ54の貫通孔541内には、90°の位相差で互に対向する2対の第2ベイン電極55が夫々設けられている。各第2ベイン電極55は、接続フランジ54の貫通孔541内に、ボルトなどにより着脱可能に連結されている。なお、接続フランジ54と第2ベイン電極55は、一体的に成形されていてもよい。第2ベイン電極55は、隣接する第1ベイン電極53間に配置され、その両端の第1ベイン電極53を接続する。これにより、第2ベイン電極55と、その両端の各第1ベイン電極53と、は、軸方向に連続的に繋がる。
【0046】
筒状部材51、接続フランジ54、第1ベイン電極53、及び、第2ベイン電極55は、高周波空洞共振器を形作っており、第1及び第2ベイン電極53、55に高周波電圧が発生する。
【0047】
第1及び第2ベイン電極53、55間で囲まれた中心部にイオンビームが入射し、イオンビームは高周波四重極電場によって集束されるとともに加速されて、高エネルギーのイオンビームとなり出射される。
【0048】
前側の筒状部材51の前端には、前端エンドプレート56が前側の筒状部材51の前端を塞ぐように設けられている。前端エンドプレート56は、ボルトなどにより、前側の筒状部材51の前端に着脱可能に設けられている。筒状部材51内の高周波四重極電場によって加速されたイオンビームは、前端エンドプレート56の貫通孔561から出射される。
【0049】
後側の筒状部材51の後端には、後端エンドプレート57が後側の筒状部材51の後端を塞ぐように設けられている。後端エンドプレート57は、ボルトなどにより、後側の筒状部材51の後端に着脱可能に設けられている。
【0050】
本実施形態に係る高周波四重極線形加速器20において、筒状筐体部は、複数の筒状部材51を連結して構成されている。これにより、個々の筒状部材51を小型化することができ、各筒状部材51を製作する加工機械などを小型化することができる。したがって、製造コストを低減することができる。
【0051】
例えば、筒状筐体部の全長は、2~3m程度であり、それを大型母材から削り出すのに、大型な加工機械が必要となる。一方で、筒状筐体部を3つ筒状部材51で構成した場合、各筒状部材31の全長は~1m程度となり、小型の加工機械で各筒状部材31を削り出すことができる。したがって、各筒状部材31を小型の加工機械を用いて低コストで製造できる。なお、筒状筐体部の全長は、例えば、30cm、50cm程度と短くても良い。
【0052】
また、筒状筐体部を構成する複数の筒状部材51のうちの一部の筒状部材51が放射化や損傷した場合に、その放射化や損傷した筒状部材51のみを容易に取外し、新たな筒状部材51を取り付けることができる。同様に、複数の第1及び第2ベイン電極53、55のうちの一部の第1及び第2ベイン電極53、55が放射化や損傷した場合、その放射化や損傷した第1及び第2ベイン電極53、55のみを容易に取外し、新たな第1及び第2ベイン電極53、55を取り付けることができる。このように、放射化や損傷した部分のみを部分的に交換でき、高周波四重極線形加速器20のメンテナンス性を向上させることができる。
【0053】
上記実施形態において、筒状筐体部は、3つの筒状部材51を同軸状に連結して構成されているが、これに限定されない。連結される筒状部材51の数は、例えば、2つあるいは4つ以上であってもよく、任意でよい。例えば、既設の加工機械の大きさに合わせて筒状部材51の全長を決め、その全長に対応させて、筒状部材51の数を決めても良い。
【0054】
また、筒状筐体部を含めて全ての部材は、例えば、金属母材に電気伝導性の高い銅メッキを施してもよいし、無酸素銅の削り出しで作られていてもよい。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
この出願は、2021年9月30日に出願された日本出願特願2021-160864を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0057】
1 中性子源システム
2 イオン源
3 高周波四重極線形加速器
4 ターゲットステーション
20 高周波四重極線形加速器
31 筒状筐体部
32 第1ベイン電極
33 前端エンドプレート
34 後端エンドプレート
51 筒状部材
53 第1ベイン電極
54 接続フランジ
55 第2ベイン電極
56 前端エンドプレート
57 後端エンドプレート
311 筒部
312 フランジ部
313 開口部
321 電極部
322 嵌合部
511 開口部
541 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6