(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20241031BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20241031BHJP
A01G 24/12 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/06 Z
H01M12/06 G
A01G24/12
(21)【出願番号】P 2020041507
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】524112865
【氏名又は名称】冨岡 厚則
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 厚則
(72)【発明者】
【氏名】浜野 正好
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-076345(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130441(WO,A1)
【文献】特開2019-129026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M12/00-16/00
A01G24/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極となる空気極と、
金属を少なくとも一部に含む負極と、
前記空気極と前記負極との間に介在し且つ電解液相当物質として機能する培地と、
生育対象の植物の少なくとも一部を、前記負極と前記空気極との間に位置させた状態で、該植物を保持する保持手段とを備えた
ことを特徴とする空気電池。
【請求項2】
前記空気極と前記負極とは、培地を介したイオンの行き来とは別に、電子のやり取りが可能なように前記培地又は接続配線を介して電気的に接続された
請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記保持手段は、前記植物を前記空気極側又は前記負極側の何れか一方である保持電極に保持させるように構成された
請求項1に記載の空気電池。
【請求項4】
前記培地は、前記植物を生育させるための養液を電解液として含浸させた土壌若しくはマッド又は養液自体である
請求項
1に記載の空気電池。
【請求項5】
前記培地を収容する収容部と、
前記収容部から外部に排出された養液が該収容部に再導入されるように、該養液を循環させる循環手段とを備えた
請求項
4に記載の空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極からの析出物に起因した種々の不具合を効率的に防止できる空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極と、正極である空気極と、負極と空気極との間に介在される電解液又は電解液相当物質とを備えた空気電池が従来公知である。空気電池は、高いエネルギー密度を有するため、次世代の電池として期待されている。また、正極活性質として空気を用いるため、正極側に活性質を充填する必要がなく、全体をコンパクトに形成できる。
【0003】
このような利点を有する空気電池であるが、負極から析出する析出物に起因して種々の不具合が発生する。例えば、放電時に負極に析出される析出物によって該負極に不導体被膜が形成されることがある。この不導体被膜は出力低下の原因になる。また、充電時に負極に形成される金属樹であるデンドライドは、該負極と空気極とを短絡させる原因になる。
【0004】
このような析出物に起因した問題を改善するため、負極から析出する析出物を捕捉する捕捉層(捕捉部)を設けた特許文献1に示す空気電池が公知になっている。
【0005】
しかし、上記文献に示す空気電池も、析出物の析出に起因した不具合を防止するには不十分であり、さらになる改善が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、負極と、正極である空気極と、負極と空気極との間に介在される電解液又は電解液相当物質とを備えた空気電池であって、負極からの析出物に起因した種々の不具合を効率的に防止できる空気電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、正極となる空気極と、金属を少なくとも一部に含む負極と、前記空気極と前記負極との間に介在し且つ電解液相当物質として機能する培地と、生育対象の植物の少なくとも一部を、前記負極と前記空気極との間に位置させた状態で、該植物を保持する保持手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
前記空気極と前記負極とは、培地を介したイオンの行き来とは別に、電子のやり取りが可能なように前記培地又は接続配線を介して電気的に接続されたものとしてもよい。
【0010】
前記保持手段は、前記植物を前記空気極側又は前記負極側の何れか一方である保持電極に保持させるように構成されたものとしてもよい。
【0013】
前記培地は、前記植物を生育させるための養液を電解液として含浸させた土壌若しくはマッド又は養液自体であるものとしてもよい。
【0014】
前記培地を収容する収容部と、前記収容部から外部に排出された養液が該収容部に再導入されるように、該養液を循環させる循環手段とを備えたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
培地中の養分の植物による吸収、或いは凝集剤が含有された捕捉部による析出物の捕捉によって、析出物に起因した種々の不具合が効率的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した空気電池の要部側面図である。
【
図2】本発明を適用した空気電池の要部正面図である。
【
図4】
図1乃至
図3に示す空気電池の変形例に係る空気電池の要部側面図である。
【
図5】本発明の別実施形態に係る空気電池の要部側面図である。
【
図6】本発明の別実施形態に係る空気電池の要部正面図である。
【
図8】本発明の別実施形態に係る空気電池の構成を示す断面図である。
【
図9】
図8の空気極及び負極の構成を示す平面図である。
【
図10】ナスの根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載されたナスは通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載されたナスは第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。
【
図11】モロヘイヤの根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載されたモロヘイヤは通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載されたモロヘイヤは第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。
【
図12】里芋の根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載された里芋は通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載された里芋は第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。
【
図13】人参の根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載された里芋は通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載された里芋は第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1,
図2は本発明を適用した空気電池の要部側面図及び要部正面図である。植物の生育装置としても機能する空気電池は、生育対象の植物Pの培地1と、該培地1を収容する収容部2と、収容部2の直下に配置され且つ該収容部2を下支えする土台3と、前記培地1に
含浸され且つ該収容部2の外部に排出された養液4が該収容部2の内部に再導入されるように該養液4を循環させる循環装置(循環手段)6とを備えている。
【0018】
培地1は、電解液でもある養液4を含浸させることが可能なウレタンマット等の含浸性材料から構成されているため、電解液相当物質として機能する。また、培地1は、植物Pの根P1や茎P3等が、その内部で順次成長可能な構造を有している。
【0019】
前記収容部2は、培地1の四方を筒状に囲むようにフレキシブルに変形可能なフィルムシートである。このフィルムシートは、プラスチック等の合成樹脂材料によって構成されている。収容部2の平面視形状は、一方向(以下、当該方向を便宜的に「前後方向」とする)に長い方形枠状に成形されている。
【0020】
収容部2の上方は、その内部に収容された培地1への空気の導入が可能となるように、全体又は一部が開放されて空気導入口2aを構成している。収容部2の下方は、該収容部2の内部に収容された培地1に含浸された養液4を下方から外部に流出させることが可能なように、全体又は一部が開放されて流出口2bを構成している。
【0021】
土台3の上面の幅方向(以下、便宜的に「左右方向」とする。)の両端部には、断面視で下方に円弧状に窪んだ凹部であり且つ前後方向に延びる受け部3a,3aが夫々設けられている。培地1に含有された養液4は自重により流下し、流出口2bから外部に排出されて受け部3a,3aに集められる。受け部3aに集められた養液4は、土台3に形成された流路3bを介して外部に排出される。
【0022】
植物Pは、前後方向に並べられた状態で、収容部2の内部に収容された培地1に、複数が植え付けられている。
【0023】
収容部2の内部に収容された培地1の上端側には、水平な板状をなした空気極7が、その上面側が露出した状態で埋設される一方で、該培地1の下層側には、金属を含有した負極8が埋設されている。
【0024】
この空気極7の中央部には、その厚み方向に貫通する支持孔7aが穿設されている。植物Pは、その根P1の部分が培地1に埋まり、その葉P2の部分が上方を向き、その茎P3の部分が支持孔7aに挿通した状態で、保持して固定されている。
【0025】
具体的な保持手段について説明すると、該保持手段は、支持孔7aと、該支持孔7aの内周面と植物Pの茎P3の外周面との間に充填される筒状の充填材(捕捉部)9とを有し、植物Pを空気極7側に保持するように構成されている。本例では、空気極7が植物Pを保持して固定する保持電極になる。
【0026】
保持電極7は、図示する例では、前記培地1に植え付けられた複数の植物P毎に設けられている。一方、保持電極7以外の電極である負極8は、培地1を介して、該保持電極7と対向するように、前後に長い方形状に形成された単一の水平な板状部材である。
【0027】
前記循環装置6は、養液4を溜めるタンク11と、流路3bからの養液4をタンク11に回収する回収管12と、吸引管13を介してタンク11内から吸引した養液4を吐出管14により培地1側に供給するポンプ16と、吐出管14からの養液4が流入するように培地1の上面側に配置され且つ収容部2の長手方向である前後方向に形成された流動管17と、流動管16から複数の植物Pの夫々に向かって養液を導出させる導出ノズル18とを有している。
【0028】
図3は、
図1及
図2に示す生育装置の等価回路である。培地1は上述した通り、電解液相当物質として機能する。また、空気極7と負極8とは、電解液相当物質である培地1を介したイオンのやり取りとは別に、電子のやり取りが可能なように該培土1を介して、電気的に接続されている。この場合、培地1は、高い抵抗値を有する抵抗19として機能し、空気極7と負極8とを電気的に接続する。
【0029】
なお、培地1とは無関係に、前記抵抗19を有する物理的な配線である接続配線21によって、空気極7と負極8とを電気的に接続させてもよい。この場合、空気極7及負極8は、電力を取り出す取出電極になり、一対の取出電極7,8から取り出された直流の電気は、通常の電気と同様、様々に利用することが可能になる。
【0030】
前記空気極7は、空気電池の正極として機能させるための従来公知の構造を有している。例えば、この空気極7は、木炭又は活性炭と、該空気極7の抵抗を低減させる導電助剤である黒鉛又はカーボンブラックと、触媒粒子と、バインダー等とを含み、さらに必要に応じて、これらのものに集電極を組み合わせる。
【0031】
さらには、空気極7として、正極剤と、主材料とを混合させたキューブ、マット又は定植パネルを用いてもよい。前記正極剤は、上述したものと同様に構成され、具体的には、木炭又は活性炭と、該空気極7の抵抗を低減させる導電助剤である黒鉛又はカーボンブラックと、触媒粒子と、バインダー等とが含まれている。主材料は、有機性多孔体としてのピートモス、おがくず、ウレタンフォームから構成されるか、或いは、繊維状多孔体としてのロックウール、グラスウールから構成されるか、或いは、フォーム上多孔質体としてのセラミックフォーム又は発砲ガラスから構成されるか、或いは、無機多孔質性粒子としてのパーライト、バーミュキュライト、焼成珪藻土又はパミスから構成されている。
【0032】
前記負極8を、空気電池の負極として機能させるため、本例では、金属を少なくも一部に含んでいる。ちなみに、本例では、マグネシウムから負極8が構成されている。また、この負極8を、リチウム、マンガン等の空気電池の負極8に一般に使用される金属を含むように構成してもよい。また、これらのものと集電極とを組み合わせて負極8を構成してもよい。
【0033】
前記養液4は、植物Pを効率的に生育させ且つ電解液として機能させ得る複数の成分を含んだ一般的な養液を用いる。例えば、本例では、植物Pの生育を考慮して酸性に設定され、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、第二リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4)、第一リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)、第一リン酸カリウム(KH2PO4)、第二リン酸カリウム(K2HPO4)、リン酸カリウム(K3PO4)、塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸鉄(II)(Fe(NO3)2)、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(CuSO4)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)、硫酸亜鉛(ZnSO4)、ホウ酸(H3BO3)及びモリブデン酸アンモニウム((NH4)2HPO4)の全部又は一部が養液4に含まれている。各成分は0~5重量%の割合で含まれている。
【0034】
本例の空気電池の化学的反応について説明すると、負極8側では以下のような溶解反応が起こる。
【0035】
2Mg→2Mg2++4e-
【0036】
マグネシウムイオン(Mg2+)は電解液相当の培地1側に放出されるとともに、電子(e-)は抵抗19側に流れる。この電子は接続配線21を介して負極8から空気極7に流れる。ちなみに、この接続配線21は、上述した通り、物理的な配線を行う場合もあるが、培地1の機能によって実現させることも可能である。
【0037】
一方、空気導入口2aから空気極7に導入される酸素(O2)と、培地1側からの水(H2O)と、上述のようにして負極8から提供される電子(e-)とによって、該空気極7側では、以下のような反応が起こる。
【0038】
O2+2H2O+4e-→4OH-
【0039】
この水酸化物イオン(OH-)は電解液相当の培地1側に放出される。
【0040】
以上のような化学反応によって起電力が生じ、この空気電池からの直流の電力供給が可能になる。この際、空気極である保持電極7には、アンモニウムイオンやカリウムイオンが供給される。これらのイオンは該保持電極7に保持されている植物Pの根P1や葉P2の成長が促進される。
【0041】
一方、植物の葉P1や図示しない身の成長を促進させたい場合、保持電極を負極8とする。具体的には、培地1の上端側に配置する電極を負極8とし、その下端側に配置する電極を空気極7とする。この際、培地1と土台3に囲まれた空気極7にどのように空気を供給するのかが問題になるが、例えば、外部の空気を受け部3a及び流路3bから空気極7の下面側に導入してもよいし、或いは、培地1に挿入される図示しないエヤノズル等で強制的に外部の空気を空気極7側に導入してもよい。
【0042】
この場合、植物Pが保持された負極7には、リン酸二水素イオンやリン酸水素イオンや硝酸イオン等が供給され、該植物Pの図示しない実や葉P2の成長を促進する。
【0043】
このように保持電極の正極7から負極8、或いは負極8から正極7への切換によって、植物Pを意図したように生育させることも容易になり、有意義である。
【0044】
ところで、空気電池では、放電時等に、負極8から析出される析出物によって、負極8で不導体被膜を形成することを防止する必要があるが、この機能を、植物P自体や、植物Pを安定的に保持するための充填材9に担わせることが可能である。
【0045】
ちなみに、なお、負極に不導体被膜を形成する析出物の析出反応は以下に示す化学式で表される。
【0046】
Mg2++2OH-→Mg(OH)2
【0047】
この水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)が不導体被膜を構成し、空気電池の出力低下等の不具合を発生させる。
【0048】
まず、充填材9によって不導体被膜の形成を防止する手段について具体的に説明すると、
図1に示す通り、繊維状活性炭がフェルト状、クロス状又は格子状に加工されたシート、或いは粉末状の活性炭を
含浸させた崇高不織布製のシートの端部同士を接続させることによって、弾力的且つフレキシブルに変形可能な筒状の充填材本体(捕捉部本体)9aを構成している。この充填材本体9aは、上述した構造によって、液体をゲル状にする凝集剤を
含浸させることが可能であるとともに、前記析出物を捕捉可能なように構成されている。
【0049】
すなわち、前記充填材9は、充填材本体9aと、該充填材本体9aに含浸させた凝集剤とによって構成されている。この充填材9を、植物Pの茎P3の外周面と、空気極7の支持孔7a又は負極8の支持孔(図示しない)の内周面との間に隙間なく密着させて充填している。この充填材9は、保持電極7,8に密着し且つ電解液相当の培地1にも接しているため、前記析出物を効率的に凝集して捕捉し、負極8への不導体被膜の形成を効率的に防止可能である。
【0050】
続いて、植物P自体によって不導体被膜の形成を防止する手段について具体的に説明すると、上述した通り、該植物Pは、陽イオン又は陰イオンを吸収し、これによって余分なイオンが培地1から除外され、負極8からの析出物の析出自体が抑制され、該負極8における不導体被膜の形成が効率的に防止される。
【0051】
ちなみに、保持電極を正極7とする場合、植物Pが帯電して、養分となる陽イオンの植物Pへの吸収を効率的に行うことが可能になり、充填材9は、この効果を増大させる。
【0052】
なお、負極の溶解反応は、以下に示す副反応を生じさせる可能性がある。
【0053】
Mg+2H2O→Mg2++H2
【0054】
この副反応は、上述した正規の反応を阻害し、不導体被膜の形成を促進させ、出力の低下を招く。このような副反応を防止するとともに、負極8からの析出物の析出量を減少させるため、空気極7側の上述した反応速度と、負極8側の上述した反応速度とを、相互に適切に保持させる必要がある。
【0055】
ここで、負極8の正規の溶解反応は、該負極8の表面積、電解液相当物質である培地1の導電率、pH、容量及び温度等の影響を受ける。例えば、負極8の正規の反応速度を増加させたい場合、負極8の表面積を増加させることや、電解液相当物質のpHを小さくすることや、導電率を増加させることによって、これを実現させる。逆に、負極8の正規の反応速度を減少させたい場合には、これらの逆のことを行う。例えば、負極8の表面積を減少させれば、負極8の正規の溶解反応は減少する。
【0056】
一方、空気極7の反応は、該空気極7の表面積、該空気極7への酸素供給量、該空気極7側への過酸化物の配置の有無、電解液相当物質である培地1の導電率等によって調整する。例えば、空気極7の反応速度を増加させたい場合、該空気極7の表面積を増加させることや、該空気極7への酸素供給量の増大や、該空気極7側への過酸化物の配置や、電解液相当物質である培地1の導電率の増加によって、これを実現させる。ちなみに、前記過酸化物の表面は、界面活性剤によって被膜されている。逆に、空気極7の反応速度を減少させたい場合には、これと逆に処置を行う。
【0057】
そして、これらの制御手段によって、電子の需要と供給を基準として、空気極7の反応速度を、負極8の正規の反応速度と同一か、或いはそれ以上に設定することが望ましい。
【0058】
以上のように構成される空気電池によれば、該空気電池からの電気エネルギーを他の電気機器で利用可能であるとともに、適切なイオンの移動によって、植物Pを効率的に生育することが可能になる。特に、空気電池では、電解液の劣化も問題になるが、養液は、新しいものが準備供給されるため、効率よく電気エネルギーを発生させることが可能になる。
【0059】
なお、本実施形態では、土台3を収容部2とは別に設けているが、収容部2に、土台3の機能を一体的に設けてもよい。具体的には、収容部2の底部分に受け部3aを形成し、該受け部3a内の養液は流路3bを排して収容部2の外部に排出するようにしてもよい。
【0060】
また、電解液相当物質として機能する培地1として、養液を含浸させることが可能な土壌を用いてもよい。また、培地1は、定植培地であるが、播種培地であってもよい。
【0061】
また、培地1自体を空気極7とするような手段も考えられる。この場合、培地1としても機能する空気極7に前記養液4を含浸させる。
【0062】
また、空気極7を板状以外の種々の形状(例えば、塊状)に成形することも可能である。例えば、塊状に成形された空気極7でも、上下に貫通する支持孔7aが穿設可能であれば、上述した機能を発揮させることが可能になる。一方、負極8の形状も板状には限定されず、塊状等の種々の形状を採用可能である。負極8は、保持電極として機能させないのであれば、空気極7と培土1を介して対向する位置に配置された複数の粒子状物質でもよく、また、ワイヤー又は紐状物質から構成してもよい。
【0063】
さらに、
図4に示す通り、植物Pを保持する保持手段を支持孔7aのみから構成してもよい。この場合、支持孔7aの内周面に植物Pの茎P3の外周面が嵌合状態で挿入して固定される。すなわち、充填材9が不要になる。
【0064】
次に、
図5乃至
図7に基づき、本発明の別実施形態について上述の形態と異なる部分を説明する。
【0065】
図5,
図6は本発明の別実施形態に係る空気電池の要部側面図及び要部正面図であり、
図7は空気導入手段の構成を示す断面図である。これらの図面に示された空気電池は、水耕栽培用の生育装置である。収容部2は本例では栽培容器である。この栽培容器2の内部は前記養液4で満たされている。すなわち、培地1として養液4自体を用いている。
【0066】
栽培容器2の上端側の開放された部分には、板状に成形された保持電極7,8(図示する例では、空気極7)が嵌合して固定されている。この保持電極7には、定植する複数の植物P毎に支持孔7aが穿設され、各支持孔7aには充填材9が設けられている。この充填材9は、栽培容器2内の養液4に接している。
【0067】
一方、養液4で満たされた栽培容器2の内部の底面側には、保持電極7,8以外の電極7,8(図示する例では、負極8)が位置決め設置されている。
【0068】
循環装置6の回収管12の最上流側の端部は、栽培容器2内の養液4の液面より若干上方を突出しており、該栽培容器2の内部の養液4が所定以上になると、養液4の一部は回収管12の上端側から該回収管12の内部に流入し、タンク11に回収される。タンク11内の養液4は、ポンプ16によって、吐出管14から栽培容器2の内部に再導入される。
【0069】
この循環装置6の吐出管14には、
図7に示す養液に空気を多量に導入する空気導入手段22が設けられている。空気導入手段22は、アスピレーターから構成されている。空気導入手段22は、具体的には、ポンプ16の作用によって、吐出管14の内部に形成された養液4の流動路を、該養液4の流動方向に向かって次第に断面積が減少し、その後に、再び増加して元に戻るような形状に成形することによって、養液4の圧力を減少させる陰圧部22aと、該陰圧部22aにおいて、前記流動方向と交差(直交)する方向に形成されたエア導入孔22bとを有している。
【0070】
陰圧部22aにおける圧力減少によって、養液4に十分な割合のエヤ(酸素)を導入され、この空気の導入によって、養液4に含有された酸素を飽和状態、又はそれに近い状態とする。
【0071】
酸素が十分に含まれた状態の養液4であるため、養液4中に沈められる電極を空気極7とすることも可能であり、この場合には、栽培容器2の開放された上部に嵌め込み固定される電極を負極8とする。
【0072】
なお、栽培容器2の内部の養液4によって、一対の電極7,8の間を満たしているが、養液4の液面を、上方側に位置する電極である空気極7から下方に離れた箇所に位置させることも可能である。この場合、空気極7と、栽培容器2の内部に貯留された養液4とを、該空気極7から栽培容器2の内壁面を伝って流路する養液4等によって、イオンのやり取りが可能に連続させる必要がある。
【0073】
次に、
図8及び
図9に基づいて、空気電池の別実施形態について、上述の形態と異なる部分を説明する。
【0074】
図8は本発明の別実施形態に係る空気電池の構成を示す断面図であり、
図9は
図8の空気極及び負極の構成を示す平面図である。これらの図面に示された空気電池は、収容部2を構成するように扁平な直方体状に成形されたケースを備えている。該ケース2上面側に空気導入口2aが開口して形成されている。この空気導入口2aによって前記ケース2の内外が連通している。
【0075】
このケース2の内部には、板状に成形された負極8と、板状に成形された捕捉部9になるシート材と、板状に成形された空気極7とが、この順番で、前記空気導入口2aから遠い側から近づく側に向かって、順次重ねられた状態で、嵌合して収容されるとともに、該ケース2の内部には電解液4が注入されている。この電解液4は、植物を生育させる養液として使用する必要はないため、空気電池を用いられる一般的な組成が採用され、具体的には、アルカリ性の電解液が用いられる。
【0076】
シート材9を構成するシート材本体(捕捉部本体)9aも、シート状に成形される。このシート材本体9aにも、液体をゲル状とする凝集剤が含有されている。このように構成されるシート材9は、電解液4も含浸させることが可能であり、一対の電極7,8の間に充填されて両者の間のイオンの行き来を可能にする。
【0077】
負極8もシート材9とケース2の内部の底面との間に隙間無く充填された状態になる。空気極7は、シート材9とケース2の内部の天井面底面との間に隙間無く充填された状態になる。
【0078】
空気極7の上面は、空気導入口2aに接した状態になり、その中央部には、下方に窪んだ凹部(収容スペース)7cが形成されている。この凹部7cは、空気導入口2a側である上方に向かって下方し、平面視で円状に成形されている。該凹部7cに、円盤状に成形された過酸化物23が嵌合して収容される。この過酸化物23外面の全体又は一部は界面活性剤によって被膜されている。また、空気極7には、自身をケース2の外部に露出させるシート状の電力取出部7bが一体的に設けられている。
【0079】
一方、負極8にも、複数のスリット8aが形成されている。このスリット8aによって上述した析出物の析出量が少なくなる。また、負極8には、自身をケース2の外部に露出させるシート状の電力取出部8bが一体的に設けられている。
【0080】
一対の電力取出部7b,8bは、ケース2の外部において隣接した状態になる。この一対の電力取出部7b,8bによって、空気電池からの電力を取り出すことが容易になる。
【0081】
また、ケース2の空気導入口2aは、液体は通さず且つ空気は通過させる材料によって構成された閉塞カバー24によって閉塞されている。
【0082】
以上のように構成される空気電池では、空気導入口2aから閉塞カバー24を透過してケース2の内部に導入された空気が空気極7に触れ、該空気極7側での上述した正規の反応が生じる。この際、過酸化物23によって、該反応が促進される。一方、負極8でも、上述した正規の溶解反応が生じる。また、シート材9に含浸された凝集剤によって、電解液4はゲル状をなし、より適切な反応が促進される。
【0083】
これらの反応の速度は上述した手段によって互いに適切に調整されるため、上述したような副反応の発生は極力防止され、適切な出力が維持される。また、この空気電池の充電時、負極8で析出される析出物がシート材9によって捕捉されるため、負極8側におけるデンドライトの形成が効率的に抑制される。
【0084】
次に、
図1乃至
図4に示す実施形態である第1実施形態と、
図5乃至
図7に示す実施形態である第2実施形態との夫々について、より具体的な条件を必要に応じて説明する。
【0085】
第1実施形態及び第2実施形態では、養液4のpHの範囲は4~8に設定する。培地1として土壌を用いる場合、その土壌の導電率は0.1~0.3[mS/cm]の範囲に設定する。養液4の導電率は1~3[mS/cm]の範囲に設定する。正極7と負極8との電気的に接続する接続配線21に流れる電流の値は10[mA]以下に設定する。
【0086】
培地1として養液4自体を用いる第2実施形態に係る空気電池では、養液4中の含まれる空気の量を、空気導入手段22によって飽和溶存酸素量(8.8mg/L,at1気圧20℃)とするか、それに近い値とする。
【0087】
このような条件下で、なす、モロヘイヤ、里芋、人参を、第1実施形態に係る空気電池を用いる方法で生育させた場合と、用いない通常の方法で生育させた売とを比較したところ、優位な差が生じた。ちなみに、培地1としては土壌を用いた。
【0088】
図10は、ナスの根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載されたナスは通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載されたナスは第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。同図によれば、通常の方法で生育させたナスの根は細くて短い一方で、本発明を適用した生育装置によって生育させたナスの根は太くて長いく、両者の間には有意な差が見られた。
【0089】
図11は、モロヘイヤの根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載されたモロヘイヤは通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載されたモロヘイヤは第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。同図に示すモロヘイヤは132日間生育させた結果であり、通常の方法で生育させたモロヘイヤの根は細くて短い一方で、本発明を適用した生育装置によって生育させたモロヘイヤの根は太くて長いく、両者の間には有意な差が見られた。
【0090】
図12は、里芋の根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載された里芋は通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載された里芋は第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。同図に示す里芋は134日間生育させた結果であり、通常の方法で生育させた里芋の根は細くて短い一方で、本発明を適用した生育装置によって生育させた里芋の根は太くて長いく、両者の間には有意な差が見られた。
【0091】
図13は、人参の根の部分の生長の程度を示す写真であって、左側の「通電無し」と記載された里芋は通常の方法により生育させたものであり、右側の「通電有り」と記載された里芋は第1実施形態の生育装置によって生育させたものである。同図によれば、通常の方法で生育させた人参の根は細くて短い一方で、本発明を適用した生育装置によって生育させた人参の根は太くて長いく、両者の間には有意な差が見られた。ちなみに、「通電なし」で生育させた人参の重さは6gなのに対して、「通電あり」で生育させた人参の重さは15.9gであり、顕著な差が見られた。
【0092】
次に、
図8及び
図9に示す実施形態である第3実施形態について、より具体的な条件を必要に応じて説明する。電解液4のpHは7~10の範囲(さらに好ましくは、8~9の範囲)に設定し、導電率は100~300[mS/cm]の範囲に設定し、正極7と負極8とを電気的に接続する接続配線21に流れる電流の値は1[A]以下に設定する。
【0093】
このような条件下で、第3実施形態の空気電池の放電特性を計測したところ、良好な結果が得られた。特に、適切なpHを設定することにより、析出物の析出量が大幅に低減し、錆も効率的に防止される。
【符号の説明】
【0094】
1 培地(電解質相当物質)
2 収容部(栽培容器,ケース)
2a 空気導入口
4 電解液(養液)
6 循環装置(循環手段)
7 空気極(正極、保持電極)
7a 支持孔
7c 凹部(収容スペース)
8 負極(保持電極)
8a スリット
9 捕捉部(充填材,シート材)
9a 充填材本体(捕捉部本体,シート材本体)
19 接続配線
23 過酸化物
P 植物
P3 茎