(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】非水系二次電池正極用の炭素材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241031BHJP
C01B 32/348 20170101ALI20241031BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C01B32/348
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0568
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2020102612
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】松島 真央
(72)【発明者】
【氏名】久米 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒木 崇伸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由紀
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126799(JP,A)
【文献】特開2004-296431(JP,A)
【文献】特開2002-015782(JP,A)
【文献】特表2003-535803(JP,A)
【文献】特開2019-196447(JP,A)
【文献】特開2009-272455(JP,A)
【文献】特開2015-056502(JP,A)
【文献】特開2007-112704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 10/0566
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 10/052
H01M 4/13
C01B 32/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系二次電池正極用の炭素材料であって、
BET比表面積が1100m
2/g~1400m
2/gであり
、
CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmで
あり、かつ
前記結晶子径が、結晶子のa軸の寸法であり、CuKα線を用いたX線回折分析により得られた回折ピークプロファイルから、(10)面からの回折線について半価幅を測定し、Scherrerの式により算出される、
炭素材料
(ただし、BET比表面積が1200m
2
/g以上1650m
2
/g以下であり、かつ前記結晶子径が4.5nm以上である場合を除く)。
【請求項2】
BET比表面積が1150m
2/g~1300m
2/gである、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.85nm~5.15nmである、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
正極活物質層、負極活物質層、セパレータ、及び電解液を有する非水系二次電池であって、
前記正極活物質層は、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素材料を含有しており、かつ
前記電解液は、有機溶媒とリチウム塩を含有している、
非水系二次電池。
【請求項5】
前記有機溶媒が、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン
類の非プロトン性溶媒である、請求項4に記載の非水系二次電池。
【請求項6】
前記リチウム塩が、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
Iから選択される一種又は二種以上のリチウム塩である、請求項4又は5に記載の非水系二次電池。
【請求項7】
下記の工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素材料を製造する方法
:
前駆体炭素材料に対して、賦活処理を行って前記前駆体炭素材料の比表面積を増大させること、及び
前記賦活処理後の前記前駆体炭素材料に対して熱処理を行って、前記前駆体炭素材料の結晶子径を増大させるこ
と。
【請求項8】
前記賦活処理が、650℃~750℃において、前記前駆体炭素材料100質量部に対して150質量部~350質量部の賦活剤を、前記前駆体炭素材料に接触させることを含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理を、1500℃~1690℃の温度で行う、請求項7又は8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池正極用の炭素材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載用電源及びパソコン電源等として、非水系二次電池の需要が高まっている。
【0003】
非水系二次電池の中でも高エネルギー容量を有するリチウムイオン電池では、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制することが課題となっている。
【0004】
低温域でのエネルギー容量の低下を抑制する一つの手段として、例えば特許文献1は、導電性が高いカーボンブラック等の炭素材料に加えて、比表面積が大きい活性炭等の炭素材料を正極活物質層に添加することを開示している。
【0005】
また、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制する他の手段として、非特許文献1は、リチウム塩の濃度が高い電解液を用いることを開示している。
【0006】
ところで、非特許文献2が開示するように、正極活物質層に炭素材料を用いた非水系二次電池では、高電圧時において炭素材料と電解液とが反応してガスを発生させる場合があり、したがって非水系二次電池の使用時におけるガスの発生を抑制することも、求められている。
【0007】
なお、炭素材料を用いた他の例としては、特許文献2~4が開示する技術を挙げることができる。
【0008】
特許文献2は、正極活物質層において、100~250mL/100gの範囲のOANを有し、かつラマン分光法によって測定される、少なくとも30Åの結晶子サイズ(La)を有している、カーボンブラックを用いることを開示している。
【0009】
また、特許文献3は、正極活物質層において、130~700m2/gの範囲のBET表面積及び0.5~1の範囲のSTSA/BET比を有するカーボンブラックを用いることを開示している。
【0010】
また、特許文献4は、正極活物質層において、比表面積が700~1500m2/gの第1炭素材料と比表面積が600m2/g以下の第2炭素材料とを、第1炭素材料の含有量が全炭素材料の質量に対して5質量%~10質量%となるようにして用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-317582号公報
【文献】特表2016-526257号公報
【文献】特表2016-527668号公報
【文献】特開2005-293931号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】J. Wang et. al, “Superconcentrated electrolytes for a high-voltage lithium-ion battery”, Nature Communications, June 29, 2016,7,Article number12032 (2016)
【文献】梶山,”高電圧正極のガス発生抑制を目的とした活物質間と導電材の相互作用の研究”,粉体および粉末冶金,一般社団法人粉体粉末冶金協会,2015年11月,62巻11号,p.538-542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非水系二次電池の低温域でのエネルギー容量の低下を抑制する手段として、特許文献1が開示するように比表面積が大きい活性炭を正極活物質層において用いることが考えられる。
【0014】
しかしながら、活性炭は、結晶径が小さく、その結晶構造において六角網平面の端部が多い。この六角網平面の端部は、結晶構造の他の部分、例えば平面部分よりも高い活性を有しており、電解液と副反応してガスを発生させやすい。
【0015】
また、非特許文献1のように、電解液中のリチウムイオンの量を増加させると、低温域において電解液の粘度が増加した場合においてもエネルギー容量を維持することができる。しかしながら、そのような電解液を用いることは、非水系二次電池の高コスト化につながる。
【0016】
本開示は、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる、非水系二次電池正極用の炭素材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
非水系二次電池正極用の炭素材料であって、
BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであり、かつ
CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである、
炭素材料。
《態様2》
BET比表面積が1150m2/g~1300m2/gである、態様1に記載の炭素材料。
《態様3》
CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.85nm~5.15nmである、態様1又は2に記載の炭素材料。
《態様4》
正極活物質層、負極活物質層、セパレータ、及び電解液を有する非水系二次電池であって、
前記正極活物質層は、態様1~3のいずれか一つに記載の炭素材料を含有しており、かつ
前記電解液は、有機溶媒とリチウム塩を含有している、
非水系二次電池。
《態様5》
前記有機溶媒が、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒である、態様4に記載の非水系二次電池。
《態様6》
前記リチウム塩が、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種又は二種以上のリチウム塩である、態様4又は5に記載の非水系二次電池。
《態様7》
非水系二次電池正極用の炭素材料を製造する方法であって、
炭素材料の前駆体炭素材料に対して、賦活処理を行って前記前駆体炭素材料の比表面積を増大させること、及び
前記賦活処理後の前記前駆体炭素材料に対して熱処理を行って、前記前駆体炭素材料の結晶子径を増大させること、
を含んでおり、
それによって、製造される非水系二次電池正極用の炭素材料は、BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであり、かつCuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである、
製造方法。
《態様8》
前記賦活処理が、650℃~750℃において、前記前駆体炭素材料100質量部に対して150質量部~350質量部の賦活剤を、前記前駆体炭素材料に接触させることを含む、態様7に記載の製造方法。
《態様9》
前記熱処理を、1500℃~1690℃の温度で行う、態様7又は8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる、炭素材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、各例の非水系二次電池正極用の炭素材料の、比表面積と結晶子径との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、各例の非水系二次電池正極用の炭素材料の、サイクリックボルタンメトリーによる電流の測定結果と低温域におけるエネルギー容量の測定結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0021】
《非水系二次電池正極用の炭素材料》
本開示の非水系二次電池正極用の炭素材料は、BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであり、かつCuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである。
【0022】
原理によって限定されるものではないが、本開示の炭素材料を非水系二次電池の正極活物質層の材料として用いることによって、非水系二次電池の低温域でのエネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる原理は、以下のとおりである。
【0023】
非水系二次電池は、低温域では内部抵抗が増大してエネルギー容量が低下する。非水系二次電池の低温域でのエネルギー容量の低下を抑制する手段として、比表面積が大きい炭素材料を正極において用いることが考えられる。
【0024】
炭素材料は、リチウムイオンキャパシタ等において電気的にリチウムイオンを吸着脱して、静電容量を有することが知られており、非水系二次電池の正極活物質層中においても同様と考えられる。したがって、比表面積が大きい炭素材料を正極活物質層に用いることにより、低温域において内部抵抗が増大しても、エネルギー容量の低下を抑制することができる。また、同様に、比表面積が大きい炭素材料を正極活物質層に用いることにより、常温域においても放電時の電圧変化を抑制することができる。
【0025】
上記観点から、従来は、比表面積が大きい炭素材料として、例えば活性炭が正極活物質層において用いられてきた。
【0026】
しかしながら、活性炭は、表面積を増大させるために表面に多数の細孔を有しており、そのため結晶子径が小さい。このように結晶子径が小さいと、活性の高い炭素六面網平面の端部が多くなる。
【0027】
活性炭の大きい比表面積と小さい結晶子径とが相まって、活性炭は電解液と反応しやすい。そのため、活性炭を正極活物質層のための炭素材料として採用した非水系二次電池では、ガス、例えば電解液中の有機溶媒に由来する二酸化炭素ガス等が発生しやすい。
【0028】
非水系二次電池の内部でガスが発生すると、非水系二次電池の外装体が膨れ、更には外装体が破損する等の虞がある。
【0029】
このように、従来の炭素材料では、低温域におけるエネルギー容量の低下の抑制と、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生の抑制とを同時に実現することができなかった。
【0030】
この点に関して、非水系二次電池正極用の本開示の炭素材料は、BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであることによって、比表面積が大きく、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制することができる。加えて、本開示の炭素材料は、CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmであることによって、結晶子径が大きく、したがって活性の高い炭素六面網平面の端部が少ないため、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる。
【0031】
これにより、本開示の炭素材料は、非水系二次電池の低温域でのエネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる。
【0032】
〈BET比表面積〉
本開示の非水系二次電池正極用の炭素材料は、BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gである。
【0033】
BET比表面積が1100m2/g以上であると、非水系二次電池の正極活物質層中において電解液中のリチウムイオンの吸着量を多くすることができ、低温域での非水系二次電池のエネルギー容量の低下をより抑制することができる。他方、BET比表面積が1400m2/g以下であると、炭素材料と電解液との副反応が大きくなりすぎない。
【0034】
本開示の炭素材料のBET比表面積は、1100m2/g以上、又は1150m2/g以上であってよく、1400m2/g以下、1350m2/g以下、又は1300m2/g以下であってよい。
【0035】
本開示の非水系二次電池正極用の炭素炭素材料は、特に、BET比表面積が1150m2/g~1300m2/gであってよい。BET比表面積がこの範囲にある場合には、特に、以下に規定する結晶子径と相まって、低温域での非水系二次電池のエネルギー容量の低下の抑制及び炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生の抑制をバランスよく実現することができる。
【0036】
なお、BET比表面積は、例えばカンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製の比表面積・細孔分布測定装置Quadrabsorb SIを使用して、窒素細孔分布法を用いて求めることができる。具体的には、77.4Kの窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を高めながら、各圧力Pにおける炭素材料の窒素ガス吸着量(cc/g)を測定する。次いで、圧力Pを窒素ガスの飽和蒸気圧Poで除した値を相対圧力P/Poとして、各相対圧力P/Poに対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより吸着等温線を得る。その後、BETプロットを行い、比表面積を算出することができる。
【0037】
〈結晶子径〉
本開示の非水系二次電池正極用の炭素材料は、CuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである。
【0038】
結晶子径が3.50nm以上であると、炭素材料の比表面積が大きい場合であっても、活性の高い炭素六面網平面の端部が少ないため、炭素材料と電解液との反応が起こりにくく、ガスの発生を抑制することができる。また、結晶子径が5.15nm超である場合には、ガス発生の抑制することはできるが、炭素炭素材料の比表面積を十分に大きくすることはできない。
【0039】
言い換えると、結晶子径が上記の範囲にある場合には、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を十分に抑制することができるのに加えて、炭素材料の比表面積を十分に大きくすることができる。したがって、結晶子径が上記の範囲にある場合には、上記の範囲の比表面積と相まって、低温域での非水系二次電池のエネルギー容量の低下の抑制及び炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生の抑制をバランスよく実現することができる。
【0040】
本開示の炭素炭素材料の結晶子径は、3.60nm以上、3.70nm以上、3.80nm以上、3.85nm以上、又は3.90nm以上であってよく、5.15nm以下、5.10nm以下、5.05nm以下、又は5.0nm以下であってよい。
【0041】
本開示の炭素炭素材料は、特に、結晶子径が3.85nm~5.15nmであってよい。
【0042】
本開示の炭素材料の結晶子径、すなわち結晶子のa軸の寸法は、具体的には、CuKα線を用いたX線回折(X-ray Diffraction)分析により得られた回折ピークプロファイルから、(10)面からの回折線について半価幅を測定し、Scherrerの式により算出することができる。
【0043】
《非水系二次電池》
本開示の非水系二次電池は、正極活物質層、負極活物質層、セパレータ、及び電解液を有する非水系二次電池であって、正極活物質層は、本開示の非水系二次電池正極用の炭素材料を含有しており、電解液は、有機溶媒とリチウム塩を含有している。なお、セパレータは、正極活物質層と負極活物質層との間に挟まれて配置されている。本開示の非水系二次電池は、更に正極活物質層と電気的に接続されている正極集電体、及び負極活物質層と電気的に接続されている負極集電体を有していることができる。更には、本開示の非水系二次電池は、正極活物質層、負極活物質層、セパレータ、及び電解液を封止する外装体を有していることができる。
【0044】
本開示の非水系二次電池は、正極活物質層用の材料として本開示の炭素材料を用いていることにより、低温域でのエネルギー容量の低下が抑制されており、かつ炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生が抑制されている。
【0045】
〈正極活物質層〉
本開示の正極活物質層は、正極活物質及び本開示の炭素材料を含有している。
【0046】
正極活物質層は、例えば正極活物質と本開示の炭素材料と共に、随意にバインダ等を適当な溶媒に分散させたペースト又はスラリー状の組成物(正極合材)を正極集電体に付与し、該組成物を乾燥させることにより作製することができる。
【0047】
正極活物質としては、非水系二次電池に用いることができる任意の正極活物質を用いてよい。正極活物質としては、公知の活物質を用いることができる。正極活物質としては、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2、Li(1-x)MnO2、Li(1-x)Mn2O4、Li(1-x)CoO2、Li(1-x)NiO2、V2O5等の化合物をあげることができる。ここで、xは0~1を示す。また、これらの化合物の混合物を正極活物質として用いてもよい。さらに、Li1-xMn2+xO4、LiNi1-xCoxO2等のようにLiMn2O4、LiNiO2の遷移金属元素の一部を少なくとも1種類以上の他の遷移金属元素あるいはLiで置き換えたものを正極活物質としてもよい。
【0048】
正極活物質としては、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2等のリチウム及び遷移金属の複合酸化物がより好ましい。これらの正極活物質は、電子とリチウムイオンの拡散性能に優れる等活物質としての性能に優れているため、高い充放電効率と良好なサイクル特性とを有する電池が得られる。更に、正極活物質としては、材料コストの低さから、LiMn2O4を用いることが好ましい。
【0049】
バインダとしては、例えば水に溶解する水溶性ポリマーや、水に分散するポリマー、非水溶媒(有機溶媒)に溶解するポリマー等から適宜選択して用いることができる。また、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
水溶性ポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0051】
水分散性ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類等が挙げられる。
【0052】
非水溶媒(有機溶媒)に溶解するポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(PEO-PPO)等が挙げられる。
【0053】
バインダの添加量は、正極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよい。
【0054】
〈負極活物質層〉
負極活物質層は、負極活物質を含有している。
【0055】
負極活物質層は、例えば負極活物質と共に、随意にバインダ等を適当な溶媒に分散させたペースト又はスラリー状の組成物(負極合材)を負極集電体に付与し、該組成物を乾燥させることにより作製することができる。
【0056】
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種又は二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。中でも特に、天然黒鉛等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。黒鉛粒子は、電荷担体としてのリチウムイオンを好適に吸蔵することができるため導電性に優れる。また、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからより急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。
【0057】
上記負極活物質層に含まれる負極活物質の量は特に限定されず、好ましくは90質量%~99質量%程度、より好ましくは95質量%~99質量%程度とすることができる。
【0058】
バインダには、上述の正極活物質層と同様のものを、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。バインダの添加量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよい。
【0059】
〈セパレータ〉
セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる各種セパレータを特に制限することなく使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムを好適に使用し得る。該フィルムは単層であってもよく多層であってもよい。かかる樹脂フィルムにチタニア(酸化チタン;TiO2)、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化鉄、セリア、イットリア等のセラミックス粒子を一種又は二種以上含む無機フィラー層が付与されたものを使用してもよい。セパレータの厚みは適宜選択すればよい。
【0060】
セパレータに含浸させる非水電解液は、適当な電解質を非水溶媒に溶解して調製することができる。電解質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる電解質を特に制限なく使用することができる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種又は二種以上のリチウム塩を用いることができる。電解液中の電解質の濃度は特に制限されず、例えば従来のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液の濃度と同等とすることができる。また、上記電解液には、上記電解質に加えて、各種添加剤等を加えてもよい。
【0061】
〈電解液〉
電解液は、有機溶媒とリチウム塩を含有している。
【0062】
有機溶媒は、例えばカーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒であってよい。
【0063】
より具体的には、有機溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン(BL)等の、一般にリチウムイオン二次電池に用いられる有機溶媒を、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
本開示の非水系二次電池の電解液が含有しているリチウム塩は、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種又は二種以上のリチウム塩であってよい。
【0065】
〈集電体〉
正極集電体及び負極集電体に用いられる材料は、特に限定されず、非水系二次電池に使用できるものを適宜採用することができる。例えば、集電体に用いられる材料は、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。なかでも、正極集電体の材料は、アルミニウムであることが好ましく、負極集電体の材料は、銅であることが好ましい。
【0066】
集電体の形状は、特に限定されず、例えば、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。
【0067】
《炭素材料を製造する方法》
本開示の製造方法は、非水系二次電池正極用の炭素材料を製造する方法であって、前駆体炭素材料に対して、賦活処理を行って前駆体炭素材料の比表面積を増大させること、及び賦活処理後の前駆体炭素材料に対して、熱処理を行って前駆体炭素材料の結晶子径を増大させること、を含んでおり、それによって、製造される非水系二次電池正極用の炭素材料のBET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであり、かつCuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである。
【0068】
原理によって限定されるものではないが、本開示の製造方法によって、低温域でのエネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる、非水系二次電池正極用の炭素材料を製造することができる原理は、以下のとおりである。
【0069】
上記の《非水系二次電池正極用の炭素材料》において記載したとおり、BET比表面積が1100m2/g~1400m2/gであり、かつCuKα線を用いたX線回折分析による結晶子径が3.50nm~5.15nmである、炭素材料は、非水系二次電池において、エネルギー容量の低下を抑制しつつ、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生を抑制することができる。
【0070】
本開示の製造方法は、前駆体炭素材料に対して、賦活処理を行うことにより、前駆体炭素材料の表面を粗化して比表面積を増大させ、その後に熱処理によって前駆体炭素材料の結晶子を増大させる。これにより、上記のようなBET比表面積及び結晶子径を有する非水系二次電池正極用の炭素材料を製造することができる。
【0071】
〈前駆体炭素材料〉
本開示の製造方法に用いられる、前駆体炭素材料は、非水系二次電池正極用の炭素材料の材料として用いられる任意の炭素材料であってよい。また、前駆体炭素材料としては、例えば樹脂、ヤシ殻、石炭、コークス、及びピッチ等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0072】
〈賦活処理〉
本開示の製造方法は、前駆体炭素材料に対して賦活処理を行って、前駆体炭素材料の比表面積を増大させることを含む。
【0073】
賦活処理としては、前駆体炭素材料の表面積を増大させることができる任意の賦活処理であってよい。このような処理としては、例えば前駆体炭素材料と賦活剤とを接触させて加熱することを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0074】
賦活処理は、例えば650℃~750℃において、前駆体炭素材料100質量部に対して150質量部~350質量部の賦活剤を、前駆体炭素材料に接触させることを含んでいてよい。
【0075】
賦活処理を加熱炉で行う温度は、600℃以上、675℃以上、又は700℃以上であってよく、750℃以下、又は725℃以下であってよい。
【0076】
賦活処理をマイクロ波で行う場合は、例えば前駆体炭素材料35gの場合、1400W以上、1450W以上、又は1500Wであってよく、1600W以下、又は1550W以下であってよい。
【0077】
また、賦活剤の量は、前駆体炭素材料100質量部に対して、150質量部以上、又は250質量部以上であってよく、350質量部以下、又は320質量部以下であってよい。
【0078】
賦活処理の時間は、1.33時間~4時間であってよい。賦活処理の時間は、1時間以上であってよく、10時間以下、8時間以下、6時間以下、又は4時間以下であってよい。
【0079】
前駆体炭素材料と賦活剤とを接触させる方法としては、特に限定されず、例えば粉末状の前駆体炭素材料と粉末状の賦活剤とを混錬することが挙げられる。
【0080】
賦活剤としては、任意の強アルカリ性の化合物であってよい。賦活剤としては、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物であってよい。より具体的には、賦活剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、又はこれらのうち少なくとも二種の組み合わせであってよい。また、賦活は、水蒸気、二酸化炭素等の気体を用いて行うこともできる。
【0081】
〈熱処理〉
本開示の製造方法は、賦活処理後の前駆体炭素材料に対して熱処理を行い、それによって前駆体炭素材料の結晶性を増大させることを含む。
【0082】
熱処理は、前駆体炭素材料の結晶子径を3.50nm~5.15nmに増大させることができる温度及び時間で行われる。なお、炭素材料の結晶子径の増大は、熱処理の温度及び時間が長ければより増大する傾向にある。したがって、熱処理の温度及び時間は、使用する前駆体炭素材料の材質及び狙いとする熱処理後の結晶子径に合わせて適宜設定することができる。
【0083】
熱処理は、1500℃~1690℃の温度で行われるのが好ましい。
【0084】
炭素材料は、熱処理の温度が1500℃程度から1650℃で結晶子径が特に増大しやすい。したがって、熱処理の温度を1500℃~1650℃とすることで、効率よく結晶子径を増大させることができる。
【0085】
熱処理の温度は、1500℃以上、1525℃以上、1550℃以上、1575℃以上又は1600℃以上であってよく、1650℃以下であってよい。
【0086】
熱処理の時間は、0.03時間~0.7時間であってよい。
【0087】
熱処理の時間は、熱処理の温度が高い程短くてよく、熱処理の温度が低いほど長くて良い。熱処理の時間は、0.03時間以上であってよく、0.7時間以下、0.6時間以下、又は0.5時間以下であってよい。
【実施例】
【0088】
《実施例1~3、参考例1~7、及び比較例1》
〈実施例1〉
(非水系二次電池正極用の炭素材料の調製)
前駆体炭素材料として市販の石炭系原料を用いた。
【0089】
次に、この前駆体炭素材料に賦活処理を行った。具体的には、100質量部の前駆体炭素材料と、256質量部の粉末状水酸化カリウムと、64質量部の水酸化ナトリウムを混合した後、窒素雰囲気下で加熱した。加熱は、ヒロテック社製のマイクロ波加熱炉で、1500Wで1.33時間維持することにより行った。
【0090】
この賦活処理により、前駆体炭素材料を活性炭にした。
【0091】
得られた活性炭を純水でpHが11~12程度になるまで濾過洗浄し、さらに0.1Nの硝酸で酸洗浄を行うことで、活性炭に付着した残留アルカリ成分を除去した。次いで、純水で濾過洗浄を繰り返し、JIS K 1474に基づくpHが6~7になるまで水洗した。次に、活性炭を濾別し、これを乾燥処理に供した。具体的には、活性炭を、115℃で12時間以上に亘って乾燥させた。
【0092】
次いで、乾燥後の活性炭を、ボールミル粉砕機を用いて平均粒子径が3μm程度になるまで粉砕処理した。
【0093】
その後、粉砕処理後の活性炭を、アルゴン雰囲気下で熱処理した。この熱処理においては、富士電波工業製の高温焼成炉を用いて、昇温速度を10℃/分とし、温度が1600℃に達してから、この温度で0.5時間維持した。
【0094】
これにより、実施例1の非水系二次電池正極用の炭素材料を得た。
【0095】
〈実施例2〉
(非水系二次電池正極用の炭素材料の調製)
前駆体炭素材料として、市販されている石炭系原料を用いた。
【0096】
次に、この前駆体炭素材料に賦活処理を行った。具体的には、100質量部の前駆体炭素材料と320質量部の粉末状水酸化カリウムを混合し、窒素雰囲気下で加熱した。加熱は、美濃窯業製の焼成炉で昇温時間を2℃/分とし700℃に達してから4時間維持することで行った。
【0097】
この賦活処理により、前駆体炭素材料を活性炭した。
【0098】
得られた活性炭を純水でpHが11~12程度になるまで濾過洗浄し、さらに0.1Nの硝酸で酸洗浄を行うことで、活性炭に付着した残留アルカリ成分を除去した。次いで、純水で濾過洗浄を繰り返し、JIS K 1474に基づくpHが6~7になるまで水洗した。次に、活性炭を濾別し、これを乾燥処理に供した。具体的には、活性炭を、115℃で12時間以上に亘って乾燥させた。
【0099】
次いで、乾燥後の活性炭を、ボールミル粉砕機を用いて平均粒子径が3μm程度になるまで粉砕処理した。
【0100】
その後、粉砕処理後の活性炭を、アルゴン雰囲気下で熱処理した。この熱処理においては、富士電波工業製の高温焼成炉を用いて、昇温速度を10℃/分とし、温度が1650℃に達してから、この温度で0.5時間維持した。
【0101】
これにより、実施例2の非水系二次電池正極用の炭素材料を得た。
【0102】
〈実施例3〉
(非水系二次電池正極用の炭素材料の調製)
実施例3では、市販されているアルカリ賦活炭(活性炭)を実施例1と同様に粉砕した。具体的には、ボールミル粉砕機を用いて平均粒子径が3μm程度になるまで粉砕処理した。
【0103】
その後、粉砕処理後の活性炭を、アルゴン雰囲気下で熱処理した。この熱処理においては、富士電波工業製の高温焼成炉を用いて、昇温速度を10℃/分とし、温度が1600℃に達してから、この温度で0.03時間維持した。
【0104】
これにより、実施例3の非水系二次電池正極用の炭素材料を得た。
【0105】
〈参考例1~7〉
表1の製造条件に記載のとおりに製造条件を変更したことを除いて、実施例2と同様にして、非水系二次電池正極用の炭素材料を得た。ただし、参考例1及び3では、熱処理のためにハシダ技研工業社製の高温焼成炉を用い、参考例2及び6では、熱処理のために倉田技研社製の焼成炉を用い、参考例4及び7では、熱処理のために富士電波社製の焼成炉を用いた。また、参考例5では、ハシダ技研工業社製の高温焼成炉を用いて1600℃で0.5時間にわたって焼成した後、富士電波社製の高温焼成炉で熱処理した。
【0106】
〈比較例1〉
賦活処理後であって熱処理前の実施例3の活性炭を、比較例1の炭素材料として用いた。
【0107】
〈非水系二次電池の調整〉
各例の非水系二次電池正極用の炭素材料を110℃で2時間に亘って真空乾燥させた。次いで、44質量部の各例の炭素材料と、導電助剤としての44質量部のカーボンブラックと、バインダとしての11質量部のポリフッ化ビニリデンとを溶媒に加え、これを攪拌することにより正極活物質層用スラリーを調製した。続いて、このスラリーを正極集電体上へ塗布し、塗膜を110℃で乾燥させた。正極集電体としては、アルミニウム箔を使用した。以上のようにして、正極集電体と厚さが50μmの正極活物質層とからなる正極積層体を得た。
【0108】
正極積層体を1.77cm2のコイン状に打ち抜いた。このコイン状の正極(作用極)と、負極(対極)としての金属リチウムと、参照極としての金属リチウムと、セパレータと、非水電解質とを用いて三極セルを構築した。具体的には、正極の両面にセパレータを介して負極(対極)を配置し、また参照極として金属リチウムが用いられてなる構成の三極セルを作製した。なお、セパレータには、30μmのセルロース系セパレータを使用した。また、非水電解質としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1の体積比で含む混合溶媒に、リチウム塩としてのLiPF6を約1.5mol/Lの濃度で含有させたものを用いた。
【0109】
〈非水系二次電池正極用の炭素材料の物性の評価〉
(BET比表面積)
各例の非水系二次電池正極用の炭素材料のBET比表面積は、株式会社アントンパール・ジャパン製の比表面積・細孔分布測定装置Quadrasorb SIを使用して、窒素吸着法を用いて求めた。
【0110】
具体的には、77.4Kの窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を高めながら、各圧力Pにおける炭素材料の窒素ガス吸着量(cc/g)を測定した。次いで、圧力Pを窒素ガスの飽和蒸気圧Poで除した値を相対圧力P/Poとして、各相対圧力P/Poに対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより吸着等温線を得た。
【0111】
その後、BETプロットを行い、比表面積を算出した。
【0112】
【0113】
(結晶子径)
各例の非水系二次電池正極用の炭素材料の結晶子径、すなわち結晶子のa軸の寸法は、CuKα線を用いたX線回折(X-ray Diffraction)分析により得られた回折ピークプロファイルから、(10)面からの回折線について半価幅を測定し、Scherrerの式により算出した。
【0114】
【0115】
〈非水系二次電池の性能の評価〉
(低温域でのエネルギー容量)
各例の非水系二次電池の低温域でのエネルギー容量は、以下の方法により算出した。
【0116】
最初に、各例の非水系二次電池を恒温槽内に収容し、-20℃で1時間以上放置して冷却した。
【0117】
冷却した各例の非水系二次電池を北斗電工社製の電池充放電装置HJ-1001SD8に設置して、電圧を3.0Vまで昇圧させ、その後5mA/cm2の定電流でセル電圧が4.4Vになるまで充電し、完了後に10分放置した。その後、5mA/cm2の定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電させた。その際の放電容量から、低温エネルギー容量を算出した。
【0118】
【0119】
(ガス発生の程度)
非特許文献2が開示するように、非水系二次電池の正極活物質層における炭素材料と電解液との副反応によって、ガスが発生する場合がある。この副反応の程度を、非水系二次電池に対してサイクリックボルタンメトリー(CV)を行い、その電流値を測定することによって評価した。
【0120】
具体的には、まず、各例の非水系二次電池を25℃で1時間以上放置し、その後、北斗電工社製のマルチ電気化学測定システムHZ-Proに設置して、セル電圧を3.0Vまで昇圧後、1mV/g/secでセル電圧が4.2Vになるまで電圧を変化させ、アノード反応電流を測定した。その後、1mV/g/secでセル電圧が3.0Vになるまで電圧を変化させ、カソード反応電流を測定した。その最大電圧の4.4Vのアノード反応電流値をサイクリックボルタンメトリー(CV)電流値とした。
【0121】
【0122】
【0123】
上記の表1、並びに
図1及び2で示されているように、BET比表面積が1100m
2/g~1400m
2/gであり、かつ結晶子径が3.50nm~5.15nmである実施例の炭素材料では、低温域におけるエネルギー容量の低下の抑制と、炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生の抑制とを同時に実現することができた。これに対して、BET比表面積及び結晶子径の少なくとも一方がこの条件を満たしていない参考例及び比較例の炭素材料では、実施例の炭素材料のような好ましい効果が得られなかった。特に、比較例1で示されているように、活性炭、すなわち賦活処理をしただけの炭素材料では、BET比表面積が大きく、それによって低温域におけるエネルギー容量の低下の抑制は抑制できたが、結晶子径も大きく、それによって炭素材料と電解液との副反応によるガスの発生は抑制できなかった。