(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】オレフィン重合用触媒およびオレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/64 20060101AFI20241031BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08F4/64
C08F10/00 510
(21)【出願番号】P 2020180631
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭行
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 浩志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-545639(JP,A)
【文献】特開2007-161741(JP,A)
【文献】特開2014-100617(JP,A)
【文献】特開2016-209798(JP,A)
【文献】特開2005-029775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60-4/70
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A-I)および(A-II)を満たすカーボン材料(A)と、
下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
下記一般式(C-
II)で表される遷移金属化合物(C)と
を含むオレフィン重合用触媒。
(A-I)X線光電子分光法(XPS)における窒素原子/炭素原子モル比が0.003以上0.300以下である;
(A-II)窒素原子が置換または導入されたグラフェン構造を有する窒素ドープカーボン材料を含む;
R
a
mAl(OR
b)
n H
p X
q ・・・(B-I)
[一般式(B-I)中、R
a およびR
b は、炭素数1以上15以下の炭化水素基を示し、互いに同一でも異なっていてもよく、Xはハロゲン原子を示し、mは1以上3以下の整数、nは0以上2以下の整数、pは0以上2以下の整数、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。]
【化1】
[一般式(C-II)中、Mは周期表第4族もしくは第5族の遷移金属原子を示し、
R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、およびR
5
は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよく、
R
6
は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1以上3以下の炭化水素基、炭素数4以上のアルキル基、アリール基置換アルキル基、単環性もしくは二環性の環状炭化水素基、アリール基またはハロゲン原子を示し、
nは、Mの価数を満たす1以上4以下の整数であり、
Xは脱離基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、共役ジエン系誘導体基、および孤立電子対で配位可能な中性配位子からなる群より選ばれ、nが2以上の場合は、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項2】
前記一般式(C-
II)におけるMが周期表第4族遷移金属原子である、請求項
1に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項3】
前記要件(A-I)における窒素原子/炭素原子モル比が0.005以上0.100以下である請求項1
または2に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の存在下に、オレフィンを重合させる工程を含むオレフィン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィンを重合させる工程が、エチレンを単独重合させる工程、または、エチレンと炭素数3以上30以下の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合させる工程である請求項
4に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒および該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン材料(炭素材料)をポリオレフィンに配合することで、 ポリオレフィンに高い熱導電性、電気伝導性および耐候性を付与することができる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらのカーボン材料をポリオレフィン中に分散させることは難しいという問題がある。
【0003】
ポリオレフィン中へのカーボン材料の分散性を向上させるために、カーボン材料に金属錯体を担持または含侵させた重合触媒を用いて重合することにより、カーボン材料とポリオレフィンの複合体を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2~4参照)。しかしながら、これらの方法では、いずれも高価なメチルアルミノキサン(MAO)等の有機アルミニウムオキシ化合物を助触媒として用いており、製造コストの低減が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-071079号公報
【文献】特開2006-176601号公報
【文献】特開2007-161741号公報
【文献】特表2005-506404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高価な有機アルミニウムオキシ化合物を用いなくても高い重合活性を示し、かつ、カーボン材料を効率的に分散させたオレフィン重合体を製造することができるオレフィン重合用触媒および該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、特定のカーボン材料と特定の有機アルミニウム化合物を助触媒として用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るオレフィン重合用触媒は、
下記要件(A-I)および(A-II)を満たすカーボン材料(A)と、
下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
下記一般式(C-I)で表される遷移金属化合物(C)と
を含む。
(A-I)X線光電子分光法(XPS)における窒素原子/炭素原子モル比が0.003以上0.300以下である;
(A-II)窒素原子が置換または導入されたグラフェン構造を有する窒素ドープカーボン材料を含む;
Ra
mAl(ORb)n Hp Xq ・・・(B-I)
[一般式(B-I)中、Ra およびRb は、炭素数1以上15以下の炭化水素基を示し、互いに同一でも異なっていてもよく、Xはハロゲン原子を示し、mは1以上3以下の整数、nは0以上2以下の整数、pは0以上2以下の整数、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。]
LmMXn・・・(C-I)
[式(C-I)中、Mは周期表第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族原子、およびランタニド原子からなる群より選択される原子であり、
Lは配位子であり、複数のLは互いに同一でも異なっていてもよく、L中の置換基により複数のLが繋がっていてもよいが、少なくとも1つのLには、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄およびセレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子が含まれ、
mは2以上の整数であり、
nは、Mの価数を満たす1以上4以下の整数であり、
Xは脱離基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、共役ジエン系誘導体基、孤立電子対で配位可能な中性配位子から選ばれ、nが2以上の場合は、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高価な有機アルミニウムオキシ化合物を用いなくても高い重合活性を示し、かつ、カーボン材料を効率的に分散させたオレフィン重合体を製造することができるオレフィン重合用触媒および該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】カーボン材料(A)の製造に用いる液中プラズマ発生装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[オレフィン重合用触媒]
本発明のオレフィン重合用触媒は、
下記要件(A-I)および(A-II)を満たすカーボン材料(A)と、
下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
下記一般式(C-I)で表される遷移金属化合物(C)と
を含むことを特徴とする。
【0011】
(A-I)X線光電子分光法(XPS)における窒素原子/炭素原子モル比が0.003以上0.300以下である。
(A-II)窒素原子が置換または導入されたグラフェン構造を有する窒素ドープカーボン材料を含む。
【0012】
Ra
mAl(ORb)n Hp Xq ・・・(B-I)
前記一般式(B-I)中、Ra およびRb は、炭素数1以上15以下の炭化水素基を示し、互いに同一でも異なっていてもよく、Xはハロゲン原子を示し、mは1以上3以下の整数、nは0以上2以下の整数、pは0以上2以下の整数、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。
【0013】
LmMXn・・・(C-I)
前記一般式(C-I)中、Mは周期表第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族原子、およびランタニド原子からなる群より選択される原子を示し、Lは配位子であり、複数のLは互いに同一でも異なっていてもよく、L中の置換基により複数のLが繋がっていてもよいが、少なくとも1つのLには、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄およびセレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子が含まれ、mは2以上の整数であり、nは、Mの価数を満たす1以上4以下の整数であり、Xは脱離基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、共役ジエン系誘導体基、および孤立電子対で配位可能な中性配位子からなる群より選ばれ、nが2以上の場合は、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。
【0014】
以下、本発明のオレフィン重合用触媒を構成する各成分について説明する。
<カーボン材料(A)>
本発明に用いられるカーボン材料(A)は、下記要件(A-I)および(A-II)を満たす。
【0015】
(A-I)X線光電子分光法(XPS)における窒素原子/炭素原子モル比が0.003以上0.300以下、好ましくは0.004以上0.200以下、より好ましくは0.005以上0.100以下である。
【0016】
窒素原子/炭素原子モル比は、X線光電子分光法(XPS)測定により得られる値であり、具体的には、カーボン材料(A)から得られるスペクトルの窒素原子および炭素原子のピーク強度より、窒素原子/炭素原子モル比を算出して得られる。
【0017】
窒素原子/炭素原子モル比が高くなるほど、後述する遷移金属化合物(C)から生じるカチオンへの配位が促進されるため好ましいが、窒素原子/炭素原子モル比が高すぎると、前記カーボン材料(A)中のグラフェン構造が減少する傾向にある。
【0018】
(A-II)窒素原子が置換または導入されたグラフェン構造を有する窒素ドープカーボン材料を含む。
窒素ドープカーボン材料とは、炭素材料に窒素原子が導入された材料であり、典型的には、グラフェン構造における炭素原子の位置に窒素原子がドープ(置換または導入)された構造を有する。この窒素ドープカーボン材料を、炭素材料の表面の少なくとも一部に含むことが、前記カーボン材料(A)として好ましい。
【0019】
本発明で用いられるカーボン材料(A)における前記窒素ドープカーボン材料以外の炭素材料、および前記窒素ドープカーボン材料における窒素原子をドープさせる炭素材料は、その構造の少なくとも一部にグラフェン構造を有する炭素材料であれば特に制限することなく使用することができる。このような炭素材料としては、結晶性が相対的に低い炭素質と、結晶性が相対的に高い黒鉛質のいずれであってもよい。一例として、グラフェン、グラフェンがファンデルワース力によって1~10枚程度積層したグラフェンフレーク、グラフェンフレークよりも積層数が覆い黒鉛、シート状グラフェンが筒状に丸まった形態のカーボンナノチューブ、複数のグラフェンシートが同心球殻状に閉じた構造をしたオニオンライクカーボン、シート状グラフェンをらせん状に巻いた形状のカーボンナノスクロール、シート状グラフェンをホーン(角)状に丸めた形態のカーボンナノホーン、シート状グラフェンをコーン(円錐)状に丸めた形態のカーボンナノコーン、シート状グラフェンが任意の断面形状で基板に垂直に成長した形態のカーボンナノウォール、多数のグラファイト結晶子からなるカーボンブラック等が例示される。炭素材料は、一次粒子が多数集合した集合体であってもよいし、この一次粒子が強く凝集した強凝集体(アグリゲート)であってもよいし、弱く凝集した弱凝集体であってもよい。これらの炭素材料は、従来公知の方法で製造したものを使用でき、市販品を用いてもよい。
【0020】
前記カーボン材料(A)は、前記炭素材料に表面改質または修飾処理(例えば、官能基導入、酸化処理、還元処理)が施されたものでもよく、金属などが内包されたものでもよく、炭素原子の一部が別の原子に置換されたものでもよい。
【0021】
窒素原子が置換または導入されたグラフェン構造を有する窒素ドープカーボン材料の製造方法としては、「ACS NANO,2010,1790」等に例示される、炭素材料に窒素雰囲気下でプラズマ処理を行う方法、特開2014-100617号公報、特開2019-189495号公報等に例示される、化学組成に炭素と窒素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物にプラズマ処理を行う方法などが挙げられる。
【0022】
環構造を有する環式化合物とは、化学構造において構成原子が少なくとも一つの環状に結合した有機化合物の一群を意味する。すなわち、炭素骨格を基本とした環構造を有する有機化合物を総称するものである。したがって、前記環式化合物は、一つの分子中に一つの環が存在する単環化合物や、2以上の環が存在する多環化合物であってよく、また、1種類の原子により環が構成される単素環式化合物や、2種以上の原子により環が構成される複素環式化合物等の多様な環式化合物であってよい。さらに、共役不飽和環構造を有する芳香族環状化合物(典型的には、芳香族炭化水素)や、芳香族性を有しない飽和または不飽和の炭素環を1以上含む脂環式化合物であってよい。好ましくは、不飽和結合を少なくとも一つ有する環状化合物である。かかる環構造を構成する原子の数には制限はなく、例えば、小員環、中員環または大員環を有する化合物であってよく、典型的には、3員環~10員環程度の環式化合物を考慮することができる。
【0023】
窒素ドープカーボン材料の製造方法の好ましい一態様として、5員環または6員環あるいはその両方を化学構造に有する前記環式化合物を含む液中でプラズマを発生させる方法が挙げられる。
【0024】
上記のような方法で得られる窒素ドープカーボン材料は、原料化合物である前記環式化合物の構造を基本として、これがいくつか重合された化学構造を有していると考えられる。例えば、一例として、グラフェン構造の端部において、6員環のピリジン型の構造や、5員環のピロール型の構造を形成しつつ存在することができる。したがって、本発明で用いる原料化合物においても、5員環または6員環の環構造を有するものであると、窒素原子を好適にグラフェン構造内に導入することができるために好ましい。かかる環式化合物は、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であってもよいし、環構造に炭素以外の原子を含む複素環式化合物であってもよい。また前記環式化合物中に炭素、窒素以外の原子を含んでいてもよい。具体的には、ピロール、ピロリジン、イミダゾール、チアゾール、ピペリジン、ピリジン、2-シアノピリジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キサキノリン、シンノリン、プテリジン、インドール、プリン、アニリン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミンやこれらの誘導体が好適例として挙げられ、これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0025】
前記環式化合物は、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、各種の有機官能基であってよく、例えば、一例として、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲノ基、ケイ素含有官能基、硫黄含有官能基、窒素含有官能基、リン含有官能基が挙げられる。より好ましくは、例えば、炭素数1~10の直鎖,分岐又は環状のアルキル基,ビニル基,アリール基等に代表される炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、フルオロ基,クロロ基,ブロモ基等のハロゲノ基、アルキルシリル基等に代表されるケイ素含有官能基、チオール基、スルホ基等に代表される硫黄含有官能基、アルデヒド基、ニトロ基等に代表される窒素含有官能基、ホスホン酸基等に代表されるリン含有官能基が挙げられる。
【0026】
また、前記環式化合物は、上述した環式化合物を構造の一部に含む形態のものであってもよい。例えば、ピリジンを構造の一部に含むビピリジン化合物やフェニルピリジン化合物等のような化合物であってよい。また、例えば、ピロールやチオフェンが、それぞれ複数結合した形態のポリピロールやポリチオフェン等に代表されるポリマー等であってよい。
【0027】
以上のことからも明らかなように、前記原料化合物には、異種元素としてでなければ、水素および酸素が当然のものとして含まれ得る。
前記原料化合物は、例えば、常温常圧(典型的には、25℃、1atm。以下同じ)において液体であり得る。このことから、原料化合物を含む液(液相)としては、原料化合物100%からなる液体を用いることができる。また、かかる原料化合物が適切な溶媒で希釈された溶液であってもよい。この場合の溶媒は特に制限されず、水、アルコールやベンゼン等の有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒等であってよい。なお、原料化合物が常温常圧において固体である場合には、これを適切な溶媒に溶解した溶液や、原料化合物を微視的に分散させた分散液の形態であってよい。液中に含まれる原料化合物の量は、適宜に調整することができる。
【0028】
窒素ドープカーボン材料の製造方法の好ましい一態様として、前記前記原料化合物を含む液中に一対の線状電極を配置し、前記プラズマは、前記電極間にパルス幅0.1μs以上5μs以下、繰り返し周波数10Hz以上150Hz以下のパルス電圧を印加することで発生させる方法が挙げられる。このような構成によれば、線状電極間に生じるジュール熱によって液中に発生する気泡の大部分を水面に向かって浮上させることなく、液中に安定した状態で維持することができ、この気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態でカーボン系触媒を製造することができる。
【0029】
カーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様として、上記プラズマは、グロー放電プラズマであることが挙げられる。液中で発生されるプラズマは、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電の形態であり得る。なかでも、液中プラズマのより好ましい形態としてグロー放電プラズマを前記窒素ドープカーボン材料の製造に利用することができる。これにより、非平衡な低温プラズマを発生させることができ、前記原料化合物の有する構造を破壊することなく、効率的に窒素ドープカーボン材料の合成を行うことができる。
【0030】
前記プラズマを、前記原料化合物を含む液中で発生させることで、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用によって、液中に含まれる前記原料化合物の重合反応と、炭素骨格の形成とが実現される。このようにして製造される前記窒素ドープカーボン材料は、その具体的な組成や構造に関わらず、プラズマによる処理が進行するにつれて人間の目にはほぼ無色透明であった液が褐色を経て黒色に変化することから、典型的には有機質からなる原料化合物が無機炭素へと転換されることが確認できる。この現象は、セルロース等の有機高分子材料等において、炭化が進むに従い酸素や水素が失われて炭素濃度が上がり、外観が褐色から黒色に変わってゆくのと同様の変化である。
【0031】
本発明に用いられるカーボン材料(A)は、前記プラズマ処理により得られる窒素ドープカーボン材料をそのまま用いてもよいし、メンブレンフィルタなどでろ過、オーブンなどでの加熱乾燥、乳鉢での粉砕処理などを行ってから用いてもよい。また、前記原料化合物を含む液中に固体状の前記炭素材料を加えた後に、前記前記プラズマ処理を行うことにより、前記炭素材料の表面の少なくとも一部が前記窒素ドープカーボン材料で覆われたものをカーボン材料(A)として用いてもよい。
【0032】
<有機アルミニウム化合物(B)>
本発明で用いられる有機アルミニウム化合物(B)は、下記一般式(B-I)で表される化合物である。
【0033】
Ra
mAl(ORb)n Hp Xq ・・・(B-I)
式(B-I)中、Ra およびRb は、炭素数1以上15以下の炭化水素基を示し、互いに同一でも異なっていてもよく、Xはハロゲン原子を示し、mは1以上3以下の整数、nは0以上2以下の整数、pは0以上2以下の整数、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。
【0034】
炭素数1以上15以下の炭化水素基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基などである。
【0035】
前記有機アルミニウム化合物(B)の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド;メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド;ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジヒドロフェニルアルミニウムハイドライド、ジイソプロピルアルミニウムハイドライド、ジ-n-ブチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジイソヘキシルアルミニウムハイドライド、ジフェニルアルミニウムハイドライド、ジシクロヘキシルアルミニウムハイドライド、ジ-sec-ヘプチルアルミニウムハイドライド、ジ-sec-ノニルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド;ジメチルアルミニウムエトキキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソプロピルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0036】
上記の中では、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドが特に好ましい。
【0037】
<遷移金属化合物(C)>
本発明で用いられる遷移金属化合物(C)は、下記一般式(C-I)で表される化合物である。
【0038】
LmMXn・・・(C-I)
式(C-I)中、Mは周期表第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族原子、およびランタニド原子からなる群より選択される原子である。好ましくは、周期表第4族遷移金属原子であり、具体的にはチタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子である。
【0039】
Lは配位子であり、複数のLは互いに同一でも異なっていてもよく、L中の置換基により複数のLが繋がっていてもよいが、少なくとも1つのLには、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄およびセレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子が含まれる。中でも、L中のホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄およびセレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子が前記Mと共有結合または配位結合していることが好ましい。さらに前記Mと結合する原子が、窒素原子、酸素原子であることが特に好ましい。
mは2以上の整数であり、好ましくは2である。
nは、Mの価数を満たす1以上4以下の整数であり、好ましくは1または2である。
【0040】
Xは脱離基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、共役ジエン系誘導体基、および孤立電子対で配位可能な中性配位子からなる群より選ばれる。nが2以上の場合は、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。好ましくは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基または共役ジエン系誘導体基である。
前記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる、好ましくは塩素または臭素である。
【0041】
前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、iso-プロピル基、sec-ブチル基(ブタン-2-イル基)、tert-ブチル基(2-メチルプロパン-2-イル基)、iso-ブチル基(2-メチルプロピル基)、ペンタン-2-イル基、2-メチルブチル基、iso-ペンチル基(3-メチルブチル基)、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、シアミル基(1,2-ジメチルプロピル基)、iso-ヘキシル基(4-メチルペンチル基)、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、テキシル基(2,3-ジメチルブタ-2-イル基)、4,4-ジメチルペンチル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基;
ビニル基、アリル基、プロペニル基(プロパ-1-エン-1-イル基)、iso-プロペニル基(プロパ-1-エン-2-イル基)、アレニル基(プロパ-1,2-ジエン-1-イル基)、ブタ-3-エン-1-イル基、クロチル基(ブタ-2-エン-1-イル基)、ブタ-3-エン-2-イル基、メタリル基(2-メチルアリル基)、ブタ-1,3-ジエニル基、ペンタ-4-エン-1-イル基、ペンタ-3-エン-1-イル基、ペンタ-2-エン-1-イル基、iso-ペンテニル基(3-メチルブタ-3-エン-1-イル基)、2-メチルブタ-3-エン-1-イル基、ペンタ-4-エン-2-イル基、プレニル基(3-メチルブタ-2-エン-1-イル基)などの直鎖状または分岐状のアルケニル基もしくは不飽和二重結合含有基;
エチニル基、プロパ-2-イン-1-イル基、プロパルギル基(プロパ-1-イン-1-イル基)などの直鎖状または分岐状のアルキニル基もしくは不飽和三重結合含有基; ベンジル基、2-メチルベンジル基、4-メチルベンジル基、2,4,6-トリメチルベンジル基、3,5-ジメチルベンジル基、クミニル基(4-iso-プロピルベンジル基)、2,4,6-トリ-iso-プロピルベンジル基、4-tert-ブチルベンジル基、3,5-ジ-tert-ブチルベンジル基、1-フェニルエチル基、ベンズヒドリル基(ジフェニルメチル基)、クミル基などの芳香族含有直鎖状または分岐状のアルキル基および不飽和二重結合含有基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロヘプタトリエニル基、ノルボルニル基、ノルボルネニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基などの環状飽和炭化水素基;
フェニル基、トリル基(メチルフェニル基)、キシリル基(ジメチルフェニル基)、メシチル基(2,4,6-トリメチルフェニル基)、クメニル基(iso-プロピルフェニル基)、ジュリル基(2,3,5,6-テトラメチルフェニル基)、2,6-ジ-iso-プロピルフェニル基、2,4,6-トリ-iso-プロピルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、3,5-ジ-tert-ブチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、terフェニル基、ビナフチル基、アセナフタレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フェロセニル基などの芳香族置換基(アリール基)
が挙げられる。前記炭化水素基の中でも、メチル基、iso-ブチル基、ネオペンチル基、シアミル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基が好ましい。
【0042】
前記ハロゲン含有基としては、例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、トリフルオロフェニル基、テトラフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、ビストリフルオロメチルフェニル基、ヘキサクロロアンチモン酸アニオンなどが挙げられる。前記ハロゲン含有基の中でも、ペンタフルオロフェニル基が好ましい。
【0043】
前記ケイ素含有基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ-iso-プロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、トリメチルシリルメチル基などが挙げられる。前記ケイ素含有基の中でも、トリメチルシリルメチル基が好ましい。
【0044】
前記酸素含有基としては、例えば、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、アリルオキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ベンジルオキシ基、メトキシメトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、2,6-ジ-iso-プロピルフェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基、2,4,6-トリメチルフェノキシ基、2,4,6-トリ-iso-プロピルフェノキシ基などのアリーロキシ基、フリル基、ベンゾフリル基、テトラヒドロフリル基、ピラニル基、テトラヒドロピラニル基、アセトキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、トリフルオロアセトキシ基、過塩素酸アニオン、過ヨウ素酸アニオンなどが挙げられる。前記酸素含有基の中でも、メトキシ基、エトキシ基、iso-プロポキシ基、tert-ブトキシ基が好ましい。
【0045】
前記硫黄含有基としては、例えば、メシル基(メタンスルフォニル基)、フェニルスルホニル基、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、トリフリル基(トリフルオロメタンスルホニル基)、ノナフリル基(ノナフルオロブタンスルホニル基)、チオフェニル基、メシラート基(メタンスルホナート基)、トシラート基(p-トルエンスルホナート基)、トリフラート基(トリフルオロメタンスルホナート基)、ノナフラート基(ノナフルオロブタンスルホナート基)、チオフェン基、ベンゾチオフェン基などが挙げられる。前記硫黄含有基の中でも、トリフラート(トリフルオロメタンスルホナート)が好ましい。
【0046】
前記窒素含有基としては、例えば、アミノ基、シアノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アリルアミノ基、ジアリルアミノ基、ベンジルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ニトロ基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリル基、ピロリル基、ビストリフリルイミド基、ピリジニル基、ピリミジニル基、キノリニル基、トリアジニル基、オキサゾリン基、イミダゾール基、インドール基、カルバゾール基などが挙げられる。前記窒素含有基の中でも、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジニル基、ピロリル基、ビストリフリルイミド基が好ましい。
【0047】
前記リン含有基としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸アニオンなどが挙げられる。
前記ホウ素含有基としては、例えば、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸アニオン、(メチル)(トリス(ペンタフルオロフェニル))ホウ酸アニオン、(ベンジル)(トリス(ペンタフルオロフェニル))ホウ酸アニオン、テトラキス((3,5-ビストリフルオロメチル)フェニル)ホウ酸アニオン、BR4(Rはそれぞれ独立に水素、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子等を示す。)で表される基などが挙げられる。
【0048】
前記アルミニウム含有基としては、例えば、
【化1】
で表される四員環、あるいは
【化2】
で表される四員環
(Mは、前記一般式[3]または[4]中のMを表す。)
を形成可能な、AlR
4(Rは水素、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはハロゲン原子等を示す)で表される基などが挙げられる。
【0049】
前記共役ジエン系誘導体基としては、例えば、1,3-ブタジエニル基、イソプレニル基(2-メチル-1,3-ブタジエニル基)、ピペリレニル基(1,3-ペンタジエニル基)、2,4-ヘキサジエニル基、1,4-ジフェニル-1,3-ペンタジエニル基、シクロペンタジエニル基など、メタロシクロペンテン基などが挙げられる。
【0050】
孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類、トリエチルアミン、ジエチルアミンなどのアミン類、ピリジン、ピコリン、ルチジン、オキサゾリン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、チオフェンなどの複素環式化合物、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィンなどの有機リン化合物が挙げられる。
【0051】
前記炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、共役ジエン系二価誘導体基、孤立電子対で配位可能な中性配位子は、さらに別の置換基で置換されていてもよい。
【0052】
このような遷移金属化合物(C)としては、例えば、特開2003-206310号公報、特開2020-117711号公報、特表2009-537656号公報、特表2017-520548号公報、特開2004-269825号公報、特開2011-127121号公報、特表2016-527182号公報、特表2017-535518号公報などに記載されている遷移金属化合物が挙げられ、好ましくは下記一般式(C-II)で表される遷移金属化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
前記一般式(C-II)において、Mは周期表第4族もしくは周期表第5族遷移金属原子を示し、具体的には、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、バナジウム原子、ニオブ原子、タンタル原子である。好ましくは周期表第4族遷移金属原子、具体的にはチタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子であり、特に好ましくはチタン原子またはジルコニウム原子である。
【0055】
なお、前記一般式(C-II)において、窒素原子(N)とMとを繋ぐ点線は、一般的には、窒素原子(N)がMに配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
【0056】
R1、R2、R3、R4およびR5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0057】
前記ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基の具体例としては、前記一般式(C-I)におけるXとして例示したものと同様のものが挙げられ、前記ゲルマニウム含有基または前記スズ含有基としては、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムまたはスズに置換した基が挙げられる。加えて、前記炭化水素基中の置換基として、前記ハロゲン含有基、前記ケイ素含有基、前記酸素含有基、前記硫黄含有基、前記窒素含有基、前記リン含有基、前記ホウ素含有基を有する構造もR1、R2、R3、R4、R5として例示できる。
【0058】
前記炭化水素基としては、特に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素数1以上30以下、好ましくは1以上20以下の直鎖状または分岐状のアルキル基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、terフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素数6以上30以下、好ましくは6以上20以下のアリール基;
これらのアリール基にハロゲン原子、炭素数1以上30以下、好ましくは1以上20以下のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数6以上30以下、好ましくは6以上20以下のアリール基もしくはアリーロキシ基などの置換基が1~5個置換した置換アリール基が好ましい。
【0059】
R1は、オレフィン重合触媒活性の観点および高分子量のエチレン系重合体を与えるという観点から、炭素数1以上20以下の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基、炭素数3以上20以下のアルキル基および炭素数6以上20以下のアリール基から選ばれる基であることが好ましい。
【0060】
R6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1以上3以下の炭化水素基、炭素数4以上のアルキル基、アリール基置換アルキル基、単環性もしくは二環性の環状炭化水素基、アリール基およびハロゲン原子から選ばれる。これらのうち、オレフィン重合触媒活性の観点、高分子量のエチレン重合体を与えるという観点から、炭素数4以上のアルキル基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の環状炭化水素基およびアリール基から選ばれる基であることが好ましく、より好ましくはtert-ブチル基などの分岐状のアルキル基;ベンジル基、1-メチル-1-フェニルエチル基(クミル基)、1-メチル-1,1-ジフェニルエチル基、1,1,1-トリフェニルメチル基(トリチル基)などのアリール置換アルキル基;シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロドデシル基などの炭素数6以上15以下の環構造を有する環状炭化水素基が挙げられる。
【0061】
Xは脱離基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子からなる群より選ばれる置換基であり、該アニオン配位子が、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基または共役ジエン系誘導体基である。nが2以上の場合は、複数のXは互いに同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。 好ましくは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上20以下の炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基または共役ジエン系誘導体基である。
【0062】
Xの具体例としては、前記一般式(C-I)におけるXとして例示したものと同様のものが挙げられる。
nは、Mの価数を満たす1~4の整数であり、好ましくは1または2である。
【0063】
前記要件(A-I)および(A-II)を満たすカーボン材料(A)と、
前記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
前記一般式(C-I)で表される遷移金属化合物(C)と
を含む、本発明のオレフィン重合用触媒は、カーボン材料を効率的に分散させたオレフィン重合体を、高い重合活性で製造することができる。
【0064】
本発明の効果が奏される理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
遷移金属化合物(C)が触媒活性を示すためには電子的に中性の遷移金属化合物(C)から脱離基(式(C-I)におけるX)を化学的に引き抜き、カチオンを形成させる必要があるものの、有機アルミニウム化合物(B)のみを遷移金属化合物(C)と接触させた場合には、遷移金属化合物(C)における中性とカチオンの平衡が中性側に偏るため、低い触媒活性となることが「Chem.Rev.,2000,100,1391」等に示されている。この平衡をカチオン側に偏らせるためには、遷移金属化合物(C)から生じるカチオンを物理的もしくは電子的に遮蔽する必要があり、本発明のカーボン材料(A)は、主にsp2結合炭素により形成される二次元シート構造内に導入された窒素原子が、遷移金属化合物(C)から生じるカチオンに配位することで、カチオンを物理的もしくは電子的に遮蔽している、と推察される。特に電気陰性度の高いヘテロ原子を有する遷移金属化合物(C)においては、カチオン性が強まることでカーボン材料(A)中の窒素原子の配位を促進している、と考えられる。
【0065】
<オレフィン重合用触媒の調製方法>
本発明のオレフィン重合用触媒は、前記カーボン材料(A)、前記有機アルミニウム化合物(B)および前記遷移金属化合物(C)を接触させることにより調製される固体触媒成分(X)が好ましい態様の一つである。
【0066】
前記有機アルミニウム化合物(B)および前記遷移金属化合物(C)は液体状であれば不活性溶媒を用いて希釈し、固体状であれば不活性溶媒に溶解させ、前記カーボン材料(A)と接触させることが好ましい。不活性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、へキサン、ヘプタン、デカン等の脂肪族飽和炭化水素、シクロへキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物を例示できる。
【0067】
前記カーボン材料(A)、前記有機アルミニウム化合物(B)および前記遷移金属化合物(C)の接触方法は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、前記カーボン材料(A)に前記有機アルミニウム化合物(B)または前記遷移金属化合物(C)を含む不活性溶媒を添加し前記カーボン材料(A)の細孔内に含侵させる方法、前記カーボン材料(A)を前記有機アルミニウム化合物(B)または前記遷移金属化合物(C)を含む不活性溶媒に浸して静置する方法、前記カーボン材料(A)と、前記有機アルミニウム化合物(B)または前記遷移金属化合物(C)を含む不活性溶媒とを撹拌などにより混合する方法、前記カーボン材料(A)に前記有機アルミニウム化合物(B)または前記遷移金属化合物(C)を含む不活性溶媒を流通させる方法などが挙げられ、前記カーボン材料(A)は、固体状の支持体(粉末、造粒粒子、繊維やフィルムなども含む)に物理的もしくは化学的に固定化された状態のものを用いても良く、接触の際に加熱操作を行ってもよい。
【0068】
この内、前記カーボン材料(A)と前記有機アルミニウム化合物(B)または前記遷移金属化合物(C)を含む不活性溶媒とを撹拌などにより混合する方法が好ましく、接触操作の後、必要に応じて接触液を静置させて上澄みを抜く、もしくはろ過等の方法により前記不活性溶媒を除き、必要に応じて前記不活性溶媒で洗浄してもよい。
【0069】
加熱操作を行う場合の温度は、用いる溶媒にもよるが通常、その溶媒の凝固点温度以上200℃以下、好ましくは150℃以下である。接触時間は、接触方法や温度にもよるが通常、30秒以上1000時間以下、好ましくは5分以上120時間以下である。
【0070】
前記接触方法におけるいずれの工程においても、成分(G)を共存させることにより、重合反応中のファウリングをさらに高度に抑制したり、生成重合体の粒子性状をさらに改善したりすることができる。成分(G)としては、極性官能基を有する化合物を用いることができ、非イオン性(ノニオン)界面活性剤が好ましく、ポリアルキレンオキサイドブロック、高級脂肪族アミド、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、N-アシルアミノ酸がより好ましい。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
前記カーボン材料(A)、前記有機アルミニウム化合物(B)および前記遷移金属化合物(C)の接触順序は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、
前記カーボン材料(A)と、前記有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる工程(1-1)と、
前記工程(1-1)で得られた接触物と、前記遷移金属化合物(C)とを接触させて固体触媒成分(X)を得る工程(1-2)とを含む方法や、
前記遷移金属化合物(C)と、前記有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる工程(2-1)と、
前記工程(2-1)で得られた接触物と、前記カーボン材料(A)とを接触させて固体触媒成分(X)を得る工程(2-2)とを含む方法や、
前記カーボン材料(A)と、前記有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる工程(3-1)と、
前記遷移金属化合物(C)と、前記有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる工程(3-2)と、
前記工程(3-1)で得られた接触物と、前記工程(3-2)で得られた接触物とを接触させて固体触媒成分(X)を得る工程(3-3)とを含む方法などが挙げられる。この時、前記工程(3-1)と前記工程(3-2)で用いる前記有機アルミニウム化合物(B)は同一でも異なっていてもよい。
【0072】
前記工程(1-1)、(3-1)において、前記有機アルミニウム化合物(B)は、前記カーボン材料(A)1g当たり、好ましくは0.1mmol以上500mmol以下、より好ましくは0.2mmol以上200mmol以下、さらに好ましくは0.5mmol以上100mmol以下の範囲で用いることができる。
【0073】
前記工程(2-1)、(3-2)において、前記有機アルミニウム化合物(B)は、前記遷移金属化合物(C)1mmоl当たり、好ましくは0.1mmol以上3000mmol以下、より好ましくは0.5mmol以上1000mmol以下、さらに好ましくは1mmol以上500mmol以下の範囲で用いることができる。
【0074】
前記工程(1-2)、(2-2)、(3-3)において、前記遷移金属化合物(C)は、前記カーボン材料(A)1g当たり、好ましくは0.1μmol以上1000μmol以下、より好ましくは0.5μmol以上500μmol以下、さらに好ましくは1μmol以上200μmol以下の範囲で用いることができる。
【0075】
オレフィン重合体の製造には、前記固体触媒成分(X)を不活性炭化水素中に懸濁した状態で用いてもよく、乾燥させた状態で用いてもよい。また、オレフィン重合体の製造の製造に用いられるオレフィンと同一でも異なっていてもよいオレフィンを用いて、前記固体触媒成分(X)を予備重合させてから用いても良い。
【0076】
[オレフィン重合体の製造方法]
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、上述した本発明のオレフィン重合用触媒の存在下に、オレフィンを重合させる工程を含むことを特徴とする。本発明において、「重合」には、ホモ重合の他、ランダム共重合、ブロック共重合などの共重合の意味が含まれることがある。
【0077】
本発明において重合されるオレフィンとしては、エチレン、α-オレフィン、環状オレフィンが挙げられる。
これらのうち、α-オレフィンとしては、炭素数3以上30以下の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられ、好ましくは炭素数3以上20以下である。より具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中では、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンがより好ましい。
【0078】
環状オレフィンとしては、炭素数3以上30以下の環状オレフィンが挙げられ、好ましくは炭素数3以上20以下である。より具体的には、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2-メチル1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンなどが挙げられる。
【0079】
前記オレフィンを重合させる工程は、前記固体触媒成分(X)存在下に、エチレンを単独重合させる工程、または、エチレンと炭素数3以上20以下のα-オレフィンを共重合させる工程であることが好ましい。
【0080】
本発明のオレフィン重合体の製造方法では、重合は、懸濁重合などの液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物などを挙げることができ、オレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0081】
本発明の方法におけるオレフィンを重合させる温度の下限は-20℃、好ましくは0℃、さらに好ましくは20℃、特に好ましくは30℃であり、オレフィンを重合させる温度の上限は、200℃、好ましくは150℃、さらに好ましくは100℃、特に好ましくは80℃である。
【0082】
本発明の方法における重合圧力は、通常、常圧以上10MPa以下、好ましくは常圧以上5MPa以下の条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。
【0083】
本発明のオレフィン系重合体の製造方法は、重合を、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。
また、本発明のオレフィン系重合体の製造方法は、重合反応の条件を変えて二段以上に分けて反応を行う、いわゆる多段重合方法であってもよい。
【0084】
得られるオレフィン重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによって調節することができる。
前記オレフィンを重合させる工程には、重合反応器への付着(ファウリング)抑制または粒子性状改善を目的として、前記成分(G)を共存させることができる。
【0085】
<オレフィン重合体>
本発明のオレフィン重合体の製造方法により得られるオレフィン重合体の一態様としては、エチレン由来の構成単位を好ましくは90モル%以上100モル%以下、より好ましくは95モル%以上100モル%以下の範囲で含むエチレン系重合体が挙げられる。前記エチレン系重合体は、炭素数3以上20以下のα-オレフィン由来の構成単位を好ましくは合計0モル%以上10モル%以下、より好ましくは0モル%以上5モル%以下の範囲で含む。ただし、エチレン由来の構成単位の含量と炭素数3以上20以下のα-オレフィン由来の構成単位の含量との合計を100モル%とする。
【0086】
これらの重合体の中でも、エチレン単独重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/1-ブテン共重合体、エチレン/1-オクテン重合体、エチレン/1-ヘキセン重合体、エチレン/4-メチル-1-ペンテン重合体、エチレン/プロピレン/1-オクテン重合体、エチレン/プロピレン/1-ヘキセン重合体、エチレン/プロピレン/4-メチル-1-ペンテン重合体が好ましい。また、これらの重合体から選択される二種以上を混合または連続的に製造することによって得られる、いわゆるブロック共重合体(インパクトコポリマー)でもよい。
【0087】
前記オレフィン重合体の製造方法で得られるオレフィン重合体中に、前記カーボン材料(A)が好ましくは0.01重量%以上25重量%以下、より好ましくは0.02重量%以上10重量%以下の範囲で含まれる。前記カーボン材料(A)はオレフィン重合体中に効率的に分散されており、高い熱導電性、電気伝導性および耐候性を有することが期待される。
【実施例】
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
[カーボン材料]
カーボン材料として、下記カーボン材料(A-1)~(A-4)および(A’-5)を使用した。なお、カーボン材料はいずれも使用前に100℃、3時間の条件で減圧乾燥を行った後、窒素雰囲気下で室温に戻してから固体触媒成分(X)の調製に使用した。
【0090】
・カーボン材料(A-1)~(A-4):下記調製例1A~4Aで得られたカーボン材料
・カーボン材料(A’-5):STREM社より購入したGraphene powder(1-5 layers thick x 0.5-5 microns wide, surface area 650-750m2/g:製品コード06-0318)
【0091】
<調製例1A>
原料化合物として、ピリジン(関東化学株式会社、ピリジン特級)を用意し、これを原料化合物含有液1-1として用いた。
【0092】
次いで、以下の装置を用い、この原料化合物含有液中でプラズマを発生させた。
図1は、液中でプラズマを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、上記で用意した原料化合物含有液1-1を、ガラス製のビーカーからなる容器5に入れ、マグネチックスターラーからなる撹拌装置7により撹拌を行っている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔を以て原料化合物含有液1-1中に配設され、絶縁部材9を介して容器5に保持されている。この実施形態においては、電界を局所的に集中させることが可能な針状の電極6を用いた。電極6は、直径が1.0mmのタングステンワイヤー(ニラコ社製)で構成し、電極間距離を1.0mmに設定した他、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために先端部(例えば、数mm程度)のみを露出させて、後の部分はフッ素樹脂からなる絶縁部材9で絶縁した。この実施形態では、絶縁部材9は電極6を容器5に固定するとともに、電極6と容器5との水密を保つための栓をも兼ねた構成となっている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。外部電源8としては、バイポーラパルス電源(株式会社栗田製作所製、液中パルスプラズマ発生用電源 MPP-HV04)を用いた。
【0093】
本実施形態においてソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、二次電圧:1500V、パルス幅:1.0μs、繰り返し周波数:50kHzとし、この条件で原料化合物含有液1-1中にソリューションプラズマを15分間発生させた。
原料化合物含有液1-1は無色透明であったが、ソリューションプラズマの発生直後から黄色みを帯び、約5分後には褐色に変色し、約10分後には黒色で不透明に変化した。
【0094】
ソリューションプラズマによる処理の後、メンブレンフィルタ(Merck Millipore社製、オムニポア(TM)メンブレン 最大孔径2.0μm)を用いて吸引ろ過を行い、得られた黒色の粉末を80℃オーブンで一晩乾燥させることにより、0.20gの黒色粉末を得た。この粉末を乳鉢で粉砕して微細化し、カーボン材料(A-1)を得た。
【0095】
<調製例2A>
パルス電圧の印加条件を、二次電圧:1500V、パルス幅:1.0μs、繰り返し周波数:25kHzに変更したこと以外は、調製例1Aと同様の方法でソリューションプラズマを発生させた。
【0096】
ソリューションプラズマによる処理の後、メンブレンフィルタ(Merck Millipore社製、オムニポア(TM)メンブレン 最大孔径1.0μm)を用いて吸引ろ過を行い、得られた黒色の粉末を80℃オーブンで一晩乾燥させることにより、0.20gの黒色粉末を得た。この粉末を乳鉢で粉砕して微細化し、カーボン材料(A-2)を得た。
【0097】
<調製例3A>
原料化合物として、EMIM-DCA(ALDRICH製、1-Ethyl-3-methyl imidazolium dicyanamide ≧98.0%(metals basis))およびアニリン(関東化学株式会社製、アニリン特級)を用意し、これらをEMIM-DCA 5mL+アニリン 95mLの混合比で混合撹拌し原料化合物含有液1-2として用いたこと以外は、調製例1Aと同様の方法でソリューションプラズマを発生させた。
原料化合物含有液1-2は透明度のある薄橙色であったが、ソリューションプラズマの発生直後から約5分後には褐色に変色し、約10分後には黒色で不透明に変化した。
【0098】
ソリューションプラズマによる処理の後、メンブレンフィルタ(Merck Millipore社製、オムニポア(TM)メンブレン 最大孔径2.0μm)を用いて吸引ろ過を行い、得られた黒色の粉末を80℃オーブンで一晩乾燥させることにより、0.02gの黒色粉末を得た。この粉末を乳鉢で粉砕して微細化し、カーボン材料(A-3)を得た。
【0099】
<調製例4A>
原料化合物として、EMIM-DCA(ALDRICH製、1-Ethyl-3-methyl imidazolium dicyanamide ≧98.0%(metals basis))およびアニリン(関東化学株式会社製、アニリン特級)を用意し、これらをEMIM-DCA 10mL+アニリン 90mLの混合比で混合撹拌し原料化合物含有液1-3として用い、パルス電圧の印加条件を、二次電圧:1500V、パルス幅:1.5μs、繰り返し周波数:30kHzに変更したこと以外は、調製例1Aと同様の方法でソリューションプラズマを発生させた。
【0100】
ソリューションプラズマによる処理の後、メンブレンフィルタ(Merck Millipore社製、オムニポア(TM)メンブレン 最大孔径1.0μm)を用いて吸引ろ過を行い、得られた黒色の粉末を80℃オーブンで一晩乾燥させることにより、0.02gの黒色粉末を得た。この粉末を乳鉢で粉砕して微細化し、カーボン材料(A-4)を得た。
【0101】
≪窒素含量≫
カーボン材料(A-1)~(A-4)および(A’-5)の窒素含量は、X線光電子分光法(XPS)(アルバック・ファイ株式会社製「VersaProbe II」)により求めた。以下の分析条件にてナロースキャン分析を行い、N1sナロースペクトルのピーク強度から窒素原子濃度を、C1sナロースペクトルのピーク強度から炭素原子濃度を求め、窒素原子/炭素原子のモル比を算出した。結果を表1に示す。
(分析条件)
X線源:Mg-Kα線
X線発生電流:1.7mA
X線発生電圧:25kV
【0102】
[有機アルミニウム化合物]
有機アルミニウム化合物として、下記有機アルミニウム化合物(B-1)を使用した。有機アルミニウム化合物(B-1)はデカン溶液として1.0mоl/Lに希釈した後に使用した。
・有機アルミニウム化合物(B-1):東ソー・ファインケム社 トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)
【0103】
[遷移金属化合物]
遷移金属化合物として、下記式(C-1)、(C’-2)で表される遷移金属化合物(C-1)、(C’-2)を公知の方法で製造して使用した。
【化4】
【0104】
<遷移金属化合物(C)の同定>
遷移金属化合物の構造は、270MHz 1H-NMR(日本電子製GSH-270)等を用いて常法に従って測定し、決定した。
【0105】
[固体触媒成分(X)の調製]
<調製例1X>
充分に窒素置換した内容積30mLのシュレンク管に、カーボン材料(A-1)100mg、トルエン5mLを加え、回転子を用いて撹拌を開始した。この懸濁液に有機アルミニウム化合物(B-1)のデカン溶液0.25mL(有機アルミニウム化合物(B-1)換算で0.25mmоl)を加え、室温で30分間撹拌を継続した。その後、遷移金属化合物(C-1)3.0μmоlをトルエン溶液として加え、さらに室温で30分間撹拌を行うことで、カーボン材料(A-1)の固体分濃度が10.0g/Lとなる固体触媒成分(X-1)のスラリーを調製した。
【0106】
<調製例2X~5X>
カーボン材料(A-1)の代わりにカーボン材料(A-2)~(A-4)および(A’-5)を用いたこと以外は調製例1Xと同様の方法にて固体触媒成分(X-2)~(X-5)のスラリーを調製した。
【0107】
<調製例6X>
充分に窒素置換した内容積30mLのシュレンク管に、カーボン材料(A’-5)100mg、ピリジン(富士フイルム和光純薬株式会社製、有機合成用ピリジン(脱水))30μL、トルエン5mLを加え、回転子を用いて撹拌を開始した。この懸濁液に有機アルミニウム化合物(B-1)のデカン溶液0.25mL(有機アルミニウム化合物(B-1)換算で0.25mmоl)を加え、室温で30分間撹拌を継続した。その後、遷移金属化合物(C-1)3.0μmоlをトルエン溶液として加え、さらに室温で30分間撹拌を行うことで、カーボン材料(A)の固体分濃度が10.0g/Lとなる固体触媒成分(X-6)のスラリーを調製した。
【0108】
<調製例7X>
有機アルミニウム化合物(B-1)を用いなかったこと以外は調製例3Xと同様の方法にて固体触媒成分(X-7)のスラリーを調製した。
【0109】
<調製例8X>
遷移金属化合物(C-1)の代わりに遷移金属化合物(C’-2)を用いたこと以外は調製例3Xと同様の方法にて固体触媒成分(X-8)のスラリーを調製した。
【0110】
[オレフィン重合体の製造]
<実施例1>
充分に窒素置換した内容積1リットルのSUS製オートクレーブ反応器に、窒素雰囲気下、ヘプタン500ミリリットルを添加した後、エチレンを流通させて反応器内をエチレンで飽和させた。次に、有機アルミニウム化合物(B-1)のデカン溶液0.375mL(有機アルミニウム化合物(B-1)換算で0.375mmоl)、および調製例1で得られた固体触媒成分(X-1)のスラリーから、カーボン材料(A-1)の固体分として表1に記載の量に相当する量のスラリーを抜き出して反応器に装入した。その後、エチレンにて80℃、0.8MPaGに昇温昇圧し、回転数350rpmで60分間重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表1に示す量のオレフィン重合体を得た。
【0111】
<実施例2~4>
固体触媒成分(X-1)の代わりに調製例2X~4Xで得られた固体触媒成分(X-2)~(X-4)のスラリーを用い、カーボン材料の固体分として表1に記載の量を反応器に装入したこと以外は実施例1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表1に示す量のオレフィン重合体を得た。
【0112】
<比較例1~2>
固体触媒成分(X-1)の代わりに調製例5X、6Xで得られた固体触媒成分(X-5)、(X-6)のスラリーを用い、カーボン材料の固体分として表1に記載の量を反応器に装入したこと以外は実施例1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表1に示す量のオレフィン重合体を得た。
【0113】
<比較例3>
有機アルミニウム化合物(B-1)を用いなかったこと、および固体触媒成分(X-1)の代わりに調製例7Xで得られた固体触媒成分(X-7)のスラリーを用い、カーボン材料の固体分として表1に記載の量を反応器に装入したこと以外は実施例1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表1に示す量のオレフィン重合体を得た。
【0114】
<比較例4>
固体触媒成分(X-1)の代わりに調製例8Xで得られた固体触媒成分(X-8)のスラリーを用い、カーボン材料の固体分として表1に記載の量を反応器に装入したこと以外は実施例1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表1に示す量のオレフィン重合体を得た。
【0115】
【0116】
実施例のオレフィン重合用触媒を構成するカーボン材料(A)は窒素含量が高く、窒素含量が低いカーボン材料を用いた比較例に比べ、より多くのオレフィン重合体を得られることが分かる。また加えて窒素含量が低いカーボン材料に、グラフェン構造中に導入されていない窒素原子含有化合物を別途添加しても重合体収量は増加しなかった。
【0117】
また有機アルミニウム化合物(B)を用いた実施例は、有機アルミニウム化合物(B)を用いなかった比較例に比べ、より多くのオレフィン重合体を得られることが分かる。さらに遷移金属化合物として、ヘテロ原子を有している遷移金属化合物(C-1)を用いた実施例は、ヘテロ原子を有していない遷移金属化合物(C’-2)を用いた比較例に比べ、より多くのオレフィン重合体を得られることが分かる。
【符号の説明】
【0118】
2 液(液相)
4 ソリューションプラズマ(プラズマ相)
5 容器
6 電極
7 撹拌装置
8 外部電源
9 絶縁部材
10 ソリューションプラズマ発生装置