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特許7579675加温販売用果汁飲料、その製造方法、及び加温販売用果汁飲料のカラメル臭低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】加温販売用果汁飲料、その製造方法、及び加温販売用果汁飲料のカラメル臭低減方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/44 20060101AFI20241031BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 2/58 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L2/44 101
A23L2/00 B
A23L2/02 A
A23L2/02 B
A23L2/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020188958
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077896
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 夏実
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053936(JP,A)
【文献】特開2015-019636(JP,A)
【文献】Mulled Winter Warmer Juice Drink,Mintel GNPD, [online], ID#:3798941,2016年02月, [検索日 2024年10月15日], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Red Grapefruit Flavoured Low Calorie Vitamin Drink,Mintel GNPD, [online], ID#:6157307,2018年11月,[検索日 2024年10月15日], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
Mintel GNPD
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖及び果汁を含み、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上含有することを特徴とする加温販売用果汁飲料。
【請求項2】
前記果汁は、香酸柑橘類の果汁を含む請求項1に記載の加温販売用果汁飲料。
【請求項3】
加温時に発生するカラメル臭を低減させた加温販売用果汁飲料の製造方法であって、
糖及び果汁を含有する加温販売用果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合することを特徴とする加温販売用果汁飲料の製造方法。
【請求項4】
糖及び果汁を含有する加温販売用果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合することを特徴とする加温販売用果汁飲料のカラメル臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁を含有する加温販売用果汁飲料、その製造方法、及び加温販売用果汁飲料のカラメル臭低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、糖及び果汁を含有する加温販売用果汁飲料が知られている。かかる果汁飲料は、加温販売時に熱により風味が劣化する場合があった。
従来より、特許文献1,2に開示される加温販売用飲料が知られている。特許文献1は、加温販売に供される茶飲料にアスコルビン酸等の酸化防止剤を配合して品質の劣化を抑制した方法について開示する。また、特許文献2は、所定量のカロテノイド及びリンゴ酸を配合することにより加温販売時における風香味の劣化を抑制した加温販売用果汁飲料について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-73057号公報
【文献】特開2015-53936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加温販売用果汁飲料において、風味劣化のさらなる低減が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、加温販売用果汁飲料において所定量のリコピン色素とエルダーベリー色素とを併用することにより、風味劣化を低減できることを見出したことに基づくものである。
上記課題を解決するために、本発明の一態様の加温販売用果汁飲料では、糖及び果汁を含み、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上含有することを特徴とする。
【0006】
前記加温販売用果汁飲料において、前記果汁は、香酸柑橘類の果汁を含んでもよい。
本発明の別の態様では、加温時に発生するカラメル臭を低減させた加温販売用果汁飲料の製造方法であって、糖及び果汁を含有する加温販売用果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合することを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様の加温販売用果汁飲料のカラメル臭低減方法では、糖及び果汁を含有する加温販売用果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加温販売用果汁飲料において風味劣化を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本発明の加温販売用果汁飲料(以下、「果汁飲料」ともいう)を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態の果汁飲料は、糖及び果汁を含み、天然色素として所定量のリコピン色素及びエルダーベリー色素を含有する。
【0010】
(果汁)
果汁の原料果実の種類としては、特に限定されず、例えば柑橘類果実、核果果実、仁果果実、熱帯性果実、野菜的果実、これら以外のその他の果実等が挙げられる。これらは、一種類の果実のみを用いてもよく、二種以上の果実を組み合わせて用いてもよい。柑橘類果実の種類としては、例えばレモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボス等の香酸柑橘類、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ハッサク、温州ミカン、イヨカン、ポンカン、甘夏等が挙げられる。核果果実の種類としては、例えばアンズ、サクランボ、モモ等が挙げられる。仁果果実の種類としては、ナシ、リンゴ等が挙げられる。熱帯性果実の種類としては、例えばキウイフルーツ、パパイヤ、ドリアン、マンゴー、マンゴスチン、ライチ等が挙げられる。野菜的果実の種類としては、例えばイチゴ、スイカ、メロン、パイナップル、バナナ等が挙げられる。その他の果実の種類としては、例えばカキ、カリン、クリ、サトウキビ、ブドウ、ブルーベリー、ヤマモモ、イチジク、ギンナン等が挙げられる。
【0011】
(糖)
果汁飲料に対して主に甘味を付与する。そのため糖としては、糖としては、単糖、二糖類、オリゴ糖を示し、オリゴ糖以外の多糖類は含まれない。単糖としては、例えばグリセルアルデヒド及びジヒドロキシアセトン等のトリオース類、エリスロース等のテトロース類、リボース、キシロース、アラビノース等のペントース類、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等のヘキソース類、セドヘプツロース等のヘプトース類等が挙げられる。二糖類としては、例えばマルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、スクロース(ショ糖)、トレハロース、セロビオース、イソマルツロース、イソマルトース等が挙げられる。オリゴ糖としては、例えばラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース、フコシルラクトース、シアリルラクトース、マルトトリオース、セロトリオース等の三糖類、スタキオース、ラクト-N-テトラオース、マルトテトラオース等の四糖類が挙げられる。主として酵素反応により得られるオリゴ糖の具体例として、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、イヌロオリゴ糖、ラクトスクロース、乳果オリゴ糖、アガロオリゴ糖等が挙げられる。これらは、一種類の糖のみを用いてもよく、二種以上の糖を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
(リコピン色素)
リコピン色素は、カロテノイドの一種であり、所定量のエルダーベリー色素と併用されることにより、果汁飲料の風味劣化を低減させる。リコピンの由来としては、特に限定されない。
【0013】
果汁飲料中におけるリコピン色素の含有量の下限は、0.003g/L以上、好ましくは0.0035g/L以上、より好ましくは0.0036g/L以上である。リコピン色素が0.003g/L以上の場合、果汁飲料の風味劣化を低減させる。
【0014】
果汁飲料中におけるリコピン色素の含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは0.01g/L以下、より好ましくは0.008g/L以下、さらに好ましくは0.006g/L以下である。リコピン色素が0.01g/L以下の場合、果汁飲料の風味劣化を効率的に低減させる。また、果汁飲料の色調が赤色の外観を呈する場合、美観性を向上させる。
【0015】
(エルダーベリー色素)
エルダーベリー色素は、スイカズラ科エルダーベリー(Sambucus caerulea RAFIN,Sambucus canadensis LINNE,Sambucus nigra LINNE)の果実より、搾汁したもの、又は室温時~微温時水若しくは酸性水溶液で抽出して得られたものである。主色素は、シアニジングリコシド、デルフィニジングリコシドである。
【0016】
果汁飲料中におけるエルダーベリー色素の含有量の下限は、0.05g/L以上、好ましくは0.08g/L以上、より好ましくは0.1g/L以上である。エルダーベリー色素が0.05g/L以上の場合、果汁飲料の風味劣化を低減させる。
【0017】
果汁飲料中におけるエルダーベリー色素の含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは1g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下、さらに好ましくは0.6g/L以下である。エルダーベリー色素が1g/L以下の場合、果汁飲料の風味劣化を効率的に低減させる。また、果汁飲料の色調が赤色の外観を呈する場合、美観性を向上させる。
【0018】
(その他)
果汁飲料としては、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の成分として酸味料、香料、高甘味度甘味料等の甘味料、上記以外の色素、安定剤、pH調整剤、ビタミン類、アミノ酸類、各種ミネラル、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩等の酸化防止剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油性成分、上記以外のポリフェノール等の機能性成分等の添加剤を適宜配合してもよい。これらの添加剤は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
酸味料としては、公知の酸味料を適用することができ、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸、リン酸、コハク酸、酢酸、グルコン酸、乳酸、アジピン酸等が挙げられる。
【0020】
香料としては、飲料に適用可能な公知の香料を適宜採用することができる。香料としては、例えばシトラス系香料、フルーツ系香料、ミント系香料、スパイス系香料等が挙げられる。
【0021】
甘味料としては、上述した糖以外のものが挙げられ、例えばステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、サッカリン等の甘味料、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、サクチトール等の糖アルコール系の甘味料等が挙げられる。
【0022】
果汁飲料の種類は、加温販売される果汁入り飲料であれば特に限定されず、例えば果汁入り飲料、野菜汁果汁入り飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク、ノンアルコール飲料等が挙げられる。
【0023】
果汁飲料は、容器詰めされ、加温販売される。容器としては、公知の容器を採用することができ、例えばペットボトル等の合成樹脂製容器、アルミ缶、スチール缶、缶詰等の金属容器、ガラス瓶等のガラス容器、陶器、紙等が挙げられる。
【0024】
加温販売の時における温度は、特に限定されず、好ましくは常温を超え70℃以下、より好ましくは40℃以上60℃以下である。なお、流通、保存時における温度条件は特に限定されない。
【0025】
本実施形態の果汁飲料によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1-1)本実施形態の果汁飲料では、所定量のリコピン色素とエルダーベリー色素とを配合した。したがって、加熱販売時における風味劣化を低減できる。特に光及び酸素透過性の高いペットボトル等の合成樹脂製容器に充填した果汁飲料の場合、加温販売時において、カラメル様の変化臭が発生しやすかった。本実施形態の果汁飲料により、かかる変化臭を抑制し、果汁本体の風香味の低下を抑制することができる。
【0026】
<第2実施形態>
以下、本発明の果汁飲料の製造方法を具体化した一実施形態を説明する。なお、第2実施形態について、下記の記載以外は、第1実施形態の果汁飲料と同様の構成が適用される。
【0027】
果汁飲料の製造方法は、糖及び果汁を含有する果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合する工程を有する。各原料の添加の順番は、最終的に色素の含有量が、上記範囲に調整できれば、特に限定されない。調製された果汁飲料は、容器の充填された後、必要により加温殺菌等の公知の殺菌方法を実施してもよい。
【0028】
本実施形態の果汁飲料の製造方法によれば、第1実施形態の効果に加えて以下のような効果を得ることができる。
(2-1)本実施形態の果汁飲料の製造方法では、糖及び果汁を含有する果汁飲料において、所定量のリコピン色素及びエルダーベリー色素を配合する工程を有する。したがって、簡易な方法にて加熱販売時に発生するカラメル臭を低減させた果汁飲料を得ることができる。
【0029】
<第3実施形態>
以下、本発明の果汁飲料のカラメル臭低減方法を具体化した一実施形態を説明する。なお、第3実施形態について、下記の記載以外は、第1実施形態の果汁飲料と同様の構成が適用される。本実施形態の果汁飲料のカラメル臭低減方法は、糖及び果汁を含有する果汁飲料において、リコピン色素を0.003g/L以上及びエルダーベリー色素を0.05g/L以上配合する。各原料の添加の順番は、最終的に色素の含有量が、上記範囲に調整できれば、特に限定されない。カラメル臭の低減は、官能評価により求めることができる。
【0030】
本実施形態の果汁飲料のカラメル臭低減方法によれば、第1実施形態の効果に加えて以下のような効果を得ることができる。
(3-1)本実施形態の果汁飲料のカラメル臭低減方法では、所定量のリコピン色素及びエルダーベリー色素を配合している。したがって、簡易な方法にて果汁飲料の加熱販売時において発生するカラメル臭を低減できる。
【0031】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の果汁飲料の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品等として適用することができる。
【実施例
【0032】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1>
下記に示されるようにリコピン色素及びエルダーベリー色素を配合した加温販売用果汁飲料を調製し、風味の劣化について評価した。
【0033】
下記表1の各成分を配合し、純水で1Lに合わせることにより、各例の果汁飲料を調製した。各例の果汁飲料はpH3.0、Brix値6.3であった。各例の果汁飲料を93℃達温まで加熱し、殺菌した後、280mlの透明PETボトルに充填した。その後、PETボトルに充填した果汁飲料は、60℃の恒温庫に3週間加温した。
【0034】
【表1】
【0035】
官能試験は、比較例2の果汁飲料を基準として、官能評価を訓練されたパネラー6名で実施した。各例の果汁飲料は、比較例2の果汁飲料と比較し、カラメル臭が弱い場合:5点、やや弱い場合:4点、変わらない場合:3点、やや強い場合:2点、強い場合:1点の5段階で評価した。パネラー6人の平均点を求めた。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示されるように、アントシアニンを含有する赤キャベツ色素を適用しても風味劣化を低減できないことが確認された。リコピン色素とエルダーベリー色素を併用した場合に果汁飲料の風味劣化が低減されることが確認された。
【0038】
<試験例2>
試験例1と同様の方法にて、下記表3の色素を用いて各例の果汁飲料を調製した。官能評価を訓練されたパネラー4名で実施した。各例の果汁飲料は、比較例2の果汁飲料と比較し、カラメル臭が弱い場合:5点、やや弱い場合:4点、変わらない場合:3点、やや強い場合:2点、強い場合:1点の5段階で評価した。パネラー4人の平均点を求めた。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
表3に示されるように、リコピン色素濃度が低い場合は、果汁飲料の風味劣化を低減できないことが確認された。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。(a)リコピン色素は0.01g/L以下及びエルダーベリー色素は1g/L以下である前記加温販売用果汁飲料。かかる構成により、果汁飲料の色調を赤色とする場合に美観性を向上できる。