(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】インサート供給装置
(51)【国際特許分類】
B23P 19/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B23P19/00 301Z
(21)【出願番号】P 2020200041
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】来田 宏
(72)【発明者】
【氏名】中川 智昭
(72)【発明者】
【氏名】水上 綾子
(72)【発明者】
【氏名】小林 明也
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150891(JP,A)
【文献】特開2016-087701(JP,A)
【文献】特開昭60-073111(JP,A)
【文献】特開2007-000937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
B25B 25/00-33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側にノッチを有するコイル状のインサートを、前記インサートに対して相対的に回転することによって前記ノッチと係合するフックを有するインサート挿入工具に供給するためのインサート供給装置であって、
前記インサート供給装置は、前記ノッチと前記フックとの係合を検出可能であり、
前記フックが前記ノッチに係合する前の段階で前記インサートの外周面に対して押し当て状態になり、前記フックが前記ノッチに係合した後の段階で前記インサートの外周面と離隔状態になる押し当て部を備えることを特徴とするインサート供給装置。
【請求項2】
前記インサートが載置される底部と、前記底部に載置される前記インサートの外周面に対向する側壁部と、前記押し当て部を前記側壁部に対して接近及び離反させる移動部とを備え、
前記移動部は、前記押し当て部を前記側壁部に対して接近及び離反させることで前記インサートの外周面に対する押し当て状態と離隔状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載のインサート供給装置。
【請求項3】
前記押し当て部を前記インサートに対して押し当てたときに生じる前記インサートの外周面に対する押し当て力を変更させる押し当て力変更手段を備えることを特徴とする請求項2に記載のインサート供給装置。
【請求項4】
前記インサートが載置される底部と、前記底部に載置される前記インサートの下端部を回り止め保持する保持部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のインサート供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内側にノッチを有するインサートをインサート挿入工具に供給するインサート供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアルミニウム等の軽金属や樹脂のように比較的強度が弱い母材に対しねじによって部材を締結する場合、母材であるワークの雌ねじ部にインサートを事前に取り付けておくことがある。このようなインサートは、ワークがねじから受ける負荷を軽減することができるため、ねじ締結時に生じるワークの破損を防止し、またねじによる締結力を増加させることが可能である。
【0003】
従前より多種のインサートが使用されていて、その一つとして、菱形断面の鋼材線をコイル状に巻き回すことによって外側が雄ねじ状になるとともに内側が雌ねじ状になり、また端部付近の内側にノッチと称する凹状の引掛け部が設けられたコイル状のインサートが知られている(例えば特許文献1参照)。このインサートをワークの雌ねじ部に取り付けるにあたっては、特許文献1に示されている如き、ノッチに係合するフックを備えるとともに雄ねじ状に形成されたインサート挿入工具が使用される。インサートに対してこの挿入工具を相対的に回転させると、インサートと挿入工具が螺合するとともにノッチにフックが係合するため、インサートを挿入工具でワークに取り付ける際、挿入工具に対してインサートが空回りすることがなく、これを確実にワークに取り付けることができる。
【0004】
このようなインサートをインサート挿入工具に供給する装置として、例えば特許文献2のようなインサート供給装置が知られている。インサート供給装置は、所定の場所に所定の姿勢でインサートを提供する機能を有するととともに、挿入工具をインサートに対して相対的に回転させた際にインサートが挿入工具と共回りすることを防止するため、インサートを保持する機能を有することが必要である。更に、インサートがばねの性質で径方向外側に撓んでフックがノッチを乗り越えてしまうと、ノッチとフックとの係合不良が生じるため、インサートが径方向外側に撓まないように外側から支持する機能も必要である。このため特許文献2のインサート供給装置では、エスケーパ(保持円盤11)に、インサートの外径よりも若干小さいスリットを設け、そこにインサートを圧入するようにして保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-356212号公報
【文献】特開2016-7695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献2のインサート供給装置では、スリットにインサートを圧入するための機構を別途設けなければならない。また挿入工具に螺合させたインサートをワークに移動させるにあたってスリットからインサートを離脱させる際は、圧入による保持力が一転して不要な抵抗力として働くため、インサートやスリットを損傷させたり、ノッチとフックとの係合が外れてしまったりする不具合が生じるおそれがある。
【0007】
このような問題点に鑑み、本発明は、インサート挿入工具にインサートを螺合させる際にインサートが挿入工具と共回りすることを防止し、またノッチとフックとが確実に係合できるとともに、インサートをワークに移動させるにあたってはインサート等の損傷を防止することが可能なインサート供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内側にノッチを有するコイル状のインサートを、前記インサートに対して相対的に回転することによって前記ノッチと係合するフックを有するインサート挿入工具に供給するためのインサート供給装置であって、前記インサート供給装置は、前記ノッチと前記フックとの係合を検出可能であり、前記フックが前記ノッチに係合する前の段階で前記インサートの外周面に対して押し当て状態になり、前記フックが前記ノッチに係合した後の段階で前記インサートの外周面と離隔状態になる押し当て部を備えることを特徴とする。
【0009】
このようなインサート供給装置は、前記インサートが載置される底部と、前記底部に載置される前記インサートの外周面に対向する側壁部と、前記押し当て部を前記側壁部に対して接近及び離反させる移動部とを備え、前記移動部は、前記押し当て部を前記側壁部に対して接近及び離反させることで前記インサートの外周面に対する押し当て状態と離隔状態とを切り替えることが好ましい。
【0010】
またこのようなインサート供給装置は、前記押し当て部を前記インサートに対して押し当てたときに生じる前記インサートの外周面に対する押し当て力を変更させる押し当て力変更手段を備えることが好ましい。
【0011】
そして前記インサートが載置される底部と、前記底部に載置される前記インサートの下端部を回り止め保持する保持部と、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインサート供給装置は、フックがノッチに係合する前の段階でインサートの外周面に対して押し当て状態になり、フックがノッチに係合した後の段階でインサートの外周面と離隔状態になる押し当て部を備えているため、インサート挿入工具にインサートを螺合させる際にインサートが挿入工具と共回りすることを防止することができる。またノッチとフックとを確実に係合することができるうえ、インサートをワークに移動させるにあたってはインサート等の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るインサート供給装置の第一実施形態を備えるインサート挿入装置の概略図である。
【
図2】
図1に示したインサート供給装置の概略図である。
【
図3】
図1に示したインサート供給装置とインサート挿入装置のブロック図である。
【
図4】
図1に示したインサート挿入工具でインサートをピックアップする様子を示した説明図である。
【
図5】本発明に係るインサート供給装置の第二実施形態を備えるインサート挿入装置の概略図である。
【
図6】
図5に示したインサート供給装置の概略図である。
【
図7】
図6に示したインサート供給装置とインサート挿入装置のブロック図である。
【
図8】本発明に係るインサート供給装置の第三実施形態を備えるインサート挿入装置に関する概略図である。
【
図9】
図8に示したインサート供給装置の概略図である。
【
図10】
図8に示したインサート挿入装置のブロック図である。
【
図11】
図8に示したインサート挿入工具でインサートをピックアップする様子を示した説明図である。
【
図12】本発明に係るインサート供給装置の第四実施形態を備えるインサート挿入装置に関する概略図である。
【
図14】
図12に示したインサート挿入装置とインサート挿入装置のブロック図である。
【
図15】本発明に係るインサート供給装置の第五実施形態に関する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るインサート供給装置の一実施形態について説明する。また以下の説明においては、便宜上、図面に示した右、左、前、後、上、下、及びX、Y、Zの向きで説明することとする。
【0015】
図1~
図4は、本発明に係るインサート供給装置の第一実施形態(インサート供給装置1A)を備えるインサート挿入装置2Aを示している。インサート挿入装置2Aは、インサート供給装置1Aの他、インサート挿入工具3、及びインサート挿入工具3をワークWに対して3次元的に移動させるインサート挿入ロボット4で構成される。
【0016】
まず、インサート挿入工具3について説明する。
図1及び
図4(a)に示すようにインサート挿入工具3は、雄ねじ部3aと回転ドライバ部3cとを備える。雄ねじ部3aは、インサートIの内側に設けられた雌ねじ状部分に適合する雄ねじ形状となっており、また、インサートIの内側に設けた凹状のノッチNに係合する形状のフック3bが先端に設けられている。フック3bは、インサートIに対し径方向内側及び外側に向けて移動可能であって、径方向外側に付勢されている。そして、雄ねじ部3aを回転させる回転モータ6aと、その際のトルクを検出するトルクセンサ6bが回転ドライバ部3cに設けられている。
【0017】
図1に示すようにインサート挿入ロボット4は、ワークWをX軸方向に移動させるXテーブル5と、インサート挿入工具3をZ軸方向に移動させるZユニット7と、Zユニット7をY軸方向に移動させるYユニット8とを備えている。
【0018】
更にインサート挿入ロボット4は、
図3に示したロボット制御部9を備えている。ロボット制御部9は、上述したXテーブル5、Zユニット7、及びYユニット8に設けられているX駆動モータ5a、Z駆動モータ7a、Y駆動モータ8aと電気的に接続される。またロボット制御部9には、インサート挿入工具3の回転ドライバ部3cに設けられている回転モータ6a、及びトルクセンサ6bが電気的に接続される。更にロボット制御部9には、作業者が教示データ(ティーチングデータ)を入力する際や各種操作を行う際に使用する教示・操作装置10と、入力された教示データやインサート挿入装置2Aを動作させるプログラムを記憶させたプログラム・教示データ記憶部11が電気的に接続される。
【0019】
次にインサート供給装置1Aについて説明する。
図2に示すようにインサート供給装置1Aは、ボウルフィーダ12、直進フィーダ13、エスケーパ14、インサート押さえ部材15、連結部材16、弾性体(圧縮ばね)17、エスケーパ回転モータ18、押さえ部材駆動モータ19を備えている。
【0020】
ボウルフィーダ12は、その内側にばら積みされたインサートIを収容し、振動することによって、インサートIを直進フィーダ13に供給する。また直進フィーダ13は、インサートIを直進させつつ所定の姿勢以外のインサートIを脱落させてボウルフィーダ12に返却する機能を有していて、これによりインサートIの姿勢を揃えてエスケーパ14に供給する。
【0021】
エスケーパ14は、円形状をなしていて、その外縁部には周方向に間隔をあけた複数の切欠き部14aを備えている。エスケーパ14は、エスケーパ回転モータ18によって所定の方向に回転し、切欠き部14aが直進フィーダ13に対向する位置で、直進フィーダ13からインサートIを1個受け取り、待機位置(第一実施形態では直進フィーダ13に対して周方向に180°ずれた位置)へインサートIを移動させる。
【0022】
インサート押さえ部材15は、本明細書の「押し当て部」に相当し、切欠き部14aによって待機位置に移動したインサートIの外周面を押さえる機能を有する。第一実施形態においては、インサート押さえ部材15を駆動させる押さえ部材駆動モータ19に対し、止めねじ等によって連結部材16が取り付けられている。なお、押さえ部材駆動モータ19は、本明細書の「移動部」に相当する。またインサート押さえ部材15は、押さえ部材駆動モータ19の軸部に回転可能に取り付けられ、且つEリング等によって抜け止めされている。そしてインサート押さえ部材15と連結部材16の間には、弾性体17が設けられている。このように構成されるインサート押さえ部材15は、押さえ部材駆動モータ19によって連結部材16を正方向又は逆方向に回転させると、
図2において実線と破線で示すように、インサートIに対して接近又は離反する向きに移動する。ここで、インサート押さえ部材15をインサートIに対して接近する向きに移動させた際、インサート押さえ部材15がインサートIに接触した後も押さえ部材駆動モータ19を回転させると、押さえ部材駆動モータ19とともに回転する連結部材16によって弾性体17が撓むため、その撓み量に応じた弾性力によって、インサート押さえ部材15をインサートIの外周面に押し当てることができる。このように第一実施形態の連結部材16、弾性体17、押さえ部材駆動モータ19は、インサート押さえ部材15をインサートIに対して押し当てたときに生じるインサートIの外周面に対する押し当て力を変更する機能を有し、本明細書の「押し当て力変更手段」に相当する。
【0023】
そして切欠き部14aは、
図4に示すようにX-Y平面上に延在するインサートIを載置する底部14bと、底部14bから垂直に起立して、底部14bに載置されたインサートIの外周面に対向する側壁部14cとを備えている。
【0024】
またインサート供給装置1Aは、
図3に示した供給装置制御部20を備えている。供給装置制御部20は、上述したエスケーパ回転モータ18、押さえ部材駆動モータ19に加え、ボウルフィーダ12及び直進フィーダ13を振動させる振動装置21と電気的に接続される。また供給装置制御部20は、ロボット制御部9とも接続されている。これによりインサート供給装置1Aを、インサート挿入ロボット4と協働させることができる。
【0025】
このようなインサート挿入装置2Aは、
図4に示す手順でインサートIをインサート挿入工具3に供給することができる。
【0026】
まず
図4(a)に示すように、インサート挿入工具3を、ロボット制御部9による制御に基づいて、切欠き部14aによって待機位置に移動したインサートIの直上に移動させる。次に、インサート押さえ部材15を、供給装置制御部20による制御に基づいて、インサートIの外周面に向けて移動させる。これによりインサートIは、切欠き部14aの底部14bに載置された状態でその外周面にインサート押さえ部材15が押し当たり、
図4(b)に示すように側壁部14cとインサート押さえ部材15で挟持される。なお、インサート押さえ部材15の押し当て力は、側壁部14cとインサート押さえ部材15に対してインサートIが全く空転しない程度まで強めなくてもよい。すなわち、後述するようにインサート挿入工具3の雄ねじ部3aをインサートIに対して回転させた際、最終的に両者が螺合されればよく、インサート挿入工具3の雄ねじ部3aをインサートIに対して回転させつつ接触させた際、側壁部14cとインサート押さえ部材15に対してインサートIが若干の抵抗をもって空転する程度の力でもよい。
【0027】
次いで
図4(c)に示すように、インサート挿入工具3の雄ねじ部3aを回転させつつ、下方に向けて移動させる。すると、上述するようにインサートIの外周面は、側壁部14cとインサート押さえ部材15で挟持されているので、インサートIの内側における雌ねじ状部分とインサート挿入工具3の雄ねじ部3aとが螺合していく。なおインサート挿入工具3に設けたフック3bは、付勢されている弾性力に抗して径方向内側に移動しているため、インサートIとの雄ねじ部3aが螺合していく際に妨げになることはない。
【0028】
上述したようにインサートIの外周面は、側壁部14cとインサート押さえ部材15に押さえられ、インサートIの径方向外側への撓みは抑えられているため、インサート挿入工具3の回転を継続すると、
図4(d)に示すように、インサートIの端部に設けられたノッチNにフック3bを確実に係合させることができる。つまり、フック3bがノッチNに係合した後、インサート挿入工具3がさらに回転したとしても、インサートIの径方向外側への撓みが抑えられているため、フック3bがノッチNを乗り越えてしまうという不具合が防止することができる。従って、係合によって生じるトルクの変化をトルクセンサ6bにより検出することによりノッチNとフック3bとの係合を検出することはもちろん、例えばインサート挿入工具3を回転させ始めてからノッチNにフック3bが係合するまでの見込時間(例えばインサート挿入工具3の回転速度とインサートIのピッチ数から算出される必要係合時間に余裕時間を加算した時間)の間、インサート挿入工具3を回転させるという動作によって間接的にノッチNとフック3bとの係合を検出することが可能である。
【0029】
ノッチNとフック3bとの係合を検出した後、ロボット制御部9及び供給装置制御部20は、
図4(e)に示すように、押さえ部材駆動モータ19を逆向きに回転させてインサート押さえ部材15をインサートIの外周面から離反させる。その後は、
図4(f)に示すようにインサート挿入工具3を上方へ移動させる。このような手順で待機位置のインサートIをインサート挿入工具3でピックアップした後は、
図1に示すワークWに向けて移動させて、ワークWに設けた雌ねじ部にインサートIを取り付ける。
【0030】
このように第一実施形態のインサート供給装置1Aによれば、ノッチNにフック3bを係合させてインサート挿入工具3を上方へ移動させる際、インサートIにインサート押さえ部材15からの力は作用しないため、ピックアップ時におけるインサートIの損傷やノッチNとフック3bとの係合外れを防止することができる。
【0031】
次に、
図5~
図7を参照しながら本発明に係るインサート供給装置の第二実施形態(インサート供給装置1B)について説明する。第二実施形態のインサート供給装置1Bは、上述したインサート挿入工具3、及びインサート挿入ロボット4を備えるインサート挿入装置2Bに搭載されている。なお、以下の説明において上記のインサート挿入装置2Aと共通する部分については、図面に同一の符号を付して説明は省略する。
【0032】
第二実施形態のインサート供給装置1Bは、
図6に示すようにインサート供給パレット22、インサート押さえ部材23で構成される。
【0033】
インサート供給パレット22は、第二実施形態ではY軸方向に一列に並ぶ複数のインサート挿入穴22aと、インサート挿入穴22aの後側に位置するとともにこれらのインサート挿入穴22aの一部を切り欠く凹部22bを備えている。インサート挿入穴22aには、インサートIを1個収容することができる。またインサート挿入穴22aは、X-Y平面上に延在するインサートIを載置する底部22cと、底部22cから垂直に起立して、底部22cに載置されたインサートIに対向する側壁部22dとを備えている。
【0034】
インサート押さえ部材23は、凹部22bに配置され、Y軸方向を中心としてインサート供給パレット22に対して回転可能に保持されている。インサート押さえ部材23は、
図7に示した押さえ部材駆動モータ19によって、
図6の部分拡大図において実線と破線で示すように、インサート挿入穴22aに接近又は離反する向きに移動する。なおインサート押さえ部材23は、本明細書の「押し当て部」に相当する。
【0035】
第二実施形態のインサート挿入装置2Bにおける電気的な構成は、
図7に示したように、先に説明したインサート挿入装置2Aと同様であるが、プログラム・教示データ記憶部11には、各インサート挿入穴22aの位置を待機位置として記憶させている。
【0036】
このように構成されるインサート供給装置1BでインサートIをインサート挿入工具3に供給するにあたっては、予めインサートIをインサート挿入穴22aに収容しておき、プログラム・教示データ記憶部11に記憶させたインサート挿入穴22aの位置情報に基づいて、インサート挿入工具3を何れか1つの直上に移動させる。また、押さえ部材駆動モータ19によりインサート押さえ部材23をインサート挿入穴22aに接近する向きに回転させ、底部22cに載置されたインサートIの外周面を、側壁部22dとインサート押さえ部材23で挟持する。
【0037】
その後は、インサート挿入工具3の雄ねじ部3aを回転させつつ、下方に向けて移動させることによって、インサートIの内側における雌ねじ状部分とインサート挿入工具3の雄ねじ部3aとを螺合させ、更にノッチNにフック3bを係合させることができる。なお、ノッチNにフック3bを係合させるにあたっては、先に説明したインサート挿入装置2Bと同様に、ノッチNにフック3bが係合するまでの見込時間の間、インサート挿入工具3を回転させてもよいし、トルクセンサ6bで検知されるトルクの値が変わるまでインサート挿入工具3を回転させてもよい。
【0038】
ノッチNにフック3bが係合した後は、押さえ部材駆動モータ19を逆向きに回転させてインサート押さえ部材23をインサートIの外周面から離反させる。その後はインサート挿入工具3を上方へ移動させることで、インサート挿入穴22aに収容したインサートIをピックアップし、
図1に示すワークWに向けて移動させ、ワークWに設けた雌ねじ部にインサートIを取り付けることができる。
【0039】
なお第二実施形態では、各インサート挿入穴22aに収容された全てのインサートIを1つのインサート押さえ部材23で押さえるようにしたが、長さが短くなるように分割した複数のインサート押さえ部材23でインサートIを押さえるようにしてもよい。また、上述したインサート押さえ部材23は、押さえ部材駆動モータ19によって直接的に回転するものであったが、上述した弾性体17のように弾性力を持つ部材をインサート押さえ部材23の内部に配置し、インサートIの外周面に対するインサート押さえ部材23の押し当て力を変更できるようにしてもよい。
【0040】
次に、
図8~
図11を参照しながら本発明に係るインサート供給装置の第三実施形態(インサート供給装置1C)について説明する。第三実施形態のインサート供給装置1Cは、上述したインサート挿入工具3、及びインサート挿入ロボット4を備えるインサート挿入装置2Cに搭載されている。
【0041】
第三実施形態のインサート供給装置1Cは、
図9に示すようにインサート供給パレット24で構成される。
【0042】
インサート供給パレット24は、第三実施形態ではY軸方向に一列に並ぶ複数の穴部24aを備えている。穴部24aは、下方においてX-Y平面上に延在してインサートIを載置する底部24bと、底部24bから上方に向けて延在する円筒状の下側周壁部24cと、下側周壁部24cから上方に向かって拡径する拡径部24dと、拡径部24dから上方に向けて延在する円筒状の上側周壁部24eで構成される。下側周壁部24cの内径は、インサートIの外径と略同一であって、インサートIの下端部は下側周壁部24cに軽く嵌合する。これにより、インサート供給パレット24に対してインサートIを回り止め保持することができる。一方、上側周壁部24eの内径は、インサートIの外径よりも大きくなっている。なお、下側周壁部24cは、本明細書の「保持部」に相当し、上側周壁部24eは、本明細書の「押し当て部」に相当する。
【0043】
インサート供給パレット24は、後述するように、底部24bから上側周壁部24eに至る部位(その一部でもよい)における摩擦係数は高い方が好ましい。このためインサート供給パレット24の全体、穴部24aの全体、又は穴部24aの一部は、摩擦係数が比較的高くなる素材(例えばゴムや硬質スポンジ等)で形成することが好ましい。
【0044】
なお、インサート供給装置1Cはモータ等の電気的な構成要素は持たないため、
図10に示すように上述した供給装置制御部20等(
図3参照)は不要としている。そして、インサート挿入装置2Cにおける電気的な構成は、
図3に示したインサート挿入装置2Aと同様であるが、一方、プログラム・教示データ記憶部11には、各穴部24aの位置を待機位置として記憶させている。
【0045】
このようなインサート挿入装置2Cは、
図11に示す手順でインサートIをインサート挿入工具3に供給することができる。
図11は、穴部24aに収容されているインサートIをインサート挿入工具3でピックアップする様子を、Y-Z平面で切断して前方からの視点で示した断面図である。
【0046】
まず
図11(a)に示すように、インサート挿入工具3を、プログラム・教示データ記憶部11に記憶されている穴部24aの位置、及びロボット制御部9による制御に基づいて、穴部24aに収容されたインサートIの直上に移動させる。なお、インサートIは穴部24aに収容されていて、インサートIの下端部は、インサートIを底部24bに載置した状態において下側周壁部24cに軽く嵌合して回り止め保持されている。
【0047】
次いで
図11(b)に示すように、インサート挿入工具3の雄ねじ部3aを回転させつつ、下方に向けて移動させる。上述したようにインサートIの下端部は下側周壁部24cに軽く嵌合して回り止め保持されているため、インサートIの内側における雌ねじ状部分とインサート挿入工具3の雄ねじ部3aとが螺合していく。ここで、少なくとも穴部24aの一部(底部24bや上側周壁部24e)を構成する部位をゴムや硬質スポンジ等で形成しておけば、インサートIを回り止めする機能が更に効果的に発揮される。なおインサート挿入工具3に設けたフック3bは、付勢されている弾性力に抗して径方向内側に移動しているため、インサートIとインサート挿入工具3が螺合していく際に妨げになることはない。またインサート挿入工具3は、インサートIに対して最後まで螺合させず、インサート挿入工具3をインサートIに螺合させる範囲は、例えば図示したように上側周壁部24eの深さD程度とする。
【0048】
その後は、インサート挿入工具3の回転を一時停止するとともに、
図11(c)に示すようにインサート挿入工具3を上方へ移動させて、インサートIの下端部を下側周壁部24cから抜き取る。上述したようにインサート挿入工具3は、インサートIに対して最後まで螺合しておらず、下側周壁部24cによって回り止め保持されているインサートIの下端部には達していない。すなわちインサートIの下端部は、それ自身が持つばねの性質によって径方向内側に向けて変形可能であって、また下側周壁部24cに対して軽く嵌合しているだけなので、インサート挿入工具3を上方へ移動させる際のインサートIや穴部24aの損傷を防止することができる。
【0049】
次いで
図11(d)に示すように、インサート挿入工具3を左右方向に所定量移動させ、インサートIの下端部を上側周壁部24eに押し当てる。
【0050】
その後は、
図11(e)に示すようにインサート挿入工具3の雄ねじ部3aを回転させる。このとき、インサートIは押し当てられた上側周壁部24eから抵抗力を受けているため、インサートIに対して雄ねじ部3aが回転する。ここで上側周壁部24eをゴム等で形成する際は、上側周壁部24eからの抵抗力をより大きくすることができる。なお上側周壁部24eからの抵抗力は、上側周壁部24eに対するインサート挿入工具3の押し当て量によっても変えることができる。また、インサートIの外周面が上側周壁部24eに押し当てられていることによって、インサートIの径方向外側への撓みを防止することができるため、インサートIに対して雄ねじ部3aが相対的に回転していくと、インサートIの端部に設けられたノッチNにフック3bを確実に係合させることができる。
【0051】
なお上側周壁部24eは、インサートIの下端部に対して全周に亘って押し当たってはいないため、ノッチNの位置が上側周壁部24eに対して周方向にずれていると(例えば上側周壁部24eに対してノッチNが反対側に位置していると)、インサートIの径方向外側への撓みを防止する効果が十分に発揮できないおそれがある。このため、インサート挿入工具3でインサートIを上側周壁部24eに押し当てる際は、インサート挿入工具3の回転によってインサートIも少量回転する(上側周壁部24eに対してインサートIが若干の抵抗をもって空転する)ように押し当て量を調整しておく。すなわち、インサートIが上側周壁部24eに対して若干空回りするため、インサートIが径方向外側へ撓んだとしても、インサートIの外周面は上側周壁部24eに対して周期的に押し当たることになる。従って、上側周壁部24eにインサートIを押し当てる際の当初のノッチNの周方向位置にかかわらず、ノッチNとフック3bとを確実に係合させることができる。
【0052】
また、ノッチNにフック3bが係合させるにあたっては、上述したように、インサート挿入工具3を回転させ始めてからノッチNにフック3bが係合するまでの見込時間(例えばインサート挿入工具3の回転速度とインサートIのピッチ数から算出される必要係合時間に余裕時間を加算した時間)の間、インサート挿入工具3を回転させてもよいし、トルクセンサ6bによるトルクの値に基づいてノッチNにフック3bが係合したことを検出できるまでインサート挿入工具3を回転させるようにしてもよい。
【0053】
その後は、
図11(f)に示すようにインサートIが上側周壁部24eから離反して、更に上方へ移動するようにインサート挿入工具3を移動させることによって、穴部24aに収容されたインサートIをピックアップすることができる。すなわち、ノッチNにフック3bを係合させてインサート挿入工具3を上方へ移動させる際、インサートIに上側周壁部24eからの力は作用しないため、第三実施形態においてもピックアップ時におけるインサートIの損傷やノッチNとフック3bとの係合外れを防止することができる。
【0054】
次に、
図12~
図14を参照しながら本発明に係るインサート供給装置の第四実施形態(インサート供給装置1D)について説明する。第四実施形態のインサート供給装置1Dは、上述したインサート挿入工具3、及びインサート挿入ロボット4を備えるインサート挿入装置2Dに搭載されている。
【0055】
図13に示すようにインサート供給装置1Dは、上述したインサート供給装置1Aに設けたボウルフィーダ12、直進フィーダ13、エスケーパ14、エスケーパ回転モータ18を備えている。なお、インサート供給装置1Aに設けていた押さえ部材駆動モータ19(
図3参照)は、
図14に示すようにインサート供給装置1Dでは不要とし、供給装置制御部20には、エスケーパ回転モータ18と振動装置21が電気的に接続されている。
【0056】
第四実施形態のエスケーパ14は、
図13に示すように、周方向に間隔をあけて設けられる切欠き部14dを備えている。切欠き部14dは、下方においてX-Y平面上に延在してインサートIを載置する底部14eと、底部14eから上方に向けて延在する円筒状の下側周壁部14fと、下側周壁部14fからX-Y平面上に延在する段差部14gと、段差部14gから上方に向けて延在する半円筒状の上側周壁部14hで構成される。下側周壁部14fの内径は、インサートIの外径と略同一であって、インサートIの下端部は下側周壁部14fに軽く嵌合する。これにより、エスケーパ14に対してインサートIを回り止め保持することができる。一方、半円筒状になる上側周壁部14hの内径は、インサートIの外径よりも大きくなっている。なお、下側周壁部14fは、本明細書の「保持部」に相当し、上側周壁部14hは、本明細書の「押し当て部」に相当する。
【0057】
このように構成されるインサート供給装置1DでインサートIをインサート挿入工具3に供給するにあたっては、インサート供給装置1Aと同様に、ボウルフィーダ12の内側にばら積みされたインサートIを収容する。収容されたインサートIは、直進フィーダ13で一列に並んでエスケーパ14に供給され、更に切欠き部14aによって受け取られた1個のインサートIが、エスケーパ14が回転することによって直進フィーダ13に対して周方向に180°ずれた待機位置に移動する。
【0058】
その後は
図11(a)~(c)に示す手順と同様に、インサートIに対してインサート挿入工具3の雄ねじ部3aを、上側周壁部14hの深さD程度まで螺合させる。そして
図11(d)~(e)に示す手順と同様に、インサートIの下端部を上側周壁部14hに押し当て、更にインサート挿入工具3を回転させることによってノッチNにフック3bを係合させる。その後は、インサートIが上側周壁部14hから離反して、更に上方へ移動するようにインサート挿入工具3を移動させることによって、上側周壁部14hからの抵抗力を受けることなく切欠き部14dからインサートIをピックアップすることができる。
【0059】
以上、本発明を具現化した実施形態について例示したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0060】
例えば、
図8~
図11に示した第三実施形態のインサート供給装置1Cは、インサートIの下端部を保持する下側周壁部24cと、インサートIの外周面が押し当てられる上側周壁部24eが、1つの穴部24aで構成されるようにしたが、
図15に示す第五実施形態のインサート供給装置1Eのように構成してもよい。インサート供給装置1Eは、インサート供給パレット25を備えていて、インサート供給パレット25に設けられた複数の穴部25aには、上述した底部24b及び下側周壁部24cと同様の底部と下部周壁部が設けられているものの、拡径部24dや上側周壁部24eに相当する部位は省かれている。一方インサート供給装置1Eには、インサート供給パレット25における左右方向の端部に、半円筒状であって、内径がインサートIの外径よりも大きくなる周壁部25b(本明細書の「押し当て部」に相当する)が設けられている。すなわち、上側周壁部14hと同様に、周壁部25bにインサートIの外周面を押し当てることによって、ノッチNにフック3bを係合させることができる。
【0061】
また第一実施形態のインサート供給装置1Aは、インサートIの外周面に対するインサート押さえ部材15の押し当て力を変更するにあたり、押さえ部材駆動モータ19の回転量を制御し、これにより連結部材16によって圧縮される弾性体17の撓み量を変化させて押し当て力を変更するようにしたが、弾性体17を省いて押さえ部材駆動モータ19でインサート押さえ部材15を直接的に回転できるようにし、押さえ部材駆動モータ19を駆動させた際の電流値に基づいて押し当て力を変えるように構成してもよい。また押さえ部材駆動モータ19を始めとする上記のモータを、他の駆動手段(例えばエアシリンダー)に置き換え駆動させると共に、そのエア圧を変化させることで押し当て力を変えてもよい。
【0062】
また、第三実施形態のインサート供給装置1Cにおける底部24b及び下側周壁部24cにより円筒穴形状を形成していたが、常に円筒穴形状を維持するような構成でなくとも良い。例えば底部24bがわずかな負荷で変形するような板状のスポンジであっても良く、その場合、インサートIの自重に加え、回転工具によるインサートIに対するアプローチにより下方向の微小な押し付け力が加わることによってスポンジが変形してくぼみが生じ、そのくぼみが下側周壁部24cとなることで、結果としてインサートIの下端部を回り止め保持することが可能である。
【0063】
また、第一から第五実施形態において、係合部としてノッチを有するインサート、いわゆるタングレスインサートと呼ばれるインサートを供給する供給装置として説明していたが、本発明に係るインサート供給装置が供給できるインサートは、いわゆるタングレスインサートに限定するものではなく、他の形態のインサートであっても良い。例えば特開2008-38937で提案されているように、タングと呼ばれる係合部を備えていたとしても、挿入工具の係合部がインサートの係合部(タング)を乗り越えてしまうおそれのあるインサートに対して本発明の効果は有効に働く。
【符号の説明】
【0064】
1A~1E:インサート供給装置
3:インサート挿入工具
3b:フック
14b、14e、22c、24b:底部
14c、22d:側壁部
14f、24c:下側周壁部(保持部)
14h、24e:上側周壁部(押し当て部)
15、23:インサート押さえ部材(押し当て部)
16:連結部材(押し当て力変更手段)
17:弾性体(押し当て力変更手段)
19:押さえ部材駆動モータ(移動部、押し当て力変更手段)
25b:周壁部(押し当て部)
I:インサート
N:ノッチ