(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20241031BHJP
F16F 15/26 20060101ALI20241031BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20241031BHJP
F16H 55/36 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/26 B
F02B77/00 K
F16H55/36 H
(21)【出願番号】P 2021040962
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智之
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-109355(JP,A)
【文献】実開昭61-164818(JP,U)
【文献】特開2008-025605(JP,A)
【文献】実開平03-094457(JP,U)
【文献】特開平08-285013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/126
F16F 15/26
F02B 77/00
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定されるハブと、
前記ハブの外周に沿って配置されているリング状の振動リングと、
前記振動リングと前記ハブとの間に介装されているリング状の弾性体と、
を備えるトーショナルダンパであって、
前記振動リングの周方向における特定箇所に、前記振動リングとは比重が異なる材料により構成されている埋設部の全体が埋設されていることによって、前記回転軸の曲げ方向における当該トーショナルダンパの固有振動数が調整されて
おり、
前記埋設部の全体が前記振動リングに覆われているトーショナルダンパ。
【請求項2】
前記振動リングの外周面は、V溝が形成されている形成領域と、前記V溝が非形成となっている非形成領域と、を有し、
前記埋設部は、前記振動リングにおいて、前記非形成領域と対応する部位に配置されている請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
前記ハブは、
前記回転軸が固定される固定部と、
当該ハブの外周部を構成するリムと、
前記回転軸に対して直交する盤状に形成されていて、前記リムと前記固定部とを接続しているステーと、
を有し、
前記埋設部は、前記回転軸に対して直交する方向に当該トーショナルダンパを視たときに前記ステーと重なる位置に配置されている請求項1又は2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
前記埋設部は、前記振動リングに鋳込まれている請求項1から
3のいずれか一項に記載のトーショナルダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
トーショナルダンパ(TVD)は、クランクシャフトの先端に取り付けられ、クランクシャフト(回転軸)に発生する振動を吸収する機能を備える製品である。トーショナルダンパは、ハブと、振動リング(マス)と、ハブと振動リングとの間に介装されたリング状の弾性体と、を備え、弾性体の作用により、主として、クランクシャフトの捩り方向における振動(以下、単に捩り振動と称する場合がある)を低減させる。
トーショナルダンパは、ベルトを介して補機類(オルタネーター、エアコン、ウォーターポンプなど)へ動力を伝達するクランクプーリとしての機能も備える場合がある。
【0003】
特許文献1には、捩り振動だけでなく、クランクシャフトの曲げ方向における振動(以下、単に曲げ振動と称する場合がある)を低減することを目的とした技術が記載されている。特許文献1のトーショナルダンパ(同文献のダイナミックダンパ)では、第6図~第8図に示すように、トーショナルダンパの外輪に凹部が形成されていることにより、トーショナルダンパの周方向における重量バランスが調整され、その結果、クランクシャフトの曲げ振動が低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、曲げ振動を低減するために、トーショナルダンパの外観を変更する必要がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、外観を維持しつつ捩り振動及び曲げ振動を低減することが可能な構造のトーショナルダンパを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、回転軸に固定されるハブと、
前記ハブの外周に沿って配置されているリング状の振動リングと、
前記振動リングと前記ハブとの間に介装されているリング状の弾性体と、
を備えるトーショナルダンパであって、
前記振動リングの周方向における特定箇所に、前記振動リングとは比重が異なる材料により構成されている埋設部の全体が埋設されていることによって、前記回転軸の曲げ方向における当該トーショナルダンパの固有振動数が調整されているトーショナルダンパが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トーショナルダンパの外観を維持しつつ捩り振動及び曲げ振動を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るトーショナルダンパの正面図である。
【
図3】エンジンのクランクシャフトに取り付けられた状態のトーショナルダンパを示す模式的な斜視図である。
【
図4】
図4(a)は第1実施形態に係るトーショナルダンパがエンジンのクランクシャフトに取り付けられた状態を示す模式図であり、
図4(b)は比較形態に係るトーショナルダンパがエンジンのクランクシャフトに取り付けられた状態を示す模式図である。
【
図5】第2実施形態に係るトーショナルダンパの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0011】
〔第1実施形態〕
先ず、
図1から
図4(a)を用いて第1実施形態を説明する。
本実施形態に係るトーショナルダンパ100は、回転軸(
図3及び
図4(a)に示すクランクシャフト61)に固定されるハブ10と、ハブ10の外周に沿って配置されているリング状の振動リング30と、振動リング30とハブ10との間に介装されているリング状の弾性体20と、を備えている。振動リング30の周方向における特定箇所に、振動リング30とは比重が異なる材料により構成されている埋設部50の全体が埋設されていることによって、回転軸の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が調整されている。
ここで、埋設部50の全体が埋設されているとは、埋設部50が振動リング30から突出しない状態で埋設部50に埋設されていることを意味する。したがって、埋設部50が振動リング30と面一に配置されていてもよいし、埋設部50の全体が振動リング30により覆われていてもよい。
【0012】
本実施形態のトーショナルダンパ100によれば、弾性体20の作用により捩り振動(
図3に示す矢印の方向における振動)を低減することができるだけでなく、埋設部50の作用により曲げ振動(
図4(b)に示す矢印の方向における振動)を低減することができる。
すなわち、埋設部50がトーショナルダンパ100の周方向における特定箇所に選択的に配置されていることによって、トーショナルダンパ100の中心C(
図1)を基準とした特定方向の重量に異方性が付与されている。これにより、クランクシャフト61の曲げ振動が相殺されて低減される。
しかも、埋設部50の全体が、振動リング30に埋設されているので、振動リング30の形状及び寸法、ひいてはトーショナルダンパ100全体の形状及び寸法を変更することなく、捩り振動及び曲げ振動を低減することができる。すなわち、トーショナルダンパ100の外観を維持しつつ捩り振動及び曲げ振動を低減することが可能である。
トーショナルダンパ100の周方向における重量バランスの調整は、埋設部50を埋設することによって実現できるため、部品点数の増加を極力抑制しつつ行うことができる。
なお、トーショナルダンパ100の周方向における重量バランスの調整は、埋設部50を構成する材料の比重を変更することによっても行うことができる。
【0013】
近年、CO2排出量の低減や燃費性能の向上の要求に対し、エンジンはロングストローク化(高圧縮化)する傾向があり、クランクシャフト61の曲げ振動が増大しやすい状況にあるが、本実施形態の構造により、ロングストローク化された構造においても、曲げ振動を低減することができる。なお、ロングストローク化とは、クランクジャーナルとクランクピンとの間の距離を大きくすることである。
また、近年、クランクシャフト61が細径化する傾向もあり、そのことによっても、曲げ振動が増大しやすい状況になるが、本実施形態の構造により、クランクシャフト61が細径化された構造においても、曲げ振動を低減することができる。
【0014】
エンジンの各シリンダの爆発タイミングはエンジンのシリンダ数により変化する。例えば、4気筒の場合、1~4番のクランクピンが爆発順序ごとにそれぞれ180度ずれた配置となっている。クランクピンが上死点に達する際に爆発により曲げ振動が発生する。クランクシャフト61の曲げ振動に対し、トーショナルダンパ100がダイナミックダンパ効果を発揮することにより、曲げ振動を低減することが可能である。
【0015】
以下、本実施形態をより詳細に説明する。
以下の説明において、回転軸(クランクシャフト61)の軸方向を単に軸方向と称し、回転軸の軸心を軸心AXと称する。軸心AXの方向のうち、回転軸の先端側を、単に先端側又は遠位側D(
図2(a)、
図2(b)参照)と称し、回転軸の基端側を、単に基端側又は近位側P(
図2(a)、
図2(b)参照)と称する。また、軸心AXに対して直交する方向を単に径方向と称する。
【0016】
図1から
図2(b)のいずれかに示すように、ハブ10は、クランクシャフト61が固定される固定部13と、固定部13から径方向外方に向けて張り出しているドーナツ状の盤状のステー11と、ステー11の周囲に配置されているリム12と、を有する。リム12は、ハブ10の外周部(最外周部)を構成している。ステー11は、クランクシャフト61に対して直交する盤状に形成されていて、リム12と固定部13とを接続している。
【0017】
固定部13は、例えば、円筒状に形成されている。固定部13の内部空間は、クランクシャフト61の先端が差し込まれて固定される取付孔14となっている。トーショナルダンパ100がクランクシャフト61に取り付けられた状態において、クランクシャフト61の軸方向と取付孔14の軸方向とが一致する。より詳細には、取付孔14の軸心は、クランクシャフト61の軸心AXと一致する。
例えば、取付孔14の周方向における1箇所には、取付孔14の軸方向に延在するキー溝15が形成されている。このキー溝15とクランクシャフト61に形成されているキー溝(不図示)との双方に嵌まるようにキー(例えば直方体の金属ブロック:不図示)を打ち込むことにより、クランクシャフト61とトーショナルダンパ100との相対的な回転が規制され、クランクシャフト61とトーショナルダンパ100とが一体的に回転するようになっている。
すなわち、ハブ10は、当該ハブ10と回転軸とを相対回転が規制された状態でキーを介して連結するためのキー溝15を有する。
【0018】
ステー11の盤面は、取付孔14の軸方向に対して直交している。ステー11には、例えば、当該ステー11を厚み方向(
図2(a)における左右方向)に貫通する複数の貫通孔16が形成されている。
図1に示すように、これら貫通孔16は、例えば、互いに同一の形状及び寸法に形成されており、正面視において、トーショナルダンパ100の中心C(
図1)から互いに等距離に配置されている。本実施形態の場合、例えば、
図1に示すように、ステー11は、トーショナルダンパ100の周方向において等角度間隔で配置された4つの貫通孔16を有する。より詳細には、例えば、
図1に示すように、トーショナルダンパ100の正面視において、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径が、複数の(4つの)貫通孔16のうちの1つの貫通孔16aの面積重心を通過している。
【0019】
リム12は、円筒状に形成されており、固定部13と同軸に配置されている。
固定部13は、例えば、ステー11の内周縁から、近位側Pに向けて突出している。
リム12は、例えば、ステー11の外周縁から、近位側P及び遠位側Dの双方に向けて突出している。例えば、ステー11の外周縁から近位側Pへのリム12の突出長は、ステー11の外周縁から遠位側Dへのリム12の突出長よりも大きい。
【0020】
弾性体20は、円筒状に形成されている。弾性体20の材料は、例えば、ゴムである。弾性体20の内周面は、リム12の外周面に対して密着している。
【0021】
振動リング30は、例えば、円筒状に形成されており、リム12と同軸に配置されている。振動リング30は、弾性体20を介して、ハブ10の外周囲に嵌着されている。振動リング30の内周面は、弾性体20の外周面に対して密着している。弾性体20は、振動リング30の内周面とリム12の外周面との間で挟持され、径方向において圧縮されている。
【0022】
軸方向において、振動リング30の寸法は、例えば、リム12の寸法と同等の寸法に設定されている。より詳細には、例えば、軸方向における振動リング30の寸法は、軸方向におけるリム12の寸法よりも若干大きく、振動リング30における基端側の端面36は、例えば、リム12における基端側の端面12aよりも、基端側に位置している。
【0023】
本実施形態の場合、トーショナルダンパ100は、クランクプーリとしての機能を兼ねる。このため、振動リング30の外周面31にはV溝32が形成されている。より詳細には、外周面31には、複数(例えば4つ)のV溝32が形成されている。
ここで、振動リング30の外周面31は、V溝32が形成されている形成領域33と、V溝32が非形成となっている非形成領域34と、を有する。非形成領域34は、例えば、形成領域33よりも先端側に位置している。
【0024】
埋設部50は、振動リング30に埋設されており、ハブ10には埋設部50は埋設されていない。
すなわち、ハブ10と振動リング30とのうち、より外周側に位置する振動リング30に埋設部50が埋設されているため、より小寸法の埋設部50を用いることによって、トーショナルダンパ100の重量バランスを調整することが可能となっている。
【0025】
本実施形態の場合、埋設部50は、振動リング30に圧入固定されている。すなわち、振動リング30に形成されている差込孔37に埋設部50が圧入されることによって、埋設部50が振動リング30に埋設及び固定され、トーショナルダンパ100の中心C(
図1)を基準とした特定方向の重量に異方性が付与されている。
よって、埋設部50が埋設された構造のトーショナルダンパ100を容易に作製することができる。
トーショナルダンパ100の構造は、埋設部50を有していない構造と比べて、振動リング30に差込孔37が形成されている点と、振動リング30に埋設部50が埋設されている点でのみ相違している。このため、振動リング30の作製に用いられる鋳型としては、トーショナルダンパ100が埋設部50を有していない構造の場合と共通のものを用いることもできる。
【0026】
本実施形態の場合、より詳細には、回転軸(クランクシャフト61)の軸方向における埋設部50の端面51が、回転軸の軸方向における振動リング30の端面(先端側の端面35)と面一に配置されている。
【0027】
埋設部50の形状は、特に限定されないが、本実施形態の場合、例えば、埋設部50は円柱状に形成されており、その一端部が楔状に形成されている。埋設部50の軸方向は、軸心AXに対して平行に配置されている。
振動リング30には、埋設部50と対応する形状の差込孔37が形成されている。差込孔37は、振動リング30の先端側の端面35において開口している。
埋設部50は、その楔状の一端部の側から差込孔37に圧入されている。
本実施形態の場合、埋設部50の基端(楔状の一端部の先端)の位置は、軸方向において、ステー11における基端側の盤面11a(
図2(a))よりも先端側に位置している。また、埋設部50の先端側の端面51は、ステー11における先端側の盤面11bよりも先端側に位置している。
【0028】
本実施形態の場合、埋設部50は、振動リング30において、非形成領域34と対応する部位に配置されている。
ここで、振動リング30において、非形成領域34と対応する部位と、形成領域33と対応する部位とは、非形成領域34と形成領域33との境界を通り且つ軸心AXに対して直交する平面により分割されている。本実施形態の場合、振動リング30において当該平面よりも先端側の部位が、非形成領域34と対応する部位である。
振動リング30において非形成領域34と対応する部位の平均の厚み寸法(径方向における寸法)は、振動リング30において形成領域33と対応する部位の平均の厚み寸法(径方向における寸法)よりも大きい。このため、埋設部50を容易に配置することができ、埋設部50の寸法を十分に確保することが可能となる。
ここで、振動リング30において非形成領域34と対応する部位の平均の厚み寸法は、軸心AXを含む平面で切断した当該部位の断面積を、軸方向における当該部位の長さで除した値である。同様に、振動リング30において形成領域33と対応する部位の平均の厚み寸法は、軸心AXを含む平面で切断した当該部位の断面積を、軸方向における当該部位の長さで除した値である。
加えて、埋設部50が非形成領域34と対応する部位に配置されていることにより、埋設部50が形成領域33と対応する部位に配置されている場合と比べて、より優れた固有振動数の調整効果を得ることができる。
ただし、本発明は、この例に限らず、埋設部50は、振動リング30において、形成領域33と対応する部位に配置されていてもよい。
【0029】
埋設部50は、より外周側(径方向外側)に配置されていることが好ましい。
図2(a)に示すように、埋設部50は、例えば、振動リング30の非形成領域34の厚み方向(径方向)において、中心位置よりも外周側(径方向外側)にずれた位置に配置されている。
これにより、埋設部50がより外周側に位置する構造となっているので、より小寸法の埋設部50を用いることによって、トーショナルダンパ100の重量バランスを調整することが可能となっている。
【0030】
埋設部50は、回転軸(クランクシャフト61)に対して直交する方向(
図2(a)における矢印Aの方向)にトーショナルダンパ100を視たときにステー11と重なる位置に配置されている。なお、本実施形態の場合は、
図2(a)及び
図1に示すように、回転軸に対して直交する方向にトーショナルダンパ100を視たときにステー11における貫通孔16(より詳細には貫通孔16a)の形成部分と重なる位置に埋設部50が配置されている例となっている。ただし、本発明は、この例に限らず、回転軸に対して直交する方向にトーショナルダンパ100を視たときにステー11における貫通孔16の非形成部分と重なる位置に埋設部50が配置されていてもよい。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の場合、トーショナルダンパ100は、周方向において互いに離間して配置されている複数(例えば5つ)の埋設部50を有する。
複数の埋設部50は、例えば、トーショナルダンパ100の中心Cから互いに等距離に配置されている。そして、複数の埋設部50は、中心Cを基準として、互いに等角度間隔で配置されている。
より詳細には、トーショナルダンパ100の正面視において、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径が、複数の埋設部50の集合体の重心位置を通過している。そして、複数の埋設部50は、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径を基準として、±45度未満の角度範囲(より詳細には、例えば±30度以下の角度範囲)に配置されている。すなわち、本実施形態の場合、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径を基準とする±45度未満の角度範囲(より詳細には、例えば±30度以下の角度範囲)が、特定箇所となっている。換言すれば、特定箇所は、振動リング30の周方向において、キー溝15と対応する箇所である。
このように、振動リング30の周方向における特定箇所に、周囲とは比重が異なる材料により構成されている埋設部50が埋設されている。
【0032】
ハブ10は、例えば、金属を材料として、当該ハブ10の全体が一体に形成されている。すなわち、ステー11、リム12及び固定部13を含むハブ10の全体が、金属材料により一体形成されている。
【0033】
振動リング30は、例えば、金属を材料として、当該振動リング30の全体が一体に形成されている。
埋設部50は、振動リング30を構成する材料とは比重が異なる材料により形成されている。
一例として、振動リング30は比重が7.3のねずみ鋳鉄により形成されており、埋設部50は比重が11.36の鉛により形成されている。このため、本実施形態の場合、埋設部50は、振動リング30よりも比重が大きい。
なお、本発明は、この例に限らず、埋設部50は振動リング30よりも比重が小さくてもよい。
【0034】
図3及び
図4(a)に示すように、トーショナルダンパ100は、例えば、車両用エンジンのクランクシャフト61に取り付けて用いられる。
例えば、ハブ10の取付孔14にクランクシャフト61の先端部を嵌入させた状態で、ボルト65等の止着具を用いて、ハブ10がクランクシャフト61に固定されることで、トーショナルダンパ100がクランクシャフト61に取り付けられる。
【0035】
一例としてエンジンは、直列4気筒の4ストロークエンジンである。
この場合、エンジンは、4つのシリンダを直列に備えており、シリンダ内を往復動するピストンの往復運動が、コンロッドを介して回転運動に変換されて、クランクシャフト61に伝達される。ピストンのスライド移動方向は、クランクシャフト61の軸心AXに対して直交する方向である。
エンジンは、シリンダ毎に、クランクピン62、クランクジャーナル63、クランクアーム64及びカウンターバランスを備えている。
クランクピン62の位置は、トーショナルダンパ100側から数えて1番目と4番目のピストンを互いに同相で駆動し、2番目と3番目のピストンを、1番目及び4番目のピストンとは180度ずれた位相で互いに同相で駆動するように設定されている。
【0036】
トーショナルダンパ100側から数えて1番目(1番)から4番目(4番)までのすべてのシリンダでの爆発は、クランクシャフト61が180度回転する毎に発生する。
例えば点火順序が1番→2番→4番→3番のエンジンの場合、1番のピストンが圧縮上死点に位置する場合には、2番のピストンは膨張下死点、4番のピストンは圧縮下死点、3番のピストンは吸気下死点に位置する。このため1番のシリンダで爆発が生じ、クランクシャフト61が180度回転した位置では、2番のピストンが圧縮上死点に移動し、2番のシリンダで爆発が発生する。続いてクランクシャフト61が180度回転すると、今度は4番のピストンが圧縮上死点に移動し、4番のシリンダで爆発が発生する。さらにクランクシャフト61が180度回転すると、今度は3番のピストンが圧縮上死点に移動し、3番のシリンダで爆発が発生する。
つまり1番と4番のピストンに関しては、互いに360度位相がずれた位置でシリンダの爆発が発生し、2番と3番のピストンに関しても、互いに360度位相がずれた位置でシリンダの爆発が発生する。そして1番及び4番のピストンと、2番及び3番のピストンとの間の爆発の発生タイミングは、それぞれ180度位相がずれている。
【0037】
トーショナルダンパ100は、捩り方向に固有振動数を持つ。このため、クランクシャフト61が回転して捩り振動が発生する場合、トーショナルダンパ100の捩り方向の固有振動数をクランクシャフト61の捩り共振周波数に適合するようにチューニングしておけば、クランクシャフト61に発生する捩り振動をトーショナルダンパ100により吸収し、該捩り振動を低減することができる。
【0038】
クランクシャフト61には捩り振動だけでなく曲げ振動も発生する。
クランクシャフト61に生じる曲げ振動の大きさは、エンジンのシリンダ毎の爆発のタイミングと相関があり、クランクシャフト61(及びトーショナルダンパ100)の回転角度に応じて変動する。換言すれば、クランクシャフト61の曲げ振動の共振周波数は、クランクシャフト61の回転角度に応じて変化する。
クランクシャフト61の曲げ振動は、シリンダで爆発が発生しないときよりも、シリンダで爆発が発生するときの方が大きい。
特に、クランクシャフト61の曲げ振動は、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、他のシリンダでの爆発が発生するタイミングと比べて大きくなることが一般的に知られている。
【0039】
図4(b)は、ロングストローク化されたエンジンに、比較形態に係るトーショナルダンパ1000を取り付けた構造において、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングで曲げ振動が発生する状況を模式的に示す図である。比較形態に係るトーショナルダンパ1000は、埋設部50(及び差込孔37)を有していない点で、本実施形態に係るトーショナルダンパ100と相違しており、その他の点では、本実施形態に係るトーショナルダンパ100と同様に構成されている。
【0040】
そこで、本実施形態では、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が、クランクシャフト61の曲げ方向におけるクランクシャフト61の共振周波数と対応(適合)するように、埋設部50の重量及び配置が設定されている。これにより、クランクシャフト61の曲げ振動が打ち消されて、当該曲げ振動が低減される。
すなわち、本実施形態において、「回転軸の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が調整されている」とは、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が、クランクシャフト61の曲げ方向におけるクランクシャフト61の共振周波数と対応(適合)するように、埋設部50の重量及び配置が設定されていることを意味する。
【0041】
より詳細には、トーショナルダンパ100は、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径が、1番のシリンダと対応するクランクアーム64の延伸方向に対して平行に延在するようにして、クランクシャフト61に取り付けられている。
このため、上記のように、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径が、複数の埋設部50の集合体の重心位置を通過するようにして、埋設部50が配置されていることによって、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ振動を打ち消して低減できるようになっている。
なお、ハブ10がキー溝15を有しており、上述のように、キー溝15、クランクシャフト61のキー溝、及びキーを用いて、トーショナルダンパ100がクランクシャフト61に取り付けられるので、クランクシャフト61に対するトーショナルダンパ100の取り付け角度が定められる。これにより1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングと、埋設部50が設けられていることによってトーショナルダンパ100が狙いの固有振動数で振動するタイミングと、を合わせることができる。
【0042】
ここで、「1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が、クランクシャフト61の曲げ方向におけるクランクシャフト61の共振周波数と対応すること」とは、好ましくは「1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が、クランクシャフト61の曲げ方向におけるクランクシャフト61の共振周波数と一致すること」であるが、必ずしも、一致することに限られず、トーショナルダンパ100が埋設部50(及び差込孔37)を備えていない構成と比べて、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングでのクランクシャフト61の曲げ振動が低減するように設定されていること全般を含む。
【0043】
上述のように、本実施形態の場合、トーショナルダンパ100は、V溝32を有しており、クランクプーリとしての機能を兼ねる。V溝32は、ウォーターポンプやエアコン用コンプレッサ等の補機類を駆動するために、動力伝達用のベルトを巻き掛けるためのものである。エンジンが始動し、クランクシャフト61が回転すると、トーショナルダンパ100も回転するので、ウォーターポンプやエアコン用コンプレッサ等の補機類に対して、ベルトを介して動力が伝達される。
【0044】
〔第2実施形態〕
次に、
図5から
図6(b)を用いて、第2実施形態を説明する。
本実施形態に係るトーショナルダンパ100は、以下に説明する点で、上記の第1実施形態に係るトーショナルダンパ100と相違しており、その他の点では、上記の第1実施形態に係るトーショナルダンパ100と同様に構成されている。
【0045】
本実施形態の場合、埋設部50は、振動リング30に鋳込むことにより、振動リング30に埋設されており、トーショナルダンパ100の中心C(
図5)を基準とした特定方向の重量に異方性が付与されている。
【0046】
本実施形態の場合、埋設部50の全体が振動リング30に覆われている。すなわち、第1実施形態では、埋設部50の端面51が振動リング30から露出していたのに対して、本実施形態の場合、埋設部50は振動リング30から露出していない。
【0047】
図5に示すように、本実施形態の場合、1つ(単数)の埋設部50が振動リング30に埋設されている。振動リング30の正面形状は、例えば、振動リング30の周方向に沿って弧状に延在する形状となっている。
【0048】
図6(a)に示すように、本実施形態の場合、トーショナルダンパ100の径方向に沿った埋設部50の断面形状は、例えば、矩形状となっている。より詳細には、例えば、この矩形の4辺のうち2辺がそれぞれ軸心AXに対して平行に延在しており、残る2辺がそれぞれ径方向に沿って延在している。
本実施形態の場合、埋設部50の基端側の端面52の位置は、軸方向において、ステー11における基端側の盤面11a(
図2(a))よりも先端側に位置している。また、埋設部50の先端側の端面51は、ステー11における先端側の盤面11bよりも基端側に位置している。
【0049】
本実施形態の場合、トーショナルダンパ100の正面視において、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径が、埋設部50の重心位置を通過している。そして、埋設部50は、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径を基準として、±45度未満の角度範囲(より詳細には、例えば±30度以下の角度範囲、更に詳細には、例えば±15度以下の角度範囲)に配置されている。すなわち、本実施形態の場合、トーショナルダンパ100の中心Cとキー溝15とを通過するトーショナルダンパ100の半径を基準とする±45度未満の角度範囲(より詳細には、例えば±30度以下の角度範囲、更に詳細には、例えば±15度以下の角度範囲)が、特定箇所となっている。換言すれば、特定箇所は、振動リング30の周方向において、キー溝15と対応する箇所である。
このように、本実施形態の場合も、振動リング30の周方向における特定箇所に、周囲とは比重が異なる材料により構成されている埋設部50が埋設されている。
【0050】
本実施形態の場合も、1番のシリンダでの爆発が発生するタイミングにおいて、クランクシャフト61の曲げ方向におけるトーショナルダンパ100の固有振動数が、クランクシャフト61の曲げ方向におけるクランクシャフト61の共振周波数と対応(適合)するように、埋設部50の重量及び配置が設定されている。
これにより、本実施形態の場合も、第1実施形態と同様の作用効果が得られるようになっている。
【0051】
以上、図面を参照して各実施形態を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0052】
例えば、トーショナルダンパ100は、クランクプーリとして用いられる例に限らず、例えば、クランクシャフト61に固定されるフライホイールとして用いられてもよい。この場合、トーショナルダンパ100は、V溝32(及び形成領域33)を有していなくてもよい。
【0053】
また、上記においては、トーショナルダンパ100を、1番のシリンダで爆発が発生するタイミングにおける曲げ振動の低減に特化した構造とするため、周方向における1箇所に埋設部50が配置(または周方向おける1箇所に複数の埋設部50がまとめて配置)されている例を説明した。
ただし、本発明は、この例に限らず、1番以外のシリンダで爆発が発生するタイミング(例えば、2番及び3番のシリンダで爆発が発生するタイミング)においても、曲げ振動を低減するため、
図1または
図5に示した埋設部50の配置に加えて、トーショナルダンパ100の中心Cを基準として、180度対称の位置(
図1または
図5において、トーショナルダンパ100の下部)にも埋設部50が配置されていてもよい。
【0054】
また、上記においては、トーショナルダンパ100が直列4気筒エンジンに取り付けられる例を説明したが、本発明は、この例に限らず、トーショナルダンパ100は、6気筒エンジンやV型エンジン(V型8気筒エンジンなど)等の様々な形態のエンジンに取り付けて用いることも可能であり、それらの場合も上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
また、上記においては、ハブ10の全体(ステー11、リム12及び固定部13)が一体形成されている例を説明したが、本発明は、この例に限らず、ステー11、リム12及び固定部13のうちいずれか1つ又は2つが別体に形成されており、それらが互いに組み付けられることによってハブ10が構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 ハブ
11 ステー
11a、11b 盤面
12 リム
12a 端面
13 固定部
14 取付孔
15 キー溝
16、16a 貫通孔
20 弾性体
30 振動リング
31 外周面
32 V溝
33 形成領域
34 非形成領域
35 端面
36 端面
37 差込孔
50 埋設部
51、52 端面
61 クランクシャフト(回転軸)
62 クランクピン
63 クランクジャーナル
64 クランクアーム
65 ボルト
100、1000 トーショナルダンパ