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特許7579728ポリプロピレン樹脂組成物および射出成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリプロピレン樹脂組成物および射出成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20241031BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20241031BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 10/06 20060101ALI20241031BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L23/12
C08L23/06
C08K5/521
C08F10/02
C08F10/06
B29C45/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021046354
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145094
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 勝寿
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032793(WO,A1)
【文献】特開2003-253084(JP,A)
【文献】特開平10-330579(JP,A)
【文献】特開平11-060887(JP,A)
【文献】特開昭63-039944(JP,A)
【文献】特開昭60-177049(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069483(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/158982(WO,A1)
【文献】特開2011-190407(JP,A)
【文献】特開2011-184620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/12
C08L 23/06
C08K 5/521
C08F 10/02
C08F 10/06
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A-1)~(A-6)を満たすポリプロピレン樹脂(A)を75~95質量部、下記(B-1)~(B-2)を満たす高密度ポリエチレン(B)5~25質量部(ただし、ポリプロピレン樹脂(A)および高密度ポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする。)、およびα晶核剤(C)を0.05~1.0質量部含み、
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、主にプロピレン由来の構成単位からなる成分と、主にプロピレンおよびエチレン由来の構成単位からなる成分とを含むプロピレン系ブロック共重合体、あるいは前記プロピレン系ブロック共重合体に他のプロピレン単独重合体またはプロピレン系ブロック共重合体を配合して調製した組成物、のいずれかである
ポリプロピレン樹脂組成物。
(A-1)メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が2~100g/10分であること
(A-2)室温のn-デカンに不溶な成分85~97質量%と室温のn-デカンに可溶な成分3~15質量%とから構成されること(ただし、両者の合計量を100質量%とする。)
(A-3)前記室温のn-デカンに不溶な成分のメソペンタッド分率(mmmm分率)が94.0%以上であること
(A-4)前記室温のn-デカンに不溶な成分のMw/Mnが8.0~15.0であり、Mz/Mwが7.0~12.0であること
(A-5)前記室温のn-デカンに可溶な成分の極限粘度[η]が1.5~5.0dL/gであること
(A-6)前記室温のn-デカンに可溶な成分のエチレン含量が35~46質量%であること
(B-1)メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が20~80g/10分であること
(B-2)密度が955kg/m3以上であること
【請求項2】
前記α晶核剤(C)がリン酸エステル金属塩系核剤である請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂組成物の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン樹脂組成物およびそれからなる射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、剛性と耐衝撃性とのバランスに優れ、光沢が高いために住宅設備部材、家電のハウジング材に広く使用されている。しかし、ABS樹脂は、製造コストが高いだけでなく、非晶性樹脂であるために耐薬品性に劣り、ABS樹脂製の化粧台等の住宅設備又は冷蔵庫等の家電製品は、油等が付着したときに割れることがあった。
【0003】
そこで近年、ABS樹脂を、耐薬品性に優れ、かつ安価な材料として結晶性ポリプロピレン樹脂に置き換える検討がなされている。
例えば、特許文献1には、高剛性、高耐衝撃性、高光沢性のバランスに優れた、プロピレン系重合体にエチレン・α-オレフィン共重合体を含む改質剤を配合したポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。
【0004】
特許文献2には、充分な耐衝撃性及び剛性を確保しつつ光沢の高い、プロピレン重合体とエチレン・1-ブテン共重合体の混合物と造核剤とを含有するポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。
【0005】
特許文献3及び4には、剛性と耐寒衝撃性とのバランスに加えて、高流動、高光沢である、プロピレン(コ)ポリマー及びエチレン-プロピレンコポリマーからなるポリプロピレン組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-158440号公報
【文献】特開2016-89176号公報
【文献】特開2019-218459号公報
【文献】特開2020-063386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、耐衝撃性、光沢に優れているが、剛性と耐衝撃性のバランスに劣り、結果として剛性が低いといった課題があった。
特許文献2に係る発明は、剛性と特に光沢に優れているが、剛性と耐衝撃性のバランスに劣り、結果として耐衝撃性が低いといった課題があった。
【0008】
特許文献3、4に係る発明は、耐衝撃性と光沢に優れているが、剛性と耐衝撃性とのバランスに劣り、結果として剛性がまだ十分高いとは言えないという課題があった。
以上のように光沢の優れたポリプロピレン樹脂組成物は、ABS樹脂と比較して剛性と耐衝撃性とのバランスに劣るという本質的課題が解決されないままであった。
【0009】
このような状況に鑑み、本発明は、光沢、剛性および耐衝撃性にバランスよく優れる成形体、特に射出成形体を形成することのできるポリプロピレン樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記の要件を満たすポリプロピレン樹脂組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の態様の例を以下に示す。
【0011】
[1]
下記(A-1)~(A-6)を満たすポリプロピレン樹脂(A)を75~95質量部、下記(B-1)~(B-2)を満たす高密度ポリエチレン(B)5~25質量部(ただし、ポリプロピレン樹脂(A)および高密度ポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする。)、およびα晶核剤(C)を0.05~1.0質量部含むポリプロピレン樹脂組成物。
(A-1)メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が2~100g/10分であること
(A-2)室温のn-デカンに不溶な成分85~97質量%と室温のn-デカンに可溶な成分3~15質量%とから構成されること(ただし、両者の合計量を100質量%とする。)
(A-3)前記室温のn-デカンに不溶な成分のメソペンタッド分率(mmmm分率)が94.0%以上であること
(A-4)前記室温のn-デカンに不溶な成分のMw/Mnが8.0~15.0であり、Mz/Mwが7.0~12.0であること
(A-5)前記室温のn-デカンに可溶な成分の極限粘度[η]が1.5~5.0dL/gであること
(A-6)前記室温のn-デカンに可溶な成分のエチレン含量が35~46質量%であること
(B-1)メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が20~80g/10分であること
(B-2)密度が955kg/m3以上であること
【0012】
[2]
前記α晶核剤(C)がリン酸エステル金属塩系核剤である前記[1]のポリプロピレン樹脂組成物。
【0013】
[3]
前記[1]または[2]のポリプロピレン樹脂組成物の射出成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るプロピレン系重合体組成物によれば、光沢、剛性および耐衝撃性の物性バランスの極めて優れた成形体、特に射出成形体を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物及びそれからなる射出成形体について具体的に説明する。
[ポリプロピレン樹脂組成物]
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、後述する要件(A-1)~(A-6)を満たすポリプロピレン樹脂(A)を75~95質量部、後述する要件(B-1)および(B-2)を満たす高密度ポリエチレン(B)を5~25質量部(ただし、前記ポリプロピレン樹脂(A)及び前記高密度ポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする。)、およびα晶核剤(C)を0.05~1.0質量部含むことを特徴としている。
【0016】
[ポリプロピレン樹脂(A)]
本発明に係るポリプロピレン樹脂組成物は、以下に説明する要件(A-1)~(A-6)を満たすポリプロピレン樹脂(A)を含む。ポリプロピレン樹脂(A)は、主にプロピレン由来の構成単位からなる成分と、主にプロピレンおよびエチレン由来の構成単位からなる成分とを含むプロピレン系ブロック共重合体である。
【0017】
[要件(A-1)]
要件(A-1)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)のメルトフローレート(以下「MFR」とも記載する。)(ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重)が2~100g/10分である、というものである。前記MFRは、好ましくは5~80g/10分、より好ましくは10~60g/10分、さらに好ましくは10~40g/10分である。
【0018】
前記MFRが2g/10分未満ではポリプロピレン樹脂組成物の流動性が低くなり、大型の射出成形が困難になり、射出成形体にフローマークが発生することがある。また、前記MFRが100g/10分を越えると射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。
【0019】
[要件(A-2)]
要件(A-2)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)が室温(すなわち、25℃。以下も同様。)のn-デカンに不溶な成分(以下「CDIS」とも記載する。)85~97質量%と、室温のn-デカンに可溶な成分(以下「CDS」とも記載する。)3~15質量%とから構成される(ただし、CDISとCDSとの合計量は100質量%である)、というものである。前記CDISの割合は、好ましくは90~95質量%であり、前記CDSの割合は、好ましくは5~10質量%である。
【0020】
前記CDISの量が97質量%を超えると(すなわち、前記CDSの量が3質量%未満になると)、射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。また、前記CDISの量が85質量%未満になると(すなわち、前記CDSの量が15質量%を超えると)、射出成形体の剛性が低下することがある。
【0021】
[要件(A-3)]
要件(A-3)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)の、後述する実施例で採用された条件またはこれと同等の条件で測定されるCDISのメソペンタッド分率(以下「mmmm分率」とも記載する。)が94.0%以上である、というものである。前記mmmm分率は、好ましくは95.0%以上である。前記mmmm分率の上限値は、たとえば99.8%であってもよい。前記mmmm分率が94.0%未満であると、射出成形体の剛性が低下することがある。
【0022】
メソペンタッド分率(mmmm分率)は、分子鎖中の五連子アイソタクティック構造の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ構造を有する連鎖の中心にあるプロピレン構造単位の分率である。このような要件を満たすプロピレン単独重合体は、例えば後述する公知の固体状チタン触媒成分と有機金属化合物触媒成分および必要に応じて用いられる電子供与体を含むオレフィン重合用触媒によりプロピレンを重合させることによって得ることができる。
【0023】
[要件(A-4)]
要件(A-4)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)の、後述する実施例で採用された条件またはこれと同等の条件で測定されるCDISのMw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)が8.0~15.0であり、かつMz(z平均分子量)/Mw(重量平均分子量)が7.0~12.0である、というものである。前記Mw/Mnは、好ましくは、9.0~13.0であり、前記Mz/Mwは、好ましくは8.0~10.0である。前記Mw/Mnが8.0未満であると射出成形体の剛性が低下することがあり、15.0を超えると射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。前記Mz/Mwが7.0未満であると射出成形体の剛性が低下することがあり、12.0を超えると射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。
【0024】
[要件(A-5)]
要件(A-5)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)のCDSの、後述する実施例で採用された条件またはこれと同等の条件で測定される極限粘度[η]が1.5~5.0dL/gである、というものである。前記極限粘度[η]は、好ましくは2.0~4.0dL/gである。
前記[η]が1.5dL/g未満であると、射出成形体の衝撃強度が低下することがあり、5.0dL/gを超えると射出成形体の光沢が低下することがある。
【0025】
[要件(A-6)]
要件(A-6)は、前記ポリプロピレン樹脂(A)においてCDSのエチレン含量(すなわち、CDSの全構造単位に占めるエチレン由来の構造単位の割合)が35~46質量%である、というものである。前記エチレン含量は、好ましくは36~45重量%であり、更に好ましくは38~44質量%である。
【0026】
前記エチレン含量が35質量%未満であると、射出成形体の耐衝撃性が低下することがあり、前記エチレン含量が46質量%を超えると、射出成形体の耐衝撃性が低下するだけでなく、光沢も低下することがある。
【0027】
(ポリプロピレン樹脂(A)の製造方法)
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、メタロセン触媒又はチーグラー・ナッタ触媒の存在下でプロピレンとエチレンとを共重合することにより得られる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにプロピレンおよびエチレン以外の単量体を共重合してもよい。
【0028】
重合は、気相重合法、バルク重合法またはスラリー重合いずれで行ってもよい。これらの重合方法は、多段重合法で行うことが好ましく、複数の重合反応槽を直列に連結させた装置を用いて行われる多段式により行ってもよいし、各段を別々の重合方法で行ってもよい。工業的かつ経済的な観点から、連続式の気相重合法またはバルク重合法と気相重合法とを連続的に行うバルク-気相重合法による方法が好ましい。例えば、前段の重合工程でプロピレン単独重合体成分をバルク重合法で製造し、後段の重合工程でプロピレン-エチレン共重合体成分を気相法で製造することにより得られる。
【0029】
重合に用いる触媒としては、たとえばチーグラー・ナッタ触媒、およびメタロセン触媒が挙げられ、前記触媒を用いると分子量分布の広いポリプロピレン樹脂(A)が得られることから、チーグラー・ナッタ触媒が好ましい。
【0030】
チーグラー・ナッタ触媒を用いる場合には、固体状チタン触媒成分(I)と、周期律表の第1族、第2族および第13族からなる群から選択される金属原子を含む有機金属化合物(II)と、必要に応じて電子供与体(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下に重合を行うことが好ましい。
【0031】
前記オレフィン重合用触媒は、前重合触媒を形成していてもよい。前重合触媒は、固体状チタン触媒成分(I)と、周期律表の第1族、第2族および第13族からなる群から選択される金属原子を含む有機金属化合物(II)と、必要に応じて電子供与体(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィン、たとえばプロピレン等の炭素数2~8のα-オレフィンを重合させることにより形成される。
【0032】
重合工程における各種条件(各工程(多段重合法を採用する場合であれば、各段の重合工程)における重合温度、重合圧力、モノマー濃度、触媒投入量、重合時間等)は、目的とするポリプロピレン樹脂(A)に応じて、適宜決定すればよい。各成分の分率(たとえば、多段重合法により製造されるプロピレン単独重合体成分およびプロピレン-エチレン共重合体成分のそれぞれの分率)は各段の重合時間により調整すればよい。
【0033】
また、プロピレン系ブロック共重合体に他のプロピレン単独重合体またはプロピレン系ブロック共重合体を配合して調製した組成物も、本発明におけるポリプロピレン樹脂(A)に該当する。
【0034】
次に、要件(A-1)~(A-6)における各物性の調整方法を、特に断りのない限り多段重合法で前記ポリプロピレン樹脂(A)を製造する場合を例に挙げて説明する。
要件(A-1)~(A-3)、(A-5)~(A-6)における各物性は、ポリプロピレン樹脂(A)を製造する際に公知の触媒を適宜選択し、前段のプロピレン単独重合体成分の重合において水素濃度、重合温度、重合時間等の条件を調整し、後段のプロピレン-エチレン共重合体成分の重合においてエチレン濃度、水素濃度、重合温度、重合時間等を調整することができる。
【0035】
具体的には、要件(A-1)におけるMFRについては、前段の重合において連鎖移動剤としての水素ガスの供給量の割合を大きくすることでMFRを高くすることができ、この割合を小さくすることでMFRを小さくすることができる。
【0036】
要件(A-2)におけるCDIS量およびCDS量は、前段および後段の重合時間を制御することにより、調整できる。
【0037】
要件(A-3)におけるCDISのmmmm分率は、公知の種々の触媒、たとえば(a)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含有する固体状チタン触媒成分と、(b)周期律表の第1族、第2族および第13族からなる群から選択される金属原子を含む有機金属化合物触媒成分と、(c)シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する有機ケイ素化合物触媒成分(電子供与体)とからなる触媒を用いることにより調整でき、この触媒は公知の方法、たとえば国際公開第2010/74001号の[0078]~[0094]に記載の方法で製造することができる。
【0038】
要件(A-4)におけるCDISのMw/Mn、Mz/Mwは、例えば、以下の方法(i)、(ii)または(iii)により調整できる。
方法(i):一段目の重合工程で水素を供給しないか又は水素濃度の低い等の条件の下、バルク重合法で分子量の高いプロピレン単独重合体を製造し、二段目の重合工程で水素の高濃度等の条件の下、バルク重合法で分子量の低いプロピレン単独重合体を製造し、三段目の重合工程で気相重合法でプロピレン-エチレン共重合体成分を気相法で製造する。
【0039】
方法(ii):前記方法(i)の一段目および二段目の重合法でプロピレン単独重合体組成物を製造し、前記プロピレン単独重合体組成物を他のプロピレン・エチレンブロック共重合体と溶融混練する。
【0040】
方法(iii):水素濃度の低い条件の下で重合した分子量の高いプロピレン単独重合体を他のプロピレン・エチレンブロック共重合体に溶融混練して製造する。
これらの方法の中で方法(i)および(ii)が、射出成形体にフィッシュアイが発生しないので好ましい。
【0041】
要件(A-5)におけるCDSの極限粘度[η]は、プロピレン-エチレン共重合体成分の重合段階において、連鎖移動剤としての水素ガスの供給量の割合により調整できる。
【0042】
要件(A-6)におけるCDSのエチレン含量は、プロピレン-エチレン共重合体成分の重合段階において、エチレンの供給量の割合により調整できる。
【0043】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物におけるポリプロピレン樹脂(A)の含有量は、ポリプロピレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン(B)の合計100質量部に対して、75~95質量部、好ましくは78~92質量部、より好ましくは80~90質量部である。
ポリプロピレン樹脂(A)の含有量が75質量部未満では射出成形体の剛性が低下することがあり、95質量部を超えると射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。
【0044】
[高密度ポリエチレン(B)]
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、以下に説明する要件(B-1)および(B-2)を満たす高密度ポリエチレン(B)を含む。
【0045】
[要件(B-1)]
要件(B-1)は、高密度ポリエチレン(B)の、190℃、2.16kg荷重で測定されるMFRが、20~80g/10分である、というものである。前記MFRは、好ましくは20~60g/10分である。
前記高密度ポリエチレン(B)のMFRが20g/10分未満であると、射出成形体の光沢が低下することがあり、80g/10分を超えると、射出成形体の耐衝撃性が低下することがある。
【0046】
[要件(B-2)]
要件(B-2)は、高密度ポリエチレン(B)の密度が955kg/m3以上である、というものである。前記密度は、好ましくは960kg/m3以上である。前記高密度ポリエチレン(B)の密度が955kg/m3未満であると、射出成形体の剛性が低下することがある。
【0047】
(高密度ポリエチレン(B)の製造方法)
高密度ポリエチレン(B)は、従来公知の方法で製造することができる。すなわち、チーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒等の公知の各種触媒を用いて主としてエチレンを重合することにより得られる。一般的には、チタン等の遷移金属化合物及びマグネシウム化合物からなるチーグラー触媒、酸化クロム系触媒等のフィリップス触媒およびジルコニウム等の遷移金属化合物に少なくとも1つのシクロペンタジエニル基または置換シクロペンタジエニル基を有するメタロセン系触媒が用いられる。
【0048】
重合においては、エチレンを単独で重合するか、またはエチレンと炭素数3~18のα-オレフィンから選ばれる1種またはそれ以上のコモノマーを所定の密度になるよう共重合する。共重合するα-オレフィンの代表例としてはプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンが挙げられる。
【0049】
要件(B-1)におけるMFRは、エチレンを重合(またはエチレンおよびα-オレフィンを共重合)して高密度ポリエチレン(B)を製造する際に、モノマー(すなわち、エチレンの単独重合の場合にはエチレン、共重合の場合にはエチレンおよびα-オレフィン)の供給量に対する連鎖移動剤としての水素ガスの供給量の割合を調整することにより調整できる。すなわち、この割合を大きくすることでMFRを高くすることができ、この割合を小さくすることでMFRを低くすることができる。
【0050】
要件(B-2)における密度は、エチレンを重合(またはエチレンおよびα-オレフィンを共重合)して高密度ポリエチレン(B)を製造する際の、エチレン供給量に対するα-オレフィン供給量の割合を調整することにより調整できる。つまり、この割合を大きくすることにより、密度を低くすることができ、この割合を小さくすることにより、密度を高くすることができる。
このような高密度ポリエチレン(B)の市販品の例としては、(株)プライムポリマー製ハイゼックス(登録商標)1810J、1820Jが挙げられる。
【0051】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物における高密度ポリエチレン(B)の含有量は、ポリプロピレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン(B)の合計100質量部に対して、5~25質量部、好ましくは8~22質量部、より好ましくは10~20質量部である。
高密度ポリエチレン(B)の含有量が5質量部未満では射出成形体の光沢が低下することがあり、25質量部を超えると射出成形体の剛性が低下することがある。
【0052】
[α晶核剤(C)]
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、α晶核剤(C)を含む。α晶核剤(C)は、ポリプロピレンのα晶の成長を促進させる核剤であり、リン酸エステル金属塩系核剤、ソルビトール系核剤、カルボン酸金属塩系核剤、ロジン系核剤、微細タルクなどを挙げることができる。ここで微細タルクとは、平均粒子径(レーザー回折・散乱法によるD50の値)が0.1~10μm程度のタルクをいう。
【0053】
これらの中でも、射出成形体の剛性を向上させる観点から、特にリン酸エステル金属塩系核剤が好ましい。リン酸エステル金属塩系核剤としては、例えばビス(4-t-ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、ビス(4-t-ブチルフェニル)リン酸リチウム塩、ビス(4-t-ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸リチウム塩、2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、2,2'-メチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸カルシウム塩、2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸ナトリウム塩、2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸塩リチウム、2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)リン酸アルミニウム塩、ビス-(4-t-ブチルフェニル)リン酸カルシウム塩が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、ADEKA社から販売されている「アデカスタブ(登録商標)NA-11」、「アデカスタブNA-21」、「アデカスタブNA-27」が挙げられる。
【0054】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物におけるα晶核剤(C)の含有量は、ポリプロピレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン(B)の合計100質量部に対して0.05~1.0質量部、好ましくは0.1~0.8質量部である。
α晶核剤(C)の含有量が0.05質量部未満では射出成形体の剛性が低下することがあり、1.0質量部を超えると射出成形体の剛性改良の効果が低下することがある。
【0055】
[添加剤(核剤を除く)]
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、任意に添加剤(核剤を除く)を含んでいてもよい。前記添加剤としては、一般的にポリプロピレン樹脂に配合可能な公知の酸化防止剤、および中和剤が好ましい。酸化防止剤を配合する場合、その配合量はポリプロピレン樹脂組成物に対して通常500~8000質量ppm、好ましくは750~7500質量ppmである。一方でフィッシュアイやベタつき成分の増加といったフィルムの不良につながる中和剤の配合量は、ポリプロピレン樹脂組成物に対して通常5~1000質量ppm、好ましくは10~750質量ppm、より好ましくは15~500質量ppmである。
【0056】
また、酸化防止剤、中和剤以外の添加剤についても、ポリプロピレン樹脂に配合可能な公知の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲でいずれも用いることができ、例えば、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを用いることができる。微細タルク以外の無機フィラーまたは有機フィラーは射出成形体の光沢を低下させるので、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、好ましくはこれらを含まない。
【0057】
(ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、種々公知の製造方法、例えば、前記ポリプロピレン樹脂(A)、前記高密度ポリエチレン(B)および前記α晶核剤(C)、ならびに必要に応じて前記添加剤を、所望の量で、ドライブレンドまたは押出機内での溶融混練等の通常の方法で混合することにより、製造できる。混合方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、バンバリーミキサーなどの通常の混練装置を用いて、上述した各種成分を混練する方法が挙げられる。また、上述した各種成分を、通常の単軸押出機あるいは二軸押出機、ブラベンダー又はロールを使用して、たとえば190~280℃、好ましくは210~250℃で溶融混練し、ペレタイズしてもよい。二軸押出機を用いた場合、回転数が高いとポリプロピレン樹脂(A)のCDISに含まれる超高分子量成分が分解してMw/Mn、Mz/Mwが減少する場合があるので、単軸押出機がより好ましい。
【0058】
[射出成形体]
本発明に係る射出成形体は、上述したポリプロピレン樹脂組成物を用いて製造される。前記ポリプロピレン樹脂組成物に含まれるポリプロピレン樹脂は、上述の要件(A-1)~(A-6)を同時に満たすことから、光沢、剛性及び耐衝撃性バランスがよく、さらには、広分子量分布であること(要件(A-4))に起因し、溶融流動性が高く、高分子量の重合体を多く含んでおり、それに基づき高分子量重合体が結晶核剤としての効果を発現することにより、結晶化速度が速くなるとの特徴がある。このような特徴から、成形時の金型への流動性が高く、さらには結晶化速度が速いことから成形サイクルが短縮できるという特徴を有する。
【0059】
したがって、本発明に係る射出成形体は用途が限定されることはないが、自動車外装部品、自動車内装部品、その他自動車部品、家電部品、食品容器、飲料容器、医療容器、コンテナ等に好適に使用することができる。特に家電(炊飯ジャー、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、扇風機、エアコン等)の部品又は住宅設備(化粧台、換気扇、便座、便蓋等及び付属品又はハウジング類)の部品に好適である。
【実施例
【0060】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.測定方法
(1)曲げ弾性率
ISO178に準拠し、試験温度23℃、試験速度2.0mm/分で測定した(単位はMPa)。なお、試験片は、東芝機械社製EC40射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度40℃で平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)を成形し使用した。
【0061】
(2)シャルピー衝撃強度
JIS K7112に準拠し、試験温度23℃で測定した(単位はkJ/m2)。試験片は、東芝機械社製EC40射出成形機を用い、成形温度190℃、金型温度40℃で平板(厚さ4mm 幅10mm 長さ80mm)を成形して作製した。
【0062】
(3)衝撃エネルギー
JIS K7211-2に準拠し、試験温度23℃、試験速度3.0m/秒でパンクチャーエネルギー(以下「衝撃エネルギー」とも記載する。)(単位はJ)を測定した。試験片は、日精樹脂工業(株)製NEX110IV射出成形機を用い、成形温度230℃、金型温度40℃で平板(厚さ2mm 幅120mm 長さ130mm)を成形して作製した。
【0063】
(4)グロス
ISO 2813に準拠して、Gloss Meter VG7000(日本電色工業社製)を用いて60°表面グロスを測定した。60°表面グロスは、屈折率1.567であるガラス表面において規定された入射角60°での鏡面光沢度0.1001を100%としたときの鏡面光沢度に相当する。試験片は前記(3)と同一の平板を用いた。
【0064】
(5)メルトフローレート(MFR)
ポリプロピレン樹脂(A)及びポリプロピレン樹脂組成物のMFRは、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した(単位はg/10分)。
高密度ポリエチレン(B)のMFRは、ASTM D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重で測定した(単位はg/10分)。
【0065】
(6)室温n-デカン不溶部量(CDIS量)と室温n-デカン可溶部量(CDS量)
室温n-デカン不溶部量と室温n-デカン可溶部量は以下の方法により求めた。
ポリプロピレン樹脂(A)5gにn-デカン200mlを加え、145℃、30分間加熱溶解を行い、次に約2時間かけて、溶液を室温25℃まで冷却を行い、25℃で30分間放置した。その溶液を目開き約15μmの濾布でろ別したものを乾燥させ、室温n-デカン不溶部を得た。この室温n-デカン不溶部の質量をポリプロピレン樹脂(A)の質量である5gで除したものを、n-デカン不溶部量とした。
【0066】
また、室温n-デカン不溶部をろ別した後の溶液を、その溶液の約3倍量のアセトン中に入れ、n-デカン中に溶解していた成分を析出させ、室温n-デカン可溶部を得る。その後、室温n-デカン可溶部をガラスフィルター(G2、目開き約100~160μm)でろ別し、乾燥させた後、室温n-デカン可溶部の質量を測定した。このときの室温n-デカン可溶部の質量をポリプロピレン樹脂(A)の質量である5gで除したものをn-デカン可溶部量とした。なお、室温n-デカン可溶部をろ別したろ液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。
【0067】
(7)CDISのメソペンタッド分率(mmmm分率)
CDISのメソペンタッド分率(mmmm分率)は、A.ZambelliらのMacromolecules,8,687(1975)に示された帰属により定められた値であり、13C-NMRにより、下記条件で測定した。なお、メソペンタッド分率は以下の式で表される値である。
メソペンタッド分率=(21.7ppmでのピーク面積)/(19~23ppmでのピーク面積)
【0068】
<測定条件>
装置 JNM-Lambada400(商品名、日本電子(株)製)
分解能 400MHz
測定温度 125℃
溶媒 1,2,4-トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼン=7/4(質量比)
パルス幅 7.8μ秒
パルス間隔 5秒
積算回数 2000回
シフト基準 TMS=0ppm
モード シングルパルスブロードバンドデカップリング。
【0069】
(8)室温n-デカン可溶部の極限粘度[η]
室温n-デカン可溶部の極限粘度[η](単位はdl/g)は下記のようにして決定した。
室温n-デカン可溶部量約25mgをデカリン25mlに溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度Cを0(ゼロ)に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求め、デカリン中135℃で測定した極限粘度[η]とした。
【0070】
(9)室温n-デカン可溶部のエチレン含有量
室温n-デカン可溶部中のエチレン含有量は13C-NMRの測定に基づき下記のようにして測定・算出し決定した。サンプルは、前記のDinsolおよびDsolの割合を求めた際に得られた析出物(α)および(β)を用いた。
この析出物(α)および(β)を試料として、下記条件にてそれぞれ13C-NMRの測定を行った。
【0071】
13C-NMR測定条件>
測定装置:日本電子製LA400型核磁気共鳴装置
測定モード:BCM(Bilevel Complete decoupling)
観測周波数:100.4MHz
観測範囲:17006.8Hz
パルス幅:C核45°(7.8μ秒)
パルス繰り返し時間:5秒
試料管:5mmφ
試料管回転数:12Hz
積算回数:20000回
測定温度:125℃
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン:0.35ml/重ベンゼン:0.2ml
試料量:約40mg
【0072】
測定で得られたスペクトルより、下記文献(1)に準じて、モノマー連鎖分布(トリアッド(3連子)分布)の比率を決定し、前記の室温n-デカン可溶部中のエチレンに由来する構成単位のモル分率(mol%)(以下E(mol%)と記す)およびプロピレンに由来する構成単位のモル分率(mol%)(以下P(mol%)と記す)を算出した。求められたE(mol%)およびP(mol%)から下記(式1)に従い質量%に換算しポリプロピレン樹脂の前記の室温n-デカン可溶部中のエチレン含有量(質量%)(以下E(質量%)と記す)を算出した。
【0073】
文献(1):Kakugo,M.; Naito,Y.; Mizunuma,K.; Miyatake,T., Carbon-13 NMR determination of monomer sequence distribution in ethylene-propylenecopolymers prepared with delta-titanium trichloride-diethylaluminumchloride. Macromolecules 1982, 15, (4), 1150-1152
E(質量%)=E(mol%)×28×100/[P(mol%)×42+E(mol%)×28](式1)
【0074】
(10)Mw/Mn、Mz/Mw
以下の条件で測定し、得られたクロマトグラムを公知の方法によって解析することで、ポリプロピレン樹脂(A)の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、Z-平均分子量Mzを算出し、その値を用いてMw/Mn、Mz/Mwを得た。分子量の算出はユニバーサルキャリブレーション法により行い、ポリスチレン換算の値を算出した。GPCクロマトグラムのベースラインは、溶出曲線の立ち上がる保持時間を起点とし、分子量1000に相当する保持時間を終点とした。
【0075】
液体クロマトグラフ:Waters製ALC/GPC150-Cplus型
(示差屈折計検出器一体型)
カラム: 東ソー株式会社製GMH6-HT×2本および
GMH6-HTL×2本を直列接続した。
移動相媒体: o-ジクロロベンゼン
流速: 1.0mL/分
測定温度: 140℃
検量線の作成方法: 標準ポリスチレンサンプルを使用した
サンプル濃度: 0.10%(W/W)
サンプル溶液量: 500μL
【0076】
(11)密度
高密度ポリチレン(B)の密度は、ASTM D1505によって決定。
【0077】
2.原材料
(A)ポリプロピレン樹脂
(1)原材料
実施例、比較例にて用いたポリプロピレン樹脂(A)を得るために、以下の重合体(a1)~(a7)を準備した。
(a1)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロ(登録商標)J-784HV(2段重合で得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体)(MFR=12g/10分、CDSの割合=13.5質量%、CDSのエチレン含有量=35.0質量%、CDSの極限粘度[η]=2.5dL/g)
(a2)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロX860(2段重合で得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体)(MFR=63g/10分、CDSの割合=23.0質量%、CDSのエチレン含有量=31.7質量%、CDSの極限粘度[η]=2.5dL/g)
(a3)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロJ108P(ホモPP)(MFR=45g/10分)
(a4)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロJ13B(ホモPP)(MFR=220g/10分)
(a5)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロH-50000(ホモPP)(MFR=500g/10分)
(a6)(株)プライムポリマー製、プライムポリプロVP103W(ホモPP)(MFR=3.0g/10分)
(a7)以下の製造例1で製造されたホモPP
【0078】
(2)製造例
〔製造例1〕
(重合体(a7)の製造)
(1)マグネシウム化合物の調製
攪拌機付き反応槽(内容積500リットル)を窒素ガスで充分に置換し、エタノール97.2kg、ヨウ素640g、および金属マグネシウム6.4kgを投入し、攪拌しながら還流条件下で系内から水素ガスの発生が無くなるまで反応させ、固体状反応生成物を得た。この固体状反応生成物を含む反応液を減圧乾燥させることにより目的のマグネシウム化合物(固体触媒の担体)を得た。
【0079】
(2)固体触媒成分の調製
窒素ガスで充分に置換した撹拌機付き反応槽(内容積500リットル)に、前記マグネシウム化合物(粉砕していないもの)を30kg、精製ヘプタン(n-ヘプタン)を150リットル、四塩化ケイ素を4.5リットル、およびフタル酸ジ-n-ブチルを5.4リットル加えた。系内を90℃に保ち、攪拌しながら四塩化チタンを144リットル投入して110℃で2時間反応させた後、固体成分を分離して80℃の精製ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化チタンを228リットル加え、110℃で2時間反応させた後、精製ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒成分を得た。
【0080】
(3)前重合触媒の製造
ヘプタン200mL中にトリエチルアルミニウムを10mmol、ジシクロペンチルジメトキシシランを2mmol、および(2)で得られた固体触媒成分をチタン原子換算で1mmol添加した。内温を20℃に保持し、攪拌しながらプロピレンを連続的に導入した。60分後、攪拌を停止し、結果的に固体触媒成分1gあたり4.0gのプロピレンが重合した前重合触媒を得た。
【0081】
(4)本重合
600リットルのオートクレーブ中にプロピレン336リットル装入し、60℃に昇温した。その後、トリエチルアルミニウム8.7mL、ジシクロペンチルジメトキシシラン11.4mL、(3)で得られた前重合触媒を2.9g装入して重合を開始した。重合開始より75分後に、10分間かけて50℃まで降温した(第1段目の重合終了)。
【0082】
第1段目と同様の条件にて重合したプロピレン単独重合体(a71)の極限粘度[η]は11dL/gであった。
第1段目と同一重合槽において降温後、圧力が3.3MPaGで一定となるよう水素を連続的に投入し、160分間重合を行った。次いでベントバルブを開け、未反応のプロピレンを積算流量計を経由させてパージした(第2段目の重合終了)。
こうして、バッチ式で重合を行い、54.4kgのパウダー状のプロピレン単独重合体(B1)を得た。
【0083】
このようにして最終的に得られたプロピレン単独重合体(重合体(a7))のMFRは1.9g/10分であった。また、物質収支から算出した最終的に得られたプロピレン単独重合体(a7))に占める第1段目の重合で生成したプロピレン単独重合体(a71)の割合は24質量%であった。
VP103W(重合体(a6))及び製造例1で得られたホモPP(プロピレン単独重合体(重合体(a7)))の物性を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
〔製造例2〕
(ポリプロピレン樹脂(A1)の製造)
重合体(a1)、(a5)および(a6)を、それぞれ55.6質量%、22.2質量%、22.2質量%の割合でドライブレンドし、これらを同方向二軸混練機(品番NR2-36、ナカタニ機械(株)製、混練温度:230℃、スクリュー回転数200rpm)にて造粒し、ポリプロピレン樹脂(A1)を得た。ここで重合体(a5)はポリプロピレン樹脂のMFR及びCDSの含有量を調整するために配合し、重合体(a6)は、ポリプロピレン樹脂のCDISのMw/Mn、Mz/Mwを調整するために配合した。得られたポリプロピレン樹脂(A1)の物性を表2に示す。
【0086】
〔製造例3〕
(ポリプロピレン樹脂(A2)の製造)
重合体(a1)、(a4)および(a6)を、それぞれ55.6質量%、34.4質量%、10.0質量%の割合でドライブレンドし、製造例2と同様の方法により製造した。重合体(a4)はポリプロピレン樹脂のMFR及びCDSの含有量を調整するために配合した。得られたポリプロピレン樹脂(A2)の物性を表2に示す。
【0087】
〔製造例4〕
(ポリプロピレン樹脂(A3)の製造)
重合体(a2)、(a3)および(a6)を、それぞれ55.6質量%、22.2質量%、22.2質量%の割合でドライブレンドし、製造例2と同様の方法により製造した。重合体(a3)はポリプロピレン樹脂のMFR及びCDSの含有量を調整するために配合した。得られたポリプロピレン樹脂(A3)の物性を表2に示す。
【0088】
〔製造例5〕
(ポリプロピレン樹脂(A4)の製造)
重合体(a1)、(a5)および(a7)を、それぞれ55.6質量%、22.2質量%、22.2質量%の割合でドライブレンドし、製造例2と同様の方法により製造した。ここで重合体(a5)はポリプロピレン樹脂のMFR及びCDSの含有量を調整するために配合し、重合体(a7)は、ポリプロピレン樹脂のCDISのMw/Mn、Mz/Mwを調整するために配合した。得られたポリプロピレン樹脂(A4)の物性を表2に示す。
【0089】
(B)高密度ポリエチレン
高密度ポリエチレン(B1):(株)プライムポリマー、ハイゼックス1820J(MFR(190℃、2.16kg)=32g/10分、密度=963kg/m3
高密度ポリエチレン(B2):(株)プライムポリマー、ハイゼックス1700J(MFR(190℃、2.16kg)=17g/10分、密度=968kg/m3
【0090】
(C)α晶核剤
α晶核剤(C1):アデカスタブNA-11(商品名、CAS番号:85209-91-2、ADEKA製)
【0091】
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂(A1)90質量%、高密度ポリエチレン(B1)10質量%の合計100質量部に対してα晶核剤(C1)0.2質量部を含むように配合し、これらを同方向二軸混練機(品番NR2-36、ナカタニ機械(株)製、混練温度:230℃、スクリュー回転数200rpm)にて混錬し、かつ造粒し、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。ここで、核剤(C1)は、プロピレン系ブロック共重合体(A1)を製造(造粒)する際に予めドライブレンドで配合しており、その造粒物と高密度ポリエチレン(B1)をドライブレンドして溶融混練によりポリプロピレン樹脂組成物を得た。ポリプロピレン樹脂組成物の配合及びその物性を表3に示す。
【0092】
[実施例2~4および比較例1~6]
(A)、(B)および(C)の種類および配合量を表3に記載のとおり変更した以外は実施例1と同様の方法により、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。ここで、核剤(C1)は、プロピレン系ブロック共重合体(A1~A4)を製造(造粒)する際に予めドライブレンドで配合した。核剤(C1)の配合量は、ポリプロピレン樹脂(A1~A4)と高密度ポリエチレンの合計100質量部に対して0.2質量部を含むように設定した。その物性を表3に示す。
【0093】
実施例と比較すると、比較例1は高密度ポリエチレン(B)の含有量が所定量よりも少ないため光沢に劣り、比較例2では所定量よりも多いため剛性が低い。比較例3、4では、高密度ポリエチレン(B)のMFRが所定よりも低いため光沢に劣る。比較例5では、ポリプロピレン樹脂(A)のMw/Mn、Mz/Mwが所定よりも小さいため剛性と光沢に劣り、比較例6では、ポリプロピレン樹脂(A)のCDSのエチレン含量が所定よりも小さいためシャルピー衝撃強度が劣っている。以上のように実施例の組成物は、剛性、耐衝撃性、光沢のバランスに優れている。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】