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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】軸受け部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F16C17/02 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021070261
(22)【出願日】2021-04-19
(65)【公開番号】P2022165077
(43)【公開日】2022-10-31
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】清水 信幸
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-275019(JP,A)
【文献】特開2000-197309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0205804(US,A1)
【文献】特開平10-331841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周面と間隙を設けて対向する内周面を備え、前記間隙に潤滑流体を保持し、軸を所定の回転方向に相対回転自在に支持する軸受け部材であって、
前記内周面において、軸方向に所定間隔を隔てて設けられた第1及び第2動圧生成部であって、前記内周面の周方向に対して所定の角度で傾斜した溝を有する複数の傾斜溝部を備え、前記傾斜溝部に前記潤滑流体が流れることにより、軸に対して動圧を生じさせる第1動圧生成部及び第2動圧生成部と、
前記第1動圧生成部と前記第2動圧生成部との間に、周方向に帯状に延びるように形成され、前記第1動圧生成部及び前記第2動圧生成部の傾斜溝部に接続して前記潤滑流体を供給する帯状溝部と、
前記帯状溝部の一部に配置され、軸に対して相対的に回転する際に前記帯状溝部において生じる前記潤滑流体の流れを前記第1動圧生成部及び前記第2動圧生成部に向かって分岐させる分岐部と、
を有することを特徴とする軸受け部材。
【請求項2】
前記分岐部は、島状の形状を備え、径方向に突出した凸部を有している、請求項1に記載の軸受け部材。
【請求項3】
前記分岐部は、周方向に対して所定の角度で傾斜し、前記第1動圧生成部及び前記第2動圧生成部のそれぞれに対して前記潤滑流体の流れを生じさせる第1流体分岐部及び第2流体分岐部を有する、請求項1または2に記載の軸受け部材。
【請求項4】
前記第1流体分岐部及び前記第2流体分岐部のそれぞれの周方向に対する傾斜角度は、前記第1及び第2動圧生成部のそれぞれの前記傾斜溝部のうちの前記帯状溝部側の溝の周方向に対する傾斜角度より大きい、請求項3に記載の軸受け部材。
【請求項5】
前記傾斜溝部の頂点部はラウンド形状を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項6】
前記第1及び第2動圧生成部において、隣接する複数の前記傾斜溝部の間には丘部が形成され、
前記丘部の前記帯状溝部と接する端部であって、鋭角を有する端部はラウンド形状を有する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項7】
前記第1動圧生成部及び前記第2動圧生成部のそれぞれの前記傾斜溝部の頂点部近傍の幅は、前記傾斜溝部が前記帯状溝部と接続する部分の幅よりも狭い、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項8】
前記分岐部の外形は、円形である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項9】
前記分岐部の外形は、多角形である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項10】
前記丘部の周辺部の断面形状はテーパ状を有する、請求項6に記載の軸受け部材。
【請求項11】
前記分岐部の周辺部の断面形状はテーパ状を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【請求項12】
前記分岐部の上面部の前記帯状溝部の溝底面からの高さは、前記丘部の上面部の前記帯状溝部の溝底面からの高さと略同一である、請求項6または10に記載の軸受け部材。
【請求項13】
前記傾斜溝部は、屈曲形状を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の軸受け部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受け部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高い回転精度が要求されるモータ等の軸受装置として、軸受の相対すべり運動によって、潤滑流体膜に動圧を発生させ、これによって負荷を支持する動圧軸受が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の流体動圧軸受装置においては、モータの駆動時において、上ラジアル動圧溝列及び下ラジアル動圧溝列によって、スリーブの第1内周面とシャフト本体部の外周面との間に介在する潤滑オイルに動圧が誘起され、スリーブに対するシャフトの径方向の支持力が発生する。
【0004】
しかしながら、モータが停止時から回転を始める段階等、モータの回転が低速である場合には、動圧が十分に発生せず、軸と軸受けとの間で接触が増加し、振動が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-3046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材は、低速回転時においても十分大きな動圧を発生させることが可能な軸受け部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材は、軸の外周面と間隙を設けて対向する内周面を備え、間隙に潤滑流体を保持し、軸を所定の回転方向に相対回転自在に支持する軸受け部材であって、内周面において、軸方向に所定間隔を隔てて設けられた第1及び第2動圧生成部であって、内周面の周方向に対して所定の角度で傾斜した溝を有する複数の傾斜溝部を備え、傾斜溝部に潤滑流体が流れることにより、軸に対して動圧を生じさせる第1動圧生成部及び第2動圧生成部と、第1動圧生成部と第2動圧生成部との間に、周方向に帯状に延びるように形成され、第1動圧生成部及び第2動圧生成部の傾斜溝部に接続して潤滑流体を供給する帯状溝部と、帯状溝部の一部に配置され、軸に対して相対的に回転する際に帯状溝部において生じる潤滑流体の流れを第1動圧生成部及び第2動圧生成部に向かって分岐させる分岐部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部は、島状の形状を備え、径方向に突出した凸部を有していることが好ましい。
【0009】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部は、周方向に対して所定の角度で傾斜し、第1動圧生成部及び第2動圧生成部のそれぞれに対して潤滑流体の流れを生じさせる第1流体分岐部及び第2流体分岐部を有することが好ましい。
【0010】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、第1流体分岐部及び第2流体分岐部のそれぞれの周方向に対する傾斜角度は、第1及び第2動圧生成部のそれぞれの傾斜溝部のうちの帯状溝部側の溝の周方向に対する傾斜角度より大きいことが好ましい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、傾斜溝部の頂点部はラウンド形状を有することが好ましい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、第1動圧生成部及び第2動圧生成部のそれぞれの傾斜溝部の頂点部近傍の幅は、傾斜溝部が帯状溝部と接続する部分の幅よりも狭いことが好ましい。
【0013】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、第1及び第2動圧生成部において、隣接する複数の傾斜溝部の間には丘部が形成され、丘部の帯状溝部と接する端部であって、鋭角を有する端部はラウンド形状を有することが好ましい。
【0014】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部の外形は、円形であることが好ましい。
【0015】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部の外形は、多角形であることが好ましい。
【0016】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、丘部の周辺部の断面形状はテーパ状を有することが好ましい。
【0017】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部の周辺部の断面形状はテーパ状を有することが好ましい。
【0018】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、分岐部の上面部の帯状溝部の溝底面からの高さは、丘部の上面部の帯状溝部の溝底面からの高さと略同一であることが好ましい。
【0019】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材において、傾斜溝部は屈曲形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一実施形態に係る軸受け部材によれば、低速回転時においても十分大きな動圧を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の一実施形態に係る軸受け部材に軸を挿入した場合の断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る軸受け部材の斜視図である。
図3】本開示の一実施形態に係る軸受け部材の内周面の展開図である。
図4図2のA-A線における断面図であって、傾斜溝部及び分岐部の形状について説明するための図である。
図5図2のA-A線における断面図であって、内周面における潤滑流体の流れについて説明するための図である。
図6】(a)~(e)は、本開示の一実施形態に係る軸受け部材に設けられる分岐部の形状のバリエーションの例を示す図である。
図7図5のB-B線における断面図であって、丘部及び分岐部の周辺部の形状について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係る軸受け部材について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0023】
図1に、本開示の一実施形態に係る軸受け部材10に軸20を挿入した場合の断面図を示す。図2に、本開示の一実施形態に係る軸受け部材10の斜視図を示す。図3に、本開示の一実施形態に係る軸受け部材10の内周面11の展開図を示す。図4に、図2のA-A線における断面図であって、傾斜溝部(51、52)及び分岐部4の形状について説明するための図を示す。なお、図4において、内周面11は湾曲しているため、実際には第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2は歪んで見えるが、便宜上、歪みを省略している。
【0024】
軸受け部材(以下、単に「軸受け」ともいう。)10は、軸20の外周面21と間隙dを設けて対向する内周面11を備えている。また、軸20と軸受け10との間の間隙dに潤滑流体30を保持している。軸受け10の軸方向の上部及び下部は密閉することにより完全充填型とすることができる。また、軸受け10の軸方向の下部を密閉し、上部を開放した開放型とすることもできる。
【0025】
潤滑流体30として、例えば、ポリ-α-オレフィン系合成潤滑油や、エステル系合成潤滑油を用いることができるが、このような例には限られず、他の潤滑油を用いるようにしてもよい。
【0026】
軸受け10は、軸20を所定の回転方向に相対回転自在に支持する。軸受け10の内周面11には、軸20に対して動圧を発生させる第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2が形成されている。第1動圧生成部1は軸方向にL1の幅で形成され、第2動圧生成部2は方向にL2の幅で形成されている。第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2は、軸方向に所定間隔L3を隔てて設けられている。本開示の一実施形態に係る軸受け10では、幅L1及びL2は互いに等しい。ただし、このような例に限られず、幅L1またはL2の一方を他方の幅より大きくするようにしてもよい。軸20と軸受け10とが相対回転する際に、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2によって、軸受け10の内周面11と軸20の外周面21との間に介在する潤滑流体30に動圧が発生し、軸受け10が軸20を径方向に支持することができる。
【0027】
ここで、軸20を回転させ、軸受け10を固定することができる。ただし、このような例には限られず、軸20を固定し、軸受け10を回転させるようにしてもよい。
【0028】
軸受け10は、例えば、セラミックにより構成することができる。また、軸受け10をセラミックで成形する場合は、コアに凸部を設け、セラミックを凸部に押し付けることにより、軸受け10の内周面11に溝を形成することができる。また、成形した軸受け部材を焼結した後に、切削加工やレーザ加工等の手段により内周面11に溝を形成してもよい。
【0029】
第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2は、それぞれ、屈曲形状、即ち、略くの字状の複数の傾斜溝部(51、52)を備え、いわゆるヘリングボーン状の動圧溝を構成している。第1動圧生成部1の傾斜溝部51は、溝511及び溝512を備えており、溝511及び溝512は、周方向に対して所定の角度で傾斜している。溝511及び溝512は、全体として屈曲形状となるように頂点部R11で連通されている。同様に、第2動圧生成部2の傾斜溝部52は、溝521及び溝522を備えており、溝521及び溝522は、周方向に対して所定の角度で傾斜している。溝521及び溝522は、全体として屈曲形状となるように頂点部R21で連通されている。ただし、傾斜溝部(51、52)は屈曲形状に限られず、例えば、周方向に対して所定の角度で傾斜し、頂点部(R11、R21)を備えない傾斜溝としてもよい。
【0030】
第1動圧生成部1の傾斜溝部51を構成する溝511は、図4において点線で示した内周面11の周方向に対して角度θ11だけ傾斜している。また、溝512は、周方向に対して角度θ12だけ傾斜している。本開示の一実施形態に係る軸受け10では、角度θ11及びθ12は互いに等しい。ただし、このような例に限られず、角度θ11及びθ12のいずれか一方を他方より大きくするようにしてもよい。例えば、第1動圧生成部1の軸方向両端に位置する帯状溝部3と軸受け10の軸方向の端部とで潤滑流体30を保持できる量が異なる場合、潤滑流体30の保持量が小さい側と接続される溝(511または512)の角度を小さくしておく、すなわち、潤滑流体30の保持量が小さい側と接続される側の溝を、保持量の大きい側と接続される側の溝より潤滑流体30が流入しやすい構成としておくことで、潤滑流体30の溝511と溝512とへの流入量をほぼ同等とすることができ、第1動圧生成部1において発生する動圧を安定させることができる。
【0031】
第2動圧生成部2の傾斜溝部52を構成する溝521は、図4において点線で示した内周面11の周方向に対して角度θ21だけ傾斜している。また、溝522は、周方向に対して角度θ22だけ傾斜している。角度θ21及びθ22は互いに等しい。ただし、このような例に限られず、角度θ21及びθ22のいずれか一方を他方より大きくするようにしてもよい。例えば、第2動圧生成部2の軸方向両端に位置する帯状溝部3と軸受け10の軸方向の端部とで潤滑流体30を保持できる量が異なる場合、潤滑流体30の保持量が小さい側と接続される溝(521または522)の角度を小さくしておく、すなわち、潤滑流体30の保持量が小さい側と接続される側の溝(521または522)を、保持量の大きい側と接続される側の溝より潤滑流体30が流入しやすい構成としておくことで、潤滑流体30の溝521と溝522とへの流入量をほぼ同等とすることができ、第2動圧生成部2において発生する動圧を安定させることができる。
【0032】
第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2において、傾斜溝部(51、52)に潤滑流体30が流れることにより、軸20に対して動圧が生じる。動圧が生じることにより、軸20と軸受け10は滑らかに相対的に回転することができる。
【0033】
帯状溝部3は、第1動圧生成部1と第2動圧生成部2との間に、周方向に帯状に延びるように形成される。帯状溝部3は、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2の傾斜溝部に接続して潤滑流体30を供給する。
【0034】
帯状溝部3の一部には、分岐部4が配置されている。分岐部4は、軸受け10が軸20に対して相対的に回転する際に帯状溝部3において生じる潤滑流体30の流れを第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2に向かって分岐させる。分岐された潤滑流体30が第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2に流入することにより、分岐部を設けない場合に比べて第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2に流入する潤滑流体30の量を増加させることができ、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2において発生する動圧を大きくすることができる。
【0035】
さらに、分岐部4は、島状の形状を備え、径方向に突出した凸部(島状凸部)を有していることが好ましい。分岐部4は、径方向に向かって突出した構造を有しているため、軸受け10に軸20を挿入した場合に、分岐部4は軸20に対する軸受け面として機能する。そのため、分岐部4を設けることにより、軸20と軸受け10との間の相対的な回転が低速である場合等、動圧が小さい場合であっても回転安定性を向上させることができる。
【0036】
図3において、軸受け10の内周面11に、傾斜溝部(51、52)及び分岐部4をそれぞれ7個ずつ形成した例を示したが、このような例には限定されない。即ち、傾斜溝部(51、52)及び分岐部4は、それぞれ、1個のみ設けるようにしてもよいし、2個以上設けるようにしてもよい。また、傾斜溝部(51、52)の個数と分岐部4の個数とを同数とする場合に限られず、それぞれ異なる個数としてもよい。
【0037】
図4において、分岐部4が6角形の形状を有する例を示したが、このような例には限られず、円形や6角形以外の多角形を含む他の形状を有していてもよい。
【0038】
図5を用いて、内周面11における潤滑流体30の流れについて説明する。図5は、図2のA-A線における軸受け10の断面図である。ここで、軸受け10は軸20に対して、図5の矢印aの方向に相対的に回転しているとする。そうすると、帯状溝部3において、潤滑流体30が矢印aの方向に流れる。矢印aで示した潤滑流体30は分岐部4に衝突し、第1動圧生成部1に向かう流れb1と、第2動圧生成部2に向かう流れb2に分岐される。
【0039】
このように潤滑流体30の流れを分岐させるために、分岐部4は、周方向に対して所定の角度(θ41、θ42)で傾斜し、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2のそれぞれに対して潤滑流体30の流れ(b1、b2)を生じさせる第1流体分岐部41及び第2流体分岐部42を有してよい。帯状溝部3を流れる矢印aで示した潤滑流体30は、分岐部4に衝突すると、一部は矢印b1で示すように第1流体分岐部41に沿って、第1動圧生成部1に向かって流れ、残りの一部は矢印b2で示すように第2流体分岐部42に沿って、第2動圧生成部2に向かって流れる。
【0040】
矢印b1で示した潤滑流体30は、矢印c1で示すように、第1動圧生成部1を構成する傾斜溝部51の一方の溝511に侵入する。さらに、矢印c1で示した潤滑流体30は、矢印d1で示すように、屈曲形状の傾斜溝部51の頂点部R11に到達する。一方、傾斜溝部51の他方の溝512において、矢印e1で示す潤滑流体30も軸受け10の上部より供給されて頂点部R11に到達する。そこで、頂点部R11において、矢印d1及びe1で示す潤滑流体30の2つの流れが合流し、軸20方向に向かって動圧が発生する。
【0041】
同様に、矢印b2で示した潤滑流体30は、矢印c2で示すように、第2動圧生成部2を構成する傾斜溝部52の一方の溝521に侵入する。さらに、矢印c2で示した潤滑流体30は、矢印d2で示すように、屈曲形状の傾斜溝部52の頂点部R21に到達する。一方、傾斜溝部52の他方の溝522において、矢印e2で示す潤滑流体30も軸受け10の下方より供給されて頂点部R21に到達する。そこで、頂点部R21において、矢印d2及びe2で示す潤滑流体30の2つの流れが合流し、軸20方向に向かって動圧が発生する。なお、傾斜溝部(51、52)や分岐部4に衝突した潤滑流体30の一部は、軸20の外周面21と軸受け10の内周面11との間隙dにて径方向に流れ、再度、傾斜溝部(51、52)や帯状溝部3に流入することを繰り返し、間隙d内を循環する。
【0042】
分岐部4で分岐された潤滑流体30が効率よく溝(511、521)に流入するためには、分岐部4は、溝(511、521)と帯状溝部3の接合部よりも上流側に配置されていることが好ましい。分岐部4をこのように配置することにより、分岐部4の第1流体分岐部41及び第2流体分岐部42で分岐された潤滑流体を効率よく溝(511、521)に流入させ、溝(511、521)に流入する潤滑流体30の量を増加させることができ、結果として、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2において発生する動圧の大きさを大きくすることができる。
【0043】
また、分岐部4の第1流体分岐部41及び第2流体分岐部42を構成する部分を延長した線が、それぞれ溝(511、521)に入るように配置するようにしてもよい。このような配置とすることにより、第1流体分岐部41及び第2流体分岐部42により分岐された潤滑流体30を溝(511、512)に流入させ易くすることができる。
【0044】
ここで、第1動圧生成部1の傾斜溝部51の頂点部R11、及び第2動圧生成部2の傾斜溝部52の頂点部R21は、ラウンド形状を有することが好ましい。頂点部(R11、R21)をラウンド形状とすることにより、発生する動圧の圧力を高くすることができる。頂点部(R11、R21)をラウンド形状とすると、ラウンド形状とせずに鋭角のままとした場合に比べて、頂点部(R11、R21)近傍の面積が小さくなる。そのため、2つの溝(511及び512、あるいは521及び522)から頂点部(R11、R21)近傍に潤滑流体30が合流した際に、軸20の方向に向かってあふれる潤滑流体30の量を小さい面積に集中させやすくすることができ、動圧が大きくなるためである。
【0045】
ここで、図4に示すように、第1流体分岐部41及び第2流体分岐部42のそれぞれの周方向に対する傾斜角度(θ41、θ42)は、第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2のそれぞれの傾斜溝部(51、52)のうちの帯状溝部3側の溝(511、521)の周方向に対する傾斜角度(θ11、θ21)より大きいことが好ましい。第1動圧生成部1の傾斜溝部51のうちの帯状溝部3側の溝511は、周方向に対して角度θ11で傾斜しているものとする。この場合、図5に示すように矢印c1で示す潤滑流体30が溝511に対してスムーズに侵入するためには、矢印c1で示す潤滑流体30の流れる方向も周方向に対してθ11だけ傾斜していることが好ましい。一方、矢印c1で示す潤滑流体30の流れを生成する前段階の流れである矢印b1で示す潤滑流体30は、第1流体分岐部41に衝突して溝511に向かうが、帯状溝部3を流れる他の潤滑流体30の影響を受けて周方向に対する角度が減少しやすくなる。そこで、矢印b1で示す潤滑流体30が周方向に対してなす角度は、溝511の角度θ11より大きいことが好ましい。このように、矢印b1で示す潤滑流体30の周方向に対する角度を、矢印c1で示す潤滑流体30の周方向に対する角度より大きくするためには、第1流体分岐部41が周方向に対してなす角度θ41を溝511の角度θ11より大きくしておけばよい。同様に、矢印b2で示す潤滑流体30の周方向に対する角度を、矢印c2で示す潤滑流体30の周方向に対する角度より大きくするためには、第2流体分岐部42が周方向に対してなす角度θ42を溝521の角度θ21より大きくしておけばよい。
【0046】
第1動圧生成部1及び第2動圧生成部2において、隣接する複数の傾斜溝部(51、52)の間には丘部(61、62)が形成されている。図4に示すように、丘部(61、62)の帯状溝部3と接する端部であって、鋭角を有する端部(R12、R22)はラウンド形状を有することが好ましい。
【0047】
第1動圧生成部1の丘部61がラウンド形状を有する端部R12を備えていることにより、第1動圧生成部1の傾斜溝部51の頂点部R11近傍の幅w2は、傾斜溝部51が帯状溝部3と接続する部分の幅w1よりも狭くすることができる。このような形状とすることにより、傾斜溝部51の溝511の幅は、頂点部R11側に向かって狭くなるため、帯状溝部3から傾斜溝部51の溝511に流入する潤滑流体30の量を増加させることができ、頂点部R11で発生する動圧を大きくすることができる。第2動圧生成部2の丘部62も同様に、ラウンド形状を有する端部R22を備えていることにより、帯状溝部3から傾斜溝部52の溝521に流入する潤滑流体30の量を増加させ、頂点部R21で発生する動圧を大きくすることができる。
【0048】
上記の説明においては、分岐部4の形状を6角形とした例を示したが、このような例には限られない。図6(a)~(e)に、本開示の一実施形態に係る軸受け部材10に設けられる分岐部4の形状のバリエーションの例を示す。例えば、図6(a)に示すように、分岐部4aの外形を円形としてもよい。あるいは、図6(b)に示すように、分岐部4bの外形を楕円形としてもよい。
【0049】
また、分岐部4の外形は、多角形であってもよい。例えば、図6(c)に示すように、分岐部4cの外形をひし形としてもよい。あるいは、図6(d)に示すように、分岐部4dの外形を三角形としてもよい。
【0050】
さらに、分岐部4の外形は、円形と多角形とを組み合わせた形状としてもよい。例えば、図6(e)に示すように、分岐部4eの外形を半円と三角形とを組み合わせた形状としてもよい。
【0051】
ここで、丘部61及び分岐部4の周辺部の形状について説明する。図7に、図5のB-B線における軸受け10の断面図を示す。丘部61の周辺部61sの断面形状はテーパ状を有することが好ましい。また、分岐部4の周辺部4sの断面形状はテーパ状を有することが好ましい。このように、丘部61の周辺部61s及び分岐部4の周辺部4sをテーパ状とすることにより、傾斜溝部(51、52)及び帯状溝部3における潤滑流体30の流動性を向上させることができる。
【0052】
また、分岐部4の上面部4uの帯状溝部3の溝底面からの高さh2は、丘部61の上面部61uの帯状溝部3の溝底面からの高さh1と略同一であることが好ましい。このような構成とすることにより、低速回転時等の動圧の発生が弱い場合であっても、分岐部4は、丘部61と同様に滑り軸受の軸受け面となる機能も併せ持つことができ、結果として、滑り軸受として軸20を受ける面積が分岐部4の面積分だけ増加するため、低速回転時において動圧の発生が無い状態、あるいは、動圧が小さい場合であっても振動の発生を抑制して回転安定性を向上させることができる。
【0053】
以上説明したように、本開示の一実施形態に係る軸受け部材によれば、第1動圧生成部1と第2動圧生成部2との間に配置した帯状溝部3に分岐部4を設けているため、帯状溝部3を流れる潤滑流体30を効率よく第1動圧生成部1と第2動圧生成部2に流入させることができる。そのため、軸20に対する軸受け10の相対回転が低速の場合であっても、第1動圧生成部1と第2動圧生成部2に大きな動圧を発生させることができ、軸20と軸受け10との間の相対回転をスムーズにすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 第1動圧生成部
2 第2動圧生成部
3 帯状溝部
4 分岐部
10 軸受け
11 内周面
20 軸
21 外周面
30 潤滑流体
51、52 傾斜溝部
61、62 丘部
511、512、521、522 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7