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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リーク弁および保存容器
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20241031BHJP
   F16K 24/06 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A01N1/02
F16K24/06 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021103002
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002022
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】笠松 寛央
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
(72)【発明者】
【氏名】大原 正行
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083785(JP,A)
【文献】特開2015-174823(JP,A)
【文献】特開2011-016744(JP,A)
【文献】中国実用新案第205357946(CN,U)
【文献】特開昭57-122001(JP,A)
【文献】特開昭48-016559(JP,A)
【文献】特開2018-122918(JP,A)
【文献】特表2011-502898(JP,A)
【文献】特開2010-270823(JP,A)
【文献】特開2005-085869(JP,A)
【文献】特開2001-206080(JP,A)
【文献】特開2017-165789(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112438251(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0305418(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0352807(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108935446(CN,A)
【文献】米国特許第08439216(US,B1)
【文献】米国特許第05051352(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/02
F16K 24/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を保存する保存容器に取り付けられるリーク弁であって、
前記保存容器内に連通する連通口と外部空間と連通する給気口とを備える筐体と、
前記筐体内に配置される開閉板と、
前記開閉板を付勢する付勢部材と、
を有し、
前記開閉板は、
前記筐体内において前記給気口と連通する第1空間と前記連通口と連通する第2空間とを遮断する閉鎖位置と、
前記第1空間と前記第2空間とが連通する開放位置と、
に移動可能であり、
前記付勢部材は、前記開閉板を前記開放位置から前記閉鎖位置へ向かう方向へ付勢し、 前記連通口および前記給気口の気圧が略同一である時、前記開閉板は、前記付勢部材の付勢力によって前記閉鎖位置に押し付けられる、リーク弁。
【請求項2】
請求項1に記載のリーク弁であって、
環状のシール部材
をさらに有し、
前記給気口は、前記筐体の一方側に配置され、
前記シール部材は、前記筐体の一方側の内面に対して前記給気口を囲んで固定され、
前記開閉板が前記閉鎖位置に配置されると、前記シール部材の他方側の面に、前記開閉板の一方側の面が密着する、リーク弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリーク弁であって、
一方側の端部が前記筐体の外側に配置され、他方側の端部が前記筐体の内部空間において前記開閉板と固定されるシャフト
をさらに有し、
前記給気口は、前記筐体の一方側に配置され、
前記給気口の内部を前記シャフトが貫通し、
前記開閉板は、前記シャフトに対し垂直な方向に拡がり、
前記付勢部材は、前記シャフトが延びる方向に沿って前記開閉板を一方側へ向かって付勢する、リーク弁。
【請求項4】
請求項3に記載のリーク弁であって、
前記筐体の外側において前記シャフトに固定され、前記シャフトに垂直な方向に拡がるフランジ部材
をさらに有し、
前記付勢部材は、前記シャフトの周囲に配置され、前記筐体の一方側の外表面と前記フランジ部材との間に配置されるコイルばねである、リーク弁。
【請求項5】
請求項4に記載のリーク弁であって、
前記シャフトは、外周面にねじ山を有するボルトであり、
前記フランジ部材は、貫通孔の内周面にねじ溝を有するナットである、リーク弁。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のリーク弁であって、
前記連通口に配置されるフィルタ
をさらに有する、リーク弁。
【請求項7】
生体試料を保存する保存容器であって、
上方へ開口するカップ状の容器本体部と、
前記容器本体部の上方の開口を覆う容器蓋部と、
前記容器本体部または前記容器蓋部に取り付けられる、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のリーク弁と、
を備える、保存容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外において臓器等の生体試料を保存する保存容器に用いられるリーク弁に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓移植等の臓器の移植手術では、ドナーから臓器を摘出した後、当該臓器をレシピエントへ移植するまでの間、一時的に臓器を体外で保存する。このとき、臓器が虚血状態となることを防止するために、臓器を保存容器内に収容し、臓器内に保存液を灌流させる。臓器を体外で保存する従来のシステムについては、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-518301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の臓器管理システムでは、潅流中の肝臓は臓器チャンバ(104)に収容される。このように臓器を保存容器に収容して灌流を行う際、臓器内における保存液の流れを向上させるために、臓器にかかる気圧を調整することが好ましい。具体的には、減圧によって血管を拡張し、保存液の流れが向上することがわかっている。また、同様な圧力印加の研究は臓器だけでなく、細胞培養分野においても実施されている。
【0005】
しかしながら、臓器または細胞に印加する負圧は、0mmHg~-30mmHg程度の弱い負圧であり、このような圧力範囲において正確に圧力を維持するためには、従来、複雑な制御機構が必要であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、複雑な制御機構を用いることなく、生体試料の保存容器内の圧力を適切な負圧に保つ技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、生体試料を保存する保存容器に取り付けられるリーク弁であって、前記保存容器内に連通する連通口と外部空間と連通する給気口とを備える筐体と、前記筐体内に配置される開閉板と、前記開閉板を付勢する付勢部材と、を有し、前記開閉板は、前記筐体内において前記給気口と連通する第1空間と前記連通口と連通する第2空間とを遮断する閉鎖位置と、前記第1空間と前記第2空間とが連通する開放位置と、に移動可能であり、前記付勢部材は、前記開閉板を前記開放位置から前記閉鎖位置へ向かう方向へ付勢し、前記連通口および前記給気口の気圧が略同一である時、前記開閉板は、前記付勢部材の付勢力によって前記閉鎖位置に押し付けられる。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明のリーク弁であって、環状のシール部材をさらに有し、前記給気口は、前記筐体の一方側に配置され、前記シール部材は、前記筐体の一方側の内面に対して前記給気口を囲んで固定され、前記開閉板が前記閉鎖位置に配置されると、前記シール部材の他方側の面に、前記開閉板の一方側の面が密着する。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明のリーク弁であって、一方側の端部が前記筐体の外側に配置され、他方側の端部が前記筐体の内部空間において前記開閉板と固定されるシャフトをさらに有し、前記給気口は、前記筐体の一方側に配置され、前記給気口の内部を前記シャフトが貫通し、前記開閉板は、前記シャフトに対し垂直な方向に拡がり、前記付勢部材は、前記シャフトが延びる方向に沿って前記開閉板を一方側へ向かって付勢する。
【0010】
本願の第4発明は、第3発明のリーク弁であって、前記筐体の外側において前記シャフトに固定され、前記シャフトに垂直な方向に拡がるフランジ部材をさらに有し、前記付勢部材は、前記シャフトの周囲に配置され、前記筐体の一方側の外表面と前記フランジ部材との間に配置されるコイルばねである。
【0011】
本願の第5発明は、第4発明のリーク弁であって、前記シャフトは、外周面にねじ山を有するボルトであり、前記フランジ部材は、貫通孔の内周面にねじ溝を有するナットである。
【0012】
本願の第6発明は、第1発明ないし第5発明のいずれかのリーク弁であって、前記連通口に配置されるフィルタをさらに有する。
【0013】
本願の第7発明は、生体試料を保存する保存容器であって、上方へ開口するカップ状の容器本体部と、前記容器本体部の上方の開口を覆う容器蓋部と、前記容器本体部または前記容器蓋部に取り付けられる、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のリーク弁と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1発明~第7発明によれば、複雑な制御機構を用いることなく、保存容器内の圧力が所定の圧力よりも下がることを抑制できる。
【0015】
特に、本願の第2発明によれば、開閉板の閉鎖時に、第1空間と第2空間との間で気体が漏れるのが抑制される。
【0016】
特に、本願の第5発明によれば、ボルトに対するナットの位置を変更することにより、コイルばねの長さ、すなわち、コイルばねによる付勢力を容易に変更することができる。
【0017】
特に、本願の第6発明によれば、リーク弁を介して、保存容器中に異物が混入するのが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】臓器保存装置の構成を示した図である。
図2】リーク弁の断面図である。
図3】臓器収容器の減圧時に開閉板に働く力を示した図である。
図4】減圧機構の作動時における臓器収容器内の内部圧力を示した図である。
図5】一変形例に係るリーク弁の断面図である。
図6】他の変形例に係るリーク弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
本願において「ドナー」および「レシピエント」は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。すなわち、本願において、「臓器」は、ヒトの臓器であってもよいし、非ヒト動物の臓器であってもよい。また、非ヒト動物は、マウスおよびラットを含む齧歯類、ブタ、ヤギ、およびヒツジを含む有蹄類、チンパンジーを含む非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物であってもよいし、ほ乳動物以外の動物であってもよい。
【0021】
<1.臓器保存装置の構成>
図1は、一実施形態に係るリーク弁10を備えた臓器収容器20を含む臓器保存装置1の構成を示した図である。
【0022】
この臓器保存装置1は、臓器の移植手術を行うときに、ドナーから摘出された臓器9を、レシピエントへ移植するまでの間、体外において一時的に保存するための装置である。臓器9の例としては、肝臓、腎臓、心臓、膵臓を挙げることができる。ただし、臓器保存装置1において保存される臓器9は、他の臓器であってもよいし、臓器の一部分であってもよい。臓器保存装置1は、臓器9内の血管に対して生理食塩水などの保存液を灌流させつつ、臓器9を保存する。
【0023】
また、臓器9の移植手術を行うときに、臓器9の動脈および静脈に、それぞれカテーテルが接続される。以下では、臓器9の動脈に接続されるカテーテルを「第1カテーテル91」と称する。また、臓器9の静脈に接続されるカテーテルを「第2カテーテル92」と称する。保存液は、第1カテーテル91を介して臓器9の動脈に流入され、臓器9内の毛細血管を流れた後、静脈から第2カテーテル92を介して排出される。ただし、保存液が流入される「第1カテーテル91」は、臓器9の静脈に接続されてもよい。例えば、詳細を後述するとおり、臓器9が肝臓である場合、「第1カテーテル91」は、静脈系の門脈に接続されてもよい。また、保存液が排出される「第2カテーテル92」は、必ずしも臓器9に接続されなくてもよい。例えば、後述する臓器収容器20の内部において、臓器9の静脈からそのまま保存液を排出させて溜め、その溜められた箇所へ「第2カテーテル」の一端を設置し、「第2カテーテル」の他端から臓器収容器20の外部空間へ排出してもよい。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の臓器保存装置1は、臓器収容器20、液体供給部30、排液部40、減圧部50および制御部60を備える。
【0025】
臓器収容器20は、摘出された臓器などの生体試料を保存する保存容器である。臓器収容器20は、容器本体部21および容器蓋部22を有する。容器本体部21は、上方へ開口するカップ状の部材である。容器蓋部22は、容器本体部21の上方の開口を覆う部材である。容器本体部21および容器蓋部22は、例えば、樹脂によって形成される。
【0026】
容器本体部21と容器蓋部22との接続箇所には、弾性を有するパッキン23が配置される。パッキン23は、容器本体部21の開口の縁部の全周に亘って配置される。そして、容器蓋部22に設けられた複数(本実施形態では2つ)のフック221によって容器本体部21と容器蓋部22とが固定されると、臓器収容器20が密閉される。なお、フック221の数は3つ以上であってもよい。
【0027】
図1に示すように、容器本体部21には、第1流路接続部211および第2流路接続部212が設けられている。第1流路接続部211および第2流路接続部212はそれぞれ、容器本体部21の側壁を水平方向に貫通するとともに、容器本体部21の内外からカテーテルを接続することができる。
【0028】
また、容器蓋部22には、吸気管接続部222およびリーク弁接続部223が設けられている。吸気管接続部222およびリーク弁接続部223はそれぞれ、容器蓋部22を上下方向に貫通する。吸気管接続部222に容器蓋部22の外側から後述する吸気管51が接続されると、吸気管51の内部と臓器収容器20の内部空間とが連通する。
【0029】
リーク弁接続部223には、後述するリーク弁10が接続される。リーク弁接続部223にリーク弁10の後述するポート75が接続されると、リーク弁10の内部空間と臓器収容器20の内部空間とが連通する。なお、リーク弁10の具体的な構成については、後述する。
【0030】
臓器収容器20の内部に臓器9を収容する際には、臓器収容器20の内部に臓器保持部24が配置される。臓器保持部24は、臓器収容器20内において、臓器9を保持する。臓器保持部24は、柔軟に変形可能な保持シート241と、支持部材242とを有する。保持シート241の端部は、容器本体部21の底面に固定された支持部材242に支持される。これにより、保持シート241が略水平に開かれた状態に維持される。
【0031】
臓器9は、保持シート241の上面に載置される。臓器9が載置されると、保持シート241は、臓器9の表面形状に沿って変形する。これにより、臓器9の変形を抑制して、臓器9への負担を軽減しつつ、臓器9を保持することができる。
【0032】
保持シート241の材料には、生体適応性および滅菌保持性を有し、かつ、柔軟性を有する樹脂が用いられる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、エラストマー樹脂、シリコン、ゴム、ゲル材料、またはポリアミドを、保持シート241の材料として用いることができる。
【0033】
図1に示すように、臓器収容器20の底部には、水または保存液が貯留される。これにより、臓器収容器20内の臓器9が乾燥することが抑制される。特に、後述のように、臓器収容器20内の空間が減圧されると、臓器9から水分が気化しやすくなるが、臓器収容器20の底部に水または保存液を貯留しておくことで、臓器9の乾燥を抑制することができる。なお、保持シート241に水または保存液を含浸させることによって、臓器9の乾燥を抑制してもよい。また、臓器9の上部を、水または保存液を含浸させたシートで覆うことによって、臓器9の乾燥をより抑制してもよい。
【0034】
液体供給部30は、臓器9へ保存液を供給する。本実施形態の液体供給部30は、液体貯留部31と、給液管32とを有する。
【0035】
液体貯留部31は、臓器9への供給前の保存液を保持する。本実施形態の液体貯留部31は、保存液が貯留されたパウチバッグ(いわゆる点滴バッグ)である。なお、液体貯留部31は保存液を貯留可能な容器であれば、いわゆるタンクやボトルなどの他の形態であってもよい。液体貯留部31は、バッグ保持部33によって、臓器収容器20に保持される臓器9よりも高い位置に保持される。
【0036】
給液管32は、液体貯留部31から、臓器収容器20に保持された臓器9へ、保存液を供給するための管である。給液管32の上流側の端部は、液体貯留部31に接続される。給液管32の下流側の端部は、容器本体部21に設けられた第1流路接続部211に容器本体部21の外側から着脱可能に接続される。また、第1流路接続部211の内側には、一端が臓器9の動脈に接続された第1カテーテル91の他端が、着脱可能に接続される。これにより、液体貯留部31から、給液管32、第1流路接続部211、および第1カテーテル91を介して臓器9へ流入する保存液の流路が形成される。
【0037】
なお、本実施形態では、給液管32の経路上に給液ポンプが設けられていない。液体貯留部31と臓器9との間の水頭差によって、液体貯留部31から給液管32を通って臓器9の動脈へ、保存液が流入する。このように、給液ポンプを省略することによって、装置構成を簡略化するとともに保存液の流入による臓器9への圧力負担を軽減することができる。
【0038】
排液部40は、排液管41と、排液タンク42とを有する。排液管41は、臓器収容器20に保持された臓器9から、保存液を排出するための管である。排液管41の下流側の端部は、排液タンク42に接続される。排液管41の上流側の端部は、容器本体部21に設けられた第2流路接続部212の外側に着脱可能に接続される。また、第2流路接続部212の内側には、一端が臓器9の静脈に接続された第2カテーテル92の他端が、着脱可能に接続される。これにより、臓器9から、第2カテーテル92、第2流路接続部212、および排液管41を介して排液タンク42へ排出される保存液の流路が形成される。すなわち、臓器9の静脈から排出された保存液は、第2カテーテル92、第2流路接続部212、および排液管41を通って、排液タンク42へ回収される。なお、液体貯留部31が、保存液を貯留するタンクである場合には、排液タンク42に回収された保存液を、液体貯留部31へ循環させて、再利用してもよい。
【0039】
減圧部50は、臓器収容器20の外部に配置され、臓器収容器20内から気体を吸引し、臓器収容器内の圧力を下げる減圧機構である。図1に示すように、本実施形態の減圧部50は、吸気管51、減圧ポンプ52、レギュレータ53および開閉バルブ54を含む。
【0040】
吸気管51の上流側の端部は、容器蓋部22に設けられた吸気管接続部222に着脱可能に接続される。これにより、吸気管51の上流側の端部は、臓器収容器20の内部空間に連通する。また、吸気管51の下流側の端部は、減圧ポンプ52に接続される。レギュレータ53および開閉バルブ54は、吸気管51の経路上に設けられる。これにより、減圧ポンプ52を動作させると、臓器収容器20の内部空間から吸気管51を介して気体が吸引され、外部空間へ排出される。この結果、臓器収容器20内の気圧が低下する。なお、レギュレータ53は、減圧ポンプ52により発生する負圧を、それよりも高い(ゲージ圧で表す場合、絶対値の小さい)一定の負圧に昇圧させる。開閉バルブ54は、吸気管51内の気流を開放状態と停止状態との間で切り替えるためのバルブである。
【0041】
制御部60は、減圧部50を動作制御するための手段である。制御部60は、例えば、CPU等のプロセッサおよびRAM等のメモリを備えた電子回路基板またはコンピュータにより構成される。また、制御部60は、上述した減圧ポンプ52、レギュレータ53、および開閉バルブ54と、それぞれ電気的に接続されている。制御部60は、予め設定されたプログラムに基づいて、これらの各部を動作制御する。これにより、臓器収容器20内の気圧が調整される。
【0042】
<2.リーク弁の構成>
続いて、リーク弁10の構成について、図2を参照しつつ説明する。図2は、リーク弁10の縦断面図である。図2の左側に示すリーク弁10は、給気口710の外側の空間における気圧(以下では「外気圧」と称する)と、連通口730の外側の空間(すなわち臓器収容器20の内側の空間)における気圧(以下では「内気圧」と称する)とが略同一である様子を示した図である。すなわち、図2の左側に示すリーク弁10は、外気圧と内気圧の気圧差が、所定値以下である場合の様子を示した図である。図2の右側に示すリーク弁10は、外気圧に対して内気圧が低く、かつ、外気圧と内気圧の気圧差が所定値よりも大きい場合の様子を示した図である。
【0043】
なお、以下では、連通口730に対して給気口710側を上側として、上下方向を用いて説明を行う。しかしながら、リーク弁10を使用する際の姿勢は、この向きに限られず、連通口730と給気口710とが水平方向に並ぶ(同じ高さ位置となる)姿勢でリーク弁10が使用されてもよい。なお、本実施形態における上側は「一方側」を意味し、下側は「他方側」を意味する。
【0044】
リーク弁10は、筐体70と、可動部80とを有する。
【0045】
図2に示すように、筐体70は、内部に空間を有する部材である。本実施形態では、筐体70の外形は、円筒状である。具体的には、筐体70は、円板状の上板部71と、上板部71の外縁から下方へ延びる円筒状の側壁部72と、側壁部72の下方の開口を覆う底部73とを有する。
【0046】
上板部71は、上面視において中央に、上下に貫通する貫通孔である給気口710を有する。すなわち、給気口710は、筐体70の上側(一方側)に配置される。
【0047】
リーク弁10の使用時において、リーク弁10は、後述するポート75の一部を除いて臓器収容器20の外側に配置される。したがって、給気口710は臓器収容器20の外側の空間に配置され、臓器収容器20の外側の空間と連通する。
【0048】
上板部71の下面には、給気口710を囲む位置に、上方へ凹む環状の溝711が設けられる。そして、溝711に嵌まるように、環状のシール部材74が配置される。
【0049】
シール部材74は、上板部71の下面に対して固定される。すなわち、シール部材74は、筐体70の上側(一方側)の内面に対して固定される。シール部材74は給気口710を囲む位置に配置される。具体的には、シール部材74は、その上面側が溝711の内部に収容される。シール部材74は、溝711に弾性変形しつつ嵌め込まれることによって固定されてもよいし、上板部71の下面に対して接着されてもよい。
【0050】
底部73の外形は円筒状である。底部73は、下面視において中央に、上下に貫通する貫通孔である連通口730を有する。底部73の内面は、側壁部72の下端部から連通口730へと下方へ向かうにつれてすぼむ円錐状となっている。なお、底部73は、上板部71と同様の円板状であってもよい。
【0051】
連通口730には、ポート75が取り付けられている。ポート75は、連通口730から下方へ延びる円筒状の部位である。ポート75の上端と連通口730との接続箇所は、空気が漏れることのないように構成されている。なお、筐体70の底部73とポート75とが一体に形成されていてもよい。
【0052】
リーク弁10の使用時において、ポート75は、臓器収容器20の容器蓋部22に設けられたリーク弁接続部223に挿入および固定される。これにより、リーク弁10の連通口730と臓器収容器20の内部空間とが連通する。なお、ポート75の外周面とリーク弁接続部223とは、密着して気体が漏れないように固定される。例えば、接着剤を用いて固定されてもよいし、リーク弁接続部223が、気体の漏れを防止できるアダプタを備えていてもよい。
【0053】
可動部80は、開閉板81、シャフト82、フランジ部材83、およびコイルばね84を有する。可動部80は、筐体70に対して上下方向に移動可能である。可動部80が最も上側(一方側)に配置された場合、図2の左図に示すように、開閉板81は閉鎖位置P1に配置される。また、図2の右図には、開閉板81が閉鎖位置P1よりも下方の開放位置P2に配置された様子が示されている。
【0054】
開閉板81は、円板状の部材である。開閉板81は、筐体70の上板部71の下面に略平行に配置される。すなわち、開閉板81は、上下方向に対して垂直に拡がる。
【0055】
シャフト82は、上下方向に延びる柱状の部材である。シャフト82の上側(一方側)の端部は、筐体70の外部かつ上方に配置される。また、シャフト82の下側(他方側)の端部は、筐体70の内部空間において開閉板81の中央部と固定される。このため、開閉板81はシャフト82に対して垂直な方向に拡がる。
【0056】
フランジ部材83は、筐体70の外側かつ上方においてシャフト82に固定される。フランジ部材83は、シャフト82に垂直な方向に拡がる。
【0057】
コイルばね84は、開閉板81を付勢する付勢部材である。コイルばね84は、筐体70の上板部71の上面とフランジ部材83の下面との間において、シャフト82の周囲を覆うように配置される。
【0058】
開閉板81が閉鎖位置P1に配置された際に、上板部71の上面とフランジ部材83の下面との距離がコイルばね84の自然長よりも短くなるように設計されている。このため、コイルばね84は常に圧縮された状態となる。よって、コイルばね84は、上板部71の上面とフランジ部材83の下面とに対し、上下方向に互いに離れる方向へ力をかける。これにより、コイルばね84は、筐体70に対して上側(一方側)へ向かう方向へとフランジ部材83を付勢する。開閉板81、シャフト82およびフランジ部材83は一体に固定されているため、結果的に、コイルばね84は、筐体70に対して上側(一方側)へ向かう方向へと開閉板81を付勢する。
【0059】
本実施形態において、シャフト82は、外周面にねじ山を有するボルトである。また、フランジ部材83は、上下に貫通する貫通孔830を有し、貫通孔830の内周面にねじ溝を有するナットである。これにより、フランジ部材83をシャフト82に対して回転させることによって、シャフト82に対するフランジ部材83の上下方向の位置を容易に変更することができる。すなわち、開閉板81が閉鎖位置P1に配置された際の上板部71の上面とフランジ部材83の下面との距離を変更して、コイルばね84による付勢力を容易に変更することができる。
【0060】
このようなリーク弁10において、開閉板81が閉鎖位置P1に配置されると、筐体70の内部において、開閉板81が、給気口710を介して筐体70の上方の外部空間と連通する第1空間S1と、連通口730およびポート75を介して臓器収容器20内の空間と連通する第2空間S2とに遮断する。
【0061】
具体的には、第1空間S1は、筐体70の上板部71の下面と、シール部材74と、開閉板81の第1面811とによって囲まれた空間となる。また、第2空間S2は、筐体70の内部空間の第1空間S1を除く空間となる。
【0062】
本実施形態のリーク弁10では、開閉板81が給気口710およびシール部材74に対して垂直に移動する。これにより、閉鎖位置P1において、開閉板81がシール部材74の全周を均一に押圧する。したがって、開閉板81とシール部材74との接触箇所において隙間が生じにくい。
【0063】
続いて、臓器収容器20の減圧時におけるリーク弁10の動きについて、図3および図4を参照しつつ説明する。図3は、臓器収容器20の内部空間が減圧された際に、開閉板81に働く力を示した図である。図4は、リーク弁10が取り付けられた臓器収容器20について、減圧部50の作動時における内部圧力を示した図である。
【0064】
図3には、開閉板81にかかる上下方向の力が矢印で示されている。なお、矢印の長さが力の大きさを示している。第1面811のシール部材74より内側の領域には、破線矢印で示すように、第1空間S1の気圧がかかる。第1面811のシール部材74より外側の領域と、第2面182の全体には、実線矢印で示すように、第2空間S2の気圧がかかる。そして、二点鎖線矢印で示すように、シャフト82を介して、コイルばね84が開閉板81を上向きに付勢する。
【0065】
臓器収容器20内の圧力(内気圧)が外気圧と同じ大気圧である場合、第1空間S1と第2空間S2との気圧が同じとなる。この場合、開閉板81の第1面811にかかる気圧と、第2面812にかかる気圧とがほぼ同等となる。この際、図3における実線矢印の長さが、破線矢印の長さと同じになるイメージとなる。開閉板81には、さらに、コイルばね84による付勢力が加わるため、開閉板81にかかる力は、上向きの力が下向きの力を上回る。したがって、開閉板81は閉鎖位置P1から動かない。
【0066】
臓器収容器20内が減圧されると、第2空間S2の気圧が、第1空間S1の気圧よりも小さくなる。この際、図3に示すように、実線矢印の長さが、破線矢印の長さよりも短くなるイメージとなる。ここで、第2空間S2の気圧と第1空間S1の気圧との差が所定の気圧差よりも大きくなると、開閉板81にかかる下向きの力が、開閉板81にかかる上向きの力を上回る。すなわち、第1面811にかかる気圧が、第2面812にかかる気圧とコイルばね84による付勢力との合計を上回る。そうすると、開閉板81は下向きに移動し、開放位置P2へと配置される。
【0067】
開閉板81が開放位置P2に配置されると、開閉板81の第1面811とシール部材74との間に間隔が生じ、第1空間S1と第2空間S2とが連通する。そうすると、大気圧である第1空間S1から気圧の低い第2空間S2へと気体が流入する。これにより、外部空間から、給気口710、第1空間S1、第2空間S2、連通口730およびポート75を介して、臓器収容器20内へと気体が供給される。したがって、臓器収容器20内の圧力が所定の圧力以下となると気体が供給されるため、臓器収容器20内の圧力が所定の圧力よりも低くなることが抑制される。
【0068】
その結果、臓器収容器20内の圧力が所定の圧力以下となるように減圧機構が作動すると、開閉板81は、開放位置P2と閉鎖位置P1との間で移動を繰り返すことにより、臓器収容器20内の圧力が所定の圧力付近に維持される。
【0069】
開閉板81が閉鎖位置P1からの移動を開始し、圧力の維持を行う「所定の圧力」は、第1面811のうち第1空間S1と接する面積と、コイルばね84の付勢力とによって決まる。このため、これらの要素を調整することにより、臓器収容器20内の圧力を所望の圧力に維持することができる。
【0070】
図4は、本実施形態のリーク弁10を取り付けた臓器収容器20を用いて行った実験結果を示す図である。この実験では、減圧部50によるレギュレータ53の減圧出力が-150mmHgとなるように設定し、開閉バルブ54を開閉することで臓器収容器20内の圧力を変動させている。図4の上段の減圧機構がONとなった場合、開閉バルブ54が開放され、減圧ポンプ52およびレギュレータ53による気体の吸引が行われる。減圧機構がOFFとなった場合、開閉バルブ54が閉鎖され、気体の吸引が停止される。
【0071】
図4に示すように、このリーク弁10を用いることにより、-150mmHgでの減圧を行っている期間中、臓器収容器20内の圧力がおおよそ-20mmHgから-18mmHgの範囲に維持されていることがわかる。
【0072】
このように、このリーク弁10を用いれば、複雑な制御機構を用いることなく、臓器収容器20内の圧力を所定の圧力に保つことができる。
【0073】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0074】
<3-1.第1変形例>
図5は、第1変形例に係るリーク弁10Aの縦断面図である。図5の例のリーク弁10Aでは、連通口730Aに、フィルタ76Aが備えられている。これにより、外部の空間から給気口710Aおよび筐体70Aの内部空間を通った空気に含まれる微細なホコリ等の異物が、連通口730Aおよびポート75Aを介して臓器収容器20内へ混入するのを抑制できる。
【0075】
<3-2.第2変形例>
図6は、第2変形例に係るリーク弁10Bの縦断面図である。図6の例のリーク弁10Bでは、開閉板81Bを付勢するコイルばね84Bが筐体70Bの内部に配置されている。このような構造でも、コイルばね84Bにより、開閉板81Bを上向きに付勢することができる。また、図6の構造では、可動部80Bのうち、筐体70Bの外部へ突出する部分の長さを短くすることができる。このように、開閉板81Bを付勢する付勢部材(コイルばね84B)は、筐体70Bの内部に配置されていてもよい。
【0076】
<3-3.他の変形例>
上記の実施形態では、筐体70の外形が円柱形状であったが、本発明はこれに限られない。筐体70は直方体形状等のその他の形状であってもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、リーク弁10が臓器収容器20の容器蓋部22に取り付けられたが、本発明はこれに限られない。リーク弁10は、臓器収容器20の容器本体部21に取り付けられてもよい。
【0078】
また、上記の実施形態では、開閉板81を付勢する付勢部材としてコイルばね84が用いられたが、本発明はこれに限られない。開閉板を付勢する付勢部材として、板バネやゴム等のその他の弾性部材が用いられてもよい。
【0079】
また、上記の実施形態では、リーク弁10が取り付けられる保存容器が、摘出された臓器を収容する臓器収容器20であったが、本発明はこれに限られない。リーク弁が取り付けられる保存容器は、臓器以外の生体試料(例えば細胞など)を保持するものであってもよい。
【0080】
また、上記の実施形態の臓器保存装置1は、1本の給液管32および1本の第1カテーテル91と、1本の排液管41および1本の第2カテーテル92とを備えていた。しかしながら、臓器保存装置1は、臓器9の動脈の数に応じて、複数の給液管32および複数の第1カテーテル91を備えていてもよい。また、臓器保存装置1は、臓器9の静脈の数に応じて、複数の排液管41および複数の第2カテーテル92を備えていてもよい。
【0081】
また、リーク弁を含む臓器収容器および臓器保存装置の細部の構造については、本願の各図に示された構造と、完全に一致していなくてもよい。また、上記の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10,10A,10B リーク弁
20 臓器収容器
21 容器本体部
22 容器蓋部
70,70A 筐体
74 シール部材
76A フィルタ
81,81A 開閉板
82 シャフト
83 フランジ部材
84 コイルばね
84A コイルばね
710,710A 給気口
730,730A 連通口
P1 閉鎖位置
P2 開放位置
S1 第1空間
S2 第2空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6