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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20241031BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20241031BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/03
C03B33/09
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021108533
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006115
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 雅輝
(72)【発明者】
【氏名】関本 祐介
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-69531(JP,A)
【文献】特開2021-142529(JP,A)
【文献】特開2002-192368(JP,A)
【文献】特開2019-130538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/03
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板を含む対象物にレーザ光を照射することで前記ガラス基板に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持する支持部と、
前記レーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記レーザ光に非点収差を付与する第1光学部と、
前記第1光学部によって前記非点収差が付与された前記レーザ光を、前記レーザ光の光軸に垂直な第1方向においては第1領域に集光し、前記光軸及び前記第1方向に垂直な第2方向においては前記レーザ光の進行方向における前記第1領域の下流側の第2領域に集光する第2光学部と、
前記第2光学部を前記支持部に対して相対的に移動させる移動部と、
前記改質領域の画像を取得する撮像部と、
前記非点収差として互いに異なる複数の非点収差のそれぞれが前記レーザ光に付与されるように前記第1光学部を制御し、前記ガラス基板において前記第1領域が前記第2方向に沿って相対的に移動するように前記移動部を制御し、前記撮像部によって取得された前記改質領域の前記画像を前記複数の非点収差のそれぞれに紐づけて出力する制御部と、を備える、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1光学部は、空間光変調器であり、
前記制御部は、前記複数の非点収差のそれぞれに対応する複数の非点収差パターンのそれぞれを示す信号を前記空間光変調器に入力する、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記複数の非点収差パターンのそれぞれは、前記第2方向における前記第1領域の幅を前記第1方向における前記第1領域の幅で除した値を互いに異ならせる非点収差パターンである、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記撮像部によって取得された前記改質領域の前記画像を前記複数の非点収差のそれぞれに紐づけて表示する表示部を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、レーザ加工条件として前記複数の非点収差のいずれかの入力を受け付ける入力受付部を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
ガラス基板を含む対象物にレーザ光を照射することで前記ガラス基板に改質領域を形成するレーザ加工方法であって、
互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを順次に前記レーザ光に付与し、前記複数の非点収差のそれぞれが付与された前記レーザ光の照射によって前記ガラス基板に形成された前記改質領域の画像を取得する第1ステップと、
前記改質領域の前記画像を前記複数の非点収差のそれぞれに紐づける第2ステップと、を備え、
前記第1ステップにおいては、前記複数の非点収差のそれぞれが付与された前記レーザ光を、前記レーザ光の光軸に垂直な第1方向においては第1領域に集光し、前記光軸及び前記第1方向に垂直な第2方向においては前記レーザ光の進行方向における前記第1領域の下流側の第2領域に集光し、前記ガラス基板において前記第1領域を前記第2方向に沿って相対的に移動させる、レーザ加工方法。
【請求項7】
前記改質領域の前記画像が紐づけられた前記複数の非点収差のいずれかをレーザ加工条件として設定する第3ステップを更に備える、請求項6に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物にレーザ光を照射することで対象物に改質領域を形成するレーザ加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザ加工装置は、対象物を支持する支持部と、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を変調する空間光変調器と、空間光変調器によって変調されたレーザ光を集光する集光部と、を備えている場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-051011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置では、ガラス基板を含む対象物に複数のラインのそれぞれに沿ってレーザ光が照射されることで、ガラス基板に複数のラインのそれぞれに沿って改質領域が形成される場合がある。そのような場合において、ガラス基板を含む対象物が複数のラインのそれぞれに沿って切断されることで得られた複数のチップについては、十分な抗折強度が確保されていることが重要である。しかし、或るレーザ加工装置にとっては十分な抗折強度が確保され得るレーザ加工条件であっても、当該レーザ加工条件が当該レーザ加工装置と同一仕様の他のレーザ加工装置に適用されると、十分な抗折強度が確保されない場合がある。
【0005】
本発明は、ガラス基板を含む対象物が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度を確保することを可能とするレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ加工装置は、ガラス基板を含む対象物にレーザ光を照射することでガラス基板に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、対象物を支持する支持部と、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光に非点収差を付与する第1光学部と、第1光学部によって非点収差が付与されたレーザ光を、レーザ光の光軸に垂直な第1方向においては第1領域に集光し、光軸及び第1方向に垂直な第2方向においてはレーザ光の進行方向における第1領域の下流側の第2領域に集光する第2光学部と、第2光学部を支持部に対して相対的に移動させる移動部と、改質領域の画像を取得する撮像部と、非点収差として互いに異なる複数の非点収差のそれぞれがレーザ光に付与されるように第1光学部を制御し、ガラス基板において第1領域が第2方向に沿って相対的に移動するように移動部を制御し、撮像部によって取得された改質領域の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけて出力する制御部と、を備える。
【0007】
このレーザ加工装置では、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれが順次にレーザ光に付与され、当該レーザ光の照射によってガラス基板に形成された改質領域の画像が、複数の非点収差のそれぞれに紐づけられて出力される。ここで、第1方向において集光されたレーザ光の第1領域が、ガラス基板において第2方向に沿って相対的に移動させられると、改質領域から延びる亀裂の方向が安定化する傾向がある。また、改質領域から延びる亀裂の方向が第2方向に沿っていると、対象物が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度が確保されやすい。そこで、亀裂の方向が第2方向に沿った改質領域の画像に紐づけられた非点収差をレーザ光に付与することで、安定して十分な抗折強度が確保され得るレーザ加工条件を実現することができる。よって、このレーザ加工装置は、ガラス基板を含む対象物が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度を確保することを可能とする。
【0008】
本発明のレーザ加工装置では、第1光学部は、空間光変調器であり、制御部は、複数の非点収差のそれぞれに対応する複数の非点収差パターンのそれぞれを示す信号を空間光変調器に入力してもよい。これにより、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを容易に且つ確実にレーザ光に付与することができる。
【0009】
本発明のレーザ加工装置では、複数の非点収差パターンのそれぞれは、第2方向における第1領域の幅を第1方向における第1領域の幅で除した値を互いに異ならせる非点収差パターンであってもよい。これにより、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを容易に且つ確実にレーザ光に付与することができる。
【0010】
本発明のレーザ加工装置では、制御部は、撮像部によって取得された改質領域の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけて表示する表示部を有してもよい。これにより、非点収差と改質領域との関係をオペレータが客観的に認識することができる。
【0011】
本発明のレーザ加工装置では、制御部は、レーザ加工条件として複数の非点収差のいずれかの入力を受け付ける入力受付部を有してもよい。これにより、オペレータが適切な非点収差をレーザ加工条件として設定することができる。
【0012】
本発明のレーザ加工方法は、ガラス基板を含む対象物にレーザ光を照射することでガラス基板に改質領域を形成するレーザ加工方法であって、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを順次にレーザ光に付与し、複数の非点収差のそれぞれが付与されたレーザ光の照射によってガラス基板に形成された改質領域の画像を取得する第1ステップと、改質領域の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づける第2ステップと、を備え、第1ステップにおいては、複数の非点収差のそれぞれが付与されたレーザ光を、レーザ光の光軸に垂直な第1方向においては第1領域に集光し、光軸及び第1方向に垂直な第2方向においてはレーザ光の進行方向における第1領域の下流側の第2領域に集光し、ガラス基板において第1領域を第2方向に沿って相対的に移動させる。
【0013】
このレーザ加工方法では、上記レーザ加工装置と同様の理由により、亀裂の方向が第2方向に沿った改質領域の画像に紐づけられた非点収差をレーザ光に付与することで、安定して十分な抗折強度が確保され得るレーザ加工条件を実現することができる。よって。このレーザ加工方法は、ガラス基板を含む対象物が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度を確保することを可能とする。本発明のレーザ加工方法は、改質領域の画像が紐づけられた複数の非点収差のいずれかをレーザ加工条件として設定する第3ステップを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス基板を含む対象物が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度を確保することを可能とするレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
図2図1に示される空間光変調器の一部分の断面図である。
図3】一実施形態の対象物であるガラス基板の平面図である。
図4図1に示される空間光変調器に表示された非点収差パターンを示す図である。
図5図1に示される空間光変調器によって非点収差が付与されたレーザ光の光路を示す図である。
図6図1に示される空間光変調器によって非点収差が付与されたレーザ光の第1領域の形状を示す図である。
図7図1に示されるインターフェース部の表示状態及び入力受付状態を示す図である。
図8】ガラス基板に形成された改質領域の画像を示す図である。
図9】ガラス基板が切断されることで得られた複数のチップの抗折強度を示す図である。
図10】集光レンズユニットごとの非点収差と改質領域の画像との関係を示す図である。
図11】レーザ加工装置ごとの非点収差と改質領域の画像との関係を示す図である。
図12】ガラス材料ごとの非点収差と改質領域の画像との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0017】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、支持部2と、光源3と、光軸調整部4と、空間光変調器(第1光学部)5と、集光部(第2光学部)6と、移動部7と、可視撮像部(撮像部)8と、赤外撮像部9と、制御部10と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することで対象物11に改質領域12を形成する装置である。以下の説明では、互いに直交する3方向を、それぞれ、X方向、Y方向及びZ方向という。本実施形態では、X方向は第1水平方向であり、Y方向は第1水平方向に垂直な第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0018】
支持部2は、対象物11を支持する。一例として、支持部2は、対象物11に貼り付けられたフィルム(図示省略)を吸着することで、対象物11の表面11aがZ方向と直交するように対象物11を支持する。支持部2は、X方向及びY方向のそれぞれの方向に沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。
【0019】
光源3は、レーザ光Lを出射する。一例として、光源3は、パルス発振方式によってレーザ光Lを出射する。レーザ光Lは、対象物11に対して透過性を有している。
【0020】
光軸調整部4は、光源3から出射されたレーザ光Lの光軸を調整する。本実施形態では、光軸調整部4は、光源3から出射されたレーザ光Lの進行方向をZ方向に沿うように変更しつつ、レーザ光Lの光軸を調整する。光軸調整部4は、例えば、位置及び角度の調整が可能な複数の反射ミラーによって構成されている。
【0021】
空間光変調器5は、筐体H内に配置されている。空間光変調器5は、光源3から出射されたレーザ光Lを変調する。本実施形態では、光軸調整部4からZ方向に沿って下側に進行したレーザ光Lが筐体H内に入射し、筐体H内に入射したレーザ光LがミラーM1によってY方向に対して角度を成すように水平に反射され、ミラーM1によって反射されたレーザ光Lが空間光変調器5に入射する。空間光変調器5は、そのように入射したレーザ光LをY方向に沿って水平に反射しつつ変調する。
【0022】
集光部6は、筐体Hの底壁に取り付けられている。集光部6は、空間光変調器5によって変調されたレーザ光Lを、支持部2によって支持された対象物11に集光する。本実施形態では、空間光変調器5によってY方向に沿って水平に反射されたレーザ光LがダイクロイックミラーM2によってZ方向に沿って下側に反射され、ダイクロイックミラーM2によって反射されたレーザ光Lが集光部6に入射する。集光部6は、そのように入射したレーザ光LをZ方向に沿って表面11a側から対象物11に集光する。本実施形態では、集光部6は、集光レンズユニット61が駆動機構62を介して筐体Hの底壁に取り付けられることで構成されている。集光レンズユニット61は、平行光を光軸上の一点に集光する機能を有している。駆動機構62は、例えば圧電素子の駆動力によって、集光レンズユニット61をZ方向に沿って移動させる。
【0023】
なお、筐体H内において、空間光変調器5と集光部6との間には、結像光学系(図示省略)が配置されている。結像光学系は、空間光変調器5の反射面と集光部6の入射瞳面とが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器5の反射面でのレーザ光Lの像(空間光変調器5によって変調されたレーザ光Lの像)が集光部6の入射瞳面に相似に転像(結像)される。
【0024】
筐体Hの底壁には、X方向において集光レンズユニット61の両側に位置するように一対の測距センサS1,S2が取り付けられている。各測距センサS1,S2は、対象物11の表面11aに対して測距用の光(例えば、レーザ光)を出射し、表面11aで反射された測距用の光を検出することで、表面11aの変位データを取得する。
【0025】
移動部7は、集光部6を支持部2に対して相対的に移動させる。移動部7は、筐体H及び支持部2の少なくとも一方を移動させることで、集光部6を支持部2に対して相対的に移動させる移動機構(アクチュエータ、モータ等の駆動源を含む)である。本実施形態では、移動部7は、X方向及びY方向のそれぞれの方向に沿って支持部2を移動させ、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部2を回転させ、Z方向に沿って筐体Hを移動させる。
【0026】
可視撮像部8は、筐体H内に配置されている。可視撮像部8は、可視光Vを出射し、可視光Vによる対象物11の像を画像として取得する。本実施形態では、可視撮像部8から出射された可視光VがダイクロイックミラーM2及び集光部6を介して対象物11の表面11aに照射され、表面11aで反射された可視光Vが集光部6及びダイクロイックミラーM2を介して可視撮像部8で検出される。
【0027】
赤外撮像部9は、筐体Hの側壁に取り付けられている。赤外撮像部9は、赤外光を出射し、赤外光による対象物11の像を画像として取得する。本実施形態では、筐体H及び赤外撮像部9は、Z方向に沿って一体的に移動可能である。
【0028】
制御部10は、レーザ加工装置1の各部の動作を制御する。制御部10は、処理部101と、記憶部102と、インターフェース部(表示部、入力受付部)103と、を有している。処理部101は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部101では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部102は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。インターフェース部103は、オペレータに各種データを表示したり、オペレータから各種データの入力を受け付けたりする。本実施形態では、インターフェース部103は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0029】
以上のように構成されたレーザ加工装置1では、対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延び易いという特性を有している。このような改質領域12の特性は、対象物11の切断に利用される。
【0030】
一例として、対象物11を切断するためのライン15に沿って、対象物11の内部に改質領域12を形成する場合におけるレーザ加工装置1の動作について説明する。
【0031】
まず、レーザ加工装置1は、対象物11に設定されたライン15がX方向に平行となるように、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部2を回転させる。続いて、レーザ加工装置1は、赤外撮像部9によって取得された画像(例えば、対象物11が有する機能素子層の像)に基づいて、Z方向から見た場合にレーザ光Lの集光点Cがライン15上に位置するように、X方向及びY方向のそれぞれの方向に沿って支持部2を移動させる。
【0032】
続いて、レーザ加工装置1は、可視撮像部8によって取得された画像(例えば、対象物11の表面11aの像)に基づいて、レーザ光Lの集光点Cが表面11a上に位置するように、Z方向に沿って筐体H(すなわち、集光部6)を移動させる。続いて、レーザ加工装置1は、その位置を基準として、レーザ光Lの集光点Cが表面11aから所定深さに位置するように、Z方向に沿って筐体H(すなわち、集光部6)を移動させる。
【0033】
続いて、レーザ加工装置1は、光源3からレーザ光Lを出射させると共に、レーザ光Lの集光点Cがライン15に沿って相対的に移動するように、X方向に沿って支持部2を移動させる。このとき、レーザ加工装置1は、一対の測距センサS1,S2のうち前側(対象物11に対するレーザ光Lの相対的移動方向における前側)に位置する測距センサによって取得された表面11aの変位データに基づいて、レーザ光Lの集光点Cが表面11aから所定深さに位置するように、集光部6の駆動機構62を動作させる。
【0034】
以上により、ライン15に沿って且つ対象物11の表面11aから一定深さに、一列の改質領域12が形成される。パルス発振方式によって光源3からレーザ光Lが出射されると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って一列に並ぶように形成される。一つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。一列の改質領域12は、一列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、レーザ光Lのパルスピッチ(対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度をレーザ光Lの繰り返し周波数で除した値)によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
[空間光変調器の構成]
【0035】
本実施形態の空間光変調器5は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。図2に示されるように、空間光変調器5は、半導体基板51上に、駆動回路層52、画素電極層53、反射膜54、配向膜55、液晶層56、配向膜57、透明導電膜58及び透明基板59がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0036】
半導体基板51は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層52は、半導体基板51上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層53は、半導体基板51の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極53aを含んでいる。各画素電極53aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極53aには、駆動回路層52によって電圧が印加される。
【0037】
反射膜54は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜55は、液晶層56における反射膜54側の表面に設けられており、配向膜57は、液晶層56における反射膜54とは反対側の表面に設けられている。各配向膜55,57は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜55,57における液晶層56との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜55,57は、液晶層56に含まれる液晶分子56aを一定方向に配列させる。
【0038】
透明導電膜58は、透明基板59における配向膜57側の表面に設けられており、液晶層56等を挟んで画素電極層53と向かい合っている。透明基板59は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜58は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板59及び透明導電膜58は、レーザ光Lを透過させる。
【0039】
以上のように構成された空間光変調器5では、変調パターンを示す信号が制御部10から駆動回路層52に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極53aに印加され、各画素電極53aと透明導電膜58との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層56において、各画素電極53aに対応する領域ごとに液晶分子216aの配列方向が変化し、各画素電極53aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層56に変調パターンが表示された状態である。
【0040】
液晶層56に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板59及び透明導電膜58を介して液晶層56に入射し、反射膜54で反射されて、液晶層56から透明導電膜58及び透明基板59を介して外部に出射させられると、液晶層56に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器5によれば、液晶層56に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。
[対象物の構成]
【0041】
本実施形態の対象物11は、図3に示されるように、ガラス基板20である。一例として、ガラス基板20は、合成石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス等によって、矩形板状に形成されている。なお、本実施形態の対象物11は、ガラス基板20に加え、他の層(例えば、ガラス基板20の少なくとも一方の主面に形成された膜等)を更に備えていてもよい。
【0042】
ガラス基板20には、複数のライン15のそれぞれに沿ってレーザ光Lが照射される。これにより、ガラス基板20には、複数のライン15のそれぞれに沿って改質領域12が形成される。本実施形態では、改質領域12は、改質領域12の全体がガラス基板20の内部に位置するようにガラス基板20に形成される。なお、改質領域12は、改質領域12の一部が外部に露出するようにガラス基板20に形成されてもよい。
【0043】
改質領域12が形成されたガラス基板20は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びることで、複数のライン15のそれぞれに沿って複数のチップに切断される。本実施形態では、複数のライン15は、ガラス基板20の厚さ方向から見た場合に格子状に設定されている。各ライン15は、レーザ加工装置1によってガラス基板20に設定された仮想的なラインである。なお、各ライン15は、ガラス基板20に実際に引かれたラインであってもよい。
[制御部の機能]
【0044】
制御部10は、図4に示されるように、非点収差パターンASを示す信号を空間光変調器5に入力する。これにより、空間光変調器5の液晶層56に非点収差パターンASが表示され、集光部6に入射するレーザ光Lに非点収差が付与される。本実施形態では、レーザ光Lは、光源3から超短パルスレーザのバーストパルスによって発振される。
【0045】
空間光変調器5によって非点収差が付与されたレーザ光Lが集光部6に入射すると、図5に示されるように、レーザ光Lは、集光レンズユニット61によって、Y方向(レーザ光Lの光軸に垂直な第1方向)においては第1領域R1に集光され、X方向(レーザ光Lの光軸及び第1方向に垂直な第2方向)においては第2領域R2に集光される。第2領域R2は、レーザ光Lの進行方向における第1領域R1の下流側に位置する。なお、図5では、空間光変調器5と集光部6との間に配置された光学部品の図示が省略されている。
【0046】
この状態で、制御部10は、ガラス基板20において第1領域R1がX方向に沿って相対的に移動するように移動部7を制御する。これにより、X方向に沿ってガラス基板20に改質領域12が形成される。続いて、制御部10は、ガラス基板20に形成された改質領域12の画像を取得するように可視撮像部8を制御する。
【0047】
以上を前提として、制御部10は、レーザ加工条件決定モードにおいて以下のように機能する。レーザ加工条件決定モードは、ガラス基板20を複数のチップに切断する上で好適な改質領域12を形成するためのレーザ加工条件を決定するモードである。なお、レーザ加工条件決定モードにおいて実施されるレーザ加工方法が、本実施形態のレーザ加工方法に相当する。
【0048】
まず、制御部10は、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれが順次にレーザ光Lに付与されるように空間光変調器5を制御し、複数の非点収差のそれぞれが付与されたレーザ光Lの照射によってガラス基板20に形成された改質領域12の画像が取得されるように可視撮像部8を制御する(第1ステップ)。複数の非点収差のそれぞれがレーザ光Lに付与されたそれぞれの状態において、制御部10は、ガラス基板20において第1領域R1がX方向に沿って相対的に移動するように移動部7を制御する。これにより、非点収差に応じた改質領域12がガラス基板20に形成される。
【0049】
第1ステップにおいて、制御部10は、複数の非点収差のそれぞれに対応する複数の非点収差パターンASのそれぞれを示す信号を空間光変調器5に入力する。複数の非点収差パターンASのそれぞれは、図6に示されるように、X方向(図6では左右方向)における第1領域R1の幅をY方向(図6では上下方向)における第1領域R1の幅で除した値(以下、「楕円率」という)を互いに異ならせる非点収差パターンである。第1領域R1の楕円率が1である場合は、非点収差パターンASが空間光変調器5に入力されていない場合、すなわち、非点収差がレーザ光Lに付与されていない場合である。図6において、楕円率が1である場合の第1領域R1の径は、例えば1μm程度である。なお、非点収差が付与されたレーザ光Lの第1領域R1の形状は、完全な楕円形状に限定されず、例えば、扁平円形状、長円形状等であってもよい。
【0050】
第1ステップの後に、制御部10は、可視撮像部8によって取得された改質領域12の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけ(換言すれば、対応付け)(第2ステップ)、第2ステップの後に、制御部10は、改質領域12の画像が紐づけられた複数の非点収差のいずれかをレーザ加工条件として設定する(第3ステップ)。本実施形態では、図7に示されるように、インターフェース部103が、可視撮像部8によって取得された改質領域12の画像(ガラス基板20の厚さ方向から見た場合における改質領域12の画像)を複数の非点収差(図7では楕円率)のそれぞれに紐づけて表示し、レーザ加工条件として複数の非点収差(図7では楕円率)のいずれかの入力を受け付ける。
【0051】
図7に示される一例では、第1領域R1の楕円率が大きくなるほど(換言すれば、レーザ光Lに付与される非点収差が強くなるほど)、改質領域12から延びる亀裂の方向がX方向(図7では左右方向)に沿う傾向が表れている。図7に示される一例では、黒色の点状の領域が改質スポットに相当し、改質スポットから延びる黒色の線状の領域が亀裂に相当する。改質領域12から延びる亀裂の方向がX方向に沿っていると(すなわち、亀裂の方向が、ライン15が延びる方向に沿っていると)、ガラス基板20が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度が確保されやすい。このことから、オペレータは、亀裂の方向がX方向に沿った改質領域12の画像を選択し、当該画像に紐づけられた非点収差(図7では楕円率)をレーザ加工条件として制御部10に入力する。なお、抗折強度とは、抗折強度計測試験によって得られる破壊応力(チップが破壊される際の応力)である。抗折強度計測試験とは、平行に並べられた二本の第1円柱上にチップを配置し、その状態で、二本の第1円柱よりも狭い間隔で平行に並べられた二本の第2円柱を用いてチップに下向きに外力を付与し、チップが破壊された際の応力を計測する試験(四点曲げ試験)である。
[作用及び効果]
【0052】
レーザ加工装置1、及びレーザ加工装置1において実施されるレーザ加工方法では、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれが順次にレーザ光Lに付与され、当該レーザ光Lの照射によってガラス基板20に形成された改質領域12の画像が、複数の非点収差のそれぞれに紐づけられて出力される。ここで、Y方向において集光されたレーザ光Lの第1領域R1が、ガラス基板20においてX方向に沿って相対的に移動させられると、改質領域12から延びる亀裂の方向が安定化する傾向がある。また、改質領域12から延びる亀裂の方向がX方向に沿っていると、ガラス基板20が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度が確保されやすい。そこで、亀裂の方向がX方向に沿った改質領域12の画像に紐づけられた非点収差をレーザ光Lに付与することで、安定して十分な抗折強度が確保され得るレーザ加工条件を実現することができる。よって、レーザ加工装置1、及びレーザ加工装置1において実施されるレーザ加工方法は、ガラス基板20が切断されることで得られた複数のチップについて十分な抗折強度を確保することを可能とする。なお、改質領域12の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけて出力することには、それらをインターフェース部103に表示することに限定されず、それらをメモリ等の記憶装置に記憶することも含まれる。
【0053】
レーザ加工装置1では、制御部10が、複数の非点収差のそれぞれに対応する複数の非点収差パターンASのそれぞれを示す信号を空間光変調器5に入力する。これにより、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを容易に且つ確実にレーザ光Lに付与することができる。
【0054】
レーザ加工装置1では、複数の非点収差パターンASのそれぞれが、X方向における第1領域R1の幅をY方向における第1領域R1の幅で除した値を互いに異ならせる非点収差パターンである。これにより、互いに異なる複数の非点収差のそれぞれを容易に且つ確実にレーザ光Lに付与することができる。
【0055】
レーザ加工装置1では、制御部10が、可視撮像部8によって取得された改質領域12の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけて表示するインターフェース部103を有している。これにより、非点収差と改質領域12との関係をオペレータが客観的に認識することができる。
【0056】
レーザ加工装置1では、制御部10が、レーザ加工条件として複数の非点収差のいずれかの入力を受け付けるインターフェース部103を有している。これにより、オペレータが適切な非点収差をレーザ加工条件として設定することができる。
[実験結果]
【0057】
図8の(a)は、非点収差が付与されていないレーザ光の照射によって、無アルカリガラスからなる厚さ500μmのガラス基板に形成された改質領域の画像(ガラス基板の厚さ方向から見た場合における改質領域の画像)である。図8の(b)は、楕円率1.61の非点収差が付与されたレーザ光の照射によって、無アルカリガラスからなる厚さ500μmのガラス基板に形成された改質領域の画像(ガラス基板の厚さ方向から見た場合における改質領域の画像)である。図8の(a)と図8の(b)とで、レーザ光に非点収差を付与したか否かを除き、レーザ加工条件を下記のとおり同一とした。図8の(a)及び(b)の結果から、非点収差が付与されたレーザ光がY方向(図8では上下方向)において第1領域に集光され、当該第1領域がガラス基板においてX方向(図8では左右方向)に沿って相対的に移動させられると、改質領域から延びる亀裂の方向がX方向に沿った状態で安定化することが分かった。なお、レーザ加工条件は次のとおりである。
レーザ光の波長:1028nm
レーザ光のパルス幅:300fs
レーザ光の繰り返し周波数:50kHz
ガラス基板に対するレーザ光の相対的移動速度:500mm/s
レーザ光のエネルギー:2μJ
ガラス基板のレーザ光入射面からの改質領域までの距離:80μm
【0058】
図9の(a)は、非点収差が付与されていないレーザ光の照射によって、フツリン酸ガラスからなる厚さ200μmのガラス基板に改質領域を形成した場合に得られた複数のチップの抗折強度を示す図である。図9の(b)は、楕円率1.61の非点収差が付与されたレーザ光の照射によって、フツリン酸ガラスからなる厚さ200μmのガラス基板に改質領域を形成した場合に得られた複数のチップの抗折強度を示す図である。図9の(a)と図9の(b)とで、レーザ光に非点収差を付与したか否かを除き、レーザ加工条件を下記のとおり同一とし、厚さ方向から見た場合におけるチップサイズも5mm×7mmで同一とした。図9の(a)及び(b)において、「入射面押し」は、レーザ光が入射された側のチップの表面(入射面)側からチップに荷重を作用させたことを示し、「裏面押し」は、チップの裏面(入射面とは反対側の表面)側からチップに荷重を作用させたことを示す。図9の(a)及び(b)の結果から、非点収差が付与されていないレーザ光の照射によってガラス基板に改質領域を形成した場合には、抗折強度を示す破壊応力がばらつくのに対し、非点収差が付与されたレーザ光の照射によってガラス基板に改質領域を形成した場合には、抗折強度を示す破壊応力が高い値で安定化することが分かった。なお、レーザ加工条件は次のとおりである。
レーザ光の波長:1028nm
レーザ光のパルス幅:300fs
レーザ光の繰り返し周波数:50kHz
ガラス基板に対するレーザ光の相対的移動速度:400mm/s
レーザ光のエネルギー:7μJ
ガラス基板のレーザ光入射面からの改質領域までの距離:100μm
【0059】
図10は、集光レンズユニットごとの非点収差と改質領域の画像(ガラス基板の厚さ方向から見た場合における改質領域の画像)との関係を示す図である。図10の結果から、非点収差が付与されていないレーザ光の照射(楕円率1のレーザ光の照射)によってガラス基板に形成された改質領域については、改質領域から延びる亀裂の方向が集光レンズユニットによってばらつくのに対し、楕円率1.03~1.08の非点収差が付与されたレーザ光の照射によってガラス基板に形成された改質領域については、楕円率が1.08に近付くほど、改質領域から延びる亀裂の方向がX方向(図10では左右方向)に沿った状態で安定化することが分かった。
【0060】
図11は、レーザ加工装置ごとの非点収差と改質領域の画像(ガラス基板の厚さ方向から見た場合における改質領域の画像)との関係を示す図である。図11の結果から、非点収差が付与されていないレーザ光の照射(楕円率1のレーザ光の照射)によってガラス基板に形成された改質領域については、改質領域から延びる亀裂の方向がレーザ加工装置によってばらつくのに対し、楕円率1.08~1.6の非点収差が付与されたレーザ光の照射によってガラス基板に形成された改質領域については、楕円率が1.6に近付くほど、改質領域から延びる亀裂の方向がX方向(図11では左右方向)に沿った状態で安定化することが分かった。
【0061】
図12は、ガラス材料ごとの非点収差と改質領域の画像(ガラス基板の厚さ方向から見た場合における改質領域の画像)との関係を示す図である。図12の結果から、非点収差が付与されていないレーザ光の照射(楕円率1のレーザ光の照射)によってガラス基板に形成された改質領域については、改質領域から延びる亀裂の方向がいずれのガラス材料でもばらつくのに対し、楕円率1.04~1.6の非点収差が付与されたレーザ光の照射によってガラス基板に形成された改質領域については、楕円率が1.6に近付くほど、改質領域から延びる亀裂の方向がX方向(図12では左右方向)に沿った状態で安定化することが分かった。
[変形例]
【0062】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、光源3から出射されたレーザ光Lに非点収差を付与する第1光学部は、空間光変調器5に限定されない。一例として、第1光学部は、光軸方向に沿って移動可能なシリンドリカルレンズを含む光学系であってもよい。ただし、空間光変調器5にスリットパターンを表示したり、或いは、機械的なスリットを配置したりすることで、光軸に垂直なレーザ光Lの断面形状を集光領域において長尺状にしただけでは、改質領域12から延びる亀裂の方向を安定化させることは困難である。
【0063】
改質領域12の画像を複数の非点収差のそれぞれに紐づけて表示する表示部は、インターフェース部103に限定されず、制御部10とは別に設けられたディスプレイ等であってもよい。レーザ加工条件として複数の非点収差のいずれかの入力を受け付ける入力受付部は、インターフェース部103に限定されず、制御部10とは別に設けられたマウス、キーボード等であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、X方向が第1水平方向であり、Y方向が第1水平方向に垂直な第2水平方向であり、Z方向が鉛直方向であったが、X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、それらの各方向に限定されない。例えば、Z方向が鉛直方向と交差する方向であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…レーザ加工装置、2…支持部、3…光源、5…空間光変調器(第1光学部)、6…集光部(第2光学部)、7…移動部、8…可視撮像部(撮像部)、10…制御部、11…対象物、12…改質領域、20…ガラス基板、103…インターフェース部(表示部、入力受付部)、AS…非点収差パターン、L…レーザ光、R1…第1領域、R2…第2領域。
図1
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図12