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特許7579762摩擦攪拌接合及び抵抗溶接のための接合装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合及び抵抗溶接のための接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20241031BHJP
   B23K 11/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K11/30
B23K20/12 364
B23K20/12 344
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021118227
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013802
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 章嘉
(72)【発明者】
【氏名】佐山 満
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大知
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-268543(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0067434(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0167356(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016206759(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ導電性を有し、かつ、所定の主面に沿って延在する第1部材、中間部材及び第2部材をこの順に重ね合わせたように含む積層体に於いて、各部材を互いに接合するための接合装置であって、
前記積層体の前記第1部材側の面をなす第1面を支持するべきアンビル当接面を含み、前記アンビル当接面が絶縁性の領域及び導電性の領域を含む、アンビルと、
前記アンビルに対応する位置で、前記積層体の前記第2部材側の面をなす第2面に対向するべく、前記主面に交差する方向に延在する軸線回りに回転可能に、かつ前記軸線に沿って前記第2部材に対して進退可能であり、少なくとも部分的に導電性を有するプローブと、
前記プローブを、前記軸線回りに回転させ、前記軸線に沿って進退させる駆動機構と、
前記積層体を介して前記アンビルと前記プローブとの間に電流を流すべく、前記アンビル及び前記プローブに電気的に接続された電源と、
前記駆動機構及び前記電源の作動を制御する制御装置と、
を備え、
前記プローブの先端が前記中間部材に突入するまで、前記プローブを回転させながら前記第2面の側から前記積層体に進行させ、前記プローブの先端が前記中間部材に達した後に、加圧された前記積層体を介して前記プローブと前記アンビルとの間に電流を流すことによって、前記第1部材と前記中間部材を互いに抵抗溶接し、かつ前記第2部材と前記中間部材を互いに摩擦攪拌接合するための接合装置。
【請求項2】
それぞれ導電性を有し、かつ所定の主面に沿って延在する第1部材、中間部材及び第2部材を、この順に重ね合わせたように含む積層体に於いて、各部材を互いに接合するための接合装置であって、
前記積層体の前記第1部材側の面をなす第1面を支持するべきアンビル当接面を含み、前記アンビル当接面が絶縁性の領域及び導電性の領域を含む、アンビルと、
前記アンビルに対応する位置で、前記積層体の前記第2部材側の面をなす第2面に対向するべく、前記主面に交差する方向に延在する軸線回りに回転可能に、かつ前記軸線に沿って前記第2部材に向かって進退可能なプローブと、
前記プローブが挿通された貫通孔と、前記第2面に押圧されるべきショルダ当接面とを含み、少なくとも部分的に導電性を有するショルダ部材と、
前記プローブを、前記軸線回りに回転させ、前記軸線に沿って進退させる駆動機構と、
前記積層体を介して前記アンビルと前記ショルダ部材との間に電流を流すべく、前記アンビル及び前記ショルダ部材に電気的に接続された電源と、
前記駆動機構及び前記電源の作動を制御する制御装置と、
を備え、
前記プローブの先端が前記中間部材に突入するまで、前記プローブを回転させながら前記第2面の側から前記積層体に進行させ、前記プローブの先端が前記中間部材に達した後に、加圧された前記積層体を介して前記ショルダ部材と前記アンビルとの間に電流を流すことによって、前記第1部材と前記中間部材を互いに抵抗溶接し、かつ前記第2部材と前記中間部材を互いに摩擦攪拌接合するための接合装置。
【請求項3】
前記ショルダ部材は、前記第2面に対して対向するべき底面を画定するように前記ショルダ当接面に対して凹み、前記プローブの一部を受容する凹部を含む、請求項2に記載の接合装置。
【請求項4】
前記アンビル当接面に於いて、前記絶縁性の領域が、前記軸線の延長線に交差するように配置された、請求項1~3の何れか1項に記載の接合装置。
【請求項5】
前記導電性の領域が、前記絶縁性の領域を外囲する環状に配置された、請求項4に記載の接合装置。
【請求項6】
前記アンビル当接面に於いて、前記導電性の領域が、前記絶縁性の領域によって複数の孤立した領域に分割されている、請求項1~4の何れか1項に記載の接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合及び抵抗溶接のための接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の金属の板材を互いに接合する方法であって、一般的な溶接方法よりもガスの発生が抑制されて、大気の質に関する環境上の悪影響を低減する(SDGs11.6)方法として、抵抗溶接や摩擦攪拌接合が挙げられる。更に、摩擦攪拌接合は、消費電力が一般的な溶接方法に比べて少なく、製造時のエネルギー効率の改善に貢献する(SDG7.3)。
【0003】
抵抗溶接により異種材を含む3枚以上の金属板材を互いに接合する場合、電食防止のため接着剤を使用する。このため、接着剤由来の欠陥が発生して、安定的に接合強度を得ることができず、必要な強度を得るためにはリベットを併用する必要がある。摩擦攪拌接合により異種材を含む3枚以上の金属の板材、例えば、1枚のアルミニウム合金板材と、2枚の鋼(鉄合金)板材を互いに接合する場合、攪拌範囲を拡げられないため、第1及び第2層(Al-Fe)間は接合できるが、第2及び第3層(Fe-Fe)間は接合が困難である。このように、1つの接合方法で、異種材を含む3枚以上の金属板材を互いに接合することは困難である。
【0004】
互いに異なる接合方法を組み合わせて、異種材を含む3以上の金属部材を互いに接合する方法として、特許文献1には、アルミ材と、鋼材と、アルミ材層及び鋼材層を含むグラッド材(異種材料を1枚の板に圧延させた複合材)との接合方法が記載されている。特許文献1には、アルミ材とグラッド材のアルミ材層とを摩擦攪拌接合によって互いに接合し、摩擦攪拌接合によって生じた摩擦熱を利用して鋼材とグラッド材の鋼材層とを熱硬化性の接着剤で互いに接合する実施形態や、鋼材とグラッド材の鋼材層とを抵抗溶接で互いに接合し、抵抗溶接によって生じた熱を利用してアルミ材とグラッド材のアルミ材層とを熱硬化性の接着剤で互いに接合する実施形態が記載されている。しかし、この方法は、グラッド材を使用するため、汎用性に欠ける。特許文献2には、互いに突き合わされた2つの部材を摩擦攪拌線接合によって互いに接合した後、この接合部に対して他の部材を溶融溶接又は抵抗溶接することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-111489号公報
【文献】特開2007-237253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
異種材を含む3以上の金属部材を互いに接合するために2種類以上の接合方法を組み合わせる必要があるが、従来の方法では、接合回数が増え、2種類以上の接合設備を用意し、製造ラインを長くする必要があり、設備投資を増やさざるを得なかった。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、大気の質に関する環境上の悪影響の低減(SDGs11.6)、及び/又は、製造時のエネルギー効率の改善への貢献(SDG7.3)に資する摩擦攪拌接合と抵抗溶接とを組み合わせた接合装置であって、装置の大型化や加工時間の増大が低減された接合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、それぞれ導電性を有し、かつ、所定の主面に沿って延在する第1部材(3)、中間部材(4)及び第2部材(5)をこの順に重ね合わせたように含む積層体(2)に於いて、各部材を互いに接合するための接合装置(1,51)であって、前記積層体(2)の前記第1部材側の面をなす第1面(6)を支持するべきアンビル当接面(112,122)を含み、前記アンビル当接面(112,122)が絶縁性の領域(113,123)及び導電性の領域(114,124)を含む、アンビル(111,121)と、前記アンビル(111,121)に対応する位置で、前記積層体(2)の前記第2部材側の面をなす第2面(7)に対向するべく、前記主面に交差する方向に延在する軸線回りに回転可能に、かつ前記軸線に沿って前記第2部材(5)に対して進退可能であり、少なくとも部分的に導電性を有するプローブ(12,41,52)と、前記プローブ(12,41,52)を、前記軸線回りに回転させ、前記軸線に沿って進退させる駆動機構(14,54)と、前記積層体(2)を介して前記アンビル(111,121)と前記プローブ(12,41,52)との間に電流を流すべく、前記アンビル(111,121)及び前記プローブ(12,41,52)に電気的に接続された電源(15)と、前記駆動機構(14,54)及び前記電源(15)の作動を制御する制御装置(16)と、を備え、前記プローブ(12,41,52)の先端が前記中間部材(4)に突入するまで、前記プローブ(12,41,52)を回転させながら前記第2面(7)の側から前記積層体(2)に進行させ、前記プローブ(12,41,52)の先端が前記中間部材(4)に達した後に、加圧された前記積層体(2)を介して前記プローブ(12,41,52)と前記アンビル(111,121)との間に電流を流すことによって、前記第1部材(3)と前記中間部材(4)を互いに抵抗溶接し、かつ前記第2部材(5)と前記中間部材(4)を互いに摩擦攪拌接合するための接合装置(1,51)である。
【0009】
この態様によれば、摩擦攪拌接合のために使用するアンビル及びプローブが、抵抗溶接のための電極を兼ねているため、装置の大型化及び増加や、製造ラインの長大化を抑制でき、設備投資を抑制できる。また、摩擦攪拌接合と抵抗溶接とを同時に実施できるため、加工時間の増大を抑制できる。更に、この態様は、一般的な溶接方法よりもガスの発生が抑制された抵抗溶接と、一般的な溶接方法よりもガスの発生が抑制されるとともに消費電力が一般的な溶接方法に比べて少ない摩擦攪拌接合によって積層体を接合するため、大気の質に関する環境上の悪影響を低減し(SDGs11.6)、製造時のエネルギー効率の改善に貢献する(SDG7.3)。
【0010】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、それぞれ導電性を有し、かつ、所定の主面に沿って延在する第1部材(3)、中間部材(4)及び第2部材(5)をこの順に重ね合わせたように含む積層体(2)に於いて、各部材を互いに接合するための接合装置(101)であって、前記積層体(2)の前記第1部材側の面をなす第1面(6)を支持するべきアンビル当接面(112,122)を含み、前記アンビル当接面(112,122)が絶縁性の領域(113,123)及び導電性の領域(114,124)を含む、アンビル(111,121)と、前記アンビル(111,121)に対応する位置で、前記積層体(2)の前記第2部材(5)側の面をなす第2面(7)に対向するべく、前記主面に交差する方向に延在する軸線回りに回転可能に、かつ前記軸線に沿って前記第2部材(5)に向かって進退可能なプローブ(12,41)と、前記プローブ(12,41)が挿通された貫通孔(20,20a)と、前記第2面(7)に押圧されるべきショルダ当接面(24,24a)とを含み、少なくとも部分的に導電性を有するショルダ部材(13,13a,61,64,68)と、前記プローブ(12,41)を、前記軸線回りに回転させ、前記軸線に沿って進退させる駆動機構(14)と、前記積層体(2)を介して前記アンビル(111,121)と前記ショルダ部材(13,13a,61,64,68)との間に電流を流すべく、前記アンビル(111,121)及び前記ショルダ部材(13,13a,61,64,68)に電気的に接続された電源(15)と、前記駆動機構(14)及び前記電源(15)の作動を制御する制御装置(16)と、を備え、前記プローブ(12,41)の先端が前記中間部材(4)に突入するまで、前記プローブ(12,41)を回転させながら前記第2面(7)の側から前記積層体(2)に進行させ、前記プローブ(12,41)の先端が前記中間部材(4)に達した後に、加圧された前記積層体(2)を介して前記ショルダ部材(13,13a,61,64,68)と前記アンビル(111,121)との間に電流を流すことによって、前記第1部材(3)と前記中間部材(4)を互いに抵抗溶接し、かつ前記第2部材(5)と前記中間部材(4)を互いに摩擦攪拌接合するための接合装置(101)である。
【0011】
この態様によれば、摩擦攪拌接合のために使用するアンビル及びショルダ部材が、抵抗溶接のための電極を兼ねているため、装置の大型化及び増加や、製造ラインの長大化を抑制でき、設備投資を抑制できる。また、摩擦攪拌接合と抵抗溶接とを同時に実施できるため、加工時間の増大を抑制できる。更に、この態様は、一般的な溶接方法よりもガスの発生が抑制された抵抗溶接と、一般的な溶接方法よりもガスの発生が抑制されるとともに消費電力が一般的な溶接方法に比べて少ない摩擦攪拌接合によって積層体を接合するため、大気の質に関する環境上の悪影響を低減し(SDGs11.6)、製造時のエネルギー効率の改善に貢献する(SDG7.3)。
【0012】
上記の態様において、前記ショルダ部材(13,13a,61,64,68)は、前記第2面(7)に対して対向するべき底面(26,26a)を画定するように前記ショルダ当接面(24,24a)に対して凹み、前記プローブ(12,41)の一部を受容する凹部(25,25a)を含んでも良い。
【0013】
この態様によれば、凹部が存在することによってショルダ当接面が径方向の外側に配置されることになり、ナゲットも径方向の外側に形成されるため、抵抗溶接を広い領域に渡って行うことができ、接合強度を高めることができる。
【0014】
上記の態様において、前記アンビル当接面(112)に於いて、前記絶縁性の領域(113)が、前記軸線の延長線に交差するように配置されても良い。
【0015】
この態様によれば、絶縁性の領域が中央に配置されることによって、ナゲットが径方向の外側に形成されるため、接合強度が上がり、接合部に加わる応力が分散する。
【0016】
上記の態様において、前記アンビル当接面(112)に於いて、前記導電性の領域(114)が、前記絶縁性の領域(113)を外囲する環状に配置されても良い。
【0017】
この態様によれば、導電性の領域が環状であることによって、ナゲットが環状に形成されるため、接合強度が上がり、接合部に加わる応力が分散する。
【0018】
上記の態様において、前記アンビル当接面(122)に於いて、前記導電性の領域(124)が、前記絶縁性の領域(123)によって複数の孤立した領域に分割されていても良い。
【0019】
この態様によれば、導電性の領域が複数の孤立した領域に分割されていることによって、ナゲットが複数の孤立した領域に形成されるため、接合部に加わる応力が分散する。
【発明の効果】
【0020】
以上の態様によれば、摩擦攪拌接合と抵抗溶接とを組み合わせた接合装置及び接合方法であって、装置の大型化や加工時間の増大が低減された接合装置及を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る接合装置を示す縦断面図
図2】第1実施形態に係る接合装置の絶縁に関する変形例を示す縦断面図
図3】第1実施形態に係る接合装置のショルダ部材を示す図(A:第1実施形態、B:変形例、上図:下図のIV-IV線に沿った断面図、下図:底面図)
図4】第1実施形態に係る接合装置を用いた接合方法の説明図
図5】第2実施形態に係る接合装置を示す縦断面図
図6】第3実施形態に係る接合装置を示す縦断面図
図7】第3実施形態に係る接合装置のプローブに関する変形例を示す縦断面図
図8】第3実施形態に係る接合装置のショルダ部材の絶縁部の変形例を示す図
図9】第3実施形態に係る接合装置のアンビルの変形例を示す図
図10】第3実施形態に係る接合装置を用いた接合方法の説明図
図11】第3実施形態に係る接合装置を用いた接合方法の変形例の説明図
図12】第1~第3実施形態に係る接合装置のアンビルの変形例を示す平面図
図13】第1及び第3実施形態に係る接合装置のアンビルの変形例を示す縦断面図(A:第1実施形態の変形例、B:第3実施形態の変形例)
図14】第1~第3実施形態に係る接合装置のアンビルの他の変形例を示す図(A:アンビルの平面図、B:抵抗溶接の接合部の横断面図)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る接合装置1と、接合装置1によって接合される積層体2の接合途中の状態とを示す軸線を含む面の断面図である。以下、軸線が、上下方向に延在する場合を例に説明するが、軸線が上下方向に対して傾いていてもよく、横方向に延在していてもよく、上下が逆であってもよい。
【0023】
積層体2は、それぞれ導電性を有し、かつ、軸線に直交する主面に沿って延在する第1部材3、中間部材4及び第2部材5をこの順に重ね合わせたように含む。軸線は主面に対して、直交していることに代えて、90度以外の角度で交差していてもよい。積層体2は、第1部材3側の面(下面)をなす第1面6と、第2部材側の面(上面)をなす第2面7とを有する。第1部材3、中間部材4及び第2部材5は、板形状をなす。第1部材3の下側に、第1部材3と同種材である他の1以上の板材が重ねられていてもよい。
【0024】
第1部材3及び中間部材4は互いに同種材であり、第2部材5は第1部材3及び中間部材4とは異種材である。第1部材3及び中間部材4の素材は、第2部材5の素材よりも高強度であり、かつ高い電気抵抗性を有する。例えば、第1部材3及び中間部材4が鉄合金(鋼材)であり、第2部材5がアルミニウム合金であってもよく、第1部材3及び中間部材4が鉄合金であり、第2部材5がマグネシウム合金であってもよく、第1部材3及び中間部材4がチタン合金であり、第2部材5がアルミニウム合金であってもよく、第1部材3及び中間部材4がチタン合金であり、第2部材5がマグネシウム合金であってもよく、第1部材3及び中間部材4が鉄合金であり、第2部材5が銅合金であってもよく、第1部材3及び中間部材4がチタン合金であり、第2部材5が銅合金であってもよく、又は、第1部材3及び中間部材4がアルミニウム合金であり、第2部材5が銅合金であってもよい。
【0025】
接合装置1は、積層体2の第1面6を支持するべきアンビル11と、アンビル11の上方に配置されたプローブ12と、アンビル11の上方に配置されてプローブ12を外囲するショルダ部材13と、アンビル11、プローブ12及びショルダ部材13を駆動する駆動機構14と、積層体2を挟むプローブ12及びアンビル11間に電流を流す電源15と、駆動機構14及び電源15の作動を制御する制御装置16とを備える。
【0026】
アンビル11は、導電性を有し、積層体2の第1面6に当接するアンビル当接面17を有する。
【0027】
プローブ12は回転子18の一部であり、回転子18の全体は、軸線回りに回転対称形をなし、一体となって軸線回りに回転可能である。プローブ12は、軸線に沿って延在しており、好ましくは、回転子18の上部19に比べて細い円柱形状をなす。プローブ12の先端(下端)は、積層体2に突入できるように自由端となっている。プローブ12は、例えば、銅合金(クロム銅、アルミナ分散銅、タングステン銅合金等)、導電性セラミック、又は超硬合金等を素材とする。
【0028】
図1及び図3(A)に示すように、ショルダ部材13は、軸線回りに回転対称形をなすことが好ましい。ショルダ部材13は、貫通孔20を有するプローブ支持部21と、プローブ支持部21から径方向の外方に延出するフランジ22と、プローブ支持部21の下面から下方に延出して、下方から見て円環形状をなす側壁部23とを含む。貫通孔20の中心軸線は軸線に一致する。貫通孔20にはプローブ12が挿通されている。貫通孔20の上部は、プローブ12を挿通する際にプローブ12をガイドするように、上方に向かうにつれて拡径されている。貫通孔20の下部の内径はプローブ12の外径よりもわずかに大きく、プローブ12が軸線回りに回転する際に、貫通孔20の内周面が、プローブ12の外周面に摺接して、プローブ12を支持する。側壁部23の内径はプローブ12の外径よりも大きく、側壁部23の内周面は、プローブ12の外周面から離間している。側壁部23の内周面は、下方に向かうにつれて径方向の外方に向かうように傾斜していることが好ましいが、軸線方向に平行であってもよい。側壁部23の下面は、積層体2の第2面7に当接するショルダ当接面24をなしている。ショルダ部材13の下面には、凹部25が設けられている。凹部25は、ショルダ当接面24に対して凹んで積層体2の第2面7に対向する底面26と、側壁部23の内周面とによって画定され、プローブ12の下部を受容する。底面26は、プローブ支持部21の下面をなす。ショルダ部材13は、例えば、鋼、セラミック、又は超硬合金等を素材とする。
【0029】
図1に示すように、駆動機構14は、アンビル11を移動させるアンビル駆動機構27と、プローブ12を含む回転子18を軸線回りに回転させる回転駆動機構28と、プローブ12を軸線に沿って進退させる進退駆動機構29と、ショルダ部材13を移動させるショルダ駆動機構30とを含む。
【0030】
電源15は、第1端子31及び第2端子32に電気的に接続されている。第1端子31は、アンビル11に電気的に接続されており、第2端子32は、回転子18に電気的に接続されている。アンビル11及び回転子18が部分的に導電性を含まない領域を有する場合であっても、アンビル11に於ける第1端子31が電気的に接続された箇所からアンビル当接面17までは導電性を有し、回転子18に於ける第2端子32が電気的に接続された箇所からプローブ12の先端までは導電性を有する。
【0031】
図2(C)は、プローブ12の先端を第2面7から積層体2に突入させ、電源15(図1参照)によってプローブ12から積層体2を介してアンビル11に電流を流した時の電流の流れを示す。ドットパターンで示した矢印がプローブ12の突入方向を示し、黒く細い矢印がプローブ12の回転方向を示し、黒く太い矢印が電流の方向を示す。電流を流すことにより、第1部材3及び中間部材4の間にナゲット33(接合される部材が抵抗溶接により溶融凝固した部分)が形成され、第1部材3及び中間部材4が互いに接合される。しかし、電流は、プローブ12からアンビル11にまっすぐに向かうだけでなく、プローブ12からショルダ部材13にも流れ、抵抗溶接を実施する上でのエネルギー効率が悪化する。そこで、図2(A)又は図2(B)に示すように、プローブ12又はショルダ部材13に部分的に絶縁性を持たせることが好ましい。
【0032】
図2(A)及び図2(B)の変形例の説明において、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、説明を省略する。図2(A)に示す変形例では、プローブ41は、軸線に沿って延在して円柱形状をなし導電性を有するプローブ導電部42と、プローブ導電部42の外周面に沿って設けられた絶縁性のプローブ絶縁部43とを含む。プローブ導電部42の下面はプローブ絶縁部43に覆われていない。プローブ41に於いてショルダ部材13の貫通孔20の内周面に摺接するのはプローブ絶縁部43である。プローブ絶縁部43が、貫通孔20の内周面に摺接することに代えて、プローブ絶縁部43の外周面に沿って、耐摩耗性が高く、かつプローブ絶縁部43によってプローブ導電部42から絶縁された層(図示せず)を設け、この層が貫通孔20の内周面に摺接してもよい。プローブ絶縁部43によって、プローブ41からショルダ部材13に向かって電流が流れることを防止できる。
【0033】
図2(B)に示す変形例では、ショルダ部材44は、プローブ支持部21と、フランジ22(図1参照)と、側壁部23とを含み、導電性を有するショルダ部材本体45と、ショルダ当接面24及び貫通孔20の内周面に於けるプローブ12に摺接する領域に沿って設けられた絶縁性を有するショルダ部材絶縁部46とを含む。ショルダ部材絶縁部46は、更に側壁部23の内周面に沿って設けられることが好ましい。ショルダ部材絶縁部46によって、電流がプローブ12及び積層体2からショルダ部材44に流れることを防止又は抑制できる。
【0034】
上記の2つの変形例に於いて、プローブ導電部42及びショルダ部材本体45は、例えば、銅合金(クロム銅、アルミナ分散銅、タングステン銅合金等)、導電性セラミック、又は超硬合金等を素材とする。プローブ絶縁部43及びショルダ部材絶縁部46は、例えば、絶縁性のセラミック、ベークライト(フェノール樹脂)、又はマイカ等を素材とする。
【0035】
上記の接合装置1に於ける摩擦攪拌接合は、摩擦撹拌点接合であり、ショルダ当接面24が環状をなすことにより接合部の見栄えが良くなっている。一方、ショルダ部材13を図3(B)に示す形状に変更することにより、摩擦撹拌線接合とすることができる。図3(B)に示すショルダ部材13aに於いて、図3(A)に示すショルダ部材13と類似する構成は、同一の符号に添え字「a」を付し、共通する部分の説明を省略し、相違点のみを説明する。
【0036】
図3(B)に示すショルダ部材13aは、貫通孔20aを有するプローブ支持部21aと、フランジ22aと、下面にショルダ当接部24aが形成された側壁部23aとを含む。ショルダ部材13aを第2面7に押圧しながら第2面7に沿って進行させた時に、プローブ12が突入されることによって上方に盛り上がった第2部材5が引っ掛からないように、ショルダ部材13aの進行方向の後方には、側壁部23aが設けられておらず、凹部25aに於ける進行方向の後方は開口している。したがって、側壁部23aは、下方から見てコ字形状をなしている。コ字形状に代えて、側壁部23aは、進行方向に平行な1対の壁によって構成されてもよい(図示せず)。
【0037】
図4を参照して、接合装置1を用いた積層体2の接合方法を説明する。
【0038】
図4(A)に示すように、作業員は、各層がまだ接合されていない状態の積層体2をアンビル11と、プローブ12及びショルダ部材13との間に配置する。作業員は、制御装置16(図1参照)が駆動機構14(図1参照)を介してアンビル11、ショルダ部材13及びプローブ12を動かして、摩擦撹拌点接合及び抵抗スポット接合が実施されるように、接合装置1を設定操作する。
【0039】
図4(B)に示すように、アンビル11が積層体2の第1面6を上方に向かって押圧し、ショルダ部材13が積層体2の第2面7を下方に向かって押圧する。積層体2がアンビル11及びショルダ部材13によって加圧された状態で、プローブ12が軸線回りに回転しながら、第2面7の側から積層体2に向かって進行する。
【0040】
図4(C)に示すように、プローブ12の先端が第2部材5に突入する。第2部材5は変形し、プローブ12によって押しのけられた部分に相当する量が、ショルダ部材13の凹部25に受容される。プローブ12の近傍では、プローブ12の回転による摩擦熱によって第2部材5が塑性流動して、上方から見て円環形状又は円形状の流動領域が形成される。プローブ12の先端が中間部材4に達した後、制御装置16(図1参照)は、プローブ12とアンビル11との間に電流を流す。プローブ12の先端の位置は、プローブ12の挿入深さや、プローブ12の積層体2への突入圧力(突入負荷)、又は、プローブ12の回転負荷等によって管理する。
【0041】
図4(D)に示すように、プローブ12とアンビル11との間に電流が流れた状態で、プローブ12が回転しながら更に下方に進行し、プローブ12の先端が中間部材4に突入する。プローブ12とアンビル11との間に電流が流れると、第1部材3及び中間部材4の抵抗発熱と、プローブ12の回転による摩擦熱とによって、第1部材3及び中間部材4に溶融部34が形成される。また、プローブ12の近傍では、第2部材5だけでなく中間部材4も塑性流動する。このため、中間部材4に於けるプローブ12によって押しのけられた部分が、プローブ12の側面に沿って第2部材5に向かって突入する。この時、プローブ12から遠ざかるにつれて温度が下がって流動性が低くなるため、中間部材4に於ける第2部材5に突入した部分は、径方向の外側に向かって押し出される。このため、中間部材4のプローブ12の近傍において、上端に向かうにつれて径方向の外方に向かうフック35が形成される。
【0042】
図4(E)に示すように、制御装置16(図1参照)はプローブ12とアンビル11との間に電流を流すことを止め、プローブ12が回転しながら軸線に沿って後退する。更に、アンビル11及びショルダ部材13が、積層体2に対する加圧を停止し、積層体2から離間する。電流が停止し、プローブ12が離れることによって、溶融部34(図4(D)参照)が凝固してナゲット33が形成されて第1部材3及び中間部材4が互いに接合される。また、プローブ12の回転によって塑性流動した第2部材5及び中間部材4によりフック35が形成されるため、第2部材5及び中間部材4が互いに接合される。
【0043】
第1実施形態の作用効果について説明する。
【0044】
摩擦攪拌接合のために使用するアンビル11及びプローブ12が、抵抗スポット溶接のための電極を兼ねているため、互いに別個の摩擦攪拌接合装置と抵抗スポット溶接装置とを用意する場合に比べて、装置の大型化及び増加や、製造ラインの長大化を抑制でき、設備投資を抑制できる。また、摩擦攪拌接合と抵抗スポット溶接とを同時に実施できるため、加工時間の増大を抑制できる。
【0045】
仮に、異種材を抵抗溶接すると脆弱な金属間化合物が発生し、接合強度が低下するおそれがある。本実施形態では、互いに異種材である第2部材5と中間部材4との間は摩擦攪拌接合によって接合されるため、金属間化合物によって接合強度が低下することを防止できる。
【0046】
電流を流すことによって生じる抵抗発熱だけでなく、プローブ12の回転による摩擦熱が第1部材3及び中間部材4の溶融に寄与するため、抵抗溶接のためのエネルギー消費量を低減できる。また、溶融部34が急冷されるとナゲット33の靭性が低下するところ、本実施形態では、電流を流すことを停止した後、プローブ12を回転させながら積層体2から引き抜くため、溶融部34にプローブ12の回転による摩擦熱が伝わり、溶融部34の急冷が抑制され、ナゲット33の靭性の低下が抑制される。
【0047】
図2(A)又は(B)に示すように、プローブ絶縁部43又はショルダ部材絶縁部46を含む変形例では、ショルダ部材13への通電が抑制又は防止されて通電経路が限定される。このため、第2部材5の内部に電流がほぼ流れず、第2部材5の溶融が防止され、接合品質の安定及び向上を図れる。また、設備の電気的な安全性を高めることもできる。
【0048】
図5は、第2実施形態に係る接合装置51を示す。第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付し、説明を省略する。第2実施形態に係る接合装置51は、アンビル11と、プローブ52を含む回転子53と、アンビル駆動機構27、回転駆動機構28及び進退駆動機構29を含む駆動機構54と、と、進退駆動機構29及び電源15の作動を制御する制御装置16とを備える。
【0049】
回転子53は全体として軸線回りに回転する。回転子53は、軸線を中心とする概ね円柱形状をなす本体部55と、本体部55の下面から軸線に沿って下方に延出するプローブ52とを含む。回転子53は、導電性を有する。プローブ52は、外周面にねじ溝を有することが好ましい。本体部55の下面は、径方向の外縁からプローブ52が延出する中央部分に向かうにつれて上方に向かうように凹んだショルダ56を形成している。プローブ52は、例えば、銅合金(クロム銅、アルミナ分散銅、タングステン銅合金等)、導電性セラミック、又は超硬合金等を素材とする。
【0050】
第2実施形態に係る接合装置51を用いて積層体2の各層を互いに接合する方法は、ショルダ部材13(図1参照)を用いないことを除いて、第1実施形態と同様である。回転子53の凹んだショルダ56が、第1実施形態のショルダ部材13の凹部25(図1参照)と同様に、プローブ52が突入することにより押し出された第2部材5の一部を受容する。
【0051】
図6図11を参照して、第3実施形態について説明する。第1実施形態と共通する構成については、共通の符号を付し、説明を省略する。図6は、第3実施形態に係る接合装置101と、接合装置101によって接合される積層体2の接合途中の状態とを示す軸線を含む面の断面図である。第1実施形態では、電源15がアンビル11とプローブ12とに電気的に接続されている(図1参照)のに対して、第3実施形態では、電源15がアンビル11とショルダ部材13とに電気的に接続されている。
【0052】
電源15は、第1端子31及び第2端子32に電気的に接続されている。第1端子31は、アンビル11に電気的に接続されており、第2端子32は、ショルダ部材13に電気的に接続されている。アンビル11及びショルダ部材13が部分的に導電性を含まない領域を有する場合であっても、アンビル11に於ける第1端子31が電気的に接続された箇所からアンビル当接面17までは導電性を有し、ショルダ部材13に於ける第2端子32が電気的に接続された箇所からショルダ当接面24までは導電性を有する。
【0053】
図7は、プローブ12の変形例を示す。この変形例の説明において、上記第3実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、説明を省略する。図7に示す変形例では、プローブ41は、軸線に沿って延在して円柱形状をなし導電性を有するプローブ導電部42と、プローブ導電部42の外周面に沿って設けられた絶縁性のプローブ絶縁部43とを含む。プローブ41に於いてショルダ部材13の貫通孔20の内周面に摺接するのはプローブ絶縁部43である。プローブ絶縁部43によって、ショルダ部材13からプローブ41に向かって電流が流れることを防止できる。このため、抵抗溶接を実施する上でのエネルギー効率の悪化を防止できる。
【0054】
図8(A)は、図6に示したのと同じショルダ部材13を示す。図8(B)~図8(D)は、その変形例を示す。図8(A)に示すショルダ部材13は、全体に導電性を有する。図8(B)に示すショルダ部材61は、第2端子32の接続箇所からショルダ当接面24に至るショルダ部材導電部62と、貫通孔20の内周面に於けるプローブ12に摺接する部分を含む領域に設けられたショルダ部材絶縁部63とを含む。図8(C)に示すショルダ部材64は、貫通孔20の内周面を含んで導電性を有する内層65と、第2端子32が接続されるとともにショルダ当接面24を含んで導電性を有する外層66と、内層65及び外層66の間に配置され、内層65及び外層66間を絶縁するショルダ部材絶縁部67とを含む。図8(D)に示すショルダ部材68は、貫通孔20の内周面を含んで導電性を有する内層65と、第2端子32が接続されるとともにショルダ当接面24に於ける外側の部分を含んで導電性を有する外層69と、内層65及び外層69の間に配置され、ショルダ当接面24に於ける内側の部分を含み、内層65及び外層69間を絶縁するショルダ部材絶縁部70とを含む。図8(B)~図8(D)に示すショルダ部材61,64,68では、ショルダ部材絶縁部63,67,70によって、ショルダ部材61,64,68からプローブ12(図6参照)に電流が流れることが防止される。
【0055】
図7及び図8に示す変形例に於いて、プローブ導電部42、ショルダ部材導電部62、内層65及び外層66,69は、例えば、銅合金(クロム銅、アルミナ分散銅、タングステン銅合金等)、導電性セラミック、又は超硬合金等を素材とする。プローブ絶縁部43及びショルダ部材絶縁部63,67,70は、例えば、絶縁性のセラミック、ベークライト(フェノール樹脂)、又はマイカ等を素材とする。
【0056】
上記の接合装置101に於ける摩擦攪拌接合は、摩擦撹拌点接合である。第1実施形態の変形例に係る図3(B)に示すショルダ部材13aを第3実施形態の接合装置101に適用することにより、摩擦撹拌線接合を実施できる。
【0057】
図9は、アンビル11の構成によって変化する電流の流れを示す。積層体2に重ねて示した矢印が電流の流れを示す。図9(A)に示すアンビル11の輪郭は、軸線方向から見て、プローブ12の輪郭に一致するか、それよりも径方向の外側に位置し、かつ、ショルダ当接面24の内輪郭よりも内側に位置する。アンビル11は、積層体2との接触面積が比較的小さいため、アンビル11から積層体2への加圧が安定する。図9(B)に示すアンビル11bの輪郭は、ショルダ当接面24の内輪郭に一致するか、それよりも径方向の外側に位置し、かつ、ショルダ当接面24の外輪郭に一致するか、それよりも径方向の内側に位置する。アンビル11bは、図9(A)に示す例に比べて、積層体2との接触面積が比較的大きく、電流が径方向の外側を流れるため、ナゲット33(図6参照)が径方向に拡大される。図9(C)に示すアンビル11cは、図9(B)に示すアンビル11bと略同じ大きさを有するが、軸線に交差する中心部71が、中心部71を外囲する外周部72に比べて剛性の高い材料によって形成されている。このため、アンビル11cを積層体2に押圧した時のアンビル11cの変形が抑制される。軸線方向から見て中心部71の輪郭をショルダ当接面24の内輪郭よりも大きくしてもよく、この場合、積層体2の変形が抑制される。図9(D)に示すアンビル11dは、図9(B)に示すアンビル11bと略同じ大きさを有するが、軸線に交差する中心部71が、中心部71を外囲する外周部72に比べて剛性の低い材料によって形成される。アンビル11dは、積層体2に押圧される時、密着性を担保するために外周部72が加圧される。このため、電流は、ショルダ部材13から外周部72に向かって流れる。アンビル11,11b、11c、11dは、軸線方向から見て円形であることが好ましい。
【0058】
図10を参照して、接合装置101を用いた積層体2の接合方法を説明する。
【0059】
図10(A)に示すように、作業員は、各層がまだ接合されていない状態の積層体2をアンビル11と、プローブ12及びショルダ部材13との間に配置する。作業員は、制御装置16(図1参照)が駆動機構14(図1参照)を介してアンビル11、ショルダ部材13及びプローブ12を動かして、摩擦撹拌点接合及び抵抗スポット接合が実施されるように、接合装置101を設定操作する。
【0060】
図10(B)に示すように、アンビル11が積層体2の第1面6を上方に向かって押圧し、ショルダ部材13が積層体2の第2面7を下方に向かって押圧する。積層体2がアンビル11及びショルダ部材13によって加圧された状態で、プローブ12が軸線回りに回転しながら、第2面7の側から積層体2に向かって進行する。
【0061】
図10(C)に示すように、プローブ12の先端が第2部材5に突入する。第2部材5は変形し、プローブ12によって押しのけられた部分に相当する量が、ショルダ部材13の凹部25に受容される。プローブ12の近傍では、プローブ12の回転による摩擦熱によって第2部材5が塑性流動して、上方から見て円環形状又は円形状の流動領域が形成される。プローブ12の先端が中間部材4に達した後、制御装置16(図6参照)は、ショルダ部材13とアンビル11との間に電流を流す。プローブ12の先端の位置は、プローブ12の挿入深さや、プローブ12の積層体2への突入圧力(突入負荷)、又は、プローブ12の回転負荷等によって管理する。
【0062】
図10(D)に示すように、ショルダ部材13とアンビル11との間に電流が流れた状態で、プローブ12が回転しながら更に下方に進行し、プローブ12の先端が中間部材4に突入する。ショルダ部材13とアンビル11との間に電流が流れると、第1部材3及び中間部材4の抵抗発熱と、プローブ12の回転による摩擦熱とによって、第1部材3及び中間部材4に溶融部34が形成される。また、プローブ12の近傍では、第2部材5だけでなく中間部材4も塑性流動する。このため、中間部材4に於けるプローブ12によって押しのけられた部分が、プローブ12の側面に沿って第2部材5に向かって突入する。この時、プローブ12から遠ざかるにつれて温度が下がって流動性が低くなるため、中間部材4に於ける第2部材5に突入した部分は、径方向の外側に向かって押し出される。このため、中間部材4のプローブ12の近傍において、上端に向かうにつれて径方向の外方に向かうフック35が形成される。
【0063】
図10(E)に示すように、制御装置16(図6参照)はショルダ部材13とアンビル11との間に電流を流すことを止め、プローブ12が回転しながら軸線に沿って後退する。更に、アンビル11及びショルダ部材13が、積層体2に対する加圧を停止し、積層体2から離間する。電流が停止し、プローブ12が離れることによって、溶融部34(図10(D)参照)が凝固してナゲット33が形成されて第1部材3及び中間部材4が互いに接合される。また、プローブ12の回転によって塑性流動した第2部材5及び中間部材4によりフック35が形成されるため、第2部材5及び中間部材4が互いに接合される。
【0064】
図11を参照して、ショルダ部材13とアンビル11との間に電流を流し始める時点を変更した場合について説明する。図11(A)に示すように、プローブ12の先端が積層体2の第2面7に到達する前に、又は到達すると同時に電流を流し始めると、通電による抵抗発熱によって積層体2の幅広い範囲(第2部材5に於けるプローブ12とショルダ当接面24との間の表面等)が軟化するので、プローブ12の積層体2への突入が容易になり、突入速度を高速化できる。プローブ12の先端が積層体2の中間部材4に到達する前に、電流を流し始めた場合も同様である。図11(B)に示すように、プローブ12の先端が、第2部材5と中間部材4との境界面に達した時に電流を流し始めると、通電により、フック35(図1参照)の生成起点のプローブ12の外周面からショルダ当接面24に向かって第2部材5が軟化し、フック35の先端を外側に誘導できる。更に、中間部材4もアンビル11の直上で集中的に軟化するため、フック35の生成が促進され、第1部材3と中間部材4との界面への材料の流入を抑制できる。図11(C)に示すように、プローブ12の先端が、第2部材5と中間部材4との境界面を越えた後に電流を流し始めた場合も、図11(B)に示す場合と同様の作用効果を奏する。
【0065】
第3実施形態の作用効果について説明する。
【0066】
摩擦攪拌接合のために使用するアンビル11及びプローブ12が、抵抗スポット溶接のための電極を兼ねているため、互いに別個の摩擦攪拌接合装置と抵抗スポット溶接装置とを用意する場合に比べて、装置の大型化及び増加や、製造ラインの長大化を抑制でき、設備投資を抑制できる。また、摩擦攪拌接合と抵抗スポット溶接とを同時に実施できるため、加工時間の増大を抑制できる。
【0067】
仮に、異種材を抵抗溶接すると脆弱な金属間化合物が発生し、接合強度が低下するおそれがある。本実施形態では、互いに異種材である第2部材5と中間部材4との間は摩擦攪拌接合によって接合されるため、金属間化合物によって接合強度が低下することを防止できる。
【0068】
電流を流すことによって生じる抵抗発熱だけでなく、プローブ12の回転による摩擦熱が第1部材3及び中間部材4の溶融に寄与するため、抵抗溶接のためのエネルギー消費量を低減できる。また、溶融部34が急冷されるとナゲット33の靭性が低下するところ、本実施形態では、電流を流すことを停止した後、プローブ12を回転させながら積層体2から引き抜くため、溶融部34にプローブ12の回転による摩擦熱が伝わり、溶融部34の急冷が抑制され、ナゲット33の靭性の低下が抑制される。
【0069】
図7又は図8に示すように、プローブ絶縁部43又はショルダ部材絶縁部63,67,70を含む変形例では、プローブ12への通電が抑制又は防止されて通電経路が限定される。このため、設備の電気的な安全性を高めることができる。また、図8(C)及び図8(D)に示すショルダ部材64,68では、貫通孔20に於けるプローブ12に摺接する部分に導電性の材料を使用してもよい。このため、この部分に耐摩耗性の高い材料を配置でき、ショルダ部材64,68の耐久性が向上する。
【0070】
上述の第1~第3実施形態及びその変形例に於いて、アンビル11(図1等参照)を、図12又は図14に示すアンビル111,121に変更してもよい。
【0071】
図12及び図13に示すアンビル111は、円柱形状をなし、積層体2の第1面6を支持するアンビル当接面112を含む。アンビル当接面112は、プローブ12の軸線の延長線に交差するように配置された円形状の絶縁性の領域113と、絶縁性の領域113を外囲するように配置された円環形状の導電性の領域114とを含む。絶縁性の領域113の直径は2mm以上であることが好ましい。導電性の領域114の形状は、環形状であれば円環形状でなくともよく、絶縁性の領域113の形状は環形状の導電性の領域の内部に配置された形状であれば円形状でなくともよい。アンビル111に於ける、導電性の領域114から第1端子31(図1参照)が接続された箇所に至る部分は導電性を有する。
【0072】
図13に示すように、電流は、プローブ12(A図)又はショルダ部材13(B図)からアンビル111の導電性の領域114に流れる。このため、ナゲット115も円環形状に形成される。接合面積が互いに等しいならば、円環形状のナゲット115は、円形状のナゲット33(図2参照)に比べて、外径が大きいため接合強度、特に剥離方向の荷重に対する接合強度が高まる。また、円形状の絶縁性の領域113と円環形状の導電性の領域114とを含むアンビル111は、図14(A)に示すアンビル121に比べて安価に製造することができる。図13(B)に示すようにアンビル11とショルダ部材13との間に電流を流す態様では、図13(A)に示すようにアンビル11とプローブ12との間に電流を流す態様に比べて、電流の経路が径方向の外側になり、形成されるナゲット115の外径が大きくなるため、接合強度が高まる。
【0073】
図14(A)に示すアンビル121は、積層体2の第1面6(図13参照)を支持するアンビル当接面122を含む。アンビル当接面122は、十字形状の絶縁性の領域123と、絶縁性の領域123によって分割されて互いに孤立した4つの導電性の領域124とを含む。絶縁性の領域123の十字形状の中心は、プローブ12の軸線の延長線上にある。絶縁性の領域123は、導電性の領域124を複数に分割すれば十字形状でなくともよい。例えば、絶縁性の領域123は、中心から放射状に延びる複数の帯によって構成されてもよく、縦方向及び横方向に延在する複数の帯によって構成されてもよい。
【0074】
電流は、プローブ12又はショルダ部材13からアンビル111の導電性の領域114に流れる。十字形状の絶縁性の領域123を有するアンビル121を用いると、互いに孤立した4つの導電性の領域124に向かって電流が分割されて流れる。このため、図14(B)に示すように、4つの互いに孤立した島状のナゲット125が形成される。ナゲット125が島状に分散して形成されるため、接合部に係る応力を分散して受けることができる。また、絶縁性の領域123がない場合に比べて、電流密度が上がるため、第1部材3及び中間部材4が溶融しやすくなり、ナゲット125が生成されやすい。
【0075】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。第2部材と中間部材との接合は、スポット溶接以外の抵抗溶接でもよい。図4(B)に示すショルダ部材を適用した変形例に、図3(A)及び/又は(B)に示す絶縁部を適用してもよい。電流は、アンビルからショルダ部材に向かって流れてもよい。図10(D)のショルダ部材13とアンビル11との間に電流が流れるタイミングをプローブ12が第1部材3に到達する時または到達した後としてもよく、これにより、リング状のナゲット33を安定的に生成でき、接合強度を向上できる。
【符号の説明】
【0076】
1,51,101:接合装置
2 :積層体
3 :第1部材
4 :中間部材
5 :第2部材
6 :第1面
7 :第2面
11,11b,11c,11d,111,121:アンビル
12,41,52:プローブ
13,13a,44,61,64,68:ショルダ部材
14,54:駆動機構
15 :電源
16 :制御装置
17,112,122:アンビル当接面
20 :貫通孔
24,24a:ショルダ当接面
25,25a:凹部
113,123:絶縁性の領域
114,124:導電性の領域
図1
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