(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】環境形成装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2021120867
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】萩 慶佑
(72)【発明者】
【氏名】入谷 紗瑛
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-206661(JP,A)
【文献】特開2015-064250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0032489(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102439414(CN,A)
【文献】国際公開第2010/125748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01N 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機によって温調された空気を空調対象室内に吹き出すように配置されたファンと、
前記ファンから吹き出された空気の温度を検出する第一温度センサと、
前記空調対象室内において、空気の流れ方向における前記第一温度センサよりも下流側に配置された第二温度センサと、
前記ファンを制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの検出温度の少なくとも一方を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定し、前記所定の安定状態に達した後、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れている場合に、両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入るかどうかを確認しながら前記ファンの回転数を上げるように構成されている、環境形成装置。
【請求項2】
空調機によって温調された空気を空調対象室内に吹き出すように配置されたファンと、
前記空調対象室から排出される空気の温度を検出する第一温度センサと、
前記空調対象室内において、空気の流れ方向における前記第一温度センサよりも上流側に配置された第二温度センサと、
前記ファンを制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの検出温度の少なくとも一方を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定し、前記所定の安定状態に達した後、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れている場合に、両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入るかどうかを確認しながら前記ファンの回転数を上げるように構成されている、環境形成装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記ファンの回転数を所定回転数だけ上げても前記所定範囲から外れている場合にさらに所定回転数だけ回転数を上げる、請求項1又は2に記載の環境形成装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記ファンの回転数を上げる制御を行った場合に、前記回転数を上げた後の回転数を記憶し、
前記制御器は、次回の同じ条件の運転時において、前記ファンの回転数を前記記憶された回転数に設定する、請求項1から3の何れか1項に記載の環境形成装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記ファンの回転数を上げる制御を行った後、前記両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入っている場合に、前記回転数を上げた後の回転数を記憶し、
前記制御器は、次回の同じ条件の運転時において、前記ファンの回転数を前記記憶された回転数に設定する、請求項1から3の何れか1項に記載の環境形成装置。
【請求項6】
前記制御器は、所定の時間が経過しても前記所定の安定状態に達しない場合に、前記ファンの回転数を所定回転数だけ下げる、請求項1から5の何れか1項に記載の環境形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているように、空調対象室内の空気の温度を所定温度に調整するとともに、その温度を所定時間維持する環境形成装置が知られている。環境形成装置では、空調室にヒータ等の空調機及びファンが配置されており、ファンの作動によって、空調された空気を空調室と試験室等の空調対象室との間で循環させる。これにより、空調対象室内の空気の温度が設定された温度に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境形成装置においては、ファンを所定の回転数で作動させて、空調対象室と空調室との間で空気を循環させる構成となっている。ファンは、通常、空調対象室内に試料が配置されていない状態で室内温度が設定温度に安定するような回転数に設定されている。一方で、空調対象室内に試料が配置された実際の試験時においては、試料の配置状況(例えば試料の位置、種類、数)によって空調対象室内の温度が影響を受けることがあるため、ファンの回転数を調整可能に構成した方が良い場合もある。しかしながら、どの程度ファンの回転数を調整すればいいかについては、試料の配置状況によって異なるため、予め最適な回転数を設定するのは難しい。また、試料の配置状況の影響によって、空調対象室内に温度分布が生ずることもある。
【0005】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試料の配置状況に応じた回転数でファンを作動できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係る環境形成装置は、空調機によって温調された空気を空調対象室内に吹き出すように配置されたファンと、前記ファンから吹き出された空気の温度を検出する第一温度センサと、前記空調対象室内において、空気の流れ方向における前記第一温度センサよりも下流側に配置された第二温度センサと、前記ファンを制御する制御器と、を備える。前記制御器は、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの検出温度を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定し、前記所定の安定状態に達した後、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れている場合に、両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入るかどうかを確認しながら前記ファンの回転数を上げるように構成されている。
【0007】
また、本発明に係る環境形成装置は、空調機によって温調された空気を空調対象室内に吹き出すように配置されたファンと、前記空調対象室から排出される空気の温度を検出する第一温度センサと、前記空調対象室内において、空気の流れ方向における前記第一温度センサよりも上流側に配置された第二温度センサと、前記ファンを制御する制御器と、を備え、前記制御器は、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの検出温度の少なくとも一方を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定し、前記所定の安定状態に達した後、前記第一温度センサ及び前記第二温度センサの少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れている場合に、両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入るかどうかを確認しながら前記ファンの回転数を上げるように構成されている。
【0008】
これらの発明では、制御器が、第一温度センサ及び第二温度センサの検出温度の少なくとも一方を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定する。すなわち、第一温度センサ及び第二温度センサの検出温度の少なくとも一方が所定の温度範囲に落ち着いている安定状態にあるかどうかを判定する。そして、この安定状態において、制御器は、第一温度センサ及び第二温度センサの少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れていないかを判定する。すなわち、安定状態にあれば、第一温度センサ及び第二温度センサの検出温度は所定範囲に入ることが望ましいが、空調対象室内での試料の配置状況(例えば位置、種類又は数)によっては、安定状態にある場合においても、少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れることもあり得る。したがって、両温度センサの検出温度が所定範囲から外れていないかを確認し、少なくとも一方の検出温度が所定範囲から外れている場合には、制御器は、両温度センサの検出温度が所定温度範囲に入るかどうかを確認しながらファンの回転数を上げる制御を行う。これにより、空調対象室内の循環流量が増大するため、空調対象室内において空気の温度分布が生ずることを抑える効果が得られる。しかも、ファンの回転数を上げる制御を行うときに、両温度センサの検出温度が所定温度範囲に入るかどうかを確認しながらファンの回転数を上げるため、ファンの回転数を上げ過ぎることが防止され、空調対象室での試料の配置状況に応じた回転数に制御することが可能となる。
【0009】
前記制御器は、前記ファンの回転数を所定回転数だけ上げても前記所定範囲から外れている場合にさらに所定回転数だけ回転数を上げるように構成されてもよい。
【0010】
この態様では、両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入るかどうかを確認しつつ、両温度センサの検出温度が所定範囲に入るようにファンの回転数を所定回転数ずつ上げる。すなわち、ファンの回転数を所定回転数ずつ上げながら、空調対象室に配置された試料の配置状況に応じた回転数に設定することができる。しかも、ファンの回転数が上がり過ぎることをより確実に防止できる。
【0011】
前記制御器は、前記ファンの回転数を上げる制御を行った場合に、前記回転数を上げた後の回転数を記憶してもよい。この場合、前記制御器は、次回の同じ条件の運転時において、前記ファンの回転数を前記記憶された回転数に設定してもよい。
【0012】
この態様では、次回同じ条件の運転を行うときに、記録されたファン回転数を利用するため、ファン回転数の調整を省略することができる。
【0013】
前記制御器は、前記ファンの回転数を上げる制御を行った後、前記両温度センサの検出温度が前記所定範囲に入っている場合に、前記回転数を上げた後の回転数を記憶してもよい。この場合、前記制御器は、次回の同じ条件の運転時において、前記ファンの回転数を前記記憶された回転数に設定してもよい。
【0014】
この態様では、次回同じ条件の運転を行うときに、記録されたファン回転数を利用するため、ファン回転数の調整を省略することができる。
【0015】
前記制御器は、所定の時間が経過しても前記所定の安定状態に達しない場合に、前記ファンの回転数を所定回転数だけ下げるように構成されてもよい。
【0016】
この態様では、ファンの回転数が下げられるため、ファンモータの発熱による影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、試料の配置状況に応じた回転数でファンを作動できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る環境形成装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】前記環境形成装置の制御器の機能構成を説明するための図である。
【
図3】低温温度での動作時の制御フローを説明するための図である。
【
図4】設定温度として低温温度及び高温温度を設定した場合のタイムチャートを示す図である。
【
図5】その他の実施形態に係る環境形成装置の構成を概略的に示す図である。
【
図6】前記実施形態又は前記その他の実施形態の変形例に係る環境形成装置において低温温度で動作させる時の制御フローを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る環境形成装置10は、空調された空気を空調対象室12と空調室14との間で循環させながら、空調対象室12内の空気の温度を調整する装置であり、例えば、恒温槽、恒温恒湿槽等の環境試験装置として構成されている。なお、環境形成装置10は、環境試験装置に限られるものではなく、熱処理装置、オーブン等として構成されてもよい。
【0021】
環境形成装置10は、断熱パネルによって構成された装置本体16を有し、この装置本体16内には、仕切壁18によって空調対象室12と空調室14とが区画されている。空調対象室12は、試料を所定の温度環境に曝して、試料に所定温度の負荷を与えるための部屋であり、環境試験装置の場合には試験室とも称される。空調室14は、温度調整された空気を生成するための部屋である。
【0022】
仕切壁18には、複数の連通孔が設けられており、一方の連通孔は、空調された空気を空調対象室12に吹き出すための吹き出し孔21として機能し、他方の連通孔は、空調対象室12内の空気を空調室14に吸い込むための吸込孔22として機能する。なお、
図1においては、吹き出し孔21が仕切壁18の中央に形成されるとともに吸込孔22が図の上下に形成されている構成が示されているが、この構成に限られるものではない。例えば、吹き出し孔21が仕切壁18の中央に形成されるとともに、吸込孔22が左右の両端に形成されてもよく、あるいは、吹き出し孔21が仕切壁18の上端に配置され、吸込孔22が仕切壁18の下端に配置されていてもよい。要は、後述するファン29の作用によって、空気が空調対象室12と空調室14との間で循環するのに適した位置に配置されていればよい。
【0023】
空調室14には、空気を温調するための空調機24が配置されている。空調機24には、加熱器25と冷却器26と加湿器27とが含まれている。加熱器25は空気を加熱するように構成され、冷却器26は空気を冷却するように構成され、加湿器27は空気を加湿するよう構成されている。なお、空調機24の構成はこれに限られるものではない。例えば加湿器27を省略することもできる。
【0024】
吹き出し孔21には、空調対象室12内において気流を生成するためのファン29が設けられている。なお、ファン29は吹き出し孔21内に位置するように配置された構成に限るものではなく、空調室14内に配置されていてもよい。要は、空調された空気が吹き出し孔21を通して空調対象室12内に吹き出されるのであれば、ファン29はどのように配置されていてもよい。
【0025】
環境形成装置10には、第一温度センサ31と第二温度センサ32と制御器34とが設けられている。第一温度センサ31及び第二温度センサ32は何れも空調対象室12内に配置されており、空調対象室12内の空気の温度を検出する。ただし、第二温度センサ32は、空気の流れ方向において、第一温度センサ31よりも下流側に配置されている。すなわち、第二温度センサ32は、第一温度センサ31に比べてより吹き出し孔21から離れた位置、あるいは、空気の流れる方向に沿った方向に見た場合に第一温度センサ31に比べてより吸込孔22に近い位置に配置されている。例えば、第一温度センサ31は、空調対象室12内における吹き出し孔21の近傍に配置され、第二温度センサ32は、空調対象室12内において仕切壁18に対向する扉体36の近傍に配置されている。すなわち、第二温度センサ32は、空調対象室12の中心よりも空気の流れ方向における下流側または扉体36側に位置する。なお扉体36は、空調対象室12に形成された試料の取り出し口を開閉するように装置本体16に設けられた扉体36である。
【0026】
第一温度センサ31は、ファン29から吹き出された空気の温度を検出できるのであれば、必ずしも空調対象室12内に配置されている必要はない。第一温度センサ31は、吹き出し孔21の近傍に配置されていれば、空調対象室12内に配置されていてもよく、あるいは吹き出し孔21内に配置されていてもよく、あるいは空調室14内に配置されていてもよい。
【0027】
第二温度センサ32は、1つのセンサで構成されてもよく、あるいは複数のセンサで構成されてもよい。例えば第二温度センサ32が2つのセンサで構成される場合には、各センサは、取り出し口の左右端に配置されてもよく、取り出し口の上下端に配置されてもよい。
【0028】
第一温度センサ31及び第二温度センサ32は、検出温度を示す信号を出力する。第一温度センサ31及び第二温度センサ32から出力された信号は制御器34に入力される。制御器34は、CPU及びメモリデバイス等を含むコンピュータによって構成され、記憶されたプログラムを実行することにより、制御器34は、
図2に示すように、安定判定部34aと、計時部34bと、温度判定部34cと、ファン制御部34dと、回転数記憶部34eと、として機能する。
【0029】
安定判定部34aは、空調対象室12内の空気の温度が所定の安定状態にあるかどうかを判定するための機能部であり、第一温度センサ31の検出温度tc1及び第二温度センサ32の検出温度tc2の少なくとも一方を参照するとともに、これらの検出温度tc1,tc2の少なくとも一方に基づく空調対象室12内の空気の温度(代表温度)が、所定の温度範囲内にある状態が所定時間継続しているかどうかを判定する。例えば、安定判定部34aは、代表温度としての第一温度センサ31の検出温度tc1が所定の温度範囲(例えば設定温度のプラスマイナス2℃の範囲)にある状態が所定時間継続している場合に、所定の安定状態にあると判定する。所定時間は例えば数分程度の時間である。なお、安定判定部34aは、代表温度としての第二温度センサ32の検出温度tc2が所定の温度範囲内にある状態が所定時間継続している場合に、所定の安定状態にあると判定するようにしてもよい。
【0030】
代表温度として、第一温度センサ31の検出温度tc1と第二温度センサ32の検出温度tc2との平均値を採用してもよい。この場合、安定判定部34aは、前記平均値である代表温度が所定の温度範囲内にある状態が所定時間継続している場合に、所定の安定状態にあると判定するようにしてもよい。第一温度センサ31の検出温度tc1と第二温度センサ32の検出温度tc2との平均値は、両者を単純平均した値であってもよく、あるいは、第一温度センサ31又は第二温度センサ32の何れかに重みを持たせた加重平均した値であってもよい。また、第二温度センサ32が例えば2つのセンサで構成される場合には、2つのセンサの平均値を第二温度センサ32の検出温度tc2としてもよい。または、第一温度センサ31、第二温度センサ32のうちの1つの温度センサ及び第二温度センサ32のうちの他の1つの温度センサの値(つまり3つの値)を単純平均した値であってもよい。
【0031】
計時部34bは、所定の安定状態に到達しない状態が継続している時間を計測するように構成されている。すなわち、計時部34bは、空調対象室12の空気温度が設定温度になるように空調機24が作動開始したときから計時を開始し、所定の安定状態に到達するまで時間の計測を続ける。そして、計時部34bは、所定の時間だけ計時を行うとカウントアップの信号を出力する。
【0032】
温度判定部34cは、第一温度センサ31の検出温度tc1が所定の温度範囲(例えば設定温度のプラスマイナス2℃の範囲)内にあり、かつ第二温度センサ32の検出温度tc2が所定の温度範囲(例えば設定温度のプラスマイナス2℃の範囲)内にあるかどうかを判定するように構成されている。つまり、温度判定部34cは、空調対象室12内の空気の温度にばらつきが生じていないかどうかを判定する。
【0033】
ファン制御部34dは、ファン29を所定の回転数(基準回転数又は回転数記憶部34eで記憶された回転数)で作動させるように構成されている。また、ファン制御部34dは、温度判定部34cによる温度判定結果に応じてファン29の回転数を所定回転数だけ上げるように構成されている。また、ファン制御部34dは、計時部34bから出力されたカウントアップの信号を受信するとファン29の回転数を所定回転数だけ下げるように構成されている。なお、ファン制御部34dは、冷却器26を構成する冷凍機に負荷のかかるような回転数まではファン29の回転数を下げないように構成されていてもよい。
【0034】
回転数記憶部34eは、ファン29の回転数を所定回転数だけ上げた場合又は所定回転数だけ下げた場合に、変更された後の回転数を記憶するように構成されている。なお、回転数記憶部34eに記憶された回転数は、試験が終了すると制御器34から消去されてもよい。
【0035】
ここで、本実施形態に係る環境形成装置10の運転動作について、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
図4は、設定温度として低温温度TL及び高温温度THを設定した場合のタイムチャートの一例を示し、
図3は、低温温度TLでの動作時の制御フローの一例を示している。
【0036】
環境形成装置10の運転を行う際には、まず、試料を空調対象室12内に配置するとともに、設定温度及び試験時間を制御器34に入力する。試料は1つでもよく、あるいは2つ以上でもよい。設定温度は空調対象室12内の空気の目標温度であり、試験時間は空調対象室12が設定温度に維持される継続時間である。なお、設定温度として、例えば
図4に示すように、低温温度TL及び高温温度THの二条件を設定してもよく、この場合繰り返し数を設定してもよい。また、湿度も設定する場合には、設定湿度も入力する。
【0037】
図3に示すように、環境形成装置10の運転を開始する指令が制御器34に入力されると(ステップST10)、制御器34は空調機24を作動させる(ステップST11)。すなわち、入力された設定温度及び設定湿度に応じて、加熱器25、冷却器26及び加湿器27が所定の能力で作動するが、
図4の低温温度TLを設定温度とする場合には、例えば、冷却器26のみを作動させてもよく、あるいは冷却器26及び加熱器25を作動させてもよい。なお、湿度制御を行わない場合には、設定湿度の入力はされない。
【0038】
続いて、制御器34はファン29を作動させるが、このとき、回転数記憶部34eに、後述する変更後のファン回転数が記憶されているかを確認する(ステップST12)。運転開始直後であれば、変更後のファン回転数が回転数記憶部34eに記憶されていないため、この場合には、当初から記憶されている基準回転数RSでファン29を回転させる(ステップST13)。これにより、空調機24によって温調された空気が、仕切壁18の吹き出し孔21を通して空調室14から空調対象室12に吹き出される。そして、空調室14と空調対象室12との間で空気が循環し、空調対象室12内の空気の温度は次第に設定温度(低温温度TL)に近づく。
【0039】
続いて、制御器34(安定判定部34a)は、空調対象室12内の空気の温度が所定の安定状態にあるかどうかを判定する(ステップST14)。すなわち、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の少なくとも一方の検出温度に基づいて、空調対象室12内の空気の温度が設定温度(低温温度TL)に対して所定の範囲内にある状態が所定時間継続しているかどうかを判定する。そして、空調対象室12が所定の安定状態にあると判定されるとステップST15に移行する。
【0040】
ステップST15において、制御器34(温度判定部34c)は、第一温度センサ31の検出温度tc1が所定の温度範囲内にあり、かつ第二温度センサ32の検出温度tc2が所定の温度範囲内にあるかどうかを判定する。つまり、所定の安定状態にあることを前提として、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の検出温度tc1,tc2が所定範囲内にあるかどうかの監視をしている。そして、第一温度センサ31の検出温度tc1及び第二温度センサ32の検出温度tc2が何れも所定範囲内にあれば、制御器34(ファン制御部34d)は、ファン29の回転数を基準回転数RSに維持する(ステップST16)。
【0041】
そして、空調対象室12の温度が設定温度(低温温度TL)に到達してから、設定された試験時間が経過したか否かを判定し(ステップST17)、設定された試験時間が経過するまでステップST14~ST17を繰り返す。
【0042】
一方、所定の安定状態に入った後、第一温度センサ31の検出温度tc1及び第二温度センサ32の検出温度tc2の何れかが所定の温度範囲から外れている場合(ステップST15においてNO)、制御器34(ファン制御部34d)は、ファン29の回転数を基準回転数RSから所定回転数だけ上げて、第1回転数R1とする(ステップST18)。このとき、制御器34(回転数記憶部34e)は、変更後の回転数である第1回転数R1を記憶する(ステップST19)。
【0043】
ファン29の回転数が所定回転数だけ上げられるとステップST14に戻り、再度ステップST15において、制御器34(温度判定部34c)は、第一温度センサ31の検出温度tc1が所定の温度範囲内にあり、かつ第二温度センサ32の検出温度tc2が所定の温度範囲内にあるかどうかを判定する。そして、この判定がYESになるまで、ファン29の回転数は所定回転数ずつ上げられる。このとき、ファン29の回転数が上げられる度に変更後の回転数が記憶される(ステップST19)。なお、
図4においては、ファン29の回転数が2回上げられた場合、すなわち、第1回転数R1よりも所定回転数だけ上げられた第2回転数R2でファン29が作動する例を示している。
【0044】
そして、検出温度tc1及び検出温度tc2がそれぞれ所定の温度範囲に入ると、その回転数に維持される(ステップST16)。すなわち、検出温度tc1及び検出温度tc2の何れかが所定の温度範囲を外れているときには、両温度センサの検出温度tc1,tc2が所定の温度範囲に入るかどうかを確認しながらファン29の回転数を上げるようにしている。なお、本実施形態では、ステップST18において所定回転数だけファン29の回転数が上げられた後に、ステップST15において、制御器34(温度判定部34c)が検出温度tc1,tc2が所定の温度範囲内にあるか判定しているが、この制御手法に限られるものではない。この制御に代えて、あるいはこの制御とともに、ステップST18において所定回転数だけファン29の回転数が上げられる最中に、検出温度tc1及び検出温度tc2がそれぞれ所定の温度範囲にあるかどうかを判定してもよい。この判定は、ファン29の回転数が上げられる最中に常時行われてもよく、あるいは、ファン29の回転数を上げる最中の一時のみに行われてもよい。ファン29の回転数を上げる最中に検出温度tc1,tc2の監視をする場合、検出温度tc1及び検出温度tc2がそれぞれ所定の温度範囲に入った場合には、その時点でファン29の回転数を上げることが止められることになる。そして、ステップST19では、この停止したときのファン29の回転数が制御器34(回転数記憶部34e)に記憶される。
【0045】
空調機24及びファン29を作動させた後、設定温度(低温温度TL)に到達せず、所定の安定状態にならないこともあり得る(ステップST14においてNO)。例えば、発熱する試料が空調対象室12に配置された場合には、設定温度に到達しないこともある。このため、制御器34(計時部34b)は、空調対象室12の空気温度が設定温度になるように空調機24が作動開始したときから計時を開始しており、時間の計測を継続している。そして、所定の計測時間が経過する(カウントアップする)と(ステップST20においてYES)、ファン29の回転数を基準回転数RSから所定回転数だけ下げる(ステップST21)とともに、変更後の回転数を制御器34(回転数記憶部34e)に記憶する(ステップST22)。ファン29の回転数が下げられることにより、ファン29の発熱が低減されるため、空調対象室12内の温度が下がりやすくなる。ステップST20~ST22は、所定の安定状態になるまで繰り返し行われる。そして、所定の安定状態になると、ステップST14~ST17が実行される。なお、ファン29の回転数を下げる制御を行った場合、次回以降の同じ温度条件では、回転数を下げる前の回転数に調整することを禁止してもよい。
【0046】
空調対象室12の温度が設定温度(低温温度TL)に到達してから、設定された試験時間が経過したときには(ステップST17においてYES)、次の試験、すなわち高温温度THでの高温試験に移る。
【0047】
高温試験では、低温試験と同様に、ステップST11~ステップST23が行われる。ただし、設定温度として高温温度THが採用されるため、ステップST12における判定はNOとなる。つまり、高温試験としては初めての試験であり、高温試験に対するファン29の回転数は制御器34(回転数記憶部34e)に未だ記憶されていないため、基準回転数RSでファン29が作動する。なお、
図4の例では、高温試験において、ファン29の回転数が1回上げられて、第1回転数R1でファン29の作動が継続される場合を例示している。
【0048】
そして、設定された試験時間だけ高温試験が行われると、再度、低温試験に移る。このとき、二度目の低温試験であり、既に同じ温度条件の試験が行われているため、制御器34(回転数記憶部34e)にファン29の回転数(第2回転数R2)が記憶されている。このため、ステップST12からステップST24に移行し、記憶されている回転数(第2回転数R2)でファン29が作動する。このため、ステップST14及びST15の判定がYESになりやすい。低温試験及び高温試験が所定回数繰り返されて試験を終了すると、制御器34(回転数記憶部34e)に記憶されているファン回転数は消去されてもよい。この場合には、次回試験時の運転開始直後においては、ステップST12の判定がNOとなるため、当初から記憶されている基準回転数RSでファン29を回転させる(ステップST13)。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、制御器34が、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の検出温度を参照しつつ所定の安定状態に達したかどうかを判定する。すなわち、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の少なくとも一方の検出温度tc1,tc2が所定の温度範囲に落ち着いている安定状態にあるかどうかを判定する。そして、この安定状態において、制御器34は、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の少なくとも一方の検出温度tc1,tc2が所定範囲から外れていないかを判定する。すなわち、安定状態にあれば、第一温度センサ31及び第二温度センサ32の検出温度tc1,tc2は所定範囲に入ることが望ましいが、空調対象室12内での試料の配置状況(例えば位置、種類又は数)によっては、安定状態にある場合においても、少なくとも一方の検出温度tc1,tc2が所定範囲から外れることもあり得る。したがって、検出温度tc1,tc2が所定範囲から外れていないかを確認し、少なくとも一方の検出温度tc1,tc2が所定範囲から外れている場合には、制御器34は、両温度センサの検出温度tc1,tc2が所定温度範囲に入るかどうかを確認しながらファン29の回転数を上げる制御を行う。これにより、空調対象室12内の空気の循環流量が増大するため、空調対象室12内において空気の温度分布が生ずることを抑える効果が得られる。しかも、ファン29の回転数を上げる制御を行うときに、両温度センサの検出温度tc1,tc2が所定温度範囲に入るかどうかを確認しながらファン29の回転数を上げるため、ファン29の回転数を上げ過ぎることが防止され、空調対象室12での試料の配置状況に応じた回転数に制御することが可能となる。
【0050】
また本実施形態では、ファン29の回転数を上げる制御を行った場合に、回転数を上げた後の回転数を記録し、次回の同じ条件の運転時においては、ファン29の回転数が記憶された回転数に設定される。したがって、次回以降の運転においては、ファン29の回転数の調整を省略することが可能となる。
【0051】
また本実施形態では、所定の時間が経過しても安定状態に達しない場合に、ファン29の回転数を所定回転数だけ下げるため、ファンモータの発熱による影響を低減することができ、それによって安定状態に到達しやすくすることができる。
【0052】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、第二温度センサ32が、空気の流れ方向において、第一温度センサ31よりも下流側に配置されているが、これに限られない。
図5に示すように、第二温度センサ32が、空気の流れ方向において、第一温度センサ31よりも上流側に配置されていてもよい。ただし、この場合には、第一温度センサ31は、ファン29から吹き出された空気の温度を検出するのではなく、空調対象室12から排出される空気の温度を検出するように配置される。すなわち、第一温度センサ31は、吸込孔22の近傍に配置されていれば、空調対象室12内に配置されていてもよく、あるいは吸込孔22内に配置されていてもよく、あるいは空調室14内に配置されていてもよい。第二温度センサ32については、
図1の形態と同様の位置に配置される。この場合でも、
図3に示す制御動作と同じ制御動作が行われる。
【0053】
前記実施形態(
図1に示す形態及び
図5に示す形態)では、ファン29の回転数を所定回転数だけ上げた場合にその都度、変更後のファン29の回転数を制御器34(回転数記憶部34e)に記憶するようにしているが、これに限られるものではない。例えば、
図6に示すように、ファン29の回転数を上げる度に記憶するのではなく、最終的に設定された回転数を記憶するようにしてもよい。具体的に、ファン29の回転数を上げるステップST18の直後にある、変更後のファン回転数を記憶するステップST19を省略する一方で、ファン29の回転数を維持するステップST16の後にファン29の回転数を記憶するステップST31を設けてもよい。なお、ステップST31はステップST17の判定がYESとなったときに実行されてもよい。この場合でも、次回以降の同じ温度条件の試験において、記憶された回転数を利用できる。
【0054】
前記実施形態(
図1に示す形態及び
図5に示す形態)では、ファン29の回転数を変更したときには変更後の回転数を記憶しておき、次回の同じ温度条件の試験に利用している。しかしながら、この構成に限られるものではなく、ファン29の回転数を変更したときでも、変更後のファン回転数を記憶しないようにしてもよい。この場合、次回の同じ温度条件の場合にも、
図3に示すように、安定状態にある場合において、ファン29の回転数を徐々に上げる制御を行うことになる。
【0055】
前記実施形態(
図1に示す形態及び
図5に示す形態)では、安定状態に到達しない場合において、計時部34bによるカウントアップにより、ファン29の回転数を下げる制御を行っているが、この制御を省略してもよい。すなわち、安定状態に到達しない場合に空調機24の能力を変更する制御を行うことによって安定状態に到達するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 :環境形成装置
12 :空調対象室
14 :空調室
24 :空調機
29 :ファン
31 :第一温度センサ
32 :第二温度センサ
34 :制御器
tc1 :検出温度
tc2 :検出温度