(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】製造販売計画立案支援装置、及び製造販売計画立案支援方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20241031BHJP
B65G 61/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G06Q10/04
B65G61/00 416
(21)【出願番号】P 2021196818
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000233055
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 優美
(72)【発明者】
【氏名】小沢 康弘
【審査官】田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-267391(JP,A)
【文献】特開2009-075876(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094100(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/139086(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
B65G61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ及びメモリを有し、
その製造及び販売に温室効果ガスの排出を伴う製品の販売先及び当該販売先での需要量と、前記製品の製造及び販売のためのプロセスとを入力値とし、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記プロセスに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを出力値として算出する数値モデルを記憶する数値モデル記憶部と、
製品の販売先及び当該販売先での需要量に関する情報を取得する計画情報取得部と、
前記需要量に対応する製造量の前記製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報であるサプライチェーンパターンを複数作成するサプライチェーンパターン作成部と、
前記作成された各サプライチェーンパターンのそれぞれを、前記取得した販売先及び前記製造量と共に前記数値モデルに入力することにより、前記所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを算出するシミュレーション実行部と
を備える、製造販売計画立案支援装置。
【請求項2】
前記サプライチェーンパターン作成部は、前記取得した需要量以下の複数の製造量のパターンを作成し、作成した製造量のパターンに係る前記サプライチェーンパターンのそれぞれを前記数値モデルに入力することにより、前記最大の利益と、前記温室効果ガス排出量とを算出する、
請求項1に記載の製造販売計画立案支援装置。
【請求項3】
前記サプライチェーンパターン作成部は、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品の製造拠点又は当該製造拠点における前記製品の製造設備のパターンを複数作成する、
請求項1に記載の製造販売計画立案支援装置。
【請求項4】
前記サプライチェーンパターン作成部は、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品の製造に必要な材料の調達先のパターンを複数作成する、
請求項1に記載の製造販売計画立案支援装置。
【請求項5】
前記サプライチェーンパターン作成部は、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品又は当該製品の製造に必要な材料の輸送経路又は輸送手段のパターンを複数作成する、
請求項1に記載の製造販売計画立案支援装置。
【請求項6】
前記数値モデルが算出した最大の利益の情報を表示すると共に、前記数値モデルに入力された、前記製品の製造及び販売のためのプロセスの情報を表示する結果表示部を備える、請求項1に記載の製造販売計画立案支援装置。
【請求項7】
情報処理装置が、
その製造及び販売に温室効果ガスの排出を伴う製品の販売先及び当該販売先での需要量と、前記製品の製造及び販売のためのプロセスとを入力値とし、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記プロセスに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを出力値として算出する数値モデルを記憶する数値モデル記憶処理と、
製品の販売先及び当該販売先での需要量に関する情報を取得する計画情報取得処理と、
前記需要量に対応する製造量の前記製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報であるサプライチェーンパターンを複数作成するサプライチェーンパターン作成処理と、
前記作成された各サプライチェーンパターンのそれぞれを、前記取得した販売先及び前記製造量と共に前記数値モデルに入力することにより、前記所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを算出するシミュレーション実行処理と
を実行する、製造販売計画立案支援方法。
【請求項8】
前記情報処理装置が、
前記サプライチェーンパターン作成処理において、前記取得した需要量以下の複数の製造量のパターンを作成し、作成した製造量のパターンに係る前記サプライチェーンパターンのそれぞれを前記数値モデルに入力することにより、前記最大の利益と、前記温室効果ガス排出量とを算出する、
請求項7に記載の製造販売計画立案支援方法。
【請求項9】
前記情報処理装置が、
前記サプライチェーンパターン作成処理において、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品の製造拠点又は当該製造拠点における前記製品の製造設備のパターンを複数作成する、
請求項8に記載の製造販売計画立案支援方法。
【請求項10】
前記情報処理装置が、
前記サプライチェーンパターン作成処理において、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品の製造に必要な材料の調達先のパターンを複数作成する、
請求項7に記載の製造販売計画立案支援方法。
【請求項11】
前記情報処理装置が、
前記サプライチェーンパターン作成処理において、前記サプライチェーンパターンとして、前記製品又は当該製品の製造に必要な材料の輸送経路又は輸送手段のパターンを複数作成する、
請求項7に記載の製造販売計画立案支援
方法。
【請求項12】
前記情報処理装置が、
前記数値モデルが算出した最大の利益の情報を表示すると共に、前記数値モデルに入力された、前記製品の製造及び販売のためのプロセスの情報を表示する結果表示処理を実行する、
請求項7に記載の製造販売計画立案支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造販売計画立案支援装置、及び製造販売計画立案支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サプライチェーンのグローバル化が進んでいる今日では、各国の事情を考慮した効率的な製品の製造販売計画を綿密に立案することが重要となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、販売計画の実現可能性を確認することを目的として、販売予定時期及び販売担当者に紐付く商品及び販売予定数を販売予定データから抽出し、当該販売担当者に紐付く商品、売上数及び売上時期を売上実績データから抽出し、抽出した商品の予定在庫数を、現在在庫データ、発注データ及び製造指示データを参照し且つ抽出した販売予定数を用いて計算し、抽出した商品の当該販売予定時期の次の販売予定時期における予定在庫数を、発注データ、製造指示データ及び販売予定データを参照し且つ計算した予定在庫数を用いて計算し、抽出した商品の当該販売予定時期における販売予定金額を、単価データを参照し且つ抽出した販売予定数を用いて計算するとともに、抽出した商品の当該次の販売予定時期における販売予定金額を販売予定データおよび単価データを参照して計算し、結果を出力する、といった販売計画支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、今日ではこのようなサプライチェーンにおける事業活動が、環境に及ぼす影響の大きさが指摘されている。特に、事業活動によって生じる温室効果ガスの排出の影響が指摘されている。いわゆる持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)の実現のためには、製品の製造販売計画の立案の時点で、温室効果ガスの排出の現実的かつ効果的な抑制を行っていくための仕組みが必要である。
【0006】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、温室効果ガスの排出量の制限を遵守可能な製造販売計画の立案を支援することが可能な製造販売計画立案支援装置、及び製造販売計画立案支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するための本発明の一つは、プロセッサ及びメモリを有し、その製造及び販売に温室効果ガスの排出を伴う製品の販売先及び当該販売先での需要量と、前記製品の製造及び販売のためのプロセスとを入力値とし、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記プロセスに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを出力値として算出する数値モデルを記憶する数値モデル記憶部と、製品の販売先及び当該販売先での需要量に関する情報を取得する計画情報取得部と、前記需要量に対応する製造量の前記製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報であるサプライチェーンパターンを複数作成するサプライチェーンパターン作成部と、前記作成された各サプライチェーンパターンのそれぞれを、前記取得した販売先及び前記製造量と共に前記数値モデルに入力することにより、前記所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを算出するシミュレーション実行部とを備える、製造販売計画立案支援装置、とする。
【0008】
前記の課題を解決するための本発明の他の一つは、情報処理装置が、その製造及び販売に温室効果ガスの排出を伴う製品の販売先及び当該販売先での需要量と、前記製品の製造及び販売のためのプロセスとを入力値とし、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記プロセスに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを出力値として算出する数値モデルを記憶する数値モデル記憶処理と、製品の販売先及び当該販売先での需要量に関する情報を取得する計画情報取得処理と、前記需要量に対応する製造量の前記製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報であるサプライチェーンパターンを複数作成するサプライチェーンパターン作成処理と、前記作成された各サプライチェーンパターンのそれぞれを、前記取得した販売先及び前記製造量と共に前記数値モデルに入力することにより、前記所定の上限以下の温室効果ガスの排出で前記各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益と、前記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを算出するシミュレーション実行処理とを実行する、製造販売計画立案支援方法、とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温室効果ガスの排出量の制限を遵守可能な製造販売計画の立案を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る製造販売計画立案支援装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】調達マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図3】製造能力マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図4】BOMマスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図5】拠点コストマスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図6】製造拠点間取引マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図7】輸送マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図8】関税マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図9】為替マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図10】販売計画マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図11】温室効果ガス排出量上限マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図12】国拠点マスタのデータ構成の一例を示す図である。
【
図13】製造販売計画立案支援装置のハードウェア構成の一例を説明する図である。
【
図14】製造販売計画立案支援処理の一例を説明するフロー図である。
【
図15】登録される製造能力マスタの一例を示す図である。
【
図16】登録される販売計画マスタの一例を示す図である。
【
図18】シミュレーション実行画面の一例を示す図である。
【
図19】シミュレーション実行処理の詳細を説明するフロー図である。
【
図20】サプライチェーンパターンの一例を説明する図である。
【
図21】サプライチェーンモデルの構成の一例を説明する図である。
【
図22】シミュレーション結果DBの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る製造販売計画立案支援装置10の構成の一例を示す図である。製造販売計画立案支援装置10は、材料の調達、材料を用いた製品の製造、及び製品の販売を行うサプライチェーンにおける製品の製造販売計画の立案を支援するものであり、各プロセスに基づく製品の製造販売により発生する温室効果ガスの総量を所定の上限内に抑えるような製造販売計画をユーザに提案する。
【0012】
具体的には、製造販売計画立案支援装置10は、製造予定の製品の販売先での需要等の情報(以下、計画情報という)の入力をユーザから受け付けて、製品の製造販売による温室効果ガスの排出量が所定の上限値以下となり、かつ製造販売による利益額がなるべく大きくなるような製造販売計画の情報を出力する数値モデルである利益最大化モデル5(詳細は後述)を作成し記憶する。そして、製造販売計画立案支援装置10は、利益最大化モデル5を作成するために用いられる各データベース(マスタ)を記憶する。
【0013】
すなわち、製造販売計画立案支援装置10は、製品の調達先に関する情報として、製品の材料の調達先の拠点及び取扱品目等の情報を記憶する調達マスタ110を備える。
【0014】
また、製造販売計画立案支援装置10は、製品の製造プロセスに関する情報として、各製造拠点の製品(又は材料(中間品))の製造能力の情報を記憶する製造能力マスタ210、各製品の材料構成の情報を記憶するBOMマスタ220、及び、各製造拠点で生じる製造コストの情報を記憶する拠点コストマスタ230を備える。
【0015】
また、製造販売計画立案支援装置10は、各拠点(調達先、製造拠点、販売拠点)における材料又は製品の輸送に関する情報として、製造拠点間での製品の取引価格(内部取引価格)に関する情報を記憶する製造拠点間取引マスタ310、製造拠点間の材料又は製品の輸送費に関する情報を記憶する輸送マスタ320、拠点間に係る国の間での輸出入に係る関税の情報を記憶する関税マスタ330、及び、拠点(国)の間の為替レートに関する情報を記憶する為替マスタ340を備える。
【0016】
また、製造販売計画立案支援装置10は、計画情報を記憶する販売計画マスタ410を備える。
【0017】
また、製造販売計画立案支援装置10は、国又は地域ごとに設定されている、製造販売のプロセスにおいて排出可能な温室効果ガスの総量の情報を記憶する温室効果ガス排出量上限マスタ510と、各拠点と所属国との対応関係を記憶する国拠点マスタ520とを備える。
【0018】
また、製造販売計画立案支援装置10は、利益最大化モデル5の実行結果を記憶するシミュレーション結果DB610を備える。
次に、各マスタのデータ構成を説明する。
【0019】
(調達マスタ)
図2は、調達マスタ110のデータ構成の一例を示す図である。調達マスタ110は、製品の材料(中間品)の品目の情報が設定される調達品目111、その材料が製造される製造拠点の情報が設定される製造拠点112、その材料の調達先(供給元)の情報が設定される調達先113、その材料の購買単価が設定される購買単価114、当該調達先による材料の供給可能量が設定される供給可能量115、及び、その材料の単位数当たりの製造により生じる温室効果ガス排出量が設定される温室効果ガス排出量116の各データ項目を有する。なお、利益最大化モデル5において、購買単価と、後述するBOMマスタ220の親品目、子品目、及び子品目使用数量とにより材料の購買額の合計が算出される。
【0020】
なお、ある材料(中間品)又は製品を製造する場合は、複数の材料パターンを用いて当該材料又は製品を製造可能な場合がある。
【0021】
(製造能力マスタ)
図3は、製造能力マスタ210のデータ構成の一例を示す図である。製造能力マスタ210は、製品又は材料(ここでは中間品)の製造拠点(工場等)の情報が設定される製造拠点211、その製品又は材料を製造するための設備の情報が設定される設備名称212、その製品又は材料の品目の情報が設定される製造品目213、前記設備の稼働可能日数の情報が設定される稼働可能日数214、その製品又は材料の単位数当たりの製造所要時間が設定される所要時間215、その製品又は材料の製造量の上限値が設定される製造上限値216、及び、その製品又は材料の単位数当たりの製造により生じる温室効果ガス排出量が設定される温室効果ガス排出量217の各データ項目を有する。
【0022】
なお、設備名称212には、設備の名称だけでなく、設備の種類又は属性(例えば、再生可能エネルギーにより稼動する設備であるか否か)の情報が設定される。また、同一の製造拠点においては、同一の材料又は製品を製造可能な複数種類の設備が存在する場合がある。また、同一の材料又は製品を製造可能な設備が複数の製造拠点に存在する場合もある。
【0023】
(BOMマスタ)
図4は、BOMマスタ220のデータ構成の一例を示す図である。BOMマスタ220は、製品又は材料(ここでは中間品)の製造拠点の情報が設定される製造拠点221、その製品又は材料の品目(以下、親品目という)の情報が設定される親品目222、親品目に係る製品又は材料を構成する材料の品目(以下、子品目という)の情報が設定される子品目223、親品目に係る製品又は材料の輸入にかかる関税の識別コード(関税コード)が設定される関税コード224、子品目の材料の使用数が設定される子品目使用数量225、及び、親品目に係る製品又は材料の製造に係る変動費が設定される変動費226の各データ項目を有する。なお、親品目222、子品目223、及び子品目使用数量225は製品を構成する材料の品目及び数量を特定するために用いられる。なお、本実施形態では、工場が同一である場合には各製品を構成する材料の組み合わせは同じであるものとする。一方、各材料には複数の調達先が考えられるものとする。
【0024】
(拠点コストマスタ)
図5は、拠点コストマスタ230のデータ構成の一例を示す図である。拠点コストマスタは、製造拠点の情報が設定される製造拠点231、その製造拠点の管理維持に要する費用である固定費の情報が設定される固定費232、及び、配賦温室効果ガス排出量233の各データ項目を有する。なお、配賦温室効果ガス排出量233には、製造拠点(工場)で総量として管理する全温室効果ガス排出量(以下、配賦温室効果ガス排出量という)が設定される。利益最大化モデル5は、配賦温室効果ガス排出量を製造拠点(工場)の総生産時間に対し製品の単位当たりの製造時間で案分した量と、製造能力マスタ210の温室効果ガス排出量217が示す単位当たりの温室効果ガス排出量とを組み合わせることで、単位数(例えば1個)の製品に対する温室効果ガス排出量を算出することができる。
【0025】
(製造拠点間取引マスタ)
図6は、製造拠点間取引マスタ310のデータ構成の一例を示す図である。製造拠点間取引マスタ310は、製品又は材料の品目の情報が設定される品目311、その製品又は材料の発送元の製造拠点の情報が設定される発送元拠点312、その製品又は材料の着荷先の製造拠点の情報が設定される着荷先拠点313、及び、その製品又は材料の内部取引単価(後述)が設定される内部取引単価314、の各データ項目を有する。なお、内部取引単価314は、利益最大化モデル5において、後述する関税額を算出するために用いられる。
【0026】
(輸送マスタ)
図7は、輸送マスタ320のデータ構成の一例を示す図である。輸送マスタ320は、製品又は材料の品目の情報が設定される品目321、その製品又は材料の発送元の製造拠点の情報が設定される発送元拠点322、その製品又は材料の着荷先の製造拠点の情報が設定される着荷先拠点323、その製品又は材料の輸送手段の情報が設定される輸送手段324、その製品又は材料の輸送単価(輸送費の単価)が設定される輸送単価325、及び、その製品又は材料の単位数量当たりの製造によって生じる温室効果ガス排出量が設定される温室効果ガス排出量326の各データ項目を有する。なお、利益最大化モデル5においては、輸送単価と、輸送する材料又は製品の数量とにより輸送費が算出される。また、温室効果ガス排出量326には、輸送手段に応じて異なる排出量が設定され、例えば、輸送手段が自動車であれば、より大きい値が、輸送手段が鉄道であればより小さい値が設定されることになる。
【0027】
(関税マスタ)
図8は、関税マスタ330のデータ構成の一例を示す図である。関税マスタ330は、製品又は材料の輸出入に係る関税コードが設定される関税コード331、その輸出入に係る輸入国の名称が設定される輸入国名332、その輸出入に係る輸出国の名称が設定される輸出国名333、その輸出入に係る関税の関税率(輸入税率)が設定される関税率334、及び、その輸出入に係る関税の輸出税率が設定される輸出税率335の各データ項目を有する。
【0028】
(為替マスタ)
図9は、為替マスタ340のデータ構成の一例を示す図である。為替マスタ340は、各通貨の情報が設定される通貨341、及び、通貨間の為替レートの情報が設定される為替レート342の各データ項目を有する。
【0029】
(販売計画マスタ)
図10は、販売計画マスタ410のデータ構成の一例を示す図である。販売計画マスタ410は、製造予定の製品の品目の情報が設定される品目411、その製品の販売拠点の情報が設定される販売拠点412、その製品の販売拠点を基点とした販売先の情報が設定される販売先413、その製品の販売先での需要量が設定される需要量414、その製品の販売価格が設定される販売価格415、その製品に関して予め指定される製造拠点の情報が設定される指定製造拠点416、その製品に対してかかる関税の基準となる価格(内部取引売価)が設定される内部取引売価417、及び、その製品の必須の(最低限の)供給量(以下、必須供給量という)が設定される必須供給量418の各データ項目を有する。なお、指定製造拠点416及び必須供給量418への情報の設定は任意である。
【0030】
(温室効果ガス排出量上限マスタ)
図11は、温室効果ガス排出量上限マスタ510のデータ構成の一例を示す図である。温室効果ガス排出量上限マスタ510は、国(地域)名が設定される国511、及びその国(地域)における温室効果ガスの排出量の上限値が設定される温室効果ガス排出量上限値512の各データ項目を有する。なお、温室効果ガスの排出量の上限は、例えば、各事業者(製造業者、販売業者、管理業者等)が設定した上限である。
【0031】
(国拠点マスタ)
図12は、国拠点マスタ520のデータ構成の一例を示す図である。国拠点マスタ520は、国(地域)名が設定される国521、及び、その国に存在する調達先、製造拠点、及び販売拠点のリストが設定される拠点522の各データ項目を有する。
【0032】
次に、
図1に示すように、製造販売計画立案支援装置10は、利益最大化モデル記憶部11、計画情報取得部13、サプライチェーンモデル作成部15、サプライチェーンパターン作成部17、シミュレーション実行部19、及び結果表示部21の各機能部(プログラム)を備える。
【0033】
利益最大化モデル記憶部11は、利益最大化モデル5を記憶する。利益最大化モデル5は、製造及び販売に温室効果ガスの排出を伴う製品の販売先及びその販売先での需要量(販売計画マスタ410)と、その製品の製造及び販売のためのプロセス(その他の各マスタ)とを入力値とし、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で上記プロセスの製造販売により得られる最大の利益と、上記プロセスにより排出される温室効果ガス排出量とを出力値とする。
【0034】
計画情報取得部13は、ユーザ入力に基づき、製品の販売先及び当該販売先での需要量に関する情報(計画情報ないし販売計画マスタ410)を取得する。なお、計画情報取得部13は、ユーザ入力ではなく他の情報処理装置から自動的に計画情報ないし販売計画マスタ410を取得してもよい。
【0035】
サプライチェーンモデル作成部15は、材料の調達先、製品又は中間品の製造拠点、製造拠点内の製造設備、及び、製品の販売拠点をノードとしこれらのノード間の結合情報(輸送手段)をリンクとした各ノード間の関係性の情報であるサプライチェーンモデルを作成する。利益最大化モデル5は、このサプライチェーンモデルを前提としたモデルである。
【0036】
サプライチェーンパターン作成部17は、需要量に対応する製造量の製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報であるサプライチェーンパターンを複数作成する。
【0037】
シミュレーション実行部19は、サプライチェーンパターン作成部17で作成された各サプライチェーンパターンのそれぞれを、計画情報取得部13で取得した販売先及び上記製造量と共に利益最大化モデル5に入力することにより、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で上記各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益を算出し、また、排出される温室効果ガス排出量を算出する。
【0038】
結果表示部21は、利益最大化モデル5が算出した最大の利益の情報を表示すると共に、利益最大化モデル5に入力された製品の製造及び販売のためのプロセスの情報(使用した各マスタを特定する情報)を表示する。
【0039】
次に、
図13は、製造販売計画立案支援装置10のハードウェア構成の一例を説明する図である。製造販売計画立案支援装置10は、CPU(Central Processing Unit)などの処理装置31(プロセッサ)と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置32(メモリ)と、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置33と、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなる入力装置34と、モニタ(ディスプレイ)等からなる、画面表示を行う出力装置35とを備える。
【0040】
製造販売計画立案支援装置10の機能は、製造販売計画立案支援装置10のハードウェアによって、もしくは、製造販売計画立案支援装置10の処理装置31が、主記憶装置32又は補助記憶装置33に記憶されている各プログラムを読み出して実行することにより実現される。また、これらのプログラムは、例えば、二次記憶デバイスや不揮発性半導体メモリ、ハードディスクドライブ、SSDなどの記憶デバイス、又は、ICカード、SDカード、DVDなどの、情報処理装置で読み取り可能な記録媒体に格納される。なお、製造販売計画立案支援装置10は、その全部または一部が、例えば、クラウドシステムによって提供される仮想サーバのように、仮想化技術やプロセス空間分離技術等を用いて提供される仮想的な情報処理資源を用いて実現されるものであってもよい。また、各情報処理装置によって提供される機能の全部または一部は、例えば、クラウドシステムがAPI(Application Programming Interface)等を介して提供するサービスによって実現してもよい。
次に、製造販売計画立案支援装置10が行う処理について説明する。
【0041】
<製造販売計画立案支援処理>
図14は、ユーザが実施する業務である製品の製造販売計画を支援するための製造販売計画立案支援処理の一例を説明するフロー図である。製造販売計画立案支援処理は、例えば、ユーザから製造販売計画立案支援装置10に対して所定の入力があった場合に開始される。
【0042】
まず、製造販売計画立案支援装置10のシミュレーション実行部19は、サプライチェーンモデルの構築に必要なマスタを記憶する(s11)。
【0043】
例えば、シミュレーション実行部19は、ユーザからの起動指示に基づき所定の編集アプリケーションを起動する。当該編集アプリケーションは、調達マスタ110、製造能力マスタ210、BOMマスタ220、拠点コストマスタ230、製造拠点間取引マスタ310、輸送マスタ320、関税マスタ330、及び温室効果ガス排出量上限マスタ510の各マスタのデータ値の入力をユーザから受け付け、それぞれのマスタのデータファイルを作成し記憶する。なお、必要に応じて、為替マスタ340及び国拠点マスタ520も作成される。
【0044】
なお、ここでユーザは、温室効果ガス排出量の制限がない場合にどの程度の利益が生じるかを確認するために、温室効果ガス排出量上限マスタ510の温室効果ガス排出量上限値512のデータ値を「上限無し」(例えば充分に大きな値)に設定したものとする。
【0045】
そして、シミュレーション実行部19は、s11で作成したマスタの選択をユーザから受け付け、選択されたマスタを登録する(s13)。例えば、シミュレーション実行部19は、所定の入力画面を表示し、ユーザから、シミュレーションの実行に用いるマスタのデータファイルの登録を受け付ける。
【0046】
さらに、計画情報取得部13は、ユーザが計画している販売計画(計画情報)を登録する(s15)。例えば、計画情報取得部13は、ユーザの起動指示により所定の編集アプリケーションを起動する。当該編集アプリケーションは、製造予定の各製品の品目、各製品の販売拠点、各製品の販売先、各製品の販売先での需要量(すなわち製品の製造予定量)、各製品の販売価格、各製品の指定製造拠点(任意)、各製品の内部取引売価、及び各製品の必須供給量(任意)の各データ値の入力をユーザから受け付け、入力されたデータ値を有する販売計画マスタ410のデータファイルを作成し記憶する。そして、計画情報取得部13は、上記編集アプリケーションの終了後、所定の入力画面(後述)を表示し、ユーザから、編集アプリケーションで保存したデータファイルの登録を受け付ける。
【0047】
ここで、
図15は、登録される製造能力マスタ210の一例を示す図である。この例では、各製造拠点に異なる数又は異なる種類の製造設備が設けられている。また、これらの製造設備の一部は複数種類の製品を製造することができる。また、同一の製品の一部は異なる製造設備を用いても製造することができる。
【0048】
また、
図16は、登録される販売計画マスタ410の一例を示す図である。この例では、複数の販売拠点への複数の製品の販売計画がなされ、一部の製品には必須供給量が設定されている。また、一部の製品には複数の製造拠点が設定されている。
【0049】
(入力画面)
さらに、
図17は、入力画面の一例を示す図である。この入力画面800は、各マスタのデータファイルの指定を受け付けるファイル取り込み欄801と、各マスタのデータ番号の指定を受け付けるマスタ番号登録欄802と、ファイル取り込み欄801により指定されたマスタ(データファイル)の登録を確定する登録欄803とを有する。
【0050】
次に、
図14に示すように製造販売計画立案支援装置10は、s11~s15で登録した各マスタに基づき利益最大化モデル5を作成しこれを実行することで各出力値を得る、シミュレーション実行処理を実行する(s17)。シミュレーション実行処理の詳細は後述する。
【0051】
なお、出力値は、後述するように、例えば、販売拠点(及び製造拠点)ごとの各製品の売り上げ及び利益額、並びに、各国での温室効果ガス排出量等である。また、製品の調達、製造、及び販売の各プロセスに複数のパターン(サプライチェーンパターン)があり得る場合は、そのそれぞれのサプライチェーンパターンに対して利益最大化モデル5が実行され、最も利益額の高いサプライチェーンパターンの場合の出力値のみが出力される。これらの出力値は、シミュレーション結果DB510に出力される。また、利益最大化モデル5の実行結果は、次述するシミュレーション実行画面にも表示される。
【0052】
(シミュレーション実行画面)
図18は、シミュレーション実行画面の一例を示す図である。シミュレーション実行画面820は、各マスタの登録を受け付けると共にその登録された各マスタのデータ番号が表示されるマスタ表示欄821と、マスタ表示欄821に表示されているマスタによる利益最大化モデル5の実行の名称が設定される名称設定欄822と、利益最大化モデル5の実行を開始するための実行開始欄823と、各実行結果の情報が表示される実行結果欄824とを備える。
【0053】
利益最大化モデル5に使用された各マスタの情報(マスタのデータ番号)を表示するマスタ表示欄821により、ユーザは、利益が最大化される場合の製品の製造及び販売のためのプロセスの内容を確認することができる。
【0054】
実行結果欄824は、各実行に関して登録されているマスタのデータ番号の一覧が表示されるマスタ一覧825、及び、各実行の結果の情報が表示される結果表示欄826等を有する。結果表示欄826がユーザにより指定されると、モデル実行の内容(例えば、シミュレーション結果DB610の内容)が表示される。
【0055】
次に、
図14に示すように、サプライチェーンパターン作成部17は、s17で出力した各国における温室効果ガス排出量と、温室効果ガス排出量上限マスタ510に設定した各国における温室効果ガス排出量の上限値とを比較する(s19)。
【0056】
利益最大化モデル5が出力した温室効果ガス排出量が温室効果ガス排出量上限マスタ510に設定した温室効果ガス排出量の上限値を超える国がある場合は(s19:YES)、サプライチェーンパターン作成部17は、s21の処理を実行し、出力した温室効果ガス排出量が温室効果ガス排出量上限マスタ510に設定した温室効果ガス排出量の上限値を超える国がない場合は(s19:NO)、サプライチェーンパターン作成部17は、s17での出力値を結果情報として記憶してs25の処理を実行する。
【0057】
s21においてシミュレーション実行部19は、温室効果ガス排出量の上限の再設定登録をユーザから受け付ける。例えば、シミュレーション実行部19は、ユーザからの起動指示に基づき所定の編集アプリケーションを起動する。当該編集アプリケーションは、温室効果ガス排出量上限マスタ510における温室効果ガス排出量の上限値の入力をユーザから受け付ける。
【0058】
そして、シミュレーション実行部19は、s21で設定された温室効果ガス排出量の上限値に基づき、s17と同様に、利益最大化モデル5を実行するシミュレーション実行処理を実行する(s23)。
【0059】
s25においてサプライチェーンパターン作成部17は、シミュレーション実行処理により最後に出力された出力値を所定の結果表示画面に表示する。ユーザは、この結果表示画面に表示された内容に基づいて、製品の製造及び販売等の業務を実施する。以上で製造販売計画立案支援処理は終了する。
次に、シミュレーション実行処理の詳細を説明する。
【0060】
<シミュレーション実行処理>
図19は、シミュレーション実行処理の詳細を説明するフロー図である。
【0061】
サプライチェーンモデル作成部15は、s13、s15で登録した各マスタを読み込む(s51、s53)。
【0062】
サプライチェーンモデル作成部15は、s51、s53で読み込んだデータに基づき、各製品について、材料の調達先、材料(中間品)又は製品の製造拠点、製造拠点内の設備、及び、製品の販売拠点をノードとしこれらのノード間の結合情報(輸送手段)をリンクとした各ノード間の関係性の情報(サプライチェーンモデル)を作成する(s55)。
【0063】
例えば、サプライチェーンモデル作成部15は、国拠点マスタ520と、調達マスタ110の製造拠点112及び調達先113と、製造能力マスタ210の製造拠点211及び設備名称212とに基づき、材料の調達、材料(中間品)又は製品の製造、及び製品の販売に係る一連のプロセスの流れを特定することで、サプライチェーンモデルを生成する。
【0064】
そして、サプライチェーンモデル作成部15は、製品の製造に関する制約(例えば、サプライチェーンモデルに関する制約)である調達可能品、調達可能量、設備製造可能品、設備製造可能時間、設備製造上限値、出荷可能先、及び国別温室効果ガス排出量上限値の各情報を制約情報として作成する(s57)。
【0065】
例えば、サプライチェーンモデル作成部15は、調達可能品として調達マスタ110の調達品目111、調達可能量として調達マスタ110の供給可能量115、設備製造可能品として製造能力マスタ210の製造品目213、設備製造可能時間として製造能力マスタ210の稼働可能日数214及び所要時間215、設備製造上限値として製造能力マスタ210の製造上限値216、出荷可能先として製造拠点間取引マスタ310の発送元拠点312及び着荷先拠点313、及び、国別温室効果ガス排出量上限値として温室効果ガス排出量上限マスタ510の温室効果ガス排出量上限値512の各レコードの情報に基づき、制約情報を作成する。
【0066】
なお、国別温室効果ガス排出量上限値は、製品の製造及び輸送等に関する一連のプロセスによって生じる温室効果ガスの排出量の上限値(国(地域)ごとの上限値)である。例えば、ある国において、(1)調達先での材料の製造によって生じる温室効果ガス排出量、(2)製品の製造によって生じる温室効果ガス排出量(製品の製造時に発生する温室効果ガス発生量、又は設備を動かすための電気量等に対応)、(3)製品又は材料の輸送によって生じる温室効果ガス排出量(輸送時に発生する温室効果ガス発生量)の合計値((1)+(2)+(3))が、温室効果ガス排出量の上限値以下でなければならない。
【0067】
続いて、サプライチェーンパターン作成部17は、サプライチェーンパターンを作成する(s59)。
【0068】
すなわち、サプライチェーンパターン作成部17は、s53で読み込んだ計画情報における品目411、販売拠点412、及び販売先413の各組み合わせを作成し、その各組み合わせに対して、需要量(製造量又は販売量)を0(最小値)からs13で読み込んだ需要量414の値(最大値)まで変化させた各場合の、調達先、製造拠点、製造設備、輸送経路、及び輸送手段の全パターンをそれぞれ作成する。
【0069】
具体的には、サプライチェーンパターン作成部17は、サプライチェーンモデル及び製造能力マスタ210等を参照することにより、異なる製造拠点又は製造設備により同じ品目の製品又は中間品の製造が可能な場合は、それらの製造拠点及び製造設備を用いた場合のそれぞれについて、サプライチェーンパターンを作成する。なお、この場合、設定された製造量の一部分のみを他の製造拠点又は製造設備に割り当てるようにしてもよい。
【0070】
また、サプライチェーンパターン作成部17は、サプライチェーンモデル及び調達マスタ110等を参照することにより、複数の異なる調達先から同じ品目の材料の調達が可能な場合は、それらの調達先から材料を調達した場合のそれぞれについて、サプライチェーンパターンを作成する。なお、この場合、設定された調達量の一部分のみを他の調達先に割り当てるようにしてもよい。
【0071】
また、サプライチェーンパターン作成部17は、サプライチェーンモデル及び輸送マスタ300等を参照することにより、複数の異なる輸送経路(調達先-製造拠点-販売先までの輸送経路)又は輸送手段を用いて材料又は製品を輸送可能な場合には、それらの輸送経路及び輸送手段を用いた場合のそれぞれについて、サプライチェーンパターンを作成する。なお、この場合、設定された製造量の一部分のみを他の輸送経路又は輸送手段に割り当てるようにしてもよい。
【0072】
ここで、
図20は、サプライチェーンパターンの一例を説明する図である。同図に示すように、品目Aの販売先がA国、J国、E地域であり、それぞれの需要量が100t、200t、150tであり、販売先がE地域である場合の製造拠点には制約がない場合(符号840)、これに対応するサプライチェーンパターン860は、販売先がE地域である場合の製造拠点がJ国のみ(需要量150t)である「パターンa」と、販売先がE地域である場合の製造拠点がJ国及びC国(需要量はそれぞれ149t及び1t)である「パターンb」と、販売先がE地域である場合の製造拠点がJ国及びC国(需要量はそれぞれ50t、150t)である「パターンc」とを含む。なお、それぞれのサプライチェーンパターンについて、販売国ごとの製品の製造に係る温室効果排出量、及び各排出国における温室効果ガス排出量が算出される。
【0073】
次に、
図19のs61に示すように、シミュレーション実行部19は、s55で作成したサプライチェーンモデル、及びs57で作成した制約情報(制約条件)が設定された利益最大化モデル5を作成する。そして、シミュレーション実行部19は、s59で作成したサプライチェーンパターンの一つを選択し、選択したサプライチェーンパターンを、作成した利益最大化モデル5に入力し、利益最大化モデル5を実行する。利益最大化モデル5は、各サプライチェーンパターンに対応して、製品の販売量、製品の販売利益、製品の製造により生じる温室効果ガス排出量の合計量、製品の製造に用いられる製造設備、製品の製造に必要な材料の調達先、製品の製造に必要な材料の調達量、及び、製品又は材料の輸送手段の各情報を出力する。
【0074】
利益最大化モデル5は、本実施形態では、線形計画法に基づくモデルである。例えば、利益最大化モデル5は、サプライチェーンモデルを表す関数、制約条件を表す関数、及び入力値を表す関数をその構成要素として含み、製品の製造及び販売による利益額を算出する目的関数である。シミュレーション実行部19は、目的関数の値である利益額が最大となる場合の各変数の値も出力する。すなわち、利益最大化モデル5は、最大の利益額を算出及び出力する際、その算出の過程で得られ又は用いられた情報(例えば、売上額、使用される製造設備、材料の調達先、材料の調達量、輸送手段、温室効果ガス排出量等)を出力する。
【0075】
なお、利益最大化モデル5は、その計算過程において、製品の売上額を、その製品の販売量及び販売価格を乗算することにより算出する。また、利益最大化モデル5は、各国の各製品の利益を、売上から費用(例えば、内部取引単価により算出される関税額、材料の購買額、製造拠点における変動費及び固定費、並びに輸送費)を控除し、また売上及び費用の算出において各国の為替レートによる換算を行うことにより算出する。また、利益最大化モデル5は、各製品の温室効果ガスの排出量の総量を、その材料の調達により生じる温室効果ガス排出量、その材料又は製品の製造により生じる温室効果ガスの排出量、及び製造拠点における管理維持により生じる温室効果ガスの排出量(配賦温室効果ガス排出量)の合計値を求めることで算出する。
【0076】
ここで、
図21は、サプライチェーンモデルの構成の一例を説明する図である。このサプライチェーンモデル880は、材料の供給元881(調達先)、材料から他の材料又は製品を製造する製造拠点882(ある国のある拠点の工場)、製造拠点882に設けられている製造設備883、及び製造拠点882からの出荷先である販売拠点884(国)をそれぞれノードとして記憶する。また、このサプライチェーンモデル880は、供給元881、製造拠点882、及び販売拠点884の間の輸送経路885をリンクとして記憶している。
【0077】
また、このサプライチェーンモデル880は、販売拠点884に関する制約情報886(出荷可能先)と、製造拠点882に関する制約情報887(設備製造可能品、設備製造可能時間、設備製造上限値)と、供給元881-製造拠点882間に関する制約情報888(調達可能品、調達可能量)とを有する。
【0078】
また、このサプライチェーンモデル880は、供給元881-製造拠点882間、製造拠点882間、及び製造拠点882-販売拠点884間の輸送と、製造拠点882における管理維持及び製造とを含む一連のプロセスによって生じる温室効果ガスの排出量に関する制約情報889(国(地域)ごとの温室効果ガス排出量の上限)を有する。
【0079】
次に、
図19に示すように、シミュレーション実行部19は、s59で作成したサプライチェーンパターンの一つを選択し(s61)、選択したサプライチェーンパターンを利益最大化モデル5を入力値とすることでその出力値を得、得られた出力値を一時格納DBに記憶する(s63)。なお、シミュレーション実行部19は、制約条件を満たす出力値を得られなかった場合は、後述するs69の処理を行う。
【0080】
シミュレーション実行部19は、今回s63で出力した利益額と、前回s63で算出した利益額(初回にs65が実行される場合は0)とを比較する(s65)。今回出力した利益額が前回算出した利益額より大きい場合は(s65:YES)、シミュレーション実行部19は今回出力した利益額を最大利益額として、これをシミュレーション結果DB610に記憶し(s67)、その後はs69の処理が行われる。一方、今回出力した利益額が前回算出した利益額以下である場合は(s65:NO)、シミュレーション実行部19はs69の処理を行う。
【0081】
s69においてシミュレーション実行部19は、他にサプライチェーンパターンがあるか否かを確認し、他にサプライチェーンパターンがある場合はそのサプライチェーンパターンについてs61以下の処理を繰り返す。他にサプライチェーンパターンがない場合は、シミュレーション実行部19はシミュレーション実行処理を終了する。
【0082】
(シミュレーション結果DB)
図22は、シミュレーション結果DB610の一例を示す図である。シミュレーション結果DB610は、製造される製品の品目の情報が設定される品目611、その製品の販売拠点の情報が設定される販売拠点612、その販売拠点での製品の販売量が設定される販売量613、その製品の販売価格が設定される販売価格614、前記販売拠点で販売される製品の製造拠点の情報が設定される製造拠点615、その製品の売上高の情報が設定される売上616、その製品の売り上げに基づく利益額が設定される利益617、前記販売拠点における需要量に対して製造できなかった製品の数量の情報が設定される製造不可数量618、前記製造拠点で製造される製品の製造に用いられる製造設備の情報が設定される製造設備619、前記製造拠点で製造される製品の材料の調達先の情報が設定される調達先620、その材料の調達量が設定される調達量621、その材料の輸送手段の情報が設定される輸送手段622、及び、前記販売拠点で販売される製品の製造における一連のプロセスで発生する温室効果ガスの排出量の総量が設定される温室効果ガス排出量623の各データ項目を有する。
【0083】
以上に説明したように、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、製品の販売先及びその販売先での需要量に関する情報(計画情報)と、需要量に対応する製造量の製品の製造及び販売における各プロセスのパターンを含む情報である複数のサプライチェーンパターンとを、利益最大化モデル5に入力することにより、所定の上限以下の温室効果ガスの排出で各サプライチェーンパターンに基づき得られる最大の利益を算出し、上記各プロセスにより排出される温室効果ガス排出量を算出する。
【0084】
すなわち、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、販売先での需要に対応した量の製品の製造及び販売のパターンに基づき、温室効果ガス排出量が所定の上限を超えずに得られる最大の利益を算出することができる。
【0085】
このように、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10によれば、温室効果ガスの排出量の制限を遵守可能な製造販売計画の立案を支援することができる。
【0086】
さらに、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、需要量以下の複数の製造量のパターンを作成し、作成した製造量のパターン係るサプライチェーンパターンのそれぞれを利益最大化モデル5に入力することにより、最大の利益を算出し、温室効果ガス排出量を算出する。
【0087】
これにより、温室効果ガスの排出量上限値を遵守できる限度での任意の製造量の製品の製造を行った場合の、最大の利益を算出することができる。
【0088】
また、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、サプライチェーンパターンとして、製品の製造拠点又はその製造拠点における製品の製造設備のパターンを複数作成する。
【0089】
これにより、複数の製造拠点又は製造設備のいずれでも製品を製造できる場合には、それらを考慮した上で、温室効果ガス排出量が所定の上限を超えずに得られる最大の利益を算出することができる。
【0090】
また、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、サプライチェーンパターンとして、製品の製造に必要な材料の調達先のパターンを複数作成する。
【0091】
これにより、材料の調達先の選択肢が複数ある場合には、それらを考慮した上で、温室効果ガス排出量が所定の上限を超えずに得られる最大の利益を算出することができる。
【0092】
また、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、サプライチェーンパターンとして、製品又はその製品の製造に必要な材料の輸送経路又は輸送手段のパターンを複数作成する。
【0093】
これにより、輸送経路や輸送手段が複数ある場合には、それらを考慮した上で、温室効果ガス排出量が所定の上限を超えずに得られる最大の利益を算出することができる。
【0094】
また、本実施形態の製造販売計画立案支援装置10は、利益最大化モデル5が算出した最大の利益の情報を表示すると共に、利益最大化モデル5に入力された、製品の製造及び販売のためのプロセスの情報を表示する。
【0095】
これにより、ユーザは、温室効果ガスの排出量の制限を遵守可能な製造販売計画が具体的にどのような内容であるかを知ることができる。
【0096】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
【0097】
例えば、製造販売計画立案支援装置10が備える各機能部の構成は一例であり、例えばある機能部を他の機能部に設けてもよいし、複数の機能部を一つの機能部に統合してもよい。また、製造販売計画立案支援装置10の機能部の一部を他の通信可能な情報処理装置に設けてもよい。
【0098】
また、本実施形態で説明した各マスタのデータ項目は一例であり、他の項目を追加し、又は項目の一部を省いてもよい。
【0099】
また、本実施形態では、温室効果ガス排出量の上限は国ごとに設定されるものとしたが、それ以外の単位(例えば、拠点、調達又は製造業者)で設定されてもよい。
【符号の説明】
【0100】
5 利益最大化モデル
10 製造販売計画立案支援装置
11 利益最大化モデル記憶部
15 サプライチェーンモデル作成部
17 サプライチェーンパターン作成部
19 シミュレーション実行部
21 結果表示部