(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】rGO層のスタックを含む還元型酸化グラフェン膜及びその用途
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20241031BHJP
A61N 1/05 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C01B32/198
A61N1/05
(21)【出願番号】P 2021549933
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2020055195
(87)【国際公開番号】W WO2020174066
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-23
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516375001
【氏名又は名称】ファンダシオ インスティテュット カタラ デ ナノシエンシア イ ナノテクノロジア (アイシーエヌ2)
(73)【特許権者】
【識別番号】516374820
【氏名又は名称】インスティテュシオ カタラナ デ レセルカ イ エステュディス アバンキャッツ
(73)【特許権者】
【識別番号】314000752
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】ガリド アリザ,ジョーズ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアナ,ダミア
(72)【発明者】
【氏名】コスタレロス,コスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】ブルロック,クリストファー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ビュシー,シリル
(72)【発明者】
【氏名】ウォルストン,ステーブン,トレメイン
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506418(JP,A)
【文献】特開2017-027935(JP,A)
【文献】国際公開第2017/021936(WO,A1)
【文献】特表2019-507081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
A61N 1/05
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレークを含む
還元型酸化グラフェン(rGO
)層のスタックを含む、総膜厚が20nmから5マイクロメートルの還元型酸化グラフェン(rGO)膜であって、連続する2つの層間の距離が0.2から0.7nmであり、
前記rGO層のスタックが、100から500000のフレークの層を含む、
還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項2】
前記連続する2つの層間の距離が、0.3から0.5nmである、請求項1に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項3】
前記総膜厚が、500から2000nmである、請求項1から2のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項4】
前記rGO層のスタックが、
30000から100000のフレークの層を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項5】
X線光電子分光法(XPS)による測定で、0.8から2.0の炭素対酸素比を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項6】
非還元型酸化グラフェンに特徴的なCuKα線(1.540598Å)を用いたX線回折装置で測定される11±0.
5、σ=4、2シータ度のピークが実質的に存在しないX線回折スペクトルを示す(ただし、実質的に存在しないとは、11±0.5のピークの面積/面積%が約1%以下であることを意味する)、請求項1から5のいずれかに記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項7】
CuKα線(1.540598Å)を用いたX線回折装置で測定される前記X線回折スペクトルにおいて、23±0.5、σ=4、2シータ度にピークを示す、請求項
6に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項8】
前記rGO膜が上面及び前記上部を有し、前記rGO膜の前記上面が、原子間力顕微鏡(AFM)による測定で、25×25μm
2の面積に対して、1から200nmの二乗平均平方根粗さを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項9】
20×20μm
2の面積に対してラマンスペクトルにおいて0.9以上のD対G比を示す、請求項1から8のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項10】
約0.01から10Ω・cmの抵抗率を示す、請求項1から9のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項11】
元素組成が、原子組成の約80%以上の量の炭素と、原子組成の約20%以下の量の酸素とから本質的になる、請求項1から10のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項12】
直径約25マイクロメートルの電極に実装された場合に、電解質ベースのシステムにおいて、1kHzの周波数で2から10mC/cm
2の電荷注入限界(CIL)及び/又は10から100kΩのインピーダンスを提供することができる、請求項1から11のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項13】
10
8から10
10m
-1の表面積対体積比(SAVR)を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜と、前記rGO
膜が堆積された追加の導電性支持体とを含む電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造であって、
前記バックコンタクトとは、前記
rGO膜の下面が前記導電性支持体の一方の表面と接触するように、前記rGO膜が前記追加の導電性支持体上に配置されることを意味する、導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造。
【請求項15】
前記追加の導電性支持体が、金属、単層グラフェン(SLG)、少数層グラフェン(FLG)、及び多層グラフェン(MLG)からなる群から選択される、請求項14に記載の電気的にバックコンタクトの導電性構造。
【請求項16】
フレークを含む還元型酸化グラフェン(rGO)層のスタックを含む、総膜厚が20nmから5マイクロメートル、連続する2つの層間の距離が0.2から0.7nmである還元型酸化グラフェン(rGO)膜の
製造方法であって、
i)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、前記
多孔質膜の上部にGO膜を形成する工程であって、前記酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、前記溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過され
る体積が5から1000mLである、工程と、
ii)前記
GO膜が形成された前記多孔質膜から犠牲基板上に前記GO膜を転写する工程であって、前記GO膜が上部の前記
多孔質膜と下部の前記犠牲基板との間に配置される、工程と、
iii)前記膜を除去する工程であって、それによって前記GO膜が前記犠牲基板上に付着したまま残る、工程と、
iv)100から240℃の温度で、10
5から4×10
8Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、前記GO膜を水熱還元して還元型
酸化グラフェン(rGO
)材料を形成する工程と、
v)前記rGO材料を前記犠牲基板から取り外す工程と、
を含む
、還元型酸化グラフェン(rGO)膜の製造方法。
【請求項17】
フレークを含む還元型酸化グラフェン(rGO)層のスタックを含む、総膜厚が20nmから5マイクロメートル、連続する2つの層間の距離が0.2から0.7nmである還元型酸化グラフェン(rGO)膜と、前記rGO膜が堆積された追加の導電性支持体とを含む電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造
の製造方法であって、
前記バックコンタクトとは、前記rGO膜の下面が前記導電性支持体の一方の表面と接触するように、前記rGO膜が前記追加の導電性支持体上に配置されることを意味し、
i)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、前記
多孔質膜の上部にGO膜を形成する工程であって、前記酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、前記溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過され
る体積が5から1000mLである、工程と、
ii’)前記
GO膜が形成された前記多孔質膜から前記追加の導電性支持体上に前記GO膜を転写する工程であって、前記GO膜が上部の前記
多孔質膜と下部の前記追加の導電層との間に配置される、工程と、
iii’)前記膜を除去する工程であって、それによって前記GO膜が前記追加の導電性支持体上に付着したまま残る、工程と、
iv’)100から240℃の温度で、10
5から4×10
8Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、前記GO膜を水熱還元して還元型
酸化グラフェン(rGO
)材料を形成する工程と、
を含む
、導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造の製造方法。
【請求項18】
前記水熱還元がオートクレーブの内部の密閉容器内で行われ、前記GO膜が水と直接接触していない、請求項16から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から13のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェン(rGO)膜、又は、請求項14から15のいずれか一項に記載の電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構
造を含む、電気信号を検出、受信及び/又は誘導するための電子デバイス。
【請求項20】
神経電極である、請求項19に記載の電子デバイス。
【請求項21】
前記rGO膜又は前記電気的にバックコンタクトの導電性rGO構造
の上に堆積される、導電性リードでパターニングされた可撓性基板と、上部に開口部を有する封入層とを備える、請求項19から20のいずれか一項に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年2月27日に出願された欧州特許出願第19382146.9号の利益を主張する。本出願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020研究及びイノベーションプログラム(助成金契約番号785219)に基づくグラフェンフラッグシッププログラム(グラフェンコア2)から資金提供を受けている。
【0002】
本発明は、電解質ベースのシステムにおいて高い導電性を示すrGO層のスタックを含む還元型酸化グラフェン(rGO)膜に関する。これらのrGO膜は、神経インターフェース用の埋込み型電子デバイス(例えば、脳深部電気刺激又は末梢神経系刺激のための神経刺激デバイス、人工内耳及び網膜インプラント、ペースメーカー、脳コンピュータインターフェースなど)など、高電荷及び高速電荷注入が必要とされるデバイスに組み込むことができる。
【背景技術】
【0003】
神経補綴デバイスは、神経系と電気的にインターフェースすることによって、神経の疾患、障害及び状態を監視、予防及び治療するための強力なツールである。それらは、神経組織に埋め込まれると、電気的な神経活動を記録及び刺激することができる。現在、ほとんどの神経補綴技術は、電極上の神経組織とのインターフェースに基づいている。
【0004】
インターフェースは、ファラデー電流又は容量電流を介して発生し得る。一方で、ファラデー電流は、電極/組織界面で起こる酸化還元反応に関連する。これらの反応は、最終的に電極を分解し、組織を損傷することになる。一方、容量電流は、導電体が液体環境に置かれたときに現れる二重層の充放電に起因する。インプラントの場合、容量電流は組織に害を与えたり、電極材料を劣化させたりしないため、ファラデー電流よりも常に好ましい。したがって、高容量は、神経組織との効果的かつ安全なインターフェースを実現するために理想的である。容量は、材料の電荷注入限界(CIL)及びそのインピーダンスなどの性能値を設定する。神経系の神経活動を記録及び刺激する場合、高レベルの電荷注入及び低インピーダンスが望ましい。電極のサイズは、電極を構成する材料の性能によって制限され、高性能の材料は、高容量に関して、より高いレベルの小型化を可能にする。
【0005】
しかしながら、インターフェースの精度及びデバイスの耐久性は、技術の受け入れを増加させ、その治療応用を改善し、術後合併症を減少させるために改善されるべき特性である。インターフェースの精度は、電極サイズを小さくし、電極アレイの分解能を高めることによって改善することができる。典型的には、電極は、電極を構成する材料の固有インピーダンス及び電荷注入限界(CIL)に起因する小型化の限界を示す。デバイスの耐久性は、電極材料の化学的安定性、生体適合性、及び生体組織との機械的コンプライアンスに依存する。
【0006】
材料に対する身体の免疫応答は、生体組織にデバイスを埋め込むときに考慮すべきもうひとつの要素である。例えば、インプラント領域の周囲には、瘢痕組織の形成と炎症が起こり得る。免疫応答は異物をカプセル化する傾向があり、これは経時的にデバイスの電気的性能を低下させる。埋め込まれた組織との強い剛性の不一致を有する材料は、身体によってより積極的に攻撃される。したがって、硬い材料や厚い材料よりも可撓性で柔らかい材料が望ましい。免疫応答を最小限に抑えるためには、薄いデバイスであることも必要である。
【0007】
材料の長期安定性もまた、常用的なインプラントを検討する上で重要な特性であり、化学的及び機械的に高い安定性を持つ材料が求められる。
【0008】
標準的な市販の神経インターフェースは、Pt、白金-イリジウム(Pt/Ir)、酸化イリジウム(IrOx)又は窒化チタン(TiN)で作られた金属マイクロ電極に基づいている。これらの材料は、ファラデー電流と容量電流との組み合わせを介して生体組織と相互作用し、劣った化学的安定性を示し、柔軟性に欠ける。金属性能は、直径数十マイクロメートルのマイクロ電極で大きく低下し、さらに、金属は、連続的な組織刺激によって劣化する。
【0009】
最近、ポリマー混合物ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)などの導電性ポリマーが、金属マイクロ電極の限界を克服するための有望な候補として浮上している。しかし、埋め込まれたとき、組織とのそのインターフェースもまた、ファラデー電流と容量電流との組み合わせを介する。金属のインピーダンス及びCILをそれらの可撓性と共に改善することにより、神経組織の記録及び刺激においてより高い性能を達成することができる。しかしながら、層間剥離が生じる可能性があり、それによって長期安定性が損なわれる。PEDOT:PSSは、作動中に化学的及び機械的に分解するため、刺激中に問題を有すると言われている。
【0010】
グラフェンは、神経インターフェースにとって非常に興味深い特性を有する材料である。導電性であり、可撓性であり、機械的に堅牢であり、高度に不活性であるため、水性環境での安全な電気的インターフェースの有望な候補である。しかしながら、単層グラフェンマイクロ電極の性能は、神経インターフェース、特に、神経組織の刺激を必要とする用途において、最適とは程遠い。インピーダンスは、グラフェン/組織界面のキャパシタンスによって制限され、刺激は容量プロセスであるため、この問題を克服するために、大きな面積対体積比を有する三次元多孔質グラフェン系材料が提案されている。しかしながら、還元型酸化グラフェン(rGO)から作られたものを含む、これまでに報告された多孔質グラフェン系材料を含むフレークから加工されたそのようなグラフェン材料は、刺激に関して有効な特性を達成するために数百マイクロメートルの範囲の厚さを必要とすることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Hebert, et al., “Flexible Graphene Solution-Gated Field-Effect Transistors:Efficient Transducers for Micro-Electrocorticography”, Advanced Functional Materials,Vol.28(12), (2018.03)
【文献】Badia, et al., “Comparative analysis of transverse intrafascicular multichannel,longitudinal intrafascicular and multipolar cuff electrodes for the selective stimulation of nerve fascicles”, J Neurl Eng, (2011.06)
【文献】Taer,E. et al., “The Relationship of Surface Area to Cell Capacitance for Monolith Carbon Electrode from Biomass Materials for Supercapacitor Aplication”, Journal of Physics:Conference Series,Volume 1116,Issue 3
【文献】Hess, Lucas H. et al., “Graphene Transistors for Bioelectronics”, Proceedings of the IIEEE|Vol.101,No.7, 2013.07)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、従来技術の問題を克服するために、デバイスに容易に組み込むことができ、長持ちする高性能の薄いグラフェン系材料を開発することに依然として関心が寄せられている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、炭素の原子単層(単層グラフェン)と比較して著しく増加した電気化学的活性表面積を示す、rGOフレークのスタックを含む還元型酸化グラフェン(rGO)の安定な薄膜を開発した。結果として、これらのrGO膜は、その機能寿命の間、効率的かつ一貫した態様で高い電荷注入特性を提供することができる。これらのグラフェン材料は、低い界面インピーダンス(Z)、非常に高い電荷注入限界(CIL)及び顕著な安定性を示すマイクロ電極などの電子デバイスの製造に使用することができる。これらのrGO膜は、非常に多孔質である。
【0014】
本発明のrGO膜は、特に水溶液中で、柔軟性があり、機械的及び化学的に非常に安定している。さらに、それらの生産は容易に拡張可能であり、大量の製造プロセスと相性がいい。
【0015】
本発明のrGO膜を含む電子デバイスは、神経インターフェースとして使用される場合、良好な生体適合性を示すため、体内に埋め込まれたときに安全に使用し得るという利点を有する。特に、実施例に示されるように、本発明のrGO膜は、神経組織環境で遭遇する細胞との生体適合性を示した。さらに、本発明のrGO膜の生物学的組織と直接接触している上面が低い粗さを有するという事実に起因して、本発明のrGO膜は、組織を損傷せず、剥離したり、望ましくない残渣を残したりしない。その結果、これらのインプラントは、神経組織からの炎症(局所又は全身)反応が最小限に抑えられる。
【0016】
さらに、それらの高い導電率及び電荷注入容量のために、本発明のrGO材料を含むデバイスは、小型化することができ(例えば、約10μm未満の直径及び約1μm未満の厚さ)、それにより、神経系とインターフェースするためのそれらの機能性が拡張し、一方で、領域が現在の商用技術の約1/25となり、他方では、低侵襲性となる。さらに、身体のより広い領域を観察したい場合、本発明のrGO膜を含むデバイスは、様々な密度のアレイの形態で配置することができる。
【0017】
最後に、実施例に示されるように、本発明のrGO材料を含むデバイスは、金電極と比較して、信号対雑音比(SNR)の有意な改善と電気干渉ノイズの実質的な低減を実現する。それらは、ニューロンの集合とさらに個々のニューロンの信号(約25μmの直径を有する電極について約3μVの二乗平均平方根(rms)以下のノイズレベル)の検出、及び、ニューロンの集合の検出を可能にする。それらはまた、広い領域(数十cm2まで)及び高い空間分解能(数百μm2のアクティブな記録部位)の記録を可能にする。さらに、本発明のrGO膜を含む神経内インプラントを介して、げっ歯類においてインビボで試験した場合、神経刺激は、低い電流閾値と高い選択性をもって、坐骨神経の神経束内の軸索の特定のサブセットを活性化することが実証された。
【0018】
これらのすべての特徴(生体適合性、耐久性、高性能、刺激用途に適した電荷注入能力、埋め込むときの材料の設置面積の最小化、サイズの小ささなど)により、それらは、神経インターフェースとして使用する場合に、特に興味深いものになる。
【0019】
したがって、本発明の第一の態様は、20nmから5マイクロメートルの総膜厚を有する還元型酸化グラフェン(rGO)膜であって、フレークを含むrGO層のスタックを含み、連続する2つの層の間の距離が0.2から0.7nmである、還元型酸化グラフェン膜に関する。特に、当該膜は、以下の工程、すなわち、
i)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
ii)膜から犠牲基板上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の犠牲基板との間に配置される、工程と、iii)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が犠牲基板上に付着したまま残る、工程と、iv)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
v)rGO材料を犠牲基板から取り外す工程と、
を含む方法によって得ることができる。
【0020】
本発明のrGO膜の容量特性を改善するために、それらを、任意選択で、単層グラフェン(SLG)、少数層グラフェン又は多層グラフェン(FLG、MLG)、並びに、インジウムスズ酸化物、白金又は金などの金属などの他の導電性基板、などの追加の導電性材料又は支持体に付着させることができる。このように、本発明の別の態様は、先に定義したrGO膜とrGOが堆積された追加の導電性支持体とを含む電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造に関する。
【0021】
本発明の別の態様は、先に定義したrGO膜の調製のためのプロセスであって、以下の工程、すなわち、
i)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
ii)膜から犠牲基板上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の犠牲基板との間に配置される、工程と、
iii)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が犠牲基板上に付着したまま残る、工程と、
iv)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
v)rGO材料を犠牲基板から取り外す工程と、
を含む方法に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、先に定義した、電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造を調製するためのプロセスであって、以下の工程、すなわち、
i’)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
ii’)膜から追加の導電性支持体上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の追加の導電性支持体との間に配置される、工程と、
iii’)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が追加の導電性支持体上に付着したまま残る、工程と、
iv’)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
を含む方法に関する。
【0023】
上述したように、任意選択で、追加の導電性支持体に取り付けられた本発明のrGOベースの膜は、神経インターフェース用の電子デバイス(埋込み型又は非埋込み型)に統合され得る。このように、本発明のrGO膜は、特に、ヒトに埋め込むのに適しており、特に、ヒトにおいて電気信号を検出、受信及び/又は誘導するのに適している。
【0024】
したがって、本発明のさらなる態様は、電気信号を検出、受信及び/又は誘導するための先に定義したrGO膜又は先に定義した電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造を含む電子デバイスに関する。
【0025】
本発明の別の態様は、哺乳動物、特にヒトにおいて電気信号を検出、受信及び/又は誘導するための方法であって、先に定義したrGO膜を含む電子デバイスを哺乳動物、特にヒトに埋め込むことを含む方法に関する。
【0026】
本発明の別の態様は、哺乳動物、特にヒトにおいて電気信号を検出、受信及び/又は誘導する方法であって、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜又は電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造材料を含む電子デバイスを哺乳動物、特にヒトに埋め込むことを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明のrGO膜の調製方法であって、(A及びB)ニトロセルロース膜を通してGO溶液を濾過する工程と、(C)積層されたGOフレークの堆積膜を導電性基板上に転写する工程と、(D)アンサンブルを水熱還元する工程とを含む調整方法の一実施形態を示す。
【
図2】
図2(A)は、本発明のrGO膜の断面のSEM顕微鏡写真を示し、
図2(B)は、本発明のrGO膜の上面の粗さを明らかにする原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。
【0028】
【
図3】
図3(a)は、材料の断面ラメラに沿ったHRTEMによる本発明のrGO膜の断面図である。スケールバーは20nmに対応する。
図3(b)は、
図3(a)の不連続線に沿ったプロファイルを示す図であり、図の強度は0.4nmごとに周期的に振動している。
図3(c)は、
図3(a)のパワースペクトルを示す。スケールバー=1/10nmである。
図3(d)では、1/2.7nmに2つの対称的なピークが現れ、0.37nmでのフレークのスタックにおける優先方向を示している。
図3(e)は、金基板上のGO膜(水熱還元前)及び実施例5のHTrGO膜のX線回折スペクトルを示す。GO膜は、膜中に約0.81nmの積層間距離を有するGOフレークの平行積層に特徴的な11°のピークを示しているが、rGO膜では、11°のピークが消失し、約0.39nmの積層間距離を有するGOフレークの平行積層に特徴的な新たなピークが23°に現れている。
図3(f)は、GO及びHTrGOの平均ラマンスペクトルを示す。DピークとGピークとの比は、水熱処理後に増加する。
【0029】
【
図4】
図4(a)は、C1s及びO1sピークを示すGO及びHTrGOのXPS完全スペクトルを示す。それらの強度から、炭素対酸素比を計算することができる。
図4(b)は、還元プロセスに典型的な酸素関連結合の減少を示すGO及びHTrGOのC1sピークを示す。
図4(c)は、GO膜及びHTrGO膜の抵抗率を示す。GOの水熱還元により、測定された抵抗率が約67kΩ・cmから約0.2Ω・cmへ減少した。
【0030】
【
図5】
図5(a)は、EGNITE(実施例5)ラメラの電子エネルギー損失分光法高角度環状暗視野(HAADF)走査透過電子顕微鏡(STEM)画像を示す。
図5(b)は、白枠で示したようにaから選択した領域上で、284eVのC kエッジ、532eVのO Kエッジ、及び456eVのTi Lエッジを使用し得られたSTEM電子エネルギー損失分光法(EELS)元素マップを示す。
図5(c)は、C及びOの相対原子組成を示す。炭素がほぼ85%で存在するのに対し、酸素は15%に達する。
【0031】
【
図6】
図6(a)は、神経活動記録の実験設定の概略図である。マイクロ電極からなる可撓性アレイを聴覚皮質の表面に配置して、16kHzの純音を提示した。
図6(b)は、本発明によるアレイ(EGNITE)及びPtアレイの1kHzでのインピーダンス測定値を示す。
図6(c)は、聴覚皮質上に配置された本発明によるμECogデバイスを示す。
図6(d)は、本発明によるマイクロ電極を用いて測定した16kHzの純音及び200msの持続時間(影)による誘発局所電場電位を示す。死後信号が重なっている。
図6(e)は、Ptマイクロ電極を用いた同上を示す。
図6(f)は、インビボ条件及び死後条件の両方での本発明のマイクロ電極及びPtマイクロ電極のパワースペクトル密度(PSD)を示す。
図6(g)は、
図6(f)からのインビボ条件と死後条件との間のシグナルの比から計算されたシグナル対ノイズ比を示す。
【0032】
【
図7】
図7は、神経刺激を示す。
図7(a、b)は、前脛骨筋(TA)、腓腹筋(GM)及び足底筋(PL)の神経支配を介した坐骨神経への横断神経束内多電極アレイの埋込みの概略図である。
図7(c)は、坐骨神経を通って横方向に埋め込まれたデバイスの光学画像を示す。
図7(d)は、TA、GM及びPL筋の電流制御刺激及びCMAPのトレインを示す。
図7(e)は、刺激の強度に対するTA、GM及びPL CMAP振幅のプロットを示す。
【0033】
【
図8】
図8は、1つのマイクロ電極(*を有するもの)の最大応答に対して正規化されたPL、GM、TA筋のCMAPを示す図である。マイクロ電極により近い小束は、遠く離れた小束よりも低い閾値で応答をトリガーする。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本出願で使用されるすべての用語は、特に明記しない限り、当分野で公知の通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される特定の用語の他のより具体的な定義は、以下で説明するとおりであり、明細書及び特許請求の範囲を通して一律に適用されることを意図している。
【0035】
本明細書で使用される「約」又は「およそ」という用語は、指定された値の±10%の範囲の値を指す。例えば、「約10」や「およそ10」という表現は、10の±10%、すなわち、9から11を含む。
【0036】
本発明では、「酸化グラフェン」(GO)という用語は、グラフェンのように炭素原子を含むが、集団又はある量の酸素官能基をも含む材料を指す。「還元型酸化グラフェン」(rGO)という用語は、例えば、水熱還元プロセスなどの還元プロセスによって還元された酸化グラフェン(GO)を指し、その結果、還元工程前のGO(すなわち、非還元型GO)と比較して酸素含有量が減少する。「HTrGO」という用語は、水熱還元型酸化グラフェン(GO)を指す。
【0037】
本明細書で使用される「電極」という用語は、2つの媒体をインターフェースする導電体を指し、この場合、電極は、身体(又は身体からの組織)を、電気信号を(例えば、神経刺激を提供するために)引き出す及び/又は電気信号を(例えば、神経活動を監視するために)受信するためのデバイスに接続する。
【0038】
「容量」という用語は、コンデンサに蓄積された電荷と所与の電位差との比を指す。キャパシタンスは、ファラド(F)で測定される。
【0039】
本明細書で使用される「電荷蓄積容量(CSC)」という用語は、誘電体媒体によって分離された2つの導電性媒体からなるシステムが所与の電位差で耐えることができる最大電荷量を指す。システムの電荷蓄積容量を得るために、サイクリックボルタンメトリー技術を実施することができる。そのために、それに印加される電圧は周期的に変化し、電流が測定される。測定された電流による蓄積電荷は、電荷蓄積容量に相当する。電荷蓄積容量は、クーロン(C)で測定される。
【0040】
本明細書で使用される「電荷注入限界(CIL)」という用語は、不可逆的なファラデー反応を誘発することなく電極を通して電解質媒体に注入することができる最大電荷量を指す。理想的には、電荷は、容量電流のみを介して注入され、可逆的なファラデー反応を回避する。電荷注入限界は、mC/cm2で測定される。
【0041】
本明細書で使用される「インピーダンス」という用語は、電圧が印加されたときに回路が電流に対して呈する抵抗の尺度を指す。電気回路のインピーダンスは、電気回路を流れる電流を印加された電圧信号で除算することによって得ることができる。インピーダンスは、オーム(Ω)で測定される。電流及び電圧の挙動に応じて、キャパシタンスを識別し、インピーダンスに適合させることができる。電極に言及する場合、インピーダンスは、界面インピーダンスと呼ばれる。
【0042】
「抵抗率」という用語は、電流に抵抗するか又は電流を伝導する強さを定量化する材料の特性であり、オームメータ(Ω・m)で測定される。高い抵抗率値が、材料が不十分な導体であることを示す一方で、低い値は、材料が良好な導電性であることを示す。
【0043】
本明細書で使用されるrGO膜の「安定性」という用語は、少なくとも1億パルスの連続的な電気パルスに対する界面インピーダンスの増加がないこととして理解される。
【0044】
rGO膜の「表面積対体積比(SAVR)」という用語は、表面積対体積の比であり、m-1で測定される。SAVRは、表面積をrGO膜の体積で割ることによって測定することができる。rGO膜の表面積は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)電解質中、50mV/sの走査速度で-0.9から0.9Vの間のサイクリックボルタンメトリーにおいて0Vで測定したrGO膜の電流を、単層グラフェンの固有界面容量(2-5μF/cm2)の走査速度(50mV/s)倍の値で除することによって得ることができる(Taer,E.ら, Journal of Physics:Conference Series, Volume 1116, Issue 3, Hess,Lucas H.ら, Proceedings of the IEEE | Vol.101,No.7,2013年7月を参照されたい)。
【0045】
本発明は、炭素の原子単層に比して増加した電気化学的活性表面積を示す、rGO層のスタックを含む還元型酸化グラフェン(rGO)薄膜に関する。
理論に束縛されるものではないが、0.2から0.7nmのフレークのグラフェン層間の積層距離と、高密度のグラフェンのスタックにおけるイオン輸送ショートカットとして作用することができる開放チャネルの両方のおかげで、電気化学的性能の向上が達成されると考えられる。イオン輸送ショートカットの開放及び積層間距離は、酸素基がフレークの基底面から除去される水熱還元工程を含む本発明のrGO膜の調製プロセスに起因すると考えられる。
【0046】
電気化学的活性表面積の増加は、水溶液中のrGO膜の界面容量を測定することによって証明することができる。本発明のいくつかの実施形態では、表面積は、厚さ1~2μmの膜で10
4倍増加する。これは、インピーダンス分光データから導き出すことができる。これはまた、非還元型GO膜のより高い抵抗率値と比較して、還元後のrGO膜の抵抗率値がより低いことによって証明することができる(
図4c)。
【0047】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義された還元型酸化グラフェン(rGO)膜であって、厚さが1000から2000μm(おおむね、約5000層のフレークを含む膜に相当する)であり、積層間距離が約0.4nmである還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、電解質ベースの系、より詳細には水性系において、10から60mF/cm2の静電容量を提供することができるような電気化学的表面積を有する。
【0048】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義したrGO膜の表面積対体積比(SAVR)は、先に定義したように測定して、108から1010m-1である。
【0049】
特定の一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、0.01から10、より詳細には、0.05から5又は0.1から1の抵抗率を示し、さらにより詳細には、約0.2Ω・cmである。
【0050】
フレークを含むrGO層のスタックを含む本発明のrGO膜の構造は、以下で説明する、SEM、TEM、AFM、HAADF、STEM-EELS、XRD、XPS及びラマンなどの様々な技術によって評価することができる。
【0051】
本発明では、本明細書で使用される「スタック」という用語は、水平に整列又は配列された、すなわち、互いに重なって配置された、複数の、すなわち1を超える、特に100から500000の層を指す。積層構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像(
図2A)によって評価することができる。「フレーク」という用語は、平坦で薄い形状を有する材料を指す。複数のフレークが層を形成する。
【0052】
「積層」距離又は「積層間」距離という用語は、一方が他方の上に堆積されるフレーク又は層の2つの連続した層又は平面の間の距離を指し、X線回折(XRD)データ及び高分解能透過電子(HRTEM)によって測定することができる。
【0053】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、フレークは、穴あきフレークである。「穴あきフレーク」という用語は、rGO構造に二次元の穴を含むフレークを指す。フレークの穴は、空隙、空洞、開口部、又は間隔として定義することもできる。これらの間隔はまた、電気化学的性能を高め、水熱還元工程から生じる。
【0054】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、rGO層のスタックは、100から500000、より詳細には30000から100000、さらにより詳細には30000から80000、さらにより詳細には50000から60000のフレークの層を含む。
上述したように、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、20nmから5マイクロメートルの総膜厚を有する。
【0055】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、500から2000nm、又は25nmから1マイクロメートル、より詳細には25から500nm、さらにより詳細には25から200nmの総膜厚を有する。この厚さは、透明材料をもたらし、透明電極と組織との間の界面を光学技術によって観察することができるので、いくつかの用途においてさらなる利点を提供する。
【0056】
本発明のrGO膜の厚さは、例えば、走査型及び/又は透過型電子顕微鏡(SEM、TEM)によって測定することができる。
図2Aは、本発明の一実施形態のrGO膜の断面の顕微鏡写真を示す。
【0057】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図4a及び/又は4bに示すX線光電子分光法(XPS)スペクトルを示す(HTrGOを参照されたい)。
【0058】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、0.8から2.0又は1.2から2.0、より詳細には1.0から1.5又は1.6から1.8、さらにより詳細には約1.22の炭素対酸素比(原子百分率)を有する。炭素対酸素比は、X線光電子分光法(XPS)から算出することができる。
【0059】
上述したように、本発明のrGO膜における積層距離は、膜の調製に使用される水熱還元工程の結果である。したがって、例えば、水熱還元前後の特定のサンプルのフレーク間の積層距離をX線回折(XRD)によって調査した場合、還元前(GO)の0.81±0.08nmから還元後(rGO)の0.39±0.06nmへの減少が観察された(
図3e)。
【0060】
したがって、一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図3eに示すX線回折(XRD)スペクトルを有する(HTrGOを参照されたい)。
【0061】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図3bに示すように、HRTEMで測定された材料断面の強調線(
図3a)に沿ったプロファイルを示す。
【0062】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図3dに示すように、材料断面のパワースペクトルの強調線(
図3c)に沿ったプロファイルを示す。
【0063】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、フレークの2つの連続する層の間の距離は、X線回折(XRD)による測定で、0.3から0.5、より詳細には0.37から0.43、さらにより詳細には約0.4nmである。
【0064】
一方、非還元型GO結晶膜のX線回折スペクトルは、典型的には、CuKα線(1.540598Å)を用いたX線回折装置(XRD)で測定される11±0.5、σ=4、2シータ度にピークを示し、これは膜中のGO(非還元)フレークの平行積層の特徴である。対照的に、GO膜が還元されて無秩序状態を有する場合、このピークは対応するX線回折スペクトルには実質的に存在しない(
図3e)。XRD測定(シータ-2シータスキャン)は、例えば、Malvern PANalytical社のMaterials Research Diffractometer(MRD)で実行することができる。この回折計は、4つの円形状の水平オメガ-2シータゴニオメータ(半径320mm)を備えており、Cu Kαアノード(l=1.540598Å)を有するセラミックX線管で動作する。使用した検出器は、Medipix2テクノロジーに基づく高速X線検出器であるPixcelである。
【0065】
したがって、一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、非還元型酸化グラフェンに特徴的なCuKα放射線(1.540598Å)を用いたX線回折装置で測定される11±0.5、σ=4、2シータ度のピークが実質的に存在しないX線回折スペクトルを示し、換言すれば、本発明のrGO膜には、せいぜい非常に短い範囲の秩序しか存在しない。本明細書で使用される「実質的に存在しない」という用語は、非還元型GO結晶膜に対応するピークの存在が、約1%面積/面積以下、より詳細には0.1%面積/面積以下であることを指す。より詳細には、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図3e(HTrGO)に示すX線回折スペクトルを示す。
【0066】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴に併せて、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、CuKα線(1.540598Å)を用いたX線回折装置で測定されるX線回折スペクトルにおいて、23±0.5、σ=4、2シータ度にピークを示す。上述したように、本発明のrGO膜は、埋め込まれたときの神経組織からの炎症(局所又は全身)応答が最小限である。このことは、生体組織と直接接触している本発明のrGO膜の上面が、低い粗さを有し、望ましくない残留物を残さないということから、少なくとも部分的に説明することができる。rGO膜の上面の粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定することができる。
図2Bに示すように、本発明の一実施形態のrGO膜の表面は、25×25μm
2の面積に対して約55nmという低い二乗平均平方根粗さを有することが観察された。この値は、組織損傷を防止すると同時に、細菌との相互作用を最小限に抑えながら細胞の接着及び増殖を促進することが期待される。
【0067】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、膜が埋め込まれたときに生体組織と直接接触する本発明のrGO膜の上面は、原子間力顕微鏡(AFM)による測定で、25×25μm2の面積に対して、1から200、より詳細には10から100、さらにより詳細には約55nmの二乗平均平方根粗さを有する。
【0068】
ラマン分光法はまた、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜を特性評価するために使用され得る。強度DとGの比(D/G)バンドは、グラフェン構造体に存在する欠陥の尺度である。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、20×20μm
2の面積に対するラマンスペクトルにおいて、0.9以上、より詳細には0.9から2.4、さらにより詳細には0.9から1.5、さらにより詳細には約1.14のD対G比(ピーク振幅/ピーク振幅)を示す。より詳細には、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、
図3fに示すラマンスペクトルを有する。
【0069】
上述したように、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、電解質ベースの系において高い導電性を示す。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜は、直径約25マイクロメートルの電極に実装された場合、電解質ベースのシステム、より詳細には水性システムにおいて、2から10mC/cm2の電荷注入限界(CIL)と、1kHzの周波数での10から100kΩのインピーダンスとを提供することができる。
【0070】
本発明の還元型酸化グラフェン(rGO)膜の調製に使用されるプロセスの結果として、得られたrGO膜の元素組成は、非還元の膜と比較して酸素含有量が減少している。rGO膜の外側及び内側の化学組成は、X線光電子分光法(XPS)及び電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて調べることができる。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、rGO膜の外面及びその内部(バルク部分)の元素組成は均一である(
図5)。
【0071】
したがって、1つの特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、rGO膜の元素組成は、原子組成の約80%以上の量の炭素と、原子組成の約20%以下の量の酸素とから本質的になり、より具体的には、原子組成の約85%以上の量の炭素と、原子組成の約15%以下の量の酸素とから本質的になり、さらにより具体的には、原子組成の約88%以上の量の炭素と、原子組成の約12%以下の量の酸素とから本質的になる。
【0072】
本発明では、「元素組成物が本質的に~からなる」という用語は、特定の追加的な成分が膜中に存在し得ること、すなわち、還元型酸化グラフェンの本質的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分が膜中に存在し得ることを意味する。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、rGO膜の元素組成は、上記の量の炭素及び酸素からなる。
【0073】
上述したように、本発明はまた、先に定義したrGO膜と、rGOが堆積された追加の導電性支持体とを含む電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造に関する。
【0074】
本発明では、本明細書で使用される「バックコンタクト」という用語は、rGO膜が追加の導電性支持体上に配置され、その結果、rGO膜の下面が導電性支持体の一方の表面と接触することを意味する。
追加の導電層は、本発明のrGO膜の電気的アクセス抵抗の低下に寄与する。
【0075】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、追加の導電性支持体は、金属、単層グラフェン(SLG)、少数層グラフェン(FLG)、及び多層グラフェン(MLG)からなる群から選択される。より詳細には、追加の導電性支持体は、単層グラフェン(SLG)である。SLGは市販されている。別法として、SLGは、実施例に示すように、銅箔上に化学蒸着によって成長させることができる。
【0076】
追加の導電性支持体として使用することができる金属の例には、白金、金、イリジウム、タングステン、インジウムスズ酸化物、ステンレス鋼、銀、銅、ニッケル、及び合金、又はそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0077】
前述のrGO材料の特定の構造は、酸化グラフェンの蒸発工程、又は、膜上の酸化グラフェンの濾過工程とその後の支持体への転写及び材料の還元を含む方法によって得ることができる。
【0078】
したがって、先に定義した還元型酸化グラフェン材料も本発明の一部を形成し、それは、特に100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下でGO膜を水熱還元することを含む方法によって得ることが可能である。したがって、本発明はまた、先に定義した水熱還元されたGO膜に関する。
【0079】
上述したように、本発明はまた、に定義した還元型酸化グラフェン材料に関し、これは、以下の工程、すなわち、
i)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
ii)膜から犠牲基板上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の犠牲基板との間に配置される、工程と、
iii)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が犠牲基板上に付着したまま残る、工程と、
iv)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
v)rGO材料を犠牲基板から取り外す工程と、
を含む方法によって得ることが可能である。
【0080】
本発明の「方法によって得ることができる」組成物という表現は、本明細書においては、その調製方法によってrGO材料を定義するために使用され、先に定義した工程i)からv)を含む調製方法によって得ることができるrGO材料を指す。本発明では、「得ることができる」、「得られた」という表現及びこれに類似する同等の表現は、互換的に使用され、いずれの場合も、「得ることができる」という表現は「得られた」という表現を包含する。
【0081】
本発明はまた、先に定義した工程i)からv)を含む、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜の調製方法に関する。本発明のrGO膜の調製方法の一実施形態を
図1に示す。
【0082】
上記方法の工程i)で使用される出発酸化グラフェン(GO)は市販されている。酸化グラフェンは、その基底面にヒドロキシル基やエポキシ基のような高密度酸素官能基を含み、その縁部にカルボキシルを含む。代替的な電気化学的酸化に関するいくつかの報告があるが、それは、主に天然黒鉛の化学的酸化によって合成される。
【0083】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)の酸化グラフェン(GO)溶液は、水溶液である。より詳細には、工程i)で使用される酸化グラフェン(GO)溶液は、0.001から5mg/mLの濃度を有する。典型的には、濾過されるGO溶液の体積は、5から1000mLになる。
【0084】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)で使用される酸化グラフェン(GO)は、0.5から1.0の典型的な炭素対酸素比を有する。炭素対酸素比は、X線光電子分光法(XPS)から算出することができる。
【0085】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)で使用される出発酸化グラフェン(GO)は、幅が>200nm及び<20μm、より詳細には、>500nm及び<20μmで、厚さが0.3~100nmの厚さのフレークの形態である。
【0086】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)で使用される多孔質膜は、ニトロセルロースからなる群から選択される材料で作られる。
【0087】
工程i)で使用される膜の細孔は、出発GOフレークのサイズよりも小さくなければならない。典型的には、膜は、0.025μmから200μmの孔径を有する。
【0088】
工程i)の濾過は、大気圧以下の圧力、例えば、1から100KPaの圧力で行うことができる。したがって、一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)は、1から100KPa、より具体的には1から10KPaの圧力で行われる。
【0089】
濾過工程i)の結果として、GO膜が膜上に形成される。特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)が終了したら、膜を室温で2~10時間乾燥させる。
【0090】
別法として、本発明の方法のいずれかにおける濾過工程は、基板上の酸化グラフェン(GO)溶液を蒸発させることによって行われてもよく、ここで、具体的には、酸化グラフェン(GO)溶液は水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度は0.001から5mg/mLであり、体積は5から1000mLである。
【0091】
本発明の方法に関連する、rGO膜又は電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造を調製するための、膜上の酸化グラフェン(GO)溶液を濾過する工程を含む、上述したすべての特定の実施形態は、膜上の酸化グラフェン(GO)溶液を濾過する代わりに酸化グラフェン(GO)溶液を蒸発させる工程を行う同様の方法にも適用される。
【0092】
特定の一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、濾過工程i)の後であって、工程ii)の前に、膜の裏面が水和される。より具体的には、湿潤紙がその目的のために使用される。水のように、多孔質膜と直接接触しているGOを溶解することができ、膜を損傷又は溶解することなくそれを通過することができる他の溶媒も使用することができる。
【0093】
濾過されたGOの量に応じて、層の数及び膜の厚さが変化し、その結果、透明度がより高くなったり、より低くなったりする場合がある。一般的に言えば、より高い濃度のGOを濾過すると、より多くの層が形成され、その結果、透明度が低下する。200nmより厚い膜は、400から1160nmの波長における全透過率に対して約5%未満の光透過率を有する。
【0094】
特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程i)の後であって工程ii)の前に、多孔質膜を反転させる。この場合、最初に上にあったGO膜の表面が底面となり、この表面が次の工程で犠牲基板と接触して配置される。
【0095】
本明細書で使用される「犠牲基板」という用語は、本発明の還元型酸化グラフェン材料を保持するために使用され、その後、基板のない還元型酸化グラフェン材料を生成するために除去される基板を意味する。
【0096】
工程ii)で使用される犠牲基板は、剛性又は可撓性を有し得る。犠牲基板は、導電性であってもなくてもよい。基板の性質によって、本発明の還元型酸化グラフェン材料が、特にGO膜の底部に配置された導電性材料の追加の層をさらに含む場合には、最終的な基板として使用することができる。
【0097】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程ii)で使用される基板は、SiO2ウェハ、単層グラフェン(SLG)、少数層グラフェン(FLG)、多層グラフェン(MLG)、及び導電性金属化合物からなる群から選択される。基板として使用することができる導電性金属化合物の非限定的な例としては、金属、例えば、白金、金、チタン、イリジウム、タングステン、ステンレス鋼、銀、銅、ニッケル、及びそれらの合金又は組み合わせ、並びに、酸化イリジウム、塩化銀、及び窒化スズが含まれる。より詳細には、工程ii)で使用される基板は、SiO2ウェハである。使用され得る他の基板には、SiO2ウェハの上に堆積されたポリイミド又はパリレンCなどのポリマーが含まれる。堆積技術は、スピンコーティング又は蒸着であり得る。
【0098】
GO膜が上述したように基板上に配置した後、膜は、任意選択的に、例えば、GO膜と接触していない側から基板に向かって空気/N2を吹き付けることによって乾燥させることができる。典型的には、空気/N2は、この目的のために、1から60秒吹き付けられる。
【0099】
特定の一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、工程ii)の膜から犠牲基板上へのGO膜の転写は、膜に付着したGO膜を犠牲基板と接触させて配置することによって行われ、それによって、GO膜は、上部の膜と下部の犠牲基板との間に配置され、膜は、1~500Kg/cm2の圧力で(例えば、ローラーで)プレスされる。
【0100】
工程iii)において、膜が除去され、それによって、GO膜は、犠牲基板上にのみ付着したまま残る。別の特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、多孔質膜を剥離することによって除去が行われる。
【0101】
次いで、工程iv)において、基板上のGO膜を水熱還元する。還元は、水の存在下、特にオートクレーブ内で実施される。塩基(NH3など)又は酸(HNO3又はHClなど)も存在し得る。1つの特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、水熱還元は、水以外のあらゆる塩基又は酸又は他の成分の非存在下で行われる。典型的には、還元は、100から240℃の温度で、105から4×108Pa、より詳細には105から106Paの圧力下で、1分から24時間、より詳細には1分から20時間の期間実施される。
【0102】
水の存在下で還元を実施しても、より高い収率を得るためには、オートクレーブからの水がGO膜と直接接触しないことが有利である。したがって、一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、水熱還元は、GO膜が水と直接接触しないように、密閉容器内、より具体的には、オートクレーブの内側のテフロン(登録商標)ライニング容器内で実施される。
【0103】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、還元を100から240℃、より詳細には100から150℃、さらにより詳細には約134℃の温度で実施する。
【0104】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、105から4×108Pa、より具体的には105から106Pa、さらにより具体的には100000から300000Paの圧力で還元を実施する。
【0105】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、水熱還元は、1分から24時間、より具体的には1分から20時間、さらにより具体的には1から6時間、さらにより具体的には約3時間の期間実施される。この工程で使用される時間に応じて、また、化学的還元の範囲の結果として、rGOの特性、具体的には、結果として得られる還元されたGO膜の静電容量が調節され得る。
【0106】
最後に、分離されたrGO膜を得るために、これを基板から取り外す。これは、還元型GO材料(rGO)を水に浸漬し、浮遊する還元型GO材料(rGO)を回収することによって行うことができる。
【0107】
特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上と併せて、本発明はまた、先に定義した還元型酸化グラフェン(rGO)膜の調製方法に関し、それは、以下の工程、すなわち、
a)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
b)膜を乾燥させる工程と、
c)膜の裏側に水分を補給する工程と、
d)膜を反転させる工程と、
e)膜から犠牲基板上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の犠牲基板との間に配置される、工程と、
iii)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が犠牲基板上に付着したまま残る、工程と、
iv)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
v)上記rGO材料を犠牲基板から取り外す工程と、
を含む。
【0108】
先に定義した電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造を形成する追加の導電層を有するrGO材料を調製するために、犠牲基板の代わりに追加の導電層を使用するという条件で、工程i)からiv)を含む前述の方法と同様の方法を使用することができる。この場合、工程v)(rGO材料を分離するための基板の除去)を行う必要はない。
【0109】
したがって、一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造が、以下の工程、すなわち、
i’)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
ii’)膜から追加の導電性支持体上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の膜と下部の追加の導電層との間に配置される、工程と、
iii’)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が追加の導電性支持体上に付着したまま残る、工程と、
iv’)特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、GO膜を水熱還元して還元型GO材料(rGO)を形成する工程と、
を含む方法によって得られる。
【0110】
別法では、追加の導電層を有するrGO材料は、工程i)からv)を含む上記の方法を経た後に、グラフェン材料を追加の導電層に付着させるか、又は、工程i)からiv)を含む上記の方法を経た後に、グラフェン材料を追加の導電層に転写し、犠牲基板を除去するかのいずれかによって調製することができる。
【0111】
rGO膜の調製方法に関連する上述した特定の実施形態は、電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造の調製方法にも適用される。
【0112】
特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造は、電解質系、より詳細には、水性環境で電気的に活性化される。この活性化は、材料を電解質に入れることと、材料/電解質界面を通して電気信号を送ることとを含む。これは、界面インピーダンスを低下させながら、導電性及び界面容量を改善するという利点を有する。典型的には、この方法は、rGO膜の厚さに応じて、10mC/cm2まで注入することができるようになるまで、電極の不可逆的損傷を伴うことなく適用することができる。
【0113】
上述したように、高い電荷注入特性を有する還元型酸化グラフェン(rGO)材料は、電子デバイス、より詳細には、マイクロ電極などの埋込み型デバイスの製造に使用され得る。したがって、還元型酸化グラフェン(rGO)膜又は電気的にバックコンタクトの導電性還元型酸化グラフェン(rGO)構造を含む、電気信号を検出する、受信する、かつ/又は、引き出すための電子デバイスも本発明の一部を形成する。
【0114】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した電子デバイスは、神経電極、より詳細には、マイクロ電極である。より詳細には、マイクロ電極は、円形であり、1から300マイクロメートルの直径を有する。
【0115】
神経インターフェースとして使用され得る電子デバイス(埋込み型及び非埋込み型)の例としては、皮質電極(術中脳マッピングに使用される)、網膜インプラント(視力を改善するために使用される)、脊髄刺激デバイス(慢性疼痛に使用される)、脳深部電気刺激(DBS)インプラント(パーキンソン病に使用される)、蝸牛インプラント(聴力を改善するために使用される)、迷走神経刺激デバイス(VNS)(てんかんに使用される)、仙骨神経刺激デバイス(失禁のための神経調節に使用される)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した電子デバイスは、導電性リード、例えば、Au、Ptのような金属又はインジウムスズ酸化物のような他の導体でパターン化された可撓性基板であって、その上にrGO膜又は電気的にバックコンタクトの導電性rGOベースの材料が堆積された、可撓性基板と、上部に開口部を有する封止(パッシベーション層又は絶縁層とも呼ばれる)とを備える。パッシベーション層は、導電性リードを覆い、グラフェン電極層を露出させたままにする。
【0117】
本発明では、「可撓性」という用語は、デバイスが破損又は亀裂を生じることなく曲げられる能力を指す。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、可撓性基板は、ポリイミド又はパリレンCで作製される。
【0118】
別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、封入層は、ポリイミド、パリレンC又はSU8(例えば、SU-8 2000、Microchem)で作製され、これは、マイクロ機械加工及び他のマイクロ電子用途のために設計された高コントラストのエポキシ系フォトレジストである。
【0119】
先に定義した電子デバイスは、異なる形状を有してもよい。すなわち、特定の用途ごとに適切な形状を選択することができる。一実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した埋込み型電子デバイスは、円形、六角形、又は環状の断面を有する。
【0120】
特定の実施形態では、任意選択で、上記又は下記に記載される様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した電子デバイスは、10から30μmの厚さを有する。
【0121】
複数の電極は、電極アレイに形成されてもよい。したがって、別の実施形態では、任意選択で、上記又は下記の様々な実施形態の1つ以上の特徴と併せて、先に定義した電子デバイスは、マイクロ電極のアレイである。アレイは、典型的には、4から256個のマイクロ電極、より詳細には、5から100マイクロメートルの範囲の直径を有する円形のマイクロ電極を含むことができる。マイクロ電極は、典型的には、10から300マイクロメートルの範囲であり得る電極間距離で離間されていてもよい。
【0122】
電子デバイスは、以下の工程、すなわち、金属基板を画定する工程と、任意選択で、金属上にSLGを堆積させる工程と(任意選択)、追加の導電層を転写する工程と、GO膜を調製して前述のように転写(上下逆)する工程と、グラフェン含有マイクロ電極を画定する工程と、デバイスに埋め込まれたGO膜を先に開示したように不動態化及び水熱還元する工程とを含む方法によって製造することができる。
【0123】
一実施形態では、電子デバイスは、以下の工程、すなわち、
a)標準的な光リソグラフィ法を用い、フォトレジストを使用して第1の基板(SiO2ウェハなど)をパターニングして、所望のパターン、例えば、フォトレジスト内の直径約25マイクロメートルの円形パターンを開く工程と、
b)工程a)の第1の基板上に、クロム、チタン、及び/又は金の層を蒸着させる工程と、
c)フォトレジストを、例えば、ウェハをアセトンに浸し、次にイソプロパノールに浸すことによって除去する工程と、
d)工程c)の第1の基板をブロー乾燥する工程と、
e)任意選択で、先に定義した追加の導電層、例えば、SLGを、工程d)の第1の基板上に転写する工程と、
f)酸化グラフェン(GO)溶液を、多孔質膜を通して濾過し、それによって、多孔質膜の上部にGO膜を形成する工程であって、特に、酸化グラフェン(GO)溶液が水溶液であり、溶液中の酸化グラフェン(GO)の濃度が0.001から5mg/mLであり、濾過された体積が5から1000mLである、工程と、
g)膜から工程e)の導電層上にGO膜を転写する工程であって、GO膜が上部の多孔質膜と下部の導電層との間に配置される、工程と、
h)膜を除去する工程であって、それによってGO膜が導電層上に付着したまま残る、工程と、
i)フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングの組み合わせを用いてグラフェン含有マイクロ電極の面積を画定する工程と、
j)パッシベーション層、例えば、ポリイミド層をスピンコーティングし、それを硬化させて金属接点を電気的に絶縁する工程と、
k)パッシベーション層を介したフォトリソグラフィ反応性イオンエッチングを用いてマイクロ電極領域をパターンニングして開口する工程と、
l)工程k)のマイクロ電極を、特に、100から240℃の温度で、105から4×108Paの圧力下、1分から24時間の期間、水の存在下で、水熱還元する工程と
を含む方法によって製造することができる。
【0124】
アモルファスrGO膜の調製方法に関連する上述した特定の実施形態は、電子デバイスの調製方法にも適用される。
【0125】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、「含む」という語及びこの語の変形は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素又は工程を排除することを意図するものではない。さらに、「含む」という語は、「からなる」の場合を包含する。本発明のさらなる目的、利点及び特徴は、本明細書を検討することで当業者に明らかになり、あるいは、本発明の実施によって理解することができる。以下の実施例及び図面は例示として提供され、それらは本発明を限定することを意図するものではない。さらに、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態のすべての可能な組み合わせが本発明の射程に入る。
【実施例】
【0126】
本発明の膜の形態学的及び化学的特性評価
本発明の膜のすべての特性評価試験のためのベース基板は、Si/SiO2(400μm/1μm)の正方形(1×1cm2)であった。
【0127】
XPS
XPS測定は、単色アルミニウムKα X線源(1486.74eV)を使用して、超高真空条件(ベース圧力5×10-8Pa)で、Phoibos 150分析器(SPECS GmbH、ベルリン、ドイツ)を用いて行った。パスエネルギー50eV、ステップサイズ1eVで概要スペクトルを取得し、パスエネルギー20eV、ステップサイズ0.05eVで高分解能スペクトルを取得した。これらの最後の条件における全体的な分解能は、スパッタされた銀のAg 3d5/2ピークの半値幅を測定することによって決定されるとおり、0.58eVである。
【0128】
XRD
XRD測定(θ-2θスキャン)を、Malvern PANalyticalのMaterials Research Diffractometer(MRD)で行った。この回折計は、4つの円形状の水平オメガ-2シータゴニオメータ(半径320mm)を有し、Cu Kαアノード(λ=1.540598Å)を有するセラミックX線管で動作した。使用した検出器は、Medipix2テクノロジーに基づく高速X線検出器であるPixcelである。
【0129】
TEM
EGNITEサンプルの断面試験のために、FIBラメラをHelios NanoLab DualBeam(LMA-INA、サラゴサ)で準備した。HRTEM及びHAADF-STEM技術を含む、200kVで操作したTECNAI F20 TEMを使用した透過型電子顕微鏡法によって構造分析を行った。
【0130】
STEM-EELS
STEM-EELS実験は、200KeVで動作するTecnai F20顕微鏡で、5mmの開口、30mmのカメラ長、収束角12.7mrad及び収集角87.6mradで行った。コア損失取得の開始エネルギーとして0.5eV/px及び250eVを使用したため、1839eVで予想されるSi kエッジ、2122eVでのPt Mエッジ、及び2206eVでのAu Mエッジは取得されなかった。相対的なC-O原子組成は、GO層に注目し、分析されたエッジ(この場合はCとO)の合計が100%であると仮定して取得した。この仮定は、SIマップで証明されるように、本発明の場合に有効である。エネルギー微分断面積は、Hartree-Slaterモデルを使用して計算し、バックグラウンドは、低出力モデルを使用して計算した。
【0131】
実施例1-SiO2上の水熱還元型酸化グラフェン膜(HTrGO)
水熱還元型酸化グラフェン膜は、以下の3つの工程で合成される。
工程1:濾過 20mLの0.15mg/mL酸化グラフェン水溶液(GO)(N002-PS-1.0酸化グラフェン溶液、Angstron Materialsを使用すると、このGOは通常、0.5から1.0のC/O比を示す)を、25nmの細孔を有するニトロセルロース膜(VSWP04700、MF-Millipore(商標)メンブレンフィルター、親水性、0.025μm、47mm、白色、無地)を通して濾過した。名目上、GO溶液は、幅554nm(平均x-y横方向寸法)で厚さ1~1.2nm(平均z方向寸法)のフレークを含有した。膜の上に厚さ1500nmのGO膜を置いて濾過した。濾過プロセスでは、10KPaの真空を生成することができるポンプを使用する。
【0132】
工程2:転写 その後、ニトロセルロース膜の裏面を、1cm2当たり1mlのジオン化水を使用して再水和した。次に、膜を、GO膜を間に挟んで、SiO2ウェハ(MicroChemicals GmbH)に対して配置した。窒素を膜側から30秒間吹き付け、膜-GO膜-SiO2を20kg/cm2を少なくとも1秒間印加することによってプレスした。この工程の後、膜をSiO2から剥離すると、GO膜はSiO2ウェハ上に付着したまま残った。
【0133】
工程3:還元 次いで、GO膜を有するSiO2ウェハをオートクレーブに入れ、135℃で3時間水熱還元した。
【0134】
上記のようにして調整した膜は、以下の特性を示した。
-XPSによって示される還元型GO(
図4a及び4b)
【0135】
実施例2-追加の導電性支持体(単層グラフェン)を備えた水熱還元型酸化グラフェン膜(HTrGO)
単層グラフェン(SLG)を、銅箔(Alfa Aesar Coated)上に化学蒸着によって成長させた。銅箔を、3ゾーンオーブンによって加熱した平面石英管(長さ:1600mm、内径:60mm)に入れた。10000Pa(10KPa)で400sccmのアルゴン流下、1015℃で1時間の最初のアニーリング工程に続いて、1000sccmのアルゴン、200sccmの水素及び2sccmのメタンのガス混合下、1200Pa(1.2KPa)で15分間の成長工程を行った。
【0136】
湿式化学法を用いて、グラフェンを銅箔からSiO2基板に転写した。最初に、ポリ(メチルメタクリレート)PMMA A2(MicroChem)をグラフェン/銅箔上に堆積させ、12時間乾燥させた。続いて、裏面グラフェンをエッチングした。これを達成するために、FeCl3/HCl(0.5M/2M)で構成されたエッチャント溶液の表面にサンプルを2分間置いた。次いで、サンプル側の背面を水で洗い流した。サンプルをエッチング液上に置き、少なくとも6時間銅を除去した。次いで、サンプルを水中で数回洗浄し、SiO2ウェハ上に転写した。ウェハをホットプレート上で40℃にて30分間乾燥させ、次いで真空オーブン内で180℃まで徐々にアニールした。最後に、PMMAをアセトン及びイソプロパノールに溶解した。
【0137】
GO膜を実施例1の工程1及び2で説明したように調整及び転写し、SiO2ウェハをこの実施例に記載されるSLG/SiO2スタックで置き換えた。使用される転写方法は、Hebertら, Advanced Functional Materials,Vol.28(2018年3月)に記載されているものである。最後に、GO/SLG/SiO2ウェハをオートクレーブに入れ、135℃で3時間水熱還元した。
【0138】
HTrGOの構造特性は実施例1と同様であった。ただし、この場合、GO膜は、導電性透明層(SLG)上に配置された。
【0139】
実施例3-HTrGO/SLGスタック(EGNITE)に基づくマイクロ電極
単層グラフェン(SLG)を実施例2で説明したように成長させた。
金属マイクロ電極を以下のようにSiO2ウェハ上に画定した。最初に、標準的な光リソグラフィ法を使用してフォトレジスト(AZ5214 MichroChemicals GmbH)でウェハをパターニングし、その結果、直径25マイクロメートルの円形パターンがフォトレジストに開口した。その後、クロム(10nm)/金(200nm)の層をウェハ上に蒸着した。その後、ウェハをアセトンに浸漬し、次いでイソプロパノールに浸漬することによってフォトレジストを除去し、最後にウェハをブロー乾燥した。次いで、実施例2で説明したように、マイクロ電極付きウェハ上にSLGを転写した。濾過されたGO膜を、実施例1の工程1及び2に記載されているようにSLG上に転写し、このとき、SiO2ウェハは、実施例2に記載されているSLG/SiO2スタックによって置き換えられる。このとき、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングを組み合わせを用いることによって、グラフェン含有マイクロ電極の面積を画定した。次に、ポリイミドPI 2611(HD MicroSystems)の層のパッシベーションをスピンコーティングし、硬化させて金属接点を電気的に絶縁した。次いで、マイクロ電極領域をフォトリソグラフィでパターニングし、ポリイミドを介した反応性イオンエッチングで開口した。
【0140】
最後に、GO/SLG/金属マイクロ電極を含むウェハをオートクレーブに入れ、135℃で3時間水熱還元した。
【0141】
直径25マイクロメートルの電極の電気化学的特性を、3電極構成を使用するSP-200 Bio-Logicポテンショスタットを備えたリン酸緩衝液(PBS)0.5M中で特性評価した。作用電極をグラフェンマイクロ電極に接続し、対極を大きな白金線とし、参照電極をAg/AgClとした。
【0142】
サイクリックボルタンメトリー特性評価(-0.9から+0.9V)により、1.8Vの広い電位窓を有する準理想的な容量挙動が明らかになった。これらの測定から、50mF/cm2の静電容量(直径25マイクロメートルの電極の幾何学的面積によって正規化される)及び40mC/cm2の電荷蓄積容量(CSC)が得られた。表面積対体積比(SAVR)は、2×109m-1である。
【0143】
電荷注入限界を調べるために、電流パルス実験(パルス幅1ms)をマイクロ電極に注入した。この測定により、電位窓の安全限界を超えることなく、8mC/cm2の電荷注入限界を注入できることが証明された。
【0144】
マイクロ電極の電気化学インピーダンス分光法により、1kHzの周波数で20kΩのインピーダンスが明らかになった。
【0145】
実施例4-HTrGO/SLGスタックに基づく可撓性マイクロ電極アレイ
8×8マトリックスに配列され、1.44mm2の総面積をカバーする64個のマイクロ電極のアレイを用意した。マイクロ電極は、25μmの直径を有し、互いに300μm離間している。
【0146】
まず、厚さ10μmのポリイミド(PI,PI 2611 HDマイクロシステム)の層をSiO2ウェハの上にスピンコーティングし、硬化させた。この基板PI層上に、光リソグラフィと電子ビーム金属蒸着を用いて、金リード(Ti及びAu、10nmのTi及び200nmのAu、の二層からなる)をパターニングした。これに続いて、SLG及びGO膜を転写し、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチングによってそれらのパターニングを行った。次に、マイクロ電極上に開口部を有するPIのパッシベーション層によって、リードのいかなる漏れも防止した。次いで、光リソグラフィと反応性イオンエッチングの組み合わせを用いて、PIの基板及びパッシベーション層を切断することによってデバイスの縁部をパターニングした。最後に、デバイスをSiO2ウェハから剥がし、滅菌パウチに入れて135℃のオートクレーブに3時間入れた。
【0147】
可撓性アレイ内のマイクロ電極の電気化学的特性(電荷蓄積容量、電荷注入限界、及びインピーダンス)は、製造された個々のマイクロ電極について実施例3で報告されたものと同じである。
【0148】
実施例5-追加の導電性支持体(金)を備えたHTrGOに基づく可撓性マイクロ電極アレイ(EGNITE)
デバイスを4インチSi/SiO2(400μm/1μm)ウェハ上に作製した。まず、厚さ10μmのポリイミド層(PI-2611、HD MicroSystems)をウェハ上にスピンコートし、窒素リッチの雰囲気中、350℃で30分間ベークした。金属トレースを、画像反転フォトレジスト(AZ5214、Microchemicals GmbH、ドイツ)の光リソグラフィを使用してパターニングした。電子ビーム蒸着を使用して、20nmのTi及び200のAuを堆積させた。
実施例1の工程1及び2で説明したようにGO膜を調整及び転写し、SiO2ウェハを金ポリイミドシリコンオキシドで置換し、次いでGO膜を厚さ100nmのアルミニウムマスクを使用して構造化した。具体的には、アルミニウムのカラムを電子ビーム蒸着し、負のフォトレジスト(nLOF 2070、Microchemicals GmbH、ドイツ)を使用したリフトオフによって将来のマイクロ電極の上に画定した。次に、GO膜を、500Wで5分間、酸素反応性イオンエッチング(RIE)を使用して、将来のマイクロ電極を除くすべての場所をエッチングした。その後、保護Alカラムをリン酸及び硝酸の希釈溶液でエッチングした。この工程で得られたGO膜は、導電体基板の上に完全に置かれていた。その後、PI-2611の厚さ3μmの層をウェハ上に堆積させ、先のように焼成した。次いで、マイクロ電極上のPI-2611開口部を、後続の酸素RIEのマスクとして機能するポジ型の厚いフォトレジスト(AZ9260、Microchemicals GmbH、ドイツ)を使用して画定した。その後、再びAZ9260フォトレジスト及びRIEを使用して、デバイスをPI層上にパターニングした。次いで、フォトレジスト層をアセトン中で除去し、ウェハをイソプロピルアルコール中で洗浄し、乾燥させた。最後に、デバイスをウェハから剥がし、滅菌パウチに入れ、標準的なオートクレーブ中、134℃で3時間水熱還元した。
【0149】
上記のようにして作製した膜は、以下の特性を示した。
-rGO層のスタックを含む約1500nmの総膜厚を有する膜(
図2Aを参照)
-25×25μm
2の面積に対して約55nmの二乗平均平方根粗さ(
図2B)
-HRTEM(
図3a~d)及びXRD(
図3e)によって明らかにされる約0.4nmの積層間距離
-ラマンスペクトルにおけるD対G比は、20×20μm
2の面積に対して1.14であり、欠陥のある炭素材料であることを示していた(
図3f参照)
-約0.2Ω・cmの抵抗率(
図4c)
-EELS-EDXから推定される膜のバルクの元素組成は、炭素85%超、酸素15%未満であった(
図5)
【0150】
実施例6-げっ歯類における皮質活性のインビボ記録
このセクションでは、低ノイズでインビボ神経活動を記録するための実施例4のマイクロ電極アレイの適合性を示す。そのために、本発明によるマイクロ電極のアレイを含む可撓性マイクロ皮質電図検査(μECoG)デバイスを、聴覚刺激を提示しながら聴覚皮質の表面に配置して、その領域の神経生理学的活動を記録した(
図6(a))。
【0151】
使用されるデバイスの設計 2つの可撓性マイクロ皮質電図デバイスを使用した、すなわち、1つは本発明のアレイ(EGNITEと呼ばれる)に基づくものとし、もう1つは白金(Pt)基づくものとした。両方のデバイスは、64個のマイクロ電極の可撓性アレイから構成されていた。本発明のマイクロ電極の直径は25μmであり、Pt電極の直径は60μmであった。マイクロ電極間の間隔は、本発明のアレイでは300μmであり、Ptアレイでは500μmであった。
【0152】
使用するデバイスの作製実施例4で説明したように、本発明によるデバイスを作製した。Ptベースのデバイスは、商業的に入手した(E64-500-20-60、NeuroNexus、米国)。
【0153】
使用したデバイスの特性評価 実験を開始する前に、両方のアレイのインピーダンスを1kHzで測定した。発明によるデバイスについては、55±15kΩのメジアンインピーダンスが得られた一方で、Ptアレイについては、650±200kΩが得られた(
図6b)。
【0154】
インビボ神経記録設定及びプロトコル 次に、マイクロ皮質電図検査(μECoG)デバイスをげっ歯類の聴覚新皮質上に同時に配置せず(
図6(c)の本発明によるデバイス)、8kHzの純音を表示した。神経生理学的シグナルを増幅し、多重化し、デジタル化し、0.1Hzでハイパスフィルタリングした。
【0155】
インビボ神経記録結果
図6(d)及び
図6eは、それぞれ本発明によるデバイス及びPtデバイスによって記録された信号を示す。これらの両方において、誘起局所場電位(LFP)は、オーディオ信号の開始後約30msでベースラインに対して約500μVの振幅に達することを検出することができた。本発明のマイクロ電極のみが、おそらくは聴覚皮質におけるその局在化のために、音声信号のオフセットにLFPを記録した。死後の条件下での電極の固有ノイズは、本発明によるデバイス及びPtについても、それぞれ
図6(d)及び(e)において、誘発されたLFP上に重なって示されている。本発明によるデバイスの場合、ピーク間振幅は12μVであったのに対し、Ptは15μVに達した。
【0156】
インビボ及び死後の信号からのパワースペクトル密度(PSD)を観察することで、本発明によるデバイスの記録能力をさらに検証して、Ptと比較することができる(
図6(f))。死後のデータの分析から、PSDを10Hzと10kHzとの間で積分した場合、Ptの3.2μVに対して、本発明によるデバイスでは、2.9μVのrmsノイズが得られた。インビボデータのPSD試験は、本発明のマイクロ電極が、20Hzから10kHzにおいて、Pt電極よりも多くの神経生理学的データを捕捉できることを示した。この現象は、
図6(g)でも観察することができ、この図では、シグナル対ノイズ比(SNR)を、インビボ及び死後のシグナルを使用して計算した。そこでは、本発明のマイクロ電極の固有ノイズがPtに対してより低いために、本発明によるデバイスのSNRは、2Hzから2kHzで、Ptを1桁上回り、2~8kHzの範囲で5倍に達した。
【0157】
実施例7-ラットにおけるインビボ神経活性刺激
このセクションでは、選択的神経刺激のための埋込み型神経補綴デバイスに使用される本発明によるマイクロ電極の適合性を提示する。そのために、実施例4のマイクロ電極アレイを作製し、急性実験においてラットの坐骨神経に横方向に埋め込んだ。デバイスは、神経内の異なる神経束の軸索サブセットを選択的に刺激し、その間に、足底(PL)、腓腹筋(GM)及び前脛骨筋(TA)の筋肉の活性化を筋電図(EMG)信号によって記録した(
図7(a))。
【0158】
使用されるデバイスの設計 インプラントは、それぞれが本発明による直径25μmの18個のマイクロ電極を上面に有する長い可撓性の折り畳み可能なストライプから構成されていた。ストライプは、18個のマイクロ電極が9個からなる2つのアレイに振り分けられ、それぞれがストライプの片側に面するようにV字形に折り畳まれた。このようにして、2つのアレイは、それぞれ、ラットの坐骨神経の直径と同様の長さである1.2mmの全長に及ぶ。
【0159】
使用するデバイスの作製 実施例4で説明したようにデバイスを作製した。
【0160】
使用したデバイスの特性評価 埋め込みを開始する前に、マイクロ電極の特性評価を行い、400μA及び100μs/相持続時間の二相パルスで8mC/cm2を確実に注入するのに適していること、及び、平均インピーダンスが55±15kΩであることを実証した。
【0161】
インビボ神経刺激設定及びプロトコル 次に、デバイスを、麻酔をかけたラットの坐骨神経の線維束内に、9個のマイクロ電極からなる2つのアレイがPL、GM及びTA筋の神経支配を担う束又は副束を横切るように、埋め込んだ(
図7(b、c))。その後、電気刺激を各マイクロ電極を通して神経に注入し、3つの筋肉のそれぞれで取り出される複合筋活動電位(CMAP)の振幅を、GM、PL及びTA筋腹に挿入した単極針を通してモニタリングした。測定された振幅は、坐骨神経におけるステンレス鋼針電極を使用した最大強度での外部刺激によって事前に得られた最大CMAP振幅に対して正規化した。刺激は、神経の近位に配置された外部参照電極に対して0から100μAの範囲の増加する電流振幅を有する100個の二相性パルスの列で構成された。
【0162】
インビボ神経刺激の結果 PL、GM及びTAの3つの筋肉はすべて、誘発された刺激の結果として収縮を示した(
図7(d、e))。刺激と筋反応との間の遅延は、神経に沿った信号伝達時間に起因して約20msであった。筋反応は、注入された電流の振幅と共に増加し、特定の閾値より上でのみ生じた。閾値よりも連続的に高い電流を注入すると、最終的に筋収縮が飽和する(
図6)。低い閾値を実現することは、組織に起こり得る損傷を最小限に抑えるために非常に重要である。本発明によるデバイスを用いて得られた閾値を文献(表1)と比較すると、本発明によるマイクロ電極を用いて行われた刺激(EGNITE)は、すべての場合において、5%及び95%について以前に報告された最小活性化閾値の両方を、2倍から3倍低下させ得るということが起こっている。
【0163】
【0164】
実施例8-生体適合性試験
基板へのタンパク質吸着
熱不活化ウシ胎児血清(FBS、Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)を異なる基板(すなわち、実施例5のEGNITE;ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート、PEDOT:PSS、以後PEDOTと呼ぶ、又は、組織培養ポリスチレン、TCPS)の4つのリピート上にドロップキャスト(150μL)した。室温で4時間インキュベートした後、過剰のFBSを吸引し、基板をPBS(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で2回洗浄して非吸着タンパク質を除去した。次いで、サンプルを、蒸留水(Millipore、Merck、英国)中1%ドデシル硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)と共に室温で30分間インキュベートして、吸着したタンパク質を脱着させた。Pierce BCA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific、英国)及び吸光度測定用の562nmで作動する分光測光プレートリーダー(Fluostar Omega、BMG Labtech、英国)を使用し、製造元の取扱説明書に従って、総タンパク質含有量を定量した。得られた結果によれば、細胞が基板上に付着して増殖する能力について、EGNITEとTCPSとの間に有意差(基準となる組織培養ポリスチレン)は予測されない。
【0165】
ニューロン細胞培養物
ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y(ATCC(登録商標)CRL-2266(商標))、LGC標準、英国)をDMEM、すなわち、20mMグルタミン(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)、10% FBS(英国Thermo Fisher ScientificのGibco)、1000単位ペニシリン及び1mg/mLストレプトマイシン(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)を補充したF12細胞培養培地(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で、加湿5%のCO2インキュベーター(NuAire、米国)中、37℃で維持した。細胞を、80%のコンフルエンスに達したときに、0.05%トリプシンEDTA溶液(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)を使用して週に2回継代した。すべての実験は、20未満の継代数を有する細胞を使用して行った。
【0166】
細胞生存率アッセイ
SHSY5Y細胞を、12ウェルプレート(最終容量1mL、Corning、米国)に基板あたり50000細胞(すなわち、実施例5のEGNITE、PEDOT、TCP)で播種した。TCPSウェル上で増殖させた細胞の培地に10% DMSOを添加することによって、細胞死のポジティブコントロールを確立した。異なる基板上での24時間の細胞増殖後、レサズリンナトリウム塩(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)をPBSに溶解して0.15mg.mL-1(10×溶液)にすることによって得られた滅菌濾過レサズリン溶液を各ウェルに添加して、10倍希釈にした。37℃で2時間インキュベートした後、150μLの細胞培養上清を黒色96ウェルプレート(Greiner Bio-one、ドイツ)に移し、残りの培地を吸引し、細胞をPBSで洗浄し、新鮮な完全細胞培養培地を添加し、細胞を次回のために37℃でインキュベートした。96ウェルプレートから生じる蛍光を、Fluostar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech、英国)を使用して、560nmの励起波長及び590nmの発光波長で測定した。蛍光値を正規化して、TCPSサンプルの平均蛍光とした。異なる基板上での48時間の細胞増殖後、同じ手順を行った。48時間での残りの細胞を使用して、細胞計数を行った(トリパンブルーアッセイ)。
【0167】
細胞計数アッセイ
SHSY5Y細胞を、12ウェルプレート(最終容量1mL、Corning、米国)に基板あたり50000細胞(すなわち、実施例5のEGNITE、PEDOT、TCP)で播種した。TCPS基板上で増殖させた細胞にDMSO 10%を添加したものを、このアッセイのポジティブコントロールとして使用した。48時間の細胞増殖後、上清を捨て、細胞をPBS(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で2回洗浄した後、トリプシンEDTAの溶液を塗布して(0.05%、Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)、細胞を剥離した。次いで、細胞懸濁液のアリコートをトリパンブルーの滅菌溶液(0.4%、Thermo Fisher Scientific、英国)と1:1で混合した後、血球計算器(BRAND計数チャンバBLAUBRAND Neubauerの改良型)を使用して細胞計数を行った。
【0168】
細胞傷害性アッセイ
SHSY5Y細胞を、12ウェルプレート(すなわち、最終容量1mL)に基板あたり50000細胞(すなわち、実施例5のEGNITE、PEDOT、又はTCPS)で播種した。TCPS基板上で増殖させた細胞にDMSO 10%を添加したものを、このアッセイのポジティブコントロールとして使用した。細胞傷害性を評価するために、改変バージョンの乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイを行った(CytoTox 96非放射性細胞傷害アッセイ、Promega LDHアッセイキット)。簡潔に説明すると、上清培地を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄した。次いで、ウェルの底部の生細胞を200μL溶菌液(水中0.9%のTriton X(Sigma Aldrich))で、37℃で45分間溶解した。細胞溶解物(50μL)をLDH反応溶液と1:1で混合した。混合物を、安定した赤色が現れるまで室温で15~20分間インキュベートした後、50μLの停止溶液を各ウェルに添加した。次いで、Fluostar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech、英国)を使用して、ウェルの吸光度を490nmで測定した。吸光度値をTCPSコントロールと比較して表した。
【0169】
上記の実験は、EGNITE膜上で48時間培養した後に、TCPSと比較して生存率と細胞増殖が増加したことを示した。
【0170】
EGNITEでの初代海馬ニューロン成長
初代ニューロン細胞培養物を、3日齢の新生ラット脳(REF Pacific)から抽出した海馬から調製した。英国内務省からの倫理的承認に従い、1986年制定の英国動物(科学的手順)法及びARRIVEガイドラインに従って、プロジェクトライセンス番号P089E2E0Aの下で、新生児動物の屠殺を行った。生細胞の数を決定した後、最初の3日間、細胞を、B27サプリメント(英国Thermo Fisher ScientificのGibco)、1000単位ペニシリン及び1mg/mLストレプトマイシン(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)、及び0.5mMグルタミン(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)を含有する無血清神経基礎培地(英国Thermo Fisher ScientificのGibco)中、基板あたり40000細胞の密度で、ガラスカバースリップ又は実施例5のEGNITE(両方とも50μg/mLポリ-L-リジンでプレコーティングされている)のいずれかに播種した。培養物を加湿5%のCO2インキュベーター(NuAire、米国)中37℃で14日間維持し、ウェルの体積の半分を3日ごとに変えた。
【0171】
細胞の免疫染色
培養後、SHSY5Yと初代ニューロンの両方をPBS(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で3回洗浄した後、PBS中4% PFA(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で、室温で10分間固定した。次いで、固定した細胞を、PBSで希釈した0.1% Triton X(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で5分間透過処理した後、ヤギ血清の5% PBS溶液(Sigma-Aldrich、Merck Sigma、英国)で1時間ブロッキングした。次いで、細胞を一次抗体の溶液と共に室温で2時間インキュベートした(β-IIIチューブリン、ABCAM ab1827、ウサギ、1:200で使用)。一次抗体とのインキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄した後、二次抗体(CY3とコンジュゲートした抗ウサギ、Jackson 111-165-144、1:100で使用)と室温で1時間インキュベートした。染色後、細胞を十分に洗浄した後、DAPI(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific、英国)を含有するProlong Gold Antifade mountantのカバーガラスを取り付けた。PEDOT:PSS又はTCPSと比較して、EGNITE上で細胞がより繁殖し、より健康であり、より多数であることが観察された。
【0172】
β-IIIチューブリン免疫反応性の顕微鏡画像化
共焦点レーザー走査型顕微鏡観察をZeiss LSM 880(Systems Microscopy Centre,Manchester Bioimaging Facility,Faculty of Biology,Medicine and Health,the University of Manchester)で行った。1 AUピンホール及び2%レーザー出力を使用して画像をキャプチャした。Zeiss ZENソフトウェアパッケージを使用して事後的に画像処理を行った。表示される画像は、10個の共焦点スライスの最大強度投影であり、スケールバーは100μmである。
【0173】
得られた結果によれば、14日間の培養後、EGNITE上で増殖させたニューロンは、十分に個別化された分岐ニューロンのネットワークを形成したが、ガラスカバースリップ上で増殖させたニューロンは凝集する傾向があり、それらの延長部が束ねられた。
【0174】
統計解析
Graphpad Prismソフトウェアを使用するマン・ホイットニーのU検定を、すべてのインビトロ細胞培養アッセイに適用した。すべての実験について、p値を、(*)p<0.05、(**)p<0.01、(***)p<0.005、(****)p<0.0001、のように表示した。