(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】腐植酸抽出液
(51)【国際特許分類】
C05F 11/02 20060101AFI20241031BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20241031BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20241031BHJP
【FI】
C05F11/02
C05D9/02
C05G5/20
(21)【出願番号】P 2021563994
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045788
(87)【国際公開番号】W WO2021117755
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019224175
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】本田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大雅
(72)【発明者】
【氏名】一條 利治
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095555(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0001472(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Fe、Zn、Moのうちの1種以上を含有する電気伝導度が90ms/cm以上の液体肥料と混合した際に沈殿を形成
せず、
質量平均分子量100~1,200の腐植酸を含み、全有機炭素濃度15,000~24,900mg/L、pH1.0~3.0である腐植酸抽出液。
【請求項2】
質量平均分子量100~1,200の腐植酸を含み、全有機炭素濃度15,000~
24,900mg/L、pH
1.0~
3.0である腐植酸抽出液。
【請求項3】
水で希釈された請求項
1又は2に記載の腐植酸抽出液。
【請求項4】
下記(1)~(5)の工程からなる、請求項1
又は2に記載の腐植酸抽出液の製造方法。
(1)若年炭20質量部に対して硝酸20~36質量部を添加する工程。
(2)(1)で得られた混合物を、70~95℃の条件下で1~6時間反応させ、腐植酸粗製物を調製する工程。
(3)腐植酸粗製物に水とアルカリを添加する工程。
(4)液温40~95℃の条件下で0.5~24.0時間抽出する工程。
(5)(4)で得られた腐植酸粗抽出液を固液分離し、腐植酸抽出液を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐植酸抽出液に関する。
【背景技術】
【0002】
腐植酸とは土壌中や陸水中に存在する天然の高分子有機物である。腐植酸としては、褐炭や泥炭中に含まれる腐植酸、細菌群の代謝産物由来や動植物由来の天然腐植酸等がある。
工業的に得られる腐植酸には、褐炭等の若年炭を酸化分解した腐植酸(特許文献1)や、酸化分解物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等といった合成物(特許文献2、3)等、多くのものが存在する。
【0003】
腐植酸は植物に対して生育促進等の効果があるとされ(非特許文献1、2)、肥料用途として腐植酸を用いることが提案されている。腐植酸を抽出し液状化する技術も提案されている(特許文献4、5)。
【0004】
腐植酸は、不溶性の画分であるヒューミン、アルカリ可溶で酸不溶のフミン酸(腐植酸ともいう)、酸可溶のフルボ酸に分類する事が出来る。フミン酸とフルボ酸の違いは、pH1.0における溶解性の違いのみで規定されている(非特許文献3)。本実施形態では、フミン酸画分、フルボ酸画分について、ほぼ連続的な特性を持っている両者をまとめて腐植酸として表記する。
【0005】
これら腐植酸を肥料用途として使用する場合は、窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分との併用が好ましい。腐植酸を液体肥料として使用するために、腐植酸の効果的な抽出方法(特許文献6)や、三要素肥料を添加した腐植酸含有液体三要素肥料が提案されている(特許文献7)。肥料との共沈を生じにくい資材が提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭40-14122号公報
【文献】特開昭51-72987号公報
【文献】特開昭60-18565号公報
【文献】特開2005-89615号公報
【文献】特開2007-196172号公報
【文献】特開2017-71522号公報
【文献】特開2018-58721号公報
【文献】特開2018-95555号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】明石ら、日本土壌肥料学雑誌、第46巻、第5号、P175-179
【文献】山田ら、日本土壌肥料学雑誌、第73巻、第6号、P777-781
【文献】藤嶽、Humic Substances Research Vol3、P1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、農薬や肥料の範疇とは異なり、植物の活性を高め病害抵抗性、環境抵抗性を高める資材であるバイオスティミュラントが注目されている。作用メカニズムは十分解明されているとは言えないが、現象面として病害抵抗性や高温等の環境耐性が確認されている。
【0009】
本発明の腐植酸抽出液のpHは、特許文献7とは異なる。
【0010】
本発明の全有機炭素濃度は、特許文献8とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、沈殿を形成しにくく、作物の増収を実現する腐植酸抽出液である。本発明は、以下の通りである。
<1>Mg、Fe、Zn、Moのうちの1種以上を含有する電気伝導度が90ms/cm以上の液体肥料と混合した際に沈殿を形成しない腐植酸抽出液。
<2>質量平均分子量100~1,200の腐植酸を含み、全有機炭素濃度15,000~25,000mg/L、pH0.5~4.0である腐植酸抽出液。
<3>質量平均分子量100~1,200の腐植酸を含み、全有機炭素濃度15,000~25,000mg/L、pH0.5~4.0である<1>に記載の腐植酸抽出液。
<4>水で希釈された<1>~<3>のうちの1項に記載の腐植酸抽出液。
<5>下記(1)~(5)の工程からなる、<1>~<3>のうちの1項に記載の腐植酸抽出液の製造方法。
(1)若年炭20質量部に対し無水換算の硝酸10~40質量部を添加する工程。
(2)(1)で得られた混合物を、70~95℃の条件下で1~6時間反応させ、腐植酸粗製物を調製する工程。
(3)腐植酸粗製物に水とアルカリを添加する工程。
(4)液温40~95℃の条件下で0.5~24.0時間抽出する工程。
(5)(4)で得られた腐植酸粗抽出液を固液分離し、腐植酸抽出液を得る工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、沈殿を形成しにくく、作物の増収を実現する腐植酸を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る腐植酸抽出液の実施形態を説明する。
【0014】
本実施形態に係る腐植酸抽出液は、下記(1)~(5)の工程を経ることにより得ることが好ましい。
【0015】
(1)若年炭20質量部に対して硝酸20~36質量部を添加する工程。
(2)(1)で得られた混合物を、70~95℃の条件下で1~6時間反応させ、腐植酸粗製物を調製する工程。
(3)腐植酸粗製物に水とアルカリを添加する工程。(3)とは例えば、腐植酸粗製物に目的とする固液比以下となるように水を添加し、ついでpH0.5~4.0となるようにアルカリを添加し、さらに水を加えて、最終的に固液比が1:3~1:6となるようにする工程をいう。
(4)液温40~95℃の条件下で0.5~24.0時間抽出する工程。(4)とは例えば、所定の固液比にした腐植酸粗製物の液を、液温40~95℃の条件下で0.5~24.0時間保持することにより、抽出操作を行い、粗製の腐植酸抽出液(以下、腐植酸粗抽出液ということもある)を得る工程をいう。
(5)(4)で得られた腐植酸粗抽出液を固液分離し、腐植酸抽出液を得る工程。(5)とは例えば、遠心分離やフィルタープレスにより、未反応の残渣を腐植酸粗抽出液から固液分離し、腐植酸抽出液を分離する工程をいう。
【0016】
[腐植酸粗製物の製造方法]
ここで、若年炭とは瀝青炭等に比べ炭素含有量の少ない石炭であり、炭素含有率が83質量%以下と定義される。若年炭は、例えば、泥炭、亜炭、褐炭、亜瀝青炭等であり、これらの1種又は2種以上を混合したものを使用する。
【0017】
若年炭20質量部に対して、硝酸を20~36質量部配合し、70~95℃で1~6時間混合することにより腐植酸粗製物が得られる。ここで、硝酸の量は100%硝酸(100%HNO3)に換算した値である。硝酸としては濃硝酸が好ましい。安全性と反応性の点で、硝酸の濃度は40~60質量%が好ましい。反応のスターターとして、湯浴等で70~95℃に加温すると反応が速やかに進行する。
【0018】
[腐植酸抽出液の固液比]
腐植酸粗製物を調整するために用いた原料の若年炭の量に対する抽出溶媒の量を、固液比と定義する。例えば、若年炭20gから調整された腐植酸粗製物に溶媒(水)100g(100mL)を添加した場合、固液比は1:5となる。
【0019】
[腐植酸抽出液の製造方法]
上記腐植酸粗製物に適宜水を加え、pHを測定しながら、好ましくはpH0.5~4.0となるように、より好ましくはpH1.0~3.0となるようにアルカリを適宜加えることが好ましい。アルカリとしては、水酸化物やアンモニア等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物や水酸化アンモニウム等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。水酸化物としては、水酸化カリウム、酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム(アンモニア水)のうちの1種以上が好ましい。
pH調整後に目的の固液比となるように水を添加する。最終的に固液比は1:3~1:6が好ましく、1:4~1:6がより好ましい。
【0020】
あらかじめ腐植酸粗製物に対するアルカリ添加量を変えた試験を実施し、目的とする腐植酸抽出液のpHとアルカリ添加量を求めておくことも可能である。抽出時のpH調製で添加するアルカリは、肥料成分として利用可能な水酸化カリウムを使用する等、その使用用途により選択可能である。
【0021】
上記は湯浴等を用いて、液温40~95℃の条件下で、0.5~1時間保持し、腐植酸粗抽出液を抽出する。腐植酸粗抽出液を抽出した後、40℃以下まで冷却する。腐植酸粗抽出液から未反応の残渣を、遠心分離やフィルタープレス等で固液分離する。固液分離して得られた上澄み液を腐植酸抽出液として得る。また、本実施形態の腐植酸抽出液は脱水し粉末とした場合も水に対する溶解性が高く、スプレードライヤーや凍結乾燥等により粉状化して利用する事も可能である。
【0022】
抽出液の凍結防止や品質の悪化を防止するため、抽出時の液温は40~95℃が好ましい。抽出時間は、0.5時間以上であれば腐植酸の抽出率に大差がない。抽出時間は0.5~24時間がより好ましい。
【0023】
腐植酸抽出液は、輸送や二次製品を製造する際には濃度が高い方が有用である。ただし、高濃度の抽出液は温度の低下やpHの低下でゲル化しやすくなるため、全有機炭素濃度は15,000~25,000mg/Lが好ましく、15,300~24,900mg/Lがより好ましい。
【0024】
固液分離後の腐植酸抽出液は、そのpHを作物の生育に合わせた中性付近に調製する事も必要に応じて可能である。腐植酸の抽出は一般的にpH12前後のアルカリ性で実施されるが、この抽出液を中性付近に調製することにより腐植酸の溶解性が低下するケースがあった。本実施形態の腐植酸抽出液は抽出時のpHは0.5~4.0であることが好ましく、1.0~3.0であることがより好ましい。これにより、より腐植酸の溶解性が高まるpH域へ調製され、溶解性が低下しない。抽出された腐植酸の溶解性との関係では、抽出操作における抽出時のpHが重要であり、本実施形態においては、固液分離工程後の中性付近へのpH調製は問題とならない。
【0025】
〈作用効果〉
以下、本実施形態に係る腐植酸抽出液の作用効果について説明する。
【0026】
これまで電気伝導度が90ms/cm以上を示す高濃度の肥料成分を腐植酸と混合すると沈殿を形成しやすく、濃縮状態での混合が困難であった。肥料成分の電気伝導度が90ms/cm以上を示す金属(金属イオン)の中では、Mg、Fe、Zn、Moのうちの1種以上が腐植酸との沈殿を形成しやすい。
【0027】
Mg、Fe、Zn、Moの含有量は以下の通りである。Mg、Fe、Zn、及びMoの含有量の合計は、1000~10000mg/Lが好ましく、1000~15000mg/Lが好ましく、3000~6000mg/Lがより好ましい。Mgの含有量は1000~10000mg/Lが好ましく、3000~6000mg/Lがより好ましい。Feの含有量は50~1000mg/Lが好ましく、150~500mg/Lがより好ましい。Znの含有量は1~100mg/Lが好ましく、5~50mg/Lがより好ましい。Moの含有量は0.1~100mg/Lが好ましく、1~30mg/Lがより好ましい。
【0028】
本実施形態は、Mg、Fe、Zn、Mo以外の肥料成分、例えば下記肥料成分を含有してもよい。好ましい含有量は下記の通りである。
Pの含有量は1000~10000mg/Lが好ましく、4000~8000mg/Lがより好ましい。Kの含有量は10000~100000mg/Lが好ましく、30000~50000mg/Lがより好ましい。
Mnの含有量は10~500mg/Lが好ましく、50~150mg/Lがより好ましい。Bの含有量は1~100mg/Lが好ましく、20~80mg/Lがより好ましい。Cuの含有量は0.1~100mg/Lが好ましく、0.5~10mg/Lがより好ましい。
【0029】
養液栽培(水耕栽培)や養液土耕栽培に用いる液体肥料(水耕液)は、三要素(窒素、リン、カリウム)、二次要素(カルシウム、マグネシウム、イオウ)、微量要素(マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、塩素)の全肥料成分を含有する。液体肥料は、一般的にはその濃縮液を100倍程度に水で希釈しながら送液し施肥する。本実施形態の腐植酸抽出液を液体肥料として使用した場合は、濃縮状態の肥料に混合する事が可能であるため、既存の施設が利用可能であり、新たにタンクを増設する必要がなく、作業上の省力化が図れる。
【0030】
本実施形態の腐植酸抽出液は、肥料成分と混合しても沈殿を形成しにくい。本実施形態の腐植酸抽出液は、肥料成分の電気伝導度が90ms/cm以上と高濃度であっても沈殿を形成しにくい。本実施形態の腐植酸抽出液は、電気伝導度が90ms/cm以上を示す金属(金属イオン)が、Mg、Fe、Zn、Moのうちの1種以上である肥料成分と混合しても沈殿を形成しにくい。
【0031】
上記工程からなる腐植酸抽出液は、これまで濃縮状態での混合が不可能であった液体肥料との混合を可能とし、沈殿形成もないため、養液栽培等向けへ腐植酸含有の液体肥料を提供できる。上記工程からなる腐植酸抽出液は、沈殿形成が無いため、農業生産上のトラブルを回避できる。無機イオンのみの水耕液に対し、腐植酸を加えることにより、水耕液の緩衝能を改善でき、作物に対する活性効果を有するため、農業生産上有用な効果を与える。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0033】
[pHの測定]
pH測定はガラス電極法にて実施した。腐植酸粗製物の残渣等を含む懸濁状態の溶液(腐植酸粗抽出液)をマグネチックスターラーで撹拌しながら測定した。
【0034】
[質量平均分子量]
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製 Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定した。カラムは昭和電工(株)SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとした。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とした。
【0035】
[全有機炭素濃度]
腐植酸溶液の全有機炭素濃度(以下TOCという。)は、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用い、燃焼触媒酸化方式で測定した値である。煩雑な腐植酸の定量法(国際腐植物質学会法等、非特許文献3参照)に比べ、簡易に定量可能なTOCを本実施形態では指標としている。TOCと腐植酸の定量法により得られた腐植酸量との間には強い相関がある。原料とする褐炭の種類等により異なるが、腐植酸量はTOCの1.4~1.8倍量と推定できる。
【0036】
[沈殿の検証]
OATアグリオ株式会社製の養液栽培用肥料であるOATハウス1号を、液体肥料の代表例として検証した。
OATハウス1号の含有成分を、独立行政法人農林水産消費安全技術センターの肥料等試験法(2019)に則りICP発光分光分析法により測定した。結果を表1に示した。
独立行政法人農林水産消費安全技術センターの肥料等試験法(2019)に則り、電気伝導率計ES-71(株式会社堀場製作所製)を用いて、OATハウス1号の電気伝導度を測定した。電気伝導度は93ms/cmだった。
【0037】
【0038】
OATハウス1号150gを約800mlの水に溶解し、腐植酸抽出液をTOCとして1,000mg/Lとなるように加え撹拌した。この混合液(以下、混合液体肥料という)を1000mLになるように水を加え定容し、1000mL容メスシリンダー内で、20℃の条件下で、24時間又は30日間静置した。
【0039】
静置後に沈降した沈殿物の容量から混合液体肥料中の沈殿量を沈殿率((沈殿容量(mL)÷1000(mL))×100(%))として表した。本実施形態で沈殿を形成しないとは、沈殿率を測定できる場合、沈殿率が0.1%未満であること、好ましくは24時間静置後の沈殿率が0.1%未満であることをいう。本実施形態では、24時間静置後の沈殿率が0.1%未満であることに加え、30日間静置後の沈殿率も0.1%未満であることがより好ましい。
【0040】
OATハウス2号や他社製の養液栽培用の液体肥料(ダン化学株式会社製、住友化学株式会社製)も検討したが、ほぼ沈殿率の値に大差なかったため、代表例としてOATハウス1号を用いた。
【0041】
[実施例1]
ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭20gを500mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸41.7g(若年炭20質量部に対して100%硝酸20質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸粗製物を以下の抽出操作に供した。
【0042】
この腐植酸粗製物に水を約80ml添加し、水酸化カリウムを8.5g加えて撹拌した。pH計でモニタしつつ、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を撹拌しながら適宜加え、pH3.0とした。全量が100mlとなるように水で定容し(固液比は1:5となる)、80℃で1時間抽出した。
【0043】
この粗抽出液を40℃以下とし、揮発水分を補い、全量を100mlとした上で、3,500×gで20分間遠心分離した。得られた腐植酸抽出液は適宜希釈し、上記の測定法により、質量平均分子量、TOC及び沈殿率を測定した。結果を表2に示した。
【0044】
[実施例2]
濃度48質量%の硝酸75.0g(若年炭20質量部に対して100%硝酸36質量部)を加えて酸化反応を行い、抽出時に水酸化カリウム12.5gを添加し、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpHを3.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0045】
[実施例3]
抽出時に水酸化カリウムを8.3g加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpHを1.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0046】
[実施例4]
抽出時に水酸化ナトリウムを8.6g加え撹拌し、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えてpH3.0としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0047】
[実施例5]
抽出時に水を約60ml添加し、25%アンモニア水を14.0g加え撹拌し、pH計でモニタしながら1.0mol/Lのアンモニア水を適宜加えてpH3.0としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0048】
[実施例6]
抽出時に水酸化カリウムを0.2g加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpH0.6としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0049】
[実施例7]
抽出時に水酸化カリウムを12.3g加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpH4.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0050】
[比較例1]
濃度48質量%の硝酸25.0g(若年炭20質量部に対して100%硝酸12質量部)を加えて酸化反応を行い、腐植酸粗製物を得た。腐植酸粗製物に、水を約180ml、水酸化カリウム3.6gを添加し、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpHを6.5とし、全量が200mlとなるように水で定容(固液比は1:10となる)したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0051】
[比較例2]
濃度48質量%の硝酸37.5g(若年炭20質量部に対して100%硝酸18質量部)を加えて酸化反応を行い、抽出時に水酸化カリウム8.0gを添加した。pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpHを3.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0052】
[比較例3]
濃度48質量%の硝酸83.0g(若年炭20質量部に対して100%硝酸40質量部)を加えて酸化反応を行い、抽出時に水酸化カリウム15.5gを添加した。pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いてpHを3.0としたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0053】
[比較例4]
腐植酸粗製物に水を約40ml添加し、水酸化カリウムを8.5g加え撹拌した。pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を撹拌しながら適宜加えてpHを3.0とし、全量が50mlとなるように水で定容(固液比1:2.5となる)したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0054】
[比較例5]
腐植酸粗製物に水を約180ml添加し、水酸化カリウムを8.5g加えて撹拌した。pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を撹拌しながら適宜加えてpH3.0とし、全量が200mlとなるように水で定容(固液比1:10となる)したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0055】
[比較例6]
抽出時に水酸化マグネシウムを4.1g加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化マグネシウムスラリーを適宜加えてpH3.0としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
【0057】
表2の結果に示すように、実施例1及び実施例2は目標とする腐植酸粗製物より抽出したものであり、質量平均分子量、TOCを充足していた。実施例1及び実施例2の腐植酸抽出液を用いた場合、OATハウス1号の100倍濃縮液に添加した混合液体肥料の沈殿率も良好であった。
【0058】
比較例1は特許文献6で提案した従来の腐植酸と同等に調製されたものである。比較例1は高濃度の腐植酸抽出液を調製できるが、混合液体肥料とした場合には瞬時に沈殿が生じゲル化した。
【0059】
比較例2及び比較例3は硝酸添加量を変化させた設計である。比較例2は質量平均分子量が大きくなり、pH3.0での抽出率が低下し、TOCも低下していた。比較例3は質量平均分子量が低く、TOCが少なかった。これは、硝酸の添加量が多いため過剰な分解が生じ、生成した腐植酸の分解がさらに進んだためと推察される。
比較例3は混合液体肥料の沈殿率も低下していた。これは、腐植酸の特性以外にも残留する硝酸の影響が考えられる。
【0060】
実施例6は実施例1と同様の腐植酸粗製物を使用しているが、抽出するpHを0.6に変化させている。実施例6の腐植酸抽出液を用いた場合、OATハウス1号の100倍濃縮液に添加した混合液体肥料の沈殿率は良好であった。しかし、実施例6は質量平均分子量が目的とする範囲内であるけれども、TOCが低下していた。これはpH1.0以上で抽出されるフミン酸画分の溶出がなかったためである。
【0061】
実施例7は実施例1と同様の腐植酸粗製物を使用しているが、抽出するpHを4.0に変化させている。実施例7の腐植酸抽出液を用いた場合、OATハウス1号の100倍濃縮液に添加した混合液体肥料の、静置24時間後の混合液体肥料の沈殿率は良好であった。しかし、実施例7はTOCの高い抽出液が得られるが、質量平均分子量が高かった。実施例7は静置30日後の混合液体肥料の沈殿率が悪化していた。
【0062】
比較例4及び比較例5は抽出時の固液比を検討した結果である。比較例4は溶媒量が少なく、高濃度の腐植酸がゲル化したため、遠心分離操作が不可能であり製造できなかった。比較例5はTOCを充足できなかった。比較例5は、溶媒量が多く腐植酸の溶解性が向上した事により、より高分子の腐植酸が抽出されたので、質量平均分子量がやや上がり、混合液体肥料の溶解性が低下した。
【0063】
実施例4、実施例5及び比較例6はpH調整時のアルカリ種を検討している。比較例6はTOCの高い抽出液が得られるが、質量平均分子量が高かった。比較例6は肥料濃縮液への溶解性が低下していた。これは、沈殿物を定性分析したところマグネシウムが検出されており、マグネシウムが沈殿形成の要因と考えられる。本実施形態における腐植酸抽出液を調製する際には、アルカリ種の選択が重要である。
【0064】
以上より、目的とする腐植酸抽出液は、まず若年炭20質量部に対して硝酸20~36質量部となるような配合で硝酸酸化し、腐植酸粗製物を調製する。これは、腐植酸の抽出率を上げ、さらに含有する腐植酸を低分子化するためである。次に腐植酸抽出時のpHを好ましくは0.5~4.0、より好ましくは1.0~3.0とすることで、より低分子で溶解性の高い腐植酸を選択的に抽出する。抽出時の固液比の調製は、高濃度の腐植酸抽出液を得るために必要であり、固液比は1:4~1:6が好ましい。抽出時の固液比を調製した腐植酸抽出液は、混合液体肥料とした場合の沈殿率が良好となる。
【0065】
[栽培試験]
次に、得られた腐植酸抽出液の農業上の有用性を確認するため、養液栽培用の液体肥料を使用して栽培試験を実施した。フリルレタス(品種:フリルアイス、雪印種苗(株)製)を供試作物とし、三進金属工業(株)製の養液栽培装置「ネオプランタミニ」を用い、養液栽培(水耕栽培)を実施し、地上部質量を測定した。結果を表3に示した。
【0066】
あらかじめウレタンフォーム上で発芽させ、育苗した3葉期の苗を発泡スチロール製のパネルに移植し、12時間日長(装置付帯のLED照明)、22℃(室温)の条件下で、38日間栽培を行った。栽培方法は、「ネオプランタミニ」の運転マニュアルに従い実施した。
【0067】
[実施例8]
OATハウス1号105gを約600mlの水に溶解し、実施例1の腐植酸抽出液を21倍に希釈するように加えて撹拌した。この混合液体肥料を700mlになるように水を加えて定容し、OATハウス1号の濃縮液を調製した。別にOATハウス2号70gを約600mlの水に溶解し、水で薄めて700mlとし、OATハウス2号の濃縮液を調製した。
【0068】
腐植酸含有のOATハウス1号の濃縮液全量と、OATハウス2号の濃縮液全量とを、100倍希釈しながら養液栽培装置に投入した。濃縮液全量は70Lとした。養液栽培用の液体肥料はOATハウス1号とOATハウス2号を混合した状態で使用した。この養液栽培用の液体肥料は、OATアグリオ(株)推奨の標準A処方であり、腐植酸濃度はTOCとして10mg/Lとなった。
【0069】
[比較例7]
添加した腐植酸抽出液のかわりに、腐植酸抽出液と同等の硝酸態窒素及びカリウムを添加したOATハウス1号を調製したこと以外は、実施例8と同様に実施した。
[実施例9]
実施例1の腐植酸抽出液のかわりに、実施例6の腐植酸抽出液を用いたこと以外は、実施例8と同様に実施した。
【0070】
【0071】
表3の結果に示すように、実施例8の腐植酸抽出液を添加した栽培試験では、フリルレタスの収穫量が比較例7と比べ増収した。増収は生育スピードの向上を示し、生育期間の短縮につながる。増収は、植物工場等の通年栽培において収穫サイクルの短縮につながるため、年間収穫量のさらなる増加に寄与すると考えられる。
実施例9の腐植酸抽出液を添加した栽培試験では、フリルレタスの収穫量が比較例7と比べ増収した。しかし、実施例1に比べてTOCが小さい実施例6の腐植酸抽出液を用いた場合、実施例8に比べ収穫量が小さかった(実施例9)。これより、腐植酸抽出液のpHをさらに1.0~3.0とすることがより好ましいことがわかった。
【0072】
実施例8及び実施例9は、栽培期間中に、腐植酸や肥料成分の沈殿形成、ポンプの詰まり等の問題は生じていなかった。本実施形態において、腐植酸抽出液の添加による沈殿形成等といった、農業生産上の問題点は認められなかった。以上より、本実施形態の腐植酸抽出液は農業生産上、有効な資材である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
腐植酸は作物体の生育を促す等の農業上の利点がある。本実施形態の腐植酸抽出液は、三要素成分、大量成分及び微量要素を含む濃縮状態の液体肥料に添加しても沈殿を形成しにくい。本実施形態の腐植酸は希釈時に容易に均一化し、養液栽培等で使用した場合に沈殿が生じないため、送液ラインの目詰まり等のトラブルを回避できる。本実施形態は濃縮タンクへの混合も可能であり、新たなタンク増設の必要がなく、既存設備への適応も可能である。本実施形態は無機イオンのみの水耕液に腐植酸を加えることで、水耕液の緩衝能を改善する。本実施形態は作物体に対する活性効果により、農業生産上、有用な効果を与える。本実施形態の腐植酸抽出液は、若年炭20質量部に対し硝酸20~36質量部となるような配合で硝酸酸化して得られる腐植酸粗製物から、pH0.5~4.0、固液比1:3~1:6の条件下で抽出する事により得られる。
本実施形態は養液栽培等に使用できる。
【0074】
特許文献7において、腐植酸抽出液を単独で使用する場合や、希釈した液体肥料(低濃度の肥料成分)を腐植酸抽出液と混合する場合には、腐植酸の沈殿は生じない。本実施形態の腐植酸抽出液は濃縮状態(高濃度)の肥料成分との混合が可能である。本実施形態は、濃縮状態の液体肥料と混合しても、沈殿を形成しにくい腐植酸を提供できる。このため、腐植酸を添加した養液栽培用の液体肥料について、既存の設備をそのまま使用しながら、養液栽培や養液土耕栽培を実施できる。
【0075】
本実施形態の腐植酸は、農業生産上で有用な効果を与える。本実施形態は、無機イオンのみの水耕液に腐植酸を加えることで、水耕液の緩衝能を改善できる。本実施形態は、作物体に対する活性効果を有するため、作物の増収を実現でき、農業生産上で有用な効果を与える。
【0076】
本実施形態は、肥料成分と効果的な腐植酸を組み合わせた養液栽培に使用できる。本実施形態は、養液土耕栽培用の腐植酸を含有した液体肥料を提供できる。本実施形態は、濃縮状態の腐植酸抽出液を、液体肥料と混合しても、沈殿が生じない。そのため、液肥混入器等を送液ラインに接続し、腐植酸と液体肥料の混合物を希釈する必要がない。
【0077】
本実施形態は、濃縮状態の腐植酸抽出液を液体肥料と混合してから、1ヶ月静置しても沈殿を生じない。そのため、混合後すぐに全量を使用する必要がなく、長期保存できる。